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東京工業大学が、スパコンと化学合成技術を融合した世界初となる中分子IT創薬研究拠点を、キング スカイフロントに設立

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東京工業大学が、スパコンと化学合成技術を融合した世界初となる中分子IT創薬研究拠点を、キング スカイフロントに設立
―東京工業大学・川崎市の提案事業が、文部科学省「平成29年度地域イノベーション・エコシステム形成プログラム」支援対象に採択―

要点

  • 国立大学法人東京工業大学(以下、東工大)と川崎市が共同提案した事業プログラム「IT創薬[用語1]技術と化学合成技術の融合による革新的な中分子[用語2]創薬フローの事業化」が、文部科学省「平成29年度地域イノベーション・エコシステム形成プログラム」支援対象に採択されました(全国で10件採択。補助額は年1億5,500万円)。
  • 本プログラムでは、スパコンや機械学習を駆使したIT創薬技術と、人工ペプチド・人工核酸などの独自の化学合成技術を融合して、中分子創薬の開発効率の大幅な改善を目指します。
  • 東工大の学内に異分野の教員が集結する研究体制を構築するほか、川崎市の殿町国際戦略拠点「キング スカイフロント」(以下、キングスカイフロント[用語3])内に整備予定の東工大拠点について、さらに中分子に関する研究機能を強化した「中分子IT創薬研究拠点(MIDL)[用語4]」として今年度内に設立予定です。中分子創薬分野にIT創薬の手法を導入する試みは独自性が高く、専門施設としては世界初となる見込みです。

東工大 中分子IT創薬研究拠点(MIDL)の入居施設

東工大 中分子IT創薬研究拠点(MIDL)の入居施設

概要

東工大と川崎市は共同で、中分子IT創薬に関する事業化プロジェクトを含む、イノベーション・エコシステム形成に向けた研究開発プログラムを実施する。「IT創薬技術と化学合成技術の融合による革新的な中分子創薬フローの事業化」と題する事業プログラムは、このたび文部科学省による「平成29年度地域イノベーション・エコシステム形成プログラム」支援対象に選定された(2017年7月31日(月)文部科学省プレスリリース)。支援期間は、2022年3月までの5年間の予定。

研究の内容

東工大の情報理工学および生命理工学の学問的蓄積とスパコン技術を活かして、IT創薬技術、人工ペプチド・人工核酸合成技術等のコア技術の融合による革新的な中分子創薬事業フローを構築する。

研究の体制

同プログラムは、東工大のキャンパス内で実施されるだけでなく、川崎市の殿町国際戦略拠点「キングスカイフロント」内に、中分子IT創薬研究拠点(MIDL)を設立し、川崎市内企業等[用語5]が参加する大型の産学官連携事業として展開する。設立予定場所は、大和ハウス工業株式会社が開発・設計・施工する殿町3丁目A地区内のIIA棟1階。

研究の拠点

東工大では、かねてよりキングスカイフロントへの研究拠点の新設を計画しており、当事業の支援採択を受けて、さらに研究機能を強化した中分子IT創薬研究拠点(MIDL)として施設を設置する。中分子創薬分野にIT創薬の手法を導入する試みは独自性が高く、専門施設としては世界初となる見込み。

川崎市内の企業等との産学官連携により、基礎・基盤研究と創薬事業を橋渡しするイノベーション・エコシステムを形成することで、中分子創薬の開発効率の大幅な向上を目指す。

用語説明

[用語1] IT創薬 : 創薬の過程において、薬剤標的分子の決定支援から、実際の候補化合物の選択、体内安定性、膜透過性、毒性などに至るさまざまな側面で、情報技術(IT)を駆使した手法のこと。知識処理、機械学習、分子シミュレーションなどを主に用いる。

[用語2] 中分子 : ペプチドや核酸など、分子量が500~30,000程度の分子を指す。従来の創薬の主流は、分子量が500以下となる低分子を合成することであり、いわば「低分子創薬」だった。これに対して近年、抗体などの高分子を使った創薬(たとえば、がんに対するオプジーボなど)が新たに登場したが、人工的な合成ができず高度に管理された条件下で動物細胞を使って作成されるために、きわめて高額であるなどの欠点があった。中分子は化学合成が可能でありながら、高分子に似た様々な利点を有しており、創薬の新たな中心になると期待されている。

[用語3] キングスカイフロント : 川崎市川崎区殿町に位置する国際戦略拠点「キングスカイフロント」は、世界的な成長が見込まれる健康・医療・福祉・環境分野において、最高水準の研究開発から新産業を創出するオープンイノベーション拠点。現在50社を超える企業・研究機関が集積し、運営を開始している。

[用語4] 中分子IT創薬研究拠点(MIDL:Middle Molecule IT-based Drug Discovery Laboratory) : 新たな創薬技術として注目される中分子創薬に、スパコンを用いた分子シミュレーションや機械学習などの最新の情報技術を活用する東工大の研究拠点。中分子創薬の分野にIT創薬の手法を導入する研究グループとしては世界初。

[用語5] 川崎市内企業等 : 川崎市域のIT系・化学系・創薬系の企業との連携を強めていく。本事業における現時点での協力企業等は以下のとおり。(公財)川崎市産業振興財団、川崎信用金庫、株式会社横浜銀行、株式会社浜銀総合研究所、株式会社みらい創造機構、株式会社ファストトラックイニシアティブ、MVP株式会社、ペプチドリーム株式会社、株式会社レベルファイブ、株式会社情報数理バイオ、株式会社カタリスト、モジュラス株式会社

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情報理工学院 ―情報化社会の未来を創造する―
2016年4月に発足した情報理工学院について紹介します。

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お問い合わせ先

本事業プログラムの内容、中分子IT創薬研究拠点に関すること

東京工業大学 情報理工学院 情報工学系
教授 秋山泰

E-mail : staff@bi.c.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3645 / Fax : 03-5734-3646

キングスカイフロントに関すること

川崎市 臨海部国際戦略本部 国際戦略推進部 東

E-mail : 59kokuse@city.kawasaki.jp

Tel : 044-200-3633 / Fax : 044-200-3540

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


世界最高水準の科学・技術×アスリートの育成」東工大と日体大が連携協定を締結

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東京工業大学(以下、東工大)と日本体育大学(以下、日体大)は、7月21日、日体大世田谷キャンパスにおいて、連携協定の締結式を行いました。

今回の連携協定は、世界最高の理工系総合大学の実現を目指している東工大と世界トップレベルのアスリートを有する日体大の強みを生かし、互いの教育資源、人的資源の活用を図るのが大きな狙いです。東京2020年オリンピック・パラリンピック競技大会開催に向けて「世界最高水準の科学技術×アスリートの育成」のコラボレーションによる“強い日本をつくる”ことの実現に向けて連携が期待されています。

東工大からは、三島良直学長、安藤真理事・副学長(研究担当)、梶原将生命理工学院教授、中島求工学院教授が、日体大からは、具志堅幸司学長、今村裕常務理事、松井幸嗣副学長(企画・管理・運営担当)、山本博アスレティックデパートメント長が出席しました。

具志堅学長からは「今回の連携協定は、東工大と日体大双方にメリットのある協定で、お互いの強みをさらに推し進めるものでなくてはなりません。共通の目標は“強い日本をつくる”ということです。日体大のアスリートがさらに躍進するために、東工大が培ってきた世界最高峰の科学・技術を融合することで、これまで成し遂げられなかった競技力の向上、研究の推進、新しい視点に立ったアスリートのサポートができるのではないかと期待と夢が広がっています。」との挨拶がありました。

続いて、三島学長は「日体大と連携協定を結び、スポーツ科学の分野に東工大がどういった貢献ができるか挑戦できるのは大変ありがたいことです。東工大は、これまでもスポーツ科学の分野で運動生理学やバイオメカニズムの研究を推進しており、精一杯取り組んでいきます。」と決意を述べました。

また、山本アスレティックデパートメント長からは、「このミッションを成功させるために3つの柱、(1)用具・装具の開発を通じて記録の向上を生み出すこと。(2)ウェアラブルな生理学的指標測定器を開発し、今までにない戦術・コンディション管理を生み出すこと。(3)AI(人工知能)を用いたアスリートのビックデータの分析により最高のパフォーマンスを発揮できるコンディション管理方法を見い出すこと、があります。東京オリンピック・パラリンピックに向けて頑張るアスリートのすべてを支援し、世界でスポーツを愛するすべての人たちの夢の実現に向けて進んでいきます。」と協定の趣旨について説明がありました。

今後、東工大と日体大は、“強い日本をつくる”ことの実現に向けて連携していきます。

  • 三島学長

    三島学長

  • 日本体育大学 具志堅学長

    日本体育大学 具志堅学長

  • 日本体育大学 山本アスレティックデバートメント長

    日本体育大学 山本アスレティックデバートメント長

  • 協定書に署名した三島学長(左)と日体大の具志堅学長(右)

    協定書に署名した三島学長(左)と日体大の具志堅学長(右)

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広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

免疫細胞を活性化する情報伝達分子の働きを解明

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免疫細胞を活性化する情報伝達分子の働きを解明
―生きた細胞中の1分子の動きと相互作用を見る新手法を開発―

要点

  • 免疫T細胞を活性化するタンパク質分子の動きを解明
  • 生きた細胞中で分子1個の動きを観察し計測できる画像解析方法を開発
  • ノーベル賞で注目集める分子イメージング分野での利用を期待

概要

東京工業大学 生命理工学院の伊藤由馬特任助教、十川久美子准教授、徳永万喜洋教授の研究チームは、新しい分子動態解析方法を開発。免疫T細胞の活性化を開始させる分子メカニズムを定量的に明らかにしました。

免疫システムの司令塔として働くリンパ球T細胞が休止状態から働くようになる際には、細胞表面で抗原を受容したという情報を伝える分子が集まることにより細胞活性化が始まることが知られています。

このような生命の働きが、分子のどのような動きや変化、分子間相互作用によって実現されているのかは、いまだに謎が多い。これらを明らかにする生命動態の分野が、ライフサイエンスにおける世界的な大きな潮流となっています。ここでは、光学顕微鏡で分子1個1個を直接観る1分子イメージング法が、重要な方法となっています。これまで、1分子イメージング法で、分子の動きの時間的な変化や、分子間相互作用を定量的に計測する良い手法がありませんでした。

今回、研究チームは、分子1個1個の軌跡を追跡し、分子の動きばかりでなく、他の分子との相互作用も、時間的・空間的な変化を解析できる新しい方法を考案し、定量計測を実現しました。

この方法を使って、免疫T細胞の情報伝達分子が2段階で活性化されること、分子集合体の周囲で活性化が調整されていることを明らかにしました。

今回考案された方法は、基本的な手法として、今後広く用いられ、多くの生命機能の分子メカニズム解明に大きな成果をもたらすことが期待されます。

本研究成果は、英国のオンライン科学雑誌『Scientific Reports』(8月1日付け:日本時間8月1日)に掲載されました。

研究の背景と経緯

近年、生きている細胞内での分子を直接観察する分子イメージング技術の進歩により、生命の仕組みを分子のダイナミックな動きや分子間の相互作用として明らかにする、分子動態[用語1]の分野がライフサイエンスにおける世界的な大きな潮流となっています。2008年のノーベル化学賞「緑色蛍光タンパク質 GFPの発見と開発(下村脩博士他)」、2014年のノーベル化学賞「超解像顕微鏡の開発」の受賞に端的に示されています。

さらにこの分野は、ゲノム解析以降の種々の配列情報研究の長足の進歩を相補するものとして、一層重要性を増しています。データ科学やシステムズバイオロジー[用語2]の進歩により、分子の動きや相互作用を定量的に計測し、数値情報として解明することが求められています。

免疫細胞は、体を外敵から防御する免疫系として中心的な役割を担っています。病原菌・ウィルスや花粉などの異物が体内に侵入したことを察知すると、樹状細胞などの抗原提示細胞がそれらを取込み、抗原として細胞表面に提示します。リンパ球の一種であるT細胞は、提示された抗原を認識すると、一連の細胞内シグナル伝達系が働くことで細胞が活性化し、免疫系を活性化する司令塔としての役割を果たします。

研究チームは以前に、蛍光[用語3]を使って分子1個1個を光学顕微鏡で直接観察できる1分子イメージング顕微鏡の方法として、対物レンズ型全反射照明(TIRF)法[用語4]薄層斜光照明(HILO照明)法[用語5]を開発しています。

また、これらの顕微鏡法を使って、抗原を認識するT細胞受容体が核となって種々のシグナル伝達分子が数十~数百分子集合して「マイクロクラスター[用語6]」と呼ばれる集合体を形成することが、T細胞活性化の開始点であることを明らかにしています。T細胞活性化の仕組みの解明は、免疫制御に関するバイオ医薬品などの新しい展開に伴い、臨床応用においても一層の重要性を増しています。

研究の内容と成果

T細胞が、提示された抗原を認識するのは、T細胞膜表面のT細胞受容体(TCR)分子とCD3分子とからなるT細胞受容体複合体(TCR/CD3)が抗体と結合することから始まります。抗体とTCR/CD3複合体とが結合すると、CD3がリン酸化[用語7]されて活性化された状態になります。この活性化反応は、細胞膜にあるリン酸化酵素[用語7]であるCD45分子により制御されています。CD45は、活性化するばかりでなく、活性化を抑制する働きも持っており、精巧な免疫システムに重要な役割を果たしています。研究グループは、T細胞活性化の開始の仕組みを明らかにするために、CD3とCD45に注目しました。

研究グループが独自に開発した1分子イメージング顕微鏡を用いて、CD3分子、CD45分子、マイクロクラスターを生きた細胞の中で同時に1個1個鮮明に観察しました(図1、2)。平面上の人工の細胞膜[用語8]の上で細胞を活性化しているので、細胞内での本来の動きが観察されます。

T細胞活性化のシグナル伝達分子動態を可視化するための観察方法

図1. T細胞活性化のシグナル伝達分子動態を可視化するための観察方法

本研究では、抗原提示細胞の代替として人工の細胞膜(脂質二重膜)を用いた。脂質二重膜に結合させた細胞刺激用の抗CD3ε抗体(CD3εはCD3を構成するサブユニットの一つ)により、T細胞の細胞膜にあるT細胞受容体複合体(TCR/CD3)が数十~数百分子集まりマイクロクラスターを形成し、T細胞を活性化させる。この活性化反応は、膜タンパク質であるリン酸化酵素CD45分子により制御されている。脂質二重膜を用いることにより、シグナル伝達活性化における分子の動きを、細胞本来のまま観察できる。マイクロクラスターは、緑色蛍光タンパク質GFPをつなげたCD3ζ(CD3ζはCD3を構成する別のサブユニット)により可視化した。CD45およびCD3は、橙色蛍光標識した抗CD45抗体(青色で図示)と赤色蛍光標識した抗CD3ε抗体により、個々の1分子を可視化。全反射照明法を用いており、鮮明な画像が得られる。

3色同時1分子イメージング蛍光顕微鏡画像

図2. 3色同時1分子イメージング蛍光顕微鏡画像

個々の点はそれぞれ、青色:CD45 1分子、赤色:CD3 1分子、緑色:T細胞受容体マイクロクラスター1個。バーは5 μm(ミクロン)。動画として録画されたものの、ある時刻での画像。なお、CD45は橙色の蛍光で標識されているが、画像は識別のために青色で表示している。

得られた動画中の分子1個1個の位置を正確に求め、時間とともに動いてゆく様子を、軌跡として追跡します(図3)。従来の解析方法では、1つの軌跡の全ての点を一度に使うので、1つの軌跡から1個のデータしかとれず、また、途中で動き方が変化するために正確な数値が求められませんでした。

1分子軌跡追跡の例

図3. 1分子軌跡追跡の例

マイクロクラスターの画像(白黒、白がマイクロクラスター)の上に、CD45(青)とCD3(赤)1分子の軌跡を重ねてある。軌跡の各点は、動画フレーム間隔(33.33 ms)の時間ごとでの分子位置を示す。矢印は、軌跡がマイクロクラスター内に入っている部分を示す。バーは1 μm。

今回新しく開発した方法(移動部分軌跡解析、moving subtrajectory analysis)では、軌跡の一部(部分軌跡、subtrajectory、図4の例では11点)のみを使って動きに関する数値(拡散係数[用語9]など)を求め、さらに、部分軌跡を1点ずつずらしながら解析を繰り返します。これにより正確にかつ多くのデータが得られます。

今回開発した移動部分軌跡解析(moving subtrajectory analysis)法の模式図

図4. 今回開発した移動部分軌跡解析(moving subtrajectory analysis)法の模式図

軌跡の一部(部分軌跡、この例では11点)のみを使って動きを解析する。さらに、部分軌跡を1点ずつずらしてゆきながら解析を繰り返す。こうすることで、時間的な変化が追えるとともに、場所(この例ではマイクロクラスター内・境界・外)による違いも数値として明らかにできる。

この新しい解析方法により、分子の動きが、時間や場所によりどのように変化してゆくかを、数値情報として追うことが初めて可能となりました。そればかりでなく、分子が他の分子と結合する速さと解離する速さとを1分子の動きのみから求めることが初めて実現しました。

この解析を用いて、次のことがわかりました。

1.
マイクロクラスターは、分子が柔らかく結合し合ってできて、ナノレベルで分子密度に濃淡があり、マイクロクラスター内を分子が動くことができる。
2.
抗原を受容する複合体構成分子CD3も、シグナル制御分子CD45も、マイクロスターの内・境界・外のどこででも、結合してゆっくり動く状態と、結合せずに速く動く状態とがある。マイクロクラスターの外にも、ナノレベルの小さなクラスターがあることを示唆している。
3.
CD3もCD45も、速い結合解離を繰り返す一時的な結合状態と、安定な結合状態の2つの状態がある。マイクロクラスター内では、両分子とも、結合が促進され安定化されている。
4.
CD45のみは、マイクロクラスターの境界領域でも結合が促進されており、シグナル制御分子としての特徴を反映している。

このような分子動態と相互作用の詳細を定量的に明らかにしたことは、生命の仕組みの分子メカニズムを解明する上で、画期的な成果と言えます。

今後の展開

今回考案された方法は、分子動態と相互作用を定量的に解明する基本的な手法として、今後広く用いられると考えられます。

また、細胞表面での反応に限らず、生きた状態の細胞内部での仕組みにも用いることができます。免疫細胞に限らず、例えば、核内で遺伝子が発現する時にどのようなことが起こっているのかなど、種々の生命機能に適用できます。この手法で、生命現象の分子メカニズム解明に大きな成果をもたらすことが期待されます。

用語説明

[用語1] 分子動態 : 分子の動きや分子間の相互作用を、可視化したり定量的に計測して明らかにすること。

[用語2] システムズバイオロジー : 生命の仕組みをシステムとして統合的に理解することを目的とした研究分野。計算機によるシミュレーションにより生命現象を明らかにする研究が進められている。多種多数の生体分子の、空間的な配置、時間的な変化、多種分子間の反応や結合等に関して、生きた細胞や生体の中での数値情報を得ることが重要となっている。

[用語3] 蛍光 : 照明した光とは色(波長)の異なる光を出す現象のこと、もしくは出された光。蛍光を発する色素(蛍光色素)を用いて、観察対象を標識して見る顕微鏡法が蛍光顕微鏡法である。色の違いを利用して、標識した観察対象から出た蛍光のみを選び観察することができるので、背景光をカットして微弱にし、見たいもののみを鮮明に見ることができる。※名前が誤解をしばしば招くが、生物の蛍が光るのは生物発光によるもので蛍光現象とは異なる。

[用語4] 全反射照明(TIRF)法 : 試料と基板ガラスの境界面で照明光を境界面に平行に近い角度で入射すると、全反射が起こる。全反射の際には、試料側にごく薄く表面から深さ50~200 nm(ナノメートル)程度の近傍のみに光(エバネッセント光)が沁み出る。このエバネッセント光を蛍光の照明として用いる手法。対物レンズの縁にレーザー光を入射して全反射を起こし照明に用いる方法が、対物レンズ型全反射照明法で、余分な装置が不要なため普及している。全反射照明法を用いると、余分なところを照らさない局所的な照明であることと、照明光強度が入射光の約4倍強くなるため、鮮明な画像が得られる。

[用語5] 薄層斜光照明(HILO照明)法 : 対物レンズに照明光を入射するのに、全反射照明よりも少しだけ対物レンズ中心軸寄りにレーザー光を入射すると、試料の内部を薄く照明することができる手法。細胞内を鮮明に分子イメージングすることができる。対物レンズ型全反射照明法と同じ顕微鏡で行うことができ、局所的な照明であることと、照明光強度が入射光の2~3倍余り強くなるために、鮮明な画像が得られる。

[用語6] マイクロクラスター : T細胞が活性化する際に、T細胞膜に形成されるT細胞受容体複合体(TCR/CD3)の数十~数百分子の集合体。シグナル伝達分子も結合する。T細胞受容体分子複合体が、抗原提示細胞により提示された抗原と結合すると、マイクロクラスターが形成される。これにより、T細胞受容体シグナルが伝達され、T細胞が活性化される。マイクロクラスターは、大きさを増しながら、細胞接着面の中心部分へと移動集積し免疫シナプスと呼ばれる構造を形成する。

[用語7] リン酸化、リン酸化酵素 : リン酸基を付加するのがリン酸化反応であり、この反応を生体中で触媒するのがリン酸化酵素でありキナーゼとも呼ばれる。シグナル伝達においては、タンパク質アミノ酸残基の水酸基がリン酸基で置換されリン酸化されることが、シグナルとして用いられている。

[用語8] 人工の細胞膜 : 人工的に作成した脂質二重膜をカバーガラス表面上に一層のみ敷き、脂質二重膜中に必要なタンパク質等の分子を埋め込んで、細胞膜の代替としたもの。脂質二重膜は、膜中や膜上の分子が自由に動くことができるので、膜分子の動きを細胞本来のまま観察することができる。一層の脂質二重膜を均質にガラス表面上に形成するためには、通常特殊な装置と熟練とが必要とされるが、本研究では、研究グループが以前に開発した簡便な方法を用いて、人工細胞膜法研究の難点を克服している。

[用語9] 拡散係数 : 分子が拡散により広がってゆく速さを数値化したもの。数値が大きいほど、速く拡散することを意味する。分子はランダムな熱運動(ブラウン運動)をしながら拡散してゆくが、分子の移動距離を二乗した平均値は、拡散係数と時間とに比例する。アインシュタインは、単純な拡散の場合には、拡散係数は分子の直径に反比例することを示した。なお、拡散係数はマクロな現象で定義され、物質が拡散する際の濃度の時間変化の大きさを表す係数(拡散方程式の係数)としての意味がある。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Multi-color single-molecule tracking and subtrajectory analysis for quantification of spatiotemporal dynamics and kinetics upon T cell activation
著者 :
Yuma Ito, Kumiko Sakata-Sogawa, Makio Tokunaga
DOI :

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東京工業大学 生命理工学院 教授
徳永 万喜洋(とくなが まきお)

E-mail : mtoku@bio.titech.ac.jp

Tel : 045-924-5711 / Fax : 045-924-5831

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欲しいものだけを合成する新触媒 ―医農薬からバイオマスの高付加価値化まで―

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要点

  • 様々な芳香族アルデヒドから芳香族アミンだけを合成する触媒を開発
  • 開発触媒は性能劣化無く、繰り返し使用できる分離回収が容易な固体材料
  • 開発触媒によって、糖由来の化合物から高付加価値ポリマー原料の製造に成功

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院の原亨和教授、鎌田慶吾准教授、喜多祐介助教らは「ルテニウム-酸化ニオブ複合体触媒」(Ru-Nb2O5[用語1]が他の触媒とは異なり、複素環式芳香族化合物[用語2]を含む様々な芳香族アルデヒド [用語3]から有用な芳香族アミン[用語4]だけを合成できることを発見した。この触媒は多様な芳香族アミンを選択的に合成できる。また、糖由来の化合物から強靭かつ耐熱性の高付加価値ポリマー「アラミド」の原料を効率的に製造できることがわかった。

原教授らはRu-Nb2O5が電子を与える力を弱めることができることに着目し、副反応をほぼ完全に防ぐことに成功した。このアプローチは芳香族アミンの製造だけでなく、再生可能なバイオマスの利用に一石を投じると期待される。

医農薬、ゴム、ポリマー、接着剤、染料などの様々な化成品に使われる芳香族アミンは重要な化学品である。しかし、これらアミンを芳香族アルデヒド原料から製造する還元的アミノ化[用語5]において、従来の触媒は電子を与える力が強く、芳香環の分解、副生物の生成を完全に防ぐことはできなかった。このため、製品の精製に多大なエネルギーが必要となり、コストを押し上げていた。

研究成果はJST ALCAにおいて得られたもので、「米国化学会誌(Journal of the American Chemical Society)」オンライン速報版に7月31日に公開され、正式版は近日中に掲載されます。

研究成果

同研究グループは、構築したルテニウム-酸化ニオブ複合体触媒(Ru-Nb2O5)(図1)が、従来の触媒とは異なり、芳香族アルデヒドの還元的アミノ化によって有用な芳香族アミンのみを合成できることを発見した。

ルテニウム-酸化ニオブ複合体触媒(Ru-Nb2O5)

図1. ルテニウム-酸化ニオブ複合体触媒(Ru-Nb2O5

触媒の性能

図2. 触媒の性能

例えば、複素環式芳香族化合物であるフルフラール([用語3]参照)からフルフリルアミン([用語4]参照)を合成する場合、従来の触媒では原料の10%以上が使い道の無い副生物になっていた(図2)。こういった不純物を取り除き、フルフリルアミンだけを得るには多大なエネルギーが必要になる。

一方、開発したRu-Nb2O5ではフルフリルアミンの収量が99%に達した。また、様々な芳香族アルデヒドを原料とした有用芳香族アミンの合成でも同様の結果が得られた。このことは開発触媒を使うことによって、医農薬品から大量生産される化成品で幅広く使われる芳香族アミンの生産を限界まで高効率化できることを意味している。

また、開発触媒はプロダクトとの分離が容易な固体材料であり、繰り返し・連続的に使用しても触媒の性能は低下しないことを確認した。

さらに、同研究グループは開発触媒と既存技術を組み合わせることによって、これまで効率的に合成することができなかった高機能・高付加価値なアラミド樹脂の原料をバイオマスから高効率合成することに成功した(図3)。

バイオマスからのアラミド樹脂原料の生産

図3. バイオマスからのアラミド樹脂原料の生産

植物の大部分はブドウ糖の高分子「セルロース」で占められている。セルロースからブドウ糖を生産し、ブドウ糖を発酵させるとエタノールが得られる。このエタノールはバイオエタノールと呼ばれている。一方、ブドウ糖から芳香族アルデヒドの1つ「ヒドロキシメチルフルフラール」([用語3]参照)を生産し、これを芳香族アミン「アミノメチルフラン」([用語4]参照)に変換することができれば、化石資源を使うことなく強靭で燃えにくい高付加価値な高機能ポリマー「アラミド樹脂」を生産することができる。

しかし、これまでの技術の場合、アミノメチルフランの収量は50%程度であり、実用化の目処は立っていなかった。同グループは開発触媒と既存触媒技術を組み合わせることによってヒドロキシメチルフルフラールからアミノメチルフランを収率96%で合成することに成功した。これはバイオマス利用の一つのブレークスルーとなる。なお、同グループはブドウ糖からのヒドロキシメチルフルフラール製造でも世界最高性能の触媒を既に発表している。

このような開発触媒の高い性能は以下に記す新しい考え方とそれを実現する新しい設計に基づいている。

新しい考え方:これまでの還元的アミノ化促進触媒の開発指針は還元能力を強くすること、言い換えれば、水素を供与する能力を高めることにあった。確かにこの指針は有効だが、芳香族アルデヒドでは芳香環が還元されやすいため、触媒の水素供与能力を高めた場合、芳香環に結合したアルデヒドを還元するだけでなく、芳香環までも還元して壊してしまう。そこで、これまでの考え方とは逆に、触媒の水素供与能力を制御することを同グループは開発の指針とした。

新しい設計:ルテニウムのような遷移金属のナノ粒子は還元力が高い触媒であることが知られている。これらの金属ナノ粒子を触媒として使うには、金属ナノ粒子を固体表面に固定化する必要がある。自動車の排ガス浄化触媒を含めた多くの実用・商用触媒は金属ナノ粒子を固体表面に固定化した材料だ。

まず、同グループは、酸化マグネシウムやジルコニアのような塩基性の固体表面に固定化されたルテニウムは反応中に活性な状態(金属状のナノ粒子)にならず、金属ナノ粒子は中性~酸性の固体表面で安定化できることを明らかにした。そして、シリカやチタニアなどの固体表面に固定化された金属ナノ粒子は電子供与能力が高くなることを分光法によって明らかにした(図4左)。一方、金属ナノ粒子を酸化ニオブのような金属酸化物に固定化した場合、金属ナノ粒子の電子供与能力を弱めることが可能となり、水素供与能力を制御することで芳香族アミンの合成に最適な触媒作用を発現することがわかった(図4右)。

開発触媒のメカニズム

図4. 開発触媒のメカニズム

今後の展開

今回開発した触媒のもつ意義は、これまでの芳香族アミン生産を限界まで高効率化し、これまでできなかったバイオマス利用を可能にするだけに留まらない。神経作用薬、抗がん剤などの医薬品、殺虫殺菌剤を含めた農薬、肥料、油脂、ゴム・ポリマー、バイオ航空燃料といった多くの化成品が遷移金属の還元触媒能力を利用して生産されている。開発触媒のベースとなっている新しい考え方、新しい設計はこれらの化成品の生産を革新するポテンシャルをもっている。

本成果は、以下の事業・研究開発課題によって得られました。

科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 ALCA(先端的低炭素化技術開発)outer

研究開発課題名:
「多機能不均一系触媒の開発」
研究代表者:
東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所 原亨和
研究開発実施場所:
東京工業大学
研究開発期間:
平成28年4月~平成33年3月

用語説明

[用語1] ルテニウム-酸化ニオブ複合体触媒(Ru-Nb2O5 : 酸化ニオブの微粒子(数百ナノメートル)表面に金属ルテニウムナノ粒子(2~5ナノメートル)を固定化した材料。きわめて単純な手法で大量生産できる。

[用語2] 複素環式芳香族化合物 : 芳香族化合物とは、一般的にベンゼン環などの炭化水素のみで構成された環状不飽和化合物を指す。しかし、窒素、酸素、硫黄原子などの炭素以外の原子が入っている共役不飽和環も芳香族化合物である。これらは複素環式芳香族化合物と呼ばれる。下にその一例を示す。

  • ピリジン
    ピリジン
  • フラン
    フラン
  • チオフェン
    チオフェン

[用語3] 芳香族アルデヒド : ベンゼンを代表とする環状不飽和化合物にホルミル基が結合した化合物。それ自体、香料などに使われているが、多くの化成品の原料でもある。

  • ベンズアルデヒド
    ベンズアルデヒド
    香料(杏子)
    染料、医薬品の原料
  • フルフラール
    フルフラール
    熱硬化樹脂、ナイロンの原料
  • ヒドロキシメチルフルフラール
    ヒドロキシメチルフルフラール
    ブドウ糖から合成される
    高付加価値な化成品の原料

[用語4] 芳香族アミン : ベンゼンを代表とする環状不飽和化合物にアミノ基が結合した化合物。医農薬品から大量製造される化成品の原料として使われている。下にその一例を示す。

  • アニリン
    アニリン
    年間500万トン以上生産される合成ゴム原料
    • ドーパミン
      ドーパミン
    • アドレナリン
      アドレナリン

    神経伝達物質

    • ベンジルアミン
      ベンジルアミン
    • アドレナリン
      フルフリルアミン

    抗がん剤等の医薬品、様々な農薬と化成品の原料

  • アミノメチルフラン

    アミノメチルフラン

    強靭で燃えにくい高機能アラミド樹脂の原料。原理的にはブトウ糖から得られるヒドロキシメチルフルフラール(上記[用語2]参照)から合成できる。このため、再生可能なバイオマスを高付加価値なポリマーにする変換するひとつのルートとして期待されている。

[用語5] 還元的アミノ化 : アルデヒド、ケトンを1ステップでアミンに変換する反応の総称。アルデヒド、あるいはケトンを窒素源(アンモニアなど)と還元剤(水素ホウ素試薬など)に接触させることによって反応が進む。触媒の存在下、水素を還元剤として用いる反応はアミン類の工業的合成法として最も有効は手法の一つ。

論文情報

掲載誌 :
Journal of the American Chemical Society
論文タイトル :
Electronic Effect of Ruthenium Nanoparticles on Efficient Reductive Amination of Carbonyl Compounds
著者 :
Tasuku Komanoya, Takashi Kinemura, Yusuke Kita, Keigo Kamata, and Michikazu Hara
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所

原亨和 教授

E-mail : hara.m.ae@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5311 / Fax : 045-924-5381

鎌田慶吾 准教授

E-mail : kamata.k.ac@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5338 / Fax : 045-924-5338

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

古賀逸策「水晶振動子」IEEE マイルストーン記念式典・講演会の動画を公開

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東京工業大学名誉教授・古賀逸策(1889 - 1982)による「温度無依存水晶振動子」の研究業績が、電気・電子分野の世界最大の学会であるIEEE(アイ・トリプル・イー: The Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc.)よりマイルストーンに認定されました。IEEEマイルストーンは、開発から25年以上経過し、社会や産業の発展に多大な貢献を果たした歴史的業績を認定する制度です。

これを記念して、3月6日に記念式典並びに記念講演会を開催しました。IEEEマイルストーン記念銘板の贈呈式を含む記念式典は大岡山キャンパス百年記念館3階のフェライト記念会議室にて、記念祝賀会は同館4階ラウンジにて、記念講演会は大岡山西講義棟1(レクチャーシアター)にて行われました。

このたび、この記念式典・講演会のダイジェスト動画が完成しました。記念式典における贈呈式や祝賀会での喜びの様子、多数の講演者・参加者で盛況な記念講演会の様子を、是非ご覧ください。

お問い合わせ先

東京工業大学博物館

E-mail : centshiryou@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3340

平成29年度「東工大挑戦的研究賞」受賞者決定

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平成29年度「東工大挑戦的研究賞」受賞者決定

挑戦的研究賞は、本学の若手教員の挑戦的研究の奨励を目的として、世界最先端の研究推進、未踏の分野の開拓、萌芽的研究の革新的展開又は解決が困難とされている重要課題の追求等に果敢に挑戦している独創性豊かな新進気鋭の研究者を表彰するとともに、研究費の支援を行うものです。本賞を受賞した研究者からは、数多くの文部科学大臣表彰受賞者が生まれています。

第16回目の今回は13名が選考されました。

受賞者一覧

受賞者
所属
職名
研究課題名( * は学長特別賞)
助教
* ワイドギャップパワーデバイスの量子センシング技術の開発
准教授
* 大量核酸供給を可能にする革新的マイクロフロー合成法開発への挑戦
准教授
* 高難度反応実現のための複合酸化物触媒の創製
准教授
磁性トポロジカル絶縁体ヘテロ構造における室温量子異常ホール効果の実現
准教授
アロステリズム応答性糖センシング
准教授
2値化による超低消費電力ディープラーニング専用プロセッサの創出
准教授
耐熱超合金の破壊プロセスに対する結晶破壊力学アプローチ
講師
カソードルミネセンスによるナノスケール複素電場マッピング
助教
リファクタリング技術による多様なソフトウェア開発成果物の完全化保守支援
助教
細胞内タンパク質結晶を用いた革新的構造解析手法の開発
助教
熱画像風速測定法による都市歩行者レベルの風の空間分布計測
准教授
情報過剰の時代における政治の情報発信と受容に関する研究
助教
過酷流動環境下における機能分担型多重界面構造の機能発現実証研究

(所属順・敬称略)

西原秀典助教が日本遺伝学会奨励賞を受賞

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東京工業大学 生命理工学院の西原秀典助教が日本遺伝学会奨励賞を受賞しました。

研究題目
「脊椎動物の系統と転移因子に関するゲノム進化学的研究」

日本遺伝学会は、遺伝学の進歩を促しすぐれた研究業績を一般に知らせるために、学会賞および奨励賞を設けています。奨励賞は、遺伝学の特定の分野ですぐれた研究を活発に行い将来の成果が期待される会員に授与されるものです。受賞式は2017年9月14日(木)に日本遺伝学会第89回大会(岡山大学)にておこなわれます。

西原助教は、脊椎動物、特に哺乳類の分子系統学においてゲノムスケールの情報解析を早くから取り入れ、解決困難であった数々の系統学的諸問題を明らかにしてきました。また様々な脊椎動物のゲノムプロジェクトに参画し、特にゲノム中に散在する転移因子の多様性解明に寄与してきました。さらに最近では、哺乳類の進化の過程で転移因子が重要な機能獲得の原動力になることを明らかにしています。これらの業績が高く評価され、今回の受賞に繋がりました。

西原助教のコメント

西原秀典助教
西原秀典助教

この度、日本遺伝学会の奨励賞という栄誉ある賞を受賞することになり、大変光栄であると同時に、非常に身の引き締まる思いです。

これまでにご指導いただいた先生方や先輩方、また共同研究者の皆様に深く感謝を申し上げます。

この賞に恥じぬよう、今後もより一層研究に精進し、遺伝学・進化学の発展に貢献していきたいと思います。

生命理工学院

生命理工学院 ―複雑で多様な生命現象を解明―
2016年4月に発足した生命理工学院について紹介します。

生命理工学院

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お問い合わせ先

生命理工学院 西原秀典

Email : hnishiha@bio.titech.ac.jp

Tel : 045-924-5742

金原子接点を用い両極性の電池創生に成功 ―排熱を電気に変える単一材料の高性能熱電素子実現へ―

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要点

  • 金原子接点に温度勾配をかけることで、正および負の電圧を発生させることに成功
  • 金原子接点を圧縮、伸長させ、可逆的に発生する電圧の極性、大きさを自在に制御
  • 可逆的な両極性の電圧発生はAu原子接点内の電子波の干渉効果に由来

概要

東京工業大学 理学院 化学系の相場諒大学院生(修士2年)、金子哲助教、木口学教授らのグループは、金原子接点に温度勾配をかけることにより、正および負両方の極性の電圧を自在に発生させることに成功した。単一物質で熱による発電を実現したもので、理論的な解析により、金原子接点内に形成される電子波が干渉し、両極性の様々な電圧が発生することを明らかにした。

金原子接点は超高真空・極低温(-260 ℃)の環境下において、金細線を伸長させて作製した。金細線の両端にヒーターと温度計を取り付け、温度勾配を金原子接点に与えながら、電気伝導度と熱によって発生する起電力を同時に計測した。その結果、熱起電力[用語1]の極性およびその大きさを、金原子接点の構造をわずかに変えることにより自在に制御できた。

両極性の熱起電力を単一物質で発生できたため、今後は正負の熱起電力を発生する原子接点を複数連結し、システムとして発生する電圧を増大させて、排熱から電気を発生させる熱電変換素子への応用に取り組む。

研究成果は2017年8月11日発行の英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

金原子接点を用いた両極性の熱起電力発生の概念図

図1. 金原子接点を用いた両極性の熱起電力発生の概念図

研究の背景

物質に温度勾配を与えると、物質内の電子の運動性が位置によって変化し、物質の両端に電圧が発生する。この熱により発生する電圧は熱起電力と呼ばれ、排熱を電気に変換する熱電変換素子に応用されている。一つの材料で発生する熱起電力の大きさはマイクロボルト(μV =10-6 V)オーダーと小さい。このため、実際の熱電変換素子[用語2]は正負の熱起電力を発生する材料を交互に積層させて、実用に耐える電圧を発生させている。

したがって熱電変換素子の開発は正負両方の熱起電力を発生させる材料開発が不可欠である。これまで熱電材料として用いられてきた物質は発生する熱起電力の符号は材料物質によって一意に決まっており、単一の材料から正負両方の熱起電力を発生させることは困難だった。

研究成果

東工大の相場大学院生らは、単原子・単分子レベルの材料では熱起電力がその電子状態に敏感に応答することに着目し、構造を変えることにより熱起電力の符号、大きさを変調させることに挑戦した。対象の物質として、熱起電力を決定づける電子状態が構造によって敏感に変わることが期待される金を採用した。

図2に金(Au)原子接点の作製および熱起電力の作製装置の概念図を示す。超高真空、-260 ℃の極低温において、Au線を固定した弾性基板を後ろから押し曲げることで破断させた。割りばしを折り曲げて割るイメージである。押す力をコントロールすることで、Au線の伸長距離を精密に制御し、Au原子接点を作製した。

Au原子接点の太さや長さは、弾性基板の湾曲具合を変えることで、制御できる。基板を曲げながら、Au線の両端に電圧を与え、流れる電流を計測することで、最も細くなっている部分、つまり原子接点の伝導度を決定し、原子接点の形成を確認した。

熱起電力の測定は、Au線の片側をヒーターで加熱してAu原子接点に温度勾配を与え、発生する電圧を計測した。実験では、伝導度と熱起電力を交互に計測することにより、Au原子接点の状態を確認しながら、熱起電力を計測した。

Au単原子接点を作製する装置の概念図。弾性基板上に固定したAu線を、基板を湾曲させることで破断し、Au原子接点を作製。下は破断後に計測した接合近傍の電子顕微鏡像

図2. Au単原子接点を作製する装置の概念図。弾性基板上に固定したAu線を、基板を湾曲させることで破断し、Au原子接点を作製。下は破断後に計測した接合近傍の電子顕微鏡像

図3はAu原子接点の圧縮、伸長を繰り返した際の原子接点の熱起電力と電気伝導度の同時計測結果である。電極間距離を1 nm(ナノメートル)程度変化させるだけで、熱起電力が可逆的に、正負の符号反転を伴いながら400%も変化する様子が観測された。Auという単体の物質で、正負両方の電圧を発生させることに初めて成功した。

ちなみに、伸長、圧縮に伴ってAu原子接点の電気伝導度も変化しているが、その変化量は44 %にとどまっている。ここで電極間距離の変位を0.1 nmまで減少させても、400%を超える熱起電力変化は観測された。なお伝導度変化は5%まで減少した。Au原子接点の熱起電力が電気伝導度と比較して、構造変化に敏感に応答していることが分かる。

Au原子接点に発生した熱起電力は、電極間距離を一定に保つと、40分以上変化しなかった。そして圧縮、伸長を繰り返すと30回以上、図3に示すように二値の間を可逆的にスイッチし、優れた特性を示した。さらに詳細な計測を行うことで、Au原子接点が細くなるほど、構造変化に対する熱起電力の応答性が向上することが明らかになった。

Au原子接点の直径を0.5 nmから0.25 nmにすると、熱起電力の変化量は2倍に増加した。また構造変化量に対する変化量の関係も、電気伝導度と熱起電力では異なった。電気伝導度は変位量に従って単調に増加するが、熱起電力は0.1 nmのわずかな変位でも400%近い変化を示した。そして0.5 nm以上の変位では変化量が一定になった。電気伝導度が接合の太さに依存するのに対し、熱起電力が接合の太さに依存しないことに由来している。

左はAu原子接点を機械的に伸長、圧縮させた際の熱起電力(VT)と伝導度(G)の同時計測結果の例。一番下は電極の変位の大きさを示す。伸長、圧縮を繰り返すことで、熱起電力が正負反転して、可逆的に変化している様子が分かる。右は対応する原子接点の概念図

図3. 左はAu原子接点を機械的に伸長、圧縮させた際の熱起電力(VT)と伝導度(G)の同時計測結果の例。一番下は電極の変位の大きさを示す。伸長、圧縮を繰り返すことで、熱起電力が正負反転して、可逆的に変化している様子が分かる。右は対応する原子接点の概念図。

Au原子接点から両極性の熱起電力が発生するのは、Au原子接点内の量子的な干渉効果によって説明できる。図4aに示すように、金の原子接点内を電子が左から右に流れる状況を考える。右に進む電子の一部は、接点近傍に存在する欠陥により後方散乱され、左に進む。一度散乱された左向きの電子がまた別の欠陥に散乱されると、電子は右に進む。散乱されなかった電子と2回散乱された電子が互いに干渉することになる。

原子接点の構造を変えることにより、欠陥の間の距離が変わり、電子の干渉の様子が変化する。この電子の干渉により、電子が原子接点を透過する確率が変化する。図4efに、2つの異なる構造をもつAu原子接点における電子の透過率の計算結果を示す。透過率はすべてのエネルギー領域でおおよそ1であるが、干渉の効果により一部、1より小さな値となっている。どのエネルギーで大きく変化しているかは構造に依存している。

a)Au原子接点における電子波の干渉の様子。接合をそのまま透過する電子波と、接点近傍の欠陥により2回散乱された電子波が干渉する。(b)接点近傍の欠陥の間隔を変えた場合の干渉の様子(c,d)異なる構造をもつAu原子接点のモデル構造(e,f) Au原子接点における電子の透過率のエネルギー依存性(g,h) Au原子接点における熱起電力のエネルギー依存性。フェルミ準位における透過率曲線のエネルギー微分に対応する

図4. (a)Au原子接点における電子波の干渉の様子。接合をそのまま透過する電子波と、接点近傍の欠陥により2回散乱された電子波が干渉する。(b)接点近傍の欠陥の間隔を変えた場合の干渉の様子、(c,d)異なる構造をもつAu原子接点のモデル構造、(e,f)Au原子接点における電子の透過率のエネルギー依存性、(g,h)Au原子接点における熱起電力のエネルギー依存性。フェルミ準位における透過率曲線のエネルギー微分に対応する。

Au原子接点の熱起電力は、フェルミ準位[用語3]における透過率曲線のエネルギー微分に対応する。図4ghに熱起電力の計算結果を示したが、構造をわずかに変えるだけで熱起電力の符号が反転していることが分かる。つまり、Au原子接点の構造を変えることで、電子状態を変調させ、熱起電力の符号、大きさを制御したことになる。

今後の展望

今回の研究により、単一の物質を用いて、正負の熱起電力を発生させることができた。今後、正負の熱起電力を発生させるAu原子接点を交互に積層することで、大きな熱起電力を発生させることに取り組む。これにより、同一の物質を使って、排熱から電気を生みだす熱電変換素子への応用が期待できる。

また今回、単原子を用いて熱起電力の符号反転を含む制御に成功した。今後、原子から分子への展開を考えている。分子の軌道はエネルギー的に局在しており、大きな熱起電力の発生や熱起電力の変調に有利な電子構造となっている。単分子を金属電極間に架橋させた単分子接合を用いて、巨大な熱起電力の発生、熱起電力の制御が期待できる。

単分子接合に圧力を加えることで、金属と分子の接合界面の構造を変調し、単分子接合の電子状態を変化させる。これにより、単分子接合の熱起電力も変調するはずである。分子、電極金属、加える圧力を最適化することで、既存の物質を超えた巨大な熱起電力、熱起電力の制御に挑戦する計画である。

用語説明

[用語1] 熱起電力 : 物質の両端に温度差を与えたときに発生する電圧を表す。単原子、単分子接点では、熱起電力は接点を流れる電子の透過率τの関数として以下の式で表現できる。

熱起電力

ここで、kbはボルツマン定数、Tが温度、eが電荷素量、EFがフェルミエネルギーである。熱起電力はフェルミエネルギーにおける透過率のエネルギー微分に比例する。透過率の対数のエネルギー微分であるので、透過率の大きさには依存しない。このため、接点の太さに熱起電力はあまり依存しない。

[用語2] 熱電変換素子 : 熱を電気に変換する素子。大きな電圧を取り出すため、下図に示すようにp型半導体とn型半導体を組み合わせて使用されることが多い。p型半導体では高温側が負、n型半導体側が正の電圧が発生する。したがって、高温側でp型半導体とn型半導体を電気的につなぐと、低温側でp型半導体に接続した電極1、n型半導体に接続した電極2の間にp型、n型半導体で発生した熱起電力の和の電圧が発生する。このようにp型、n型半導体を配列していくと大きな電圧を発生させることができる。

熱電変換素子

[用語3] フェルミ準位 : 物質の軌道に電子をつめていって、電子によって占められた軌道のうちで最高の軌道のエネルギーを示す。0 K(絶対零度)においては化学ポテンシャルと一致する。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports, 7, 7949.
論文タイトル :
Controlling the thermoelectric effect by mechanical manipulation of the electron's quantum phase in atomic junctions
著者 :
Akira Aiba1, Firuz Demir2,3, Satoshi Kaneko1, Shintaro Fujii1, Tomoaki Nishino1, Kazuhito Tsukagoshi4, Alireza Saffarzadeh2,5, George Kirczenow2, Manabu Kiguchi1
所属 :
1Department of Chemistry, Graduate School of Science and Engineering, Tokyo Institute of Technology, Ookayama, Meguro-ku, Tokyo 152-8551, Japan
2Department of Physics, Simon Fraser University, Burnaby, British Columbia, Canada V5A 1S6
3Physics Department, Khalifa University of Science and Technology, P.O. Box 127788, Abu Dhabi, UAE
4National Institute for Materials Science, Tsukuba, Ibaraki 305-0044, Japan
5Department of Physics, Payame Noor University, P.O. Box 19395-3697 Tehran, Iran
DOI :

理学院

理学院 ―真理を探究し知を想像する―
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研究に関するお問い合わせ先

東京工業大学 理学院 化学系
助教 金子哲

E-mail : kaneko.s.aa@m.titech.ac.jp

東京工業大学 理学院 化学系
教授 木口学

E-mail : kiguti@chem.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2071 / Fax : 03-5734-2071

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


西森秀稔教授が量子コンピューティング用語の国際標準策定グループのメンバーに就任

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西森秀稔教授が量子コンピューティング用語の国際標準策定グループのメンバーに就任
―電気・電子・情報・通信分野の世界最大の学会IEEE内に設置―

要点

  • 量子コンピューティング関連用語の標準化を電気・電子・情報・通信分野の世界最大の学会IEEEの標準化部門が開始
  • 量子コンピューターD-Waveマシン[用語1]の理論的基礎である量子アニーリング[用語2]を提唱した西森秀稔教授がメンバーに就任
  • IBMおよび1Qbit社[用語3](量子コンピューターのソフト開発企業)の代表らも参加

IEEE Standards Association(アイ・トリプル・イー スタンダード・アソシエーション、標準化部門)[用語4]は量子コンピューターの実装が急速な進展をみせている状況に対応し、ワーキンググループ(WG)を設置して、量子コンピューティング用語の標準化を策定するプロジェクトを開始しました。

当WGでは、量子トンネル現象、量子もつれ現象など量子コンピューティングに関する様々な用語の定義を行います。正確な用語による理解促進を通じて、エンジニアのみならず、材料科学、数学、物理、気象学、生物学など様々な分野での量子コンピューティングの利用拡大を支援していきます。

当WGは、多彩な事業を展開している起業家であるWilliam Whurley氏を委員長として、IBMの量子コンピューター研究開発部門の責任者Jerry Chow氏、1QBit社のCEO Anrew Fursman氏、および東京工業大学 理学院 物理学系の西森秀稔教授などから構成されています。

東京工業大学は量子コンピューティングの一種である量子アニーリングの発祥の地であるだけでなく、現在に至るまで当分野の研究の中心地のひとつとして世界的な注目を集め続けています。その実績を踏まえて、IEEEより西森教授へメンバー就任の要請がありました。

西森教授のコメント

西森秀稔教授
西森秀稔教授

量子コンピューティングの分野は近年急速な成長を遂げており、北米を中心に、大学や公的研究所だけでなくベンチャーも含めた企業の参入が相次いでいます。

新しい分野だけに用語の上でも混乱が見られるため、共通の基盤を策定することが喫緊の課題です。東工大の研究成果も踏まえながら、人類社会の発展に資するべく微力を尽くして参ります。

用語説明

[用語1] D-Waveマシン : カナダのベンチャー企業D-Waveシステムズの量子アニーリング方式の量子コンピューター

[用語2] 量子アニーリング : アニーリング(材料開発のプロセスとして用いられる「焼きなまし」の意)と量子力学を組み合わせた理論

[用語3] 1QBit社 : D-Wave社の量子アニーリングマシン向けの応用ソフトを開発するなど、量子コンピューティングにおける最先端の技術を生かした事業を展開しているカナダのベンチャー企業

[用語4] IEEE Standards Association(アイ・トリプル・イー スタンダード・アソシエーション、標準化部門) : IEEEの一部門で古くから数多くの工業規格の標準を策定してきた。最近の事例では、無線LAN、スマートグリッド、EV(電気自動車)の充電や通信などの現代生活に密着した規格を定めている

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お問い合わせ先

東京工業大学 理学院 物理学系
教授 西森秀稔

E-mail : nishimori@phys.titech.ac.jp

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

複数の金属からなる新たな電子化物を発見

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要点

  • 金属間化合物[用語1]で電子がアニオンとしてふるまう新しい電子化物[用語2]を発見
  • 結晶構造中の空隙が電子の局在サイトになることを解明
  • アンモニア合成触媒や超伝導を発現するなど様々な特性を持つ

概要

イオン結晶は、カチオン(陽イオン)とアニオン(陰イオン)が結びつき、構成されている。マイナスの電荷をもつ電子は、究極のアニオンと言える。電子がアニオンの役割を担う物質は電子化物(エレクトライド)と呼ばれている。1983年に有機化合物で最初の電子化物が合成され、新概念の物質として注目を集め、教科書類にも記載されることになった。しかし、この物質は、化学的・熱的に不安定なために物性については不明な点が多かった。

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の細野秀雄教授・元素戦略研究センター長を中心にしたグループは2003年、12CaO・7Al2O3(C12A7セメントの構成成分)を使って、室温・空気中で安定なエレクトライドの合成に初めて成功。アニオンを電子に置き換えたことに起因する低仕事関数だが化学的に安定というユニークな物性を報告してきた。2011年には電子化物ガラスを、2013年にはアニオン電子が層間に存在する2次元電子化物Ca2Nを報告するなど、電子化物の物質科学の新領域を開拓してきた。本研究では、電子化物のコンセプトをさらに拡張すべく、金属元素から構成される金属間化合物を対象に、結晶構造と電子分布の関係を検討して、電子化物とみなせる物質群の発見と、それらがアンモニア合成触媒や超伝導という物性の発現につながることを見出した。今回の成果は、7月31日発行の「Advanced Material」、8月14日発行の「Angew. Chem. Int. Ed」、8月15日発行の「npj Quantum Materials」に掲載された。

研究成果

これまで見出されてきた電子化物は母体が絶縁体である。ここ数年来、電子化物の理論的研究が世界的に盛んになっている。アルカリ金属などの典型金属の高圧相では、電子が格子間サイトを占有する電子化物であることが明らかになりつつある。

本研究では、母体が複数の金属から構成される金属化合物で電子化物の探索を行った。通常の金属は、電子が格子全体に平均的に分布しており、格子間に電子が高濃度に存在することは考えにくい。そこで今回、個性の大きく異なる複数の金属から構成される金属間化合物に着目して探索を行った。その結果、LaScSi(ランタンスカンジウムシリコン)、Mg2Si(珪化マグネシウム)、Nb5Ir3(ニオブイリジウム)などが、それに相当することを見出した。

例えば、LaScSiは、その式量あたり2つの電子(1.6x1022 cm-3)が、ランタン(La)が作り出す4面体の中心位置と、スカンジウム(Sc)とケイ素(Si)が作り出す8面体サイトを占有する。いずれのサイトも水素化物イオン(H-)で置き換えられるので、H-の代わりに電子がアニオンとして働く電子化物とみなすことができる。これらの電子が存在するバンドは、フェルミ準位[用語3]に大きく寄与する。なお、この物質にルテニウムのナノ粒子を担持すると、アンモニア合成触媒として優れた特性を示した。

LaScSiの結晶構造。VとV'サイトに電子が存在する。水素と反応させると電子の代わりにH-イオンが占有される
図1.

LaScSiの結晶構造。VとV'サイトに電子が存在する。

水素と反応させると電子の代わりにH-イオンが占有される。

Mg2Siのバンド構造。太線は格子間サイトの電子による寄与を示す。右は伝導体の下端付近の電子密度分布。8つのMgに囲まれた空間に電子が存在する。
図2.

Mg2Siのバンド構造。太線は格子間サイトの電子による寄与を示す。

右は伝導体の下端付近の電子密度分布。8つのMgに囲まれた空間に電子が存在する。

Mg2Siは、逆蛍石[用語4]型の結晶構造で、N型伝導性を示す半導体であり、高い熱電特性を持つ物質として知られている。電子密度分布をみると、伝導帯の最下端は4つのMg2+イオンに囲まれた4面体の中心のサイトで大きなピークが存在する。すなわち、ケイ素(Si)の欠損などで生じた電子キャリアは、この格子間サイトを占有することが分かった。このような半導体物質はこれまで知られておらず、熱電特性の起源と関係していると考えられる。

今回、Mn5Si3型をもつ新金属間化合物Nb5Ir3を合成。これは、結晶構造中にNb原子から構成される1次元化チャネルがあり、その中にアニオン電子も存在する電子化物であることが分かった。この物質は、超伝導を示すTc(臨界温度)は9.4 K(ケルビン)だった。電子化物の超伝導体は、2007年にC12A7:eで見出されており、今回が2例目となる。

今後の展望

今回、金属間化合物の結晶構造内の空隙に電子が高濃度に存在し、そのエネルギーレベルが電子物性を支配するフェルミ準位付近に存在しうることを明らかにした。金属格子内の空隙は、原子の移動には主要な役割を果たすことはよく知られているが、電気伝導を担う電子が高密度に分布することは、これまで知られていなかった。キャリア電子が平均的に分布する場合とは、電子の輸送特性や化学反応性がかなり異なることが予想される。

電子化物は、有機系で見出され、無機物、単純金属、そして今回、金属間化合物へと広がった。今後、さらに新しいコンセプトの電子化物が発見され、学術のフロンティアの拡大とともに応用に繋がる新物性が見出されることが期待される。

※本成果は、以下の事業・研究開発課題によって得られた。

  • 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 ACCEL
  • 日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究(S)

用語説明

[用語1] 金属間化合物 : 2種類以上の金属または半金属元素から構成されている化合物。性質が異なる異種元素同士が強い結合によって結び付けられているため、金属間化合物はその成分金属又は半金属とは著しく異なったユニークな物性を示すことが多い。

[用語2] 電子化物 : 電子がアニオンとして働くとみなすことができる化合物。

[用語3] フェルミ準位 : 固体の電子構造で電子が占有される最も高いエネルギーレベル。電子の輸送特性や化学反応性を支配する。

[用語4] 蛍石 : CaF2の結晶。Caは6つのFに8面体配位され、Fは4つのCaに4面体配位されている。

論文情報

今回のリリースは下記の論文による成果。

掲載誌 :
Advanced Materials, 29, 1700924-1-7, (2017)
論文タイトル :
Tiered Electron Anions in Multiple Voids of LaScSi and Their Applications to Ammonia Synthesis
著者 :
Jiazhen Wu, Yutong Gong, Takeshi Inoshita, Daniel C. Fredrickson, Junjie Wang, Yangfan Lu, Masaaki Kitano, and Hideo Hosono
DOI :
掲載誌 :
Angew. Chem. Int. Ed., 56, 10135-10139, (2017)
論文タイトル :
The Unique Electronic Structure of Mg2Si: Shaping the Conduction Bands of Semiconductors with Multicenter Bonding
著者 :
Hiroshi Mizoguchi, Yoshinori Muraba, Daniel C. Fredrickson, Satoru Matsuishi, Toshio Kamiya, and Hideo Hosono
DOI :
掲載誌 :
npj Quantum Materials
論文タイトル :
Electride and superconductivity behaviors in Mn5Si3-type intermetallics
著者 :
Yaoqing Zhang, Bosen Wang, Zewen Xiao, Yangfan Lu, Toshio Kamiya,Yoshiya Uwatoko, Hiroshi Kageyama and Hideo Hosono
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院
フロンティア材料研究所 教授
元素戦略研究センター センター長 細野秀雄

E-mail : hosono@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5009 / Fax : 045-924-51961

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圧電体の複雑な結晶構造変化の高速応答を直接測定 ―IoTセンサーの高性能化に期待―

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要点

  • IoTセンサー等で利用される圧電体の結晶構造が高速で変化する様子を観察
  • 圧電性の発現機構解明に貢献
  • 新規の圧電性物質の探索や非鉛圧電体材料の開発を加速

概要

東京工業大学 物質理工学院(同大学 元素戦略研究センター兼任)の舟窪浩教授と同大学 大学院総合理工学研究科の江原祥隆博士後期課程学生(当時)、同大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の安井伸太郎助教、名古屋大学 大学院工学研究科(科学技術振興機構さきがけ研究者兼任)の山田智明准教授、高輝度光科学研究センター (JASRI)の今井康彦主幹研究員、物質・材料研究機構 技術開発・共用部門(先端材料解析研究拠点シンクロトロンX線グループ グループリーダー併任)の坂田修身ステーション長、ニューサウスウエールズ大学(オーストラリア)のナガラジャン・バラノール教授らの研究グループは、電圧によって形状が変化する圧電体結晶について、原子の変位、単結晶領域の再配列などの複雑な現象が、1億分の4秒(40ナノ秒[用語1])の短時間に高速で起きていることを、大型放射光施設SPring-8[用語2]の高輝度放射光を用いた時間分解X線回折実験によって、世界で初めて解明しました。

圧電体は、インクジェットプリンタや3次元プリンタ、カメラの手振れ防止機構等に幅広く用いられ、最近では、身の回りにある振動から発電する“振動発電”や建物等の異常振動のセンサー等への応用が期待されるなど、永続的に使用できる自立電源としてIoTセンサーネットワークへの応用も期待されています。

今回の成果は、英国のオンライン科学雑誌「サイエンティフィックレポート(Scientific Reports)」に8月29日付で掲載されます。

研究の背景

結晶が外力に応じて誘電分極を生じる効果を圧電効果、結晶に電圧を加えることで結晶が歪む効果を逆圧電効果と言います。このような現象を示す物質が圧電体です。これは、電気的エネルギーを機械的エネルギーに、逆に機械的エネルギーを電気エネルギーに変換するエネルギー変換物質とも言えます。ライターの着火石(機械的エネルギーの電気エネルギーへの変換)からプリンタのインクジェットヘッドや自動車のエンジンへの燃料の噴射ノズル(電気エネルギーを機械的変位に変換)、さらにはデジタルカメラの手ぶれ防止機構(機械的エネルギーの電気エネルギーへの変換)まで、我々の暮らしの中で広く使用されています。

最近では、自動車のエンジンや高速道路の車の走行による振動で発電し、振動を検出する機能と組み合わせて、安全安心を支えるバッテリー不要のIoTセンサーネットワークとして注目を集めています。

この圧電性は、電圧を加えることや機械的な力を加えることによって起きる結晶自身の伸びの他に、ドメインと呼ばれる微小領域の結晶の向きの変化等の複数の現象が同時に起きることが知られていましたが、個々の現象がどのくらいの速度で起きるかはわかっていませんでした。

研究手法・成果

我々は、大型放射光施設SPring-8表面界面構造解析ビームラインBL13XU、および同施設の物質・材料研究機構のビームラインBL15XUの数マイクロメートルに集光した高輝度単色パルスX線を、最も広く使用されている圧電体であるチタン酸ジルコン酸鉛膜上に形成した電極に照射し、200ナノ秒幅のパルス電圧を印加して観察。回折データを、電荷量の変化とともに高速で記録しました(図1)。ここでは電圧を加えると、結晶の伸びや電圧印加方向へのドメインの再配列等が起こっていることが判明しました。またこの際、結晶の単結晶領域(図2で赤と青で示した領域)の傾斜角度が同時に変化していることも明らかになりました(解析した現象のモデル図を図2に示す)。

電圧を加えた時の結晶の伸びや、電圧印加方向へのドメインの再配列と電気特性を直接測定できる測定システム(数マイクロメートルに集光した高輝度X線を電極上に照射し、電圧印加しながら回折X線強度と電荷量の変化を20ナノ秒の時間分解能で同時に測定できるシステム。今回の測定では、200ナノ秒幅のパルス電圧を印加している際の回折プロファイルと電荷量の変化について、加える電圧を固定して、高速で記録することに成功しました)。
図1.
電圧を加えた時の結晶の伸びや、電圧印加方向へのドメインの再配列と電気特性を直接測定できる測定システム(数マイクロメートルに集光した高輝度X線を電極上に照射し、電圧印加しながら回折X線強度と電荷量の変化を20ナノ秒の時間分解能で同時に測定できるシステム。今回の測定では、200ナノ秒幅のパルス電圧を印加している際の回折プロファイルと電荷量の変化について、加える電圧を固定して、高速で記録することに成功しました)。
試料に電圧を印加した時に起きる結晶の構造変化の模式図

図2.試料に電圧を印加した時に起きる結晶の構造変化の模式図

赤で示した結晶の伸び、青で示した結晶の一部が赤で示した結晶へ変化、青および赤で示した結晶の角度の変化といった複雑な現象が同時に起こっている。

注目すべき点は、こうした複雑な現象は同時に起こっており、そのスピードは今回試料で測定可能な1億分の4秒(40ナノ秒)よりも速いことを世界で初めて明らかにしたことです(図3)

図2の赤と青の結晶の伸びや縮み、青の結晶の赤の結晶への変化、青および赤の結晶の角度の変化といった複雑な現象が測定システムの分解能40ナノ秒よりも速いスピードで同時に起きていることがわかりました。
図3.
図2の赤と青の結晶の伸びや縮み、青の結晶の赤の結晶への変化、青および赤の結晶の角度の変化といった複雑な現象が測定システムの分解能40ナノ秒よりも速いスピードで同時に起きていることがわかりました。

期待される波及効果

今回の成果は、以下に述べる波及効果が期待できます。

a)圧電性の発現機構の解明

圧電性はこれまで、結晶内の複雑な現象で発現していることがわかっていましたが、それぞれの現象がどのように起こっているか、どのくらいの速度まで追随するかといったことは、十分にわかっていませんでした。本研究では、個々の効果を直接的に高速で測定できるようになったことで、チタン酸ジルコン酸鉛以外の物質における圧電性の発現機構の解明が飛躍的に進むと見込まれます。

b)圧電体の性能向上への貢献

本研究で、複雑な現象が同時に測定可能になったことで、新規物質を探索した場合にどのような現象が圧電体内で起きているか、また、その応答速度が変化したかを直接測ることができ、これまでトライ&エラーで行ってきた圧電体の物質探索が飛躍的に進むと考えられます。

c)非鉛圧電体開発の加速による環境問題への貢献

i)現在使われている圧電体は、毒性がある鉛を重さで50%以上含有しており、環境への配慮から非鉛圧電体の開発が強く求められています。

ii)今回の成果により、現在使われている鉛を含有した圧電体のチタン酸ジルコン酸鉛がどのような機構で大きな圧電性を発現しているかを明らかにできたことで、現在盛んに開発されている鉛を含まない新規な非鉛圧電体材料の開発が加速されると期待できます。

d)IoTセンサーの開発加速への貢献

圧電体は、圧力や振動、加速度、さらには温度等のセンサーとして使用可能です。またセンシングの際に発電を行うことも可能ですので、電源を必要としないセンサー端末を作れる可能性があります。こうしたセンサーをビルや橋に取り付けることで、電池交換不要なセンサー端末を作製でき、この端末をネットワークにつなぐことで“安全で安心な社会”の構築に貢献することが期待できます。

特記事項

今回の研究は、日本学術振興会の科学研究費、科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業さきがけ研究の一環として行われました。また構造解析は、SPring-8の共用ビームライン(BL13XU)および物質・材料研究機構の専用ビームライン(BL15XU)で実施。研究成果の一部は、文部科学省委託事業ナノテクノロジープラットフォーム課題として、物質・材料研究機構微細構造解析プラットフォームの支援を受けて行われたものです。

用語説明

[用語1] ナノ秒 : 10億分の1秒のこと。

[用語2] 大型放射光施設 SPring-8 : 兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す施設。その運転と利用者の支援はJASRIが行っています。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来します。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のことです。SPring-8では、この放射光を用いてナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究を行っています。SPring-8は、日本の先端科学・技術を支える高度先端科学施設として、日本国内外の大学・研究所・企業から年間延べ1万6千人以上の研究者に利用されています。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :

In-situ observation of ultrafast 90° domain switching under application of an electric field in (100)/(001)-oriented tetragonal epitaxial Pb(Zr0.4Ti0.6)O3 thin films

※日本語訳:(100)/(001)配向した正方晶Pb(Zr0.4Ti0.6)O3エピタキシャル薄膜の電界印加時の90°ドメインの高速応答のその場観察

著者 :
Yoshitaka Ehara, Shintaro Yasui, Takahiro Oikawa, Takahisa Shiraishi, Takao Shimizu, Hiroki Tanaka, Noriyuki Kanenko, Ronald Maran, Tomoaki Yamada, Yasuhiko Imai, Osami Sakata, Nagarajan Valanoor, and Hiroshi Funakubo
掲載日 :
2017年8月29日18:00(日本時間)
DOI :

物質理工学院

物質理工学院 ―理学系と工学系、2つの分野を包括―
2016年4月に発足した物質理工学院について紹介します。

物質理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

研究に関すること(全般)

東京工業大学 物質理工学院/元素戦略研究センター
教授 舟窪浩

E-mail : funakubo.h.aa@m.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5446

測定に関すること

物質・材料研究機構 技術開発・共用部門
高輝度放射光ステーションステーション長
先端材料解析研究拠点シンクロトロンX線グループ
グループリーダー
坂田修身

E-mail : SAKATA.Osami@nims.go.jp
Tel : 045-924-5446

高輝度光科学研究センター (JASRI) 主幹研究員
今井康彦

E-mail : imai@spring8.or.jp
Tel : 0791-58-0802

名古屋大学 大学院工学研究科 エネルギー理工学専攻
准教授 山田智明

E-mail : t-yamada@energy.nagoya-u.ac.jp
Tel : 052-789-4689

東京工業大学 科学技術創成研究院
フロンティア材料研究所
助教 安井伸太郎

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火星衛星に火星マントル物質の存在を予言 ―JAXA火星衛星サンプルリターン計画での実証に高まる期待―

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要点

  • 巨大衝突起源説で火星衛星の反射スペクトルの特徴が説明可能
  • 火星衛星は衝突当時の火星本体の地殻物質とマントル物質を多く含有
  • JAXAの火星衛星サンプルリターン計画で火星本体の物質採取に期待

概要

東京工業大学 地球生命研究所(ELSI)の兵頭龍樹特別研究員、玄田英典特任准教授らの国際共同研究チームは、火星の衛星「フォボス」と「ディモス」が月の起源と同様に、巨大天体衝突(ジャイアントインパクト)で形成されうることを明らかにした。世界最高解像度の巨大衝突シミュレーションによって、火星衛星がどのような物質でできているのかを理論予想した。

その結果、火星衛星を構成する粒子の典型的な大きさが0.1 μmの微粒子と、100 μmから数mであることが分かった。微粒子の存在により、衛星の滑らかな反射スペクトルの特徴が巨大衝突説の枠組みと矛盾しないことを確認した。

また、火星衛星を構成する材料物質の約半分が火星由来であり、残りは衝突天体由来であること、さらに衛星が含む火星由来の物質の約半分は衝突当時の火星表層から50 − 150 kmの深さから掘削された火星マントル物質であることを明らかにした。これは宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2024年打ち上げを予定している火星衛星サンプルリターン計画(MMX)によって、衛星から火星本体の物質を地球に持ち帰る可能性が高いことを意味している。

研究成果は8月18日発行の米国科学誌「Astrophysical Journal (アストロフィジカルジャーナル)電子版」に掲載された。

火星衛星、フォボス(左)とディモス(右)の画像

図1. 火星衛星、フォボス(左)とディモス(右)の画像
(提供:NASA/JPL-Caltech/University of Arizona)

研究の背景

火星衛星フォボスとディモス(図1)は、火星の赤道面を円軌道で回っている。半径10 km程度のフォボスとディモスは火星質量の約1,000万分の1と非常に小さく、半径1,000 kmを超える地球の巨大衛星(月)とは大きく異なる。火星衛星のいびつな形状と表面スペクトルは、火星と木星の間に存在する小惑星と類似していることから、その起源は長らく小惑星が火星の重力に捕獲されたものと考えられていた(捕獲説)。

近接遭遇した天体を重力によって捉える捕獲説(左)と巨大衝突によって形成された破片から衛星が集積する巨大天体衝突説(右)

図2. 近接遭遇した天体を重力によって捉える捕獲説(左)と
巨大衝突によって形成された破片から衛星が集積する巨大天体衝突説(右)

しかし、捕獲説の場合、現在の衛星の軌道(赤道面を円軌道で公転)を説明することは極めて困難であることが指摘されている。一方で、火星の北半球には太陽系最大のクレータ(ボレアレス平原)が存在し、巨大天体の衝突で形成された可能性が高いことが分かっている。そして、近年、このクレータを形成しうる巨大衝突過程(火星の直径の3分の1程度の巨大天体が、火星に秒速6 km程度で衝突)をコンピューターシミュレーションによって調べることで、飛び散った破片が集まって最終的に2つの衛星を形成しうることが明らかになった(図2)。

研究成果

火星への巨大天体衝突のイメージ

図3. 火星への巨大天体衝突のイメージ

東工大の兵頭龍樹特別研究員らは、フォボスとディモスを形成する巨大衝突の超高解像度3次元流体数値シミュレーションを行った(図3、4)。その結果、典型的な破片粒子サイズは、0.1 μmと100 μmから数m程度になることが分かった。そして、0.1 μm程度の微粒子が、観測されている火星衛星の滑らかな表面反射スペクトルの特徴と矛盾しないことを明らかにした。

さらに、火星衛星の構成物質の約半分は火星に、残りの半分は衝突天体に由来していることが分かった。さらに、この火星物質は火星地表面から50 - 150 kmの深さから掘削された火星マントル由来の物質であることが明らかになった。

巨大衝突シミュレーションの時間スナップショット

図4. 巨大衝突シミュレーションの時間スナップショット

上図において、赤色と黄色は最終的に火星となる粒子、水色は最終的に火星衛星となる粒子、白色は火星の重力圏から飛び出してしまう粒子、を表している。下図において、色は温度(ケルビン)を表している

地球の月形成との比較

地球が衛星の月を作ったとされる衝突は、衝突天体の質量が地球質量の10分の1程度で、衝突速度が毎秒12 kmと非常に大きく、地球周囲に飛び散り、最終的に月へと集積する物質は、衝突直後に4,000 K(絶対温度)程度となり蒸発することで、衝突天体物質と地球起源物質は混ざりあってしまい、当時の情報が失われていると考えられている。

一方、火星衛星を作ったとされる衝突天体は火星質量の数%(地球質量の1,000分の1)で、衝突速度は同6 km程度と小さめであったため、火星衛星を形成する破片は2,000 K程度の温度で、ほとんど蒸発せずに、火星起源物質と衝突天体起源物質の混ざり合いは少なく、破片は当時の火星の物質情報を保存していると期待される。

今後の展望

今回の研究によって、火星衛星が巨大天体衝突によって形成可能であり、観測される表面反射スペクトルの特徴も説明できることが明らかになった。また、火星衛星には火星由来の物質が多く含まれ、さらに、衝突当時の火星マントル物質も含まれていることが期待される。

一方、JAXAが進める宇宙探査・戦略的中型計画において、火星衛星に探査機を送り、火星衛星の物質を地球に持ち帰る計画(MMX: Martian Moons eXploration)が検討されている。2024年に打ち上げ、2029年の地球への帰還を目指している。

米航空宇宙局(NASA)は火星本体に探査機を着陸させて火星物質を地球に持ち帰ることを計画しているが、探査機の掘削技術が成功しても火星表面物質の回収しか期待できない。一方で、今回の研究で示した巨大天体衝突説が正しければ、人類は初めて、火星の表層物質だけでなく、火星マントル物質までをJAXAのMMX計画で火星衛星から手に入れることが可能となる。このことは、将来の火星移住計画の推進に大いに役立ち、さらに、未だ謎につつまれる太陽系形成史を紐解く物質科学的な鍵となることが期待される。

東京工業大学 地球生命研究所について

地球生命研究所(ELSI)は、文部科学省が2012(平成24)年に公募した世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)に採択され、同年12月7日に産声をあげた新しい研究所。「地球がどのようにしてできたのか、生命はいつどこで生まれ、どのように進化してきたのか」という、人類の根源的な謎の解明に挑んでいる。

世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)は、2007(平成19)年度から文部科学省の事業として開始された。システム改革の導入などの自主的な取組を促す支援により、第一線の研究者が是非そこで研究したいと世界から多数集まってくるような、優れた研究環境ときわめて高い研究水準を誇る「目に見える研究拠点」の形成を目指している。

論文情報

掲載誌 :
Astrophysical Journal
論文タイトル :
On the Impact Origin of Phobos and Deimos. I. Thermodynamic and Physical Aspects
著者 :
Ryuki Hyodo, Hidenori Genda, Sébastien Charnoz, Pascal Rosenblatt
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 地球生命研究所

兵頭龍樹 特別研究員

E-mail : hyodo@elsi.jp

東京工業大学 地球生命研究所

玄田英典 准教授

E-mail : genda@elsi.jp
Tel : 03-5734-2887

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東京工業大学 地球生命研究所 広報室

E-mail : pr@elsi.jp
Tel : 03-5734-3163 / Fax : 03-5734-3416

“甘さ”を見分ける分子カプセル

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“甘さ”を見分ける分子カプセル
―水中で糖分子 スクロースの選択的な包み込みに成功―

要点

  • 分子カプセルが、水中で砂糖の主成分スクロースを選択的に包み込むことを発見
  • 包み込みは人工の糖分子(人工甘味料)の方が強く、人間が感じる甘さと同じ順

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の山科雅裕博士研究員と吉沢道人准教授らは、同グループが開発した分子カプセルが、水中で天然の種々の糖の中から、砂糖の主成分であるスクロースだけを選び、その内部に包み込めることを発見した。また、その内包力はスクロースより人工甘味料(アスパルテームなど)の方が高く、人間の甘味感度と同じ順序であることが分かった。分子カプセルによる初の天然および人工の糖分子の選択的な内包を達成した研究成果であり、生体内の“甘さ”を識別する受容タンパク質(レセプター)の機構解明や新たな“甘さ”分子の合成研究への展開が期待される。

糖類(単糖や二糖など)は複数の水酸基を持つため、水に溶解した際、水分子と多点の水素結合を形成する。そのため他の生体分子に比べて、水中で糖構造を識別することは困難である。これまで人工的な糖レセプターの開発は行われてきたが、その大部分は有機溶媒中に限られ、水中での糖分子の高選択的な内包は達成されていない。本研究では、これまで着目されていない、分子カプセルの持つ「芳香環に囲まれたナノ空間」を利用することで、水中で二糖のスクロースを効率的に内包できることを見出した。その選択性は優れており、天然の他の二糖の混合物中から甘さの強いスクロースのみを内包した。さらに、天然と人工の糖分子に対する内包の競争実験から、人の甘さの感度と同じく、スクラロース>アスパルテーム(ともに人工甘味料)>スクロースの順で分子カプセルに強く内包されることが明らかになった。

これらの研究成果は、京都大学 大学院理学研究科の林重彦教授のグループ(計算化学)との共同研究によるもので、米国科学振興協会(AAAS)のScience Advances誌に、2017年8月25日14時(米国東海岸時間)付けで掲載された。

研究の背景とねらい

タンパク質集合体からなる生体レセプターは、水中で様々な生体分子を識別している。例えば、糖類(グルコースやスクロースなど)は複数の水酸基を持つため、水分子と水素結合[用語1]を形成し、水中で安定に存在する。それにも関わらず、生体レセプターのポケット空間は、多点の水素結合を巧みに利用することで、特定の糖分子を選択的に包み込むこと(=内包)ができる(図1a)。一方で、糖分子を識別できる人工的な分子レセプターも、これまで盛んに開発されてきた。しかしながら、その大部分は有機溶媒中でのみ機能し、水中でかつ特定の糖分子のみを内包できる高性能な人工レセプターは未開発であった[文献1]。そこで本研究では、既報の人工レセプターの設計指針と異なり、芳香環[用語2]に囲まれた適切な形と大きさのナノ空間を用いることで、CH-π相互作用[用語3]を駆動力とした、糖分子の選択的な内包が達成できると考えた(図1b)。今回、芳香環に囲まれたナノ空間を持つ分子カプセル1[文献2,3]が、水中で砂糖の主成分であるスクロース(ショ糖)を高選択的に内包できることを初めて見出した。また、分子カプセルは、天然のスクロースより、より甘みの強い人工甘味料を優先的に内包することも明らかにした。

(a)水素結合部位を持つ生体ポケット空間と(b)芳香環に囲まれた人工ナノ空間(本研究の戦略)による糖分子の内包の模式図
図1.
(a)水素結合部位を持つ生体ポケット空間と(b)芳香環に囲まれた人工ナノ空間(本研究の戦略)による糖分子の内包の模式図

研究内容

水中でのスクロースの内包:まず、単糖のグルコースやフルクトース(図2a)の内包を検討した。同研究グループが開発した分子カプセル1(図2b、左)は水溶性で、芳香環に囲まれた約1ナノメートルの球状空間を有する。この分子カプセルと単糖を水中、種々の条件で混合したが、それらの内包は観測されなかった。一方、グルコースとフルクトースを連結した二糖のスクロース(2;図2a)を分子カプセル1の水溶液に加え、60 ℃で撹拌したところ、1分子の21に高収率で内包された(86%収率;図2b、右)。その溶液の1H NMRスペクトルでは、-1から2 ppmの領域に、内包された2に由来する特徴的なシグナルが観測された(図2c、上段)。また、ESI-TOF MSスペクトルから、1分子の2の内包が明確に示された(図2c、下段)。NMR滴定実験から、分子カプセルがスクロースを中程度の強度(結合定数 約1,100 M-1)で内包していることが分かった。

(a)グルコースとフルクトース、スクロース(2)。(b)分子カプセル1による水中でのスクロースの内包と(c)その1H NMR(上段)とESI-TOF MSスペクトル(下段)
図2.
(a)グルコースとフルクトース、スクロース(2)。(b)分子カプセル1による水中でのスクロースの内包と(c)その1H NMR(上段)とESI-TOF MSスペクトル(下段)

混合物からの選択的な内包:次に選択性を明らかにするため、内包の競争実験を行った。同じ二糖のスクロース(2)とトレハロースを分子カプセル1の水溶液に混合し、生成物をNMRおよびMSで分析した(図3a)。その結果、分子カプセルは2を100%の選択性で内包することが判明した。また、他の二糖のラクトース、マルトース、セロビオース、ラクツロースとの競争実験でも(図3b)、微細な構造の違いを識別し、2のみが1に内包された。すなわち、分子カプセル1が、スクロースの「人工レセプター」として機能することが明らかになった。スクロース内包体1・2の理論計算による最適化構造から(図3a、右)、21の内部空間の形と大きさは合致し、分子間で多点のCH-π相互作用が働くことで、内包の高い選択性が発現したと考えられる。

(a)分子カプセル1によるスクロース(2)とトレハロースの内包の競争実験。(b)種々の二糖分子の構造と(c)1による人工甘味料と2の内包の順序
図3.
(a)分子カプセル1によるスクロース(2)とトレハロースの内包の競争実験。(b)種々の二糖分子の構造と(c)1による人工甘味料と2の内包の順序

人工甘味料の内包:最後に上記と同様な条件で、人工甘味料と天然のスクロース(2)との内包の競争実験を行った。人工甘味料として、2の3つの水酸基が塩素に置換されたスクラロース(3)とジペプチドのアスパルテーム(4)を検討した。それぞれ水中で、分子カプセル1に強く内包され、その順序は3 > 4 >> 2であった(図3c)。この内包の順位は、分子の形と大きさに加えて、その疎水性の度合いが寄与していると考えられる。また、人が感じる分子の“甘さ”は、スクロースを基準にして、3は約600倍で4は約200倍であり[文献4]、興味深いことに、分子カプセルと同じ感度であることが分かった。

今後の研究展開

上述のように本研究では、人工の分子カプセルを用いて、水中で初の天然のスクロースおよび人工の糖分子(人工甘味料)の選択的な内包を達成した。これらの成果は、分子レベルで未だ解き明かされていない、“甘さ”を識別する生体レセプターの機構の解明や、さらに強く感じる“甘さ”分子の探索や合成研究への展開が期待される。

用語説明

[用語1] 水素結合 : 水分子に代表されるような、酸素に結合した水素と、近傍にある酸素の間で形成する可逆的な化学結合。

[用語2] 芳香環 : ベンゼンやアントラセンのようなπ電子を豊富に持つパネル状構造。

[用語3] CH-π相互作用 : 炭素に結合した水素と芳香環の間に働く静電的な相互作用。

[文献1] A. P. Davis, R. S. Wareham, Angew. Chem. Int. Ed., 38, 2978–2996 (1999).

[文献2] N. Kishi, Z. Li, K. Yoza, M. Akita, M. Yoshizawa, J. Am. Chem. Soc., 133, 11438–11441 (2011).

[文献3] M. Yamashina, Y. Sei, M. Akita, M. Yoshizawa, Nature Commun., 5, 4662 (2014).

[文献4] D. J. Ager, D. P. Pantaleone, S. A. Henderson, A. R. Katritzky, I. Prakash, D. E. Walters, Angew. Chem. Int. Ed. 37, 1802–1817 (1998).

論文情報

掲載誌 :
Science Advances (Science姉妹誌)
論文タイトル :
A Polyaromatic Nanocapsule as a Sucrose Receptor in Water(水中でスクロースレセプターとして機能する芳香環ナノカプセル)
著者 :
Masahiro Yamashina, Munetaka Akita, Taisuke Hasegawa, Shigehiko Hayashi, Michito Yoshizawa*
(山科雅裕、穐田宗隆、長谷川太祐、林 重彦、吉沢道人*
DOI :

研究内容に関するお問い合わせ

東京工業大学 科学技術創成研究院
化学生命科学研究所
准教授 吉沢道人

E-mail : yoshizawa.m.ac@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5284 / Fax : 045-924-5230

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

40億年前の火星は厚い大気に覆われていた ―太古の隕石に刻まれた火星環境の大変動―

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要点

  • 理論計算と火星隕石の化学分析データの比較から太古の火星大気圧を推定
  • 40億年前の火星は地球と同程度(約0.5気圧以上)の厚い大気に覆われていたことが判明
  • 40億年前以降に起きた大気量の減少が地球との運命を隔てた可能性を示唆

概要

東京工業大学 地球生命研究所の黒川宏之研究員と千葉工業大学惑星探査研究センターの黒澤耕介研究員らの研究グループは、40億年前の火星が地球と同程度の約0.5気圧以上の厚い大気に覆われていたことを突き止めた。この成果は、火星の磁場消失に伴う大規模な大気流出など、40億年前以降に地球と火星の運命を隔てる環境変動が起きた可能性を示唆している。

火星大気が宇宙空間に流出する過程においては軽い同位体が優先的に失われるため、大気への重い同位体の濃集として記録される。本研究はこの濃集度が大気圧(量)に依存することに着目した。40億年前の火星隕石に記録されていた当時の窒素や希ガスといった大気に選択的に含まれる元素の同位体[用語1]組成と、本研究で新たに行った理論計算を比較することで、当時の大気圧を推定した。

火星が過去に厚い大気に覆われていたか、および厚い大気に覆われていた期間がどのくらいだったかは惑星科学における重要な謎のひとつであった。

この研究成果は8月24日に欧州科学雑誌「イカロス(Icarus)」オンライン版で公開され、2018年1月1日発行号に掲載される。

研究成果

東工大の黒川研究員らは、40億年前の火星が約0.5気圧以上の厚い大気に覆われていたことを突き止めた(図1)。図の横軸は火星誕生からの時間、縦軸は本研究で明らかになった大気圧の時間変化である。現在の火星は0.006気圧の薄い大気しか持たないが、40億年前の大気圧は地球(1気圧)と同程度であった。この成果は、火星の固有磁場消失に伴う大規模な大気の宇宙空間への流出など、40億年前以降に起きた環境変動が地球と火星の大気の厚さの違いを生んだことを示唆している。

横軸:火星誕生からの時間、縦軸:大気圧、棒グラフ:現在の大気圧及び本研究で明らかとなった40億年前の大気圧、点線:大気圧の時間変化(予想)。矢印:過去の研究の推定値
図1.
横軸:火星誕生からの時間、縦軸:大気圧、棒グラフ:現在の大気圧及び本研究で明らかとなった40億年前の大気圧、点線:大気圧の時間変化(予想)。矢印:過去の研究の推定値。Kurokawa et al. (2017) Icarusの図を改変

研究の背景

これまで欧米を中心に数多くの火星探査が行われてきた成果として、火星はかつて温暖で液体の水(海)が存在した時期があった可能性が指摘されてきた。火星を温暖に保つためには厚い大気の温室効果が必要であるが、現在の火星は0.006気圧の薄い大気しか持っていない。黒川研究員らの過去の研究によって、火星誕生から4億年の間に50%以上の水が宇宙空間へ流出したことが突き止められた。一方で、火星がいつ、どのように厚い大気を失ったのかは残された謎であった。

研究の経緯

低重力の火星においては窒素など大気中の元素が宇宙空間に流出していく。この流出過程では軽い同位体が優先的に失われるため、火星大気への重い同位体の濃集として記録される。本研究ではこの濃集度が大気圧(量)に依存することに着目した。過去の研究で報告されていた40億年前の火星隕石に記録されていた当時の大気の窒素とアルゴンの同位体組成と、本研究で新たに行った理論計算を比較することで、当時の大気圧を推定した。

今後の展開

現在、アメリカ航空宇宙局(NASA)の火星探査機「メイブン」によって火星大気の流出現象の観測が行われている。また、2024年に打ち上げが予定されている宇宙航空研究開発機構(JAXA)の火星衛星サンプルリターン機「MMX」でもこの流出現象の観測を行う予定である。これらの探査を通じて、本研究で明らかとなった40億年前の厚い大気が失われた原因を解明できる可能性がある。この研究を通じて、地球や火星など地球型惑星[用語2]一般の長期環境変動の要因や、生命が存在可能な環境を維持する条件を理解することができると期待している。

用語説明

[用語1] 同位体 : 同一の原子番号を持つものの中性子数が異なる核種

[用語2] 地球型惑星 : 岩石・鉄を主成分とする惑星

論文情報

掲載誌 :
Icarus
論文タイトル :
A Lower Limit of Atmospheric Pressure on Early Mars Inferred from Nitrogen and Argon Isotopic Compositions
著者 :
黒川宏之、黒澤耕介、臼井寛裕
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 地球生命研究所

黒川宏之 研究員(日本学術振興会特別研究員)

E-mail : hiro.kurokawa@elsi.jp
Tel : 03-5734-2854 / Fax : 03-5734-3416

千葉工業大学 惑星探査研究センター

黒澤耕介 研究員

E-mail : kosuke.kurosawa@perc.it-chiba.ac.jp
Tel : 047-478-4386(黒澤居室直通)
047-478-0320(事務)
Fax : 047-478-0372

取材申し込み先

東京工業大学
広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

フラストレーションと量子効果が織りなす新奇な磁気励起の全体像を中性子散乱で観測―新しい磁気理論の指針を提示―

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要点

  • 三角格子量子反強磁性体の磁気励起の全体像を中性子散乱実験で捉えた
  • 分数スピン励起などの新概念を示唆する磁気励起を観測
  • フラストレーションと量子効果が生む新たな物性研究の進展に期待

概要

東京工業大学の伊藤沙也院生(現千代田化工建設)、栗田伸之助教、田中秀数教授、日本原子力研究開発機構の中島健次研究主席、河村聖子研究副主幹、高エネルギー加速器研究機構の伊藤晋一教授、茨城大学の桑原慶太郎教授、総合科学研究機構の加倉井和久サイエンスコーディネータの研究グループは、量子効果が顕著な三角格子反強磁性体の磁気励起[用語1]の全体像を中性子散乱[用語2]実験で初めて捉えた。

研究グループは、三角格子反強磁性体の理想的なモデル物質「アンチモン酸バリウムコバルト(Ba3CoSb2O9)」に着目し、大型単結晶試料を作成、中性子を入射して、散乱中性子のスペクトルを高精度で解析。通常の磁性体で見られる磁気励起とは大きく異なる新奇な磁気励起について詳細を明らかにした。従来の磁気励起の最小単位よりも細かい単位の励起(分数励起)の必要性を示唆する結果となり、フラストレーション[用語3](図1)と量子効果が新たな物性研究のフロンティアを開くこと、精密な中性子散乱実験が新奇な電子物性の解明につながることを示す成果となった。

スピンのフラストレーション

図1.スピンのフラストレーション


矢印の向きはスピンの向き(電子の自転が右回りか左回りか)を表す。

通常の磁性体の磁気励起は、磁気の担い手である電子のスピン[用語4]が平衡位置のまわりで起こす小さな歳差運動が、波として結晶全体に伝搬する“スピン波理論(図2)”で表される。その一方で、スピンが小さい三角格子反強磁性体では強いフラストレーションと量子力学的効果で、スピン波理論が成立する波長領域は、極めて限定的であることが理論的に知られていた。この研究では、この現象を実証するとともに、磁気励起を統一的に説明する新しい理論の必要性を明確に示した。

スピン波の概念図

図2.スピン波の概念図


スピンがその平衡位置のまわりで振幅の小さな歳差運動をし、それが波として結晶全体に伝わるものがスピン波である。上の図はスピンの歳差運動を上から見た様子。

この成果は8月10日付けの英国の学術誌「Nature Communications」電子版に掲載された。

背景

磁性体の磁気は電子のスピンによって生じる。絶縁性の磁性体ではこのスピンが磁性原子に局在し、交換相互作用[用語5]を及ぼし合っている。交換相互作用はスピンを平行(強磁性)、あるいは反平行(反強磁性)にする働きがあるので、多くの磁性体では温度を下げると、スピンが平行に揃った強磁性状態や反平行に揃った反強磁性状態になる。

ところが図1のように、磁性原子が三角形の格子点に位置し、スピン間に反強磁性的な交換相互作用が働く場合には事情が異なる。どれか2つのスピンを反平行に置くと、残りのスピンはどの方向を向いてもエネルギーが変わらないため、安定な配置が決まらない。このような状況をスピンのフラストレーションと呼ぶ。

図3のように、三角格子上にスピンがあり、隣り合うスピン間に反強磁性的な交換相互作用が働く物質は三角格子反強磁性体と呼ばれている。三角格子反強磁性体では、図1に示したような強いフラストレーションがスピン間に働くために基底状態は、従来からよく知られている強磁性状態や反強磁性状態にはならない。そこで量子効果が最も大きいスピンの大きさが1/2の場合の基底状態が問題となった。

三角格子とスピンが互いに120°をなす三角スピン状態(赤の矢印)

図3.三角格子とスピンが互いに120°をなす三角スピン状態(赤の矢印)

1973年に著名なノーベル賞物理学者であるP.W.アンダーソンは、隣接するスピンが磁気を持たない量子力学的一重項状態をとり、一重項をなすスピン対が時間的に変化する“スピン液体”と呼ばれる状態が基底状態になるという理論を提唱した。この理論に端を発してスピン1/2の三角格子反強磁性体の研究が活発化した。長い論争の末、現在のコンセンサスは「基底状態はスピン液体ではなく、図3のような隣り合うスピンが120°をなして妥協した三角スピン状態になる」というものだ。しかしながら、スピンの平均的長さは量子効果によって1/2から大きく縮んでいる。

このような三角スピン状態からの磁気励起の理論研究も活発に行われ、中性子散乱実験のスペクトルの計算もなされた。しかし、基底状態に比べて励起状態の理論は難しく、理論的コンセンサスは極めて限られている。一般に強磁性や反強磁性などの秩序状態からの磁気励起は、図2のようなスピン波になることが知られており、実際に数多くの磁性体で観測されている。これに対してスピン1/2の三角格子反強磁性体では、スピン波理論が成立する波長領域は極めて限定的で、多くの波長領域で励起に必要なエネルギーがスピン波理論の予想を大きく下回ることが知られていた。また、基底状態になることができなかったスピン液体状態の残影が磁気励起に現れ、分散関係[用語6]に極小を作ることなどが知られていた。これらの実験的検証は、一部に限られており磁気励起の全体像は全く分かっていなかった。

研究の経緯

本研究グループは、三角格子反強磁性体であるBa3CoSb2O9に着目。図4はこの物質の結晶構造である。青い八面体CoO6の中心に位置する磁性イオンCo2+が三角格子を形成している。磁性イオンCo2+のスピンの大きさは1/2と小さい。

Ba3CoSb2O9の結晶構造

図4.Ba3CoSb2O9の結晶構造


(a)は全体の透視図、(b)はc軸方向から見た構造。青い八面体は中心に磁性イオンCo2+があるCoO6八面体を表す。Co2+イオンはab面内で三角格子を形成する。

また、Ba3CoSb2O9では、スピン間に働く交換相互作用がスピンの向きに殆ど依存しない等方的なものである。これはコバルト化合物では例外的だ。スピン1/2の三角格子反強磁性体では、磁化曲線[用語7]に平坦領域(プラトー)が現れるという巨視的量子効果が理論的に予言されていたが、田中教授らのグループは以前にBa3CoSb2O9に強い磁場を加えることにより、この現象を検証。Ba3CoSb2O9が理想的なスピン1/2の三角格子反強磁性体であることを示している。

研究成果

中性子散乱は、広い波長領域とエネルギー領域の磁気励起を調べる唯一の実験手段である。研究グループは、Ba3CoSb2O9の大型単結晶を作成し、中性子散乱実験を行なった。使用した装置は大強度陽子加速器施設「J-PARC」[用語8]の物質・生命科学実験施設に設置された冷中性子ディスクチョッパー分光器AMATERAS(アマテラス)で、低エネルギーの励起を高精度に検出できる世界有数の装置だ。

スピンのフラストレーション

図5.J-PARC物質・生命科学実験施設に設置された冷中性子ディスクチョッパー分光器AMATERASの見取り図


2つのチョッパーの回転数を調整することによって特定のエネルギーの中性子のみが試料に入射できるようになっている。試料位置に置かれた試料はヘリウム3(3He)冷凍機で0.3 Kまで温度を下げることができる。

この中性子散乱実験の結果、図6に示した鮮明な励起スペクトルが得られた。理論の予想とは大きく異なり励起スペクトルは3段構造をもっていた。低エネルギーの1段目は、明瞭な分散関係をもった単一マグノン励起からなる。この物質は、K点近傍では白い実線で表されたスピン波理論による分散関係と一致しているが、K点から離れると励起エネルギーはスピン波理論に比べて大きく低下する。

上部のグラフ(a)(b)(c)(d)はAMATERASで測定したBa3CoSb2O9の磁気励起スペクトル

図6.上部のグラフ(a)(b)(c)(d)はAMATERASで測定したBa3CoSb2O9の磁気励起スペクトル。波数ベクトルQ=(H, H)と(0.5-K, 0.5+K)の方向は、(e)に示された逆格子空間内の赤と青の矢印に対応する対称な2方向。測定温度は1.0 Kだ。逆格子空間内の原点から各点に引いたベクトルの向きは磁気励起の進む向きを表し、長さは波数(波長の逆数)に対応する。

また、M点でスピン液体に特徴的なスピン1/2の励起(スピノン)の束縛状態と解釈されている極小が明瞭に見られる特徴があった。これらは最近の理論と定性的に一致する。励起スペクトルの大きな特徴は2段目と3段目を構成する強い連続的な励起だ。この連続励起は交換相互作用の大きさの6倍以上の高エネルギーまで続いていて、現在の理論では説明できない。このような強い連続励起が現れる1つの可能性として、分数スピン(1/2、 1/3、1/4…)をもった励起の合成によって全体の磁気励起が構成されていることが考えられる。スピン1/2のスピノン励起は1次元反強磁性体で確認されているが、その他の系では観測されていない。今回、スピン1/2の三角格子反強磁性体の磁気励起の全体像が明らかになった。しかし、得られた励起スペクトルは現在の理論では説明できず、これを説明するためには、分数スピン励起など、新概念が必要となる。

今後の展開

多くの磁性体の磁気励起はスピン波で表されることが知られている。しかし、この研究によってフラストレーションと量子効果が強い三角格子反強磁性体の磁気励起はスピン波では説明できず“分数スピン励起”などの新しい磁気励起の概念が必要であることが分かった。また、スピン液体に関連すると考えられる励起が存在することも分かった。今回の成果は、フラストレーションの強い量子磁性体の研究の活発化をもたらすと期待される。

純良単結晶を用いた精密な中性子散乱実験から今後も多くの新しい現象が発見され、物性研究のフロンティアが拓かれていくものと考えられる。今回はゼロ磁場での実験だったが、磁場中での励起スペクトルの変化は磁気励起の解明につながるヒントを与えてくれる可能性があり、今後、磁場中での中性子散乱実験が重要となる。

用語説明

[用語1] 磁気励起 : 全体のエネルギーが最も低い安定な状態を基底状態という。物質は絶対零度で基底状態になる。基底状態よりもエネルギーが高い状態が励起状態である。磁性体において、基底状態から励起状態への遷移を磁気励起という。反強磁性体の基底状態では各原子のもつスピンの和(全スピン)は0になっている。全スピンの値の変化が±1、0の磁気励起はマグノンと呼ばれ、スピン波もこれに含まれる。一方、全スピンの値の変化が±1/2の磁気励起はスピノンと呼ばれ、1次元反強磁性体で確認されている。

[用語2] 中性子散乱 : 中性子は粒子の性質と波動の性質をもっている。波動としての性質を利用した実験が中性子散乱である。中性子は磁気モーメントをもつので、固体に入射した中性子は原子を構成する原子核からの核力によって散乱されるだけでなく、磁性原子のもつ磁気モーメントによっても散乱される。入射中性子と散乱中性子のエネルギーに変化がない場合が弾性散乱で、ブラッグの法則に基づいて結晶構造の決定や磁性体中の磁気モーメント配列の決定に利用される。これに対して、入射中性子と散乱中性子のエネルギーに変化が生じる場合が非弾性散乱で、磁気励起をはじめとして固体中の励起現象の研究に用いられる。この場合、入射中性子と散乱中性子のエネルギーの差が励起エネルギーになる。中性子の磁気散乱では全スピンの値の変化が±1、0の励起を捉えるので、スピン±1/2の励起であるスピノンの場合には、2個のスピノンが励起される。合成した波数は同じでも、個々のスピノンのもつ波数の組み合わせは無数にあるので、合成された励起エネルギーは無数にできる。そのため励起スペクトルに連続領域ができる。

[用語3] フラストレーション : 幾何学的配置や相互作用の競合によって、すべての相互作用エネルギーを最低にすることができない状況(どこかの相互作用に必ず不満が残る状況)。これを物理学では「フラストレーションがある」という。

[用語4] スピン : 粒子の自転運動に対応する物理量で、電子は大きさが1/2のスピンをもっている。自転の向きに右ねじを回したとき、ねじの進む向きがスピンの向きである。電子は負の電荷をもつので、自身の自転によって小さな磁石の性質(磁気モーメント)をもつ。磁性原子の中で磁気に関与する電子のスピンを全て足し合わせたものが磁性原子の持つスピンになり、その値は半奇数か整数になる。スピンは量子力学の法則(不確定性原理)に従うので、スピンの向きを完全に決定することはできない。

[用語5] 交換相互作用 : 電子のスピン間に働く量子力学的相互作用で、近接する磁性原子上の電子が互いに位置を交換し合うことによって生じる。交換相互作用は電子のスピンを平行、あるいは反平行にする働きをもつ。磁性原子のスピンを平行にする交換相互作用をもつ物質を強磁性体、反平行にする交換相互作用をもつ物質を反強磁性体という。

[用語6] 分散関係 : 一般に固体中の励起は波として結晶全体に伝搬する。スピン波はその一つの形態である。励起に必要なエネルギーは波の波長と進む向きによって異なる値をもつ。波長の逆数を大きさにもち、波の進行方向を向きにもつベクトルを波数ベクトルといい、励起エネルギーと波数ベクトルの関係を分散関係という。

[用語7] 磁化曲線 : 磁気の強さを表す磁化と加えた磁場の関係を表す関数をいう。通常の反強磁性体の磁化曲線では、磁化は飽和するまで磁場と共に増加し、飽和すると一定になる。

[用語8] J-PARC : 大強度陽子加速器施設(Japan Proton Accelerator Research Complex)。高エネルギー加速器研究機構と日本原子力研究開発機構が茨城県東海村で共同運営している大型研究施設で、素粒子物理学、原子核物理学、物性物理学、化学、材料科学、生物学などの学術的な研究から産業分野への応用研究まで、広範囲の分野での世界最先端の研究が行われている。J-PARC内の物質・生命科学実験施設では、世界最高強度のミュオン及び中性子ビームを用いた研究が行われており、世界中から研究者が集まっている。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications 8 (2017) 235
論文タイトル :
Structure of the magnetic excitations in the spin-1/2 triangular-lattice Heisenberg antiferromagnet Ba3CoSb2O9
著者 :
S. Ito, N. Kurita, H. Tanaka, S. Ohira-Kawamura, K. Nakajima, S. Itoh, K. Kuwahara and K. Kakurai
DOI :

理学院

理学院 ―真理を探究し知を想像する―
2016年4月に発足した理学院について紹介します。

理学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

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東京工業大学 理学院
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研究主席 中島健次

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東工大を含むECM共同研究開発チーム第15回「産学官連携功労者表彰」国土交通大臣賞を受賞

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本学の物質理工学院 材料系の坂井悦郎特任教授が関わるECM共同研究開発チームおよび国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下NEDO)は、科学技術イノベーションに係る産学官連携活動における大きな成果を称えることを目的として内閣府が主催する「第15回 産学官連携功労者表彰」において、国土交通大臣賞を受賞しました。

受賞関係者の記念写真(左が坂井特任教授)

受賞関係者の記念写真(左が坂井特任教授)

今般の受賞では、NEDOの助成のもと、「ECM®(エネルギー・CO2ミニマム)セメント・コンクリートシステム」を開発し、本学とセメント製造4社が持つセメント設計技術と、ゼネコン2社と混和剤製造1社が持つ建設技術とを、綿密に連携したオープンイノベーションにより融合・進化させ、環境と品質のバランスに優れた低炭素型セメントとその利用技術の実用化に成功した点が評価されました。

株式会社竹中工務店、鹿島建設株式会社、国立大学法人 東京工業大学、日鉄住金高炉セメント株式会社、株式会社デイ・シイ、太平洋セメント株式会社、日鉄住金セメント株式会社、竹本油脂株式会社

開発の背景

コンクリートの主要な材料であるセメント(普通ポルトランドセメント)は、製造時に石灰石などの原料を高温で焼成するため、多くのエネルギーを必要とするほか、大量のCO2が発生します。セメントの製造にかかるCO2排出量は我が国全体の3%強を占めていることから、セメント製造に係る低炭素化が重要な課題といえます。

ECMセメント・コンクリートシステムの概要

「ECMセメント」は、セメントの6~7割を、鉄鋼製造の副産物である高炉スラグの微粉末に置き換えることで、材料製造時のエネルギー消費量とCO2排出量を大幅に削減するものです。本学とゼネコン・メーカー7社の共同研究により、セメントの材料成分・構成の最適化や、新規の化学混和剤の開発を行い、構造物への適用に向けてのコンクリート・地盤改良技術を開発し、従来の品質・性能上の課題を解決しました。

高炉スラグは、製鉄所の溶鉱炉で銑鉄を作る際の副産物で、溶融して出てくる鉄以外の成分を水で急冷したものです。

ECMセメント・コンクリートシステム

坂井悦郎特任教授 コメント

坂井悦郎特任教授
坂井悦郎特任教授

この研究は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)助成事業にて、サプライチェーンを成す企業体(建設会社、材料製造メーカ)と大学が連携して行いました。大学・セメントメーカー4社による「ECMセメントの開発」、建設会社2社・化学混和剤メーカー1社による「ECMセメントを用いた建設技術の開発」に大きく分け、建設側の要求品質ニーズをセメント設計に的確に反映させ、重要でポジティブな結果を早期に発見、フィードバックして修正する連携体制を強化したことで、開発スピードが大幅に向上しました。今回の表彰はこのような産官の連携に対して評価されたものと思っています。

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沈み込んだ海山が引き起こした予期せぬ火山活動

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概要

国立研究開発法人 海洋研究開発機構(理事長 平朝彦)地球内部物質循環研究分野の西澤達治研究生(東京工業大学 大学院理工学研究科 博士後期課程)、中村仁美研究員(東京工業大学 理学院 特別研究員)、岩森光分野長(東京工業大学 理学院 特定教授)らと国立大学法人 東京工業大学(学長 三島良直)は、ロシア科学アカデミー、産業総合研究所、千葉工業大学、東京大学と共同で、カムチャッカ島北東部の海岸沿いの地域を調査し、採取した溶岩試料の分析等を行った結果、太平洋プレートと共に沈み込んだ天皇海山列延長部分の熱的、化学的影響により、通常では火山活動が起こりえない海溝に近い場所で、多様かつ特殊な組成を示す火山活動が起こったことを明らかにしました。

カムチャッカ半島に沈み込みつつある天皇海山列は、火山活動を停止してからの時間は長いものの、海山をとりまく周囲のプレートよりも温かいことが分かっていましたが、その沈み込みがカムチャッカ半島の火山活動にどのような影響を及ぼすかは不明でした。今回の分析等の結果により、沈み込み後に、その熱的異常及び海山変形・崩壊による割れ目の発達に伴い、ケイ素に富む流体が、通常ではマグマの生成されない比較的海溝に近い地域(前弧域)に一時的に供給されたと推定されました。また、この流体により、地下の岩石が変質作用を受け、局所的に組成が異なるマントル岩石(マグマを生んだ源岩)が溶融することで、一時的に多様で特徴的なマグマ(安山岩質でありながら高いニッケルやマグネシウムを含むマグマ)が生じたことが明らかになりました。

これは、「海山の沈み込みにより、通常ではマグマを生じない地域にも火山が形成される可能性がある」ことを意味します。日本列島においても複数の海山が沈み込んでおり、これまで海山と地震発生との関わりが指摘されていました。本研究は、沈み込んだ海山が火山活動にも影響を及ぼしうることを示しており、日本列島の変動現象を理解する上でも重要な知見です。

本研究は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)とロシア基礎研究基金(RFBR)との二国間交流事業(共同研究)による支援を得たものです。また、科研費JP26247091、JP26109006の助成を受けて実施されたものです。

なお、本成果は、英科学誌「Scientific Reports」に9月14日付け(日本時間)で掲載されました。

背景

海洋プレートは、海底を構成する厚く硬い岩盤で、プレート運動により移動して最終的には海溝へ沈み込みます。そして、海洋プレートが深度100 km~150 km付近まで沈み込むと海水等(以下「スラブ起源流体」という。)の放出現象が起こり、スラブ起源流体の化学的効果により岩石の融点が低下することでマグマや火山が生じます。日本列島においても、その下に太平洋プレートが沈み込むことで顕著な火山帯を形成しています。

一方、千島弧の北方延長上に位置するカムチャッカ半島(図1)では、太平洋プレートとともに海山が沈み込んでいます。また、深度60 km~80 km付近では単性火山群[用語1](East Cone Volcanic Group、以下「EC」という。)と呼ばれる「特異な火山」が存在していますが、なぜ通常よりも浅部で火山が存在するのか、その理由は明らかではありませんでした。

そこで本研究では、なぜこの地域に「特異な火山」ができたのかを解き明かすため、ECのうち8つの火山から18の新鮮な溶岩試料を採取し(図1)、電子顕微鏡、質量分析計等を用いて、岩石記載、各種組成分析及び年代測定を行いました。さらに、得られた組成を元にした数理解析から、定量的な溶融条件の推定とマグマを生んだ源岩の組成の特定を行いました。

カムチャッカ半島のテクトニクスセッティングと調査地域。

カムチャッカ半島のテクトニクスセッティングと調査地域。

図1. カムチャッカ半島のテクトニクスセッティングと調査地域。

上図:カムチャッカ半島周辺のプレート

下左図:カムチャッカ半島の火山(赤三角)と3つの火山列(Eastern Volcanic Front(EVF)、Central Kamchatka Depression(CKD)、Sredinney Range(SR))。沈み込んだ太平洋プレート(スラブ)の上面の等深線(等しい深さを結んだ線)が40 km~400 kmの範囲で示されている。

下右図:調査地域(East Cone火山群 [EC])の拡大図。三角は個々の火山を表し、黒塗りつぶしは調査・分析した8つの火山。これらの火山が、スラブ上面の等深線(60 km~80 km)の上に位置することがわかる。

成果

年代測定により、ECの火山活動は73~12万年前(中期~後期更新世)に起こった一過性のものであったことを明らかにしました。また、EC溶岩の化学組成・同位体比分析の結果、沈み込んだと考えられる海山から放出されたスラブ起源流体がこれらのマグマを生み出したことが分かりました。さらに、EC溶岩に含まれるケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)の量は多様であること、及び沈み込み帯では最高記録となる6,300ppmものニッケル(Ni)を含むカンラン石結晶が溶岩中にみられること(図2)から、図3に示すような物質の循環、特にSiに富むスラブ起源流体(結果として高いNiを含むカンラン石結晶を生む)が存在することが分かりました。

次に述べるように、沈み込んだ海山周辺は温かったと考えられること、及び図3に示した流体発生と物質移動の痕跡を踏まえると、温められた海山が沈み込んでいくことにより、比較的浅所(深さ60 km~80 km付近)で海山由来のスラブ起源流体が発生し、本来マグマのできない場所に「特異な火山」を形成したと考えられます。カムチャッカ半島に沈み込む天皇海山列沿いの太平洋プレートは、周囲に比べ薄く、更に沈み込む直前に深部からの温かいマントル上昇流(プルーム)によって加熱されていたため(図3)、そのような温かくて薄いプレートが沈み込んだ後、比較的浅所(深さ60 km~80 km)で脱水が起こりました(通常は深さ100~150 kmで脱水)。また、海山が変形・崩壊し、割れ目を通してスラブ起源流体が上昇しました(図3)。海山が比較的温かいため、スラブ起源流体はSiに富み(図3-1)、それがマントルのカンラン岩(マグマを生んだ源岩)と反応して斜方輝石とよばれる鉱物を生成します(図3-2)。斜方輝石に富むマントル岩石が融けると、高いNi含有量のマグマを生じ、これが沈み込み帯で最高記録のNi量を示すカンラン石結晶(図3-3)を含む溶岩として噴出しました(図3-4)。このように、海山の沈み込みによる熱的・化学的影響によって、通常は火山ができない前弧域に多様な島弧マグマが同時期に形成したと考えられます。

EC溶岩(青丸=比較的MgとSiの多い溶岩[高Mg安山岩]、十字=Mgが多く比較的Siの少ない溶岩[玄武岩])に含まれるカンラン石のマグネシウムと鉄の含有比(Fo)とNi含有量(ppm)。これまで沈み込み帯の溶岩から報告されている中でNi含有量は最高値(6,300ppm)を示す。
図2.
EC溶岩(青丸=比較的MgとSiの多い溶岩[高Mg安山岩]、十字=Mgが多く比較的Siの少ない溶岩[玄武岩])に含まれるカンラン石のマグネシウムと鉄の含有比(Fo)とNi含有量(ppm)。これまで沈み込み帯の溶岩から報告されている中でNi含有量は最高値(6,300ppm)を示す。

カムチャッカ北部地域の島弧横断方向の断面図とECマグマ生成モデルの概略図。

カムチャッカ北部地域の島弧横断方向の断面図とECマグマ生成モデルの概略図。

図3. カムチャッカ北部地域の島弧横断方向の断面図とECマグマ生成モデルの概略図。

上図:カムチャッカ半島に沈み込む天皇海山列沿いの太平洋プレートは、周囲に比べ薄く、更に沈み込む直前に深部からの温かいマントル上昇流(プルーム)によって加熱されていたため、沈み込んだ後、比較的浅所(深さ60~80 km)で脱水が起こった。

下図:沈み込んだ海山が変形・崩壊し、割れ目を通してスラブ起源流体が上昇した。海山が比較的温かいため、スラブ起源流体はSiに富み(図3-1)、それがマントルのカンラン岩(マグマを生んだ源岩)と反応して斜方輝石とよばれる鉱物を生成する(図3-2)。斜方輝石に富むマントル岩石が融けると、高いNi含有量のマグマを生じ、これが沈み込み帯で最高記録のNi量(6,300ppm)を示すカンラン石結晶(図3-3)を含む溶岩として噴出した(図3-4)。マントルと反応した後のSiに乏しくなったスラブ起源流体は、玄武岩マグマを生成した(図3-5~7)。このように、海山の沈み込みによる熱的・化学的影響によって、通常は火山ができない前弧域に多様な島弧マグマが同時期に形成したと考えられる。

今後の展望

日本列島の沈み込みプレート境界(日本海溝や南海トラフ)には、複数の海山やかつての火山列が沈み込んでいます。本研究成果は、これまで火山はできないと考えられていた地域(例えば前弧域)にマグマ活動が起こる可能性を示しています。また、プレート境界型の地震は、沈み込んだ海山との関連性も指摘されていることから、今後は、マグマの物質科学的な研究、地下構造探査、温度構造推定、スラブ起源流体分布の把握等を統合して、沈み込む海山や火山列が、日本列島の火山や地震活動等に与える影響を評価していく必要があります。

用語説明

[用語1] 単性火山群 : 一度の噴火で形成された火山を単性火山、同じ火口から何度も噴火を繰り返して形成された火山を複成火山と呼ぶ。単性火山は多数が群れて存在することが多く、これを単性火山群とよぶ。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Genesis of ultra-high-Ni olivine in high-Mg andesite lava triggered by seamount subduction
著者 :
西澤達治1,2、中村仁美1,2,3、Churikova Tatiana4、Gordeychik Boris5、石塚治6,7、原口悟2、宮崎隆2、Vaglarov Bogdan Stefanov2、常青2、浜田盛久2、木村純一2、上木健太8、遠山知亜紀6、中尾篤史8、岩森光1,2
所属 :
1東京工業大学 大学院理工学研究科 地球惑星科学専攻
2海洋研究開発機構 地球内部物質循環研究分野
3千葉工業大学 次世代海洋資源研究センター
4ロシア科学アカデミー 極東支部火山地震研究所
5ロシア科学アカデミー 実験鉱物学研究所
6産業総合研究所 地質調査総合センター
7海洋研究開発機構 海洋掘削科学研究開発センター
8東京大学 地震研究所
DOI :

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国立研究開発法人 海洋研究開発機構
地球内部物質循環研究分野 分野長
国立大学法人 東京工業大学 理学院
特定教授 岩森光

E-mail : hikaru@jamstec.go.jp

Tel : 046-867-9760

Tel : 03-5734-3722(東京工業大学)

(報道担当)

国立研究開発法人 海洋研究開発機構

広報部 報道課長 野口剛

Tel : 046-867-9198

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

気管支内の診断精度向上を目指して東邦大学と東京工業大学の研究チームが共同で自走式カテーテルを開発

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東邦大学医療センター大森病院 呼吸器内科 高井雄二郎准教授と東京工業大学 工学院 システム制御系 塚越秀行准教授の研究チームは、1本の極細構造のチューブ内に流体圧を印加することにより、ミミズのような蠕動(ぜんどう)運動を生成する仕組み(Mono-line Drive)を開発しました。

この仕組みを用いることによって、将来、気管支内を自走して肺内の目標の病変まで自動的にたどりつき、病変の採取や治療が行えるオートガイド・ロボットの開発を目指します。

この研究成果は2017年5月10日(水)~13日(土)に開催された「ロボティクス・メカトロニクス 講演会 - 2017 in Fukushima」で発表され、特許2件を出願しています(特願2016-024614、特願2017-092605)。

背景

肺がんを代表とする呼吸器疾患において、診断および治療の精度を高めるためには、肺内病変の生体検査が不可欠です。現在は気管支鏡検査による用手的生検を行っていますが、気管支の分岐が末梢に行くほど多岐かつ細くなるため、それを確実に選択し推進する微細な移動調整が難しいという課題があります。施行医による技術差もあり、確実に病変に生検鉗子を到達させることが難しく、診断精度が十分とは言えません。

Mono-line Driveについて

気管支内視鏡で十分な検査を行うためには、肺内の目標まで確実に到達させることのできる器具と仕組みの開発が必要ですが、そのために克服すべき課題とされているのが、極細で分岐が多岐に渡る気管支内でも生検鉗子を確実に目標に進められる仕組みでした。

今回開発したMono-line Driveは、1本のチューブ内への加減圧だけで複数のチャンバーに進行波を生成するように設計されており、これにより、気管支のような極細な構造の中を蠕動(ぜんどう)運動で進むことが可能となりました。Mono-line Driveには、推進方向を選択するための湾曲機能や、管路径の変化に適応するための屈曲推進機能も搭載されており、気管支モデルを用いてこれらの有効性を確認しました。

Mono-line Driveの動作原理

図1. Mono-line Driveの動作原理

分岐部での方向操舵

図2.分岐部での方向操舵

気管支モデル内の搬送実験

図3. 気管支モデル内の搬送実験

今後の展開

推進可能な分岐確度の拡大や、カメラ等を搭載し気管支内部の情報収集等を行い、生体検査や治療に活用できる機能の開発と、器具の実用化を目指します。

この研究成果は2017年5月10日(水)~13日(土)に開催された「ロボティクス・メカトロニクス 講演会 - 2017 in Fukushima」で発表され、特許2件を出願しています(特願2016-024614、特願2017-092605)。

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東邦大学医療センター 大森病院 呼吸器内科

高井雄二郎 准教授

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Tel : 03-3762-4151 / Fax : 03-3762-4151

東京工業大学

工学院 システム制御系/システム制御コース

塚越秀行 准教授

E-mail : htsuka@cm.ctrl.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3724 / Fax : 03-5734-3724

本リリースの配信元

東邦大学 法人本部経営企画部

E-mail : press@toho-u.ac.jp
Tel : 03-5763-6583 / Fax : 03-3768-0660

本リリースの配信元/取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

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Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

数原子からなる白金クラスター触媒の大量合成に成功

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数原子からなる白金クラスター触媒の大量合成に成功
―従来よりも1,000倍以上の効率で―

要点

  • 環状の白金錯体を利用して白金原子数5から12の原子数のクラスター担持触媒をミリグラムオーダーで合成することに成功(フラスコスケールの有機合成反応に初めて適用)
  • この白金クラスターは再利用可能な触媒として活用できる可能性がある
  • 少し大きいナノ粒子と比べ、数原子のクラスターは興味深い挙動を示す

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の今岡享稔准教授、山元公寿教授らの研究グループは、原子数が明確な白金クラスター[用語1]をカーボンに担持した触媒をミリグラムオーダーで合成することに成功した。これまで構成原子数が明確な単分散クラスターの合成は、気相合成と質量分別を組み合わせるのが唯一の方法だった。本研究では原子数が明確な白金多核錯体を前駆体として用いる化学的手法で、従来法と同等の製造精度で1,000倍以上の大量合成を実現している。この触媒はスチレンの水素化反応に対して高い活性を有しており、触媒として再利用することも可能であることが確かめられた。これは原子レベルで単分散した金属クラスターを数ミリグラム程度のフラスコスケールの触媒反応に応用した初めての例になる。本成果は、2017年9月25日付の英科学雑誌Nature Publishing Groupの「Nature Communications」オンライン版に掲載された。

研究の背景

サブナノメートルサイズの金属クラスター(金属サブナノ粒子)はナノ粒子とは大きく異なる性質を持っていることが知られており、特にその触媒機能については活性と選択性が特異的で、注目されている。例えば白金サブナノ粒子は、プロパンの脱水素化反応がバルクの白金表面に比べて40~100倍の活性となったり、燃料電池の酸素還元反応が10倍以上の質量活性になるなどが知られている。しかし、金属クラスターの構成原子数が1つ変化するだけでその特性が大きく変化するため、クラスター触媒の特性を十分に引き出すためには、1原子のずれも許されない高い精度と単分散性が必要とされる。

クラスター触媒の多くはカーボンや酸化物などの担体上に担持された状態で、不均一系触媒として用いられるが、原子レベルの精度でこれらを得る方法はこれまで気相合成法[用語2]しかなく、合成量はわずかだった。

今回の研究は、従来の気相合成とは全く異なる化学的なアプローチで、スケールアップの限界という根本的な問題解決に取り組んだものである。その結果、白金5~12原子からなる各種クラスターを選択的にミリグラム(mg)スケールで合成することに成功した。

研究成果

今回、原子数が明確な白金クラスターを合成するための原料(前駆体)として白金多核錯体[用語3]に注目した。白金多核錯体はこれまで無数の構造が報告されているが、同一の基本構造を持ちながら、核数が1つずつ異なるバリエーションをすべて構築できるものは存在しなかった。一方、同族のニッケル(Ni)やパラジウム(Pd)では、チオラートと呼ばれる硫黄系の架橋配位子を含む環状錯体がすでに存在しており、その核数は5から12程度まで様々なものが報告されている。白金(Pt)でも同様の構造ができると考え、合成と精製条件を検討したところ、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いることで5核から12核までのすべての純粋な環状白金チオラート錯体を単離精製することに成功した(図1)。

白金クラスター合成の(原料として用いた白金多核錯体の構造(左上)とその分離のHPLCチャート(左下)、単離した錯体の質量スペクトル(MALDI-TOF-MS)(左)
図1.
白金クラスター合成の(原料として用いた白金多核錯体の構造(左上)とその分離のHPLCチャート(左下)、単離した錯体の質量スペクトル(MALDI-TOF-MS)(左)

得られた各種白金錯体を原料として、その核数を完全に維持した状態で担体(カーボン)上に各種白金クラスター(Pt5~Pt12)を生成する方法を突き止めた。得られたクラスターの解析は主に原子分解能の走査型透過電子顕微鏡 (STEM)[用語4]を用いることで行い、各クラスターの構成原子数を直接観察し、大部分で原子数が設計どおり保持されていることが確認できた(図2)。その挙動は大変興味深く、粒径の比較的大きな(~2nm)ナノ粒子とは違い、非常に流動的なものであった。

8原子の白金からなるクラスターPt<sub>8</sub>の合成模式図と得られたクラスター担持カーボンの暗視野STEM像(上段)。同様の方法で核数の異なる各種白金錯体から得られたクラスター(Pt<sub>5</sub>~Pt<sub>12</sub>)それぞれの原子像(STEM)。原子配置は絶えず変化しており、決まった形に固定されていない(下段)。
図2.
8原子の白金からなるクラスターPt8の合成模式図と得られたクラスター担持カーボンの暗視野STEM像(上段)。同様の方法で核数の異なる各種白金錯体から得られたクラスター(Pt5~Pt12)それぞれの原子像(STEM)。原子配置は絶えず変化しており、決まった形に固定されていない(下段)。

各種の白金クラスター(Pt5~Pt12)を用いて、フラスコスケールでの有機合成反応のモデル実験を行なったところ、スチレンの水素化反応で明確な活性が認められた。なかでも10個の白金原子からなるPt10は他のものよりも高い活性を示した(図3)。金属クラスター触媒は一般に耐久性が低く、実用に足らないと考えられがちであるが、Pt10は反応後も多くが担体上に残留しており、再利用の可能性が高まった。

各種白金クラスターを触媒として用いた際のスチレンの水素化反応における触媒回転数の時間経過。
図3.
各種白金クラスターを触媒として用いた際のスチレンの水素化反応における触媒回転数の時間経過。

今後の展開

本研究で開発した金属クラスターの単原子精度での合成法は、従来の気相合成法に対して、桁違いに大きなスケールで行うことができ、原理的にはグラム(g)スケール以上で行うことも可能となる。触媒のみならず、磁気記録やエレクトロニクスデバイスなど、金属クラスターで期待されている応用展開を進める上で極めて重要な成果といえる。

今回の成果は白金(Pt)に特化したものであるが、この手法は白金のみならず様々な金属に適用することが可能であり、金属クラスター科学の発展の起爆剤になると期待される。

用語説明

[用語1] クラスター : ここでは原子や分子数個から十数個の集合体として表現している。金属クラスターは原子の集合体として、数千個の原子からなるナノ粒子を指す用語としても用いられるが、数個の原子からなるクラスターとは構造や性質が本質的には異なる。サイズの小さなクラスターはその原子数によって安定性などの性質が異なることが知られている。特に安定なクラスターとなる原子数を「魔法数」と呼び、表面が有機物などで保護された魔法数クラスターは、比較的大量に合成できる。しかし、表面保護されていないクラスターや魔法数から外れるクラスターは、単分散を要求される場合、気相法が唯一の合成法である。

[用語2] 気相合成法 : 薄膜を形成する手法。超高真空チャンバー中で気化した金属ガスの凝集と、それを加速して得られるクラスターイオンビームの四重極フライトチューブなどを用いた質量分別によって行われる。近年、その合成スループット向上が試みられているが、1原子の分解能を得るにはビームを大きく絞り込む必要があり、依然としてナノグラム(ng)からマイクログラム(µg)が事実上の合成可能な量の上限になっている。

[用語3] 白金多核錯体 : 金属錯体は金属イオンと配位子 (電子が豊富な無機イオンや有機分子など様々なものがある) が複合化した分子のこと。今回、配位子としてチオラートと呼ばれる負電荷を帯びた硫黄原子を含む有機分子を用いた。ひとつの錯体分子に複数の金属イオン(今回は白金)を含むものを多核錯体と呼ぶ。

[用語4] 走査型透過電子顕微鏡(STEM) : 極小領域に絞った電子ビームを試料に照射し、掃引しながら透過してくる電子線の強度をマッピングすることで、試料内部の原子像分布・形態・組成像・結晶構造などを画像化することができる顕微鏡。今回は原子1つを識別する能力を持った、球面収差補正された電子線を用いた装置で観察を行なった。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications (Nature Publishing Group)
論文タイトル :
Platinum clusters with precise numbers of atoms for preparative-scale catalysis
著者 :
Takane Imaoka, Yuki Akanuma, Naoki Haruta, Shogo Tsuchiya, Kentaro Ishihara, Takeshi Okayasu, Wang-Jae Chun, Masaki Takahashi, Kimihisa Yamamoto
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

今岡享稔 准教授

E-mail : timaoka@res.titech.ac.jp
Tel : 045-925-5271

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

山元公寿 教授

E-mail : yamamoto@res.titech.ac.jp
Tel : 045-925-5260

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グラフェンの厚さの違いと電子の動きの関係を世界で初めて観察

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本研究成果のポイント

  • 電子・光電材料として期待されるグラフェン内の電子移動を高時間・空間分解能(フェムト秒とナノメートル)で初めて観測
  • これにより、電子の動きとナノ構造の関係を明らかに
  • 素子開発に役立つ欠陥情報の提供など、グラフェンの新規特性評価手法の開拓

概要

高エネルギー加速器研究機構(KEK) 物質構造科学研究所の福本恵紀特任助教は、東京工業大学 理学院 化学系の腰原伸也教授、フランス国立科学研究センター(CNRS)、ピエール アンド マリー キュリー大学のMohamed Boutchich准教授らと共同で、グラフェン内の超高速な電子の動きが場所ごとに異なることを世界で初めて観測した。

理想的なグラフェンは炭素原子1層の厚さをもつ二次元物質であり、高速デバイスなどへの応用が期待されている。しかし実際に作成されるグラフェンの構造はナノスケールで不均一なため、その構造の違いが電子の運動に影響を与えると予測されている。グラフェンの実用化のためには、デバイスの動作を阻害する構造、また高性能化に利用できる構造を明確にする必要がある。

本研究では、一般的に使われている方法で作成されたグラフェンの結晶構造の違いに由来した電子輸送特性の観察に成功した。具体的には、ラマン顕微鏡[用語1]を用いて局所的な結晶構造から電子状態を計算し、同じ試料の同じ場所を独自に開発したフェムト秒時間分解光電子顕微鏡法(TR-PEEM)[用語2]で観察することで、構造と電子輸送特性を直接関連付ける結果を得た。

この研究成果は、オランダの科学誌「Carbon(カーボン)」に8月21日オンライン速報版で公開された。

背景

ハチの巣状に配列した炭素原子のシートであるグラフェンは、人類が初めて目にした原子1層の厚さしかない完全な二次元物質であり、材料としての性能も優れている。グラフェンは非常に高い熱伝導度を持ち、機械的に強靭であり、化学的にも安定な物質である。また、特に高い電気伝導度を持つなど電気特性に優れている。グラフェンはエネルギーバンド構造が特異であり、グラフェン内では電子がケイ素内での約100倍の早さで移動できることから、高速トランジスタなど高速動作する記録媒体への応用が期待されている。

低コストで大面積のグラフェンが作成できるため最も一般的に使われている化学気相成長(CVD)法[用語3]では、グラフェンが局所的に2層になったり、1層目と2層目が異なる角度で重なったり、構造が不均一になることが知られている(図1(a))。グラフェンの不均一な構造がエネルギーバンド構造に影響し、電子の輸送特性に影響することは理論的に予想されている。しかし、高い時間・空間分解能で電子の動きを観察する手段が限られているため、ナノスケールの局所的な構造欠陥と電子の超高速輸送特性の関連性は明白にされていなかった。

研究グループは、この研究に先立って100フェムト秒(1フェムト秒は1,000兆分の1秒)の時間スケールとナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)の空間スケールで電子の動きが観察できる特殊な装置 TR-PEEMを開発しており、これをCVD法で作られたグラフェンに適用しようと考えた。

研究内容と成果

ラマン分光法では、スペクトル形状から、グラフェンが1層なのか、2層なのかを判別し、また、1層目と2層目の間の回転角度を推測することができる。図2(b)は、CVD法により作成されたグラフェンをラマン顕微鏡で観察した構造マップである。大部分を占める茶色の領域は1層の領域で、A、B、Cでマークした領域は2層グラフェンであり、色の違いが層間の回転角度を表す。これに従い、エネルギーバンド構造を計算し、それらを反映した光電子放出強度によりPEEM像(図2(a))が得られた。2層領域からの光電子放出強度は小さく、暗いグレイスケールで表現されている。TR-PEEM法により、これらの領域を区別して、光吸収により生成した電子が「伝導電子として存在できる時間(寿命)」を観測し、「寿命」が1層領域と2層領域とで異なることを世界で初めて確認した。これは構造と電子輸送特性を直接関連付ける結果であり、グラフェンの電子状態の制御、つまり電子の動きの制御を進展させる成果である。

なお、この研究は、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業 CREST 「光技術が先導する臨界的非平衡物質開拓」、日本学術振興会 科学研究費助成事業 若手研究(B)(No.15K17677)、及び、JSTのACCEL フィージビリティスタディ「ナノスケール・フェムト秒電子ダイナミクス直接観察装置開発と光電子材料開拓手法の革新」の助成により行われた。

本研究の意義、今後への期待

これまでの半導体材料、および素子の開発は「欠陥特性をいかに制御できるかの研究」と言い換えることができる。低コストで大口径の半導体基板を作成すれば欠陥が多くなり品質低下をまねき、逆に高品質で作成すればコストの問題が発生する。また、欠陥を積極的に利用する半導体デバイスもある。グラフェンは優れた性能をもつ材料でメモリや光検出器、レーザー媒体などへの応用が期待されているが、依然として作成単価が高額であり、幅広い普及には至っていない。つまり「欠陥の制御」ができていないと言える。

本研究では、グラフェンの不均一な構造の特性を特定し、電子デバイスの性能を決定する電子輸送特性を直接評価することに成功した。構造と電子輸送特性の直接対比が可能であることを証明した本研究成果は、今後のグラフェン素子作成の重要なツールとなりうる。

本研究で使用したTR-PEEMは、図1(a)のように空間的に不均一な試料における電子が面内方向に伝搬する過程の可視化が可能であり、局所的な電子移動速度を見積もることができる。TR-PEEMを電子・光電デバイス性能評価の技術として確立することが今後の展望のひとつである。

参考図

(a)グラフェンの模式図。(b)、(c)時間分解光電子顕微鏡(TR-PEEM)による測定結果。

図1.
(a)グラフェンの模式図。本研究で測定したCVD法で作成したグラフェンは、1原子層の炭素シート(オレンジ領域)に2層領域(赤と青)が点在する。赤と青の違いは、1層目と2層目の面内回転角度が異なることを示す。
(b)、(c)時間分解光電子顕微鏡(TR-PEEM)による測定結果。光吸収により生成した電子が伝導電子として存在できる時間(寿命)が局所的に異なる。1層領域より2層領域の方が寿命が長い。

(a) PEEMと(b)ラマン顕微鏡によるグラフェン表面観察像

図2.
(a)PEEMと(b)ラマン顕微鏡によるグラフェン表面観察像。(b)において、大部分を占める茶色の領域はグラフェン1層領域。A、B、Cでマークしたカラースケールの異なる領域は2層領域であり、色の違いは1層目と2層目の回転角度に依存したラマン強度を表す。2層領域は、コントラストは弱いがPEEM像でも確認できる。
この研究では、緑四角で囲んだ1層領域とA、B、Cでマークした2層領域の寿命をTR-PEEM法で観測し比較した。

TR-PEEM装置の概略図

図3.TR-PEEM装置の概略図

用語説明

[用語1] ラマン顕微鏡 : ラマン分光法は、試料に照射した光の散乱強度から分子構造を同定する手法である。顕微鏡を組み合わせ、ミクロンサイズ以下に集光した照射光で試料表面を走査することで、分子構造がマッピングできる。

[用語2] フェムト秒時間分解光電子顕微鏡(Femtosecond time-resolved photoemission electron microscopy:TR-PEEM) : 光電子顕微鏡(PEEM)の励起源にフェムト秒パルスレーザーを利用する手法。パルスレーザーは、グラフェン内の伝導電子励起用のパルス(励起光)と伝導電子を光電子放出させPEEMで検出するためのパルス(検出光)の2つを時間変化させながらグラフェンに照射することで、伝導電子の密度の時間変化をフェムト秒スケールで見積もることができる。また、PEEMは50 nmの空間分解能があり、局所的な時間変化が観測できる。図3はTR-PEEMの概略図である。

[用語3] 化学気相成長法(Chemical Vapor deposition:CVD) : 薄膜を作成する手法のひとつ。石英などで作成した反応管内に原料となる物質(ここでは炭素)をガス状態で供給し、固体表面に堆積させる。
グラフェン作成に用いると大面積の膜が作成でき、製造コストも比較的安価だが、構造欠陥などが生成され均一性はそれほど良くない。また、反応して堆積するための金属触媒が必要である。

論文情報

掲載誌 :
Carbon 8月号(オンライン版8月21日)
論文タイトル :
Ultrafast electron dynamics in twisted graphene by femtosecond photoemission electron microscopy(フェムト秒光電子顕微鏡によるねじれた層状グラフェンの超高速電子ダイナミクス観察)
著者 :
Keiki Fukumoto, Mohamed Boutchich, Hakim Arezki, Ken Sakurai, Daniela Di Felice, Yannick J. Dappe, Ken Onda, Shin-ya Koshihara
DOI :

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