公益社団法人土木学会は5月14日、令和元年度土木学会賞受賞者を発表し、東京工業大学環境・社会理工学院 土木・環境工学系の真田純子准教授が出版文化賞を受賞しました。また、大町達夫名誉教授が功績賞を、坂井悦郎名誉教授が環境賞を受賞しました。授賞式は新型コロナウイルス感染症対策のため、行われません。
土木学会は1914年に設立され、会員数約3万9,000人の国内有数の工学系団体です。
出版文化賞は土木に関連する出版物で、土木工学・土木技術の発展に貢献し、あるいは読者に感銘を与えることにより、土木文化活動の一環となりうると認められた出版物を対象とし、その著者を表彰しています。
功績賞は土木工学の進歩、土木事業の発達、土木学会の発展に顕著な功績があると認められた者に授与されます。
環境賞の I グループは環境の保全・創造に資する新技術開発や概念形成・理論構築等に貢献した先進的な土木工学的研究が対象です。坂井名誉教授は「CO2排出量を削減しながら高い耐久性を確保できる低炭素型コンクリート『ECM(エネルギー・CO2ミニマム)コンクリート』の開発」により、受賞しました。
真田純子准教授 出版文化賞
真田准教授は「図解 誰でもできる石積み入門」(農山漁村文化協会 2018年刊)により受賞しました。
真田准教授は次のようにコメントしています。
土木学会の出版文化賞という栄誉ある賞をいただき、とてもうれしく思います。
2009年に初めて石積みを行ってから10年間で得た知識や経験を本に詰め込みました。最初はただ「経験しなければわからない」と思って始めたことで、研究になることも本になることも想像していませんでしたが、出版までたどり着いたことがまず、とてもありがたいことです。
石積みを始めた当初、農地にみられるコンクリートなどを使わない空(から)石積み技術は世の中から忘れ去られ、消えかけていた技術でした。しかしこの10年のうちに持続可能な社会やグリーンインフラへの注目という社会の価値観の変化も追い風となって、私たちの将来のための技術として注目され始めるようになりました。土木学会賞をいただいたことで、消滅の危機にあった空石積みの技術がはっきりと表舞台に出てきたような気もして、それもとてもうれしいことです。
普通の公共事業でも空石積みが使えるようになるまで、引き続き研究を進めてまいります。
受賞理由
土木学会は真田准教授の受賞理由を次のように発表しています。
棚田や段畑に用いられている石積みの壁は、日本人なら誰しも一度は実物を間近に見た、あるいは写真やビデオ映像で見たことのある、伝統的な土木構造物である。しかしながら、それがどういうものであるかを、詳しく観察したり深く考えたりしたことのある人は、意外と少ない。
本書は、石積みに出会った著者が、自らの体験に基づき、その素晴らしさを広く伝えようとしたものである。「そもそも石積みとは何か」という話から始まるが、ふんだんなカラー写真によって本書の全貌をつかむことができ、すぐさま読者を高揚させる。それに続く、特有で伝統的な道具、床掘り、石の置き方や積み方の説明は、イラスト、写真、ケーススタディ、コラムもあって、土木の知識のない人にも親しみやすい。まるで石を一つずつ積みあげていくかのように丁寧で、漏れもなく、工事の安全性や効率にも触れている。積み石のかみ合わせやグリ石の層による排水など、構造や地盤の専門家もうなずく講義もある。結びの部分には特に、著者の思いがこめられている。石積みとの出会いに始まり、石積み学校での経験、日本やイタリアの石積みの現状が綴られ、これらは本書の余韻となる。
以上のように本書は、石積みの文化や景観の素晴らしさを広く啓蒙し、土木の原点を再認識させるものであり、これから実際に石積みをしようとする人にとっては数少ない示方書のような価値もある。よって、ここに土木学会出版文化賞を授与する。
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