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「トムソン・ロイター引用栄誉賞」授賞式

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フロンティア研究機構の細野秀雄教授、大隅良典特任教授が2013年9月に受賞した「トムソン・ロイター引用栄誉賞」の授賞式が、1月7日(火)に本学にて行われ、トムソン・ロイター IP & Science アジア・太平洋地域統括マネージングディレクター 長尾正樹様よりCertificateが授与されました。

同賞は、トムソン・ロイターが保有する世界最高水準の学術文献・引用データベース「Web of Science」上で被引用数の各分野上位0.1パーセントにランクする研究者から選出されます。その中でハイインパクト論文(各分野において最も引用された上位200論文)を検証し、ノーベル委員会が注目すると考えられるカテゴリごとに人物が決定されます。 同賞の選考分野は、ノーベル賞に対応する4つの分野(医学・生理学賞、物理学賞、化学賞、経済学賞)が対象となっており、2012年ノーベル医学・生理学賞を授賞された京都大学・山中伸弥教授も2010年に同賞に選出されています。

今回、細野教授は物理学分野において、大隅特任教授は医学・生理学分野において選出されました。

「トムソン・ロイター引用栄誉賞」授賞式


平成25年度「東工大の星」支援【STAR】採択者決定

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平成25年度「東工大の星」支援(英語名称:Support for Tokyotech Advanced Researchers 【STAR】)の採択者が6名決定いたしました。

「東工大の星」支援【STAR】とは、東工大基金を活用し、将来、国家プロジェクトのテーマとなりうる研究を推進している若手研究者や、基礎的・基盤的領域で顕著な業績をあげている若手研究者へ大型研究費の支援を行うものです。次世代を担う、本学の輝く「星」の支援を開始しました。

第1回目の今回は、本学創立130周年である平成23年度から平成25年度までの3年度分として、6名の「星」が学長及び研究戦略室長の協議により選考されました。

詳細については「東工大の星」支援【STAR】概要PDFをご覧ください。

所属部局
専攻
職名
受賞者
大学院理工学研究科(理学系)
地球惑星科学専攻
准教授
上野 雄一郎
大学院理工学研究科(工学系)
有機・高分子物質専攻
准教授
道信 剛志
電子物理工学専攻
准教授
間中 孝彰
電子物理工学専攻
准教授
岡田 健一
応用セラミックス研究所
准教授
平松 秀典
量子ナノエレクトロニクス研究センター
准教授
河野 行雄

STAR1

STAR2

STAR3

お問い合わせ先
研究推進部研究企画課研究企画グループ
Email: kensen@jim.titech.ac.jp

金融市場のゆらぎのメカニズムを物理学で解明

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要点

  • 金融市場の売買注文板情報に2重の層構造を発見
  • アインシュタインの揺動散逸関係を市場変動でも確認

概要

東京工業大学大学院総合理工学研究科知能システム科学専攻の高安美佐子准教授と由良嘉啓大学院生は,チューリッヒ工科大学のディディエ・ソネット教授、ソニーCSL シニアリサーチャー・明治大学客員教授の高安秀樹氏と共同で、ドル円市場の高頻度売買注文板データ(用語1)を分析し、取引価格の周囲の売買注文量の増減に特徴的な2重の層構造があることを発見した。

具体的には、取引価格に近い内側の層が価格変動を駆動する揺動力となり、外側の層は変動を制動する散逸作用を持つことを明らかにした。さらに、アインシュタインが発見した揺動散逸関係(用語2)が非物質系でも成立していることを初めて実証した。

これまで売買注文板データはデータ量が膨大なため解析が難しかったが、この研究により分析の道筋ができたことになる。今後、市場のビッグデータをリアルタイムで解析し、市場の安定性を計測するような技術に応用されることが期待される。

この研究成果は3月7日発行の米物理学会誌「フィジカル・レビュー・レターズ電子版」に掲載された。

用語説明

用語1: 売買注文板データ
ドル円市場では、100万ドルを最小単位(1本)として売買されており、市場参加者は希望する売値と買値を本数とともに市場を取りしきるコンピュータサーバーに入力する。同じ価格で売り注文と買い注文がぶつかったとき、その価格で取引が成立し、売りと買いがぶつからない注文はそれぞれの価格に積み上げられる。取引が成立する前にキャンセルされる注文もある。人間が集まって取引をしていた頃には注文ごとに板を積み上げていた慣習から、これらの売買注文を集めた情報は板データとよばれる。

用語2: 揺動散逸関係
1905年、アインシュタインは有名な相対性理論の論文の他に、水の中を漂う微粒子の不規則な動きであるブラウン運動の論文も書いている。微粒子は、水分子からの衝突によって運動エネルギーを得て揺動し、また、その運動エネルギーは水分子との衝突によって散逸される。この関係を定式化したものが、揺動散逸関係である。当時、物質が原子や分子から構成されているということは仮説の段階だったが、この論文がきっかけとなって、原子や分子が実在であることが立証された。

論文情報

掲載雑誌名
Phys. Rev. Lett. 112, 098703 (2014)
論文タイトル
Financial Brownian Particle in the Layered Order-Book Fluid and Fluctuation-Dissipation Relations
著者
Yoshihiro Yura, Hideki Takayasu, Didier Sornette, and Misako Takayasu
DOI

金融市場の売買注文板情報と粒子・分子モデルの関係

図1 金融市場の売買注文板情報と粒子・分子モデルの関係

お問い合わせ先
大学院総合理工学研究科 知能システム科学専攻 
准教授 高安美佐子
Tel: 045-924-5640
Email: takayasu@dis.titech.ac.jp

鉄系超伝導物質で新しい型の磁気秩序相を発見

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本成果のポイント

  • 鉄系超伝導物質で、構造変化を伴う第二の磁気秩序相を発見
  • 3つの量子ビームプローブを相補利用するマルチプローブ手法で新物質開発に指針

概要

高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所(以下「物構研」)の元素戦略・電子材料研究グループは、東京工業大学(以下「東工大」)応用セラミックス研究所の飯村壮史(いいむらそうし)助教、同大学フロンティア研究機構・元素戦略研究センター細野秀雄(ほそのひでお)教授、松石聡(まついしさとる)准教授と共同で、マルチプローブの手法を用いて鉄系超伝導物質であるLaFeAs(O1-xHx)の磁気的な性質および構造を調べ、水素置換濃度xが0.4を超える領域で微細な構造変化を伴う新たな磁気秩序相が現れることを発見しました。この磁気秩序相は、同物質において2012年に明らかになった第二の超伝導相と隣接しており、従来知られていた母物質(x=0)における磁気秩序相とも質的に異なることから、もう一つの母物質が見出されたことになり、新たな超伝導機構解明の有力な手がかりとなることが期待されます。

本成果は、2014年3月16日(現地時間)に英国科学誌「Nature Physics」のオンライン版で公開されました。

論文情報

掲載雑誌名
Nature Physics
(オンライン版公開日:2014年3月16日)
論文タイトル
"Bipartite magnetic parent phases in the iron oxypnictide superconductor"
(和訳:鉄酸素ニクタイト超伝導体における2つの磁性母相)
著者
M. Hiraishi, S. Iimura, K. M. Kojima, J. Yamaura, H. Hiraka, K.Ikeda, P. Miao, Y. Ishikawa, S. Torii, M. Miyazaki, I. Yamauchi, A. Koda, K. Ishii, M. Yoshida,J. Mizuki, R. Kadono,R. Kumai, T. Kamiyama, T. Otomo, Y. Murakami, S. Matsuishi and H. Hosono
DOI

LaFeAs(O1-xFx)の結晶構造の模式図

図1 LaFeAs(O1-xFx)の結晶構造の模式図。青:ランタン、赤:酸素、茶:鉄、黄:ヒ素を表す。
四角で囲んだ部分がRE-Oブロック層。

お問い合わせ先
フロンティア研究機構・元素戦略研究センター
教授 細野秀雄
Tel: 045-924-5009
Email: hosono@msl.titech.ac.jp

鈴木崇之准教授、中辻寛准教授に平成25年度東レ科学技術研究助成が決定

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大学院生命理工学研究科の鈴木崇之准教授と大学院総合理工学研究科の中辻寛准教授に、第54回(平成25年度)東レ科学技術研究助成が決定しました。

東レ科学技術研究助成は、公益財団法人東レ科学振興会による科学技術の基礎的、萌芽的研究を行っている若手研究者への資金援助です。国内の研究機関において理学・工学・農学・薬学・医学(除・臨床医学)の分野で自らのアイディアで萌芽的研究に従事し、今後の研究の成果が科学技術の進歩、発展に貢献するところが大きいと考えられる若手研究者に研究助成金が贈呈されます。

贈呈式は3月18日、東京・丸の内の日本工業倶楽部で行われます。

推薦者
研究題目
代表研究者
助成金額(円)
日本遺伝学会
中枢シナプスの可塑性を制御する分子病理メカニズムの解明
大学院生命理工学研究科
准教授 鈴木 崇之
10,000,000

准教授 鈴木崇之

研究概要

神経と神経をつなぐシナプスと呼ばれる構造が可塑的に変化することにより、我々は経験依存的に行動を変化させることが出来る。このシナプス可塑性の異常が精神疾患の原因になるとも言われている。本研究では、ショウジョウバエ視神経の中枢シナプスを使って、可塑性を制御する分子を網羅的に同定し、生体内で機能解析を行い、シナプス可塑性の分子メカニズムを解明する。

助成決定に対し、鈴木准教授は以下のようにコメントしています。

ショウジョウバエの分子遺伝学は原因遺伝子を同定し、さらに生体内で解析するには、パワフルなツールです。我々が今やるべきだと思っていることを評価していただき、さらには助成していただき、大変有難く感じております。非常に優秀な東工大生命理工の学生・院生たちと共に、生命科学の発展に貢献したいと、心新たに考えております。

推薦者
研究題目
代表研究者
助成金額(円)
日本物理学会
銀表面を用いたシリセン膜の作製と2次元電子構造の研究
大学院総合理工学研究科
准教授 中辻 寛
12,000,000

准教授 中辻寛

研究概要

"シリセン"はシリコン原子が蜂の巣格子状に結合した単原子層シートで、次世代エレクトロニクスデバイスへの応用が期待されている"グラフェン"の炭素原子を、シリコン原子で置き換えたものです。スピン軌道相互作用が大きいためにグラフェン以上に多彩な電子物性が期待され、現行のシリコンデバイスとの整合性も良いので、理論計算による物性予測が盛んに行われていますが、実験的に実現する試みは、まだ始まったばかりです。本研究は、単結晶銀を基板としてシリコンを蒸着し、基板との相互作用をうまく利用することでシリセンを作製し、その原子構造と電子バンド構造を詳しく調べることを目標としています。

助成決定に対し、中辻准教授は以下のようにコメントしています。

このような助成をいただけることとなり大変ありがたく感じております。次はこの研究の成果で東工大ニュースに取り上げていただけるよう、頑張ります。

固体中の「負の水素」H-イオンの検出法を確立

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要点

  • NMRの化学シフトによる水素の電荷状態の判別法の問題点を明らかにし是正法を提唱
  • 水酸アパタイトを水素処理するとH-イオンがOH-の代わりに取り込まれることを立証
  • 最もありふれた不純物である水素の役割の解明に有効なツール

概要

東京工業大学応用セラミックス研究所セキュアマテリアル研究センターの林克郎准教授、同元素戦略センターの細野秀雄教授らの研究グループは、固体中に生成される「マイナスの電荷をもった水素」(水素化物H-イオン)を、核磁気共鳴法(NMR)計測だけで簡単に特定する手法の確立に成功した。NMRによる観測限界を、物質中の水素の周りの空間の大きさと対応付ければ補正できるという発見により実現した。これを用い、歯や骨を構成する物質であるアパタイト中にもH-イオンが生成することを世界で初めて実証した。

同グループは、これまでにも鉄系超伝導体の転移温度向上やセメント材料を母体とした透明導電膜を得るために固体材料中のH-の研究に取り組んできた。しかし実際にはH-の存在を証明するには大規模な研究施設での実験や、多数の間接的な実験証拠を積み重ねる必要があり、多大な労力を要していた。今回、未知のH-を明らかにする有効な手法を確立したことによって、H-イオンを含む新しい機能性材料の開発が加速されると期待される。

この研究成果は24日発行の英国の科学誌「ネイチャー・コミュニケーション(Nature Communications)」に掲載された。

論文情報

掲載雑誌名
Nature Communications
Article number: 3515 (2014).
論文タイトル
Hydride ions in oxide hosts hidden by hydroxide ions
(水酸化物イオンに隠された酸化物母体中の水素化物イオン)
著者
Katruro Hayashi、Peter V. Sushko、Yasuhiro Hashimoto、Alexander L. Shluger、Hideo Hosono
(林 克郎、ピーター=スシコ、橋本 康博、アレクサンダー=シュルガー、細野 秀雄)
DOI

研究のスポンサー

文部科学省 元素戦略プロジェクト 拠点形成型 (電子材料領域)

アパタイトセラミックスとH-イオンが取り込まれた局所構造
アパタイトセラミックスとH-イオンが取り込まれた局所構造。
赤く塗った信号以外は種々の状態のH+(OH-)に起因する。

お問い合わせ先

細野秀雄
フロンティア研究機構 教授 / 元素戦略研究センター長
Email: hosono@msl.titech.ac.jp

林 克郎
応用セラミックス研究所附属セキュアマテリアル研究センター 准教授
Email: k-hayashi@lucid.msl.titech.ac.jp

大気圧低温プラズマでフグ毒の分解に成功

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大学院総合理工学研究科の沖野晃俊准教授と神戸大学大学院医学研究科の東健教授は、大気圧低温プラズマを用いてフグ毒として知られるテトロドトキシンの分解に成功した。窒素ガスで生成した大気圧低温プラズマをテトロドトキシンに対して10分間照射することで、濃度が1/100になることを確認した。

大気圧低温プラズマによって高い活性力を持つラジカル(活性粒子)などの粒子を生成し、安定な化学構造を持つ毒素であるテトロドトキシンを室温で分解処理したもので、テトロドトキシン以外の毒素も分解できると見込まれる。大腸菌,黄色ブドウ球菌、カビなどの殺菌効果も確認されているため、今後は食品や農産物の無毒化、細菌・ウイルス汚染の除去、食品容器や医療機器の殺菌処理、化学テロ対策などへの展開が期待される。

この成果は4月1日に刊行される日本毒性学会の「トキシコロジカル サイエンス誌(The Journal of Toxicological Sciences)」に掲載される

図 マルチガスプラズマ装置

マルチガスプラズマ装置

論文情報

  • 論文題目
    Decomposition of tetrodotoxin using multi-gas plasma jet
  • 著者名
    T. Takamatsu et al.
  • 掲載誌
    The Journal of Toxicological Sciences, Vol. 39, No. 2 (2014)
    (2014 年4 月1 日出版予定)
  • DOI

お問い合わせ先
大学院総合理工学研究科創造エネルギー専攻
准教授 沖野晃俊
Tel・Fax: 045-924-5688
Email: aokino@es.titech.ac.jp

中性子が多い原子核に現れる特異構造を解明

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要点

  • 理研RIビームファクトリーでの実験により、ネオン31の微視的構造を決定
  • 中性子が非常に多い原子核に現れる3つの特異構造を統一的に理解
  • より重く、より中性子が多い不安定核に中性子ハローが普遍的に現れる可能性を示唆

概要

東京工業大学大学院理工学研究科の中村隆司教授と理化学研究所(理研)の研究グループは、中性子が非常に多い原子核でみつかっている「中性子ハロー(用語1)」「魔法数(用語2)の消失」、「強い変形」という3つの特異構造が、重いネオン同位体(用語3)「ネオン31」(31Ne)にすべて発現していることを定量的に明らかにし、これを統一的に理解することに成功した。

この研究は東工大、理研のほか、ソウル国立大学(韓国)、サレー大学(英)、日本原子力研究開発機構、カン素粒子原子核研究所(LPC-CAEN)(フランス)、東京大学原子核科学研究センター(CNS)、東京理科大学と共同で行った。研究成果は4月7日に米国物理学会の学術誌「フィジカル・レビュー・レターズ(Physical Review Letters)」電子版に掲載された。

今回観測されたネオン31の描像

図1
今回観測されたネオン31(31Ne)の描像。30Neというコンパクトで硬い芯原子核のまわりに、中性子1個が薄く拡がって雲のようになっている部分(中性子暈、あるいは中性子ハローと呼ばれる)がとりまいている。 31Neが約3:2(長軸:短軸比)で変形していることもわかった。

核図表、いわゆる原子核の地図

図2
核図表、いわゆる原子核の地図。横軸が中性子数、縦軸が陽子数(原子番号)を表わしている。ネオン31(31Ne)は陽子数が10、中性子数が21で、存在限界に近い原子核である。31Neはハロー構造が発見されている原子核の中では最も重い。

用語説明

(1) 中性子ハロー
1個または2個の中性子が芯原子核から外にしみだして薄く雲のように大きく拡がった状態(図1は31Neの例). 中性子が非常に多い原子核に10種程度みつかっている。31Neはその中で最も重い原子核である。なお、日常用語としてのハロー(Halo)は日本語では暈(かさ)と呼ばれ、薄曇りの日に太陽や月に現れる光の環を指す。

(2) 魔法数
原子核は特定の中性子数や陽子数を持っていると、殻が閉じることにより、球形になり、より安定になる。安定核で知られている魔法数は2, 8, 20, 28, 50, 82, 126である。この機構はマイヤーとイェンゼンによって発見され、彼らはこの業績により1963年にノーベル物理学賞を受賞している。最近の不安定核の研究から、従来知られていた8や20などの魔法数が消失する一方、新しい魔法数も幾つかみつかり注目されている。

(3) 同位体
陽子数が同じで中性子数が異なる原子核(または原子)を同位体と呼んでいる。観測されているネオンの同位体は最も軽いものが17Ne(ネオン17)で最も重いものが34Ne(ネオン34)である。また、天然に存在するネオンの安定同位体は20Ne(ネオン20)、21Ne(ネオン21)、22Ne(ネオン22)の3種である。

論文情報

Deformation-Driven p-Wave Halos at the Drip Line: Ne 31, T. Nakamura et al., Phys. Rev. Lett. 112, 142501 - Published 7 April 2014

DOI: 10.1103/PhysRevLett.112.142501outer

お問い合わせ先

中村隆司

東京工業大学 大学院理工学研究科 基礎物理学専攻教授

TEL: 03-5734-2652

Email: nakamura@phys.titech.ac.jp


東工大関係者8名が「科学技術分野の文部科学大臣表彰」を受賞

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このたび、東工大教員等8名が、科学技術分野で顕著な功績があったとして、科学技術分野の文部科学大臣表彰を受賞しました。

科学技術分野の文部科学大臣表彰では、「科学技術賞」として「開発部門」、「研究部門」、「理解増進部門」などいくつかの部門に分かれて表彰されています。文部科学省より発表された今年度の受賞者に、日ごろの研究活動、研究成果を認められた東工大関係者3名が含まれています。

また、萌芽的な研究、独創的視点に立った研究等、高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた若手研究者を対象とした「若手科学者賞」を5名の東工大教員が受賞しました。

本賞を受賞した東工大関係者は以下のとおりです。

科学技術賞(研究部門)

碇屋 隆雄 名誉教授

受賞業績:「革新的実用分子触媒の開発と精密合成化学への応用研究」

碇屋名誉教授のコメント

碇屋 隆雄 名誉教授
碇屋 隆雄 名誉教授

栄えある文部科学大臣表彰科学技術賞を受賞できることは大変光栄なことと思っております。これまで有機金属化合物を基盤とする協奏機能分子触媒による高効率分子変換反応や、超臨界二酸化炭素触媒反応の開発研究を通して環境負荷低減に役立つ「ものづくり化学・技術」の確立をめざして参りました。その研究成果が認められたことは共同研究者や学生諸君らの献身的な努力の賜物であり、望外の喜びです。心から感謝申し上げます。

腰原 伸也 大学院理工学研究科物質科学専攻 教授

受賞業績:「光誘起相転移とその関連現象に関する実験的研究」

腰原 伸也 教授
腰原 伸也 教授

腰原教授のコメント

私が行っている光誘起相転移の研究に対して、大変重要な賞をいただき感謝申し上げます。いままで研究を支えていただいてきた多くの皆様、とりわけ若手の皆さんに改めて心からお礼を申し上げたいと思います。新しい世界の開拓に欠かせない、研究と教育を両輪とする知的世界の冒険旅行に、より一層頑張りたいと思います。

図「光誘起相転移とその関連現象に関する実験的研究」

画像は中性分子性結晶(中性相)とイオン性結晶状態(イオン性相)を入れ替わる光誘起相転移を示す電荷移動錯体テトラチアフルバレン‐クロラニル結晶の、イオン性相での電子密度分布(X線精密構造解析の結果から得られたもの)

科学技術賞(理解増進部門)

庄山 悦彦 一般社団法人蔵前工業会理事長

受賞業績:「実験参加型寺子屋式出前理科教室による児童の理解増進」

庄山 悦彦 理事長
庄山 悦彦 理事長

庄山理事長のコメント

蔵前工業会で推進している「くらりか」が、文部科学大臣表彰科学技術賞を受賞できましたことは、これまでの関係者のご努力と将来に向かっての小中学校の理科教育への支援の重要性が評価されたもので、大変有難く感謝申し上げます。本活動により理科好き児童を増大させ、更なる努力をし、科学技術創造立国に寄与したいと思います。

若手科学者賞

米田 剛 大学院理工学研究科 テニュアトラック准教授

受賞業績:「実解析的手法を中心とした流体方程式の研究」

米田 剛 准教授
米田 剛 准教授

米田准教授のコメント

この度はこのような名誉ある賞を受賞させて頂き、大変嬉しく思っております。
この受賞を励みに、今まで以上に研究を進展させてまいりたいと意気込んでおります。
この場を借りて、今まで支えて下さった関係者方々に感謝申し上げます。

私はNavier-Stokes方程式という流体運動を表す方程式を数学的に研究しております。Navier-Stokes方程式は、あの有名な「ミレニアム懸賞問題」のひとつを提供している大変重要な方程式のひとつです。最近は、解析学(関数解析やフーリエ解析)というこのNavier-Stokes研究フィールドでよく使われてきたアプローチだけではなく、微分幾何学、数値計算、流体物理(理論物理)などさまざまなアプローチを念頭においています。今後はもっと貪欲に、工学、化学、生命科学といった異分野とも積極的に交流を深めていきたいと思っております。

藤芳 暁 大学院理工学研究科物性物理学専攻 助教

受賞業績:「温度数Kにおけるタンパク質1分子分光法に関する研究」

藤芳助教のコメント

本研究課題の実現には、真空光学株式会社、有限会社小野精工製作所をはじめとする地元大田区の町工場や、秋田県の三共光学工業株式会社で働く職人の方々の匠の技が無ければ不可能でした。ここに、改めてお礼を申し上げます。ご指導、ご鞭撻を頂いた松下道雄先生、小谷正博先生、志田忠正先生、実験に携わった小井川浩之博士、加藤太朗氏、星野創氏、内山大輔博士、金昌萬氏、恩田賢一氏、渡邊瑛氏、藤原正規博士、古屋陽氏、平野充遙氏、吉弘達矢氏、櫻井敦教氏、山川博之氏、上田慧氏、中村一平氏、島内明理氏、日野原拓也氏、岡本昴氏、丸尾美奈子氏、大友康平博士、稲川博敬氏、濱田裕紀氏、近藤徹博士、虎谷泰靖氏、若尾佳祐氏、本橋和也氏、森智貴氏、内藤貴也氏、共同研究者として研究に携わって頂いている総研大の渡辺正勝先生、伊関峰生先生、名工大の南後守先生、出羽毅久先生、東工大生命理工の林宣宏先生、東京医科歯科大の細谷孝充先生、京大の喜井勲先生に感謝を申し上げたいと思います。

極低温中で動作する反射対物レンズ

写真は、上記の方々と開発した極低温中で動作する反射対物レンズです。大きさの参考のために、2個のレンズの左横に百円玉を置いてあります。

杉山 将 大学院情報理工学研究科計算工学専攻 准教授

受賞業績:「ビッグデータ時代を支える次世代機械学習技術の先駆的研究」

杉山 将 准教授
杉山 将 准教授

杉山准教授のコメント

インターネットやセンサーなどを通じて、大量のデータが容易に入手できるビッグデータ時代が到来しました。ビッグデータの解析により、基礎科学から工学応用に至る様々な分野で新たな価値が創造できると期待されています。しかし、高次元かつ複雑な構造を持つ大量のデータは、既存の情報処理技術によって精度良く解析することが困難です。

このような背景のもと、様々な知的情報処理課題が確率密度比の推定問題に帰着できることを示し、確率密度比の高精度かつ高速な推定法を開発しました。これにより、異常検出、パターン認識、特徴抽出、クラスタリングを含む様々な機械学習課題を、統一的かつ精度良く解決できるようになりました。

今回の受賞を励みに、これからのビッグデータ時代を支える情報処理技術基盤の構築に向け、更に努力していきたいと思います。共同研究者の皆様、および、素晴らしい研究環境を与えて下さった計算工学専攻の先生方に感謝するとともに、引き続きのご支援、ご鞭撻をお願い致します。

小寺 哲夫 量子ナノエレクトロニクス研究センター 助教

 

受賞業績:「半導体量子ナノ構造中のスピンに関する研究」

小寺助教のコメント

小寺 哲夫 助教
小寺 哲夫 助教

量子ナノ構造中のスピンを情報の担い手として用いる新原理素子の創製と物理の解明を目指して研究を行ってきました。電子デバイスの高性能化と低消費電力化を両立させる技術や、超高速計算機として注目されている量子コンピュータの要素技術になると期待されています。今回このような光栄な賞を頂けたことを大変有り難く思います。これまでご指導頂いた先生方や、共同研究者の皆様、研究室のメンバーに大変感謝致しております。今後より一層研究に邁進したいと思います。

シリコン量子ドット素子の電子顕微鏡写真とスピンに依存するトンネル現象の模式図

図.
(a) シリコン量子ドット素子の電子顕微鏡写真。
(b) スピンに依存するトンネル現象の模式図。

中戸川 仁 フロンティア研究機構 特任准教授

受賞業績:「オートファジーを駆動する分子メカニズムの研究」

中戸川特任准教授のコメント

中戸川 仁 准教授
中戸川 仁 准教授

オートファジーとは私たちの体を構成している細胞の中で起こる大規模な分解・リサイクルシステムです。オートファジーを支える仕組みはとても魅力的な謎に満ちており、私はその解明に取り組んできました。このたびはこのような賞をいただき、これまでお世話になりました先生方、同僚の皆様、一緒に研究に励んでくれた学生さんたちに深く感謝しております。これからも謎の全容解明に向けて精進したいと思います。

図「オートファジーを駆動する分子メカニズムの研究」

オートファジーでは、分解の対象をオートファゴソームと呼ばれる膜の袋で包み込んで、リソソームあるいは液胞といった分解の場に運び込みます。オートファゴソームの膜は、図のようにとてもユニークかつダイナミックな過程を経て作り上げられます。本研究により、この膜形成を駆動するメカニズムの理解に重要な複数の知見が得られました。

※ 公開時、文中に重複があったため、該当する部分を削除いたしました。

火星の水が失われた歴史を解明-地球と火星の運命はいつどのように分かれたのか-

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要点

  • 火星隕石の化学分析データと理論計算により火星の水が失われた歴史を解明
  • 火星の初期水量の50パーセント以上が誕生後約4億年間で大気を通じて宇宙空間へ流出
  • 現在発見されている量を上回る大量の氷が火星に存在する可能性を提示

概要

東京工業大学大学院理工学研究科の臼井寛裕助教と名古屋大学大学院理学研究科の黒川宏之博士研究員らは、火星誕生から約4億年の間に火星表層の初期水量の50%以上が大気を通じて宇宙空間へ流出し、また残りの水の大部分は火星の気候変動により氷となって現在でも火星の地下に存在する可能性があることを突き止めた。

水が大気を通じて宇宙空間に流出した場合、残存する水の水素同位体比の変化としてその履歴が残ることに着目し、火星隕石に含まれる水の高精度水素同位体分析データを用いた理論計算によって水が失われた時期や量を明らかにした。火星が水を失った歴史を突き止めたことは、今後の火星探査計画への示唆や、地球型惑星が生命誕生にとって重要な海を持つ条件の理解につながると期待される。

 

現在の火星は極域に少量の氷が発見されている乾燥した惑星であるが、かつては大量の水が存在したことが探査研究などにより示唆されてきた。しかし、水がいつ、どのように失われたかは惑星科学における未解明の大きな謎だった。
この成果は5月15日発行の欧州科学雑誌「アース&プラネタリー サイエンス レターズ(Earth & Planetary Science Letters)」に掲載される。

図:火星隕石の分析によって得られた火星表層の水の水素同位体比の時間変化(上)と理論計算で得られた火星表層の水の量の時間変化(下)

図:火星隕石の分析によって得られた火星表層の水の水素同位体比の時間変化(上)と理論計算で得られた火星表層の水の量の時間変化(下)。水の存在量は火星地表面で平均した場合の水の厚みで表している。火星誕生後約4億年間で初期水量の50%以上が失われたこと、現在の火星の極地域に発見されている量よりはるかに多い氷が存在することを示唆している。図は本研究論文(Kurokawa et al., 2014)をもとに改変。

論文情報

Evolution of water reservoirs on Mars: Constraints from hydrogen isotopes in martian meteorites, H. Kurokawa, M. Sato, M. Ushioda, T. Matsuyama, R. Moriwaki, J.M. Dohm, T. Usui, Earth and Planetary Science Letters, Volume 394, 15 May 2014, page 179-185.

DOI:10.1016/j.epsl.2014.03.027outer

お問い合わせ先
大学院理工学研究科 地球惑星科学専攻
臼井寛裕
Tel: 03-5734-2616
Email: tomohirousui@geo.titech.ac.jp

社会課題解決に貢献する科学技術の探索法を開発

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概要

東京工業大学イノベーションマネジメント研究科の梶川裕矢准教授は、社会課題の解決に貢献する科学技術の候補を探索する方法論を開発した。

研究の背景

持続可能性や少子高齢化など、科学技術が社会から解決を要請される課題は複雑なものとなっている。一方で、科学技術や大学院教育は細分化・専門化するという状況にあり、また、日々膨大な量の科学技術情報が出版されている。こうした中で、社会課題の解決に貢献し得る科学技術を効率的・効果的に探索することはますます困難となっている。

研究成果

梶川裕矢准教授らの研究グループは、大量の論文情報の引用解析やテキスト解析により、科学技術と社会課題の関係性を可視化し、有望な技術の探索を可能とする手法およびシステムの開発を行った。科学技術と社会課題の関係性を示すことで、社会課題に対する科学技術の貢献を明示化するとともに、今後、研究開発が必要な新たな研究テーマの発掘にも活用することができる。

今後の展開

開発した手法およびツールは、技術経営やイノベーションマネジメントのための基盤的な方法論として用いることができる。今後は、企業などとの共同研究を通じて、新規事業の設計やそのためのアイデア出しに活用されることが期待できる。

社会課題(高齢社会)と技術(ロボット)の繋がり
図: 社会課題(高齢社会)と技術(ロボット)の繋がり

論文情報

論文タイトル:
Finding linkage between technology and social issue: a literature based discovery approach
雑誌名:
Journal of Engineering & Technology Management
DOI:
執筆者:
梶川裕矢
所属:
イノベーションマネジメント研究科

お問い合わせ先

梶川裕矢

大学院イノベーションマネジメント研究科技術経営専攻 准教授

TEL: 03-3454-8754

FAX: 03-3454-8754

Email: kajikawa@mot.titech.ac.jp

T2R2の論文公開件数が2000件を突破

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T2R2システム (Tokyo Tech Research Repository) は、東工大の学術研究論文等の一元的な蓄積・管理・発信を目的としたシステムです。東工大所属の全ての研究者が執筆した学術研究論文等のメタデータ(書誌情報等)およびPDFファイル形式の論文本文を、登録・保存・公開するための機能を備えています。また、T2R2システムに登録された論文・著書は、T2R2システムの検索サイトを通して、広く学内外の利用者による検索・閲覧が可能です。

3月19日、このT2R2システムにて学外公開されている論文等の本文ファイルが2000件を突破しました。
今後もT2R2システムでは、本学の研究成果を世界へ向けて発信して参ります。

2000件目の論文を登録した西原明法教授(大学院社会理工学研究科 人間行動システム専攻)のコメントを紹介します。

2000件目に本文ファイルが学外公開された論文の概要を教えてください。

与えられた電力対称な伝達関数から、全域通過回路を基本とした2ポート区間を順次引き抜くことにより、エイリアス歪と振幅歪のない2チャンネルIIRフィルタバンクを構成する一般的な手法を提案している。これにより従来別扱いとしていた偶数次の場合や、IIR-FIRハイブリッドなどの広いクラスのフィルタバンクが統一的に構成可能となった。

T2R2システムで公開されたファイルをどのような方々に読んで頂きたいですか?

ディジタル信号処理の内部回路構造(処理アルゴリズム)に興味をもつ方々。

今後の研究活動のご予定を教えてください。

応用研究ばかりでなく、このような理論的な研究も続けたい。

世界規模での挑戦:魚類の種多様性を河川の流況から読み解く

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概要

東京工業大学理工学研究科土木工学専攻の吉村千洋准教授とオリバー・サベドラ特任准教授の研究室は、世界規模での河川における魚類種数を、流況(用語1)指標と他の環境要因を用いて予測する経験的なモデルを開発した。

研究の背景

世界各地において生物多様性の減少が深刻な懸念となる最中、河川においては水利用の増加に加えて気候変動が自然の流況を変化させ、魚類種数を含めた淡水生物多様性に影響を及ぼしている。しかし、利用できる生物データは限られており、また河川の流れの多様性を表現する流況指標が未だ発展段階であるため、全球規模での流況と魚類種数の関係は未だ明らかとなっていなかった。

研究成果

対象河川において、生態学的に重要とされる流況を観測流量に基づき評価した上で、一般化線形モデル(用語2)を適用することで魚類種数との関係解析を行った。世界初の経験的知見として、特定の低水・高水特性が河川流域規模の魚類種数の多様性を説明する重要な要因であることが示唆された。また、今後の予測されている水利用や気候変動に基づき、将来の魚類種数の変化を定量的に予測した。

今後の展開

魚類種数多様性の保全の観点から、絶滅リスクの高い河川を特定する際に、この発見が有益となり得る。継続的な試みとして、流況のみならず、ダムが及ぼす影響や魚類の詳細な形態分類といった要素を考慮したモデルを構築中である。

流域ごとの魚類種多様性ポテンシャルの変化.灌漑地拡大および気候変動を考慮したシナリオに基づき、将来(2036-50, FSR.f)と過去(1971-85, FSR.p)の在来種の種多様性ポテンシャルの比を表す。
図: 流域ごとの魚類種多様性ポテンシャルの変化.灌漑地拡大および気候変動を考慮したシナリオに基づき、
将来(2036-50, FSR.f)と過去(1971-85, FSR.p)の在来種の種多様性ポテンシャルの比を表す。

用語説明

(1) 流況
流れの特性。時々刻々と変化する河川流量をその強さ、頻度、期間、時期、変化率といった観点から包括的に言い表したもの。

(2) 一般化線形モデル
正規分布以外の分布を扱えるように線形回帰モデルを拡張したモデル

論文情報

論文タイトル:
Evaluating the relationship between basin-scale fish species richness and ecologically relevant flow characteristics in rivers worldwide
雑誌名:
Freshwater Biology
DOI:
執筆者:
Yuichi IWASAKI, Masahiro RYO, Pengzhe SUI, and Chihiro YOSHIMURA
所属:
Department of Civil Engineering, Tokyo Institute of Technology

お問い合わせ先

吉村千洋

理工学研究科 土木工学専攻 准教授

TEL: 03-5734-2597

FAX: 03-5734-3577

Email: yoshimura.c.aa@m.titech.ac.jp

新構造の酸化物イオン伝導体を発見 中性子と放射光で構造決定・イオンの流れを可視化

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要点

  • 新しい結晶構造(原子配列)を持つ酸化物イオン伝導体グループ(新構造ファミリー)NdBaInO4(ネオジム・バリウム・インジウム酸化物)を発見
  • 室温~1000℃まで①(Nd,Ba)InO3ペロブスカイトユニットと②A-希土類酸化物Nd-Oユニットから成る結晶構造であることを中性子と放射光で解明(図1)
  • Nd-Oユニット内を酸化物イオンが二次元的に移動することを見出す(図1)

概要

東京工業大学理工学研究科物質科学専攻の八島正知教授、藤井孝太郎助教、茨城大学の石垣徹教授、星川晃範准教授、豪州原子力科学技術機構(ANSTO)のヘスタージェームス(James R. HESTER)博士らの研究グループは、酸化物イオン伝導体(用語1)の新しい構造ファミリーであるネオジム・バリウム・インジウム酸化物「NdBaInO4」(用語2)を発見した。NdBaInO4の結晶構造(用語3)の決定およびNdBaInO4における酸化物イオンの拡散経路の可視化にも成功した(図1)。

酸化物イオン伝導体は固体酸化物形燃料電池や酸素濃縮器などに使われており、新材料発見はこれら機器の高効率化や新規酸化物イオン伝導体、電子材料の開発を促すと期待される。

NdBaInO4の結晶構造解析にはJ-PARCに設置された茨城県の中性子回折装置、豪州ANSTOに設置された中性子回折装置、大型放射光施設SPring-8および高エネルギー加速器研究機構(KEK)放射光科学研究施設(PF)に設置された放射光X線回折計を用いた。

NdBaInO<sub>4</sub>の精密化した結晶構造と酸化物イオン伝導経路。この構造は(i) <i>A</i>-O (Nd-O)ユニットおよび(ii) (<i>A,A'</i> )<i>B</i>O<sub>3</sub> (= Nd<sub>2/8</sub>Ba<sub>6/8</sub>InO<sub>3</sub>)ペロブスカイトユニットから成る。酸化物イオン(O<sup>2-</sup>)伝導は<i>A</i>-O (Nd-O)ユニットにおいて起こる

図1:NdBaInO4の精密化した結晶構造と酸化物イオン伝導経路。この構造は(i) A-O (Nd-O)ユニットおよび(ii) (A,A' )BO3 (= Nd2/8Ba6/8InO3)ペロブスカイトユニットから成る。酸化物イオン(O2-)伝導はA-O (Nd-O)ユニットにおいて起こる(図の⇔)。

論文情報

New Perovskite-Related Structure Family of Oxide-Ion Conducting Materials NdBaInO4, Kotaro Fujii, Yuichi Esaki , Kazuki Omoto, Masatomo Yashima , Akinori Hoshikawa , Toru Ishigaki , and James R. Hester, Chemistry of Materials, 2014, 26 (8), pp 2488-2491

DOI:10.1021/cm500776xouter

電子版が2014年3月21日出版された

用語説明

用語1) 酸化物イオン伝導体(酸化物イオン伝導性材料):外部電場を印加したとき酸化物イオンが伝導できる材料。酸化物イオン伝導性材料は①純酸化物イオン伝導体および②酸化物イオン-電子混合伝導体に分類できる。

用語2) NdBaInO4:Nd, BaおよびIn陽イオンと酸化物イオンから成る酸化物。

用語3) 結晶構造:原子配列が正確な周期性を持つ物質が結晶である。結晶構造は結晶の原子配列である。結晶構造は空間群(原子配列の対称性)、単位胞パラメーター(単位胞の大きさと形)、原子座標(単位胞における原子の位置)などによって規定される。

お問い合わせ先
大学院理工学研究科物質科学専攻 教授 八島正知
Tel: 03-5734-2225
Email: yashima@cms.titech.ac.jp

40億年前の月の自転軸は数十度ずれていた

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概要

月探査機「かぐや」月磁場研究グループの九州大学大学院理学研究院・高橋太准教授と東京工業大学大学院理工学研究科・綱川秀夫教授(グループリーダー)らは衛星観測データを解析し、太古の月には地球と同じように大規模な磁場が存在していたこと、現在とは数十度異なる自転軸だったことを明らかにしました。

現在の月には大規模な磁場はありません。本研究から、約40億年前の月中心部では溶けた鉄が活発に運動し磁場を発生していたことがわかりました。その磁極は離れた2箇所にあり、一つは現在の月北極付近にありますが、もう一つは数十度離れていました。磁極の位置は自転軸の極とほぼ一致する性質があり、月の自転軸はかつて今の位置から大きく離れていたことになります。このことは、月の形成と進化を明らかにする上で非常に重要な成果です。

本研究成果は、2014年5月4日(日)18時(英国時間)に、英国国際学術誌"Nature Geoscience" オンライン版で公開されました。

過去と現在の月の北極と南極の位置

図: 過去と現在の月の北極と南極の位置

論文情報

Reorientation of the early lunar pole
Futoshi Takahashi, Hideo Tsunakawa, Hisayoshi Shimizu, Hidetoshi Shibuya, Masaki Matsushima, Nature Geoscience (2014)

DOI: 10.1038/ngeo2150outer

お問い合わせ先
理工学研究科 地球惑星科学専攻 教授 綱川 秀夫
TEL: 03-5734-2339 (専攻秘書室)
Email: htsuna@geo.titech.ac.jp


ゆっくり食べると食後のエネルギー消費量が増えることを発見

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要点

  • ゆっくり食べると食後のエネルギー消費量が増加
  • 食後の消化管の血流増加はエネルギー消費量の増加に関連
  • ゆっくりよく噛んで食べることが良いとされる裏づけ
  • 咀嚼(そしゃく)を基盤にした減量手段の開発につながる

概要

東京工業大学大学院社会理工学研究科の林直亨(はやし・なおゆき)教授らの研究グループは、急いで食べる時に比べて、ゆっくり食べる方が食後のエネルギー消費量が増加することを明らかにした。300kcalのブロック状の食品をできるだけ急いで食べると、その後、90分間のエネルギー消費量は体重1kg当り平均7calだった一方、食塊がなくなるまでよく噛んで食べた時には180calと有意に高い値だった。また、消化管の血流もゆっくり食べた時の方が有意に高くなったことから、ゆっくり食べると消化・吸収活動が増加することに関連してエネルギー消費量が高くなったものと推察される。

この成果は、ゆっくりよく噛んで食べることが良い習慣であることの裏づけとして、また咀嚼を基本にした減量手段の開発に役立つものとして期待される。

本研究は、5月1日に欧州の肥満学会誌「オベシティ(Obesity) 誌」に掲載された。

研究成果

被験者10名に20分の安静測定後、300kcalのブロック状の食品を与えた。その食品をできるだけ急いで食べる試行と、できるだけゆっくり食べる試行とを行った。前者では平均103秒、咀嚼回数が137回、後者では497秒、702回だった。安静時から摂食、摂食後90分までの酸素摂取量を計測し、食事誘発性体熱産生量(用語1)を算出した。また、腹腔動脈(用語2)と上腸間膜動脈(用語3)の血流量を計測した。

その結果、食後90分間のエネルギー消費量は急いで食べた試行の場合、体重1kg当り平均7calだった一方、ゆっくり食べた時には180calと有意に高い値を示した。急いで食べるよりも、よく噛んでゆっくり食べた方がエネルギー消費量が大幅に増えた。体重60kgの人がこの食事を1日3回摂取すると仮定すると、咀嚼の違いによって1年間で食事誘発性体熱産生には約11,000kcalの差が生じる。これは脂肪に換算するとおよそ1.5kgに相当する。

消化管の血流もゆっくり食べた方が有意に高くなった。ゆっくり食べると消化・吸収活動が増加することに関連して、エネルギー消費量が高くなったものと推察される。

なお、発表論文には100kcalの試験食を用いた同様の結果も掲載されている。

背景

多くの横断研究で、食べる速さが速いと感じている人が太り気味であることが示されている。また、実験研究では早食いが過食につながることが示されていた。このように早食いが過食に関連し、それが原因で体重が増加する可能性が示唆されている。ところが、一定量の食事を摂取した場合にも、食べる速さが体型に何らかの影響を与える可能性があるのかについては明らかにはなっていなかった。

林教授らの研究グループは咀嚼をしただけで、消化管の血流量が増加することを2008年に観察している。また、消化管の血流量がエネルギー消費量と関係することが知られている。そこで、一定量の食事を摂取させた時にも、ゆっくり咀嚼した方が食後のエネルギー消費量(食事誘発性体熱産生)が増加するとの仮説を立て、咀嚼が食事誘発性体熱産生に与える影響を検討した。

今後の展開

ゆっくりよく噛んで食べることが良い習慣であることの裏づけとして、また咀嚼を基本にした減量手段の開発に役立つものとして期待される。

用語説明

1. 食事誘発性体熱産生
摂食後に起こる栄養素の消化・吸収によって生じる代謝に伴うエネルギー消費量の増加である。基礎代謝量の1割程度を占める。
2. 腹腔動脈
食道、胃、十二指腸の上部などに血液を送る動脈。
3. 上腸間膜動脈
十二指腸の下部から腸の大部分までの範囲に血液を送る動脈。

論文情報

論文タイトル:
The number of chews and meal duration affect diet-induced thermogenesis and splanchnic circulation
雑誌名:
Obesity, Volume 22, Issue 5, pages E62-E69, May 2014
DOI:
執筆者:
Hamada Y, Kashima H, and Hayashi N.

体重当たりの食事誘発性体熱産生量の変化(安静値との差で示した)を時間毎に示した。。

図 体重当たりの食事誘発性体熱産生量の変化(安静値との差で示した)を時間毎に示した。●が急いで食べた試行を、○がゆっくり食べた試行を示す。食後5分後には、両試行の間に差が見られ、食後90分まで続いた。
♯:試行間の有意差 *:摂食前の安静時エネルギー消費量との間の有意差

お問い合わせ先
東京工業大学 大学院社会理工学研究科
人間行動システム専攻
教授 林 直亨(はやし なおゆき)
TEL: 03-5734-3434
FAX: 03-5734-3434
Email: naohayashi@hum.titech.ac.jp

白金同等の活性有する低コスト、高耐久性の燃料電池用新触媒を開発「タンタル酸化物ナノ粒子薄膜でキャップされた白金ナノ触媒」

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東京工業大学大学院総合理工学研究科の大坂武男教授、Zaenal Awaludin博士研究員を中心とした研究チームは、燃料電池の触媒に使われている白金触媒と同等の性能がありながら、優れた耐久性を持つ「多孔性タンタル酸化物(TaOx)ナノ粒子薄膜でキャップされた白金ナノ微粒子触媒」の開発に成功した。

白金は資源的に希少で高価だが、水素‐酸素固体高分子形燃料電池では高い触媒活性を示す白金を用いることを余儀なくされている。同研究グループが開発した触媒の電気化学的に活性な白金の面積は従来の白金触媒と比べて小さいが同等の触媒活性を示しており、実用化のための新触媒開発の指針となる。

水素エネルギー利活用社会の実現の入口として、2009年の家庭用定置型燃料電池の市場投入に続き、2015年には燃料電池車の市場投入が予定されている。

燃料に水素、酸化剤に空気中の酸素を用いる固体高分子形燃料電池の電極触媒としては、希少で高価な白金を用いているが、燃料電池の本格普及には一層の高性能化、高耐久性化および低コスト化が不可欠である。特に酸素極での酸素還元反応触媒の新材料の開発が求められている。

大坂教授らが開発した「多孔性タンタル酸化物(TaOx)ナノ粒子薄膜でキャップされた白金ナノ微粒子触媒」は、従来の白金触媒に比べ、白金の電気化学的に活性な面積が約4分の1と小さいにもかかわらず、白金触媒と同等の触媒活性を有する。さらに白金触媒に比べて、耐久性は約8倍に高まった。

新触媒が白金触媒に優る高い耐久性を有する理由として、多孔性TaOxマトリックスの中に白金ナノ微粒子が包含されて凝集と溶解が抑えられると考えられ、また酸素還元活性が促進される理由としては、白金表面上の被毒種(OH吸着種など)のTaOxへのスピルオーバー効果の結果として酸素分子の4電子還元配向吸着が促進されること、白金ナノ微粒子近傍の局所pHの低下、白金ナノ微粒子とTaOxとの電子的相互作用などが考えられている。

  • TaO<sub>x</sub>ナノ粒子薄膜でキャップされた白金ナノ微粒子触媒の走査型電子顕微鏡による断面プロフィル

    TaOxナノ粒子薄膜でキャップされた白金ナノ微粒子触媒の走査型電子顕微鏡による断面プロフィル

  • TaO<sub>x</sub>ナノ粒子薄膜でキャップされた白金ナノ微粒子触媒への酸素の吸着および4電子還元反応

    TaOxナノ粒子薄膜でキャップされた白金ナノ微粒子触媒への酸素の吸着および4電子還元反応

論文情報

  • 著者:
    Zaenal Awaludin, James Guo Sheng Moo, 岡島武義, 大坂武男
  • 論文タイトル:
    TaOx-capped Pt nanoparticles as active and durable electrocatalysts for oxygen reduction
  • 記載雑誌:
    Journal of Materials Chemistry A, 1, 14754-14765 (2013)
  • DOI:

お問い合わせ先

大坂 武男

大学院総合理工学研究科 物質電子化学専攻 教授

Tel: 045-924-5404

Email: ohsaka@echem.titech.ac.jp

多層カーボンナノチューブの高い触媒活性を発見

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要点

  • 炭素のみでは触媒活性がほとんどないと考えられているが、欠陥構造の形成が高い触媒活性をもたらすことを発見
  • 電気化学測定前後の不純物評価により、不純物による活性ではないことを確認
  • 燃料電池などの貴金属に代わる触媒として有望

概要

東京工業大学大学院総合理工学研究科の脇慶子准教授らは、欠陥構造を導入した多層カーボンナノチューブが燃料電池や金属空気電池などの空気極(正極)に応用可能な高い触媒活性を持つことを見出した。金属酸化物微粒子の触媒活性を利用してカーボンナノチューブ表面にナノオーダの細孔を形成•制御することを実現した。この構造はカーボンナノチューブの新たな触媒活性や貯蔵特性を付与し、多方面への応用が期待される。

欠陥構造導入後の多層カーボンナノチューブに金属不純物はほとんど残っていなかったことから、多層カーボンナノチューブの高い触媒活性は不純物によるものではなく、人工的に形成した欠陥構造によるものであることを確認した。

燃料電池などの触媒は資源的に希少で高価な白金が使われている。このため、カーボンに金属や窒素を添加した触媒などの研究成果が報告されているが、触媒活性のメカニズムはまだ解明されていなかった。

図 活性測定後のDMWNT-Ar900の透過型電子顕微鏡像 拡大像 HAADFイメージ 電子エネルギー損失分光スペクトル(EELS)

図: (a)活性測定後のDMWNT-Ar900の透過型電子顕微鏡像 (b)拡大像
(c)HAADF イメージ (d)電子エネルギー損失分光スペクトル(EELS)

論文情報

Non-nitrogen doped and non-metal oxygen reduction electrocatalysts based on carbon nanotubes: mechanism and origin of ORR activity
Keiko Waki, Raymond A. Wong, Haryo S. Oktaviano, Takuya Fujio, Takuro Nagai, Koji Kimoto and Koichi Yamada, Energy Environ. Sci., 2014, Advance Article
DOI: 10.1039/C3EE43743Douter

お問い合わせ先
総合理工学研究科 創造エネルギー専攻
准教授 脇 慶子
TEL: 045-924-5614
Email: waki.k.aa@m.titech.ac.jp

東工大教員が日本建築学会賞など三賞を受賞

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東工大の教員5名が、2014年日本建築学会賞(論文)*1同賞(作品)*2、および2014年日本建築学会作品選奨*3を受賞しました。各賞を受賞した教員のコメントをご紹介します。

2014年日本建築学会賞(論文)

大野 隆造 大学院総合理工学研究科 人間環境システム専攻 教授
受賞業績:「生活環境の知覚および認知に関する一連の研究」

概要

受賞対象の「生活環境の知覚および認知に関する一連の研究」は、人が日常の生活を営む中で環境からどのような情報をどのように受け取り行動しているのか、またどのようにその環境を記憶して意味付けているのかといった、人と環境との関わりの根底にある関係を実証的に解明し、それに基づいて建築・都市空間の計画への応用を提案したものです。

3部構成の第1部では、モノの知覚とは異なる環境の知覚についての理論的な検討を通して「環境視」の概念を提起し、それに関わる環境情報を記述する方法を開発しています。第2部では、空間移動時の環境と知覚との相互のダイナミックな関係に着目し、視覚シミュレーション装置を用いて、移動中の誘導サインの認知や距離知覚について解明しています。第3部では、公共空間における居場所選択行動、複雑な屋内外の経路構造と迷い、緊急時の避難と環境情報、など環境認知の現実的課題について究明しています。

大野教授のコメント

大野隆造教授

大野隆造教授

映画のアカデミー賞を受賞した人の挨拶をテレビで見ていて、あまりにも多くの名前を延々と挙げて感謝の辞が続くのを奇異に思ったことがあります。しかし、今回の受賞を機にあらためて自分の一連の研究を振り返ってみると、さまざまな場面で重要な役割を果たしてくれた多くの人々の顔が次々と浮かんできて、その一人一人の名前を挙げて感謝したくなる気持ちが分かりました。学生として東工大とウィスコンシン大で教えを受けた先生方、新参教師として赴任した神戸大で助けて頂いた先輩教員や同輩、東工大に戻ってからの同僚、そしてその間に出会った学生達。研究の発想と思考は孤立した個人の脳では成り立たず、周りの人のとの知の交信によってはじめて可能であったことに気付きました。そして、この互いに刺激しあう知のネットワークの基盤として、情緒的な安定を保つための家族をはじめとする心の環境が欠かせないことも再認識しました。

2014年日本建築学会賞(作品)
2014年日本建築学会作品選奨

川島 範久 大学院理工学研究科 建築学専攻 助教
受賞作品:「NBF大崎ビル」

概要

NBF大崎ビル 撮影:鈴木豊

NBF大崎ビル(撮影:鈴木豊)

世界的ICT企業のための研究開発型オフィス。知的生産性が高いワークプレイスを最小の環境負荷で支えながら、都市に対して利他的な効果をももたらす、次世代環境オフィスです。研究所とオフィスを一棟に集約し、エンジニア同士の知的交流を促進する計画とし、さらにワークプレイスは整形無柱の空間として、製品開発に求められる迅速な人の集散に対応でき、一望性が高くコミュニケーションが生まれやすいよう配慮しました。

ワークプレイスには全周バルコニーを設けて高層階でも安心して働ける環境にするとともに、貯留雨水を循環させて外壁を気化冷却し冷房負荷を削減する外装システム「バイオスキン」を開発し、採用しました。これは周辺街区も冷やし、ヒートアイランド現象を抑制する今までにない利他的な環境装置です。ランドスケープでも、隣接建物の緑地と連続させることにより広大な緑地を大崎駅前につくりだし、クールスポットを形成します。

川島助教のコメント

川島範久助教

川島範久助教

日建設計の設計担当として、コンペから竣工まで関わらせていただいた建築ですが、施主の皆様、施工者の皆様、社内外の沢山の設計チームメンバーとの協働の中で実現した建築です。まずは、この関係者の皆様に、感謝の意を伝えたいと思います。この建築の竣工引渡し一週間前に、東日本大震災が発生しました。それまで考えてきた建築と環境の関係性について、再考せざるを得なくなりました。それが、その後にUCバークレーで客員研究員としてカリフォルニアにおけるサステイナブル・デザインを学ぶキッカケとなり、これから考えていくテーマを見つけることに繋がりました。このように、多くの人達と出会い、多くことを学ぶキッカケとなった建築が、このような素晴らしい賞を受賞したことは、大変嬉しく思います。これを励みにこれからさらに頑張っていこうと思います。

2014年日本建築学会作品選奨

塚本 由晴 大学院理工学研究科 建築学専攻 准教授
竹内 徹 大学院理工学研究科 建築学専攻 教授
伊原 学 大学院理工学研究科 化学専攻 准教授
受賞作品:「東京工業大学 環境エネルギーイノベーション棟」

概要

環境エネルギーに関する研究者が専攻を超えて集まるこの研究棟は、建築と融合した棟内の高効率なエネルギーシステム設計により、CO2排出量を従来よりも約60%削減し、棟内で消費する電力を650kWの大容量太陽電池パネルと100kWのリン酸燃料電池コジェネレーションシステムによってほぼ自給できる設計となっています。独自に開発されたスマートグリッド管理システム“エネスワロー”によってエネルギーの見える化をおこない、気象条件、エネルギーの需給バランスなどにより、消費電力を無理なく抑制できる仕組みをも持ちます。建物本体の外殻架構には地震エネルギーを吸収し、柱梁を損傷より守る座屈拘束ブレースを螺旋状に巡らせ、震度6強の地震時にも機能を維持できる構造としました。この本体に寄りかかるように傾いた南面、屋根面および西面の三面が一体となり、建物を包み込むソーラーエンヴェロップを形成。フィーレンデールの鉄骨フレームに既製品の太陽電池パネルとキャットウォークを設置し、メンテナンスと将来のパネルの更新を容易にしました。研究室の階では冬至の南中時にパネル全体に日射が届くルーバー状として採光を確保しています。太陽の恵みを受けるという点で、太陽光電池パネルには農業との共通性が多く、太陽に干すようにパネルが並ぶ姿は“稲掛け”を連想させます。

環境エネルギーイノベーション棟

環境エネルギーイノベーション棟

エネスワローによるエネルギーの見える化

エネスワローによるエネルギーの見える化

受賞教員のコメント

審査では太陽光パネルを鎧のようにまとった姿に「異形の建築」という声もあったと聞いていますが、それを新しい時代を開く建築として高く評価していただいた背景には、環境エネルギー分野と建築分野の協働への期待があります。今後も同様の努力を続ける責任が本学にはあると、気を引きしめているところです。(塚本准教授)

本プロジェクトでは学内のみならず多くの企業の方々のご協力を頂きましたこと、この場を借りて御礼申し上げます。環境エネルギーイノベーション棟の設計に加えて、そこで運用されている棟内スマートグリッド “エネスワロー” も高い評価をいただいたものと思います。今後も本棟を中心とするスマートエネルギーキャンパス構想“東工大グリーンヒルズ構想”を推進していきたいと考えています。(伊原准教授)

  • 塚本由晴准教授

    塚本由晴准教授

  • 竹内徹教授

    竹内徹教授

  • 伊原学准教授

    伊原学准教授

近年中に発表された研究論文の中でも、学術の進歩に貢献する優れたものに授与されます。
近年中に竣工した建築の設計の中でも、技術や芸術の進歩に貢献する優れた作品に授与されます。
日本建築学会作品選集に掲載された中でも、特に優れた作品が選出されます。

磁場中の高温超伝導現象、全貌を解明

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ポイント

  • 絶対零度でのみ抵抗ゼロになる超伝導状態を磁場中の幅広い領域に発見
  • 予想に反して量子臨界点(絶対零度で状態変化を起こす点)が2つ存在
  • メカニズムの理解や応用の進展に重要な指針を提示

概要

東京工業大学応用セラミックス研究所の笹川崇男准教授と米フロリダ州立大学との日米研究チームは、これまで謎とされてきた、高温超伝導体(用語1)において磁場が起こす状態変化について、絶対零度まで包括する全体像を明らかにした。

磁場を強めていくと電気抵抗ゼロの超伝導状態になる温度は低下してゆく。これまでは、超伝導になる温度が絶対零度まで低下する磁場が唯一の量子臨界点(絶対零度で状態変化を起こす点、用語2)で、それ以上の磁場中には超伝導状態は存在しないと考えられていた。ところが、約4倍の高磁場まで、絶対零度でのみ超伝導状態になる領域が広く存在していることを実験で突き止めた。この予想を覆す今回の発見により、高温超伝導メカニズムの理解に弾みがつくとともに、応用に関しても重要な指針が得られるものと期待される。

この成果は英国の科学誌「Nature Physics (ネイチャー・フィジックス)」オンライン先行版(現地時間5月4日発行)に掲載された。

研究の背景

電気抵抗がゼロになる超伝導体は、消費電力なしに電流を流せる究極のエコ材料として、様々な分野での利用が期待されている。特に、高い温度から超伝導状態になる層状の結晶構造をもつ銅酸化物について、発現機構の解明や応用への展開に向けた研究が世界中で活発に行われている。

強力な磁場中では、超伝導状態は壊れてしまう。一方で、消費電力ゼロを利用して大電流を流せば、強い磁場が発生してしまう。そのため、磁場中における超伝導体の振る舞いを詳細に理解することは、応用に向けた大切な課題になっている。また、積極的に磁場を使って超伝導状態を壊し、その時に現れる状態を詳しく調べることにより、高温超伝導のメカニズムを探る研究も盛んに行われている。

このように、「高温超伝導体の磁場中における振る舞い」は基礎と応用の両方から重要となるが、最も根本的なデータである熱で状態が乱されなくなる絶対零度(0ケルビン、摂氏マイナス273.15度)も含めて、その全貌は謎であった。

研究成果

笹川准教授らはランタン-ストロンチウム-銅の酸化物からなる高温超伝導体を、4~6ケルビンという非常に低い超伝導転移温度になるように組成調整した試料を用いて実験した。18テスラ(地球がもつ磁場の約36万倍)の高磁場までと、0.09ケルビンの極低温まで環境を変化させて電気抵抗を測定することにより、高温超伝導体が示す状態変化の絶対零度までを含む全体像を観測することに成功した。

様々な温度と磁場における電気抵抗率の測定結果(図1左)を、抵抗率と温度について特性値を求めて規格化すると、全てのデータが2つの曲線のいずれかに重なることが分かった(図1右)。このような臨界スケーリングと呼ばれる解析を行うことにより、ある磁場中で絶対零度になった時に超伝導と絶縁体のどちらかの状態になるかが判別でき、その境界の磁場として量子臨界点(絶対零度で状態変化を起こす点、用語2)を突き止めることもできた。

今回得た実験データを臨界スケーリングと呼ばれる手法で解析した結果

図1. 今回得た実験データを臨界スケーリングと呼ばれる手法で解析した結果。様々な温度と磁場における抵抗率の測定結果(左図)は、2つの曲線のいずれかにスケールし(右図)、その境界磁場として量子臨界点が求まった。

その結果、これまでの予想とは異なって、高温超伝導体は、磁場誘起の量子臨界点を2つ持つことを発見した。有限の温度から電気抵抗ゼロの超伝導状態になる低磁場領域と、絶対零度で抵抗が無限大の絶縁体状態になる高磁場領域との間に、絶対零度でのみ超伝導になる領域が広く存在していることがわかった(図2)。従来は、1つ目の量子臨界点の磁場(図中H1 *)によって完全に超伝導状態が破壊されると考えられていたが、それよりも約4倍の高磁場(図中H2 *)まで絶対零度のもとでは超伝導状態になる領域が続いているという発見は、驚くべき結果であった。

今回明らかにすることに成功した高温超伝導体の磁場中における絶対零度を含む振る舞いの全体像

図2. 今回明らかにすることに成功した高温超伝導体の磁場中における絶対零度を含む振る舞いの全体像。予想に反して量子臨界点が2つ存在し、絶対零度でのみ超伝導になる領域が広く存在していることを発見した。

成果の意義と今後の展開

今回明らかにした高温超伝導体についての磁場中における振る舞いの全体像は、メカニズム理解に向けた欠かすことのできない手がかりになるものと期待される。温度の影響のない絶対零度において2段階の状態変化が存在することは、2次元性の強い高温超伝導状態において、量子的なゆらぎ(用語2)の効果が大きな役割をもっていることを示している。

臨界スケーリングに従う抵抗率の振る舞いが予想以上に広範な温度と磁場領域において成り立ったことは、高温超伝導体の磁場下の重要な領域の大半を量子的なゆらぎの効果が占めていることの証拠である。量子的なゆらぎを抑制することができれば、超伝導状態を利用できる磁場領域を約4倍まで拡張できる可能性を示すものとして、応用に向けても重要な指針を与える結果である。

用語説明

(1) 高温超伝導体 :  単体元素や合金などの従来超伝導体に比べて高い超伝導転移温度をもつ物質で、層状銅酸化物系や層状鉄化合物系などが知られている。本研究で扱った物質は層状銅酸化物系であり、ベドノルツとミュラーが1986年に発見(1987年にノーベル賞を受賞)した物質の組成を少しだけ変化させた化合物である。

(2) 量子相転移・量子臨界点・量子ゆらぎ :  物質がある状態(相)から異なる状態へ変化することを相転移という。温度がある領域では通常、熱のゆらぎ(平均からのズレ)によって相転移が起るが、熱がまったくない絶対零度でも磁場の変化などによって物質の状態変化が起る。これは量子的なゆらぎによって起るもので、こうした相転移を起こす点を量子臨界点という。

論文情報

“Two-stage Magnetic-field-tuned Superconductor-insulator Transition in Underdoped La2-xSrxCuO4 (不足ドープLa2-xSrxCuO4における磁場による2段階の超伝導-絶縁体転移)”

Xiaoyan Shi, Ping V. Lin, T. Sasagawa, V. Dobrosavljevič, Dragana Popovič,

Nature Physics, Published Online (4 May 2014); doi:10.1038/nphys2961outer

お問い合わせ先
東京工業大学
応用セラミックス研究所/大学院総合理工学研究科物質科学創造専攻 准教授
笹川崇男
〒226-8503 神奈川県横浜市緑区長津田町4259, R3-37
TEL & FAX: 045-924-5366
Email: sasagawa@msl.titech.ac.jp

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