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NHK BSプレミアム「驚き!ニッポンの底力 ロボット王国物語」に鈴森教授、遠藤准教授が出演

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工学院 機械系の鈴森康一教授、遠藤玄准教授がNHK BSプレミアム「驚き!ニッポンの底力 ロボット王国物語」に出演します。「驚き!ニッポンの底力」シリーズは、「ブレイクスルーの物語」、「お宝映像の発掘」、「日本を元気にする」の3つをキーワードに、世界に誇る日本の技術力を紹介する番組です。これまでに、建築・土木、鉄道、自動車、航空機など日本を代表する産業を取り上げて紹介してきましたが、今回は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて注目が高まる「ロボット」を特集。東工大大岡山キャンパスの百年記念館をスタジオとして収録が行われ、東工大のロボットの他にも有名なロボット達が百年記念館に集結。鈴森教授は日本のロボット研究の案内役としても登場し、番組を盛り上げました。

鈴森教授と人工筋肉を使った筋骨格ロボット
鈴森教授と人工筋肉を使った筋骨格ロボット

遠藤准教授と四脚歩行ロボット「タイタン13」
遠藤准教授と四脚歩行ロボット「タイタン13」

コメント

鈴森教授

東工大百年記念館をメインスタジオに、丸一日かけた楽しい収録でした。司会の高橋克典さん、ゲストのテリー伊藤さん、市川紗椰さん、ハマカーンさんはいずれもなかなかの「ロボットオタク?」でロボット談議で盛り上がりました。私たちのロボットも含め、過去から最新まで様々なロボットが登場します。

遠藤准教授

スタジオ収録は東工大で行われましたが、日本の主要なロボットも広く取材されていて最新の情報が網羅されており、とても充実した番組です。私たちの研究室で開発した四脚歩行ロボット「タイタン13」(TITAN-XIII)や、初公開となる全長10mの垂直多関節ロボット「スーパードラゴン」(Super Dragon)も登場します。ライブでの「スーパードラゴン」のデモンストレーションは大変緊張しました。放送を楽しみにしています。

番組情報

  • 番組名
    NHK BSプレミアム「驚き!ニッポンの底力 ロボット王国物語」
  • 放送予定日
    2018年10月10日(水)21:00 - 22:30
<$mt:Include module="#G-05_工学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975


菅野了次教授が山﨑貞一賞を受賞

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科学技術創成研究院 全固体電池研究ユニットの菅野了次教授が、第18回山﨑貞一賞を受賞することが決定しました。

山﨑貞一賞(正式名称:一般財団法人材料科学技術振興財団山﨑貞一賞)は、科学技術水準の向上とその普及啓発に寄与することを目的とし、同財団の初代理事長を務めた故山﨑貞一氏の科学技術および産業の発展に対する功績、人材の育成に対しての貢献を記念して創設された賞です。「材料」、「半導体及び半導体装置」、「計測評価」、「バイオサイエンス・バイオテクノロジー」の4分野において、論文の発表、特許の取得、方法・技術の開発等を通じて、実用化につながる優れた創造的業績をあげている方が授賞対象となっています。

この度の菅野教授の受賞は、材料分野となり、「新規リチウムイオン伝導体の創成と全固体電池の開発」に対するものです。

贈呈式は、2018年11月21日(水)に日本学士院で行われる予定です。

菅野教授のコメント

菅野了次教授
菅野了次教授

歴史ある山﨑貞一賞を受賞することは、私にとって大変な名誉です。これまでに受賞された方々の業績を改めて拝見しますと、身の引き締まる思いがします。

特に、私自身は、東工大で加藤与五郎先生が創設された電気化学科の流れを組む専攻で、長年研究開発を行ってきたこともあり、加藤与五郎先生と武井武先生のフェライトの発明を事業化された山﨑貞一先生が創設された賞を受賞できたのを、たいへん嬉しく思います。

さらに、私たちの研究グループが物質開発から電池開発に大きな成果をあげることができたのは、ひとえに、一緒に研究を行ってきた非常に優秀な共同研究者・技術者の方々、そして苦労と発見の喜びを共にしてきた研究室の学生の方々の努力があってのことです。この場を借りて厚く御礼申し上げます。

この受賞のテーマとなった技術が、社会に大きく貢献するまでに育つには、さらなる技術開発の進展が必要です。そのための一層の努力をする所存です。

お問い合わせ先

研究企画課 研究企画第1グループ

Email : kenkik.kik1@jim.titech.ac.jp

ほぼ全ての脊椎動物に共通するフェロモン受容体を発見 1細胞-1受容体ルールを破るフェロモン受容体

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要点

  • 種間での共通性がないというフェロモン受容体のこれまでの定説を覆す
  • シルル紀の祖先から受け継いだフェロモン受容体を発見
  • 脊椎動物のフェロモン受容の起源や進化の解明に大きな期待

概要

東京工業大学 生命理工学院の二階堂雅人准教授と鈴木彦有大学院生(研究当時:博士後期課程、現:日本バイオデータ)、バイオ研究基盤支援総合センターの廣田順二准教授、生命理工学院の伊藤武彦教授が中心の研究グループは、115種におよぶ生物種の全ゲノム配列を網羅的に解析して、ほぼ全ての脊椎動物が共有する極めて珍しいタイプのフェロモン受容体遺伝子を発見しました。

一般的に、フェロモンやその受容体は多様性が大きく、異なる種間での共通性は極めて低いことが知られています。しかし、今回新たに発見された遺伝子は、古代魚のポリプテルスからシーラカンス、そしてマウスなどの哺乳類におよぶ広範な脊椎動物で共通であるという驚くべき特徴を備えていました。

これは4億年に亘る脊椎動物の進化の歴史において、この受容体が太古の祖先から現在に至るまで高度に保存されてきたことを意味し、フェロモン受容の要となる中心的な機能を担っている可能性を示唆しています。この発見はフェロモン受容の進化的起源の謎を解く重要な成果であり、今後はフェロモンの生理機能の解明や、様々な家畜種に共通した繁殖管理技術の開発にもつながると期待されます。

この成果は、2018年9月24日に米国の学術誌『Molecular Biology and Evolution』に掲載されました。

研究の背景と経緯

地球上の多くの生物にとって、子孫を残すための生殖システムはもっとも重要で不可欠なものと言えます。そして、脊椎動物におけるフェロモン受容は、この生殖システムの中心的役割を果たしています。フェロモンは、ある個体が分泌し同種内の別個体が受容することで、生得的な行動や生理的変化を引き起こす化学物質のことを指します。特に同種の異性を誘引する働きがあることはよく知られています。

V1Rフェロモン受容体は、哺乳類の鋤鼻器(じょびき)[用語1]に存在する神経細胞(鋤鼻神経細胞)で発現し、様々なフェロモンを受容します。このV1R受容体は多重遺伝子族[用語2]を形成し、種間での遺伝子数やレパートリーが非常に多様であることが分かっています。異なる種間ではフェロモンやV1R受容体の種類が異なっており、このことが種に特異的な行動の誘導や、同種内のみでの繁殖を可能にしていると考えられています。また、鋤鼻器には多くの神経細胞が存在しますが、個々の神経細胞は数あるV1R遺伝子の中からただ1種類のみを選択して発現するという「1細胞-1受容体」ルール[用語3]が存在します。そして、鋤鼻器は発現するV1Rの種類によって異なる多様な個性をもった神経細胞の集団を有することになり、それが様々なフェロモンの受容や識別を可能にしています。

二階堂准教授らの研究グループは、進化生物学研究の一環として、フェロモンを介した種分化の研究を進めており、これまでにタンザニアの湖に生息する熱帯魚や霊長類、さらにはシーラカンスのV1R受容体遺伝子群の単離と進化解析を行ってきた経緯があります。今回は、研究対象種をより広範な脊椎動物に広げてゲノムの網羅解析をしたところ、以下の興味深い発見に至りました。

研究成果

研究グループは広範な種の脊椎動物計115種の全ゲノム配列を対象に、V1Rフェロモン受容体遺伝子群の網羅的な探索と得られた配列の系統解析を行いました。その結果、ほぼ全ての脊椎動物に共通する例外的なV1R遺伝子が存在することを発見しました。V1Rは種間での多様性が大きく、異なる種では同じV1Rを共有していないと考えられてきました。しかし、今回見つかったV1R遺伝子は、古代魚と呼ばれる下位条鰭類のポリプテルスやガー、肉鰭類のシーラカンス、さらにカエルやトカゲ、マウスなどの哺乳類といったほぼ全ての脊椎動物に共通しているという、驚くべき特徴をもっていました。脊椎動物の進化に照らし合わせて考えると、このV1R受容体遺伝子の起源は今から4億年以上前のシルル紀にまで遡ることが分かりました(図1参照)。このV1Rはこれまでに見つかっていない新規遺伝子であったため、研究グループはこれをancV1R(ancient:起源が古いという意味を含めた)と名付け、さらなる解析を進めました。

脊椎動物の進化とancV1Rの進化シナリオ

図1. 脊椎動物の進化とancV1Rの進化シナリオ

脊椎動物の進化の過程でancV1Rはサメの分岐した後に誕生し、その後は広範なグループで保持されてきた。黒色で表した種は機能的なancV1R配列をもつ種で、灰色はancV1Rが偽遺伝子化した種を表す。ancV1Rの誕生と欠失のタイミングをそれぞれ黒色と灰色の丸印で表した。

注目すべき重要な発見として、いくつかの種においては、このancV1R遺伝子に変異が入り偽遺伝子[用語4]化し、その受容体としての機能を消失していたことです。たとえばクジラやヒトを含めた高等な霊長類、鳥、ワニなどです。興味深いことにこれらの種では、フェロモン受容するための鋤鼻器が退化しているという共通点がありました。つまりancV1Rは鋤鼻器において中心的な役割を担っているものの、鋤鼻器が退化した種ではその役割を失ったため偽遺伝子化したと予想できます。

さらに研究グループは、マウスの鋤鼻器におけるancV1Rの遺伝子発現をin situハイブリダイゼーション法[用語5]で確認したところ、鋤鼻器の全体に渡る広い発現が確認されました(図2参照)。従来のV1Rが「1細胞-1受容体」ルールに従ってまばらに発現していることを考えると、今回ancV1Rで見られた全ての鋤鼻神経細胞における発現は、極めて興味深い知見です。この結果は、1つの鋤鼻神経細胞にはancV1Rと、既知のV1Rのどれか1種類とが共発現(1細胞-2受容体)していることを示唆し、これまでの定説を大きく覆すことになります。ancV1Rのこのような発現は、マウス以外にもマーモセット、ネコ、ヤギ、カエルでも確認されたことから(図2参照)、ancV1Rを持つ生物種に共通した現象であることも分かりました。

本研究で発見したフェロモン受容体遺伝子ancV1Rは、脊椎動物が古くから共通に保持してきたこと/鋤鼻器が退化した生物では偽遺伝子化していること/鋤鼻神経細胞全てに発現していること、全て考え合わせると鋤鼻器を介したフェロモン受容には、まだ解明されていない未知の機構が存在すると考えられます。今回の成果は、その未知の機構をancV1Rが担っている可能性を示唆し、今後の研究がさらに大きく展開することが期待できます。

鋤鼻器におけるancV1Rの発現パターン

図2. 鋤鼻器におけるancV1Rの発現パターン

各脊椎動物の鋤鼻器の凍結切片を用いてancV1Rの遺伝子発現を調べた結果、ほぼ全ての鋤鼻神経細胞にその発現を示すシグナルが得られた。これは様々な生物種で共通であった。

今後の展開

ancV1Rの分子生物学的な機能の解明は、フェロモン受容に関わる情報伝達系のメカニズムのさらなる理解に欠かせません。本研究グループはすでにancV1Rの欠損マウスの作製に着手しており、今後はその表現型観察から研究を進めていく予定です。ancV1Rは進化的に古くから保存された遺伝子であることから、鋤鼻器の起源やその進化的変遷を理解する上で重要な知見を得られると考えられます。

ancV1Rは、脊椎動物に共通に存在する受容体であるため、多くの家畜動物に対して共通に作用して生殖を促すような化学物質の探索も可能となり、農産業の分野にも大きな意義をもたらすことが期待されます。

ただし、ヒトancV1R遺伝子はすでに偽遺伝子化してその機能を失っているため、残念ながら今回の発見が私たちの夢みるヒトフェロモンの研究に直接つながることはなさそうです。

研究体制

本研究は、東京工業大学 生命理工学院、東京工業大学 バイオ研究基盤支援総合センター、東京都医学総合研究所、岩手大学 農学部、農業・食品産業技術総合研究機構、京都大学 野生動物研究センター、東京慈恵会医科大学 解剖学講座、東京大学 大学院新領域創成科学研究科に所属する研究者の共同で進められました。

研究サポート

本成果は主に、文部科学省(MEXT)/日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金、旭硝子財団、倉田記念日立科学技術財団のサポートを受けておこなわれました。

用語説明

[用語1] 鋤鼻器 : 四足動物が持つフェロモン受容に特化した嗅覚器官であり、匂いを感じる主嗅上皮とは独立した器官。発見者の名前にちなんでヤコブソン器官とも呼ばれる。我々ヒトでは鋤鼻器は退化していると考えられている。

[用語2] 多重遺伝子族 : ある1つの遺伝子配列が重複を繰り返すことで作られた遺伝子の集まり。一般的には配列上の相同性も高く機能的にも似たタンパク質をコードする。例えばマウスには187個、ラットには106個、ウシでは40個の機能的なV1R遺伝子が存在している。

[用語3] 「1細胞-1受容体」ルール : 嗅覚受容体の研究により明らかにされた現象で、多数存在する受容体のうちどれか1種類が発現すると他の受容体の発現を抑える負のフィードバックが働くため、1つの嗅神経細胞には1種類の受容体のみが発現する機構。

[用語4] 偽遺伝子 : 変異が入ることで、タンパク質をコードしなくなったDNA配列のことを指す。多くの場合はコードするタンパク質が生体にとって役割を失うことで進化的な制約が緩み、偽遺伝子化が起こる。

[用語5] in situハイブリダイゼーション法 : 組織中における目的遺伝子の発現部位を調べる方法。今回は鋤鼻器の凍結組織切片に、ラベルを入れたancV1R遺伝子のmRNA相補鎖を結合させることで、その発現パターンを可視化した。

論文情報

掲載誌 :
Molecular Biology and Evolution 2018 (in press)
論文タイトル :
A single pheromone receptor gene conserved across 400 million years of vertebrate evolution
著者 :
Hikoyu Suzuki, Hidefumi Nishida, Hiro Kondo, Ryota Yoda, Tetsuo Iwata, Kanako Nakayama, Takayuki Enomoto, Jiaqi Wu, Keiko Moriya-Ito, Masao Miyazaki, Yoshihiro Wakabayashi, Takushi Kishida, Masataka Okabe, Yutaka Suzuki, Takehiko Ito, Junji Hirota, Masato Nikaido
DOI :
<$mt:Include module="#G-11_生命理工学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系 准教授

二階堂 雅人(にかいどう まさと)

E-mail : mnikaido@bio.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2659 / Fax : 03-5734-2946

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

量子アニーリングマシンの技術開発を推進するNEDOプロジェクトに採択 Society 5.0の中核を担う次世代コンピューティング技術を目指して

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国立研究開発法人新エネルギー・産業開発総合開発機構(NEDO)の新規事業「高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発」に、東京工業大学が共同提案者として加わる研究開発プロジェクト2件が採択されました。科学技術創成研究院 量子コンピューティング研究ユニットの西森秀稔教授らのグループは、量子アニーリングマシン[用語1]をはじめとするイジングマシン[用語2]を汎用的に使用できる「共通ソフトウェア基盤の研究開発」、ならびに「超電導パラメトロン素子を用いた量子アニーリング技術の研究開発」のプロジェクトにそれぞれ参加します。

西森秀稔教授
西森秀稔教授

背景

今日の私たちが暮らす情報社会の次に訪れる未来社会として、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会「超スマート社会(Society 5.0)」が提唱されています。この社会の実現に向けて、IoT(Internet of Things、モノのインターネット)やAI技術などを基軸とした製品・サービスが社会実装されていくことが求められますが、それを実現するにあたり生じる「データ量の増大」「消費エネルギーの増大」が課題として挙げられています。

これらの課題を解決するために、既存技術の延長線上には無い、高速化と低消費電力化を両立する次世代コンピューティング技術が注目されます。本プロジェクトを通じ、ソフト・ハード双方の面から量子アニーリングマシンの技術開発を一層促進し、きたるSociety5.0を支える新技術としての確立を目指します。

イジングマシン共通ソフトウェア基盤の研究開発 (事業代表者:早稲田大学)

参加機関

早稲田大学、東京工業大学、情報・システム研究機構 国立情報学研究所、産業総合技術研究所、豊田通商株式会社、株式会社フィックスターズ、日本電気株式会社(以下、NEC。NECは早稲田大学の共同実施先)

研究開発概要

Society5.0実現のため、先進的なモビリティサービスやスマートファクトリ、金融、創薬など多様な産業分野におけるディジタライゼーションの進展と、これに伴う高性能コンピューティングに対する社会的要請が高まっています。「最適化問題」、特に「組合せ最適化問題[用語3]」は、Society5.0を実現する産業分野の至るところに内在し、難しいクラスの組合せ最適化問題であっても高速に最適解を求めることが、Society5.0の実現の成否を決めることになると言われています。

ここで組合せ最適化問題の高速解法のブレークスルーとして期待されているのが、量子アニーリングマシンをはじめとするイジングマシンです。いくつかのサンプルデータによれば、イジングマシンを活用することにより高速に組合せ最適化問題を解決できると言われています。しかも量子アニーリングマシンを支える基盤技術、例えば、超電導量子ビットや量子アニーリングによる組合せ最適化問題の高速解法はいずれも、90年代にわが国で提案され実証されたものです。

こうした背景のもと、現在、わが国でも量子アニーリングマシンや半導体によるイジングマシンをはじめ、活発にイジングマシンの研究開発が行われ、さまざまなイジングマシンハードウェアが提案・開発されています。ところが、現実課題とこれを解決するイジングハードウェアとの間に大きな乖離があり、いかにこの「乖離」を埋めるか、すなわち現実課題とイジングマシンとの中間層に、さまざまなイジングマシンアーキテクチャにとって共通的に動作する「ソフトウェア基盤」を構築するかが大きな問題となっています。

そこで本研究開発では、これらの問題を解決するため、現実課題とイジングマシンハードウェアの中間層として、ミドルウェア群および共通API[用語4]等から構成される共通ソフトウェア基盤を研究開発します。その結果、現在までに開発された国内外のイジングマシンだけでなく、将来開発されることが見込まれるさまざまなイジングマシンにとって、共通的なソフトウェア基盤を提供することを可能とし、現実課題とイジングマシンハードウェアとの乖離を解消し、多様なイジングマシン上で複雑かつ多様な現実課題の解決を可能とします。

研究開発の全体像

研究開発の全体像

研究内容と各機関の役割

1.
早稲田大学:イジングマシン共通ソフトウェア基盤のための基本アルゴリズムと要素技術開発
2.
東京工業大学:イジングマシン共通ソフトウェア基盤評価のための量子アニーリング基礎理論開発
3.
情報システム研究機構 国立情報学研究所:イジングマシン共通ソフトウェア基盤評価のための古典アルゴリズム開発
4.
産業総合技術研究所:セキュリティ・マテリアルデザインアプリケーションの開発
5.
豊田通商株式会社:イジングマシン共通ソフトウェア基盤評価のための問題抽出と定式化検討、次世代モビリティ・ロジスティックス・サプライチェーンアプリケーションの開発
6.
株式会社フィックスターズ:イジングマシン共通ソフトウェア基盤評価のためのライブラリ開発とAPI開発
7.
NEC:ソフトウェアと連携した量子アニーリングマシンハードウェアのアーキテクチャ最適設計

超電導パラメトロン素子を用いた量子アニーリング技術の研究開発(事業代表者:NEC)

参加機関

NEC、東京工業大学、早稲田大学、横浜国立大学、産業総合技術研究所(NECの共同実施先)、京都大学(NECの再委託先)

研究開発概要

現状の量子アニーリングマシンは完成形でなく、現在の超電導量子アニーリングデバイスが持つ課題、すなわち高速計算の源泉とされる量子コヒーレンス[用語5]と集積性を両立することが求められています。本プロジェクトではこの2つを両立し、国産の量子アニーリングマシンを実現するための要素技術開発を実施します。

参画機関合同で、超電導パラメトロン素子開発、3次元実装技術、信号読出・制御、およびそれらを支える理論検討・シミュレーションを通じて、量子アニーリングマシンの実現を目指すとともに、アプリケーション・ソフトウェアレイヤのソフトウェア基盤を開発する「イジングマシン共通ソフトウェア基盤の研究開発」と密接に連携して相互最適化を実現し、両者の強力な統合の実現を目指します。

Society5.0では、IoTによって、クラウドコンピューティングと有機的な結びつきを持った社会システムが成り立ちます。クラウドコンピューティングに全く新しい計算原理に基づくイジング計算が加えられることで、これまでは時間的制約で精度の低い近似解法に頼っていたような最適化問題に対し、短時間で精度の高い解を求めることができるようになります。このハードウェアの性能向上と共通ソフトウェア基盤開発の連携により、イジング計算を活用したアプリケーション開発が促進され、産業社会への波及効果を加速することができます。

研究内容と各機関の役割

1.
NEC、産業総合技術研究所:高コヒーレンス超電導パラメトロンアニーリング素子の研究開発、多ビット化を支える3次元実装技術の研究開発
2.
東京工業大学:多体相互作用の高効率な表現方法の研究開発、量子アニーリング機構の設計最適化技術に関する研究開発
3.
横浜国立大学:量子磁束回路を用いた量子ビット用制御・読出し回路の研究開発
4.
NEC、京都大学:量子ダイナミクスの高速並列シミュレーションによる量子アニーリングの性能評価の研究開発

研究開発概要

研究開発概要

用語説明

[用語1] 量子アニーリングマシン : 組合せ最適化問題を高速に解決すると期待されるマシン。量子効果により量子重ね合わせ状態を実現させ、それを初期状態として用意し、徐々に量子効果を弱める。同時に組合せ最適化問題を表現するイジングモデルの効果を強めることにより、イジングモデルの安定状態を実現させるという機構で動作する。

[用語2] イジングマシン : 組合せ最適化問題をイジングモデルで表現し、組合せ最適化問題を解決するマシンの総称。上記、量子アニーリングマシンはイジングマシンの一種である。

[用語3] 組合せ最適化問題 : 膨大な選択肢の中から、与えられた制約を満たしつつ、関数の最小値(または最大値)をとる選択肢を求める問題の総称。

[用語4] API : Application Program Interfaceの略で、ライブラリやミドルウェアなどソフトウェアを使うためのインタフェースの仕様。

[用語5] 量子コヒーレンス : 量子力学では、系の状態は波動関数で記述され、水面の波や弦の振動のように異なる状態を重畳した重ね合わせ状態を取ることが出来る。量子計算ではこの重ね合わせ状態を用いた計算の並列性を利用する。量子コヒーレンスとは、このような重ね合わせ状態を可能にする量子力学的な波の性質のことである。

お問い合わせ先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

西森秀稔教授 C&C賞の受賞決定

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科学技術創成研究院 量子コンピューティング研究ユニットの西森秀稔教授が、公益財団法人NEC C&C(エヌイーシー シー&シー)財団のC&C賞を受賞することが決定しました。

西森教授による「量子アニーリングの提唱と、同概念に基づく計算機創出の基礎となったランダムスピン系の研究に関する功績」に対して贈られます。

西森教授のコメント

西森秀稔教授
西森秀稔教授

このような大きな賞をいただけることになり身に余る光栄です。学生時代から40代前半にかけて、その面白さに我を忘れて基礎研究にのめりこんでいたころに作り上げた一連の理論が、20余年の時を経て社会に大きな影響を与えるような広がりを持つに至ったのはほとんど信じられない思いです。私一人で成し遂げた業績ではなく、多くの方々の力がなければここまで達することはとても出来ませんでした。皆様に心より感謝し、喜びを分かち合いたいと思います。

NEC C&C財団によると、C&C賞は1985年に創設され、情報処理技術、通信技術、電子デバイス技術、およびこれらの融合する技術分野の開拓または研究、あるいはこの分野の進歩がもたらす社会科学的研究活動について顕著な貢献があった研究者に対して授与される賞です。国内外から推薦された候補者の中から、原則として毎年2件以内(1件3名以内)に授与されています。2017年度までに67グループ、110名が受賞しました。その後、ノーベル賞や文化勲章を受章した研究者もいます。C&Cは「コミュニケーション技術とコンピュータ技術の融合(Computers and Communications)」という意味です。

表彰式典は2018年11月28日(水)にANAインターコンチネンタルホテル東京にて行われ、各受賞者には、賞状、賞牌、賞金(1件当たり1千万円)が贈呈されます。

本賞のこれまでの本学からの受賞者には、末松安晴栄誉教授、伊澤達夫博士、伊賀健一名誉教授、辻井重男名誉教授が名を連ねています。

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975

吉田尚弘教授が米国地球物理学連合フェローに選出

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物質理工学院 応用化学系の教授で地球生命研究所主任研究員の吉田尚弘博士が、米国地球物理学連合(American Geophysical Union 。以下、AGU)のフェローに選出されることが決定しました。

吉田尚弘教授

吉田尚弘教授

AGUは、米国の首都に本部を持つ地球・宇宙科学分野の国際的な組織で、世界の137の国と地域に約6万人の会員を有し、創立100年の歴史を有する世界最大の学術連合です。

AGUは1962年以来、全会員の中で0.1%以内の、地球・宇宙科学分野に偉大なる貢献をした会員を相互に選出し、AGUフェローとして顕彰しています。授賞式および招待講演は約3万人が参加する秋季大会(今年はワシントンDCで12月に開催)において行われます。吉田尚弘教授のこのたびの授賞は、同位体置換分子種の新たな計測法の開発と生物地球化学と大気化学研究への応用による貢献が評価されたものです。

吉田教授は今回の授賞により、現在の本学教員では地球生命研究所所長の広瀬敬教授に次ぐ2人目のAGUフェローとなります。

吉田尚弘教授のコメント

本授賞の対象となった研究は分子の基盤的解析法の開発とその地球宇宙科学への応用です。一つの分子種に「同位体置換分子種」が多数存在すると予想されていながら、計測困難であったものを計測可能にしてきました。分子種計測をいわば、白黒からカラーに、さらにその色彩解像度をあげてきたものと言えます。これにより分子の「色」を調べることで、その分子の起源やサイクルをより正確に解析できるようになります。

本研究のアイデアは本学学生当時から持ち続けたもので、恩師、研究室の皆さん、国内外の共同研究者、学生の皆さんと政府系研究支援機関に心よりお礼申し上げます。また、教員として戻り20年間、自由闊達に研究させていただいた本学の皆様に厚くお礼申し上げます。

上の写真は、1996年から科学技術振興機構(JST)/戦略的創造研究推進事業(CREST)研究代表者として提案した、高分解能同位体質量分析計の基本設計をもとに最近ドイツのメーカーが市販化した装置です。昨年採択の2回目となる日本学術振興会の科研費基盤研究Sにより、今春、地球生命研究所に導入し研究に供していますことも不思議な同期です。

<$mt:Include module="#G-07_物質理工学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

物質理工学院 教授 吉田尚弘

E-mail : yoshida.n.aa@m.titech.ac.jp

ナノカプセルを貫く分子のひもを発見 混ぜるだけで組み上がる 新たな貫通型ナノ構造体

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要点

  • ひも状のオリゴマー分子が、水中でナノカプセルと強く結合
  • 短い分子は包み込み、長い分子は貫き通し構造を瞬時に形成
  • 2つの様式の構造形成の鍵は、カプセル内での多点相互作用

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の山科雅裕博士研究員、草葉竣介大学院生(修士課程2年)、吉沢道人准教授らは、ひも状分子のオリゴエチレンオキシドが、ナノカプセルに2つの様式で結合することを発見した。短いひも状分子はカプセル空間に内包されたが、長いひもはカプセル骨格を貫通した構造を形成した。分子カプセルとひも状分子を使った「貫通型ナノ構造体」の初の作製例であり、新たな分子機械や機能性ポリマー材料の開発が期待される。

酵素のタンパク質ポケット[用語1]や合成カプセルの空孔はサイズや形状に依存して基質分子を結合するが、空間サイズより大きな基質は立体的に結合できない。特に、両親媒性[用語2] ひも状分子のオリゴエチレンオキシドは幅広い分野で利用されているが、弱い相互作用のため、基質分子としての活用はほとんど未開拓だった。これまで非結合性と考えられていたこのオリゴマー分子[用語3]が水中・室温で、瞬時かつ定量的に、ナノカプセルと結合することを見出した。結合様式は基質の長さに依存し、約3 nmまでのひも状分子はカプセル内部に包み込まれ、それより長いひも状分子はカプセル骨格を貫いて結合した。詳細な熱量分析から、この前例のない貫通型ナノ構造体の形成は、カプセル内面とひも状分子の多点相互作用が駆動力と判明した。

研究成果は株式会社リガクとの共同研究によるもので、10月12日付(英国時間)でNature Communications誌オンライン版に掲載された。

研究の背景とねらい

酵素はタンパク質からなるナノメートルサイズのポケットを利用して、特定の基質分子を結合する。化学的に合成した分子カプセルでも、その内部空間で基質を結合することができる。例えば、米国スクリプス研究所のレベックらは、ひも状の飽和炭化水素が分子カプセル内に取り込まれ、ラセン型構造を形成することを報告している[文献1]。しかし、どちらの例も内部空間よりサイズ(体積)が大きな基質分子は、立体的な反発により結合できない。今回、この生物と化学の常識に反して、汎用的なひも状分子と合成カプセルを利用することで、カプセル空間より短いひも状分子は内包型で、長いひもは貫通型で結合されることを発見した(図1a)。熱量分析からこの前例のない貫通構造形成の駆動力は、カプセル内面とひも状分子の多点相互作用と判明した。

(a)ひも状分子とナノカプセルによる内包および貫通型ナノ構造体の形成(b)ナノカプセル1(R = -OCH2CH2OCH3)と(c)ひも状分子の構造
図1.
(a)ひも状分子とナノカプセルによる内包および貫通型ナノ構造体の形成(b)ナノカプセル1(R = -OCH2CH2OCH3)と(c)ひも状分子の構造

合成カプセルとして、吉沢准教授らのグループが独自に開発したナノカプセル1を活用した(図1b)。芳香環に囲まれた約1 nmの密閉空間を持つナノカプセルは、水中で疎水性の硫黄クラスターや親水性の二糖のスクロース(ショ糖)を包み込むことができる[文献2,3]。分子のひもには、親水と疎水の性質を合わせ持つオリゴエチレンオキシド(以下OEO; 図1c)に着目した[文献4]。OEOは単純な繰り返し構造からなり、低い生体毒性と化学反応性のため、医薬や材料の分野で幅広く利用されている。その一方で、分子や固体表面との相互作用が弱いため、OEOの基質分子としての活用はほとんど未開拓だった。

研究内容

短いひも状分子による内包型ナノ構造体の形成

水中で、ナノカプセル1のOEOに対する結合能を調査した。まず、約2 nm長のOEOの5量体5EOをナノカプセルの水溶液に室温で添加したところ、瞬時かつ定量的にナノカプセルに包み込まれた(図2a左)。その溶液の1H NMRスペクトルでは、ナノカプセルに由来するシグナルに加えて新たに、内包された1分子の5EOに由来するシグナルが、-0.2から0.3ppmの領域に観測された(図2b)。そのESI-TOF MSスペクトルから、内包体1・5EOの分子イオンピークが確認された。X線結晶構造解析より、カプセル空間の内径より長い5EOは丸まった構造で、完全に内包されることが判明した(図2d)。カプセル内面と5EOの間で、多点のCH-π相互作用[用語4] と水素結合の形成が示された。また同条件の実験で、最長3 nm程度の8量体8EOまで、ナノカプセルに1分子内包されることが明らかになった。

(a)水中でのナノカプセル1とひも状分子5EOおよび10EOの結合形成(b)内包体1・5EOと(c)貫通体1・10EOの1H NMRスペクトル(c)1・5EOのX線結晶構造および(d)1・10EOの最適化構造(外面親水基とカウンターアニオンは省略)
図2.
(a)水中でのナノカプセル1とひも状分子5EOおよび10EOの結合形成(b)内包体1・5EOと(c)貫通体1・10EO1H NMRスペクトル(c)1・5EOのX線結晶構造および(d)1・10EOの最適化構造(外面親水基とカウンターアニオンは省略)

長いひも状分子による貫通型ナノ構造体の形成

より長いOEOに対する結合実験を行った。OEOの10量体10EOは、約4 nmの長さで、ナノカプセル1の空間より1.1倍の体積を有するため、常識的にはこのカプセルに結合されない。ところが、10EOとナノカプセルを水中、室温で混合すると、1:1の比率の結合体1・10EOを形成することが質量分析で明らかになった。その1H NMRスペクトルでは、内包された5EOと異なり、10EOに由来するシグナルが-0.5から1.8ppmの領域に、顕著にブロード化して観測された(図2c)。また、ナノカプセルのNMRシグナルの複雑化と温度可変のNMR測定、分子モデルによる考察から、長いひも状分子の10EOは、カプセル骨格の芳香環パネルの間を貫き通していることが明らかとなった(図2a右, 2e)。このような複雑な貫通型ナノ構造体が、ナノカプセルとひも状分子を水中で混ぜ合わせるだけで、瞬時にかつ100%の収率で形成した。

構造形成のメカニズムを解明するため、等温熱滴定型熱量計(ITC)による熱量分析を行った。その結果、大きな負のエンタルピーとエントロピー[用語5]の変化値(ΔH = -60 kJ mol-1, TΔS = -25 kJ mol-1 at 25 ℃)が得られた。すなわち、結合の駆動力はエンタルピー支配であり、これはカプセル内面とひも状分子間の多点のCH-π相互作用と水素結合が効いていると判断した。また、ITCによる結合定数の算出から、貫通体1・10EOの高い構造安定性(Ka = 106 M-1)が示された。

さらに長いOEOとして、約9 nmの22EO(平均分子量1,000)を用いて、貫通型ナノ構造体の作製を行った。ナノカプセル1に対して小過剰の22EOを加えると、瞬時に10EOと同様のNMRスペクトルが得られた。滴定実験とITC測定から、1本の長いひも状分子が2つのカプセルを連続して貫いた構造体(1)222EOを形成していることが判明した(図3)。また、ナノカプセルと約18 nmの44EO(平均分子量2,000)の反応でも、選択的に2:1の比率のダブル貫通体(1)244EOが得られた。長いOEOと結合したカプセルは、ひもに沿ってシャトリング運動[用語6]していることが示唆された。

ナノカプセル1とひも状分子22EOによる貫通型ナノ構造体 (1)2・22EOの形成

図3. ナノカプセル1とひも状分子22EOによる貫通型ナノ構造体(1)222EOの形成

今後の研究展開

吉沢准教授らは汎用的なひも状分子のオリゴエチレンオキシドと分子カプセルを組み合わせることで、水中・室温で瞬時かつ定量的に、内包型および貫通型ナノ構造体を作製することに成功した。今後は、ひも上で一次元的に移動できるカプセル骨格に、連結部位や刺激応答部位を導入することや、他の合成・生体関連のひも状分子を活用することで、新たな分子機械や動的な機能性ポリマー材料の開発に挑戦する。

用語説明

[用語1] タンパク質ポケット : 酵素反応などを効率的に行うためのタンパク質で囲まれた小さな空間。

[用語2] 両親媒性 : 水に馴染む親水性と水を避ける疎水性の両方を持つ分子のなどの性質。

[用語3] オリゴマー分子 : 複数の分子が連結することで生成した重合体の総称。分子の連結数に応じて5量体や10量体などと呼ぶ。

[用語4] CH-π相互作用 : 炭素上の水素と芳香環の間に働く静電的な相互作用。

[用語5] エンタルピーとエントロピー : 熱エネルギーの指標。自発的な反応では、エンタルピー変化量ΔHからエントロピー変化量に温度を掛けた値TΔSを引いた値が負を示す。強い分子間相互作用の形成は、大きな負のΔHを与える。

[用語6] シャトリング運動 : ここでは、ナノカプセルがひも状分子の軸に沿って、左右に移動する挙動。

参考文献

[文献1] A. Scarso, L. Trembleau, J. Rebek Jr., Angew. Chem. Int. Ed. 2003, 42, 5499-5502.

[文献2] S. Matsuno, M. Yamashina, Y. Sei, M. Akita, A. Kuzume, K. Yamamoto, M. Yoshizawa, Nature Commun. 2017, 8, 749

[文献3] M. Yamashina, M. Akita, T. Hasegawa, S. Hayashi, M. Yoshizawa, Science Adv. 2017, 3, e1701126.

[文献4] F. E. Bailey, J. V. Koleske, Poly (Ehtylene Oxide), Academic Press, New York, 1976.

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Cramming versus Threading of Long Amphiphilic Oligomers into a Polyaromatic Capsule(芳香環カプセルによる両親媒性オリゴマーの内包と貫通挙動)
著者 :
Masahiro Yamashina, Shunsuke Kusaba, Munetaka Akita, Takashi Kikuchi, Michito Yoshizawa*
DOI :

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東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

准教授 吉沢道人

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オートファゴソーム前駆体を小胞体につなぎとめる 「Atg2タンパク質」の役割を解明

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要点

  • オートファジーに必須のAtg2の機能に重要な領域を決定
  • Atg2が脂質膜に結合することを解明
  • Atg2がオートファゴソーム前駆体膜を小胞体に繋留するモデルを提唱

概要

東京工業大学 生命理工学院の小谷哲也博士研究員、中戸川 仁准教授、科学技術創成研究院の大隅良典栄誉教授らは、機能が全く分かっていなかったAtgタンパク質[用語1]であるAtg2について解析を行い、Atg2が伸張中のオートファゴソーム前駆体膜を小胞体につなぎとめることを明らかにした。これまでオートファゴソームの膜の供給源の候補と考えられてきた小胞体とオートファゴソーム前駆体膜との関係を示した本研究成果はオートファゴソーム形成機構の解明への糸口となると期待される。

オートファジーは真核生物に備わった細胞内の分解機構。オートファジーではオートファゴソームと呼ばれる膜小胞[用語2]が形成され、その中に分解すべきものを取り込む。大隅栄誉教授のグループが発見したAtgタンパク質と呼ばれるタンパク質群が協調的に働いてオートファゴソームは形成されるが、そのメカニズムはよくわかっていなかった。

研究成果は9月25日発行の米国科学アカデミー紀要 (Proc. Natl. Acad. Sci. USA)電子版に掲載された。

背景

オートファジーはタンパク質やリボ核酸(RNA)などの細胞質成分や細胞小器官を分解する機構であり、酵母からヒトにいたるまで真核生物に広く保存されている。栄養飢餓などによりオートファジーが誘導されると、隔離膜と呼ばれる扁平な小胞が現れ、分解対象を取り込みながら球状に伸張し、閉じることで二重の膜構造を持ったオートファゴソームが形成される(図1)。

完成したオートファゴソームはリソソームや液胞[用語3]と融合し、リソソームや液胞の内部にある分解酵素によってオートファゴソームの内容物が分解される。これまでにオートファゴソーム形成に関わるATG遺伝子/Atgタンパク質が数多く同定されているが、個々のAtgタンパク質の膜形成における具体的な役割の理解は不十分であり、オートファゴソーム形成の詳細なメカニズムは未だに明らかになっていない。

図1. オートファジーの進行過程

図1. オートファジーの進行過程

研究の経緯

研究グループは、出芽酵母を用いてオートファゴソーム形成に関わるAtgタンパク質の一つであるAtg2の機能解析を行った。Atg2は1,592個のアミノ酸からなる大きなタンパク質だが、アミノ酸配列からは既知のドメイン構造は予測されない。Atg2はホスファチジルイノシトール3-リン酸(PI3P)[用語4]と結合するタンパク質であるAtg18と複合体を形成して、Atgタンパク質の中で最後にオートファゴソーム形成の場に局在化することが分かっていたが、具体的な機能は分かっていなかった。

異なる生物種間でのAtg2の一次配列の保存性を調べると、N末端領域とC末端領域[用語5]は非常に保存性が高いことが分かった。そこでこれら二つの領域に注目して様々なAtg2の変異体を作製し、オートファジーの活性を評価した。その結果、N末端領域とC末端領域内にAtg2の機能に重要な領域があることを突き止めた。

さらに酵母から精製したタンパク質と人工膜小胞[用語6]を用いた試験管内での実験により、どちらの領域も膜へ結合する機能を有しており、この二つの膜結合領域を介してAtg2が二つの膜構造体をつなぎ合わせることを示した。また、C末端領域がAtg2の結合相手であるAtg18のPI3Pを含む膜への結合に必要であり、Atg2-Atg18複合体のオートファゴソーム形成の場への局在化に必要であることを明らかにした。

一方、N末端領域はAtg2-Atg18複合体がオートファゴソーム形成の場へ局在化した後に重要な役割を果たすこと、さらにAtg2と小胞体との結合に関与する可能性があることを示した。以上の結果から、Atg2はオートファゴソーム前駆体を小胞体につなぎとめて、オートファゴソームの形成を開始し、膜の伸張を媒介するモデルを提唱した(図2)。

図2. Atg2-Atg18複合体はオートファゴソーム前駆体を小胞体につなぎとめる

図2. Atg2-Atg18複合体はオートファゴソーム前駆体を小胞体につなぎとめる

今後の展開

オートファジーの研究は世界中で活発に行われているが、オートファジーの最大の特徴である二重の膜構造を持ったオートファゴソームの形成機構については、膜がどこからどのようにして供給されるのかなど、未だに多くの疑問が残されている。これまでに小胞体がオートファゴソーム形成のための膜の供給源であることを示唆する結果が報告されている。また、今回の研究によりAtg2が隔離膜と小胞体を繋ぎ合わせる可能性が示された。

しかし、小胞体から隔離膜へどのように脂質が輸送されるのかといった膜伸張反応に関する機構に関しては未だに不明のままである。Atg2が小胞体のどこと結合しているのか、結合した後に何が起きるのかを詳細に解析することで、膜伸張反応のメカニズム解明へと近づけると期待される。

オートファジーは神経変性疾患や癌といった様々な疾患と関連することが報告されている。オートファゴソーム形成機構の理解は、これらオートファジーが関わる疾患の治療のための創薬における基盤情報になると期待される。

用語説明

[用語1] Atgタンパク質 : オートファジー関連(autophagy-related)タンパク質。出芽酵母においては現在までに40種類以上のAtgタンパク質が報告されている。19種類のAtgタンパク質がオートファゴソーム形成に関わると言われており、そのほとんどは2016年ノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典博士のグループにより発見された。

[用語2] 膜小胞 : 脂質二重層(脂質膜)でできた袋状の小胞。物質の貯蔵や輸送に関与する。

[用語3] リソソーム、液胞 : 細胞質中にあって、一群の加水分解酵素を含み、消化分解作用をもつ小器官。動物細胞の場合はリソソーム、植物や酵母細胞の場合は液胞がこれに相当する。

[用語4] ホスファチジルイノシトール3-リン酸 : リン脂質の一種であるホスファチジルイノシトール(PI)のイノシトール環の3位のヒドロキシ基にリン酸基がエステル結合したもの。オートファジーにおいては、オートファゴソーム形成の場で、Atg14を含むPI3-キナーゼ複合体によってPIがリン酸化されPI3Pが産生される。

[用語5] N末端領域とC末端領域 : タンパク質はアミノ酸の重合体である。アミノ酸のカルボキシル基と次のアミノ酸のアミノ基とがペプチド結合を形成し、これを繰り返すことで、ひも状の重合体となる。タンパク質の末端のうち、アミノ基を持つ方をN末端、カルボキシル基を持つ方をC末端と呼ぶ。

[用語6] 人工膜小胞 : 脂質分子は水溶液中で自発的に脂質二重層(脂質膜)を形成し、球状となる。この性質を利用して人工的に作った膜小胞を人工膜小胞と言う。

論文情報

掲載誌 :
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
論文タイトル :
The Atg2-Atg18 complex tethers pre-autophagosomal membranes to the endoplasmic reticulum for autophagosome formation
著者 :
Tetsuya Kotani, Hiromi Kirisako, Michiko Koizumi, Yoshinori Ohsumi, and Hitoshi Nakatogawa
DOI :
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お問い合わせ先

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系 博士研究員

小谷哲也

E-mail : kotani.t.ab@m.titech.ac.jp

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系 准教授

中戸川仁

E-mail : hnakatogawa@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5735 / Fax : 045-924-5743

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Email : media@jim.titech.ac.jp
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ニュースレター「AES News」No.15 2018秋号発行

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科学技術創成研究院 先進エネルギー国際研究(AES)センターouterは、「AES News」No.15 2018秋号を発行しました。

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ニュースレター「AES News」

No.15 2018秋号

  • 東京工業大学 桑田薫副学長
    「イノベーションを加速する産学官連携活動」
  • 研究推進委員会、福島地区先端エネルギー施設研修会、イブニングセミナーなどの開催報告
  • 2018年度の活動予定

AESセンターは、従来の大学研究の枠組みを越えて、企業・行政・市民などが対等な立場で参加する「オープンイノベーション」プラットフォームを推進しています。ここでは、低炭素社会実現のための研究プロジェクトを創生し、社会実装することをその大きな目的の一つとしています。

季刊誌「AES News」は、本センターの活動をより多くの方々にご理解いただき、また、会員および本学教職員の連携を深めるため、年4回発行しています。

お問い合わせ先

科学技術創成研究院 先進エネルギー国際研究センター

E-mail : aescenter@ssr.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3429

相同組換えのDNA鎖交換反応開始の分子機構を解明 Swi5-Sfr1によるRad51のDNA結合制御

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要点

  • Rad51タンパク質は1本鎖DNAにらせん状に結合してDNA鎖交換反応を触媒
  • このRad51タンパク質がSwi5-Sfr1タンパク質で安定化されるしくみを解明
  • ガン抑制に関わる相同組換え因子の機能解明に道

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院の岩﨑博史教授、伊藤健太郎研究員、黒川裕美子研究員、国立台湾大学の李弘文教授(Pro. Hung-Wen Li)、台湾国立中央研究院の冀宏源准教授(Assoc. Prof. Peter Chi)等からなる国際研究チームは、DNA相同組換えの中心的な反応である“DNA鎖交換反応”をつかさどるDNA―Rad51タンパク質[用語1]複合体形成制御のしくみを世界で初めて明らかにした。

相同組換えは、全ての生物で起きる生命現象で、傷ついたDNAの修復や遺伝的多様性を生み出すのに必須の働きをしている。相同組換えは、似た配列を持つ(このことを“相同”という)DNA鎖の交換反応が中心的な反応で、Rad51リコンビナーゼ[用語2]によって触媒される。

Rad51は、1本鎖DNAにらせん状に結合したフィラメント構造を作る。この構造体は、相同二重鎖DNAを検索してDNA鎖の交換を触媒する。しかしこの構造体は、かなり不安定であり、補助因子Swi5-Sfr1タンパク質複合体によって安定化される必要があるが、どのような分子機構でフィラメント構造が安定化するのか不明だった。

本研究では、フィラメント一分子をリアルタイムで観察することで、Rad51が1本鎖DNAへ結合・解離する過程を解析してSwi5-Sfr1複合体がRad51の解離を抑制しフィラメントの安定化を促進することを世界で初めて示した。

この成果は、10月8日(米国東部時間)付けの『Proceedings of the National Academy of Sciences of the USA(米国科学アカデミー紀要)電子版』に掲載された。

研究成果

本研究では、Rad51が1本鎖のDNAと結合するとDNAを伸長させるという性質を利用して、(1) DNAの末端に微小なスチレンビーズを付加してビーズのブラウン運動を観察してDNAの伸長を検出する実験系、(2) DNA鎖を蛍光でラベルし、蛍光共鳴エネルギー移動 (Fluorescence resonance energy transfer: FRET)の原理を利用してDNAの伸長を検出する実験系を構築。1本鎖DNA上にRad51フィラメントが結合・解離する様子を一分子単位でリアルタイムに観察することに成功した。

これら2つの実験系を駆使し、様々な条件で解析した結果、まず、2~3分子のRad51が1本鎖DNA上に小さなフィラメント核を形成後、その核の末端にさらにRad51が結合してフィラメントが伸長していくことが分かった。さらに真核生物が共通して持つ複合体形成の促進因子であるSwi5-Sfr1タンパク質は、Rad51の1本鎖DNAからの解離を抑制することで、フィラメントを安定化することを明らかにした(図1)。

Rad51-単鎖DNAフィラメント形成モデルとSwi5-Sfr1タンパク質による安定化

図1. Rad51-単鎖DNAフィラメント形成モデルとSwi5-Sfr1タンパク質による安定化

研究の背景と経緯

相同組換えによるDNA二重鎖切断の修復モデル
図2. 相同組換えによるDNA二重鎖切断の修復モデル

相同組換えは、減数分裂時に父方由来遺伝子と母方由来遺伝子をシャッフルして遺伝的多様性を創出する。一方で、DNAの損傷(特に、DNAの2本鎖が両方とも切断されるDNA二重鎖切断)の修復にも大きな役割を果たす。

DNAは紫外線や放射線など外的要因や、DNA複製の阻害や代謝で発生した活性酸素などの内的要因によって、日々常に損傷を受けており、相同組換えによるDNA修復が正常に働かない場合、ガンなどの重篤な疾患や不妊の原因になることが知られている。

相同組換えの中心的な反応は、DNA鎖交換反応であり、Rad51タンパク質によって触媒される。この反応は、Rad51が1本鎖DNAと結合しフィラメント状の複合体を形成し、複合体が二重鎖DNAを捕捉して似た配列を検索する。そして、似た配列を見つけるとDNA鎖を交換し、組換えを進行させる。DNA鎖交換反応において、Rad51と1本鎖DNAとの複合体形成は反応開始のスイッチとなる重要な過程で、様々な因子によって形成や解離が制御されている(図2)。

今回の研究では、Swi5-Sfr1によるRad51の1本鎖DNAへの結合・解離の様子を一分子かつリアルタイムで観察することで、DNA鎖交換反応開始に必須な複合体形成の分子機構の解明に成功した。

今後の展開

Rad51―単鎖DNAのフィラメント形成を制御する因子はSwi5-Sfr1タンパク質の他にも様々なものが存在することが知られている。有名なものでは、家族性乳ガンの原因遺伝子であるBRCA1、BRCA2などがある。これら因子がどのようにRad51―単鎖DNAフィラメントを制御するのか、より具体的な議論が可能となるばかりでなく、実際にこれらタンパク質を用いて解析ができれば、このガン抑制因子が、どのようにDNA鎖交換反応開始のスイッチとして働くのかという医学的に重要な分子機構に迫っていくことができる。

用語説明

[用語1] DNA―Rad51タンパク質 : 分子量約38,000のRad51タンパク質が数10~数100のヌクレオチドからなる1本鎖DNAに連なってらせん状に結合して、フィラメント状の高次DNA―タンパク質複合体を形成する。この複合体は中のDNA配列と相同な二重鎖DNAを検索し、相同な二重鎖DNAが見つかると鎖を交換する反応がおこる。

[用語2] リコンビナーゼ : 相同組換え(homologous recombination)において中心的な反応はRad51などのDNA鎖交換反応である。そのため、DNA鎖交換反応を促進するタンパク質がリコンビナーゼ(recombinase)と呼ばれるようになった。相同組換え以外のDNA組換え現象(例えば、部位特異的組換え)も知られており、その場合は、Rad51とは質的に全く異なる反応を触媒するリコンビナーゼが働く。そもそも、部位特異的組換えに働く酵素が最初に“リコンビナーゼ”と命名され、Rad51などはDNA鎖交換タンパク質と呼ばれていたが、21世紀以降、Rad51などもリコンビナーゼと呼ばれるようになった。

論文情報

掲載誌 :
Proceedings of the National Academy of Sciences of the USA
論文タイトル :
Swi5–Sfr1 stimulates Rad51 recombinase filament assembly by modulating Rad51 dissociation
著者 :
Chih-Hao Lu, Hsin-Yi Yeh, Guan-Chin Su, Kentaro Ito, Yumiko Kurokawa, Hiroshi Iwasaki, Peter Chi, and Hung-Wen Li
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センター 教授

岩﨑 博史(いわさき ひろし)

E-mail : hiwasaki@bio.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2588 / Fax : 03-5734-3781

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

細野秀雄教授が米国材料学会(MRS)のフォン ヒッペル賞を受賞

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科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の細野秀雄教授(元素戦略研究センター長)が、米国材料学会(Materials Research Society、以下MRS)の最高位の学会賞であるフォン ヒッペル賞(Von Hippel Award)を受賞することが決定しました。表彰式と受賞記念講演「材料研究における元素戦略(Element Strategy in Materials Research)」は、2018年11月28日(水)、米国ボストンで開催されるMRSの秋学会で行われます。

MRSは、材料に関する学際的研究を促進することを目的に1973年に創設された世界最大の材料学会です。90以上の国・地域から集まる会員のうちの半数以上が米国以外の研究者で構成されており、その分野は化学、生物学、物理学、工学等多岐にわたります。

フォン ヒッペル賞は、アーサー・R・フォン ヒッペル教授(Arthur R. von Hippel, 1898-2003)を記念し、分野を横断した材料について際立った研究業績を挙げた研究者(会員・非会員を問わない)1名に毎年授与されています。本賞は今回で第42回を数えますが、日本人が受賞するのは初めてです。

受賞業績は「鉄系高温超伝導体の発見と透明酸化物半導体と無機エレクトライドの創出」です。

銅酸化物と並ぶ高温超伝導物質の新大陸となった鉄ニクタイド系超伝導物質、有機ELテレビなどに応用されているIGZO(イグゾー)等の酸化物半導体、そして温和な条件下でのアンモニア合成触媒への道を開いた無機エレクトライドの創出といった開拓的研究の業績が評価されたものです。

細野教授のコメント

細野秀雄教授
細野秀雄教授

フォン ヒッペル先生は、多くの学際的テーマで歴史に残る先駆的業績を挙げた方で、私の学生時代から著名でした。かなり前から分野横断を意図した研究を行ってきたので、今回の受賞は大変に嬉しいものです。材料科学は日本が世界で強い分野の一つなのに、これまで受賞者がいなかったことに驚きました。多くの共同研究者と支援を頂いた大学、科学技術振興機構(JST)、日本学術振興会(JSPS)などのスポンサー、そして推薦を頂いた方々に感謝いたします。

ここ10年くらいの間に日本の材料研究の存在感が世界の中で急速に失われつつあり、変革が必要なことは多くの方が指摘しています。卓越大学院に採択された本学の提案のように、伝統的な枠組みを超越した独創性の明確な研究を強力に推進する必要があります。個人的には、広い領域を俯瞰して、未開でポテンシャルの高いテーマについて、独自のコンセプトに基づく、新物質・材料の創出とその応用を拓く研究に精進したいと思います。

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

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Tel : 03-5734-2975

アモルファス高分子の高次構造形成や粘度上昇をもたらす分子ユニット わずか数%で高分子物性が劇的に変化

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要点

  • 水分に弱い水素結合とは原理的に異なる新しい会合性分子ユニットを発見
  • 高分子量かつ分子量分布の広いアモルファス高分子へ適用可能
  • アモルファス高分子材料への熱可塑性の付与やナノパターニング材料、物質輸送材料などへの応用に期待

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の石割文崇助教、福島孝典教授らの研究グループは、同物質理工学院 応用化学系の戸木田雅利准教授、東北大学 多元物質科学研究所 高田昌樹教授(理化学研究所 放射光科学研究センターグループディレクター)と共同で、高分子鎖の末端に導入するだけでアモルファス高分子[用語1]に3次元的な高次構造を誘起し、劇的な粘度の上昇をもたらす分子ユニットを開発した。

高分子に3次元の規則構造を誘起する技術[用語2]は、ナノパターニング材料や物質輸送材料、フォトニック材料の開発など、様々な分野で重要となっている。研究グループは、特異な置換パターンを持つトリプチセン誘導体[用語3]を、広く産業で用いられているポリジメチルシロキサン[用語4]の末端のみに導入した新たな分子を作製。このテレケリックポリマー[用語5]の構造を調べたところ、トリプチセンが入れ子状に自己集合した2次元シートが、規則的に積層して3次元構造を形成することを発見した。この構造変化によって、室温で液体だったポリジメチルシロキサンの粘度が1万倍以上に上昇したことで固体化し、熱可塑性[用語6]を付与できることも明らかとなった。

このトリプチセン分子ユニットは、一見大きな会合力を持たないように見えるが、分析してみると非常に高い自己集合能力を持つ新しい会合性分子であることがわかった。このような高分子の末端修飾法は、様々な高分子系にも適用できると期待される。また、置換基の位置のみが異なるトリプチセン誘導体を導入しても上記のような構造化は全く示さないという興味深い結果も得た。

本研究成果は、2018年10月3日(米国時間)に米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載された。

研究の背景

高分子で3次元の規則的な構造を誘起することは、ナノパターニング材料をはじめ、物質輸送材料やフォトニック材料の開発など様々な分野で重要視されている。その実現のためには、自己集合(ミクロ相分離)を起こすブロックコポリマー[用語7]を用いるのが一般的である。

一方で、高分子の末端部位のみを修飾したテレケリックポリマーでは、高分子鎖全体に対して末端ユニットは重量比が非常に小さいため、一般に高次構造の誘起は困難であると考えられてきた。実際、テレケリックポリマーで高次構造を誘起した報告例は、非常に強力な会合能を持つ多重の水素結合部位[用語8]を導入した、分子量数千がDa(ダルトン)程度の低分子量体かつ、分子量分布[用語9]の非常に狭いものに限られていた(図1右)。

図1. 今回発見した分子ユニット「1,8位置換トリプチセン」を導入したテレケリックポリジメチルシロキサン(左)と、既存の4重水素結合性官能基を導入したテレケリックポリ(オリゴ)ジメチルシロキサン(右)の物性差。
図1.
今回発見した分子ユニット「1,8位置換トリプチセン」を導入したテレケリックポリジメチルシロキサン(左)と、既存の4重水素結合性官能基を導入したテレケリックポリ(オリゴ)ジメチルシロキサン(右)の物性差。

研究内容と成果

研究グループでは以前から、1,8,13位に置換基を持つ「三脚型トリプチセン」誘導体が、トリプチセンの2次元入れ子状パッキング(図1左下)によりシート構造を形成し、そのシートが1次元的に積層した規則な構造(2次元(D)+1次元(D)構造)へと自己集合することを見出していた。今回、この三脚型トリプチセンと類似の構造を持つ1,8位に置換基を有するトリプチセン誘導体を、代表的なアモルファス高分子であるポリジメチルシロキサン(数平均分子量約2万Da、分子量分布 Mw/Mn = 約2)[用語9]の鎖末端に導入し、合成を行った。その構造を大型放射光施設SPring-8(BL45XU)の放射光X線[用語10]で解析したところ、トリプチセンはまず2次元シート構造を形成し、そのシートが約20 nmという1次元的に長周期に積層した「2D+1D構造」という規則的な構造に集合することが明らかとなった(図2)。

また、この高次構造化に伴い、末端修飾前は液体であったポリジメチルシロキサンの粘度が1万倍以上に劇的に上昇することがわかった。この粘度上昇により固体化し、加熱、冷却することにより可逆的に融解/固化を繰り返すような、熱可塑性を示すことも明らかとなった(図1左および図2)。

トリプチセン分子ユニットは、一見すると水素結合のような明確な相互作用を持たないにもかかわらず、非常に高い会合能力を有し、幅広い分子量分布を持つポリマーに対してわずか数%程度の導入率で高次構造を誘起することがわかった。(図1左および図2)。

図2. 無置換のポリジメチルシロキサン(上段)および「1,8位置換トリプチセン」を導入したテレケリックポリジメチルシロキサン(下段)の構造と物性
図2.
無置換のポリジメチルシロキサン(上段)および「1,8位置換トリプチセン」を導入したテレケリックポリジメチルシロキサン(下段)の構造と物性

今後の展開

1,8位置換トリプチセン分子ユニットによる高次構造形成能を活かしたナノパターニング材料、物質輸送材料などの開発や、粘度の大幅上昇を利用した熱可塑性材料などの開発が期待される。さらに、本系では水素結合を利用していないことから、これらの高分子は水素結合を阻害する水分の存在下での使用も可能であると考えられる。現在、さらに高い会合能を持つ分子ユニットの開発を検討しており、今後、この末端修飾法の様々な高分子系への適用が期待される。

本成果は、科学研究費助成事業の以下研究支援により得られた。

研究課題:
「新学術領域研究(研究領域提案型)」π造形科学: 電子と構造のダイナミズム制御による新機能創出(領域略称名「π造形科学」)
「大規模分子集積化による巨視的π造形システム」
研究代表者:
福島孝典(東京工業大学 科学技術創成研究院 教授)
研究開発期間:
平成26~30年度
研究課題:
挑戦的萌芽研究「三脚型トリプチセンを分岐部位として有するスターポリマーの合成と物性解明」
研究代表者:
石割文崇(東京工業大学 科学技術創成研究院 助教)
研究開発期間:
平成28~29年度

用語説明

[用語1] アモルファス高分子 : 特定の構造を取らない、ランダムな鎖状態の高分子。非晶性高分子とも呼ばれ、液体状態~ガラス状態を取る。

[用語2] 高分子への3次元的規則構造の誘起 : 高分子材料に、ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)の球状構造や層状構造、シリンダー構造など高次構造を形成させること。通常は、互いに混ざりにくいポリマー鎖を連結したブロックコポリマー(用語7参照)の自己集合(ミクロ相分離)によりこれら高次構造が形成される。この3次元構造を利用した、フォトニック結晶などの光学材料や、イオン・分子・ガス透過材料などの開発が盛んに行われており、特に自発的にナノパターンを形成するレジスト材料としての応用が期待されている。

[用語3] トリプチセン誘導体 : 3枚のベンゼン環が120°の角度で連結された下記の構造を持つ剛直なプロペラ状分子。置換基の位置を示すために番号付けがされている。分子の周辺には、ベンゼン環に挟まれた大きな空間(自由体積)がある。研究グループはこれまでに、1,8,13位に置換基を導入したトリプチセン分子が、3枚羽プロペラ構造を蜂の巣状の最密充填構造を形成することを見出した。

参考文献:Rational synthesis of organic thin films with exceptional long-range structural integrity N. Seiki, Y. Shoji, T. Kajitani, F. Ishiwari, A. Kosaka, T. Hikima, M. Takata, T. Someya, T. Fukushima, Science 2015, 348, 1122‒1126.

トリプチセン誘導体

[用語4] ポリジメチルシロキサン : シリコンオイルのオイルとして利用される液体状の高分子。PDMSとも呼ばれる。化学的な架橋により3次元的なネットワークを取らせることにより固体化し、シリコンゴムとして用いられるが、液体状と固体状態の相転移を熱で誘起すること、すなわち、熱可塑性(用語6参照)を持たせるは困難であるとされている。

[用語5] テレケリックポリマー : 高分子の両末端に置換基を導入したポリマーのこと。

[用語6] 熱可塑性 : 低温状態では固体であるが、高温になると融解し液状になる性質のこと。

[用語7] ブロックコポリマー : 異なる種類のポリマーが末端で連結され、ブロック状に繋がっているコポリマーのこと。

[用語8] 水素結合 : 水酸基(-OH)やアミド基(-CONH2、-CONHR)などに存在する酸性度の高い水素(H)が、近傍の塩基性の窒素(N)、酸素(O)などとの間に形成する非共有結合性相互作用。多重に水素結合を形成することにより非常に強い会合性を示す。

[用語9] 分子量分布(Mw/Mn : 合成された高分子試料には、実際は様々な分子量の高分子が含まれる。分子量分布(Mw/Mn)とは高分子試料を構成する高分子の分子量のばらつきを表す指標のこと。分子量分布が1に近い場合、その高分子試料にはほとんど単一の分子量の高分子しか含まれておらず、高分子の長さが揃っていることを意味する。しかし、通常の合成高分子で分子量分布を1に近づけることは困難であり、大抵は2程度の分子量分布を持つ。分子量分布が2程度の高分子試料には2倍以上の長さの差のある高分子が多数含まれているという、非常にばらつきの大きい状態を意味する。

[用語10] 放射光X線 : 放射光X線とは、電子を光速に近い速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する強力な電磁波のことを指す。兵庫県にある大型放射光施設 SPring-8 では、世界最高輝度の放射光を用いて、基礎研究から産業利用まで幅広い実験が行われている。

論文情報

掲載誌 :
Journal of the American Chemical Society
論文タイトル :
Terminal Functionalization with a Triptycene Motif That Dramatically Changes the Structural and Physical Properties of an Amorphous Polymer
著者 :
Fumitaka Ishiwari, Gen Okabe, Hibiki Ogiwara, Takashi Kajitani, Masatoshi Tokita, Masaki Takata, and Takanori Fukushima
DOI :

お問い合わせ先

研究に関すること

東京工業大学 科学技術創成研究院
化学生命科学研究所 教授 福島孝典

Email : fukushima@res.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5220 / Fax : 045-924-5976

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

理化学研究所 広報室 報道担当

Email : ex-press@riken.jp
Tel : 048-467-9272 / Fax : 048-462-4715

東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室

Email : press.tagen@grp.tohoku.ac.jp
Tel : 022-217-5198 / Fax : 022-217-5211

TBSテレビ「未来の起源」に科学技術創成研究院の武元宏泰助教が出演

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科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の武元宏泰助教が、TBS「未来の起源」に出演します。

がんの中で性質を変えてがん細胞にくっつく高分子の研究について紹介されます。

武元助教のコメント

武元助教

この度、がんを認識して性質を切り替える高分子について取材して頂きました。

開発した高分子は、血液中の物質や正常組織に対しては吸着特性を示さないのに対し、がん組織内では性質が変化し、がん細胞などのがん構成物質に吸着します。がん組織内環境を認識して性質を切り替える分子設計は難しかったのですが、それを化学の力で可能とし、既存のシステムに比較して3倍以上の効率で物質をがんに送達出来るようになりました。

今回の放送を通じて、皆さんにも本研究の魅力を感じて頂ければ幸いです。

番組情報

  • 番組名
    TBS「未来の起源」
  • 放送予定日
    2018年11月4日(日)22:54 - 23:00(放送地域:関東、愛知、岐阜、三重)
    ※放送時間に変更がある場合があります。
  • (再放送)
    BS-TBS 2018年11月11日(日)20:54 - 21:00

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

若松英輔教授著『小林秀雄 美しい花』が第16回角川財団学芸賞を受賞

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リベラルアーツ研究教育院の若松英輔教授の著作『小林秀雄 美しい花』(文藝春秋刊 2017年12月10日発行)が第16回角川財団学芸賞を受賞しました。

若松教授のコメント

若松教授

「書物」とは、書かれたときにではなく、読まれたときにはじめていのちを帯びるものです。その言葉は、読む者の知性と経験によって新生するとさえいえます。

このたび、本作に与えられた栄誉も、選考委員をはじめとした関係者の皆さんのそのような「読み」の助力があったからに違いないと思います。

また、書物は、書き手のほかに編集者、校正者、装丁者らの参与があって初めてかたちを帯びます。このたびの光栄をまず、この同志たちと共に喜びたいと思います。

この作品にはもうひとり重要な協同者がいます。越知保夫(1911年~1961年)です。

彼は一冊も著作を遺すことなく、亡くなりましたから、その名前を知る人は多くないかもしれません。しかし、没後、有志らによって編まれた遺著の冒頭に置かれた「小林秀雄論」は、数多ある小林論のなかで、きわめて独創的なだけでなく、小林以上に、小林の精神に肉薄した秀作であり、遠藤周作をはじめとした人々に影響を与えてきました。

十代の終わりごろ、この人物とその作品を知り、以来、私にとって書くとは、彼が病のためになし得なかったことを実現することと同義になりました。

この著作に良きところがあれば、多くを越知保夫に負うことをここにお伝えしないわけには参りません。この機会に彼の言葉がよみがえることを切に願います。

『小林秀雄 美しい花』について

『小林秀雄 美しい花』
『小林秀雄 美しい花』

帯の一節を紹介します。

「小林秀雄は月の人である。

中原中也、堀辰雄、ドストエフスキー、ランボー、ボードレール。

小林は彼らに太陽を見た。

歴史の中にその実像を浮かび上がらせる傑作評伝。」

角川財団学芸賞について

角川財団学芸賞は、アカデミズムの成果をひろく一般読書人・読書界につなげ、知の歓びを共有するとともに、研究諸分野の発展に寄与することを目的として、公益財団法人 角川文化振興財団によって2003年に設立されました。

対象は、日本の文芸・文化(文学・歴史・民族・思想・宗教・言語等とその周辺分野)、あるいはそれらを広範・多義的にテーマとする著作で、高レベルの研究水準にありながら、一般読書人にも読まれうる、日本語で書かれたものとされています。

今回は、10月12日に大澤真幸氏(社会学者)、鹿島茂氏(明治大学教授)、佐藤優氏(作家・元外務省主任分析官)、松岡正剛氏(編集工学研究所所長、イシス編集学校校長)によって選考会が行われ、受賞作が決定しました。

候補作4点の中には、本学リベラルアーツ研究教育院の中島岳志教授の『親鸞と日本主義』(新潮社刊)も選ばれており、その中での受賞となりました。

2018年12月6日(木)にホテルメトロポリタンエドモント(東京・飯田橋)で、本賞の贈呈式が行われます。

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お問い合わせ先

リベラルアーツ研究教育院文系教養事務

E-mail : ilasym@ila.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-7689

ラジオ ベイエフエム「ラブ・アワ・ベイ」に菅野了次教授が出演

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科学技術創成研究院 全固体電池研究ユニットの菅野了次教授がベイエフエム(bayfm78)の自然環境番組「ラブ・アワ・ベイ(love our bay)」に出演します。全固体電池の仕組み、その実用化の目途、現在の研究状況などについて語ります。「ラブ・アワ・ベイ」は、自然や環境、文化を中心としたインタビュー形式の番組で、1992年より26年続いています。

菅野教授

菅野教授のコメント

言わば、自然との対話の営みのなかで発見することができた超イオン導電体の地道な研究成果に関心を持っていただき、紹介させていただける機会を持てて幸いです。お聞きいただいた幅広い方々に東工大の研究に関心を持っていただければ望外の喜びです。

番組情報

  • 番組名
    ラブ・アワ・ベイ
  • 放送予定日
    2018年11月12日(月) - 15日(木) 11:53 - 11:59
    ※インターネット、スマートフォンはアプリradikoにて1週間リピート放送が有ります。

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975


ナノグラフェンを水に溶かして分子膜作製に成功 次世代材料ナノグラフェン研究に新たな扉

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要点

  • 溶媒に溶けにくいナノグラフェンの水溶化に成功
  • 水中でナノグラフェン分子膜作製を可能とする「分子コンテナ」を利用した環境にやさしい新手法を開発
  • 次世代の機能性ナノ材料の作製や分析に期待

概要説明

熊本大学 大学院先端科学研究部の吉本惣一郎准教授と東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の吉沢道人准教授らの研究グループは、ミセル[用語1]型カプセルを利用した難溶性のナノグラフェン分子の水溶化と、基板上へ高配向組織化膜の作製を可能にする「分子コンテナ法」を見出しました。ナノグラフェンは有機半導体や分子デバイスの材料として期待されていますが、あらゆる溶媒に不溶であるため基礎物性の十分な理解が進んでいませんでした。この手法は、親水性と疎水性の両方の分子構造を有するミセル型カプセルを分子コンテナとして利用するもので、分子間にはたらく相互作用を利用して不溶な分子をカプセル内に取り込み、その分子を基板上に輸送し基板上で高配向に組織化させる(規則正しく並ぶ)ことで分子膜の作製を可能にしました。さらに、電気化学走査型トンネル顕微鏡を用いることにより、本手法で金電極表面に作製したナノグラフェン分子膜の分子スケール撮像に世界で初めて成功しました。

本研究で見出した「分子コンテナ法」はさらに巨大な構造を有する分子群にも適用が可能であり、物性の解明をはじめ分子の精密設計により分子サイズの導電性配線、新しい電池材料や有機半導体への展開が期待されます。さらに本手法は生体や環境への影響が懸念される有機溶媒を用いる必要がなく、実験者のみならず地球環境へも優しい新技術としても注目されます。

この研究成果は、2018年10月23日に科学雑誌『Angewandte Chemie International Edition』にオンライン公開されました。

これらの成果は、2016年に発生した熊本地震により困難に直面した熊本大学の学部4年生を東京工業大学が特別聴講生として受け入れ、そこからスタートした共同研究であり、非常事態における東京工業大学の迅速な対応・連携により結実した成果です。

本研究は、文部科学省科学研究費助成事業、加藤科学振興会研究助成、「東工大の星」(STAR)プロジェクトなどの支援を受けて実施されました。

ナノグラフェンを取り込んだミセル型カプセルの作製方法

図1. ナノグラフェンを取り込んだミセル型カプセルの作製方法


ナノグラフェンとV字型(両親媒性)アントラセン分子を室温で粉砕・混合するだけで、「ナノグラフェンを取り込んだミセル型カプセル」が容易に作製可能

説明

炭素原子がシート状に配列したグラフェンは金属よりも軽く優れた電気特性を有しているため、次世代の電子材料として注目されています。中でも長さや幅がナノサイズで規定された「ナノグラフェン(多環芳香族炭化水素)」は、その構造が無限に広がるグラフェンとは違った物性を示す可能性があります。ナノグラフェンは有機半導体や分子デバイスの材料として期待されていますが、ナノグラフェン分子群はあらゆる溶媒に溶けにくい性質のため基礎物性の十分な理解が進んでいませんでした。一方、共同研究者である東京工業大学の吉沢准教授が開発した親水性と疎水性両方の性質を有する分子から構成されるミセル型カプセルは、機能性分子の構造や形状を高精度で認識可能です。そこで、本研究ではミセル型カプセルを溶解度の限界に直面していたナノグラフェン化合物群へ展開しました。

この手法は、特定の化学構造(アントラセン構造)から成るミセル型カプセルを分子コンテナとして利用するもので、分子間にはたらく相互作用を巧みに利用して不溶な分子を効率よくカプセル内に取り込みます。ミセル型カプセルは卵の殻のような役割を果たしており、卵の黄身に相当する疎水性の高いナノグラフェン分子はカプセルに包まれた状態で基板表面近傍まで輸送されます。ミセル型カプセルは酸性水溶液中で分子集合状態の変化(平衡関係)が起こっており、これに伴い内部に取り込まれているナノグラフェンがカプセル内部から飛び出し、水には溶けきれず基板へ吸着・組織化することで安定化します(図2)。

分子膜作製のしくみ

図2. 分子膜作製のしくみ


分子コンテナの内部に取り込まれているナノグラフェンがカプセル内部から飛び出し、水には溶けきれず基板へ吸着・組織化することで安定化し、分子膜を作製する。

また、今回、電気化学走査型トンネル顕微鏡[用語2]を用いることにより金電極表面における3種類のナノグラフェン分子(オバレン、サーコビフェニル、ジコロニレン)の2次元組織化の分子スケール解像に世界で初めて成功しました(図3)。画像から、基板へ吸着した分子が規則正しく並び、高配向な分子膜が形成されている様子がわかります。

電気化学走査型トンネル顕微鏡による分子スケール解像

図3. 電気化学走査型トンネル顕微鏡による分子スケール解像


作製した分子膜のイメージ。基板へ吸着したジコロニレン分子は規則正しく並びかつ各分子が分子構造を反映した形状で解像され、高配向な分子膜が形成されている様子がわかる。

本研究で見出した「分子コンテナ法」により、これまで溶解が困難であったナノグラフェンの水溶化とその2次元組織化に成功し、限界に直面していた分子膜作製に留まらず、ナノグラフェン科学の新たな扉を開きました。この手法は、ナノグラフェンを水溶化できるため生体や環境への影響が懸念される有機溶媒を用いる必要がなく、実験者のみならず地球環境へも優しい技術としても注目されます。

この手法はさらに巨大な構造を有する分子群にも適用が可能であり、基礎物性の更なる解明をはじめ分子の精密設計により分子ワイヤ、新しい電池材料や薄膜結晶成長への展開が期待されます。

用語説明

[用語1] ミセル : 石鹸の場合、親水性と疎水性(両親媒性)の両方の性質を持つ分子が主成分となっている。この分子は水中で凝集して内側が疎水(親油)部、外側が親水部となった球状の構造体となって油性の汚れを内側に包んで水に流れていく。この両親媒性の構造体のことをミセルという。

[用語2] 電気化学走査型トンネル顕微鏡 : 探針で表面を走査し基板と探針の間に流れる「トンネル電流」の変化を表面の凹凸として捉えることで、物質表面を原子レベルで解像する顕微鏡。

論文情報

掲載誌 :
Angewandte Chemie International Edition
論文タイトル :
A Supramolecular Approach to the Preparation of Nanographene Adlayers Using Water‐Soluble Molecular Capsules
著者 :
Sakura Origuchi, Mai Kishimoto, Michito Yoshizawa, Soichiro Yoshimoto
DOI :

お問い合わせ先

熊本大学 大学院先端科学研究部

吉本惣一郎(准教授)

Email : so-yoshi@kumamoto-u.ac.jp
Tel : 096-342-3948

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

科学技術創成研究院 研究公開2018 開催報告

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2016年から、秋恒例となった科学技術創成研究院の研究公開2018を、今年は10月12日にすずかけ台キャンパスで開催しました。

挨拶する小山二三夫科学技術創成研究院長
挨拶する小山二三夫科学技術創成研究院長

科学技術創成研究院は、4つの研究所、3つの研究センター、10の研究ユニットから構成され、これらが有機的に結合し、先端研究を進めています。研究公開2018では、その研究成果を多角的に紹介するため、講演会・セミナーと、ポスターによる研究内容紹介、及び研究室見学の3つのセクションを設けました。

講演会・セミナーの部は、すずかけ台大学会館の多目的ホールで開催されました。

午前中は未来産業技術研究所の教授陣によるセミナーで、機械、物性応用、建築、嗅覚、ディープラーニング、医用材料等、多岐にわたる6つのテーマについて先端研究の動向を紹介しました。

引き続き午後には、先端研究の中でも最近特に注目を浴びている下記2つのテーマを行いました。来場者の関心は高く、広い会場が満席状態となりました。

量子コンピューティング研究ユニットの西森秀稔教授による「量子コンピュータ研究開発の現状と将来 ―量子アニーリングを中心として―」

ビッグデータ数理科学研究ユニットの高安美佐子教授による「ビッグデータに基づく社会・経済現象のモデリング」

講演する高安教授
講演する高安教授

講演する西森教授
講演する西森教授

ポスター展示の様子
ポスター展示の様子

研究室のポスター展示は、終日にわたりR2棟オープンコミュニケーションスペースにて、先導原子力研究所等(一部の研究室は大岡山地区)を含め、99の研究室と3つの共同研究拠点の研究内容を展示しました。展示会場では、URAと呼ばれる研究マネジメントの一翼を担う専門的なリサーチ・アドミニストレーターが案内と説明を行い、来場者に多岐に渡る科学技術創成研究院の研究を知ってもらう良い機会となりました。

研究室見学は、研究公開ならではのイベントです。来場者は普段は立ち入ることのできない研究室を訪問し、研究者から直接研究内容や研究施設の説明を受けることにより、研究の最前線の様子を見学しました。

研究室見学の様子

研究室見学の様子

研究室見学の様子

企業関係者を中心に多くの方が来場し、科学技術創成研究院の最新の研究動向に対する関心の高さが際だったイベントとなりました。

お問い合わせ先

科学技術創成研究院 研究公開担当

E-mail : openlab@iir.titech.ac.jp

中臺一博特任教授が総務省「異能(inno)vation」ジェネレーションアワード部門分野賞を受賞

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10月24日、総務省の「異能(inno)vation(イノベーション)」プログラムの「異能ジェネレーションアワード」授賞式が行われ、工学院 システム制御系の中臺一博特任教授の「ドローンが耳を澄まして要救助者の位置を検出 ―災害発生時の迅速な救助につながる技術―」が、「何かが新しく聞こえるようになる」分野のジェネレーションアワード部門分野賞に選ばれました。

異能vationプログラムとは

ロゴ

総務省が2014年度から開始した、ICT(Information and Communication Technology 情報通信技術)分野において奇想天外でアンビシャスな技術課題に失敗を恐れずに挑戦する人を支援するプログラムです。破壊的価値を創造する奇想天外でアンビシャスな技術課題への挑戦を支援する「破壊的な挑戦部門」と、未来がより良くなるような、ちょっとした独自のアイデア等を、異能vation協力協賛企業と連携して表彰を行う「ジェネレーションアワード部門」から成ります。

中臺特任教授が分野賞を受賞したジェネレーションアワード部門には、今年は自薦・他薦で10,440件の応募があり、10の分野において最優秀技術として認められた、それぞれ10件の分野賞が選ばれました。

中臺特任教授
中臺特任教授

中臺特任教授のコメント

「ドローン聴覚」は、これまでの私の研究で培ってきたロボットの耳を実現する「ロボット聴覚」研究を災害現場で役立てられないかという発想から、2011年の東日本大震災直後に思いついたテーマです。ドローンに耳の機能を構築できれば、人が助けを求める声や携帯の着信音を検出できます。緊急車両も入れず、瓦礫に人が埋もれてしまっている災害地で、人を捜索する一手段を提供できるはずです。継続的な研究開発の結果、屋外模擬環境で実機デモができるレベルの技術となり、この一連の研究の成果に対して今回の賞をいただきました。本研究を一緒に進めていただいた奥乃博教授(早稲田大学)、公文誠准教授(熊本大学)、干場功太郎助教(神奈川大学)、多大な支援をいただいたImPACT タフ・ロボティクス・チャレンジ(田所諭プログラム・マネージャー)、中臺研究室のメンバーに深く感謝の意を表します。

ImPACTは、内閣府総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラムです。
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藻類のデンプン産出を自在にコントロール 環境に優しいプラスチックや医薬品の増産に期待

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要点

  • 藻類デンプン合成を調節する仕組みを発見
  • 藻類を用いたデンプン生産実現に向けたエコな基盤技術
  • 国連の持続可能な開発目標(SDGs)に貢献する有用物生産手法

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所のイムラン・パンチャ日本学術振興会 外国人特別研究員(研究当時)、田中寛教授、今村壮輔准教授の研究グループは、東北大学 大学院生命科学研究科の東谷なほ子博士、東谷篤志教授と、同大 大学院医学系研究科の島弘季助教、五十嵐和彦教授と共同で、藻類のデンプン合成をコントロールする新たな仕組みを解明した。

藻類デンプンは、高付加価値を持つレブリン酸メチルなどの有用化学品原料となるため、この成果を基に藻類のデンプン生産量を増加できれば、環境に優しい燃料添加剤(エンジンをきれいにする薬剤)や医薬品、化粧品、プラスチックなどに用いられる可能性がある。

藻類は、「油脂」を蓄積するためバイオ燃料生産で注目を集めているが、「デンプン」も細胞内に高蓄積することが知られている。しかし、油脂に比べてデンプンを合成する仕組みはよく理解されていなかった。研究グループは今回、デンプン合成開始時に機能するGLG1タンパク質のアミノ酸がリン酸化修飾を受け、リン酸化状態がデンプン合成のオン/オフを決定することを発見した。

本成果は10月23日、英国の科学雑誌「ザ・プラント・ジャーナル(The Plant Journal)」オンライン版に掲載された。

研究成果

研究グループは、藻類オイル[用語1]が蓄積する条件で藻類デンプン[用語2]が同様に蓄積する現象に注目。藻類オイル合成で重要なタンパク質リン酸化酵素のTORキナーゼ[用語3]が、デンプン合成においても機能しているのではと考えた。

この仮説を支持するように、単細胞紅藻シゾン[用語4](図1)内でTORキナーゼのリン酸化活性を人為的に阻害すると、細胞内でデンプン量が顕著に増加することが確認された(図2)。これはTORキナーゼが藻類オイルのみならず、藻類デンプン合成でも重要な役割を担っているタンパク質と言える(図3)。

このTORキナーゼは、その活性によって標的となるタンパク質のリン酸化[用語5]状態を変化させるため、タンパク質のリン酸化状態の網羅的な解析を行った。その結果、デンプン合成に関わると考えられるGLG1タンパク質[用語6]を発見した。その後、TORキナーゼ経路によってリン酸化を受けるGLG1のアミノ酸を特定し、このアミノ酸のリン酸化状態によって、細胞内のデンプン量が調節されていることを明らかにした(図3)。

単細胞紅藻シゾンの細胞と実験室における培養の様子

図1. 単細胞紅藻シゾンの細胞と実験室における培養の様子

TORキナーゼの活性を阻害するとデンプンの蓄積が誘導される

図2. TORキナーゼの活性を阻害するとデンプンの蓄積が誘導される

TORキナーゼの活性によりGLG1のリン酸化状態が変化して、デンプン蓄積のON/OFFが決定される。蓄積されたデンプンは、医薬品やプラスチックなどの有用化学品の原料となるレブリン酸メチルなどに変換可能である。図中のGLG1に付した「P」はリン酸化を示している
図3.
TORキナーゼの活性によりGLG1のリン酸化状態が変化して、デンプン蓄積のON/OFFが決定される。蓄積されたデンプンは、医薬品やプラスチックなどの有用化学品の原料となるレブリン酸メチルなどに変換可能である。図中のGLG1に付した「P」はリン酸化を示している

背景

国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)には、クリーンで持続可能なエネルギーの利用の拡大や地球温暖化への具体的なアクションを起こすことなどが盛り込まれている。デンプンは、各種化成品の原料やエタノールなどの燃料に変換できる有用物質だ。その中でも微細藻類を用いたデンプン生産は、SDGsを達成するための重要な技術と考えられる。しかし、藻類がデンプンを生産する仕組みはこれまで不明であり、藻類を用いたデンプン生産性を高める機構の解明が待たれていた。

研究の経緯

研究グループは以前、藻類デンプンからレブリン酸メチル[用語7]及び乳酸メチル[用語8]などの化学品原料を合成する新たな化学変換プロセスを開発している。それら化学品原料を増産させるためには、藻類におけるデンプン合成の仕組みを理解し、それを基にデンプン量を人為的に高めた藻類株の育種が必要であった。

今後の展開

GLG1タンパク質とそのリン酸化を調節するTORタンパク質は、藻類に広く保存されており、今回明らかにした仕組みは藻類一般に保存されていると考えられる。よって、GLG1とTORによる調節系は、他の藻類においてもデンプン量を変える優れた標的になると考えられる。今後、デンプン合成におけるGLG1の更なる詳細な解析を進めることで、デンプン生産能を向上させた藻類株の育種が期待される。

用語説明

[用語1] 藻類オイル : ここでは、藻類が生産するオイルの中でも、バイオ燃料の原料となる中性脂質であるトリアシルグリセロールを指す。

[用語2] デンプン : グルコース貯蔵の一形態であり、多数のグルコース分子が重合した天然高分子。

[用語3] TORキナーゼ : 真核生物に広く保存されたタンパク質リン酸化酵素。アミノ酸やグルコースなどの栄養源により活性が制御されている。標的分子のリン酸化を通してタンパク質合成を調節し、細胞の成長(大きさ)を制御している。

参考:微細藻類にオイルをつくらせるスイッチタンパク質を発見―バイオ燃料生産実現に向けた基盤技術として期待―

[用語4] シゾン : 学名はCyanidioschyzon merolae(通称シゾン)。イタリアの温泉で見つかった単細胞性の紅藻(スサビノリ、テングサの仲間)。真核生物として初めて100%の核ゲノムが決定されるなど、モデル藻類、モデル光合成真核生物として用いられている。

[用語5] リン酸化 : タンパク質分子などにリン酸基を付加する反応。リン酸化によってタンパク質分子の機能が変化したり、細胞内での局在や他のタンパク質分子との結合状態が変化する。タンパク質の機能を調節する主要な調節の仕組み。

[用語6] GLG1タンパク質 : デンプン合成の初期の段階でグルコース数分子をつなぎ合わせるグライコジェニン(glycogenin)と相同性を持つタンパク質。その分子を基にデンプン合成酵素がさらにグルコース分子をつないでデンプンが合成される。

[用語7] レブリン酸メチル : 工業的には燃料添加剤として利用されている。 出発物質として種々の有用化合物へと展開し、医薬品、化粧品、プラスチックなど様々な化学品の合成にも用いられている。

参考:藻類オイル抽出残渣から化学品原料の合成に成功 ―藻類バイオマスを徹底的に活用する技術を確立―

[用語8] 乳酸メチル : バイオプラスチック(バイオマスを原料とするプラスチック)の一つであるポリ乳酸(PLA)の原料として利用されている。PLAは植物由来のプラスチックであり、石油由来のABS樹脂の代替として利用が推進されている。

研究サポート

この研究は、科学研究費補助金の支援を受けて実施した。

論文情報

掲載誌 :
The Plant Journal
論文タイトル :
Target of rapamycin (TOR) signaling modulates starch accumulation via glycogenin phosphorylation status in the unicellular red alga Cyanidioschyzon merolae
著者 :
Imran Pancha, Hiroki Shima, Nahoko Higashitani, Kazuhiko Igarashi, Atsushi Higashitani, Kan Tanaka, Sousuke Imamura
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院

化学生命科学研究所 准教授 今村壮輔

Email : simamura@res.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5859 / Fax : 045-924-5859

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

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Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

若手研究者が自由な発想で新たな課題に挑戦する「基礎研究機構」が発足

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最先端研究領域を開拓し、世界の研究ハブとしての地位を継続的に維持・発展させるため、活力にあふれた若手研究者・技術者を育成する場として、今年7月に東京工業大学「基礎研究機構」が発足しました。

基礎研究機構は、本学が世界をリードする最先端研究分野で顕著な業績を有する傑出した研究者を塾長に据えた「専門基礎研究塾」と、本学のすべての若手研究者が塾生として3カ月間研さんを行う「広域基礎研究塾」から構成されています。

本学が指定国立大学法人の構想で示したアウトカムの一つ「新規・融合分野の研究領域の開拓」の「長期的な視点から、若手教員・研究者が自由な発想に基づく研究に集中できる環境を構築する」ことを具現化する研究組織として基礎研究機構が設立され、小山二三夫機構長のもと、科学技術創成研究院内に配置されました。あわせて、すずかけ台キャンパスS2棟2階(西側)にオープンラボが整備されました。

基礎研究機構 イメージ図

基礎研究機構 イメージ図

機構長 小山二三夫 教授

機構長 小山二三夫 教授(科学技術創成研究院 )

グローバルな競争下で日本が発展を続けていくためには、高度な専門知識と独創性を有する若手研究者・技術者が社会の様々な場面で活躍することが求められています。日本が継続的に発展していくためには、活力にあふれた若手研究者・技術者を養成し続けることが必要です。本機構の取り組みを通して、優秀な若手人材に、若いうちに自由な発想のもと、新たな課題に挑戦する機会を提供し、将来の新しい産業の芽となるイノベーション創出に繋がることを期待します。

専門基礎研究塾

細胞科学分野

細胞科学分野の将来を担う卓越した研究者を育成することを目指します。若手研究者が落ち着いた研究環境の中で自身の学術的興味から細胞科学の研究課題を見出し、仮説の立案と検証を存分に行うことの出来る研究の場を提供して基礎研究の発展を支えていきます。

塾長 大隅良典 栄誉教授

塾長 大隅良典 栄誉教授(科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センター長)

基礎研究機構は、研究力強化に対して本学が出した一つの答えです。そして専門基礎研究塾は未来を担う若手研究者の活躍を図るのが目的です。今回、細胞科学分野に、細胞制御工学研究センターから助教5名、特任助教6名、生命理工学院から助教2名の計13名の塾生が入塾しました。ファシリテータをはじめ、多くの方々が積極的に関与し協力して、若い人たちが伸びやかに研究できる環境を共につくっていくことを期待しています。

来年には、科学技術創成研究院 西森秀稔教授(量子コンピューティング研究ユニットリーダー)が塾長となる専門基礎研究塾が発足予定です。

広域基礎研究塾

若手研究者に、研究分野に関わらず自らの学術的興味に基づいて独創的・萌芽的な研究課題を見出し、社会的な期待や責任を自覚しつつ研究を推進することの重要性を肌で感じられる場を提供することにより、人材育成と研究大学としての本学の発展を支えていきます。

塾長 大竹尚登 教授

塾長 大竹尚登 教授(科学技術創成研究院)

研究テーマを考える時間は、研究者として非常に重要です。広域基礎研究塾は、時には先達の知恵に接したり未来社会像を描いたりしながら、自分は研究者として何がしたいのか、どんな挑戦がその先に待っているのかを思索する時間を若手教員に提供します。さながら科学・技術のゆりかごのように、未来の科学・技術の息吹きが本機構から発せられることを期待しています。そして、10月15日に開催された大隅塾の入塾式に集った研究員、学生の皆さんを始め、多くの若手研究者に、来年から始動する広域基礎研究塾の将来の塾生として活躍していただきたいと思います。

10月15日に開催された専門基礎研究塾 細胞科学分野 入塾式、セミナーの様子 (前列左から6人目から小山機構長、大隅塾長、大竹塾長)

10月15日に開催された専門基礎研究塾 細胞科学分野 入塾式、セミナーの様子
(前列左から6人目から小山機構長、大隅塾長、大竹塾長)

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E-mail : media@jim.titech.ac.jp

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