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金属酸化物への電子ドープにより光触媒活性が向上 水素をつくりだす新たな高性能光触媒の開発に向けて

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太陽光を利用して水から水素を生成する光触媒[用語1]は、日本人研究者を中心として研究が進められています。これまでの光触媒開発は主にトライアンドエラーによるもので、高性能光触媒を合理的に設計することが難しく、何を制御すれば高性能化できるのか十分にわかっていませんでした。

九州大学 エネルギー研究教育機構(Q-PIT)の山崎仁丈教授、稲盛フロンティア研究センターの兵頭潤次特任助教、東京工業大学の前田和彦准教授、熊谷啓特任助教、西岡駿太(大学院生・日本学術振興会特別研究員)、豊田工業大学の山片啓准教授、Junie Jhon M. Vequizo博士、物質・材料研究機構(NIMS)の木本 浩司博士、山下俊介博士らの研究グループは、金属酸化物であるチタン酸ストロンチウム(SrTiO3-δ)に高濃度の酸素欠陥と電子をドープ[用語2]することで、紫外光照射下における水素生成速度、酸素生成速度がそれぞれ40倍、3倍と大幅に向上することを発見しました。また、この理由が、紫外光照射により励起された電子寿命の延長およびホール流束の増大によることを世界で初めて明らかにしました。

これらは材料科学と触媒化学の学際融合研究による成果であり、この光触媒設計指針に基づいて新規光触媒を開発することで、今後は太陽光と光触媒を利用した水素生成反応のさらなる高性能化が期待されます。

本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金(JP16H06440, JP16H06441, JP17H05491, JP16H06130, JP15K14220, JP15H02287, JP16H00891)の支援を受けました。

本研究成果は、米国化学会の国際学術誌「ACS Catalysis」のオンライン速報版で日本時間2018年6月19日(火)に掲載されました。確定版は日本時間 2018年7月3日(火)に掲載される予定です。

研究者からひとこと

研究チーム:左から山崎、前田(東工大)、西岡(東工大)、兵頭
研究チーム:左から山崎、前田(東工大)、西岡(東工大)、兵頭

電子のドーピングは「欠陥」を結晶格子の中に作ることで導入されます。不具合や失敗のようなネガティブな印象を与える「欠陥」という言葉ですが、触媒材料における「欠陥」は高機能化や、新機能の創出のための重要な因子で、私たちは欠陥制御による高機能性材料の創出を目指しています。

電子ドープした光触媒では、励起した電子の寿命が著しく長くなります(図中左)。また、電子ドープにより表面近傍の半導体におけるバンド曲がりが大きくなります(図中右)。これらの影響により、反応に利用される電子・ホール数が向上し、水素・酸素生成速度が大きくなることが明らかとなりました。
参考図
電子ドープした光触媒では、励起した電子の寿命が著しく長くなります(図中左)。また、電子ドープにより表面近傍の半導体におけるバンド曲がりが大きくなります(図中右)。これらの影響により、反応に利用される電子・ホール数が向上し、水素・酸素生成速度が大きくなることが明らかとなりました。

用語説明

[用語1] 光触媒 : 光を吸収することで、水分解などの酸化還元反応の速度を大幅に促進する物質のこと。

[用語2] ドープ(dope) : 主に半導体において、その特性を制御するため不純物を少量加えること。

論文情報

掲載誌 :
ACS Catalysis
論文タイトル :
Homogeneous Electron Doping into Non-stoichiometric Strontium Titanate Improves Its Photocatalytic Activity for Hydrogen and Oxygen Evolution
著者 :
Shunta Nishioka, Junji Hyodo, Junie Jhon M. Vequizo, Shunsuke Yamashita, Hiromu Kumagai, Koji Kimoto, Akira Yamakata, Yoshihiro Yamazaki, and Kazuhiko Maeda
DOI :

お問い合わせ先

九州大学 エネルギー研究教育機構(Q-PIT)
稲盛フロンティア研究センター(兼任)
大学院工学府材料物性工学専攻
教授 山崎仁丈

E-mail : yamazaki@ifrc.kyushu-u.ac.jp
Tel : 092-802-6966 / Fax : 092-802-6967

東京工業大学 理学院 化学系
准教授 前田和彦

E-mail : maedak@chem.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2239 / Fax : 03-5734-2284

取材申し込み先

九州大学 広報室

Email : koho@jimu.kyushu-u.ac.jp
Tel : 092-802-2130 / Fax : 092-802-2139

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


NHK Eテレ「又吉直樹のヘウレーカ!」に地球生命研究所の井田茂教授と研究員が出演

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地球生命研究所(ELSI)の井田茂教授、藤島皓介研究員、望月智弘研究員がNHK Eテレ「又吉直樹のヘウレーカ!」に出演します。同番組はお笑い芸人で作家の又吉直樹さんが、私たちの暮らしに潜むフシギを見つけ出しひも解く教養バラエティです。井田教授は出演だけでなく、監修としても番組制作に携わりました。

コメント

井田教授

井田教授

地球外生命の情報を含んだ観測データが、まもなく次々と届くことになりそうです。そこから、どうやって見知らぬ地球外生命を探しだせばいいのでしょうか。得体の知れない地球外生命の存在が明らかになったら、私たちはどう思うのでしょうか。研究者とは違う感覚を持つ又吉直樹さんと考えてみました。

藤島研究員

藤島研究員

私たちがまだ見ぬ地球外生命に思いを馳せるのは、我々自身が生命だからでしょうか。

又吉直樹さんが思い描く地球外生命は、私たち研究者に「生命とはそもそもなんだろうか?」ということを改めて問いかけてくれたような気がします。地球外生命探査から生命の起源、さらにはウイルスの話まで、後半の座談会は個人的に大変楽しませてもらいました。

望月研究員

望月研究員

Are we alone? 我々はひとりぼっちなのか。

古今東西、人類は常にこの疑問を持ち続けてきました。この数十年、ようやくこの疑問に対して科学的なアプローチが可能となってきました。地球外生命体の探索は、すなわちこの地球の生命の起源の追求にも大いに関連します。様々な視点でみなさんも一緒に考えてみてください。

番組情報

  • 番組名
    NHK Eテレ「又吉直樹のヘウレーカ!」
  • タイトル
    星空の向こうに出会いはありますか?
  • 放送予定日
    2018年7月25日(水)22:00 - 22:45
  • (再放送)
    2018年7月27日(金)0:30 - 1:15(木曜深夜)
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お問い合わせ先

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幻の粒子「マヨラナ粒子」の発見 トポロジカル量子コンピューターの実現に期待

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概要

京都大学 大学院理学研究科の笠原裕一 准教授、松田祐司 同教授、大西隆史 同修士課程学生(研究当時、現:富士通株式会社)、馬斯嘯 同修士課程学生、東京大学 大学院新領域創成科学研究科の芝内孝禎 教授、水上雄太 同助教、東京大学 大学院工学系研究科の求幸年 教授、東京工業大学 理学院の田中秀数 教授、那須譲治 同助教、栗田伸之 同助教、東京大学 物性研究所の杉井かおり 研究員らの共同研究グループは、蜂の巣状の平面構造をもつ磁性絶縁体の塩化ルテニウム(α-RuCl3)において熱ホール効果[用語1]が量子力学で規定される普遍的な値をとることを発見し、「マヨラナ粒子[用語2]」を実証することに成功しました。マヨラナ粒子は自分自身がその反粒子[用語3]と同一という不思議な性質を持ち、理論的予言から80年以上もその存在の確証が得られていなかった「幻の粒子」です。素粒子物理学を中心に探索が続けられてきましたが、近年、ある種の超伝導体や磁性体でマヨラナ粒子が出現する可能性が指摘され、大きな注目を集めてきました。本研究により、マヨラナ粒子が存在する決定的な証拠が得られただけでなく、マヨラナ粒子による量子化現象が高い温度で実現することが明らかになりました。マヨラナ粒子の制御法の開発を行うことで、高温でも動作可能なトポロジカル量子コンピューター[用語4]への応用が期待できます。

本成果は、2018年7月12日に英国の科学雑誌「ネイチャー(Nature)」にオンライン掲載されま した。

幻の粒子「マヨラナ粒子」の発見

背景

物質を構成する陽子や電子はフェルミ粒子と呼ばれ、通常反粒子が別の粒子として存在します。例えば、電子の反粒子は陽電子であり、異なる符号の電荷を持つためこれらは別の粒子と見なせます。一方で、粒子と反粒子が同一という特異な性質をもつ中性のフェルミ粒子が、素粒子の一つとして1937年に予言され、マヨラナ粒子と呼ばれています。現在のところ、ニュートリノがマヨラナ粒子の候補とされていますが、素粒子物理学の実験では未だに確認されていません。最近になって、マヨラナ粒子がある種の超伝導体や磁性体中で準粒子[用語5]として現れる可能性が指摘され、大きな注目を浴びるとともに強い期待が持たれています。その理由は、マヨラナ粒子は非アーベル量子統計[用語6]と呼ばれる特殊な統計に従いますが、この性質を用いることで、環境ノイズに対して強く量子情報を安定に保つことができる、トポロジカル量子コンピューターを実現できると考えられているからです。これまで主に超伝導体の研究から、マヨラナ粒子を観測したという実験結果はいくつか報告されているものの、決定的な証拠が得られたとは言い難く、論争が続いています。そのような中、最近、新しい物質系として磁性絶縁体が注目されています。その契機となったのはキタエフ模型[用語7]と呼ばれる理論模型の提案です。通常の磁性体では温度を下げてゆくと、磁性を担う電子スピン[用語8]は同じ向きに整列し磁石となりますが、この模型では絶対零度においてもスピンは整列せず量子スピン液体[用語9]状態と呼ばれる状態が現れます。この量子スピン液体状態の特筆すべき点は、電子スピンが複数のマヨラナ粒子に分裂する(図1)ことにより、トポロジーによって保護[用語10]された量子状態が実現することです。最近、このようなキタエフ模型の候補物質がいくつか見つかってきました。

(左)キタエフ模型のイメージ図。蜂の巣格子の格子点上の電子スピンが複数のマヨラナ粒子に分裂する。(右)α-RuCl3の熱ホール伝導度の磁場依存性。磁場を変化させると、ある磁場範囲で熱ホール伝導度が量子化熱伝導度(= (π/6)(kB2/ħ))の1/2倍で一定となり、半整数量子化が観測された。
図1.
(左)キタエフ模型のイメージ図。蜂の巣格子の格子点上の電子スピンが複数のマヨラナ粒子に分裂する。(右)α-RuCl3の熱ホール伝導度の磁場依存性。磁場を変化させると、ある磁場範囲で熱ホール伝導度が量子化熱伝導度(= (π/6)(kB2))の1/2倍で一定となり、半整数量子化が観測された。

研究手法・成果

共同研究グループは、キタエフ模型の候補物質である磁性絶縁体α-RuCl3の量子スピン液体状態において、一定の温度下で磁場を変化させながら熱ホール伝導度を非常に高い精度で測定しました。その結果、ある範囲の磁場で熱ホール伝導度が磁場や温度によらずに量子力学で規定される普遍的な値(量子化値)のちょうど半分の値で一定となることを見出しました(図1)。ホール伝導度が量子化値の整数倍または分数倍となる現象は「量子ホール効果[用語11]」と呼ばれ、ノーベル賞の対象ともなった二次元電子系における整数量子ホール効果と分数量子ホール効果がよく知られています。このとき、試料の端(エッジ)にはエネルギー散逸がなくトポロジカルに保護された「エッジ流」[用語12]が流れ、整数量子ホール効果では「電子」、分数量子ホール効果では準粒子として現れる「分数電荷」によってエッジ流が運ばれます(図2)。今回、電気が流れない絶縁体において熱ホール効果が量子化していることから、電荷を持たない粒子に由来する量子ホール効果であることが示されます。さらに、熱ホール伝導度が量子化値の1/2倍ということ(半整数量子化)は、熱を運ぶ粒子が電子の半分の自由度を持っていることを示しており、そのような粒子はマヨラナ粒子に他なりません。したがって、整数・分数量子ホール効果に次ぐ「第3の量子ホール効果」を発見したと言えます。半整数量子化は理論的には予言されていたものの観測例はなく、本研究がはじめての実験的証明になります。これまでの超伝導体を用いた研究では、マヨラナ粒子による量子化現象が期待される温度は極低温(1/100ケルビン程度)に限られていましたが、本研究ではそれよりも2桁以上高い温度(5ケルビン程度)で半整数量子化が観測され、高温でマヨラナ粒子にまつわる量子化が出現することが明らかになりました。

(左)電子・分数電荷による量子ホール状態、および(右)マヨラナ粒子による量子ホール状態における熱ホール効果のイメージ図。試料の端(エッジ)に沿ってエネルギー散逸がなくトポロジカルに保護されたエッジ熱流が流れ、電子や分数電荷、または電子スピンの分裂によって生じたマヨラナ粒子によってエッジ熱流が運ばれる。
図2.
(左)電子・分数電荷による量子ホール状態、および(右)マヨラナ粒子による量子ホール状態における熱ホール効果のイメージ図。試料の端(エッジ)に沿ってエネルギー散逸がなくトポロジカルに保護されたエッジ熱流が流れ、電子や分数電荷、または電子スピンの分裂によって生じたマヨラナ粒子によってエッジ熱流が運ばれる。

波及効果、今後の予定

本研究による半整数量子熱ホール効果の発見の重要性は、理論的提案から80年にわたり探索が続けられてきたマヨラナ粒子の決定的証拠を示しただけでなく、新しい量子凝縮体である量子スピン液体のトポロジカルな性質を証明したという点にもあります。今回対象とした物質のように電子同士が強く相互作用し合う物質(強相関電子系)のトポロジカル物性は未開拓であり、今後の研究の展開により新しい量子現象の開拓が期待されます。さらに、量子スピン液体に現れるマヨラナ粒子の制御法を開発することで、高温でも動作可能なトポロジカル量子コンピューターへの応用が期待できます。

用語説明

[用語1] ホール効果 : 金属や半導体中の電子は磁場下で電磁気学的な力(ローレンツ力)を受けて軌道が曲げられ、電流と垂直方向に電圧が、熱流と垂直方向に温度勾配が生じる。前者を電気ホール効果、後者を熱ホール効果と呼ぶ。電気の流れない絶縁体ではローレンツ力によるホール効果は生じないが、電荷を持たない粒子が熱を運び、熱ホール効果を示すことがある。

[用語2] マヨラナ粒子 : イタリアの物理学者エットーレ・マヨラナによって1937年に素粒子の一つとして理論的に提案された粒子。

[用語3] 反粒子 : 粒子に対し、重さなどの性質は等しいが、電荷など正負の属性が逆の粒子。例えば電子(電荷−eeは電荷素量)の反粒子は陽電子(電荷+e)である。

[用語4] トポロジカル量子コンピューター : 0または1の値をとるビットを用いる従来のコンピューターに対し、0と1の量子力学的重ね合わせ状態を取ることができる量子ビットを用いて超並列性を実現できるとされる計算方式は、量子コンピューティングと呼ばれる。トポロジカル量子コンピューターでは系のトポロジー(後述[用語10])を用いて量子情報を保護することで、環境ノイズに対して安定的に量子コンピューティングを行うことが可能になると考えられている。

[用語5] 準粒子 : 物質が示す最もエネルギーが低い状態(基底状態)から少しエネルギーを与えた状態は、ほとんど相互作用のない仮想的な粒子が付け加えられた状態としてみなすことができる。このような粒子は「準粒子」と呼ばれ、物質の物理的性質の多くはこの準粒子の性質によって決まる。

[用語6] 非アーベル量子統計 : 2つの準粒子を入れ替えたとき、波動関数に1でも-1でもない複素数がかかることがあり、そのような統計性に従う準粒子をエニオンと呼ぶ。2つのエニオンを交換する場合には、交換前後での状態が区別できない場合(可換統計=アーベル統計)と元の状態とは異なる別の状態に変わってしまう場合(非可換統計=非アーベル統計)がある。

[用語7] キタエフ模型 : 基底状態が厳密に量子スピン液体状態を与える蜂の巣状の結晶格子構造をもつ磁性体の理論模型。2006年にアレクセイ・キタエフ(米国カリフォルニア工科大)によってトポロジカル量子計算を実現し得る模型として提案された。

[用語8] 電子スピン : 電子の持つ量子力学的な内部自由度(粒子を区別する性質)のひとつ。その性質は磁石と対応する。

[用語9] 量子スピン液体 : 通常、物質の温度を下げると物質を構成する原子や分子が周期的に整列した固体となる。しかし、量子力学的なハイゼンベルグの不確定性原理による量子ゆらぎの影響が顕著な場合、絶対零度まで固体になれずに液体のままでとどまることがある。このような状態は「量子液体」と呼ばれ、液体ヘリウムがよく知られている。量子スピン液体は量子液体のスピン版ともいうべきもので、絶対零度までスピンの向きが揃わず動き回った状態を指す。

[用語10] トポロジーによって保護 : 連続的に変形させても保たれる性質をトポロジー(位相幾何学)と呼ぶ。例えば、取っ手のついたコーヒーカップとボールは穴の数というトポロジーで区別できる状態であり、連続的に移り変わることはできない。この要請により、トポロジカル状態は不純物などの擾乱の影響を受けないという特徴がある。

[用語11] 量子ホール効果 : 試料に強い磁場をかけたとき、電気ホール伝導度や熱ホール伝導度が、物質の詳細によらず量子化値の整数倍(整数量子ホール効果)または分数倍(分数量子ホール効果)となる現象。量子化電気伝導度、量子化熱伝導度はそれぞれe2/h(電気素量e、プランク定数h)、(π/6)(kB2) = 9.5×10-13 W/K2(ボルツマン定数kB、ħ = h/2π)である。

[用語12] トポロジカルに保護された「エッジ流」 : 異なるトポロジーで特徴づけられる2種類の物質が接する時、その境界(例えば真空に接するトポロジカル物質の試料端)では擾乱による影響を受けない伝導状態が現れる。

論文情報

掲載誌 :
Nature (London)
論文タイトル :
Majorana quantization and half-integer thermal quantum Hall effect in a Kitaev spin liquid(キタエフスピン液体におけるマヨラナ量子化と半整数熱量子ホール効果)
著者 :
Y. Kasahara, T. Ohnishi, Y. Mizukami, O. Tanaka, Sixiao Ma, K. Sugii, N. Kurita, H. Tanaka, J. Nasu, Y. Motome, T. Shibauchi, and Y. Matsuda
DOI :
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お問い合わせ先

京都大学大学院理学研究科

物理学・宇宙物理学専攻 准教授

笠原裕一

E-mail : ykasahara@scphys.kyoto-u.ac.jp
Tel : 075-753-3785 / Fax : 075-753-3777

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東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

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京都大学 総務部 広報課 国際広報室

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東京大学 大学院新領域創成科学研究科 総務係

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量子科学技術研究開発機構(QST)と包括連携協定を締結~東工大内にQST量子科学技術 産学協創ラボ開設~ Society5.0を先導し、SDGsの達成を支援する次世代量子センサにフォーカス

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東京工業大学は7月12日、量子科学技術研究開発機構(QST)(以下、量研)と、量子科学技術に関する研究と社会実装を加速することを目指して包括的な連携協定を締結しました。

協定締結式の様子

協定締結式の様子

記者からの質問に応じる益学長(左)、量研の平野理事長(右)記者からの質問に応じる益学長(左)、量研の平野理事長(右)

量子コンピュータ、量子暗号通信、複雑な一分子の分子構造を直接見ることができる固体量子センサといった量子科学技術※1は、世界的に注目を浴び、非常に活発に研究開発が進みつつある技術です。量子科学技術は新たな価値創出・産業創生の重要な基盤技術へと発展し、さらには持続可能な開発目標(SDGs)2030アジェンダ達成を支援することが期待されています。

東工大は、西森秀稔教授outerの量子コンピュータの理論的基礎研究をはじめ、量子慣性センサや固体量子センサなどの量子センサ※2研究で世界的な成果を数多く上げています。量研は、量子科学技術研究のフロンティアとして、放射線医学、量子ビーム科学、核融合理工学などの分野で先端的研究と産業応用を推進しています。本連携協定に基づき、両機関が持つ研究開発力や最先端研究施設・設備などの研究環境、優れた人材を活かして、新たな連携・協力の枠組みを構築することが可能となり、急速に立ち上がりつつある量子科学技術分野において、世界をリードする先端的な研究と応用を推進します。

とりわけ、東工大の有する材料・デバイス科学・量子センサ計測研究と、量研が有する量子ビームを活用した物質・材料科学研究を融合させることで、材料創製から量子デバイス応用までの一貫した総合的研究開発を行います。具体的には、世界的に競争が激しい固体量子センサ分野において、東工大の波多野睦子教授outerと量研の大島武プロジェクトリーダーが協力し、ダイヤモンド中の窒素-空孔(NV)センタを用いて、ナノからマクロまでのスケーラブルな超高感度・室温動作センサを世界に先駆けて開発します。

このため、量研は、固体量子センサ研究拠点として、東工大大岡山キャンパスに「QST量子機能材料産学協創目黒ラボ」を2018年8月1日(水)付で開設し、双方から約30名の研究者が集結して研究を加速させる環境を構築します。そして量子生命科学等の新しい学術領域の進展や、産業界とも密接に連携することで、固体量子センサの医療、ヘルスケア、車載、社会インフラ応用などの実現、社会実装を目指す計画です。

※1
量子科学技術:量子のふるまいや影響に関する科学とそれを応用する技術。量子とは、ナノあるいはナノより小さい、原子を構成する微細な粒子や光子等。
※2
量子センサ:古典力学ではなく、量子力学的な効果を利用することで、従来技術を凌駕する感度や空間分解能等を得るセンサ。固体量子センサは、特に、ダイヤモンドなどの固体中の原子レベルの空孔に閉じ込められたスピンの量子状態を利用して磁場等を計測するものを固体量子センサと呼びます。室温・大気で動作する点が特徴であり、実社会環境での応用、生体の観察に適しています。磁場・電場・温度等を飛躍的に高い感度で、また高い空間分解能で検出することができます。量子慣性センサは、原子のド・ブロイ波による干渉計を利用することで、従来に比べ飛躍的に高い感度を実現した加速度計・ジャイロスコープの総称。

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硫黄化合物を低温・高効率で酸化する環境型触媒を開発 サルファーフリー燃料ほか有用物合成に威力

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要点

  • 化学工業において重要な選択酸化反応では、酸素分子のみを用いた環境調和型の触媒プロセスの開発が切望
  • ルテニウムを含むペロブスカイト触媒を独自手法で合成。低温・高効率で硫黄化合物を酸化、有用物の合成に成功
  • スケールアップ可能で再利用が容易な固体触媒として、広範な応用に期待

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の原亨和教授、鎌田慶吾准教授と元素戦略研究センターの熊谷悠特任准教授、フロンティア材料研究所の大場史康教授らは、ルテニウム酸バリウム(BaRuO3)菱面体晶ペロブスカイト[用語1]触媒が、硫黄化合物のスルフィド[用語2]から酸素分子(O2)のみを酸素源として有用なスルホキシドやスルホン[用語2]を合成できることを発見した。

酸素分子のみを酸化剤とする選択酸化反応は高難度反応の一つであり、新しい固体触媒の設計と開発が切望されている。原教授らは、実験と理論計算による反応機構を検討し、BaRuO3触媒中の近接する二つのルテニウムを架橋する酸素原子(面共有酸素八面体構造[用語3])が酸化反応に寄与し、温和な条件でも高い触媒性能が発現することを明らかにした。この研究成果は複合酸化物中の反応性の高い特異な酸素原子の活用が高効率酸化反応開発の有用な手法であることを示している。

従来の合成手法では、望みの組成と大きな表面積を併せもつペロブスカイト型酸化物触媒を合成することは困難とされていた。原教授らが独自開発したゾルゲル法[用語4]により、大きな表面積をもつBaRuO3ナノ粒子を合成でき、温和な条件下においても高い触媒性能を発現させることに成功した。

研究成果は2018年7月9日(日本時間16時)に米国科学誌「ACS Applied Materials & Interfaces(エーシーエス・アプライドマテリアルズ・アンド・インターフェイシーズ)」オンライン速報版で公開された。

研究成果

東工大の原教授らは、リンゴ酸[用語5]を用いたゾルゲル法により得られた菱面体晶構造をもつペロブスカイト酸化物(BaRuO3)のナノ粒子が、従来の固体触媒や他のルテニウム酸化物触媒とは異なり、硫黄化合物であるスルフィドの酸化反応を極めて温和な条件で促進する固体触媒として機能することを発見した(図1上)。固体触媒のため、反応後の触媒をろ過により容易に分離回収でき、活性や選択性に変化なく再利用できる。

X線回折を用いた構造解析から、BaRuO3は近接したルテニウムが酸素原子3つで架橋された面共有酸素八面体構造をもっていることがわかった(図1左下)。一方、他のルテニウム酸化物(SrRuO3, CaRuO3, RuO2)では、近接したルテニウムが酸素原子1つで架橋された頂点共有酸素八面体構造[用語3]のみをもっている(図1右下)。また、ゾルゲル法で合成したBaRuO3は従来の合成法よりも大きい比表面積をもち、走査型電子顕微鏡を用いたBaRuO3の観察からも20-50 ナノメートル(nm)程度のナノ粒子の集合体であることがわかった。

(上)酸素分子のみを酸化剤としたBaRuO3触媒によるスルフィドの選択酸化反応。(左下)BaRuO3の構造(紫色、灰色、赤色の球はそれぞれバリウム、ルテニウム、酸素原子を示している)。(右下)面共有酸素八面体構造と頂点共有酸素八面体構造の模式図。
図1.
(上)酸素分子のみを酸化剤としたBaRuO3触媒によるスルフィドの選択酸化反応。
(左下)BaRuO3の構造(紫色、灰色、赤色の球はそれぞれバリウム、ルテニウム、酸素原子を示している)。
(右下)面共有酸素八面体構造と頂点共有酸素八面体構造の模式図。

種々の触媒を用いたチオアニソール[用語6]の酸化反応結果を表1に示す。ペロブスカイト型酸化物ARuO3 (A = Ca, Sr, Ba)の中でも、面共有酸素八面体構造をもつBaRuO3が最も高い活性を示した。ルテニウムの単純酸化物や原料である塩は不活性であった。またBaRuO3は、酸化反応に有効なマンガン系酸化物よりも表面積が小さいにも関わらず高い活性を示した。特に、40 ℃という温和な条件下においてスルホキシドへの酸化反応が効率的に進行し、従来の固体触媒では高い反応温度(100-150 ℃)を必要とするのと比較してプロセスの低エネルギー化に成功した。

表1.酸素分子のみを酸化剤としたチオアニソールの酸化反応および触媒効果比較 a

表1. 酸素分子のみを酸化剤としたチオアニソールの酸化反応および触媒効果比較 a
触媒
比表面積 (m2 g–1)
収率(%)
選択率(%)
スルホキシド
スルホン
BaRuO3
25
73
79
21
BaRuO3 b
25
92
84
16
SrRuO3
25
42
90
10
CaRuO3
4
3
>99
<1
RuO2
18
9
95
5
酢酸ルテニウム
3
>99
<1
MnO2
122
23
>99
<1
なし
<1

a 反応条件: 触媒 (50 mg), チオアニソール (0.25 mmol), 溶媒t-BuOH (1 mL), O2圧力 (1気圧), 60 ℃, 10 h.
b BaRuO3は40 ℃という温和な条件で酸化反応を効率的に促進(反応条件:チオアニソール (0.50 mmol), pO2 (1.0 MPa), 40 ℃, 24 h).

詳細な反応機構の検討から、BaRuO3中の酸素原子が直接スルフィドと反応して酸化反応が進行することがわかった。そこで、各ルテニウム酸化物について第一原理計算[用語7]を用いて結晶構造内の酸素の空孔形成エネルギー[用語8]を算出したところ、BaRuO3の面共有酸素八面体構造の酸素が最も空孔になりやすい(=反応しやすい)ことがわかった。また、金属Ruへの還元反応のエネルギー変化はBaRuO3が最も小さいことがわかった。これらの結果は、BaRuO3中の酸素原子が最も反応しやすく、酸素分子により再び活性な酸化状態に戻りやすいことを示しており、このような性質をもつBaRuO3が本反応において従来触媒とは異なる役割を果たしていることがわかった。

BaRuO3の酸化触媒能は、種々の原料(基質)を用いたスルフィドの酸化反応に適用できる。芳香族および脂肪族スルフィド化合物の選択酸化反応を効率的に促進する触媒として機能し、10種の化合物合成に適用できた。また、大きなスケールでの反応にも応用できるため、対応する生成物をグラムスケールで単離回収することができる。水素化脱硫[用語9]が困難なジベンゾチオフェンの酸化反応では、対応するスルホンを高収率で得られることがわかった(図2)。

図2.触媒によるジベンゾチオフェンの酸化反応

図2.BaRuO3触媒によるジベンゾチオフェンの酸化反応

背景と研究の経緯

化学プロセスの3割を占める選択酸化反応は、汎用化成品・プラスチックや医薬品原料などの高付加価値製品の製造において重要な反応である。毒性が高く、廃棄物を大量に副生する酸化剤を用いたプロセスとは大きく異なり、酸素分子のみを酸化剤とした選択酸化反応は最も理想的な反応である。しかしながら、反応制御において今なお多くの課題を抱えている高難度反応の一つであり、温和な条件で選択的に原料を酸化できる新しい触媒の開発が急務となっている。

スルフィドを酸化して得られるスルホキシドやスルホンは、生合成における中間体、不斉反応での配位子、酸素ドナーとして有用な有機硫黄化合物である。しかし、不活性な芳香族スルフィド類を、添加物を用いず酸素分子のみを酸化剤として選択酸化反応させる固体触媒の報告例はほとんどなかった。

このような研究背景のもと、構成元素により化学的性質を制御できるペロブスカイト型酸化物が優れた酸化触媒として機能すると考えた。原教授らが独自に開発したゾルゲル法を用いることで、従来合成法の問題点であった低い表面積・元素適用性を解決することに成功した。ペロブスカイト型酸化物は、電気化学反応、光触媒反応、高温での気相反応の触媒としては研究されているが、環境調和型反応を含む液相反応への応用研究例はほとんどなかった。BaRuO3触媒は、これまでに硫黄化合物の選択酸化反応を含む液相反応における固体触媒としての利用はなく、今回の研究が初めての報告例となる。

今後の展開

BaRuO3触媒は、様々なスルホキシド・スルホン化合物合成に適用できる優れた固体触媒として機能し、得られた生成物は、溶媒、ファインケミカル(高付加価値の化学物質)、配位子、サルファーフリー燃料など広範な製品への応用が期待される。

今回の結果は、錯体や金属塩では合成困難な特異構造(高原子価金属からなる面共有酸素八面体構造)をもつ固体触媒の開発が重要であることを示している。今後、本アプローチを他の複合酸化物触媒にも応用することで、さらなる活性向上や他の反応への展開が可能となり、温和な条件下での高効率触媒反応開発に大きく貢献することが期待できる。

本成果は、JST(科学技術振興機構)の戦略的創造研究推進事業さきがけおよびJSPS(日本学術振興会)の基盤研究(B)によって得られた。

用語説明

[用語1] ペロブスカイト:一般的にABO3という組成式をもつ遷移金属酸化物などの結晶。元素の構成により物理・化学的性質を制御できるため、圧電体、強誘電体、磁性体、超伝導体、触媒などの分野で広く研究されている。理想的には頂点共有酸素八面体構造[用語3]のBO6の間に12配位のAがある立方晶構造(右図参照)をとるが、Aが大きなアルカリ土類金属イオンの場合に面共有酸素八面体構造[用語3]をもつ六方晶あるいは菱面体晶構造をとることがある。

頂点共有酸素八面体構造のBO6の間に12配位のAがある立方晶構造

[用語2] スルフィド、スルホキシド、スルホン:スルフィドは–2価の硫黄原子が2個の有機官能基と結合した有機化合物である。スルフィドが酸化され、硫黄原子に酸素原子が1および2個結合したものをそれぞれスルホキシド、スルホンという。スルホキシドやスルホンは、溶媒、ファインケミカル(高付加価値の化学物質)合成の中間体、錯体触媒の配位子、酸化反応の酸素源などとして使われる。(図1参照)

[用語3] 面共有酸素八面体構造、頂点共有酸素八面体構造:酸素原子6個に囲まれた金属Mは、頂点と中心にそれぞれ酸素と金属を位置させた正八面体MO6で表すことができる。MO6八面体同士が頂点で結合したもの(金属同士が酸素原子1個で架橋)を頂点共有酸素八面体構造、面で結合したもの(金属同士が酸素原子3個で架橋)を頂点共有酸素八面体構造という。

[用語4] ゾルゲル法:コロイドの一種であるゾルをゲル化する手順を経る、固体材料を液相で調製する手法の一つ。

[用語5] リンゴ酸:ヒドロキシ酸の一種で、右記の構造をもつ。金属酢酸塩と反応させて得られたアモルファス前駆体を焼成することで、高い表面積をもつ多様なペロブスカイトを合成できる。

リンゴ酸の構造

[用語6] チオアニソール:芳香族スルフィドの一種。酸素雰囲気下において触媒を用いなくても酸化反応が進行する脂肪族スルフィドと比較して、一般的に反応性は低い。

[用語7] 第一原理計算:実験で得られた結果を参照しないで構成元素と構造のみをパラメーターとし、系の電子状態やエネルギーなどを求める計算手法。

[用語8] 酸素の空孔形成エネルギー:酸化物の結晶構造から酸素原子が酸素分子として抜けて酸素空孔(本来酸素原子がある場所が空の状態)が形成する際のエネルギー変化。

[用語9] 水素化脱硫:石油製品からに不純物として含まれる硫黄を触媒の存在下 で水素と反応させ、硫化水素として除去するプロセス。燃料燃焼後に生成する硫黄酸化物による大気汚染を抑制する上で重要である。

論文情報

掲載誌 :
ACS Applied Materials & Interfaces
論文タイトル :
Heterogeneously Catalyzed Aerobic Oxidation of Sulfides with a BaRuO3 Nanoperovskite
著者 :
Keigo Kamata, Kosei Sugahara, Yuuki Kato, Satoshi Muratsugu, Yu Kumagai, Fumiyasu Oba, Michikazu Hara
DOI :

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東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所
准教授 鎌田慶吾

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サイズアップで光触媒の性能向上 表面構造を主流だったナノメートルからマイクロメートルにするだけ

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要点

  • 可視光で応答する光触媒の性能向上に新手法
  • 従来より2桁以上大きなサイズに作り込んだ構造が効果的
  • 分子構造は変えずに酸化力が向上

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院の長井圭治准教授、ファイルス・アーマド大学院生(マレーシア大学ペリルス校講師)、同大学分析部門の鈴木元也氏、弘前大学理工学研究科の阿部敏之教授らの研究グループは、有機半導体のp-n接合[用語1]を基板面方向に形成し、特異な酸化力を持つ領域が形成されることを見出した。

この知見をもとに、表面に“マイクロメートル(µm)”レベルのp-n接合体を形成させることで、通常のp-n接合よりも大きな酸化力をもつ光触媒を得ることに成功した。長井准教授ら研究グループは、有機薄膜太陽電池[用語2]のように遷移金属を全く含まない有機材料で、可視光で応答する光触媒を開発してきた。これまでは、新奇分子の開発やナノメートル(nm)レベルの構造制御により酸化還元力(太陽電池の発生電圧に相当)を向上させる試みがなされてきたが、今回は、マイクロメートルという、従来よりも2桁以上大きなサイズの構造が有効であることを示した。これは光触媒の性能向上のみならず、同じような構造を利用する有機薄膜太陽電池にも応用できる可能性がある。

本成果は 2018年7月17日付けの国際的材料科学専門誌「NPG Asia Materials 電子版」に掲載された。

背景

地球に降り注ぐ莫大な量の太陽光エネルギーの活用が求められており、太陽光発電や光触媒による水素生成などが行われている。

現在、実用的に用いられている酸化チタンを用いた光触媒は、紫外線にしか応答しない。そのため、可視光で応答する光触媒の研究が盛んに行われており、さまざまな遷移金属の複合化が検討されている。一方で、有機材料は可視光応答化が容易であるが不安定という理由から、これまで、水中や空気中で光触媒として働かせることは困難であった。

研究成果

研究グループでは、フタロシアニン[用語3]という、有機材料を用いたp型半導体とn型半導体の接合が、光触媒として利用できることを発見し、この10年以上検討を進めている。近年では、欧州のグループもこの分野に本格参入する一方で、長井准教授は、更なる低コスト化を図った大量生産法を開発し、企業に技術移転している。

しかし、このフタロシアニンp-n接合体は、吸収する光子エネルギーにくらべて、利用できる酸化還元力が小さいという欠点があり、これは太陽電池のp-n接合体でも同様であった。

通常、太陽電池などでは、p-n接合は基板面に垂直方向に形成させていく。本研究で取り上げたフタロシアニン(p型)とペリレン誘導体(n型)の接合体は30年前に開発された、初めてのp-n接合型有機薄膜太陽電池の類似体である。

通常、これらのp-n接合は基板と垂直方向に形成されるが、本研究ではn型の上に完全にp型を積層するのではなく、部分的にp型を積層したテラス型p-n接合[用語4]などの方法で基板面方向に形成させた。これをケルビン力プローブ顕微鏡[用語5]という装置により表面電位の表面内分布を計測した。すると、これまで見られなかった表面電位が正である領域が観察された。なお、基板の材料を変えたり、n型半導体材料をフラーレンに変えても、同様のプラス側にシフトした表面電位の極大が観察された。

図1.(a)ケルビンプローブ法による観測部の光学顕微鏡図。(b)ケルビンプローブ顕微鏡と同時測定した原子間力顕微鏡[用語6]によるテラス型p-n接合(左がp型、右がn型)。(c)ケルビンプローブ顕微鏡による接触電位差のマッピングで、青い部分がプラス側にシフトした極大部分。(d)広い領域にわたって測定した接触電位差(緑)は、100 µm以上の大きな範囲にわたっていることがわかる。
図1.
(a)ケルビンプローブ法による観測部の光学顕微鏡図。
(b)ケルビンプローブ顕微鏡と同時測定した原子間力顕微鏡[用語6]によるテラス型p-n接合(左がp型、右がn型)。
(c)ケルビンプローブ顕微鏡による接触電位差のマッピングで、青い部分がプラス側にシフトした極大部分。
(d)広い領域にわたって測定した接触電位差(緑)は、100 µm以上の大きな範囲にわたっていることがわかる。

詳しい機構は未だ不明であるが、テラス型p-n接合領域を積極的に多くしたデバイスに対して、光照射した際の酸化反応を計測すると、通常のp-n接合体よりも酸化力が向上することが明らかとなった。また、同様のテラス構造を高分子膜型の光触媒として用いると、酢酸を酸化してCO2を発生させる反応の外部量子効率が、620 nmの赤色光に対し、3.2%から5.1%に向上した。

図2.左上:今回提案したテラス構造を採用した光触媒(Dot TB)と通常のp-n接合体(Bilayer)の構造。左下:光触媒実験の模式図。右:630 nmの赤色光を照射して酢酸が分解した際に発生したCO2の量と照射した光子数に対する量子効率。
図2.
左上:今回提案したテラス構造を採用した光触媒(Dot TB)と通常のp-n接合体(Bilayer)の構造。
左下:光触媒実験の模式図。
右:630 nmの赤色光を照射して酢酸が分解した際に発生したCO2の量と照射した光子数に対する量子効率。

今後の展開

新たに提案する、従来より2桁もサイズアップして作り込んだp-n接合は、特殊な分子群を用いることなく、しかも化学構造はそのままに、酸化力を向上させることができた。この成果は、新しい光触媒、太陽電池の設計法として有用と考えられる。

付記

本研究は、文部科学省の「人・環境と物質をつなぐイノベーション創出 ダイナミック・アライアンス事業」等の助成を受けて実施した。

用語説明

[用語1] p-n接合 : 半導体の導電性はキャリアと呼ばれる不純物の濃度に比例する。キャリアには電子と電子のかけた状態(正孔)があり、正孔がキャリアとなる場合をp型半導体、電子がキャリアとなる場合をn型半導体をよぶ。この2種類を接合させたp-n接合は、電流を一方向に流す整流作用や、光による起電力(太陽電池)などの有用な特性を示す。

[用語2] 有機薄膜太陽電池 : 現在、太陽電池として用いられているシリコンではなくプラスチックなどの有機材料で太陽電池を作る試みは、ノーベル賞受賞者の白川英樹博士の導電性高分子の発明直後から研究され始めた。p-n接合を精密に制御することにより、著しく効率が上昇することが今世紀に明らかとなり、「軽くて曲げられる太陽電池を塗布プロセスで」行う研究が進められている。

[用語3] フタロシアニン : 新幹線の青色に用いられている有機色素である。青色の飛行機を見てわかるように、紫外線や放射線にも抜群の耐候性を示す。多くがp型半導体となる。

[用語4] テラス型p-n接合 : 本研究で用いられた試料である。n型半導体薄膜に半分の面積だけp型を被覆したものである。境界領域は階段状になっている。二層部分をテラスと呼ぶことができる。

[用語5] ケルビン力プローブ顕微鏡 : 絶対零度の単位でも知られる英国の物理学者・ケルビン卿は、試料に探針を近付けた際の電位差を計測できることを発見した。近年の原子間力顕微鏡の進歩により、カンチレバーと試料の電位を変えて、クーロン力を打ち消すことにより、「接触電位差」を高空間分解に計測できるようになった。これがケルビン力プローブ顕微鏡である。

[用語6] 原子間力顕微鏡 : 微小領域の観察は、不確定性原理の影響を受けるため、(光や電子よりも)重い物体で観察する必要がある。カンチレバーと呼ぶ先端がナノメートルサイズに尖った探針を試料の表面でなぞり、原子間力を検出することにより、ナノレベルの観察が容易に行える。

論文情報

掲載誌 :
NPG Asia Materials
論文タイトル :
Enhanced oxidation power in photoelectrocatalysis based on a micrometer-localized positive potential in a terrace hetero p-n junction
著者 :
Mohd Fairus Ahmad, Motoya Suzuki, Toshiyuki Abe, Keiji Nagai
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院
化学生命科学研究所 准教授 長井圭治

E-mail : nagai.k.ae@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-6255

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東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東北大学と量子コンピューティング研究の連携協定を締結

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東京工業大学と東北大学は7月18日、量子コンピューティングを中心とした情報科学の基礎と応用の研究において世界的にリーダーシップを発揮することを目指し、連携協定を締結しました。

(左から)東工大:科学技術創成研究院 西森教授、益学長 東北大:大野総長、大学院情報科学研究科 大関准教授

(左から)東工大:科学技術創成研究院 西森教授、益学長
東北大:大野総長、大学院情報科学研究科 大関准教授

背景

量子コンピューティングは、従来の方法では長い計算時間を要するいくつかの問題をより短い時間で解く可能性を期待されており、各分野で注目されています。

東京工業大学は、最初に商用化されすでに多くのユーザに利用されている装置の動作原理である量子アニーリングの概念を1998年に初めて提唱し、その基礎理論研究において20年にわたり世界のトップを走ってきました。また、東北大学では、量子アニーリングに関するソフトウェア科学とその応用研究で世界を先導しており、産業界と広く連携することによって、各種の重要課題の解決を系統的に推進しています。

趣旨

記者発表の様子
記者発表の様子

このような背景のもと、東京工業大学科学技術創成研究院に7月1日に発足した量子コンピューティング研究ユニット※1と東北大学学際研究重点拠点「Q+HPCデータ駆動型科学技術創成拠点」※2で、研究拠点を形成し、両大学の強みを活かして組織的な連携を行います。また、企業と協力して「量子アニーリング研究開発コンソーシアム(仮称)」を組織し、実社会における問題の解決を図ります。

形成される拠点では、人材の集中や量子アニーリングマシンの設置など、研究開発環境の整備を行う予定です。研究面では、量子コンピューティング研究ユニットで行われる量子アニーリングの基礎理論の整備・構築と、Q+HPCデータ駆動型科学技術創成拠点で行われるソフトウェア科学や具体的な問題への応用が展開されます。さらに、量子アニーリング分野では基礎研究と応用研究の距離は近く相補的であることから、応用研究での様々な分野への量子アニーリングの活用は、ノウハウの蓄積だけでなく基礎研究の発展を促し、その基礎研究の発展がさらなる活用分野の拡大につながるという好循環を生みだします。これにより、日本の量子アニーリング分野の基礎と応用におけるイニシアチブを獲得することを目指します。

実績と強みをそれぞれ有する東京工業大学と東北大学が、密接な連携のもとに共同研究を推進する意義はここにあります。

固く握手を交わす大野総長と益学長

固く握手を交わす大野総長と益学長

連携 ・協力事項

両大学は次の事項等について連携を行います。

1.
幅広い視野を持って統合的な研究を推進すること
2.
研究者の相互交流及び産官学連携の推進に関すること
3.
若手研究者の育成に関すること

連携協定の説明

※1
科学技術創成研究院量子コンピューティング研究ユニットでは、量子アニーリングの基礎理論からソフトウェア、さらには実社会の問題への応用まで幅広く扱う研究を行い、当該分野における日本の拠点としての存在感を確立します。
※2
東北大学学際研究重点拠点「Q+HPCデータ駆動型科学技術創成拠点」とは、量子アニーリングを用いた組合せ最適化技術の発展と人材育成、ならびに実社会応用という3本の柱を軸とした研究活動を行います。

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

細野秀雄教授が明かすIGZO(イグゾー)薄膜トランジスタ開発物語 Nature Electronics誌に発表

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Nature Electronics誌にはReverse Engineeringというコラムが毎号掲載されてます。実用化されて世の中に普及した電子デバイスを一つずつ取り上げ、なぜ、どのように開発されたかを主な発明者本人が解説する話題のページです。これまでDRAM、DVD、CD、リチウム2次電池などが紹介されてきました。東京工業大学 科学技術創成研究院の細野秀雄教授(元素戦略研究センター長)が執筆した IGZO-薄膜トランジスタ(TFT)の開発についてのコラムが同誌2018年7月号に掲載されたので、ご紹介します。

図1. IGZO-TFTの研究の進展とディスプレイへの実装

図1. IGZO-TFTの研究の進展とディスプレイへの実装

インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)を含む酸化物(IGZO、通称イグゾー)を使った薄膜トランジスタ(TFT)は、これまでにない高解像・省電力のディスプレイを実現しました。従来、独占的に使われてきた水素化アモルファスシリコンよりも電子の動きやすさ(移動度)が一桁大きく、オフ電流が極めて小さく、しかも、透明で光を通すためです。すでにスマホやタブレットなどの液晶画面の駆動に応用されてきました。本命と考えられていた大型の有機ELテレビの駆動にも3年前、採用されました。韓国と日本の電気メーカーから製品が発売され、テレビ売り場の中央に置かれているように、市場が急速に広がりつつあります。

遷移金属の酸化物が電子伝導性を示すことは古くから知られていましたが、電界による電流の変調はできませんでした。1960年代になると酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウムがTFT構造をつくると電流の変調が可能なことが報告されました。ただ、性能が悪く、その後は2000年くらいまで、酸化物TFTの研究は殆ど報告されませんでした。2000年代に入り酸化物を電子材料として見直す「酸化物エレクトニクス」という分野が立ち上がりました。東京工業大学の応用セラミックス研究所(現 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所)はそのメッカです。その中で酸化亜鉛のTFTが世界中で研究されるようになりました。しかし、薄膜が多結晶だったので、特性や安定性などに問題があり実用化に至りませんでした。

CPUと異なり、ディスプレイへの応用にはアモルファスのように大面積の基板上に均質な薄膜が形成でき、しかもその薄膜に電界をかけると低い電圧で電流が飛躍的に増大することが必要です。ところが、均質な薄膜形成には、アモルファスが最適であっても、構造の乱れに起因する高濃度の欠陥などが生成するために、電界によって電流の変調ができないのが一般的でした。唯一の例外は1975年に報告された水素を多量に含んだアモルファスシリコンです。そのTFTは液晶ディスプレイの駆動に応用され、10兆円規模の巨大産業にまで成長しました。しかしながら、その移動度は結晶シリコンより2 - 3桁も低下してしまい、0.5 - 1 cm2/Vsにとどまってしまいます。このように、アモルファス半導体は作りやすいが、電子物性は格段に低下してしまうと捉えられていたのです。

細野秀雄教授が注目したのは、イオン結合性が強い酸化物で、周期律表上のpブロックに属する非遷移金属イオンから構成される系でした。これらの物質系では電子の導電路となる伝導体の底が、金属イオンの空間的に広がった球対称のs軌道から主に構成されます。そのため、電子の動きやすさを決めているその軌道同士の重なりの大きさが結合角によってあまり敏感に変化しないので、アモルファスでも結晶とあまり遜色がない移動度が実現できるのではないかと考えたのです。その発想に従い実験を行い、幾つかの実例を見出すことができました。そして、1995年の第16回アモルファス半導体国際会議でこれらの考えと実例を発表しました(そのプロシーディング論文は翌年に掲載)。この仮説を実験と計算によって実証後、TFTの試作を開始しました。仮説を満たす元素の組み合わせは多数、存在します。その中で、IGZOを選択したのは、容易に作製できる安定な結晶相が存在し、かつ局所構造が特異的でキャリアの生成が抑制できると考えられたからでした。2003年には結晶のエピタキシャル薄膜で移動度~80 cm2/Vsが得られることをScience誌に報告しました。翌年にはアモルファス薄膜でも~10 cm2/Vsという移動度が得られることをNature誌に掲載しました。

国際情報ディスプレイ学会(SID)やアモルファス半導体国際会議などアモルファス酸化物半導体とそのTFTの研究は、この論文以降急速に世界中で立ち上がりました。その活況は現在も続いており、2つの論文は既に他の論文にそれぞれ2,000回と5,000回を超える引用がなされています。また、他の特許にもあわせて引用が9,000回を超えています。実際にこれらのTFTを実装したディスプレイは2012年ごろから製品の一般販売が開始されました。特に2015年ごろから利用が始まった大型有機ELテレビは、アモルファスIGZO-TFTの大きな移動度と大面積で均質な薄膜が容易に形成できるという特徴を活かすことで初めて実現した製品です。実物の一つは、東工大の元素戦略研究センター(S8棟)1Fとフロンティア材料研究所(R3高層棟)玄関に置かれています。今後は高精細な大型液晶テレビへも応用が開始されるようです。

本研究成果は、科学技術振興機構(JST)のERATO「透明電子活性プロジェクト」(1999 - 2004)で得られたものです。関連する知財は日本、米国、欧州、韓国、中国、台湾、インドなど多くの国で成立しており、主な特許権者であるJSTがライセンスの許諾を行っています。

論文情報

掲載誌 :
Nature Electronicsouter 1巻、7月号
タイトル :
How we made the IGZO transistor
著者 :
Hideo Hosono
DOI :
IGZO-TFTの原著論文 :

K.Nomura, H.Ohta, K.Ueda, T.Kamiya, M.Hirano, H.Hosono, Thin-film transistor fabricated in single-crystalline transparent oxide semiconductor. Science, 300, 1269 (2003).

K.Nomura, H.Ohta, A.Takagi, T.Kamiya, M.Hirano, H.Hosono, Room-temperature fabrication of transparent flexible thin-film transistors using amorphous oxide semiconductors. Nature, 432, 488 (2004).

総説 :

H.Hosono, Ionic amorphous oxide semiconductors: Material design, carrier transport, and device application, J.Non-Crystalline Solids,352,851 (2006)

T.Kamiya, H.Hosono, Material characteristics and applications of transparent amorphous oxide semiconductors, NPG Asia Materials,2,15 (2010)

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院

フロンティア材料研究所 教授/元素戦略研究センター長

細野秀雄

E-mail : hosono@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5009

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


ナノ電線作製目指すガイドライン 「教師なし機械学習」利用で実現

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  • 微小電線などのナノ材料の開発に必要な、分子が集合体を形成する過程を予測するガイドラインを導き出すことに成功。
  • 「教師なし学習」を用いた画期的な予測方法。

京都大学 高等研究院 物質―細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)のダニエル・パックウッド(Daniel Packwood)講師と東京工業大学 物質理工学院の一杉太郎(ひとすぎたろう)教授は、機械学習を使って、金属基板上の分子の配列を予測するガイドラインを作ることに成功しました。機械学習には「教師あり」学習と「教師なし」学習の二通りあり、今回は、正解と不正解のデータを事前に学習しない、「教師なし機械学習」の方法で予測する点で意義があります。この得られたガイドラインは、電気配線や電子回路として利用可能な微小な構造の作製につながり、微小デバイス(ナノエレクトロニクス)開発の加速が期待できます。

基板上に付着した分子は、分子間引力によって集合し、微小な構造(=超分子構造)を自発的に形成します。この現象はナノエレクトロニクス開発に向けて注目を集め、微小な電気配線(ナノ電線)や、電子素子として利用可能な超分子構造を作る際に活用できる可能性があり、研究活動が活発になっています。しかし、分子を望み通りの構造に自発的に集合させるためのガイドラインが存在せず、応用への展開がなかなか進まないのが実情です。

本研究では、数理科学・理論化学を専門とするパックウッド講師が、材料科学を専門とする一杉教授と共同研究を行いました。そして機械学習を活用し、基板上の分子を望み通りに集合させるためのガイドラインを作成しました。この機械学習は、分子の化学的特徴とその分子の集合過程がどのように関わっているかを学習して、その結果を図式的にまとめるものです。そして、この図を解析することにより、ガイドラインを導きました。これにより、例えば、電気配線として利用可能な直線状の超分子構造を形成する際に、どのような分子を用いれば良いのか予測することができます。

今回の成果は、微小なデバイスにおいて必要な部品(微小電気配線など)を形成することにつながるので、ナノエレクトロニクス開発の加速が期待できます。将来的に、ロボットや柔らかいディスプレー、または超低消費電力デバイスの実現に寄与することが期待できます。

英国時間2018年6月25日午前10時(日本時間午後6時)に英オンライン科学雑「Nature Communications(ネイチャーコミュニケーションズ)」で公開されました。

背景

エレクトロニクスデバイスのさらなる小型化・高集積化が要望される中、分子の「自己組織化」が注目を集めています。分子自己組織化(図1)とは、基板に蒸着した分子が互いに引き合って集合し、微小な構造(=超分子構造[用語1])を自発的に形成することです。この超分子構造は様々な形状になりますが、電気配線や電子回路として利用可能な超分子構造を形成するには、分子を望み通りの形に集合させる必要があります。

(A)分子自己組織化の簡単な説明。基板表面に付着した分子は互いに引き合い(引力相互作用)、集合する。そして超分子構造が形成される。緑色の矢印は分子間の引力相互作用を示す。(B)走査トンネル顕微鏡で観察した超分子構造の例(橙色の部分)。基板として金属銅を用いている。電気配線として利用可能な超分子構造は青色の点線で示す。(C)電子回路のイメージ図。黄色の線が電気配線である。ナノエレクトロニクスでは、電子回路の電気配線を超分子構造で代替することが重要である。例えば、赤色で示す配線を直線状の超分子構造に代替することが考えられる。
図1.
(A)分子自己組織化の簡単な説明。基板表面に付着した分子は互いに引き合い(引力相互作用)、集合する。そして超分子構造が形成される。緑色の矢印は分子間の引力相互作用を示す。(B)走査トンネル顕微鏡で観察した超分子構造の例(橙色の部分)。基板として金属銅を用いている。電気配線として利用可能な超分子構造は青色の点線で示す。(C)電子回路のイメージ図。黄色の線が電気配線である。ナノエレクトロニクスでは、電子回路の電気配線を超分子構造で代替することが重要である。例えば、赤色で示す配線を直線状の超分子構造に代替することが考えられる。

分子自己組織化はナノメートルスケール(ナノは10-9)で起きるので、分子の集合過程を実験機器で制御することが簡単ではありません。例えば、分子を直線状に並べたいとします。その方法として、まずは分子の種類を選び、選んだ分子は、有機合成化学を用いて分子の種類を少しずつ系統的に変え、それらの分子の集合過程を観測することが活発に行われています(図2)。このアプローチで多くのデータが収集されましたが、分子の種類と基板種類の組み合わせは膨大であり、分子集合過程の理解は未解明のままです。したがって、分子種から集合状態を予測するガイドラインの構築が強く求められています。

分子の種類によって基板上の分子集合過程および超分子構造の形状が変わる。この図は二つの分子種類((A) dibromo-bianthracne, (B) dimethyl-bianthracene)の集合過程を比較する。(A)と(B)では赤色の円内の原子種が異なっている(Brは臭素、CH3はメチル基をあらわす)。
図2.
分子の種類によって基板上の分子集合過程および超分子構造の形状が変わる。この図は二つの分子種類((A) dibromo-bianthracne, (B) dimethyl-bianthracene)の集合過程を比較する。(A)と(B)では赤色の円内の原子種が異なっている(Brは臭素、CH3はメチル基をあらわす)。

研究内容と成果

本研究では、「教師なし機械学習」を活かして、金属基板上の分子が望み通りに集合させるためのガイドラインを構築しました。

教師なし機械学習では、様々なオブジェクト(対象物)をコンピュータで比較して、それらを共通の特徴によって分類します(図3)。「教師あり機械学習」とは異なり、事前に準備した正解と不正解のデータを参考にせず、オブジェクトの共通特徴を自動的に認識します。しかし、教師なし機械学習では、それぞれのオブジェクトがどの程度似ているかを事前に定量化しなければならないので、すぐに使えるものではありません。

教師なし機械学習の簡単な説明。様々なオブジェクト間の類似性がアルゴリズムにインプットされる。アルゴリズムはそれを分析して、オブジェクトの共通特徴を自動的に認識する。アルゴリズムのアウトプットは、共通特徴によって分類されているオブジェクトである。同じ区分に入っているオブジェクトは近い特徴を持ち、別の区分に入っているオブジェクトは、それらとは異なる特徴を持つ。
図3.
教師なし機械学習の簡単な説明。様々なオブジェクト間の類似性がアルゴリズムにインプットされる。アルゴリズムはそれを分析して、オブジェクトの共通特徴を自動的に認識する。アルゴリズムのアウトプットは、共通特徴によって分類されているオブジェクトである。同じ区分に入っているオブジェクトは近い特徴を持ち、別の区分に入っているオブジェクトは、それらとは異なる特徴を持つ。

本研究では、オブジェクトを分子の種類とし、特徴を分子集合過程で形成する超分子構造とした。それぞれの分子の種類がどのぐらい似ているかを定量化するために、分子自己組織化に対する数理モデル[用語2]を数学的に分析しました。そして、分子種類に対する距離函数[用語3]を新たに導出することに成功して、教師なし機械学習の実行を可能にしました。

教師なし機械学習を実行すると、分子の種類を集合過程によって分別する図(=デンドログラム)が出力されました(図4)。このデンドログラムにより、基板上の分子を望み通りに集合させるためのガイドラインが浮かび上がります。例えば、デンドログラムの区分iiに分類された分子が望ましいことが分かります。なぜなら、区分iiに入っている分子種類は二つの分子集合過程(直線上の超分子構造、またはV文字に似ている超分子構造を形成する集合過程)が可能であり、どちらの超分子構造も微小電気配線として利用可能です。さらに、区分iiに入っている分子種類のすべては弱電気陰性[用語4]があるので、それが重要ということが分かります。また、デンドログラムの区分ivより、電子回路の一部として利用可能な超分子構造を形成するためには、水素結合[用語5]が形成する分子を利用すれば良いというガイドラインも得られました。この研究成果は、分子が望み通りに集合されるためのガイドラインを理解しやすい形でまとめることであり、ナノエレクトロニクス開発を加速することが期待できます。

教師なし機械学習からアウトプットしたデンドログラム。分子の種類は4つの区分によって分類され、区分中の共通特徴が青文字で示す。すべての分子種類はほぼ同じ構造を持っているが、右上図で示すように赤色のところだけが異なる。区分iiまたは区分ivから形成可能な超分子構造を図中に示した(コンピュータ生成イメージ、灰色の球=炭素原子、白色の球=水素原子、緑色の球=塩素原子、暗赤色の球=臭素原子、赤色の球=酸素原子)。電子回路中でその超分子構造を活用できる場所を下左の赤い四角で示す。
図4.
教師なし機械学習からアウトプットしたデンドログラム。分子の種類は4つの区分によって分類され、区分中の共通特徴が青文字で示す。すべての分子種類はほぼ同じ構造を持っているが、右上図で示すように赤色のところだけが異なる。区分iiまたは区分ivから形成可能な超分子構造を図中に示した(コンピュータ生成イメージ、灰色の球=炭素原子、白色の球=水素原子、緑色の球=塩素原子、暗赤色の球=臭素原子、赤色の球=酸素原子)。電子回路中でその超分子構造を活用できる場所を下左の赤い四角で示す。

今後の展開

今回の成果は、微小デバイスにおいて必要な部品(微小電気配線など)を形成することにつながるので、ナノエレクトロニクス開発を加速することが期待できます。将来的に、ロボットや柔らかいディスプレー、または超低消費電力デバイスの実現に寄与することが期待できます。

研究プロジェクトについて

本成果は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)およびチーム型研究(CREST)、科研費新学術公募研究(ナノ構造情報のフロンティア開拓)の支援を受けて行われました。

用語説明

[用語1] 超分子構造:数多くの分子が非共有結合によって会合し、独自のまとまった構造・機能を生み出している分子集合体。

[用語2] 分子自己組織化に対する数理モデル:金属上の分子の集合過程(分子自己組織化)を再現できるコンピューターアルゴリズム。

[用語3] 距離函数:集合の二点間の距離を定義する函数。

[用語4] 弱電気陰性:原子が化学結合を作るとき電子対をひきつける強さが弱い性質。

[用語5] 水素結合:電気陰性度の高い二個の原子が水素原子を介して結びつく化学結合。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Materials informatics for self-assembly of functionalized organic precursors on metal surfaces
著者 :
Daniel M. Packwood and Taro Hitosugi
DOI :
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お問い合わせ先

(研究内容について)

京都大学 高等研究院 物質-細胞統合システム拠点
講師 ダニエル・パックウッド

E-mail : dpackwood@icems.kyoto-u.ac.jp
Tel : 075-753-9771

(京都大学iCeMSについて)

京都大学 高等研究院 物質-細胞統合システム拠点
パブリックエンゲージメントユニット
髙宮泉水

Email : pe@icems.kyoto-u.ac.jp
Tel : 075-753-9764

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

7月23日15:50 タイトルを修正しました。

NHK Eテレ「サイエンスZERO」に菅野了次教授が出演

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科学技術創成研究院 全固体電池研究ユニットの菅野了次教授がNHK Eテレ「サイエンスZERO」に出演します。

「サイエンスZERO」は、私たちの未来を変えるかもしれない最先端の科学と技術を紹介するとともに、世の中の気になる出来事に科学と技術の視点で切り込む番組です。この回では新しい、次世代革新電池として全固体リチウム電池を分かりやすく紹介しています。

菅野教授

菅野教授のコメント

スマホやタブレットなどの携帯情報端末が日常生活に不可欠なものになり、電気自動車へのパラダイムシフトがグローバルに加速している中で、注目される次世代革新技術「全固体電池」について取材を受けました。番組を通して全固体電池のキーテクノロジーである、超イオン伝導体研究の「面白さ」を知っていただければ幸いです。

番組情報

  • 番組名
    NHK Eテレ サイエンスZERO
  • タイトル
    1分で充電完了!?全固体電池が世界を変える
  • 放送予定日
    2018年7月29日(日)23:30 - 24:00
  • 再放送予定日
    2018年8月4日(土)11:00 - 11:30

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

「量子コンピューティング研究ユニット」のリーフレット公開

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2018年7月に新たに設置された研究ユニット「量子コンピューティング研究ユニット」のリーフレットが完成しました。

これまでに設置された研究ユニットは本ユニットを含めて13ユニット、現在活動中のユニットは11です。

(なお、細胞制御工学研究ユニットは細胞制御工学研究センターouterに移行しました。)

研究ユニットは、科学技術創成研究院(IIR)のもとに最先端研究を小規模のチームで機動的に推進するために設置され、卓越したリーダーが“尖った”研究を大きく育てるための仕組みです。

設置された各研究ユニットのねらい、特色、具体的な研究目標、それを達成する道筋などをわかりやすく紹介しています(日本語版、英語版)。

新設された研究ユニット

量子コンピューティング研究ユニット

現行の研究ユニット

全固体電池研究ユニット

(リーダー:菅野了次 教授)

全固体電池研究ユニット リーフレット

ナノ空間触媒研究ユニット

(リーダー:横井俊之 助教)

ナノ空間触媒研究ユニット リーフレット

グローバル水素エネルギー研究ユニット

(リーダー:岡崎健特命教授)

グローバル水素エネルギー研究ユニット

ビッグデータ数理科学研究ユニット

(リーダー:高安美佐子教授)

ビッグデータ数理科学研究ユニット

スマート創薬研究ユニット

(リーダー:関嶋政和准教授)

スマート創薬研究ユニット

ハイブリッドマテリアル研究ユニット

(リーダー:山元公寿教授)

ハイブリッドマテリアル研究ユニット

バイオインタフェース研究ユニット

(リーダー:小池康晴教授)

バイオインタフェース研究ユニット

革新固体触媒研究ユニット

(リーダー:原亨和教授)

革新固体触媒研究ユニット

原子燃料サイクル研究ユニット

(リーダー:竹下健二教授)

原子燃料サイクル研究ユニット

クリーン環境研究ユニット

(リーダー:藤井正明教授)

クリーン環境研究ユニット

研究ユニットリーフレット一括ダウンロード

お問い合わせ先

研究・産学連携本部

E-mail : ru.staff@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3794

7月25日14:00 PDFファイルに誤りがあったため、差し替えをしました。

生命活動の燃料「ATP」を観察する3色の蛍光センサーの開発に成功 がんや肥満の創薬開発への貢献に期待 日本、シンガポール、アメリカの国際共同研究

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早稲田大学 理工学術院の新井敏研究院講師と東京工業大学 科学技術創成研究院の北口哲也准教授(論文投稿当時、早稲田大学 重点領域研究機構研究院 准教授)らの研究チームは、東京大学 大学院総合文化研究科、シンガポール国立大学、ハーバード大学と共同で、細胞の中のエネルギー代謝で中心的な役割を果たしているアデノシン三リン酸(ATP)を検出する、赤・緑・青(RGB)色の蛍光ATPセンサーの開発に成功しました。

地球上のあらゆる生物は、栄養素の分解を通して獲得したエネルギーを、ATPの形に変換・保存し、必要に応じて、ATPからエネルギーを取り出すことで、生命体を構成する細胞の中の様々な化学反応を滞りなく進行させたり、必要な場所に必要な物質を輸送するシステムを動かしたりしています。このATPの細胞内の分布を理解するためには、細胞内のATP濃度の変化の情報を蛍光シグナル(蛍光の明るさの強弱)に変換する蛍光ATPセンサーを細胞の中に導入し、蛍光顕微鏡を用いて生きた細胞を観察する蛍光イメージング技術が最も有力な手法の1つです。

本研究チームは、標的とするATPに特異的に結合するタンパク質(ATP合成酵素の一部)と、蛍光を発する色素を含む蛍光タンパク質をペプチドリンカー[用語1]で繋ぎ、その長さやリンカーを構成するアミノ酸の種類を独自の手法で最適化することで、青・緑・赤色の蛍光ATPセンサー(MaLionB, G, R)を開発しました。今回開発した蛍光ATPセンサーを自在に組み合わせることで、従来の技術では原理的に極めて困難であった「同じ細胞内の異なる場所のATPの動態の同時観察」や、「ATP以外の他のシグナルやタンパク質の動態との同時観察」などが可能になりました。

今回の開発した一連の蛍光ATPセンサーは、汎用性の高い研究ツールとして、創薬・医療技術開発にATPに関わるシグナル伝達経路のビジュアルエビデンスという新しい視点を加え、開発研究を加速度的に進めることが期待されます。本研究は、文部科学省科学研究費補助金、及び、日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業(PRIME)「メカノバイオロジー機構の解明による革新的医療機器及び医療技術の創出」研究開発領域における研究開発課題「人工オルガネラ熱源の作成細胞機能の温熱制御」(研究開発代表者:新井敏)の研究費によって行われました。研究成果は、ドイツ化学会誌『Angewandte Chemie International Edition』オンライン版に2018年6月27日に掲載され、近日中に紙面掲載される予定です。

ポイント

  • 細胞の中のエネルギー代謝の中心であるATPをセンシングする、赤・緑・青(RGB)色の蛍光ATPセンサーの開発に成功
  • 従来の技術では困難であった、同一細胞内の異なる場所のATP動態の同時観察が可能に
  • 海外にある日本のラボ・早稲田バイオサイエンスシンガポール研究所(WABIOS)を中心とした、日本、シンガポール、アメリカの国際共同研究

概要

細胞の中のエネルギー代謝の中心であるATPをセンシングする、赤・緑・青(RGB)色の蛍光ATPセンサーの開発に成功。細胞内のATPのダイナミックな姿を高精度、且つ、簡便に捉える強力なツールとして期待できます。

これまでの研究で分かっていたこと

地球上のあらゆる生物は、糖、脂質、アミノ酸などの栄養素の分解を通して獲得したエネルギーを、アデノシン三リン酸(ATP)の形に変換し、保存します。そして必要に応じて、ATPからエネルギーを取り出すことで、生命体を構成する細胞の中の様々な化学反応を滞りなく進行させたり、必要な場所に必要な物質を輸送するシステムを動かしたりしています。ATPは、言わば、生命活動の燃料であり、細胞の機能や恒常性を維持する上で極めて重要な分子であると言えます。

このため、生物学研究の幅広い領域において、細胞の中で、どのようにATPが分布しているのか、そして時間に伴ってどう変化していくのかを検出することは大きな課題の1つです。こうした課題を解決するために用いられるのが、蛍光イメージングの技術です。細胞の中で起きる現象の変化を、蛍光シグナル(主に、蛍光の明るさの強弱)に変換する極小の蛍光センサーで細胞内の注目分子の動態を蛍光顕微鏡で観察する手法です。現在までに、幾つかの蛍光ATPセンサーが報告されています(ATeam; Imamura et al., PNAS, 2009. B-Queen; Yaginuma et al., Sci. Rep., 2014)。しかしながら、従来の蛍光センサーでは、使用できる色に制限があるため、同じ細胞の中の異なる場所(細胞小器官など)のATPの動態を同時に解析することやATP以外の他のシグナル分子やタンパク質の動態を同時に観察することは原理的に困難でした。

今回の研究で新たに開発した手法

本研究チームは、ATPの濃度変化に応答して、蛍光強度が変化する単色型の蛍光タンパク質を用いた新しい蛍光ATPセンサーを開発しました。今回の蛍光ATPセンサーは、標的とするATPに特異的に結合するタンパク質(ATP合成酵素の一部のεサブユニット)と、蛍光を発する色素を含む蛍光タンパク質がペプチドリンカーを介して繋がった構造をしています(図1左参照)。ATP濃度に応答して蛍光強度が大きく変わる蛍光ATPセンサーを得るには、このペプチドリンカーの長さや、構成するアミノ酸の種類が大きな鍵なります。最終的に、このリンカーを独自の手法で最適化し、青色(BFP)、緑色(Citrine)、赤色(mApple)のTurn-on型[用語2]の蛍光ATPセンサーを開発、それぞれ、MaLionB, G, R(Monitoring aTP Level intensity based turn on indicators)と名づけました。MaLionB、MaLionG、MaLionRは、それぞれ、蛍光強度が90%、390%、350%増加します。また、センサーの作動するATPの濃度域も、0.1~8ミリモル濃度で、生理的条件のATP濃度域と一致しています。更に、この蛍光ATPセンサーは、細胞の中の狙った細胞小器官などに、自由自在に配置できることも特徴です。

図1. ATPの濃度変化によって蛍光強度が変わるRGBカラーの蛍光ATPセンサー

図1. ATPの濃度変化によって蛍光強度が変わるRGBカラーの蛍光ATPセンサー

今回の研究で得られた結果及び知見

今回開発した一連の蛍光ATPセンサー(MaLions)によって、今までの技術では極めて困難であったことが可能になりましたので、その事例を2つ紹介します。

同じ細胞の中の異なる場所のATPの動態を同時に観察する試み

通常、動物細胞の場合、ATPは、細胞質における解糖系と、ミトコンドリアでの酸化的リン酸化の両方の経路から合成されています。更に、分化した細胞は、ミトコンドリアでのATP産生系が主要経路であるのに対し、がん細胞をはじめとした増殖性の細胞では、解糖系が発達しているといった違いが知られています(ワーブルグ効果[用語3])。がん細胞(HeLa細胞)と正常な細胞(褐色脂肪細胞)に、緑色の蛍光ATPセンサー(MaLionG)と赤色のセンサー(MaLionR)を、それぞれ、細胞質とミトコンドリアに導入し、顕微鏡観察しました。観察の途中に、ミトコンドリアのATP産生をオリゴマイシンで阻害したところ、HeLa細胞[用語4]では、ミトコンドリアのATP濃度減少と同時に、細胞質のATP濃度上昇が観察されました。この現象は、活発な解糖系を持つがん細胞が、ミトコンドリアのATP産生の阻害による細胞全体でのATP濃度の低下に応答し、細胞質のATP濃度の一過的な上昇により補おうとしていると考察しています。一方、ミトコンドリアのATP産生が優位な細胞の例として、例えば褐色脂肪細胞では、細胞質のATP濃度上昇は見られませんでした。これらの結果は、がん細胞と正常な細胞の違いを、同一細胞内のATP動態という視点から検出した初めての例と言えます。また、上記の他に、光合成によって生じる植物(シロイヌナズナ)のATP産生の増加や(シンガポール国立大学との共同研究)、麻酔に伴って減少するATPの様子を線虫で捉えることにも成功しており(東京大学 大学院総合文化研究科との共同研究)、開発したセンサーが、動物・植物の極めて広い範囲の生物種に適用できる可能性を示しました。

図2. がん細胞のダイナミックなATPの濃度変化を捉えた成功例

図2. がん細胞のダイナミックなATPの濃度変化を捉えた成功例

ATPとそれ以外のシグナルの動態を同時に観察する試み


図3. 褐色脂肪細胞の熱産生に関わるシグナル伝達系の可視化

図3. 褐色脂肪細胞の熱産生に関わるシグナル伝達系の可視化

褐色脂肪細胞は、私達の体の中で、恒常性を保つために熱産生を行う重要な細胞の1つです。私達は褐色脂肪細胞をその前駆細胞より分化させ(シンガポール国立大学、ハーバード大学との共同研究)、細胞質に青色の蛍光カルシウムセンサー(B-GECO)と緑色の蛍光cAMPセンサー(Flamindo2)、そしてミトコンドリアに赤色の蛍光ATPセンサー(MaLionR)を導入しました。顕微鏡観察中に、βアドレナリン受容体をイソプロテノール[用語5]で刺激したところ、cAMPが上昇(Flamindo2の蛍光強度が減少。Flamindo2はTurn-off型)、続いて、ミトコンドリアのATPが緩やかに減少、更に、反応の後半、カルシウムイオンの濃度が上昇する様子が見られました。褐色脂肪細胞は、受容体の刺激によって活性化された細胞膜上のアデニル酸シクラーゼ(AC)がcAMPを合成し、これがシグナル伝達となって、cAMP依存性のPKAを活性化します。その後、脂肪酸を遊離、ミトコンドリア膜上の脱共役タンパク質UCP1と作用して、ミトコンドリア膜上の膜電位の元となるプロトン濃度勾配を解消させATP合成を阻害し、最後に、ミトコンドリアからカルシウムイオンが流れ出てくることが知られています(褐色脂肪の熱産生)。生物学の教科書に記載されているこのような細胞内のシグナル伝達の模式図は、「時間」が止まっています。しかし、実際には、細胞の中は、時々刻々と様々な因子がダイナミックに変化しています。今回、R,G,Bというカラフルなセンサーを開発したことで、模式図として描かれているシグナル伝達の一部を本来の姿として見ることができるようになりました。

研究の波及効果と意義

今回、開発した一連の蛍光ATPセンサーは、エネルギー代謝系の変化について知りたいというニーズに対して、直感的に分かりやすいビジュアルのエビデンスを提供します。特に、薬剤の効果を迅速に解析することが要求される、がんや肥満などの生活習慣病のための創薬開発において威力を発揮します。また、力や熱などの物理的な刺激に伴う細胞の応答を知ることも、医療機器開発の分野においては重要です。従って、本研究成果は、創薬・医療機器開発の様々な分野の研究開発を加速させるものと期待されます。

本研究の実施においては、世界の研究ハブであるシンガポール・バイオポリスにある早稲田バイオサイエンスシンガポール研究所(WABIOS)が最大限に活用されました。現地のシンガポール国立大学(Raghunath博士やIto博士ら)から研究試料をスムーズに受け取り、迅速にWABIOSにて実験を遂行しつつ、日常的に議論できたことが、本研究を完遂するのに非常に重要でした。最終的に本共同研究は、東京大学 大学院総合文化研究科、ハーバード大学へと広がり、世界中の研究者を巻き込んだ国際共著論文として達成されています。また、WABIOSは、効率良く国際的な共同研究を実施できる場所であることに加え、現地の大学・研究機関等から独立した研究所であるため、発生した知財に関しては、日本側の研究者が単独でその権利を主張できることも特徴です。こうした特殊性を活かし、蛍光ATPセンサー材料の関連で出願した特許は、本学が主導で、その知財を保護しながら、研究を進めることができました。こうした海外の研究拠点は本学の大きな強みであり、今後一層、新たな研究成果を発信していく独自のプラットフォームとして期待されます。

今後の課題

本研究成果では、がん細胞の一部と褐色脂肪細胞に焦点が当てられているため、今後は、様々な細胞種のATP産生経路の特徴を体系的に理解していく必要があります。このため、今まで以上に、産学を問わず、多岐に渡る専門分野の研究者との共同研究が必須です。特に、複数の種類のがん細胞の特徴をATP産生系の視点から網羅的に理解することで、創薬研究に大きなインパクトを与えるものと期待しています。

用語説明

[用語1] ペプチドリンカー : 本研究では数個~数十個のアミノ酸が連結した分子(ペプチド)が、2つの異なるタンパク質を繋げる役割(リンカー)を担っています。構成するアミノ酸の種類によって、ペプチドリンカーの柔軟性や剛直性が変わりますが、このバランスを最適化することが蛍光センサーの開発の重要な点の1つです。

[用語2] Turn-on型 : 対象とする分子を検出して、蛍光強度を変化させる蛍光センサーの場合、蛍光強度が増加するタイプのセンサーを“Turn-on”型、逆に、減少するタイプを“Turn-off”型と呼びます。

[用語3] ワーブルグ効果 : 細胞内でATPが合成される経路として、解糖系と酸化的リン酸化の2つが知られています。解糖系は細胞質で行われ、グルコース1分子からATPを2分子合成するのに対し、酸化的リン酸化はミトコンドリアで行われ、ATP36分子を合成します。したがって、ATP産生の効率の点では、解糖系よりも酸化的リン酸化の方が圧倒的に優れています。正常な細胞は、酸化的リン酸化に依存してATP産生を行っているのに対して、がん細胞は、効率の悪い解糖系に依存していることが古くから知られており、ワーブルグ効果と呼ばれています。

[用語4] HeLa細胞 : ヒト子宮頸癌由来の細胞。さまざまな細胞生物学的研究で用いられるモデル細胞であり、蛍光センサーの開発研究においては、生細胞で作動するかを検討する目的で用いられます。

[用語5] イソプロテノール : アドレナリンβ受容体を選択的に刺激する分子であり、Gs経路を活性化することでcAMPを産生させます。

論文情報

掲載誌 :
Angewandte Chemie International Edition
論文タイトル :
RGB‐Color Intensiometric Indicators to Visualize Spatiotemporal Dynamics of ATP in Single Cells
著者 :
Satoshi Arai(新井敏), Rókus Kriszt, Kazuki Harada(原田一貴), Liang-Sheng Looi, Shogo Matsuda(松田翔吾), Devina Wongso, Satoshi Suo(周防諭), Shoichi Ishiura(石浦章一), Yu-Hua Tseng, Michael Raghunath, Toshiro Ito(伊藤寿朗), Takashi Tsuboi(坪井貴司), Tetsuya Kitaguchi(北口哲也)
著者所属 :
早稲田大学(当時WABIOS)、AMED、東京大学大学院総合文化研究科、シンガポール国立大学、ハーバード大学医学部
DOI :

内容に関するお問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院

化学生命科学研究所 准教授

北口哲也

E-mail : kitaguct-gfp@umin.ac.jp
Tel : 045-924-5270

AMED事業に関すること

国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)

基盤研究事業部 研究企画課

E-mail : kenkyuk-ask@amed.go.jp
Tel : 03-6870-2224 / Fax : 03-6870-2246

報道に関するお問い合わせ先

早稲田大学 広報室広報課

E-mail : koho@list.waseda.jp
Tel : 03-3202-5454

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東京大学 教養学部等総務課広報・情報企画係

Email : koho-jyoho@adm.c.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5454-6560

7月26日10:00 お問い合わせ先を一部修正しました。

太陽系外の生命探査に向けた科学者たちの戦略

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太陽系の外に生命を宿す惑星を見つける。そんなことが、数十年以内に可能になるかもしれないと、科学者たちは考えています。とはいえ、それには新しい観測技術や理論研究が必要なのです。東京工業大学 地球生命研究所(Earth-Life Science Institute: ELSI)の研究者も参加している国際研究グループは、「我々はこの宇宙で唯一の生命体なのか」という疑問に答えるための、ロードマップとなる論文を発表しました。今後、科学者たちが望遠鏡による観測で宇宙における「生命のサイン」(生命の存在を示す特徴、バイオシグニチャーと呼ばれる)を探す際の指針となります。この成果は5つの論文にまとめられ、2018年6月、Astrobiology誌に掲載されました。

参考図:系外惑星に生命のサインを探るための研究のイメージ図

参考図 : 系外惑星に生命のサインを探るための研究のイメージ図

Mary Ann Liebert, Inc. (New Rochelle, NY.) 出版 Astrobiologyより許可を得て翻訳、転載。)

系外惑星における生命探査に向けた国際的・学際的な取り組み

銀河系には非常に多くの恒星があり、その恒星のまわりを回る惑星が存在します。太陽以外の恒星を周回する惑星を「系外惑星」と呼びます。系外惑星の発見はかなり速いペースで進んでいます。最初に発見されたのは20世紀末ですが、すでに3,500個以上もの系外惑星が見つかっています。これらの系外惑星に生命を探すには、様々な分野にまたがる科学者の知識を統合することが欠かせません。NASAのNexus for Exoplanet System Science(NExSS)は3年前に設立された国際ネットワークです。様々な分野の研究者が集まり、系外惑星において生命のサインをどのように特徴づけ、探索を進めるかについて、理解を深めています。いまのところ、系外惑星に人間が直接行ってみることはできません。科学者たちは望遠鏡を使って生命のサインを探すしかないのです。そのためには、望遠鏡の技術を極限まで高めることが必要になるでしょう。

NExSSは、系外惑星における生命のサインの探索方法をめぐるこれまでの研究と現在の研究、そして未来に行われるであろう研究の要点をまとめた包括的な一連の論文を発表しました。これらの重要なレビュー論文は、宇宙生物学(アストロバイオロジー)、惑星科学、地球科学、太陽物理学、宇宙物理学、化学、生物学の各分野における第一線の研究者たちの2年間にわたる研究結果をまとめたものです。彼らは、まずオンラインミーティングを始め、その後2016年にワシントン州シアトルでワークショップを開催しました。これらの活動の中で、科学者たちは、太陽系外における生命を特定する最適な方法を話し合い、新たな計画を議論しました。ELSIや他の日本国内の研究機関のメンバーも、現地でまたはリモート参加で議論に加わりました。この議論が今回のAstrobiology誌掲載論文のベースとなりました。

生命のサインとその確からしさの評価

論文は、太陽系外生命の探索に関わるいくつかの問題を特定し、その解決策を提案しています。科学者たちが探そうとしているサインには、大きく分けて二つのタイプがあります。ひとつは、生命体が作り出す大気中の気体分子です。例えば、我々が呼吸する際に取り入れる酸素ですが、これは植物や光合成細菌が作りだしたものです。もうひとつは、生命体そのものから反射される光です。葉の色や、海に発生する赤潮やアオコ、さらにはイエローストーン公園の温泉を発色させる色素の光がこれにあたります。これらの痕跡は、衛星軌道から地球を見た場合にも見られるのです。天文学者は太陽系外惑星でもこのようなシグナルが検出できるよう、新たな天体望遠鏡のデザインを検討しています。

自然が科学者を騙すこともあります。生命体のない惑星に生命体がある、または生命体があるのにない、と錯覚してしまう場合です。たとえば、地球上に豊富に存在する酸素は生物の光合成によるものですが、別の惑星で生命体なしに作り出される場合はないのか、あるいは、酸素以外の生命のサインとして何があるのかを、科学者たちは検討しています。惑星の多様性をあらかじめ想定しておくことで、本当に生命体が存在する惑星を見極めたり、探すべき生命のサインの種類を広げようとしているのです。

研究グループは、太陽系外生命が存在する可能性や生命のサインの確からしさを定量化することにも着手しています。これは非常に重要でありながら困難な挑戦になります。天文学者は系外惑星に関し、ごく限られたデータしか持っていないからです。系外惑星から直接試料を採取して分析することはできません。データとして得られるのは、惑星から届く光だけです。天文学者たちは、その光に含まれた大気や惑星表面に関する特徴を解析し、系外惑星に関する情報を最大限に引き出そうとしています。これには、その惑星の大気組成や気候、海や大陸の有無に関する推論も含まれます。これらの情報を統合し、惑星のモデルを展開すると、得られたデータが生命体の存在によってきちんと説明できるのか議論できるようになります。その上で科学者たちは、その惑星で生物が存在するかどうかを推定し、その推定が信頼できるか決定しようとしています。この新たな研究は、様々な分野の知識や観点に基づいて惑星を総合的に考察する必要性を強調しています。

観測の将来展望

最後に、そのような観測のためには、新たな望遠鏡や装置が必要になります。地上望遠鏡と宇宙望遠鏡の両方、そして、現在稼働中のものに加え、10年後あるいは20年後に新しく建設される予定の望遠鏡も重要になってきます。これらの新しい技術で、遠く離れた惑星の大きさや軌道についてだけでなく、大気や表面の特徴について詳しく分析することも可能になってくると期待されています。その結果、その惑星に生命が宿っている可能性があるのかないのかが明らかになるかもしれません。生命のサインの検出を最重要のゴールとして掲げる宇宙望遠鏡の計画は、2030年代の打ち上げに向けて議論されています。

「太陽系外に生命を探る方法については20世紀半ばから色々と議論されてきましたが、系外惑星を詳細に観測して特徴づける手法や技術は近年飛躍的に進歩してきました。このような技術の多くは、木星のような巨大ガス惑星で実証されています。」

ELSIの研究者であり、掲載論文の筆頭著者でもある藤井友香特任准教授は語っています。その観測範囲は、地球と同程度の大きさで温暖な気候を持つであろう系外惑星にまで広げられつつあります。今後10年20年で得られるデータにより、生命を育む可能性のある惑星の調査がさらに進む見込みです。

「何光年も離れた系外惑星に生命を見つけようとすることは、とても野心的な挑戦です。特徴的なサインをただひとつ検出しただけでは結論付けることはできないでしょう。可能な観測を組み合わせて様々な観点から惑星の特徴を調べる。そして、非生物的な過程では説明できないけれど、惑星に生態系があるとすれば説明できる可能性がある。そういった分析を示していく必要があります。」

技術開発のペースや現在の系外惑星の分布に関する知識から判断すれば、2030年までに生命に適した環境を持つ可能性のある惑星の大気に関して情報を検出できるかもしれない。論文はそういう希望的な見解で結ばれています。

NExSSはNASAアストロバイオロジープログラムによって助成されています。

論文情報

Introductory Chapter

著者 :
Nancy Y. Kiang1,2,3 et al.
論文タイトル :
Exoplanet Biosignatures: At the Dawn of a New Era of Planetary Observations
掲載誌 :
Astrobiology Volume 18, Number 6, 2018
DOI :
所属 :

1NASA Goddard Institute for Space Studies (GISS), New York, New York, USA.

2Nexus for Exoplanet System Science, ROCKE-3D Team, NASA GISS, USA.

3NASA Astrobiology Institute, Virtual Planetary Laboratory, University of Washington, Seattle, Washington, USA

Chapter 1

著者 :
Edward W. Schwieterman1,2,3,4,5 et al.
論文タイトル :
Exoplanet Biosignatures: A Review of Remotely Detectable Signs of Life
掲載誌 :
Astrobiology Volume 18, Number 6, 2018
DOI :
所属 :

1Department of Earth Sciences, University of California, Riverside, California, USA

2NASA Postdoctoral Program, Universities Space Research Association, Columbia, Maryland, USA

3NASA Astrobiology Institute, Virtual Planetary Laboratory Team, Seattle, Washington, USA

4NASA Astrobiology Institute, Alternative Earths Team, Riverside, California, USA

5Blue Marble Space Institute of Science, Seattle, Washington, USA

Chapter 2

著者 :
Victoria S. Meadows1,2 et al.
論文タイトル :
Exoplanet Biosignatures: Understanding Oxygen as a Biosignature in the Context of Its Environment
掲載誌 :
Astrobiology Volume 18, Number 6, 2018
DOI :
所属 :

1Department of Astronomy, University of Washington, Seattle, Washington, USA

2NASA Astrobiology Institute, Virtual Planetary Laboratory Team, Seattle, Washington, USA

Chapter 3

著者 :
David C. Catling1,2 et al.
論文タイトル :
Exoplanet Biosignatures: A Framework for Their Assessment
掲載誌 :
Astrobiology Volume 18, Number 6, 2018
DOI :
所属 :

1Astrobiology Program, Department of Earth and Space Sciences, University of Washington, Seattle, Washington. USA

2Virtual Planetary Laboratory, University of Washington, Seattle, Washington. USA

Chapter 4

著者 :
Sara I. Walker1,2,3,4* et al.
論文タイトル :
Exoplanet Biosignatures: Future Directions
掲載誌 :
Astrobiology Volume 18, Number 6, 2018
DOI :
所属 :

1School of Earth and Space Exploration, Arizona State University, Tempe, Arizona, USA

2Beyond Center for Fundamental Concepts in Science, Arizona State University, Tempe, Arizona, USA

3ASU-Santa Fe Institute Center for Biosocial Complex Systems, Arizona State University, Tempe, Arizona, USA

4Blue Marble Space Institute of Science, Seattle, Washington, USA

Chapter 5

著者 :
Yuka Fujii1,2 et al.
論文タイトル :
Exoplanet Biosignatures: Observational Prospects
掲載誌 :
Astrobiology Volume 18, Number 6
DOI :
所属 :

1NASA Goddard Institute for Space Studies, New York, New York, USA

2Earth-Life Science Institute, Tokyo Institute of Technology, Ookayama, Meguro, Tokyo, Japan

お問い合わせ先

東京工業大学 地球生命研究所 特任准教授

藤井友香

E-mail : yuka.fujii@elsi.jp

ELSIに関すること

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Tel : 03-5734-3163 / Fax : 03-5734-3416

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簡便、確実、短時間に骨転移モデルマウスを構築 骨転移研究を推進する新モデルで創薬研究を加速

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要点

  • がん細胞を尾動脈から移植して骨転移モデルマウスを作る手法を確立
  • がん細胞の生体内での転移状態を可視化
  • 骨転移の新規治療法や新薬開発の加速に貢献

概要

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の口丸高弘助教(現自治医科大学・講師)と近藤科江教授らは、創薬研究などで有用な骨転移を特異的に確実に形成するマウス(骨転移モデルマウス)の新たな構築法を開発した。

がん細胞の骨への転移は、乳がん、前立腺がん、肺がんなど多くのがん種で高頻度に発生する。しかしながら、根本的な治療や予防法は確立されていない。開発した骨転移モデルマウスは、簡便・確実・短期間にがん細胞の骨転移を形成できる手法だ。これは、マウス尾部表面にある尾動脈から、がん細胞を移植する新たな移植方法で、高度な手技を必要としない。従来の左心室移植法[用語1]に比べ、がん細胞を高効率、かつ特異的に骨髄に送達できる。その結果、他の臓器へのがん転移頻度を抑えることで、骨転移病巣を形成する時間を短縮できる。この新たな骨転移モデルにより、骨転移研究の裾野が広がり、がんに関する新規治療法や新薬の開発が進むと期待できる。

本成果は、7月30日にネイチャー・パブリッシング・グループのオンラインジャーナル「Nature Communications」に掲載された。

背景

骨転移は、がんが最初に発生した場所(原発巣)から血中に流出したがん細胞が骨髄組織に到達し、増殖することで発症する。その過程で重要な役割を果たす分子機構が明らかになれば、効果的な治療・予防のための方法・薬剤の開発が進む。そのためには、骨転移の実験動物モデルを用いた解析が求められていた。

1990年代に、マウスの左心室にがん細胞を移植して、動脈血流によって骨髄にがん細胞を送達する左心室移植法が確立された。以来、左心室移植法は、骨転移モデルのゴールドスタンダードとして、転移機構の解明や創薬研究に利用されてきた。

しかし、マウスを用いた左心室移植法は、数ミリメートルのとても小さなマウスの左心室に正確に針を刺し、がん細胞を注入するという高度な手技を必要とする。また、心臓に直接針を刺すため、マウスにとって大きなストレスとなり、移植ができても致死的なストレスのために、実際に研究で使用できるマウスの数は限られている。それが骨転移研究を実施する上での大きなハードルとなっていた。さらに、この手法は、左心室から動脈を経て全身にがん細胞が送達されるため、骨髄以外の臓器にも転移巣を形成する。骨転移自体は、転移巣形成が遅いため、転移巣が確認された時には、他の臓器の転移が進行して死亡することも多く、長期の骨転移の観察ができないという課題を抱えていた。これまで幾つかの代替法の開発も行われてきたが、手術が必要であったり、骨への送達頻度が低かったりと左心室移植法に代わる有用な骨転移モデルは確立していなかったことから、汎用的で簡易な骨転移モデル構築法が望まれていた。

研究の経緯と成果

そこで今回、マウスの尾動脈に注目した。尾動脈は、血流に対して逆行性の移植になるため細胞の移植経路に適さないと考えられていたが、研究グループでは、麻酔下のマウスは血圧が下がるため、尾静脈注射よりもやや勢いよく尾動脈から細胞を注入することで、下肢に血液を送る腸骨動脈の分岐点まで血流に逆行して細胞を送り込むことができることを見出した。尾動脈移植により細胞がどのような経路で下肢の骨に到達するかは、1,000 nmを超える近赤外光を放つナノ粒子を細胞にみたて、尾動脈移植直後からビデオ撮影をして明らかにした(図1、以下のビデオ参照)。

尾動脈移植による移動経路

図1. 尾動脈移植による移動経路

生体発光イメージング[用語2]を用いて、左心室と尾動脈から移植したがん細胞の体内分布を可視化したところ、左心室から移植されたがん細胞は全身組織に分布し、尾動脈から移植されたがん細胞は主にマウスの下半身に分布していることがわかった(図2a)。両手法について、同数のがん細胞を移植して2週間後の大腿骨に形成された骨転移病巣(赤色)を比較すると、尾動脈移植による骨転移病巣は有意に成長が亢進していた(図2b)。また、従来の左心室法ではマウスは頭部に形成された転移が原因となり短命だったが、新規の尾動脈法では、100%の成功率で骨転移が形成され、長期の観察が可能であった(図2c)。さらに、尾動脈移植により、乳がん、前立腺がん、肺がん、腎がんなど、これまで左心室法では骨転移の再現が難しかったがん細胞の骨転移モデルの構築に成功した。

これらの結果は、尾動脈からがん細胞を移植することで、高効率かつ特異的にがん細胞をマウスの骨髄に送達することで、簡便・確実・短時間に骨転移病巣が形成され、長期にわたり骨転移を観察できることを示している。

(a)各移植経路からがん細胞を移植して30分後のがん細胞の分布。(b)各移植経路からがん細胞を移植して2週間後に大腿骨に形成された骨転移病巣(赤色)。(c)各移植経路からがん細胞を移植した後、25日目と32日目の転移巣の成長と分布。黄色矢印は頭部への転移を示している。
図2.
(a)各移植経路からがん細胞を移植して30分後のがん細胞の分布。
(b)各移植経路からがん細胞を移植して2週間後に大腿骨に形成された骨転移病巣(赤色)。
(c)各移植経路からがん細胞を移植した後、25日目と32日目の転移巣の成長と分布。黄色矢印は頭部への転移を示している。

今後の展開

新規の骨転移モデルである尾動脈移植法は簡便・確実・短時間に構築できる。骨転移治療薬開発における薬効評価のプラットフォームとして活用でき、創薬研究の加速に貢献すると期待できる。また、この新手法で骨転移能が低いがん細胞株のマウス骨転移モデルを構築できる可能性があり、新たな骨転移研究に道を拓くと期待できる。

研究サポート

この研究は、日本学術振興会の科学研究費助成事業 新学術領域研究「がん微小環境ネットワークの統合的研究」、若手Bの支援を受けて実施した。

用語説明

[用語1] 左心室移植法 : 触診で位置を把握したマウスの左心室に極細の注射針を挿入し、がん細胞を移植する手法。

[用語2] 生体発光イメージング : ホタルが発光酵素と基質との反応で発光する仕組みを利用して、発光酵素を導入したがん細胞を樹立・移植し、マウスなどの小動物の体内にあるがん細胞を非侵襲的に可視化する手法。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
A reliable murine model of bone metastasis by injecting cancer cells through caudal arteries
著者 :
Takahiro Kuchimaru, Naoya Kataoka, Kenji Nakagawa, Tatsuhiro Isozaki, Hitomi Miyabara, Misa Minegishi, Tetsuya Kadonosono, Shinae Kizaka-Kondoh
DOI :
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お問い合わせ先

東京工業大学 生命理工学院
生命理工学系 ライフエンジニアリングコース
教授 近藤科江

E-mail : skondoh@bio.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5800

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

トポロジカル絶縁体で世界最高性能の純スピン注入源を開発 次世代スピン軌道トルク磁気抵抗メモリの実現に期待

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要点

概要

東京工業大学 工学院 電気電子系ファム・ナム・ハイ准教授の研究チームは、次世代スピン軌道トルク磁気抵抗メモリの実現に向けた、トポロジカル絶縁体であるBiSbの(012)面方位を用いた世界最高性能の純スピン注入源を開発した。

スピン軌道トルク磁気抵抗メモリは、スピンホール効果による純スピン流を用いて、高速で書き込みができる次世代の不揮発メモリ技術である。しかし、従来から純スピン流源として使われている白金やタングステンなどの重金属は、スピンホール角が低い(0.1~0.4程度)という問題があった。研究チームでは、BiSb(ビスマス/アンチモン)トポロジカル絶縁体薄膜を評価したところ、電気伝導率が2.5×105 Ω-1m-1と高い上に、室温でも超巨大なスピンホール角(~52)を示すBiSb(012)面を発見した。さらに今回、BiSb(012)の薄膜を用いて、従来よりも1桁~2桁少ない電流密度でMnGa(マンガン/ガリウム)垂直磁性膜の磁化反転を実証した。

このBiSbをスピン軌道トルク磁気抵抗メモリへ応用すると、データの書き込みに必要な電流を1桁、エネルギーを2桁低減でき、さらに記録速度を20倍、記録密度を1桁向上させられる。本研究成果は、7月30日16時(英国時間)に英国の学術誌『Nature Materials』に掲載された。

研究の背景

近年、電子回路の低消費電力化の観点から超高速、超高密度、高耐久性の不揮発性メモリが求められる。磁気抵抗メモリ(MRAM)は、ランダムアクセスメモリの一種であり、不揮発性に加えて、高速動作、極めて高い耐久性など、大変優れた特性を持つ。そのため、MRAMは不揮発性メモリと集積回路の融合に適する最有力候補とされ、世界中で研究開発が盛んに行われている。

しかし、MRAMは既存の揮発性メモリと比べて、書き込みに必要なエネルギーが大きいという欠点がある。第一世代のMRAMのメモリ素子(磁気トンネル接合: MTJ)では、磁界印加による磁化反転法が用いられている。近年、第二世代の書き込み技術として、スピン・トランスファー・トルク法(Spin transfer torque; STT)が研究開発され、製品に使われ始めている。

このSTT法では、MTJ素子の磁化固定層から磁化自由層にスピン偏極電流を注入し、STTによって、磁化自由層に磁化反転を起こす。しかし、STTによるMRAMの書き込みエネルギーが従来の揮発性メモリよりも1桁大きいという課題が残っている。また、STT-MRAMの書き込み電流が大きいため、サイズが大きなトランジスタを使う必要があり、既存のワーキングメモリのDRAM並みのビット密度を実現することは難しかった。

研究の経緯

ファム准教授らの研究チームは、スピンホール効果によって発生した純スピン流によるスピン軌道トルク(Spin orbit torque:SOT)を用いた磁化反転技術に着目した。SOT法では、スピンホール効果のスピンホール角(θSH )>1および、高い電気伝導性を示すスピンホール材料を開発できれば、MRAM素子の磁化反転に必要な電流を1桁、エネルギーを2桁以上も下げることができる。図1にSTT-MRAMとSOT-MRAMの違いを示す。

(a)スピン・トランスファー・トルクを用いるSTT-MRAM(左)(b)スピン軌道トルクを用いるSOT-MRAM(右)
図1.
(a)スピン・トランスファー・トルクを用いるSTT-MRAM(左)(b)スピン軌道トルクを用いるSOT-MRAM(右)

しかし、これまで研究されてきた純スピン流源の重金属(タンタル、プラチナ、タングステンなど)はθSHが0.1~0.4程度と小さい。一方、トポロジカル絶縁体はθSH>1を満たせることが知られているが、よく研究されているBi2Se3(ビスマス/セレン)など、バンドギャップが大きいトポロジカル絶縁体は電気伝導率がσ~104 Ω-1m-1程度と小さく、結果として純スピン流生成の性能を反映するスピンホール伝導率は重金属とあまり変わらなかった。この電気伝導率の低さにより、磁性金属との接合において、大分部の電流が磁性金属側に流れてしまい、スピン流の発生に寄与しないという問題があった。

研究チームは、バンドギャップが小さく、電気伝導率が高いBiSbトポロジカル絶縁体に着目した。分子線エピタキシャル法[用語3]を用いて、Sb組成比が0~100%のすべての領域において系統的にBiSb薄膜の結晶成長を行い、金属並みの高い電気伝導率である~2.5×105 Ω-1m-1を示すBiSb製膜技術を確立した。さらに、50 kOeと高い垂直異方性磁界を示すMnGa磁性薄膜と接合する作製技術を確立した。本研究では、BiSb(012)面/MnGa磁性薄膜の接合において、BiSbのスピンホール効果の評価およびSOTによる磁化反転を検討した。

研究成果

研究チームは、BiSb(012)面/MnGaの接合において、BiSb(012)面のスピン軌道トルクを評価したところ、室温でも超強大なスピンホール角θSH~52を観測した。

図2に今まで研究されてきた重金属とトポロジカル絶縁体の常温におけるスピンホール角、電気伝導率およびスピンホール伝導率を示す。BiSbは従来の材料よりも2桁も高いスピンホール伝導率を示す。

今まで研究されてきた重金属とトポロジカル絶縁体の常温におけるスピンホール角θSH、電気伝導率σおよびスピンホール伝導率σSH
図2.
今まで研究されてきた重金属とトポロジカル絶縁体の常温におけるスピンホール角θSH、電気伝導率σおよびスピンホール伝導率σSH

さらに、図3に示すように、BiSb/MnGaの接合において、従来よりも1桁~2桁少ない超低電流密度でMnGaのスピン軌道トルクによる磁化反転を実証した。

これらの成果から、BiSbをスピン軌道トルク磁気抵抗メモリへ応用した場合、データの書き込みに必要な電流を1桁、エネルギーを2桁、記録速度を20倍、記録密度を1桁向上できることがわかった。

幅50 μmのBiSb(5nm)/MnGa(3nm)接合におけるSOTによる磁化反転の実証(左)および磁化反転電流密度のベンチマーク(右)。MnGaの磁化の向きを異常ホール効果により評価した。BiSbによるMnGa磁化反転の電流密度は1.5x106A/cm2と既存の材料より1桁~2桁少ないことを見出した。
図3.
幅50 μmのBiSb(5 nm)/MnGa(3 nm)接合におけるSOTによる磁化反転の実証(左)および磁化反転電流密度のベンチマーク(右)。MnGaの磁化の向きを異常ホール効果により評価した。BiSbによるMnGa磁化反転の電流密度は1.5x106 A/cm2と既存の材料より1桁~2桁少ないことを見出した。

今後の展開

本成果は、トポロジカル絶縁体を用いた場合、特性が優れたSOT-MRAMを実現することで、トポロジカル絶縁体の産業応用のきっかけになる可能性がある。

トポロジカル絶縁体を応用した高性能磁気メモリが実現できれば、組み込みメモリ(SRAMやFLASH)やワーキングメモリ(DRAM)の置き換えができることから、電子機器の省エネルギー化というインパクトがあるだけでなく、5~10兆円の新メモリ市場の展開も期待できる。今後は、産業界と連携して、SOT-MRAMの早期実用化を目指す。

用語説明

[用語1] スピンホール効果 : スピン軌道相互作用が大きな材料に流れる電流と垂直な方向に、アップスピンとダウンスピンが逆向きに流れ、純スピン流が発生する現象。この純スピン流を磁化自由層に注入することによって、磁化に働くトルクが発生し、磁化自由層に磁化反転を起こすことができる。ここで生じた純スピン流は、垂直(膜厚)方向には正味の電荷移動の代わりに、スピン角運動量を運ぶことができる。

[用語2] トポロジカル絶縁体 : 内部には、絶縁体(正確には半導体)のようにバンドギャップが存在するが、その表面においてヘリカルにスピン偏極電流が存在しうるディラック型金属伝導状態を有する物質群である。表面状態のスピンの向きsは波数ベクトルkに直交しており、スピン・運動量ロッキングが生じている。一方、スピンホール効果によって発生するスピン流がs×kの方向に流れるため、トポロジカル絶縁体は表面に垂直な方向には極めて高い効率でスピン流を発生する。

[用語3] 分子線エピタキシャル法(MBE) : 超高真空下で、材料元素の分子線を基板に照射し、基板の上に化学反応をさせることで薄膜の結晶成長を行う技術。半導体へテロ構造の結晶成長のために開発された技術であるが、近年では金属や絶縁物など多くの材料にも応用されている。基板温度、成長レート、組成などのパラメータを精密に制御できることから、高品質の結晶成長に最適な方法と言える。

論文情報

掲載誌 :
Nature Materials
論文タイトル :
A conductive topological insulator with large spin Hall effect for ultralow power spin-orbit torque switching
著者 :
Nguyen Huynh Duy Khang, Yugo Ueda, Pham Nam Hai
DOI :
<$mt:Include module="#G-05_工学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

東京工業大学 工学院 電気電子系 准教授

Pham Nam Hai (ファム ナム ハイ)

E-mail : pham.n.ab@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3934 / Fax : 03-5734-3870

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


村上修一教授が米国物理学会フェローに選出

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理学院 物理学系の村上修一教授が、米国物理学会(American Physical Society。以下、APS)フェローに選ばれました。

授賞式当日の写真

授賞式当日の写真

APSは米国に本部を持つ物理学分野の国際的な学会で、約55,000人の会員を有しています。APSフェローは学会員の中から非常に優れた功績を持つ研究者に授与され、その人数の上限は学会員の0.5%以下となっています。村上教授のこのたびの受賞は、スピンホール効果の理論予言、超薄膜ビスマスがトポロジカル絶縁相となるという理論予言、ワイル半金属の提案などの物性理論への貢献が評価されたものです。授賞式は分野毎に行われ、今回は3月6日にアメリカ・ロサンゼルスにて行われました。

村上教授は、現在の物理学系担当教員では斎藤晋教授に次ぐ2人目、旧・物性物理学専攻の高柳邦夫名誉教授、安藤恒也名誉教授を含めると4人目のAPSフェローとなります。

村上修一教授のコメント

村上修一教授

受賞理由の主要な業績は、スピンホール効果、トポロジカル絶縁体および半金属の理論に関するものです。我々の構築した理論自身は大変シンプルなものですが、広い範囲の物質群に適用することができるものです。我々の提出した理論の予言する物性現象が、今までも数々の実験で実証されてきており、物性理論の研究者としての大変な喜びを感じております。

この度APSフェロー選出につきまして、今までご指導をいただいた先生方、共同研究者の方々、私の研究室の学生およびスタッフの方々に、平素からのご支援・ご指導に対して厚く御礼申し上げます。また本学の多くの方々に平素よりご支援をいただいていることに関して、この場を借りて感謝申し上げます。

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お問い合わせ先

理学院物理学系 村上修一 教授

E-mail : murakami@stat.phys.titech.ac.jp

迅速・高収率でアミノ酸N-カルボキシ無水物を合成 マイクロフロー合成で0.1秒以内にpHをスイッチ

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要点

  • マイクロフロー合成法でNCAの迅速かつ高収率での合成に成功
  • 瞬間希釈法により酸性条件で不安定なNCAの合成も達成
  • タンパク質構成アミノ酸全20種と非天然アミノ酸を原料にNCAを合成

概要

東京工業大学 生命理工学院の小竹佑磨大学院生(博士後期課程2年)、科学技術創成研究院の中村浩之教授、布施新一郎准教授は、不安定なアミノ酸N-カルボキシ無水物(NCA)[用語1]を迅速かつ高収率で合成することに成功した。マイクロフロー合成法[用語2]を駆使して0.1秒以内に塩基性(アルカリ性)から酸性にpH(水素イオン指数=酸・アルカリの程度)をスイッチする手法により実現した。NCAは医薬品やそのキャリアとして重要なポリペプチドの主要な原料であり、ポリペプチドの利用拡大につながる成果である。

NCAは約100年前に開発されたアミノ酸とホスゲン[用語3]を強酸性条件下で反応させる手法で現在も生産されている。この手法は副反応を引き起こす点や酸性条件下で不安定なNCAの合成には利用できない点が問題となっている。一方、塩基性条件下では速やかにNCAが得られるものの、生じたNCAが重合[用語4]するため、その合成は不可能とされてきた。

開発手法はマイクロフロー合成法を駆使した高速のpHスイッチで、速やかに反応を進行させると同時に、NCAの重合を抑止することに成功した。このため、多様なNCAの大量・低コスト供給を可能にする技術として期待される。

研究成果は7月12日に国際的学術誌「Angewandte Chemie International Edition(アンゲヴァンテ・ケミー・インターナショナル・エディション)」に掲載された。

研究成果

アミノ酸とホスゲン等価体のトリホスゲンを塩基性条件下で反応させて速やかにNCAを得た後、マイクロフロー合成法を駆使して0.1秒以内に酸性にスイッチし、望まないNCAの重合反応を抑止することに成功した。しかも酸は外部から添加するのではなく、トリホスゲンと水から生じた塩化水素を利用した。これによりプロセスをシンプルなものにしている。

さらに、酸性条件下で不安定なNCAの合成を可能にするため、反応液を酢酸エチルで瞬間希釈することによりNCAと酸の接触を抑制した。これらの技術により酸性条件で不安定なNCAを合成することに世界で初めて成功した。既にタンパク質構成アミノ酸全20種および酸性条件で不安定な官能基をもつ非天然アミノ酸を原料としたNCAの合成に成功している。

マイクロフロー法を駆使するNCAの効率合成

マイクロフロー法を駆使するNCAの効率合成

研究の背景

アミノ酸N-カルボキシ無水物(NCA)は生体適合性材料、生分解性ポリマー、薬剤キャリアや医薬品として有用なポリペプチドの原料として重要であり、様々なアミノ酸を原料として高純度のNCAを簡便に合成できる手法の開発が求められている。現在、唯一の実践的なNCAの合成法はアミノ酸に対してホスゲンおよびホスゲン等価体を反応させる手法だが、本手法は強酸性条件下で長時間の加熱を要するため、副反応をひきおこす点が問題となっており、酸性条件下で不安定な官能基をもつNCAの合成は困難である。

一方、塩基性条件下でNCAを合成すれば速やかにNCAが得られるが、生じたNCAが塩基性条件下で容易に重合してしまうため、この手法も未報告となっている。このような背景から約100年も前に報告された合成手法が現在も使用され続けている。

研究の経緯

「塩基性条件下だと反応は速いが、目的物が望まない反応を起こしてしまう」―有機合成においてたびたび遭遇するこのような問題の解決が今回の研究の焦点となった。布施准教授らはこの問題をクリアするため「マイクロフローリアクター中で0.1秒以内に塩基性から酸性に瞬間転換する」というアイデアを試みた。 つまり、塩基性条件下で速やかに望む反応を進行させて、0.1秒以内という極めて短時間で酸性にスイッチして目的のNCAを重合させずに得るという方法である。

これを実現するには0.1秒以内という短時間にアミノ酸の水溶液とトリホスゲンの有機溶媒溶液を混合してpHを制御しなくてはならない。しかし通常のフラスコの反応では原理的に数秒以上を混合に要するため、この制御は不可能である。一方で微小な流路を反応場として用いるマイクロフロー法ではこれが実現可能であることに着目した。

今後の展開

マイクロフロー合成法は連続・並列運転により容易にスケールアップが可能であるため、産業への展開も十分期待できる。既に特許を出願しており、今後、産業利用を目指した研究を推進する。NCAは既述の通りポリペプチドの原料として重要であるが、不安定なため、その貯蔵や保管には厳密な温度や湿度の制御が求められ、これがNCAのさらなる用途拡大を阻む要因になっている。

マイクロフロー合成は小スペースでスケールアップが容易であるため、開発した手法により、必要に応じて、使用場所でNCAを合成できるようになると期待される。

用語説明

[用語1] アミノ酸N-カルボキシ無水物(NCA) : アミノ酸がC=Oを介して環状になった分子。NCAに塩基を作用させると環の開裂を伴って重合し、多数のアミノ酸がペプチド結合(アミノ酸同士の結合)により連結したポリペプチドを与える。

[用語2] マイクロフロー合成法 : 微小な流路を反応場とするマイクロフローリアクターを駆使する合成法。旧来のフラスコ等を用いるバッチ合成法と比較して、反応時間(1秒未満も可)、反応温度の厳密な制御が可能である。

[用語3] ホスゲン、トリホスゲン : ホスゲンはCOCl2の分子式をもち、NCAのC=O部分の源となる。ホスゲンは毒性の高い気体であり、取扱いに注意を要するため、本研究では固体で比較的取り扱いやすいトリホスゲンを代替として用いている。分子式は(Cl3CO)2C=Oで表される。

[用語4] 重合 : 小さい分子が互いに多数結合して高分子となること。

論文情報

掲載誌 :
Angewandte Chemie International Edition
論文タイトル :
Rapid and Mild Synthesis of Amino Acid N‐Carboxy Anhydrides: Basic‐to‐Acidic Flash Switching in a Microflow Reactor
所属 :
Yuma Otake1,2, Hiroyuki Nakamura1 and Shinichiro Fuse1,*
著者 :
1Laboratory for Chemistry and Life Science, Institute of Innovative Research, Tokyo Institute of Technology, 4259 Nagatsuta-cho, Midori-ku, Yokohama 226-8503, Japan
2School of Life Science and Technology, Tokyo Institute of Technology 4259 Nagatsuta-cho, Midori-ku, Yokohama 226-8503, Japan.
DOI :
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お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所 准教授

布施新一郎

Email : sfuse@res.titech.ac.jp
Tel : 042-924-5279 / Fax : 042-924-5976

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

太田啓之教授が2018年テリー・ガリアード・メダルを受賞

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生命理工学院 生命理工学系の太田啓之教授が、7月12日、第23回国際植物脂質シンポジウムにおいて2018年テリー・ガリアード・メダルを受賞しました。

受賞者の紹介をするブリティッシュコロンビア大学のリヤカ・クンスト教授

受賞者の紹介をするブリティッシュコロンビア大学のリヤカ・クンスト教授

テリー・ガリアード・メダルは2年に1度、植物脂質の分野における研究および当該コミュニティの発展に国際的に顕著な貢献をした研究者に与えられる賞です。今回の受賞は、太田教授の植物・シアノバクテリアにおける糖脂質合成経路※1とその制御機構、植物・藻類におけるリン欠乏ストレス下の油脂蓄積機構、植物の陸上化の鍵となる車軸藻植物※2のゲノム解読、植物ホルモンのジャスモン酸※3のシグナル伝達機構、植物における遺伝子共発現データベース※4構築に関するこれまでの太田教授の植物脂質研究すべてに対して授与されました。

(左から)リヤカ・クンスト教授、太田教授、埼玉大学の西田生郎教授(第23回国際植物脂質シンポジウム オーガナイザー)
(左から)リヤカ・クンスト教授、
太田教授、埼玉大学の西田生郎教授
(第23回国際植物脂質シンポジウム オーガナイザー)

太田教授の受賞講演
太田教授の受賞講演

太田教授からのコメント

テリー・ガリアード・メダルは、1974年の創設以来40年以上の長い歴史を持つ国際植物脂質シンポジウムで植物脂質科学研究者に与えられる最も名誉ある賞で、この会の創設者であるテリー・ガリアード氏が亡くなられた翌年の1994年に設けられました。それ以来、過去12人の受賞者がおられますが、日本人としては第1回の受賞者である基礎生物学研究所の村田紀夫名誉教授以来、24年ぶり2人目の受賞になります。今回の受賞は、この東工大で最初の指導学生として一緒に研究を立ち上げ、また現在の同僚でもある下嶋美恵准教授をはじめとする多くの卒業生や同僚と一緒に27年間行ってきた成果が認められたものです。特に私は、この東工大で、多くの才能ある東工大生の皆さんと一緒にこのように国際的に高く評価される一連の研究を行うことができたことを、何よりも嬉しく、また誇りに思います。

※1 糖脂質合成経路 : 植物の光合成を担う葉緑体は、光合成をおこなう重要な場であるチラコイド膜と呼ばれる葉緑体内部の膜の大半が糖脂質で作られており、その組成は、葉緑体の起源と言われるシアノバクテリアと極めてよく似ている。特にその主要成分のモノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)は葉緑体の膜脂質のうち50%近くを占めており、植物のバイオマスの大きさから、地球上で最も大量に存在する極性脂質と言われている。1997年太田教授は、当時東工大生であった下嶋准教授らとともにこのMGDGを合成する酵素遺伝子を世界に先駆けて発見し、それ以来、その植物における機能や生合成の仕組みを明らかにしてきた。

※2 車軸藻植物 : 現在の陸上植物が、緑藻のような単細胞性の水生の藻類からどのように進化して陸上の激しい環境に適応できるようになったかを明らかにすることは、植物の進化の解明のみならず、動物の陸上進出の過程を考える上でも重要な課題である。車軸藻植物は緑藻とコケなどの基部陸上植物の中間に位置しており、現在植物の陸上進出研究のモデルとして世界中で注目されている。太田教授は国内の多くの研究者との共同研究を主導し、車軸藻の中でも最も原始的な仲間であるクレブソルミディウムに着目して、車軸藻ゲノムを世界に先駆けて解読し、ゲノム情報からその原始的な細胞表層脂質やホルモンの情報伝達の存在を明らかにした。

※3 ジャスモン酸 : 植物の葉緑体に存在する膜脂質中の脂肪酸から合成される脂肪酸由来の植物ホルモン。太田教授らは、ジャスモン酸でその発現が誘導される遺伝子群を網羅的に見出し、それらの機能の一端を解明するとともにジャスモン酸の前駆体である12-オキソフィトジエン酸がジャスモン酸と異なる機能を持つことも証明した。

※4 遺伝子共発現データベース : 生物のゲノム情報や発現情報を閲覧できるデータベースは一次データベースとして広く活用されている。一方、太田教授と現在東北大学の大林武准教授らは、大林准教授の東工大在学時に個々の遺伝子の発現の協調性を遺伝子の網羅的な発現情報をもとにその相関係数を指標として表し、初めて網羅的にデータベース化した。このようなデータベースは共発現データベースと呼ばれ、未知の遺伝子の機能解析や特定の代謝経路に関わる遺伝子の同定などに広く用いられている。現在世界中で様々な共発現データベースが作成され利用されている。

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高出力な全固体電池で超高速充放電を実現 全固体電池の実用化に向けて大きな一歩

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要点

  • 5 V程度の高電圧を発生する全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現
  • 14 mA/cm2の高い電流密度での超高速充放電が可能に
  • 界面形成直後に固体電解質から電極へのリチウムイオンが自発的に移動

概要

東京工業大学の一杉太郎教授らは、東北大学の河底秀幸助教、日本工業大学の白木將教授と共同で、高出力型全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現し、超高速充放電の実証に成功しました。

全固体電池の開発は、世界中で競争となっています。特に、通常のリチウムイオン電池より高い電圧を発生する高出力型全固体電池が注目されています。この実用化のために解決すべき課題の1つが、高電圧を発生する電極と固体電解質が形成する界面でのリチウムイオンの抵抗低減です。しかし、界面抵抗低減についての明確な方策はなく、実現性は不明でした。

本研究では、薄膜作製技術と超高真空プロセスを工夫して、高電圧を発生する電極材料Li(Ni0.5Mn1.5)O4を用いて、固体電解質と電極との良好な界面を作製しました。その結果、極めて低い界面抵抗を実現できました。さらに、その界面は大きな電流を流しても安定で超高速充電が可能であることを実証しました。

この成果は、高出力型全固体電池の実用化に向けて重要な一歩となるのみならず、固体電解質と電極の界面におけるイオン輸送の学理構築にもつながります。

本研究成果は8月1日(米国時間)に米国化学会誌「ACS Applied Materials and Interfaces」オンライン版に掲載されました。

背景

固体の電解質を用いる全固体電池は、高いエネルギー密度[用語1]と安全性を兼ね備えた究極の電池として、早期の実用化が期待されています。特に、現在広く利用されている4 V程度の発生電圧のLiCoO2系電極材料でなく、5 V程度のより高い電圧を発生する電極材料Li(Ni0.5Mn1.5)O4を用いた高出力型全固体電池が注目されており、研究が活発化しています。

しかし、Li(Ni0.5Mn1.5)O4を用いた高出力型全固体電池は、固体電解質と電極が形成する界面における抵抗(界面抵抗)が高く、リチウムイオンの移動が制限されてしまうため、高速での充放電が困難でした。高速充放電が実現すれば、携帯電話やパソコンが数分で充電完了することも夢ではありません。そこで、高出力型全固体電池における界面抵抗の低減、さらには高速充放電の実証は、喫緊の課題でした。

研究の成果

本研究グループでは、薄膜作製技術と超高真空プロセスを活用し、Li(Ni0.5Mn1.5)O4エピタキシャル薄膜[用語2]を用いた理想的な全固体電池を作製しました(図1)。そして固体電解質と電極の界面におけるイオン伝導性を評価した結果、界面抵抗が7.6 Ωcm2という極めて低い値となることを見出しました(図2)。これは、従来の全固体電池での報告より2桁程度低く、液体電解質を用いた場合と比較しても1桁程度低い値です。さらに、活性化エネルギーを見積もったところ、超イオン伝導体[用語3]と同程度の低い値(0.3 eV程度)を示すことがわかりました。

本研究で作製した全固体電池の概略図(左)と写真(右)

図1. 本研究で作製した全固体電池の概略図(左)と写真(右)

全固体電池の界面抵抗の測定結果(交流インピーダンス測定)。x軸が実部、y軸が虚部に対応する。赤の円弧の大きさから、界面抵抗の値を7.6 Ωcm2と見積もることができる
図2.
本全固体電池の界面抵抗の測定結果(交流インピーダンス測定)。x軸が実部、y軸が虚部に対応する。赤の円弧の大きさから、界面抵抗の値を7.6 Ωcm2と見積もることができる

このような低抵抗界面の安定性を探るため、大電流で充放電試験を行い、14 mA/cm2という大電流でも安定して高速充放電することに成功しました。100回の超高速充放電では、電池容量の変化は全く見られず、リチウムイオンの高速な移動に対して、固体電解質と電極の界面が安定であることを実証しました。(図3)

また、全固体電池の構造解析を行った結果、固体電解質と電極の界面を形成した直後に、固体電解質から電極へ、リチウムイオンが自発的に移動することも明らかになりました。

全固体電池の超高速充放電試験の結果

図3. 全固体電池の超高速充放電試験の結果

今後の展開

今回の成果により、従来の4 V程度の発生電圧から5 Vへ、全固体電池を高出力化する道筋が見えてきました。極めて低い界面抵抗を得ることができ、さらに、超高速充放電が実現しました。

高出力型全固体電池における界面抵抗の低減や高速充放電の実証は、全固体リチウム電池の実用化の鍵であり、実用化を目指す上で、大きな一歩です。

また、今回見出した固体電解質と電極の界面におけるリチウムイオンの自発的な移動は、界面近傍でのイオン輸送についての学理を構築する上でも意義深いものです。今後、詳細な界面構造の解析により、さらなる電池特性の向上につながる界面設計指針の構築が期待されます。

なお本研究は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)リチウムイオン電池応用・実用化先端技術開発事業、トヨタ自動車株式会社、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST)「超空間制御に基づく高度な特性を有する革新的機能素材等の創製」の支援を受けて行われました。

用語説明

[用語1] エネルギー密度 : 電池から取り出すことのできるエネルギー量の値。単位体積や単位質量などで規格化される。

[用語2] エピタキシャル薄膜 : 基板となる結晶の上に成長させた薄膜で、下地の基板と薄膜の結晶方位が揃っているもの。良好な界面の作製によく用いられる。

[用語3] 超イオン伝導体 : 液体電解質と同等のイオン伝導度を有する固体電解質。リチウムイオンの場合、1 mScm-1程度の値が最高のイオン伝導率とされている。

論文情報

掲載誌 :
ACS Applied Materials and Interfaces
論文タイトル :
Extremely low resistance of Li3PO4 electrolyte/Li(Ni0.5Mn1.5)O4 electrode interfaces
著者 :
Hideyuki Kawasoko, Susumu Shiraki, Toru Suzuki, Ryota Shimizu, and Taro Hitosugi
DOI :
<$mt:Include module="#G-07_物質理工学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系
教授 一杉太郎

E-mail : hitosugi.t.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2636

東北大学大学院 理学研究科 化学専攻
助教 河底秀幸

E-mail : hideyuki.kawasoko.b7@tohoku.ac.jp
Tel : 022-795-7727

日本工業大学 基幹工学部 応用化学科
教授 白木將

E-mail : shiraki.susumu@nit.ac.jp
Tel : 0480-33-7741

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東北大学大学院 理学研究科・理学部
広報・アウトリーチ支援室

Email : sci-pr@mail.sci.tohoku.ac.jp
Tel : 022-795-5572、6708 / Fax : 022-795-5831

日本工業大学 教育研究推進室

Email : kyoken@nit.ac.jp
Tel : 0480-33-7712 / Fax : 0480-33-7713

ニュースレター「AES News」No.14 2018夏号発行

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科学技術創成研究院 先進エネルギー国際研究(AES)センターouterは、「AES News」No.14 2018夏号を発行しました。

AESセンターは、従来の大学研究の枠組みを越えて、企業・行政・市民などが対等な立場で参加する「オープンイノベーション」プラットフォームを推進しています。ここでは、低炭素社会実現のための研究プロジェクトを創生し、社会実装することをその大きな目的の一つとしています。

季刊誌「AES News」は、本センターの活動をより多くの方々にご理解いただき、また、会員および本学教職員の連携を深めるため、年4回発行しています。

ニュースレター「AES News」第14号 2018夏号

第14号 2018夏号

  • 東京工業大学先進エネルギー国際研究センター 小鑓隆史特任教授(参議院議員)
    巻頭言「再生可能エネルギーを我が国における主力電源に」
  • 福島県企画調整部 林千鶴雄福島イノベーション・コースト構想推進監(兼)政策監
    特別寄稿「福島からの報告 ~第8回地域プロジェクト推進会議(福島)開催に寄せて~」
  • 研究推進委員会、イブニングセミナ-などの開催報告
  • 2018年度の活動予定

ニュースレターの入手方法

PDF版

資料ダウンロード|先進エネルギー国際研究センター(AESセンター)outer

バックナンバーもリンク先よりご覧いただけます。
冊子版
  • 大岡山キャンパス:東工大百年記念館1階 広報棚
  • すずかけ台キャンパス:すずかけ台大学会館1階 広報コーナー

お問い合わせ先

科学技術創成研究院 先進エネルギー国際研究センター

Email : aescenter@ssr.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3429

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