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中温域で世界最高の伝導度を示すヒドリドイオン伝導体を実現 燃料電池や電解水素化反応の効率化などに貢献

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要点

  • 中温域(100-600 ℃)で世界最高の伝導度を示すヒドリドイオン伝導体を創出
  • ヒドリドイオンの振動の非調和性が大きいことがキーと解明

概要

東京工業大学 物質理工学院 材料系の福井慧賀大学院生、元素戦略研究センターの飯村壮史助教、細野秀雄栄誉教授の研究グループは、中温域で世界最高のヒドリドイオン伝導度を示す化合物「酸水素化ランタン(LaH3−2xOx)」を発見した。

高伝導度実現の要因はしばしばみられる活性化エネルギーの低下ではなく、これまで大幅な変化に乏しかった前指数因子[用語1]が数桁にわたり増加したことによる。その原因はヒドリドイオンの特徴(小さな質量と大きな分極率)と水素同士の距離が極めて近くに来るという結晶構造に起因することを解明した。

水素の陰イオンであるヒドリドイオンは高い還元電位[用語2]イオン伝導[用語3]に適した小さなイオン半径と価数を持ち、次世代の電気化学デバイスや化学合成プロセスへの応用が期待されている。化学反応や燃料電池を用いた発電は高い反応効率と反応選択性、高電流密度などの利点を両立できることから中低温域(100-600 ℃)で作動するプロトンやヒドリドイオンの固体電解質が切望されていた。今回創出したLaH3−2xOxはこれを満たすものである。

研究成果は6月12日に英国科学誌「Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーションズ)」に掲載された。

研究の背景

水素はさまざまな化成品の原料となるだけでなく、燃料電池の原料として用いることでCO2を排出しないクリーンなエネルギー源にもなる有用な元素である。化学反応を用いるこれらのプロセスでは作動温度を上げるほど反応速度を高めることができる一方で、“効率”(選択率や発電効率)は低温ほど高くなる。そのため、100-600 ℃程度の中温域での運用が適しているとされている。

水素を利用するためにはプロトン(H+)伝導体など「水素を運ぶ材料」が不可欠である。しかし、低温で高いH+伝導度を示す酸水溶液や固体酸は高温では分解してしまい、逆に高温側では塩基である水酸基のプロトンが動き始めるが、低温では全く動かない。これはH+が非常に小さいイオン半径を持つために電荷密度が大きく、容易に陰イオンに束縛されてしまうためである。このH+伝導体における中温-高伝導度の領域は「ノルビーギャップ」と呼ばれ、効率的に水素を使う上で大きな技術障壁となっている(図1)。

プロトン伝導体におけるノルビーギャップ

図1. プロトン伝導体におけるノルビーギャップ[参考文献1]

この問題を解決する一つの方法として「ヒドリドイオン(H)」の利用があげられる。Hは一つの陽子と二つの電子から成る水素の陰イオンである。Hは酸化物イオン(O2−)と同程度のイオン半径を持っておりH+と比べて電荷密度が圧倒的に低い。そのため、H+とは異なる伝導を示し、ノルビーギャップを克服できると考えた。さらにHの酸化還元電位は−2.3 Vとマグネシウム(−2.36 V)に匹敵するほど還元力が高い。この特徴は水素化還元反応を促進する可能性を秘めており、燃料電池をはじめ多様な化学合成プロセスにおいてメリットが大きい。

研究成果

新規H伝導体の候補として酸水素化ランタン(LaH3−2xOx)に着目した。Laは分極率が大きく、H伝導の活性化エネルギーを低減させることができる。O2−は二つのHと置換し格子内にHの空孔を作る。酸素の置換量を変化させることでHと空孔の量を制御し、高H伝導を狙った。図2aにLaH3−2xOxの結晶構造を示す。近接した四面体サイト(T-site)と八面体サイト(O-site)の両方にHが部分的に占有しており、Hの伝導経路を形成する空孔が導入できていることが分かる。酸素量xは0 ≤ x ≤ 1の広い範囲で連続的に制御することができ、その間結晶構造はLaH3と同様に面心立方格子を保つ。

イオン伝導度および電子伝導度はそれぞれ交流インピーダンス法[用語4]直流分極法[用語5]を用いて評価した。図2bに340 ℃での電子伝導度とイオン伝導度およびイオン輸率[用語6]の酸素量依存性を示す。酸素量(x)の増加に伴って電子伝導度は急激に減少するが、イオン伝導度は0.125 ≤ x ≤ 0.5の範囲で10−2 Scm−1以上の高い値を維持した。その結果、x = 0.25、0.5においてイオン輸率は99%以上となった。また、第一原理分子動力学シミュレーション[用語7]を用いてHとO2−の伝導を解析したところ、O2−は350 ℃では全く動くことはできず、Hだけが伝導に寄与していることを確認した(図2c)。

(a)LaHLaH3−2xOxの結晶構造。T-site: 四面体サイト、O-site: 八面体サイト。(b)340 ℃でのイオン伝導度(青左三角)、電子伝導度(青右三角)およびイオン輸率(赤)の組成依存性。(c)第一原理分子動力学 シミュレーションにおけるH-とO2−の平均二乗変位
図2.
(a)LaH3−2xOxの結晶構造。T-site: 四面体サイト、O-site: 八面体サイト。(b)340 ℃でのイオン伝導度(青左三角)、電子伝導度(青右三角)およびイオン輸率(赤)の組成依存性。(c)第一原理分子動力学 シミュレーションにおけるHとO2−の平均二乗変位

図3aにLaH3−2xOxと既報のヒドリドイオン伝導体のイオン伝導度のアレニウスプロット[用語8]を示す。x = 0.25、0.50におけるLaH3−2xOxのH伝導度はノルビーギャップを克服し、340 ℃で2.6×10−2 Scm−1とこれまでに世界で報告された中で最も高い値を示した。図3bに活性化エネルギー(Ea[用語9]とアレニウス式の前指数因子(A)のx依存性を示す。Eaxに依存せず1.2 eVほどと既報のヒドリドイオン伝導体より2倍程度大きい。一方、Axの減少に伴い4桁以上上昇し、通常のイオン伝導体の前指数因子(105-108)と比べ極端に大きい。これは強い非調和性によりEaが温度に依存して変化したためと考えた。

(a)イオン伝導度のアレニウスプロット。(b)活性化エネルギー(Ea)とアレニウス式の前指数因子(A)のx依存性
図3.
(a)イオン伝導度のアレニウスプロット[参考文献2] [参考文献3]。(b)活性化エネルギー(Ea)とアレニウス式の前指数因子(A)のx依存性

まとめると、この系で世界最高のヒドリドイオン伝導度が得られた要因として以下の3つが挙げられる。1つ目は水素の軽さにある。質量の小さい水素の振動は振幅が大きく非調和性をまといやすい。しかし、これはH+にもHにも共通した特徴である。2つ目は柔らかいHイオンが持つ大きな電子分極であり、これは電子を持たず硬いイオンとみなされるH+とはまったく異なる性質である。そして3つ目は、LaH3−2xOx中のH間距離がLa- H間距離よりも有意に短いために、H副格子がより分極しやすいことがあげられる。

今後の展開

今回の結果から、LaH3−2xOxがノルビーギャップを克服する中温域高速H伝導体として有望であることを示すことができた。今後Hを用いた新たなエネルギーデバイスや化学合成プロセスへの応用が期待される。

用語説明

[用語1] 前指数因子 : イオン伝導度の温度依存性を表すアレニウスの式(σT = Aexp(−Ea/RT))の指数の前に現れる温度に依存しない定数項。イオンの振動数、ホッピング距離、イオンの濃度などの物理量から構成される。

[用語2] (酸化)還元電位 : 電子のやり取りの際に発生する電位。電子の放出しやすさ、あるいは受け取りやすさを定量的に評価する尺度となる。

[用語3] イオン伝導 : 電場下でイオンが伝導すること。金属の電気伝導は主に電子の伝導が支配的だが、イオン伝導体では、イオンの伝導が支配的になる。

[用語4] 交流インピーダンス法 : 電極間に交流を印加し、交流の周波数を変化させた時のインピーダンスを測定することでイオン伝導率や誘電率、化学反応の追跡などを行う測定手法。

[用語5] 直流分極法 : 試料の電極に電圧を印加し、電流値と印加電圧から伝導度を測定する手法。片方の電極には主たる伝導種であるイオンを透過しない電極を用い、イオンの流れ止めることでその他の伝導種に起因する電流を測定する。

[用語6] イオン輸率 : 全伝導度(電子伝導度とイオン伝導度)に対するイオン伝導の割合。

[用語7] (第一原理)分子動力学シミュレーション : 原子ならびに分子の物理的な動きの時間発展を計算するコンピューターシミュレーション手法。原子や分子、電子の相互作用を第一原理計算から求める手法を特に第一原理分子動力学シミュレーションと呼ぶ。

[用語8] アレニウスプロット : 縦軸にσTの対数(ln(σT))、横軸に温度の逆数1/Tをとりアレニウスの式(σT = Aexp(−Ea/RT))をプロットしたもの。この時、傾きは−Ea/R、切片はlnAになる。σAEaRは、イオン伝導度、前指数因子、活性化エネルギー、気体定数。

[用語9] 活性化エネルギー : イオンが拡散する際に飛び越えなければならないエネルギー障壁。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Characteristic Fast H Ion Conduction in Oxygen-Substituted Lanthanum Hydride(酸素置換水素化ランタンにおける特徴的な高速ヒドリドイオン伝導)
著者 :
Keiga Fukui, Soshi Iimura, Tomofumi Tada, Satoru Fujitsu, Masato Sasase, Hiromu Tamatsukuri, Takashi Honda, Kazutaka Ikeda, Toshiya Otomo, Hideo Hosono(福井慧賀、飯村壮史、多田朋史、藤津悟、笹瀬雅人、玉造博夢、本田孝志、池田一貴、大友季哉、細野秀雄)
DOI :

参考文献

[1] T. Norby; Solid-state protonic conductors: principles, properties, progress and prospects; Solid State Ion., 125, 1 (1999).

[2] M. C. Verbraeken, C. Cheung, E. Suard, and J. T. S. Irvine; High H ionic conductivity in barium hydride; Nat. Mater. 14, 95 (2015).

[3] G. Kobayashi, Y. Hinuma, S. Matsuoka, A. Watanabe, M. Iqbal, M. Hirayama, M. Yonemura, T. Kamiyama, I. Tanaka, R. Kanno; Pure H– conduction in oxyhydrides; Science 351, 1314 (2016).

お問い合わせ先

東京工業大学 元素戦略研究センター

助教 飯村壮史

E-mail : s_iimura@mces.titech.ac.jp
Tel : 0045-924-5197

東京工業大学 元素戦略研究センター

栄誉教授 細野秀雄

E-mail : hosono@mces.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5009

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


「酸素」が手足の形作りの進化に重要な役割を果たしていることを発見 四肢動物の陸上進出に伴う環境変化によって、手足を形作るメカニズム「指間細胞死」が誕生

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要点

  • 手足を形作るメカニズムとして「指間細胞死(しかんさいぼうし)」が知られているが、生物の進化と共に、なぜそのような仕組みが生まれたのかは、これまで解き明かされていなかった。
  • 「指間細胞死」は通常アフリカツメガエルの手足では起こらないが、幼生(オタマジャクシ)を高酸素濃度の環境に曝すと起こるようになる。
  • 通常、ニワトリの足には「指間細胞死」が起こるため、水かきはできないが、低酸素濃度の環境では、ニワトリの足でも「指間細胞死」が起こらなくなる。
  • 手足ができる幼生期を陸で過ごすコキコヤスガエルでは「指間細胞死」が起こる。
  • 「指間細胞死」は、進化の過程において陸で幼生期を過ごす四肢動物が出てきたことで、高濃度の酸素に曝されて誕生した発生メカニズムであるようだ。

指間細胞死によって水かきのない足ができるためには、酸素が必要である。

指間細胞死によって水かきのない足ができるためには、酸素が必要である。

概要

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の田中幹子准教授とイングリッド・ローゼンバーグ・コルデイロ(Ingrid Rosenburg Cordeiro)大学院生らは、山形大学医学部の越智陽城准教授、ハーバード大学のジェームス・ハンケン(James Hanken)教授らと共同で、大気中の酸素が手足を形作るのに重要な役割を担っていることを明らかにした。田中准教授らは、指の間の細胞が細胞死によって取り除かれる「指間細胞死」が起こるためには、活性酸素種が必要であること、さらに、発生中の胚が高濃度の酸素に曝される必要があることを見いだした。

今回の研究成果は、生物の進化の過程で、手足を形作るメカニズム「指間細胞死」が誕生した謎を解き明かすものである。また、生物の陸上進出に伴う環境の変化が、体の形成において新たなメカニズムを誕生させうることを示すものとなった。

研究成果は6月13日(米国東部時間)に国際科学誌「Developmental Cell」で公開された。

研究の背景

カエルやイモリなどの両生類は、指や指間の成長(細胞増殖)の違いで手足の形を作っている。一方、鳥類や哺乳類などの羊膜類[用語1]では、これに加えて「細胞死」によっても手足が形作られる。手足の細胞の一部が細胞死によって削り取られるようになると、手足の形は多様に進化した。例えば、オオバンと呼ばれる水鳥は細胞死によって木の葉の形をした水かきを持つように進化し、馬やラクダは数本の指を細胞死で削り取るように進化した。しかし、こうした「細胞死」による形作りのメカニズムがどのように出現したのかについては、これまで明らかにされていなかった。今回、田中幹子准教授らは、四肢動物の進化の過程で出現した指間細胞死に、驚くべき要素が必要であったことを見いだした。それが、大気中の「酸素」である。

研究成果

手足の形作りに「酸素」が重要な役割を果たす

研究チームは、大気中の酸素が手足の形作りに果たす役割を解明するため、まず、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)という足に水かきを持つ両生類の幼生(オタマジャクシ)に注目した。アフリカツメガエルの幼生を高濃度の酸素環境で飼育した結果、足の指の間で、本来起こらないはずの細胞死が起こっていることが観察された。さらに、指の間の血管―すなわち酸素の供給源―を増やした幼生でも、指間細胞死が起こることが明らかとなった。これらの結果は、幼生の育つ「環境」が変わるという一つの要因だけで、体の特定の部位の発生様式を変化させることがあると示していた。

さらに面白いことに、このプロセスには「活性酸素種[用語2]」が作られる必要があった。一般的に、活性酸素種は、老化や不妊の原因になるなど、健康を害する毒として知られている。しかし、活性酸素種は常に悪者というわけではなく、細胞内のシグナル経路を活性化するという重要な役割も持っている。研究チームは、ニワトリの胚において、指間細胞死のスイッチをオンにするシグナル経路を活性化するためには、指間で活性酸素種が産生される必要があることを示した。活性酸素種による指間細胞死の活性化は、マウスの胚でも報告されていることから、ヒトを含む羊膜類に共通する機構である可能性がある。一方で、アフリカツメガエルやアカハライモリのように、通常は指間細胞死の見られない動物の指間では、活性酸素種の産生は認められなかった。

研究の経緯

両生類の生態と手足の進化

多くの両生類は、そのライフサイクルの中で幼生期には水棲であり、水中にわずかに溶けた酸素を使って呼吸を行う。彼らの手足は、水中で過ごしている幼生期に形作られる。一方で、ニワトリのような卵の中で発生する胚の場合は、卵の中で胚を取り囲むように血管が発達しており、大気中の酸素が取り込まれる。また、マウスやヒトのような哺乳類の胚の場合は、胎盤を介して、母親が取り込んだ酸素を得ている。このように羊膜類は、幼生期を水中で過ごす両生類よりも、とても効率的に酸素を取り込むことができる。そこで、研究チームは、両生類が幼生期に水棲であることが指間細胞死の有無に関係しているのではないかと考え、幼生期に陸棲である両生類で解析を行った。

そこで研究チームが注目したのが、ハーバード大学自然史博物館でコロニーを維持しているコキコヤスガエルだ。コキコヤスガエルは、オタマジャクシとしての幼生期がない珍しいライフサイクルのカエルだ。陸で産み落とされた卵の中で小さなカエルの形をした幼生となる「直接発生」を経るため、幼生は大気からの酸素を得て呼吸する。面白いことに、この幼生の足の指間には、ニワトリ胚の指間で見られるように、高レベルの活性酸素種を生成し、細胞死を起こしている細胞が確認された。この結果は、胚の置かれる環境特性 ―すなわち、どれだけの酸素に囲まれているか― が、手足に指間細胞死が起こるか・起こらないかに直接関わっていることを示していた。

今後の展開

四肢動物の陸上進出に伴う環境の変化と共に、手足を形作るメカニズム「指間細胞死」が誕生

「生物の進化の過程で、指間領域を細胞死によって取り除くということが、鳥類や哺乳類のような羊膜類の手足の発生プログラムに必須のメカニズムになったということです」と田中准教授は強調する。

今後は「指間細胞死」が羊膜類の手足の発生プログラムに欠かせないものとなるまでに、どのように酸化ストレスへの応答経路が発生プログラムに組み込まれていったかを明らかにする必要があるだろう。

手足の形の作り方の違い:両生類の場合、指の成長(黒矢印)と指間の成長(赤矢印)のバランスで水かきができるかどうかが決まる。一方、羊膜類の場合、指間を細胞死(青紫)によって削り取る(「指間細胞死」)。アヒルやオオバンなどでは、指間細胞死を阻害することで(薄青)水かきができる。
図1.
手足の形の作り方の違い:両生類の場合、指の成長(黒矢印)と指間の成長(赤矢印)のバランスで水かきができるかどうかが決まる。一方、羊膜類の場合、指間を細胞死(青紫)によって削り取る(「指間細胞死」)。アヒルやオオバンなどでは、指間細胞死を阻害することで(薄青)水かきができる。
「指間細胞死」という発生システムが誕生するまでのモデル。「指間細胞死」は、陸で幼生期を過ごす四肢動物が出現したことで生成された活性酸素種による副産物として誕生したのであろう。羊膜類になると、「指間細胞死」は手足の形作りに必須なプロセスとなった。
図2.
「指間細胞死」という発生システムが誕生するまでのモデル。「指間細胞死」は、陸で幼生期を過ごす四肢動物が出現したことで生成された活性酸素種による副産物として誕生したのであろう。羊膜類になると、「指間細胞死」は手足の形作りに必須なプロセスとなった。

本研究は、科研費 基盤研究(B)16H04828、新学術領域 進化の制約と方向性18H04818、武田科学振興財団 研究助成、藤原ナチュラルヒストリー振興財団 学術研究助成、およびAMEDナショナルバイオリソースプロジェクト・ネッタイツメガエル JP18km0210085 などの支援を受けて行われた。

用語説明

[用語1] 羊膜類 : 有羊膜類とも呼ぶ。初期の発生過程において、羊膜が形成される四肢動物の総称。爬虫類、鳥類、哺乳類が含まれる。

[用語2] 活性酸素種 : 酸素分子から生成される反応性の高い化合物の総称。Reactive Oxygen Species(ROS)。

論文情報

掲載誌 :
Developmental Cell
論文タイトル :
Environmental oxygen exposure allows for the evolution of interdigital cell death in limb patterning
著者 :
Ingrid Rosenburg Cordeiro, Kaori Kabashima, Haruki Ochi, Keijiro Munakata, Chika Nishimori, Mara Laslo, James Hanken and Mikiko Tanaka
DOI :
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お問い合わせ先

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系

准教授 田中幹子

E-mail : mitanaka@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5722

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

体温レベルの温度でDNAの高速増幅に成功 分子ロボットから核酸検査まで、どこでも使える増幅法

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要点

  • 体温(37 ℃)でDNAを100万倍まで増幅する新しい等温増幅反応を開発
  • 等温増幅反応の実用化を妨げる非特異増幅を人工核酸で抑制できることを発見
  • 従来法では難しい分子ロボットのセンサーや核酸検査への利用に期待

概要

東京工業大学 情報理工学院 情報工学系の小宮健助教、山村雅幸教授らの研究チームは、新しい等温増幅反応「L-TEAM反応」を開発し、人の体温の37 ℃という低温でDNA[用語1]を100万倍まで高速に増幅することに成功した。既存のDNA増幅法であるPCR反応[用語2]鋳型にプライマー[用語3]を投入するのとは逆に、プライマーに鋳型を投入することで、マイクロRNA[用語4]のような短い核酸に対しても直接DNAを増幅することができる。

また、多くの等温増幅反応で実用化の妨げとなっている、増幅対象の核酸が存在しなくてもDNAが非特異的に増幅される問題を、これまで知られていなかった人工核酸による抑制効果を見出して解決し、汎用的な検出性能を実証した。

未来の情報通信技術(ICT)や分子ロボットの基盤技術として期待されるほか、病気のマーカーとなる核酸を検出して、がんなどの早期診断を実現する技術として、健康長寿社会への貢献が期待される。

研究成果は英国王立化学会刊行「Organic & Biomolecular Chemistry(オーガニック&バイオモレキュラー・ケミストリー)誌」オンライン版で先行公開され、6月21日(金)に発行される23号の表紙(The outside front cover)に掲載される。

L-TEAM反応のイメージ

図1. L-TEAM反応のイメージ

研究の背景と成果

DNAやRNAといった核酸はタンパクと異なり、合成酵素で増幅することができる。微量な核酸から大量のDNAを増幅生成する反応はセンサーの役割を果たし、分子ロボットに組み込んで動作させたり、病気の目印となる核酸を検出して診断に利用したりするなど様々な応用が考えられる。

しかし、1993年にノーベル化学賞の対象となり、研究用途でもっとも広く用いられているDNA増幅法であるPCR反応は高温サイクルが必要なため、専用の機器が不可欠である。また、高温条件に由来する多くの制約を抱えており、医療現場では限られた用途でしか利用されていない。低温のDNA増幅法が実用化されれば、様々な検査に利用することが可能になる。

また近年、DNAが配列情報にもとづいて結合する性質を利用してナノスケールの分子反応を制御する「DNAナノテクノロジー」と呼ばれる研究分野が発展してきた。そのなかで、多段階のDNA結合を配列情報で指定して情報処理を行う「分子プログラミング(Hagiya, LNCS, 2000)」やDNAを介して多種類の分子反応を組み合わせたシステムをロボットのように動かす「分子ロボティクス(Murata et al., N Gener Comput, 2013)」といった、未来の情報通信技術(ICT)やロボット技術につながる新しい研究コンセプトが日本から提案されている。

そこではDNAが情報を伝達する信号としての役割を果たすが、高温のDNA増幅法では他の分子が壊れてしまうため、分子ロボットを動かすことは難しく、低温でDNAを高速に増幅できる反応が望まれていた。

東工大の小宮助教、野田千鶴技術員、山村教授、電通大の小林聡教授らは、上記の応用に適した新しいDNA増幅法の研究に取り組み、体温レベルの温度でDNAを100万倍まで増幅するL-TEAM反応の開発に成功した。診断用マーカーとして注目が高まっているマイクロRNAなどの短い核酸の増幅に特に適しており、配列に依存しない汎用的な検出性能を持つことを実証した。本研究成果は、2019年4月9日(火)にOrganic & Biomolecular Chemistry誌オンライン版で先行公開され、6月21日(金)発行の23号表紙(The outside front cover)に掲載される。

研究の経緯

PCR反応のように高温サイクルを必要としないDNA増幅法として、これまで数多くの等温増幅反応が開発されてきた。しかし、実用化されたものは50~60 ℃程度の温度を必要とするものが多く、人の体温レベルの温度でDNAを増幅できる使いやすい反応が望まれていた。

そのような反応も研究レベルでは多数報告されていたが、複数のプライマーを使用するため、短い核酸を増幅するにはプライマーが結合する配列を付加する反応が必要だった。また、増幅対象の核酸が存在しないときにもDNAを非特異的に増幅してしまったりするなどの問題があった。

これに対して小宮助教らは、PCR反応をはじめとする既存の多くのDNA増幅法が、増幅対象の核酸を鋳型として外部からプライマーとなるDNAを投入していたのとは逆に、外部から鋳型となるDNAを投入して増幅対象の核酸をプライマーとして利用する(図2)デザインを採用した。

これによって短い核酸からでも直接DNAを増幅する反応を実現できた。また、核酸医薬などに利用されている人工核酸(LNA[用語5])を鋳型に導入すると、非特異的な増幅が抑制される新たな効果を発見し、多くの等温増幅反応で実用化の妨げとなっている非特異増幅の問題を解決できた。

L-TEAM反応の概要 2段階の増幅反応で高速にDNAを増幅する

図2. L-TEAM反応の概要 2段階の増幅反応で高速にDNAを増幅する

今後の展開

今回開発したL-TEAM反応は、タンパクが関わる様々な反応と同時にDNAを増幅できるため、体内で動作する分子ロボットのセンサーとしての利用や、生化学検査と一緒に行える核酸検査の実現が期待される。前者は人工細胞型分子ロボットに搭載する研究が進められており(Sato et al., Chem Commun, 2019, DOI: 10.1039/c9cc03277k)、後者は病院に普及している検査機器上でのDNA増幅に成功している(Komori et al., Anal Bioanal Chem, 2019, DOI: 10.1007/s00216-019-01878-z)。

研究チームはこれまでに、1分子のDNAが多段階の情報処理を行う世界唯一のDNAコンピュータを開発し、体温で動作するように改良してきた(Komiya et al., Natural Computing, 2010, 9(1), 207)。今回の研究成果は、DNAコンピュータと組み合わせることで、体内で核酸を検知して診断し、その場で治療する近未来の医療用分子ロボットを創出するための大きな一歩となる。

また、より直近の応用としては、病気のマーカーとなる核酸を検出し、がんの早期診断や予防医療を実現する技術として、健康長寿社会への貢献が期待される。

謝辞

本研究は科研費の新学術領域研究「分子ロボティクス」(24104003)および挑戦的萌芽研究(26540151)、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)および国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)のA-STEP、内閣府のImPACT(野地博行PM)による助成を受けて行った。

用語説明

[用語1] DNA、RNA : DNAは生物の細胞内で遺伝情報を保持するDeoxyribonucleic Acid(デオキシリボ核酸)の略。RNAは糖部分がリボースのRibonucleic Acid(リボ核酸)の略。

[用語2] PCR反応 : Polymerase Chain Reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)の略。核酸中の増幅したい配列をはさむように設計した短いDNAを投入し、1.加熱による二本鎖DNAの解離、2.短いDNAがプライマーとして結合、3.増幅したい配列を鋳型としたDNAポリメラーゼ(合成酵素)によるDNA合成―の三つの反応ステップを、高温サイクルを繰り返すことで実行してDNAを指数的に増幅する。

[用語3] 鋳型、プライマー : DNA合成酵素によるDNA合成では、合成する配列を指定する鋳型となる核酸上で、塩基の対合規則にしたがって1塩基ずつDNAが伸長合成される。通常は15~25塩基程度の長さの核酸が、伸長を開始するプライマーとして鋳型に結合することでDNA合成が始まる。

[用語4] マイクロRNA : 20個前後の少数の塩基から成るRNA。

[用語5] LNA : Locked Nucleic Acidの略。DNAのリボース部分が架橋構造を持つように改変された人工核酸で、天然のDNAと比べて分解酵素への耐性を持つなどの特徴がある。

論文情報

掲載誌 :
Organic & Biomolecular Chemistry
(英国王立化学会刊行の有機化学および生体分子化学専門誌)
論文タイトル :
Leak-free million-fold DNA amplification with locked nucleic acid and targeted hybridization in one pot(一つの反応容器中で行うLNAを利用した漏れの起きない100万倍DNA増幅と目標分子へのハイブリダイゼーション)
著者 :
小宮健1、小森誠2、野田千鶴1、小林聡3、吉村徹2、山村雅幸1
所属 :
1東京工業大学 情報理工学院
2アボットジャパン株式会社 総合研究所
3電気通信大学 大学院情報理工学研究科
DOI :
<$mt:Include module="#G-09_情報理工学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

情報理工学院 情報工学系

助教 小宮健

E-mail : komiya@c.titech.ac.jp
Tel : 045- 924 -5208

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

太陽系初期における原始惑星の巨大衝突 隕石の超高精度年代測定が解き明かす小惑星ベスタの謎

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ポイント

  • 小惑星ベスタを起源とする隕石の超高精度年代測定を実施
  • ベスタは今から45.25億年前に北半球が崩壊するほどの巨大衝突を経験
  • ベスタ南半球の異常に分厚い地殻の謎を初めて解明

概要

東京工業大学 理学院 地球惑星科学系の羽場麻希子助教、国立極地研究所の山口亮准教授、スイス連邦工科大学のJörn-Frederik Wotzlaw博士、Yi-Jen Lai博士、Maria Schönbächler教授の研究チームは、小惑星ベスタが、太陽系初期にあたる 今から45.25億年前に巨大衝突を起こしたことを初めて提唱しました。

ベスタは原始惑星の姿を残す稀有な天体であり、現在も形成当時の層構造を保持していると考えられてきました。しかし、ベスタに起源を持つ隕石のメソシデライトは、地殻物質と金属コアの混合によって形成されたことが知られています。そのため、この隕石のベスタにおける形成過程は理解されていませんでした。

本研究チームはメソシデライトに存在する微小鉱物ジルコンについて超高精度年代測定を実施しました。その結果、メソシデライトは今から45.25億年前にベスタで起こった巨大衝突によって形成したことが判明しました。新たに見えてきたベスタの歴史は、従来想定されていた「手つかずの原始惑星ベスタ」はもう存在しないことを示しています。一方で、近年のドーン探査機(NASA)による観測以降に問題となっていた、ベスタの南半球の異常に分厚い地殻について、本研究チームは、巨大衝突による内部構造の変化によるものであると明らかにしました。

本研究成果は、日本時間2019年6月11日(火)午前0時(英国時間6月10日午後4時)公開の「Nature Geoscience」電子版に掲載されました。

背景

太陽系初期に存在した、地球などの惑星の卵である原始惑星が、いつ・どのように誕生し成長したのかは、私たちの太陽系の形成シナリオを考える上でとても重要な問題です。ほとんどの原始惑星は衝突などによって失われてしまいましたが、火星と木星の間の小惑星帯で2番目に大きい小惑星ベスタ[用語1]は、原始惑星の数少ない生き残りとして知られています。ベスタに起源を持つHED隕石[用語2]グループの研究から、この天体は他の多くの小惑星とは異なり、現在も形成当時の地殻・マントル・金属コアの層構造を保っていて、地殻の厚さは40 km程度と見積もられていました(図1)。

一方で、ベスタの南半球には、ベスタの直径(約525 km)とほぼ同じサイズの巨大クレーターが存在します。2011~2012年にかけて行われたドーン探査機(NASA)による観測では、ベスタの内部構造を観察するため、このクレーター内部が詳細に調べられました。しかし、存在するはずのマントル物質が検出されず、この観測結果に基づいたシミュレーション研究により、ベスタの地殻の厚さは80 km以上であると推定されました。ベスタがなぜこのような異常に分厚い地殻を持つのかは未だに理解されていません。

ベスタに起源を持つもう一つの隕石グループにメソシデライト[用語3]があります。メソシデライトはHED隕石とは異なり、地殻物質と金属コアから構成される石鉄隕石であり、その性質上、層構造を持つ天体が大規模に破壊された時に形成したと考えられています。しかし、この隕石がベスタで形成されたとすれば、ベスタは一度大きく崩壊していたことになり、形成当時の層構造が残っているという説と矛盾してしまいます。そのため、メソシデライトがベスタでどのように形成されたのかは良くわかっていませんでした。

(左)ドーン探査機が撮影した小惑星ベスタ(NASA)。(右)ベスタの内部構造の推定。隕石研究とドーン探査後のシミュレーション研究では、地殻の厚さの見積もりが異なる。
図1.
(左)ドーン探査機が撮影した小惑星ベスタ(NASA)。(右)ベスタの内部構造の推定。隕石研究とドーン探査後のシミュレーション研究では、地殻の厚さの見積もりが異なる。

研究の着眼点と手法

本研究では、小惑星ベスタにおけるメソシデライトの形成過程を明らかにし、従来の研究では考慮されていなかったベスタにおける巨大衝突の可能性について検討しました。メソシデライトの母天体がベスタであるなら、ベスタではメソシデライトの形成に必要な大規模な破壊が起こっていて、その原因は巨大衝突であったと考えられます。そして、その巨大衝突が起こった年代は、メソシデライトとHED隕石の両方に記録されているはずです。そこで本研究チームはメソシデライトの形成年代を高精度に決定することを試みました。

メソシデライトには非常にわずかですが微小鉱物ジルコンが存在しています。ジルコンは非常に安定な鉱物であり、ウラン-鉛年代測定法[用語4]に適した鉱物です。近年発展したジルコンの表面電離型質量分析計によるウラン-鉛年代測定法(ID-TIMS法)は、ジルコンの形成年代を超高精度で求めることが可能です。本研究では5つのメソシデライトに含まれていたジルコンに対して、初めてID-TIMS法による超高精度年代測定を実施しました。

研究成果

決定されたメソシデライトの形成年代から、その母天体は、今から45.59±0.02億年前に地殻が形成した後、45.254±0.009億年前に大規模な破壊(巨大衝突)を経験したことが判明しました(図2上)。また、過去に実施されたHED隕石の年代測定では、ベスタの地殻は45.5億年前に形成し、今から45.2~45.3億年前に何らかの原因で外部から再加熱されたことが知られています(図2下)。メソシデライトの母天体における地殻形成と巨大衝突の年代は、HED隕石からわかっているベスタの進化史と良く一致しています(図2)。年代含めてこれまでに得られた全ての科学データがHED隕石と一致しており、メソシデライトの母天体はHED隕石と同様にベスタであることが確認されました。

メソシデライトおよびHED隕石の年代に関するヒストグラム。(上)メソシデライトに含まれるジルコンのウラン-鉛年代に基づく母天体の進化史。(下)HED隕石(ユークライト)のウラン-鉛年代に基づくベスタの進化史。双方の隕石グループで、地殻形成と再加熱(巨大衝突)の年代が一致する。
図2.
メソシデライトおよびHED隕石の年代に関するヒストグラム。(上)メソシデライトに含まれるジルコンのウラン-鉛年代に基づく母天体の進化史。(下)HED隕石(ユークライト)のウラン-鉛年代に基づくベスタの進化史。双方の隕石グループで、地殻形成と再加熱(巨大衝突)の年代が一致する。

この結果に基づき、ベスタでの巨大衝突モデルがいくつか検討されました。その中でも、当て逃げ型(ヒットエンドラン)の衝突モデルが、メソシデライトの形成だけではなく、ベスタ南半球の分厚い地殻の謎を説明できることがわかりました(図3)。まず、小惑星ベスタは40 km程度の地殻を持って誕生しました。その後、45.25億年前に別の小惑星と衝突を起こし、北半球の大部分が崩壊しました。この時、地殻やマントル物質に加え溶融状態の金属コアもわずかに宇宙空間に飛び出しました。これらの物質の大部分はベスタの重力から脱することが出来ず、衝突の影響が比較的小さかった南半球に分厚く降り積もりました。メソシデライトは、金属コア物質を含む衝突破砕物が南半球に降り積もった際に、地殻物質と混合を起こすことによって形成されたと考えられます。最終的に、南半球のマントルの上には、地殻と衝突破砕物から成る厚さ80 km以上の分厚い層が存在することになりました。ドーン探査機が目撃した異常に分厚い地殻の正体は、この地殻と衝突破砕物の層であり、つまりは45.25億年前の巨大衝突によってベスタの層構造が大きく変化した証拠であると考えられます。

小惑星ベスタにおける巨大衝突モデル

図3. 小惑星ベスタにおける巨大衝突モデル

今後の展開

本研究では、世界で初めて天体の巨大衝突が起こった年代を超高精度で決定しました。その結果、小惑星ベスタの現在に至る進化史をより鮮明に描き出すことに成功しました。今後、このような超高精度年代測定法を、他の隕石や探査機による回収試料に応用することによって、私たちの太陽系に存在する小惑星や惑星の多様性についての理解が進むことが期待されます。

45.25億年前のベスタにおける巨大衝突のイメージ

45.25億年前のベスタにおける巨大衝突のイメージ

用語説明

[用語1] 小惑星ベスタ : 木星と火星の間の小惑星帯に存在し、平均直径が525 kmである小惑星。小惑星帯では準惑星ケレス(平均直径950 km)の次に大きく、条件によっては肉眼でも観測できる。地殻・マントル・金属コアの層構造を持つ地球型天体である。

[用語2] HED隕石 : ベスタから来た隕石グループ。上部地殻に由来するユークライト隕石(E)、下部地殻に由来するダイオジェナイト隕石(D)、ユークライトとダイオジェナイトの混合物であるホワルダイト隕石(H)の3つのサブグループから構成される。

[用語3] メソシデライト : 隕石の一種で、岩石と金属から成る石鉄隕石に分類される。岩石部分の鉱物組成、化学組成、同位体組成がHED隕石と一致することから、ベスタから飛来したと考えられている。

[用語4] ウラン-鉛年代測定法 : 放射性核種のウランが固有の半減期を経て、最終的に安定な鉛に壊変することを利用した年代測定法。

論文情報

掲載誌 :
Nature Geoscience
論文タイトル :
Mesosiderite formation on asteroid 4 Vesta by a hit-and-run collision(当て逃げ型衝突による小惑星4ベスタでのメソシデライトの形成)
著者 :
Makiko K. Haba, Jörn-Frederik Wotzlaw, Yi-Jen Lai, Akira Yamaguchi, Maria Schönbächler
DOI :
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お問い合わせ先

東京工業大学 理学院 地球惑星科学系

助教 羽場麻希子

E-mail : haba.m.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2616 / Fax : 03-5734-3537

国立極地研究所

准教授 山口亮

E-mail : yamaguch@nipr.ac.jp
Tel : 042-512-0707 / Fax : 042-528-3479

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

国立極地研究所 広報室

E-mail : kofositu@nipr.ac.jp
Tel : 042-512-0655 / Fax : 042-528-3105

二酸化炭素を資源に変える有機分子触媒を発見 環境にやさしい手法で容易に転換を実現

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要点

  • ギ酸有機アンモニウムを触媒に二酸化炭素からのギ酸シリルの合成に成功
  • 有機化合物のみから構成される触媒として初めて高活性・高選択性を両立
  • 溶解度の温度変化を利用して反応後の触媒を回収・再利用が可能

概要

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の本倉健准教授と眞中雄一准教授(国立研究開発法人 産業技術総合研究所とのクロス・アポイントメント制度適用)らは、二酸化炭素(CO2)の資源化反応にギ酸有機アンモニウム[用語1]が高活性を示す触媒となることを見出した。この反応でCO2から得られるギ酸シリル[用語2]は水素キャリアとなるギ酸や合成化学的に有用な有機カルボニル化合物誘導体[用語3]へと容易に変換することができる。

この触媒系の特長は高価な遷移金属を用いない有機化合物のみから構成される触媒により、高い触媒活性と選択性を達成した点である。使用した触媒は、反応中は溶媒に溶けているが、反応終了後、室温付近まで冷却することで析出するため、容易に回収し再利用できる。

研究成果は米国科学誌「ACS Sustainable Chemistry & Engineering(エーシーエス・サステナブル・ケミストリー・アンド・エンジニアリング)」オンライン速報版に2019年5月30日に公開された。

研究成果

有機分子触媒による二酸化炭素とヒドロシランからのギ酸シリル合成

図1. 有機分子触媒による二酸化炭素とヒドロシランからのギ酸シリル合成

本倉准教授らはギ酸有機アンモニウム塩の一種であるギ酸テトラブチルアンモニウム[用語4]が、CO2ヒドロシラン[用語5]からギ酸シリルを合成する反応に高活性を示すことを見出した。この触媒を用いると、目的生成物の選択率を99%に維持しつつ、収率92%・触媒回転数(TON)[用語6]=1,800で反応が進行する。触媒回転数とは、触媒1分子が何回目的の反応を進行させたかを示し、触媒活性の指標となる値である。

CO2は安定で反応性の低い分子であるため、従来の手法では遷移金属錯体触媒が必要であり、安定・安価に供給可能な有機分子触媒による報告は少数だった。特に、目的生成物であるギ酸シリルの高い選択率を維持しつつ、高い触媒回転数を実現した有機分子触媒はこれまでに無く、TON=760程度であるが選択率が低い、あるいは、選択率は高いがTON=40程度に留まっていた(表1)。すなわち、ギ酸テトラブチルアンモニウムを用いることで初めて、高い選択率と高いTONを同時に実現することができた。

表1. 本研究で開発した触媒と既報との活性比較

触媒
転化率
選択率
触媒回転数(TON)
(本研究)
92
>99
1,800
72
62
760
95
95
40

この触媒系では、1気圧のCO2を用いて、60 ℃で反応が進行する。貴重な金属や高価な配位子を使用する必要もない。反応は溶液中で進行するが、反応終了後に室温まで冷却することで触媒であるギ酸テトラブチルアンモニウムが析出するため、濾過によって触媒を分離し、再び使用することが可能である(図2)。以上により、極めて環境にやさしい温和な条件でCO2を継続的に変換できる。

触媒の分離と再利用のイメージ

図2. 触媒の分離と再利用のイメージ

ギ酸テトラブチルアンモニウムが高活性を示した要因の一つとして、ギ酸イオンからヒドロシランへの強力な電子供与が示唆される。電子供与によって活性化されたヒドロシランはCO2と反応することが可能となる。さらに、生成したギ酸シリルと触媒であるギ酸テトラブチルアンモニウムは平衡関係に存在していることが明らかになっており、これが触媒の安定性向上に関与しているのではないかと考えられる。

研究の背景

有機分子触媒は特殊な金属や希少な元素を必要としないため、環境にやさしい触媒になると考えられている。一方で、金属触媒と比較して一般的に触媒活性が低いことが多く、安定なCO2の変換反応を進行させる有機分子触媒において、選択性と活性を両立し、耐久性も高い触媒の開発が望まれていた。

展望および意義

本研究ではギ酸有機アンモニウム触媒がCO2とヒドロシランからのギ酸シリルの合成に高活性・高選択性を示すことを初めて報告し、今後のCO2転換のための有機分子触媒の設計指針を大きく変える可能性がある。より安価かつ入手容易な還元剤を用いるCO2変換反応へと適用範囲を広げることで、CO2資源化プロセスの確立へ資することができると考えられる。

本研究成果は、本学物質理工学院所属の教員と、本学と国立研究開発法人 産業技術総合研究所とのクロス・アポイントメント制度(卓越した人材が複数の組織において活躍できるよう、所属機関と他機関のそれぞれで身分を保有し、研究などの業務に従事することを可能にする制度)によって着任した教員との、分野横断型の共同研究によって達成された。

用語説明

[用語1] ギ酸有機アンモニウム : ギ酸イオンと有機アンモニウムイオンから構成される有機分子。ギ酸イオンに由来する塩基性・求核性によって触媒として機能し、その性能は有機アンモニウムイオンの構造によって制御される。

[用語2] ギ酸シリル : ギ酸のプロトンがケイ素に交換された化合物。水を添加するだけで容易にギ酸へと変換できるだけでなく、その反応性の高さから、様々なカルボニル化合物やアルコール等の合成中間体へ転換が可能。

[用語3] 有機カルボニル化合物誘導体 : 炭素―酸素二重結合(C=O、カルボニル基)を有する化合物。カルボニル基は分極が大きく反応性が高いため、ここを起点として様々な有機化合物を合成できる。

[用語4] ギ酸テトラブチルアンモニウム : ギ酸有機アンモニウムの一種で、窒素原子上に4つのブチル基をもつ化合物。

[用語5] ヒドロシラン : ケイ素―水素結合を有する有機化合物。比較的安定で、取り扱いが容易な還元剤として利用されている。

[用語6] 触媒回転数(TON) : 触媒1分子が目的とする反応によって原料を生成物へと変換した回数。ターンオーバーナンバー(turnover number:TON)。生成物からの副反応がない場合、生成物量を触媒量で割ることで算出される。触媒が完全に失活するまでの値を表すこともあり、触媒の活性・安定性の指標として用いられる。

論文情報

掲載誌 :
ACS Sustainable Chemistry & Engineering
論文タイトル :
Formate-Catalyzed Selective Reduction of Carbon Dioxide to Formate Products using Hydrosilanes
著者 :
Ken Motokura, Chihiro Nakagawa, Ria Ayu Pramudita and Yuichi Manaka
DOI :

参考文献

[1] M.-A. Courtemanche, M.-A. Légaré, È Rochette, F.-G. Fontaine, Chem. Commun. 2015, 51, 6858-6861

[2] C. C. Chong, R. Kinjo, Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 54, 12116-12120.

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お問い合わせ先

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系

准教授 本倉健

E-mail : motokura.k.ab@m.titech.ac.jp

Tel : 045-924-5569

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

ソニーと次世代デバイス技術共同研究講座を設置

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東京工業大学は、ソニー株式会社と安全・安心で持続可能な社会に貢献する次世代デバイス・材料技術領域における研究開発の促進と人材の育成・強化を目的として、「次世代デバイス技術共同研究講座」を6月1日に設置しました。

本講座では、次世代センシング・高速通信・超低消費電飾情報処理等を実現するデバイス製造のための基盤技術の構築を目的とした共同研究を行うとともに大学院学生を対象とした最先端の技術教育科目「ナノデバイス材料解析・プラズマ加工特論」を開講します。

共同研究講座概要

講座名称
次世代デバイス技術共同研究講座
講座内容

安全・安心で持続可能な社会に貢献する次世代デバイス・材料技術に関する研究

大学院学生を対象にした最先端技術科目「ナノデバイス材料解析・プラズマ加工特論」の開講

設置期間
2019年6月1日(土)~ 2021年5月31日(月)
開講科目担当教員

工学院 若林整教授

地球インクルーシブセンシング研究機構 冨谷茂隆特任教授

地球インクルーシブセンシング研究機構 辰巳哲也特任教授

科学技術創成研究院 河野行雄准教授

設置先部局等

地球インクルーシブセンシング研究機構

東京工業大学 渡辺治理事・副学長(研究担当) コメント

東京工業大学では、研究と産学連携の推進は社会貢献の柱であり、本学の将来を支える最重要課題と考えています。この度ソニー株式会社より、次世代電子デバイス・材料研究に関する共同研究講座の提供をいただきました。ここでは、世界をリードする企業での課題解決に向けた最先端技術を研究するだけでなく、その基盤となる科目を大学院生向けに開設をして新たな能力を有する人材も育成して参ります。このような教育までも含めた共同研究を進めることにより、最先端技術と高度な人材の両方を産み出す強力で継続的な産学連携プラットフォームを構築できるものと期待しています。

ソニー株式会社 平山照峰主席技監 コメント

質・量ともに十分な物が提供され、情報拡散速度が増加する中、企業経営にとって、独自の視点で大きな差異化につながる新たな目標を自ら設定し、実現していく人材の重要性はさらに増しています。

この度東京工業大学に共同研究講座を設置することは、大学における教育、人材育成のあり方を理解するとともに、企業が求める人材像を、大学及び学生の方々に理解していただく機会となり、ひいては、イノベーションを牽引し、社会に貢献する人材の育成につながるものと考えています。

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お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975

2つの起源で“温めると縮む”新材料を発見 精密な位置決めが必要な工程に対応

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要点

  • 電荷移動、極性−非極性転移の2つの負熱膨張を実現
  • 通信や半導体分野で利用できる熱膨張しない新たな物質の開発に道

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の酒井雄樹特定助教(神奈川県立産業技術総合研究所 常勤研究員)、東正樹教授、Hena Das(ダス・ヘナ)特任准教授らの研究グループは、ニッケル酸ビスマス(BiNiO3)とニッケル酸鉛(PbNiO3)の固溶体[用語1]が、組成に応じて金属間電荷移動[用語2]と、極性−非極性転移[用語3]という、2つの異なるメカニズムで、温めると縮む負熱膨張[用語4]を示すことを発見した。

負熱膨張材料は光通信や半導体製造装置など精密な位置決めが求められる局面で、構造材の熱膨張を打ち消した(キャンセルした)ゼロ熱膨張物質を作製するのに使われる。

研究成果は5月29日に米国化学会誌「Chemistry of Materials(ケミストリー・オブ・マテリアルズ)」のオンライン版に掲載された。

研究グループには東工大の西久保匠、尾形昂洋、石崎颯斗、今井孝、横山景祐の大学院生5名と沖本洋一准教授、腰原伸也教授、高輝度光科学研究センターの水牧仁一朗主幹研究員、早稲田大学の溝川貴司教授、量子科学技術研究開発機構の綿貫徹次長、町田晃彦上席研究員が参加した。

本研究成果をもとに作成されたデザインイラスト。同図はChemistry of Materials誌の中表紙を飾る「Supplementary Cover Art」に選出された。

本研究成果をもとに作成されたデザインイラスト。
同図はChemistry of Materials誌の中表紙を飾る「Supplementary Cover Art」に選出された。

研究の背景

ほとんどの物質は温度が上昇すると、熱膨張によって長さや体積が増大する。光通信や半導体製造などの精密な位置決めが要求される局面では、このわずかな熱膨張が問題になる。そこで、昇温に伴って収縮する“負の熱膨張”を持つ物質により、構造材の熱膨張を補償(キャンセル)することが試みられている。

これまでに、反強磁性転移[用語5]、電荷移動、強誘電転移[用語6]などの相転移が負熱膨張の起源となることがわかってきた。しかしながら、1つの材料系が複数のメカニズムによる負熱膨張を示す例はなかった。

ニッケル酸ビスマスは「Bi3+0.5Bi5+0.5Ni2+O3」という特徴的な電荷分布を持つペロブスカイト型酸化物[用語7]である。ビスマスの一部を希土類元素やアンチモン、鉛で、またはニッケルの一部を鉄で置換すると、昇温によってBi5+とNi2+の間で電荷の移動が起こるようになり、ニッケルが2価から3価に酸化される。この際、ニッケルと酸素の間の結合が収縮するため、結晶格子全体が約3%縮む。一方、代表的な強誘電体であるPbTiO3(チタン酸鉛)では、極性の構造を持つ強誘電相から非極性の常誘電相への転移に伴い、約1%体積が収縮することが知られている。

研究成果

東教授らは今回、ニッケル酸ビスマスとニッケル酸鉛の固溶体「Bi1-xPbxNiO3」を作成し、第一原理計算[用語8]第二高調波発生[用語9]大型放射光施設SPring-8[用語10]のビームラインBL02B2での放射光X線回折実験[用語11]、BL22XUでの放射光X線全散乱データPDF解析[用語12]、そしてBL09XUとBL47XUでの硬X線光電子分光実験[用語13]を組み合わせて、結晶構造と電子状態変化を詳細に解析した。

その結果、0.05 ≤ x ≤ 0.25ではビスマスとニッケル間の電荷移動によって、0.60 ≤ x ≤ 0.80ではPbTiO3と同様、極性から非極性の結晶構造転移によって、それぞれ負熱膨張が起こることがわかった。また、x = 1.0に対応するニッケル酸鉛は、これまで電気分極を持たない非極性の化合物だと考えられていたが、今回の研究で、PbTiO3の強誘電相同様、極性の結晶構造をしていることが明らかになった。

Bi1−xPbxNiO3の負熱膨張メカニズム。0.05 ≤ x ≤ 0.25ではサイト間電荷移動により(上図)、0.60 ≤ x ≤ 0.80では極性―非極性転移により(下図)、負の熱膨張が発現する。

図1. Bi1−xPbxNiO3の負熱膨張メカニズム。0.05 ≤ x ≤ 0.25ではサイト間電荷移動により(上図)、0.60 ≤ x ≤ 0.80では極性―非極性転移により(下図)、負の熱膨張が発現する。

今後の展開

今回の成果では、一つの材料系で、電荷移動、極性−非極性構造転移という、異なるメカニズムでの負熱膨張が実現した。これは、4価を持つ鉛イオンの働きによると考えられ、今後の負熱膨張材料の設計指針構築につながると期待される。

付記

本研究の一部は、地方独立行政法人 神奈川県立産業技術総合研究所 有望シーズ展開事業「次世代機能性酸化物材料プロジェクト」(リーダー・東正樹)との共同研究であり、文部科学省 科学研究費助成事業 基盤研究A「ビスマス・鉛ペロブスカイトのs-d軌道間電荷分布変化解明と巨大負熱膨張への展開」(代表・東正樹 東京工業大学教授)、特別推進研究「光と物質の一体的量子動力学が生み出す新しい光誘起協同現象物質開拓への挑戦」(代表・腰原伸也東京工業大学教授)、Tokyo Tech World Research Hub Initiativeの援助を受けて行った。

用語説明

[用語1] 固溶体 : 複数の化合物が均一に溶け合って、単相の化合物を形成した固体。

[用語2] 電荷移動 : 二つのイオンの間で電子の受け渡しが生じ、それぞれの価数が 増減すること。

[用語3] 極性−非極性転移 : 陽イオンと負イオンの重心がずれるため生じる電荷の偏りである電気分極を持つ結晶構造(極性構造)から、電気分極のない結晶構造への転移。

[用語4] 負熱膨張 : 通常、物質は温めると体積や長さが増大する。これを正の熱膨張という。しかし、一部の物質は、温めることで可逆的に収縮する負熱膨張の性質を持っており、これはゼロ熱膨張材料を開発するうえで重要となる。

[用語5] 反強磁性転移 : 磁気モーメントを互いに打ち消す様に、イオンが持つ小さな磁石であるスピンが揃うこと。

[用語6] 強誘電転移 : 誘電体(絶縁体)の一種で、外部電場がなくとも電気分極の方向が揃っており、外部電場によってその方向が変化する強誘電体と、電気分極を持たない常誘電体の間の転移。

[用語7] ペロブスカイト型酸化物 : 一般式ABO3で表される元素組成を持った金属酸化物の代表的な結晶構造。

[用語8] 第一原理計算 : 経験によらず、量子力学の基本原理に立脚して、物質の結晶構造や電子状態を予測する理論計算。

[用語9] 第二高調波発生 : 極性の結晶構造を持つ物質にある波長の光を入射すると、半分の波長の光が放出されること。

[用語10] 大型放射光施設SPring-8 : 兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来する。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、指向性が高く強力な電磁波のこと。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジーやバイオテクノロジー、産業利用まで幅広い研究が行われている。

[用語11] 放射光X線回折実験 : 物質の構造を調べる方法。放射光X線を試料に照射し、回折強度を調べることで結晶構造(原子の並び方や原子間の距離)を決定する。

[用語12] 放射光X線全散乱データPDF解析 : 乱雑に配列した原子の並び方を解明する方法。上記X線回折に加えて、乱雑に配列した原子によって広く散乱されるX線強度までを併せて解析する。

[用語13] 硬X線光電子分光 : 4 keV以上の高いエネルギーをもつ X線である、硬X線を物質に入射し、そこから放出される光電子の個数とエネルギーの関係を調べることにより、物質内部の電子構造を調べる実験的手法。従来の真空紫外光や軟X線を用いた光電子分光は表面近傍の情報しか得られなかったが、硬X線で励起することにより、固体内部の電子構造を調べることが可能になった。

論文情報

掲載誌 :
Chemistry of Materials
論文タイトル :
Polar-nonpolar phase transition accompanied by negative thermal expansion in perovskite-type Bi1−xPbxNiO3
著者 :
Yuki Sakai, Takumi Nishikubo, Takahiro Ogata, Hayato Ishizaki, Takashi Imai, Masaichiro Mizumaki, Takashi Mizokawa, Akihiko Machida, Tetsu Watanuki, Keisuke Yokoyama, Yoichi Okimoto, Shin-ya Koshihara, Hena Das and Masaki Azuma
DOI :

本研究全般に関するお問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所

教授 東正樹

E-mail : mazuma@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5315、080-4402-5315 / Fax : 045-924-5318

地方独立行政法人 神奈川県立産業技術総合研究所 有望シーズ展開事業

常勤研究員 酒井雄樹

E-mail : yukisakai@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5342 / Fax : 045-924-5318

高輝度光科学研究センター

主幹研究員 水牧仁一朗

E-mail : mizumaki@spring8.or.jp
Tel : 0791-58-0802(内線3870) / Fax : 0791-58-0830

早稲田大学 理工学術院 先進理工学部

教授 溝川貴司

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「エネルギーがゼロ」の束縛状態を観測 マヨラナ粒子による次世代量子計算への第一歩

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理化学研究所(理研) 創発物性科学研究センター 創発物性計測研究チームの町田理研究員、花栗哲郎チームリーダー、東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の笹川崇男准教授、東京大学 大学院工学系研究科物理工学専攻の為ヶ井強准教授らの共同研究グループは、トポロジカル超伝導体[用語1]FeTe0.6Se0.4(Fe:鉄、Te:テルル、Se:セレン)の量子渦[用語2]において、マヨラナ粒子[用語3]の特徴であるゼロエネルギー束縛状態(ZBS)[用語4]の観測に成功しました。

本研究成果は、次世代の量子コンピュータの実現に向けたマヨラナ粒子の検出と制御法の基盤になると期待できます。

マヨラナ粒子は電荷を持たず、エネルギーが厳密にゼロの奇妙な粒子で、トポロジカル超伝導体の端部や超伝導電流の渦である量子渦に局在すると考えられています。マヨラナ粒子はノイズに強い次世代量子計算の基本要素として期待されており、マヨラナ粒子の実験的検証が試みられてきました。しかし、これまでの測定ではエネルギー分解能が不十分で、決定的な証拠が得られていませんでした。

今回、共同研究グループは、これまでにない高いエネルギー分解能(20 µeV)を実現するために、100 mK以下の超低温で動作する走査型トンネル顕微鏡(STM)[用語5]を新たに開発し、FeTe0.6Se0.4の量子渦近傍の状態を詳細に調べました。その結果、エネルギーがゼロの束縛状態の観測に成功しました。この状態は、通常の電子では説明することができず、量子渦に局在したマヨラナ粒子由来であることを強く示唆しています。

本研究は、英国の科学雑誌『Nature Materials』に掲載されるのに先立ち、オンライン版(6月17日付け:日本時間6月18日)に掲載されます。

量子渦(超伝導電流の渦)に束縛されたマヨラナ粒子(黄色)検出のイメージ

図. 量子渦(超伝導電流の渦)に束縛されたマヨラナ粒子(黄色)検出のイメージ

共同研究グループ

  • 理化学研究所 創発物性科学研究センター 創発物性計測研究チーム

    研究員 町田理(まちだ ただし)

    上級研究員 幸坂祐生(こうさか ゆうき)

    チームリーダー 花栗哲郎(はなぐり てつお)

  • 青山学院大学 理工学部 物理・数理学科

    助教 孫悦(Yue Sun)

  • 東京大学 大学院工学系研究科 物理工学専攻

    助教 卞舜生(Sunseng Pyon)

    准教授 為ヶ井強(ためがい つよし)

  • 東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所

    大学院生 竹田駿(たけだ しゅん)

    准教授 笹川崇男 (ささがわ たかお)

研究支援

本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「二次元機能性原子・分子薄膜の創製と利用に資する基盤技術の創出(研究統括:黒部篤)」における研究課題「トポロジカル量子計算の基盤技術構築(研究代表者:笹川崇男)」、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金基盤B「トポロジカル超伝導体の量子渦芯におけるマヨラナ粒子の検出と実空間制御(研究代表者:町田理)」、同基盤B「鉄系超伝導体における超伝導とnematic相の関係解明(研究代表者:花栗哲郎)」、同基盤A「高エネルギー粒子線照射による鉄系超伝導体のギャップ構造の解明と臨界電流密度の増強(研究代表者:為ヶ井強)」による支援を受けて行われました。

背景

固体中にはホールや電子といったフェルミ粒子[用語6]が存在し、これらが物質の諸性質に重要な役割を果たしています。通常、これらの粒子には区別可能な反粒子[用語7]が存在します。例えば、負の電荷を持つ電子は、正の電荷を持つ陽電子の反粒子です。これらは、電荷の符号の違いで区別できます。一方で、理論的には、粒子と反粒子の区別がつかない、つまり電荷が正でも負でもない(=中性の)粒子が存在可能であり、このような粒子は「マヨラナ粒子」と呼ばれています。

このマヨラナ粒子は、従来の基本粒子として知られているフェルミ粒子やボーズ粒子[用語6]が従うルール(粒子の交換則[用語6])とは異なるルールに従う奇妙な粒子としても知られています。このような新粒子が生み出す新たな物理概念の探求という観点から、主に素粒子の分野でマヨラナ粒子の探索が行われてきました。そして近年、物質中でもある条件下でマヨラナ粒子が現れ得ることが指摘され、物質科学においても脚光を浴びるようになりました。その理由は、マヨラナ粒子自身が不純物や外乱の影響を受けづらいという性質を利用することで、ノイズに強い量子コンピュータが実現できると期待されているからです。

マヨラナ粒子が存在する場所として注目されている物質の一つが、トポロジカル超伝導体と呼ばれる特殊な超伝導体です。理論的には、マヨラナ粒子はトポロジカル超伝導体のエッジ(端部)や超伝導電流の渦である量子渦(渦の中心では超伝導が消失している)に局在し、ゼロエネルギー束縛状態(ZBS)として現れることが予想されています。この局在したマヨラナ粒子の兆候であるZBSを捉えようとする実験が世界各国で行われてきました。

しかし、実験のエネルギー分解能が、通常の電子による束縛状態とマヨラナ粒子によるZBSを区別するのに不十分であったため、決定的な証拠は得られていませんでした。このためマヨラナ粒子の検出には、これらを区別できる高いエネルギー分解能での測定が必要となります。

研究手法と成果

共同研究グループは、トポロジカル超伝導体の候補物質であるFeTe0.6Se0.4(Fe:鉄、Se:セレン、Te:テルル)に着目しました。この物質は、以前より鉄系超伝導体[用語8]の一つとして知られていましたが、最近その表面で二次元のトポロジカル超伝導の発現が指摘され、超伝導転移温度[用語9]が比較的高い物質としても知られるようになりました(超伝導転移温度:14.5 K、約-258.7 ℃)。さらに、この物質における量子渦では、マヨラナ粒子によるZBSと通常の電子による束縛状態のエネルギー差が100 マイクロ電子ボルト[用語10](µeV、1 µeVは100万分の1電子ボルト)程度と比較的大きくなることが予想されており、マヨラナ粒子検出に適した物質であるともいえます。

そこで、この物質の量子渦に局在する束縛状態を詳細に調べるために、さまざまなエネルギーを持つ電子の空間分布を可視化できる走査型トンネル顕微鏡・分光法(STM/STS)[用語5]を用いました(図1a)。また、マヨラナ粒子の検出には極めて高いエネルギー分解能が要求されます。STM/STSのエネルギー分解能は測定温度に比例するため、最近理研で開発した希釈冷凍機STM[用語5]を用いて、80 mKという超低温まで冷却することで、世界最高レベルのエネルギー分解能(20 µeV)での測定を可能としました。

図1bは、187ナノメートル(nm、1 nmは10億分の1メートル)四方の領域で、1テスラの磁場下で得られた量子渦像です。量子渦に対応する明るいスポットが見られます。その中の一つの量子渦でエネルギーごとの電子の数(スペクトル)を測定してみると、図1cに示すように多数の束縛状態が存在し、そのうちの一つのエネルギーが完全にゼロであることが観測されました(図1cの赤矢印)。ZBSは、電荷が中性の粒子の存在を意味しており、マヨラナ粒子の兆候であると解釈できます。しかし、他の量子渦を見てみると有限エネルギーの束縛状態は見られるものの、ZBSの形跡は全く見られませんでした(図1d)。この結果は、ZBSを持つ量子渦と持たない量子渦の2種類の量子渦が共存状態にあることを示しています。

さらに、加える磁場を強くすると、ZBSを持つ量子渦の割合が減少する(1テスラで約80%あったのが6テスラで約10%まで減少する)ことも新たに発見しました。これは、磁場によってマヨラナ粒子を制御できる可能性を示しています。

図1. STM/STSを用いたトンネルスペクトル測定とその結果

図1. STM/STSを用いたトンネルスペクトル測定とその結果

(a)STMで量子渦におけるトンネルスペクトル測定の様子。
(b)STMで観測された1テスラの磁場下における量子渦像。18個の明るいスポットが量子渦である。
(c)(b)の量子渦-#1におけるトンネルスペクトル。赤点は実験結果、赤線は実験結果をマルチローレンツフィッティング[用語11]した結果。青線は各ピークのフィッティング結果。赤矢印で示したピークは、印加電圧がゼロ、すなわちエネルギーがゼロの束縛状態である。
(d)(b)の量子渦-#2におけるトンネルスペクトル。赤点、赤線、青線は(b)と同じ。エネルギーがゼロのピークは見られない。

今後の期待

今回、FeTe0.6Se0.4の量子渦でマヨラナ粒子の存在を示唆するZBSの観測に初めて成功しました。しかしZBSはマヨラナ粒子が持つ特徴の一つに過ぎず、この実験結果のみからはマヨラナ粒子の存在を断定できません。今後、通常の電子にはなくマヨラナ粒子のみが持つZBSのスピン偏極性[用語12]コンダクタンスの量子化[用語13]などの特徴を捉えることで、トポロジカル超伝導体のマヨラナ粒子検出法の確立が期待できます。

また、磁性体のSTM探針を用いることで、量子渦の位置を一つ一つ独立に制御できることが通常の超伝導体で実証されています。今後、この方法をトポロジカル超伝導体に応用することで、マヨラナ粒子の実空間制御が実現される可能性があります。

さらに、磁場によってマヨラナ粒子を制御でき得る可能性が示されたことは、マヨラナ粒子を利用したトポロジカル量子コンピュータ[用語14]の実現に向けて重要な知見になると期待できます。

用語説明

[用語1] トポロジカル超伝導体 : 通常の超伝導体は、物質が臨界温度を超えて冷却されたときに起こる、電気抵抗がゼロになる現象。超伝導状態では、電気がエネルギーを失わずに物質中を流れる。トポロジカル超伝導体の内部には、超伝導状態に特有の超伝導ギャップが開いており、そのエッジ(端)にマヨラナ粒子が現れると考えられている。

[用語2] 量子渦 : 超伝導体の重要な性質には、電気抵抗ゼロと並び、完全反磁性がある。このため、超伝導体の内部には磁場が侵入しない。しかし、ほとんど全ての化合物超伝導体は、第二種超伝導体と呼ばれるカテゴリーに属し、一定以上の磁場をかけると、その内部に磁場の侵入を許す。ただし、侵入した磁場は一様に分布するのではなく、磁束量子と呼ばれる一定の磁場を作り出すような、細長い超伝導電流の渦が多数存在する、空間的に不均一な状態が実現する。この一本一本の超伝導電流の渦を量子渦と呼ぶ。量子渦の中心では、超伝導は完全に抑制されている。

[用語3] マヨラナ粒子 : 1937年にE. Majoranaが理論的に提案した粒子で、粒子がその反粒子と区別がつかないという特徴を持っている。トポロジカル超伝導体に現れるマヨラナ粒子は通常の電子とは異なり、この性質を利用した量子コンピュータへの応用が期待されている。

[用語4] ゼロエネルギー束縛状態(ZBS) : 超伝導状態では、超伝導ギャップ以下のエネルギーの全ての電子は、二つの電子からなるクーパー対を形成し、通常の単一電子は存在できない。第二種超伝導体に磁場を加えて導入される量子渦内では、超伝導が局所的に壊れているため、通常の単一電子が量子渦内に束縛される。この電子はあるエネルギーに局在し、束縛状態を形成する。通常の超伝導体では、この束縛状態は有限のエネルギーに現れる。他方、トポロジカル超伝導体の場合、量子渦内には通常の単一電子のみならず、電荷が中性のマヨラナ粒子も束縛されている。このためゼロエネルギーにマヨラナ粒子由来の束縛状態が形成され、これをゼロエネルギー束縛状態と呼ぶ。ZBSはZero-energy Bound Stateの略。

[用語5] 走査型トンネル顕微鏡法(STM)、走査型トンネル分光(STS)、希釈冷凍機STM : STMは、先端を尖がらせた金属の針(探針)で物質の表面をなぞるように走査し、探針の高さをマッピングすることで、物質表面の凹凸を原子スケールで観察することができる顕微鏡。探針位置を固定し、電流-電圧特性を測定すると、その位置において、どのようなエネルギーを持った電子がどのくらい存在するかを知ることも可能である。それは、走査型トンネル分光(STS)と呼ばれている。STMはScanning Tunneling Microscope、STSはScanning Tunneling Spectroscopyの略。希釈冷凍機STMとは、液体の3Heと4Heのエントロピー差を利用した冷却法である希釈冷凍を使用することで、100 mK以下の超低温環境で測定が行えるSTMである。

[用語6] フェルミ粒子、ボーズ粒子、粒子の交換側 : 自然界に存在する粒子は、主にフェルミ粒子とボーズ粒子に分類される。フェルミ粒子は、粒子の交換に対して全波動関数の符号が変わるフェルミ・ディラック統計と呼ばれる量子統計(粒子の交換則)に従う。例として、電子、陽電子、中性子などがこれに属する。一方、ボーズ粒子は、粒子の交換に対して全波動関数の符号が変化しないボーズ・アインシュタイン統計に従う。例として、フォノン、マグノン、超伝導体中のクーパー対などがこれに属する。フェルミ・ディラック統計、ボーズ・アインシュタイン統計については用語14を参照。

[用語7] 反粒子 : ある粒子に対して、質量やスピンは同じで電荷が逆の粒子を反粒子と呼ぶ。電子に対する陽電子がこれにあたる。

[用語8] 鉄系超伝導体 : 2008年に東京工業大学の細野秀雄教授のグループによって発見されたLaFeAsO1-xFxと、それに関連した超伝導体の総称。鉄の周りにヒ素、リン、セレン、テルルなどが配位したものを単位として、それが二次元的に配列したシートを基本構造として持つ。LaFeAsO1-xFxの超伝導転移温度は26 Kであるが、Laをイオン半径の小さな希土類元素に置き換えると50 K以上にまで超伝導転移温度が上昇する。銅酸化物高温超伝導体に次ぐ高い温度で超伝導を示す物質群である。

[用語9] 超伝導転移温度 : 超伝導状態が発現する臨界温度。超伝導体をこの温度以下まで冷やすと超伝導状態が実現する。

[用語10] 電子ボルト(eV) : エネルギーの単位の一つ。自由空間中の電子を電圧1 Vで加速させたとき、電子が持つエネルギーが1 eVである。1 eVはおよそ1.602 x 10-19 J (J : ジュール)。

[用語11] マルチローレンツフィッティング : 複数のピーク構造を持つデータを複数のローレンツ関数の重ね合わせでフィッティングすること。

[用語12] スピン偏極性 : トポロジカル超伝導体の量子渦のマヨラナ粒子によるZBSは、スピンアップ状態の粒子数がスピンダウン状態の粒子数よりも多くなること(スピン偏極性)が理論的に予想されている。

[用語13] コンダクタンスの量子化 : マヨラナ粒子のZBSをSTM探針と試料間の距離を変えながら測定すると、観測されるトンネルコンダクタンスが量子化されたある一定値になるという理論的に予想されている現象。通常の電子による束縛状態ではこれは起こらない。ここでいうコンダクタンスとは、STMの探針と試料の間に電圧Vを印可した際に、探針-試料間に流れる電流Iを印可電圧Vで微分したdI/dVのことである。

[用語14] トポロジカル量子コンピュータ : マヨラナ粒子のような、非可換統計に従う粒子同士の交換操作による論理ゲートを用いて行う量子計算。従来の量子計算の最大の問題点である環境ノイズに対する耐性が極めて高いことから、次世代の量子計算技術として期待されている。非可換統計とは、粒子の交換によって波動関数の位相以外も変わる量子統計である。一方、従来の基本粒子であるボーズ粒子やフェルミ粒子が従うボーズ・アインシュタイン統計やフェルミ・ディラック統計では、粒子同士の交換によって波動関数の位相以外は変化しない。

論文情報

掲載誌 :
Nature Materials
論文タイトル :
Zero-energy vortex bound state in the superconducting topological surface state of Fe (Se,Te)
著者 :
T. Machida, Y. Sun, S. Pyon, S. Takeda, Y. Kohsaka, T. Hanaguri, T. Sasagawa, and T. Tamegai
DOI :

お問い合わせ先

研究内容について

理化学研究所 創発物性科学研究センター 創発物性計測研究チーム

研究員 町田理

チームリーダー 花栗哲郎

E-mail : tadashi.machida@riken.jp
Tel : 048-462-1111 (内線8813) / Fax : 048-462-4656

JSTの事業に関して

科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ

中村幹

E-mail : crest@jst.go.jp
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取材申し込み先

理化学研究所 広報室 報道担当

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生命誕生のカギの一つは深海底のメタルが握っている 深海熱水噴出孔で有機物が生成する新たなメカニズムを提案

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ポイント

  • 地球形成初期の深海熱水噴出孔では、硫化金属の沈殿物が電気還元されてメタルに変化していた。
  • 硫化金属とメタルの複合体は、生命発生に不可欠な有機化学反応を促進する。
  • メタルの生成、及びその表面で促進される有機合成プロセスは、地球形成初期の海洋底で幅広く進行していた。

概要

東京工業大学 地球生命研究所(以下ELSI)の北台紀夫アフィリエイトサイエンティスト(兼 国立研究開発法人 海洋研究開発機構(以下JAMSTEC) 研究員)、中村龍平教授(兼 理化学研究所 環境資源科学研究センター チームリーダー)、物質理工学院 応用化学系の吉田尚弘教授(ELSI主任研究者)、JAMSTECの山本正浩研究員、高井研分野長(兼 ELSIフェロー)、イリノイ大学の大野克嗣教授からなる研究グループは、初期海洋底の噴出孔から吹き出る熱水の化学エネルギーを生体分子の合成に活かす、有効なメカニズムを提案しました。

深海熱水噴出孔環境は、地球生命が誕生した可能性が最も高い場所として注目されています。しかし、このような環境で生命の原材料である有機化合物が作り出されるメカニズムはまだよく分かっていません。今回、研究グループは、初期海洋底の熱水噴出孔環境で生じていたと推測される電気化学反応場を室内実験で再現し、噴出孔の代表的な構成鉱物である硫化金属(鉄・銅・鉛・銀の硫化物)が電気還元によってメタルに変化することを実証しました。さらに途上で生じる硫化鉄と金属鉄の複合体が還元剤及び触媒となって、生命発生に不可欠な複数の有機化学反応を促進することも発見しました。

深海熱水噴出孔環境では電流の発生(熱水発電)が普遍的に生じています。一方、最近の観測によって、土星や木星の衛星(エンケラドスやエウロパ)や、形成初期の火星における活発な熱水活動の証拠が見つかるなど、深海熱水噴出孔は太陽系に遍在しています。

今回の研究では、熱水発電によって生命の原材料となる有機化合物が生じるという、熱水のエネルギーを駆動力とした新たなメカニズムを突き止めました。今後、このメカニズムに対する金属の種類や電位条件の影響についての系統的な研究から、生命を生み出しうる環境条件の一端が明らかになり、宇宙における生命の普遍性や類似性を理解するための科学的基盤の構築につながると期待されます。

なお、本研究成果は日本時間2019年6月20日午前3時(米国東部標準時2019年6月19日午後2時)公開のScience Advances誌の電子版に掲載されました。

背景

深海熱水噴出孔[用語1]環境は地球生命が誕生した可能性が最も高い場所として注目されています。生物の系統学的・比較生理学的研究から、初期の生命は、このような環境で、還元型アセチルCoA経路や逆クエン酸回路[用語2](図1)というCO2固定代謝システムを使って生体分子を合成する、独立栄養生物であったと推定されています[参考資料1]。この考え方は、2017年に東京大学の研究グループにより実施された、太古代初期(39.5億年前)の微生物化石の同位体分析とも適合します[参考資料2]。では、この始原的なCO2固定システムは、地球形成初期の深海熱水噴出孔環境でどのようにして始まったのでしょうか? それを再現するために、これまでCO2や有機化合物を熱水や岩石と共に煮たり、流したり、混ぜたりする実験が数多く行われてきました。しかしどの手段を使っても、CO2固定システムに関する有機化学反応はほとんど進行せず、有効な方法は見つかっていませんでした。

最近、JAMSTECの研究グループは、海洋調査船「なつしま」と「かいよう」を利用した沖縄トラフ深海熱水領域の電気化学計測を行い、熱水噴出孔を中心とした岩体を流れる電流の存在を確認しました[参考資料3]。熱水と海水との間には電位差があり、熱水は低く海水は高い、という関係にあります(図2)。また、噴出孔や周囲の岩体は、硫化金属などの導電性が高い鉱物を多分に含んでいます。さらに硫化金属は、熱水に溶存する水素(H2)や硫化水素(H2S)が酸化して電子が生じる反応を触媒する性質を持ちます(例:H2S → S + 2H++ 2e-)。このため、噴出孔の内側で生じた電子が、熱水と海水との電位差に沿って、導電性の高い鉱物を通じて噴出孔の外側に移動することで、電流が流れます。このような熱水噴出孔近傍における電流の発生(熱水発電)をもたらす条件(1. 熱水と海水との間に電位差がある、2. 噴出孔が硫化金属から構成される、3. 熱水中に水素や硫化水素が含まれる)は、いずれも深海熱水環境に普遍的に見られる特徴であり、熱水発電は海洋底で幅広く、さらには時代を通して発生してきたと考えられます。

還元型アセチルCoA経路と逆クエン酸回路。初期生命はこれらのCO2固定代謝システムを利用して、生体分子を合成していたと推定されている。生命発生には特にCO2からα-ケトグルタル酸までの反応ステップが重要であり、このステップを実現した初期地球環境を特定すべく、世界中で多くの科学者が研究に取り組んでいる。
図1.
還元型アセチルCoA経路と逆クエン酸回路。初期生命はこれらのCO2固定代謝システムを利用して、生体分子を合成していたと推定されている。生命発生には特にCO2からα-ケトグルタル酸までの反応ステップが重要であり、このステップを実現した初期地球環境を特定すべく、世界中で多くの科学者が研究に取り組んでいる。
地球形成初期の深海底に幅広く分布していたと推定される、熱水噴出孔の概念図。熱水に含まれる水素や硫化水素は噴出孔の内側で酸化され、生じた電子が熱水と海水との電位差に沿って噴出孔の外側に流れることで、定常的な電流が発生する(熱水発電)。一方、海水へ放出された熱水中の硫化水素は、海水中に含まれるFe2+などの金属イオンと反応し、硫化金属の沈殿物を生じる。この沈殿物が噴出孔と海水との境界面で電気還元することで、硫化金属とメタルとの複合体(PERM)が生成していたと想像される。本研究では、このような過程で生じたPERMが、生命発生に不可欠な有機化学反応を促進することを室内模擬実験で実証した。
図2.
地球形成初期の深海底に幅広く分布していたと推定される、熱水噴出孔の概念図。熱水に含まれる水素や硫化水素は噴出孔の内側で酸化され、生じた電子が熱水と海水との電位差に沿って噴出孔の外側に流れることで、定常的な電流が発生する(熱水発電)。一方、海水へ放出された熱水中の硫化水素は、海水中に含まれるFe2+などの金属イオンと反応し、硫化金属の沈殿物を生じる。この沈殿物が噴出孔と海水との境界面で電気還元することで、硫化金属とメタルとの複合体(PERM)が生成していたと想像される。本研究では、このような過程で生じたPERMが、生命発生に不可欠な有機化学反応を促進することを室内模擬実験で実証した。

研究の経緯

研究グループは、熱水発電が生命誕生に果たした役割を明らかにするため、硫化金属の触媒能や導電性などの電気化学特性を調べてきました。一方、2017年に、フランス ストラスブール大学の研究グループによって、逆クエン酸回路内の一部の反応が純金属(金属鉄など)によって促進されるという実験結果が報告されました。もし初期の地球上のある特定の場所に、純金属を継続的かつ豊富に供給し続けるシステムがあれば、そのような環境は生命誕生に非常に有利だったかもしれません。しかし純金属は現在の地球上にはほとんど見られず、この状況は地球形成初期(41~42億年前)でも同様で、少なくとも地球規模では微量な存在であったと考えられます。

一方、初期海洋にはFe2+などの金属イオンが豊富に含まれていました。これら金属イオンは深海熱水噴出孔から放出される硫化水素と反応し、硫化金属の沈殿物を生じていたと考えられます。さらに熱水発電(図2)を考慮すると、この沈殿物は噴出孔と海水との境界面で低い電位に長期間さらされたはずです。では、この過程で硫化金属がメタルへと電気還元され、その表面で生命発生に不可欠な有機化学反応が促進された可能性はあるのでしょうか?この可能性を探るべく、本研究は以下の室内模擬実験を行いました。

研究成果

今回、研究グループは、初期海洋底の熱水噴出孔環境で生じていたと推測される電位条件を再現した反応容器内で、噴出孔の代表的な構成鉱物である硫化金属が電気還元して、メタル化する可能性を検証する実験を行いました。その結果、鉄・銅・鉛・銀を含む硫化金属が、数時間~数日のスケールでそれぞれのメタルへと変化することが観察されました。例えば硫化鉄(FeS)は、-0.7 V(対標準水素電極電位[用語3];以下ではこの基準を使って電位を表記する)よりも低い電位で、次第に金属鉄(Fe0)へと変化しました(FeS + 2H++ 2e- → Fe0 + H2S)。

さらに、この実験で生じた硫化鉄と金属鉄の複合体(FeS_PERM[用語4])が還元剤及び触媒となって、逆クエン酸回路内の一部の反応を含む、生命発生に不可欠な化学反応を促進することを発見しました。図3に、硫化鉄を-0.7 Vで1週間電気還元して生成したFeS_PERMを、数種の有機化合物の水溶液と混合し、室温で2日間攪拌した結果を示します。まず、逆クエン酸回路の一部である、オキサロサク酸のリンゴ酸への還元反応(図3a)は、約40%の収率[用語5]で進みました。興味深いことに、同様の実験を電気還元前のFeSやFe0(市販の純ナノ鉄粒子)を使って行ったところ、オキサロ酢酸の脱炭酸が卓越し、リンゴ酸は全く生成しませんでした。また、逆クエン酸回路内の有機酸(ピルビン酸・オキサロサク酸・αケトグルタル酸)やグリオキシル酸にアンモニアを付加してアミノ酸を合成する反応も(図3b-e)、FeS_PERMが存在する条件では高い収率で進み、特にアラニン、グルタミン酸の生成は90%以上の収率になりました。いずれの反応でも、FeS_PERMをFeSやFe0に置き換えると、目的生成物の収率が大きく下がる結果となりました。その他、FeS_PERMによる促進が確認された反応には、フマル酸→ コハク酸、硝酸→ アンモニアがあります。

-0.7 Vという電位は、現在の地球で活動中の熱水噴出孔環境でも観測されている、天然で実現可能な値です。また、形成初期の地球はマントルの温度が高く、海底の熱水活動は現在よりも約10倍活発であったことなどから、-0.7 Vやそれ以下の電位を生じる熱水噴出孔が遍在していたと推測されます。このため、初期海洋底では、今回の実験で示された鉄・銅・鉛・銀を含む硫化金属のメタル化や、その結果生じたPERMが促進する有機化学反応が幅広く進行し、生命の発生を大いに後押ししたと考えられます。

硫化鉄の電気還元(-0.7 V、一週間)で生じた硫化鉄と金属鉄の複合体(FeS_PERM)が促進する有機化学反応(一部抜粋)。実験では、各種有機酸の水溶液(5 mmol L-1、1.5 mL)を100 mgのFeS_PERMと混合し、室温で2日間攪拌した後に生成物を分析した。pH条件は反応(a)では6.5、反応(b-e)では9.6。比較として、電気還元前のFeSやFe0(市販の純ナノ鉄粒子)を使った実験の結果も示す(それぞれ青色、オレンジ色の横棒)。
図3.
硫化鉄の電気還元(-0.7 V、一週間)で生じた硫化鉄と金属鉄の複合体(FeS_PERM)が促進する有機化学反応(一部抜粋)。実験では、各種有機酸の水溶液(5 mmol L-1、1.5 mL)を100 mgのFeS_PERMと混合し、室温で2日間攪拌した後に生成物を分析した。pH条件は反応(a)では6.5、反応(b-e)では9.6。比較として、電気還元前のFeSやFe0(市販の純ナノ鉄粒子)を使った実験の結果も示す(それぞれ青色、オレンジ色の横棒)。

今後の展開

熱水発電は深海熱水噴出孔環境で生じている普遍的な現象です。一方、最近の観測から、土星の衛星エンケラドス、木星の衛星エウロパの内部海に活発な熱水活動があることが予想され、さらには火星では初期海洋底からの熱水噴出を証拠づける地質記録が数多く見つかるなど、深海熱水噴出孔が太陽系に遍在していることが示されています。

今回の研究では、熱水発電によって生命の原材料となる有機化合物が生じるという、熱水のエネルギーを駆動力とした新たなメカニズムを突き止めました。今後、このメカニズムに対する金属の種類や電位条件の影響についての系統的な研究から、生命を生み出しうる環境条件の一端が明らかになり、宇宙における生命の普遍性や類似性を理解するための科学的基盤の構築につながると期待されます。

用語説明

[用語1] 深海熱水噴出孔 : 海海底の地下深くでマグマ活動などにより熱せられ、上昇してきたれた熱水が噴出する穴のこと。深海では圧力が高いため、300 ℃を超えるような熱水も蒸発しない。熱水中には、海底下の岩石が変質することで生じた様々な物質(水素や硫化水素を含む)が溶け込んでいる。

[用語2] 還元型アセチルCoA経路と逆クエン酸回路 : 環境中のCO2を炭素源にして生体分子を合成する代謝システムのこと。深海熱水噴出孔などに生息する微生物の一部がこれらを使って活動している。

[用語3] 対標準水素電極電位 : 電位を表す際に利用される基準の一つ。1気圧の水素ガスが、pH = 0の条件で酸化する(H2 → 2H+ + 2e-)際の電位を0 Vと定めている。

[用語4] PERM : Partially Electro-Reduced to Metalの略称。初期海洋底のアルカリ熱水噴出孔環境では、硫化金属が部分的に電気還元されPERMが生じていたと考えられる。

[用語5] 収率 : 化学反応において、理論的に得られるはずの量と、実際の反応で得られた量の割合。

論文情報

掲載誌 :
Science Advances
論文タイトル :
Metals likely promoted protometabolism in early ocean alkaline hydrothermal systems
著者 :
N. Kitadai, R. Nakamura, M. Yamamoto, K. Takai, N. Yoshida, Y. Oono
DOI :
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スーパーコンピュータ「京」がGraph500において9期連続で世界第1位を獲得 ビッグデータの処理で重要となるグラフ解析で最高レベルの評価

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理化学研究所(理研)、九州大学、東京工業大学、バルセロナ・スーパーコンピューティング・センター、富士通株式会社、株式会社フィックスターズによる国際共同研究グループは、ビッグデータ処理(大規模グラフ解析)に関するスーパーコンピュータの国際的な性能ランキングであるGraph500において、スーパーコンピュータ「京(けい)」[補足1]による解析結果で、2018年11月に続き9期連続(通算10期)で第1位を獲得しました。

このたび、ドイツのフランクフルトで開催中のHPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング:高性能計算技術)に関する国際会議「ISC2019」で6月18日(日本時間6月18日)に発表されました。

大規模グラフ解析の性能は、大規模かつ複雑なデータ処理が求められるビッグデータの解析において重要となるもので、「京」は運用開始から6年以上が経過していますが、今回のランキング結果によって、現在でもビッグデータ解析に関して世界トップクラスの極めて高い能力を有することが実証されました。本成果の広範な普及のため、国際共同研究グループはプログラムのオープンソース化を行い、GitHubレポジトリより公開中です。今後は大規模高性能グラフ処理のグローバルスタンダードを確立していく予定です。

※ 研究支援

本研究の一部は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST「ポストペタスケール高性能計算に資するシステムソフトウェア技術の創出(研究総括:佐藤三久)」における研究課題「ポストペタスケールシステムにおける超大規模グラフ最適化基盤(研究代表者:藤澤克樹、拠点代表者:鈴村豊太郎)」および「ビッグデータ統合利活用のための次世代基盤技術の創出・体系化(研究総括:喜連川優)」における研究課題「EBD:次世代の年ヨッタバイト処理に向けたエクストリームビッグデータの基盤技術(研究代表者:松岡聡)」の一環として行われました。

スーパーコンピュータ「京」

スーパーコンピュータ「京」

Graph500上位10位

このたび公開されたGraph500の上位10位は以下の通りです。

Graph500とは

近年活発に行われるようになってきた実社会における複雑な現象の分析では、多くの場合、分析対象は大規模なグラフ(節と枝によるデータ間の関連性を示したもの)として表現され、それに対するコンピュータによる高速な解析(グラフ解析)が必要とされています。例えば、インターネット上のソーシャルサービスなどでは、「誰が誰とつながっているか」といった関連性のある大量のデータを解析するときにグラフ解析が使われます。さらにSociety 5.0[補足2]に向けた取り組みの中では、IoTなどの技術で取得された大量のデータをグラフデータに変換して計算機で高速処理することによって、新規ビジネスアプリケーションの開拓が推進されています。これらは新しい産業の創出とコストや廃棄物排出の削減の両立を目的としており、SDGs[補足3]の特に 9 (産業・技術革新・社会基盤) および11(持続可能なまちづくり)の推進に大きく寄与することが期待されています。このような多種多様な応用を持つグラフ解析の性能を競うのが、2010年から開始されたスパコンランキング「Graph500」です。

規則的な行列演算である連立一次方程式を解く計算速度(LINPACK[補足4])でスーパーコンピュータを評価するTOP500[補足5]においては、「京」は2011年(6月、11月)に第1位、その後、2019年6月17日に公表された最新のランキングでは第20位です。一方、Graph500ではグラフの探索という複雑な計算を行う速度(1秒間にグラフのたどった枝の数(TEPS[補足6]))で評価されており、計算速度だけでなく、アルゴリズムやプログラムを含めた総合的な能力が求められます。

Graph500の測定に使われたのは、「京」が持つ88,128台のノード[補足7]の内の82,944台で、約1兆個の頂点を持ち16兆個の枝から成るプロブレムスケール[補足8]の大規模グラフに対する幅優先探索問題を0.45秒で解くことに成功しました。ベンチマークのスコアは31,302GTEPS(ギガテップス)です。Graph500第1位獲得は、「京」が科学技術計算でよく使われる規則的な行列演算だけでなく、不規則な計算が大半を占めるグラフ解析においても高い能力を有していることを実証したものであり、幅広い分野のアプリケーションに対応できる「京」の汎用性の高さを示すものです。また、それと同時に、高いハードウェアの性能を最大限に活用できる研究チームの高度なソフトウェア技術を示すものと言えます。「京」は、国際共同研究グループによる「ポストペタスケールシステムにおける超大規模グラフ最適化基盤」および「EBD:次世代の年ヨッタバイト処理に向けたエクストリームビッグデータの基盤技術」の2つの研究プロジェクトによってアルゴリズムおよびプログラムの開発が行われ、2014年6月に17,977GTEPSの性能を達成し第1位、さらに「京」のシステム全体を効率良く利用可能にするアルゴリズムの改良を行い、2倍近く性能を向上させ、2015年7月に31,302GTEPSを達成し第1位でした。そして今回のランキングでもこの記録により、世界第1位を9期連続(通算10期)で獲得しました。

これまでの幅優先探索問題(BFS)[補足9]に加えて2017年11月から最短路問題(SSSP)[補足10]に対する結果も公開されており、今後はさらに別の問題への適用も予定されています。

0.45秒は従来の中央値での値。調和平均での値は0.56秒。[補足6]参照。

今後の展望

大規模グラフ解析においては、アルゴリズムおよびプログラムの開発・実装によって性能が飛躍的に向上する可能性を示しており、今後もさらなる性能向上を目指していきます。また、2021年頃の共用開始を目指しているスーパーコンピュータ「富岳(ふがく)」[補足11] においても上記で述べた実社会の課題解決および科学分野の基盤技術へ貢献すべく、さまざまな大規模グラフ解析アルゴリズムおよびプログラムの研究開発を進めていきます。

補足説明

[補足1] スーパーコンピュータ「京(けい)」 : 文部科学省が推進する「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築」プログラムの中核システムとして、理研と富士通が共同で開発を行い、2012年に共用を開始した計算速度10ペタフロップス級のスーパーコンピュータ。「京(けい)」は理研の登録商標で、10ペタ(10の16乗)を表す万進法の単位であるとともに、この漢字の本義が大きな門を表すことを踏まえ、「計算科学の新たな門」という期待も込められている。

[補足2] Society 5.0 : 「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会」として、第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱された。

[補足3] SDGs(Sustainable Development Goals-持続可能な開発目標) : 2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標。持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成され、地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)ことを誓っている。

[補足4] LINPACK : 米国のテネシー大学のJ. Dongarra博士によって開発された規則的な行列計算による連立一次方程式の解法プログラムで、TOP500リストを作成するために用いるベンチマーク・プログラム。ハードウェアのピーク性能に近い性能を出しやすく、その計算は単純だが、応用範囲が広い。

[補足5] TOP500 : TOP500は、世界で最も高速なコンピュータシステムの上位500位までを定期的にランク付けし、評価するプロジェクト。1993年に発足し、スーパーコンピュータのリストを年2回発表している。

[補足6] TEPS : Graph500ベンチマークの実行速度を表すスコア。Graph500ベンチマークでは与えられたグラフの頂点とそれをつなぐ枝を処理する。Graph500におけるコンピュータの速度は1秒間あたりに調べ上げた枝の数として定義されている。TEPSはTraversed Edges Per Secondの略。今回から TEPS 値の計算には調和平均を使用することで統一された。そのためTEPS 値の表記が以前の38,621GTEPS(中央値)から, 31,302GTEPS(調和平均)に変更されている。

[補足7] ノード : スーパーコンピュータにおけるオペレーティングシステム(OS)が動作できる最小の計算資源の単位。「京」の場合は、一つのCPU(中央演算装置)、一つのICC(インターコネクトコントローラ)、および16GBのメモリから構成される。

[補足8] プロブレムスケール : Graph500ベンチマークが計算する問題の規模を表す数値。グラフの頂点数に関連した数値であり、プロブレムスケール40の場合は2の40乗(約1兆)の数の頂点から構成されるグラフを処理することを意味する。

[補足9] 幅優先探索問題(BFS) : 最短路問題と同じく、グラフ上で指定された二つの頂点間の距離が最小となる経路を求める問題。グラフの各枝の重みが等しい場合を想定しており、主にインターネット上のソーシャルデータや金融データなどの解析に用いられる。BFSはBreadth-First Searchの略。

[補足10] 最短路問題(SSSP) : 幅優先探索問題と同じく、グラフ上で指定された二つの頂点間の距離が最小となる経路を求める問題。グラフの各枝の重みが異なる場合を想定しており、主に道路あるいは鉄道などの交通データ上での経路案内などに用いられる。SSSPはSingle-Source Shortest Pathの略。

[補足11] スーパーコンピュータ「富岳(ふがく)」 : スーパーコンピュータ「京」の後継機。2020年代に、社会的・科学的課題の解決で日本の成長に貢献し、世界をリードする成果を生み出すことを目的とするスーパーコンピュータ。2014年度から開始された文部科学省のフラッグシップ2020プロジェクト(ポスト「京」の開発)事業の下、理研計算科学研究センターが「富岳(ふがく)」を開発整備し2021年頃の共用開始を目指している。

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科学技術振興機構 戦略研究推進部

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Tel : 03-3512-3525 / FAX : 03-3222-2063

6月21日16:15 本文中に一部修正が入りました。

冥王星を含む太陽系外縁天体の衛星、太陽系初期の巨大天体衝突で形成された可能性

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ポイント

  • 太陽系外縁天体のうち、冥王星をはじめとする直径1,000 km以上の天体はすべて大きな衛星を持つが、その衛星の形成機構と形成時期は謎であった
  • 太陽系外縁天体の大きな衛星が巨大天体衝突によって形成された可能性が高いことを、数値シミュレーションで示した
  • 衛星形成後の一定期間は天体が溶融していたと考えると、現在の衛星の公転周期や離心率をうまく説明できる
  • 太陽系外縁天体の衛星は太陽系初期に形成されたと考えられる

概要

東京工業大学 理学院 地球惑星科学系の荒川創太大学院生(博士後期課程3年)と同大学 地球生命研究所の兵頭龍樹特別研究員、玄田英典准教授は、太陽系外縁天体[用語1]のうち、直径1,000 km以上の天体の衛星が、溶融した2つの天体の衝突によって、太陽系初期に形成された可能性が高いことを明らかにしました。さらに、衛星系を構成する天体が、衛星形成の初期に溶融していたならば、観測されている自転・公転周期および離心率[用語2]を潮汐による軌道進化で説明可能であることも示しました。これらの結果は、太陽系外縁部においても大型の天体が極めて早期に形成されたことを示唆し、太陽系における惑星形成機構を明らかにする上で重要な知見となります。

本研究成果は、日本時間6月25日発行の英国の国際学術誌「Nature Astronomy(ネイチャーアストロノミー)」に掲載されました。

背景

太陽系小天体の形成時期・形成機構を理解することは、地球やその他の惑星がどのように誕生したのかを解明するための重要な鍵を握っています。近年、太陽系外縁天体のうち、直径1,000 km以上の天体すべてが大きな衛星を持っていることが明らかになりました(図1)。そうした天体の衛星の質量は、中心に存在する天体の約10分の1から1,000分の1と大きく(地球の月の質量は、地球の80分の1)、衛星の離心率は概ね0.1以下と小さく、ほぼ円軌道であることが知られていました。しかし、これらの衛星がそもそもどのように形成されたのかはよくわかっていませんでした。現在発見されている最大の太陽系外縁天体である冥王星とその最大の衛星であるカロンについては、地球の月と同様に巨大天体衝突によって形成されたという説が提唱されています。そこで研究グループは、巨大天体衝突によって冥王星とカロンの衛星系以外も形成することができるか調べることで、太陽系外縁部における衛星形成を統一的に理解することができると考えました。

現在発見されている直径1,000 km以上の太陽系外縁天体とその衛星(画像提供NASA/APL/SwRI/ESA/STScI。図の一部を改変)。衛星の質量は中心に存在する天体の約10分の1から1,000分の1程度と見積もられている。
図1.
現在発見されている直径1,000 km以上の太陽系外縁天体とその衛星(画像提供NASA/APL/SwRI/ESA/STScI。図の一部を改変)。衛星の質量は中心に存在する天体の約10分の1から1,000分の1程度と見積もられている。

研究成果

研究グループは、まず巨大天体衝突によって多様な衛星が形成されるかどうかを数値シミュレーションによって調べました(図2)。衝突速度や衝突角度、衝突前の2つの天体の分化状態や組成、質量比などを様々に変化させて、パラメータサーベイを行った結果、衝突速度が脱出速度[用語3]程度と小さく、かつ衝突角度が約45度以上のかすり衝突の場合には、衛星が形成されることがわかりました。またこの結果が、天体が分化しているかどうかや、組成、質量といった条件などには依らないことも示しました。一方で、衝突速度や衝突角度によって、形成される衛星の質量は変わり、実際に観測されている、中心の天体と衛星の質量比のばらつき(10分の1から1,000分の1)も自然に説明できることがわかりました。

さらに、巨大天体衝突後に形成された衛星について、潮汐による軌道進化を計算し、どのような場合に現在の衛星や中心の天体の自転・公転周期や離心率が説明できるのかを調べました(図2、図3)。今回の研究では、潮汐の大きさが天体の溶融状態によって変化するという条件を取り入れ、衝突後にある程度の時間が経過したところで、溶融していた天体が冷却されて固化するという過程を考慮しました。計算の結果、衛星系を構成する2つの天体が、衛星形成後すぐに固化していた場合には、離心率が上昇してしまい、観測結果を説明できないことが明らかになりました。一方、衛星系の天体が衛星形成後の数万年から数百万年の期間だけ溶融していた場合には、自転・公転周期と離心率の両方を説明できることがわかりました。

(上)巨大天体衝突による衛星形成の数値シミュレーションの結果の1例。衝突速度は約1 km/秒で、衝突角度は75度。(下)衛星形成後の潮汐による軌道進化の概念図。数値シミュレーションによる形成直後の衛星は離心率が大きいが、観測からは現在の離心率は小さいことがわかっている。したがって、現在の離心率を再現するには、衛星形成後の潮汐による軌道進化によって離心率を減少させる必要がある。
図2.
(上)巨大天体衝突による衛星形成の数値シミュレーションの結果の1例。衝突速度は約1 km/秒で、衝突角度は75度。(下)衛星形成後の潮汐による軌道進化の概念図。数値シミュレーションによる形成直後の衛星は離心率が大きいが、観測からは現在の離心率は小さいことがわかっている。したがって、現在の離心率を再現するには、衛星形成後の潮汐による軌道進化によって離心率を減少させる必要がある。
潮汐による軌道進化の計算結果。初期条件は巨大衝突シミュレーションの計算結果を用いている。45億年間の軌道進化によって、衛星系を構成する2つの天体が衛星形成後から固化している場合(左)や、衛星形成後1,000年間しか溶融していない場合(中央)の場合には、離心率が上昇し、観測を説明できない。一方、衛星形成後100万年の期間溶融していた場合(右)は離心率が低下し、観測を説明できる。
図3.
潮汐による軌道進化の計算結果。初期条件は巨大衝突シミュレーションの計算結果を用いている。45億年間の軌道進化によって、衛星系を構成する2つの天体が衛星形成後から固化している場合(左)や、衛星形成後1,000年間しか溶融していない場合(中央)の場合には、離心率が上昇し、観測を説明できない。一方、衛星形成後100万年の期間溶融していた場合(右)は離心率が低下し、観測を説明できる。

巨大天体衝突や潮汐による加熱量の見積もりから、直径1,000 kmサイズの太陽系外縁天体が衛星形成後に溶融していたならば、巨大天体衝突以前から溶融していたはずだということがわかります。さらに、このサイズの天体が溶融するためには、太陽系の初期数百万年以内に形成されなくてはなりません。また、巨大天体衝突が太陽系初期の数百万年程度で発生するという、本研究から得られる仮説は、衛星を形成する巨大天体衝突の衝突速度は小さいという今回の数値シミュレーションから得られた制約とも整合します。これらのことから、太陽系外縁部に離心率の小さい衛星が普遍的に存在することは、海王星以遠においても直径1,000 kmサイズの天体が太陽系初期に形成され、そうした巨大天体が溶融した状態で衝突して衛星が形成されたことを示唆していると言えます。

今後の展開

今回の研究によって、太陽系外縁部において、溶融した巨大天体の衝突によって衛星が形成された可能性があることがわかりました。今後は衛星の軌道や組成をより詳しく調べ、この仮説を検証する必要があります。国立天文台ハワイ観測所のすばる望遠鏡や、アルマ望遠鏡(日本を含む東アジア、北米、欧州南天天文台の加盟国、建設地のチリを合わせた21の国と地域が協力して運用)などによる太陽系外縁天体とその衛星の観測によって、今後も太陽系の姿が明らかになっていくことが期待されます。

用語説明

[用語1] 太陽系外縁天体 : 海王星の外側(太陽から30天文単位以遠)の軌道を公転する太陽系の天体の総称。冥王星などが含まれる。なお現在、2,000天体以上発見されている。

[用語2] 離心率 : 軌道が真円からどれくらい変形した楕円になっているのかを表す数値。0から1の数値で表現され、0ならば真円、数値が大きくなるほど細長い楕円となる。

[用語3] 脱出速度 : 天体表面から発射された物体が天体の重力を振り切って、再びその天体に戻ってこないために必要な最小限の初速度のこと。ここでは、2つの天体がお互いの重力で引き合って衝突する際の最低速度に相当する。

論文情報

掲載誌 :
Nature Astronomy
論文タイトル :
Early formation of moons around large trans-Neptunian objects via giant impacts
著者 :
Sota Arakawa, Ryuki Hyodo, and Hidenori Genda
DOI :
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東京工業大学 理学院 地球惑星科学系

大学院生 荒川創太

E-mail : arakawa.s.ac@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3535

東京工業大学 地球生命研究所(ELSI)

特別研究員 兵頭龍樹

E-mail : hyodo@elsi.jp
Tel : 03-5734-2854

東京工業大学 地球生命研究所(ELSI)

准教授 玄田英典

E-mail : genda@elsi.jp
Tel : 03-5734-2887

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極薄超伝導体において揺らぎから生じる特殊な金属相を観測 微弱磁場が微細超伝導体に与える影響を解明

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要点

  • 超高真空、極低温環境においてセレン化ニオブ単層膜の超伝導を観察
  • 弱磁場中では超伝導ではなく、揺らぎにより生じる特殊な金属相を観測
  • 超微細超伝導体を用いた量子計算デバイスへの影響を示唆

概要

東京工業大学 理学院 物理学系の一ノ倉聖助教、東京大学 大学院理学系研究科の長谷川修司教授、高山あかり助教(現 早稲田大学講師)、東北大学の高橋隆客員教授、菅原克明准教授らの研究グループは、2次元超伝導体[用語1]であるセレン化ニオブ(NbSe2)単層膜の電気抵抗を超高真空中で測定し、弱磁場中では超伝導のゼロ抵抗状態が壊され、特殊な金属相となることを明らかにした。2次元超伝導体の一般的性質の解明として学術的な価値があるだけではなく、将来、実現されるであろう微細な2次元超伝導体を用いた量子[用語2]計算デバイスに弱磁場が与える影響を示した重要な研究成果といえる。

2次元超伝導体に極低温で磁場を印加していくと超伝導から絶縁体への「量子相転移[用語3]」を示すことが従来から知られていた。近年の薄膜作製技術の発達により実現した、原子レベルに薄く結晶性の良い2次元超伝導体は量子計算への応用が期待されるが、この量子相転移がさらに複雑化することが指摘されており、特に弱磁場領域の状態について統一的な見解には至っていなかった。そこで本研究では代表的な2次元超伝導体であるNbSe2単層膜を作製し、磁場による影響を詳細に調べた。その結果、超伝導-絶縁体の量子相転移中に、理論的に提案されていた「ボーズ金属相[用語4]」によく一致する状態を発見した。

研究成果は6月5日に米国物理学会誌「Physical Review(フィジカルレビュー)B」にオンライン掲載され、さらにEditor's suggestion(注目論文)として選出された。

研究の背景

超伝導は1911年にオランダのカマリン・オンネスが発見した現象で、物質を絶対零度(-273 ℃)に向けて冷却していくとある転移温度で電気抵抗がゼロとなることをいう。超伝導状態となると、どんな長距離でもエネルギー損失なく電流を流すことができるため、常温に近い転移温度を持つ超伝導体の研究が盛んに行われている。

一方で、近年爆発的に開発が進んでいる量子コンピューター[用語5]においては超伝導体が計算素子の核として利用されており、ニオブなどの転移温度が低い超伝導体であっても、強力な冷凍機との組み合わせによって実用されている。

通常、超伝導体に弱い磁場が印加されると、磁場が磁束として局所的に侵入する。通常の厚みのある超伝導体への磁束の影響は良く知られているが、2次元超伝導体と呼ばれる非常に薄い超伝導体は「揺らぎ[用語6]」の影響を強く受けるため、その影響は自明ではない。

2次元超伝導体に絶対零度近傍で磁場を印加していくと超伝導から絶縁体に変化する「量子相転移」を示すことは古くからわかっていたが、弱磁場領域の状態については諸説あり、統一的な見解はなかった。将来、超伝導量子計算デバイスの微細化・低次元化が進むと、微弱な磁場や揺らぎが量子計算に深刻な影響を与えると考えられる。そのため、今回の研究では原子レベルに薄い2次元超伝導体に弱磁場が与える影響を詳細に調べた。

研究成果

同研究グループはセレン化ニオブ(NbSe2)に着目した。分子線エピタキシー法[用語7]によって高品質な単層膜を作製し、さらに超高真空中という非常に清浄な環境で電気抵抗測定を行った。弱磁場領域での量子状態を明らかとするため、細かく磁場を変化させながら電気抵抗の温度依存性を観察した。

すると、弱磁場中では超伝導ではなく、あたかも通常の金属のように冷却に伴って電気抵抗が有限値に収束することが明らかとなった。この実験結果を、超伝導-絶縁体転移の間に「ボーズ金属」と呼ばれる中間状態を仮定するモデルと比較すると定量的な一致を示した。

2017年に北京大学のグループにより、NbSe2単層膜は超伝導-絶縁体転移点付近で「量子グリフィス特異性[用語8]」と呼ばれる異常を示すことがわかっていた。だが、ゼロ抵抗近傍でデータが乱れており、弱磁場領域の詳細が明らかではなかった。

これは、非常に薄い物質を大気中で測定するための保護膜が悪影響を与えていると考え、今回の研究では超高真空環境でNbSe2を完全に清浄化し、保護膜無しでその場で電気抵抗測定を行うことにより、この問題を解決した。それにより、これまでに明らかとなっていなかった弱磁場領域を調べ、NbSe2単層膜の温度-磁場相図を完成できたことが今回の研究成果である。

2018年には東大グループにより、イオン液体と固体の界面に電場誘起された2次元超伝導層において同様の金属的中間状態と量子グリフィス特異性が見つかっている。従って、今回はこれらの相が2次元超伝導において普遍的にみられる性質であるという新説を支持するものである。

今後の展望

今回の研究で、微細な超伝導体に微弱磁場が与える影響について重大な知見を得た。この方法を応用し、今後はセレン化鉄単層膜などの「トポロジカル超伝導体[用語9]」の候補物質に対する弱磁場の影響を調べる。トポロジカル超伝導体は、磁束が侵入した点において「マヨラナ粒子[用語10]」が生じるため、磁束操作による量子計算を可能とすると理論的に考えられており、大手情報企業においても研究が進んでいる。今回の研究の知見をもとに、そのような磁束操作による量子計算の研究が発展すると考えられる。

図1. 超高真空中で行う4端子電気抵抗測定(左)と分子線エピタキシー法で作製したセレン化ニオブ単層膜(右)の模式図
図1.
超高真空中で行う4端子電気抵抗測定(左)と分子線エピタキシー法で作製したセレン化ニオブ単層膜(右)の模式図
図2. セレン化ニオブ単層膜の磁場中での電気抵抗の温度依存性。図中の赤枠で囲まれた領域がボーズ金属状態となっている
図2.
セレン化ニオブ単層膜の磁場中での電気抵抗の温度依存性。図中の赤枠で囲まれた領域がボーズ金属状態となっている

用語説明

[用語1] 2次元超伝導体 : 非常に薄い膜として作られた超伝導体で、超伝導を担う電子対(クーパー対)の空間的広がりよりも厚みが小さい。

[用語2] 量子 : ミクロスケールにおいて電子などは「量子」と呼ばれ、量子力学的な原理に従って「量子状態」をとる。物質が超伝導となると、電子はクーパー対となって同一の量子状態をとる。

[用語3] 量子相転移 : 絶対零度において、磁場などの外部制御変数の変化によって量子系の基底状態が起こす相転移のことをいう。有限の動的臨界指数によって特徴づけられる。

[用語4] ボーズ金属相(ボーズ金属状態) : 通常の超伝導状態では位相が結晶全体にわたって揃っているため電気抵抗がゼロとなる。転移温度近傍では熱揺らぎによって位相が擾乱されるため僅かに抵抗が生じることはよく知られていた。ボーズ金属状態では、弱磁場によって位相の揺らぎが誘起されるために有限の電気抵抗が生じている。

[用語5] 量子コンピューター : 超伝導のような量子状態の重ね合わせと量子力学的相関を利用して、超高速計算を実現するコンピューター。従来のコンピューターでは天文学的な時間のかかる因数分解の問題などを数時間で解くことができる。

[用語6] 揺らぎ : 量子は量子力学の原理の一つである「不確定性原理」に従う。不確定性原理によると、量子は位置が確定すると状態が不確定となる。この不確定さを「揺らぎ」という。従って低次元空間に量子を閉じ込めると揺らぎの効果が大きくなる。

[用語7] 分子線エピタキシー法 : 超高真空下(10-8 Pa以下)において高純度原料をビーム状の原子・分子気体にして基板に照射し、基板の結晶方位をテンプレートして単結晶状の薄膜を成長させる方法。一原子層レベルの膜厚制御が可能であるため、単層膜の成長に最適な技術である。

[用語8] 量子グリフィス特異性 : 通常の量子相転移と異なり、動的臨界指数が発散する現象。

[用語9] トポロジカル超伝導体 : 内部は超伝導であるが、表面にはトポロジーに保護された金属状態を持つ物質。

[用語10] マヨラナ粒子 : 粒子と反粒子が等しい粒子。非可換統計と呼ばれる性質を持つため、マヨラナ粒子同士の位置交換によって量子計算を行うことができると考えられている。

論文情報

掲載誌 :
Physical Review B
論文タイトル :
Vortex-induced quantum metallicity in the mono-unit-layer superconductor NbSe2
著者 :
Satoru Ichinokura, Yuki Nakata, Katsuaki Sugawara, Yukihiro Endo, Akari Takayama, Takashi Takahashi, and Shuji Hasegawa
DOI :
<$mt:Include module="#G-03_理学院モジュール" blog_id=69 $>

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石原宏名誉教授が令和元年春の叙勲を受章

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令和元年春の叙勲において、石原宏名誉教授が瑞宝中綬章を受章しました。長年にわたる教育と研究への多大な貢献が評価されたものです。

石原宏名誉教授

石原宏名誉教授

経歴

石原宏名誉教授(2011年称号授与)は、1973年に本学 大学院理工学研究科 電子工学専攻 博士課程を修了後、本学 助手、助教授を経て、1989年に同 精密工学研究所の教授となりました。その後は、同 フロンティア創造共同研究センター 教授、同 大学院総合理工学研究科長・教授を歴任。2010年に任期満了により退職した後も、卓越教授として1年間教育・研究に携わり、2011年に名誉教授の称号を授与されました。また、2010年から2013年には、韓国・建国大学校 物理学科 世界水準の研究中心大学(WCU)育成事業でも教授を務めました。

この間、半導体デバイス・プロセス技術、特にイオン注入法、半導体基板上への導電膜・絶縁膜の単結晶積層化技術、強誘電体メモリなどの研究に従事。日本IBM科学賞や、市村学術賞功績賞、井上学術賞など数々の賞を受賞、2003年には秋の紫綬褒章を受章しました。電子情報通信学会エレクトロニクスソサエティー会長、応用物理学会会長 、日本学術会議電気電子工学委員会委員長を務め、米国電気電子学会(IEEE)、米国材料学会(MRS)および電子情報通信学会フェロー、応用物理学会名誉会員に選出。これらの教育・研究分野における長年の多大な功績が称えられ、今回の受章となりました。

コメント

この度の栄誉は、東工大というしっかりとした組織の中で、長年御指導頂いた故・古川静二郎教授を初めとする良き先輩、同僚の先生方に恵まれたこと、さらには多くの優秀な教員・研究員・学生諸氏と共同研究できたことによるものと感謝しています。

中でも、私にとって幸運だったのは、1970年頃にヴァンデグラフ加速器が全学共同利用施設として本学に設置されたことです。本来は原子核実験用の施設ですが、私はこの加速器をラザフォード後方散乱法という物性実験に使いたいと思ってマシンタイムを申請したところ、運営委員会において快く認められ、その後20年にわたり、施設管理の実務を担当されていた理学部や原子炉研の先生方と同等か、同等以上の頻度で施設を使わせて頂きました。この評価法は私の研究にとって大変有効で、その20年間に書いた110編の論文の内の約7割で結論を導く重要な役割を果たしました。ヴァンデグラフ加速器が無ければ、この度の栄誉は無かったと言っても過言ではありません。

昨今は、大学における研究環境、特に若手研究者の研究環境が厳しいと良く耳にします。私が研究を始めた50年前とは条件が違うとは思いますが、部局や研究室の垣根を越えて意欲のある若手研究者を盛り立てるという本学の良い伝統が今後も続くことを願っています。

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環境振動発電素子の広帯域化に成功 エネルギーハーベスティングへの応用に期待

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要点

  • 環境振動発電素子の広帯域化に向けた低閾値整流昇圧回路を設計
  • MEMSと集積回路による実システムを開発して広帯域化に成功
  • 振動発電素子の利用環境拡大に貢献

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の山根大輔助教(兼 科学技術振興機構さきがけ研究者)、東京大学 生産技術研究所の年吉洋教授と遠山幸也大学院生らは、環境振動発電素子[用語1]の広帯域化に向けた低閾(しきい)値整流昇圧回路[用語2]を設計し、MEMS[用語3]と集積回路によるシステムを開発して素子の広帯域化に成功した。環境振動発電素子の利用環境拡大に貢献するとともに、無線IoT[用語4]センサー端末などへ向けたエネルギーハーベスティング(環境発電)技術の性能向上につながると期待される。 本研究では、あらゆる環境振動発電素子の広帯域化に向け、環境振動周波数でも動作可能な低閾値整流昇圧回路を設計、その回路を利用した電気機械システムを提案した。さらにMEMSと集積回路の技術を用いてシステムを開発、広帯域化を実証した。従来の広帯域化手法は、特殊な機械構造やその調整回路が必要だったため、素子サイズ増大や素子ごとの専用回路が必要だった。

研究成果はドイツのベルリンで開催される国際会議「Transducers 2019 - The 20th International Conference on Solid-State Sensors, Actuators and Microsystems(トランスデューサー2019 第20回固体センサー・アクチュエーター・マイクロシステム国際会議)」で6月26日(現地時間)に発表された。

背景

次世代のIoT電源として、エネルギーハーベスティングの研究・開発が盛んに行われている。特に振動型の環境発電素子は、電池フリー、夜間・暗所でも発電可能であるため、低電力無線IoT端末向けの発電素子として注目されている。

環境振動発電素子は入力振動の周波数が素子の共振周波数[用語5]から外れた際に出力が急減することが主な技術課題としてあげられている。従来技術では、発電可能な入力振動の広帯域化のため、特殊な機械構造やその機械構造を調整するための専用回路を用いており、素子サイズの大型化や素子ごとの回路調整が必要だった。

研究成果

山根助教らはあらゆる環境振動発電素子の広帯域化に向け、環境振動周波数でも動作可能な低閾値整流昇圧回路(VBR:voltage-boost rectifier)を設計し、その回路を利用した新たな電気機械システムを提案した。図1にそのシステム概要を示す。

微弱な環境振動エネルギーから環境振動発電素子を用いて電気エネルギーを生成する場合、入力振動の周波数が環境振動発電素子の共振周波数から外れると出力が急激に低下する。そのため従来の整流技術(図1:ダイオード整流として表記)では、非常に狭い帯域のみ電力として取り出していた。

今回の研究では環境振動周波数(主に1,000 Hz以下)で動作可能な低閾値整流昇圧回路を新たに開発し、その回路を環境振動発電素子の後段に接続した新システムを提案した。図1の低閾値整流昇圧回路は、従来の整流素子よりも最低入力電圧が低く、さらに入力電圧を所望の電圧まで上げられる。

これにより、従来は回収不可能だった周波数帯域の振動エネルギーを電気エネルギーに変換可能となる。また、提案システムは環境振動発電素子の機械構造によらず適用可能なため、高い汎用性を有している。

今回の実証実験では、図2に示すようにMEMSと集積回路の技術を用いて実システムを開発した。環境振動発電素子にはエレクトレット型MEMS振動発電デバイス[用語6]を用いており、低閾値整流昇圧回路はシリコンCMOS(complementary metal-oxide semiconductor=相補型金属酸化膜半導体)プロセスで作製した。

振動試験機で発電素子を振動させた際のシステム出力電圧を測定した結果、従来のダイオード整流と比較して帯域が拡大していることがわかった。所望の出力電圧を1.0 V~3.3 Vとした場合、従来技術と比較して約3倍の広帯域化に成功した。

低閾値整流昇圧回路を利用した広帯域環境振動発電システムの概要

図1. 低閾値整流昇圧回路を利用した広帯域環境振動発電システムの概要

実システムとその測定結果

図2. 実システムとその測定結果


(入力加速度振幅1mGの測定結果。Gは重力加速度)

今後の展開

今回の研究では低閾値整流昇圧回路を利用した新たな電気機械システムを提案し、MEMSと集積回路の技術を用いた実システムにより広帯域化の実証に成功した。この技術を用いてあらゆる環境振動発電素子の利用環境を拡大することにより、無線IoTセンサー端末などへ向けた電池・配線・利用環境フリーのエネルギーハーベスティング技術の飛躍的な性能向上につながると期待される。

用語説明

[用語1] 環境振動発電素子 : 振動の運動エネルギーを電気エネルギーに変換する素子のなかで、振動源として特に自然界に存在する微弱な環境振動を利用するもの。

[用語2] 低閾値整流昇圧回路 : 電圧振幅が標準的なシリコンダイオード閾値電圧(0.6 V ~ 0.7 V)よりも低い交流電圧を後段回路に必要な直流電圧まで整流かつ昇圧する回路。

[用語3] MEMS(Microelectromechanical Systems:微小電気機械素子) : 半導体微細加工技術を利用して製造したマイクロメートル寸法の3次元電子・機械デバイスの総称。

[用語4] IoT(Internet of Things) : 身の回りのあらゆるモノがインターネットを介して情報通信・相互制御を行う仕組み。

[用語5] 共振周波数 : 環境振動発電素子が固有振動を起こすことができる、入力振動の周波数。一般的な振動発電素子では、共振周波数の入力振動でなければ有効な発電を行うことができない。

[用語6] エレクトレット型MEMS振動発電デバイス : 半永久的に電荷を保持するエレクレット材料とMEMS可変容量素子を利用した振動発電素子。静電型MEMS振動発電デバイスとも呼ばれる。

付記事項

今回の成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られた。

科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業

研究領域 :
「微小エネルギーを利用した革新的な環境発電技術の創出(CREST・さきがけ複合領域)」(研究総括:谷口 研二 大阪大学 名誉教授、副研究総括:秋永 広幸 産業技術総合研究所ナノエレクトロニクス研究部門 総括研究主幹)

(1)個人型研究(さきがけ)

研究課題名 :
「多層エレクトレット集積型CMOS-MEMS振動発電素子の創製」
研究代表者 :
山根大輔(東京工業大学 助教)
研究期間 :
平成29年10月~令和3年3月

(2)チーム型研究(CREST)

研究課題名 :
「エレクトレットMEMS振動・トライボ発電」
研究代表者 :
年吉洋(東京大学 生産技術研究所 教授)
研究期間 :
平成27年12月~平成31年3月

JSTはこの領域で、様々な環境に存在する熱、光、振動、電波、生体など未利用で微小なエネルギーを、センサーや情報処理デバイスなどでの利用を目的としたμW~mW程度の電気エネルギーに変換(環境発電)する革新的な基盤技術の創出を目指している。

上記研究課題(1)では、エレクトレット実装技術とCMOS-MEMS技術を融合し、環境振動エネルギーをmW級の電気エネルギーに変換する小型振動発電デバイスの実現を目指し、開発を行っている。

上記研究課題(2)では、次世代の無線センサノードに必要な10 mW級の自立電源を実現するために、MEMS技術とイオン材料技術を駆使して、環境振動から未利用エネルギーを回収し発電する振動発電素子の研究に取り組んでいる。

論文情報

国際会議 :
The 20th International Conference on Solid-State Sensors, Actuators and Microsystems
Transducers 2019outer
論文タイトル :
BANDWIDTH ENHANCEMENT OF VIBRATIONAL ENERGY HARVESTERS BY A VOLTAGE-BOOST RECTIFIER CIRCUIT
著者 :
Yukiya Tohyama, Hiroaki Honma, Noboru Ishihara, Hiroshi Toshiyoshi, and Daisuke Yamane

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院

未来産業技術研究所 助教

山根大輔

E-mail : yamane.d.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5031 / Fax : 045-924-5166

<JSTの事業に関すること>

科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ

中村幹

E-mail : presto@jst.go.jp
Tel : 03-3512-3525 / Fax : 03-3222-2067

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

科学技術振興機構 広報課

E-mail : jstkoho@jst.go.jp
Tel : 03-5214-8404 / Fax : 03-5214-8432

TBSテレビ「未来の起源」に山中研究室の学生が出演

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物質理工学院 応用化学系 山中一郎研究室の西川祐太さん(物質理工学院 応用化学系 博士後期課程3年)が、TBS「未来の起源」に出演します。

TBSテレビ「未来の起源」に山中研究室の学生が出演

天然ガスを液体燃料へ一度で転換できるインジウム触媒の研究が紹介されます。

「未来の起源」は、注目される研究を行うチームの若者たちの活躍ぶりや、研究テーマへの情熱を描く番組です。

西川祐太さんのコメント

物質理工学院 応用化学系 西川祐太さん
物質理工学院 応用化学系 西川祐太さん

この度、天然ガスを液体燃料へ一度で転換できるインジウム触媒について取材していただきました。

天然ガスは安価で豊富に存在する化石資源です。現在日本では、常温で気体の天然ガスを-162℃まで冷やして輸送に最適な液体(LNG)とし、LNGタンカーで運び入れます。

天然ガスを液体燃料へ転換することは既存の技術でも可能ですが、複数の反応を経由するために大きなコストが掛かります。言い換えれば無駄なエネルギー消費が必要になります。

今回私が開発した触媒は天然ガスから直接液体燃料を合成できるため、ガス田からの輸送は石油タンカーで可能となり、コストの大幅削減と利用地での利便性向上が期待できます。

今後はインジウム触媒の実用化を目指し、更なる触媒性能の改良に挑みます。

番組を通じて、化学工業の核である触媒に興味を持っていただければ幸いです。

  • 番組名
    TBS「未来の起源」
  • 放送予定日
    2019年7月7日(日)22:54 - 23:00(放送地域:関東地域、愛知、岐阜、三重)
  • 再放送予定日
    BS-TBS 2019年7月14日(日)20:54 - 21:00
<$mt:Include module="#G-07_物質理工学院モジュール" blog_id=69 $>

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基礎研究機構 オープニングセレモニー開催

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最先端科学技術を担う若手研究者を育成する具体的かつ持続的な仕組みとして東京工業大学が設立した基礎研究機構(小山二三夫機構長)のオープニングセレモニーが、5月24日、東工大すずかけ台キャンパスS8棟レクチャーホールで開催されました。益一哉学長ら本学関係者のほか、本機構の塾生や取材記者ら出席者は総数100名を超える催しとなりました。基礎研究機構は、本学が世界をリードする最先端研究分野である「細胞科学分野」と「量子コンピューティング分野」の2つの「専門基礎研究塾」と、本学のすべての新任研究者が塾生として3ヵ月間研さんする「広域基礎研究塾」から構成されます。

セレモニーは、益学長の挨拶で始まり、大竹尚登 広域基礎専門塾長(科学技術創成研究院 教授)から「専門基礎研究塾では塾生が数年間じっくりと研究課題に取り組む環境を作りたい。一方、広域基礎研究塾は、様々な研究分野の若手研究者が一堂に会して自分の将来の研究テーマを考える機会を与えたい」との説明がありました。

挨拶する益学長

挨拶する益学長

続いて、大隅良典塾長(専門基礎研究塾 細胞科学分野)から「基礎研究の重要性」について、西森秀稔塾長(専門基礎研究塾 量子コンピューティング分野)から「量子コンピューティングの面白さ:『不思議』が役に立つ」をテーマにした講演が行われました。

大隅塾長(専門基礎研究塾 細胞科学分野)「若手が自由に研究できる環境」

大隅塾長(本学 栄誉教授)は、「落ち着いた研究環境の中で、若手研究者が自分の学術的興味から細胞科学の研究課題を見出し、仮説の立案と検証を行えるかどうかが、大きな課題だ」と述べました。その使命として、下記の2点が挙げられました。

1. 交流の楽しさ、重要性:

互いの研究を理解し、尊重する努力。優れた研究に接する機会、違った考え方・アプローチを学ぶ。他人の仕事に興味を持ち、良い仕事を喜び、たたえる姿勢。

2. 研究者を活かす研究組織:

若手が自由に研究できる環境。共通設備の充実と利用しやすいシステム。高度な技術者による支援体制の構築。各自の透徹した好奇心、新しい共同研究の創出。AI(人工知能)時代に将来の研究者として問われる資質。

講演する大隅塾長

講演する大隅塾長

西森塾長(専門基礎研究塾 量子コンピューティング分野)「オープンイノベーションの根源」

西森塾長(科学技術創成研究院 教授)が、「若い人の力を伸ばすことが大切。基礎研究はオープンイノベーションの根源であり大学の役割だ」と話しました。

講演する西森塾長

講演する西森塾長

塾長による講演に続き、細胞科学分野の塾生である堀江朋子助教(科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センター)と、量子コンピューティング分野の塾生である坂東優樹研究員(科学技術創成研究院)が自身の研究について発表しました。

記者会見と塾生ポスター発表・交流会

セレモニー終了後、益学長、大隅塾長、西森塾長、大竹塾長と、出席した記者との間で質疑応答が約30分間行われました。さらに、S1棟1階のオープンスペースに会場を変え、塾生ポスター発表会並びに交流会が開催されました。60名を超す参加者が、発表ポスター21件を前に熱心な討論を繰り広げ、今後の基礎研究機構の運営や本学の将来について意見を交わしました。

ポスター発表と交流会で議論する参加者

ポスター発表と交流会で議論する参加者

ポスター発表と交流会で議論する参加者

基礎研究機構とは

本学は、最先端研究領域を開拓し、世界の研究ハブの地位を継続的に維持・発展させるために必須な基礎研究者を育成する場として、2018年7月、基礎研究機構を科学技術創成研究院に設置しました。本機構は、2つの専門基礎研究塾と広域基礎専門塾からなります。

専門基礎研究塾では、基礎研究で顕著な業績を有する本学の研究者を専門基礎研究塾の塾長に据えるとともに、若手研究者の研究エフォート(職務時間のうち研究に集中できる時間の割合)を現在の6割から9割(平成26年度文科省調査より推計)に増加させるために、人、資金、スペース等のリソースを投入し、5年程度研究に集中できる環境を整備することで、卓越した研究者を養成します。2019年4月現在、細胞科学分野には14名、量子コンピューティング分野には2名の塾生がいます。

広域基礎専門塾では、本学の全ての分野の若手研究者を対象として3ヵ月間研究エフォートを9割に増加させ、研究テーマを落ち着いて考えるなど研究に集中する機会を設けます。2019年6月現在、29名の研究者が塾生として所属しています。

その結果として、基礎研究が実る節目と言われている10年程度を経た2030年以降に卓越した研究成果を継続的に生むことを目指しています。

お問い合わせ先

基礎研究機構事務局

E-mail : ofr@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3702

パブリックブロックチェーンのシミュレータ「SimBlock」を開発・配布開始 性能や安全性の手元での検証を可能にし、ブロックチェーン技術の研究・開発を加速

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東京工業大学 情報理工学院 数理・計算科学系の首藤一幸准教授、青木優介大学院生(研究当時)、大月魁大学院生、金子孟司大学院生、永山流之介大学院生、坂野遼平研究員らの研究グループと情報理工学院 サイバーセキュリティ研究センターは、ブロックチェーンネットワークをPC上で模擬して性能や安全性を検証できるパブリックブロックチェーンのシミュレータ「SimBlockouter」を開発し、オープンソースソフトウェアとして公開、無償配布を開始しました。

SimBlockは、インターネット上の多数のノード(サーバ)から成るブロックチェーンネットワークを模擬するソフトウェアです。SimBlockでは、ブロックチェーンネットワークを構成するノードの挙動を比較的簡単に変えることができ、改良や新手法がブロックチェーンにどのような影響を与えるのかをPC上で調べることができます。これによって、Bitcoinといった既存ブロックチェーンの改良や、また、独自に考案したブロックチェーンを手元のPC上で実験し、その性能や安全性を検証できます。

背景

暗号通貨の基礎技術として生まれたブロックチェーンは、決済や送金だけでなく、資産や権利の管理、また、食料などの流通履歴追跡、投票といった政治プロセス、組織の自動運営などさまざまな応用が期待されています。

2009年のBitcoin立ち上げから開発と展開が先行しましたが、最近では研究も盛んに行われています。ブロックチェーンを主題とする学術国際会議も、IEEE ICBC、CryBlock、IEEE Blockchain等、いくつも立ち上がっています。しかし、動作しているブロックチェーンネットワークの性能や安全性を高める改良や新手法を考案しても、それを実地で試すことはほとんど不可能です。改良や新手法を試すためには全ノードのソフトウェアを更新する必要がありますが、全ノードの管理者を実験に従わせることは現実的ではありません。そもそもブロックチェーンネットワークの動作を壊してしまうかもしれない実験を実地で行うわけにはいきません。改良や新手法を試せないだけならともかく、もし深刻な問題が見つかって修正したい場合に、修正がネットワークを壊してしまうことがないかどうかを事前に実験・検証できないことも大きな課題でした。

ブロックチェーンシミュレータSimBlock

そこで本研究チームは、ブロックチェーンネットワークのシミュレータ「SimBlock」[論文1]を開発し、2019年6月、オープンソースソフトウェアとして公開、無償配布を開始しました。SimBlockは一般的なPC上で動作し、1万台近くに達するノード群の、インターネット上での振る舞いをシミュレートできます。技術者・研究者はこのSimBlockを用いることで、Bitcoinといった既存ブロックチェーンの改良や、また、自ら考案したブロックチェーンを、手元のPC上で試すことができます。安全性については、例えば、悪意あるノードを模擬して攻撃の成功率を調べたり、攻撃への対策を模擬してその効果を調べることができます。

現在のSimBlockは、Bitcoin、Litecoin、Dogecoinの、規模やブロック生成間隔、また、インターネット越しのノード間通信時間を模擬できます。ノードの振る舞いを変えたい場合、Java言語で開発されているSimBlockの当該個所に変更を加えることで、ブロックチェーンネットワーク上で何が起こるかを調べることができます。ブロックチェーンのパラメータ、インターネット上での通信の速さをさまざまに変えることもできます。

また、SimBlockは可視化機能を備えており、ノード間通信とブロック高[用語1]を地図上でアニメーション表示できます(図1)。技術者・研究者はこの表示から、何が起きているかを直観的に確認できます。以下のウェブページに可視化機能のデモがあります。

ブロックチェーンネットワークの可視化, © OpenStreetMap contributors

図1. ブロックチェーンネットワークの可視化, © OpenStreetMap contributors

本研究チームは、SimBlockを国際会議IEEE ICBC 2019(2019年5月、韓国 ソウル)にてデモ展示し[論文2]、研究者の関心を集めました(図2)。

国際会議IEEE ICBC 2019でのデモ展示

図2. 国際会議IEEE ICBC 2019でのデモ展示

応用例

本研究チームは、SimBlockを活用し、ブロックチェーンの性能を向上させる研究を行っています。

隣接ノード選択[論文3, 4]

図3. 隣接ノード選択[論文3論文4]

リレーネットワークの影響測定 [論文5, 6]

図4. リレーネットワークの影響測定[論文5論文6]

図3は、隣接ノード選択という技法の効果を示しています。各ノードがネットワーク的に近いノードと優先的に接続を持つように改良することで、ブロックがブロックチェーンネットワーク上を伝搬するのにかかる時間を短縮できました。伝搬時間が短くなると、安全性が向上します。また、安全性を犠牲にせずにトランザクション処理性能を向上させることができます。

図4は、リレーネットワーク[用語2]を利用したノードが受ける恩恵を示しています。リレーネットワークを利用することで、マイニング[用語3]によって生成したブロックが孤立ブロック[用語4]になってしまう確率が大幅に下がることがわかりました。これは、リレーネットワークを利用することでノードは収入を増やせることを意味します。なぜなら、ノードは孤立ブロックからはマイニング報酬を得られないからです。

ノードがリレーネットワークを利用すると、生成されたブロックをいち早く受け取れるため、自身がマイニングに成功する確率が上がりそうなものです。しかし、マイニング成功率の明確な向上は確認できませんでした。一方で、本研究チームは、リレーネットワークの利用にはむしろ別のメリットがあることを発見しました。具体的には、マイニングしたブロックが孤立ブロックになって報酬を失う確率を下げることができるという利点です。リレーネットワークによって全体の孤立ブロック発生率が下がることは自然であり、以前より指摘されていました。しかし、リレーネットワークを利用したノードが1%とごくわずかであっても、それら利用したノードは非常に大きな恩恵を受けられるということは本研究チームの発見です。

今後

本研究グループは、SimBlockを活用してブロックチェーンの性能を向上させる研究を続けていきます。また、ブロックチェーンへの攻撃手法と対策をシミュレートし、安全性を向上させる研究にも取り組んでいきます。SimBlock自体の改良としては、Ethereumといった他のブロックチェーンへの対応、インターネットの現況への対応、ブロックチェーンの新しい通信方式(例:Compact Block Relay)への対応等を進めています。

SimBlockが、本研究グループの研究だけでなく、多くの技術者・研究者を支え、ブロックチェーン技術の発展とこの技術が支える社会に貢献することを強く信じています。

謝辞

本研究は公益財団法人セコム科学技術振興財団の研究助成を受けています。

用語説明

[用語1] ブロック高 : ブロックチェーンの長さ。ここでは、各ノードがこれまで受け取ったブロックの総数。

[用語2] リレーネットワーク : ブロックとトランザクションを高速に配布する、ブロックチェーンネットワークとは別のネットワーク。

[用語3] マイニング : 各ノードが、ブロックを生成して報酬を得るために競って行っている計算競争。

[用語4] 孤立ブロック : ブロックチェーンの分岐によって、一度は生成されたものの無効になってしまったブロック。

論文情報

[論文1]

掲載誌 :
Proc. CryBlock 2019、2019年 4月
論文タイトル :
SimBlock: A Blockchain Network Simulator
著者 :
Yusuke Aoki, Kai Otsuki, Takeshi Kaneko, Ryohei Banno, Kazuyuki Shudo

[論文2]

掲載誌 :
Proc. IEEE ICBC 2019, pp.3-4, 2019年 5月
論文タイトル :
Simulating a Blockchain Network with SimBlock
著者 :
Ryohei Banno, Kazuyuki Shudo

[論文3]

掲載誌 :
Proc. IEEE Blockchain 2019, 2019年7月(採択)
論文タイトル :
Proximity Neighbor Selection in Blockchain Networks
著者 :
Yusuke Aoki, Kazuyuki Shudo

[論文4]

掲載誌 :
電子情報通信学会 技術研究報告, Vol.118, No.481, pp.225-232, 2019年 3月
論文タイトル :
ブロックチェーンネットワークにおける隣接ノード選択
著者 :
青木優介, 首藤一幸

[論文5]

掲載誌 :
Proc. AINTEC 2019、2019年8月(採択)
論文タイトル :
Effects of a Simple Relay Network on the Bitcoin Network
著者 :
Kai Otsuki, Yusuke Aoki, Ryohei Banno, Kazuyuki Shudo

[論文6]

掲載誌 :
電子情報通信学会 技術研究報告, Vol.118, No.481, pp.309-316, 2019年 3月
論文タイトル :
Bitcoinネットワークに対するリレーネットワークの影響
著者 :
大月魁, 青木優介, 首藤一幸
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お問い合わせ先

東京工業大学 情報理工学院 数理・計算科学系

准教授 首藤一幸(分散システム研究グループ)

E-mail : dsg-titech@googlegroups.com

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

機械学習の「記憶」を活用し、高分子の熱伝導性の大幅な向上に成功 少ないデータでも高精度な予測が可能に 高分子での材料インフォマティクス加速に期待

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概要

1.
NIMS、統計数理研究所、東京工業大学の共同研究グループは、独自の機械学習の解析技術を用いて高熱伝導性高分子を設計・合成し、従来の高分子に比べて約80%の熱伝導率の向上に成功しました。同グループは、少数の物性データから予測モデルを導くために、転移学習[用語1]と呼ばれる解析技術を駆使して問題解決を図りました。今回の成果は、新材料の発見のみならず、高分子インフォマティクスの最大障壁とされる「スモールデータ問題」の克服に向けた大きな一歩と位置付けられます。
2.
一般に高分子の熱伝導率は金属やセラミックスに比べて非常に低いことが知られています。一方で近年の高分子研究により、特異的に高い熱伝導率を持つ高分子が存在することが明らかになってきました。このような背景から、自動運転システムや次世代無線通信規格5G等、放熱性の向上が求められるエレクトロニクスデバイスの開発において、成形性に優れた高分子材料の高熱伝導化の研究に注目が集まっています。
3.
同グループは、世界最大の高分子データベースPoLyInfo[用語2]と独自の機械学習アルゴリズムを組み合わせ、高熱伝導性を持つ新規高分子の設計に取り組みました。PoLyInfoには、ホモポリマーに限定した場合に、室温付近の熱伝導率のデータが28件(種類)しか登録されていません。そこで、ビッグデータの入手が可能な他の物性データ(ガラス転移温度等)で機械学習のモデルを訓練し、モデルが獲得した「記憶」と少数の熱伝導率のデータを組み合わせることで、熱伝導率を高精度に予測できるモデルを導くことに成功しました。これは一般に転移学習と呼ばれる解析技術です。同グループは、このモデルを用いて高い熱伝導率をターゲットに1,000種類の仮想ライブラリ[用語3]を作製しました。その中から三種類の芳香族ポリアミド[用語4]を合成 し、熱伝導率0.41 W/mKに達する高分子を見い出しました。これは、典型的なポリアミド系高分子(無配向)と比較して最大80%の性能向上に相当します。さらに、同グループが開発した材料は、高耐熱性や有機溶媒への溶解性、フィルム加工の容易性等、実用化のステージで求められる複数の要求特性を併せ持つことも実験的に確認されました。
4.
一般に、材料データは取得コストが高く、情報漏洩の観点から研究者にはデータの公開に対するインセンティブが働かないため、材料インフォマティクスのデータ量は、少なくとも短中期的には、大学のラボや一企業で生産可能な水準に留まることが予想されます。同グループが開発した転移学習の解析技術は、材料インフォマティクスのスモールデータ問題の克服に大きく寄与することが期待されます。
5.
本研究は、情報・システム研究機構 統計数理研究所 ものづくりデータ科学研究センター 吉田亮教授(同センター・センター長)とWu Stephen助教、東京工業大学 物質理工学院 森川淳子教授、物質・材料研究機構 統合型材料開発・情報基盤部門 情報統合型物質・材料研究拠点 伝熱制御・熱電材料グループ 徐一斌グループリーダーらによって行われました。また本研究は、科学技術振興機構(JST)のイノベーションハブ構築支援事業「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ(MI2I :“Materials research by Information Integration” Initiative)」(法人名:物質・材料研究機構、プロジェクト実施期間:2015-2019年度)の支援の下で推進されました。
6.
本研究成果は、英国時間2019年6月21日午前10時(日本時間21日午後6時)にnpj Computational Materials誌にて発表されました。

研究の背景

一般に材料設計のパラメータ空間は極めて広大です。例えば、有機化合物のケミカルスペースには、1060を超える候補物質が存在すると言われています。さらに、実材料の開発では、プロセス、添加剤・溶媒選択、膜材料の層構成等の制御因子が加わり、パラメータ空間の次元は爆発的に増大します。材料インフォマティクスの多くの問題は、このような広大な探索空間から所望の特性を有する埋蔵物質を発掘することに帰着します。

同グループが開発したiQSPR[用語5]は、所望の特性を持つ化学構造を設計する機械学習アルゴリズムです。高分子データベースPoLyInfoの実験データをiQSPRに入力し、高熱伝導率をターゲットに候補物質の仮想ライブラリを構築しました。さらに、三種類の芳香族ポリアミドを選定・合成し、熱伝導率0.41 W/mKを達成する新しい高分子を発見しました(図1参照)。

三種類の高熱伝導性高分子の発見に至るワークフロー。転移学習を活用した熱伝導率の予測と分子設計の機械学習の技術が問題解決の突破口を切り拓いた。
図1.
三種類の高熱伝導性高分子の発見に至るワークフロー。転移学習を活用した熱伝導率の予測と分子設計の機械学習の技術が問題解決の突破口を切り拓いた。

研究内容と成果

iQSPRのワークフローは、順方向と逆方向の計算から構成されます。機械学習でポリマーの構造から特性の順方向の予測モデルを構築し、その逆写像を求めることで、特性から構造の逆方向の予測モデルを導きます。このモデルを用いて仮想ライブラリを作成し、所望の特性を有する埋蔵物質を発掘します。しかしながら、PoLyInfoに登録されている熱伝導率のデータはたったの28件しかなかったため、従来の機械学習では物性予測のモデルを作成することができませんでした。

そこで同グループは、転移学習という解析技術を導入して問題解決を図りました。まずは、ビッグデータが入手できる他の物性に関するデータ(高分子のガラス転移温度、低分子化合物の比熱容量等)を収集し、機械学習のモデルライブラリを構築しました。データに基づく構造・物性の学習を経ることで、これらのモデルは高分子の構造に関する「汎用的な内部表現」を獲得しました。このように「経験」から獲得した「機械の記憶」を適切に活用することで、たった28件の熱伝導率のデータでも十分な精度を達成する予測モデルを得ることができました。優れた研究者は、過去の経験から大量かつ多様な知識の体系を構築し、データがほとんど存在しないような新しいタスクに対しても合理的に予測や意思決定を行うことができます。同グループが開発した転移学習のアルゴリズムは、まるで熟練の材料研究者の認識・判断の過程を模倣したかのようなパフォーマンスを発揮しました。

同グループは、このような解析技術を用いて、高熱伝導率をターゲットに1,000種類の高分子の仮想ライブラリを設計しました。その中から三種類の芳香族ポリアミドを合成し、最大で熱伝導率0.41 W/mKに達する高分子を発見しました。また、実験結果は機械学習の予測とほぼ一致しました。同グループが達成した熱伝導率は、典型的なポリアミド系高分子(無配向)と比較して約80%の性能向上に相当します。さらに、高耐熱性や有機溶媒への溶解性、フィルム加工の容易性等、今度の実用化フェーズで重要になる諸特性を併せ持つことが実験的に確認されました。また、従来の熱分析技術では高耐熱性高分子のガラス転移温度を測定できなかったため、最新の超高速熱分析技術を新たに開発し、高温域の転移温度の測定に成功しました。

今後の展開

本研究は、機械学習が自律的に設計した高分子が実際に合成・検証された初の事例となります。近年、材料研究とデータ科学の融合が急速に進行し、その有効性や可能性について、実証的見地から様々な検討が行われています。しかしながら、他の領域に比べると、高分子研究のデータ科学との学融合は大幅に遅延しています。その背景には、多くの高分子物性はデータ科学の解析手法を適用できるほどのデータ量に達していないという自明な理由が存在します。今後、高分子インフォマティクスでは、スモールデータの限界をいかに突破するかが勝利の鍵を握ります。同グループの成果は、当該分野が抱える本質的な問題の克服に一石を投じるものです。

また、今回は合成の容易性という観点から三種類の高分子を選定・合成しましたが、仮想ライブラリには他にも有望な候補物質が数多く残されている可能性があります。また、同グループが開発した機械学習の技術は汎用的なものであり、任意の特性をターゲットに同様の解析を行うことができます。これから数年以内に、同じようなアプローチで多くの埋蔵物質が発掘され、その中から、従来の常識を覆すような新しい高分子材料が発掘されることが期待されます。

用語説明

[用語1] 転移学習 : あるタスクの学習モデルを別のタスクに流用することを目的とする方法論の総称。例えば、膨大なデータから訓練された動物の種類を判定する画像認識の多層ニューラルネットワークを改変し、少数の花の画像データを用いて分類器を構築したいと考えます。動物の分類器は、学習過程で画像認識に必要な基本的な特徴量を抽出していることが期待され、その中の一部は花の分類にも流用可能であると考えられます。その場合、花の分類器を一から学習するのではなく、少数のデータを使って動物の分類器を微修正すれば十分かもしれません。このような推論アルゴリズムの総称が転移学習です。転移学習という用語はさらに広い概念を含みますが、とりわけスモールデータ問題に対する有効なアプローチであることが知られています。

[用語2] PoLyInfo : 国立研究開発法人 物質・材料研究機構が保有する高分子物性の世界最大級のデータベースouter。学術文献から収集した約100種類の物性(熱物性、電気的特性、力学的特性等)、化学構造、測定条件、重合方法等を収録しています。

[用語3] 仮想ライブラリ : 特定の用途をターゲットに計算機で作製した仮想物質のプール。機械学習の物性予測モデルと組み合わせ、所望の特性を持つ新規物質の候補を絞り込む際に使用されます(一般に仮想スクリーニングと呼ばれる)。同グループは、機械学習で熱伝導率や耐熱性をターゲットに1,000個の仮想高分子を作製しました。

[用語4] 芳香族ポリアミド : ポリアミドは、主鎖に酸アミド結合(−CO-NH−)を持つ高分子の総称です。主鎖にベンゼン核を有するポリアミドを芳香族ポリアミドといい、中でも、全芳香族ポリアミド(アラミド)はエンジニアリング・プラスチックとして、優れた耐熱性と強度を持つことが知られています。

[用語5] iQSPR : 同グループ吉田らが開発した分子設計の機械学習アルゴリズム(Ikebata, H., Hongo, K., Isomura, T., Maezono, R. and Yoshida, R. (2017). Bayesian molecular design with a chemical language model, Journal of Computer-Aided Molecular Design, 31(4), 379–391)。実験やシミュレーションから得られるデータを用いて、物質の構造から物性の順方向の予測モデルを構築し、物性から構造の逆写像を求めて仮説物質を発生させ、所望の物性を有する埋蔵物質を炙り出すものです。確率的言語モデルに基づく構造生成器や機械学習の様々な解析技術を駆使して開発した確率推論のアルゴリズムです。

論文情報

掲載誌 :
npj Computational Materials
論文タイトル :
Machine-learning-assisted discovery of polymers with high thermal conductivity using a molecular design algorithm
著者 :
Stephen Wu, Yukiko Kondo, Masaaki Kakimoto, Bin Yang, Hironao Yamada, Isao Kuwajima, Guillaume Lambard, Kenta Hongo, Yibin Xu, Junichiro Shiomi, Christoph Schick, Junko Morikawa, Ryo Yoshida
DOI :
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お問い合わせ先

研究内容に関すること

国立研究開発法人 物質・材料研究機構 統合型材料開発・情報基盤部門 情報統合型物質・材料研究拠点 物質・材料記述基盤グループ グループリーダー(大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 統計数理研究所 ものづくりデータ科学研究センター 教授・センター長)

吉田亮

E-mail : yoshidar@ism.ac.jp
Tel : 050-5533-8534

国立研究開発法人 物質・材料研究機構 統合型材料開発・情報基盤部門 情報統合型物質・材料研究拠点 伝熱制御・熱電材料グループ 特別研究員

東京工業大学 物質理工学院 材料系

森川淳子 教授

E-mail : morikawa.j.aa@m.titech.ac.jp

取材申し込み先

国立研究開発法人 物質・材料研究機構 経営企画部門 広報室

Email : pressrelease@ml.nims.go.jp
Tel : 029-859-2026 / Fax : 029-859-2017

大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 統計数理研究所 運営企画本部企画室 URAステーション

Email : ask-ura@ism.ac.jp
Tel : 050-5533-8580 / Fax : 041-526-4348

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

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Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

技術力の融合と強化を目指し「AGCマテリアル協働研究拠点」を設置 マテリアルソリューションを創出

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東京工業大学とAGC(エー・ジー・シー)株式会社(以下、AGC)は、「AGCマテリアル協働研究拠点」を2019年7月1日(月)に設置します。東工大すずかけ台キャンパスに約66㎡の専用スペースを確保すると共に、AGCから共同研究員を受け入れ、組織対組織の連携を進めていきます。

東工大とAGCは、これまでガラス・セラミックス・有機材料など多くの領域で共同研究を進め、優れた成果を創出してきました。

企業と東工大がこれまでの個別研究という枠組みを超え、組織同士で大型の連携を実現する新しい制度である「協働研究拠点」として、本拠点は第3号目となります。今回設置するAGCマテリアル協働研究拠点では、東工大が物質・材料を含む幅広い領域で保有する学術的知見と、AGCが培ってきた技術力を連携させ、これまでの個別研究では難しかった組織対組織の総合的な研究開発を行います。また、新研究テーマや新事業分野の創出を行うべく、東工大とAGC双方の人材から構成される新研究テーマ企画チームを設置し、研究の企画機能を担います。

本拠点設置に伴い、まずは「マルチマテリアル領域」として5つの研究室(物質理工学院 材料系の扇澤敏明研究室、工学院 機械系の轟章研究室、科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の佐藤千明研究室、工学院機械系の山本貴富喜研究室、工学院 電気電子系の廣川二郎研究室)と共同研究を開始するとともに、次の領域設置も見据えた「NEXT(ネクスト)テーマ候補」として2つの研究室(科学技術創成研究院 全固体電池研究ユニットの菅野了次研究室、物質理工学院 応用化学系の一杉太郎研究室)と共同研究を開始します。

「マルチマテリアル領域」では、AGCの保有するガラスやフッ素系材料など様々な材料を複合化・最適化することで、次世代モビリティや高速通信、エレクトロニクスなどの領域で必要となる高機能材料や革新技術・プロセスの開発を深化させ、ソリューションを創出します。一方、「NEXTテーマ候補」では、革新的・挑戦的な研究テーマについて、課題の抽出、解決、および実現に向けたコンセプト検証を行います。

東工大とAGCは、協働研究拠点の設置により研究者の密接な交流と研究開発ネットワークを構築し、新テーマ創出・開発・検証・社会実装のプロセスを効果的に進めるとともに、人材育成およびイノベーション創出に寄与することを目指します。

AGCマテリアル協働研究拠点の概要

名称 :
国立大学法人東京工業大学 オープンイノベーション機構協働研究拠点AGCマテリアル協働研究拠点
場所 :
神奈川県横浜市緑区長津田町4259
東京工業大学 すずかけ台キャンパス J3棟514号室
設置期間 :
2019年7月1日(土)~2022年6月30日(木)
研究題目 :
東京工業大学とAGCの技術力融合・強化によるマテリアルソリューションの創出
拠点長 :
中島章 物質理工学院 副学院長・教授
副拠点長 :
神谷浩樹 AGC株式会社 技術本部企画部長
代表共同研究員 :
伊勢村次秀 AGC株式会社 技術本部企画部

協働研究拠点を設置するすずかけ台キャンパスJ3棟

協働研究拠点を設置するすずかけ台キャンパスJ3棟

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

藤枝俊宣講師が日本生体医工学会 臨床応用研究賞・荻野賞を受賞

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藤枝俊宣講師
藤枝俊宣講師

生命理工学院 生命理工学系の藤枝俊宣講師が、日本生体医工学会より平成30(2018)年度臨床応用研究賞・荻野賞を受賞しました。東工大としては初めての受賞となります。

臨床応用研究賞・荻野賞は、本学会の対象とする領域において独創性があり、かつ臨床上有用と認められる研究を表彰するために、平成4(1992)年に創設されました。本賞の募集は本年度が第26回目となります。藤枝講師は、「メトロノミック光線力学療法に向けた生体接着性無線式オプトエレクトロニクスの開発」という研究課題で受賞しました。当該研究内容は、英科学誌ネイチャー・バイオメディカル・エンジニアリング(Nat. Biomed. Eng., 3, 27 (2019).)でも報告されています。

藤枝講師のコメント

大変名誉ある賞を頂き、光栄に存じます。本研究では、体内埋め込み型の無線式発光デバイスを開発し、新しい光がん治療システムを世界に先駆けて報告しました。医工連携体制のもと取り組んだ研究内容であり、その苦労を評価頂けたことを大変嬉しく思います。この場を借りて、共同研究者の先生方や研究室の学生の皆様に厚く御礼を申し上げます。本技術をがんと闘う患者様やその御家族、また、医療従事者の方々に届けられるよう研究室一丸となり、引き続き研究開発に尽力して参ります。

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E-mail : media@jim.titech.ac.jp

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