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超ルイス酸性分子の開発に成功

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要点

  • 芳香環のみが置換した、結合の手が2本しかないホウ素化合物(ボリニウムイオン)の単離に世界で初めて成功
  • ボリニウムイオンが極めて強いルイス酸性を持つ事を実験と理論化学計算で証明
  • ボリニウムイオンが、化学的に安定な二酸化炭素から酸素を奪うという特異な反応性を示すことを実証

概要

東京工業大学資源化学研究所の庄子良晃助教と福島孝典教授、東京大学大学院薬学系研究科の内山真伸教授らの研究グループは、芳香環のみが置換した「結合の手を2本しか持たないホウ素のカチオン化合物(ボリニウムイオン)」の合成に世界で初めて成功しました。この化合物は、ホウ素がオクテット則(用語1)から著しく逸脱した電子不足化学種であり、これまで合成が極めて困難であるとされていました。さらに、ボリニウムイオンを用いて、安化学的に安定な二酸化炭素から酸素を奪うという特異な反応性を示すことを実証しました。これはボリニウムイオンの極めて高いルイス酸性(用語2)により、二酸化炭素がユニークな活性化を受けたことを示すものです。今後、「超ルイス酸分子化学」という新しい研究が加速するものと期待さます。

この成果は、11日に英国の科学誌「ネイチャー・ケミストリー(Nature Chemistry)」の電子版に先行掲載されました。

研究の背景

ホウ素化合物の性質や反応性は、その電子不足性とホウ素の低い電気陰性度に特徴づけられる。最も典型的なホウ素化合物は、中性三配位構造のボランである(図1)。この状態では、ホウ素は結合の手を三本持っている。この時、ホウ素上には空の2p軌道が存在し、ここに電子対を受け取ることで安定化する。すなわち、中性三配位のホウ素化合物はルイス酸として振る舞う。このようなボランの反応性は、「オクテット則」により説明できる。オクテット則とは、化学種が「構成する典型元素の価電子の数が8個になるように反応する」という経験則であり、化学の基本原理である。

それでは、中性のボランからさらに結合の手を一本取り去った化合物はどのようなものであろうか?そして、その化合物はどのような反応性を示すだろうか?結合の手を2本しか持たないホウ素のカチオン化合物は「ボリニウムイオン」と呼ばれている(図1)。

研究グループは、これまで安定に存在し得ないとされてきた、芳香環のみが置換したボリニウムイオンの単離に世界で初めて成功し、その強いルイス酸性に基づく特異な反応性を明らかにした。

中性ボランとボリニウムイオンの構造

図1. 中性ボランとボリニウムイオンの構造。ホウ素原子の上下のローブは、空の2p軌道を表す。

研究内容と成果

同グループは、ボリニウムイオンのデザイン戦略として、①ホウ素上の置換基として適度な立体障害(用語3)をもつ芳香環であるメシチル基(2,4,6-トリメチルフェニル基)を用いること、および②対アニオンとして化学的に安定なアニオン種を用いることによって、芳香環のみが置換したボリニウムイオンの単離に初めて成功した。

ボリニウムイオンの詳細な分子構造は、各種分光分析に加え、単結晶X線構造解析により明らかにした(図2)。このボリニウムイオンは熱的に極めて安定であり、カルボラン塩の場合、結晶試料を300 ℃程度まで加熱しても分解しない。また、実験結果と理論化学計算の比較により、溶液、固体状態のいずれにおいても、ボリニウムイオンのホウ素中心は対アニオンや溶媒の配位を受けていないことが明らかとなった。さらに、理論化学計算の結果、ボリニウムイオンの最低非占有軌道(用語4)のエネルギー準位は、既存のホウ素化合物のものと比較して著しく低い -5.41 eV(電子ボルト)と算出された。以上の検討結果は、今回、合成したボリニウムイオンが熱力学的に安定でありつつも、同時に極めて高いルイス酸性を有していることを示している。

ボリニウムイオンの結晶構造

図2. ボリニウムイオンの結晶構造。

このボリニウムイオンの高い反応性を示す結果として、特異な二酸化炭素の活性化反応も見出した。ボリニウムイオンの溶液に二酸化炭素ガスを混合すると、二酸化炭素の炭素原子にボリニウムイオンのメシチル基が移り、かつ酸素を一つ失ったカチオン化合物が速やかに生成した(図3)。すなわちこの反応では、二酸化炭素の酸素原子がホウ素により奪われている。この特異な反応は、強いルイス酸中心であるボリニウムイオンのホウ素原子が、二酸化炭素の酸素原子に配位することから進行すると考えられる。実際、理論化学計算による考察では、この反応機構がエネルギー的に妥当であることが示された。本反応は、一般的に求核剤(用語5)を用いて行われる二酸化炭素の活性化反応とは全く異なる。ボリニウムイオンを利用することで、今後、様々な基質をターゲットとしたユニークな分子活性化が可能になると期待できる。

ボリニウムイオンによる二酸化炭素の脱酸素化-アリール化反応

図3. ボリニウムイオンによる二酸化炭素の脱酸素化-アリール化反応。

今後の展開

同研究グループにより、芳香環のみが置換したボリニウムイオンの単離が可能であることが初めて実証された。また、ボリニウムイオンの特異な反応性も明らかになった。今後、ホウ素上の置換基として様々なアリール基やアルキル基を導入することで、「単離可能な究極のルイス酸分子」の創製を目指す。また、これらの研究を推進することで、新たな「超ルイス酸分子化学」の開拓に取り組む。

用語説明

(1) オクテット則 :  化学種を構成する元素の価電子数が8個になるように反応するという経験則であり、化学の基本原理。主に、第二周期の典型元素に適用される。

(2) ルイス酸 :  ルイスによる酸の定義であり、電子対を受け取る物質を指す。それに対して、塩基は電子対を供与する物質と定義される。すなわち、ルイス酸は電子対受容体、ルイス塩基は電子対供与体である。

(3) 立体障害 :  立体的な嵩高さを指す。立体障害の大きい置換基が導入された部位は、他の分子と反応しにくくなる。

(4) 最低非占有軌道 :  電子によって占有されていない分子軌道のうち、最もエネルギーの低い軌道を指す。他の分子から電子対を受け取る反応などは、この最低非占有軌道が関わる。

(5) 求核剤 :  化学反応において電子密度が低い原子と反応する化学種を指す。二酸化炭素との反応であれば、求核剤は電子密度が最も低い炭素原子に対して反応し(求核攻撃)、結合を生成する。

論文情報

A two-coordinate boron cation featuring C-B+-C bonding

Yoshiaki Shoji, Naoki Tanaka, Koichiro Mikami, Masanobu Uchiyama & Takanori Fukushima,
Nature Chemistry (2014); doi:10.1038/nchem.1948outer

本論文は同誌のNews & Viewsにてハイライトされました。

Main-group chemistry: Boron served straight up

Christian Reus & Matthias Wagner,
Nature Chemistry (2014); doi: 10.1038/nchem.1953outer

お問い合わせ先
東京工業大学資源化学研究所・教授 福島 孝典
TEL: 045-924-5220
FAX: 045-924-5976
Email: fukushima@res.titech.ac.jp


戸木田雅利准教授が繊維学会賞を受賞

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大学院理工学研究科有機・高分子物質専攻の戸木田雅利准教授が、平成25年度(第40回)繊維学会賞を受賞しました。

繊維学会賞とは、繊維科学について独創的で優秀な研究を行い、さらに研究の発展が期待される51歳未満の研究者に与えられる賞です。戸木田准教授は、高分子液晶、特に主鎖型液晶性高分子を中心として、液晶性高分子の構造とその形成過程、ダイナミクスを明らかにしてきた一連の研究が高く評価されました。

受賞タイトル

「高分子液晶の構造とダイナミクスに関する研究」

戸木田雅利准教授

今回の受賞を受けて戸木田准教授は次のようにコメントしています。

「繊維・高分子構造物性の基礎的な研究を評価いただき、創立70周年を迎える繊維学会から賞を戴けることは大変光栄です。今回の受賞は高分子科学研究が盛んな東工大で、渡辺順次名誉教授、研究室スタッフ、学生たちと続けてきた研究が評価されたものです。心より御礼申し上げます。」

お問い合わせ先

広報センター

TEL: 03-5734-2975

Email: pr@jim.titech.ac.jp

藻類から陸上植物への進化をつなぐ車軸藻植物のゲノム配列を解読

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要点

  • 藻類と陸上植物の中間的な存在である車軸藻植物門クレブソルミディウムのゲノムを解読し、藻類から陸上植物に至る遺伝子の進化過程を解明
  • クレブソルミディウムは、藻類でありながら、植物ホルモンや強い光に適応するための遺伝子など、植物の陸上進出に重要と考えられるシステムの一部をすでに獲得していることを示した

概要

東京工業大学バイオ研究基盤支援総合センターの堀孝一CREST研究員、地球生命研究所/生命理工学研究科の黒川顕教授、バイオ研究基盤支援総合センター/地球生命研究所の太田 啓之教授、かずさDNA研究所、理化学研究所を含む研究グループは、藻類と陸上植物の中間的な存在である車軸藻植物門「クレブソルミディウム」に着目してゲノム解読を行い、藻類から陸上植物に至る遺伝子の進化過程を解明した。

それを他の藻類や陸上植物と比較して、藻類から陸上植物に至る過程でどのように遺伝子が多様化したのかを明らかにした。またクレブソルミディウムの祖先が陸上環境に適応するための原始的なストレス応答システムを獲得していたことを突き止めた。

解読したゲノム情報は生命が陸上に進出し発展を遂げた過程を詳細に解明するための重要な基盤となる。また、クレブソルミディウムは藻類と陸上植物の中間的な性質を持つため、両方の架け橋として、その遺伝子情報を藻類の培養技術、物質生産技術に応用することも期待される。

この研究はかずさDNA研究所、国立遺伝学研究所、理化学研究所、東京大学などと共同で行った。成果は、2014年5月28日付で英国科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に掲載される。

研究成果

植物の陸上への進出は、生命の進化において、陸上での十分な酸素や栄養分の提供のために必須の過程であったと考えられている。そこで、同研究グループは植物が陸上に進出した初期の要因を遺伝子のレベルで明らかにし、陸上植物が地球の生態系において重要な位置を占めるようになった過程を解明することを目指した。

まず、クレブソルミディウムのゲノム配列のほぼ全域を解読し、そのゲノム情報から、約1万6千遺伝子を推定した。次に、ゲノム解析が完了している他の藻類や陸上植物と比較した。その結果、クレブソルミディウムは単純な藻類の形態を持つにもかかわらず、これまで陸上植物に特有と考えられてきた遺伝子やタンパク質ドメイン(注1)を数多く保有していることがわかった(図1)。このように遺伝子全体を比較することで、藻類からクレブソルミディウムの祖先が生まれ、原始的な陸上植物、さらには陸上環境に高度に適応した種子植物が形成された過程で陸上植物に特徴的な遺伝子がどのように増えていったかについて、次のような過程が明らかとなってきた。

(1)より単純な藻類では遺伝子の数が多いほど、多くの種類の遺伝子を持っており、緑藻からクレブソルミディウムの祖先が生まれる際に、新たな陸上植物に特徴的な遺伝子やドメインを獲得した(2)コケ、シダ植物のように陸上環境により適応し、組織や器官の分化が形成されるには同じ遺伝子種内のバリエーションを増加させ、細かな機能調節や発現調節を可能にした(3)最終的に現在の種子植物のような高度な陸上環境への適応と組織分化を可能にするには、すでに獲得したタンパク質ドメイン同志の組み合わせによって新しい組み合わせを生み出し、より新しい機能をもつ遺伝子を生み出したことが重要であった-と考えられる(図2)。

次に研究グループは、この過程の中で、緑藻からクレブソルミディウムの祖先が生まれる際に、どのような遺伝子が獲得されたのかを解析した。比較した生物種の中で陸上植物とクレブソルミディウムのみがもつ1238遺伝子(7.7%)の機能を予測すると、転写因子、情報伝達、ストレス応答、細胞壁、植物ホルモンに関連する遺伝子が多く含まれていることが分かった。

中でも植物ホルモンは現在の陸上植物において成長の制御や環境変化への応答に関わる重要な物質である。実際にクレブソルミディウムに存在しているかどうか測定した結果、陸上植物で、成長に関係するオーキシンや、乾燥などのストレスに応答するアブシシン酸などの植物ホルモンが検出された。

これらの植物ホルモンがクレブソルミディウムにおいてどのような作用をもっているかは、まだ明らかではないが、その情報伝達経路が部分的ながら既に存在しており、クレブソルミディウムが現在の陸上植物につながる原始的な植物ホルモン応答のシステムを持っていることが予測された。

その他にも多細胞化に繋がる遺伝子や、陸上植物に特異的な光合成の環境応答に関わる遺伝子を持っていることも明らかになった。以上のことから、クレブソルミディウムはシンプルな形態でありながら、陸上の様々なストレスに適応するための始原的なシステムを備えていることが分かった。陸上植物の祖先は、そのようなストレス応答システムを複雑に進化させて行くことで厳しい陸上環境に適応していったと考えられる。

背景

46億年の地球の歴史において、地球環境と植物は常に密接な関係の基に発展してきた。植物は生産者として生態系を支えるだけではなく、酸素の発生や二酸化炭素の消費や土壌の形成など、地球環境や生物多様性に大きな影響を与えている。その歴史の中で植物の陸上進出は陸上を様々な生命が活動できるようになった原動力のひとつであり、現在の生物多様性をもたらす礎となったと考えられている。

植物は胞子の化石などから少なくとも約5億年前には陸上に進出していたと考えられている。しかしながら、それまで植物が生活していた水中とは異なり、陸上は乾燥や強い紫外線、大きな温度変化、重力、栄養の欠乏など極めて厳しい環境であり、植物がどのようにして水の中で生活していた藻類から進化し陸上環境に適応していったのかは大きな謎である。

東工大の太田教授をリーダーとする研究グループは、藻類の中で、陸上植物の祖先に最も近いグループである車軸藻植物門の遺伝子を調べることで、植物の陸上進出の謎を解明できると考えた(図3)。車軸藻植物門にも様々な藻類が存在するが、研究グループは糸状性の単純な形態をしたクレブソルミディウム(Klebsormidium flaccidum NIES-2285)に着目した(図4)。クレブソルミディウムは車軸藻植物門の中でも、進化の比較的早い段階で分かれたグループだ。またクレブソルミディウムは湿ったコンクリート壁などにも見られる、陸上でも生育できる気生藻類の一種である。よって陸上進出が起きる前の準備段階にある原始的な植物の特性を備えていることを期待し、ゲノム解析(注2)を開始した。

今後の展開

クレブソルミディウムの遺伝子情報を明らかにしたことで、植物の陸上進出に大きく寄与した可能性があるシステムが明らかとなってきた。遺伝子操作法などを開発していくことで、そのシステムが実際どのような特性を持っているか実験的に確かめることも可能となる。今後、研究グループの解読したゲノム情報は生命の陸上進出にさらなる知見をもたらす基盤となると期待できる。また、クレブソルミディウムは様々な研究の蓄積がある陸上植物と、現在バイオ燃料や有用物質の生産に応用が期待される藻類との中間的な存在である。クレブソルミディウムの解析により藻類と陸上植物の知識を統合し、クレブソルミディウムを遺伝子資源として用いることによって、陸上植物の膨大な研究情報を藻類の培養技術、物質生産技術に応用することができると期待される。

用語説明

(注1) タンパク質ドメイン: 特定の機能を果たすタンパク質が共通して持つ機能領域。多くのドメインは特徴的な立体構造を持ち、タンパク質が機能するうえで重要な働きをする。複雑なタンパク質の構造を構成するパーツと考えることができる。たとえばジンクフィンガードメインは、様々な機能のタンパク質に含まれているが、それらのタンパク質においてDNAに結合する役割を果たしている。

(注2) ゲノム解析: 生物の持つDNAや、RNA(DNAを鋳型としてタンパク質など実際に機能する領域の情報がRNAとして合成される)の塩基配列を解読し解析することによって、生物が持つ遺伝子を予測する。また個々の遺伝子の機能を推定すると共に、その生物の遺伝情報の全体像を把握する解析である。

発表雑誌

雑誌名:
Nature Communications
論文タイトル:
Klebsormidium flaccidum genome reveals primary factors for plant terrestrial adaptation
著者:
Koichi Hori, Fumito Maruyama, Takatomo Fujisawa, Tomoaki Togashi, Nozomi Yamamoto, Mitsunori Seo, Syusei Sato, Takuji Yamada, Hiroshi Mori, Naoyuki Tajima, Takashi Moriyama, Masahiko Ikeuchi, Mai Watanabe, Hajime Wada, Koichi Kobayashi, Masakazu Saito, Tatsuru Masuda, Yuko Sasaki-Sekimoto, Kiyoshi Mashiguchi, Koichiro Awai, Mie Shimojima, Shinji Masuda, Masako Iwai, Takashi Nobusawa, Takafumi Narise, Satoshi Kondo, Hikaru Saito, Ryoichi Sato, Masato Murakawa, Yuta Ihara, Yui Oshima-Yamada, Kinuka Ohtaka, Masanori Satoh, Kohei Sonobe, Midori Ishii, Ryosuke Ohtani, Miyu Kanamori-Sato, Rina Honoki, Daichi Miyazaki, Hitoshi Mochizuki, Jumpei Umetsu, Kouichi Higashi, Daisuke Shibata, Yuji Kamiya, Naoki Sato, Yasukazu Nakamura, Satoshi Tabata, Shigeru Ida, Ken Kurokawa, & Hiroyuki Ohta
DOI番号:

研究グループ

東京工業大学、かずさDNA研究所、国立遺伝学研究所、東京大学、理化学研究所、東京医科歯科大学、東北大学、静岡大学

研究サポート

本研究は、東京工業大学・東京大学による日本学術振興会、グローバルCOEプログラム「地球から地球たちへ」の支援により2009年度より開始された(グローバルCOEプログラムは2013年度に終了)。2011年度より、太田教授をリーダーとする研究グループが科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(CREST) 「-藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」に採択され、「植物栄養細胞をモデルとした藻類脂質生産系の戦略的構築」の一環として加速的な支援を受け、推進された。

東京工業大学地球生命研究所について

地球生命研究所(ELSI)は、文部科学省が2012年に公募を実施した世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI ※)に採択され、同年12月7日に産声をあげた新しい研究所。
「地球がどのように出来たのか、生命はいつどこで生まれ、どのように進化して来たのか」という、人類の根源的な謎の解明に挑んでいる。

※世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)は、2007年度から文部科学省の事業として開始されたもので、システム改革の導入等の自主的な取組を促す支援により、第一線の研究者が是非そこで研究したいと世界から多数集まってくるような、優れた研究環境ときわめて高い研究水準を誇る「目に見える研究拠点」の形成を目指している。

お問い合わせ先

東京工業大学 バイオ研究基盤支援総合センター教授 太田啓之
TEL: 045-924-5736
FAX: 045-924-5823
Email: ohta.h.ab@m.titech.ac.jp

東京工業大学 地球生命研究所 広報担当
TEL: 03-5734-3163
FAX: 03-5734-3416
Email: pr@elsi.jp

【図】

15生物種の遺伝子を、藻類特有な遺伝子、陸上植物特有な遺伝子、共通している遺伝子、その生物種にしかない遺伝子に分類しグラフ化

図1 15生物種の遺伝子を、藻類特有な遺伝子、陸上植物特有な遺伝子、共通している遺伝子、その生物種にしかない遺伝子に分類しグラフ化した。
クレブソルミディウムは他の藻類と異なり、陸上植物に特有と考えられていた遺伝子をすでに数多く持っていることが分かる。(1238遺伝子,7.7%)

他生物とのゲノム比較から推定される遺伝子の多様性の獲得

図2 他生物とのゲノム比較から推定される遺伝子の多様性の獲得
植物が陸上化し、遺伝子の多様性が獲得される過程を示した。クレブソルミディウムの祖先が生まれた段階で、陸上環境に適応するために必要であろう基本的な遺伝子パーツの多くをすでに獲得しており、陸上に進出する原動力となった事が推定された。

植物の陸上進出と車軸藻植物の関係

図3 植物の陸上進出と車軸藻植物の関係
緑藻から車軸藻植物が進化し、車軸藻植物の中で厳しい陸上環境に適応した藻類が現在の陸上植物の起源となったと考えられている。

(左)クレブソルミディウムの顕微鏡写真、(右)コンクリート片に生育させたクレブソルミディウム

図4 (左)クレブソルミディウムの顕微鏡写真、(右)コンクリート片に生育させたクレブソルミディウム

顔を見る前から脳は活動している -脳波によって人の「予測」の実態を解明-

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要点

  • 顔(表情)に対する情報処理は素早い
  • 言語や記号刺激は、顔の情報処理より時間がかかる
  • 右脳と左脳の相対的な働きは変化する

概要

東京工業大学社会理工学研究科の大上淑美助教と小谷泰則助教は、人がなにかを予測する場合、顔の出現を予測する方が、言葉や記号などの予測よりも素早いことを発見し、顔に関する情報処理は実際に顔を見るよりも前から始まっていることを実証した。「予測」に関係する脳活動を顔、言葉、記号の3つを用い、刺激先行陰性電位(SPN)と呼ばれる脳波を測定して比較し、実現した。

さらに、SPN は右脳の働きの方が大きくなるという特徴を持っているが、右脳の働きは(1)顔・言葉・記号などの予測される情報の種類(2)めずらしい物を検出する注意システム(3)動機づけ(やる気・報酬)―の程度によって影響されることがわかり、右脳と左脳の相対的な働きはこれらの3つの要素によって変化することを明らかにした。これらの新知見は人の予測に関する脳活動の研究進展に重要なデータを提示することになる。

この成果は国際学会誌の「サイコフィズオロジー(Psychophysiology、心理生理学)」誌に掲載される。


左(グラフ): SPNに対し、主成分分析(PCA)を行った結果。
右: Early SPNを頭皮上のマップとして描くことにより、後頭顔領域(Occipital Face Area)の活動を捉えることが出来た。

お問い合わせ先

大学院社会理工学研究科 社会工学専攻助教
大上淑美
Email: ohgami.y.aa@m.titech.ac.jp

小寺哲夫准教授が安藤博記念学術奨励賞を受賞

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大学院理工学研究科電子物理工学専攻の小寺哲夫准教授が第27回安藤博記念学術奨励賞を受賞しました。

小寺哲夫准教授

小寺哲夫准教授

安藤博記念学術奨励賞は、電子工学の基礎を築いた発明家安藤博の研究ならびに発明の功績を記念し、エレクトロニクスと電子産業の育成と発展に寄与することを目的とした賞です。
エレクトロニクス分野において、独創的・萌芽的な研究活動を行っている若手研究者に与えられます。

受賞テーマ:
半導体ナノ構造を利用した量子情報デバイスの研究

今回の受賞を受けて小寺准教授は
次のようにコメントしています。

「半導体量子ナノ構造中のスピンを情報の担い手として用いる量子情報デバイスの創製と物理の解明を目指して研究を行ってきました。電子デバイスの高性能化と低消費電力化を両立させる技術や、超高速計算機として注目されている量子コンピュータの要素技術になると期待されています。
今回、光栄な賞を頂けたことを大変有り難く思います。これまでご指導頂いた先生方や、共同研究者の皆様、研究室のメンバーに大変感謝致しております。エレクトロニクスと電子産業の発展に貢献できるよう、今後より一層研究に邁進してまいりたいと思います。」

二酸化チタンの光触媒活性を決める因子を発見

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要点

  • 二酸化チタン結晶表面での光励起キャリアのダイナミクスをリアルタイムで観測することに成功し、光触媒活性を決める因子を発見。
  • 未解明であったアナターゼ型とルチル型二酸化チタンの触媒活性の違いが、光励起キャリアの結晶表面に固有な寿命に起因することを証明。
  • 光触媒活性を簡便に制御する方法を提案。

概要

東京工業大学大学院理工学研究科の小澤健一助教、東京大学物性研究所の松田巌准教授と山本達助教、上智大学理工学部の坂間弘教授らの研究グループは、光触媒(注1)である二酸化チタン(TiO2)結晶の表面における光励起キャリア(注2)の振舞いをリアルタイムで観察し、キャリア(電子と正孔)寿命(注3)が触媒活性を決定する重要な因子であることを発見した。

TiO2 にはルチル型とアナターゼ型という原子構造が異なる結晶型が存在し、アナターゼ型の方が高活性だが、両型の触媒活性の差はこれまで未解明だった。今回の研究により、アナターゼ型の結晶表面でのキャリア寿命がルチル型結晶に比べて10 倍以上も長いことが原因であることを突き止めた。触媒表面の化学処理により光励起キャリアの寿命を制御する手法が、より高性能の光触媒を開発するために有効であることが示唆された。

研究ではTiO2 が半導体であることに着目し、半導体に特有な現象である表面光起電力(注4)をナノ秒スケールで追跡することで、結晶表面の光励起キャリアを捉えることに初めて成功した。実験は、大型放射光施設SPring-8 の東京大学放射光アウトステーションビームライン「BL07LSU」で、紫外光レーザーと軟X 線放射光を組合せた時間分解光電子分光装置を用いて行った。

本研究成果は、2014年5月16日にアメリカ化学会の速報誌「ジャーナル・オブ・フィジカル・ケミストリー・レターズ(The Journal of Physical Chemistry Letters)」オンライン版に掲載された。

論文情報

Electron-Hole Recombination Time at TiO2 Single-crystal Surfaces: Influence of Surface Band Bending, Kenichi Ozawa, Masato Emori, Susumu Yamamoto, Ryu Yukawa, Shingo Yamamoto, Rei Hobara, Kazushi Fujikawa, Hiroshi Sakama, and Iwao Matsuda, The Journal of Physical Chemistry Letters, 2014, 5, pp 1953-1957
DOI: 10.1021/jz500770couter

用語説明

(注1) 光触媒 :
光照射下で化学反応を促進する物質で、自身は反応前後で変化しない。バンドギャップを持つ半導体の一部が光触媒作用を示す。
バンドギャップより大きなエネルギーを持つ光を半導体に照射すると、価電子バンドの電子が伝導バンドに励起され、価電子バンドには電子が抜けた孔ができる。励起電子と価電子バンドの孔(正孔)を総称して光励起キャリアと呼ぶ。
光励起キャリアが生成してから消滅するまでの時間。キャリアは電子と正孔が再結合することで消滅する。
表面ポテンシャルのある半導体表面で光励起キャリアが生成すると、ポテンシャルの電場勾配に沿ってキャリアが移動する。その結果、結晶表面と内部の電荷のバランスに偏りが生じて電位が発生する。これが表面光起電力である。

図 アナターゼ型とルチル型TiO2 の光励起キャリア寿命が、表面ポテンシャル障壁の高さにどのように依存しているかを示した図。アナターゼ型の線がルチル型より常に上側にあるということは、同じ障壁の高さで比べるとアナターゼ型のキャリア寿命が長いことを意味する。

お問い合わせ先
大学院理工学研究科物質科学専攻
助教 小澤健一
Tel: 03-5734-3532
Email: ozawa.k.ab@m.titech.ac.jp

河野行雄准教授が船井学術賞を受賞

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量子ナノエレクトロニクス研究センターの河野行雄准教授が、第13回船井学術賞を受賞しました。

河野行雄准教授

河野行雄准教授

船井学術賞は、情報技術、情報科学の発展に寄与する研究について顕著な功績のあった研究者に与えられる賞です。河野准教授は、カーボンナノチューブやグラフェンなどの材料がもつ特徴を活かしたテラヘルツ電磁波の計測・画像化技術開拓と、その応用研究が評価されました。

今回の受賞に関して、河野准教授は次のようにコメントしています。

「テラヘルツ波は、電磁波の広大なスペクトルの中で最後の未開拓領域と言われ、物質・宇宙・生命科学から情報通信・医療等に至る幅広い分野での応用が期待されています。この領域には様々な分野の研究者が参入しており、活発な研究が展開されています。新しい分野ならではの挑戦的課題と、それを解決する研究の楽しさがあります。今回の栄誉ある賞の受賞を励みに、今後もインパクトのある成果を出すべく邁進したいと思います。お世話になりました共同研究者の皆様、研究室のメンバーに深く感謝申し上げます。」

研究室のメンバーと
研究室のメンバーと

300mmウエハーを厚さ4マイクロメートルに超薄化

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概要

東京工業大学異種機能集積研究センターの大場隆之特任教授は、ディスコ、富士通研究所、PEZY Computing(ペジーコンピューティング、東京都千代田区)、WOWアライアンス(用語1)と共同で、半導体メモリー(DRAM)が搭載された直径300mmシリコンウエハー(基板)の厚さを4マイクロメートル(µm)まで超薄化する技術を開発した。同技術はバンプ(用語2)を用いないWOW積層技術(用語3)を利用して、シリコンウエハーの厚さをデバイス層より薄い4µmまで薄化することに成功したものである。

薄化前と薄化した後のリフレッシュ時間の累積故障率が変わらないことを確認し、薄化による新たな原子欠陥が生じないことを実証した。この薄化プロセスを用いれば、上下積層チップの配線長が従来の1/10以下になり、配線抵抗と配線容量が大幅に低減される。超小型でテラビット(1テラは1兆)級の大規模メモリーへの応用が期待される。

この成果は米国ハワイで6月10~13日に開かれる国際電子デバイス会議「VLSIシンポジウム2014」で発表する。

用語説明

1. WOWアライアンス:
東京工業大学を中心に設計・プロセス・装置・材料半導体関連の複数企業および研究機関からなる研究グループ。薄化したウエハーを簡単に積層することができ、バンプレスTSV配線を用いた三次元化技術を世界で初めて開発に成功した。
2. バンプ:
電極部にメッキで形成した配線接続のための突起。
3. WOW積層技術 :
ウエハーの積層(Wafer-on-Wafer)で大規模集積回路を作製する三次元集積技術。積層方法には、チップ同士の積層(Chip-on-Chip)、チップとウエハーの積層(Chip-on-Wafer)があり、COC、COW、WOWの順に生産性が高くなる。

学会発表

学会名:
IEEE 2014 Symposia on VLSI Technology and Circuits
題名:
Ultra Thinning Down to 4-µm using 300-mm Wafer40-nm Node 2Gb DRAM for 3D Multi-Stack WOW Applications
発表者:
Y.S. Kim, S. Kodama, Y. Mizushima, N. Maeda, H. Kitada, K. Fujimoto, T. Nakamura, D. Suzuki, A. Kawai, K. Arai and T. Ohba

図: 4マイクロメートル まで薄化した 300mm DRAM ウエハー。このような薄いウエハーになると可視光が透過する。
図: 4µm まで薄化した 300mm DRAM ウエハー。このような薄いウエハーになると可視光が透過する。

お問い合わせ先

東京工業大学異種機能集積研究センター
秘書 沼澤文恵
Tel: 045-924-5866
Email: numazawa.f.aa@m.titech.ac.jp

東京工業大学 広報センター
Tel: 03-5734-2975
Email: media@jim.titech.ac.jp


藻類の栄養欠乏応答性プロモーターによる脂質蓄積強化を実現

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要点

  • 背景:藻類は栄養欠乏条件下に細胞内に油脂を蓄積
  • 新規性:緑藻の栄養欠乏応答性プロモーターを用い、油脂蓄積の強化を実現
  • 今後の展望:油脂の脂肪酸を操作することが可能

概要

東京工業大学バイオ研究基盤支援総合センターの岩井雅子CREST研究員、太田啓之バイオ研究基盤支援総合センター/地球生命研究所教授らの研究グループは、藻類が栄養の足りない状況で脂質を蓄える機能の強化と光合成による細胞増殖を両立させることに成功した。藻類の細胞にリン欠乏応答性プロモーター(用語1)を導入する遺伝子操作による形質転換で実現した。藻類による工業レベルでのバイオエネルギー生産を大きく前進させる成果だ。

モデル藻類のクラミドモナス(用語2)を用い、これまで知られている窒素欠乏条件とは異なり、リン欠乏条件下では光合成の場であるチラコイド膜(用語3)をある程度維持したまま、TAG(用語4)を蓄積できることを見出した。リン欠乏条件下で発現上昇する遺伝子のプロモーターに着目し、リン欠乏条件下で油脂蓄積を強化する形質転換系を構築した。今後さらにこの系を用いて、油脂蓄積強化だけではなく油脂に含まれる脂肪酸の種類を操作することが期待される。

この研究は東工大バイオ研究基盤支援総合センターの下嶋美恵助教、同学技術部バイオ技術センターの池田桂子氏らと共同で行った。研究成果は英国科学雑誌「Plant Biotechnology Journal (プラント・バイオテクノロジー・ジャーナル)」July 2014, 12(6)に掲載される。同電子版は6月9日に公開された。

この研究は、太田教授が科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(CREST) 「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」の採択を受け、「植物栄養細胞をモデルとした藻類脂質生産系の戦略的構築」の一環として実施した。

用語説明

(1)リン欠乏応答性プロモーター :

藻類や植物では、リンの欠乏時に欠乏したリンを生体膜を構成するリン脂質から切り出し、その代わりに糖脂質を合成して生体膜に用いる膜脂質リモデリングなどのリン欠乏に適応するための様々な応答が起こる。この際に発現が誘導される遺伝子の上流には、リン欠乏に応答して遺伝子の発現を誘導するプロモーターと呼ばれる制御領域が存在する。

(2)クラミドモナス :

緑藻綱クラミドモナス目に属する単細胞藻類。ゲノム解析が進みモデル藻類として用いられる。

(3)チラコイド膜 :

葉緑体の内部に存在する高度に発達した膜構造。光合成の電子伝達装置やATP合成酵素などが存在し、光合成の光エネルギーから化学エネルギーへの変換を司る重要な膜構造である。

(4)TAG :

トリアシルグリセロール。1分子のグリセロールに3分子の脂肪酸がエステル結合した中性脂肪の1つ。

発表雑誌

雑誌名:
Plant Biotechnology Journal
論文タイトル:
Enhancement of extraplastidic oil synthesis in Chlamydomonas reinhardtii using a type-2 diacylglycerol acyltransferase with a phosphorus starvation-inducible promoter
著者:
Masako Iwai, Keiko Ikeda, Mie Shimojima and Hiroyuki Ohta
DOI:

培養8日目。培養23日目。緑色がTAGを蓄積した油滴、赤色がチラコイド膜を示している。どちらの欠乏条件でもTAG蓄積が確認できる。

図1 (a=上)培養8日目(b=下)培養23日目。
緑色がTAGを蓄積した油滴、赤色がチラコイド膜を示している。どちらの欠乏条件でもTAG蓄積が確認できる。
リン欠乏条件下(右)では23日目でもチラコイド膜が確認できる。

お問い合わせ先

東京工業大学 バイオ研究基盤支援総合センター教授
太田啓之
TEL: 045-924-5736
FAX: 045-924-5823
Email: ohta.h.ab@m.titech.ac.jp

東京工業大学 地球生命研究所 広報担当
TEL: 03-5734-3163
FAX: 03-5734-3416
Email: pr@elsi.jp

ナノダイヤモンドを用いた透明スクリーンを開発

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要点

  • ナノダイヤモンドの高い屈折率を利用
  • ナノダイヤモンドの粒径によって多様な応用展開が可能

概要

東京工業大学大学院理工学研究科の坂尻浩一特任准教授、戸木田雅利准教授らは、高い屈折率を有するナノダイヤモンド(用語1)を分散させた薄膜に透明性と適度な光拡散特性を持たせることに成功した。透き通っているため背景を眺めることができると同時に、プロジェクターなどで画像を投影することができ、透明スクリーンとしての機能を持つ。しかも色むらがなく綺麗である。

高層ビル、ショッピングウインドー、水族館や動物園の窓材、車のヘッドアップディスプレーなどに、必要に応じて、広告や情報を表示するための材料として応用が期待される。しかもダイヤモンドであるために表面の硬度は高く、耐引掻き特性も併せ持つ。

ガラスやプラスチックなどの透明基板は身の回りにたくさんあり、波及効果は極めて大きい。

この研究成果は、5月28日~30日に名古屋国際会議場(名古屋市熱田区)で開かれた第63回高分子学会年次大会で発表された。

ナノダイヤモンド分散液を塗布したガラス板

ナノダイヤモンド分散液を塗布したガラス板
左:曇りがなく透明な様子(奥のポスターをはっきり見ることができる)
右:スクリーン機能(奥からプロジェクターを照射し画像を見ることができる)

用語説明

(1)ナノダイヤモンド :

ダイヤモンドの結晶構造を持ち最小粒径が5ナノメートル程度のダイヤモンド。現状では研磨材や表面の耐摩耗性を向上させるといった力学的な特徴を生かした分野で実用化されている。

お問い合わせ先

大学院理工学研究科有機・高分子物質専攻
特任准教授 坂尻浩一
Tel: 03-5734-3602
Email: ksakajiri@polymer.titech.ac.jp

有機結晶が光で溶けるメカニズムを解明

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有機結晶が光で溶けるメカニズムを解明
-結晶内分子の “整列” と “運動” の共存がポイント-

要点

  • 光照射で融解する有機結晶の結晶構造を初めて解明
  • 分子が整列している部分と熱運動している部分の共存を観察
  • 分子の整列と運動の共存が、光融解現象の原因

概要

東京工業大学大学院理工学研究科の星野学研究員、腰原伸也教授らの研究グループは、有機結晶が光で融解するメカニズムを放射光X 線(用語1)による結晶構造観察で突き止めた。

まず長鎖アルキル基を有したアゾベンゼン(用語2)誘導体には「アゾベンゼンが整列した領域」と「長鎖アルキル基が結晶内で激しく運動している領域」の2領域が共存した特異な結晶構造をしていることを明らかにし、さらに、この結晶に紫外光を照射するとアゾベンゼンが光異性化反応(用語3)を起こして整列が壊れ、結晶中にもかかわらず液体のように激しく運動している長鎖アルキル基の領域と均一化されることで、融解が起こることを解明した。この結晶構造観察は放射光X線を利用した単結晶X 線構造解析(用語4)で、実験室系では得られないX 線回折データを高精度に集めることにより実現した。

通常、結晶を融解させるには室温以上に加熱する必要があるが、光照射という簡便な手段で結晶融解を実現する技術を使えば、有機材料の成形・加工の生産コストを大幅に削減できる。今回の研究は光照射による融解技術を産業化するための分子材料設計方針を提供するものである。

研究は産業技術総合研究所の則包恭央主任研究員と阿澄玲子グループ長、高エネルギー加速器研究機構の足立伸一教授と共同で実施した。この成果は米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン速報版で12 日に公開された。

論文情報

論文名
Crystal Melting by Light: X-ray Crystal Structure Analysis of an Azo
Crystal Showing Photoinduced Crystal-Melt Transition
(和文 光で溶ける結晶:光誘起結晶溶融転移を起こすアゾ化合物結晶のX 線結晶構造解析)
著者
Manabu Hoshino, Emi Uchida, Yasuo Norikane, Reiko Azumi,
Shunsuke Nozawa, Ayana Tomita, Tokushi Sato, Shin-ichi Adachi,
Shin-ya Koshihara
雑誌名
Journal of the American Chemical Society
DOI

用語説明

(用語1) 放射光X 線
蓄積リングと呼ばれる円形の加速器内を光速に近い速度で回るバンチ(複数の電子が寄り集まったもの)が、強力な地場で曲げられるときにその接線方向に放射される光のこと。実験室系用のX 線発生装置と比べて格段に強いX 線が利用できる。典型的にはX 線の波長であるが、真空紫外や赤外の放射光も利用されている。
(用語2) アゾベンゼン
2 つのベンゼン環がアゾ基(窒素原子同士の2 重結合)を介して連結した有機分子。アゾ基に対する2 つのベンゼン環の配置によって、シス体(同じ側にあるもの)とトランス体(違う側にあるもの)の2 種類の構造が存在する。
(用語3) 光異性化反応
分子が原子の得失なく化学結合の様式や組み合わせを変える(構変変化させる)化学反応のうち、光の照射によって起こる反応のこと。光照射によってシス体からトランス体、あるいはトランス体からシス体に構造変化する。トランス体の方がシス体よりも熱的に安定であるため、シス体は熱によってもトランス体に構造変化する。
(用語4) 単結晶X 線構造解析
分子が規則正しく整列した単結晶にX 線を照射すると、結晶中の分子構造と整列(周期構造)を反映した回折現象が起こる。この回折X 線を数千から数万記録しコンピュータで解析を行うことで、試料の分子構造と結晶構造(3 次元的な分子の配列)を観察することができる。

(a)本研究で対象にした長鎖アルキル基を有したアゾベンゼン誘導体。(b)紫外光照射によって結晶が溶けた様子を観察した顕微鏡写真。

図1 (a)本研究で対象にした長鎖アルキル基を有したアゾベンゼン誘導体。
(b)紫外光照射によって結晶が溶けた様子を観察した顕微鏡写真。

お問い合わせ先

大学院理工学研究科 物質科学専攻
教授 腰原伸也
Tel: 03-5734-2449
Email: skoshi@cms.titech.ac.jp

中性子ハローがマグネシウム同位体にも出現

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中性子ハローがマグネシウム同位体にも出現
-中性子数の極端に多い原子核の普遍的性質となる可能性を示唆-

要 点

  • マグネシウム同位体「マグネシウム37」の微視的構造を決定
  • マグネシウム37に中性子ハローが出現していることを特定
  • マグネシウム37はハロー構造をもつ原子核として最重---より重い原子核の特異構造を知る手掛かりに

概 要

東京工業大学大学院理工学研究科の小林信之院生(現東京大学学振研究員)、中村隆司教授と理化学研究所の研究グループは、中性子が非常に多い原子核に現れる「中性子ハロー(用語1)」と呼ばれる特異構造が、中性子数が過剰なマグネシウム同位体(用語2)「マグネシウム37」(37Mg)にも現れていることを発見した。37Mgは、中性子ハロー構造が実験で確認されている原子核としては、最重のものとなった。

強力な不安定核ビーム(用語3)を供給する世界の拠点研究施設、理化学研究所のRIビームファクトリー(RIBF)を用い、中性子数が陽子数よりも極端に多い37Mgをビームとして取り出し、分解反応(用語4)という手法を用いた実験で解明した。4月に発表したネオン31(31Ne)に現れる特異構造(中性子ハローを含む)の解明に続く成果であり、中性子ハローが、中性子数の極端に多い原子核の普遍的性質となる可能性が広がった。

研究は、東工大、理研のほか、サレー大学(英)、日本原子力研究開発機構、米国ウェスタンミシガン大、カナダ・セントマリー大、韓国ソウル国立大、フランス・カン素粒子原子核研究所(LPC-CAEN)、東京大学原子核科学研究センター(CNS)、東京理科大学と共同で行った。この成果は6月18日に米国物理学会の学術誌「フィジカル・レビュー・レターズ(Physical Review Letters)」電子版に掲載される。

核図表(原子核の地図)

核図表(原子核の地図)。 横軸が中性子数、縦軸が陽子数(原子番号)を表わす。青色で表されているのがハロー構造をもつ原子核で今回新たに中性子ハロー構造が同定されたマグネシウム37(37Mg)はハロー構造が発見されている原子核の中で最も重い。

用語説明

(1) 中性子ハロー
1個または2個の中性子が芯原子核から外にしみだして薄く雲のように大きく拡がった状態(図1参照). 中性子が非常に多い原子核に10種程度みつかっている。今回の37Mgはその中で最も重い原子核である。
(2) 同位体
陽子数が同じで中性子数が異なる原子核(または原子)を同位体と呼んでいる。
(3) 不安定核ビーム
天然に存在する原子核は安定核、または安定同位体と呼ばれ、中性子数と陽子数はほぼ同数であるが(図2の黒い四角)、それより中性子数または陽子数が多くなると不安定になり、有限の寿命を持つ(短いものでミリ秒、長いものでは年単位になる)。このような原子核を不安定核(または放射性同位体、RI)と呼んでいる。不安定核は、重イオン加速器施設で加速された重イオンの反応で生成することができる。このとき生成された不安定核はビームとなるので、不安定核ビームと呼んでいる。
(4) 分解反応
この実験で用いているのはクーロン分解反応核力分解反応である。クーロン分解反応では重い標的を用い、その強いクーロン力によりビームの中の粒子(この場合は37Mg)を励起する。励起された37Mgは直ちに36Mgとnに分解する。この分解反応断面積(分解反応の確率)がハロー中の中性子の密度分布に感度がある。実際、ハロー構造があると極端に反応率が上がることがわかっている。一方、軽い標的を用いると短距離力の核力(原子核中の中性子・陽子を結び付けている力)により37Mgから1個の中性子が引きはがされる反応が主となる。この場合も反応率がハローの密度分布に依存するが、クーロン力より短距離力であるため、感度が異なる。この感度の違いを利用すると、ハローの密度分布や質量、中性子の軌道に関する情報が引き出せる。

論文情報

Observation of a p-Wave One-Neutron Halo Configuration in 37Mg, N. Kobayashi, T. Nakamura et al., Phys. Rev. Lett.112, 242501(2014). - Published 18 June 2014
DOI: 10.1103/PhysRevLett.112.242501outer

お問い合わせ先

東京工業大学 大学院理工学研究科 基礎物理学専攻教授
中村隆司
TEL: 03-5734-2652 FAX: 03-5734-2652
Email: nakaura@phys.titech.ac.jp

機能性フィルムの表面歪み計測法を開発 -ウェアラブル端末やフレキシブルディスプレイ製造に威力-

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要点

  • 大きく曲がるフィルムの表面歪みを簡便に定量計測できる手法を開発
  • 柔軟なフィルムの曲げ歪みは従来の硬い材料とは大きく異なることを発見

概要

東京工業大学資源化学研究所の宍戸厚准教授、赤松範久大学院生、東京大学大学院新領域創成科学研究科の竹谷純一教授、九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所藤川茂紀准教授らの研究グループは、機能性フィルムの簡便な表面歪み計測法を開発した。光を回折するグレーティング(用語1)をフィルム表面にラベル化することにより、フィルムの曲げによる表面歪み(用語2)を簡単に定量計測できることを明らかにしたもの。

さらに、光応答性を有するフィルムやシリコーンゴムからなる積層フィルムが従来の固体力学から大きく乖離した変形挙動を示すことを見いだした。これは、柔軟な材料の力学(ソフトメカニクス)が、硬い材料を扱う従来の固体力学とは大きく異なることを表すものである。ソフトメカニクスの進展に伴い、ウェアラブルデバイスやフレキシブルディスプレイ開発に弾みがつくと期待される。

ウェアラブル端末やフレキシブルディスプレイの開発には機能性を有する柔軟なフィルムの積層化が必要だが、これまでは変形や破壊を防ぐ鍵となる表面歪みの簡便な計測法がなかった。

この成果は、20 日に英国の科学誌「サイエンティフィック・リポーツ(Scientific Reports)」(電子版)に掲載される。

用語説明

(注1) グレーティング
光を回折する回折格子。屈折率の周期構造体により形成される。内部に周期的な屈折率変化を有するものと、表面に周期的な凹凸を有するものがある。表面ラベルグレーティング法では、いずれのグレーティングも利用可能である。
(注2) 表面歪み
表面の変形状態を表す尺度であり、初期状態の長さに対する変位の比で定義される。フィルムの曲げに伴い表面が膨張するため、デバイスの破壊や疲労の原因となる。表面歪みの簡便な定量計測手法が望まれていた。

フィルムの曲げ変形に伴う表面の膨張と収縮

フィルムの曲げ変形に伴う表面の膨張と収縮。
同じフィルムでも異なる外部刺激によって表層の歪みは全く異なる。柔らかい材料特有の力学が存在することを明らかにした。

論文情報

Facile strain analysis of largely bending films by a surface-labelled grating method, Norihisa Akamatsu, Wataru Tashiro, Keisuke Saito, Jun-ichi Mamiya, Motoi Kinoshita, Tomiki Ikeda, Jun Takeya, Shigenori Fujikawa, Arri Priimagi, & Atsushi Shishido, Scientific Reports, 4, 5377/1-5377/6.

DOI: 10.1038/srep05377outer

お問い合わせ先 資源化学研究所 准教授 宍戸厚
TEL: 045-924-5242
Email: ashishid@res.titech.ac.jp

カーボンナノチューブを使い室温テラヘルツ波検出器を開発 -医療や食品・生体の非破壊検査など幅広い応用に道-

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要点

  • カーボンナノチューブアレイ薄膜を用いたフォトディテクターを開発
  • 室温動作のテラヘルツ波検出を実現

概要

東京工業大学量子ナノエレクトロニクス研究センターの河野行雄准教授らは、米国ライス大学、同サンディア国立研究所と共同で、カーボンナノチューブを用いたテラヘルツ波(用語1)検出器の開発に成功した。

カーボンナノチューブをアレイ状に整列させたフィルムを用いてテラヘルツ波を室温で検出した。これは医療用イメージングや空港セキュリティー、食品検査など多岐にわたるテラヘルツ波の応用につながる成果である。テラヘルツ波は食品・生体の非破壊で安全な検査など多くの応用が期待されているが、エネルギーが光に比べて非常に小さいため、効率的に吸収・検出する材料や機構が少なく、検出には新たなアプローチが求められていた。

この研究成果は5月29日、米国化学会の学術誌「ナノレターズ(Nano Letters)」の電子版に先行掲載されました。

カーボンナノチューブ薄膜による室温テラヘルツ波検出の概念図
カーボンナノチューブ薄膜による室温テラヘルツ波検出の概念図

用語説明

用語1 テラヘルツ波
周波数が0.1 ~30 THzである電磁波帯のこと。電波と光の中間に位置し、未開拓電磁波とも呼ばれる。

論文情報

著者:
Xiaowei He, Naoki Fujimura, J. Meagan Lloyd, Kristopher J. Erickson, A. Alec Talin, Qi Zhang, Weilu Gao, Qijia Jiang, Yukio Kawano, Robert H. Hauge, François Léonard and Junichiro Kono
雑誌名:
Nano Lett., Article ASAP
論文タイトル:
Carbon Nanotube Terahertz Detector
DOI:

お問い合わせ先 東京工業大学 大学院理工学研究科
電子物理工学専攻
量子ナノエレクトロニクス研究センター准教授
河野 行雄
TEL: 03-5734-3811
FAX: 03-5734-3811
Email: kawano@pe.titech.ac.jp

劉岸偉教授が日本研究特別賞を受賞

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外国語研究教育センターの劉岸偉教授が、第1回「寺田真理記念 日本研究賞」の特別賞を受賞しました。

日本研究賞は、日本に対する理解増進のため、内外の優れた日本関係研究を顕彰し、奨励することを目的として、公益財団法人 国家基本問題研究所が設立し、受賞資格者は原則、若手か中堅の外国人の日本研究者で、対象作品は、ここ5年の間に刊行された著書とされています。

受賞著書:周作人伝 ある知日派文人の精神史

劉岸偉教授

劉岸偉教授

今回の受賞を受けて、劉教授は次のようにコメントしています。

「この度拙著『周作人伝ーある知日派文人の精神史』は国家基本問題研究所の「寺田真理記念・日本研究特別賞」に選ばれてまことに嬉しい。地味な研究書ともいうべき拙著の受賞は、これから日本研究に取りくむ後輩たちの大きな励ましとなるでしょう。かつて中国人の日本研究の遅れを一喝した戴季陶先生の批判を忘れず、時勢に流されることなく、しっかりと自分の目と足で研究活動を続けていく所存です。東工大・北京清華大との合同養成プログラムにも参加し、未来を担う両校の英才の教育に微力を尽くしていきたい。日頃の地道な教育、研究を通じて、中日間の意思疎通に少しでもお役に立てばと念じております。来日して三十年、いつかこの生活体験をふまえて、小泉八雲の『日本ー 一つの解明』の如き著書が書けたらいいなあ、と空想しているこの頃です。」

なお、「周作人伝 ある知日派文人の精神史」は第25回和辻哲郎文化賞も受賞しています。


機能性細胞膜の合成に成功、人工細胞にむけて大きな一歩 -完全制御可能な膜タンパク質合成システムの実現に道-

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要点

  • タンパク質を膜透過させる細胞膜上のトンネル「SecYEGトランスロコン」を試験管内で作製
  • SecYEGトランスロコンを介して数種の膜タンパク質を人工脂質膜に挿入
  • 細胞膜の機能を自律的に合成する人工細胞の実現に期待

概要

東京工業大学地球生命研究所の車兪澈(くるま ゆうてつ)WPI(世界トップレベル研究拠点プログラム)研究員、東京大学大学院新領域創成科学研究科の上田卓也教授と松林英明大学院生の研究チームは、人工細胞の構築に必要な、タンパク質を細胞膜に正確に組み込む分子装置を試験管内で作製することに成功した。上田教授が開発した試験管内タンパク質合成システム(PURE system、用語1)を用いて、膜タンパク質の合成に必須な膜上の分子装置を作製し、細胞と同じプロセスで膜タンパク質を合成した。この成果は、自律的に膜タンパク質を合成する人工細胞だけでなく、完全に制御可能な膜タンパク質合成システムの実現につながるものである。

生きた細胞の仕組みを詳細に理解するために、DNA、タンパク質、脂質などの生体分子を組み合わせて人工細胞を作製する研究が注目されている。しかし、それら細胞内分子を包み込む細胞膜の作製は、細胞膜上で働く膜タンパク質をうまく合成する有効な方法がなかったため非常に難しく、これまで人工細胞の実現を妨げていた。

この成果はドイツ化学会誌「アンゲヴァンテ・ケミー・インターナショナル・エディション」のオンライン速報版で2014年6月4日に掲載された。

試験管内でのSecYEGトランスロコンの合成と、SecYEGを介したpOmpA、LepBの膜透過と、YidCの膜挿入
試験管内でのSecYEGトランスロコンの合成と、SecYEGを介したpOmpA、LepBの膜透過と、YidCの膜挿入

試験管内タンパク質合成系であるPURE systemにリポソームを加え、SecYEGを合成するための遺伝子secYsecEsecGを投入する(1)(2)。SecYEGが合成された後、pOmpAを合成するための遺伝子ompAと、pOmpAを膜の内側へ透過させる細胞質因子SecAを投入する(3)。透過されたpOmpAはリポソーム内側の脂質膜に固定される。その後、LepBを合成するための遺伝子lepBを投入し同じように膜透過させる(4)。膜透過したLepBは先に透過したpOmpAの根元を切断し、結果成熟体型のOmpAがリポソーム内空間に放出される(5)。また、SecYGEは多数回膜を貫通するYidCを膜内へ挿入させることもできる(6)。

用語説明

(用語1) 試験管内タンパク質合成システムPURE system
タンパク質合成に必要な37種類の因子をそれぞれ大腸菌から単離精製し、1つの試験管内に混合したタンパク質合成のための人工的なシステム。目的の遺伝子を投入し温めることで、数時間以内にタンパク質が合成できる。

掲載雑誌名、論文名および著者名

掲載雑誌名:
独国化学会誌Angewandte Chemie International Edition (Angew. Chem., Int. Ed.)
論文名:
In Vitro Synthesis of the E. coli Sec Translocon from DNA
著者:
Hideaki Matsubayashi, Yutetsu Kuruma, and Takuya Ueda
DOI:

お問い合わせ先

車 兪澈(くるま ゆうてつ)
東京工業大学 地球生命研究所 WPI研究員
TEL: 03-5734-3414 FAX: 03-5734-3416
Email: kuruma@elsi.jp

東京工業大学 地球生命研究所 広報担当
TEL: 03-5734-3163 FAX: 03-5734-3416
Email: pr@elsi.jp

スパコン「京」がGraph500で世界1位 -ビッグデータの処理で重要となるグラフ解析でも最高の評価-

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理化学研究所(野依良治理事長)と東京工業大学(三島良直学長)、およびアイルランドのユニバーシティ・カレッジ・ダブリン(Andrew J Deeks学長)は、大規模グラフ解析(互いに関連性のある複雑なデータの分析)に関するスーパーコンピュータの国際的な性能ランキングであるGraph500※において、スーパーコンピュータ「京(けい)」[1]による解析結果で第1位を獲得しました。これは、東京工業大学博士課程(理化学研究所研修生)の上野晃司氏らによる成果です。

大規模グラフ解析の性能は、大規模かつ複雑なデータ処理が求められるビッグデータの解析において重要となるもので、今回のランキング結果は、「京」がビッグデータ解析に関する高い能力を有することを実証するものです。

※)
ドイツのライプツィヒで開催中のHPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング:高性能計算技術)に関する国際会議「International Supercomputing Conference(ISC) 2014」で6月23日(日本時間6月24日)に発表。前回(2013年11月)のランキングでは、「京」は第4位。

Graph500上位10位

公開されたGraph500の上位10位(http://www.graph500.org/outer)は以下の通りです。

順位
システム
名称
設置場所
ベンダー
国名
ノード数
プログラム
スケール
GTEPS
1
K computer
理研 計算科学研究機構
富士通
65536
40
17977
2
Sequoia
ローレンス・リバモア研
IBM
65536
40
16599
3
Mira
アルゴンヌ研
IBM
49152
40
14328
4
JUQUEEN
ユーリッヒ研
IBM
16384
38
5848
5
Fermi
CINECA
IBM
8192
37
2567
6
天河2A
国防科学技術大学
NUDT
8192
36
2061
7
Turing
GENCI
IBM
4096
36
1427
7
Blue Joule
ダーズベリー研
IBM
4096
36
1427
7
DIRAC
エジンバラ大学
IBM
4096
36
1427
7
Zumbrota
EDF社
IBM
4096
36
1427
7
Avoca
ビクトリア州生命科学計算
イニシアティブ
IBM
4096
36
1427

[1] スーパーコンピュータ「京(けい)」
文部科学省が推進する「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築」プログラムの中核システムとして、理化学研究所と富士通が共同で開発を行い、2012年に共用を開始した計算速度10ペタフロップス級のスーパーコンピュータ。「京(けい)」は理化学研究所の登録商標で、10ペタ(10の16乗)を表す万進法の単位であるとともに、この漢字の本義が大きな門を表すことを踏まえ、「計算科学の新たな門」という期待も込められている。

お問い合わせ先

広報センター

Tel: 03-5734-2975

Email: pr@jim.titech.ac.jp

※ 公開時、プレスリリースPDFがリンク切れしておりました。修正し、お詫び申し上げます。(2014.06.27 12:25追記)

河野行雄准教授がゴットフリード・ワグネル賞を受賞

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6月18日(水)、第6回ドイツ・イノベーション・アワード「ゴットフリード・ワグネル賞2014」授賞式が開催され、東京工業大学量子ナノエレクトロニクス研究センターの河野行雄准教授が秀賞を受賞しました。

受賞スピーチを行う河野准教授

受賞スピーチを行う河野准教授

本学の前身である東京職工学校でも教授をつとめたドイツ人科学者、ゴットフリード・ワグネルにちなんで名付けられたこの賞は、日本を研究開発の拠点として活動しているドイツのグローバル企業11社による2008年から始まったプロジェクトで、日本の若手研究者支援と科学技術振興、そして日独の産学連携ネットワーク構築を目的としています。

受賞理由 「ナノ領域におけるテラヘルツ波センシング・イメージング技術の開発」

カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェン、半導体ヘテロ構造中2 次元電子ガス(2DEG)によるナノ構造を用いて、CNT/2DEG 複合素子によるテラヘルツ光子検出器、ワンチップ型近接場テラヘルツ撮影素子、グラフェンによる広帯域周波数可変テラヘルツ・赤外分光素子といった検出器や撮影・分光用の素子を新たに開発したことを評価されての受賞です。

今回の受賞に関して、河野准教授は次のようにコメントしています。

「これまで未開拓領域とされてきたテラヘルツ波は、物質・宇宙・生命科学から情報通信・セキュリティ・医療等に至る幅広い分野での応用が期待されています。この電磁波のセンシング・イメージング技術は新しい分野ならではの挑戦的課題が多くあり、その解決には従来技術の延長ではない新規な発想が必要とされます。その分、研究を進めていくやりがいと成功した場合の達成感があります。本学にゆかりのあるドイツ人科学者にちなんで名付けられた賞を受賞でき、大変光栄に思っております。ドイツは日本とともにこの分野で存在感のある国であり、今後は共同研究等を通じて日独の架け橋になるべく研究に邁進したいと思います。お世話になりました共同研究者の皆様、研究室のメンバーに深く感謝申し上げます。」

共催企業代表からトロフィーと目録を受け取る河野准教授(左)

共催企業代表からトロフィーと目録を受け取る河野准教授(左)

授賞式集合写真 河野准教授(前列最左)

授賞式集合写真 河野准教授(前列最左)

東工大スパコンTSUBAME-KFCが省エネ性能スパコンランキング2期連続世界1位を獲得!

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次世代TSUBAME3.0に向けたプロトタイプシステム、オイルによる冷却システムを備えた「TSUBAME-KFC」がスパコンの省エネランキングGreen500 Listの2014年6月版において世界1位を獲得し、2013年11月版に引き続き2期連続で世界1位を達成。

東京工業大学学術国際情報センター(GSIC)が、日本電気株式会社(NEC)、米国NVIDIA社など内外各社の協力で開発し、2013年10月に稼動を開始したスーパーコンピュータ「TSUBAME-KFC」(用語1)が再び世界最高の省電力スパコンとして認定されました。The Green 500 List(用語2)の2014年6月版において1ワットあたり4,389.82メガフロップス(用語3)という値を記録し、世界1位になったことが6月30日(ニューヨーク時間)に発表されました。2013年11月版に引き続き2期連続での1位となり、低炭素社会の実現に向けた日米合同の技術リーダーシップを示したといえます。同時にビッグデータ処理の省エネルギー性を競うために昨年から始まったThe Green Graph 500 List (用語4)のビックデータ部門にて世界6位となりました。

TSUBAME2.5

TSUBAME2.5

また、昨年9月にアップグレードされた同センターのスパコン「TSUBAME2.5」も1ワットあたり2,951.95メガフロップスを記録し、The Green500 Listにおいて世界8位にランキングされています。「TSUBAME2.5」は、The TOP500 Listにおいても世界13位となり、日本国内ではスーパーコンピュータ「京」に次ぐ第2位となりました。

TSUBAME-KFC

TSUBAME-KFC

TSUBAME-KFCはTSUBAME2.0の後継となるTSUBAME3.0及びそれ以降のためのテストベッドシステムとして、同センターが推進する文部科学省概算要求「スパコン・クラウド情報基盤におけるウルトラグリーン化技術」プロジェクトによって設計・開発されたものです。同プロジェクトではスーパーコンピュータの消費電力とそれに係る冷却電力の双方の削減を目標としており、TSUBAME-KFCでは計算ノードを循環する油性冷却溶媒液の中に計算機システムを浸して冷却する油浸冷却技術及び冷却塔による大気冷却の組み合わせによって非常に少ない消費電力で冷却できるように設計しています。

TSUBAME-KFCシステムは40台の計算ノードとそれらを接続するFDR InfiniBandネットワークで構成されています。各計算ノードは1UサイズのサーバにIntel Xeon E5-2620 v2プロセッサ(Ivy Bridge EP)を2基、NVIDIA Tesla K20X GPU(用語5)を4基搭載しており非常に高密度になっています。40ノードを1つの油浸ラックに収容されるコンパクトな設計になっています。システム全体の理論ピーク演算性能は217テラフロップス(倍精度)になります。

今回の結果は、東工大学術国際情報センターにおいて省電力化を目指して行われてきた種々の研究成果が結実したものと言えます。ウルトラグリーン化プロジェクトだけでなく、同センターにおける科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業(JST-CREST)における「ULPHPC(超低消費電力高性能計算)」「EBD:次世代の年ヨッタバイト処理に向けたエクストリームビッグデータの基盤技術」などの基礎研究プロジェクト、また米国NVIDIA社との数年来の共同研究プロジェクトにおいて、最新技術であるGPU(用語5)のスパコンにおける大幅活用やHPCシステムの省電力化の研究などが続けられてきました。それらの成果をもとに、NECと米国NVIDIA社を中心に、米国Green Revolution Cooling社、米国Super Micro Computer社、米国インテル社、Mellanox社などが加わった企業と共同開発が行なわれました。

用語1  TSUBAME-KFC

TSUBAME Kepler Fluid Coolingが語源。TSUBAME2.5と同様にNVIDIA社のKepler世代GPUを搭載していますが、TSUBAME-KFCでは計算ノードを液体に浸けて冷却している特長から名づけられています。

用語2  The Green 500 List :

スパコンのベンチマーク速度性能を半年ごとに世界一位から500位までランキングするThe TOP 500 Listに対して、近年のグリーン化の潮流を受けTOP500のスパコンの電力性能(速度性能値 / 消費電力)を半年ごとにランキングしているリスト。http://www.green500.orgouter

用語3  ペタフロップス(Peta flops)、テラフロップス(Tera flops)

フロップスは1秒間で何回浮動小数点の演算ができるかという性能指標。ギガ(10の9乗)、テラ(10の12乗)、ペタ(10の15乗)など。

用語4  The Green Graph 500 List :

The Green 500 Listのように、ビッグデータ解析性能を競うGraph 500のスパコンの電力性能(解析性能値 / 消費電力)を半年ごとにランキングしている2013年の5月から始められたリスト。 http://green.graph500.org/outer

用語5  GPU (Graphics Processing Unit)

本来はコンピュータグラフィックス専門のプロセッサだったが、グラフィックス処理が複雑化するにつれ性能および汎用性を増し、現在では実質的にはHPC用の汎用ベクトル演算プロセッサに進化している。

お問い合わせ先

東京工業大学 広報センター プレス担当
TEL: 03-5734-2975 FAX: 03-5734-3661
Email: media@jim.titech.ac.jp

転写時のRNAの長さを制御する仕組みが明らかに ―がん化のメカニズム解明につながると期待―

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概要

東京工業大学大学院生命理工学研究科の山口雄輝教授と山本淳一研究員らは、遺伝子(DNA、デオキシリボ核酸)から作られるRNA(リボ核酸)の長さを、RNAポリメラーゼII(用語1)に結合する「NELF」というタンパク質が制御していることを突き止めた。遺伝子発現のエンジンともいえるRNAポリメラーゼIIにNELFが直接作用して、RNAの長さを適切にコントロールする仕組みを発見したもので、学術的な意義だけでなく、がん化の仕組みの解明につながると期待される。

NELFの働きを人為的に阻害すると、snRNA(用語2)やヒストンメッセンジャーRNA(用語3)といった本来は短いRNAが適切なプロセシング(加工・処理)を受けず、異常に長いRNAが作られるようになる。その結果、機能的に重要なsnRNAやヒストン(用語4)が働けなくなり、細胞は増殖できなくなることが分かった。

RNAポリメラーゼIIという酵素は遺伝子からRNAを写し取る(転写)。従来は、どこからどこまでが遺伝子で、どこからどこまでをRNAに写し取るべきかという情報はDNAの塩基配列に刻み込まれており、RNAポリメラーゼIIは正確に転写を行なうと考えられていた。

この成果は6月27日(英国時間)に英科学誌「ネイチャーコミュニケーションズ(Nature Communications = Natureの姉妹誌)」に掲載される。

RNAポリメラーゼIIによって作られる3種類のRNA

図. RNAポリメラーゼIIによって作られる3種類のRNA

NELFはプロセシングの経路の選択に関わっている

図. NELFはプロセシングの経路の選択に関わっている

用語説明

(用語1) RNAポリメラーゼII
遺伝子発現のエンジンともいえる酵素で、細胞内の遺伝子の大部分がこの酵素によってRNAへと写し取られる。

(用語2) snRNA
メッセンジャーRNAとは異なりタンパク質の情報を持たず、RNAとして機能している。細胞の核内で起こるスプライシングという反応(メッセンジャーRNAの中からタンパク質を作るのに邪魔な配列を取り除く反応)に関わっている。

(用語3) メッセンジャーRNA
遺伝子→メッセンジャーRNA→タンパク質、という有名なセントラルドグマに登場するRNAの一種。タンパク質のアミノ酸配列に関する情報を含んでおり、遺伝子からタンパク質が作られる過程の中間体として機能する。

(用語4) ヒストン
1メートルにおよぶ紐状のゲノムDNAを、十万分の一以下の大きさの細胞の核内に収納するのに必要なタンパク質。ヒストンタンパク質はヒストンメッセンジャーRNAから作られる。

本成果の発表先と発表日

著者:
Junichi Yamamoto, Yuri Hagiwara, Kunitoshi Chiba, Tomoyasu Isobe, Takashi Narita, Hiroshi Handa, Yuki Yamaguchi
発表先:
Nature Communications
論文タイトル:
DSIF and NELF interact with Integrator to specify the correct post-transcriptional fate of snRNA genes
DOI:

お問い合わせ先

大学院生命理工学研究科 生命情報専攻 教授
山口 雄輝
TEL: 045-924-5798
Email: yyamaguc@bio.titech.ac.jp

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