要点
- “細胞死”により、器官や組織の形が適切に調整されているが、その制御機構は不明だった
- 四肢の細胞が生きるか、死ぬかの運命はヘテロ二量体をつくる AP-1 転写因子の組み合わせで制御される
- 様々な器官や組織の形成過程で働く細胞死の理解促進につながる成果
概要
東京工業大学生命理工学研究科の須田夏野元大学院生、田中幹子准教授、伊藤武彦教授、東京大学分子細胞生物学研究所の白髭克彦教授らの研究グループは、生体が形づくられる際に不可欠な細胞死の詳細なメカニズム解明に成功した。
四肢の発生過程で「BMP」(用語1)というタンパク質により制御されるAP-1 転写因子(用語2)「MafB」が、ほかのどのAP-1 転写因子と結合して二量体を形成するかによって、四肢の細胞が死ぬか、生きるかの運命が決められていることを突き止めたもの。この成果によって様々な器官や組織の形成過程で働く細胞死のメカニズムの理解につながると期待される。
体の形がつくられる際には、適切な場所で、適切な量の細胞が自主的に死ぬ 細胞死 によって、器官や組織の形が適切に調整されている。四肢の発生過程では、手首や指の間で細胞死がおこること、そして四肢の細胞死は、細胞死をおこす領域に特異的に発現している BMPによって制御されていることはよく知られていた。しかし、BMP の下流で、どんなメカニズムで細胞死が制御されているのかは、これまでほとんど明らかにされていなかった。
この研究は東京大学、横浜市立大学、英国バース大学と共同で行った。成果は7月8日 国際発生生物学専門誌「Development」オンライン版に掲載された。
用語説明
(1)BMP:
Bone Morphogenic Protein の略。発生過程の様々なプロセスで働く分泌性シグナルタンパク。
(2)AP-1 転写因子:
塩基性ロイシンジッパー(bZIP)ドメインを共通の構造として持つ一群の転写因子。MafB、cJun、cFos は AP-1 転写因子の一種。転写因子とは、核内で DNA に結合して、標的遺伝子の発現調節に関わるタンパクの総称。AP-1 転写因子はbZIP ドメインを介して AP-1 転写因子同士で、ホモ、もしくはヘテロ二量体を形成し、標的遺伝子の発現を調節する。
論文情報
著者: |
Natsuno Suda, Takehiko Itoh, Ryuichiro Nakato, Daisuke Shirakawa, Masashige Bando, Yuki Katou, Kohsuke Kataoka, Katsuhiko Shirahige, Cheryll Tickle and Mikiko Tanaka |
雑誌名: |
Development (2014) 141, 2885-2894 |
論文タイトル: |
Dimeric combinations of MafB, cFos and cJun control the apoptosis-survival balance in limb morphogenesis |
DOI: |
図1
四肢の細胞が生きるべきか、死ぬべきかの運命を制御する仕組み
(上)MafB (緑)の二量体パートナーが cJun (青)であった時は、p63 や p73 といった細胞死を促進する遺伝子(紫)の発現が活性化され、細胞は死ぬ運命に導かれる。
(下)MafB (緑)の二量体パートナーが cFos (橙)で あった場合は、細胞は生きる運命に導かれる。
お問い合わせ先
東京工業大学 大学院生命理工学研究科
生体システム専攻 准教授 田中幹子
TEL: 045-924-5722
FAX: 045-924-5722
Email: mitanaka@bio.titech.ac.jp