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RU11「大学における学術研究資源を活用した基盤の戦略的強化について」緊急声明

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学術研究懇談会(RU11)は、日本における最先端の研究・人材育成を担う、国立・私立という設置形態を超えたコンソーシアムです。北海道大学、東北大学、筑波大学、東京大学、早稲田大学、慶應義塾大学、東京工業大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学の11大学で構成されています。

このたび、RU11の総長・塾長・学長は、大学における学術研究資源を活用した基盤の戦略的強化について声明をまとめました。

平成26年7月4日

大学における学術研究資源を活用した基盤の戦略的強化について(RU11緊急声明)

学術研究懇談会(RU11)

北海道大学総長
山口 佳三
東北大学総長
里見  進
筑波大学学長
永田 恭介
東京大学総長
濱田 純一
早稲田大学総長
鎌田  薫
慶應義塾長
清家  篤
東京工業大学学長
三島 良直
名古屋大学総長
濵口 道成
京都大学総長
松本  紘
大阪大学総長
平野 俊夫
九州大学総長
有川 節夫

学術研究懇談会(RU11)は、学術の発展を目的とし、研究及びこれを通じた高度な人材の育成に重点を置く、国立・私立という設置形態を超えたコンソーシアムとして、我が国全体の統合的な大学研究力強化に向けて連携して継続的な活動を行っています。

20世紀後半に我が国は、工業生産技術の革新を牽引力として世界トップレベルの経済大国となりました。しかし、現在、その経済成長モデルは成熟し、またアジア諸国が急伸する中、世界的な競争が熾烈になっており、世界における経済的地位を維持することは容易ではありません。
資源の乏しい我が国が今後も成長を続けていくには、人的資源による新しい知識を活用して新しい経済的価値を自ら生み出し続けなければなりません。そのためには、様々な分野でイノベーションを駆動することが不可欠であり、その基盤となる科学技術力の強化は喫緊の最重要課題です。

これまでの経済成長の過程で、大学、企業、公的研究機関に科学技術研究開発の基礎基盤が着実に蓄積されてきました。事実、これら長年かけて培ってきた知的基盤的資源こそが我が国の優位性であり、今後世界的競争を勝ち抜くための原動力となることは論をまちません。

大学や研究機関においても、4期に及ぶ科学技術基本計画のもとで、科学技術振興投資が行われ、競争的な研究資金が投入されています。一方、我が国の財務構造改革も重要な課題となる中で、大学や公的研究機関についてもより効率的かつ機動的な組織への転換が必要となり、国立大学の法人化や公的研究機関の独立行政法人化が行われ、既に10年あまり経過しました。その間、継続的に必要な組織運営に関わる基盤的財源の不安定化が進む中で、短期的な重点プロジェクトは促進するという状況が常態化し、その結果、組織基盤が大きく弱体化しました。特に、次世代を支える若手研究人材の育成や雇用の劣化をまねいていることは深刻です。

国立大学法人は、平成28年度から第3期中期計画期間に入ります。この期に研究力強化のための資金投入のあり方を抜本的に見直し、国民による投資が長期的な基盤強化に効果的に資するものとなるよう、戦略を立て直し、それを着実に進めて行く必要があります。特に、来年度は第2期中期計画を仕上げる最終年度として極めて重要な時期です。

このような大学を取り巻く状況を鑑み、学術研究懇談会(RU11)として、国立・私立という設置形態を問わず大学における学術研究の継続が、今後の我が国の発展にとって極めて重要であることを改めて発信します。特に留意すべきこととして、以下の2項目について提言します。

(1) 国立大学の基盤財源としての運営費交付金の配分見直しについて

国立大学の特別経費プロジェクトである「教育研究プロジェクト」は、中長期的な視点で地道な活動を支援することにより、大きな成果をあげるものが少なくありません。このようなプロジェクトは、優秀な若手人材育成のための土壌になるものでもあり、一定期間の継続性を確保することが重要です。このような観点から、教育研究プロジェクトの第3期中期計画以降の連続性について柔軟な対応を強く求めます。

世界水準の研究大学が学術研究の進展や社会構造の変化を踏まえた教育研究組織の柔軟な再編成・強化などの「機能強化」を図ることが極めて重要であることは論をまちませんが、その機能強化は、大学自身が自らの構想力と長期的視野に基づいてさらにその先の改革につながる萌芽を育むことと同時に行われなければなりません。
教育研究プロジェクトは大学における新しい教育研究活動の取り組みを支援するもので、現場からの提案をもとに各大学が厳選して提案しているものです。既存の部局の枠を越えた分野横断的な教育研究の展開や国立大学をハブとして私立大学とも連携し、国立・私立の枠を越えた教育研究の展開といった機能強化や大学改革の芽となる取り組みが数多く行われています。我が国の大学の機能強化は、国立・私立という設置形態を問わず大学の共通する喫緊の課題です。

以上のように、各大学における教育研究プロジェクトは、まさに第3期における大学の機能強化を先取りするものも多く含まれていますので、一律に中断に追い込むことは、大学改革を後退させてしまうことになりかねないと危惧します。

(2)大学院充実のための国公私立大学を通じた公募型事業について

大学院教育強化のためのG-COEプログラムや博士課程教育リーディングプログラム、グローバル化促進のためのG30プログラムなど、いずれも大きな成果をあげてきており、多くの事業が公募による時限事業として進められてきました。これら事業は最終年度まで継続することはもちろん今後の大学における国際化、機能強化などの観点から極めて重要なものであるため、今後も複数年にわたり継続する事業に対する国の恒久的な財政的支援を強く求めます。

従来、プログラム終了後の恒久化は、提案した大学の自己責任で行うこととされています。しかし、大学においては、間接経費や運営費交付金など共通経費財源は依然限られており、これらを恒久化することは財源的に極めて困難です。他方で、政府の科学技術・学術審議会や総合科学技術・イノベーション会議、産業競争力会議などは、こぞって我が国が世界で先頭を競っている分野などを軸にした卓越した大学院の形成に大きな期待を寄せています。第3期における運営費交付金の配分見直しにおいては、これら事業の成果を十分に評価し、これらの事業を通じて培われた資源を最大限に活用する観点から、学内資源の再配分の仕組みと相まってこれらの取り組みを重点支援する仕組みを構築すべきです。

お問い合わせ先
研究推進部研究企画課研究企画グループ
電話 03-5734-3803
E-mail pro.sien@jim.titech.ac.jp


TSUBAME e-Science Journal Vol.11 発行

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TSUBAME e-Science Journal Vol.11 を発行しました。
TSUBAME e-Science は東工大のスーパーコンピュータTSUBAMEを利用した研究成果を発表する広報紙です。
Vol.11 では TSUBAME を利用した 3つの研究事例の記事が掲載されています。

  • TSUBAME-KFC : 液浸冷却を用いた世界一省エネなスーパーコンピュータ
  • 超並列計算機TSUBAMEの利用による幾つかの有機化合物のシュレーディンガー解の計算
  • GPGPUによる地震ハザード評価

ご希望の方には、日本語(前半)と英語(後半)を合冊して印刷した冊子を郵送いたします。
送付先の住所(学内の場合はメールボックス番号)、所属、氏名を以下のアドレスまでお知らせください。
宛先: tsubame_j@sim.gsic.titech.ac.jp

TSUBAME e-Science Journal Vol.11

TSUBAME e-Science Journal Vol.11

お問い合わせ先
学術国際情報センター
Tel: 03-5734-2085
Email: tsubame_j@sim.gsic.titech.ac.jp

高分子の「かたち」をつくる「匠の技」のブレークスルー

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高分子の「かたち」をつくる「匠の技」のブレークスルー
-K3,3グラフ構造高分子の合成に成功-

要点

  • 高分子の「かたち」をつくる「匠の技(ものつくり技術)」の新展開
  • ユニークなトポロジー幾何学的性質のK3,3グラフ構造高分子の合成
  • 高分子合成化学から生化学・トポロジー幾何学まで広いインパクト

概要

東京工業大学大学院理工学研究科の鈴木拓也元大学院生、山本拓矢助教、手塚育志教授らの研究グループは、同研究グループが開発した高分子反応プロセス (ESA-CF法、 用語1) を用い、複雑な構造の多環状高分子(図1)の合成に成功した。

このうち特に「K3,3グラフ構造」(図1、用語2)は、「非平面グラフ」としてのトポロジー幾何学的性質が知られ、また最近、ユニークな生理活性を示す環状オリゴペプチド構造としても確認されたことから広く注目されている。高分子合成化学領域だけでなく生化学からトポロジー幾何学にまでインパクトを与えるものと期待される。

今回の研究では、単一サイズの六分岐テレケリクス(用語3、図2)を新規に設計・合成しESA-CF法を用いて、 ナノスケールのK3,3グラフ構造高分子とその構造異性体を合成した。次いで両者の流体力学的体積(サイズ)の違いに着目してリサイクルSEC分取(用語4)を行い、目的とするK3,3グラフ構造高分子の単離を達成した。

この研究成果は、米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン速報(Just Accepted Manuscripts)で6月23日に掲載された。

用語説明

(用語1)ESA-CF法
カチオン性テレケリクスと多価アニオンとの静電相互作用による自己組織化を利用し、単環状・多環状などの複雑なトポロジー高分子を選択的に合成する手法。

(用語2)K3,3グラフ構造
図1に示す非平面(頂点を結ぶ辺の交叉が避けられない)グラフ。したがって、ガス・水道・電気の3種類のラインを3軒の家に交差しないようにつなぐことはできない。

(用語3) テレケリクス
末端に官能基を有する高分子。

(用語4)リサイクルSEC分取
高分子化合物をその大きさ(サイズ)によって分離する技術。

掲載雑誌名、論文名および著者名

掲載雑誌名:
米国化学会誌Journal of the American Chemical Society
論文名:
Constructing A Macromolecular K3,3 Graph through Electrostatic Self-Assembly and Covalent Fixation with A Dendritic Polymer Precursor
著者:
Takuya Suzuki, Takuya Yamamoto, and Yasuyuki Tezuka
DOI:

K<sub>3,3</sub>グラフと関連する複雑な多環状縮合構造高分子の「かたち」(青色の「かたち」は、これまでに報告されたもの、また赤色は今回の論文で報告したもの。なお緑色には、六分岐テレケリクスの末端の連結様式を示している。)
図1. K3,3グラフと関連する複雑な多環状縮合構造高分子の「かたち」
(青色の「かたち」は、これまでに報告されたもの、また赤色は今回の論文で報告したもの。
なお緑色には、六分岐テレケリクスの末端の連結様式を示している。)

六分岐テレケリクスのESA-CF法を用いたK<sub>3,3</sub>グラフ構造高分子の構築
図2. 六分岐テレケリクスのESA-CF法を用いたK3,3グラフ構造高分子の構築

お問い合わせ先

東京工業大学 大学院理工学研究科
有機・高分子物質専攻 教授 手塚育志
TEL: 03-5734-2498
FAX: 03-5734-2876
Email: ytezuka@o.cc.titech.ac.jp

鞭毛モーターの規則的配列機構を解明 -鞭毛を動かす"エンジン"が正しい間隔で並ぶ仕組み発見-

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要点

  • 真核生物の鞭毛・繊毛を駆動する分子モーター・ダイニンが、微小管上に一列に一定間隔で並ぶ仕組みを解明
  • ダイニンを微小管に結合させるタンパク質複合体「ドッキング複合体」が一定間隔の土台を作ることを発見

概要

東京大学大学院理学系研究科の大和幹人大学院生、神谷律名誉教授(学習院大学理学部客員教授)、東京工業大学資源化学研究所の若林憲一准教授らの研究グループは、名古屋大学エコトピア科学研究所、東京工業大学生命理工学研究科、コネチカット大学ヘルスセンター、マサチューセッツ大学メディカルスクールとの共同研究により、真核生物の鞭毛(用語1)を動かすエンジンであるタンパク質「ダイニン」(用語2)が、鞭毛を構成するタンパク質繊維「微小管」(用語3)上に規則的に並ぶ仕組みを解明した。

「外腕ダイニン」の根元に存在する「ドッキング複合体」(用語4)の性質に着目し、それ自体が約24nmの長さで、微小管上の決まった位置に数珠つなぎで結合することを突き止めた。ドッキング複合体が作った24nm周期の上に外腕ダイニンが乗ることで、ダイニンの24nm周期の結合ができあがる。鞭毛の構築メカニズムの理解だけでなく、外腕ダイニンの欠陥が主因と考えられているヒト疾患「原発性繊毛不動症候群」の研究に役立つと期待される。

この成果は米国科学アカデミー紀要(PNAS)オンライン版に6月16日に掲載された。

用語説明

(1)鞭毛・繊毛
真核細胞から生える毛状の細胞小器官。「1細胞からたくさん生える数μm程度の短いもの」を繊毛、「1細胞から数えられる程度生えるそれより長いもの」を鞭毛と呼ぶ習慣があるが、これらは本質的には同じ器官である。ダイニンの駆動により波打ち運動を行うタイプと、ダイニンを持たないため動かず、化学・力学センサーとして働くタイプがある。

(2)ダイニン
微小管の上を動くタンパク質。生体エネルギーATP(アデノシン3リン酸)の加水分解によって得られたエネルギーで構造変化して動く。

(3)微小管
チューブリンと呼ばれるタンパク質が重合してできあがった、中空のタンパク質繊維。直径約25nm。

(4)ドッキング複合体
外腕ダイニンの基部にあって微小管結合に介在するタンパク質複合体。分子量約83k, 62k, 21kの3つのタンパク質から成る。このうち62kの遺伝子はヒトに至るまで進化的によく保存されており、そのダイニンドッキング機能も保持されていると考えられている。

論文情報

著者:
Mikito Owa, Akane Furuta, Jiro Usukura, Fumio Arisaka, Stephen M. King, George B. Witman, Ritsu Kamiya, and Ken-ichi Wakabayashi
雑誌名:
PNAS 2014 ; published ahead of print June 16, 2014
論文タイトル:
Cooperative binding of the outer arm-docking complex underlies the regular arrangement of outer arm dynein in the axoneme
DOI:

クラミドモナス細胞。鞭毛断面の模式図。2連微小管をダイニンの側から見た模式図

(左)クラミドモナス細胞。2本の鞭毛を持ち、平泳ぎのように動かして水中を泳ぐ。鞭毛の長さは約12μm。
(中)鞭毛断面の模式図。9組の2連微小管が2本の微小管を囲む「9+2構造」をもつ。2連微小管の上のモータータンパク質ダイニンが向かい側の2連微小管に対して滑り運動をすることで鞭毛は屈曲する。
(右)2連微小管をダイニンの側から見た模式図。外腕ダイニンは24nm周期で1列に配列している。他の構造は96nm周期で配列している。

お問い合わせ先
資源化学研究所 准教授 若林憲一
Tel: 045-924-5235
Email: wakaba@res.titech.ac.jp

導電性ナノファイバーネットワークを利用したフレキシブルで割れない透明導電フィルム

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概要

東京工業大学の松本英俊准教授、戸木田雅利准教授、坂尻浩一特任准教授、東啓介院生らの研究グループは、簡便かつ安価な製造法で得られるフレキシブルで割れない透明導電フィルムを開発した。

研究の背景

透明導電フィルムは、光と電気を通すことのできるフィルム材料であり、ディスプレイや太陽電池などのデバイスで用いられている。現在、利用されている酸化インジウムスズ(ITO)はコストが高く供給量に限界があり、脆弱で曲げ耐性もないため、代替物材料が強く求められている。

研究成果

エレクトロスピニング法(用語1)によって作製される髪の毛の100分の1~1000分の1の細さを持つ繊維「ナノファイバー」をマスクとして、金属蒸着フィルムをエッチング処理する、超薄型、軽量、フレキシブルで割れない透明導電フィルムの作製方法を初めて確立した。これまでにITOと同等の高い可視光透過率(80%)と高い導電性(45Ω/sq=表面抵抗率)を示す高分子フィルムの作製に成功している。このフィルムの表面には、アルミニウムナノファイバーからなる導電性ネットワークが形成されており、ナノファイバーとフィルムの密着性も良好である。フィルムの光透過率と導電性はファイバー径とネットワーク構造の制御によってカスタマイズすることができる。導電材料としてアルミニウムを用いることで既存のITO代替技術より低コストで透明電極フィルムを作製できることも大きな強みである。アルミニウム以外の金属の利用も可能である。

今後の展開

我々の開発した透明導電フィルムは、ITO代替材料としてデバイスの低コスト化に寄与するだけでなく、将来的にはフレキシブルデバイスを含む携帯から大型パネルに至るまで各種電子デバイスへの応用が期待できる。具体的には、薄型テレビ、インタラクティブタッチパネル、スマートフォン、タブレット端末、太陽電池、エレクトロルミネッセンス素子、電磁シールド、機能性ガラスなどが有望な用途である。

用語説明

(用語1) エレクトロスピニング法
数千~数万ボルトの高電圧を利用した超極細繊維の連続紡糸技術。常温、大気圧という穏やかな条件下で髪の毛の100分の1~1000分の1の細さを持つ繊維「ナノファイバー」の製造が可能。

導電性ナノファイバーを利用したフレキシブルで割れない透明導電フィルム
導電性ナノファイバーを利用したフレキシブルで割れない透明導電フィルム

エレクトロスピニング法を用いた金属蒸着フィルム表面へのナノファイバーマスクの作製
エレクトロスピニング法を用いた金属蒸着フィルム表面へのナノファイバーマスクの作製

導電フィルム表面のアルミニウムナノファイバーネットワーク
導電フィルム表面のアルミニウムナノファイバーネットワーク

論文情報

論文タイトル:
Facile fabrication of transparent and conductive nanowire networks by wet chemical etching with an electrospun nanofiber mask template
雑誌名:
Materials Lettes
DOI:
執筆者:
東啓介、坂尻浩一、松本英俊、姜聲敏、渡辺順次、戸木田雅利
所属:
大学院理工学研究科有機・高分子物質専攻

お問い合わせ先

大学院理工学研究科 有機・高分子物質専攻
准教授 松本英俊
TEL/FAX: 03-5734-3640
Email: matsumoto.h.ac@m.titech.ac.jp

同専攻 准教授 戸木田雅利
TEL: 03-5734-2834 FAX: 03-5734-2888
Email: mtokita@polymer.titech.ac.jp

「先進セラミックス国際会議」開催報告

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6月25日~27日にメルパルク横浜において、第8回先進セラミックス国際会議 (STAC8-The Eighth International Conference on the Science and Technology for Advanced Ceramics) が開催されました。招待講演27件、口頭発表50件、ポスター発表78件と計155件の論文発表があり、221名が参加しました。

STACは、セラミックス材料の科学から応用までを広く扱う日本発の国際会議として、2007年に東工大応用セラミックス研究所(応セラ研)が開催して始まりました。その後、東工大工学部無機材料工学科、応セラ研、物質・材料研究機構 (NIMS) がそれぞれ中心組織として開催してきました。

STACの特徴として、毎回中心組織と重点領域が変わることが挙げられます。応セラ研が中心となった第1回・第3回・第5回では新材料開発・界面・測定技術など基礎的なトピックス、無機材料工学科が中心となった第2回・第7回では伝統的セラミックスから機能・生体セラミックスまで全般的なトピックス、NIMSが中心となった第4回・第6回では構造材料・材料設計に重点が置かれました。

応セラ研が中心組織として企画した今回は、特別セッションとして下の3つのテーマを取り上げました。

(1)
Ubiquitous element strategy for innovative materials
(革新的材料開発のためのユビキタス元素戦略)
(2)
Computer-assisted materials design, modeling, theory
(コンピュータ支援材料設計、モデリング、理論)
(3)
Cutting-edge glass / Amorphous science
(最先端ガラス/アモルファス科学)

特別セッションを中心に、関連の強い2分野以上をジョイントセッションとし、異分野の研究者が相互のセッションに参加する工夫がなされました。

ポスターセッションでは、25日に39件、26日に39件の発表があり、学生、若手研究者の中から、最優秀ポスター賞としてソウル国立大学のMr. Kanghoon Yimと大阪大学のMr. Hikaru Nagataniの2件が選ばれました。また、ポスター賞としては、メリーランド大学のDr. Shingo Maruyama、東京工業大学のMr. Toshinao Tatsuno、ノースウェスタン大学のMr. Kelvin Chang、東京工業大学のMr. Manabu Kanouの4件が選ばれました。

学生のポスター発表の様子

学生のポスター発表の様子

授賞式の様子。Conference ChairのProf. M. Itoh (左端) とPoster Award受賞者

授賞式の様子。Conference ChairのProf. M. Itoh (左端) とPoster Award受賞者

お問い合わせ先
東工大応用セラミックス研究所 神谷利夫
Tel: 045-924-5357
Email: tkamiya@msl.titech.ac.jp

四肢形成時に細胞の生死の運命を決めるメカニズムを解明

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要点

  • “細胞死”により、器官や組織の形が適切に調整されているが、その制御機構は不明だった
  • 四肢の細胞が生きるか、死ぬかの運命はヘテロ二量体をつくる AP-1 転写因子の組み合わせで制御される
  • 様々な器官や組織の形成過程で働く細胞死の理解促進につながる成果

概要

東京工業大学生命理工学研究科の須田夏野元大学院生、田中幹子准教授、伊藤武彦教授、東京大学分子細胞生物学研究所の白髭克彦教授らの研究グループは、生体が形づくられる際に不可欠な細胞死の詳細なメカニズム解明に成功した。

四肢の発生過程で「BMP」(用語1)というタンパク質により制御されるAP-1 転写因子(用語2)「MafB」が、ほかのどのAP-1 転写因子と結合して二量体を形成するかによって、四肢の細胞が死ぬか、生きるかの運命が決められていることを突き止めたもの。この成果によって様々な器官や組織の形成過程で働く細胞死のメカニズムの理解につながると期待される。

体の形がつくられる際には、適切な場所で、適切な量の細胞が自主的に死ぬ 細胞死 によって、器官や組織の形が適切に調整されている。四肢の発生過程では、手首や指の間で細胞死がおこること、そして四肢の細胞死は、細胞死をおこす領域に特異的に発現している BMPによって制御されていることはよく知られていた。しかし、BMP の下流で、どんなメカニズムで細胞死が制御されているのかは、これまでほとんど明らかにされていなかった。

この研究は東京大学、横浜市立大学、英国バース大学と共同で行った。成果は7月8日 国際発生生物学専門誌「Development」オンライン版に掲載された。

用語説明

(1)BMP
Bone Morphogenic Protein の略。発生過程の様々なプロセスで働く分泌性シグナルタンパク。

(2)AP-1 転写因子
塩基性ロイシンジッパー(bZIP)ドメインを共通の構造として持つ一群の転写因子。MafB、cJun、cFos は AP-1 転写因子の一種。転写因子とは、核内で DNA に結合して、標的遺伝子の発現調節に関わるタンパクの総称。AP-1 転写因子はbZIP ドメインを介して AP-1 転写因子同士で、ホモ、もしくはヘテロ二量体を形成し、標的遺伝子の発現を調節する。

論文情報

著者:
Natsuno Suda, Takehiko Itoh, Ryuichiro Nakato, Daisuke Shirakawa, Masashige Bando, Yuki Katou, Kohsuke Kataoka, Katsuhiko Shirahige, Cheryll Tickle and Mikiko Tanaka
雑誌名:
Development (2014) 141, 2885-2894
論文タイトル:
Dimeric combinations of MafB, cFos and cJun control the apoptosis-survival balance in limb morphogenesis
DOI:
四肢の細胞が生きるべきか、死ぬべきかの運命を制御する仕組み

図1
四肢の細胞が生きるべきか、死ぬべきかの運命を制御する仕組み

(上)MafB (緑)の二量体パートナーが cJun (青)であった時は、p63p73 といった細胞死を促進する遺伝子(紫)の発現が活性化され、細胞は死ぬ運命に導かれる。

(下)MafB (緑)の二量体パートナーが cFos (橙)で あった場合は、細胞は生きる運命に導かれる。

お問い合わせ先
東京工業大学 大学院生命理工学研究科
生体システム専攻 准教授 田中幹子
TEL: 045-924-5722
FAX: 045-924-5722
Email: mitanaka@bio.titech.ac.jp

多孔質内部の流動現象を可視化 -マイクロフォーカスX線CTを活用-

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概要

東京工業大学大学院総合理工学研究科創造エネルギー専攻の末包哲也教授のグループはマイクロフォーカスX線CT(用語1)装置を利用して多孔質内部の流動現象を可視化する手法を開発した。

研究の背景

多孔質内部における混相流(用語2)は二酸化炭素地下貯留技術、原油回収、汚染土壌修復などさまざまな分野でみられる現象である。しかしながら、土壌や岩石などの多孔質媒体は光学的に不透明であるために内部の可視化が容易ではなく、これまでの現象理解は多孔質を体積的に平均化した現象論的な範囲に限られていた。

研究成果

近年、マイクロフォーカスX線CT装置の急激な発達により、多孔質内部の流動現象を空隙スケールで可視化することが可能になって来ている。末包教授のグループでは、X線CT装置内部で流動現象を再現できる実験装置を開発するとともに、X線CT画像において流動場を可視化するトレーサー手法を開発した。

これを用いることにより、油で満たされた多孔質に水が注入される際に、空隙のスロート部分に濡れ性により水が侵入し、油を連続相から切断することを示した。また、いったん油が切断されると、その周囲の水は急激によどみ、流動性が低下することを明らかにした。これらの情報は貯留層からの原油回収率向上のための指針を与えることができる。

今後の展開

開発した多孔質内部の流動現象の可視化手法は、多孔質媒体を扱うエネルギー環境分野の発展に貢献すると期待することができる。

オイル(赤)で満たされた多孔質(半透明)の水による置換

オイル(赤)で満たされた多孔質(半透明)の水による置換。画像は10分おき。最初連続しているオイルが水の侵入により切断され、多孔質内部にトラップされる。

トラップされたオイル(赤)周りの水(透明)の流動場の可視化

トラップされたオイル(赤)周りの水(透明)の流動場の可視化。画像は10分おき。画像bの後に着色剤を投入。流動が顕著なところほど色の変化が速い。

用語説明

(用語1) マイクロフォーカスX線CT
物質内部の3次元断層画像を非破壊で取得する装置。

(用語2) 混相流
気相と液相、液相同士など、複数の相が混在し、相互に影響を及ぼしあう流体。今回は油と水の非混和性(混じらない)混相流を可視化した。

論文情報

著者:
Arief Setiawan, Tetsuya Suekane, Yoshihiro Deguchi, Koji Kusano
論文タイトル:
Three-Dimensional Imaging of Pore-Scale Water Flooding Phenomena in Water-Wet and Oil-Wet Porous Media
雑誌名:
Journal of Flow Control, Measurement & Visualization, 2014, 2, 25-31
DOI:

お問い合わせ先

大学院総合理工学研究科 創造エネルギー専攻
教授 末包 哲也
TEL: 045-924-5494 FAX: 045-924-5575
Email: tsuekane@es.titech.ac.jp


熱分布の同定を通じて空間の曲がり具合を知る

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概要

東京工業大学 大学院理工学研究科の桒田和正(くわだ かずまさ)准教授はNicola Gigli氏(Nice大学 Chaire d´excellence)、太田慎一准教授(京都大学)との共同研究により、必ずしも通常の可微分構造を持たない特異空間であるAlexandrov空間上で、2つの異なる方法で定義される熱分布が同一のものであることを証明した。更に、この結果を基に、空間の方位平均的な曲がり具合を記述するRicci曲率の理論の特異空間上での2つの定式化 --最適輸送理論による定式化と、Dirichletエネルギー汎関数の勾配曲線としての熱分布を用いた定式化-- の間の関係を解明した。

研究の背景

熱分布の概念は、エネルギー汎関数の勾配曲線としての古典的解釈とは別に、最適輸送理論の枠組みでBoltzmannエントロピー汎関数の勾配曲線として定式化できる。この2つの定式化は特異空間上でも意味を持つが、それらの空間で同一の量を定めるかどうかは未解決であった。また、熱分布を用いたRicci曲率の理論は抽象的な枠組みで機能し、幅広い応用を持つ反面、理論適用の為の条件は可微分空間でしか検証されていなかった。

研究成果

エントロピー汎関数の勾配曲線としての熱分布の、初期条件に対する解の一意性に問題を帰着させる全く新しい手法により、熱分布の2つの定式化を同定した。最適輸送理論に基づくRicci曲率の条件がエントロピー汎関数の凸性の度合いで表されることを同定結果と結合して、最適輸送理論と熱分布の理論の各々におけるRicci曲率の理論を結合した。

今後の展開

本研究成果を通じて、Ricci曲率の理論を熱分布の理論と組み合わせて理解する方法が特異空間において確立された。この観点は、より一般の特異空間へと理論を拡張し、それらの空間上で更なる幾何解析を展開する上での礎となっている。

Heat flow on Alexandrov spaces

論文情報

論文タイトル:
Heat flow on Alexandrov spaces
雑誌名:
Communications on Pure and Applied Mathematics, Vol. 66, no.3 (2013) 307-331.
DOI:
執筆者:
Nicola Gigli (University of Nice)、桒田 和正(東京工業大学)、太田慎一(京都大学)

お問い合わせ先

東京工業大学 大学院理工学研究科 数学専攻
准教授 桒田 和正
TEL:03-5734-2204 / FAX: 03-5734-2738
Email: kuwada@math.titech.ac.jp

有機フッ素医農薬中間体の簡便な合成に成功 ―フォトレドックス触媒使い、室温で短工程の反応系を開発―

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概要

東京工業大学資源化学研究所の小池隆司助教、穐田(あきた)宗隆教授、富田廉大学院生らは、医農薬品中間体として有用なトリフルオロメチルケトン類を、入手容易なアルケン類(1)から直接合成することに成功した。フォトレドックス触媒(2)と呼ばれる光触媒を用いて、アルケン類から直接合成できる新しい反応系を開発して実現した。

開発した反応系の特徴は、可視光(LEDランプ照射)で働く光触媒を用い、室温という温和な条件で実施可能な点である。トリフルオロメチル基をはじめとするフルオロアルキル基(3)は医薬品の化学・代謝安定性や結合選択性などに大きな影響を与え、薬物活性の向上をもたらすことが知られている。このため、新反応系は医農薬品開発の分野で今後、広く使われていくことが見込まれる。

研究成果は7月7日発行の権威あるドイツ化学会誌「アンゲバンテ・ヘミー国際版」に掲載され、同時に口絵にも選ばれた。

研究成果

小池助教、穐田教授らは、人工光合成分野で活発に研究されている光触媒作用を有機分子の変換反応に活用しようと考え研究を進めた。今回、光触媒作用を最大限活用し、市販の求電子的トリフルオロメチル化剤(4)ジメチルスルホキシド(5)(酸化剤)を反応溶媒として用い、入手容易なアルケン類から直接、医農薬品中間体として有用なトリフルオロメチルケトン類の合成に成功した(図1(a))。この反応は、室温、LEDを光源とした可視光照射、汎用有機溶媒であるジメチルスルホキシドを酸化剤に用いるというきわめて温和な条件で実施可能である。

従来、トリフルオロメチルケトン類は対応するケトン類の活性化を経て合成されるのが一般的だったが、今回の研究成果によりアルケン類を原料として一段階で合成できるようになった(図1(b))。この反応系を利用することで多様な有機フッ素医農薬品合成への応用が期待される。

図1(a)本研究成果: 光触媒によるアルケン類の酸化的トリフルオロメチル化 (b)従来法と本方法の比較

図1 (a) 本研究成果:光触媒によるアルケン類の酸化的トリフルオロメチル化 (b) 従来法と本方法の比較

背景と経緯

近年、含フッ素低分子医薬品が増えている。1991年から2011年の間に売り出された新薬の14%が含フッ素医薬品といわれている(6)。フッ素化合物の特異な性質は以下に要約される(7)

1.
全元素中最大の電気陰性度(8)を有し、結合している炭素および近傍の炭素の電子密度を下げ、分子の化学状態の変化や酵素による酸化の抑制をもたらす。
2.
水素原子に次ぐ小さな原子であり、水素をフッ素に置き換えても生体は立体的に識別できず取り込む。
3.
炭素―フッ素結合は、炭素―水素結合や、炭素―炭素結合に比べ非常に強固であり、化学・代謝安定性を有する。
4.
フッ素化合物は親油性を増し、生体内での吸収、輸送を促進する。このような性質から、様々な有機フッ素生物活性物質が開発されている。

それと同時に、いかに簡便に、工程数を少なくフッ素ユニットを分子骨格に導入するかが重要な課題となっている。

小池助教、穐田教授らは、光触媒作用を研究する一方で、こうした課題に取り組み、市販されている取り扱いしやすいTogni試薬とUmemoto試薬という求電子的トリフルオロメチル化剤を用いることでアルケン類のトリフルオロメチル化反応が効率よく進行することを見いだした。加えてこの方法は、様々な官能基(9)をもつアルケン類のトリフルオロメチル化を可能にした。

今後の展開

小池助教、穐田教授らの開発した反応の特徴は、炭素―炭素二重結合にトリフルオロメチル基を導入するだけでなく、同時に他の官能基(今回の反応ではカルボニル基)も導入できる。さらに大量スケールでの反応も可能である。今後はカルボニル基以外の官能基の導入も可能にし、簡便・短工程で有用な有機フッ素化合物の合成法の開発とその医農薬品としての利用をめざす。

用語説明

(1) アルケン

脂肪族不飽和炭化水素で、C=C結合1個をもつ化合物の一般名。例えば、アルケンをオゾン酸化することでケトンなどのカルボニル化合物(>C=Oをもつ有機化合物)が得られる。

(2) フォトレドックス触媒

下図に示すようなビピリジン配位子を有するルテニウム錯体誘導体やフェニルピリジンを有するイリジウム錯体誘導体など。可視光領域に吸収帯を有し、太陽光や蛍光灯、LEDランプなどを光源に一電子酸化還元反応を触媒することができる。
ビピリジン配位子を有するルテニウム錯体誘導体、フェニルピリジンを有するイリジウム錯体誘導体

(3) フルオロアルキル基

アルキル基の水素原子(H)をフッ素原子(F)に置換したもの。一つの水素原子をフッ素原子に置き換えるだけでもフッ素原子の特異な性質に起因して分子全体の性質が大きく変化する。

(4) 求電子的トリフルオロメチル化剤

電子豊富な求核試薬と反応するトリフルオロメチル化試薬。室温で固体、扱いやすいトリフルオロメチル化剤として下図の試薬が市販されている。代表的なものとしてAntonio Togni(アントニオ・トニ)教授によって開発されたTogni試薬と梅本照雄博士によって開発されたUmemoto試薬が知られている。
Togni試薬 Umemoto試薬

(5) ジメチルスルホキシド(CH3SOCH3, DMSO)

非プロトン性極性溶媒として、有機反応・有機合成に一般的に用いられる。また、分子に含まれる酸素原子を酸素源とした酸化反応(Swern(スワーン)酸化、Kornblum(コーンブルム)酸化など)が知られている。

(6) 「ファルマシア」2014年1月号「構造式から眺める含フッ素医薬」井上宗宜

(7) 「創薬化学--有機合成からのアプローチー」北泰行・平岡哲夫編

(8) 電気陰性度

化学結合している原子が、結合電子を自分の方に引きつける傾向の大小を示す相対尺度。結合原子間でこの差が大きいとイオン性が増える。

(9) 官能基

有機化合物に含まれる原子団で分子に特有の性質を付与するもの。例えば、水酸基(OH)やアミド(CONH)など。

論文情報

著者:
Ren Tomita, Yusuke Yasu, Takashi Koike, and Munetaka Akita
論文タイトル:
Combining Photoredox-Catalyzed Trifluoromethylation and Oxidation with DMSO: Facile Synthesis of α-Trifluoromethylated Ketones from Aromatic Alkenes
Combining Photoredox-Catalyzed Trifluoromethylation and Oxidation with DMSO: Facile Synthesis of α-Trifluoromethylated Ketones from Aromatic Alkenes
掲載誌:
Angewandte Chemie International Edition(ドイツ化学会誌国際版)
DOI:

研究支援

内藤記念科学振興財団奨励金・研究助成

問い合わせ先

資源化学研究所
助教 小池隆司
TEL: 045-924-5229 FAX: 045-924-5230
Email: koike.t.ad@m.titech.ac.jp

広く使用されている圧電体の圧電基礎特性の測定に成功 ―60年間の問題に決着、新規非鉛圧電体開発に道―

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概要

東京工業大学大学院総合理工学研究科 舟窪浩 教授、物質・材料研究機構(NIMS)中核機能部門 坂田修身 高輝度放射光ステーション長、名古屋大学大学院工学研究科 山田智明准教授(科学技術振興機構 さきがけ研究者)らの研究グループは、最も広く使われている圧電材料であるチタン酸ジルコン酸鉛について単結晶膜を作製し、電気的エネルギーと機械的エネルギーの変換係数を直接測ることに成功しました。

圧電体(1)は、電気信号により構造が変化する性質を活かして、ガスコンロの着火器や加湿器のミストの作製、さらにはインクジェットプリンタや3次元プリンタで使用されるマイクロデバイス(Micro Electro Mechanical Systems、MEMS (2))等の動力源として利用されています。実用化されているチタン酸ジルコン酸鉛は、電気信号によって結晶構造や微構造が複雑に変形するため、これまで60年間も使用されているにも関わらず電気的エネルギーと機械的エネルギーの変換係数という圧電体で最も基本的な特性は明らかになっていませんでした。

本研究グループでは、世界で初めて作製に成功したチタン酸ジルコン酸鉛の単結晶膜を用いて、大型放射光施設 SPring-8(3)の高輝度放射光で高速に電気信号を加えた時の結晶格子の伸びを、直接観察しました。その結果、1億分の2秒(20 ナノ秒(4))以下という極めて短時間の結晶格子の歪みを観測する事に成功し、電気的エネルギーと機械的エネルギーの変換係数を初めて測定することに成功しました。

今回の成果は、応用物理の分野において影響の大きい科学学術誌「Applied Physics Letters」のオンライン版に7月9日付で掲載されました。

研究の背景

結晶が外力に応じて誘電分極を生じる効果を圧電効果といいます。また結晶に電圧を加えることで結晶が歪む効果を逆圧電効果といいます。このような現象を示す物質を圧電体という。応用の観点から言い換えると、電気的エネルギーを機械的エネルギーに、逆に機械的エネルギーを電気エネルギーに変換するエネルギー変換物質とも言えます。ライターの着火石(機械的エネルギーの電気エネルギーへの変換)からプリンタのインクジェットヘッドや自動車のエンジンへの燃料の噴射ノズル(電気エネルギーを機械的変位に変換)、さらにはデジタルカメラの手ぶれ防止機構(機械的エネルギーの電気エネルギーへの変換)まで我々の暮らしの中で広く使用されています。最近では、自動車のエンジンや高速道路の車の走行による振動でも発電でき、振動を検出する機能と組み合わせて、安全安心を支えるバッテリー不要のインフラモニターシステムとして、注目を集めています。

大きな圧電性を示す物質としては、約 60 年前に発見されたチタン酸ジルコン酸鉛が広く使用されています。その大きな圧電性は、電圧を加えた時の結晶自身の伸びと、ドメインと呼ばれる微小領域の結晶の向きの変化、という2つのメカニズムの組み合わせで実現されていることがこれまでの研究で分かっていました。しかし、発見から 60 年たった今でも、この2つのメカニズムを区別して理解することが出来ませんでした。最大の原因はドメインの効果を完全に排除したチタン酸ジルコン酸鉛の単結晶がほとんど作製できていなっかったからです。

研究手法・成果

我々は最も広く使われているチタン酸ジルコン酸鉛 Pb(Zr1-xTix)O3を、蛍石という特殊な結晶の上に合成することで、膜状の単結晶の作製に成功しました。この試料を用いて、大型放射光施設 SPring-8 表面界面構造解析ビームライン BL13XU の数マイクロメータに集光した高輝度単色パルス X 線を、単結晶膜上に形成した電極に照射し、200 ナノ秒幅のパルス電圧を印加している間の回折プロファイルを電荷量の変化とともに高速記録しました(図1)。電圧を加えた時間のみ、電荷量および回折プロファイルの変化が観察され、電圧に対する電気特性および結晶の伸びを直接観察することに世界で初めて成功しました。(図2)。結晶の伸び量と電気分極量の2乗の変化の間に直線関係が得られ、その傾きから、世界で初めて変換係数を実験的に測定することに成功しました。(図3)

電界を加えた時の結晶の伸びと電気特性を直接測定できる測定システム

図1 電界を加えた時の結晶の伸びと電気特性を直接測定できる測定システム(数マイクロメータに集光した高輝度 X 線を電極上に集光し、電圧印加しながら回折X線強度と電荷量の変化を 20 ナノ秒の時間分解で同時に測定できるシステムを構築し、それを用いました。今回の測定では、200 ナノ秒幅のパルス電圧を印加しているときの回折プロファイルと電荷量の変化とを、加える電圧を固定し高速記録しました。そのパルス電圧値は順次変えました。)

試料に電圧を印加した時の、電荷量の変化と結晶の回折角度の時間依存性。結晶の回折角度の変化は結晶の伸びを反映しており、低い値程、大きく伸びていることを示しています。加える電圧が大きくなると、電荷量および結晶の変化が大きくなっていることがわかります。

図2 (a)試料に電圧を印加した時の、(a)電荷量の変化と(b) 結晶の回折角度の時間依存性。結晶の回折角度の変化は結晶の伸びを反映しており、低い値程、大きく伸びていることを示しています。加える電圧が大きくなると、電荷量および結晶の変化が大きくなっていることがわかります。

結晶の伸び量と電気分極量の2乗の変化の関係。傾きから世界で初めて変換係数を明らかにすることに成功しました。

図3 結晶の伸び量と電気分極量の2乗の変化の関係。傾きから世界で初めて変換係数を明らかにすることに成功しました。

期待される波及効果

今回の成果は、以下に述べる波及効果が期待できます。

a)

60年を経て初めて明らかにされたチタン酸ジルコン酸鉛の圧電特性

現在最も広く使用されているチタン酸ジルコン酸鉛は約 60 年前にその優れた圧電応答性が見いだされ、それ以降現在まで広く使用されている。しかし、その大きな圧電応答は、電気信号によって結晶構造や微構造が複雑に変化することで起こるため、物質本来の基本特性は不明であり、圧電体を用いた機器の設計は経験的に得られた値を用いていた。今回の研究で、チタン酸ジルコン酸鉛の本来の特性が発見から 60年後に初めて明らかになりました。

b)

圧電体の性能向上への貢献

本研究で、チタン酸ジルコン酸鉛の本質的な圧電性が明らかになったことで、圧電体の設計が飛躍的に進み、圧電体の性能向上が期待できます。こうした圧電体の性能向上は、3次元プリンタ技術の飛躍的向、上自動車用エンジン用フュエル・インジェクタ(燃料噴射装置)の高効率化、さらには、発電所等や自動車のエンジン等の高効率運転が可能になる等の大きな波及効果が期待できます。

c)

非鉛圧電体開発の加速による環境問題への貢献

i)
チタン酸ジルコン酸鉛は毒性元素の鉛を重さで 50%以上含有しており、環境への配慮から非鉛圧電体の開発が強く求められています。
ii)
今回の成果により、非鉛圧電体開発のお手本であるチタン酸ジルコン酸鉛の圧電特性が明らかになったことで、目標とすべき値がはっきりし、現在盛んに開発されている新規な非鉛圧電体材料の開発が加速されると期待できます。
d)

高速応答デバイスの時間分解測定による材料評価の実現と製品開発へ貢献

  • 圧電体の評価には、電圧を加えたときの結晶の変形と微構造の変化、という2つの異なる圧電応答を区別して測定することが不可欠ですが、今回の成果で電圧を加えたときの圧電応答について、時間を追って観察可能になり、両者が区別できるようになりました。
  • JR 東日本の鉄道 IC カード「Suica (スイカ)」等に用いられている強誘電体メモリ(圧電体の一種)の評価にも適用できます。強誘電体メモリに電場を印加する、つまり駅の自動改札口に Suica 等をかざす、とメモリ内のプラスとマイナスが反転して情報を書き換えることができるので、広く利用されています。この IC カードに医療カルテ等のより多くの情報を入れて携帯できるようにするための性能向上に貢献できます。
  • さらに圧電体以外にも、外部刺激によって、結晶構造や微構造の変化が起きる相変化メモリ等の時間分解測定にも有効であると期待できます。

特記事項

本研究は、日本学術振興会の科学研究費、JST 戦略的創造研究推進事業さきがけ「ナノシステムと機能創発」(長田義仁研究総括)、最先端研究開発支援プログラム、マイクロシステム融合研究の再委託事業の一環として行われました。

用語説明

(1) 圧電体薄膜

ある結晶が外力による圧力に応じて誘電分極を生じる効果を圧電効果といいます。また電場を結晶に加えることで結晶が歪む効果を逆圧電効果といいます。このような現象を示す結晶を圧電体といい、その薄膜になっているものが圧電体薄膜です。

(2) MEMS(メムス、Micro Electro Mechanical Systems)

MEMSは、機械要素部品、センサー、アクチュエータ、電子回路を一つのシリコン基板、ガラス基板、有機材料などの上に集積化したデバイスのことです。

(3) 大型放射光施設 SPring-8

独立行政法人理化学研究所が所有する、兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の放射光を生み出す施設で、その運転管理と利用者支援は JASRI が行っています。SPring-8の名前は Super Photon ring-8 GeV に由来します。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のことです。SPring-8 では、この放射光を用いてナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われています。SPring-8 は日本の先端科学・技術を支える高度先端科学施設として、日本国内外の大学・研究所・企業から年間延べ1万4千人以上の研究者に利用されています。

(4) ナノ秒

10億分の1秒です。

論文情報

題名:
Direct Observation of Intrinsic Piezoelectricity of Pb(Zr,Ti)O3 by Time-Resolved X-ray Diffraction Measurement Using Single-Crystalline Films
(日本語訳):
時間分解 X 線回折測定による、単結晶膜を用いた、チタン酸ジルコン酸鉛の圧電性の直接測定
著者:
Takashi Fujisawa, Yoshitaka Ehara, Shintaro Yasui, Takafumi Kamo, Tomoaki Yamada, Osami Sakata and Hiroshi Funakubo
ジャーナル名:
Applied Physics Letters
掲載日:
2014年7月9日
DOI:

お問い合わせ先

大学院総合理工学研究科 物質科学創造専攻
教授 舟窪 浩
TEL&Fax: 045-924-5446
Email: funakubo@iem.titech.ac.jp

プノンペン市初の3次元地質情報データベースを開発 -地質・地盤情報の全体像可視化によりインフラ整備に威力-

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要点

  • 3次元地質学モデルを提示
  • 1,200カ所以上のボーリングデータを使用
  • プノンペン市初の地質・地盤情報データベースが完成

概要

 東京工業大学学術国際情報センターのピパットポンサー・ティラポン准教授らはタイ国チュラロンコン大学工学部と共同で、カンボジアの首都プノンペン市で初めての3次元統合化地質・地盤情報データベースを開発した。
1,200カ所以上のボーリングなどによるデータを活用して作成したもので、同市のインフラ開発に威力を発揮すると期待される。
この研究成果は応用地質学術雑誌「エンジニアリング・ジオロジー(Engineering Geology)」8月号に掲載される。

研究成果

地盤工学・地質学分野において、地下の地質構造区分を把握することは重要な意義を持つ。最近では、カンボジアの首都プノンペン市のインフラ開発に向けて、地盤調査の数が増加している。ボーリングによる地層構成や土の性質などの調査は多数行われているが、得られた地質データに基づいたプノンペン市の3次元地質構造モデル(用語1)の構築は、実施されていなかった。
そこで、東工大のティラポン准教授らは、地下水モデル化システムGMS(用語2)のソフトウェアを用いて、1,200カ所以上から収集した既存のボーリングデータによるプノンペン市の地質・地盤情報データベースの作成に取り組んだ。その結果、GMS上で集積したデータによって3次元的に地下構造を可視化することに成功した。これにより、同市における地質情報の全体像を視覚的に捉えることが可能になり、地盤の工学的特徴に関する理解が深まった。
この研究成果は、同市初の3次元統合化地質・地盤情報データベースの構築のみならず、より正確な地盤形成に関する地質学的解釈の根拠を与え、いくつかの土のせん断強度に関する新たな経験的相関の提案にも結びついている。

研究の経緯

東工大学術国際情報センターは2007年にチュラロンコン大学工学部との部局間国際交流協定を結んだ。今回の成果は交流協定に基づいた情報技術を利用する共同研究成果の一つである。

今後の展開

カンボジアの首都プノンペン市のインフラ開発に向けて、開発した3次元統合化地質・地盤情報データベースを活用することで、現地社会に貢献することが期待される。

図1: (a) プノンペン市の3次元地質構造モデル (b) 複数断面およびボーリングによる地層構造
図1: (a) プノンペン市の3次元地質構造モデル (b) 複数断面およびボーリングによる地層構造

用語説明

(用語1) 地質構造モデル:
地層の形成を3次元的に表現するモデル

(用語2) GMS:
米国Aquaveo社によって開発された浸透流解析の専門的なソフトウェア

論文情報

著者:
Samphors Touch, Suched Likitlersuang, and Thirapong Pipatpongsa
論文タイトル:
3D geological modelling and geotechnical characteristics of Phnom Penh subsoils in Cambodia
雑誌名:
Engineering Geology, 178, 58-69 (2014)
DOI:

問い合わせ先
東京工業大学 学術国際情報センター
准教授 ピパットポンサー・ティラポン
Tel 03-5734-2121 FAX 03-5734-3276
E-mail pthira@gsic.titech.ac.jp

超音波放射力による非接触浮揚プレートの試作

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概要

 東京工業大学精密工学研究所の中村健太郎教授らは、超音波振動を利用して平らな床の上に浮上する移動プレートを開発した。200 mm四方程度の面積で数kgf(重量キログラム)の荷重を搭載した場合、移動のための力が大幅に削減できる。

研究の背景

 工場内などで部品の移動パレットなどをなるべく少ない力で搬送する方式が望まれている。こうした要望に応えるため、超音波振動による音響放射力(用語1)を利用して、振動板を床の上にわずかに浮上させる方式を開発した。中村教授らはこれまでに、振動板上に液晶ディスプレイ用ガラスパネルを浮揚させる技術の開発を行ってきた。今回はこれとは逆に、平面床上に振動板を浮かす機構を考案した。

研究成果

  •  約80 mm角のアルミニウム板に圧電素子を接着した「たわみ振動板」4枚を1つの板に組み込み200 mm角程度の浮揚ユニットとした。
  • このユニット1つで数kgf(用語2)の荷重に耐え、少ない力で搬送できる。
  • ユニット数を増やすことで大面積の搬送装置を実現できる。

今後の展開

  • 100 kgf程度の大型搬送装置の実現をめざす。
  • 装置に搭載できる小型電源装置を開発する。

超音波浮揚による搬送プレート

超音波浮揚による搬送プレート

用語説明

(用語1) 音響放射力
超音波がものにあたったときに、超音波の進行方向にものを押す力。

(用語2) kgf
重量キログラム。1重量kgは1 kgの質量をもつ物体が、地球表面で受ける重力の大きさ。

論文情報

著者:
T. Ishii, Y. Mizuno, D. Koyama, K. Nakamura, K. Harada, and Y. Uchida
論文タイトル:
Plate-shaped non-contact ultrasonic transporter using flexural vibration
雑誌名:
Ultrasonics, vol. 54, no. 2, pp. 455-460 (2014).
DOI:

お問い合わせ先

東京工業大学 精密工学研究所
教授 中村健太郎
TEL: 045-924-5052 FAX: 045-924-5091
Email: knakamur@sonic.pi.titech.ac.jp

光と熱に強いラジカル開始剤の作製

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概要

東京工業大学資源化学研究所の吉沢道人准教授と山科雅裕大学院生らは、ポリマー材料や有機化合物の合成に幅広く使用されるラジカル開始剤が、分子カプセルに内包されることで、光照射や加熱に対して顕著に安定化されることを明らかにした。また、カプセル内で安定化された開始剤を、通常のポリマー合成に使うことにも成功した。本研究成果は、分子カプセルによる“完全な閉じ込め”が鍵であり、これにより汎用的な高活性試薬を机の上で保管し、安全に使用することが可能となった。

利用した分子カプセルは1ナノメートルの内部空間を有し、水系溶媒中で1分子のラジカル開始剤(AIBNなど)を自発的かつ定量的に内包した。通常、開始剤は光や熱の刺激によりラジカル種を生じ、短時間で分解する。一方、分子カプセルに内包された開始剤はカプセル骨格の光遮蔽効果により、光照射による分解が顕著に抑制された(380倍以上の光安定化)。また、サイズの大きいラジカル開始剤は、カプセル骨格の圧縮効果で、熱による分解も抑制されることが明らかになった。さらに、内包された開始剤は、有機溶媒中でカプセル内から自発的に放出され、モノマー共存下で光照射または加熱により、ラジカル種の発生を経由して効率良くポリマーが生成した。

これらの研究成果は、最先端・次世代研究開発支援プログラムの支援によるもので、英国科学誌Nature Publishing Groupの「Nature Communications」のオンライン版に、2014年8月18日(英国時間)付けで掲載された。

研究の背景とねらい

アゾ系のラジカル開始剤[用語1]のAIBN(アゾビスイソブチロニトリル)およびその誘導体は、光照射や加熱によりラジカル種を容易に生成する(図1a)。そのため、実験室から工場スケールまで、様々なポリマー[用語2]材料や有機化合物の合成に利用されている。しかしながら、光と熱に対して反応性が高く、取扱いによっては爆発の危険もあるため、それらは冷暗所で保存する必要がある。そこで吉沢准教授と山科大学院生らは、この汎用性の高活性試薬を安全に使う手段として、分子カプセルによる内包を考案した。

分子カプセルとして、吉沢准教授らの研究グループが3年前に開発した複数のアントラセン環[用語3]を含む球状構造体1を用いた(図1b,c)[文献1]。この構造体は、2つのアントラセン環を連結した湾曲型の有機分子と金属イオンを4:2の比率で加熱撹拌するだけで定量的に合成できる。その内部には、8つアントラセン環によって完全に囲まれた約1ナノメートルの空間を有し、球状のフラーレンC60[用語4]や平面状のピレンなどが強く内包される特徴を示す[文献2]。本研究では、この分子カプセルの高い分子内包能とアントラセン骨格(多環芳香族骨格)による光遮蔽効果に着目して、上記のラジカル開始剤の安定化に挑戦した。

図1 (a) ラジカル開始剤AIBNの構造式と光または熱による分解。 (b,c) 分子カプセル1の模式図とその構造式。

図1 (a) ラジカル開始剤AIBNの構造式と光または熱による分解。 (b,c) 分子カプセル1の模式図とその構造式。

研究内容

ラジカル開始剤の内包

AIBNとカプセル1を1:1の比で水系溶媒(水:アセトニトリル=9:1)に加え、室温で1分程度撹拌すると、AIBNは疎水性相互作用[用語5]を駆動力として、自発的かつ定量的に分子カプセルに内包された(図2a)。内包体の構造は核磁気共鳴装置(NMR)、質量分析およびX線結晶構造解析で決定した。結晶構造解析から、1分子のAIBNが分子カプセルに内包され、しかも8つのアントラセン環によって完全に覆われていることが明らかとなった(図2b)。同様の方法で、AIBNの誘導体である大きなラジカル開始剤AMMVNの内包にも成功した(図2c)。

図2 (a) AIBNを内包した分子カプセルの合成と光安定化。 (b) AIBN内包カプセルの結晶構造:シリンダーモデル(左)と空間充填モデル(右)。 (c) AMMVN内包カプセルの合成と光・熱安定化。

図2 (a) AIBNを内包した分子カプセルの合成と光安定化。 (b) AIBN内包カプセルの結晶構造:シリンダーモデル(左)と空間充填モデル(右)。 (c) AMMVN内包カプセルの合成と光・熱安定化。

光および熱に対する安定化

単独のAIBNは有機溶媒中、360 nmの紫外光照射で完全に分解した。これに対して、カプセル1に内包されたAIBNは同条件下で380倍以上も光安定化されることが明らかとなった(図2a)。これはカプセルのアントラセン環が紫外光を吸収するため、内部のAIBNが光の影響を受け難いことに由来する。また、室温で分解するほど高活性で大きなサイズの開始剤AMMVNでは、内包によりカプセルからの圧縮効果を受けるため、光だけではなく、50 ℃の加熱に対しても645倍以上の安定化が観測された(図2c)。

ポリマー合成

分子カプセルに内包されたラジカル開始剤は、有機溶媒中に加えるだけで簡単に取り出すことができた。実際に、水中で作製したAIBN内包カプセルの粉末を(図3a)、アクリル樹脂の原料であるMMA(メタクリル酸メチル)モノマーのトルエン溶液に添加すると、AIBNはカプセルから瞬時に放出された(図3b)。その溶液に光照射または加熱をすることで、効率よくポリマーが生成することを見出した(図3c)。得られたポリマーはAIBNを単独で用いた場合と同質であり、また、反応後のカプセルはポリマーの精製過程で簡便に除去できる。すなわち、AIBNの保存容器であるカプセルは反応を阻害せず、既存のラジカル反応に利用できることが実証された。

図3 内包されたラジカル開始剤を利用したポリマー合成: (a) 水中で作製したカプセル化開始剤、(b) 有機溶媒中でカプセルからの開始剤放出、(c) 光照射または加熱によるポリマー合成。

図3 内包されたラジカル開始剤を利用したポリマー合成: (a) 水中で作製したカプセル化開始剤、(b) 有機溶媒中でカプセルからの開始剤放出、(c) 光照射または加熱によるポリマー合成。

今後の研究展開

合成試薬のジレンマは、反応性の高い試薬はより反応性の低い基質と反応することができるが、一方で、その試薬は分解し易く、保存や使用が難しくなる傾向がある。今回の研究では、そのジレンマを解決する1つの手法が示された。すなわち、活性なラジカル開始剤を分子カプセルに内包することで、光と熱に対して顕著に安定化されるが、本来の反応性を維持しているため、開始剤の放出によりポリマー合成に利用することができた。今後は、分子カプセルによる様々な高活性試薬や反応中間体の保管と利用への挑戦が期待される。

用語説明

[用語1] ラジカル開始剤 : 外部刺激によりラジカル種(不対電子)を発生することができる試薬。反応性が高いため冷暗所で保管する必要がある。

[用語2] ポリマー : 複数のモノマー(単量体)が結合して鎖状や網状になった化合物。プラスチックなど身の回りの多くの製品に利用されている。

[用語3] アントラセン : 剛直なパネル状の多環芳香族分子。

[用語4] フラーレン : 炭素原子60個から成るサッカーボール状の分子。

[用語5] 疎水性相互作用 : 油と同様の性質をもつ化合物またはその部位は、水中で互い集まる(引き合う)現象を示す。

掲載雑誌名、論文名および著者名

雑誌名 :
Nature Communications(英国科学誌; Nature Publishing Group)
論文名 :
Safe Storage of Radical Initiators within a Polyaromatic Nanocapsule
(ナノカプセルの内包によるラジカル開始剤の安全保管法)
著者名 :
Masahiro Yamashina, Yoshihisa Sei, Munetaka Akita, Michito Yoshizawa*
(山科雅裕、清悦久、穐田宗隆、吉沢道人)
DOI :

主な研究支援

最先端・次世代研究開発支援プログラム (内閣府)

研究内容に関するお問い合わせ先

東京工業大学 資源化学研究所 准教授 吉沢道人
Email: yoshizawa.m.ac@m.titech.ac.jp
TEL: 045-924-5284
FAX: 045-924-5230

新鉱物発見、maruyamaite(丸山電気石)と命名 ―世界初、ダイヤモンドと共存し、カリウムを多量に含む特殊な電気石―

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maruyamaite (丸山電気石)とは

  • カリウムを多量に含む、世界中でも非常にまれな電気石
  • ダイヤモンドと共存できるほどの高圧下でも安定な電気石(世界初の発見)

maruyamaiteの存在は岩石がかつて地球深部の高圧を経験していることを示唆し、一方、電気石の形成には地球表層に集まる元素が必須であり、地球表層と内部の物質循環を解明する手がかりになる

概要

早稲田大学・地球物質科学研究室の博士課程学生清水連太郎(創造理工学研究科D4)および小笠原義秀教授(教育・総合科学学術院)により発見されたカリウムを含む特殊な電気石(一般にはトルマリンとも呼ばれます)が、新鉱物「学名:maruyamaite(日本語名:丸山電気石)」として国際鉱物学連合(IMA)に承認されました。高圧条件下で形成されるダイヤモンドと共存する電気石は、世界で初めての発見です。

プレートがマントルに沈み込む際に起こる大陸衝突に伴って地球表層物質も深部に運び込まれ、コース石やダイヤモンドを含む超高圧変成岩となって再び地表に戻ります。電気石が形成されるためには地球表層に濃集しているホウ素が必須であり、この丸山電気石は地球表層からマントル深部へホウ素を運搬する役割の一端を担っていると考えられ、プレート運動に伴う物質循環の一面を解明する貴重な手がかりとなります。小笠原研究室では、超高圧変成岩等の地球深部に由来する岩石を研究することで、地球内部の物質の様子やその循環を解明していくことを目指しており、今回の発見はその目的に大きく貢献するものです。

丸山電気石の特徴

丸山電気石は、カザフスタン共和国北部のコクチェタフ(Kokchetav)超高圧変成帯から採取された、約5億年前に形成された岩石から発見されました。この岩石は花崗岩に似ている鉱物組み合わせを持ちますが、電気石が岩石全体の約20%程度含まれています。発見のきっかけとなったのは、電気石中に微小なダイヤモンドを発見したことです。ダイヤモンドを含む電気石を詳しく分析したところ、K2O含有量が最高で約2.7%という、電気石として他に類を見ない多量のカリウムを含んでいることが判明しましたShimizu & Ogasawara, 2005 [6])。電気石には通常ナトリウムやカルシウムが含まれますが、カリウムを主成分として含む電気石は世界中でも非常にまれです。本岩石中の電気石は、結晶の中心から外側に向かってカリウムの含有量が減少していく組成累帯構造を示し、ダイヤモンドを含んでいる中心部分ではカリウムがナトリウム・カルシウムより非常に多くなっています。このことが新鉱物と認定される決め手となり、電気石のうちカリウムの多い部分だけが丸山電気石ということになります。

今回新鉱物として認定された丸山電気石の理想化学組成は、K(MgAl2)(Al5Mg)(BO3)3(Si6O18)(OH)3Oという複雑な化学式で表されます。

(A)丸山電気石の顕微鏡写真。茶色の電気石のうち、赤色破線で囲まれた部分が丸山電気石。(B)電気石(写真Aと同じ粒子)のカリウム元素マッピング結果。暖色系の部分ほどカリウムが多く含まれる。(C)丸山電気石に含まれるダイヤモンドの顕微鏡写真。ダイヤモンドは10µm程度と非常に細粒であり、岩石の専門家でも見つけるのは至難の業で、研究には根気と経気と経験を必要とする。

  • (A)
    丸山電気石の顕微鏡写真。茶色の電気石のうち、赤色破線で囲まれた部分が丸山電気石。
  • (B)
    電気石(写真Aと同じ粒子)のカリウム元素マッピング結果。暖色系の部分ほどカリウムが多く含まれる。
  • (C)
    丸山電気石に含まれるダイヤモンドの顕微鏡写真。ダイヤモンドは10µm程度と非常に細粒であり、岩石の専門家でも見つけるのは至難の業で、研究には根気と経験を必要とする。
  • 新鉱物認定と命名の由来

    鉱物が新しい種として認定されるためには、化学組成、結晶構造、物理的特性など、必要な記載データを網羅した申請書を国際鉱物学連合(IMA)の新鉱物・命名法・分類委員会(The Commission on New Minerals, Nomenclature and Classification: CNMNC)に提出し、承認される必要があります。小笠原教授らは、結晶学の第一人者であるF.C. Hawthorne教授(カナダ・マニトバ大学)らと共同で丸山電気石の申請を行いました。申請に際しては、発見者の所属する早稲田大が詳細な産状記載、化学組成分析、およびラマン分析を、マニトバ大が結晶構造解析、物性測定、および化学組成分析を分担しました。本申請は2014年2月に承認され、2014年6月にMineralogical Magazine誌に概要が発表されました(Lussier et al., 2014:IMA No. 2013-123 [2])。丸山電気石のタイプ標本は国立科学博物館に保管されています(登録番号:NSM-MF15696)。

    丸山電気石は、プルームテクトニクスを提唱するなど、変成岩岩石学・地質学に多大な功績を残され、またコクチェタフ超高圧変成帯研究プロジェクトのリーダーでもあった、丸山茂徳教授(東京工業大学地球生命研究所)にちなんで命名されました。

    丸山茂徳教授

    丸山茂徳教授

    今回の新鉱物認定と命名を受けて、丸山教授は次のようにコメントしています。

    「コクチェタフの広域変成帯は、世界最高圧の広域変成作用を受けています。そこではダイヤモンドが広域的にできていることが明らかになり、さらに、地表の大陸が、その浮力にも拘わらず地下深部に沈み込むことがわかり、地下100kmよりも深いマントルに沈み込む直接的な証拠物体であることが示され、世界を驚かせました。東京工業大学と早稲田大学を中心とした日本のグループはこの変成帯の研究に着手し、地質調査に基づき、放射性年代学やミクロ鉱物学を駆使し、変成分帯、流体移動、広域変成帯の上昇プロセスのダイナミクスに至る総合科学を迅速に展開しました。研究は、二度に及ぶ大規模な地質調査と、約9000個に及ぶ試料収集に始まり、開始後約10年でその主体は収束し、約50の研究論文が書かれました。その後、興味はミクロ鉱物学が中心となり、早稲田大学の小笠原研究室が研究の中核部を推進し、これまでに書かれた論文数は100を超えました。これらの研究は日本のグループが世界を圧倒しましたが、ロシア科学アカデミー、米国スタンフォード大学、カーネギー研究所などが、この研究を一部補佐し、幾つかの共同研究も進みました。

    この研究を通して数多くの世界初の発見がなされ、プレート収束場の性質が明らかになりました。そのことに対する評価の一つとして新種鉱物に私の名前が付けられたことを光栄に思うと共に、この共同研究プロジェクトを開拓するまでの数多くの困難を克服できた同志の皆様(特に早稲田大学OB)に深く感謝したいと思います。」

    丸山 茂徳(まるやま しげのり)略歴

    東京工業大学地球生命研究所教授。1949年徳島県生まれ。理学博士・地質学者。1977年富山大学助手、1989年東京大学助教授、1993年東京工業大学理学部教授を経て、2013年より現職。2000年 AAAS(アメリカ科学技術振興学会)フェロー、2002年日本地質学会賞、2006年紫綬褒章、2012年トムソンロイターリサーチフロント。

    ダイヤモンドを含む電気石発見の意義:地球表層から深部への物質循環

    本岩石中のダイヤモンドはいろいろな場所に万遍なく存在しているわけではなく、電気石の中でも丸山電気石の部分、およびジルコンという鉱物のみに包有物として含まれています。ダイヤモンドと共存する電気石は世界で初めての発見です。ダイヤモンドは炭素からできている鉱物ですが、高圧条件下でのみ安定であり、約4GPa以上の圧力(地球では約120km以深)という条件下で形成されます。一方、電気石のカリウムが少ない部分や周囲には、同じ炭素の鉱物でも低圧条件で安定な石墨(グラファイト)が含まれています。このことは、丸山電気石はダイヤモンドが安定な高圧条件下、言い換えれば120km以上の深さで形成され、その後岩石が地表に向かって上昇してくる途中で、カリウムに乏しい電気石が丸山電気石の周囲に成長したことを示唆しています(Shimizu & Ogasawara, 2005 [6])。

    電気石はこれまでも、複数の異なる条件下での結晶成長過程を化学組成の変化として記録していることが多いことから、変成作用の連続変化を記録する指標鉱物だと捉えられてきました。ダイヤモンドと共存できるほど高圧で安定な丸山電気石の存在は、このような電気石の性質をより明瞭にしたといえます。また電気石が形成されるためにはホウ素(元素記号:B)が必須ですが、ホウ素は地球表層に濃集している元素です。従って、超高圧変成岩の形成過程で丸山電気石が地球表層からマントル深部へホウ素を運搬する役割の一端を担っていることになり、プレート運動に伴う物質循環の一面を解明する貴重な手がかりとなります。

    丸山電気石発見による波及効果・今後の展望など

    電気石は広範な生成条件の岩石に少量含まれる言わば名脇役であり、さらに未知のことが多く残されている非常に魅力的な鉱物です。

    最初にダイヤモンドを電気石中に発見した当時は、超高圧変成岩中の電気石についてはあまり研究が進んでおらず、また電気石の高圧下での安定性やカリウム電気石の生成条件はほとんど分かっていませんでした。しかし、小笠原教授らの発見報告が契機となり、いくつかの実験岩石学研究がそれらを解明しつつあります。例えば、高温高圧実験によって泥質変成岩中の電気石の安定領域が決定され(Ota et al., 2008a [4])、丸山電気石のホウ素同位体比測定により、地球深部での地殻の部分溶融が丸山電気石形成に重要な役割を果たした可能性が示されました(Ota et al., 2008b [5])。ダイヤモンドを含む電気石の成因についてはその後も活発な議論が続き、例えば Marschall et al. (2009) [3] は電気石は低圧条件で形成されダイヤモンドとは形成時期が別であるという、小笠原教授らの見解と全く異なる解釈を発表しました。しかし、小笠原教授らは詳細な顕微鏡観察に基づく系統的な記載と精密な化学分析から、コクチェタフ超高圧変成岩に含まれる電気石中のカリウムは形成圧力が下がるにしたがって減少することを示し、改めて丸山電気石が超高圧変成作用起源であることを明確にしました(Shimizu & Ogasawara, 2013 [7])。さらに、カリウムに富む電気石が最近になって初めて合成実験で確認され、カリウム電気石の形成には高圧だけでなくカリウムに異常に富んだ流体が必須であるという、超高圧変成岩全体の成因にも関係する興味深い結果が得られています(Berryman et al., 2014 [1])。

    これら一連の研究成果は、小笠原教授らの含ダイヤモンド電気石発見が引き金となって発展したものと言えます。また、電気石の新種は丸山電気石以外にも最近続々と発見されています。しかし丸山電気石の報告は今のところコクチェタフ超高圧変成帯からのみであり、今後どこかで見つかるのか、産出が限られるのならそれを制約している地質条件がどのようなものであるのか等、興味が持たれるところです。このように、電気石の研究は今まさに注目が集まっている鉱物学・岩石学の一分野であり、今後ますますの発展が期待されます。

    お問い合わせ

    研究に関すること(午前8時~午後3時まで対応可能)

    早稲田大学教育・総合科学学術院 小笠原義秀教授
    研究室:03-5286-1514 Email:yoshi777@waseda.jp

    丸山茂徳教授に関すること

    東京工業大学広報センター
    電話:03-5734-2975 Email:media@jim.titech.ac.jp

    ※ 公開時、問い合わせ先に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。(8月25日 15:30)


    平成26年度東工大挑戦的研究賞 受賞者決定

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    挑戦的研究賞は、本学の若手教員の挑戦的研究の奨励を目的として、世界最先端の研究推進、未踏の分野の開拓、萌芽的研究の革新的展開又は解決が困難とされている重要課題の追求等に果敢に挑戦している独創性豊かな新進気鋭の研究者を表彰するとともに、研究費の支援を行うものです。本賞を受賞した研究者からは、数多くの文部科学大臣表彰受賞者が生まれています。

    13回目となる今回は13名が選考されました。

    平成26年度東工大挑戦的研究賞 受賞者一覧

    受賞者
    所属
    職名
    研究課題名(★は学長特別賞)
    大学院理工学研究科
    (理学系)数学専攻
    准教授
    低次元トポロジーと代数的組合せ論
    大学院理工学研究科
    (理学系)基礎物理学専攻
    助教
    突発天体のための超小型X線偏光計観測衛星の開発
    大学院理工学研究科
    (理学系)地球惑星科学専攻
    講師
    ★下部マントル鉱物の音速測定から探る地球深部の化学組成
    大学院理工学研究科
    (工学系)応用化学専攻
    助教
    電気化学トランジスタによる超伝導デバイスの実現
    大学院理工学研究科
    (工学系)電子物理工学専攻
    准教授
    超高効率ペロブスカイト・シリコンハイブリッド太陽電池の実現
    大学院生命理工学研究科
    生物プロセス専攻
    准教授
    アミノレブリン酸投与後のポルフィリンを用いたがん検診システムの開発
    大学院生命理工学研究科
    分子生命科学専攻
    准教授
    人工U1snRNAを用いた革新的遺伝子治療の開発
    大学院総合理工学研究科
    物質電子化学専攻
    講師
    微粒子の選択的多官能化と機能材料への応用
    大学院情報理工学研究科
    数理・計算科学専攻
    准教授
    ★高次元大量データにおける構造的学習の統計理論と計算手法
    精密工学研究所
    准教授
    弾性管の音響特性を利用した人にやさしい「たおやかな」触覚センサの開発
    応用セラミックス研究所
    セラミックス機能部門
    助教
    新規な水中機能触媒を用いた植物由来炭化水素からの必須化学品原料の環境低負荷合成
    元素戦略研究センター
    准教授
    電子ドナーとしての水素アニオン活用による新電子機能物質探索
    量子ナノエレクトロニクス研究センター
    助教
    紫外線硬化樹脂による光細線を用いたInP/Si ハイブリッド光集積モジュールの開発

    (所属順・敬称略)

    昨年度の同賞受賞式でのプレゼンテーションの様子
    昨年度の同賞授賞式でのプレゼンテーションの様子

    RU11「グローバル化時代における我が国の責務としての研究基盤の抜本的強化にむけて」

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    学術研究懇談会(RU11)は、日本における最先端の研究・人材育成を担う、国立・私立という設置形態を超えたコンソーシアムです。北海道大学、東北大学、筑波大学、東京大学、早稲田大学、慶應義塾大学、東京工業大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学の11大学で構成されています。

    このたび、RU11の総長・塾長・学長は、グローバル化時代における我が国の責務としての研究基盤の抜本的強化にむけて提言をまとめました。

    平成26年8月26日

    グローバル化時代における我が国の責務としての研究基盤の抜本的強化にむけて(提言)

    学術研究懇談会(RU11)

    北海道大学総長
    山口 佳三
    東北大学総長
    里見  進
    筑波大学学長
    永田 恭介
    東京大学総長
    濱田 純一
    早稲田大学総長
    鎌田  薫
    慶應義塾長
    清家  篤
    東京工業大学学長
    三島 良直
    名古屋大学総長
    濵口 道成
    京都大学総長
    松本  紘
    大阪大学総長
    平野 俊夫
    九州大学総長
    有川 節夫

    グローバル化時代において、人類社会をより豊かなものに導くためには、人々が国家や地域の枠を越えて知恵を出し合い協働することが不可欠です。とりわけ、普遍性の追求を目的とする学術研究は、人類全体の未来を照らす灯りです。我が国は、世界の第三極となるべきアジアのリーダーとして、学術を先導してきた学術先進国です。今後とも我が国が学術研究を先導し、学術知を人類共通の資産として蓄積していくことは我が国の責務であり、国際社会の中で尊重される地位を維持していく上で重要です。特に研究大学の役割は極めて大きく、その活動基盤の強化は喫緊の課題です。我が国が世界の先頭を競っている強い分野を持続的に発展させるとともに、学際的研究や融合領域などにおいて、新しい学術を生み出し育て、学術の多様性創出においても、より一層貢献して行かねばなりません。

    現在、欧米では産業革命以降、学術研究の進展とともに国家の隆盛した歴史を踏まえ、継続的・持続的な研究発展のための公的資本の投入を続けています。中国、シンガポールなどアジア諸国では、より戦略的かつ集中的な科学技術投資が行われ、それらの国々の急伸は、論文数・被引用論文数の推移、世界大学ランキングなどにも顕著に現れています。しかしながら、日本の現状を見ると、国立大学では十年以上も続いている運営費交付金の削減、私立大学では私学助成の伸び悩みの中、教育・研究環境の劣化が急速に進んでいます。とりわけ、将来を担う若手研究人材の雇用環境の悪化は深刻です。

    今後、世界との競争に打ち勝ち、世界から優秀な研究者、留学生を引き付けるためには、我が国の弱点を克服する大胆な対策を迅速に講じる必要があります。すなわち、数十年から五十年にわたる未来の方向と道筋について、社会全体でビジョンを共有し、そこから今行うべき学術活動を見定め、その推進・ビジョン実現の方策を明確にし、大学政策、学術政策、科学技術・イノベーション政策にかかわる諸施策を相互に整合性をとって連動させながら推進することが求められています。

    そこでは、「質の高い多様な学術研究をコアにした社会的な価値創出のための知的循環」を共有すべき理念として確立する必要があります。平成 28 年度からスタートする第5期科学技術基本計画においては、この理念が全体を通じた重要な柱として位置付けられるべきです。さらに、同時にスタートする国立大学法人第3期中期計画などにおいて、それを実現する仕組みが大学に装着されるべきです。

    先端的学術研究を指向する研究大学の連携体である学術研究懇談会(RU11)は、総合科学技術・イノベーション会議や科学技術・学術審議会等ともしっかりと議論を重ね、この理念の実現を図りたいと考えます。このような大学を取り巻く状況に鑑み、国立・私立という設置形態を問わず、大学における学術研究の継続的発展が、今後の我が国の発展にとって極めて重要、不可欠であるとの認識のもとに、特に、以下の点について提言致します。

    I 研究大学を支える財務基盤の強化

    (1) 自律的改革を促すための、資金の安定化と効率化を高める方策の実施

    運営費交付金や私学助成の充実・確保と研究環境整備の原資となる間接経費の拡充により、研究大学の財政基盤を安定化し強化する。これにより、教育研究組織の再編成、学内資源の再配分など資源を効率的に活用するための大学改革を加速するとともに、競争的資金改革と大学改革を一体的に推進する環境を構築する。

    (2) 基盤的研究からその成果の社会実装への切れ目のない研究資金の改革・拡充

    我が国が国際社会の中で存在感を示し続けるためには、研究における国際的競争力を抜本的に強化する必要がある。まず、イノベーション創出の土壌としての自由な発想による質の高い基礎研究の広さと深さを充実させなければならない。このような基盤的研究を幅広く支える、科学研究費補助金の拡充が極めて重要である。若手支援、分野融合、国際共同研究等の推進により研究を発展、深化させる。さらに、基礎研究の成果を社会に着実に実装するために、産学官連携支援を強化するべきである。安定した研究環境を確保するための基盤的資金、幅広い多様な研究を支える研究費、研究成果を社会実装するための戦略的な競争的プロジェクト研究資金をバランス良く組み合わせるべきである。これにより、世界をリードする研究力とイノベーションを効果的に創出する環境を実現する。

    なお、科学研究費補助金は、全国の研究者の活動を幅広く底支えすると共に、能動的に活動している研究者を可視化・選別することに資する。

    II 研究人材を取り巻く環境の整備

    (3) 人事制度の抜本的改革

    研究者の雇用の安定化と流動性の両立を図るとともに、研究者の明確なキャリアパスの確立を図ることが重要である。その為、大学や研究機関を越えて研究者を雇用する研究人材プール制度の検討に加えて、研究者の多様性確保、特に女性研究者の充実が重要となる。さらに、研究支援人材育成と活用による研究環境の整備を図る必要がある。

    (4) 若手研究人材育成のための雇用増員計画実施と卓越した大学院形成に向けた改革

    若手研究者育成・雇用のため、彼らが確実に将来を展望できる大胆な雇用増員計画の構築・実施は最重要課題である。加えて、社会の幅広い分野で活躍する優秀な人材を高度博士として育成するための支援制度の確立、競争的資金による大学院生支援の制度化、さらに、国際的求心力のある大学院への転換を図り、先端研究、新しい融合学術の創出のための卓越した大学院教育研究拠点整備を行う必要がある。そのため、研究大学における大学院定員の再設定を行い、大学院学生定員充足管理と教員ポスト管理を廃した基礎財源措置システムの構築を行うべきである。

    お問い合わせ先
    研究推進部研究企画課研究企画グループ
    電話 03-5734-3803
    E-mail pro.sien@jim.titech.ac.jp

    3つの新しい鉄カルコゲナイド系超伝導体を発見 ―液体アンモニアを使った低温合成で実現―

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    要点

    • 鉄カルコゲナイドの層間にナトリウムとアンモニア分子を挿入してTc(超伝導臨界温度)=45, 42, 37Kの超伝導物質を合成
    • これらの超伝導物質は通常の高温プロセスでは不安定で分解してしまう。今回は液体アンモニアを溶媒として用いる合成法による成果
    • Tcは鉄層間隔の増加に伴って単調には増加しないことが判明

    概要

    東京工業大学フロンティア研究機構の細野秀雄教授と郭建剛、雷和暢両博士研究員らは、液体アンモニアを溶媒とする低温合成法(アンモノサーマル法)により、鉄系超伝導体の一つである鉄セレン化合物(FeSe:Tc=8K、Kは絶対温度)にナトリウム(Na)とアンモニア(NH3)を層間挿入してTc=37Kから45Kの新しい超伝導体を発見し、その組成、構造を決定した。

    また、銅酸化物系超伝導体で見られた層間距離とTcとの関係が、今回発見した物質系には見られないことを突き止めた。これは新たな超伝導物質探索指針につながる知見と言える。

    FeSe系は特殊な薄膜系において100Kを超えるTcが報告されるなど、注目を集めている素材であり、バルク材料(かたまり)でも高いTcが得られることが期待される。またこの物質系は通常の高温焼成法で作ることができず、今回用いたアンモノサーマル法は超伝導体合成法としても有効な手段になっていくと考えられる。

    研究の背景

    細野教授らにより、2008年に発見された鉄系超伝導体は世界中の超伝導研究者を巻き込んで、より高いTcを持つ物質の探索、高い臨界電流(Jc)を持つ線材の開発、超伝導デバイスの開発などが進められている。

    電子は、負の電荷をもち、それが自転することで磁気モーメントをもっている。超伝導の発現には2つの電子が瞬間的に対をつくることが必要だが、大きな磁気モーメントを持つ元素では電子スピンの規則的な配列により強磁性(または反強磁性)体になってしまう。このため、大きな磁気モーメントをもつ元素である鉄の化合物は、超伝導にはならないというのが常識だった。2008年に細野教授らは、LaFeAsO(ランタン・鉄・ヒ素酸化物)いう反強磁性体に、電子をドープ(添加)していくと磁性が消失したところで、超伝導が発現することを見出した。その時のTcは26Kで、高圧をかけると43Kまで上昇し、銅酸化物の高温超伝導体を除くと最高のTcを示した。その後、世界中で数多くの研究者が参入しTcは56Kまで上昇している。

    鉄系超伝導体の構造上の大きな特徴は、FeX44面体(Feが中心を占め、4つのXがそれに結合して作られる4面体。Xはセレン(Se), テルル(Te), リン(P), ヒ素(As)など)が連なった層があり、中心のFe2+(鉄イオン)が正方形に配列していることである。このような層を含む層状物質ならば、超伝導体の候補になると考えられ、これを起点に層間をどのように修飾するかによって、物質の特徴が現れる。実際に現在まで60以上の同様な超伝導体が報告されているが、その基本的な結晶構造は7種に大別できる[用語1]

    鉄カルコゲナイドFeChCh=S,Se,Te[用語2] はその一つ(11型)で、Tc=8Kだが最も簡単な構造を持つ。大きなサイズの一価の陽イオン(カリウム(K), ルビジウム(Rb), セシウム(Cs), タリウム(Tl)など)を、その結晶構造を保ったまま、その物質の層間に挿入すること(インターカレーション)で30KくらいまでTcを増大させることができることが分かってきた。しかし、Naのような小さなイオンはインターカレーションができなかった。また、上記の超伝導物質には、数十%の鉄イオンの欠損が存在し、かつ微視的なスケールでは、絶縁体と超伝導体に空間的に分離しているために、その解明が遅れていた。

    今回の成果

    液体アンモニア(沸点:-33℃)はアルカリ金属(元素周期律表1族(水素を除く)の6元素)もFeSeも溶かすことができることに注目し、-50℃に保った耐圧容器内に金属ナトリウムと鉄カルコゲナイドを入れて、そこにアンモニアガスを注入し、-50 〜 -40℃の温度に保って反応させた。この手法はアンモノサーマル法と呼ばれている。(溶媒に水を用いた場合は水熱法と呼ばれ、よく知られた合成手法である。)

    この研究では、液体アンモニア中に溶解する金属ナトリウムや鉄カルコゲナイドの割合を変えることで、Tcの異なる3つの超伝導物質(2つは新物質)を合成し、その化学組成と結晶構造を決定した。

    図1 FeSeへのNa-NH3インターカレーションによる層間の状態上から、何も入っていない状態、Naのみが入った状態(Phase I)、Naと少量のNH3が入った状態(Phase II)、Naと多量のNH3が入った状態(Phase III)

  • 図1:
    FeSeへのNa-NH3インターカレーションによる層間の状態
    上から、何も入っていない状態、Naのみが入った状態(Phase I)、Naと少量のNH3が入った状態(Phase II)、Naと多量のNH3が入った状態(Phase III)
  • 最も興味深いのは、Na0.65Fe1.93Se2という組成のTc=37Kの物質(Phase I)で、FeSeの層間にNaイオンだけが挿入されたものである。この物質はこれまでの高温での固相反応法では合成できず、今回の手法によって初めて得ることができた。また、鉄の欠損が極めて少ないことも大きな特徴である。

    また、ナトリウムイオンと一緒にアンモニア分子が層間に挿入された物質も合成し、アンモニア量が少ない物質(Phase II)でTc=45K、多い物質(Phase III)でTc=42Kで超伝導が出現した。

    図2 合成した各試料の磁化率(χ)の温度変化。超伝導は完全反磁性(外部磁場の物質内への侵入を排除する)を伴う現象であり、超伝導状態で磁化率は負となる。この負に変化する温度がTcとなる。また縦軸4πχは遮蔽体積分率(磁場が侵入していない体積の分率)であり、-1.0は磁場が100%遮蔽されていることを意味する。 NH3-free: Phase I, NH3-poor: Phase II, NH3-rich: Phase III

  • 図2:
    合成した各試料の磁化率(χ)の温度変化。超伝導は完全反磁性(外部磁場の物質内への侵入を排除する)を伴う現象であり、超伝導状態で磁化率は負となる。この負に変化する温度がTcとなる。また縦軸4πχは遮蔽体積分率(磁場が侵入していない体積の分率)であり、-1.0は磁場が100%遮蔽されていることを意味する。
    NH3-free: Phase I, NH3-poor: Phase II, NH3-rich: Phase III
  • 今回、見出した3つの超伝導物質は、Fe層間の距離が6.83Å (Phase I、Åはオングストローム、1Åは0.1ナノメートル), 8.71Å (Phase II), 11.07Å (Phase III)であるのに対し、Tcは37, 45, 42Kと単調には増大せず、Tcが層間距離とともに増大する銅酸化物超伝導体とは異なる挙動を示すことが明らかになった。

    今後の展開

    鉄カルコゲナイド系は、鉄ニクタイド系[用語2] に比べ、構造は単純だがTcは低かった(~8K)。最近の研究で、高圧をかけるとTc>40Kまで増大することや、SrTiO3:Nb(ニオブを添加したチタン酸ストロンチウム)基板上にFeSeを1分子層だけをエピタキシャル成長させた試料では、100K付近でゼロ抵抗が報告されるなど著しい進展を見せている。ニクタイド系とは超伝導の発現機構が異なることも考えられ、予断を許さない展開になりつつある。

    アンモノサーマル法による試料合成は、低温のソフトプロセスであることから、非平衡相の合成に適しており、さらなる新超伝導物質の発見が期待できる。

    この研究成果は内閣府総合科学技術会議により制度設計された最先端研究開発支援プログラム(FIRST)により、日本学術振興会を通した支援の下で実施された。また一部は、文部科学省元素戦略プロジェクト(拠点形成型)の支援を受けた。

    用語説明

    [用語1] 鉄系超伝導体の型 : 鉄系超伝導体は主に組成比により分類される。最初に見つかり現在まで最も高いTcが見出されているLaFeAsO(ランタン・鉄・ヒ素酸化物)ような1111型、異方性が小さく実用に有利なBaFe2As2の(バリウム・鉄・ヒ化物)ような122型、最近発見されたCaFeAs2(カルシウム・鉄・ヒ化物)のような112型といった分類である。この研究で取り上げたFeChCh=S(イオウ), Se, Te)は11型と呼ばれている。

    [用語2] カルコゲナイドとニクタイド : 周期律表16族のO, S, Se, Te, Po(ポロニウム)をカルコゲン元素、15族のN(窒素), P, As, Sb(アンチモン), Bi(ビスマス)をニクトゲン元素と呼び、それらの化合物をそれぞれカルコゲナイド、ニクタイドと呼んでいる。

    論文情報

    掲載誌 :
    Nature Communications 5, 4756 (2014).
    題目 :
    Superconductivity and phase instability of NH3-free Na-intercalated FeSe1-zSz
    (和訳:NH3を含まずにNaをインターカレートしたFeSe1-zSzの超伝導と相の不安定性)
    著者 :
    Jiangang Guo, Hechang Lei, Fumitaka Hayashi and Hideo Hosono
    (郭建剛、雷和暢、林文隆、細野秀雄)
    (所属はすべて東工大フロンティア研究機構)
    DOI :

    お問い合わせ先

    細野 秀雄
    東京工業大学フロンティア研究機構 教授
    (応用セラミックス研究所教授兼任)
    〒226-8503 横浜市緑区長津田町4259 郵便箱S2-13
    TEL: 045-924-5009
    FAX: 045-924-5196
    Email: hosono@msl.titech.ac.jp

    高分子1本鎖からの電界発光を観測 ―高分子ELディスプレイや照明の高耐久性に寄与―

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    概要

    東京工業大学大学院理工学研究科のバッハ・マーティン教授と総合理工学研究科の彌田智一教授らは、共役系高分子[用語1]の1つであるポリフルオレン[用語2]単一鎖からの電界発光の観測に成功した。ブロック共重合体[用語3]のミクロ相分離[用語4]状態で見られるナノシリンダー構造[用語5]の中に、ナノシリンダー材料と相溶性が良いポリフルオレンを導入することで、個々のポリフルオレン鎖を高密度に分離して実現した。

    具体的には、ポリフルオレン1本鎖からの電界発光(EL)[用語6]スペクトルを観察することで、青色高分子ELの劣化時に観測される緑色発光の発現の新たな要因を発見。また量子化学計算[用語7]により、緑色発光がEL素子内に存在する電荷によってポリフルオレン鎖の凝集状態が促進されて生じることを明らかにした。高耐久性の青色発光共役系高分子の設計、そして高分子ELディスプレイや照明の高耐久性に寄与すると考えられる。

    この研究は日本学術振興会の支援で行った。成果は国際学術雑誌「ネイチャーコミュニケーションズ(Nature Communications)」オンライン版に英国時間14日に掲載された。

    研究成果

    バッハ、彌田両教授らは、ポリフルオレン鎖の一本鎖の光電子物性に関する研究を実施した。ポリフルオレン1本鎖を高密度、かつ個々に分離するために、ブロック共重合体の垂直ナノシリンダーの相分離構造を有する薄膜を用いた。この薄膜から成るEL素子を作製し、個々のポリフルオレン鎖からの電界発光を観察したところ、青色と緑色発光を繰り返す単一鎖の存在を発見した。この発光色の変化はポリフルオレン鎖にトラップされた電荷によってポリフルオレン鎖の凝集状態が促進されることによって生じることを突き止めた。

    ポリフルオレンを用いた有機ELの研究分野における発光色変化の問題の解決は、次世代のディスプレイや照明を開発していく上で重要な課題である。本研究で発光色の変化の要因が解明されたことにより、ポリフルオレンや共役系高分子を用いた光電子デバイスの長寿命化が期待される。

    研究の背景

    ポリフルオレンは優れた電導特性や青色発光特性を示すため有機ELディスプレイや照明などの光電子デバイスへの応用が期待されている。しかし、駆動時間の経過と共に発光色が青色から緑色へ変化するという問題があり、効率の低下や駆動の不安定性につながっていた。このような問題は十年来議論されており、ポリフルオレン鎖の酸化や鎖間同士の凝集などが原因として考えられてきたが、依然として整合性のある説明がなされていなかった。

    研究の経緯

    バッハ、彌田両教授らは、ポリフルオレン鎖の電界発光時に観測される緑色発光に関する新しい発光メカニズムを見出した。ブロック共重合体のナノサイズの垂直配向シリンダー構造の中に、個々のポリフルオレン鎖を閉じ込めることで、ポリフルオレン鎖1本1本が高密度に分離された薄膜を作製し、この薄膜に電極を付けることでEL素子を作製した。

    個々に分離されたポリフルオレン鎖の電界発光を高解像顕微鏡[用語8]で観察したところ、青色と緑色が可逆的に振動するものが存在することを発見した。また、この緑色発光は電界を印加した時のみ顕著に観測されることを見出した。さらに、東工大理工学研究科有機高分子物質専攻の川内進准教授のグループとの共同研究により、緑色の電界発光の発現が、ポリフルオレン鎖中にトラップされた電荷によりポリフルオレン1本鎖の凝集が加速化されることで生じることを明らかにした。

    今回の成果

    この成果は、高耐久性の青色発光共役系高分子の作製に寄与する。さらに、このような電界発光特性を示す単一分子鎖に関する研究結果は、単一分子を用いた光電子デバイスの実現に向けた一歩になると考えられる。

    用語説明

    [用語1] 共役系高分子 : 二重結合と単結合とが交互に連なっている化学構造を有する高分子のことを指す。

    [用語2] ポリフルオレン : 下記のような構造の繰り返しを有する共役系高分子の総称。優れた電気伝導特性と青色発光を示す共役系高分子として知られている。

    ポリフルオレン : 下記のような構造の繰り返しを有する共役系高分子の総称。優れた電気伝導特性と青色発光を示す共役系高分子として知られている。

    [用語3] ブロック共重合体 : 異種の高分子同士を共有結合で結合した分子。

    [用語4] ミクロ相分離 : ブロック共重合体では異種の高分子鎖間に働く斥力により相分離が生じる。しかし、異種の高分子が強制的に結合しているため、相分離構造の大きさは通常マイクロメートルサイズ以下になる。

    [用語5] ナノシリンダー構造 : ブロック共重合体では組成や温度などの条件によって球状,ラメラ状,シリンダー状などの特徴的な周期構造を形成する.比較的相分離の周期が小さい結果、ナノサイズのシリンダー構造が形成された構造のことを指す。

    [用語6] 電界発光(EL) : 電圧を印加することで発光する物理現象のことを指す。発光ダイオード(LED)や有機発光ダイオード(有機EL)などで広く観測される現象である。

    [用語7] 量子化学計算 : 経験的なパラメータを用いて計算によって分子構造に起因する分光学的物性を推定する手法である。近年ではコンピューターの処理速度の増加から、分子の形状や分子固有のさまざまな定数、さらに分子集合体における形状や定数などが推定できるようになってきている。

    [用語8] 高解像顕微鏡 : 1分子が発する程度の微弱な光強度を検出することが可能な光学顕微鏡のことを指す。通常、通常材料を発光させるためにレーザーを高倍率のレンズを通して1W/cm2以上のパワーとなるように材料に入射させ、材料からの微弱な発光の検出に高感度CCDを用いて検出する。

    図. (A) 作製したEL素子の構造; (B) ELスペクトルの時間変化; (C) 各時間におけるELスペクトル; (D) 用いたポリフルオレンの化学構造; (E) 個々のポリフルオレンのELスペクトルのピーク波長のヒストグラム

  • 図.
    (A) 作製したEL素子の構造; (B) ELスペクトルの時間変化; (C) 各時間におけるELスペクトル; (D) 用いたポリフルオレンの化学構造; (E) 個々のポリフルオレンのELスペクトルのピーク波長のヒストグラム
  • 掲載雑誌名

    掲載誌 :
    Nature Communications (2014) 5:4666
    題目 :
    Single molecule electroluminescence and photoluminescence of polyfluorene unveils the photophysics behind the green emission band
    著者 :
    Yoshihiro Honmou, Shuzo Hirata, Hideaki Komiyama, Junya Hiyoshi, Susumu Kawauchi, Tomokazu Iyoda, and Martin Vacha
    (本望圭紘、平田修造、込山英秋、日吉淳也、川内進、彌田智一、バッハ・マーティン)
    DOI :

    研究支援

    本研究は以下の支援を受けて行われました。

    • 日本学術振興会・挑戦的萌芽研究「共役系高分子の単一分子電界発光計測」(2011〜2013年度)、代表:東京工業大学 バッハ・マーティン、 課題番号23651107 outer
    • 日本学術振興会・基盤研究(B)「共役系高分子一本鎖のコンフォメーション制御による光電子物性の能動的制御」(2014〜2017年度)、代表:東京工業大学 バッハ・マーティン、課題番号26287097 outer

    お問い合わせ先

    バッハ・マーティン
    大学院理工学研究科 有機高分子物質専攻 教授
    Email: vacha.m.aa@m.titech.ac.jp
    TEL: 03-5734-2725
    FAX: 03-5734-2725

    光合成反応の場を作る膜脂質の機能を解明 ―光合成膜脂質のこれまでの常識を覆す―

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    静岡大学の粟井光一郎准教授ら研究グループは、光合成反応を行う光合成膜に普遍的に存在するガラクト脂質が、これまでの常識と異なり光合成に必須ではないことを明らかにしました。

    ポイント

    • 植物や藻類などの光合成を行う生物では、光合成膜は主に糖の一種であるガラクトースを持つ脂質(ガラクト脂質)でできており、ガラクト脂質は光合成膜に必須であると考えられてきた。
    • しかし、その常識は下記の成果により覆された。
      シアノバクテリアのガラクト脂質合成に関わる糖変換酵素遺伝子mgdEを世界で初めて同定し、mgdE遺伝子破壊株を作成した。
      このmgdE遺伝子破壊株では、光合成膜中のガラクト脂質がなくなり、代わりにグルコースを持つ脂質に置き換わっていたが、光合成活性や光合成膜の構築に大きな異常はなかった。
    • 本成果により、光合成膜の機能理解の進展、エネルギー生産の効率化への寄与が期待される。

    植物や藻類、シアノバクテリア[用語1] などの酸素発生型光合成をする生物では、光合成反応の場である光合成膜[用語2] は、ガラクト脂質[用語3] でできています。植物では脂質の骨格にガラクトース[用語4] を転移してガラクト脂質を合成するのに対し、シアノバクテリアでは脂質の骨格に一度グルコースを転移した後、ガラクトースに変換して合成することが知られています。

    粟井准教授らは、これまで不明であったグルコースからガラクトースに変換する酵素の遺伝子mgdE[用語5] を明らかにし、その遺伝子破壊株[用語6] を作成しました。遺伝子破壊株では、ガラクト脂質の代わりにグルコースを持つ脂質が蓄積していましたが、光合成膜が形成され、光合成活性も維持していることがわかりました。このことは、ガラクト脂質が光合成膜に必須ではないことを示しています。

    今回の発見は、ガラクト脂質が光合成に必須であるという、これまでの常識を覆す結果であり、光合成膜の機能解明に大きな進展をもたらす成果です。今後、光合成に必須のタンパク質群の構造や安定性に膜脂質が与える影響を明らかにすることで、光合成システムの精密な理解を促進し、エネルギー物質生産の効率化に役立つことが期待されます。

    本研究は、東京大学の佐藤直樹教授、東京工業大学の太田啓之教授と共同で行ったものです。

    本研究成果は、米国科学アカデミー紀要(PNAS)のオンライン速報版で2014年9月1日の週(米国東部時間)に公開される予定です。

    本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

    戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)

    研究領域 : 「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」
    (研究総括:松永是 東京農工大学 学長)

    研究課題名 : 「ラン藻ポリケチド合成酵素を用いた脂質生産」

    研究者 : 粟井光一郎(静岡大学 大学院理学研究科生物科学専攻 准教授)

    研究期間 : 平成24年10月〜平成28年3月

    JSTはこの領域で、藻類・水圏微生物には、高い脂質・糖類蓄積能力や多様な炭化水素の産生能力、高い増殖能力を持つものがあることに着目し、これらのポテンシャルを活かした、バイオエネルギー創成のための革新的な基盤技術の創出を目指しています。

    研究の背景と経緯

    植物や藻類など、我々の身近に存在する光合成生物は、酸素発生型と呼ばれる光合成反応、つまり光エネルギーを使って水から酸素を作り、二酸化炭素を取り込む反応を行います。この反応は、植物や藻類では細胞中の葉緑体のなかにある光合成膜(チラコイド膜)と呼ばれる膜を介して行われます。このチラコイド膜は、光合成反応を行うタンパク質複合体と膜脂質と呼ばれる分子からできていて、その比率はおよそ5:5であるといわれています。膜脂質は膜を形作る役割を担っていることから、光合成反応を行うためには、反応を行うタンパク質だけでなく、膜脂質も必要です。

    チラコイド膜を作る膜脂質の種類は、他の膜とは異なることが知られています。たとえば、ヒトの細胞にある膜のほとんどはリン脂質と呼ばれる、分子の中にリンを含む膜脂質でできています。一方、チラコイド膜のほとんど(全体の9割)が分子の中に糖を含む膜脂質(糖脂質)でできています。中でもガラクトースを持つ糖脂質(ガラクト脂質)は全体の8割を占めており、このうち1分子のガラクトースを持つ糖脂質モノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)がチラコイド膜のおよそ5割、2分子のガラクトースを持つ糖脂質ジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)が3割を占めています。地球上には、地表の植物や海中の藻類など、非常に多くの光合成生物が存在していることから、特にMGDGは地球で最も多く存在する膜脂質であると言われています。この特徴的な脂質組成は酸素発生型光合成を行う生物に保存されていることから、ガラクトースを持つ膜脂質は光合成反応に必須であると考えられてきました。しかし、なぜガラクトースを持つ糖脂質が多量に存在するのかは、わかっていませんでした。

    ガラクトースは、生体内ではそれほど多く存在する糖ではありません。生体内では、特にグルコースの存在量が多く、ガラクトースはグルコースの数百分の一しか存在していません。ガラクトースとグルコースの違いはわずかで、C4位の水酸基の配位が異なるだけです(図1)。ガラクトースの存在量は、植物や藻類の細胞だけ少ないわけではなくヒトの細胞でも同様で、実際ヒトが食物から吸収するガラクトースのほとんどは、MGDGやDGDGなどのヒトが食べる植物や藻類に含まれるチラコイド膜糖脂質由来だといわれています。

    図1 ガラクトースとグルコースの構造。C4位の水酸基の向きが異なる(矢印)。左:ガラクトース、右:グルコース

    図1 ガラクトースとグルコースの構造。C4位の水酸基の向きが異なる(矢印)。左:ガラクトース、右:グルコース

    チラコイド膜にガラクト脂質が必須かどうかを調べるため、研究グループは植物や藻類と同じ酸素発生型光合成を行うシアノバクテリアに着目しました。シアノバクテリアはMGDGとDGDGを持ち、チラコイド膜を構築して光合成を行いますが、これらガラクト脂質の合成経路が植物と異なることがわかっていました(図2)。植物では膜脂質の骨格であるジアシルグリセロール(DAG)にガラクトースを転移してMGDGを合成するのに対し、シアノバクテリアではDAGにまずグルコースを転移し、合成されたモノグルコシルジアシルグリセロール(GlcDG)を糖異性化酵素によってMGDGへと変換します。シアノバクテリアのガラクト脂質合成経路のうち、この糖異性化酵素の遺伝子(mgdE)が不明でした。そこで、この遺伝子を同定し、遺伝子破壊株を作成することでMGDGへの異性化反応を止め、MGDGがGlcDGで置き換え可能かを調べることで、ガラクトースを持つ膜脂質が光合成に必須であるかを調べることを計画しました。

    図2 植物とシアノバクテリアにおけるガラクト脂質合成経路の違い。植物や藻類ではジアシルグリセロール(DAG)にガラクトースを付加することでMGDGを合成するが、シアノバクテリアでは、まずグルコースを転移し、それを異性化することでMGDGを合成する。矢印下の黄色の楕円は、その反応を担う酵素の名前を示す。MgdA:DAGにグルコースを転移する酵素、MgdE:GlcDGのグルコースをガラクトースに異性化する酵素、DgdA:MGDGにもう1分子のガラクトースを付加する酵素。下段は膜脂質の構造を模式化した図。ピンク部は脂肪酸、水色部はグリセロール、橙色部はグルコース、緑色部はガラクトースを示す。

  • 図2
    植物とシアノバクテリアにおけるガラクト脂質合成経路の違い。植物や藻類ではジアシルグリセロール(DAG)にガラクトースを付加することでMGDGを合成するが、シアノバクテリアでは、まずグルコースを転移し、それを異性化することでMGDGを合成する。矢印下の黄色の楕円は、その反応を担う酵素の名前を示す。MgdA: DAGにグルコースを転移する酵素、MgdE: GlcDGのグルコースをガラクトースに異性化する酵素、DgdA: MGDGにもう1分子のガラクトースを付加する酵素。下段は膜脂質の構造を模式化した図。ピンク部は脂肪酸、水色部はグリセロール、橙色部はグルコース、緑色部はガラクトースを示す。
  • 研究の内容

    本研究では、シアノバクテリア Synechocystis sp. PCC 6803 を用いて、mgdE遺伝子の同定を行いました。まず、詳細なデータベース解析の結果、最近明らかとなった Paulinella chromatophora のクロマトフォアゲノムでも、シアノバクテリア型の脂質合成酵素遺伝子が全て保存されていることを見出しました。 P. chromatophora はリザリア下界ケルコゾア門ユーグリファ目に分類される単細胞動物で、細胞は30µm程度のアメーバ状であり、ケイ酸質の鱗片で構築された卵型の外殻を持ちます。この生物の特徴的な点は、細胞内にクロマトフォアと呼ばれる青緑色の共生シアノバクテリア様の構造が存在することです。このクロマトフォアには約800遺伝子がコードされているゲノムDNAが保存されており、解析の結果これまでに明らかとなっているシアノバクテリア型の脂質合成酵素遺伝子が全て保存されていることがわかりました。そこで、このゲノムにも目的のmgdE遺伝子が保存されていると考え、約800遺伝子のうち、他のシアノバクテリアゲノムでも保存されている遺伝子を抽出し、その中から糖代謝関連モチーフを持つもの、糖異性化反応と関係する酸化還元モチーフを持つものを選び出し、その遺伝子破壊株をシアノバクテリアで作成しました。その結果、遺伝子破壊株ではMGDGの蓄積が見られず、GlcDGが多量に蓄積していることが確認できました。この結果から、この遺伝子が目的のGlcDG異性化酵素遺伝子(mgdE)であることが明らかとなりました。

    単離したmgdE遺伝子破壊株は、野生株と比べ成育速度がおよそ半分程度であり、クロロフィル含量も7割程度に低下していました。実際、顕微鏡で観察するとクロロフィルの含量が少ない白化した細胞も散見されます(図3)。次に、脂質組成がどのように変化しているかを調べたところ、MGDGとDGDGが検出されず、それに代わりGlcDGが多量に蓄積していることがわかりました。次に、mgdE遺伝子破壊株の光合成活性を調べたところ、飽和光下では野生株と同等の酸素発生能を持つことが分かりました。さらに、電子顕微鏡を用いて内部構造を観察したところ、野生株と同様、mgdE遺伝子破壊株でもチラコイド膜が形成されていました(図4)。これらの結果は、GlcDGがMGDGとDGDGの機能を相補して、光合成活性をはじめとするシアノバクテリアの機能を維持しているだけでなく、チラコイド膜の構築でもガラクト脂質の機能を相補できること、つまりチラコイド膜にはガラクト脂質が必須ではないということを示しています。

    図3 mgdE遺伝子破壊株(∆mgdE株)の形態。∆mgdE株では、緑色と白色の細胞が観察された。 WT:野生株

    図3 mgdE遺伝子破壊株(ΔmgdE株)の形態。ΔmgdE株では、緑色と白色の細胞が観察された。 WT:野生株

    図4 mgdE遺伝子破壊株(∆ mgdE株)の内部構造。電子顕微鏡による観察から、遺伝子破壊株でもチラコイド膜が構築されていることがわかる(矢印)。WT:野生株、Mu:∆ mgdE株。

  • 図4
    mgdE遺伝子破壊株(ΔmgdE株)の内部構造。電子顕微鏡による観察から、遺伝子破壊株でもチラコイド膜が構築されていることがわかる(矢印)。WT: 野生株、Mu: ΔmgdE株。
  • 今後の展開

    本研究では、長らく未知であったGlcDG異性化酵素遺伝子を同定し、その遺伝子破壊株を作成、解析することでチラコイド膜においてガラクト脂質は必須ではないということを証明しました。これは、酸素発生型光合成生物のチラコイド膜にはガラクト脂質が必須であるというこれまでの常識を根本から覆す成果です。今後は、酸素発生型光合成生物全般でのガラクト脂質の必須性を明らかにするため、シアノバクテリアのガラクト脂質合成経路を藻類や植物に導入し、合成経路を置き換えた株を作出・解析することで、それらの生物でもグルコ脂質で機能代替が可能かを検証していきたいと考えています。また、ガラクト脂質は、チラコイド膜の構築だけではく、光合成反応を行うタンパク質複合体の内部にも存在し、それらタンパク質複合体の活性や構造に影響を与えていることが明らかとなってきました。今回単離した遺伝子破壊株を解析することで、糖の構造変化が光合成に必須のタンパク質群の構造や安定性に与える影響を明らかにし、それが光合成システムの精密な理解、ひいてはエネルギー物質生産の効率化に繋がることも期待されます。

    参考図

    用語説明

    [用語1] シアノバクテリア : 植物や藻類と同じ酸素発生型光合成を行うバクテリア。葉緑体と共通の起源を持つ(祖先が同じ)と考えられている。

    [用語2] 光合成膜 : 光合成反応を行う生体膜。チラコイド膜と呼ばれる。ガラクト脂質が8割を占める。

    [用語3] ガラクト脂質 : 生体膜を形作る膜脂質のうち、糖の一種であるガラクトースを持つもの。植物や藻類、シアノバクテリアなどの酸素発生型光合成を行う生物に広く保存されている。

    [用語4] ガラクトース : 糖の一種。化学式はグルコースと同じだが、4番目の炭素原子に付く水酸基(-OH)の向きが異なる。図1参照。

    [用語5] mgdE : 今回明らかにした糖脂質異性化酵素遺伝子。遺伝子を示す場合は3文字目までを小文字で斜体(mgdE)、タンパク質を示すときは1文字目を大文字にし正体で示す(MgdE)

    [用語6] 遺伝子破壊株 : 目的の遺伝子を破壊し、その機能を阻害した株。今回の研究では、糖脂質異性化酵素遺伝子(mgdE)の遺伝子破壊株を用いている。

    掲載雑誌名

    掲載誌 :
    Proceedings of the National Academy of Sciences
    題目 :
    Oxygenic photosynthesis without galactolipids
    著者 :
    Koichiro Awai, Hiroyuki Ohta, and Naoki Sato
    DOI :

    お問い合わせ先

    広報センター
    Email: media@jim.titech.ac.jp
    TEL: 03-5734-2975 / FAX: 03-5734-3661

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