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温室効果ガスを光照射で水素や化学原料に変換 高性能な光触媒を開発

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要点

  • 光照射のみでメタンの二酸化炭素改質反応を起こすことに成功
  • 複合光触媒を開発し、従来の光触媒とは異なる反応機構を解明
  • 地球温暖化ガスの有効利用策として期待

概要

東京工業大学 物質理工学院 材料系の庄司州作博士後期課程3年と宮内雅浩教授、物質・材料研究機構の阿部英樹主席研究員、高知工科大学の藤田武志教授、九州大学 大学院工学研究院の松村晶教授、静岡大学の福原長寿教授らの共同研究グループは、低温でメタンの二酸化炭素改質反応(ドライリフォーミング[用語1])を起こすことができる光触媒材料の開発に成功しました。

ロジウムとチタン酸ストロンチウム[用語2]からなる複合光触媒を開発し、光照射のみでドライリフォーミングを達成しました。ヒーター等による加熱を必要としないため、燃料の消費が大幅に抑えられるとともに、加熱による触媒の劣化が起こらず長期間安定的に反応を継続することができ、地球温暖化ガスを有効利用できる方策として期待されます。

ドライリフォーミングは温室効果ガスのメタンと二酸化炭素を有用な化学原料に変換できる魅力的な反応ですが、800 ℃以上の加熱が必要で、かつ加熱による触媒凝集ならびに炭素析出による劣化の問題から、実用化には至っていません。

本研究は科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST 研究領域「多様な天然炭素資源の活用に資する革新的触媒と創出技術」(研究総括:上田渉)における研究課題「高効率メタン転換へのナノ相分離触媒の創成」(研究代表者:阿部英樹)において実施しました。研究成果は英国科学誌「Nature Catalysis 」に1月27日(現地時間)にオンライン掲載されました。

図:本研究のドライリフォーミング反応機構の模式図

図. 本研究のドライリフォーミング反応機構の模式図

研究の背景と経緯

ドライリフォーミング反応は温室効果ガスであるメタンと二酸化炭素から、水素と一酸化炭素の合成ガスに変換することができます(CH4 + CO2 → 2CO + 2H2)。生成した合成ガスはアルコールやガソリン、化学製品を製造する化学原料となるため、ドライリフォーミング反応は天然ガスやシェールガス[用語3]の有効利用および地球温暖化抑止のために注目されています。

しかし、この反応を効率よく進行させるためには800 ℃以上の高温が必要となり、大量の燃料消費と高温条件における触媒の劣化が問題となっていました。本研究グループは、光エネルギーを使ってドライリフォーミング反応を起こす光触媒[用語4]を開発しました。従来の光触媒反応は水中の水素イオンが反応の媒体となって駆動する一方、乾燥条件で進行するドライリフォーミングに適した光触媒の探索が重要なポイントでした。

研究成果

開発した光触媒はチタン酸ストロンチウムに金属ロジウムがナノスケールで複合されています(図1)。この光触媒はチタン酸ストロンチウムとロジウム塩水溶液を密閉容器内で加熱処理することにより簡便に合成することができます。

(a)開発した光触媒の透過型電子顕微鏡観察像、(b)同光触媒粒子の高倍率観察像。数十nmの大きさのチタン酸ストロンチウムに対し、1-2 nmほどのロジウムのクラスターが高分散で複合化されている。
図1.
(a)開発した光触媒の透過型電子顕微鏡観察像、(b)同光触媒粒子の高倍率観察像。数十nmの大きさのチタン酸ストロンチウムに対し、1-2 nmほどのロジウムのクラスターが高分散で複合化されている。

この光触媒に紫外線を照射すると、加熱をしない条件でも50 %を超えるメタンと二酸化炭素転換率を示しました。従来型の熱触媒で同じ性能を出すためには、500 ℃以上の加熱が必要となることから、本研究グループの開発した光触媒の性能の高さがわかります。

図2(a)に光触媒の各温度での活性を示します。点線は熱力学的に計算される熱触媒の性能上限値ですが、本研究グループが開発した光触媒に光照射を行うことで、熱触媒の性能上限値を大きく上回りました。また、この光触媒による水素と一酸化炭素の生成速度は、メタンと二酸化炭素の消費速度の2倍となりました(図2(b))。このことから、光照射でドライリフォーミング反応が化学量論的[用語5]に進行し、副反応がほとんど起こっていないことが示唆されました。なお、光触媒として従来からよく知られる二酸化チタンを用いた場合は、本研究で用いたチタン酸ストロンチウムのような高い性能を示しません。

(a)触媒活性の温度依存性(濃度1 %のメタンと二酸化炭素の混合ガスを使用)、(b)温室効果ガスの消費速度と合成ガスの生成速度

(a)触媒活性の温度依存性(濃度1 %のメタンと二酸化炭素の混合ガスを使用)、(b)温室効果ガスの消費速度と合成ガスの生成速度

図2.
(a)触媒活性の温度依存性(濃度1 %のメタンと二酸化炭素の混合ガスを使用)、(b)温室効果ガスの消費速度と合成ガスの生成速度

この光触媒の耐久性を調べたところ、長期にわたり安定であることがわかりました。図3は反応前の光触媒(a)と反応後の光触媒(b)の超高解像度の電子顕微鏡写真を示しています。反応の前後でチタン酸ストロンチウム及び、複合したロジウムに変化がないのに対し、従来型の熱触媒の代表であるニッケルを担持したアルミナの場合では、反応の前後で大きな変化が観察されました(c-d)。

反応後にみられるチューブ状の物質は触媒表面で析出‐成長したカーボンチューブであり触媒劣化、反応器の破壊の原因となります。すなわち、光触媒では加熱による触媒劣化が抑制されたのみでなく、工業的に致命的な副反応となる炭素析出が劇的に抑制されました。

光触媒及び従来型熱触媒の反応前後の電子顕微鏡像(a)光触媒の反応前、(b)光触媒の反応12時間後、(c)従来型熱触媒の反応前、(d)従来型熱触媒の反応5時間後
図3.
光触媒及び従来型熱触媒の反応前後の電子顕微鏡像(a)光触媒の反応前、(b)光触媒の反応12時間後、(c)従来型熱触媒の反応前、(d)従来型熱触媒の反応5時間後

次に、反応メカニズムを明らかにするため、開発した光触媒に対して実際の触媒反応の条件下で電子スピン共鳴法[用語6]の解析を行ったところ、光照射によって生じた電子と正孔の電荷が反応を駆動していることがわかりました。ドライリフォーミングは二酸化炭素の還元反応を含むため、種々の光触媒の中でも高い電子の還元力をもつチタン酸ストロンチウムが好適であることがわかりました。

さらに、同位体[用語7]を用いた詳細な解析により、チタン酸ストロンチウム内の格子酸素のイオンが反応の媒体として作用していることを明らかにしました(図4)。これまでよく知られている光触媒反応である水の分解や二酸化炭素還元などの人工光合成反応では、反応の媒体として水素イオンが使われていましたが、本研究の光触媒反応は格子酸素イオンを媒体とする新しい反応で、様々な気相反応への展開が期待できます。

光触媒によるドライリフォーミングの反応機構

図4. 光触媒によるドライリフォーミングの反応機構


(a)→(b) 光照射によってチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)に生じた電子と正孔のうち、電子がロジウム(Rh)へ注入される。
(b)→(c) ロジウムへ注入された電子と二酸化炭素分子が反応し、一酸化炭素と酸素イオンを生成する。酸素イオンはチタン酸ストロンチウムの格子に入る。
(c)→(d) チタン酸ストロンチウムにある酸素イオン、光励起した正孔、そして、メタンが反応して水素と一酸化炭素を生成する。

今後の展開

本研究では光触媒として紫外線応答型のチタン酸ストロンチウムを使っていますが、実用化に向けては太陽光の主成分をなす可視光の利用が重要です。一方で、本研究では酸素イオンが媒体となるエネルギー製造型反応の機構を初めて見出し、今後この新しい反応機構をもとに、可視光を吸収できる光触媒材料に展開することも可能です。本研究成果が天然ガスやシェールガスの有効利用につながるとともに、温室効果ガス低減に貢献できると期待されます。また、低温で合成ガスを製造することができるため、既往の工業的手法と組み合わせることでガソリン製造などの施設の大幅な簡略化と効率化が望めます。

用語説明

[用語1] ドライリフォーミング : メタン改質反応のひとつ。反応式はCH4+CO2=2H2+2COであらわされる。天然ガスの主成分であると同時に主要な温室効果ガスでもあるメタンと二酸化炭素を化学原料に転換することができるため、天然ガス有効利用と地球温暖化抑止の観点から注目されている。

[用語2] ロジウムとチタン酸ストロンチウム : ロジウムは原子番号45の元素。元素記号はRhであらわされる。チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)はストロンチウムとチタンの複合酸化物で、ペロブスカイト型の結晶構造をとる。

[用語3] シェールガス : 粘板岩層(シェール)の隙間に貯留された、メタンやエタンを主成分とする化石燃料のひとつ。存在自体は古くから知られていたが、この10年、技術の進歩により、特に北米を中心として、商業ベースでの採掘が可能になった。

[用語4] 光触媒 : 光を吸収し触媒作用を示す物質の総称。酸化チタンが代表的な光触媒として知られている。

[用語5] 化学量論的 : 化学式通りの反応物量と生成物量を示す状態。ドライリフォーミングであれば、反応物と生成物の比が1:2になる場合に化学量論的に反応が進行したといえる。

[用語6] 電子スピン共鳴法 : 不対電子を持つイオン、ラジカルなどの検出が可能な実験手法。光触媒の中の電子や正孔など、多くの情報を得ることができる。

[用語7] 同位体 : 同一の原子番号で質量数が異なる物質。酸素の場合、質量数が16、17、18の同位体があり、地球上の99.8 %の酸素の質量数は16である。本研究では質量数18の酸素を触媒の中に導入し、質量分析装置を使ってその反応過程を追跡した。

論文情報

掲載誌 :
Nature Catalysis
論文タイトル :
Photocatalytic uphill conversion of natural gas beyond the limitation of thermal reaction systems
著者 :
Shusaku Shoji, Xiaobo Peng, Akira Yamaguchi, Ryo Watanabe, Choji Fukuhara, Yohei Cho, Tomokazu Yamamoto, Syo Matsumura, Min-Wen Yu, Satoshi Ishii, Takeshi Fujita*, Hideki Abe*, Masahiro Miyauchi*
DOI :
<$mt:Include module="#G-07_物質理工学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

東京工業大学 物質理工学院 材料系

教授 宮内雅浩

E-mail : mmiyauchi@ceram.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2527 / Fax : 03-5734-3368

JST事業に関するお問い合わせ

科学技術振興機構 戦略研究推進部

グリーンイノベーショングループ 中村幹

E-mail : crest@jst.go.jp
Tel : 03-3512-3531 / Fax : 03-3222-2064

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東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
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国立研究開発法人 物質・材料研究機構
経営企画部門 広報室

E-mail : pressrelease@ml.nims.go.jp
Tel : 029-859-2026 / Fax : 029-859-2017

高知工科大学 広報課

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静岡大学 広報室

E-mail : koho_all@adb.shizuoka.ac.jp
Tel : 054-238-5179 / Fax : 054-237-0089

科学技術振興機構 広報課

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「第二世代」バイオディーゼル燃料合成の触媒を開発 高活性・高再利用性の固定化触媒による省エネ合成が可能に

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理化学研究所(理研) 環境資源科学研究センター グリーンナノ触媒研究チームの山田陽一チームリーダー、自然科学研究機構 分子科学研究所の魚住泰広教授、中部大学の樫村京一郎講師、東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の和田雄二教授、九州大学の藤川茂紀准教授らの共同研究グループは、従来の均一系・不均一系触媒よりも高活性(少量の触媒量で高収率)で再利用性の高い固定化触媒[用語1]を開発し、それを用いて「第二世代バイオディーゼル燃料[用語2]」をカーボンニュートラル[用語3]・省資源・省エネで合成することに成功しました。本研究成果は、第二世代バイオディーゼル燃料の効率的な製造プロセス、さらには医薬品合成、有機半導体[用語4]などの有用物質合成の開発に貢献すると期待できます。

地球温暖化対策が喫緊の課題である現在、バイオディーゼル燃料は化石燃料の代替品として期待されています。とくに、第二世代の「炭化水素」は、第一世代の「脂肪酸メチルエステル」に比べてエネルギー効率が高く分解されにくいことから、効率的な製造法に向けて大きな期待が寄せられています。

今回、共同研究グループは、シリコンナノ構造体にロジウムナノ粒子を固定化した触媒(SiNA-Rh)を開発しました。このSiNA-Rhを既存の触媒の30~100分の一である1/2,000モル当量(0.05モル%)用いて、原料のバイオマス[用語5]由来の遊離脂肪酸を水素雰囲気下、マイクロ波照射[用語6]により温度を200 ℃に保ちながら還元反応を行ったところ、対応する炭化水素が90%以上の高収率で得られました。照射したマイクロ波は40 W程度であり、省エネ化が実現できました。さらに、実験を繰り返した結果、SiNA-Rhは高活性のまま20回の再利用が可能であることが分かりました。

本研究は、米国の科学雑誌『ACS Catalysis』に近日掲載予定です。

新たに開発した触媒(SiNA-Rh)を用いた第二世代バイオディーゼル燃料の合成

図. 新たに開発した触媒(SiNA-Rh)を用いた第二世代バイオディーゼル燃料の合成

共同研究グループ

理化学研究所 環境資源科学研究センター グリーンナノ触媒研究チーム

チームリーダー 山田陽一(やまだ よういち)

研究員 ヒヨル・ベク(Heeyoel Baek)

研究員 佐藤太久真(さとう たくま)

自然科学研究機構 分子科学研究所

教授 魚住泰広(うおずみ やすひろ)

中部大学 工学部

講師 樫村京一郎(かしむら けいいちろう)

講師 藤井隆司(ふじい たかし)

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系

教授 和田雄二(わだ ゆうじ)

助教 椿俊太郎(つばき しゅんたろう)

九州大学 カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所

准教授 藤川茂紀(ふじかわ しげのり)

背景

地球温暖化対策が喫緊の課題である現在、バイオディーゼル燃料は化石燃料を代替する燃料として利用拡大が期待されています。バイオディーゼル燃料は、第一世代の「脂肪酸メチルエステル」と第二世代の「炭化水素」に分類されます。

第一世代は、油脂や遊離脂肪酸とメタノールから触媒を用いて合成されてきましたが、分解されやすいためエンジンが傷みやすい、エネルギー効率が不十分などの問題がありました。第二世代は、一般的に使用されているディーゼル燃料やジェット燃料と同様の化学構造を持ち、これらの問題が解決されています。しかし、これまでの製造法では数モル%と高濃度の触媒を必要とし、触媒の再利用性が低く、20-40気圧の水素下で反応をする必要があり、また数百W程度の大きなエネルギーが必要であるため、より効率的な製造法が求められてきました。

研究手法と成果

共同研究グループは、第二世代バイオディーゼル燃料の合成に利用するため、シリコン基板を用いて太さがナノサイズの細長いワイヤーからなるシリコンナノ構造体を作製し、それにロジウムナノ粒子を担持することで触媒(SiNA-Rh)を調製しました(図1左)。SiNA-Rhの断面を走査型電子顕微鏡[用語7]で観察したところ、高さは5~10マイクロメートル(μm、1μmは100万分の1メートル)、シリコンワイヤーの幅およびワイヤー間の幅はそれぞれ数十~数百ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)でした(図1中)。透過型電子顕微鏡[用語8]でさらに拡大すると、平均粒径4 nmのロジウムナノ粒子がシリコンナノ構造体に担持されていることが分りました(図1右)。

図1. シリコンナノ構造体担持ロジウムナノ粒子触媒(SiNA-Rh)の写真

図1. シリコンナノ構造体担持ロジウムナノ粒子触媒(SiNA-Rh)の写真

左: SiNA-Rhを上から見たところ。直径は2インチ(約5 cm)。
中: SiNA-Rh断面を走査型電子顕微鏡で見た写真。SiNA-Rhの高さは5~10μm、シリコンワイヤーの幅およびワイヤー間の幅はそれぞれ数十~数百nm。
右: 透過型電子顕微鏡写真を用いて、さらに拡大した写真。ロジウムナノ粒子(黒い粒状のもの、平均粒径4 nm)がシリコンナノ構造体に担持されている様子がわかる。スケールバーは20 nm。

次に、開発したSiNA-Rhを用いて、第二世代ディーゼル燃料の合成実験を行いました。合成実験では、バイオマス由来の遊離脂肪酸であるステアリン酸を基質(原料)とし、触媒のSiNA-Rhは原料に対して1/2,000モル当量(0.05モル%)を用いて、水素雰囲気下で、40 W程度のマイクロ波照射により温度を200 ℃に保ちながら、24時間還元反応を行いました。その結果、対応する炭化水素(ヘプタデカン)を90%以上という高収率で得ることに成功しました(図2)。

さらに、SiNA-Rh を20回再利用しても収率は80%以上を維持し、触媒活性の大きな低下は見られませんでした(図2)。また、共生成物として一酸化炭素が生成されましたが、二酸化炭素は検出されませんでした。一酸化炭素は、フィッシャートロプシュ法[用語9]による液体炭化水素合成の原料として利用することができます。使用した水素は、再生可能エネルギー[用語10]からの製造が実現しつつあります。従って、今回開発した第二世代触媒によるバイオディーゼル燃料合成プロセスは、バイオマス由来遊離脂肪酸と再生可能エネルギー由来水素によるカーボンニュートラルかつ省資源、省エネを実現したといえます。

図2. 遊離カルボン酸を基質(原料)とした第二世代バイオディーゼル燃料合成反応

図2. 遊離カルボン酸を基質(原料)とした第二世代バイオディーゼル燃料合成反応


今回開発したSiNA-Rh触媒を原料に対して1/2,000モル用いて、バイオマス由来の遊離カルボン酸と水素を反応させることで、第二世代バイオディーゼル燃料である炭化水素を合成した。その際、40W程度のマイクロ波を照射することで、反応温度を200 ℃に保った。

一方、同じ反応を通常の外部加熱により、200 ℃(オイルバス)および300 ℃(サンドバス)で24時間行っても反応は進行しないことが分かりました。また、マイクロ波照射条件で既存のロジウム触媒(Rh/C、Rh/Al2O3、Rh/Si、塩化ロジウム)を用いてもほとんど反応しないことが判りました。この理由としてシリコンのナノ構造体に起因したマイクロ波効果[用語11]の可能性を実験・計算にて検証しましたが、解明にはさらなる研究が必要と考えています。

今後の期待

本研究により、植物の二酸化炭素固定で生成したバイオマスを原料として、再生可能エネルギーから製造されつつある水素を用いて、マイクロ波による省エネ条件下、第二世代バイオディーゼル燃料と石油原料の一酸化炭素を生産することが可能になりました。

例えば、パーム油などの油脂は、収穫後速やかに搾油しないと分解が始まることから、マレーシアやインドネシアには、油脂分解により大量に生じた遊離脂肪酸が未使用のまま残っているといわれています。本手法を用いれば、この遊離脂肪酸が一つの工程でバイオエネルギーに変換できるため、その応用につながると期待できます。

また、世界最先端の技術を持つ日本のマイクロ波産業との連携を進めることで、産業応用を志向したバイオディーゼル燃料合成が可能になると期待できます。さらに、この反応プロセスを改良することで、医薬品合成、有機半導体などの有機機能性物質の合成に向けた、触媒とマイクロ波の連携による新しい化学プロセスを開発できると考えています。

用語説明

[用語1] 固定化触媒 : 触媒反応部位が不溶性の担体に固定化された触媒のこと。ここではロジウムナノ粒子がシリコンナノ構造体に固定されている。

[用語2] 第二世代バイオディーゼル燃料 : 第一世代バイオディーゼル燃料は、脂肪酸メチル(FAME, fatty acid methyl ester)であり、安定性、低温流動性などの面で問題がある。一方、脱酸素された炭化水素である第二世代バイオディーゼル燃料は、安定性が向上している。

[用語3] カーボンニュートラル : 地球上の生命循環において、二酸化炭素の吸収と排出の収支がゼロであること。化石燃料と異なり、バイオマス由来の燃料の利用はカーボンニュートラルとされる。

[用語4] 有機半導体 : 通常使われる半導体材料はシリコン(Si)などの無機化合物であり、優れた半導体特性を示す一方で、重くて硬く、製造に高価な真空プロセスが必要である。Siの同族元素である炭素(C)を基本とするのが有機半導体である。

[用語5] バイオマス : 再生可能な生物由来の有機性資源のうち化石資源を除いたもの。有機物であるバイオマスは、燃焼させると二酸化炭素を発生させる。しかし、この二酸化炭素に含まれる炭素は、そのバイオマスが生育過程で光合成により大気中から吸収した二酸化炭素に由来する。よって、バイオマス資源の利用は全体としてみれば、大気中の二酸化炭素量を増加させていないといえる。

[用語6] マイクロ波照射 : 通常の外部加熱は、炎、蒸気、オイルバスなど熱伝導・対流を介して、物質の温度を上昇させる。よって物質の外部から温度が上昇する。一方、マイクロ波照射によるマイクロ波加熱は、いわゆる電子レンジの加熱方法と同様で、2.45 GHzのマイクロ波を照射することにより誘電加熱が起こり、物質の分子が振動して物質の外部から内部まで加熱が起こる。

[用語7] 走査型電子顕微鏡 : 絞った電子線ビームを試料に照射することで生じる二次電子線を検出して、表面像を取得する装置。試料表面の微細構造を観察するために用いられる。

[用語8] 透過型電子顕微鏡 : 通常の光学顕微鏡では可視光を試料に当てて観察するのに対し、電子顕微鏡では電子線を当てて観察する。電子線の波長は可視光よりもはるかに短いため、理論上0.1 nm程度の分解能が得られ、生体分子やその複合体の構造解析に用いられる。

[用語9] フィッシャートロプシュ法 : 一酸化酸素と水素から石油(炭化水素)を合成する化学プロセスのこと。

[用語10] 再生可能エネルギー : 太陽光・風力・水力・地熱・バイオマスなどから作られるエネルギーのこと。

[用語11] マイクロ波効果 : 通常の外部加熱では反応が起こらないのに対し、マイクロ波照射により同じ温度で反応を行うと反応が進行するなど、熱では説明できない効果のこと。その効果に対する説明は、学術的な論争になっている。

論文情報

掲載誌 :
ACS Catalysis
論文タイトル :
Production of Bio Hydrofined Diesel, Jet Fuel, and Carbon Monoxide from Fatty Acids Using a Silicon Nanowire Array-Supported Rhodium Nanoparticle Catalyst under Microwave Conditions
著者 :
Heeyoel Baek, Keiichiro Kashimura, Takashi Fujii, Shuntaro Tsubaki, Yuji Wada, Shigenori Fujikawa, Takuma Sato, Yasuhiro Uozumi, and Yoichi M. A. Yamada
DOI :
<$mt:Include module="#G-07_物質理工学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系
教授 和田雄二

E-mail : yuji-w@apc.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2879

理化学研究所 環境資源科学研究センター グリーンナノ触媒研究チーム
チームリーダー 山田陽一

自然科学研究機構 分子科学研究所
教授 魚住泰広

中部大学 工学部
講師 樫村京一郎

九州大学 カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所
准教授 藤川茂紀

取材申し込み先

理化学研究所 広報室 報道担当

E-mail : ex-press@riken.jp
Tel : 048-467-9272 / Fax : 048-462-4715

自然科学研究機構 分子科学研究所 研究力強化戦略室 広報担当

E-mail : press@ims.ac.jp
Tel : 0564-55-7209 / Fax : 0564-55-7374

中部大学 学園広報部

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Tel : 0568-51-4465 / Fax : 0568-51-1186

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

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九州大学 広報室

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超重原子核の新たな核分裂機構を解明 宇宙における元素生成の様相を理解するのに適用可能

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要点

  • ウランの核分裂とは劇的に異なり質量数にも顕著なピークが現れることを発見
  • 宇宙における元素生成の様相を理解するために適用可能な重要な結論を提示
  • ニホニウムなど新たな超重元素を合成する際にも重要な示唆を与える

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 先導原子力研究所の石塚知香子助教、張旋大学院生、千葉敏教授らは超重原子核[用語1]ではこれまでウランなどの場合に知られていた質量数[用語2]に加え、励起エネルギーが10 MeV程度では全く異なる質量数にも顕著なピークが現れることを発見した。長寿命放射性廃棄物LLFP[用語3] の短寿命化のために開発した動的モデルによりウラン領域から原子番号104~122の超重原子核の核分裂の系統的な計算により実現した。

本研究で用いたモデルで計算可能となった核分裂片[用語4]変形度[用語5]を調べ、ピークにおいては球形に近い原子核ができていることから、この新たなピークは二重魔法数[用語6]を有する質量数が208の鉛の同位体を中心としていることが明らかとなった。ただし、この新たなピークは励起エネルギーが30 MeVに上がると消失することも分かった。

励起エネルギーが10 MeV程度の超重原子核の核分裂は重力波[用語7]が検出され話題となっている中性子星とブラックホールの合体時に実現される環境で起きることが分っており、宇宙における元素生成の様相を理解するために適用可能な重要な結論である。特に鉛領域の元素は第三ピーク[用語8]と呼ばれ、元素合成モデルによって再現できたりできなかったりし、正確な核分裂データの提供で宇宙における元素合成モデルの検証も可能になると期待できる。 また、原子番号Z=113のニホニウムなど、新たな超重元素を合成する際にも核分裂は付随して生起する物理現象であり、超重原子核の核分裂を理解することは新元素合成のフロンティアの立場からも重要である。

研究成果は「Physical Review(フィジカルレビュー) C」のRapid Communicationとして現地時間1月27日にオンライン掲載された。

研究成果は文部科学省国家課題対応型研究開発推進事業原子力システム研究開発事業「高速炉を活用したLLFP核変換システムの研究開発」による。

背景

原子力発電所から排出される廃棄物の中には半減期が1,000万年を超えるような長寿命の核分裂生成物(LLFP)が存在する。そのような廃棄物をそのまま地層処分した場合、後世の人類のリスク要因となる可能性がある。そのため、LLFPのような物質を原子炉に再装荷して中性子吸収によって半減期のずっと短い原子核に変換することが重要な技術である。

このような技術を実現し、その効率を高めるために、LLFPがどの程度できるかという核分裂に関する情報が必要となる。そのために核分裂理論の高精度化が必須である。一方、地球上で安定に存在できる最も重い元素はウランであるが、それよりも遥かに重い未知の(準)安定元素を探して各国が新元素生成のために日夜しのぎを削っている。例えば原子番号113の元素がニホニウムと命名されたことは記憶に新しい。ニホニウムのような原子番号104以上の元素は超重元素に分類される。

超重元素は基本的には不安定であり短時間で核分裂する。この超重核の核分裂は重力波発生天体として注目されている中性子星同士の合体や中性子星とブラックホールの合体時に生成される金などの希少元素の合成過程に深く関与していると考えられている。

ただし、宇宙空間での元素合成で必要となる核分裂の励起エネルギーはたかだか10 MeV程度であり、新元素生成のための実験で到達するエネルギー(30 MeV以上)よりもずっと低い。そのため金などの起源を正確に見積もるためには理論モデルによる超重元素の核分裂の研究が必要不可欠である。しかしながら、様々な理論モデルで予想される超重元素核分裂の様相はモデルによって大きく異なることが知られており、モデル間での違いやモデル間で大きな差異が生じる理由の解明が大きな課題となっていた。

図1. 低励起状態のEx=10 MeV原子番号120、質量数302を持つ超重元素の核分裂片の変形度Q20(上)および質量数分布(下)の様子。
図1.
低励起状態のEx=10 MeV原子番号120、質量数302を持つ超重元素の核分裂片の変形度Q20(上)および質量数分布(下)の様子。

研究手法と成果

今回の研究では、LLFPの核変換のために開発した高い実験値再現性と予言性を持つ動的理論モデル(形状4次元ランジュバン模型[用語9])を用いて、最も原子番号の小さな超重元素であるハッシウム(Hs)から未知の超重元素(原子番号=122(Ubb))に対して核分裂の性質を系統的に調査した。

研究で用いた動的モデルはパラメータ調整をせずにウラン近傍の様々な核分裂の性質(核分裂片の質量数分布や運動エネルギー分布など)を説明できる非常に強力な理論モデルであり、得られる結果の信頼性も高い。

論文中では核分裂の様相の変遷を系統的に図示しているが、それらの中から超重元素の核分裂で最も特徴的な例を図1に示す。図1下段は原子番号120、質量数302の超重元素が核分裂した時にできる原子核の質量数分布を表している。ここで注目したいのは、超重元素の核分裂では、質量数132-144および208の近傍の核種が同じくらい高い割合で生成されている点である。

これらの質量数では二重魔法数を持つ錫132Sn(スズ、陽子数50、中性子数82)および鉛208Pb(陽子数82、中性子数132)が良く知られている。図1上段では各質量数の原子核の変形度を表す四重極モーメントQ20をカラーマップで示しており、青で示された質量数と変形度Q20を持つ核分裂片の密度は低く、カラーマップ上で黄色から赤になるにつれて、対応する質量数と変形度Q20を持った核分裂片の密度が上がる。図1上段からは質量数132-144および質量数208近傍で超重元素の核分裂の結果、変形度Q20≒0のほぼ球形の原子核が多く生成されることがわかる。

図1では中性子星とブラックホールの合体時に金などが作られる際に現れる低励起状態の超重元素の核分裂の様相を示した。また本研究では超重元素の温度が上がるにつれて二重魔法数の効果が小さくなり、新元素合成実験で到達する温度では魔法数の効果が消失する様子も明らかとなった。

超重元素の核分裂の大きな課題の一つは、モデルによって錫と鉛の影響の出方が大きく違うという謎を解明することであった。今回の研究では図2に示すようにモデルによるポテンシャルの取り扱いの違いに着目し、この謎に迫った。図2はいずれもポテンシャルの深さをカラーマップで示している。核分裂が起きるまでの間に二つの核分裂片間の距離は徐々に長くなる。その際に核分裂片の質量数を左右するのがポテンシャルの地形である。地面の上をボールが転がる場合と同じで、核分裂に至る核分裂片の質量数の変化(ボールの通り道)はポテンシャルの谷(地形の低い場所)によって本質的には決まる。図2上段の4次元ポテンシャルを最小化するような変形度の場合のポテンシャルの地形では鉛に繋がる谷が見えず、質量数132および170の近傍につながる経路しか見えない。一方、図2下段に示すように、動的モデルで核分裂直前のポテンシャルの地形を書いてみると、地形の中に赤実線で示したような鉛へ向かう経路(谷筋)がはっきりと見えている。このように原子核の形状を多次元で表現する際のポテンシャルの取り扱いが錫と鉛の生成量を大きく左右することを解明した。

図2. 質量数302、原子番号120の核種における核分裂片間の距離(横軸)と核分裂片の質量数(縦軸)の平面状でのポテンシャルの深さの様子。上段は核分裂片の変形度を調整し、ポテンシャルを最小にする場合、下段は我々が扱う動的モデルで核分裂する直前(変形度固定)の場合を示す。
図2.
質量数302、原子番号120の核種における核分裂片間の距離(横軸)と核分裂片の質量数(縦軸)の平面状でのポテンシャルの深さの様子。上段は核分裂片の変形度を調整し、ポテンシャルを最小にする場合、下段は我々が扱う動的モデルで核分裂する直前(変形度固定)の場合を示す。

以上のように、本研究では非常に予言力を持つ動的モデルを用いて、錫と鉛の二つの二重魔法数が超重元素の核分裂の様相を支配することを明らかにした。この成果は新元素合成過程の選定の効率化や宇宙空間における金などの希少元素の起源解明につながることが期待される。

用語説明

[用語1] 超重原子核 : 原子番号104以上の超重元素を構成する陽子と中性子からなる原子核のこと。

[用語2] 質量数 : 原子核の質量数は、原子核を構成する陽子の総数(原子番号)と中性子の総数の和として与えられる。

[用語3] LLFP : Long Lived Fission Products の略。使用済み核燃料に含まれる核分裂生成物のうち、特に半減期の長いセレン(79Se、半減期33万年)、ジルコニウム(93Zr、同153万年)、テクネチウム(99Tc、同21万年)、パラジウム(107Pd、同650万年)、スズ(126Sn、同23万年)、ヨウ素(129I、同1570万年)、セシウム(135Cs、同230万年)の7核種を示す。

[用語4] 核分裂片 : ある原子核が核分裂した瞬間に生成される原子核のことを核分裂片と呼ぶ。核分裂片の質量数は分裂の仕方によって非常に小さいものから元々の原子核と同じくらいのものまで様々であるが、原子核の魔法数(用語6参照)の影響が小さい場合には、核分裂で生成される二つの核分裂片の質量数はほぼ等しくなる。

[用語5] 変形度および原子核の四重極モーメントQ20 : 原子核の伸びを表す変形度は四重極モーメントQ20で記述され、負のQ20を持つ原子核はラグビーボールのような扁長な回転楕円体のように変形(プロレート変形)している。またQ20=0の場合には球形の原子核形状は球形である。四重極モーメントが正のQ20場合にはみかんのような扁平な回転楕円体のように原子核が変形(オブレート変形)している。

[用語6] 二重魔法数 : 原子核はある特定の陽子数や中性子数で特に安定となる性質があり、それぞれ陽子魔法数、中性子魔法数と呼ばれる。二重魔法数は陽子数と中性子数の両方が魔法数で非常に安定になる場合を指す。

[用語7] 重力波: : アインシュタインの一般相対性理論によれば、質量をもった物体が存在すると、それだけで時空がゆがむ。その物体が(軸対称ではない)運動をした際に高速で伝わる時空のゆがみを重力波という。重力波は非常に小さいため、中性子星同士の合体や中性子星とブラックホールの合体のように非常に大きな質量を持った天体の動的事象でないと観測が難しい。

[用語8] 第三ピーク : 太陽系の元素組成の質量数分布のうち、鉄よりも重い元素には中性子の魔法数に対応する3ヵ所ほど他の元素より高い組成を持つ部分がある。この3ヵ所を更に細かく見ると、元素の起源に由来して早い中性子捕獲過程(r過程)と遅い中性子捕獲過程(s過程)のピークに分けられる。このうち質量数200付近には白金のr過程第三ピークおよび鉛のs過程第三ピークが知られている。

[用語9] 4次元ランジュバン模型 : 4次元ランジュバン模型では、原子核の形状を二つの核分裂片の独立な変形度、核分裂片の質量非対称度、核分裂片間の距離の4つの変数で表す。この4変数で表される原子核の形状の時間変化を、揺動散逸定理に基づく運動方程式(ランジェバン方程式)を用いて解くことで核分裂を模擬する模型が4次元ランジュバン模型である。揺動散逸定理とは、熱平衡状態において微視的な粒子の運動と巨視的に観測できる運動の間の関係を示すものであり、ブラウン運動の記述として良く知られている。

論文情報

掲載誌 :
Physical Review C
論文タイトル :
Effect of the doubly magic shell closures in 132Sn and 208Pb on the mass distributions of fission fragments of superheavy nuclei
著者 :
C.Ishizuka, X.Zhang, M.D.Usang, F.A.Ivanyuk and S.Chiba
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 先導原子力研究所

教授 千葉敏

E-mail : chiba.satoshi@lane.iir.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3066 / Fax : 03-5734-2959

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

山中一郎教授が触媒学会の2019年度学会賞(学術部門)を受賞

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東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の山中一郎教授が触媒学会の2019年度学会賞(学術部門)を受賞したと触媒学会が1月6日発表しました。授賞式は3月26日、第125回触媒討論会(工学院大学)で行われます。

触媒学会によると、学会賞(学術部門)は、「触媒に関する貴重な学術的研究をなし、その業績の特に顕著な者」に授与されます。受賞者は毎年2名以内で、同一人が重ねて受賞することはできません。

受賞題目

高難度反応を実現する電極触媒の開発と触媒作用の解明

受賞理由(抜粋)

水素と酸素から高濃度中性過酸化水素水が直接合成できる燃料電池型反応器
水素と酸素から高濃度中性過酸化水素水が
直接合成できる燃料電池型反応器

電極触媒を研究対象として、これまでの触媒反応では実現が困難あるいは不可能であった高難度反応を高い選択率で実現する道を拓いた。
具体的には新規Co-N-C化合物電極触媒と燃料電池反応を組み合わせることにより、外部電力を用いずに高濃度純過酸化水素水の直接合成に成功し、あるいは世界で初めてフェノールの電解カルボニル化による炭酸ジフェニル直接合成をPd−Au系アノードを開発することで実現し、それぞれの新電極触媒の作用機構を解明したなど、触媒化学と電気化学を協奏的に融合させた新しい学問領域を開拓し発展させており、本賞に値するものと認めた。

山中一郎教授は次のようにコメントしています。

山中一郎教授
山中一郎教授

触媒学会を中心に研究活動している科学者にとって大変栄誉ある賞をいただき、関係者に深く感謝いたします。

基幹化学産業を支えている触媒化学と電池やセンサーを牽引する電気化学、両学問領域は古くは乖離していました。電子移動を伴う化学反応という意味合いにおいては、単語が多少違うだけで根本的な化学的作用や反応機構は共通していると理解しています。これらを融合させることにより、これまで不可能と考えられ回避されてきた高難度反応を実現させることに成功しています。この研究過程で学生さんや助教の先生たちと真剣かつ真正面からの議論をして研究を推進し、何度となく破れ、再び立ち向かうことが楽しくて仕方がありません。共に立ち向かってくれた山中研チームメートに深く感謝しています。

現在、研究の方向性を地球温暖化の抑制に貢献すべく、CO2排出削減や省エネルギーに寄与できるエネルギー・物質変換触媒・電極触媒の開発と作用機構の解明を中心に置いています。安易な道は選ばず、不可能を可能にする応用化学を開拓し続けます。研究を始める学生さん、一緒に頑張りませんか。

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お問い合わせ先

物質理工学院 応用化学系

E-mail : yamanaka.i.aa@m.titech.ac.jp

オートファジーは凝集体でなく液滴状態のたんぱく質を分解する 細胞内の「ゴミ」は溜まる前の処理が大事

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ポイント

  • 選択的オートファジーは病原性のたんぱく質を分解することで疾病の発症を抑えていると考えられてきたが、液滴状態や凝集体などいろいろな状態を取るたんぱく質に対し、どの状態を効率的に分解できるのかよく分かっていなかった。
  • 液滴状態のたんぱく質を効率的に分解する選択的オートファジーの仕組みが明らかになった。
  • 凝集状態のたんぱく質が原因と考えられている神経変性疾患を予防、治療するためには、たんぱく質を液滴状態に変化させる薬剤の開発が重要であることが分かった。

概要

JST 戦略的創造研究推進事業において、微生物化学研究所の野田展生部長、山﨑章徳博士研究員(現 東京工業大学 科学技術創成研究院 特任助教)らは、オートファジーはたんぱく質が液-液相分離[用語1]した液体状の会合体(液滴[用語2])を選択的に分解するのが得意である一方、凝集、固体化したたんぱく質の分解が不得手であることを発見しました。

オートファジーは細胞内のたんぱく質を分解する仕組みの1つであり、特定のたんぱく質やオルガネラを狙い撃ちして分解する「選択的オートファジー[用語3]」も知られています。選択的オートファジーは病原性のたんぱく質を分解することで疾病の発症を抑えていると考えられてきましたが、どのような状態のたんぱく質を効率的に分解できるのか、よく分かっていませんでした。

本研究グループは、酵母Ape1たんぱく質の選択的オートファジーをモデル系として用い、Ape1の脂質膜による隔離過程を試験管内で人為的に再構成することに成功しました。そしてApe1が液滴を作った時にAtg8たんぱく質と受容体たんぱく質の働きで効率的に脂質膜に隔離されること、一方で凝集、固体化したApe1では脂質膜に隔離されなくなることを明らかにしました。

選択的オートファジーがたんぱく質液滴の分解に長けている一方、たんぱく質凝集体の分解が不得手であるという今回の発見は、神経変性疾患の予防、治療薬の開発を進める上で、オートファジーの活性化だけでは不十分であり、凝集体を液滴状態へと変化させる薬剤開発が重要であることを提起するものです。

本研究成果は、2020年1月29日(米国時間)に米国科学誌「Molecular Cell」のオンライン速報版で公開されました。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域:
「ライフサイエンスの革新を目指した構造生命科学と先端的基盤技術」(研究総括:田中啓二 東京都医学総合研究所 理事長)
研究課題名:
「オートファジーの膜動態解明を志向した構造生命科学」
研究代表者:
野田展生(微生物化学研究会 微生物化学研究所 部長)
研究期間:
平成25年4月~令和2年3月

研究の背景

オートファジーは酵母からヒトまで保存された細胞内の主要な分解経路であり、オートファゴソーム[用語4]と呼ばれる脂質膜の袋で分解対象を包み、分解の場であるリソソームへと輸送することで分解を行います。有害なたんぱく質凝集体や傷ついたミトコンドリアなどを狙い撃ちして分解するオートファジーも知られており、選択的オートファジーと呼ばれています。選択的オートファジーはさまざまな有害物や余剰物の分解を通して、細胞の恒常性維持に働いています。そしてその異常は神経変性疾患やがんなど、重篤な疾病を引き起こすことが知られています。

選択的オートファジーでは、特定のたんぱく質やオルガネラの表面でオートファゴソームの新生が進みます。その際、なるべく分解対象以外のたんぱく質やオルガネラが入らないように、オートファゴソームの前駆体(隔離膜)は分解対象と密着しながら伸長していきます。それぞれの分解対象にはそれを特異的に認識する受容体たんぱく質が存在することが知られており、受容体たんぱく質は隔離膜を覆っているAtg8たんぱく質と結合することで、分解対象を隔離膜に密着させる役割を担っていると考えられています。しかしながら隔離膜による分解対象の選択的な囲い込みが、Atg8たんぱく質と受容体だけで行えるのかどうかは分かっていませんでした。またたんぱく質は細胞内で液-液相分離し、液体状の会合体(液滴)を作ったり、それが固体化して凝集体になったりすることが知られていますが、選択的オートファジーがどのような状態のたんぱく質を標的にできるのか、これまでよく分かっていませんでした。

研究の内容

本研究グループは、出芽酵母Ape1たんぱく質の選択的オートファジーに着目し、まずApe1の性質について、蛍光顕微鏡を用いて酵母細胞内および試験管内で調べました。その結果、Ape1は試験管内で液-液相分離して液滴を作る性質があること(図1a中央)、さらに酵母細胞内でも液滴を作ることが分かりました。Ape1の選択的オートファジーでは、Atg19たんぱく質が受容体として機能することが知られています。Ape1液滴とAtg19の相互作用を調べた結果、試験管内および細胞内のどちらでもAtg19はApe1液滴表面に結合しました。一方、一部を欠いたAtg19変異体は、どちらの条件でもApe1液滴内部に浸潤することが分かりました。すなわちAtg19は浮輪のような領域を持っており、それによってApe1液滴内部に沈まずにApe1液滴の表面に集まる性質があることが分かりました(図1b)。

次に隔離膜によるApe1液滴の隔離過程を試験管内で再構成する実験を行いました。巨大脂質膜小胞にAtg8を結合させたのち、Ape1液滴とAtg19を添加したところ、Ape1液滴は脂質膜小胞に結合後、徐々に膜の嵌入を引き起こし、膜と密着しながら最終的に脂質膜小胞内へと取り込まれ、Ape1液滴の隔離過程は、Atg8と受容体Atg19だけで充分であることが分かりました(図1c)。またApe1液滴内部に浸潤するAtg19変異体を用いた場合、隔離は進行しなかったことから、Ape1液滴表面をAtg19が覆っていることが隔離のために重要と考えられます。

これまでの報告で、選択的オートファジーの標的とならなくなるApe1変異体がいくつか知られていました。そのうちの1つであるP22L変異体(Ape1のプロリン22番がロイシンに置換したもの)の性質を調べたところ、球状の液滴を形成せずに不定形の凝集体を形成することが分かりました(図1a右)。高速原子間力顕微鏡[用語5]で調べたところ、Ape1液滴の表面は活発に動いているのに対し、P22L変異体の凝集体表面は動きがほとんどなくなっていることが分かりました。そしてP22L変異体はAtg19存在下では、Atg8を結合させた脂質膜小胞により隔離されず、選択的オートファジーの標的となるためにはApe1は凝集体ではなく液滴を形成することが重要であることが分かりました(図1d)。

図1. たんぱく質液滴選択的オートファジーの試験管内再構成

図1. たんぱく質液滴選択的オートファジーの試験管内再構成

(a)
Ape1たんぱく質は水溶液中で分散した状態(左)、液滴となった状態(中)、凝集状態(右)など多様な形態を取る。液滴状態が本来の状態であり、液-液相分離を阻害するタグを付加することで左の分散状態に、P22L変異を入れることで右の凝集状態となる。Ape1に融合させた蛍光たんぱく質の蛍光で観察した(スケールバー:10マイクロメートル)。
(b)
Ape1液滴とAtg19の相互作用実験。野生型Atg19はApe1液滴の表面に結合するが、「浮輪」領域を欠いたAtg19変異体はApe1液滴の内部に浸潤する。Ape1、Atg19はそれぞれ異なる蛍光たんぱく質が付加されている(スケールバー:2マイクロメートル)。
(c)
Ape1液滴選択的オートファジーの試験管内再構成実験。Atg8を結合させた巨大脂質膜小胞とAtg19とApe1液滴を混合すると、時間経過とともに液滴はリポソーム内に取り込まれる(300 minは別の脂質膜小胞の写真)。Ape1、Atg8、Atg19はそれぞれ異なる蛍光たんぱく質が付加されている。DICは微分干渉像を示す(スケールバー:2マイクロメートル)。
(d)
P22L変異を入れたApe1凝集体は長時間経過後も巨大脂質膜小胞に取り込まれない(スケールバー:5マイクロメートル)。

これらの結果は、選択的オートファジーは流動性を持った液滴状態のたんぱく質の分解を得意とする一方、流動性のない凝集状態のたんぱく質の分解は苦手であることを強く示唆しています(図2)。そして液滴状態のたんぱく質を効率よく認識するために、受容体は液滴内部に沈まない性質を持つことも分かりました。これまで選択的オートファジーは細胞にとって有害なたんぱく質凝集体を分解すると信じられてきましたが、実際はそれが苦手であり、凝集体化する前段階である液滴状態のたんぱく質を主に分解していると考えられます。

図2. 選択的オートファジーは液滴を効率的に分解する

図2. 選択的オートファジーは液滴を効率的に分解する

たんぱく質は分散した状態から液-液相分離することで液滴を形成する。液滴は高い流動性を持ち、固体よりも液体に近い性質を持つ。液滴は変異やストレス、時間経過などを経て流動性を失っていき、凝集体やアミロイド線維などへと変化することが知られている。選択的オートファジーは流動性の高い液滴の分解が得意であり、その際は受容体が液滴表面に集積し、隔離膜上のAtg8と結合することで、液滴表面に沿った隔離膜の伸長を可能にする。一方、選択的オートファジーは流動性を失った固体状態の凝集体や分散したたんぱく質の分解は不得手である。

今後の展開

選択的オートファジーはたんぱく質液滴の分解を得意としており、たんぱく質凝集体の分解が不得手であるという今回の発見は、これまでのオートファジーを標的とした創薬の考え方を根底から変え得る成果です。神経変性疾患など、病原性たんぱく質の蓄積が原因と考えられている疾病の予防、治療薬の開発は、オートファジーをいかに活性化するかに重点が置かれてきました。しかしながら今回の結果は、オートファジーの活性化だけでは不十分であり、病原性たんぱく質側をオートファジーにより分解されやすくするために液滴状態を保ったり、凝集状態から液滴状態へと変化させたりする薬剤の開発が重要であることを強く示唆するものです。従って液滴形成の仕組みである「液-液相分離」を標的とした創薬の発展が期待されます。

また、選択的オートファジーにおける標的たんぱく質の隔離のステップが、Atg8たんぱく質と受容体たんぱく質のみで行えることを初めて証明しました。オートファジーはミトコンドリアなどさまざまなオルガネラや病原性細菌なども選択的に分解しますが、これらについてもAtg8たんぱく質と受容体たんぱく質が同様のメカニズムで選択的隔離を担っている可能性が考えられます。さらに今回開発した試験管内再構成系を応用することで、さまざまな標的に関する選択的オートファジーのメカニズム研究が促進されることも期待されます。

付記

本研究は、東京工業大学 大隅良典栄誉教授、東京大学 鈴木邦律准教授らと共同で行いました。

用語説明

[用語1] 液-液相分離 : 均一な溶液が複数の液相に分離する現象であり、日常生活でも水と油の分離としてよく観察される。細胞内ではたんぱく質や核酸が液-液相分離することが知られている。

[用語2] 液滴 : たんぱく質や核酸が液-液相分離することで形成した液体状の会合体。液滴は膜のないオルガネラとも呼ばれ、細胞内でさまざまな機能を担っている。液滴は自発的に球形になる性質があり、内部流動性が高く、周囲とも活発な分子交換を行うなどの性質を持つ。

[用語3] 選択的オートファジー : 飢餓が引き金となり細胞内成分を非選択的に分解する一般的なオートファジーとは異なり、細胞が必要な時に特定の対象を分解するオートファジー経路。選択的オートファジーでは、分解対象の種類に応じたさまざまな受容体たんぱく質が存在し、それらはどれも分解対象とオートファゴソーム上のたんぱく質Atg8の両方に結合することで、分解対象をオートファゴソームに選択的に取り込ませると考えられている。

[用語4] オートファゴソーム : オートファジーが誘導されると、細胞質に新たに作り出される二重膜のオルガネラ。オートファゴソームが取り囲んだもの(さまざまなたんぱく質やオルガネラなど)はすべて分解の場であるリソソーム(酵母の場合は液胞)へと輸送され、リソソーム内の分解酵素群の働きで分解される。

[用語5] 高速原子間力顕微鏡(高速AFM) : 原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)は、探針と試料の間に働く原子間力を元に分子の形状を可視化する顕微鏡である。高速AFMは溶液中で動いているたんぱく質などの生体分子をナノメートルの空間分解能とサブ秒という時間分解能で観察することが可能である。

論文情報

掲載誌 :
Molecular Cell
論文タイトル :
Liquidity is a critical determinant for selective autophagy of protein condensates
(たんぱく質会合体の選択的オートファジーには、会合体の持つ流動性が重要である)
著者 :

山﨑章徳、Jahangir MD Alam、能代大輔、平田恵理、藤岡優子、鈴木邦律、大隅良典、野田展生*(*責任著者)

DOI :
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お問い合わせ先

微生物化学研究会 微生物化学研究所 構造生物学研究部

部長 野田展生

E-mail : nn@bikaken.or.jp
Tel : 03-3441-4173 / Fax : 03-6455-7348

東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センター

特任助教 山﨑章徳

E-mail : yamasaki.a.ae@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5879

JST事業に関すること

科学技術振興機構 戦略研究推進部 ライフイノベーショングループ

川口哲

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Tel : 04-7136-5450

ナノスケール構造体を手で操作できるネットワーク型VR環境を開発 AIを用いた予測制御技術により実際の手と遠隔仮想ハンドの同期を実現

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国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と東京工業大学 情報理工学院情報工学系の小長谷明彦特任教授は、NEDOの研究プロジェクト「次世代人工知能・ロボット中核技術開発」において、DNAオリガミで構成されるナノスケール構造体を仮想現実(VR)上の仮想分子として表現し、手で操作できるネットワーク型VR環境を開発しました。また、仮想分子や仮想ハンドの動作を遠隔のサーバーコンピューターを用いて高速に計算処理する技術や、人工知能(AI)による深層学習技術を用いて実際の手の動きを予測制御する技術の開発により、実際の手の動きと遠隔のサーバーコンピューター上で動作する仮想ハンドの動きを同期させることに成功しました。

仮想ハンドで仮想分子を操作している様子

図1. 仮想ハンドで仮想分子を操作

概要

仮想現実(VR)は、Society 5.0時代のサイバー空間と実空間を融合する新しいコンピューター利用環境として注目されています。VRを用いることで、実際には目で見ることができない分子構造を、コンピューターシミュレーションにより仮想分子としてサイバー空間上に創り出し、あたかも目の前に分子があるかのように表示することができます。また、市販のVRカメラと組み合わせることで、自分の手をVR空間上に仮想ハンドとして表示することが可能となります。これにより、目の前の仮想分子をつかみ、どのくらいの力をどの方向に加えると仮想分子がどのように変形するかをVRシミュレーションで確かめることができます。しかし、DNAオリガミ[用語1]などで構成されるナノスケール構造体をシミュレーションするためには高性能なサーバーコンピューターが必要でした。さらに遠隔のサーバーコンピューター上で動作させた場合、実際の手の動きに対して仮想ハンドの動きが遅れることで「VR酔い[用語2]」と呼ばれる現象が発生し、長時間のVR操作が難しいという問題がありました。

今般、NEDOと小長谷特任教授は、VRクライアントコンピューターとVRサーバーコンピューターから構成され、DNAオリガミで構成されるナノスケール構造体を手で操作できるネットワーク型仮想現実(VR)環境を開発しました。また、人工知能(AI)による深層学習技術を用いて、人間の手の動作を予測制御する技術を開発することにより、人間の手の動作と遠隔のVRサーバーコンピューター上での仮想ハンドの動作を一致させることに成功しました。これにより、大規模な分子の正確な立体構造や動きをより詳細に理解することが可能となり、より効率的な分子設計の研究開発が期待されます。この研究成果は、新しい分子人工筋肉や創薬などの有機物分子の研究開発に応用できるほか、クラウドを用いたVRゲームの開発やロボットの遠隔操作への応用も期待されます。

今回の成果

ネットワーク型VR環境の開発

DNAオリガミで構成されるナノスケール構造体をVR環境で実現するためには、1秒間に90フレーム以上のVR表示と大規模なVRシミュレーションを同時に実現する必要があり、高速な計算処理が必要となります。本研究では、VRの表示と操作を行うVRクライアントコンピューターとVRシミュレーションを実行するVRサーバーコンピューターを毎秒10ギガビット(10 Gbps)の転送速度を持つ高速ネットワークで結合したネットワーク型VR環境を構築しました。複数のGPUを用いたVRサーバーコンピューターを用いることにより、DNAオリガミのように40万原子を超すようなナノスケール構造体をVR上でシミュレーションすることが可能となりました。

ネットワーク型VR環境の開発

図2. ネットワーク型VR環境の開発

DNAオリガミ原子モデルの構築

分子人工筋肉[用語3]では、微小管[用語4]やDNAオリガミで構成されるナノスケール構造体を構築し、分子モーター[用語5]を使って分子部品を動かすことで筋肉のような収縮運動を実現しています。従来、ナノスケール構造体は研究者が実験的にしか作成することができなかったため、開発に数ヵ月単位の時間がかかっていました。本研究では、DNAオリガミのモデルをVR上に仮想分子として再現することで、DNAオリガミの詳細な構造を手で確かめながら設計することが可能となりました。

仮想ハンド予測制御技術の開発

前述したネットワーク型VR環境を用いると、大規模VRシミュレーションは可能となりますが、VRサーバーコンピューターとVRクライアントコンピューターの間にネットワークの遅延が生じます。VR環境では、通常、遅延が0.03秒を超えると利用者に違和感が生じ、VR酔いが発生すると言われています。本研究では、AIの深層学習技術を用いて利用者の手の動きを予測し、予測結果に基づいて遠隔のサーバーコンピューター上にある仮想ハンドを動かすことにより、遅延を解消しました。図3に示すように、通常は、実際の手(緑)より遅れて遠隔仮想ハンド(白)が動くため違和感が生じます(上図)。一方、AI予測制御を用いると実際の手の動き(緑)と遠隔仮想ハンドの動き(白)が一致するため違和感なく操作ができます(下図)。

AI予測制御による実際の手と遠隔仮想ハンドの同期

図3. AI予測制御による実際の手と遠隔仮想ハンドの同期

本研究成果は、1月29日(水)から31日(木)まで開催される「nano tech 2020(国際ナノテクノロジー総合展・技術会議)outer」のNEDOブースでデモ展示されます。(ブース番号:西1・2ホール AT-01)

用語説明

[用語1] DNAオリガミ : DNAを素材とした2次元または3次元の人工物。約7,000塩基の一本鎖DNAを数百本の短いDNA鎖を用いて部分的に二重らせんを形成することでさまざまな形状の人工物を数十ナノメートルというサイズで構築できる。分子人工筋肉では、6本のDNAオリガミを合体させ、さらにDNA修飾微小管と結合可能なDNA鎖を周囲に装備したDNAオリガミ分子部品を利用。

[用語2] VR酔い : VR環境を長時間体験することで発生する、乗り物酔いと似た症状。脳で認識する視覚情報と実際の手や体の動きが一致しないことが原因と考えられている。

[用語3] 分子人工筋肉 : 微小管、DNAオリガミおよび分子モーターを素材として作られた分子部品から構成される人工物。光を照射すると収縮運動する人工筋肉のプロトタイプがNEDO「分子人工筋肉プロジェクト」で開発されている。

分子人工筋肉の概略図

図4. 分子人工筋肉の概略図

[用語4] 微小管 : 細胞内では骨格構造として使われている直径25ナノメートルの筒状の蛋白質複合体。分子量約5万のαチューブリンとβチューブリンが結合したチューブリン二量体が直線状に重合した線維構造(プロトフィラメント)を構成し、およそ13本のプロトフィラメントが横に並んで管構造を形成します。分子人工筋肉では、部分的にDNA鎖で化学修飾した微小管分子部品を利用。

[用語5] 分子モーター : 化学エネルギー(アデノシン三リン酸:ATP)で駆動する分子。キネシン分子モーターは1つの分子でも微小管を動かすほどの駆動力を持つ。分子人工筋肉では、4つのキネシン分子を結合したキネシン分子部品を利用。

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お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975

タンパク質の構造や動きを解析する新技術を開発 情報・数理科学の応用によるNMR法の革新

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理化学研究所(理研) 生命機能科学研究センター 細胞構造生物学研究チームの葛西卓磨研究員(科学技術振興機構(JST)さきがけ研究者)、木川隆則チームリーダー(東京工業大学 情報理工学院 特定教授)、東京工業大学 情報理工学院 情報工学系の小野峻佑准教授(JSTさきがけ研究者)らの共同研究グループは、核磁気共鳴(NMR)法[用語1]に情報・数理科学の手法を応用することで、従来は解析が困難だった重なり合うNMR信号[用語1]を分離し、タンパク質の構造や動きなどに関する情報を得る新たな方法「SiPex(Stable-isotope-assisted Parameter extraction)法」を開発しました。

本研究成果は、タンパク質の機能に関する基礎研究に貢献し、タンパク質と医薬品候補分子の結合状態の解析に基づく創薬研究を加速させると期待できます。 NMR法は、強い磁場中に置かれた原子核から発せられる信号(NMR信号)を観測し、分子の構造を解析する手法です。タンパク質の解析では、NMR法で観測可能な安定同位体[用語2]で標識した試料を用いることが標準的です。

今回共同研究グループは、先行研究で開発した「符号化標識法[用語3]」と数理科学の応用により、重なり合う複数のNMR信号からでも、アミノ酸の情報とタンパク質の性質の情報を取得することに成功しました。

本研究は、科学雑誌『Journal of Biomolecular NMR』のオンライン版(1月30日付)に掲載されました。

情報科学(符号化標識法)と数理科学(テンソル分解)を応用したSiPex法

図. 情報科学(符号化標識法)と数理科学(テンソル分解)を応用したSiPex法

共同研究グループ

理化学研究所 生命機能科学研究センター 細胞構造生物学研究チーム

研究員 葛西卓磨(かさい たくま)(科学技術振興機構(JST)さきがけ研究者)

チームリーダー 木川隆則(きがわ たかのり)(東京工業大学 情報理工学院 特定教授)

東京工業大学 情報理工学院 情報工学系

准教授 小野峻佑(おの しゅんすけ)(科学技術振興機構(JST)さきがけ研究者)

東北大学 東北メディカル・メガバンク機構

機構長 山本雅之(やまもと まさゆき)(東北大学 大学院医学系研究科 教授)

教授 小柴生造(こしば せいぞう)

京都大学大学院 情報学研究科

教授 田中利幸(たなか としゆき)

統計数理研究所

教授 池田思朗(いけだ しろう)

研究支援

本研究の一部は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)「計測技術と高度情報処理の融合によるインテリジェント計測・解析手法の開発と応用(研究総括:雨宮慶幸、副研究総括:北川源四郎)」の研究課題「試料への情報の符号化を活用するNMR計測・解析法(研究者:葛西卓磨)」および「統合的凸最適化によるIn Handな成分分離型信号情報再構成(研究者:小野峻佑)」、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金若手研究(B)「立体構造とアミノ酸判別に基づくNMRシグナル帰属法の開発(研究代表者:葛西卓磨)」および新学術領域研究「スパースモデリングによるNMR計測・解析の高速高精度化(研究代表者:木川隆則)」、JST戦略的創造研究推進事業CREST「ライフサイエンスの革新を目指した構造生命科学と先端的基盤技術」の研究課題「NMRと計算科学の融合によるin situ構造生物学の確立と真核細胞内蛋白質の動態研究への応用」による支援を受けて行われました。

背景

アミノ酸が連なってできたタンパク質は、その構造と動きによって分子機能が決まります。そのため、タンパク質の構造や動きの解析は、その機能を解明する上で重要です。核磁気共鳴(NMR)法は、強い磁場中に置かれた原子核に電磁波を照射すると、原子の置かれた状況によって特徴的な信号(NMR信号)が観測される物理現象(核磁気共鳴)を応用した、分子構造などの解析法です。生体環境に近い溶液中でタンパク質分子に含まれる原子を直接観測できるという特長から、タンパク質の構造・機能・動き・作用機序の解明に欠かせません。

NMR法でタンパク質の解析を行うには、まず、複数の原子から発せられるそれぞれのNMR信号が、どの原子に由来するかを決める「信号帰属」を行います。タンパク質の解析では、炭素-13(13C)や窒素-15(15N)の安定同位体でアミノ酸を標識し、信号帰属を効率良く行うことが標準的な方法となっています。

測定されたNMR信号は二次元平面上のスペクトル[用語4]で表すことができますが、複数の信号が同じ位置に重なると、信号帰属が困難になります。NMR信号の重なりは、異なる位置の原子に由来する信号が分離しにくい天然変性タンパク質[用語5]、信号の数が多い高分子量タンパク質、一つ一つの信号の広がりが大きくなってしまう生細胞内のタンパク質などで著しく生じ、タンパク質の一部の構造や動きについての情報しか得られず、解析は不完全なものになってしまいます。

信号が重なった場合にも信号帰属を補助する情報を提供し、重なった信号を分離しつつ、タンパク質の性質を解析する方法があれば、これまで解析が困難であったタンパク質の部位をもNMR法によって解析することができます。また、解析は可能であっても信号帰属に時間がかかっていたタンパク質を、迅速に解析できるようになることも期待されます。

研究手法と成果

葛西卓磨研究員らは、2015年に「符号化標識法」を開発しました注)。NMR解析における安定同位体標識の標準的な方法では、タンパク質中の安定同位体の有無の情報だけを利用するのに対し、符号化標識法では、アミノ酸の情報をタンパク質に「符号化」し、アミノ酸ごとに異なる安定同位体標識パターン(符号語)を割り当てたタンパク質試料を用います。一例としては、15Nでの三つの標識率(100%、75%、50%)と、13Cでの三つの標識率(100%、50%、0%)の組み合わせでアミノ酸を標識したタンパク質(標識体)を3パターン用意し、それぞれをNMRで計測します。これにより、観測されたNMRスペクトルから、アミノ酸の情報を「復号」して取り出せるようにしておきます(図1)。

注)
Kasai T, Koshiba S, Yokoyama J, Kigawa T (2015), Stable isotope labeling strategy based on coding theory. J Biomol NMR, 63:213-221

図1. 符号化標識法における安定同位体標識パターン(符号語表)の例

図1. 符号化標識法における安定同位体標識パターン(符号語表)の例


アミノ酸ごとに異なる安定同位体標識パターンを対応させる「符号語表」に従い、3パターンのタンパク質試料(標識体)を用意する。ユビキチンタンパク質に含まれる18種類のアミノ酸を判別可能な符号語表の一例を示す。アミノ酸の情報を「復号」するには、標識体ごとにNMR計測を行い、同位体の比率に伴うNMR信号の強度の違いを利用する。例えば標識体1では、15Nの標識率が100%であるアミノ酸は9種類まで絞られる。さらに、標識体2と標識体3の情報を合わせると、全ての標識体において15Nの標識率が100%の強度として観測されるNMR信号は、G(グリシン)に由来すると判断できる。

本研究で開発した「SiPex法」は、符号化標識法を応用したもので、この標識パターンを単にアミノ酸の情報を取り出すだけではなく、重なった信号を分離する手掛かりとしても用います。まず、符号化標識したタンパク質試料を用いて、アミノ酸の情報を得るための測定と、15N緩和速度[用語6]などタンパク質の性質を得るための測定を行い、これらを組み合わせて解析します。測定ごとに得られるNMRスペクトルは2次元ですが、それらを集めて、全体では4次元のテンソル[用語7]であると見なし、テンソル分解[用語7]という数理解析手法で信号ごとに分離します。分離された各成分の3次元目のシグナル強度にはアミノ酸の情報が含まれており、符号語表と照らし合わせて解析することで、アミノ酸の情報を復号することができます。また、各成分の4次元目の強度は、15N緩和速度の情報を持っており、タンパク質の動きの情報を取り出すことができます。このように、タンパク質のNMR解析において障害となっていた信号の重なりの問題を解決しつつ、信号帰属の助けとなるアミノ酸情報と、タンパク質の動きなど性質に関する情報を同時に取り出すことができるのが、SiPex法の特長です(図2)。

図2. 符号化標識法で得られたスペクトルを用いた、信号の分離と情報の取出し

図2. 符号化標識法で得られたスペクトルを用いた、信号の分離と情報の取出し


左図は、特定のアミノ酸に由来するNMR信号の分布(スペクトル)を、横軸を1H共鳴周波数、縦軸を15N共鳴周波数として表したもの。赤四角で囲んだ点は、二つのNMR信号が同じ位置で重なったものだが、テンソル分解により二つのアミノ酸情報に分離することができる。さらに、テンソル分解を利用して15N緩和速度を測定することで、タンパク質の動きの情報が得られる。

共同研究グループは、SiPex法の性能を評価するため、ユビキチンと呼ばれるタンパク質をモデルにした実証実験を行いました。従来のNMR法によるタンパク質の測定では、15~16番目のLE(ロイシン-グルタミン酸)というアミノ酸の並びと、25~26番目のNV(アスパラギン-バリン)というアミノ酸の並びに対応するシグナルが重なってしまうことが分かっています。SiPex法による解析でも、重なったシグナルが確かに二つの成分で構成されていることが分かり、それぞれの成分から正しいアミノ酸情報を取り出し、かつ、15N緩和速度の情報を取り出すことができました(図3)。このことは、従来の技術では解析が困難であったタンパク質に対して、SiPex法が有効であることを示しています。

図3. SiPexによるユビキチンタンパク質の重なった信号の分離と情報の取出し

図3. SiPexによるユビキチンタンパク質の重なった信号の分離と情報の取出し


84個のアミノ酸から成るユビキチンの変異タンパク質を用いたSiPex法の実証実験。重なり合った信号が、テンソル分解によりニつの成分に分けられた。各成分に含まれるアミノ酸情報を取り出すと、成分1に対応するのは25~26番目のNV(アスパラギン-バリン)であり、成分2に対応するのは15~16番目のLE(ロイシン-グルタミン酸)であることが分かった。また、15N緩和速度の情報を取り出すと、どちらも同じくらい動き(揺らぎ)のある領域であることが読み取れた。

今後の期待

SiPex法は、NMRを用いて信号の分離を行いながらタンパク質の情報を取得する新しい手法であり、タンパク質の構造、動き、他の分子との結合などの解析に用いることができます。符号化・復号という情報科学の手法と、テンソル分解という数理科学の手法を組み合わせて用いることで、タンパク質のNMR解析という生命科学の手法を革新したもので、異分野の研究者の共同研究によって実現されました。

SiPex法を用いることで、従来のNMR法では信号が重なることでタンパク質の性質に関する情報が得られなかったタンパク質の解析が可能になるだけでなく、SiPex法で得られるアミノ酸の情報は信号帰属にも有用なため、信号帰属が困難であったタンパク質の解析も可能になります。特に、天然変性タンパク質の解析や、生きている細胞内のタンパク質を直接観測し、解析するin-cell NMR法[用語8] などにおいて、解析可能なタンパク質の種類を増やすことにつながり、タンパク質の機能や作用機構の解明という基礎研究に役立ちます。また、信号帰属に役立つアミノ酸の情報と、タンパク質の性質に関する情報がリンクした形で得られるため、従来のNMR法で解析可能であったタンパク質についても、より迅速・効率的に解析することができます。生命科学における基礎研究の加速はもちろんのこと、医薬品候補分子との結合を迅速に評価し改善につなげる必要がある創薬研究など応用研究にも役立つと期待できます。

用語説明

[用語1] 核磁気共鳴(NMR)法、NMR信号 : 強い磁場中に置かれた原子核に電磁波を照射すると、核スピンの共鳴現象により、原子核の性質や周囲の環境に応じた周波数(共鳴周波数)の電磁波の吸収や放出が起こるが、その電磁波をNMR信号として捉えることで、物質の分子構造の解析や物性の解析を行う手法。分子の相互作用などの情報も得られるため、生命科学、医薬、化学、食品、材料物性といった幅広い分野で利用されている。NMRはNuclear Magnetic Resonanceの略。

[用語2] 安定同位体 : 原子番号が同じで質量の異なる同位体のうち、放射性崩壊を起こさず安定に存在するもの。タンパク質の主要な構成元素は水素、炭素、窒素であるが、それぞれ自然界では水素-1(1H)、炭素-12(12C)、窒素-14(14N)がほとんどを占めている。このうち、1HはNMR法で観測可能だが、12C、14Nは観測不能か困難である。そのため、物理化学的性質がほとんど変わらない安定同位体でありNMR観測が可能な13C、15Nに置き換えたタンパク質試料を用いることが標準的な方法となっている。安定同位体に置き換えることでNMR観測が可能になることから、興味のある原子を観測するための標識としても利用できる。

[用語3] 符号化標識法 : 葛西卓磨研究員らが2015年に発表したタンパク質の標識方法。少ない種類の標識体で20種類全てのアミノ酸を判別することを目指した。SiCode(Stable isotope encoding)法ともいう。

[用語4] スペクトル : 各周波数において、どれくらいの強度の信号が観測されたかを表すデータ。NMR法はラジオ波の周波数領域の電磁波を扱う分光法の一種であり、NMR信号を共鳴周波数ごとに分解したスペクトルで表すことができる。

[用語5] 天然変性タンパク質 : 溶液中での構造変化が大きく、タンパク質の一部、もしくは全体にわたって一定の構造をとらないタンパク質。従来の構造生物学では解析の対象になりにくかったが、近年では機能との関連が注目されている。

[用語6] 15N緩和速度 : タンパク質分子に含まれるアミド(-NH)基の窒素NMR信号の減衰の速さ(15N緩和速度)は、タンパク質の動きの大きさや速さを反映することが知られている。15N標識したタンパク質試料を用い、2次元NMRスペクトル上の各信号の減衰を測定する。タンパク質を構成するアミノ酸のほとんどにアミド基が含まれることから、タンパク質分子中のさまざまな箇所の動きを解析できる。

[用語7] テンソル、テンソル分解 : テンソルは、本研究においては数値を3次元以上に並べたもの。1個の数値(0次元)はスカラー、数値を1列(1次元)に並べたものはベクトル、数値を2次元に並べたものは行列と呼ばれる。テンソル分解(テンソル因子分解ともいう)は、テンソルをより単純な形で表すこと。本研究においては、テンソルをベクトルの直積の和というより単純な形で表す方法(polyadic decomposition)によってテンソル分解をしている。

[用語8] in-cell NMR法 : 水溶液中のタンパク質をNMR測定する通常の方法に対して、生きた細胞内に導入したタンパク質を測定する方法。細胞内はタンパク質や核酸などの生体分子が高濃度で存在する「分子混雑」の状態で、水溶液中とは異なった環境である。in-cell NMRは実際に機能している環境下のタンパク質の解析が可能な方法として注目されている。

論文情報

掲載誌 :
Journal of Biomolecular NMR
論文タイトル :
Amino-acid selective isotope labeling enables simultaneous overlapping signal decomposition and information extraction from NMR spectra
著者 :
Takuma Kasai, Shunsuke Ono, Seizo Koshiba, Masayuki Yamamoto, Toshiyuki Tanaka, Shiro Ikeda, and Takanori Kigawa
DOI :
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お問い合わせ先

理化学研究所 生命機能科学研究センター 細胞構造生物学研究チーム

研究員 葛西卓磨

チームリーダー 木川隆則

東京工業大学 情報理工学院 情報工学系
准教授 小野峻佑

E-mail : ono@c.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5089

JST事業に関すること

科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ

中村幹

E-mail : presto@jst.go.jp
Tel : 03-3512-3525 / Fax : 03-3222-2066

取材申し込み先

理化学研究所 生命機能科学研究センター センター長室 報道担当

山岸敦

E-mail : ayamagishi@riken.jp
Tel : 078-306-3095 / Fax : 078-306-3090

理化学研究所 広報室 報道担当

E-mail : ex-press@riken.jp
Tel : 048-467-9272 / Fax : 048-462-4715

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

科学技術振興機構 広報課

E-mail : jstkoho@jst.go.jp
Tel : 03-5214-8404 / Fax : 03-5214-8432

東工大リベラルアーツ初/発の研究組織「未来の人類研究センター」が発足 利他プロジェクトを推進

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東京工業大学は、2月1日、科学技術創成研究院(IIR)に4つ目の研究センターとして人文社会系の研究組織「未来の人類研究センター」を開設しました。ここにリベラルアーツ研究教育院(ILA)から多様な研究者が集結し、「利他プロジェクト」に取り組みます。

未来の人類研究センターとは
~理工系大学の中で生まれる人文社会系の知~

未来の人類研究センターは、リベラルアーツ研究を推進するため、科学技術創成研究院の中に設置された組織です。

科学技術創成研究院は、2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典栄誉教授が率いる細胞制御工学研究センターなど、東工大が世界に誇るトップクラスの研究チームを集めた組織です。未来の人類研究センターは、こうした最先端の理工系研究と常に共にある人文系の研究センターです。

私たちはどこから来て、私たちは何者で、私たちはどこへ行くのか。科学技術のよりよい可能性を引き出すためには、数十年、数百年先の人類を見据えた現実的かつ本質的な問いを設定し、理工系の最先端の研究と歩調を合わせながら、科学技術が人間にもたらす変化や守るべき価値、その可能性について多角的に探索する必要があります。こうした課題に応えるための研究組織が、「未来の人類研究センター」です。

センターには、ILAの教員が原則2年間所属します。第1期の所属メンバーは、伊藤亜紗准教授(芸術、センター長)、中島岳志教授(政治学、プロジェクトリーダー)、若松英輔教授(人間文化論)、磯﨑憲一郎教授(文学)の4名。ILAの國分功一郎教授(哲学)も連携して活動します。

最初の5年間は、「利他」をキーワードに、人間のあり方、社会のあり方を再定義する「利他プロジェクト」を推し進めます。自分でないもののために行動する「利他」の視点から、人類について、社会について、科学技術について、見つめなおしていきます。

利他プロジェクト

現代は、排他主義がはびこり、分断が加速する時代です。他者と競い合い、弱者を切り捨てる能力主義的な発想。得られる利益の量でつきあう相手を決める功利主義的な人間観。数値に置き換え可能なものばかりが評価され、そうでないものは切り捨てられる傾向。私たちをとりまくこの殺伐とした世界のなかで、もういちどよりよい社会を、より充実した生を構想するにはどうしたらよいでしょうか。

そこで手がかりになるのが、「利他」という視点です。自分のためではなく、自分でないもののために行動する。一見不合理にさえ思える、しかし私たちが確かに持っているはずのこの人間の性向のなかにこそ、人類について、社会について、科学技術について、まったく新しい仕方で考え直すヒントがあるのではないか、と未来の人類研究センターは考えています。能力主義とも、功利主義とも、数値による評価とも違う、人間の人間らしい側面を利他の光で深く照らし出すこと。それが、同センターのかかげる「利他学」です。

政治、経済、宗教、AI、環境、宇宙…研究の領域は多岐に及ぶでしょう。さまざまな分野の研究者や専門家との出会いを大切にしながら、貪欲に触手をのばし、利他学の領域を開拓していきます。その方法も、文献調査、フィールドワーク、実験、作品制作など、従来の人文社会系のディシプリン(学問分野)にとらわれない、東工大ならではの柔軟なアプローチを試みます。

センターでは、その研究成果を、シンポジウムや書籍、あるいはウェブ記事、ラジオといった多様な仕方で発信していきます。みなさまのお力を借りながら、人間を真の意味で自由にするような科学技術、人間がより人間らしく生きることのできる社会を実現するために、さまざまな種をまいていきます。科学技術創成研究院 未来の人類研究センター「利他プロジェクト」にどうぞご期待ください。

左から伊藤センター長、若松教授、磯﨑教授、中島教授(利他プロジェクトリーダー)

左から伊藤センター長、若松教授、磯﨑教授、中島教授(利他プロジェクトリーダー)

センター長 伊藤亜紗 准教授
センター長 伊藤亜紗 准教授

センター長 伊藤亜紗 准教授

未来の人類研究センターは、文/理、産/学、理論/現場といった壁を超えて、さまざまな知が出会う場です。それはつまり、センターが「非日常」の空間である、ということなのかもしれません。なぜなら人は、自分がその中にどっぷりつかっている視点や評価基準、価値観をいったん離れたときに初めて、異なる知に出会うことができるからです。目先の判断ではなく息の長い思考、ひとつの正解ではなく多様な知恵。「利他」の視点を通して、人類を見つめ直していきたいと思います。

お問い合わせ先

未来の人類研究センター

E-mail : fhrc@ila.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3892


液-液相分離がオートファジーを制御する仕組みを発見 オートファジー研究は次のフェーズへ

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要点

  • 細胞内でオートファジーを担う構造体の集まる仕組みや実体は長らく不明であった。
  • 栄養飢餓になるとAtg13たんぱく質が脱リン酸化して他のAtgとともに液-液相分離した液滴を形成し、オートファジーの進行を担うことを明らかにした。
  • 液-液相分離がオートファジーを直接制御しているという全く新しい機序の発見により、オートファジーを制御する新たな薬の開発に道が拓けることが期待される。

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センターの大隅良典栄誉教授、微生物化学研究所の野田展生部長、藤岡優子上級研究員、金沢大学の安藤敏夫特任教授、理化学研究所の岡田康志チームリーダー、東京大学の鈴木邦律准教授らの研究グループは、オートファジーの進行を担う構造体の実体が、Atgたんぱく質が液-液相分離[用語1]した液体状の会合体(液滴注[用語2])であることを発見しました。

オートファジーは細胞内のたんぱく質を分解する仕組みの1つです。これまでに、Atgたんぱく質が集まってPAS[用語3]と呼ばれる構造体を形成することが分かっていましたが、Atgたんぱく質が集まる仕組みや形成された構造体の状態はよく分かっていませんでした。

本研究グループは、Atg13たんぱく質の蛍光顕微鏡解析によりPASの性質を明らかにするとともに、試験管内でPASを再構成することに成功しました。そしてPASはAtg13が他のAtgたんぱく質とともに液-液相分離して形成された液滴の状態がその実体であり、この液滴がオートファジーを担うことを初めて明らかにしました。

液-液相分離がオートファジーを直接制御していることを明らかにした本研究の結果は、液-液相分離が細胞内の生命現象全般に広く関与していることを示唆しており、さまざまな細胞内現象について分子機構の見直しが進むことが期待されます。さらに、オートファジーが関係する病気に関して、液-液相分離の制御に着目したオートファジー特異的な制御剤の開発が期待されます。

本研究成果は、2020年2月5日(英国時間)に英国科学誌「Nature」のオンライン速報版で公開されました。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域:
「ライフサイエンスの革新を目指した構造生命科学と先端的基盤技術」(研究総括:田中啓二 東京都医学総合研究所 理事長)
研究課題名:
「オートファジーの膜動態解明を志向した構造生命科学」
研究代表者:
野田 展生(微生物化学研究会 微生物化学研究所 部長)
研究開発期間:
平成25年4月~令和2年3月

研究の背景

オートファジーは酵母からヒトまで保存された細胞内の主要な分解経路であり、有害なたんぱく質凝集体や傷ついたミトコンドリアなどの分解を通して、細胞の恒常性維持に働いています。そしてオートファジーの異常は神経変性疾患やがんなど、重篤な疾病を引き起こすことが知られています。これは生体にとって極めて基本的かつ重要な現象であり、そのメカニズムを知ることは疾病の治療や予防法の開発のために欠かせません。

オートファジーでは、オートファゴソームと呼ばれる脂質膜の袋を新生し、分解対象を包んで分解の場であるリソソームへ輸送し、分解を行います。オートファゴソームの新生はオートファジーの最も重要な過程であり、約20種類のAtgたんぱく質が担っています。酵母を用いた解析により、栄養飢餓でオートファジーが誘導されると、Atgたんぱく質が液胞膜の近傍に集合してPASと呼ばれる構造体が形成され、オートファゴソームを形成します。しかしさまざまなたんぱく質が高濃度でひしめき合う細胞質内で、散在していたAtgたんぱく質がどのように速やかに集合し、形成されたPASはどのような実体で、どのようにしてオートファゴソームの形成を担うのかは全く分かっていませんでした。

液-液相分離は均質の溶液が2つ以上の液相に分離する現象で、私たちの身近でもしばしば観察されます。近年、細胞内で核酸やたんぱく質が液-液相分離を起こして周囲とは異なる液相を形成し、細胞内で球状の液滴を形成することが分かってきました。細胞の中には核やミトコンドリアなどの「膜で仕切られたオルガネラ」があることは古くから知られていますが、核酸やたんぱく質の液滴は「膜のないオルガネラ」として、さまざまな役割を担っていると考えられるようになってきました。

膜のないオルガネラは環境の変化に際して迅速に形成、解消することが可能であり、必要に応じて形成されるオルガネラとしてさまざまな役割を担っていると考えられています。しかし液-液相分離がオートファジーの制御に果たす役割はこれまで全く知られていませんでした。

液-液相分離によるPASの形成モデル

図1. 液-液相分離によるPASの形成モデル


栄養豊富な条件では、Atgたんぱく質は細胞質中に分散しており、細胞質を満たしているさまざまなたんぱく質と混ざり合っている。栄養飢餓になりAtg13が脱リン酸化されると、Atg13は他のAtgたんぱく質とともに液-液相分離して液胞膜上に新たな液相(液滴)を形成する。この液滴がPASの実体であり、液滴からオートファゴソームの形成が進行する。

研究の内容

本研究グループは、PASを構成するたんぱく質の1つであるAtg13に着目し、蛍光顕微鏡を用いて酵母細胞内での振る舞いを詳細に調べました。その結果Atg13は細胞質とPASの間を活発に往来しており、さらにPASの内部でも動き回っていることが分かりました。PASが形成される過程を詳細に観察した結果、まず複数の小さな球状構造が液胞膜上に形成され、それが膜上を動き回りながら互いに融合して1つのPASになることが分かりました。これらの特徴は、PASが液-液相分離で形成された液体状の液滴であることを示しています。

次にAtg13を構成因子として含むAtg1複合体の挙動を試験管内で調べました。精製したAtg1複合体は試験管内で速やかに球状の液滴を形成し、液滴同士は活発に融合するなどの性質を示しました。高速原子間力顕微鏡[用語4]を用いた解析の結果、液滴ではAtgたんぱく質がランダムな配置で分布し、運動している様子が観察されたことから、液体様の構造であることが確かめられました。

栄養が豊富な環境にいる酵母ではAtg13はTORC1というリン酸化酵素によりリン酸化を受け、PASの形成を阻害し、酵母を栄養飢餓にさらすとAtg13がホスファターゼにより脱リン酸化を受け、PASの形成が促進されることが知られています。同様に試験管内においても、Atg13をTORC1によりリン酸化すると液滴形成が阻害され、ホスファターゼで脱リン酸化すると液滴形成が促進されました。この結果から、Atg13のリン酸化状態が液-液相分離の制御を通して、PASの形成とオートファジーの進行を制御していることが分かりました。

Atg1たんぱく質自体もリン酸化酵素であり、その活性化を通した他のAtgたんぱく質のリン酸化がオートファジーの進行に重要であることが分かっていました。今回の試験管内での解析の結果、Atg1複合体が液-液相分離し液滴を形成した場合のみ、Atg1の活性化が進行することが分かりました。Atg1の活性化を行うことが液滴を形成する意義の1つと考えられます。

酵母ではPASは常に液胞膜の上で形成されます。液胞膜に存在するVac8たんぱく質を欠損させたところ、PASが液胞膜から離れることが分かりました。さらに、試験管内でVac8たんぱく質を結合させた脂質膜にAtgたんぱく質液滴を添加すると、液滴が脂質膜に結合し、脂質膜上を動き回りながら互いに融合することが分かりました。これは酵母におけるPASの形成過程を再現していると考えられます。

これらの結果から、細胞が栄養飢餓を感知すると、Atgたんぱく質が液-液相分離を引き起こし液胞膜上に濃縮して、PASそのものである液滴を形成させ、オートファゴソーム形成に必要な因子の濃縮やAtg1の活性化を通してオートファゴソームの形成が進行することが明らかになりました。

PAS液滴の観察

図2. PAS液滴の観察


(a)酵母細胞内でPAS同士が融合して球形になる様子。Atg13に融合させた蛍光たんぱく質の蛍光で観察した(スケールバー:2マイクロメートル)。 (b)巨大リポソーム膜上でAtgたんぱく質液滴が融合する様子。上の写真2枚はAtg13の蛍光像を、下の2枚は微分干渉像を示す(スケールバー:10マイクロメートル)。 (c)高速原子間力顕微鏡によるAtgたんぱく質液滴の観察結果。液滴にはAtg17がランダムな向きで存在している様子が分かる。画像はFFTバンドパスフィルター処理を行っている(スケールバー:100ナノメートル)。

今後の展開

オートファジーが液-液相分離で制御されており、PASの実体がAtgたんぱく質の液滴であることを明らかにしたことは、これまでのオートファジー制御の考え方を根底から変え得る成果です。これまでのオートファジーのメカニズム研究は個別のAtgたんぱく質の解析が中心でしたが、新たに液-液相分離の考え方を導入することで、Atgたんぱく質が「集団としてどのように振る舞うのか」という新しい切り口からの研究が展開され、極めて複雑なオートファジーの仕組みの解明が一挙に進むことが期待されます。また「相分離状態の制御」という全く新しい視点からのオートファジー制御剤の開発を進めることで、オートファジーが関連するさまざまな疾病の治療や予防法の開発研究が促進されると期待されます。

今回の発見は液-液相分離が細胞内現象全般の制御に深く関わることを強く示唆するものです。本研究では高速原子間力顕微鏡を活用することで液滴に含まれるたんぱく質の形状を観察することに成功し、液滴と脂質膜の間の相互作用を試験管内で再現するなど、新たな手法の開発を通して広く生命科学全般の発展にも貢献すると考えられます。

用語説明

[用語1] 液-液相分離 : 均一な溶液が複数の液相に分離する現象であり、日常生活でも水と油の分離としてよく観察される。細胞内ではたんぱく質や核酸が液-液相分離することが知られている。

[用語2] 液滴 : たんぱく質や核酸が液-液相分離することで形成した液体状の会合体。液滴は膜のないオルガネラとも呼ばれ、細胞内でさまざまな機能を担っている。液滴は自発的に球形になる性質があり、内部流動性が高く、周囲とも活発な分子交換を行うなどの性質を持つ。

[用語3] PAS(Pre-Autophagosomal Structure) : プレオートファゴソーム構造体の略。酵母において、栄養飢餓になると液胞近傍の1ヵ所にAtgたんぱく質が集まるが、この集まった構造を呼ぶ。オートファゴソームはPASを起点として形成されると考えられている。

[用語4] 高速原子間力顕微鏡(高速AFM) : 原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)は、探針と試料の間に働く原子間力を元に分子の形状を可視化する顕微鏡である。高速AFMは溶液中で動いているたんぱく質などの生体分子をナノメートルの空間分解能とサブ秒という時間分解能で観察することが可能である。

論文情報

掲載誌 :
Nature
論文タイトル :
Phase separation organizes the site of autophagosome formation(相分離はオートファゴソーム形成の場を構築する)
著者 :
Yuko Fujioka, Jahangir Md. Alam, Daisuke Noshiro, Kazunari Mouri, Toshio Ando, Yasushi Okada, Alexander I. May, Roland L. Knorr, Kuninori Suzuki, Yoshinori Ohsumi, Nobuo N. Noda
DOI :
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山口昌英教授と須山輝明准教授が第13回「湯川記念財団・木村利栄理論物理学賞」を受賞

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東京工業大学 理学院 物理学系の山口昌英教授と須山輝明准教授が第13回湯川記念財団・木村利栄理論物理学賞を受賞し、受賞式が1月22日、京都大学 基礎物理研究所 湯川記念館で行われました。

湯川記念財団・木村利栄理論物理学賞を受賞した山口昌英教授(中央)と須山輝明准教授(右から2人目)(京都大学基礎物理学研究所提供)

湯川記念財団・木村利栄理論物理学賞を受賞した山口昌英教授(中央)と須山輝明准教授(右から2人目)(京都大学基礎物理学研究所提供)

湯川記念財団によると、木村利栄理論物理学賞は「重力・時空理論、あるいは場の理論、あるいはそれらと関連する分野の理論研究において顕著な業績を上げており、かつ、受賞以降も対象分野で中心的な役割を果たしていくことが期待される研究者」に対し毎年、贈られます。湯川記念財団は湯川秀樹博士のノーベル物理学賞受賞(1949年)を記念して、1956年設立された公益財団法人です。旧広島大学 理論物理学研究所 教授であった木村利栄氏の遺産が湯川記念財団に寄付され、これを木村基金として、2007年度、木村利栄理論物理学賞が設けられました。候補者の選考や木村基金の運用は京都大学 基礎物理学研究所に委託されています。

受賞した山口教授
受賞した山口教授

受賞した須山准教授
受賞した須山准教授

受賞研究課題

「宇宙原始揺らぎの非ガウス性の研究」

受賞理由(湯川記念財団・木村利栄理論物理学賞Webページから)

宇宙論的観測の進展にともない、宇宙の大域的構造形成の標準的シナリオとして、インフレーション宇宙論が確立されようとしている。さらに、インフレーションモデルを特定し、宇宙初期の物理を解明する手段として、宇宙背景放射による初期揺らぎの観測の高精度化が進んできたが、今後は銀河サーベイや重力レンズ、21センチ線などの手段を用いて、3次元的な密度揺らぎが大きな体積にわたり高精度で得られる時代が訪れようとしている。

須山輝明氏と山口昌英氏はインフレーション中に生成される初期揺らぎの3点相関と4点相関の間にモデルの詳細に依存しない不等式が成立することを見いだした。特に単純な、インフレーションを起こす場のみに初期揺らぎが起因するモデルにおいては等号が成立する。そのため、この不等式に着目することで初期揺らぎの起源が単一の場によるものであるのか複数の場が寄与しているものであるのかが明白に区別できる。また、この不等式が成立しないということが判明した場合、インフレーション宇宙論を根底から覆すことになり、インフレーションモデルの試金石となる不等式であると言うこともできる。したがって、本不等式の検証は、現在進行している宇宙論的観測の主たる観測目標のひとつに掲げられている。彼らはその後、高橋智氏、横山修一郎氏らとの共同で、この不等式の適用範囲のさらなる拡張もおこなっている。

この「須山―山口不等式」と名付けられた関係式は、インフレーション宇宙論の観測的検証を語るうえで、欠くことのできない主要な関係式になっている。現在、初期揺らぎの3点相関や4点相関の非ガウス性は、宇宙背景放射の観測からは観測可能なほど大きくないということが明らかになってきている。しかし今後、3次元的な密度揺らぎの高精度観測が進むことが確実であり、より多くの揺らぎのモードが観測可能となる。それにより、飛躍的に高次相関の観測精度が高まることが期待される。そのような時代を迎え、この不等式の価値はさらに高まることは間違いないと考えられる。

両氏は共に受賞対象の研究以外にも、初期宇宙論の分野で多くの顕著な研究業績を挙げ、これまでも分野を牽引する研究を行ってきており、今後の活躍が十分に期待される。こうした理由から、木村利栄理論物理学賞の受賞にふさわしいと判断した。

受賞について山口昌英教授と須山輝明准教授は次のようにコメントしています。

山口昌英教授
山口昌英教授

山口昌英教授

大変重要な賞を頂き、身に余る光栄に存じます。須山氏を始めとしたこれまでの共同研究者の方々、諸先輩、学生諸氏など、多くの関係者の皆様に心からお礼申し上げます。

今後も、少しでも宇宙の謎が明らかになるよう研究を続けたいと思います。

須山輝明准教授
須山輝明准教授

須山輝明准教授

ここ数十年で宇宙に関する理論・観測が急速に進展しており、今では宇宙誕生直後の宇宙の進化が物理学に基づいて議論できるようになってきています。

しかし、まだ謎として残されていることもたくさんあり、研究者が日々邁進して解明に取り組んでいます。

この流れの中に身を置く者として、今回の木村利栄理論物理学賞という名誉な賞をいただいたことは、大変光栄なことだと思っています。

また、これまで研究を支えていただいた関係者の方には心からお礼を申し上げます。

今後も基礎科学の発展へ少しでも貢献できるよう励んでゆきたいと思います。

<$mt:Include module="#G-03_理学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

准教授 須山輝明

E-mail : suyama@phys.titech.ac.jp

全固体電池技術共創コンソーシアム 創立シンポジウム開催報告

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電池の研究開発で世界をリードする東京工業大学 科学技術創成研究院の菅野了次教授が統括する「全固体電池技術共創コンソーシアム」が活動を開始し、1月23日、創立シンポジウムを東工大大岡山キャンパス蔵前会館で開きました。

全固体電池を話し合った創立シンポジウム

全固体電池を話し合った創立シンポジウム

同コンソーシアムは2019年9月、国立研究開発法人・科学技術振興機構(JST)の産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)に研究領域「目的指向型材料科学による全固体電池技術の創出」プロジェクトとして採択されました。東工大が幹事機関となり、民間企業6社が参画機関として加わり、全固体電池の実用化を促進する研究を行います。

コンソーシアムのキックオフとなる創立シンポジウムは、本学と共同研究を行う企業研究者を中心に100名近くが参加しました。

益一哉学長の開催挨拶に続いて、来賓の真先正人文部科学省大臣官房文部科学戦略官と白木澤佳子JST理事が、祝辞とともに本プロジェクトの意義とプロジェクトへの大きな期待を述べました。

挨拶する益学長
挨拶する益学長

来賓の真先文部科学戦略官
来賓の真先文部科学戦略官

続いて、領域統括の菅野教授がコンソーシアムで取り組む課題について説明しました。全固体電池の実用化に向けてのさまざまな課題と、それを解決するためのコンソーシアムとしての取り組みを紹介しました。

来賓の白木澤理事(JST)
来賓の白木澤理事(JST)

取り組みを紹介する菅野教授
取り組みを紹介する菅野教授

さらに、科学技術創成研究院 全固体電池研究ユニットの研究者4名が、超イオン導電体であるLGPS結晶構造を探索する取り組みや、全固体電池の実用化に求められる要素性能を定量的に把握する基盤技術の構築といった最先端の技術を紹介しました。

  • 物質理工学院 応用化学系 鈴木耕太助教
    研究課題「革新的材料研究」

  • 科学技術創成研究院 堀智特任助教
    研究課題「次世代型への飛躍研究」

  • 物質理工学院 応用化学系 平山雅章准教授
    研究課題「用途多様化研究」

  • 科学技術創成研究院 池松正樹特任教授
    研究課題「社会実装のための技術課題検討」

謝辞を述べる渡辺理事・副学長(研究担当)
謝辞を述べる渡辺理事・副学長(研究担当)

最後に渡辺治理事・副学長(研究担当)が、登壇者と参加者に謝辞を述べ、閉会しました。

終了後は交流会も行われ、研究者の意見交換が盛んに行われました。益学長も参加し、本学のプロジェクトへの支援を力強く語りました。

研究領域「目的指向型材料科学による全固体電池技術の創出」の概要

情報化社会が進展してスマートフォンやタブレットなどの携帯情報端末が日常生活に不可欠なものになり、また電気自動車(EV)へのパラダイムシフトがグローバルに加速している。これらには現在、液体の電解質を持つリチウムイオン電池などが利用されているが、さらに安全性が高く、コンパクトで高性能な電池の開発が期待されている。菅野教授らが創り出した超イオン導電体(固体電解質)は、固体中を高速でイオンが選択的に動き回り、かつ低温から高温まで幅広い温度領域で作動する新しい材料であり、液漏れもなく安全性や安定性にも優れ、重量あたりのエネルギー密度も高い、全固体電池のキーテクノロジーである。本共同研究では、超イオン導電体の開発を世界的にリードしている技術優位性を活用し、全固体電池の実用化を促進するための研究を行う。 (JSTサイトによる)

お問い合わせ先

科学技術創成研究院 全固体電池研究ユニット OPERA事務室

E-mail : office@opera.iir.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5555

2月7日 16:45 本文の誤字を修正しました。

貴金属に匹敵する触媒活性を示す安価な錆びた銅 極小サイズが引き起こす高活性化

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要点

  • 1ナノメートルサイズ酸化銅粒子のアモルファス構造解析に成功
  • 安価な酸化銅が貴金属にも匹敵する高効率触媒活性を達成
  • 高難度炭化水素の酸化反応に対応できる新触媒技術への期待

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の田邊真特任准教授と山元公寿教授らの研究グループは、1ナノメートル(nm)程度の酸化銅サブナノ粒子[用語1]が、炭化水素[用語2]酸化反応[用語3]において高効率触媒活性を示す要因を明らかにした。

酸化銅は銅と酸素が安定な化学結合を形成した化合物だが (錆びた銅の成分)、その酸化銅粉末を1 nmサイズまで極小化すると、結晶構造としての安定性が失われると同時にアモルファス構造[用語4]による反応性が向上する。サブナノ酸化銅粒子の構造解析と触媒活性の評価から、既存の貴金属触媒にも匹敵する高効率な触媒活性を示すことを見いだした。

研究成果は、既成概念にとらわれないサブナノ酸化物粒子の精密な構造解析や化学特性に関する実験結果をもとに、安価な銅触媒でも高難度炭化水素の酸化反応を引き起こす触媒技術開発に貢献できると期待される。

研究は科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業総括実施型研究(ERATO)「山元アトムハイブリッドプロジェクト(山元公寿研究総括)」で実施した。研究成果は2月6日発行の米国化学会誌「ACS Nano」オンライン版に掲載された。

研究成果の概念図:サブナノ酸化銅触媒による炭化水素の酸素酸化反応

研究成果の概念図:サブナノ酸化銅触媒による炭化水素の酸素酸化反応

背景と経緯

酸素親和性の高い遷移金属 (チタン、鉄、銅など) を含む酸化物は遷移金属と酸素原子から安定な結晶構造を形成するため、そのバルク材料やナノ粒子が顕著な触媒活性を示すことはほとんどない。これに対して、1 nmサイズの物質は規則的な原子配列を持たないアモルファス構造が支配的であり、従来のナノ粒子より触媒活性が向上することが期待されている (図1)。

サブナノ酸化銅粒子の概念図

図1. サブナノ酸化銅粒子の概念図

しかしながら、サブナノ酸化物粒子を合成する手法は限られているため、その粒子構造や触媒機能はほとんど理解されていなかった。今回の研究では、樹状型高分子デンドリマー[用語5]を鋳型として用いることで、原子数が規定されたサブナノ酸化銅粒子の合成および構造解析をおこない、炭化水素の酸化反応において高い触媒活性を示す要因を探究した。

研究成果

サブナノ酸化銅粒子の合成には樹状型の規則構造をもつデンドリマーをテンプレートとして利用する。デンドリマー構造中に銅イオンを取り込み、化学還元により銅粒子が形成された後、大気下で晒(さら)して酸化銅粒子を合成した (図2)。

 (a) デンドリマーを鋳型とするサブナノ酸化銅粒子(CunOx@DPA)の合成スキームと電子顕微鏡像 (b)Cu12Ox、(c)Cu28Ox、(d) Cu60Ox.
図2.
(a)デンドリマーを鋳型とするサブナノ酸化銅粒子(CunOx@DPA)の合成スキームと電子顕微鏡像 (b)Cu12Ox、(c)Cu28Ox、(d)Cu60Ox.

X線光電子分光法[用語6]赤外分光法[用語7]による構造解析の結果、サブナノ酸化銅粒子に含まれる銅-酸素(Cu-O)結合は、酸化銅粉末の結晶性Cu-O結合とは全く異なっていた。その特徴は (1)極小粒子の歪み構造が影響してCu-O結合が伸長すること、(2)Cu-O結合間にイオン性[用語8]が増大して分極が生じることである。

理論計算から再現化したサブナノ酸化銅粒子はアモルファス構造を形成し(図1右)、かつ、そのCu–O結合間に電荷の偏りが増大したことから、各種分析結果を合理的に説明することができた。さらに、これらの結合状態は空気中の水分子が作用して粒子表面に多くの水酸基が吸着するという化学特性も観測された。言い換えれば、従来のナノサイズと比較して「サブナノ酸化銅粒子は反応性が高い状態を保持している」とみなすことができる。

実際に炭化水素(トルエン)の酸化反応において、ジルコニア(ZrO2)に担持したサブナノ酸化銅粒子は市販ナノ粒子より高い触媒活性を示すだけでなく、粒子サイズの減少に伴って触媒活性が向上する実験結果を得た (図3)。サブナノ酸化銅粒子の精密な構造解析から触媒活性が向上する関連性を明らかにした。その結果、安価な銅を含むサブナノ酸化物が酸化反応において貴金属ナノ粒子にも匹敵できる触媒活性に至ったことを実証できた。

(a)サブナノ酸化銅触媒(CunOx: n = 12、28、60)によるトルエン酸化反応、(b)原子数に依存した触媒活性
図3.
(a)サブナノ酸化銅触媒(CunOx: n = 12、28、60)によるトルエン酸化反応、(b)原子数に依存した触媒活性

今後の展開

サブナノ粒子の触媒開発にはナノ粒子の既存概念の延長ではなく、粒子自身の構造解析及び反応特性などの分析結果を正確に理解することが不可欠である。今後、さらなる高機能触媒の開発に向けて複数元素で構成される多元合金ナノ粒子 [用語9] [参考文献1] が注目されており、高効率高選択率を可能とする革新的酸化触媒の開発に貢献できると期待される。

謝辞

本研究は日本学術振興会(JSPS)、科学技術振興機構(JST-ERATO)、および第一稀元素化学工業株式会社の支援・協力を受けて実施された。

用語説明

[用語1] サブナノ粒子 : 粒径1ナノメートル程度の極小なナノ粒子。構成するほぼすべての原子が表面に露出するため、ナノ粒子より高い触媒活性を示すことが期待される。

[用語2] 炭化水素 : 反応性の極性官能基を持たない炭素と水素で構成された有機分子。メタン分子を代表として非常に安定なC-H結合を持つため、一般的には有害な重金属や爆発性の過酸化物などの強力な酸化剤を使わずに化学変換できない。

[用語3] 酸化反応 : 最も身近な化学反応であり、炭化水素と酸素との反応により炭素-酸素(C-O)結合を形成する反応。炭化水素から水と二酸化炭素を生成する完全酸化を抑え、選択的に部分酸化を起こせば有用な酸化物を合成できる。

[用語4] アモルファス構造 : 物質の原子配列において、結晶で見られる周期的構造が存在せず乱れた構造。非晶構造ともいう。構成原子数が少ないサブナノ粒子は周期的構造が形成できず、反応基質が吸着できる活性サイトを多く持つ。

[用語5] デンドリマー : コアと呼ばれる中心構造と、デンドロンと呼ばれるコアから樹状に枝分かれした構造をもつ特殊な高分子。本研究で用いるデンドリマーはその構造中に多数の金属イオンを取り込めるように設計されており、サブナノ粒子を合成する鋳型として機能する。

[用語6] X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy: XPS) : 試料にX線を照射して、放出される光電子の運動エネルギーを測定する。放出される光電子は原子の内殻電子に起因するものであり、本論文では銅の酸化状態や化学結合状態に関する情報を得た。

[用語7] 赤外分光法 (Infrared Spectroscopy: IR) : 試料に赤外線を照射して、これを構成している分子が吸収したエネルギーを測定する。この吸収は化学結合の振動・回転の励起に必要なエネルギーであり、本論文では酸化銅粒子に水酸基が存在することを確認した。

[用語8] イオン性 : 化学結合における電荷の偏りを表す用語。本論文ではXPS測定によりCu 3p 軌道測定で観測された強度比を用いてCu-O結合のイオン性を算出した[参考文献2]

[用語9] 多元合金ナノ粒子: : 多種の金属元素が混合した金属ナノ粒子で、特異な電子状態に基づく触媒機能が期待される。デンドリマー(用語5)を鋳型として利用すると、1ナノメートル程度にサイズ制御された合金サブナノ粒子が合成できる。

参考文献

[1] T. Tsukamoto, T. Kambe, A. Nakao, T. Imaoka, K. Yamamoto, Nat. Commun. 2018, 9, 3873.

多元合金ナノ粒子の新たな合成手法を開発|東工大ニュース

[2] K. Borgohain, J. B. Singh, M. V. R. Rao, T. Shripathi, S. Mahamuni, Phys. Rev. B 2000, 61, 11093.

論文情報

掲載誌 :
ACS Nano
論文タイトル :
Enhanced Catalytic Performance of Subnano Copper Oxide Particles
著者 :
Kazutaka Sonobe, Makoto Tanabe and Kimihisa Yamamoto
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

教授 山元公寿

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世界最小のクロック回路を5 nm CMOSで開発

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要点

  • 世界初5 nm CMOSプロセスを用いた分数分周型クロック回路を実現
  • 世界最小・最高性能のスペクトル拡散クロック回路の開発に成功
  • デジタル回路のみで構成でき、自動合成による超短期間設計が可能

概要

東京工業大学 工学院 電気電子系の岡田健一教授らと株式会社ソシオネクストの研究グループは、最先端の5 nm FinFET CMOSプロセス[用語1]で世界初となる世界最小の高性能分数分周型クロック回路[用語2]の開発に成功した。この回路はプロセッサーやメモリー、通信用のクロック用途として必須の電子回路であり、開発したクロック回路は小型ながらも優れたジッタ特性[用語3]を持つ。また、細かい周波数調整が可能な分数分周型PLL[用語5]で構成されており、スペクトル拡散クロック[用語6]の生成が可能である。

一般にクロック回路は典型的なアナログ回路であり、従来はアナログ回路設計者が時間をかけて設計・チューニングする必要があったが、本技術ではクロック回路をデジタル回路として構成することを可能とした。通常のデジタル回路と同様に自動配置配線が可能となり、非常に短時間で必要なプロセスやクロック周波数に合わせて最適に設計することができる。また、製造プロセスの微細化にあわせてスケーラブルに回路面積を小型化することが可能であり、幅広い用途のSoC[用語7]の小型化・低コスト化を実現できる。

研究の背景・意義

携帯電話、パソコン、テレビなどを含むほとんどの電子機器に搭載されているLSI(大規模集積回路)は、デジタル信号処理を行うデジタル回路部と、外部からのアナログ信号を扱うアナログ回路部から構成される。LSIを製造する半導体製造プロセスの微細化にあわせてデジタル回路は小型化・高性能化が可能であるが、アナログ回路は小型化が困難であり、また、微細な製造プロセスほど設計が困難になることが大きな問題となっている(図1)。

図1. 半導体プロセスのスケーリング(左)とPLL回路設計の難易度(右)

図1. 半導体プロセスのスケーリング(左)とPLL回路設計の難易度(右)

LSIには、所望の周波数のクロック信号や通信用搬送波信号を生成するクロック回路が搭載されている。LSIに内蔵されるクロック回路は通常PLL方式のクロック回路が用いられる。PLLは典型的なアナログ回路の一種であり、FinFETのような最先端の半導体製造プロセスを用いる場合に、従来に比べて、設計がより困難となり、また、デジタル回路部分に比べて相対的に回路面積が大きくなる問題がある。

一般にアナログ型のPLLは優れたジッタ特性を持つことができる一方で、キャパシターやインダクターなどの回路面積の大きいアナログ素子を用いることになり、特に20 nm以下の先端プロセスでは微細プロセスの利点を失わせかねない課題を抱えている。また、通常アナログ回路は手作業で設計・レイアウトが行われるが、先端プロセスではアナログ回路の設計ルールが複雑化し、設計・検証の反復のコストが増大してしまう問題がある(図1)。さらに、高周波回路は回路寸法が大きくなればなるほど意図しない抵抗や容量による寄生成分が増え、アナログ素子による面積増大が性能劣化につながる。また、従来からデジタル型のPLLについて検討は行われていたが(図2)、回路ブロックの一部にアナログ回路が含まれており、依然としてアナログ回路の手設計が必要であった。本提案技術であるシンセサイザブルPLLでは、構成する回路ブロックをすべてデジタル回路構成とすることができ、あたかもデジタル回路のように自動設計を可能とすることに成功した(図2)。これにより、半導体製造プロセスの微細化にあわせて回路面積の縮小が可能となり、低消費電力化が期待できる。従来方式と比較すると、最先端の微細なプロセスを使うほどに性能の向上が期待できる。

図2. PLL回路の発展

図2. PLL回路の発展

PLLには生成できる周波数が基準信号に対して整数倍の周波数のみか、あるいは非整数倍(分数倍)の周波数を出力可能かで、それぞれ整数分周型(インテジャーN型)PLLと分数分周型(フラクショナルN型)PLLの二つの種類がある。無線機やSoCなどでは、任意の周波数の発生が可能な分数分周型PLLが必要である。分数分周型PLLは汎用性が高く、様々な用途での利用が可能であるが、一方で設計の難易度が高いことが問題であった。

研究成果

今回の成果は、従来のデジタルPLLにおいて、アナログ回路構成で実現されていたデジタル制御発振器(DCO)[用語8]および時間差デジタル変換器(TDC)[用語9]をデジタル回路構成により実現できたことによる(図2)。従来のデジタルPLLでは、TDC回路で長い時間差の変換が必要であったため、アナログ回路設計による高線形なTDCが必要であった。本研究成果では、タイミングをデジタル的に制御するデジタル時間変換器(DTC)[用語10]とTDC回路とを組み合わせることで、TDC回路に必要な時間差範囲を狭めることに成功し、そのデジタル回路化に成功した。一方で、DTC回路には長い時間差での変換が必要になるが、デジタル補正を組み合わせることでこの問題を解決した。DCO回路においても、同様にデジタル補正を駆使することでデジタル回路化を実現した。以上により、PLL回路全体をデジタル回路として構成することが可能となり、デジタル回路開発で使用されている回路合成・タイミング設計や自動配置配線ツールを活用できるようになり、通常のデジタル回路同様に、PLLをスタンダードセルによって自動設計できるようになった。これは異なるプロセス間での移植性を高め、新たに開発された最先端製造プロセスにおいても迅速な回路設計を可能とする。

図3は作製したチップ写真である。実現した回路は、分数分周型(フラクショナルN型)のPLLで、わずかな面積で高周波信号の生成が可能なリングオシレータ[用語11]型の発振器を用いた。回路面積は世界最小の0.0036mm2であり(図4)、消費電力とジッタ特性に関する性能指標であるFoM[用語12]が-235 dB(デシベル)と、極めて優れた性能を達成した(表1)。わずか0.95mWの消費電力で動作し、スプリアスレベル[用語13]は低く-44 dBcであった。さらにスペクトル拡散クロック機能を有し、低電磁妨害特性を実現した。

本研究成果は、1月27日に集積回路設計技術において権威のあるジャーナルのひとつである「IEEE Solid-State Circuit Letters(米国電気電子学会 固体素子回路レター誌)」に掲載された。

なお本研究は株式会社テラピクセル・テクノロジーズの協力により実現した。

図3. 提案回路を搭載したチップ写真

図3. 提案回路を搭載したチップ写真

表1 20 nmノード以降の先端CMOSプロセスにおけるPLL性能比較

 
本研究
TCAS-I’18
RFIC’18
ISSCC’15
ISSCC’15
発表組織
東工大
& ソシオネクスト
インテル
サムスン
TSMC
サムスン
自動合成可能か?
(Synthesizable)
Yes
No
No
No
No
製造CMOS
プロセスノード
5 nm
14 nm
14 nm
16 nm
14 nm
面積 [mm2]
0.0036
0.021
0.1
0.029
0.009
消費電力[mW]
0.95
2.6
36.3
3.9
2.06
ジッタ[ps]
1.90
15.1
0.982
3.48
18.8
性能指標FOM*[dB]
-235
-212
-225
-223
-211

FoM

図4. 20 nmノード以降の先端CMOSプロセスにおけるPLL回路面積およびFOM比較

図4. 20 nmノード以降の先端CMOSプロセスにおけるPLL回路面積およびFOM比較

今後の展開

本提案技術である高性能クロック回路により、世界最先端の5 nmプロセスによる高性能、低消費電力、小面積のSoCを短期間で設計することが可能になった。また、クロック回路のデジタル化により、将来のSoCの全自動設計への道が拓かれた。ソシオネクストは今回の成果をもとにAIやIoTなど今後も継続して市場の成長が予想される分野で商品やサービスの差異化に寄与するSoCを供給していく。また東工大とソシオネクストは今後も、アナログデジタル変換器などの他の種類のアナログ回路の自動合成を始めとするCMOSミックストシグナル設計の基礎技術開発の分野で協力していく。

用語説明

[用語1] 5 nm FinFET CMOSプロセス : CMOSプロセスはN型とP型のMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)を相補的に用いた集積回路であり、バイポーラプロセスと比較し消費電力の削減と高い集積率を実現したプロセスである。近年の集積回路はほぼCMOSプロセスとなっている。nm(ナノメートル)は10億分の1 m。Finはシリコン基板を短冊状に成形した魚の背びれ状の構造。

[用語2] 分数分周型クロック回路 : 分数分周型(フラクショナルN型)PLL
PLL[用語5]にはインテジャーN型(整数分周型)とフラクショナルN型(分数分周型)がある。インテジャーN型PLLでは基準信号に対して整数倍の周波数を出力するが、フラクショナルN型では分数倍の任意の周波数の出力が可能である。例えば、水晶発振器から入力される基準クロック周波数が26 MHzの場合、インテジャーN 型PLLでは2,418 MHz(93倍)、2,444 MHz(94倍)、2,470 MHz(95倍)の生成が可能であるが、フラクショナルN型PLLでは2,442 MHz(93.923倍)のような任意の小数精度の逓倍動作が可能である。BLE等の無線通信用には、インテジャー型ではなくフラクショナル型のPLLが必要である。アナログPLLではフラクショナル型を比較的容易に実現できるが、小面積低消費電力で有利なデジタルPLLにおいてフラクショナル型のものはジッタ特性が劣化しやすく実現が難しい。

[用語3] ジッタ特性 : クロックの重要な特性の一つで、クロック信号の立ち上がりまたは立ち下りタイミングが揺らぐ現象で、本来のタイミングからのずれが統計的にどれぐらいの幅を持つかで評価する。ジッタが小さいほど、クロックの揺らぎが小さい状況を示す。クロックを生成している発振器の位相雑音[用語4]特性に大きく依存し、位相雑音が低いほど、ジッタも小さくなる。

[用語4] 位相雑音 : 発振器の重要な特性の一つ。必要な周波数の信号に対し、どれだけ不要な周波数のスペクトルを持つかを表す。一般に、位相雑音特性は電力や発振周波数帯に依存する。

[用語5] PLL(Phase-Locked Loop) : 集積回路中では正確な周波数基準が作れないため、水晶発振器による基準周波数frefを用い、それをN逓倍して所望周波数N・frefの周波数の信号を得る。PLLには、位相周波数比較器、チャージポンプ、ローパスフィルタを用いるアナログPLLと、時間差デジタル変換器(TDC)とデジタルローパスフィルタを用いるデジタルPLL(オールデジタルPLLとも呼ばれる)が知られている。

[用語6] スペクトル拡散クロック : デバイスのクロック信号によって生じる外部への電磁妨害を抑えるための技術。デジタル回路は通常クロック信号を基準に動作するため、それに同期したタイミングで配線に電流が流れ、特定のクロックの周波数に集中した電磁妨害を発生してしまう。電磁妨害の対策として金属のシールド等も用いられるが、物理的な実装が必要なためサイズやコストが増大してしまう。一方でスペクトル拡散クロックは、クロックの周波数を意図的に変化させることで、使用する周波数帯域を広げながらエネルギーを拡散させ、電気的に電磁妨害が発生しにくい状態を作り出すことができる。

[用語7] SoC(System on Chip) : プロセッサーやメモリー、その他システムを実現するために必要となるすべての回路が集積された集積回路。特に用途にあわせて設計したSoCをカスタムSoCと呼ぶ。

[用語8] デジタル制御発振器(DCO :Digitally Controlled Oscillator) : デジタル制御値により発振周波数が変化する発振回路。PLLの発振周波数とリファレンス周波数の偏差に応じてDCOに与えるデジタル制御値が決まり、偏差を低下させるようにDCOの発振周波数は変化する。PLLの出力周波数はDCOの発振周波数と一致する。

[用語9] 時間差デジタル変換器(TDC : Time-to-Digital Converter) : 二つの入力信号の時間差をデジタル値に変換して出力する回路。PLLなどの幅広い回路で利用されている。

[用語10] デジタル時間変換器(DTC : Digital-to-Time Converter) : デジタル制御値により、遅延時間が変化する可変遅延回路。デジタル制御遅延回路(DCDL, Digitally-Controlled Delay Line)とも呼ばれる。PLLなどの幅広い回路で利用されている。

[用語11] リングオシレータ : 遅延素子を環状に接続して構成する発振器。可変遅延機構を加えることで周波数を可変とし、デジタル制御発振器を構成することができる。

[用語12] FoM : Figure of Meritの略で、消費電力で規格化したジッタ性能を示す。ジッタと消費電力はトレードオフの関係にあり、発振器の消費電力を増やすとジッタが減少し、消費電力を減らすとジッタが増加する。FoMは、ジッタの標準偏差(σt)と消費電力PDCを用いて、以下の式で定義される。

FoMの式

ジッタ特性が同じでFoMが10dB小さければ、消費電力が10分の1であることに相当する。

[用語13] スプリアスレベル : スプリアスとは必要な信号以外の信号(ここではクロック周波数以外の不要な信号)のことであり、スプリアスレベルはこの不要な信号の強度を表す。スプリアスレベルが高いことは不要な信号が強いことを示し、その場合デジタル回路の誤動作や通信の品質低下、妨害波の発生に影響を与える。デシベル表現で示されることが多く、例えば-44 dBcは必要な信号の電力に対して不要な信号がおよそ25,000分の1に抑えられていることを表す。

論文情報

掲載誌 :
IEEE Solid-State Circuits Letters
論文タイトル :
A Fully-Synthesizable Fractional-N Injection-Locked PLL for Digital Clocking with Triangle/Sawtooth Spread-Spectrum Modulation Capability in 5 nm CMOS
著者 :
Bangan Liu(東工大 研究員)、Yuncheng Zhang(東工大 博士後期課程学生)、 Junjun Qiu(東工大 博士後期課程学生)、Hongye Huang(東工大博士後期課程学生)、 Zheng Sun(東工大博士後期課程学生)、Dingxin Xu(東工大 修士課程学生)、 Haosheng Zhang(東工大 博士後期課程学生)、Yun Wang(東工大 研究員)、Jian Pang(東工大 研究員)、Zheng Li(東工大 修士課程学生)、Xi Fu(東工大 修士課程学生)、白根篤史(東工大 助教)、黒須一司(ソシオネクスト)、中根美徳(ソシオネクスト)、正木俊一郎(ソシオネクスト)、岡田健一(東工大 教授)
DOI :
<$mt:Include module="#G-05_工学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

東京工業大学 工学院 電気電子系

教授 岡田健一

E-mail : okada@ee.e.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3764 / FAX : 03-5734-3764

株式会社ソシオネクスト

正木俊一郎

E-mail : masaki.shunichiro@socionext.com

取材申し込み先

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株式会社ソシオネクスト 経営企画室

Tel : 045-568-1006

製品に関するお問い合わせouter

2019年度「大隅良典基礎研究支援」授与式を開催 若手研究者4名に研究資金を支援

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東京工業大学の40歳未満の若手研究者に対し基礎研究の資金を支援する2019年度「大隅良典基礎研究支援」授与式が1月24日、東工大すずかけ台キャンパスで行われました。

支援採択者との記念撮影(1月25日)

支援採択者との記念撮影
(前列左から長澤竜樹助教、塚本孝政助教、大隅良典栄誉教授、益一哉学長、山科雅裕助教、佐藤浩平助教、後列左から藤澤亘研究推進部長、大竹尚登教授、渡辺治理事・副学長(研究担当)、桑田薫副学長(研究企画担当)、原亨和教授)

「大隅良典基礎研究支援」は2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典栄誉教授からの寄附をもとに東工大が設立した「大隅良典記念基金」を原資にしています。本支援は、長期的な視点が必要な基礎研究分野における若手研究者支援を目的として研究費の支援を行います。40歳未満の本学教員による基礎研究を対象に、1件あたり250万円までを支援します。2019年度に初めて6名を選びました。2回目の今回は42名の応募があり、4名が採択されました。

大隅良典基礎研究支援の概要

対象

以下の1、2の条件を両方満たす研究提案であること。

1.
本学に雇用されている教員、特任教員、研究員で、2019年4月1日現在に40歳未満で、以下の要件を満たす者が原則として単独で行う研究であること(予算措置を伴わない研究協力者との共同研究は可とする。その他条件あり)。
2.
研究の性格が基礎研究であること。
研究支援期間
原則支援開始日より1年間。
ただし、研究計画によっては2年間の計画申請まで可能。
支援申請額
1件あたり250万円まで。
ただし、支援金額は審査により決定し、また提案内容に応じて別途考慮することがある。

2019年度「大隅良典基礎研究支援」採択者一覧

所属
職名
氏名
研究課題
理学院
化学系
助教
山科雅裕
ヤヌス型の分子ピンセットを活用した多色蛍光性超分子ポリマーの合成
生命理工学院
生命理工学系
助教
佐藤浩平
“閉じたミクロ空間”におけるペプチド自己集合化現象の解明
生命理工学院
生命理工学系
助教
長澤竜樹
孵化腺細胞の進化発生学的解析
―新しい進化モデルの提唱を目指して―
科学技術創成研究院
化学生命科学研究所
助教
塚本孝政
球を超える対称性を持つ「超縮退物質」の実験的実証

授与式では、4名の支援採択者に対して益一哉学長から支援決定通知書が手交されました。益学長より本学の基礎研究支援の取り組みについて説明があった後、大隅栄誉教授より祝辞がありました。次いで支援採択者と益学長、大隅栄誉教授、渡辺治理事・副学長(研究担当)ら審査員を交えた懇談が行なわれ、採択者の研究紹介や、活発な意見交換がなされました。

大隅良典栄誉教授
大隅良典栄誉教授

懇談の様子
懇談の様子

懇談の様子
懇談の様子

採択者4名
採択者4名

東京工業大学は、今後も日本の礎となる基礎研究に対する支援を続けていきます。

大隅良典記念基金

大隅良典栄誉教授が2016年、「オートファジーの仕組みの解明」によりノーベル生理学・医学賞を受賞したことを機に、将来の日本を支える優秀な人材を育成するため、経済的支援が必要な学生が本学で学ぶための修学支援(奨学金)並びに長期的な視点が必要な基礎研究分野における若手研究者支援の推進など、研究分野の裾野の拡大を目的として設立しました。

「基礎研究支援」は大隅栄誉教授が、若い人がチャレンジングな課題に取り組める環境整備や次世代を担う研究者の育成支援について要望されたことに基づき、発足しました。

東工大は大隅良典記念基金をさらに充実させるため、寄附を受け付けています。

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お問い合わせ先

研究企画第1グループ

E-mail : kenkik.kik1@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2327

新しい原理で駆動する可視光水分解電極を開発 ありふれた物質に眠る有用な新機能を発見

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要点

  • 酸化チタンと水酸化コバルトを組み合わせた可視光駆動型水分解電極を開発
  • 太陽光に多く含まれる可視光をエネルギー源に水から水素を製造
  • 水分解光電極を駆動する新しい原理を発見

概要

東京工業大学 理学院 化学系の前田和彦准教授、田中秀幸大学院生(2017年度修士課程修了)、岡崎めぐみ大学院生・日本学術振興会特別研究員らは、酸化チタンと水酸化コバルトからなる複合材料が可視光照射下で水を分解する光電極[用語1]として機能することを発見した。

紫外光を吸収して水を光分解できる酸化チタンと、水の酸化の優れた触媒となる水酸化コバルトを組み合わせると、水酸化コバルトから酸化チタンへの電子遷移[用語2]に基づく可視光吸収が生じ、これを水の光酸化に利用して実現した。水分解水素製造だけでなく、二酸化炭素光還元[用語3]への応用も期待される。

前田准教授らの発見により、ありふれた物質同士の単純な組み合わせだけで太陽光エネルギーを化学エネルギーへ変換する革新的機能材料を創出できる可能性が見えてきた。

研究成果は1月31日、米国の科学誌「ACS Applied Materials & Interfaces(米国化学会・アプライド マテリアルズ アンド インターフェース)」オンライン版に掲載された。

研究の背景

水を水素と酸素に分解する光電極の開発は太陽光に多く含まれる可視光を化学エネルギーへ変換する“人工光合成”実現の観点から重要な課題である。酸化チタンに代表されるある種の金属酸化物は合成が比較的容易で、化学的にも安定であることから、水分解の光電極材料として広く研究されてきた。だが、それらのほとんどはバンドギャップ[用語4]が大きいため、紫外光しか吸収できないことが大きな問題となっていた。

研究成果

前田准教授らは透明導電性ガラス上に積層した酸化チタン薄膜に水酸化コバルトを析出させた電極が可視光照射下で水を分解する新たな光電極となることを見出した(図1)。酸化チタンや水酸化コバルト単独では同様の機能は得られず、両者を組み合わせることで生まれる可視光吸収能が機能発現の起源となっていることが明らかとなった。

酸化チタンや水酸化コバルトといったありふれた物質のみを用いて、実現困難な可視光水分解をはじめて実現した。この複合光電極は簡便かつ低コストな手法で作成できるという特徴もあわせもっている。

酸化チタンと水酸化コバルトからなる複合材料を用いた可視光照射下での光電気化学的水分解。酸化チタンのバンドギャップ(=伝導帯と価電子帯のエネルギー差)は大きいため400 nm以上の可視光を吸収できないが、水酸化コバルトから酸化チタンへの電子遷移が生じることで幅広い可視光の利用が可能となった。
図1.
酸化チタンと水酸化コバルトからなる複合材料を用いた可視光照射下での光電気化学的水分解。酸化チタンのバンドギャップ(=伝導帯と価電子帯のエネルギー差)は大きいため400 nm以上の可視光を吸収できないが、水酸化コバルトから酸化チタンへの電子遷移が生じることで幅広い可視光の利用が可能となった。

今後の展開

これまで、可視光で水を分解する光電極の開発には、新材料の探索や既知物質の高性能化など多大な努力がなされてきた。今回の前田准教授らの発見により、ありふれた物質同士を簡便な操作で組み合わせるだけで太陽光エネルギーを化学エネルギーへ変換する革新的機能材料を創出できる可能性が見えてきた。

今後、光電極構造・電解条件の最適化を行うことや類似物質の組み合わせを検討することでさらなる性能向上が見込まれる。加えて今回の複合光電極は水分解水素製造だけでなく、二酸化炭素還元のための光電極部材としての応用も期待される。

また、これまでにない新しい動作原理で働く光電極であることから、その学術的な意義は大きく、詳細な機構解明も今後の重要な課題となる。

付記

本研究は京都大学の内本喜晴教授、内山智貴助教のグループとの共同で行った。

本研究は日本学術振興会 科学研究費補助金 新学術領域計画研究「複合アニオン化合物の新規化学物理機能の創出」(代表:前田和彦 東京工業大学 准教授)、基盤研究B「金属酸化物ナノシートと第一遷移金属酸化物ナノ粒子からなる可視光水分解光触媒」(代表:前田和彦 東京工業大学 准教授)等の助成を受けて行った。

用語説明

[用語1] 光電極 : 半導体からなり、光エネルギーを吸収してキャリア(電子と正孔)を生み出すことのできる電極。同じ粒子上で酸化と還元が起こる光触媒に対して、光電極では酸化と還元の反応場を物理的に分離構築できるため、高効率な太陽光エネルギー変換に有利とされる。

[用語2] 電子遷移 : 物質中のあるエネルギー準位に存在する電子がより高いエネルギーの別の準位へと移動すること。電子の“行き先”は同じ物質内に限らず、それと接している別の物質でも良い。

[用語3] 二酸化炭素(CO2)還元 : 地球温暖化の原因物質であるCO2を、ギ酸や一酸化炭素などの高エネルギー物質に変換すること。特に光エネルギーを利用する場合を二酸化炭素光還元と呼ぶ。効率的な触媒、あるいは光触媒を作り出す研究に、学術面のみならず環境面での関心も高まっている。

[用語4] バンドギャップ : 半導体において電子で占有されたバンドを価電子帯、空のバンドを伝導帯といい、価電子帯と伝導帯の幅の大きさをバンドギャップという。電子は伝導帯の下端を、正孔は価電子帯の上端を動く。

論文情報

掲載誌 :
ACS Applied Materials & Interfaces
論文タイトル :
Water Oxidation through Interfacial Electron Transfer by Visible Light Using Cobalt-Modified Rutile Titania Thin Film Photoanode
著者 :
Hideyuki Tanaka, Tomoki Uchiyama, Nozomi Kawakami, Megumi Okazaki, Yoshiharu Uchimoto, Kazuhiko Maeda
DOI :
<$mt:Include module="#G-03_理学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

東京工業大学 理学院 化学系

准教授 前田和彦

E-mail : maedak@chem.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2239 / Fax : 03-5734-2284

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


シリコンスピン量子ビットの高速読み出しに成功 シリコンスピン量子コンピュータの試料設計に指針

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理化学研究所(理研) 創発物性科学研究センター 量子機能システム研究グループの野入亮人特別研究員、武田健太研究員、樽茶清悟グループディレクター、東京工業大学 工学院 電気電子系の小寺哲夫准教授の共同研究チームは、シリコン量子ドット[用語1]デバイス中の電子スピン[用語2]の高速読み出しに成功しました。

本研究成果は、高精度制御と将来的な集積性の観点から近年注目を集めている「シリコンスピン量子コンピュータ[用語3]」の実現において、重要な課題となっている、「高速量子ビット[用語4]読み出しが可能な試料設計」に指針を与えるもので、今後の研究開発をより一層加速させると期待できます。

通常、シリコンスピン量子コンピュータでは、スピンの情報を電荷状態の情報に変換し、電荷検出測定を行うことで量子ビットを読み出しています。この際重要となる電荷検出の性能は、「高周波反射測定法[用語5]」の適用によって向上できると考えられます。しかしながら、従来、シリコン量子ドットと高周波反射測定法には互換性がなく、試料設計において重要な問題となっていました。

今回、共同研究チームは、高周波反射測定法が適用可能なシリコン量子ドット試料の設計を明らかにし、この技術を用いて電子スピン量子ビットの読み出し時間を従来の10分の1に低減することに成功しました。

本研究は、科学雑誌『Nano Letters』オンライン版(1月16日付:日本時間1月17日)に掲載されました。

シリコン量子ドット試料と高周波反射測定セットアップ

図. シリコン量子ドット試料と高周波反射測定セットアップ

研究支援

本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST「量子状態の高度な制御に基づく革新的量子技術基盤の創出(研究総括:荒川泰彦)」の研究課題「スピン量子計算の基盤技術開発(研究代表者:樽茶清悟)」、文部科学省光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)技術領域「量子情報処理(主に量子シミュレータ・量子コンピュータ)(研究総括:伊藤公平)」の研究課題「シリコン量子ビットによる量子計算機向け大規模集積回路の実現(研究代表者:森貴洋)」、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金若手研究「シリコン量子ドット中の電子スピンを用いた量子計算基盤技術の高性能化に関する研究(研究代表者:野入亮人)」による支援を受けて行われました。

背景

近年、半導体デバイスの微細化による情報処理能力の向上が限界を迎えつつあり、新しい動作原理に基づく次世代型コンピュータの実現が切望されています。特に有望視されているのが、量子力学の原理に基づき、複数の情報を同時に符号化することで超並列計算を実行する量子コンピュータであり、その実用化に向けた研究開発が世界的に活発化しています。

さまざまな物理系を用いた研究が進められていますが、なかでもシリコン量子ドット中の電子スピンを用いた「シリコンスピン量子コンピュータ」は、高精度制御に優れることに加えて注)、既存産業の集積回路技術と相性が良いことから、大規模量子コンピュータの実装に適していると考えられています。

シリコンスピン量子コンピュータ実現に向けて解決すべき課題の一つとして、量子ビットの高速かつ高精度な読み出しが挙げられます。通常、単一電子スピンの向きの直接的な測定は困難なため、量子ビットの読み出しは、量子ビットの情報をスピン電荷変換[用語6]によって測定が容易な電荷状態に変換し、電荷検出することで達成しています。これまでの研究により、スピン電荷変換を高速かつ高精度に実行する技術は確立しており、高性能な電荷検出技術の開発が急務となっていました。

量子ドット中の電子の電荷検出は、一般に量子ドット近傍に配置した電荷計[用語7]の伝導度測定により行われます。この電荷計の性能は、電荷計を高周波共振回路に組み込み、「高周波反射測定」を行うことで向上できることが知られています。高周波共振回路は、インダクタ[用語8]、電荷計による伝導度、配線や試料上で生じる寄生容量[用語9]で構成されています(図1右)。この回路に、50オームの特性インピーダンス[用語10]を持つ同軸線を介して高周波信号を入射させると、高周波共振回路のインピーダンス[用語10]に応じて反射が起こります(図1左の青赤矢印)。高周波共振回路のインピーダンスは電荷計の伝導度に強く依存するため、高周波反射信号の測定により、電荷計の伝導度、すなわち量子ドットの電荷状態を高速かつ高精度に測定することができます。

この技術は、以前から研究の進んでいた砒化ガリウム量子ドット試料においては確立されていましたが、スピン量子コンピュータにより適するシリコン量子ドット試料に適用するのは困難でした。

図1. 高周波反射測定セットアップと等価回路

図1. 高周波反射測定セットアップと等価回路

左:
シリコン量子ドット試料と測定セットアップ。半導体基板(シリコン/シリコンゲルマニウム)上に作製した金属ゲート電極構造(黄色、赤色の領域/線)に、電圧をかけ、真ん中の黄色の丸矢印のスピンで示した部分(量子ドット)に電子を一つずつ閉じ込める。右のオレンジ色の丸で示した部分は電荷計として動作する。白のスケールバーは0.2マイクロメートル(µm、1 µmは100万分の1メートル)を表す。
右:
高周波共振回路の回路図。インダクタと寄生容量は固定値となっており、電荷計の伝導度に応じて全体のインピーダンス(赤枠内)が変化する。このインピーダンスと同軸線の特性インピーダンスの差が小さいほど反射も小さくなる。
注)
2017年12月19日プレスリリースシリコン量子ドット構造で超高精度量子ビットを実現|国立研究開発法人 科学技術振興機構outer

研究手法と成果

共同研究チームは、高周波反射測定法が適用可能なシリコン量子ドット試料の設計を明らかにしました。量子ドット構造は、シリコンスピン量子コンピュータで一般的に用いられている、シリコン/シリコンゲルマニウム量子井戸[用語11]基板上に金属微細加工を施すことで作製しました(図2下)。量子ドットは、絶縁層を挟んで作製したトップゲート電極に正電圧を加えることで量子井戸中に電子を誘起し、さらに微細ゲート電極に適切な電圧を加えると形成できます。

トップゲート電極で電子を誘起すると、量子井戸とトップゲート電極の間で静電容量が生じます。この誘起された静電容量はトップゲート電極の大きさに比例し、高周波共振回路の寄生容量に加算されるため、高周波反射測定法の動作に影響を及ぼします。そこで、トップゲート電極の大きさが異なる二つの試料を作製し(図2上)、比較することで高周波反射測定に適するトップゲートの設計を明らかにしました。

図2. 高周波反射測定が可能な試料設計と試料構造

図2. 高周波反射測定が可能な試料設計と試料構造

上:
従来の形状のトップゲート電極試料(左)と新しく設計したトップゲート電極試料(右)の光学顕微鏡写真。青枠で囲った部分にはリンイオンを注入しており、電極として動作する。緑の部分は、下図の緑枠の構造となっており、この領域分だけ寄生容量が増加する。新しく設計した試料では、従来試料と比べて緑の部分の面積が100分の1程度となっている。
下:
試料構造の断面。トップゲート電極に正電圧を加えることで、リンイオン注入領域から量子井戸に電子を誘起することができる。

一般に電荷計が量子ドットの電荷状態に対して感度を持つのは、伝導度がe2/heは電荷素量、hはプランク定数)以下程度であることが知られています。さらに、高周波反射測定を適用するには、反射率が伝導度に高い感度を持つという条件を満たす必要があります。反射率が感度を持つ伝導度はインダクタと寄生容量の大きさで決まるので、上記の条件を満たすためには、寄生容量を1ピコファラド(pF、1 pFは1兆分の1ファラド)以下程度に抑える必要があります。

従来の設計の試料(図2左上)では、トップゲート電極により誘起される寄生容量が数pFにもなり、これが高周波反射測定を適用できない理由であると考えられます。実際にこの試料で高周波反射測定を行ったところ、トップゲート電極により量子井戸に電子を誘起すると、2.7 pFの寄生容量が生じることが分かりました(図3左上)。またこの試料では、高周波の反射率は、電荷計の伝導度の変化に対して感度がないことも分かりました(図3左下)。一方で、新しく設計した試料(図2右上)で同様の測定を行ったところ、トップゲート電極により生じる寄生容量を0.01 pFに低減することができ、また反射信号は伝導度に対して高い感度を持つことが分かりました(図3右)。

これらの結果から、従来のシリコン試料で高周波反射測定が適用できない理由と、この問題を解決する試料設計を明らかにしました。

図3. 従来および新しく設計した試料における高周波反射測定結果の比較

図3. 従来および新しく設計した試料における高周波反射測定結果の比較

左:
従来の設計の試料における高周波反射測定結果。上図は量子井戸に電子を誘起していない状態(青)と誘起した状態(赤)における反射信号の周波数特性。それぞれの色の矢印で示した反射信号の谷が共振条件となっており、この条件から寄生容量を計算できる。トップゲート電極により誘起した寄生容量は2.7 pFであった。下図は電荷計の伝導度(青)と同時に測定した反射信号(赤)。周波数は共振条件に固定してある。電荷計として動作するe2/h以下の伝導度において、反射信号が伝導度の変化に感度を持っていないことが分かる。
右:
左図と同様の測定を新しく設計した試料で行った結果。上図から、トップゲート電極により誘起した寄生容量は0.01 pFであった。下図では、センサーゲート電圧 -0.55 V付近で、反射信号が伝導度の変化に高い感度を持つことが分かる。

最後に、高周波反射測定法を用いて、スピン量子ビットの読み出しが高速かつ高精度であるかを調べました。今回新しく設計した試料を用いてランダムな状態に用意した量子ビットの読み出しを多数回繰り返し、ヒストグラムにすると、量子ビットの状態に応じた二つのピークが観測されました(図4左)。この測定では積算時間が0.8マイクロ秒(µs、1 µsは100万分の1秒)であり、従来(12.5 µs)の10分の1以下の時間で量子ビットの読み出しを実証しました。また、この測定における二つのピークの間隔(信号:約210 mV)とピークの広がり(雑音:約35 mV)の比である信号雑音比は6.0となっており、99%以上の精度で読み出しが可能であることが分かりました。

さらに、信号雑音比は測定の積算時間が長くなるほど良くなり(図4右)、1.8 µsでは信号雑音比が7.9となり、99.99%以上の精度で読み出しが可能であることを実証しました。

図4. 高速スピン量子ビット読み出しと性能評価

図4. 高速スピン量子ビット読み出しと性能評価

左:
ランダムな状態に用意した量子ビットの読み出し結果。二つのピークは、それぞれ量子ビットが0(左)と1(右)の状態に対応する。黒い点線で示した値(-586 mV)に対して、高周波反射信号が小さいか大きいかで量子ビットの状態が0か1か判別できる。二つのピークの間隔(信号)は約210 mV、ピークを正規分布とした場合の標準偏差にあたる広がり(雑音)は約35 mVである。それらの比である信号雑音比は6.0となり、99%以上の精度で読み出しが可能である。
右:
信号雑音比が積算時間に対して増大する様子。1.8 µsでは、信号雑音比が7.9となり、99.99%の読み出しが可能である。

今後の期待

本研究では、シリコンスピン量子コンピュータの主要な課題の一つとなっている高速量子ビット読み出しが可能な試料設計を明らかにし、実際に99%以上の精度を維持したうえで読み出し時間を10分の1に改善することに成功しました。

この成果は、近年進展が著しいシリコンスピン量子コンピュータの今後の試料設計に指針を与え、基本原理検証を超えた大規模化に向けた研究開発をより一層加速させるものと期待できます。

用語説明

[用語1] 量子ドット : 電子を空間的に3次元全ての方向に閉じ込めることで運動を制限し、0次元構造としたもの。その性質から人工原子とも呼ばれ、電子を一つずつ出し入れすることができる。

[用語2] 電子スピン : 電子が右回りまたは左回りに自転する回転の内部自由度のこと。この回転の向きに応じて、通常上向きまたは下向きの矢印で表される。

[用語3] 量子コンピュータ : 量子力学における重ね合わせを利用して、超並列計算を実現するコンピュータ。従来のコンピュータでは天文学的な時間のかかる因数分解の問題などを、数時間で解くことができる量子アルゴリズムが開発されており、超高速計算が可能になると考えられている。

[用語4] 量子ビット : 電子スピンの向きなどに符号化された量子情報の最小単位のこと。通常のデジタル回路では「0もしくは1」の2状態に情報が保持されるのに対し、量子ビットでは「0でありかつ1でもある」状態を任意の割合で組み合わせて表現することができ、これを量子力学的な重ね合わせ状態と呼ぶ。このことを表現するために、通常量子ビットの状態は任意の向きの矢印によって表される。

[用語5] 高周波反射測定法 : ある系に高周波を加え、その反射信号を測定することで、対象の系のインピーダンスを測定する方法。本研究では、高周波共振回路のインピーダンスを測定することで、電荷計の伝導度を高速かつ高精度に測定できる。

[用語6] スピン電荷変換 : スピン状態に応じて電荷遷移の有無が生じる現象を利用して、スピンの情報を電荷状態に変換する方法。例えば、二重量子ドットにおいて各ドットに一つずつ電子が入っている場合、これらのスピンが反並行であれば、一つのドットにもう片方のドットから電子が移れるものの、並行の場合はパウリの排他律によって電子の移動が抑制される現象などがある。

[用語7] 電荷計 : 電荷状態を測定したい対象の量子ドットの近傍に配置した、量子ドットもしくは量子ポイントコンタクトと呼ばれる一次元伝導チャネルなどのこと。電荷計は対象の量子ドットと静電結合しており、その伝導度は周囲の静電環境に敏感となっている。電荷計の伝導度測定によって、対象の量子ドットの単一電子レベルの電荷状態の変化を検出可能。

[用語8] インダクタ : 一般に電線を巻いたコイルによってできており、流れる電流によって形成される磁場にエネルギーを蓄えることができる素子のこと。インダクタのインピーダンスは周波数に比例して大きくなり、静電容量と共に電子回路の基本構成要素となっている。

[用語9] 寄生容量 : 電子回路において、配線など向かい合う導体に電位差が生じた場合などに発生する、設計者が意図しない静電容量のこと。

[用語10] インピーダンス、特性インピーダンス : 交流回路の電圧と電流の比のことをインピーダンスと呼ぶ。直流回路の場合の抵抗に対応し、単位もオームである。交流回路の基本構成要素である、インダクタや静電容量のインピーダンスは周波数に対して依存性を持つ。また、交流信号を伝送する配線のインピーダンスは50オームに設計されていることが多く、このインピーダンスを特性インピーダンスと呼ぶ。

[用語11] 量子井戸構造 : ある方向の電子の運動を束縛した構造のこと。電子は束縛されていない2次元方向にのみ運動が可能。通常数ナノメートル程度の薄膜を異なる材料で挟むことで構成する。

論文情報

掲載誌 :
Nano Letters
論文タイトル :
Radio-Frequency-Detected Fast Charge Sensing in Undoped Silicon Quantum Dots
著者 :
Akito Noiri, Kenta Takeda, Jun Yoneda, Takashi Nakajima, Tetsuo Kodera, and Seigo Tarucha
DOI :
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お問い合わせ先

理化学研究所 創発物性科学研究センター 量子機能システム研究グループ

特別研究員 野入亮人

研究員 武田健太

グループディレクター 樽茶清悟

東京工業大学 工学院 電気電子系
准教授 小寺哲夫

E-mail : kodera.t.ac@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3421

取材申し込み先

理化学研究所 広報室 報道担当

E-mail : ex-press@riken.jp
Tel : 048-467-9272 / Fax : 048-462-4715

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

基礎研究機構 2019年度成果報告会・交流会 開催

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最先端科学技術を担う若手研究者を育成するために東京工業大学が設立した基礎研究機構(小山二三夫機構長)の2019年度成果報告会・交流会が、1月24日、東工大すずかけ台キャンパスS8棟レクチャーホールで開催されました。来賓として文部科学省研究振興局から村田善則局長、金子忠利基礎研究推進室長らが出席し、益一哉学長ら本学関係者を合わせて、出席者総数は110名を超える催しとなりました。

基礎研究機構は、本学が世界をリードする最先端研究分野である「細胞科学分野」(大隅良典塾長)と「量子コンピューティング分野」(西森秀稔塾長)の2つの「専門基礎研究塾」と、本学のすべての新任助教が塾生として3ヵ月間研さんする「広域基礎研究塾」(大竹尚登塾長)から構成されます。

成果報告会の会場

成果報告会の会場

成果報告会は、小山機構長の挨拶で始まり、次いで益学長から塾生への激励がありました。

益一哉学長

益一哉学長

我々が若い頃とは研究環境が大きく異なり、研究に時間を割くことが難しくなっている。本学の経営戦略の1つとして、若手研究者にたくさんの研究時間を与えることができるよう環境を整える。その時間を有効活用して、色々な方々とインタラクションしてコミュニケーションの機会を沢山持って欲しい。我が国の基礎研究を支える人材になるよう、塾生の皆さんには頑張って頂きたい。

来賓の挨拶として文部科学省の村田局長から祝辞を頂きました。

村田善則 文科省研究振興局長

村田善則 文科省研究振興局長

基礎研究機構は、2016年に大隅良典先生のノーベル賞受賞を契機に若手研究者を育成し続けるには何ができるのかを熟考され、新たな課題に挑戦する場として創設されたと聞いている。世界の最先端を突き進む大隅先生と西森秀稔先生が率いる専門基礎研究塾は、若手研究者にとって、非常に恵まれた研究環境だと思う。また、大竹尚登先生が塾長の広域基礎研究塾では、様々な専門分野の研究者がお互い切磋琢磨することで、思いがけないシナジー効果が生まれることが期待される。

「塾」という言葉は、緒方洪庵が開いた「適塾」、適塾を卒業した福沢諭吉が創立した「慶應義塾」、また、吉田松陰が指導した「松下村塾」を想起させる。いずれも卓越した人材を残したことから、東京工業大学の本機構への意気込みが伝わって来る。若手研究者の育成については、政府としても非常に重要な課題と考えており、文部科学省においては2019年度補正予算により「創発的研究支援事業」を新設した。本機構の取り組みが将来のイノベーション創出を担う若手研究人材の輩出に繋がることを祈念している。

続いて、大隅良典塾長(専門基礎研究塾 細胞科学分野)、西森秀稔塾長(専門基礎研究塾 量子コンピューティング分野)、大竹尚登塾長(広域基礎研究塾)から、それぞれの塾の活動について紹介がありました。

大隅塾長(専門基礎研究塾 細胞科学分野)

大隅塾長(専門基礎研究塾 細胞科学分野)

現在の日本では、2つのことがまだ十分に理解されていないと感じる。ユニバーシティというのが広く対話・活動することができる環境であるべきということと、研究者が楽しく研究できる環境が重要だということだ。

当専門塾の活動は以下の4つ。来年度も本年度と同様に4つの活動を継続していきたい。

1.
談話会:シニア教員から若手にメッセージを提供。本年度は5回開催。
2.
コロキウム:国内外の講師を招き、最先端の研究成果を紹介頂く。本年度は11回開催。
3.
塾生研究費:海外での活動を経済的に支援。
4.
共同実験室・共同利用機器:共用実験室の整備・拡大。

西森塾長(専門基礎研究塾 量子コンピューティング分野)

西森塾長(専門基礎研究塾 量子コンピューティング分野)

量子アニーリングは、我々の研究室で22年前の学位論文から始まり、北米でのイノベーションを経て、産業化への大きな流れができた。Googleは量子アニーリングの自社マシーンを作成し、徹底的に使い倒して、量子ゲート方式の実装に成功した。

当専門塾では理論が中心で実験機器はない。専門塾の活動は以下の2つ。来年度も活動を継続する。

1.
セミナ-:国内外の企業人も含めた幅広い研究者を招き、基礎から産業応用までの話題を提供頂く。本年度は11回開催。
2.
塾生研究費:海外での研究成果を報告。本年度は2件。

大竹塾長(広域基礎研究塾)

大竹塾長(広域基礎研究塾)

文部科学省に初めて陳情した時は専門基礎研究塾だけの構想だった。その際、「東工大の若手全員を対象にした塾もあれば面白い」とのご意見を頂いたことから、広域基礎研究塾が生まれた。若手全員を対象としては教育・研究に重大な支障が出るため、新任助教に限定した。本年度は29名の塾生を選抜し、3ヵ月の期間に限定して研究エフォートを上げることにした。広域塾のゴールは「自分のテーマを深く考える」ことをオリエンテーションで徹底し、異分野融合を前提とした自己紹介の「研究分野紹介発表会」、自分の研究から身を引いて社会との関わりを俯瞰する「ワークショップ」、深掘りした研究テーマを発表する場の「研究テーマ設定発表会」をそれぞれ開催した。また、個別面接により、入塾前後での研究エフォートや研究環境をヒアリング調査した。更に、「大隅先生を囲む会」を開催した。大隅先生の半生を伺った後に、ざっくばらんな話を先生と、或いは塾生同士でできる機会は大変好評だった。良い研究テーマが多数輩出されたことを契機に、「新研究挑戦奨励金」を大学から拠出し、広域塾生が応募した。また、塾における事後の塾生アンケート(匿名)では、様々な意見が出た。概ねポジティブな意見だったが、一部ネガティブな意見もあり、いろいろな意見があってよいと捉えている。今後の重要課題は、養成する能力の明確化、長期的視点での予算獲得、他組織との連携。本年度の塾生29名は誇るべき人材であったというのがもっとも伝えたいことである。

交流会の会場
交流会の会場

伊能教夫副機構長の挨拶により成果報告会は終了し、その後、別会場で交流会が開催されました。80名近い参加者が和やかな雰囲気の中で、今後の基礎研究機構の運営や本学の将来について意見を交わしました。また、専門基礎研究塾と広域基礎研究塾の全塾生のポスター47件を掲示し、熱心な学術的な討論を繰り広げました。

交流会でのポスター発表で議論する参加者と大隅塾長(左から2人目)
交流会でのポスター発表で議論する
参加者と大隅塾長(左から2人目)

交流会で参加者と議論する益学長(左から2人目)と村田局長(中央)
交流会で参加者と議論する益学長(左から2人目)と村田局長(中央)

基礎研究機構とは

本学は、最先端研究領域を開拓し、世界の研究ハブの地位を継続的に維持・発展させるために必須な基礎研究者を育成する場として、2018年7月、基礎研究機構を科学技術創成研究院に設置しました。本機構は、2つの専門基礎研究塾と広域基礎研究塾からなります。

専門基礎研究塾では、基礎研究で顕著な業績を有する本学の研究者を専門基礎研究塾の塾長に据えるとともに、若手研究者の研究エフォート(職務時間のうち研究に集中できる時間の割合)を現在の6割(平成26年度文科省調査より推計)から9割に増加させるために、人、資金、スペース等のリソースを投入し、5年程度研究に集中できる環境を整備することで、卓越した研究者を養成します。2019年4月現在、細胞科学分野には14名、量子コンピューティング分野には2名の塾生がいます。

広域基礎研究塾では、本学の全ての分野の若手研究者を対象として3ヵ月間研究エフォートを9割に増加させ、研究テーマを落ち着いて考えるなど研究に集中する機会を設けます。2019年6月現在、29名の研究者が塾生として所属しています。

その結果として、基礎研究が実る節目と言われている10年程度を経た2030年以降に卓越した研究成果を継続的に生むことを目指しています。

お問い合わせ先

基礎研究機構事務局

E-mail : ofr@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3702

組合せ最適化問題を高速に解く新しいアニーリングマシンを開発 世界初の全結合型アニーリングプロセッサLSIで高いエネルギー効率を実現

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要点

  • 組合せ最適化問題を高速に解く新たなアニーリング処理モデルを構築
  • このモデルにより全結合型アニーリングプロセッサLSIを世界で初めて開発
  • 実応用性に優れ、従来比2桁以上のエネルギー効率改善を実現

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院の本村真人教授らは、北海道大学、日立北大ラボ、東京大学と共同で、スマート社会においてますます重要となる組合せ最適化問題を高速に解くことができる新しいアニーリング処理方式と、それを利用した新しいプロセッサLSIの開発に成功した。

アニーリング処理は「局所型」よりも「全結合型」の方が応用範囲は格段に広い反面、高速に解くのが難しく、これまで全結合型のアニーリングプロセッサLSIは発表されていなかった。本研究では、全結合型のアニーリング処理を高速に解く新たなモデル「ストカスティック・セルラー・オートマタ(SCA)」を提案するとともに、このモデルを全並列・高速に実行するプロセッサアーキテクチャを開発し、世界初の全結合型アニーリングプロセッサLSI「STATICA」を実現した。STATICAは既存の手法に比べて、少なくともアニーリング処理の性能を数倍、エネルギー効率を2桁以上向上させることができる。

研究成果の詳細は2月17日から米国サンフランシスコで開催された「ISSCC2020(国際固体素子回路会議)」で発表された。

本研究開発は、

科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域:
「Society5.0を支える革新的コンピューティング技術」
研究総括:
坂井修一(東京大学 大学院 情報理工学系研究科 教授)
研究課題:
「学習/数理モデルに基づく時空間展開型アーキテクチャの創出と応用」
研究代表者:
本村真人(東京工業大学 科学技術創成研究院 教授/AIコンピューティング研究ユニット ユニット長)

により推進されたものである。

また、日立北大ラボは、日立製作所と北海道大学が2016年6月に開設したオープンラボであり、北海道における少子高齢化や人口減少などの社会課題を解決し、地域創生につながる共同研究を推進している。

背景

組合せ最適化問題とは、さまざまなパラメータ(選び得る変数)の組合せの中からベストな解を選択する問題である[解説1]。交通、金融、製造・流通、化学・創薬・医療など、さまざまな分野の重要な問題が組合せ最適化問題に帰着することが知られているが、変数の数が多くなるにつれて、その組合せが爆発的に増大するため、従来型の計算機では効率的に解くことが難しい。

組合せ最適化問題の近似的な計算技法として、従来「アニーリング処理方式」[解説2]が用いられており、これを実現する計算システムはアニーリングマシンと呼ばれている。アニーリング処理には「局所型」と「全結合型」の二つのカテゴリー[解説3]があり、後者の方が応用範囲は格段に広い反面、高速に解くのが難しいことが知られている。このため、これまで全結合型のアニーリング処理を行うプロセッサLSIは存在していなかった[解説4]

研究成果

本研究ではまず、組合せ最適化問題を高速に解くことができる新しいアニーリング処理モデル「ストカスティック(確率的)・セルラー・オートマタ」(Stochastic Cellular Automata:SCA)を構築した。従来のアニーリングマシンは基本的には「シミュレーテッド・アニーリング」(Simulated Annealing:SA)か、SAに類似する計算手法をベースにしていた。SAでは原理的に、ある疑似スピンの値が変わると、これとつながる全ての疑似スピンに与える影響を改めて計算する必要があった。このため、疑似スピンの値の更新は逐次的にならざるを得なかった(図1左)。これに対し、SCAでは全疑似スピンの値を並列に更新することができる(図1右)。

図1. SAとSCAの比較

図1. SAとSCAの比較

研究チームは、このSCAによって、SAと同じ最適解を探せることを数学的に証明し、SCAを用いたアニーリングプロセッサLSIが実現可能であることを明らかにした。SCAにおける並列な疑似スピン更新は、更新したい疑似スピンにかかる相互作用係数を読み出し、現在の疑似スピンの値と演算することで行われる。この理解をもとに、相互作用係数をメモリに記憶させ、そのメモリから並列に相互作用係数を読み出し、メモリに付随したロジック回路で並列演算することで、SCAの計算を効率よく実行できることを発見した。このニアメモリ(メモリのすぐ近くで演算を行うことを指す言葉)型のアーキテクチャ(図2)を、「STATICA」(Stochastic Cellular Automata Annealer)と名付けた。

図2. STATICAアーキテクチャ

図2. STATICAアーキテクチャ

このアーキテクチャに基づいて、512疑似スピンの並列更新ができるように構成したアニーリングプロセッサLSI「STATICA」(図3)を開発した。これはTSMC社の65 nmプロセスで試作したチップであり、わずか3 mm×4 mmの大きさで512疑似スピンからなるイジングモデルのアニーリング処理を並列に実行できる。消費電力はわずか600 mW程度である。

図3. アニーリングプロセッサLSI:STATICA

図3. アニーリングプロセッサLSI:STATICA

近年、全並列型のアニーリングマシンが徐々に注目されるようになり、いくつかのマシンが提案されている。しかしSTATICA技術は図4のように、そうした既存技術と比べて、アニーリング速度、消費電力、答えの精度のいずれにおいても、非常に高い指標を達成することができる(少なくともアニーリング速度では数倍、エネルギー効率では2桁以上の向上)。

図4. STATICAと既存の全並列型アニーリングマシンの比較(512疑似スピン対応のSTATICA試作チップから2000疑似スピン搭載STATICAチップの性能を外挿)

図4. STATICAと既存の全並列型アニーリングマシンの比較
(512疑似スピン対応のSTATICA試作チップから2000疑似スピン搭載STATICAチップの性能を外挿)

今後の展開

今回開発したSTATICA試作チップでは、オンチップの疑似スピン数が512個となっているが、STATICAのアーキテクチャ自体は疑似スピン数をスケーラブルに拡大し、より大規模な疑似スピンシステムでも並列更新を実現できることを特徴としている。今後は、社会に存在するさらに複雑で大規模な組合せ最適化問題を高速に解くトータルソリューションの実現を目指して、今回開発したチップのキャパシティ強化を進めていく。さらに、ディープラーニング・機械学習技術等を含む知識情報処理システム全体へのインテグレーションに取り組むことにより、このチップの早期の実用化を目指す。

解説

[解説1] 組合せ最適化問題の有名な例として、複数の都市をどの順番に回れば一番効率が良いかを決める「巡回セールスマン問題」がある。変数の数(都市の数)が多くなるとともに、その組合せが爆発的に増大するため、従来型の計算機では効率的に解くことが難しい。

[解説2] アニーリングとは、金属工学焼きなまし法(=時間をかけて冷却することで、金属原子の並び方を最適にする)に着想を得た組合せ最適化問題の近似的な計算技法。近年注目されている量子アニーリングは、極低温に冷却した際に現れる量子効果を用いてこのアニーリングを実現する方法である。本研究の成果は、量子効果に頼らずに、室温の一般的な集積回路の並列演算で、量子アニーリングを凌駕するアニーリング能力を実現できることを示唆している。

[解説3] アニーリング処理においては、まず、解くべき本来の組合せ最適化問題を、1または-1を取る二値の変数(疑似スピンと呼ばれる)の集合体とそれら疑似スピン間の相互作用群(イジングモデルと呼ばれる)に変換する。この際相互作用が、近接する疑似スピン間に限られているものを「局所型」、疑似スピンの集合全体の中に制限なく自由に相互作用を許すものを「全結合型」と呼ぶ。組合せ最適化問題をイジングモデルに変換する際に、局所型では十分な表現能力がないため、現実社会の複雑な問題に対応するのが難しいことが知られている。このため、全結合型のアニーリング処理を効率よく実行できるソリューションが求められている。

[解説4] 量子アニーリング分野でよく知られたD-Wave社のシステムは局所型であり、[解説3]で述べたように応用の難しさがあると言われている。一方、全結合型を狙った研究が主に日本の企業で活発に進められているが、FPGA(Field Programable Gate Array)やGPU(Graphics Processing Unit)をプログラムして実現するタイプの物である。CMOS集積回路を用いて作成された全結合型アニーリングを処理するプロセッサLSI(Large Scale Integrated Circuits)は、本発表が世界で初めてである。

発表情報

会議情報 :
International Solid-State Circuits Conference (ISSCC) 2020, Feb., 17-19, San Francisco.
論文タイトル :
STATICA : A 512-Spin 0.25M-Weight Full-Digital Annealing Processor with a Near-Memory All-Spin-Update-at-Once Architecture for Combinatorial Optimization with Complete Spin-Spin Interactions
発表責任者 :
本村真人

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院
AIコンピューティング研究ユニット

教授 本村真人

E-mail : motomura@artic.iir.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5654 / Fax : 045-924-5654

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

ガリウムが別元素の性質に変化 超原子と呼ばれる特殊な粒子を作り出すことに成功

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要点

  • ガリウムの金属クラスターによる「超原子」の合成に成功
  • 13原子クラスターが特異な硬さと化学特性を示すことを解明
  • ガリウムクラスターの原子数を規定することで、ハロゲンに似た性質が発現

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院の神戸徹也助教、山元公寿教授らの研究グループは、数原子からなるガリウム[用語1]金属クラスター[用語2]を有機高分子であるデンドリマー[用語3]を用いて合成し、それが超原子[用語4]と呼ばれる特殊なクラスターになることを見出した。

ガリウムは融点が約30度と異常に低い金属として有名であり、低融点合金材料や水銀の代替金属として利用されている。こうしたガリウムの性質が1ナノメートル(nm)程度のクラスターにすることで劇的に変化することが分かった。なかでも13個のガリウム原子からなるクラスターはハロゲン[用語5]に似た物理的・化学的性質を有していることが明らかとなった。今回の研究で実証した超原子を合成する手法は材料を構成単位から新たに生み出す手法であり、これまでにない様々な新素材の開拓に繋がるものと期待される。

研究成果は2月21日(ドイツ時間)発行の『Advanced Materials(アドバンスド・マテリアルズ)』オンライン版に掲載された。

背景

物質の新しい構成単位として「超原子」が注目されている。超原子は元素に似た電子軌道[用語6]を作り出せる金属クラスターである。この超原子は構成する原子の種類や組成により性質が変化するため、構造をデザインすることで様々な元素の性質を人工的に作り出すことができるとされている。このような元素を設計できる超原子は、レアメタル[用語7]の代替のみならず、現在の周期表では表せない新元素も作り出せる可能性があるとして期待されている新しい物質群である。

しかしながら、こうした超原子の合成はこれまで気相系での極微量合成が主であった。そのため、素材として利用するには量合成やクラスターの組成を制御した手法が必要とされていた。

研究成果

神戸助教、山元教授らは樹状高分子であるデンドリマーを用いてガリウムクラスターを合成することで、ハロゲン超原子の液相での合成に成功した。

図1. ガリウムによるハロゲン超原子の合成

図1. ガリウムによるハロゲン超原子の合成

樹状高分子であるフェニルアゾメチンデンドリマー[用語8]に塩化ガリウムを集積し、これを還元することで13個や3個などガリウムの原子数を精密に規定した金属クラスターを合成した。得られたクラスターの特性を調べ、13個のガリウム原子からなる金属クラスター[Ga13]がハロゲンに似た性質を持つことを酸化還元特性やクラスターの硬さから実証した。

図2. 合成したガリウムクラスター。(A、B)[Ga13]クラスターのSTEM像 (C)ガリウムクラスターの構成原子数と観測サイズ

図2. 合成したガリウムクラスター。(A、B)[Ga13]クラスターのSTEM像 (C)ガリウムクラスターの構成原子数と観測サイズ

研究の経緯

神戸助教、山元教授らはこれまでに、アルミニウムクラスターの超原子を合成し、その物性について明らかにしてきた。今回はガリウムを用いることで新たな超原子への展開に成功した。

今後の展開

超原子は設計次第で、安価な元素から希少元素の特性を生み出せるとされている。それを実現していくには数個の金属元素を精密に組み上げる必要がある。今回の研究ではガリウムを用いたが、別の元素でも超原子を作ることは可能であり、また合金化することでその可能性はさらに広がると期待される。

用語説明

[用語1] ガリウム : 原子番号31の元素で、元素記号は Ga。ヒ素との化合物のガリウムヒ素(GaAs)は化合物半導体に、窒化ガリウム(GaN)は発光ダイオードに使われている。

[用語2] 金属クラスター : 金属原子が数個から十数個集まって、一つの化合物のような特定の構造単位をもった物質。原子同士が直接結合するものや配位子によって結合するものなどがある。

[用語3] デンドリマー : 樹状高分子。コアと呼ばれる中心構造と、デンドロンと呼ばれるコアから樹状に延びる側鎖構造から構成される特殊な高分子。

[用語4] 超原子 : 構成する元素とは異なる別の元素に似た電子状態を有するクラスター。構成する元素の種類や組成により特性が変化し、構造をデザインして周期律に従った元素の性質を模倣できるため、元素を代替できる手法として注目されている。

[用語5] ハロゲン : 周期表の17 族元素の総称。具体的にはフッ素・塩素・臭素・ヨウ素・アスタチンが相当する。一般的に電気陰性度が高く1価のアニオンになりやすい性質がある。

[用語6] 電子軌道 : 電子の分布や振る舞いを表すもの。原子に対する原子軌道にはs・p・d・fなどの種類が存在する。

[用語7] レアメタル : 産業に広く利用されているが、流通量・存在量が少なく希少な金属。

[用語8] フェニルアゾメチンデンドリマー : 金属に配位できるフェニルアゾメチンを側鎖部位に持つ樹状高分子。金属を中心部から段階的に集積することができるため、望みの金属数を集めることができる。

付記

本研究は日本学術振興会(JSPS)、科学技術振興機構(JST-ERATO)、東京工業大学技術部すずかけ台分析部門、東京大学微細構造解析プラットフォーム、およびダイナミック・アライアンスの支援・協力を受けて行なわれた。

論文情報

掲載誌 :
Advanced Materials
論文タイトル :
Superatomic Gallium Clusters in Dendrimers: Unique Rigidity and Reactivity Depending on their Atomicity
著者 :
Tetsuya Kambe, Aiko Watanabe, Meijia Li, Takamasa Tsukamoto, Takane Imaoka, and Kimihisa Yamamoto*
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

教授 山元公寿

E-mail : yamamoto@res.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5260 / Fax : 045-924-5260

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

NHK Eテレ「サイエンスZERO」に瀧ノ上正浩准教授と小長谷明彦名誉教授が出演

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東京工業大学 情報理工学院 情報工学系の瀧ノ上正浩准教授と小長谷明彦名誉教授(同学院 特任教授)が、NHK Eテレ「サイエンスZERO」に出演します。

「サイエンスZERO」は、私たちの未来を変えるかもしれない最先端の科学と技術を紹介する番組です。今回は、DNAを「材料」に、ナノサイズの極小ロボットを作る新技術「DNAオリガミ」の研究が紹介されます。

取材内容に関する図.

取材内容に関する図.

取材内容に関する図

瀧ノ上准教授のコメント

瀧ノ上准教授

近年、DNAは、ナノサイズの分子コンピュータ、大容量データストレージ、分子ロボット、人工細胞、核酸医薬、ゲノム編集、ゲノム合成など多岐にわたる分野で注目を集めています。そこでは、DNAの物理学と情報科学に基づく、DNAナノテクノロジーが重要な役割を果たしています。今回は、当研究室の最新の研究成果である、DNAオリガミによる細胞サイズの微小カプセルについて紹介していただくことになりました。

小長谷名誉教授のコメント

小長谷名誉教授

DNAナノ技術や分子ロボットのような最先端技術の研究開発においては、お手本となるような先行研究がないため、何はして良くて、何はしていけないのかを研究者自身が判断するための「倫理」が必要となります。本放送では、ナノサイズの構造体を作れるDNAオリガミ技術と分子ロボットを研究する上で、研究者が守らなくてはならない原則を定めた「分子ロボティクス倫理綱領」について紹介します。

  • 番組名
    NHK Eテレ サイエンスZERO
  • タイトル
    極小スケールの“ものづくり大革命”DNAオリガミ
  • 放送予定日
    2020年3月1日(日) 23:30 - 24:00
  • 再放送予定日
    2020年3月7日(土) 11:00 - 11:30
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お問い合わせ先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

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