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リコーと次世代デジタルプリンティング技術の共同研究講座を開設

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東京工業大学(以下「東工大」)と株式会社リコー(以下「リコー」)は4月1日、「リコー次世代デジタルプリンティング技術共同研究講座」を開設しました。次世代デジタルプリンティング技術の核となる要素技術研究を行い、技術の開発・設計を提示します。

東工大 工学院 機械系の武田行生教授とリコーは、学術指導「リコー東工大新技術研究会」を3年6ヵ月行っており、本講座の開設はこの学術指導を発展させたものです。商用・産業用インクジェット印刷のインク着弾からメディア浸透、乾燥までの熱流動・材料挙動の基礎現象を解明し、次世代製品の開発につなげて行くことを目指します。

講座開設にあたり、益一哉東工大学長と坂田誠二リコー専務執行役員CTO(最高技術責任者)が懇談し、本講座における研究の加速および東工大とリコーの連携強化について話し合いました。

益学長(左)と坂田リコー専務執行役員CTO

益学長(左)と坂田リコー専務執行役員CTO

本講座の概要

名称
リコー次世代デジタルプリンティング技術共同研究講座
研究実施場所
工学院および物質理工学院
設置期間
2019年4月1日(月) - 2022年3月31日(木)(3年間)
大学代表者
岩附信行 工学院長
共同研究担当教員
工学院 機械系 伏信一慶 准教授(代表)(熱流動、電子機器実装他)、花村克悟 教授(熱流動、ふく射伝熱他)、齊藤卓志 准教授(熱流動、材料加工他)、物質理工学院 材料系 鞠谷雄士 教授(材料、繊維他)、扇澤敏明 教授(材料、高分子他)、森川淳子 教授(材料、熱物性他)
共同研究講座教員
門永雅史 特任教授、加藤弘一 特任講師
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お問い合わせ先

東京工業大学 工学院 伏信研究室

E-mail : fushinobu.k.aa@m.titech.ac.jp


量子磁性体でのトポロジカル準粒子の観測に成功 トポロジカルに保護された磁性準粒子端状態の予言

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発表のポイント

  • 量子反強磁性体Ba2CuSi2O6Cl2においてトポロジカル磁気準粒子状態を観測した。
  • 本物質においてトポロジカルに保護された端状態[用語1]が生じることを提案した。
  • 今後端状態の物性を実験的にとらえることができれば、省エネルギー情報伝達材料[用語2]の高度化にもつながることが期待される。

概要

東北大学 多元物質科学研究所 那波和宏助教、佐藤卓教授、東京工業大学 理学院 田中公彦大学院生(研究当時)、田中秀数教授、栗田伸之助教、杉山晴紀大学院生(現在 慶応義塾大学 文学部 助教)、植草秀裕准教授、日本原子力研究開発機構 J-PARCセンター 中島健次研究主席らの研究グループは、化学式Ba2CuSi2O6Cl2で表される量子反強磁性体において、トリプロンと呼ばれる磁気準粒子がトポロジカルに非自明な状態を形成することを明らかにし、トポロジカルに保護された端状態の存在を提案しました。本物質はトポロジカル絶縁体の最も基礎的な電子模型であるSu-Schriffer-Heeger(SSH)模型を、磁気準粒子を用いて実現する初めての物質例です。本物質で実現する端状態の物性を実験的にとらえることができれば、将来的には省エネルギー情報伝達材料の高度化にもつながると期待されます。

本研究成果は、2019年5月8日(日本時間18時)「Nature Communications」オンライン版に掲載されました。

詳細な説明

背景

近年、物質の性質をそのトポロジカルな(位相幾何学的な)特徴から理解しようという研究が急速に発展しています。代表的な研究対象であるトポロジカル絶縁体においては、物質の内部と外部の電子波動関数[用語3] の持つトポロジーの違いに起因して物質表面にトポロジカルに保護されたエネルギー散逸の無い電子流が生じることが知られています。無散逸な電子流は、画期的省エネルギー情報伝達材料を実現する可能性があり、現在精力的に研究されています。

トポロジカル絶縁体状態を実現する最も基礎的な電子模型として1次元格子上を電子が流れるSu-Schriffer-Heeger(SSH)模型が知られています[参考文献1]。模式図を図1に示します。この模型において、隣の原子への遷移確率が大小交互に並ぶ場合、電子は原子の対に束縛され絶縁体になります。遷移確率の配列には2種類が考えられますが、中段のように端原子を含む原子対間の遷移確率が大きな場合絶縁体状態は、トポロジカルな性質を持ちません。一方で、下段のように端原子を含む原子対間の遷移確率が小さな場合、端の電子が余り端状態を生じます。この端状態は2次元・3次元トポロジカル絶縁体における表面状態に対応し、トポロジカルに保護されていることが知られています。このようにSSH模型は、トポロジカル絶縁体を理解する非常に単純な模型として受け入れられていました。

磁性体においては、電子スピン(電子の自転)の変動が結晶中を伝播することで、マグノンやトリプロン[用語4]などの準粒子[用語5]の流れが生じることが知られています。これらの磁気準粒子は、電子とは量子力学的統計性[用語6]が異なるものの、同様のトポロジカルな性質を持つと期待されます。したがって、磁気準粒子を用いたSSH模型の実現の可能性が考えられますが、実際に観測された例はこれまでありませんでした。

Su-Schriffer-Heeger(SSH)模型の模式図。上から順に、隣の原子への遷移確率が一様な場合、大小交互に並ぶ場合(トポロジカルな性質なし)、大小交互に並ぶ場合(トポロジカルな性質あり)。赤色は余った電子の波動関数の広がりを表す。
図1.
Su-Schriffer-Heeger(SSH)模型の模式図。上から順に、隣の原子への遷移確率が一様な場合、大小交互に並ぶ場合(トポロジカルな性質なし)、大小交互に並ぶ場合(トポロジカルな性質あり)。赤色は余った電子の波動関数の広がりを表す。

研究手法・成果

今回、本研究グループは、Ba2CuSi2O6Cl2という反強磁性体[用語7]中のトリプロンの波動を中性子非弾性散乱[用語8]を用いて詳細に調べ、この物質においてトリプロン準粒子のSSH模型が実現していること、さらに、トリプロンの波動関数がトポロジカルな性質を持っており、端状態が存在することを突き止めました。

研究グループは、塩化ケイ酸バリウム銅(Ba2CuSi2O6Cl2 [参考文献2])の単結晶試料を育成し、中性子非弾性散乱を用いてトリプロンの分散関係[用語9]を精密に測定しました。実験には大強度陽子加速器施設(J-PARC[用語10])物質・生命科学実験施設に設置された中性子非弾性散乱分光器AMATERAS[用語11]を使用しました(図4)。中性子非弾性散乱によって観測された本物質のトリプロンの分散関係を図2に示します。詳細な解析を行うと、トリプロン準粒子の分散関係が2次元的に結合したSSH模型を用いて理解できることが明らかになりました。上側の1本の分散は2.6 meVにおいて小さなエネルギーギャップを伴う分裂を示しています。 このエネルギーギャップはトリプロンが隣のサイトへと動く確率が大小交互に並んでいることを示しています。ところで、SSH模型はXY成分のみをもつ仮想磁場中に置かれた1つのスピンの問題に置き換えられることが知られています。今回の実験で得られたSSH模型に対応する分散関係の計算結果とそれぞれの運動量における仮想磁場を図3に示します。運動量が左から右に変化するに伴い仮想磁場が1回転していることがわかります。この仮想磁場の回転はギャップ上下の準粒子に逆向きに回転する位相を与えます。この結果、準粒子の分散は非自明なトポロジーで特徴付けられることになり、試料端においてはギャップの中心に端状態が生じることになります。このように現実の磁性体においてSSH模型との対応を示した例は本物質が初めてです。以上の結果は本物質においてもトリプロンの端状態が存在しうることを示しています。

(上)非弾性中性子散乱実験によって観測されたトリプロンの分散関係。上側の1本の分散が2.6 meVにおいてエネルギーギャップを持っている。(下)遷移確率が大小交互に並ぶ場合に予想されるトリプロンの分散関係。実験結果とよく一致している。
図2.
(上)非弾性中性子散乱実験によって観測されたトリプロンの分散関係。上側の1本の分散が2.6 meVにおいてエネルギーギャップを持っている。(下)遷移確率が大小交互に並ぶ場合に予想されるトリプロンの分散関係。実験結果とよく一致している。
Ba2CuSi2O6Cl2でのトリプロンの分散関係を2次元的に結合するSSH模型を用いて再現したもの。三角錐はSSH模型における仮想磁場を表している。
図3.
Ba2CuSi2O6Cl2でのトリプロンの分散関係を2次元的に結合するSSH模型を用いて再現したもの。三角錐はSSH模型における仮想磁場を表している。
大強度陽子加速器施設(J-PARC)物質・生命科学実験施設(MLF)に設置された中性子非弾性散乱分光器AMATERASの模式図。
図4.
大強度陽子加速器施設(J-PARC)物質・生命科学実験施設(MLF)に設置された中性子非弾性散乱分光器AMATERASの模式図。

今後への期待

実際にSSH模型を実現する物質が発見されたことにより、今後端状態の織りなす物性が実験的に明らかになることが期待されます。例えば、トリプロンは熱を運ぶ性質があります。熱は電気伝導とは異なりジュール熱によるエネルギー損失がないことから、将来的には新しい省エネルギー情報伝達材料の開発につながることが期待されます。

参考文献

[1] W. P. Su, J. R. Schrieffer, and A. J. Heeger, Phys. Rev. Lett. 42, 1698 (1979).

[2] M. Okada, H. Tanaka, N. Kurita, K. Johmoto, H. Uekusa, A. Miyake, M. Tokunaga, S. Nishimoto, M. Nakamura, M. Jaime, G. Radtke, and A. Saúl. Phys. Rev. B 94, 094421 (2016).

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Triplon band splitting and topologically protected edge states in the dimerized antiferromagnet
著者 :
K. Nawa, K. Tanaka, N. Kurita, T. J. Sato, H. Sugiyama, H. Uekusa, S. Ohira-Kawamura, K. Nakajima, and H. Tanaka
DOI :

本研究は、科研費基盤研究(A)(JP17H01142)、基盤研究(C)(JP16K05414 及びJP17K05745)、新学術領域研究(JP18H04504)、挑戦的萌芽研究(JP17K18744)、国際共同研究強化(JP18KK0150)の研究費支援を受け、また、北海道大学・東北大学・東京工業大学・大阪大学・九州大学の共同研究ネットワークである「人・環境と物質をつなぐイノベーション創出ダイナミック・アライアンス」の助成を受けたものである。

用語説明

[用語1] 端状態 : トポロジカル物質とその外側(真空状態)との境界に現れる特別な状態のこと。ここでは、無散逸で流れ続けるスピン流など。

[用語2] 省エネルギー情報伝達材料 : 端状態では準粒子を無散逸で伝達できる。この性質を利用したスピン流の無散逸デバイス、すなわち無散逸スピントロニクスデバイスは、熱が発生しない、信号を確実に伝達するための電圧制御のための回路がいらない、等から計算機用素子の回路を小型化できるメリットがある。

[用語3] 波動関数 : あらゆる粒子は粒子の性質だけではなく波の性質も持っている。この波の性質を関数の形で表したものが波動関数である。

[用語4] マグノン・トリプロン : 電子はそれ自身の持つ自転運動によって磁石の性質を帯びている。これをスピンという。磁性体ではスピンの集団運動によってスピンの変動が波のように伝搬する。このようなスピンの波を量子化した準粒子をマグノンと呼び、原子やイオンの振動を量子化したフォノンに対応する。特にBa2CuSi2O6Cl2のように、2つのスピンが強く結合した磁性体では、量子力学的結合状態(トリプレット状態)の集団運動が波のように伝搬する。これをトリプロンと呼ぶ。

[用語5] 準粒子 : 固体中では電子をはじめとする粒子が様々な相互作用で絡み合っている。このとき粒子と相互作用をひとまとめにし、固有の運動量とエネルギーを持った仮想的粒子を定義すると、この粒子はほとんど相互作用していないと見なせる場合がある。こうして新しく定義した仮想的粒子を準粒子という。磁性体の磁気の強さは準粒子マグノンやトリプロンの数で決まる。また、エネルギーは個々の準粒子の持つエネルギーの総量で決まる。

[用語6] 統計性 : 量子力学においては粒子には固有の統計性がある。電子などのフェルミオンに分類される粒子は、同一の状態を2つの粒子が占有できない(パウリ排他律)というフェルミ統計に従う。一方、光子などのボソンに分類される粒子は複数占有が許されるボース統計に従う。マグノンやトリプロンは(低密度の範囲では)ボース統計に従う。

[用語7] 反強磁性体 : 磁石として広く知られている磁性体はおもに強磁性体であり、構成する磁性原子のスピンの方向が揃っている。一方、磁性体には構成する磁性原子のスピンが互い違いに配列し、合計として打ち消しあっているものもある。このような磁性体を反強磁性体と呼ぶ。

[用語8] 中性子非弾性散乱 : 原子炉や加速器で作られた中性子を物質に入射し、散乱される中性子のエネルギーや運動量を調べることにより物質中のスピンの運動を調べる手段。中性子はスピンを持つが電荷を持たないため、物質中の電子スピンを選択的に観測することができる。

[用語9] トリプロン分散関係 : トリプロンの生成エネルギーの波数依存性。分散関係を測定する最も代表的な手法が中性子非弾性散乱である。

[用語10] J-PARC : 大強度陽子加速器施設(Japan Proton Accelerator Research Complex)。茨城県東海村で高エネルギー加速器研究機構と原子力機構が共同で運営している先端大型研究施設。その中にある物質・生命科学実験施設(MLF)では、世界最高クラスの強度の中性子およびミュオンビームを利用して、素粒子・原子核物理学、物質・生命科学などの基礎研究から産業分野への応用研究まで広範囲にわたる分野での研究が行われている。

[用語11] 中性子非弾性散乱分光器AMATERAS : 大強度陽子加速器施設(J-PARC)物質・生命科学実験施設(MLF)に設置された中性子非弾性散乱分光器(図4)。新開発の機器や新しい測定手法を組み合わせることで原子・スピンの運動を極めて高精度、低バックグラウンドで測定することができる。

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お問い合わせ先

東北大学 多元物質科学研究所

助教 那波和宏

E-mail : knawa@tohoku.ac.jp
Tel : 022-217-5350

教授 佐藤卓

E-mail : taku@tohoku.ac.jp
Tel : 022-217-5348

取材申し込み先

東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室

E-mail : press.tagen@grp.tohoku.ac.jp
Tel : 022-217-5198

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

日本原子力研究開発機構 原子力科学研究部門

J-PARCセンター 広報セクション

E-mail : pr-section@j-parc.jp
Tel : 029-284-4578

サリドマイドの標的タンパク質セレブロンが脳の神経幹細胞の増殖を制御することを解明

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要点

  • サリドマイドの標的タンパク質であるセレブロンは、脳の神経幹細胞の増殖を制御して頭部を拡大・縮小させることをゼブラフィッシュのモデル系で明らかにしました。
  • 本成果により、サリドマイド類似薬が神経幹細胞に作用する可能性が示唆されました。本研究の知見を利用することで、神経幹細胞の増殖を促す新たな薬剤開発も期待されます。

概要

東京医科大学 ナノ粒子先端医学応用講座の半田宏特任教授(東京工業大学名誉教授)および東京工業大学 生命理工学院の山口雄輝教授らのグループは、サリドマイドが結合する標的タンパク質であるセレブロンが、脳の神経幹細胞の増殖を制御することで、頭部を縮小・拡大させることを、ゼブラフィッシュのモデル系を用いて明らかにしました(図1)。

サリドマイド処理とセレブロンの発現抑制・発現増加が脳の発生に及ぼす作用

図1. サリドマイド処理とセレブロンの発現抑制・発現増加が脳の発生に及ぼす作用


サリドマイド処理もしくはセレブロンの発現抑制で頭部が縮小し、セレブロンの過剰発現で頭部が拡大する。これらの表現型は、セレブロンが神経幹細胞の増殖を制御していることで説明可能である。

セレブロンは、半世紀前、服用した妊婦の胎児に深刻な奇形を引き起こした薬剤サリドマイドの主要な細胞内標的因子として半田特任教授、東京医科大学 ナノ粒子先端医学応用講座の伊藤 拓水准教授らによって同定され、2010年にScience誌に報告されました。セレブロンは、タンパク質の分解を司るE3ユビキチンリガーゼ複合体の構成因子であり、分解すべき基質タンパク質を認識する役割を担っています。

今回、半田特任教授、山口教授らの国際共同研究グループは、脊椎動物のモデル生物であるゼブラフィッシュを用いて、セレブロンが発生初期の脳において神経幹細胞の増殖を制御し、頭部の縮小や拡大をもたらすことを明らかにしました(図1)。今回の研究成果により、サリドマイドと類似した構造を持つ化合物(サリドマイド類似体)が、セレブロンと結合して、脳の神経幹細胞に増殖に作用する可能性が示唆されました。本研究で得られた知見から、脳の神経幹細胞の増殖を制御する新たな薬剤の開発も期待されます。本研究成果は、米科学誌「iScience」の電子版に4月9日に掲載されました。

研究の背景

サリドマイドは、1950年代に鎮静剤として開発されましたが、妊娠中の女性が服用すると新生児の手足や耳などに発生障害(奇形)をもたらすことから、世界的な薬害を引き起こし、1960年代前半に一度市場から撤退を余儀なくされました。新生児は、サリドマイドに暴露された時期により異なる奇形を示し、妊娠初期に暴露されると自閉症を引き起こします。しかし、サリドマイドが脳の発生にどのように作用するのかは全く明らかにされていませんでした。

本研究で得られた結果・知見

研究グループはまず、脊椎動物のモデル生物であるゼブラフィッシュは、サリドマイド処理により頭部が縮小することを示しました(図2)。次に、サリドマイドの標的タンパク質であるセレブロンの発現を抑制すると、頭部原基でp53依存的な細胞死が誘導され、頭部縮小をもたらすことを明らかにしました(図3)。反対に、セレブロンを過剰発現すると頭部が拡大し(図4)、脳の神経幹細胞が増加しました(図5)。セレブロンの過剰発現により、頭部原基が形成される発生初期からSOX2を発現する神経幹細胞が増加し、その結果、神経幹細胞から生み出される神経細胞やグリア細胞も増加していました(図1)。このことが、セレブロン過剰発現による頭部拡大をもたらしていると考えられます。

ゼブラフィッシュ胚の頭部に対するサリドマイドの影響

図2. ゼブラフィッシュ胚の頭部に対するサリドマイドの影響


200 µMもしくは400 µMのサリドマイド存在下で発生したゼブラフィッシュ胚は、より小さな頭部をもつ。

セレブロンの発現抑制は脳でp53依存的に細胞死を誘導する

図3. セレブロンの発現抑制は脳でp53依存的に細胞死を誘導する


(左)セレブロンの発現抑制により細胞死(赤い蛍光)が誘導されるが、p53の発現をあらかじめ抑制しておくと細胞死が誘導されない。
(右)細胞死のレベルを定量化したグラフ。

セレブロンの過剰発現による脳の拡大

図4. セレブロンの過剰発現による脳の拡大


野生型セレブロンを発現したときのみ、他のコントロールと比較してゼブラフィッシュ胚の頭部が拡大する。

サリドマイド処理とセレブロンの過剰発現が脳の神経幹細胞に及ぼす作用

図5. サリドマイド処理とセレブロンの過剰発現が脳の神経幹細胞に及ぼす作用

今後の研究展開および波及効果

本研究は、サリドマイドの標的タンパク質であるセレブロンの脳の発生過程における役割を、ゼブラフィッシュのモデル系を用いて初めて明らかにしました。特に、セレブロンの発現が増加すると、脳の神経幹細胞が増えることが分かりました。今回の発見は、セレブロンの活性を高めるサリドマイド類似体を同定すれば、脳の神経幹細胞を増やす作用を持つ新たな薬になる可能性を示唆します。サリドマイドはかつて胎児に深刻な奇形をもたらした薬として世界的に知られていますが、セレブロンの活性を高めるサリドマイド類似体は、今後拡大が予想される認知症や精神疾患等の治療薬となる可能性を秘めています。

論文情報

掲載誌 :
iScience
論文タイトル :
Cereblon Control of Zebrafish Brain Size by Regulation of Neural Stem Cell Proliferation
著者 :
Hideki Ando, Tomomi Sato, Takumi Ito, Junichi Yamamoto, Satoshi Sakamoto, Nobuhiro Nitta, Tomoko Asatsuma-Okumura, Nobuyuki Shimizu, Ryota Mizushima, Ichio Aoki, Takeshi Imai, Yuki Yamaguchi, Arnold J.Berk, and Hiroshi Handa
DOI :

主な競争的研究資金

日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究(S)「脳神経幹細胞の増殖分化を制御するサリドマイド標的因子セレブロンの新規作動薬の探索」17H06112(半田宏、山口雄輝)

ナノ粒子先端医学応用講座

東京医科大学に発足した産学連携講座であり、米国Celgene社がスポンサーを務めています。

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お問い合わせ先

東京医科大学 ナノ粒子先端医学応用講座

特任教授 半田宏

E-mail : hhanda@tokyo-med.ac.jp
Tel : 03-5323-3250

東京工業大学 生命理工学院

教授 山口雄輝

E-mail : yyamaguc@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5798

取材申し込み先

東京医科大学 総務部広報・社会連携推進課

Tel : 03-3351-6141(代表)

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

和田章名誉教授が2019年日本建築学会大賞を受賞

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本学の和田章名誉教授が、一般社団法人日本建築学会による2019年日本建築学会大賞を受賞しました。本賞は、和田名誉教授の「耐震建築の構造デザインに関する研究・開発および国際活動への貢献」に対して授与されたものです。

日本建築学会は1886年に創設され、建築に関する学術・技術・芸術の進歩発達をはかることを目的とする学術団体です。日本の建築界において主要な役割を果たしており、現在、約3万5千名の会員が所属しています。日本建築学会大賞は、建築に関する学術・技術・芸術の発展向上に長年の業績を通じて、特に著しく貢献した個人会員(表彰件数は原則として年2件)を対象として選定され、受賞者には賞状と賞牌が贈られます。2019年各賞贈呈式は2019年5月30日(木)に建築会館ホール(東京都港区)にて行われます。

和田名誉教授のコメント

和田章名誉教授
和田章名誉教授

1945(昭和20)年の終戦から5ヵ月後に疎開地の岡山県玉野市で生まれ、平和で自由、そして希望に満ち溢れた時代を生きてきました。東京工業大学に入学したとき東京オリンピックの開催があり、素晴らしい先生に恵まれ、修士課程を修了した年に大阪万博が開かれました。

目まぐるしく変化した時代、コンピュータの飛躍的な発展と解析技術の進展、多くの実験研究、具体的な構造設計・耐震改修設計など、東京工業大学、日本建築学会を中心に、多くの仕事を続けることができました。

「平成」には、阪神・淡路大震災、東日本大震災が起き、我々の進めてきた研究開発、耐震技術、都市形成には未熟さがあり、驕りは許されないと思っています。「令和」を迎え、大きな自然に敬意を持たねばならないこと、我々は、暮らす人々への愛、子や孫への愛、多くの愛が必要なことを強く感じています。

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975

光スイッチを持つナノカプセル 水中、様々な化合物の内包と光照射による放出に成功

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要点

  • 水中で2ナノメートルサイズのカプセルを自己組織化で作製
  • 水に不溶な化合物をナノカプセルに内包することで水溶化
  • 短時間の光照射でナノカプセルから内包物を水中に放出
  • 水溶性と光応答性を持つ分子フラスコとしての利用に期待

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所のロレンツォ・カッティ博士研究員、岸田夏月大学院生(物質理工学院 応用化学系 修士課程1年)、吉沢道人准教授らの研究グループは、水中で光刺激に応答する2ナノメートル(nm)サイズ[用語1]のカプセルの作製に成功した。このナノカプセルは、水に不溶な化合物を内包して水溶化し、また、短時間の光照射で内包物を水中に放出することができる。本成果は、水中で使用可能な“光スイッチ”を持つナノカプセルの最初の例であり、大小様々な化合物の内包と放出が簡便にできることから、生化学や臨床医学の分野での応用が期待される。

ナノメートルサイズのカプセルは、その内部空間に分子を取り込むことで、物性や反応性を変化させることができるため、革新的な材料機能や触媒反応の開発を目指した研究が盛んに行われている。しかしながら、水中で使用でき、様々な分子を取り込むだけでなく、簡単に取り出すこともできるカプセルは未開発であった。本研究では、2つのアントラセン[用語2]環を含むV型の両親媒性分子[用語3]を新たに合成し、それらが水中で自己組織化することで、約2ナノメートルの球状カプセルが100%収率で形成することを見出した。このナノカプセルは、水に不溶な化合物(ナイルレッドや銅フタロシアニンなど)を内包により効率良く水溶化した。注目すべきは、得られた内包体に紫外光を短時間照射すると、カプセルの骨格変形により内包物を水中に完全に放出できることである。

上記の成果は、2019年4月24日付でNature Communications誌(Nature姉妹誌)にオープンアクセス論文として掲載された。

研究の背景とねらい

水と光は、私たちの日常生活に必須である。これらの自然資源を合成化学や材料化学の分野で利用することは、持続可能な科学技術社会の発展に必要不可欠である。これまでに、ナノメートルサイズの人工カプセルは数多く合成されており、その特異な機能(分離や安定化、反応など)が見出されている。しかしながら、水中で使用でき、なおかつ、刺激応答性、とりわけ光に応答するナノカプセルは未開発であった。水溶性と光応答性を合わせ持つナノカプセルが合成できれば(図1a)、生化学や臨床医学分野での幅広い応用が期待できる。

2013年に近藤圭博士と吉沢道人准教授らは、2つのアントラセンを120度の角度で連結した両親媒性分子(図1b)が水中で自己集合して、水溶性のナノカプセルが形成することを報告した[参考文献1]。このナノカプセルは高い分子内包能を有するが、光などの外部刺激に対する応答性を持たない[参考文献2]。また、これまでに他の研究グループから、溶媒の変化や酸・塩基の添加に応答するナノカプセルが報告されているが、これらは溶液の性質を変えるため、生体応用などに問題があった。

今回、カッティ研究員らは、2つのアントラセン環を60度で連結したV型両親媒性分子1o(図1c)を新たに設計し、その光照射で閉環体1c(図1d)に変換することで、ナノカプセルを容易に分散状態にできると考えた。また、この閉環体を加熱または光照射することで、ナノカプセルの再生が期待できる。あらかじめナノカプセル内に化合物を閉じ込めることで、光照射による内包物の放出も可能になると考えた。

(a)水溶性と光応答性をあわせ持つナノカプセルの集合と分散(b)既報の両親媒性分子(c)今回設計した新規なV型両親媒性分子1o(d)光照射によって得られる閉環体1c
図1.
(a)水溶性と光応答性をあわせ持つナノカプセルの集合と分散(b)既報の両親媒性分子(c)今回設計した新規なV型両親媒性分子1o(d)光照射によって得られる閉環体1c

研究内容

光応答性ナノカプセルの形成と解離

2つのアントラセン環と2つの親水基を持つV型両親媒性分子1o(図1c)は、1,2-ジメトキシベンゼンを出発原料にして、6段階の反応で合成した。1oを水中、室温で5分間撹拌することで、アントラセン部位の分子間でのπ-スタッキング相互作用および疎水効果[用語4]により自己組織化し、選択的にナノカプセル2が形成した(図2a左)。これをNMR(核磁気共鳴装置)、DLS(動的光散乱法)およびAFM(原子間力顕微鏡:図2b)で分析したところ、ナノカプセルは、約5分子の1oからなる約2ナノメートルの球状集合体であることが判明した(図2a右)。

(a)ナノカプセル2の模式図と計算モデル構造(b)ナノカプセル2のAFM分析図

図2. (a)ナノカプセル2の模式図と計算モデル構造(b)ナノカプセル2のAFM分析図

次に、ナノカプセル2の水溶液に380 nmの紫外光を10分間照射したところ、カプセルが完全に分散状態になることがNMR、DLSおよびUV-vis(紫外可視分光光度計)分析で明らかになった。この現象はまず、ナノカプセルを構成する1oの2つのアントラセン環が光照射により結合し、すべてが閉環体1cに変換された。その結果、分子間でのπ-スタッキング相互作用が立体的に阻害され、集合状態を維持できずに分散した。また、1cの水溶液を160 ºCで30分間加熱すると結合が切断され、1oの再生によりナノカプセルが再生した。同様に、1cに短波長の光照射(287 nm)することで、約80%の効率でカプセル構造が再生した。ナノカプセル2の安定性は高く、光照射による分散と加熱による集合は5回以上の繰り返しが可能であった。

ナノカプセルによる分子の内包と放出

親水性のナノカプセル2は内部に疎水性の空間を持つことから、水に不溶な疎水性の色素のナイルレッド(NR)や顔料の銅フタロシアニン、1ナノサイズの球状のフラーレンC60などを効率良く内包し、水中に溶かすことができた。例えば、V型両親媒性分子1oNRを乳鉢と乳棒で2分間の磨りつぶした後、水を加えてから混合物をろ過することで、赤色の均一溶液が得られた(図3a、b)。その水溶液のUV-visおよびDLS、NMR分析からNR内包体の構造を明らかにした。次に、この赤色溶液に紫外光(380 nm)を10分間照射した結果、ナノカプセルの分散に伴い内包物のNRが水中に完全に放出され、ろ過によりNRを分離することで無色の1c溶液が得られた(図3c)。

同様の方法で、銅フタロシアニンやフラーレンC60の内包体の水溶液も作成することができ、紫外光を照射することで内包物を放出して青色や黄色の溶液が無色となった。さらに、ナノカプセルに蛍光性のクマリン314を内包することで蛍光がオフに、一方、光照射によりクマリンを放出することで蛍光がオンになった。水中で、ナノカプセルによる大小様々な化合物の内包と光刺激による放出を初めて達成した。。

ナノカプセル2によるナイルレッド(NR)の内包と放出のスキーム:(a)NRの内包の手順(b)NRの内包体の生成(c)光照射によるナノカプセルの分散とNRの放出
図3.
ナノカプセル2によるナイルレッド(NR)の内包と放出のスキーム:(a)NRの内包の手順(b)NRの内包体の生成(c)光照射によるナノカプセルの分散とNRの放出

今後の研究展開

本研究では、光スイッチを持つV型両親媒性分子を新たに設計し、それらが水中で自己集合し、ナノサイズのカプセルが選択的に形成することを明らかにした。また、そのナノカプセルは様々な化合物を効率良く内包した。さらに、短時間の光照射で内包物を水中に完全に放出することに成功した。水溶性と光応答性を兼ね備えた新種の分子フラスコとして、今後、生化学や臨床医学の分野での利用が期待される。

参考文献

[1] K. Kondo, A. Suzuki, M. Akita, M. Yoshizawa, Angew. Chem. Int. Ed., 2013, 52, 2308–2312.

[2] K. Kondo, J. K. Klosterman, M. Yoshizawa, Chem. Eur. J., 2017, 23, 16710–16721 (Minireview).

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Polyaromatic Nanocapsules as Photoresponsive Hosts in Water
(分子内包/放出能を有する光応答性の芳香環ナノカプセル)
著者 :
Lorenzo Catti, Natsuki Kishida, Tomokuni Kai, Munetaka Akita, and Michito Yoshizawa*
DOI :

用語説明

[用語1] ナノメートル(㎚)サイズ : 1メートルの10億分の1の長さ

[用語2] アントラセン : 3つのベンゼン環を連結した形のパネル状有機分子

[用語3] 両親媒性分子 : 水に馴染む親水性と水を避ける疎水性の両方を持つ分子

[用語4] π-スタッキング相互作用および疎水効果 : 分子間で働く比較的弱い相互作用

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

准教授 吉沢道人

E-mail : yoshizawa.m.ac@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5284

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

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Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

極寒の冥王星の地下に海が存在できる謎を解明 メタンハイドレートに包まれた内部海

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要点

  • 地下に存在する海(内部海)がなぜ凍らないのかなど、冥王星にまつわる3つの謎を同時に解明。
  • メタンハイドレートが内部海を包むように存在することで、冥王星は特徴的な姿に進化。
  • 宇宙にはこれまで考えられてきたよりも多くの海が存在することを示唆。

概要

北海道大学 大学院理学研究院の鎌田俊一准教授、カリフォルニア大学サンタクルーズ校のフランシス・ニモ教授、東京工業大学 地球生命研究所の関根康人教授らの研究グループは、冥王星に関する3つの謎を数値シミュレーションによって同時に解明しました。

冥王星は、太陽系の最果てに存在する地表温度がマイナス220℃の極寒の氷天体です。NASAの探査機が2015年に初めて冥王星を訪れ、分厚い氷の下に海(内部海)が存在すること、赤道域に窒素氷河で覆われた白い巨大盆地が存在すること、窒素の大気が存在することといった驚きの姿を明らかにしました。しかし、なぜこのような特徴的な姿をしているのか、特に、極寒の冥王星で内部海がなぜ凍結せず暖かいままなのかはNASAの探査でも解明されていない難問でした。

今回、研究グループは冥王星の内部海とそれを覆う分厚い氷の間にメタンハイドレートが存在すると、メタンハイドレートが効率的な断熱材として機能して内部の熱を逃がさず、その結果、表面は極寒でも内部海は凍結しないことを明らかにしました。さらに、このメタンハイドレートの存在から、巨大な盆地が赤道に存在できることや、冥王星が窒素の大気を持つという、冥王星の特徴的な姿を同時に説明できることもわかりました。

本研究成果は、宇宙における液体の水の存在を考える上で重要です。特に、内部海は地球外生命の存在可能性を考える上で重要ですが、これまで内部海に関する議論は巨大ガス惑星を周回する氷衛星に限られてきました。しかし、今回の発見は冥王星のような衛星ではない多くの氷天体であっても、実は内部海を持つものが広く存在できることを示すものであり、地球外生命の存在可能性をさらに広げるものです。

なお、本研究成果は日本時間2019年5月21日(火)午前0時(英国夏時間2019年5月20日(月)午後4時)公開のNature Geoscience誌の速報(AOP)電子版に掲載されました。

背景

近年の惑星探査により、木星などの巨大ガス惑星を周回し、氷を主成分とする氷衛星のいくつかは海を持つことがわかってきました。このような海は「氷地殻」と呼ばれる厚い氷の下に存在するため、「内部海」と呼ばれています。内部海が凍結しない原因を解明することは、生命を育みうる海が宇宙のどこにどれだけあるかを理解する上で欠かせません。NASAの探査機ニュー・ホライズンズによる冥王星探査により、赤道付近に白いハートに見える地域が観測され、その左半分は巨大な盆地であることがわかりました(図1)。この事実から、冥王星の氷地殻の下にも内部海が存在すること、そして巨大盆地の地下では氷地殻が薄く、その分内部海が厚いことがわかりました(図2)。もし内部海が厚くないと、巨大盆地が極に向かうように冥王星は自然と回転してしまうからです。しかし、これまで冥王星は氷衛星よりも冷たく熱源にも乏しいため、内部海は既に完全に凍結したと考えられていたことや、長い時間をかければ氷も水飴のように振る舞うため、氷地殻の凸凹がならされたと考えられていたことから、今回判明した地下構造は全く予想できなかったものでした。

さらに、この地下構造のほか、冥王星の物質についても謎がありました。それは、冥王星の表面や大気は窒素に富み一酸化炭素が少ないのに対し、冥王星と同じような場所で形成し、同じような物質で構成されていると考えられる彗星は反対の組成を持つということです。

このように、NASAの探査以来、冥王星が特徴的な姿をしている理由は全くの謎とされてきました。

図1.冥王星の「白いハート」の特徴。

図1. 冥王星の「白いハート」の特徴。

(左)色彩を強調したカラー画像を元に作成(NASA/JHUAPL/SwRI)。白いハートは赤道付近に存在する。(右)地形データを元に作成。ハートの左半分は巨大な盆地である。

図2. 本研究で提唱する冥王星の内部構造。氷地殻と内部海の間にガスハイドレート層が存在する。

図2. 本研究で提唱する冥王星の内部構造。
氷地殻と内部海の間にガスハイドレート層が存在する。

研究手法

研究グループは、主にメタンを閉じ込めたガスハイドレートが内部海と氷地殻の間に存在する(図2)という新たなアイデアに基づき、2種類の数値計算を実行しました。ガスハイドレートは水分子でできた「かご」の中に気体分子を閉じ込めた氷のような物質です。特に、メタンを閉じ込めたメタンハイドレートは地球の海底にもあり、天然資源として近年注目されています。

本研究では、メタンハイドレートが通常の氷と比べて熱伝導性が悪く高い粘性をもつことに着目しました。地球の海と異なり、冥王星の海の上には厚い氷地殻があるために海上でも低温・高圧であること、また元々存在するであろうメタンや一酸化炭素に加えて、有機物の熱分解などにより海底からメタンなどが持続的に供給されうることから、海上ガスハイドレート層の形成と維持に必要な条件が揃うこともわかりました。

1つ目の数値計算は、太陽系が形成されてから現在までの約46億年間に及ぶ冥王星内部の熱・構造進化シミュレーションで、内部海の凍結に要する時間を算出しました。もう1つの数値計算は氷地殻の長期粘弾性変形[用語1]シミュレーションで、氷地殻の厚さの均一化にかかる時間を算出しました。

研究成果

1つ目のシミュレーションの結果、メタンハイドレートが存在しない場合は何億年も前に内部海は完全に凍結しますが、存在する場合には内部海はほとんど凍結しないことがわかりました(図3)。この結果は、メタンハイドレートが断熱材として効率的に機能し、その下にある内部海は長期間暖かいままとなる一方で、氷地殻はすぐに冷えて硬くなるため、天体内部がより一層冷えにくくなることを示しています。

また、2つ目のシミュレーションの結果、メタンハイドレートが存在しない場合には氷地殻厚の均一化にかかる時間はたった100万年程度ですが、存在する場合には10億年以上かかることがわかりました。これは、メタンハイドレートの粘性が高いことに加えて、その上の氷地殻が冷えて硬くなるためです。メタンや一酸化炭素などはガスハイドレートに取り込まれやすいため、地下のガスハイドレート層に貯蔵されて地表にあまり出てこられない一方で、窒素分子は取り込まれにくいため表面に出てきます。このような理由で、地下のガスハイドレート層が特定の分子だけを吸着するフィルターのように機能するために、一見すると不思議な窒素に富む表層になることがわかりました。

図3.冥王星内部の熱・構造進化シミュレーションの例。

図3. 冥王星内部の熱・構造進化シミュレーションの例。

(左)メタンハイドレートが存在しない場合、内部海は完全に凍結してしまう。(右)メタンハイドレートが存在する場合、内部海は凍結しない。

今後への期待

本研究は、内部海の長期維持メカニズムを新たに提唱するものです。比較的大きな氷天体であればガスハイドレートの形成・維持条件が満たされるため、その存在を想定した内部海研究の進展が期待されます。また、内部海がなく生命とは無縁と予想されてきた氷天体であっても、地下にガスハイドレートがあれば内部海が維持されている可能性があり、それは一見不思議な元素組成という観測できる形で推察できることも分かりました。この結果は、今後の惑星探査に有用であることに加え、宇宙における海や生命の研究において基本的な考え方になると期待されます。

なお、本研究の一部は日本学術振興会科学研究費補助金(JP16K17787、JP17H06456、JP17H06457)と自然科学研究機構アストロバイオロジーセンター・サテライト研究の助成を受け、実施しました。

用語説明

[用語1] 長期粘弾性変形 : 固体物質の地質学的時間スケールにおけるゆっくりとした変形のこと。

論文情報

掲載誌 :
Nature Geoscience
論文タイトル :
Pluto's ocean is capped and insulated by gas hydrates(冥王星の海はガスハイドレートに包まれ断熱されている)
著者 :

鎌田俊一1、フランシス・ニモ2、関根康人3, 倉本 圭1, 野口直樹4、木村 淳5、谷 篤史6

(1北海道大学大学院理学研究院、2カリフォルニア大学サンタクルーズ校、3東京工業大学地球生命研究所、4徳島大学大学院社会産業理工学研究部、5大阪大学大学院理学研究科、 6神戸大学大学院人間発達環境学研究科)

DOI :
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お問い合わせ先

北海道大学 大学院理学研究院 准教授

鎌田俊一

E-mail : kamata@sci.hokudai.ac.jp
Tel : 011-706-3571 / Fax : 011-706-2760

東京工業大学 地球生命研究所 教授

関根康人

E-mail : sekine@elsi.jp
Tel : 03-5734-3289 / Fax : 03-5734-3289

配信元

北海道大学 総務企画部 広報課

E-mail : kouhou@jimu.hokudai.ac.jp
Tel : 011-706-2610 / Fax : 011-706-2092

徳島大学 総務部総務課 広報室

E-mail : kohokakaricho@tokushima-u.ac.jp
Tel : 088-656-7021 / Fax : 088-656-7012

大阪大学 理学研究科 庶務係

E-mail : ri-syomu@office.osaka-u.ac.jp
Tel : 06-6850-5280 / Fax : 06-6850-5288

神戸大学 総務部 広報課

E-mail : ppr-kouhoushitsu@office.kobe-u.ac.jp
Tel : 078-803-6678 / Fax : 078-803-5088

配信元 及び 取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

テレビ朝日「タモリ倶楽部」に真田純子准教授が出演

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本学 環境・社会理工学院 土木・環境工学系の真田純子准教授が、テレビ朝日「タモリ倶楽部」に出演します。

石積み技術の研究者である真田准教授の著書『図解 誰でもできる石積み入門』をきっかけに始まったこの企画。真田准教授の指導のもと、チームワークが不可欠な石積みを通して、タモリさんと初共演のゲストの方々が親交を深めます。

「タモリ倶楽部」は、毎回さまざまな企画を斬新な切り口で取り上げる長寿番組です。

真田准教授のコメント

真田准教授

普段、棚田や段畑に使われる石積み技術の研究の傍ら、石積み技術を継承するためのワークショップ「石積み学校」を運営しています。石積み学校では、当日初めて顔を合わせた参加者でもすぐに声を掛け合い、作業分担し効率よく作業が行われます。また、出来上がった後には達成感から、より結束力が高まるようです。こうした作業の特性を企業の新人研修に利用してもらい、CSR活動と研修を兼ね備えた活動で風景や文化の継承に役立てていこうと考えています。

今回はタモリ倶楽部において、石積みで仲良くなるという特性を取り上げていただきました。とても楽しくロケを行うことができたので、番組でもそれが伝わり、石積みの普及につながると良いなと思っています。

真田准教授の石積みを始めとする研究については、受験生向け広報誌「Tech Tech(テクテク)」の対談記事「景-広がりゆく土木と景観のデザイン」でも紹介していますので、ぜひご覧ください。

番組情報

  • 番組名
    テレビ朝日「タモリ倶楽部」
  • タイトル
    共同作業で連帯感炸裂! レッツ!!石積ミュニケーション
  • 放送予定日
    2019年5月24日(金)24:50~25:20(地域によって異なります)
    通常の放送時間と異なります
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お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

熊井真次教授が第22回軽金属学会賞を受賞

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物質理工学院 材料系の熊井真次教授が、一般社団法人 軽金属学会「第22回軽金属学会賞」を受賞しました。本賞は、熊井教授のアルミニウム合金をはじめとする軽金属の学理および技術の進歩発展への多大な貢献、ならびに副会長、理事、国際交流委員会委員長、国際会議実行委員長、関東支部長等を歴任する等、軽金属学会への顕著な貢献に対して授与されたものです。

軽金属学会は、アルミニウムなどの軽金属に関する学術・技術の進歩発展を図り、工業の発展に尽くすことを目的として、1951年に発足した学術団体です。軽金属学会賞は軽金属に関する学理又は技術の進歩発展に顕著な貢献をした者に贈られる軽金属学会の最高賞です。5月10日に富山国際会議場(富山県富山市)において表彰式ならびに受賞講演が行われました。

熊井教授のコメント

熊井教授

この度軽金属学会の最高賞である軽金属学会賞を受賞させていただき、たいへん光栄に思っています。このような賞をいただけたのも、非才・非力な私に大学の一研究者として生きる道を拓いて下さり、またその道程において常に応援して下さった恩師、同僚、学生諸君、共同研究者その他多くの方々のお陰であり、感謝に堪えません。学生時代から今日に至るまで東京工業大学には40年以上お世話になっていますが、この間、大岡山、すずかけ台の2つのキャンパスを2往復しました。異動を機に研究分野を変えるよう心がけたこともあり、その結果、色々なテーマに取り組むことになりましたが、研究対象は一貫してアルミニウムとその合金でした。今回の受賞は、私の周りに集まってくれた優秀で、アルミニウムが好きな学生諸君との共同作業の賜物であると感じております。

受賞講演を行う熊井教授(表彰状、記念品とともに)

受賞講演を行う熊井教授(表彰状、記念品とともに)

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お問い合わせ先

物質理工学院 教授 熊井真次

E-mail : kumai.s.aa@m.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2559


超短パルス光を用い固体中の量子経路干渉を観測 新しい光励起過程計測方法の開発に成功

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要点

  • 電子コヒーレンス情報をフォノン強度に焼き付けて計測する
  • 量子経路干渉による電子コヒーレンスの崩壊と復活を観測
  • 不透明領域のコヒーレントフォノン生成でもラマン過程が支配的

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の中村一隆准教授、萱沼洋輔特任教授と慶應義塾大学 大学院理工学研究科の鹿野豊特任准教授らは、超短パルス光照射をした半導体結晶中で、光遷移過程の量子経路干渉[用語1]による電子コヒーレンス[用語2]の崩壊と復活現象が起こること、不透明領域においてもコヒーレント光学フォノン[用語3]生成に誘導ラマン過程[用語4]が支配的であることを明らかにした。

高精度に時間制御したフェムト秒[用語5]パルス対を半導体単結晶(n型GaAs=ガリウム・ヒ素)に照射し、発生するコヒーレント光学フォノンにより変化する反射率を実時間計測した。数十アト秒[用語5]精度でパルス間隔を変化させることで、電子・フォノン状態の量子重ね合わせ状態をアクティブに制御することに成功し、電子コヒーレンスの崩壊と復活現象を観測した。

また、コヒーレント光学フォノン生成の素過程に関する量子論に基づいた理論計算と比較することで、観測された電子コヒーレンスの振る舞いは、誘導ラマン過程によることを示した。今回の研究により、固体中における高精度の量子状態制御が可能になると期待される。

研究成果は5月20日(米国東部時間)に米国物理学会誌「Physical Review(フィジカル・レビュー) B」のRapid Communication(速報)およびEditor's Suggestion(注目論文)としてオンライン版に掲載された。

研究成果

中村准教授らは90 K(-183.15 ℃)に冷却したn型GaAs単結晶を試料に用い、約50フェムト秒のパルス幅をもつ近赤外光による時間分解反射光強度測定[用語6]を行った。光のエネルギーはGaAsのバンドギャップよりも大きい1.55 eV(電子ボルト)であり、光は不透明領域にある。

ポンプ(励起)パルスを照射することでコヒーレント光学フォノンを励起し、それによって引き起こされる物質内の分極を、時間を遅らせて照射するプローブ(計測)パルスの反射率変化として検出した。これにより、コヒーレント光学フォノン(8.7 THz=テラヘルツ)とフォノンプラズモン結合モード(7.7 THz)による振動が観測された。

次に、中村准教授のグループが製作した高精度干渉計を用いて、励起パルスを約30アト秒の精度で時間差が制御されたパルス対に加工し、これを試料に照射した。パルス対の時間間隔を変化させることで、発生するコヒーレント光学フォノンとフォノンプラズモン結合モードの振動強度を制御することができた。

特に、パルス間隔を300アト秒ステップで変化させることで、約2.7フェムト秒間隔の電子コヒーレンスによる干渉縞が観測された(図1(a)(b))。これは、電子コヒーレンスの情報をフォノン強度に焼き付けて観測したことを意味している。この電子コヒーレンスの干渉は光パルス対自身の干渉よりも長く続いており、バルクGaAs中で電子状態のコヒーレンスが保持されていることが分かった。また、電子コヒーレンスを示す干渉縞が50フェムト秒付近で弱くなったあとで再度強くなる(崩壊と復活)現象が観測された。

この現象を説明するために、2バンドの電子準位と変位した調和振動子で構成される簡単なモデルを考え、光と物質の相互作用に関してフォノンの生成の量子力学的な理論計算を行った。図2のように、誘導ラマン過程(図2(a))による計算結果は実験を良く再現することができた。実験で観測された電子コヒーレンスの崩壊と復活現象は、誘導ラマン過程に含まれる多数の量子経路の干渉によることが明らかになった。

また、通常は光吸収過程が支配的と考えられる不透明領域において、コヒーレント光学フォノン生成では誘導ラマン過程が支配的であることを初めて見出した。今回の結果は「光を用いて電子・フォノン状態の量子重ね合わせ状態をアクティブに制御する」ことができることを示している。

図1. 光学フォノン(a)、光学フォノンプラズモン結合振動(b)、光干渉強度(c)の励起パルス間隔依存性。(a)(b)の約2.7フェムト秒の早い振動が電子コヒーレンスによる干渉縞である。
図1.
光学フォノン(a)、光学フォノンプラズモン結合振動(b)、光干渉強度(c)の励起パルス間隔依存性。(a)(b)の約2.7フェムト秒の早い振動が電子コヒーレンスによる干渉縞である。
図2. 理論計算で得られた光学フォノンの励起パルス間隔依存性。(a)誘導ラマン過程、(b)光吸収過程による結果。(a)は図1の実験結果とよく合っている。
図2.
理論計算で得られた光学フォノンの励起パルス間隔依存性。(a)誘導ラマン過程、(b)光吸収過程による結果。(a)は図1の実験結果とよく合っている。

背景

量子コンピュータや量子情報通信などの次世代量子技術では、量子コヒーレンスを活用することがキーポイントになっている。量子コヒーレンスは孤立した原子分子では長時間保持されるが、固体中では多数の原子との相互作用のため非常に短い時間で失われてしまうことが知られているが、その保持時間の定量的な値はよく分かっていない。中村准教授らはサブフェムト秒で制御した光パルス対を用いた干渉型過渡反射率計測を用いて電子コヒーレンス情報をフォノン強度に焼き付けて測定することにより、半導体バルク固体中の電子コヒーレンス保持時間の計測を可能にした。

また、超短光パルスで励起されるコヒーレントフォノンは、格子振動のダイナミクス研究や原子運動制御に用いられている。その生成メカニズムとしては、光吸収過程と誘導ラマン過程が関与するが、その寄与の大きさを実験的に判別することは非常に困難だった。今回の理論計算は光吸収過程と誘導ラマン過程における幾つかの量子経路干渉が大きく異なることを示した。

今後の展開

今回、フェムト秒光パルス対を用いた量子経路干渉法により、電子・フォノン状態の量子重ね合わせ状態をアクティブに制御することができ、フォノン生成過程の同定に成功した。この方法を用いることで、固体中における高精度の量子状態制御が可能になることが期待される。

用語説明

[用語1] 量子経路干渉 : 始状態から終状態に向かって複数の経路がある場合に、量子力学的に同時にいくつかの経路を通って現象が起こり、相互に干渉すること。

[用語2] 電子コヒーレンス : 電子状態が量子力学的な特性である干渉性をもっていること。

[用語3] コヒーレント光学フォノン : 光学フォノンは光により直接生成することのできる結晶を構成する原子の集団振動(格子振動)を量子化したもの。コヒーレント光学フォノンは、光学フォノンの振動周期よりも短いパルス幅の光パルスで励起することにより、振動のタイミングが揃った光学フォノンの集団が形成され、物質の反射率・透過率などのマクロな物理量を変化させるもの。

[用語4] 誘導ラマン過程 : 物質の光照射を行うと、物質内部にフォノンを生成するなどの励起を起こし、入れた光の波長とは異なる波長の光を放出する現象がラマン過程である。誘導ラマン過程は、励起光と一緒に散乱光と同じ波長の光を照射することで、ラマン過程を誘導すること。

[用語5] フェムト秒・アト秒 : フェムト秒は1000兆分の1秒(10-15秒)のことで、アト秒はフェムト秒のさらに1000分の1(10-18秒)の時間である。

[用語6] 時間分解反射光強度測定 : 励起パルスを照射することで時々刻々と変化する反射率を、励起パルスから遅れて照射される観測パルスの反射光の強度変化として測定する方法のこと。

論文情報

掲載誌 :
Physical Review B, Rapid Communication
論文タイトル :
Ultrafast Quantum-path Interferometry Revealing the Generation Process of Coherent Phonons
著者 :
中村一隆、横田謙介、奥田悠貴、加瀬麟太郎、北島誉士、三島遊、鹿野豊、萱沼洋輔
DOI :

本成果は、JST CREST、JSPS科学研究費補助金25400330, 14J11318, 15K13377, 16K05396, 16K05410, 17K19051, 17H02797、東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所共同利用研究、分子科学研究所共同研究、公益財団法人精密測定技術振興財団の支援をうけて得られた。

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所

准教授 中村一隆

E-mail : nakamura.k.ai@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5387

取材申し込み先

慶應義塾広報室

E-mail : m-pr@adst.keio.ac.jp
Tel : 03-5427-1541 / Fax : 03-5441-7640

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

安定な単一分子素子を再現性良く形成 分子コンピューター実現に有望な技術を開発

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要点

  • 不安定だった単一分子素子の21倍の安定化と40%のノイズ低減に成功
  • 分子を使った超微小電子回路の実現に向け、応用が可能になった
  • 多様な機能をもつ単一分子素子を形成できる汎用的技術を開発

概要

東京工業大学 理学院 化学系の原島崇徳大学院生(博士後期課程1年)、西野智昭准教授、筑波大学 小野倫也准教授(現 神戸大学 教授)らの研究グループは、安定な単一分子素子[用語1]を再現性良く形成する技術の開発に成功した。

この技術の鍵は高分子[用語2]を使用することにより、安定な構造が形成できたことにある。その結果、従来の技術よりも素子の安定性が21倍と飛躍的に向上することが分かった。さらに、単一分子素子を流れる電流のノイズ量は従来よりも40%低減した。

これまで単一分子を使った素子は形成確率が低く、また容易に破断する欠点があった。今回、開発した技術はこれらを解決するものであり、分子によって構成された電子回路、すなわち分子エレクトロニクス[用語3]の実現に現実的な道筋を与えるものといえる。

研究成果は4月29日発行のドイツ化学会誌「Angewandte Chemie International Edition(アンゲヴァンテ・ケミー・インターナショナル・エディション)」に掲載された。

研究成果

単一分子素子とはたった一つの分子に導線やスイッチなどの素子機能を付与したものである。分子をもとに極めて微小な電子回路を作成する分子エレクトロニクスの実現に向け、有望な技術となっている。だが、分子エレクトロニクスに関する従来の研究では、単一分子素子の安定性が非常に低いことが問題となっていた。

今回の技術は高分子を利用してより安定な構造を作ることにより、素子の保持時間は3.6倍、さらに再現率は5.2倍に向上することが分かった。この二つの性能の向上の結果、従来の技術よりも素子の安定性が21倍と飛躍的に向上することが分かった。さらに、単一分子素子を流れる電流のノイズ量は従来よりも40%低減し、電気信号を伝達するうえで重要な性能の向上がみられた。

一方、第一原理計算[用語4]に基づく理論シミュレーションから、高分子を使った今回の技術でも、従来の単一分子素子と同じ機構によって電気伝導[用語5] が生じていることが明らかになった。この技術は様々な分子に適用できる汎用性を有しているものと考えられ、多様な機能をもつ単一分子素子の実現が期待できる。

高分子を用いて形成された単一分子素子

図1. 高分子を用いて形成された単一分子素子

研究の背景

近年、物質の最小単位である分子を使ってコンピューターを作る分子エレクトロニクスに大きな期待が寄せられている。現在のコンピューターやスマートフォンなどで用いられている半導体製の集積回路[用語6]は近い将来、微細化の限界を迎え、それ以上の小型化が実現できなくなるためである。

このため、コンピューターを構成するために、トランジスタなどの機能を付与した単一分子素子が活発に研究、開発されている。しかし、単一分子を使った素子は形成確率が低く、また容易に破断する欠点があった。分子エレクトロニクスの実現に向けて、単一分子素子を再現性良く、かつ安定に形成できる技術が強く求められていた。

今後の展開

今回の研究で単一分子素子を高い信頼性で形成できる技術の開発に成功したといえる。今後はこの技術を用いて形成した単一分子素子にスイッチやトランジスタ特性などの電子機能性を組み込むことによって、コンピューターの動作に必要な論理演算を実現することが課題となる。

また、半導体の集積回路と同様に、異なる機能を持った単一分子素子を連結した集積化も必要となる。今回の技術の鍵となった高分子は、様々な種類の分子を組み合わせることもできる。そのため、所望の機能をもった分子を用いることで集積化は容易に実現できるものと考えられる。

用語説明

[用語1] 単一分子素子 : たった一つの分子によって構成された回路素子。

[用語2] 高分子 : 分子量が小さい分子の多数回の繰り返しによって構成される分子。

[用語3] 分子エレクトロニクス : 物質の最小単位である原子や分子を利用した電気回路を組み立てようとする学術分野。

[用語4] 第一原理計算 : 量子力学の基本原理に基づいた、物質の電子状態の計算手法。

[用語5] 電気伝導 : 今回の研究の分子素子のようなミクロな世界では、分子部分をすり抜けるようにして電子が通過することで電気が通る。

[用語6] 集積回路 : 一つのチップの中に複雑な機能を多数の素子が配線され複雑な機能を有する電子部品。配線される素子が小型であるほど消費電力は削減され、性能も向上する。現在、数十nm(ナノメートル)程度の小型化が達成されているが、それ以上の小型化は原子・分子スケールの空間制御が必要なため、現行の技術では非常に困難である。

論文情報

掲載誌 :
Angewandte Chemie International Edition
論文タイトル :
Highly reproducible formation of polymer single-molecule junction for well-defined current signal
著者 :
Takanori Harashima, Yusuke Hasegawa, Satoshi Kaneko, Manabu Kiguchi, Tomoya Ono and Tomoaki Nishino
DOI :
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お問い合わせ先

理学院 化学系

准教授 西野智昭

E-mail : tnishino@chem.titech.ac.jp
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計算科学と実験で新機能物質(MAX相)を発見

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要点

  • 金属とセラミックスの性質を備えたMAX化合物をホウ化物で実現
  • 計算科学で新化合物Ti2InB2の存在が示唆され、実験で合成に成功
  • 2次元構造の新物質TiBを合成、2次電池のアノードとしての優れた性質を示唆

概要

東京工業大学 元素戦略研究センターの細野秀雄栄誉教授、多田朋史准教授、Junjie Wang特任助教(現 西北工業大学教授)、Tian-Nan Ye特任助教、Jiazhen Wu研究員らのグループは、与えられた化学組成から安定な結晶構造を第一原理計算[用語1]で探索する手法と実験による合成、キャラクタリゼーション[用語2]により、Ti2InB2(チタン・インジウム・ホウ素)という新物質の創製に成功した。この物質はMAX相(M:遷移金属、A:pブロック元素[用語3]、X:窒素(N)または炭素(C))というセラミックスと金属の性質をもち、新しい機能材料として関心を集めている物質群に分類できる。MAX相でX=N、C以外で見出されたのは初となる。また、この物質を真空中で加熱すると、Inが選択的に蒸発し、元の結晶構造をほとんど保持した層状の結晶TiBが得られた。この物質はMXene(複合原子層物質[用語4])と呼ばれる2次元構造を有する新物質であることが分かった。得られたTiBは、計算によるとLiやNaイオン電池のアノード電極の材料として、よく知られたMXene物質Ti3C2(炭化チタン)よりも優れた特性を持つことが示された。

研究成果は5月24日に英国科学誌「Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーションズ)」に掲載された。

研究の背景と経緯

有用な機能をもつ新物質・新材料をいかにして効率よく見出すかは、物質科学と材料科学の大きな課題である。本研究グループは計算科学と実験を有機的に組み合わせて新機能物質の探索を行っている。最近では電子がアニオンとして振舞う電子化物(エレクトライド)[用語5] [参考文献1]を対象に、化学式を与えて安定な結晶構造を遺伝的アルゴリズム[用語6]密度汎関数計算[用語7]で予測する手法で探索し、計算で選ばれた候補物質を実際に合成することで、未知物質であったSr5P3[用語8]を見出し、これが1次元電子化物結晶であることと結論した[参考文献2]。さらに、電気測定からこの物質が計算で予測されたような金属状態ではなく、有限なバンドギャップをもつ半導体であることが判明し、モット絶縁体[用語9]の電子化物であることが分かった。今回は、高い電気伝導度をもつが熱的に安定で機械加工が可能など金属とセラミックスの中間的な性質をもつことが知られている、六方晶で層状構造をもつMAX相(M:遷移金属、A:+3価の金属、X:炭素、または窒素)に注目し、本研究が初となるXがホウ素の安定な化合物の探索を行った。また、MAX相からAを選択的に取り除いた層状化合物はMXeneと称され、MX層の金属伝導性と表面にOHや酸素などで修飾すると親水性になり、粘土のように可塑性を示す。また層間にLi+、Pb2+などのイオンを可逆的に出し入れできるので、2次電池のアノード材料としても期待されている。

研究成果

図1のようにM=Ti、X=Bの組み合わせであるTixAyBzで安定なMAX相が存在するかどうかを計算で探索し、Ti2InB2というこれまで存在が報告されていない結晶が、安定に存在することが示唆された。そこで固相のバルク合成を行ったところ、目的とする化合物の生成がX線回折で確認された。また、その原子配列は、原子番号に敏感な像を与えるHAADF-STEM[用語10]という電子顕微鏡の観察でも確認された(図2)。

ホウ素系のMAX相の探索のスキーム

図1. ホウ素系のMAX相の探索のスキーム

理論予測されたホウ化物系MAX相Ti3C2の結晶構造と実際に合成された同化合物の電子顕微鏡写真

図2. 理論予測されたホウ化物系MAX相Ti2InB2の結晶構造と実際に合成された同化合物の電子顕微鏡写真

次に合成されたTi2InB2から、これまでのMXeneの合成法であるフッ化水素酸によるInのエッチングを試みたが、試料全体が溶解してしまった。そこで、Inの融点が低いことから高温で減圧にすればIn層が選択的に蒸発するのではないかと考え処理を行った。その結果、層状構造をもつTiBが得られた。この新物質TiBの層間へのLi+とNa+の挿入による理論比容量(1グラム当たり1時間に蓄えられる電流)を計算したところ、これまで報告されたMXeneであるTi3C2やTi2Cよりも40%程度大きいことが分かった。また、電池の充電―放電の速度に相当するイオンの拡散速度を決める障壁の高さも同程度ないしはやや低いという値が得られた(図3)。

合成されたMXene化合物TiBの写真とその中でのナトリウムイオンの拡散

図3. 合成されたMXene化合物TiBの写真とその中でのナトリウムイオンの拡散

今後の展開

炭化物、窒化物に限られていたMAX相がホウ化物まで拡張でき、さらに直接の合成ができないMXene相であるTiBが得られたことから、さらに新たなMAX相やMXene相の存在がいろいろな系で存在することが示唆された。両相ともにユニークな物性を有することから、2次電池の正極材料以外にも応用の可能性が広がるものと期待される。

用語説明

[用語1] 第一原理計算 : 物質の中の電子の運動を、量子力学のシュレディンガー方程式に従い、経験的パラメーターを用いずに計算する方法。計算機の性能が飛躍的に向上したので、汎用性が増している。

[用語2] キャラクタリゼーション : 材料の構造や性質の調査、測定する方法を一般的に表す。

[用語3] pブロック元素 : 周期表で第13 - 18族に属する元素(ヘリウムを除く)。

[用語4] MXene(複合原子層物質) : 2次元層状の物質化合物の一つのクラス。数元素層の遷移金属と炭化物イオン、または窒化物イオンから構成される。金属とセラミックスの中間的な物性をもつ。

[用語5] 電子化物(エレクトライド) : 電子が陰イオンとして振舞う化合物。

[用語6] 遺伝的アルゴリズム : データを遺伝子で表現した「個体」を複数用意し、適応度の高い個体を優先的に選択して交叉(組み換え)・突然変異などの操作を繰り返しながら解を探索する手法。評価関数に関して知識がない場合で適用可能という利点がある。

[用語7] 密度汎関数理論 : 電子系のエネルギーなどの物性を電子密度から計算することが可能であるとする理論。

[用語8] Sr5P3 : アニオンとしての電子が1次元のチャンネル中に閉じ込められた電子化物。計算でその存在が予測され、実際に実験で確かめられた。

[用語9] モット絶縁体 : バンド理論では金属になると予想されるにもかかわらず、電子間の力の効果によって電子が動けなくなっている物質。

[用語10] HAADF-STEM : High-angle Annular Dark Field Scanning TEM。細く絞った電子線を試料に走査させながら当て、透過電子のうち高角に散乱したものを環状の検出器で検出することにより像を得る。散乱の強度が原子番号ともに増すので、原子の識別に使える。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Discovery of hexagonal ternary phase Ti2InB2 and its evolution to layered boride TiB(六方晶三元化合物Ti2InB2の発見と層状ホウ化物TiBへの展開)
著者 :
Junjie Wang, Tian-Nan Ye, Yutong Gong, Jiazhen Wu, Nanxi Miao, Tomofumi Tada, and Hideo Hosono
DOI :

参考文献

[1] K.Lee, S-Wng Kim, Y.Toda, S.Matsuishi, and H.Hosono; Dicalcium nitride as a two-dimensional electride with an anionic electron layer; Nature, 494, 336 (2013).

[2] J.Wang, K.Hanzawa, H.Hiramatsu, J.Kim, N.Umezawa, K.Iwanaka, T.Tada, and H. Hosono; Exploration of Stable Strontium Phosphide-Based Electrides: Theoretical Structure Prediction and Experimental Validation; J. Am. Chem. Soc., 139, 15668 (2017).

お問い合わせ先

東京工業大学 元素戦略研究センター

栄誉教授 細野秀雄

E-mail : hosono@mces.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5009

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

衝撃破壊の瞬間、材料に何が起こるのか パルスX線の応用でナノ秒間に起こる現象の目撃に成功

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本研究成果のポイント

  • 衝撃破壊にともなう金属組織の微細化をパルス状の硬X線により直接捉えることに成功
  • 衝撃波進展にともなう金属組織のマイクロメートルサイズからナノメートルサイズへの変化を定量的に解析

概要

高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所、熊本大学 パルスパワー科学研究所、東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所、テクニコン-イスラエル工科大学、筑波大学の研究グループは、KEKの放射光実験施設 フォトンファクトリー・アドバンストリング(PF-AR)を用いて、金属内に伝搬する衝撃波によってナノ秒(1ナノ秒=10億分の1秒)の間に進行する金属組織の微細化を直接観測することに成功しました。

本成果は5月20日、科学雑誌Scientific Reportsオンライン版に掲載されました。

背景

形あるものは必ず壊れる。これは自然の摂理ですが、最も短い時間で起こる破壊が衝撃波による衝撃破壊です。衝撃波は、高速衝突・爆発・火山噴火・雷・隕石・超音速飛行中の飛行機などによって発生することが知られていて、特に高圧の衝撃波は1キロメートル毎秒以上の高速で物質に伝搬し、材料内部を不均一に後戻りできない状態に破壊します。 現代社会で安全な生活を送るためには衝撃破壊の正確な計測が必要となります。しかし、衝撃波は音速で伝搬するため、破壊は一瞬のうちに起き、不均一かつ非常に複雑です。衝撃波内の破壊現象についての評価は難しく、衝撃破壊前と後の物質を見比べて想像するしかありませんでした。

研究内容と成果

図1. 衝撃破壊前の純アルミニウム箔の金属組織図
図1. 衝撃破壊前の純アルミニウム箔の金属組織図
結晶粒のカラーマッピング(色は結晶構造の向きに対応)。

多くの金属材料は細かい金属結晶が集合した多結晶状態になっており(図1)、材料の機械的特性は金属結晶のサイズや状態によって決まります。材料に高い圧力の衝撃波を加えると衝撃圧力に耐えられなくなり、材料は破壊されます。衝撃波内では、まず元に戻ることができる変形(弾性変形[用語1])が起こり、元に戻れる限界を超えた変形(塑性変形[用語2])を経て破壊に至ります。

自治医科大学 医学部とKEK 物質構造科学研究所に所属する一柳 光平 博士、KEK 物質構造科学研究所の野澤 俊介 准教授、深谷 亮 特任助教、木村 正雄 教授、足立 伸一 教授、熊本大学 パルスパワー科学研究所の川合 伸明 准教授、東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の中村 一隆 准教授、テクニコン-イスラエル工科大学のKlaus-Dieter Lis 教授、筑波大学 生命環境科学研究科の髙木 壮大 大学院生からなる共同研究グループは、衝撃破壊の瞬間を実際に見るために、純アルミニウム箔内の金属組織の衝撃破壊による微細化に注目しました。

KEKの放射光実験施設PF-ARビームラインNW14Aの、原子サイズの波長かつ100ピコ秒の時間幅を持つパルス状のX線を使った時間分解X線回折[用語3]を用いると、純アルミニウム箔の金属組織の微細化過程を精密に調べることができます。研究グループは、この測定法と、ナノ秒のパルス幅を持つ高強度レーザーを組み合わせた実験を考案しました(図2)。高強度パルスレーザーはたった1回、試料に集光照射させるだけで、試料表面のコート材を吹き飛ばすことにより5万気圧以上の高圧衝撃波を発生させることができます。それだけで試料に穴が開きます(図3)。

図2. 衝撃波伝搬下の時間分解X線回折測定の概略図

図2. 衝撃波伝搬下の時間分解X線回折測定の概略図

アルミコートとプラスチック材があることで、アルミニウム箔は吹き飛ばされずに衝撃波のみを受ける。

図3. 衝撃破壊後の試料

図3. 衝撃破壊後の試料

試料の大きさはおよそ5 mm角。パルスレーザー照射により一部分が後方へ吹き飛び、直径0.5 mmほどの穴が開いている。

測定ではまず、破壊前の試料のX線回折像(図4右側)を撮影します。高強度パルスレーザー照射1回の8ナノ秒間に、同期させた100ピコ秒間(1ピコ秒=1兆分の1秒)のX線パルスを1回だけ照射し、衝撃波が伝搬する間に衝撃破壊中の試料のX線回折像(図4左側)を撮影します。試料を替え、X線パルス照射のタイミングを3ナノ秒ずつずらして繰り返し測定を続け、計100組の回折像を得ました。破壊前と破壊中の回折像の各回折点を照らし合わせると、金属結晶が微細化していることはもちろん、金属原子の配置が粒子内でどれだけずれているか(不均一歪み)がわかります。

X線回折像の解析の結果、マイクロメートルサイズだった金属の結晶粒は衝撃破壊によりナノメートルサイズまで細分化し(図5)、さらに極めて小さくなった各金属結晶内部で結晶の不均一性(結晶内の原子位置のずれ)が瞬間的に増大していることがわかりました。パルスX線をストロボ的な測定に応用することで、衝撃破壊後に観測される金属組織の状態とは異なる、衝撃破壊中の組織の微細化や結晶の不均一性を観測することに成功しました。

図4. 衝撃破壊前後のX線回折像

図4. 衝撃破壊前後のX線回折像

(左側)破壊後:回折点が連続。結晶粒が小さいことを示す。(右側)破壊前:回折点が非連続。結晶粒が大きいことを表す。

図5. 高圧の衝撃波による金属組織の微細化過程

図5. 高圧の衝撃波による金属組織の微細化過程

本研究の意義、今後への期待

極めて短い時間に起こる現象の瞬間を捉える新しい測定技術が、材料科学の発展に大きく寄与することは言うまでもありません。

衝撃波が引き起こす高速破壊現象による金属組織の微細化過程を理解することは、これまで極めて困難であった衝撃破壊の評価を可能にするだけでなく、レーザーピーニング[用語4]などに代表される衝撃波を利用した組織微細化加工に応用できるものと期待できます。

本研究は、科学研究費 若手研究(A)「時間分解ラウエ回折法による衝撃破壊素過程の解明」(研究代表:一柳 光平)、同 挑戦的萌芽研究「角度分散型時間分解X線回折による3次元衝撃圧縮状態の研究」(研究代表:一柳 光平)、同 新学術領域研究(研究領域提案型)「ソフトクリスタル:高秩序で柔軟な応答系の学理と光機能」(研究代表:加藤 昌子)、東レ科学研究助成金「時間分解X線測定による多段衝撃波内の構造・反応ダイナミクス解析」(研究代表:一柳 光平)の支援を受けて実施されました。

用語説明

[用語1] 弾性変形 : 力を受けた固体に生じた変形が、力を取り除けば元に戻る変形。

[用語2] 塑性変形 : 力を加えて変形させたとき、永久変形を生じる変形。力を取り除いた後にも歪みが残る。

[用語3] 時間分解X線回折 : ある瞬間の原子の構造情報を得るための手法の一つ。今回の実験では、材料が変形する瞬間に短パルスX線を当てX線回折データを収集した。

[用語4] レーザーピーニング : 短い時間幅のレーザーを照射したときの局所的な衝撃圧縮により材料表面に圧縮の残留応力を付与し、表面を加工硬化する技術。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports(オンライン版5月20日)
論文タイトル :
Microstructural deformation process of shock-compressed polycrystalline aluminum
(衝撃圧縮下における多結晶アルミニウムのミクロ組織変形過程)
著者 :
K.Ichiyanagi, S.Takagi, N.Kawai, R.Fukaya, S.Nozawa, K.G.Nakamura, K.D.Liss, M.Kimura, S.Adachi.
DOI :

研究内容に関するお問い合わせ先

自治医科大学 医学部

大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構

物質構造科学研究所 協力研究員 一柳光平

E-mail : ichiyana@post.kek.jp
Tel : 029-879-6185

取材申し込み先

大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構

広報室長 引野肇

E-mail : press@kek.jp
Tel : 029-879-6047 / Fax : 029-879-6049

学校法人 自治医科大学

大学事務部 研究支援課 小川孝志

E-mail : shien@jichi.ac.jp
Tel : 0285-58-7550 / Fax : 0285-40-8303

国立大学法人 熊本大学

総務部 総務課 広報戦略室 山下貴菜

E-mail : sos-koho@jimu.kumamoto-u.ac.jp
Tel : 096-342-3269 / Fax : 096-342-3110

国立大学法人 筑波大学 広報室

E-mail : kohositu@un.tsukuba.ac.jp
Tel : 029-853-2040 / Fax : 029-853-2014

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

NHK Eテレ「人間ってナンだ?超AI入門」に伊藤浩之准教授が出演

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本学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の伊藤浩之准教授が、NHK Eテレ「人間ってナンだ?超AI入門」に出演します。

「人間ってナンだ?超AI入門」は、実用化されているサービスや製品の中でどうAIが使われているか、そこに流れる思想は何か、現場取材を通して迫り「人間とは何か?」を考える知的教養番組です。

今回は、「味わう」をテーマにする回で伊藤准教授も研究・開発に加わった、AIによる「牛の行動観察システム」を解説し、実際の現場の様子として信州大学の農場で撮影を行いました。

信州大学の農場での撮影の様子

信州大学の農場での撮影の様子

伊藤准教授のコメント

伊藤准教授

専門は電子回路工学なのですが、色々な縁があり東工大『サイレントボイスとの共感』地球インクルーシブセンシング研究拠点(EISESiV)で酪農・畜産に関するプロジェクトを楽しくやらせて頂いています。国際的に重要になってきているアニマルウェルフェアを国内・アジアで普及・推進するための仕組み作りと、それを支え酪農・畜産の生産性向上と効率化に貢献する牛群管理システムの研究開発を進めているところです。牛の状態(発情や疾病、それらの前段階など)は牛の行動の変化から分かる場合があるため、我々は、牛にセンサを取り付けて、その加速度データ等からAIを使って牛の行動を推定する技術の研究開発を進めています。

番組では、このシステムのキーテクノロジーの一つであるEdge AI技術(牛に取りつけたセンサ内でAI処理を行う技術)に関して取り上げて頂きました。

AIは私自身勉強中で語れるほどの知識や経験が無いのと、インタビュー慣れしていないこともあり、分かりやすい説明ができていたか正直なところ不安しかありませんが、少しでも皆様の参考になれば幸いです。

  • 番組名
    NHK Eテレ「人間ってナンだ?超AI入門」
  • タイトル
    第10回「味わう」
  • 放送予定日
    2019年6月5日(水)22:50 - 23:20

お問い合わせ先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

自治体と連携し、未病改善に関する実証実験を実施 インフラ企業やヘルステックと協働し「未病改善プラットフォーム」構築を目指す

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東京工業大学 未来型スポーツ・健康科学研究推進体(代表者 生命理工学院 生命理工学系 林宣宏准教授)は、共同研究先企業であるaiwell(アイウェル)株式会社(以下「aiwell」)と、静岡県掛川市において未病[用語1]改善に向けた「未病改善のための健康増進プラットフォーム」の構築に向けた実証実験を2019年2月12日~3月26日の6週間実施しました。

背景・概要

2025年には日本の人口の3割は65歳以上の高齢者になると予想されており、超高齢化社会の到来による医療費の増大は大きな社会問題になっています。また、増加する高齢者世帯では、高齢者の生活機能の低下の発見や対処が遅れる可能性が高く、健康上のリスクも高いと考えられています。

これらの社会問題にアプローチすべく、東工大 未来型スポーツ・健康科学研究推進体、AIプロテオミクス[用語2]を活用したヘルスケアプラットフォームを提供するaiwellと大崎電気工業株式会社(以下「大崎電気」)の3者が協力し、「地域健康増進プロジェクト」を2018年11月に発足させました。

この度、静岡県掛川市の協力のもと、地域の高齢者を対象に、血液検査、スマートウォッチ、スマートメーターからのデータ等、様々な生活データを収集・活用し、公的サービス・民間サービスが連携して個人の健康を支えることを可能にする「未病改善のための健康増進プラットフォーム」の構築を目指して本プロジェクトが実施されることとなりました。自治体も連携した未病改善に関する実証実験は、国内初の取り組みとなります。

実験参加者の基本的な健康データ(体組成、体重、血圧)を測定する様子

実験参加者の基本的な健康データ(体組成、体重、血圧)を測定する様子

実験参加者の基本的な健康データ(体組成、体重、血圧)を測定する様子

「未病改善のための健康増進プラットフォーム」の概要

  • 高齢者の健康状態を「見える化」するため、個人の不調具合の内観と、微量採血による血液検査データを取得。加えて、スマートフォン、各種センサー、スマートメーターからのデータを使って生活データを収集、それらを統合して分析を行う。
  • データに基づき、専門家や、ご家族、行政が健康増進のためのアドバイスを高齢者に提供。
  • アドバイスに基づき、個々人が日々の健康改善に取り組む。介護状態になる前に分析データによる「気づき」を得ることが可能になり、行政や民間サービスによる生活改善にむけたアプローチが可能になるプログラム。

実証実験の詳細

  • 実施期間:
    2019年2月12日~3月26日の6週間
  • 協力機関:
    東京ガス株式会社、静岡ガス株式会社、中遠ガス株式会社、大崎電気
  • 参加者数:
    18世帯19名のうち男性4名・女性15名、年齢68歳~79歳
  • 内容:
    福祉センターで月に2回実施されている健康増進のための体操の機会に、参加者の基本的な健康データ(体組成、体重、血圧)をチェックし、同時に微量採血を実施。また、参加者にはスマートウォッチを配布して、日常の運動量をモニターすると共に、各家庭に設置したスマートメーターや人体の動きを感知するセンサーによりご家庭での生活データを取得。

実証実験にて収集した生活データ・医療データ

「地域健康増進プロジェクト」の成果・今後の展開

今回の最大の成果は、問題意識のある地域住民の方々、そういった方々を支える行政の方々に「未病改善のための健康増進プラットフォーム」の考え方が伝わったことを、実施者が実感出来たことです。市民の方々との対話を通じて、何がどのように伝わり、どう受け止められたかを具体的に知ることが出来たことは、今後の活動に大きな影響を与えることになります。特に、なるべく近い将来に「未病改善のための健康増進プラットフォーム」のサービスを受けたいとの声が寄せられたことは、大きな意味を持ちます。

更に、各種データ取得における実地での実務レベルでの問題発掘がなされたことにより、使用者にとって現実問題として造作なく使える、使いたいと思えるサービスの構築が可能となり、今後はその実用化が加速します。

今後、今回得られたデータの統合と解析により得られた成果をもとに、随時、市民や行政の方々との対話を継続することで、「未病改善のための健康増進プラットフォーム」の構築とサービスの継続的な提供の仕組みの創出を目指します。また、要介護状態になる前の早期診断・早期対応の実現により、個人や家族のQOL(生活の質)を向上させ、誰でも「健康で長寿」が可能になる世の中を目指すと共に、増え続ける医療費や、介護難民、孤独死の予防などの様々な社会問題にアプローチできる取り組みに発展させていきます。

用語説明

[用語1] 未病 : 診断・治療のために“病気”が定義されますが、生物学的には病気と健常との間にはっきりした境目はありません。これまでは病気と診断されてから治療が施されてきましたが、その前段階から方策を施すことが出来れば、重篤な病気に悩まされることは無いことから、近年、病気と健常の間の状態が新たに“未病”状態と定義されて、病院に行く前に、自身で病気になるのを防ぐことが出来る状態として注目されるようになりました。

[用語2] AIプロテオミクス : 林准教授が研究を進める特許技術。二次元電気泳動で網羅的に画像化された血中タンパク質のデータをAIが解析し、様々な病気や怪我になる一歩手前の状態を発見(超早期診断)する研究。敗血症においては、98.2%の精度で的確に診断を可能にしました。2018年10月よりaiwellと共同研究を開始し、2019年4月に東工大キャンパス内に「aiwell AIプロテオミクス協働研究拠点」を開設し、AIプロテオミクスの実用化に向け研究開発とその実用化を推進しています。

[用語3] 微量採血検査キット「aiwell care」 : ジャパン・メディカルリーフ株式会社が開発した多機能微量採血管を特徴とする、日本初の血球検査を含む30項目の微量採血検査キット。医師の監修のもと疲労、脱水、エネルギー消費、骨密度、糖代謝、脂質代謝、肝機能、腎機能など、ヘルスケア評価と運動パフォーマンス評価の分析が可能です。一般の人間ドックにおける検査と同等の項目を、自宅で簡単に検査することが可能です。

[用語4] 生活データ・医療データを活用した東京ガスのサービス開発 : 東京ガスはエネルギー供給に加え、安全で安心できる暮らしをサポートするサービスを展開しており、食や健康など様々な分野におけるサービスの検討・開発も行っています。その取り組みの一つとして、電気、水道、ガス使用量データや室内空気質のデータ、スマートウォッチによる活動量データなどを活用し、睡眠アドバイスや部屋の環境改善など、生活をより豊かにするサービスの開発を行っています。

[用語5] 大崎電気の提供する「ホームウォッチ®」 : 創業 100 年にわたり電力量計等の計測制御機器の開発・提供を通して「見える化」したデータをもとに、最先端の IoTデバイスを専用アプリケーションと組み合わせて、トータルソリューションとして提供するスマートホームを実現する大崎電気のサービス。各種センサー設置により、家の中の活動量の測定が可能になり、高齢者の見守り・防災等への活用ができます。

[用語6] Origin Wireless Japan社の睡眠モニタリング : アメリカのメリーランド大学のRay Liu(レイ・リュー)教授が開発したTime Reversal Machine(タイム・リバーサル・マシーン)≪制作時注:TM上付きで付ける≫技術を用いたWi-Fiセンシングは電波反射の解析により空間イベントの検知を可能にします。睡眠時の微細な動きや呼吸の検知により医療器具と同等のレベルでレム、ノンレム睡眠などを含めた睡眠状態をモニタリング可能です。この技術はウェアラブルデバイスを必要とせず、人の動き、呼吸、転倒、認証、屋内測位などの検知を行えるため、高齢者の見守り、ライフログの提供など様々なサービスへの応用が期待されています。

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5G向けミリ波フェーズドアレイ無線機を開発 安価な集積回路を用いて高精度指向性制御を実現

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要点

  • 5G向けミリ波帯フェーズドアレイ無線機の開発に成功
  • 安価で量産可能なシリコンCMOS集積回路チップにより実現
  • 高周波信号の位相・振幅ばらつき・補償機構により、高精度に電波の指向性を制御

概要

国立大学法人 東京工業大学の岡田健一教授と、日本電気株式会社は共同で、第5世代移動通信システム(5G)[用語1]に向けたミリ波帯フェーズドアレイ[用語2]無線機を開発した。5Gでは従来のマイクロ波帯の周波数にあわせて、ミリ波[用語3]帯の周波数の利用が計画されている。ミリ波帯用の5G無線機ではアレイ状に配置したアンテナへ入出力する高周波信号の位相を制御することにより、アンテナの指向性パターンを制御する。従来は高精度な指向性の制御のために大規模な装置が必要であったが、指向性パターンを劣化させる要因になっている位相および振幅のばらつきを補償できるコンパクトな回路を新たに提案し、無線機とともに集積化することに成功した。

この回路の活用により位相0.08度と極めて高精度にアンテナ素子の信号を制御することができる。無線機は安価なシリコンCMOS(相補型金属酸化膜半導体)プロセスで製作した。この技術は、5G向けの各種無線通信機器に搭載可能で、ミリ波帯の5G普及を加速させる成果といえる。

研究成果は6月2日から米国ボストンで開催される国際会議RFIC(IEEE Radio Frequency Integrated Circuits Symposium <米国電気電子学会・無線周波数集積回路シンポジウム>2019)で発表する。また、この発表論文は最優秀論文賞を受賞した。

本研究開発は総務省SCOPE(戦略的情報通信研究開発推進事業、受付番号175003017)の委託を受けて実施した。

開発の背景

第5世代移動通信システム(5G)の運用が開始されつつある。初期にはおもに3 GHz(ギガヘルツ)から6 GHzの低い周波数を用いたサービスが展開される。これらの周波数帯ではほかの無線システムなどの存在により、限られた帯域幅となるため、通信速度もその帯域幅に応じた限界が存在する。

また従来、携帯電話に用いられている3 GHz以下の比較的低い周波数の特性として、伝搬損失は少ないものの、波長が長く電波が広がりやすい物理的性質のため、通話やショートメッセージサービス(SMS)、Webブラウジング[用語4]などをメインとする限られた通信アプリケーションには扱いやすいが、今後、大きな需要が見込まれているビームを絞った高速無線通信の実現が難しい。また複数の端末間の電波の干渉により、スタジアムなどの極めて多くの端末を収容するようなキャパシティ増大への対応には困難が伴う。

一方、5Gにおけるチャレンジとして、より広い帯域を確保し、かつ指向性の高いアンテナの実現可能性を持つ高い周波数領域の電波資源、すなわち従来、用いられているより10倍以上高い周波数帯であるミリ波を用いる無線通信技術の導入が期待されている。特に、北米などではミリ波帯の39 GHz帯の利用が検討されており、従来の100倍以上速い毎秒10ギガビットのデータ伝送速度の実現が目標とされている。

5Gに向けた課題

5Gなどで用いられるミリ波の通信は波長が短いことで、アンテナ素子を小さくすることができる利点がある一方で、伝搬損失が従来の10倍以上大きいことが問題となる。そこで複数のアンテナ素子を調和して動作させ、アンテナにおける電波の放射の指向性を高め、なおかつ、その放射方向を電気的に制御する(指向性を高める)ビームフォーミング(用語2参照)の技術に対応したフェーズドアレイ無線機が必要になる。

フェーズドアレイ無線機はアンテナと同じ数のトランシーバーで構成される。多数のトランシーバー・アンテナのそれぞれの信号の位相および振幅を制御することで、通信を行う端末方向で信号が強め合い、逆にそのほかの端末方向には信号を打ち消しあう特性を持たせることができる。これにより、高い指向性(高いEIRP)による高速通信や通信距離の増大、さらには、不要な干渉の低減によるキャパシティの増大が可能になる。

しかしながら、それぞれのアンテナ素子から出力される信号の位相や振幅強度の特性のわずかなばらつきが発生すると、このビームフォーミングの効果を著しく低減させてしまう。そのため、特性のばらつきをきわめて低く抑える必要があり、ミリ波の帯域でそれを低コストで実現できる補償技術の確立が望まれていた。

研究成果

今回の研究成果はミリ波トランシーバーのビームフォーミングに必要となる、信号の振幅や位相の検出・補償の方式および回路を新たに提案し、トランシーバーを試作、実証することで達成した。

通常、信号の振幅および位相の高精度の補償には高速高分解能のAD(アナログ・デジタル)変換器が必要とされ、特にミリ波の広帯域信号を扱うことができるような超高速・高分解能AD変換器の実装が困難だった。今回の研究ではあらかじめ前信号処理を加えることで、比較的低速度のAD変換器とカウンターによる位相検出回路[用語5]により、高精度な振幅・位相の検出を可能とした。

それにより、これまで位相検出に必要だった高精度アナログ量の検出を、CMOS回路の極めて高い時間分解能に変換した上で、デジタル的に処理することが可能となったため、コンパクトな回路で高精度な補償機構内蔵の5G向けミリ波帯フェーズドアレイ無線機を実現できた。

このフェーズドアレイ無線機を最小配線半ピッチ65 nm(ナノメートル)のシリコンCMOSプロセスで試作し、12平方 mmの小面積に4系統のフェーズドアレイ無線機を搭載した(図1)。現在、5G向けに利用が開始されている28 GHz帯とあわせて、今後39 GHz帯の利用の増大が想定されている。開発したCMOS無線送受信チップは、39 GHzの周波数帯で利用でき、その飽和出力電力[用語6]は15.5 dBmであった。

伝送実験のため、CMOSチップを搭載した評価基板(図1)を作成した。電波暗室内で、1mの距離を隔てて2台のモジュールを対向させ、提案した補償回路を動作させてデータ伝送試験を実施した。その結果、補償回路の実力は位相で0.08度、振幅で0.04 dBと極めて優れた特性を示し、各アンテナの位相振幅を制御することにより、電波の放射方向を0.1度の精度で調整可能であることを確認した。また、最大となる0度方向でのEIRPは53 dBmだった。

固定のビームフォーミング、400 MHzの256QAM[用語7]5GNR信号[用語8]EVM[用語9]=-30 dBを達成した。消費電力は1チップあたり送信時1.5W、受信時0.5Wだった。

5G向け39 GHz帯フェーズドアレイ無線機

図1. 5G向け39 GHz帯フェーズドアレイ無線機

今後の展開

開発した無線機は、フェーズドアレイに用いられるCMOSチップの省面積化を実現し、5G無線機の小型・低コスト化を牽引する。今後、5G向け通信機器での利用をターゲットとして2020年頃の実用化を目指す。また、ビームフォーミングの鍵となる多数のアンテナ・トランシーバーの補償技術は、5Gに限らず様々な無線通信に対して適用可能であり、通信機器の小型・低コスト化に有効な技術と考えられる。

発表予定

この成果は6月2日から米国ボストンで開催される国際会議RFIC(IEEE Radio Frequency Integrated Circuits Symposium<米国電気電子学会・無線集積回路シンポジウム>2019)において「A 39 GHz 64-Element Phased-Array CMOS Transceiver with Built-in Calibration for Large-Array 5G NR (5GNR大規模フェーズドアレイ向け補償機構内蔵39 GHz帯CMOS無線機)」の講演タイトルで、現地時間6月4日午前10時10分から発表される。

また、本発表の成果が認められ、IEEE Radio Frequency Integrated Circuits Symposium, Best Student Paper Awardを受賞した。

講演

講演セッション :
Session RTu2E:
講演時間 :
現地時間6月4日午前10時10分
講演タイトル :
A 39 GHz 64-Element Phased-Array CMOS Transceiver with Built-in Calibration for Large-Array 5G NR (5GNR大規模フェーズドアレイ向け補償機構内蔵39 GHz帯CMOS無線機)
会議Webサイト :

用語説明

[用語1] 第5世代移動通信システム(5G) : 移動通信システムは第1世代のアナログ携帯電話から始まり、性能が向上するごとに世代、つまりジェネレーションが変わる。「G」はジェネレーションの頭文字で、現在の携帯電話等は4Gで、5Gは2020年の実用化に向けた開発が行われている。

[用語2] フェーズドアレイ : 複数のアンテナへ位相差をつけた信号を給電する技術。放射方向を電気的に制御するビームフォーミング(電波を細く絞って、特定の方向に向けて集中的に発射する技術)の実現に利用される。

[用語3] ミリ波 : 波長が1~10 mm、周波数が30~300 GHzの電波。

[用語4] Webブラウジング : インターネットに接続して情報を探し出すこと。

[用語5] 位相検出回路 : 今入力信号の位相が、基準となる参照信号に対してどれだけ違うかの差分値を検出する回路。得られた差分値を、アンテナの信号の位相を調整する回路にフィードバックすることで、高精度にアンテナの各素子の位相を調整することができる。

[用語6] 飽和出力電力 : 増幅器が最大で出力できる電力。

[用語7] 256QAM: : デジタルデータと電波や電気信号の間で相互に変換を行うためのデジタル変調方式の一つ。位相が直交する2つの波を合成して搬送波とし、それぞれを16段階の振幅で識別する方式で、16×16の256値のシンボルを利用して一度に8ビットの情報を伝送することができる。

[用語8] 5GNR信号 : 5G New Radioの略。5Gの要求条件を満たすために、3GPPで新たに規定される無線方式。

[用語9] EVM : Error Vector Magnitudeの略。無線通信に用いられるデジタル変調の品質を示す尺度の一つ。理想的な信号と、測定された雑音や歪などの劣化を含む信号との間の、差分のベクトルの大きさから計算される。値が小さいほど品質の高い理想的な信号に近いことを示す。

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お問い合わせ先

東京工業大学 工学院 電気電子系

教授 岡田健一

E-mail : okada@ee.e.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3764 / FAX : 03-5734-3764

NEC ネットワークサービス企画本部

Tel : 03-3798-6141

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日本電気株式会社 コーポレートコミュニケーション本部

広報室 大戸

Tel : 03-3798-6511


シンプルで万能なカオス的振動回路を設計 小型で効率的なデバイスを実現

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要点

  • シンプルながら万能なカオス信号を生成する手法を発見
  • アナログCMOS集積回路技術により小型なカオス信号生成回路を実現
  • 今後は応用技術の研究開発も推進

概要

東京工業大学WRHI[用語1]のルドビコ・ミナティ(Ludovico Minati)特任准教授、科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の伊藤浩之准教授らの研究グループは、シンプルながら万能な「カオス信号[用語2]」を生成する手法を発見した。互いに接続された3つの「リング型発振器」を利用し、発振器間の接続強度が互いに競い合いながら制御されるように設計、小型で効率的なデバイスを実現した。センサー間の無線通信など新たな用途に応用が期待できる。

脳活動、動物の群れ、天気など自然界の現象を示す信号を再現できれば、それらの原理を理解する手がかりとなる。これらの信号は複雑で、究極的にはいわゆる「カオス信号」になる。カオスとはランダム性を意味するのではなく複雑な規則性を持つことを意味する。カオスシステムではわずかなパラメータの違いが大きな挙動変化をもたらす場合もある。またカオス信号は予測が難しいが、多様な局面に存在している。

だが、目的通りの特性を示すカオス信号の生成は難しい。デジタル信号を生成すると消費電力が多すぎる場合もあり、アナログ回路を用いる必要がある。そこで今回、カオス信号を生成する集積回路の作成法を新たに提案した。

この研究は東工大とイタリアのカターニャ大学、トレント大学、ポーランドの科学アカデミーが共同で、東工大WRHIからの一部資金支援により行った。

なお、本研究成果は米国電子電気学会(IEEE)のオープンアクセスジャーナル「IEEE Access」に2019年4月23日に掲載された。

研究成果

研究グループはまず異なる素数[用語3]を用いてサイクル数を設定すると、位相の関係を固定することができないという考えから、この手法の提案を始めた。驚くことに、この原則はいくつかのセミの種類の進化に見られており、それらのセミのライフサイクル年数は他の種や天敵の年数と同期しないような素数の間隔になっていることが知られている。この現象は互いに接続された3つの発振器の振動サイクルを小さい順に3つの素数(3、5、7)に設定すると、図1に示すような複雑なカオス信号が生成されることでも見ることができる。

この回路設計は集積回路の中でも最も古典的な「リング型発振器[用語4]」から始めた。このリング型発振器は小型でコンデンサやインダクタなどの受動素子を必要としない。この回路を3、5、7のサイクルをそれぞれ持つ3つのリング型発振器の強度が互いの接続強度によって独立して制御できるようにした。その結果、可聴周波数からラジオ波帯域(1 kHz~10 MHz)という幅広い周波数スペクトラムでカオス信号を生成することができた。この試作回路を設計した伊藤浩之准教授によると「カオス信号が100万分の1ワット以下のような低い消費電力で生成できる見通しがあることも大きな特徴だ」と説明している。

さらに特筆すべきなのは、個々の試作のわずかな特性の違いによって異なるタイプの信号が生成されることを発見したことである(図3)。ある時には生物の神経細胞で見られるのと類似したスパイク信号[用語5]が記録され、またある時は、それぞれのリング型発振器が互いに競い、ほぼ完全に活動を抑制するような現象も見られた。この抑制現象は「oscillation death: 発振停止[用語6]」と呼ばれる。

図1. 動作原理:今回の回路設計は例えば小さい順に3つの素数(3、5、7)の長さのリング型発振器を互いに接続させるというシンプルなアイデアで構成されている(上)。単純なサイン波を合成した場合でも複雑に見える信号が生成される(下)。実際の発振器を用いた場合には、さらに多くの相互作用がもたらされる。
図1.
動作原理:今回の回路設計は例えば小さい順に3つの素数(3、5、7)の長さのリング型発振器を互いに接続させるというシンプルなアイデアで構成されている(上)。単純なサイン波を合成した場合でも複雑に見える信号が生成される(下)。実際の発振器を用いた場合には、さらに多くの相互作用がもたらされる。
図2. カオス的振動回路図。リング型発振器とそれぞれの接続強度が独立して制御される様子とその試作におけるレイアウトが示されている(上)。異なる特性を持つ3つの信号例:振幅が周期的に振動する信号、神経細胞様のスパイク的信号、ノイズ信号(下)。
図2.
カオス的振動回路図。リング型発振器とそれぞれの接続強度が独立して制御される様子とその試作におけるレイアウトが示されている(上)。異なる特性を持つ3つの信号例:振幅が周期的に振動する信号、神経細胞様のスパイク的信号、ノイズ信号(下)。
図3. 図2の回路のCADレイアウトと回路基板の写真。この集積回路は約200×100 μm サイズの微小な「細胞」として設計され(左)、最初の試作では必要となる補足機能が備えられたテスト基板上に搭載された(右)。
図3.
図2の回路のCADレイアウトと回路基板の写真。この集積回路は約200×100 μm サイズの微小な「細胞」として設計され(左)、最初の試作では必要となる補足機能が備えられたテスト基板上に搭載された(右)。

今後の展開

研究の筆頭著者であるルドビコ・ミナティ特任准教授は「この回路には必要最低限の形と原理がつくり出す美しさが表現されており、シンプルであるが故に実際の回路に見られるわずかな違いや不完全さがスパイスとなり、調和的に作動する大きなシステムを実現できたことがポイントである」と述べている。

研究グループはこの回路で様々な用途に向けた基盤が作れる可能性があると考えている。今後はこの回路をセンサーなどと組み合わせて、例えば土壌の化学特性の測定などに応用していく計画である。さらに、生物の神経細胞回路を模して互いにこの回路を接続させてコンピューターチップに搭載する計画もある。これにより、これまでのコンピューターよりも大幅に消費電力を低下させながら何らかの処理ができる可能性があると期待している。

用語説明

[用語1] WRHI : World Research Hub Initiativeの略。東京工業大学は世界的な研究成果とイノベーションの創出により「世界トップ 10 に入るリサーチユニバーシティ」を目指し、研究所・センターなどの研究組織を集約した科学技術創成研究院を設置し、世界の研究者と学内の若手を魅了する環境整備を行う研究改革を実施している。その一環として、2016年4月、研究院内に「Tokyo Tech World Research Hub Initiative (WRHI)」を立ち上げた。海外の優秀な研究者を招へいし、国際共同研究を推進する6年間のプロジェクト。新たな研究領域の創出、人類が直面している課題の解決、そして、将来の産業基盤の育成を目標に掲げ、「世界の研究ハブ」になることを目指している。

[用語2] カオス信号 : 非線形な決定論※1的力学系※2から発生し、初期値鋭敏性※3を持つ有界な非周期軌道を有する信号

[用語3] 素数 : 1より大きく、かつ、正の約数が1と自分自身のみである自然数

[用語4] リング型発振器 : 負の利得を有する遅延要素を複数個リング状に結合した構成をもつ発振器

[用語5] スパイク信号 : 瞬間的に振幅が上昇あるいは下降する信号

[用語6] oscillation death: 発振停止 : 二つ以上の自立した振動系が結合したときに安定した静止状態になる現象

※1
あらゆる出来事が、それより先行する出来事のみによって決まっているとする考え方
※2
ある初期状態が与えられると、以後のあらゆる状態量の変化が決定される系
※3
初期状態の僅かな違いが、時間経過と共に大きな結果の差として生じる性質

論文情報

掲載誌 :
IEEE Access
論文タイトル :
Current-Starved Cross-Coupled CMOS Inverter Rings as Versatile Generators of Chaotic and Neural-Like Dynamics Over Multiple Frequency Decades
著者 :
Ludovico Minati1,2,3, Mattia Frasca4, Natsue Yoshimura5,6, Leonardo Ricci7, Pawel Oswiecimka2, Yasuharu Koike5, Kazuya Masu8, and Hiroyuki Ito5
所属 :

1 Tokyo Tech World Research Hub Initiative, Institute of Innovative Research, Tokyo Institute of Technology, Japan.

2 Complex Systems Theory Department, Institute of Nuclear Physics, Polish Academy of Sciences, Poland

3 Center for Mind/Brain Science, University of Trento, Italy

4 Department of Electrical Electronic and Computer Engineering (DIEEI), University of Catania, Italy

5 Laboratory for Future Interdisciplinary Research of Science and Technology (FIRST), Institute of Innovative Research, Tokyo Institute of Technology, Japan

6 PRESTO, JST, Japan

7 Department of Physics and Center for Mind/Brain Science, University of Trento, Italy

8 Tokyo Institute of Technology, Japan

DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所

准教授 伊藤浩之

E-mail : ito@pi.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5010 / Fax : 045-924-5022

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金属元素を精密に組み合わせ、新たな機能をもつ合金を創成 プレスセミナーを開催 超高分解能電子顕微鏡(TEM)で観察した金属原子画像を公開

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プレスセミナーの様子
プレスセミナーの様子

5月22日、科学技術創成研究院 ハイブリッドマテリアル研究ユニットの山元公寿教授、同研究院 化学生命科学研究所の塚本孝政助教が、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)による創造科学技術推進事業(ERATO:Exploratory Research for Advanced Technology)「山元アトムハイブリッドプロジェクト」のプレスセミナーを、本学すずかけ台キャンパスにて行いました。プレスセミナーには5社が参加しました。

アトムハイブリッド法は、「デンドリマー(樹状高分子)」と呼ばれるかごのような分子の中に、複数の種類の金属元素を様々な組み合わせで取り込ませ、「サブナノ」サイズ(約1 nm)の微小な金属粒子や合金粒子を創り出す方法で、従来技術では難しかった多種類の元素からなる合金の作製を実現しています。

山元教授は、サブナノ合金微粒子の模型や、3Dプリンタで作ったデンドリマーの模型を使いながら、アトムハイブリッド法についてわかりやすく紹介しました。塚本助教からは、デンドリマーを使うアトムハイブリッド法は「山元アトムハイブリッドプロジェクト」独自の技術で、同様の研究を行っているグループはまだないこと、さらに多種類の金属を組み合わせたサブナノ粒子を合成するために、デンドリマーの構造も工夫していることについて説明がありました。続いて、科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の今岡享稔准教授から、透過型電子顕微鏡を用いたサブナノ粒子観察のデモンストレーションを披露しました。

合金はいろいろな産業分野に応用できるため、新しい合金の創成技術へのメディアの関心は非常に高い様子で、質疑も活発に行われました。

開発の背景とポイント

物質をナノサイズ(10~100 nm)まで小さくしていくと比表面積が増大し、それにともない化学活性も向上することが知られています。このような性質から、ナノ粒子は触媒をはじめとした様々な分野で活用されています。ナノ粒子よりもさらに小さい1 nmほどのサブナノ粒子にすると、物質の性質が劇的に変化することがわかっています。

例えばアルミニウム原子13個からなるサブナノ粒子は、ハロゲンの性質をもつようになりますが、11個や14個の粒子では別の性質を示します。このような原子の数を精密に制御したサブナノ粒子を作ることができれば、卑金属元素に貴金属の性質を持たせたり、全く新しい機能をもたせたりすることが期待できます。

しかし、これまでの技術では、サブナノサイズの粒子を作る際、原子数を精密に制御することや、作製した粒子を安定的に保持することが困難でした。

山元教授らはデンドリマーに着目し、新たに開発したデンドリマーには、金属イオンと結合をつくるイミンと呼ばれるユニットが多数組み込まれています。そのため、このデンドリマーは金属イオンを取り込む能力を持っており、しかも、デンドリマーの内側から順番に金属イオンを配置できる仕組みになっています。このデンドリマーを使うことで、金属元素の種類、原子数、配合比を精密にコントロールできるようになったのです。最終的に、デンドリマーの中に集積した金属イオンを還元させることで、狙ったサブナノ合金粒子を作製することができます。

現在、元素は全部で118種類発見されていて、安定元素は81種類が知られています。この中から希ガス・毒物を除いた70種類がアトムハイブリッド法の対象になりますが、既に50種類以上の元素についてデンドリマーに集積させることに成功しています。

また、1つのデンドリマーの中に複数の種類の金属元素を集積することで、現在6種類の金属元素を混合した合金粒子を作ることに成功しています。

サブナノ粒子の模型を用いて説明する山元教授

サブナノ粒子の模型を用いて説明する山元教授

今後の展望

70種類の元素の合金を考えたとき、元素の種類と配合比の組み合わせは無限にあります。今後の展望として塚本助教から、卑金属元素から高付加価値材料を開発するといった、新しい機能をもつサブナノ粒子の創成の戦略について説明がありました。実際に合成して新しい機能をもつサブナノ粒子を探すという網羅的探索に加えて、コンピュータシミュレーションで、触媒活性や光学特性、磁性などを持つ高機能なサブナノ粒子を予測し合成することも併用していこうと考えていることにも触れられました。

高機能なサブナノ粒子の合成について説明する塚本助教

高機能なサブナノ粒子の合成について説明する塚本助教

透過型電子顕微鏡によるサブナノ粒子の観察

セミナーの場所を実験室に移して行われた透過型電子顕微鏡でのデモンストレーションでは、今岡准教授がカーボン担体上の白金/金/パラジウム三元素サブナノ粒子の実画像を披露しました。さらに原子分解能の実時間ムービー画像と、EDS分析(元素成分分析)データをPC画像(パソコン画像)で説明しました。

サブナノ粒子の分析データを説明する今岡准教授
サブナノ粒子の分析データを説明する今岡准教授

透過型電子顕微鏡
透過型電子顕微鏡

山元公寿教授のコメント

複数種類の金属元素を混ぜると新たな機能をもつことは以前から知られており、触媒、超電導物質、半導体などに使われています。しかし、従来技術での3元素を超える混合は、均一にならなかったり、相分離してしまうなどの問題があります。私たちのアトムハイブリッド法では、最大6種類の金属元素を精密に混合することに成功しています。合成したサブナノ粒子があらたな機能をもつこともわかってきました。サブナノの世界はナノスケールとは全く違う様相をみせ、研究としても産業応用としてもとても魅力的です。この世界の探究をさらに推進し、有用な物質の創成にチャレンジしていきます。

プレスセミナーを行った山元教授(左)と塚本助教(右)

プレスセミナーを行った山元教授(左)と塚本助教(右)

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Tel : 03-5734-2975

メタゲノム・メタボローム解析により大腸がん発症関連細菌を特定 便から大腸がんを早期に診断する新技術

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研究成果のポイント

概要

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の山田拓司准教授と大阪大学 大学院医学系研究科の谷内田真一教授(がんゲノム情報学、前国立がん研究センター研究所 ユニット長)、東京大学 医科学研究所 ヒトゲノム解析センター ゲノム医科学分野(国立がん研究センター研究所 兼任)の柴田龍弘教授、慶應義塾大学先端生命科学研究所の福田真嗣特任教授らの研究グループは、多発ポリープ(腺腫)や大腸がんの患者さんを対象に、凍結便を収集しメタゲノム解析やメタボローム解析を行いました。その結果、多発ポリープ(腺腫)や非常に早期の大腸がん(粘膜内がん)患者さんの便中に特徴的な細菌や代謝物質を同定しました。

これまで進行大腸がんの患者さんの便を用いたメタゲノム解析により、これらの進行大腸がんに特徴的な細菌は特定されていましたが、前がん病変である腺腫や粘膜内がん、すなわち大腸がんの発症のごく初期に関連する細菌については解明されていませんでした。

今回、谷内田教授らの研究グループは、メタゲノム解析により健常者と比較して、前がん病変や粘膜内がんを有する患者さんの便に特徴的な細菌を特定したことに加えて、メタボローム解析を行うことにより病期(病気の進行具合)に伴う腸内代謝物質の変動も検討し、大腸がん発症に関連する腸内環境を明らかにしました。これにより、大腸がんを発症しやすい腸内環境が明らかとなり、大腸がんの予防につながる食事等の生活習慣や腸内環境を改善することにより大腸がんを予防する先制医療が期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Nature Medicine」に、 6月7日(金)0時(日本時間)に公開されました。

研究の背景

大腸がんは胃がんを抜き、日本では一番多いがんとなりました。食事など生活習慣の欧米化がその原因と考えられていますが、そのメカニズムは明らかではありません。

ヒト一人の細胞数は約37兆個で、ヒト一人あたりの腸内細菌数はおよそ40兆個と言われ、重さにして約1~1.5 kgとされています。これらの腸内細菌叢の乱れが炎症性腸疾患など様々な疾患と関係することが、最近になって分かってきました。2012年に、口腔内で歯周病の原因菌として知られるFusobacterium nucleatum(フソバクテリウム・ヌクレアタム)が、大腸がんの患者さんの便中に特徴的に多数存在することが報告され、これまでに検証されています。

大腸がんは、大腸ポリープ(腺腫)、粘膜内がんを経て進行がんへと進展します(多段階発がん)(図1)。これまで、進行した大腸がんにおいて関連する細菌はいくつか特定されてきましたが、進行がんになる前のステージで、大腸ポリープ(腺腫)や粘膜内がんと関連する細菌や代謝物質は知られていませんでした。

がんの多段階発がんと腸内環境の変動

図1. がんの多段階発がんと腸内環境の変動


ポリープ(腺腫)から粘膜内がん、比較的早期のがん(Stage I/II)、進行がん(Stage III/IV)へと進むにつれて、増殖する細菌や代謝産物(Bile acids:胆汁酸、Amino acids:アミノ酸、Isovalerate:イソ吉草酸など)はダイナミックに変動する。本研究では、大腸がんの初期(腺腫・粘膜内がん)に関連する細菌や代謝物質が新たに特定された。

本研究の成果

研究グループでは、国立がん研究センター中央病院 内視鏡科(斎藤豊科長)を受診し、大腸内視鏡検査(大腸カメラ)を受けた616名の受検者を研究対象としました。食事等の「生活習慣などに関するアンケート」調査、凍結便、大腸内視鏡検査所見などの臨床情報を収集しました。東京工業大学(山田拓司准教授ら)や慶應義塾大学先端生命科学研究所(福田真嗣特任教授ら)と共同で、凍結便からメタゲノム解析とメタボローム解析を行い、がんのステージごとに腸内環境の特徴を調べました。

その結果、がんのステージによって便中に増減している腸内細菌が大きく異なることが分かりました(図1)。特に大腸がんの多段階発がん過程において、大腸がんと関連する細菌について大きく二つのパターンに分けることができました。

第一は、粘膜内がんの病期から増加し、病気の進行とともに上昇する細菌です。多くはFusobacterium nucleatumPeptostreptococcus stomatis(ペプトストレプトコッカス・ストマティス)など、既に進行大腸がんで上昇していることが報告されている細菌です。

第二は、多発ポリープ(腺腫)や粘膜内がんの病期でのみ上昇している細菌として、Atopobium parvulum(アトポビウム・パルブルム)やActinomyces odontolyticus(アクチノマイセス・オドントリティカス)が特定され(図2)、これらの細菌が大腸がんの発症初期に関連することが強く示唆されました。

発がんの早期(腺腫や粘膜内がん)に増加し、がんの進行とともに減少する細菌(代表例)

図2. 発がんの早期(腺腫や粘膜内がん)に増加し、がんの進行とともに減少する細菌(代表例)


健常者と比較した場合の有意差検定 +:P<0.05、++:P<0.01、+++:P<0.005(縦軸は便中の細菌相対量を示す)

Bifidobacterium属(ビフィズス菌)の細菌群は、粘膜内がんの病期で減少していました。また酪酸[用語5]産生菌として知られるLachnospira multipara(ラクノスピラ・マルチパラ)やEubacterium eligens(ユウバクテリウム・エリゲンス)は、粘膜内がんの病期から進行大腸がんに至るまで減少していました。

さらにメタボローム解析により、腸内細菌などによる代謝物質を大腸がんのステージごとに解析しました。その結果、多発ポリープ(腺腫)を有する患者さんには、デオキシコール酸という胆汁酸が腸管内に多いことが明らかとなりました。また粘膜内がんを有する患者さんは、健常者と比較して、アミノ酸であるイソロイシン、ロイシン、バリン、フェニルアラニン、チロシン、グリシンが便中に増加していました。一方、分枝鎖脂肪酸であるイソ吉草酸[用語6]は進行大腸がんで増加していました(図3)。

大腸がんの多段階発がんと代謝物質(代表例)

図3. 大腸がんの多段階発がんと代謝物質(代表例)


アミノ酸のうち分枝鎖アミノ酸(イソロイシン、ロイシンとバリンの3種類)と芳香属アミノ酸であるフェニルアラニンとチロシンは、粘膜内がん(S0)の病期で特に増加しているのが特徴的である。胆汁酸のうち二次胆汁酸であるデオキシコール酸は多発ポリープ(MP)、一次胆汁酸であるグリココール酸やタウロコール酸は粘膜内がん(S0)の病期で増加している。一方、分枝鎖脂肪酸であるイソ吉草酸は進行大腸がんで増加している。(縦軸は便中の代謝物質量のnmol/gを示す)
<略字> H:健常者、MP:多発ポリープ(腺腫)、S0:粘膜内がん、SI/II:Stage IとStage II、SIII/IV:Stage IIIとStage IV

これらの大量のメタゲノム解析とメタボローム解析のデータを組み合わせ、腸内細菌、腸内細菌由来遺伝子と腸内代謝物質から、粘膜内がんの患者さんを便で診断するための機械学習モデルを作成しました。このモデルでは、フェニルアラニンの合成に関与する遺伝子やDesulfovibrio longreachensis(デスルホビブリオ・ロングリーチェンシス)、Solobacterium moorei(サロバクテリウム・ムーレイ)などの細菌、ロイシン、バリン、フェニルアラニンなどのアミノ酸が寄与していました(特許出願中)。

また、進行大腸がんの患者さんを便で診断するための機械学習モデルも作成しました。こちらのモデルでは、主に細菌(Parvimonas micra(パルビモナス・ミクラ)、Peptostreptococcus stomatisFusobacterium nucleatumPeptostreptococcus anaerobius(ペプトストレプトコッカス・アナエロビウス))が寄与していることが分かりました。

このように同じ大腸がんにおいても、病気の進行度に伴い、腸内細菌や腸内代謝物質は大きく異なることが明らかになりました。加えて、メタゲノム解析とメタボローム解析を用いて「日本人健常者の腸内環境」も解明されました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、個々人の腸内細菌叢の違いにまで踏み込んでがん予防や治療選択を行う「Microbiome-Based Precision Medicine」時代の幕開けになると考えています。また、食事などの生活習慣との関係を詳細に検討することにより、科学的根拠を踏まえた新たながん予防・治療、それに付随する産業(食品等)など、新たな需要の掘り起こしと成長分野を生み出す潜在性があります。

研究者のコメント

山田拓司准教授

本研究プロジェクトが目指す所は大腸がんの予防、治療、早期発見、作用機序の理解、など実際に実現させるにはまだまだ多くの壁があります。しかしながら、本研究報告は大腸がんと腸内細菌の関わりの一部を明らかにすることができました。ヒト腸内環境は複雑であり、その理解には多くの研究グループが協力して行うチーム型研究を進めることが必須です。本研究は臨床現場の医師、情報解析を行うデータ解析班、そして実際の実験を行う実験チームのそれぞれがうまく協力体制をとることができました。今後も多くの分野と融合していくことで大きな研究へと発展させていきたいと考えています。

谷内田真一教授(大阪大学)

メタゲノム研究は米国にはHMP(Human Microbiome Project)、欧州にはMetaHIT(Metagenomics of Human Intestinal Tract)という国を挙げた巨大プロジェクトがあり、本邦は後塵を拝してきました。がんは「ヒトゲノム(遺伝子)」の病気であるとともに「微生物」の病気であることが解明されつつあります。「がんゲノム医療」が注目されていますが、ヒトゲノムだけでなく、ヒトに住む微生物のゲノムを調べることにより、新たながん予防や治療法の開発が期待されます。

用語説明

[用語1] 粘膜内がん : 大腸がんは大腸の粘膜から発生し、発生して初期の段階では粘膜内にとどまっているが、大きくなるにしたがって次第に粘膜下層、筋層、漿膜下層へと達する。早期大腸がんは、がんの浸潤が粘膜下層までにとどまっているがんで、粘膜内がんと粘膜下層がんに分けられる。粘膜内がんは粘膜にとどまっているごく早期のがんで転移の報告はない。粘膜内がんの場合、大きな手術の必要はなく大腸内視鏡(大腸カメラ)での治療が可能である。

[用語2] メタゲノム解析 : 環境(例えば腸管内の便)中の細菌群集からDNAを丸ごと抽出し、ゲノム配列を次世代シークエンサーで徹底的に解読し(全ゲノム ショットガンシークエンス解析と呼ぶ)、情報解析専門家が系統組成解析(どのような種類の細菌がいるか?)と機能解析(遺伝子配列からどのような機能を有する細菌がいるか?)を行う技術。

[用語3] メタボローム解析 : 糖やアミノ酸など体内にある代謝物質(メタボライト)数百種類以上の含有量を、質量分析計を用いて一度に丸ごと分析する成分分析技術。

[用語4] 先制医療 : 個人のゲノム(遺伝情報)、タンパク質、代謝物質等のバイオマーカーを用いて、将来起こりやすい病気を発症前に診断・予測し、介入するという予防医療。

[用語5] 酪酸 : 腸内細菌による発酵代謝によって腸管内で産生される主要な最終代謝物質である短鎖脂肪酸の一つ。短鎖脂肪酸は大腸の粘膜細胞の主要なエネルギー源であり、粘液の分泌を促進し腸管粘膜のバリア機能に関与。食物繊維が多い食事を摂ると酪酸が増加し、大腸炎を抑制することが近年、報告された。

[用語6] イソ吉草酸 : イソバレリアン酸とも呼ばれる。ごく低濃度では魚、貝、牛乳などの香気成分として香料に用いられるが、臭気を感知できる濃度は非常に低く、悪臭防止法で特定悪臭物質の規制対象となっている。

論文情報

掲載誌 :
Nature Medicine
論文タイトル :
Metagenomic and metabolomic analyses reveal distinct stage-specific phenotypes of the gut microbiota in colorectal cancer
著者 :
Shinichi Yachida1,2, Sayaka Mizutani3, Hirotsugu Shiroma3, Satoshi Shiba1, Takeshi Nakajima4, Taku Sakamoto4, Hikaru Watanabe3, Keigo Masuda3, Yuichiro Nishimoto3, Masaru Kubo3, Fumie Hosoda1, Hirofumi Rokutan1, Minori Matsumoto4, Hiroyuki Takamaru4, Masayoshi Yamada4, Takahisa Matsuda4, Motoki Iwasaki5, Taiki Yamaji5, Tatsuo Yachida6, Tomoyoshi Soga7, Ken Kurokawa8, Atsushi Toyoda9, Yoshitoshi Ogura10, Tetsuya Hayashi10, Masanori Hatakeyama11, Hitoshi Nakagama12, Yutaka Saito4, Shinji Fukuda7,13-15, Tatsuhiro Shibata1,16, Takuji Yamada3,15
所属 :
1大阪大学 大学院医学系研究科 がんゲノム情報学
2国立がん研究センター 研究所 がんゲノミクス研究分野
3東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系
4国立がん研究センター 中央病院 内視鏡科
5国立がん研究センター 社会と健康研究センター 疫学研究部
6香川大学 医学部 消化器・神経内科学
7慶應義塾大学先端生命科学研究所
8国立遺伝学研究所 ゲノム進化研究室
9国立遺伝学研究所 比較ゲノム解析研究室
10九州大学 大学院医学研究院 細菌学分野
11東京大学 大学院医学系研究科 医学部 病因・病理学専攻 微生物学講座
12国立がん研究センター(理事長)
13神奈川県立産業技術総合研究所 腸内細菌叢プロジェクト
14筑波大学 トランスボーダー医学研究センター
15科学技術振興機構 さきがけ
16東京大学 医科学研究所 ヒトゲノム解析センター ゲノム医科学分野
DOI :

加えて、本研究グループはイタリアのNicola Segataらの研究グループならびにドイツのGeorg Zellerらの研究グループと共同研究を行い、多国間で共通する進行大腸がんに特徴的な細菌群を同定しました。その成果により、便から大腸がんを予測する診断法を開発し、米国科学誌「Nature Medicine」の2019年4月号に発表しました。

掲載誌 :
Nature Medicine
論文タイトル :
Metagenomic analysis of colorectal cancer datasets identifies cross-cohort microbial diagnostic signatures and a link with choline degradation
著者 :
Andrew Maltez Thomas, Paolo Manghi, Francesco Asnicar, Edoardo Pasolli, Federica Armanini, Moreno Zolfo, Francesco Beghini, Serena Manara, Nicolai Karcher, Chiara Pozzi, Sara Gandini, Davide Serrano, Sonia Tarallo, Antonio Francavilla, Gaetano Gallo, Mario Trompetto, Giulio Ferrero, Sayaka Mizutani, Hirotsugu Shiroma, Satoshi Shiba, Tatsuhiro Shibata, Shinichi Yachida, Takuji Yamada, Jakob Wirbel, Petra Schrotz-King, Cornelia M. Ulrich, Hermann Brenner, Manimozhiyan Arumugam, Peer Bork, Georg Zeller, Francesca Cordero, Emmanuel Dias-Neto, João Carlos Setubal, Adrian Tett, Barbara Pardini, Maria Rescigno, Levi Waldron, Alessio Naccarati, Nicola Segata
DOI :
掲載誌 :
Nature Medicine
論文タイトル :
Meta-analysis of fecal metagenomes reveals global microbial signatures that are specific for colorectal cancer
著者 :
Jakob Wirbel, Paul Theodor Pyl, Ece Kartal, Konrad Zych, Alireza Kashani, Alessio Milanese, Jonas S Fleck, Anita Y Voigt, Albert Palleja, Ruby P Ponnudurai, Shinichi Sunagawa, Luis Pedro Coelho, Petra Schrotz-King, Emily Vogtmann, Nina Habermann, Emma Niméus, Andrew M Thomas, Paolo Manghi, Sara Gandini, Davide Serrano, Sayaka Mizutani, Hirotsugu Shiroma, Satoshi Shiba, Tatsuhiro Shibata, Shinichi Yachida, Takuji Yamada, Levi Waldron, Alessio Naccarati, Nicola Segata, Rashmi Sinha, Cornelia M. Ulrich, Hermann Brenner, Manimozhiyan Arumugam, Peer Bork, Georg Zeller
DOI :

なお、上記の研究は、日本医療研究開発機構(AMED)「医と食をつなげる新規メカニズムの解明と病態制御法の開発」、「地球規模保健課題開発推進のための研究事業 日米医学協力計画」、国立がん研究センター 研究開発費(25-A-4、28-A-4、29-A-6)、AMED-CREST「疾患における代謝産物の解析および代謝制御に基づく革新的医療基盤技術の創出」、JST戦略的創造研究推進事業「さきがけ」、日本学術振興会科研費、文部科学省科学研究費助成事業「新学術領域研究『学術研究支援基盤形成』」先進ゲノム解析研究推進プラットフォーム(先進ゲノム支援:PAGS)、東京大学医科学研究所共同研究拠点事業、大阪大学先導的学際研究機構生命医科学融合フロンティア研究部門、公益財団法人武田科学振興財団特定研究助成、公益財団法人鈴木謙三記念医科学応用研究財団調査研究の一環として行われ、ライフサイエンス統合データベースセンター 五斗進教授の協力を得て行われました。

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お問い合わせ先

研究に関すること

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系

准教授 山田拓司

E-mail : takuji@bio.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3591 / Fax : 03-5734-3591

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
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反強磁性交換相互作用に起因するダブロン―ホロン間引力の発見 テラヘルツパルスを用いたモット絶縁体の電場効果の精密測定と理論解析

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発表のポイント

概要

強相関電子系において電荷とスピンの自由度の相互作用(電荷―スピン相互作用)は重要な役割を果たすことが知られており、さまざまな特徴的物性が現れる要因となっています。例えば、銅酸化物高温超伝導体におけるクーパー対[用語9]の形成は、スピン間に働く反強磁性交換相互作用Jによる引力に起因することが指摘されています。高温超伝導体の母物質である二次元モット絶縁体では、光励起によってダブロンとホロンという電荷キャリアが生成しますが、この両者の間にもクーパー対の形成と同様の機構による引力の効果で励起子的な束縛状態が形成されると予想されていました。しかし、これまで、その実験的な証拠は得られていませんでした。

産業技術総合研究所 産総研・東大先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ有機デバイス分光チーム(兼東京大学 大学院新領域創成科学研究科 客員研究員)の寺重翼産総研特別研究員(研究当時)、東京大学 大学院新領域創成科学研究科の宮本辰也助教、貴田徳明准教授、岡本博教授(兼産業技術総合研究所 産総研・東大先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ有機デバイス分光チーム ラボチーム長)、産業技術総合研究所 電子光技術研究部門 強相関エレクトロニクスグループの伊藤利充研究グループ長、東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の笹川崇男准教授、東京理科大学 理学部第一部 応用物理学科の遠山貴巳教授らの研究グループは、テラヘルツパルスを利用した電場変調反射分光法[用語10]を異なるJの値を持つ三種の銅酸化物Nd2CuO4、Sr2CuO2Cl2、La2CuO4に適用することにより、二次元モット絶縁体中のダブロンとホロンの引力の起源を調べました。そして、三種の物質において、電場印加による反射率スペクトルの変化を解析することにより、Jの増加に伴いダブロン―ホロン間の引力(束縛エネルギー)が増加することを明らかにしました。実際に、このような傾向をt-Jモデル[用語11]による理論計算によって説明することができました。本研究の結果は、ダブロンとホロンが高温超伝導体のクーパー対と同様にスピン間に働く反強磁性交換相互作用の効果で束縛状態を形成することを明確に示しています。

この発見は、強相関電子系における光励起状態の非平衡ダイナミクスや高温超伝導体の発現機構など未解明の問題に対する深い理解につながることが期待されます。

本研究成果は2019年6月7日付けで、米国科学誌「Science Advances」にオンライン掲載されました。

研究の背景・先行研究における問題点

強相関電子系では、電荷―スピン相互作用によって特徴的な物性が現れます。例えば、ペロブスカイト型マンガン酸化物の超巨大磁気抵抗効果や、銅酸化物の高温超伝導はその典型例です。また、電荷―スピン相互作用は光学的性質にも大きな影響を与えています。これまでの理論研究では、反強磁性的スピン配列を持つ二次元モット絶縁体において光励起された電子とホール(ダブロンとホロン)が、クーロン相互作用だけでなく、電荷―スピン相互作用を介して互いに影響し合い、励起子的な束縛状態を形成することが予想されていました(図1)。この機構は、ドープされた銅酸化物におけるクーパー対に働く引力相互作用の機構と似通っており、電荷―スピン相互作用による励起子効果が存在することが示唆されます。

励起子効果を調べるための有効な手法として試料に電極を付けて交流電場を印加し、反射率変化を測定する電場変調反射分光法がしばしば用いられています。しかし、銅酸化物モット絶縁体では、電気抵抗が比較的小さいため、強い電場を印加すると大きな電流が流れて試料が破壊されてしまいます。そのため、電場変調反射分光を適用することができず、励起子効果を詳しく調べることは行われていませんでした。

図1. 二次元モット絶縁体において、スピン間に働く反強磁性交換相互作用により生じるダブロン(D)―ホロン(H)間の引力の概念図。

図1. 二次元モット絶縁体において、スピン間に働く反強磁性交換相互作用により生じるダブロン(D)―ホロン(H)間の引力の概念図。

(A)基底状態。隣接サイト間のスピンが互いに反平行であり、反強磁性交換相互作用Jのエネルギー利得が生じている。(B)ダブロンとホロンが離れたサイトに存在する状態。ダブロンとホロンの位置でスピンが消滅することで、これらと隣接サイトとの反強磁性交換相互作用の利得がなくなり、エネルギーが8J上昇する。(C)ダブロンとホロンが隣接サイトに存在する状態。ダブロンとホロンが隣接しているため、スピンが消滅することによるエネルギーの上昇は7Jとなる。この値は、(B)の場合よりも小さい。このように、スピン間に働く反強磁性交換相互作用の効果でダブロンとホロンの間にJ程度の束縛エネルギーが生じる。

研究内容

上記の問題を克服するために本研究グループは、テラヘルツパルスをポンプ光として利用したポンプ―プローブ分光法を開発しました。時間幅がわずか1ピコ秒の電場パルスである、ほぼ単一サイクルのテラヘルツパルスを外部電場として利用することで、ほとんど電流を流さずに100 kV/cmを遥かに超える電場を印加することが可能です。この手法によって、従来の電場変調分光が適用できなかった物質においても電場を印加したときの反射率スペクトルの変化を測定することが可能となりました。

本研究では、スピン間に働く反強磁性交換相互作用Jが異なる三種の二次元モット絶縁体Nd2CuO4、Sr2CuO2Cl2、La2CuO4を対象とし、電場印加による反射率スペクトルの変化を系統的に測定しました。その結果を三次の非線形光学効果[用語12]の枠組みで解析し、三次の非線形感受率X(3)スペクトルを計算しました。得られたX(3)スペクトルを、基底状態|0⟩、奇の対称性を持つ一光子許容の励起子状態|1⟩、偶の対称性を持つ一光子禁制の励起子状態|2⟩の三つの準位を考慮したモデルを用いて解析しました。その結果、偶の対称性を持つ励起子状態は奇の対称性を持つ励起子状態の低エネルギー側に位置することが明らかとなりました(図2)。これは、スピンの自由度と電荷の自由度が分離される一次元モット絶縁体において二つの励起子状態のエネルギー準位がほぼ縮退することとは対照的であり、二次元モット絶縁体の特徴を表しています。この二つの励起子状態のエネルギー差は、偶の対称性を持つ励起子を構成するダブロン―ホロン対の束縛エネルギーに対応しますが、これがJの増加と共に増大することが明らかになりました(図3)。実際に、この傾向は、t-Jモデルを用いた理論計算によって再現することができました。t-Jモデルによる計算では、奇の対称性を持つ励起子はp波の対称性[用語13]を持ち、偶の対称性を持つ励起子がs波の対称性[用語13]を持つことが予測されていましたが(図2)、本研究の実験結果はそれに合致するものとなりました。

図2. 銅酸化物モット絶縁体のエネルギー準位構造と励起子の波動関数の概念図。

図2. 銅酸化物モット絶縁体のエネルギー準位構造と励起子の波動関数の概念図。

一光子禁制である偶の対称性の励起子状態がs波対称性を持ち、最低エネルギー励起状態となり、一光子許容である奇の対称性の励起子状態がp波対称性を持ち、より高いエネルギーの励起状態となる。後者はダブロン―ホロン連続状態に近接しているため、二つの励起子状態のエネルギー差が最低の偶の励起子状態の束縛エネルギーの目安となる。

図3. 三種類の銅酸化物モット絶縁体における奇と偶の励起子状態のエネルギー差。

図3. 三種類の銅酸化物モット絶縁体における奇と偶の励起子状態のエネルギー差。

これが最低エネルギーの偶の対称性を持つ励起子状態の束縛エネルギーの目安となる。反強磁性交換相互作用Jが大きいほど束縛エネルギーが大きくなることが分かる。

社会的意義・今後の予定

本研究では、二次元モット絶縁体において、スピン間に働く反強磁性交換相互作用を介してダブロン―ホロン間に引力が働くことを実証しました。これは、銅酸化物高温超伝導体のクーパー対に働く引力相互作用と類似した機構であるため、クーパー対の形成機構の理解につながると期待されます。

モット絶縁体においては、これまでに超高速の光非線形性や光誘起金属化など、興味深い光誘起現象が見いだされてきました。これらの現象を解明するには、光励起後の電子系の非平衡ダイナミクスに本質的な効果を及ぼす電荷―スピン相互作用の役割を明らかにする必要があります。さらに本研究グループでは、銅酸化物の一つであるNd2CuO4において、光キャリアの生成に伴って生じるスピン系の超高速ダイナミクスを捉えることにも成功しています。本研究で明らかとなったダブロン―ホロン対のエネルギー準位構造は、この非平衡ダイナミクスを解明するにも役立つと考えられます。今後は、情報科学的な手法を取り入れた理論解析手法を用いることにより、光照射や電場印加によって生じる反射率スペクトルの変化を可能なかぎり正確に再現し、電子(スピン)系の非平衡ダイナミクスの詳細な理解を目指します。

本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「計測技術と高度情報処理の融合によるインテリジェント計測・解析手法の開発と応用」(研究総括:雨宮慶幸 東京大学大学院新領域創成科学研究科 特任教授)における研究課題「強相関系における光・電場応答の時分割計測と非摂動型解析」(課題番号JPMJCR1661、研究代表者:岡本博 東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授、研究期間 : 平成28~33年度)、および日本学術振興会科学研究費助成事業(課題番号:JP25247049)の一環で実施されました。

用語説明

[用語1] モット絶縁体 : 固体において、価電子帯が半分または部分的にしか満たされていない場合、通常のバンド理論では金属状態となる。しかし、電子間に強いクーロン相互作用が働く場合は、電子は互いを避け合って各サイトに局在して絶縁体となる。この時、元のバンドは上部ハバードバンドと下部ハバードバンドに分裂し、エネルギーギャップが生じる。このような絶縁体を、モット絶縁体と呼ぶ。

[用語2] テラヘルツパルス : 本稿では、約1 テラヘルツ(1 THz=1012 Hz )の周波数、および、約1ピコ秒(=10-12秒)の時間幅を持つほぼ単一サイクルの電磁波パルスのことをテラヘルツパルスと呼ぶ。このパルスは、光子エネルギーに換算すると約4ミリエレクトロンボルト(meV)となる。

[用語3] ポンプ―プローブ分光法 : ある物質にポンプ光(強い光)を照射した場合に生じる電子状態変化を、プローブ光(弱い光)に関する光学定数(反射率や透過率)の変化で検出することにより調べる手法。プローブ光の光子エネルギーを変化させることによって過渡的な光学スペクトルの変化を測定することができる。ポンプ光とプローブ光にはいずれもパルス光を用いる。本研究ではポンプ光をテラヘルツパルスに、プローブ光を可視から中赤外域のフェムト秒パルスとしたポンプ―プローブ分光測定を行っている。

[用語4] ダブロンとホロン : 本研究で対象とした銅酸化物は一つのサイトに一つの電子が存在する系であり、モット絶縁体となっている。この系において、一つのサイトに二つの電子が存在する状態は負電荷を、電子が存在しない状態は正電荷を持つが、負電荷をダブロン、正電荷をホロンと呼ぶ。光励起すると、これらが対となって生成される。その状態をダブロン―ホロン対と呼ぶ(図1)。

[用語5] 励起子 : 電子とホールの間に引力が働くことによって生じる束縛状態。通常の半導体やイオン結晶では、電子とホールにクーロン引力が働くことにより励起子が形成される。本研究の結果から、モット絶縁体である銅酸化物では、スピン間に働く反強磁性交換相互作用の効果でダブロンとホロンの間に引力が働き励起子が形成されることが明らかとなった。

[用語6] 反強磁性交換相互作用 : 隣接サイト(原子や分子)にある電子のスピンの向きが、互いに逆方向になるように働く相互作用。これは電子が少しでも隣接サイトに飛び移れる方がエネルギー的に安定することによる。また、この相互作用によって隣接サイト同士のスピンが全て互いに逆方向に揃っている状態は反強磁性スピン配列と呼ばれる。

[用語7] 強相関電子系 : 電子間に強いクーロン相互作用が働く系の総称。絶縁体―金属転移や高温超伝導など、興味深い物性が現れるため、物性物理や物質科学の分野で盛んに研究されている。

[用語8] 光励起状態の非平衡ダイナミクス : 物質に光を照射すると、その物質は光照射前の平衡状態(基底状態)とは異なる電子状態となる。通常の半導体であれば、バンドギャップを超えるエネルギーを持つ光を照射した場合、電子キャリアとホールキャリアが生成する。その後、生成したキャリアが様々な過程を経て再結合し、元の基底状態へ戻る。このように、光励起後の物質の電子状態の動的挙動を光励起状態の非平衡ダイナミクスと呼ぶ。強相関電子系の場合は、電子間に強いクーロン相互作用や電荷―スピン相互作用が働くため、非平衡ダイナミクスは一般に複雑になる。例えば、モット絶縁体に光を照射すると絶縁体から金属への相転移が生じることが知られているが、その過程での電子やスピンのダイナミクスは極めて複雑なものになる。このような現象(光誘起相転移)は、新しい物性物理のパラダイムとして注目され、盛んに研究されている。

[用語9] クーパー対 : 超伝導状態の起源となる二つの電子(あるいはホール)の対のこと。二つの電子は、スピンが互いに逆向きで、合計の角運動量は0となっている。電子は、単独ではフェルミオンであるが、対になることでボゾンになる。そのため最低エネルギー状態に集団で凝縮することが可能となり、超伝導状態が実現する。二つの電子に働く引力は、通常の超伝導体ではフォノンによるが、銅酸化物高温超伝導体ではスピンの揺らぎによることが示唆されている。

[用語10] 電場変調反射分光法 : 電場印加による光の反射率変化を測定する非線形分光法。この手法を用いて、線形分光では検出できない一光子禁制の偶の対称性を持つ励起状態のエネルギーや三次の非線形感受率の大きさを決定することができる。

[用語11] t-Jモデル : ハミルトニアンに、電子の最近接ホッピングtと、隣接するスピン間に働く反強磁性交換相互作用Jを含めたモデル。本研究では、ホロンとダブロンのホッピング項として、最近接tだけでなく、第二最近接t’、第三最近接t”も含んでいる。t’t”はダブロンとホロンの非対称性を表すために必要な項である。また、このモデルに、ダブロン―ホロン間のクーロン相互作用(-V)を含めることも可能である。本研究において、銅酸化物モット絶縁体では、Vの効果は励起子効果の大きさに大きな影響を与えないことが示されている。

[用語12] 非線形光学効果 : 物質に光を照射すると、通常は光の電場に比例した分極が生じる(線形応答)。電場が大きくなると、電場の2乗あるいは3乗に比例した分極が現れる場合があるが、これは非線形光学効果と呼ばれる。銅酸化物のように反転対称性がある系では、最低の非線形光学効果は三次となる。この三次の非線形光学効果を利用すると、ある光に対する光学定数を、他の光や電場によって変化させることが可能となる。三次の非線形感受率は、三次の非線形光学効果の大きさを表す指標である。

[用語13] p波(s波)の対称性 : 軌道角運動量l = 0、1、2の状態をそれぞれs波、p波、d波という。ダブロンとホロンの2粒子の場合は、軌道角運動量は両者の相対角運動量を指す。通常の超伝導体におけるクーパー対はs波の対称性を持つ。一方、銅酸化物高温超伝導体におけるクーパー対はd波の対称性を持ち異方的であることが知られている。クーパー対は同種の粒子からなるが、励起子はダブロンとホロンという互いに反対の電荷を持つ粒子からなる。この電荷の符号の違いによって、最近接ホッピングtの符号がクーパー対の場合と異なる。この符号の違いが波動関数の位相に影響を与えることになりダブロン―ホロン対はs波対称性となる。

論文情報

掲載誌 :
Science Advances
論文タイトル :
Doublon-holon pairing mechanism via exchange interaction in two-dimensional cuprate Mott insulators
著者 :
T. Terashige, T. Ono, T. Miyamoto, T. Morimoto, H. Yamakawa, N. Kida, T. Ito, T. Sasagawa, T. Tohyama, and H. Okamoto
DOI :

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「異分野融合研究支援」を創設 3チームに授与 東工大リサーチフェスティバル等から生まれた研究

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「異分野融合研究支援」の初回となる授与式が5月29日、東工大大岡山キャンパスにて行われました。

支援採択者との記念撮影

支援採択者との記念撮影
(前列左から坂本啓准教授、澤田敏樹助教、益一哉学長、渡辺治理事・副学長(研究担当)、近藤正聡准教授
後列左から岡田健一教授、佐藤伸一助教、門之園哲哉助教、オ ミン ホ助教、千々和伸浩准教授)

「異分野融合研究支援」は、学内における研究分野の多様性を活かした異分野融合研究を推進するため、第2回東工大リサーチフェスティバル(Tokyo Tech Research Festival 2018、TTRF)などから生まれた研究チームを支援する目的で東工大基金を活用して創設されました。

第1回目となる今回は厳正な審査の結果、3チーム 10名の研究者が選出されました。

「異分野融合研究支援」採択者一覧

所属
職名
氏名
研究課題
物質理工学院
応用化学系別窓
助教
小型バイオ医薬の高精度な病変部送達を実現する革新的ランチャー型デリバリーシステムの創製
生命理工学院
生命理工学系別窓
助教
科学技術創成研究院
化学生命科学研究所別窓
助教
科学技術創成研究院
先導原子力研究所別窓
准教授
資源循環型社会を実現する易融金属繊維補強コンクリートに関する研究
環境・社会理工学院
土木・環境工学系別窓
准教授
物質理工学院
材料系別窓
助教
工学院
機械系別窓
准教授
折り紙技術を用いた展開式・非平面アレーアンテナの試作と評価
教授
助教
助教

(敬称略)

授与式では、益一哉学長から採択者に証書を授与し、渡辺治理事・副学長(研究担当)より、今後いっそうの活躍を期待する激励の言葉がありました。次いで採択チームの代表者より、採択された研究についての研究紹介が行われました。

澤田敏樹助教チームと研究紹介

メンバー

左から佐藤助教、澤田助教、益学長、渡辺理事・副学長、門之園助教
左から佐藤助教、澤田助教、益学長、
渡辺理事・副学長、門之園助教

澤田敏樹助教(物質理工学院 応用化学系)

門之園哲哉助教(生命理工学院 生命理工学系)

佐藤伸一助教(科学技術創成研究院 化学生命科学研究所)

澤田チーム研究紹介

近藤正聡准教授チームと研究紹介

メンバー

左からオ助教、近藤准教授、益学長、渡辺理事・副学長、千々和准教授
左からオ助教、近藤准教授、益学長、
渡辺理事・副学長、千々和准教授

近藤正聡准教授(科学技術創成研究院 先導原子力研究所)

千々和伸浩准教授(環境・社会理工学院 土木・環境工学系)

オ ミン ホ助教(物質理工学院 材料系)

近藤チーム研究紹介

坂本啓准教授チームと研究紹介

メンバー

左から坂本准教授、益学長、渡辺理事・副学長、岡田教授 ※白根助教、戸村助教は欠席しました。
左から坂本准教授、益学長、渡辺理事・副学長、岡田教授
※白根助教、戸村助教は欠席しました。

坂本啓准教授(工学院 機械系)

岡田健一教授(工学院 電気電子系)

白根篤史助教(工学院 電気電子系)

戸村崇助教(工学院 電気電子系)

坂本チーム研究紹介

研究発表の後は、支援採択者と益学長、渡辺理事・副学長を始めとした審査員を交えた懇談が行われ、活発な意見交換がなされました。

澤田助教によるプレゼンテーション
澤田助教によるプレゼンテーション

懇談する益学長と各チーム
懇談する益学長と各チーム

お問い合わせ先

研究推進部 研究企画課 研究企画第1グループ

E-mail : kenkik.kik1@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2327

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