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2017 東工大スピントロニクスイノベーション研究推進体研究会 開催報告

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6月9日、東工大スピントロニクスイノベーション研究推進体が主催する第2回研究会が大岡山キャンパス大岡山西8号館大会議室で開催されました。今回は「ポストスピントロニクスへの挑戦」と題して、スピントロニクス※1に関連した研究の最先端の成果について東工大の若手研究者を中心とした発表者による7件の講演が行われました。当日は学内外から31名の参加者が集いました。

最初に、工学院 波多野睦子研究室の岩崎孝之助教が「ダイヤモンド量子センサ」と題して、ダイヤモンドのNVセンター※2を利用した室温で高感度な電場や磁場の定量センシングについて講演を行いました。ダイヤモンド結晶の形成方法を工夫しN-V軸を意図的に配列することにより検出感度が大きく向上したと報告しました。

次に、工学院 ファム・ナム・ハイ研究室のN. H. D. Khangさん(博士後期課程学生)が発表しました。スピン注入型磁気抵抗メモリであるSTT-MRAMのエネルギー消費の課題を解消すべくトポロジカル絶縁体(BiSb)※3と垂直磁気異方性を示す強磁性体(MnGa)の接合について、主に結晶成長に関する最近の進展と問題点を語りました。

続いて、理学院 藤澤利正研究室の橋坂昌幸助教が、微小領域に形成された整数量子ホール系のダイナミクスに関する新知見について講演しました。大きなバイアス電圧が印加された非平衡領域で分数電荷(e/3)が現れると述べました。

休憩後は、科学技術創成研究院 宗片比呂夫研究室の西沢望特任助教による「室温純粋円偏光スピンLED」にかかる講演から始まりました。工夫をこらしたスピンLEDにおいて室温で純粋な円偏光発光が得られたこと、および、今後の医療応用に関する展望が語られました。

次いで、科学技術創成研究院 菅原聡研究室の北形大樹さん(博士後期課程学生)が、消費エネルギーの削減の観点から、集積回路に不揮発性SRAMを導入する意義とアーキテクチャに関する研究についての報告を行いました。

続いて、工学院の中川茂樹教授がSTT-MRAM材料として期待されるCo2FeSi/MgO系における垂直磁気異方性の発現と制御についての最近の進捗を語りました。

最後に、科学技術創成研究院の庄司雄哉准教授から「磁性材料を用いた光制御デバイス」と題して、磁性体を組み込んだ光導波路を基礎とする光アイソレータ、光スイッチ、光メモリの設計、ならびに、最近の実験状況について意欲的な発表がなされました。

講演は、スピンが絡む物理現象からデバイス作製、実装、応用展開まで多岐にわたっており、各研究テーマで新知見を切り拓こうとする東工大の若手研究者による熱い報告でした。今後の研究展開への期待の表れか、各講演の終わりには様々な質問が登壇者に投げかけられ、研究会終了後も遅くまで活発な意見交換がされ、会場を閉めた時には終了予定時刻を1時間以上超過していたほどでした。

※1
スピントロニクスとは、固体中の電子が持つ電荷とスピン(量子力学上の概念で、粒子が持つ固有の角運動量)の両方を工学的に利用、応用する分野のこと。
※2
ダイヤモンドの結晶において本来は炭素があるべきところに窒素(N)で置換され、隣接する位置に空孔(V)がある複合欠陥をダイヤモンドNVセンターと呼ぶ。NVセンターが電子1個を捕獲して負に帯電時にNV中心はスピン角運動量をもった磁気的な性質を示す。
※3
トポロジカル絶縁体とは、物質の内部は絶縁体でありながら、表面は電気を通すという物質である。

(左から)岩崎助教、Khang大学院生、橋坂助教、西沢特任助教、北形大学院生、中川教授、庄司准教授
(左から)岩崎助教、Khang大学院生、橋坂助教、西沢特任助教、北形大学院生、中川教授、庄司准教授

お問い合わせ先

未来産業技術研究所 西沢望

Email : nishizawa.n.ab@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5178


触媒活性指標の回転数が一桁高い190万回を実現 ―極めて高い活性を示す固定化ロジウム触媒を開発―

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要点

  • シリカにロジウムとアミンを同時に固定した触媒によってオレフィンのヒドロシリル化反応における190万回の触媒回転数を達成
  • 貴金属触媒量の大幅な低減に成功し、シリコーンの持続的供給に貢献
  • 固体表面におけるロジウムとアミンの「協奏効果」によって反応が促進

概要

本学物質理工学院の本倉健講師と前田恭吾大学院生らは、オレフィンのヒドロシリル化反応に極めて高活性を示す固定化ロジウム触媒を開発しました。この触媒では、活性・安定性の指標となる触媒回転数(触媒1分子が目的とする反応を進行させた回数)が190万回に達することを発見しました。この値は従来よりも一桁高い値です。

ヒドロシリル化反応の生成物である有機ケイ素化合物は、シリコーン製造工業で用いられる重要な化合物です。本触媒の発見により、有機ケイ素化合物の合成反応における貴金属の使用量を大幅に低減することが可能となります。世界中で広く利用され需要が高いシリコーンの持続的な供給につながる発見です。固体表面でのロジウムとアミンの「協奏効果」によって反応が促進されることも明らかにしました。

本研究成果は米国科学誌「エーシーエス・キャタリシス(ACS Catalysis)」オンライン速報版に2017年6月19日に公開されました。

研究成果

ロジウム錯体と第三級アミンをシリカの表面に固定した触媒(SiO2/Rh-NEt2)を開発し、この触媒がオレフィンのヒドロシリル化反応[用語1]に極めて高い活性を示すことを発見しました。触媒1分子が何回目的の反応を進行させたかを示し、活性の指標となる触媒回転数(TON)[用語2]を計測したところ、24時間で最大1,900,000回に達することがわかりました。この値は、これまでに報告されている他の固定化ロジウム触媒と比較して、一桁高い値です(表1)。

表1. 本研究で開発した触媒と既報との活性比較

触媒
反応時間(h)
触媒回転数(TON)
SiO2/Rh-NEt2(本研究)
24
1,900,000
MOF-Rh(論文1※1
72
820,000
SiO2/Rh(論文2※2
10※3
200,000
※1
Sawano, T.; Lin, Z.; Boures, D.; An, B.; Wang, C.; Lin, W. J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 9783-9786.
※2
Szubert, K.; Marciniec, B.; Dutkiewicz, M.; Potrzebowski, M. J.; Maciejewski, H. J. Mol. Catal. A Chem. 2014, 391, 150-157.
※3
1時間の触媒反応を10サイクル実施

この発見によって、有機ケイ素化合物の合成に必要な貴金属触媒の量を大幅に低減することができます。反応には溶媒が不要であり、図1に示すように、生成物/触媒比=1,900,000の条件では液体の生成物以外にわずかに触媒が存在するのみとなります。生成物/触媒比=260と比較すると、ロジウムに由来するオレンジ色が目視では確認できないほど触媒量が少ないことがわかります。

オレフィンのヒドロシリル化反応では、原料となるオレフィンとヒドロシランの構造を様々に変えることで、必要に応じた構造の有機ケイ素化合物を合成することができます。本研究で開発した触媒を用いて様々なオレフィンとヒドロシランの反応を行ったところ、いずれも高収率で対応する生成物が得られることがわかりました(図2)。例えば、シリコーン骨格(ケイ素―酸素―ケイ素結合)を有するヒドロシロキサンや、生成物からの官能基変換が可能なシアノ基(CN三重結合)やエポキシ基(炭素―酸素―炭素の三員環)をもつオレフィンの反応も良好に進行しました。

生成物/触媒比=260および1,900,000での反応溶液の様子。触媒が極微量でも十分に生成物が得られるため、クリーンな状態(右)となる。

図1. 生成物/触媒比=260および1,900,000での反応溶液の様子。
触媒が極微量でも十分に生成物が得られるため、クリーンな状態(右)となる。

様々な構造のオレフィンおよびヒドロシランを用いたときの生成物収率(括弧内は要した時間)。様々な構造の有機ケイ素化合物を99~76%と高い収率で得ることができる。

図2. 様々な構造のオレフィンおよびヒドロシランを用いたときの生成物収率(括弧内は要した時間)。
様々な構造の有機ケイ素化合物を99~76%と高い収率で得ることができる。

シリカの表面にロジウム錯体とアミンを同時に固定することで高い触媒活性が発現していることを見出しました。用いるロジウムの量を一定にして触媒反応を行い、それぞれの触媒の活性を比較した結果を図3に示します。Rhのみ固定した場合(SiO2/Rh)、11%であった収率が、Rhとアミンを同時に固定化することで88%まで向上しました。一方で、ロジウムとアミンのシリカ表面への固定を逐次的に行うと、ロジウムから固定した場合は86%に、アミンから固定すると59%まで収率が低下することがわかりました。つまり、ロジウムやアミンを別々に使うのではなく、2つを同時に固定する方法を発見したため成功につながったのです。

そこで、各触媒において、シリカ表面に存在しているロジウムの局所構造を高エネルギー加速器研究機構においてX線吸収微細構造(XAFS)[用語3]測定を行うことで解析しました。図3で示した4種類の触媒のRh K-edge 広域X線吸収微細構造(EXAFS)[用語4]スペクトルを図4に示します。いずれの触媒においても振動パターンがほぼ完全に一致しており、これらの触媒に含まれるRh周辺の局所構造(Rhに最近接している原子の種類・数・距離など)は同一であることが支持されました。スペクトルの詳細な解析によって明らかになった触媒表面の構造を合わせて図4に示します。

アミンの有無およびロジウムとアミンの固定化順序が生成物収率に与える影響。同時にロジウムとアミンを固定化することで高活性が得られる。

図3. アミンの有無およびロジウムとアミンの固定化順序が生成物収率に与える影響。
同時にロジウムとアミンを固定化することで高活性が得られる。

(左)触媒のRh K-edge EXAFSスペクトル(右)XAFS測定等によって明らかになったSiO2/Rh-NEt2触媒の表面構造

図4. (左)触媒のRh K-edge EXAFSスペクトル / (右)XAFS測定等によって明らかになったSiO2/Rh-NEt2触媒の表面構造

以上の結果から、(1)ロジウムとアミンの協奏的触媒作用によるヒドロシリル化反応の促進、および(2)ロジウムとアミンの固定化手法(順序)による両者の位置関係の変化による活性の変化が示唆されます。

背景

有機ケイ素化合物から構成されるシリコーンは、ケイ素由来の無機化合物と有機化合物の両方の性質の良いところを持ち合わせた材料であり、撥水剤・塗料・建材・ゴム等、様々な用途で広く利用されています。構成元素であるケイ素(Si)、酸素(O)、炭素(C)は地球上に大量に存在する元素であり、今後もシリコーン材料の需要は高まると思われます。現代社会にとって重要な役割をもつ材料であり、安定して長期にわたり生産し続けることが強く期待されます。

シリコーンの合成法の一つであるヒドロシリル化反応は、工業的にも貴金属触媒を用いて行われています。触媒量の低減はシリコーンの持続的な供給に必須であるといえます。我々の発見により貴金属触媒の使用量が大きく減るため、シリコーンの安定生産に貢献すると期待されます。まだ十分な活性は得られていませんが、貴金属を汎用金属で代替する研究も進められています。

研究の経緯

我々の研究室では、固体表面に複数の活性点を集積することで、協奏的触媒作用が発現し、一方の活性点のみが存在する場合と比較して触媒反応が促進されることを見出してきました(図5)。今回の研究では、この「活性点集積型触媒」のコンセプトに基づき、ロジウム触媒と有機アミンを固体表面に固定した触媒を開発しました。活性点集積型触媒のコンセプトを活用することで、従来法よりも高活性な触媒を開発することが可能であることがわかりました。

活性点集積型触媒の概念図

図5. 活性点集積型触媒の概念図

今後の展開

本触媒を用いることで、貴金属使用量を大幅に減らした有機ケイ素化合物の合成が可能となります。今後、固体表面での錯体構造に加えて、2つの活性点の配置をチューニングすることによっても、さらなる活性向上が見込まれます。また、ロジウムよりも安価な金属を用いる場合でも、活性点集積のコンセプトに基づいた高活性触媒が設計・開発できると思われます。

本成果は、JSPS(日本学術振興会)の科学研究費補助金 新学術領域研究(3D活性サイト科学・精密制御反応場)の支援によって得られました。

新学術領域研究 3D活性サイト科学

課題名 :
「3D活性サイト制御による高性能ナノ分子触媒の創製」
(研究代表者:首都大学東京 野村琴広教授)
期間 :
平成26年4月~平成31年3月

新学術領域研究 精密制御反応場

課題名 :
「複数活性点をもつ固体表面反応場のsite-isolation概念による設計と構築」
(研究代表者:東京工業大学 本倉健講師)
期間 :
平成28年4月~平成30年3月

用語説明

[用語1] ヒドロシリル化反応 : ケイ素に直接水素が結合した化合物(ヒドロシラン)を他の分子へ付加させる反応。相手分子がオレフィンの場合は、二重結合部にケイ素と水素が付加する。オレフィンに由来する有機分子の機能を備えたケイ素化合物(有機ケイ素化合物)が得られる。

[用語2] 触媒回転数(TON) : 触媒1分子が目的とする反応によって原料を生成物へと変換した回数。ターンオーバーナンバー(turnover number: TON)。生成物からの副反応がない場合、生成物量を触媒量で割ることで算出される。触媒が完全に失活するまでの値を表すこともあり、触媒の活性・安定性の指標として用いられる。

[用語3] X線吸収微細構造(XAFS) : 試料にX線を照射することにより、内殻電子の励起に起因して得られる吸収スペクトル。測定したい原子の局所構造に由来する情報を得ることが出来る。

[用語4] 広域X線吸収微細構造(EXAFS) : XAFSスペクトルのうち、光電子と隣接する原子による散乱波との干渉に起因する振動構造が観測される、吸収端から1000 eV程度までに得られるスペクトル。測定したい原子の周辺に存在する原子の種類・数・距離に関する情報を得ることが出来る。

論文情報

掲載誌 :
ACS Catalysis, 2017, 7, 4637-4641.
論文タイトル :
SiO2-Supported Rh Catalyst for Efficient Hydrosilylation of Olefins Improved by Simultaneously Immobilized Tertiary Amines
著者 :
Ken Motokura, Kyogo Maeda, Wang-Jae Chun
DOI :

物質理工学院

物質理工学院 ―理学系と工学系、2つの分野を包括―
2016年4月に発足した物質理工学院について紹介します。

物質理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系 本倉健 講師

E-mail : motokura.k.ab@m.titech.ac.jp

Tel / Fax : 045-924-5569

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

アーヘン工科大学との共同ワークショップを開催

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3月2日~3日の2日間、本学教職員がドイツのアーヘン工科大学及びユーリッヒ総合研究機構を訪れ、アーヘン工科大学の教員とともに物質科学およびライフサイエンスを主なテーマとしたワークショップを開催しました。

東工大は、「世界のトップ10に入るリサーチユニバーシティ」を目指して、様々な国際化への取り組みを行っており、本ワークショップは、この一環としてアーヘン工科大学との交流を活発化させるために開かれました。

ワークショップ1日目はアーヘン工科大学で行われました。アーヘン工科大学側のリーダーであるヨッケンホーベル教授、同大学オッフェンハウアー教授および東工大物質理工学院の原正彦教授から、本ワークショップの目的と今後の関係強化に向けた挨拶があり、続いて研究者から研究内容の紹介が行われました。東工大からは、物質理工学院の森川淳子教授、生駒俊之准教授のほか、バイオ研究基盤支援総合センターの廣田順二准教授、研究戦略推進センター(現 研究・産学連携本部)の大井満彦特任教授が参加しました。そのほかアーヘン工科大学及びユーリッヒ総合研究機構の関係分野の研究者が集まり、白熱した質疑応答が展開されました。

2日目は会場をユーリッヒ総合研究機構に移し、前日に続く研究紹介のあと、研究室見学が行われました。ユーリッヒ総合研究機構はドイツ最大の研究機関であるヘルムホルツ協会に属する公的研究機関で、多くの教員が大学と兼任し、連携しながら研究が行われています。研究室見学の後には、総括討議として共同研究の具体的なテーマの選択と今後の進め方について活発な意見交換が行われ、今後も議論を深め共同研究を推進していくことで合意しました。

さらなる連携強化と、共同研究の発展が期待されます。

(後列左から2人目と3人目)原教授、オッフェンハウアー教授、(前段左から4人目)ヨッケンホーベル教授

(後列左から2人目と3人目)原教授、オッフェンハウアー教授、(前段左から4人目)ヨッケンホーベル教授

お問い合わせ先

研究・産学連携本部 大井・松尾

E-mail : nmatsuo@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-8734-2479

世界初、光学顕微鏡で三次元分子解像度を実現 ―生命現象の分子レベル画像化に期待―

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要点

  • 一つ一つの生体分子の三次元位置をそのサイズと同等の解像度で観察可能に。
  • 手作り光学顕微鏡だからできた世界最高の解像度。
  • 鮮明な画像の鍵は超流動ヘリウムとその中で使える反射対物レンズ。

概要

東京工業大学 理学院 物理学系の古林琢大学院生、本橋和也氏(元大学院生)、松下道雄准教授、藤芳暁助教らは、可視光のみで1個の分子の三次元位置をオングストローム(1オングストロームは0.1ナノメートル)の精度で決定することに成功した。この精度は現存する最高性能の光学顕微鏡である超解像蛍光顕微鏡(2014年ノーベル化学賞)を1桁しのぎ、分子を見分けられるレベル(分子解像度)に達している。

生命現象は無数の分子が関わっている複雑な系であり、試験管の中では再現できない。このため、生命現象の解明には、生体内部を直接観察することが不可欠である。しかし、人類は400年にわたり多種多様な顕微鏡を開発してきたが、生体内部を分子レベルで観察できるものはなかった。そこで、分子レベルの光イメージングを目標に、2004年から光学顕微鏡の独自開発をはじめ、ごく最近、これに成功した。現在は、生命現象の画像化に向けた研究をおこなっている。

本研究成果は2017年6月23日(米国時間)に米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン速報版で公開された。

研究成果

東京工業大学 理学院 物理学系の古林 琢大学院生、本橋和也氏(元大学院生)らは光学顕微鏡を用いて、一つ一つの分子の三次元位置を分子のサイズと同等の解像度(分子解像度)で決定することに世界ではじめて成功した。高い位置精度を実現するための鍵は、独自開発した超流動ヘリウム中で使える対物レンズである。このレンズを用いることで、極限の光学性能と優れた機械的安定性を持つクライオ蛍光顕微鏡の開発に成功し、本研究成果につなげた。

本研究はJST戦略的創造研究推進事業さきがけ(研究者:東工大 藤芳暁助教)の支援の元に行われ、東京工業大学の松下道雄准教授、若尾圭祐氏(元大学院生)、松田剛大学院生、林宣宏准教授、理研CLSTの喜井勲研究員、東京医科歯科大学の細谷孝充教授、京都大学の石川冬木教授、定家真人助教と共同で行った。

背景

生命現象には無数の分子が関わっており、その生体内部での振る舞いには様々なモデルが提唱されている。しかし、観察に適した顕微鏡が存在しなかったため、モデルを生命現象の解明につなげることは困難な場合が多い。例えば、生体試料を測定できる最も高解像度なクライオ透過電子顕微鏡では、高い解像度を出すためには試料を薄くスライスする必要があり、細胞全体を観察することができない。また、生体試料全体を見渡せる光学顕微鏡では、解像度が最も高い超解像蛍光顕微鏡(2014年ノーベル化学賞)でも分子レベルには1桁足りない。上記の2つの顕微鏡から、生体試料への応用性が高い光学顕微鏡に注目し、その弱点である低い解像度を克服することを目指した。

研究の経緯

光学顕微鏡の解像度の限界を決めるのは、被写体である生体分子の動きである。クライオ透過電子顕微鏡と同様に試料を-271 ℃まで冷却(超流動ヘリウム中)すれば、分子の動きが完全に凍結し、分子レベルの鮮明な画像が観察できるはずである。そこで、我々は極低温用の光学顕微鏡の開発を始めた。しかし、開発は予想以上に難しく、試行錯誤の繰り返しであった。例えば、機械的安定化である。顕微鏡の機械的安定性は、言うまでなく、解像度を基準に設計されている。このため、桁違いに高いオングストローム(1オングストロームは0.1ナノメートル)の解像度を実現するには、その機械的安定性を従来品に比べて桁違いに向上させなければならない。我々は安定化についての研究をおこない、試料と対物レンズを同一の環境に置くことが安定性に最も大切であることをあきらかにした。つまり、試料を-271 ℃に冷却するならば、対物レンズも同じ温度に冷却しなければならない。しかし、-271 ℃で使用できる高性能な対物レンズは存在しなかった。そこで、2004年から10年かけて、極低温下で動作して高性能な対物レンズを独自開発し、目標とするオングストロームの機械的安定性を実現した。このレンズ開発が終盤にさしかかった2014年10月からはJSTさきがけ(統合1細胞解析のための革新的技術基盤、研究総括 浜地格教授)からの様々な支援を受け、研究の速度が上がった。その結果、2016年8月5日、クライオ蛍光顕微鏡を用いて、色素1分子の三次元位置をオングストロームの精度で決定することに成功した。この解像度は既存の光学顕微鏡よりも1桁以上高く、分子を見分けられるレベル(分子解像度)に到達している。

図1は顕微鏡を作っている時の写真、図2は完成した顕微鏡の写真である。ちなみに図2は、通算19作目のクライオ蛍光顕微鏡である。図1で、古林院生が設置しているのが空間フィルターのユニットであり、堅牢なステンレスの箱中に光学系を組むことで、高い機械的安定性が実現している。さらに、図2のように、その他の光学系も同様なユニット化することで、顕微鏡のイメージ安定性を高めている。これらのユニットの設計、開発も独自に行ったものである。

最新の顕微鏡を制作する古林院生(2015年10月8日撮影)

図1. 最新の顕微鏡を制作する古林院生(2015年10月8日撮影)

完成したクライオ蛍光顕微鏡(2016年9月5日撮影)。古林院生、本橋院生が1年かけて顕微鏡を完成させた。通算19作目のクライオ蛍光顕微鏡である。写真は本研究が成功した直後に撮影した。

図2. 完成したクライオ蛍光顕微鏡(2016年9月5日撮影)

古林院生、本橋院生が1年かけて顕微鏡を完成させた。通算19作目のクライオ蛍光顕微鏡である。写真は本研究が成功した直後に撮影した。

開発したクライオ光学顕微鏡のもう一つの特長は、極限の光学性能である。これも上記の対物レンズが鍵となる。図3は開発した反射対物レンズの一部で、左から2代目、3代目、8代目のデザインの対物レンズである。右にいくほど性能が上がっていき、一番右のものは極限の光学性能を持っている。

2004年以来、開発してきた極低温用の反射対物レンズの一部。左から、2代目、3代目、8代目(当代)である。8代目は極限的な性能を持ち、数ケルビンから室温までのあらゆる温度で使用できるという唯一無二の性能を有している。
図3.
2004年以来、開発してきた極低温用の反射対物レンズの一部。左から、2代目、3代目、8代目(当代)である。8代目は極限的な性能を持ち、数ケルビンから室温までのあらゆる温度で使用できるという唯一無二の性能を有している。

今後の展開

生命現象には多くの謎が残されている。これは、生命現象が起こっている現場である細胞内を観察する方法が不足しているからである。本研究成果を元に、東工大物理の学生達と「生命現象の分子レベル画像化」を目指す。

論文情報

掲載誌 :
Journal of the American Chemical Society (Article)
論文タイトル :
"Three-Dimensional Localization of an Individual Fluorescent Molecule with Angstrom Precision"(オングストローム精度で一つ一つの蛍光分子の三次元位置を決定)
著者 :
古林琢、本橋和也、若尾圭祐、松田 剛、喜井勲、細谷孝充、林宣宏、定家真人、石川冬木、松下道雄、藤芳暁
DOI :

理学院

理学院 ―真理を探究し知を想像する―
2016年4月に発足した理学院について紹介します。

理学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

東京工業大学 理学院 物理学系 助教 藤芳暁

E-mail : fujiyoshi@phys.titech.ac.jp

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

スピネル型酸化物材料の原子観察に成功 ―超伝導材料やリチウムイオン電池の高性能化に向けて大きな一歩―

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概要

東北大学 材料科学高等研究所(AIMR)の岡田佳憲助教と一杉太郎連携教授 (東京工業大学 物質理工学院 教授)、東京大学の安藤康伸助教(現 産業技術総合研究所 研究員)、渡邉聡教授らのグループは、超伝導材料や電池材料として知られているスピネル型酸化物LiTi2O4の表面について、その原子配列と電子状態を解明することに成功しました。

LiTi2O4は興味深い物質として知られています。スピネル構造の金属酸化物[用語1]としては唯一の超伝導体で、比較的高い超伝導転移温度を示します(超伝導転移温度 13ケルビン(マイナス260 ℃))。しかし、原子レベルで平坦な試料を作ることが難しく、表面における超伝導状態は、原子スケール分解能では調べられていませんでした。また、この物質は、リチウムイオン電池材料の候補としても知られています。リチウムイオン電池では、充放電の際に、リチウムイオンが電極表面を必ず通過します。したがって、電極表面の原子配列が、電池性能に極めて大きな影響を与えます。しかし、金属酸化物電極表面の原子配列は未解明で、さらなる性能向上に向けて、原子レベルでの理解が必要です。そこで本研究グループは高品質なLiTi2O4薄膜を作製し、走査型トンネル顕微鏡(STM)[用語2]を用いて表面の原子配列を調べ、コンピュータシミュレーション結果と比較しました。その結果、最表面にチタン原子が周期的に並んでいることや、表面の超伝導性が固体内部とは異なっていることを明らかにしました。以上、3つの元素からなるスピネル構造について、原子像観察、構造決定、そして、電子状態評価にはじめて成功しました。このような研究から、超伝導現象の起源や、電解質との界面がどのように形成されているのか理解が深まり、新超伝導体開発やリチウムイオン電池特性向上へつながることが期待されます。

本研究成果は、2017年7月3日(月)18時(日本時間)に、米科学誌「Nature Communications」オンライン版に掲載されました。

研究の背景と経緯

LiTi2O4は非常に興味深い物質です。スピネル構造の金属酸化物としては唯一の超伝導体(超伝導転移温度 13ケルビン(マイナス260 ℃))である上、リチウムイオン電池用材料としても知られています。そして、その「表面」を理解することが極めて重要です。

超伝導の観点では、昨今、極めて薄い、シート状超伝導体の物性に関心が集まっています。したがって、表面電子状態の解明は、新たな機能をもつ表面や界面、あるいは極薄新物質の創出につながります。しかし、表面における超伝導状態を、原子スケール分解能で調べることが困難でした。その理由として、LiTi2O4の大型単結晶作製が難しいことや、劈開(へきかい)[用語3]ができないことが挙げられます。そのため、その表面原子を観察することができませんでした。

さらに、リチウムイオン電池の観点からも表面が重要です。さらなる高性能化を実現するため、リチウムイオンが電極内に出入りする過程を原子レベルで理解することが喫緊の課題です。しかし、電極材料として利用されている金属酸化物については前述のように表面処理が難しく、原子配列や電子状態の議論が困難でした。

そこで、本研究グループではLiTi2O4表面における原子配列の解明に挑み、最表面にはチタン原子が三角格子状に並んでいることを明らかにしました。さらに、電子状態の詳細を明らかにすることに成功しました。

研究の内容

本研究グループは、原子1つ1つが識別可能な走査型トンネル顕微鏡(STM)と、高品質な薄膜作製手法であるパルスレーザー堆積法[用語4]が連結した複合装置を独自に開発してきました(図1)。そして、SrTiO3単結晶基板上にLiTi2O4エピタキシャル薄膜[用語5]を作製し、一度も大気に触れさせずにSTMを用いてその表面を原子スケール空間分解能で観察しました。大気に触れさせないことで、非常にきれいな表面を維持しつつ観察したことがポイントです。その上で、計算機シミュレーション結果と比較しました。

走査型トンネル顕微鏡とパルスレーザー堆積装置を連結した、世界唯一のシステムの全体構成図。

図1. 走査型トンネル顕微鏡とパルスレーザー堆積装置を連結した、世界唯一のシステムの全体構成図。

図2にLiTi2O4薄膜のSTM像を示します。広い範囲を観察すると、非常に平坦な表面、すなわち、テラスが広がっていることがまずわかります(図2a)。そして、ところどころに高さが低く、暗く表示されている部分があります。平坦な部分を拡大してみると、周期的な輝点が明瞭に観察され(図2b)、三角格子状に輝点が並んでいることがわかりました。さらにこの三角格子を拡大すると、輝点は約0.6 nm(ナノメートル)間隔でした(図2c)。

LiTi2O4の走査型トンネル顕微鏡(STM)像。(a)広い範囲での観察像。平坦な表面が観察され、さらに、部分的に暗い箇所が存在する。(b)平坦な箇所を拡大した像。三角格子が観察されていることがわかる。(c)輝点の間隔は0.6 nm程度である。すべてのSTM像は4ケルビンで観察した。また、図中の白線の長さは、(a)2 nm、(b) 0.8 nm、(c)0.3 nmを示す。

図2.
LiTi2O4の走査型トンネル顕微鏡(STM)像。(a)広い範囲での観察像。平坦な表面が観察され、さらに、部分的に暗い箇所が存在する。(b)平坦な箇所を拡大した像。三角格子が観察されていることがわかる。(c)輝点の間隔は0.6 nm程度である。すべてのSTM像は4ケルビンで観察した。また、図中の白線の長さは、(a)2 nm、(b) 0.8 nm、(c)0.3 nmを示す。

考えられる結晶構造モデルについて第一原理計算を行い、STM像のシミュレーション結果と実験結果を比較検討しました。その結果、チタンで覆われている場合には、計算結果と実験結果が一致しました。一方、表面が酸素で覆われている場合、実験結果が再現できないことがわかりました。このことより、図2で観察された輝点は、チタン原子であることがわかりました(図3)。このような3つの元素からなるスピネル構造については、はじめての原子像観察と構造決定となります。また、表面上の暗い部分はリチウムが欠損していると考えられます。

(a)実験と計算から明らかになった表面原子配列の断面図。青、緑、赤の球は、それぞれ、チタン、リチウム、酸素原子を示す。薄青と薄緑の面は、TiO6八面体とLiO4四面体の面を示す。(b)走査型トンネル顕微鏡(STM)像のシミュレーション結果。図2(c)のような像が再現できていることがわかる。

図3.
(a)実験と計算から明らかになった表面原子配列の断面図。青、緑、赤の球は、それぞれ、チタン、リチウム、酸素原子を示す。薄青と薄緑の面は、TiO6八面体とLiO4四面体の面を示す。(b)走査型トンネル顕微鏡(STM)像のシミュレーション結果。図2(c)のような像が再現できていることがわかる。

さらに、本研究により、超伝導状態の電子状態も明らかになりました。精密な電子状態評価から超伝導ギャップやコヒーレンス長などの物性値が、表面では内部と異なることが見出されました。具体的には、表面における超伝導ギャップが予想より小さく、さらに、コヒーレンス長が予想よりも長いという実験結果が得られました。

今後の展開

以上より、LiTi2O4について、表面の原子配列、および、電子状態が明らかになりました。この系ではチタンの電子同士の強い相互作用が考えられ、今後ナノスケールで起きる物理についても調べていく予定です。そして近年、極薄の超伝導体に関する物性に関心が集まっており、このような表面電子状態の解明は、新たな機能をもつ表面や界面の創出につながります。

さらに、電極表面における原子配列構造の理解は、リチウムイオン電池研究をさらに活発化させると考えられます。たとえば、従来は、現実に存在するのかわからない表面構造をもとに計算機シミュレーションをしなければなりませんでした。しかし、今回の結果から「実在する表面構造」が明らかになったため、それを土台にして、より精緻なシミュレーションが可能になります。今後は、リチウムイオンがこの表面上でどのように拡散し、どの場所から電極内に入っていくのかというプロセスについて解明し、精緻な材料設計技術の発展が期待されます。

付記事項

本研究成果は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)「新物質科学と元素戦略」(研究総括:細野秀雄)研究課題名「酸化物エレクトロニクスのパラダイムシフトを目指したアトムエンジニアリング」(平成22年~25年度、研究者:一杉太郎)、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST)「超空間制御に基づく高度な特性を有する革新的機能素材等の創製」(研究総括:瀬戸山亨)研究課題名「界面超空間制御による超高効率電子デバイスの創製」(平成27年~32年度、研究者:一杉太郎)の支援を受けて、また一部は科学研究費補助金・基盤研究(A)「LaAlO3/SrTiO3ヘテロ構造の原子スケール電子状態(26246022)」、科学研究費補助金・新学術領域研究(研究領域提案型) 公募研究(26108702、26106502)、科学研究費補助金・若手(A)「鏡面対称性と強い電子相関がもたらす新奇なトポロジカル量子現象の分光イメージング(25886004)」、科学研究費補助金・挑戦的萌芽研究「原子分解能で見る酸化物薄膜のバックゲート誘起による強相関・トポロジカル量子相転移(26610093)」、科学研究費補助金・基盤研究(B)「界面原子・分子層における局所電界効果の理論計算(15H03561)」の支援を受けて行われました。

用語説明

[用語1] 金属酸化物 : 金属原子と酸素原子が結合して得られる化合物です。構成元素と構造が多様であることから、幅広い物性を示し、様々な応用先があることが魅力です。そのうちの一つとしてLiイオン電池の電極材料が挙げられます。また、次世代の電子素子への応用も期待されています。

[用語2] 走査型トンネル顕微鏡(STM) : 原子レベルで鋭い針を試料表面に数ナノメートルの距離まで近づけ、針と試料間に電圧をかけると、量子力学的なトンネル電流が生じます。このトンネル電流を一定に保つように針の高さを制御して、試料表面上で針を動かすことによって原子像を得る装置が走査型トンネル顕微鏡です。トンネル電流は試料の電子状態に依存するので、表面構造だけでなく電子状態も原子レベルの空間分解能で調べることができます。

[用語3] 劈開(へきかい) : 物質がある一定の方向に容易に割れて、平滑な表面ができることをいいます。

[用語4] パルスレーザー堆積法 : 集光した紫外レーザー光を原料ターゲットに照射し、蒸発して飛び出した原子や分子種を基板上に薄膜として蒸着する方法です。高品質な酸化物薄膜作製が可能であるという利点があります。また、1原子層ずつ堆積していくため、望みの原子を望みの順序で積み上げ、新しい物質を合成することが可能です。

[用語5] エピタキシャル薄膜 : ある結晶の上に、それとは異なる結晶を一定の結晶方位関係をもって成長することを指します。両者の結晶構造や格子定数をうまく組み合わせることによって、良質なエピタキシャル薄膜の成長が実現します。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Scanning tunnelling spectroscopy of superconductivity on surfaces of LiTi2O4(111) thin films
著者 :
Yoshinori Okada, Yasunobu Ando, Ryota Shimizu, Emi Minamitani, Susumu Shiraki, Satoshi Watanabe, and Taro Hitosugi
DOI :

物質理工学院

物質理工学院 ―理学系と工学系、2つの分野を包括―
2016年4月に発足した物質理工学院について紹介します。

物質理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

(研究内容に関すること)

東北大学 材料科学高等研究所(AIMR) 連携教授

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系
一杉太郎 教授

E-mail : hitosugi.t.aa@m.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2636

東京大学 大学院工学系研究科 渡邉聡 教授

E-mail : watanabe@cello.t.u-tokyo.ac.jp

Tel : 03-5841-7135

取材申し込み先

東北大学 材料科学高等研究所(AIMR)
広報・アウトリーチオフィス 清水修

E-mail : aimr-outreach@grp.tohoku.ac.jp

Tel : 022-217-6146

東京大学 大学院工学系研究科 広報室

E-mail : kouhou@pr.t.u-tokyo.ac.jp

Tel : 03-5841-1790 / Fax : 03-5841-0529

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

超高圧下で安定な新しい水酸化鉄の発見

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超高圧下で安定な新しい水酸化鉄の発見
―地球深部の水の循環モデルに関する論文がNatureに掲載―

研究の背景

地球表層の7割は海に覆われていますが、地球内部に貯蔵できる水の質量は海水の数倍とも見積もられています。そのため、水は地球の表層だけでなく地球の内部でも重要な成分の1つであり、地球の進化に多大な影響を及ぼしていると考えられています。しかしながら、地球内部における具体的な水の存在量とその循環はいまだ謎が多く、さまざまな研究が進められています。

地球表層に存在する水は岩石と反応して含水鉱物[用語1]を作ります。この含水鉱物はプレートの沈み込みにより、水を地球深部のマントル[用語2](深さ30-2,900キロメートル)へと運ぶことが知られています。ただし、マントルは高温高圧の環境なので、沈み込みに伴う温度や圧力の上昇によって、ある深さで含水鉱物が分解・脱水します。もし含水鉱物が分解せずに安定して存在できる温度と圧力条件が分かれば、水が地球深部のどの深さまで運ばれるかを理解することができます。

本研究グループは、マントルの主要元素[用語3]であるマグネシウムとシリコン(ケイ素)を多く含み、下部マントルで安定な含水鉱物 「H相[用語4]」を理論予測と超高圧実験により発見し、2014年にNature Geoscience誌に発表しました。H相の合成は、その後国内外複数の研究グループにより再現・確認され、マグネシウムやシリコンがその他のマントルの主要元素であるアルミニウムや鉄と置き換わることも知られてきました。アルミニウムを含むH相はマントル深部の圧力下でも分解しないため、核とマントルの境界(深さ2,900キロメートル)での上昇流(プルーム[用語5])の発生や地震波超低速度層[用語6]の起源、また核の溶融鉄への水の溶け込みなど、様々な影響を及ぼす可能性が議論されています。

一方で、2016年のNature誌で発表された研究結果では、鉄を多く含む含水鉱物(化学式FeOOH、以下水酸化鉄)はマントル深部条件下で水素と酸化鉄に分解すると報告しています。沈み込むプレートを構成する岩体が鉄をどの程度含むかは場所や時代により異なりますが、この先行研究によると、特に鉄を多く含む縞状鉄鉱層[用語7]はマントル深部に水を運ぶことができないということになります。さらに、この水酸化鉄の分解は、地球全体の酸素濃度にも関わり、それが過去の地球表層環境に影響したとも考えられています。

以上の背景や先行研究を踏まえ、本研究では理論計算と先端技術を用いた実験により、水酸化鉄の超高圧下での安定性の再検討を試みました。

研究手法と成果

愛媛大学 地球深部ダイナミクス研究センター(GRC)の西真之助教、桑山靖弘助教(現 東京大学 大学院理学系研究科)、土屋旬准教授、土屋卓久教授の研究グループ(西、土屋旬、土屋卓久は東京工業大学 地球生命研究所(ELSI)兼務)は、第一原理計算[用語8]に基づく数値シミュレーションとレーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセル[用語9]を用いた実験により、水酸化鉄の高温高圧下でのふるまいを調べました。

スーパーコンピュータ「京」[用語10]や愛媛大学設置の並列計算機を用いて得られた数値シミュレーションの結果は、地下1,900キロメートル付近に対応する80万気圧において、水酸化鉄がパイライト[用語11]型と呼ばれる構造に変化することを示唆しました。この結果は、水酸化鉄はマントル深部で水素と酸化鉄に分解するという過去の研究結果と異なります。この結果を受けて、本研究グループはダイヤモンドアンビルセルによる高圧発生技術と、大型放射光施設SPring-8[用語12]の高圧構造物性ビームラインBL10XUに設置されたレーザー加熱システムと放射光X線を使用し、約150万気圧までの条件で水酸化鉄の結晶構造を調べました。実験結果は、理論予測されたものと同様、80万気圧程度で水酸化鉄の構造がパイライト型へと変化することを示しました。さらに様々な温度圧力条件下で測定した試料の体積は、パイライト型構造中の水素の含有を強く示唆しました。このように、水酸化鉄が水素を維持しつつパイライト型構造へ変化するという第一原理計算による理論的予想が、複数の証拠を含めた高度な実験により証明されました。

本研究結果は、水酸化鉄が地球マントル深部環境で水素と酸化鉄に分解するという従来の学説を覆す発見であり、いまだに解明されていない地球深部における水の循環を明らかにするための新たな知見となると期待されます。本研究結果によると、水は地表からマントルと地球中心核の境界付近の2,900キロメートル程度の深さまで運ばれる可能性があります。水の存在は岩石の溶ける温度を下げるため、マントル最下部でのマグマの発生を引き起こし、マントル最下部で観測される地震波超低速度層やこの付近に起源をもつマントル上昇流(プルーム)などの原因になっている可能性があります。また、地球中心核の主要物質である溶融鉄への水の溶け込みなど、地球深部の物質や運動の解明において重要な影響を及ぼすものと考えられます。

今後の展望

今回の研究では、水酸化鉄の構造がマントル深部領域でパイライト型構造に変化し、水が地球中心核とマントルの境界まで運ばれる可能性を示しました。今後更に研究を進めることで、水酸化鉄と周囲のマントル・地球中心核の物質との反応現象を理解することができるかもしれません。これらの結果で得られる情報は、地球内部の水の存在量とその循環を知る上での新たな知見となります。

本研究グループによる理論計算では、アルミニウムを多く含む含水鉱物も、地球マントル条件より高い圧力下でパイライト型へと結晶構造が変化することを予測しています。今後の実験技術の進展により、このような極限環境下で安定な含水鉱物の存在が実証されると、天王星・海王星のような氷惑星や、近年の観測技術の発展により次々と報告されている太陽系外惑星の内部における水の存在形態の研究は飛躍的に進展すると期待されます。

成果のポイント

  • マントル深部(深さ1,900 km以深)の超高圧環境(80万気圧)で安定な水酸化鉄の発見
  • 水酸化鉄は下部マントル深部の圧力下において脱水分解するという従来の学説を覆す発見
  • 超低速度層、プルームの発生、核への水の溶け込みなど、マントルと核の境界付近における様々な現象に影響
  • 第一原理計算による理論的予想が、実験によって実証的に確定された貴重な科学的成果
  • 超高圧技術と放射光実験を組み合わせた、高精度な実験

関連分野の研究者

東京大学 大学院理学系研究科 附属地殻化学実験施設

名誉教授 八木健彦

E-mail : yagi@eqchem.s.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-4624

東京大学 大学院理学系研究科 物理学専攻/物理学科

教授 常行真司

E-mail : stsune@phys.s.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-4127

備考

なお、本研究は、文部科学省科学研究費補助金(課題番号: JP15H05469, JP15H05829, JP15H05834, JP16H06285, JP25220712, JP26287137, JP26400516, JP26800274)、SPring-8一般研究課題(課題番号: 2014B1364, 2016A1476)、文部科学省ポスト「京」萌芽的課題「基礎科学の挑戦-複合・マルチスケール問題を通した極限の探求」(課題番号: hp160251, hp170220)の一環として実施したものです。

用語説明

[用語1] 含水鉱物 : 蛇紋石や水酸化物等、水素を主成分の一つとして含む鉱物。特に地球内部の高圧下で安定なH相やδ-AlOOHは、プレートの沈み込みにより水を地球マントル深部にもたらすと考えられている。

[用語2] マントルと核 : 地球は薄い地殻(深さ約30キロメートルまで)、マントル(深さ30-2,900キロメートル)、核 (2,900-6,400キロメートル)の3層からできている。マントルはかんらん岩などの岩石が主な成分であるのに対し、核は主に鉄からできている。

[用語3] マントルの主要元素 : マントルは酸素、シリコン、マグネシウム、アルミニウム、鉄、カルシウムがその成分の大半を占める。

[用語4] H相 : 含水鉱物の一つで、下部マントル深部において存在可能な唯一の含水ケイ酸塩鉱物と考えられている。本GRC研究グループにより、2013年にその存在の理論的予測、2014年に超高圧実験による最初の合成が報告された。

[用語5] プルーム : 沈み込む冷たいプレートやマントル物質に対して、マントル深部から上昇してくる高温の上昇流。アフリカや太平洋下部においては、深さ2,900キロメートルの核-マントル境界から上昇する巨大なスーパープルームの存在も地震学的に明らかになっている。発生部分では部分的に岩石が融けている可能性もある。水の存在は岩石の溶ける温度を下げるため、プルームの発生において重要な要因となる。

[用語6] 地震波超低速度層 : マントル最下部と核との境界付近に見られる、地震波の伝わる速さが非常に遅い領域。岩石であるマントルと溶けた鉄との化学反応や、マントル物質の部分的溶融などの原因が考えられている。水の存在は岩石の溶ける温度を下げるため、このような低速度層を形成する上で重要な要因となる。

[用語7] 縞状鉄鉱層 : 先カンブリア紀(地球誕生から約6億年前までの期間)の海底に堆積した酸化鉄や水酸化鉄を含む堆積鉱床。鉱床の生成原因は、当時の無酸素状態の海水に大量に溶解していた鉄イオンが、なんらかの要因で生じた酸素分子によって酸化されて海底に沈殿したものと考えられている。プレートの運動により、その一部はマントル深部へと沈み込んだと考えられている。

[用語8] 第一原理計算 : 近代物理学の基礎である量子力学の基本原理に基づき、実験などにより得られる先験的なパラメーターを用いずに結晶構造の安定性や物性を予測する計算方法。最近の数値シミュレーション技術の進歩により高い精度での予測が可能になり、実験と相補的な役割を担っている。

[用語9] ダイヤモンドアンビルセル : 先端を平らに研磨した2個の単結晶ダイヤモンド製のアンビルに力を加え、その間に挟んだ試料に高い圧力を発生させる装置。地球の中心に相当する360万気圧と6,000 ℃の圧力・温度の発生が可能である(図1)。

ダイヤモンドアンビルセル高圧発生装置の加圧部

図1. ダイヤモンドアンビルセル高圧発生装置の加圧部
先端を平らに研磨した2個ダイヤモンドに試料を挟み、高い圧力を発生させる。

[用語10] スーパーコンピュータ「京」 : 文部科学省が推進する「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築」プログラムの中核システムとして、理化学研究所と富士通株式会社が共同で開発を行い、2012年9月に共用を開始した計算速度10ペタFLOPS級のスーパーコンピュータ。

[用語11] パイライト : 黄鉄鉱。鉄と硫黄からなり、化学組成はFeS2で表される。今回発見された新しい水酸化鉄はパイライトと結晶構造が同型であり、硫黄が酸素と置き換わり、かつ水素を含むものである。

[用語12] 大型放射光施設SPring-8 : 兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、高輝度光科学研究センターが運転と利用者支援等を行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来。電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波(放射光)を用いて幅広い研究が行われている。

参考

新しいパイライト型水酸化鉄(FeOOH)の結晶構造

図2. 新しいパイライト型水酸化鉄(FeOOH)の結晶構造
大(八面体中心の茶)、中(赤)、小(ピンク)の球はそれぞれ鉄原子、酸素原子、水素原子。

パイライト型水酸化鉄が出現する温度圧力条件

図3. パイライト型水酸化鉄が出現する温度圧力条件
地下約1,900キロメートルに相当する80万気圧で
水酸化鉄の結晶構造が青領域の低圧型から赤領域のパイライト型へと変化する。

地球内部構造と今回の研究から示唆される地球深部への水の輸送

図4. 地球内部構造と今回の研究から示唆される地球深部への水の輸送
下部マントルに沈み込んだプレート内では、水酸化鉄の構造がパイライト型に変化し、
さらに中心核付近まで水を運ぶことが可能であると考えられる。

論文情報

掲載誌 :
Nature
論文タイトル :
The pyrite-type high-pressure form of FeOOH
著者 :
西真之、桑山靖弘、土屋旬、土屋卓久
DOI :

お問い合わせ先

研究に関して

助教 西真之

E-mail : nishi@sci.ehime-u.ac.jp
Tel : 089-927-8153, 090-9579-5653

准教授 土屋旬

E-mail : tsuchiya.jun.my@ehime-u.ac.jp
Tel : 089-927-8152

教授 土屋卓久

E-mail : tsuchiya.taku.mg@ehime-u.ac.jp
Tel : 089-927-8198

助教 桑山靖弘(現 東京大学 大学院理学系研究科)

E-mail : kuwayama@eps.s.u-tokyo.ac.jp

愛媛大学 総務部 広報課

E-mail : koho@stu.ehime-u.ac.jp
Tel : 089-927-9022

愛媛大学 地球深部ダイナミクス研究センター(GRC)

E-mail : grc@stu.ehime-u.ac.jp
Tel : 089-927-8165 / Fax : 089-927-8165

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

国立大学法人 東京大学 大学院理学系研究科・理学部

特任専門職員 武田加奈子、学術支援職員 谷合純子、教授・広報室長 大越慎一

E-mail : kouhou@adm.s.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-0654

ELSIに関して

東京工業大学 地球生命研究所 広報担当

E-mail : pr@elsi.jp
Tel : 03-5734-3163

SPring-8/SACLAに関して

公益財団法人 高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及情報課

E-mail : kouhou@spring8.or.jp

スーパーコンピュータ「京」に関して

理化学研究所 計算科学研究推進室(広報グループ)

E-mail : aics-koho@riken.jp

複雑なピーナッツ型分子の作製に初成功

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複雑なピーナッツ型分子の作製に初成功
―2種類の化学結合を活用してコアシェル構造を簡便合成―

要点

  • W型有機分子と金属イオンから、3ナノメートルのピーナッツ型分子を作製
  • 2種類の化学結合を利用した、複雑なコアシェル構造の簡便合成法を開発

概要

本学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の吉沢道人准教授と山梨大学 工学部の矢崎晃平特任助教らは、ピーナッツの種と殻が作る複雑な立体構造である「コアシェル構造」を再現するため、新たに合成した有機分子と金属イオンを集合させる方法で、ナノメートルサイズのピーナッツ型分子の合成に初めて成功した。複雑なナノ構造体を簡便かつ精密に作製する新手法として、今後の研究展開が期待される。

植物は、花や果実、種子などの複雑な立体構造をいとも簡単に作り出している。例えばピーナッツは、ダンベル型の殻(から)の内部に2つの種(たね)を含むユニークな階層構造を持つ。しかし、自然界に存在するこのような複雑なかたちを人工的に化学合成した例はない。本研究では、新たな合成戦略によるピーナッツ型分子の作製に挑戦した。まず、3つの金属結合部位を有する“W”字の形をした有機分子を新規に合成した。このW型分子と金属イオンは溶液の中で、「配位結合」を駆動力として自発的に集合し、分子ダブルカプセルを定量的に形成した。このダブルカプセルは、2つのナノ空間(約1ナノメートル)を持つ。次に、この溶液にフラーレンC60を添加することで、「π-スタッキング相互作用」を駆動力として、中央の金属イオンの脱離を伴い、2つのフラーレンを内包したピーナッツ型構造体が定量的に生成した。また、他のフラーレン誘導体を用いた場合もピーナッツ型分子が得られた。すなわち、性質の異なる2種類の化学結合を組み合わせることで、複雑な植物構造体を模倣合成する新手法を開発した。

これらの成果は、インド工科大学マドラス校のDillip K. Chand教授、株式会社リガクとの共同研究によるもので、英国科学誌Nature Publishing Groupの「Nature Communications」のオンライン版に、2017年6月28日付けで掲載された。

研究の背景とねらい

近年、動物の「うごき」を模倣した分子(=分子機械:2016年ノーベル化学賞 ジャン・ピエール・ソバージュ教授ら)や植物の「かたち」を模倣した分子の効率的な合成方法の開発が注目されている。しかし、植物に関しては、既存の有機化学または無機化学の手法では、花や果実、種子などに見られる複雑な立体構造を再現することは不可能とされてきた。これらの魅力的な「かたち」の中でも、ピーナッツ(図1左)は、ダンベル型の殻(から)に2つの種(たね)を内包したユニークなコアシェル構造からなる。このような特殊な階層構造を、ナノメートルサイズで化学合成した例はこれまでにない。今回、性質の異なる2種類の化学結合(配位結合[用語1]π-スタッキング相互作用[用語2])を同時に利用することで、ピーナッツ型構造体(図1右)を作製することに初めて成功した。

ピーナッツの種と殻とピーナッツ型分子の設計図

図1. ピーナッツの種と殻とピーナッツ型分子の設計図

研究内容

分子ダブルカプセルの合成:まず、パネル状の多環芳香族骨格[用語3]を有するブロモアントラセンを出発原料にして、根岸カップリング反応と鈴木-宮浦カップリング反応[用語4]を含む6段階の反応で、3つの金属結合部位(ピリジル基)を有するW型の有機分子を新規に合成した(図2上)。このW型分子は、多環芳香族骨格による立体障害で、10種類の構造異性体[用語5]を持つ(図2下)。

W型有機分子とその10種類の構造異性体(Rはメチル基に置換)

図2. W型有機分子とその10種類の構造異性体(Rはメチル基に置換)

次に、W型分子の異性体混合物と金属イオン(Pdイオン)を4:3の比率で有機溶媒(DMSO)に加え、その混合溶液を加熱攪拌した。その結果、金属イオンの配位結合を駆動力としてW型分子は1つの立体構造に収束し、分子ダブルカプセル1が定量的に生成した(図3上)。この三次元構造は、核磁気共鳴分光法、質量分析およびX線結晶構造解析により決定した。結晶構造解析の結果、ダブルカプセル1は、合計8つのアントラセン環に囲まれた約1ナノメートルの孤立空間を2つ有するダンベル型構造であることが明らかになった(図3下)。

分子ダブルカプセル1とそのX線結晶構造解析(正面および側面;Rは省略)

図3. 分子ダブルカプセル1とそのX線結晶構造解析(正面および側面;Rは省略)

分子ピーナッツの合成:分子ダブルカプセル1に球状のフラーレンを混合することで、ピーナッツ型構造体の作製に成功した。ダブルカプセル1のDMSO溶液にフラーレン C60の固体を加えて、加熱攪拌した。その結果、1の中央の金属イオンが脱離し、アントラセン環とC60のπ-スタッキング相互作用により、2分子のC60が内包されたピーナツ型分子2が定量的に形成した(図4上;合成ルート1)。質量分析から、生成物の分子量は約8,000 Daで、8成分から成る分子集合体の一義的な生成が明らかになった。その構造の理論計算から、多環芳香族骨格からなるダンベル型の殻内に2つのC60が近接したコアシェル構造であることが判明した(図4下)。外殻の横幅と縦幅はそれぞれ、約3ナノメートルと2ナノメートルであった。

分子ピーナッツ2の合成(ルート1および2)とその計算構造

図4. 分子ピーナッツ2の合成(ルート1および2)とその計算構造

このピーナッツ型分子は、分子ダブルカプセルを経由せず、W型分子と金属イオンとC60の混合溶液からも、1段階の反応で合成できた(図4上;合成ルート2)。この場合、配位結合とπ-スタッキング相互作用が同時に作用することで、選択的に分子ピーナッツが形成した。

種の違う分子ピーナッツ:ピーナッツ型構造体は、球状のフラーレン C60だけでなく、サイズが若干大きく、ラグビーボール状のフラーレン C70や金属を内包したフラーレン Sc3N@C80を用いても、同様に合成することに成功した。内部のフラーレンに起因して、分子ピーナッツは赤褐色を示した。得られたコアシェル構造体は、室温(高温でも)、空気中で安定なため取り扱いが容易であった。

今後の研究展開

本研究では、性質の異なる2種類の化学結合を活用することで、ピーナッツの複雑な階層構造をナノメートルサイズで合成することに初めて成功した。今後は、多種類の化学結合をさらに巧みに使い分けることで、自然界のより複雑な「かたち」を分子レベルで自由自在に合成できる手法の開発を目指す。

用語説明

[用語1] 配位結合 : 金属イオンと孤立電子を持つ有機分子の間に働く化学結合。水素結合のような可逆性のある結合。

[用語2] π-スタッキング相互作用 : 2つ以上の多環芳香族骨格の面間に働く化学結合。可逆性のある結合。

[用語3] 多環芳香族骨格 : 複数のベンゼン環が縮環した平面状構造。アントラセンは、長方形の多環芳香族骨格を持つ有機分子。

[用語4] 根岸および鈴木カップリング反応 : 2010年にノーベル化学賞を受賞した根岸英一先生および鈴木章先生らによって開発されたパラジウム触媒を利用した有機合成反応。炭素と炭素を連結する方法。

[用語5] 構造異性体 : 分子の構成成分は同じで、結合の位置や結合の方向が異なる構造体。今回のW型分子では、位置は同じで、方向が異なる。この異性体は高温条件(加熱)で平衡状態になる。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications (英国科学誌; Nature Publishing Group)
論文タイトル :
Polyaromatic Molecular Peanuts
(多環芳香族骨格からなる分子ピーナッツ)
著者 :
Kohei Yazaki, Munetaka Akita, Soumyakanta Prusty, Dillip Kumar Chand, Takashi Kikuchi, Hiroyasu Sato, and Michito Yoshizawa*
(矢崎晃平・穐田宗隆・サムヤカンタ プラティ・ディリップ クマール チャンド・菊池貴・佐藤寛泰・吉沢道人
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院
化学生命科学研究所
吉沢道人 准教授

E-mail : yoshizawa.m.ac@m.titech.ac.jp

Tel : 045-924-5284 / Fax : 045-924-5230

山梨大学 工学部 応用化学科(大学院総合研究部)
矢崎晃平 特任助教

E-mail : kyazaki@yamanashi.ac.jp

Tel : 055-220-8144

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

本学理事・副学長等6名が電子情報通信学会の2016年度名誉員等を受賞

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このたび、本学理事・副学長を含む6名が、電子情報通信学会による2016年度名誉員等の各賞を受賞しました。また、6月1日に電子情報通信学会の各賞表彰式が行われました。

受賞した賞の概要、および本学に関係している受賞者は以下のとおりです。

名誉員

名誉員とは、学問・技術または関連事業に関して特別の功績があり、理事会の議決を経て推薦された方々です。

歴代名誉員には、1973年ノーベル物理学賞を受賞された江崎玲於奈氏、2002年ノーベル化学賞を受賞された株式会社島津製作所 記念質量分析研究所の田中耕一所長、2014年ノーベル物理学賞を受賞された名城大学 赤崎勇終身教授、名古屋大学 天野浩教授、カリフォルニア大学サンタバーバラ校 中村修二教授を始め、平成27年度文化勲章を受章した末松安晴 本学栄誉教授(元学長)などの本学関係者も多く名を連ねています。

  • 受賞者:
    • 秋葉重幸:「以心電心」ハピネス共創研究推進機構 特任専門員
    • 安藤真:理事・副学長(研究担当)、電子情報通信学会来年度会長に就任予定
    • 坂庭好一:名誉教授
  • 秋葉重幸 「以心電心」ハピネス共創研究推進機構 特任専門員)
    秋葉重幸
    「以心電心」ハピネス共創研究推進機構
    特任専門員
  • 安藤真理事・副学長(研究担当)
    安藤真理事・副学長(研究担当)
  • 坂庭好一名誉教授
    坂庭好一名誉教授

推薦理由については、電子情報通信学会ウェブサイト 新名誉員、2016年度各賞受賞者ページouterの名誉員欄にある「Click」からご覧ください。

功績賞

功績賞とは、電子工学及び情報通信に関する学術又は関連事業に対し特別の功労があり、その功績が顕著であるものに対し、授与される賞です。

  • 受賞者:
    • 荒木純道:工学院研究員・名誉教授

荒木純道学院研究員・名誉教授

荒木純道学院研究員・名誉教授

推薦理由については、電子情報通信学会ウェブサイト 新名誉員、2016年度各賞受賞者ページouterの功績賞欄にある「Click」からご覧ください。

業績賞

業績賞は、電子工学及び情報通信に関する新しい発明、理論、実験、手法などの基礎的研究で、その成果の学問分野への貢献が明確であるもの、もしくは、電子工学及び情報通信に関する新しい機器、または方式の開発、改良、国際標準化で、その効果が顕著であり、近年その業績が明確になったものに対し、授与されます。

  • 受賞者:
    • 清水康敬:名誉教授

清水康敬名誉教授

清水康敬名誉教授

推薦理由については、電子情報通信学会ウェブサイト 新名誉員、2016年度各賞受賞者ページouterの業績賞欄にある「Click」からご覧ください。

論文賞

論文賞は、2015年10月から2016年9月までに電子情報通信学会和文論文誌・英文論文誌に発表された論文の中から選定されるものです。

  • 受賞者:
    • 荒木純道:工学院研究員・名誉教授、他5名と共同受賞
  • 受賞功績:非対称縦積み線路を用いた準ミリ波帯バランスミキサ

荒木純道工学院研究員・名誉教授

荒木純道工学院研究員・名誉教授

推薦理由については、電子情報通信学会ウェブサイト 新名誉員、2016年度各賞受賞者ページouterの論文賞欄にある「Click」からご覧ください。

教育優秀賞

教育優秀賞は、電子情報通信に係わる産業の高度化とグローバル化に向けて、新時代に対応する電子情報通信分野の人材育成を促進した業績に対し、与えられます。

  • 受賞者:
    • 西原明法:工学院特任教授・名誉教授
  • 受賞功績:信号処理分野の国際的人材育成への貢献

西原明法工学院特任教授・名誉教授

西原明法工学院特任教授・名誉教授

推薦理由については、電子情報通信学会ウェブサイト 新名誉員、2016年度各賞受賞者ページouterの教育優秀賞欄にある「Click」からご覧ください。

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : pr@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2976

7月10日 12:00 リンク先と関連する文言を修正しました。

振動発電の高効率化に新展開:強誘電体材料のナノサイズ化による新たな特性制御手法を発見

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名古屋大学 大学院工学研究科(研究科長:新美智秀)兼 科学技術振興機構さきがけ研究者の山田智明(やまだ ともあき)准教授らの研究グループは、物質・材料研究機構 技術開発・共用部門の坂田修身(さかた おさみ)ステーション長、東京工業大学 物質理工学院の舟窪浩(ふなくぼ ひろし)教授、愛知工業大学 工学部の生津資大(なまづ たかひろ)教授、静岡大学 電子工学研究所の脇谷尚樹(わきや なおき)教授、スイス連邦工科大学 ローザンヌ校 材料研究所のNava Setter(ナバ・セッター)名誉教授らの研究グループと共同で、振動発電の効率向上につながる強誘電体[用語1]材料の新たな特性制御手法を発見しました。

代表的な強誘電体であるチタン酸ジルコン酸鉛の膜を、イオンビームで細い棒(ナノロッド)状に切り出すと、そのサイズによって強誘電体の特性を支配する分極の向きの割合(ドメイン構造)が大きく変化することが明らかになりました。この結果は、強誘電体の表面における分極の電荷遮蔽の影響で説明できますが、これは上記のナノロッドが同じサイズであっても、その側面を金属で被覆すると、ドメイン構造が変化することにより証明されました。

本研究成果は、従来から行われてきた材料組成や歪みの制御といったアプローチではなく、材料の形状やサイズ、さらには周りの環境により、電荷遮蔽を制御することで、強誘電体の特性向上が実現する可能性を示しています。この新しいアプローチを応用することで、環境中の振動を電気エネルギーとして取り出す発電素子(エナジーハーベスタ)の効率向上による小型化が期待でき、Internet of Things(IoT)[用語2]で期待される振動センサや圧力センサの自立的な電源として利用できる可能性があります。

この研究成果はネイチャー・パブリッシング・グループの学術誌「サイエンティフィックレポート(Scientific Reports)」オンライン版に7月12日付(日本時間18:00)で公開されました。

ポイント

  • 強誘電体の諸特性を支配する分極の向きの割合(ドメイン構造)が、材料の形状やサイズ、さらには周りの環境で変化することを初めて系統的に明らかにした。
  • 上記のドメイン構造が変化する原因が、分極の電荷遮蔽の影響であることを突き止めた。
  • 本アプローチを応用することで、環境中の振動を電気エネルギーとして取り出す発電素子(エナジーハーベスタ)の飛躍的な効率向上につながる可能性がある。

研究背景と内容

現在、自然界にある未使用のエネルギーを電気エネルギーに変換する技術が盛んに研究されています。強誘電体には、優れた機械エネルギーと電気エネルギーの相互変換機能(圧電性)を示す材料があり、これを使用して、環境中の振動を電気エネルギーとして取り出す発電素子(エナジーハーベスタ)の開発が行われています。

圧電性を始めとする強誘電体の諸特性は、その分極の向きの割合(ドメイン構造)に大きく左右されることが知られています。これまで、材料の組成や歪みを制御することでドメイン構造を操作し、これにより特性を向上させようという試みが広く行われてきました。一方で、材料の表面や界面における分極電荷の遮蔽状態もドメイン構造に影響を及ぼすことが知られていましたが、系統的な研究例は少なく、これによるドメイン構造の操作指針は明らかにされていませんでした。

そこで、名古屋大学を中心とする研究グループでは、強誘電体材料をナノサイズ化すると電荷遮蔽の影響が大きくなることに着目し、特にその中でも異方性が大きな棒状の“ナノロッド”を対象に研究を行いました。

ナノロッドの作製とドメイン構造の解析

サイズが正確に制御されたナノロッドを作製するために、まず、代表的な強誘電体であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)の膜を基板上に作製し、集束イオンビーム[用語3]を用いて膜の一部をエッチングすることで、高さが1.2マイクロメートル、幅が最小で200ナノメートル(1万分の2ミリ)のナノロッド形状に切り出しました。その後、エッチングのダメージを取り除くために、加熱処理を行いました。

次に、高輝度な放射光[用語4]X線をレンズで集光してナノロッドに照射することで、ナノロッド1本のX線回折[用語5]測定に成功しました(図1)。本測定システムは、物質・材料研究機構のグループで開発されました。これにより、ナノロッドのドメイン構造を定量的に明らかにすることに成功しました。

放射光マイクロX線回折測定のセットアップと試料の概要。放射光X線をレンズで集光してナノロッドに照射し、ロッド1本(単体)の回折測定を行った。
図1.
放射光マイクロX線回折測定のセットアップと試料の概要。放射光X線をレンズで集光してナノロッドに照射し、ロッド1本(単体)の回折測定を行った。

ナノロッドのサイズ制御によるドメイン構造の操作

サイズの異なるロッドのドメイン構造を比較した結果、幅の減少とともにcドメインと呼ばれる垂直分極の領域の割合が増加し、一方で、aドメインと呼ばれる水平分極の領域の割合が減少することがわかりました。この変化の傾向は、基板の種類が異なっても同じでした。また、集束イオンビームを用いずに別の手法で作製した自己組織化ナノロッドでも、これを支持する結果が得られました。(図2(a))

これらの結果は、強誘電体の分極電荷の遮蔽が不完全な環境では、ロッドの幅が狭くなるに従ってロッド側面に分極電荷を有する水平分極が不安定になるためと考えられ、電荷遮蔽を考慮したシミュレーションの結果とも一致しました。(図2(b))

特に、幅1マイクロメートル(1,000ナノメートル)未満のロッドではcドメインの割合が100%になりました。一般に、電圧や応力などの外場の印加なしに、分極が完全に一方向に揃ったドメイン構造を作製することはできませんが、ナノサイズ化した強誘電体では、その形状やサイズの制御により、分極方向を揃えられることを初めて見出しました。

(a)ナノロッドの幅と垂直分極を有するcドメインの割合の関係。基板の種類の違いによらず、幅の減少に伴いcドメイン割合が増加した。(b)幅2マイクロメートル及び200ナノメートルのロッドのドメイン構造のシミュレーション結果の例。
図2.

(a)ナノロッドの幅と垂直分極を有するcドメインの割合の関係。基板の種類の違いによらず、幅の減少に伴いcドメイン割合が増加した。

(b)幅2マイクロメートル及び200ナノメートルのロッドのドメイン構造のシミュレーション結果の例。

ナノロッドの外界制御によるドメイン構造の操作

上記の考えが正しければ、ナノロッドの電荷遮蔽を促進すると、aドメイン(水平分極)の割合が増えるはずです。そこで、ナノロッドの側面を金属で被覆して、一度加熱してドメインを消去した後、新たに生成したドメイン構造を観察しました。その結果、aドメインの割合が増加することが明らかになり(図3)、シミュレーションとも傾向が一致しました。このことは、ナノロッドの周りの環境(外界)を制御することでドメイン構造が操作できることを示しています。

ナノロッドの側面を金属(Pt)で被覆し、一度加熱した後のドメイン構造のX線回折結果。電荷遮蔽の促進によって、aドメイン(水平分極)の生成が確認できた。

図3.
ナノロッドの側面を金属(Pt)で被覆し、一度加熱した後のドメイン構造のX線回折結果。電荷遮蔽の促進によって、aドメイン(水平分極)の生成が確認できた。

成果の意義

本研究成果は、強誘電体の諸特性を支配するドメイン構造が、材料の組成や歪みの制御だけでなく、材料の形状やサイズ、さらには、その周りの環境により、分極の電荷遮蔽状態を制御することで、操作できることを示しています。

この新しいアプローチを活用して、強誘電体の圧電特性の飛躍的な向上が達成できれば、例えば、環境中にある微小な振動を効率良く電気エネルギーに変換する小型のエナジーハーベスタの実現が期待でき、Internet of Things(IoT)に代表されるような、数億から数兆個の利用が想定されるセンサの自立的な電源として利用できる可能性があります。特に、電源機能を兼ねた振動センサや圧力センサへの応用が期待できます。さらには、環境適合性やコストの観点から、使用できる材料の元素が限られる用途において、特性向上のアプローチとして利用できる可能性があります。

特記事項

本研究は、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業さきがけ「ナノシステムと機能創発」領域および「微小エネルギーを利用した革新的な環境発電技術の創出」領域、日本学術振興会 科学研究費、科学技術振興機構 国際科学技術共同研究推進事業「Concert-Japan光技術を用いたものづくり」の一環として行われました。また、ドメイン構造解析はSPring-8のBL15XUおよびBL13XUのビームラインで行われました。主な結果はBL15XUでの測定によるもので、文部科学省委託事業ナノテクノロジープラットフォーム課題として、物質・材料研究機構微細構造解析プラットフォームの支援を受けて実施されました。

用語説明

[用語1] 強誘電体 : 圧電体の一種で、自発分極を有しており、外部からの電場で分極の向きが反転可能な結晶です。

[用語2] Internet of Things(IoT) : モノのインターネットと言われ、一般に、様々なモノ(デバイス)がインターネットに接続され、相互につながることを指します。

[用語3] 集束イオンビーム : 細く集束したイオンビームを試料表面で走査することで、試料表面を加工する装置です。本研究ではガリウムイオンビームを使用しました。

[用語4] 放射光 : 電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、指向性が高く強力な電磁波のことです。本研究の実験は、兵庫県播磨科学公園都市にある大型放射光施設SPring-8で行われました。

[用語5] X線回折 : 物質に照射されたX線が回折を起こす現象で、これにより物質の結晶の構造やその配向を調べる事ができます。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Charge screening strategy for domain pattern control in nano-scale ferroelectric systems
(日本語訳:強誘電体ナノスケールシステムにおけるドメインパターン制御のための電荷遮蔽)
著者 :
Tomoaki Yamada, Daisuke Ito, Tomas Sluka, Osami Sakata, Hidenori Tanaka, Hiroshi Funakubo, Takahiro Namazu, Naoki Wakiya, Masahito Yoshino, Takanori Nagasaki, and Nava Setter
DOI :

物質理工学院

物質理工学院 ―理学系と工学系、2つの分野を包括―
2016年4月に発足した物質理工学院について紹介します。

物質理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

(研究に関すること:全般)

名古屋大学 大学院工学研究科 エネルギー理工学専攻
山田智明 准教授

E-mail : t-yamada@energy.nagoya-u.ac.jp

Tel : 052-789-4689 / Fax : 052-789-4961

(放射光X線回折に関すること)

物質・材料研究機構 技術開発・共用部門
高輝度放射光ステーション ステーション長
先端材料解析研究拠点シンクロトロンX線グループ グループリーダー
坂田修身

E-mail : SAKATA.Osami@nims.go.jp

Tel : 0791-58-1970

(作製に関すること)

東京工業大学 物質理工学院
舟窪浩 教授

E-mail : funakubo.h.aa@m.titech.ac.jp

Tel / Fax : 045-924-5446

愛知工業大学 工学部機械学科
生津資大 助教

E-mail : kyazaki@yamanashi.ac.jp

Tel : 055-220-8144

静岡大学 電子工学研究所
脇谷尚樹 教授

E-mail : wakiya.naoki@shizuoka.ac.jp

Tel / Fax : 053-478-1153

(報道対応)

名古屋大学 総務部 広報渉外課

E-mail : kouho@adm.nagoya-u.ac.jp

Tel : 052-789-2699 / Fax : 052-788-6272

科学技術振興機構 広報課

E-mail : jstkoho@jst.go.jp

Tel : 03-5214-8404 / Fax : 03-5214-8432

物質・材料研究機構 経営企画部門 広報室

E-mail : pressrelease@ml.nims.go.jp

Tel : 029-859-2026 / Fax : 029-859-2017

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

愛知工業大学(名古屋電気学園) 総務部 広報課

E-mail : d-koho@aitech.ac.jp

Tel : 0565-48-8177 / Fax : 0565-48-8712

静岡大学 総務部 広報室

E-mail : koho@adb.shizuoka.ac.jp

Tel : 054-238-5179 / Fax : 054-237-0089

宮崎久美子教授他が放送大学ラジオ講座「技術経営の考え方」に出演

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本学 環境・社会理工学院 技術経営専門職課程の宮崎久美子教授を始めとする本学教員が、4月1日から7月15日まで(第1学期)、10月7日から2018年1月20日まで(第2学期)学部生向けの放送大学ラジオ講座「技術経営の考え方('17)」を開講します。

宮崎久美子教授

宮崎久美子教授

本講座は、各学期全15回の講義で構成され、毎年2回の開講で4年間継続します。技術経営に関する様々な概念を学習した上で、経営戦略や技術経営戦略について学び、個人の意思決定や企業家精神について学習します。次の段階ではイノベーションを興していく上で必要なさまざまなマネジメントについて、組織マネジメント、研究開発マネジメント、知財マネジメントについて学び、後半では、分野別技術経営や国家的イノベーションシステム、エコシステムについて学習します。また、産業界や学術界、外国から専門家を招き、対談も行います。

本講座では、木嶋恭一 本学名誉教授、工学院 経営工学系の田中義敏教授、環境・社会理工学院 技術経営専門職学位課程の仙石愼太郎准教授、辻本将晴准教授も講義を行います。

宮崎久美子教授のコメント

技術経営とは、技術を企業やその他の機関の重要な資産として捉え、企業等のビジョンや目標を達成するために、技術的資産を戦略的に行うマネジメントのことです。ビッグデータやAI、IoT(もののインターネット)は、様々な分野に影響を与える技術であり、新興技術特有の進化パターンを有しており、社会経済面でも大きなインパクトを与えると思われます。また、ナノテクノロジーのような新興技術はその技術だけでは役に立たず、他の応用技術と融合することによって初めて役に立ち、社会に浸透していきます。近年、技術開発のコストは増大し、また、製品ライフサイクルが短縮化しています。その結果、パラダイムシフトや異なる技術とのコンバージェンス(収束)も起きており、技術経営は製造業、サービス業、研究機関、あるいは政府にとって重要な課題となっています。日本の競争力を維持、強化させていくためには、あらゆる場でイノベーションが起きる社会を目指す必要があります。産、官、学の協同作業や連携、ビジョンの共有化が必要となります。

  • 番組名
    放送大学ラジオ「技術経営の考え方('17)」(FM77.1MHz, BS 531)
  • 第1学期
    放送予定日
    毎週土曜(全15回) 19:00 - 19:45
    次回 第1学期最終回 2017年7月15日放送
  • 第2学期
    放送予定日
    毎週土曜(全15回) 8:15 - 9:00
    2017年10月7日 - 2018年1月20日 放送(但し、2017年12月30日を除く)

お問い合わせ先

宮崎久美子

E-mail : miyazaki.k.ae@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3323

ニュースレター「AES News」No.10 2017夏号発行

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科学技術創成研究院 先進エネルギー国際研究(AES)センターouterは、「AES News」No.10 2017夏号を発行しました。

AESセンターは、従来の大学研究の枠組みを越えて、企業、行政、市民などが対等な立場で参加する研究拠点である「オープンイノベーション」を推進しています。ここでは、低炭素社会実現のための研究プロジェクトを創生することを大きな目的の一つとしています。

本学教員と本センター企業・自治体が連携し、既存の社会インフラを活かしながら革新的な省エネ・新エネ技術を取り入れ、安定したエネルギー利用環境を実現する先進エネルギーシステムの確立を目指しています。

本センターの活動を、より多くの方々にご理解いただき、また、会員および本学教職員の連携を深めるため、季刊誌「AES News」を発行しています。今回は第10号となる2017年夏号をご案内します。

ニュースレター「AES News」第10号 2017夏号

第10号・2017夏号

  • 科学技術創成研究院 AESセンター 小山堅特任教授 巻頭記事「『技術進展』で変わる世界のエネルギーミックス:その展望と課題」
  • ENEOS共同研究講座「効率的な水素の貯蔵、運搬のための水素化触媒の研究開発」
  • NTTファシリティーズ共同研究講座「遺伝的アルゴリズムによる蓄電池制御技術」
  • AES開催報告(2017年5月~6月)
  • 2017年度の活動、今後のスケジュール等

ニュースレターの入手方法

PDF版

資料ダウンロード|先進エネルギー国際研究センター(AESセンター)outer

バックナンバーもリンク先よりご覧いただけます。
冊子版
  • 大岡山キャンパス:東工大百年記念館1階 広報棚(※)
  • すずかけ台キャンパス:すずかけ台大学会館1階 広報コーナー

※博物館(百年記念館)においては、平成29年度において空調機改修工事を予定しております。改修工事の事前準備のため、全面での休館を予定しております。詳細は以下のページをご覧ください。

博物館・百年記念館休館

お問い合わせ先

科学技術創成研究院 先進エネルギー国際研究(AES)センター

Email : aescenter@ssr.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3429

TBSテレビ「未来の起源」に物質理工学院の清水亮太特任講師が出演

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本学 物質理工学院 応用化学系の清水亮太特任講師が、TBS「未来の起源」に出演します。清水特任講師の「1秒で充電可能な薄膜Li電池」に関する研究が紹介されます。

現在開発中の「ロボット科学者構想」に向けた装置と、清水亮太特任講師
現在開発中の「ロボット科学者構想」に向けた装置と、清水亮太特任講師

清水亮太特任講師のコメント

赤ちゃんの頬のようにぷりっとした「原子」の絵に魅せられて以来、「原子」の挙動を観察し、耳を傾け、そして手なずけることをモットーとした機能性材料の研究をしています。最近では特に、携帯機器の充電池に欠かせないリチウム(Li)原子に注目しています。

今回は、私が携わってきた「1秒で充電可能な薄膜Li電池」の取材を受けました。

この薄膜電池の性能がさらに向上すれば、ICカードでタッチする感覚での手軽な充電が可能になり、ウェアラブルデバイスを初めとした様々な小型端末への搭載が期待されています。

またその他の取組みとして、Li電池の原理を応用した新しいメモリデバイス開発や、全自動合成と人工知能を融合した「ロボット科学者構想」にも関心を拡げており、番組を通じてアクティブな研究の日常をお伝えしたい所存です。

  • 番組名
    TBSテレビ「未来の起源」
  • 放送予定日
    2017年7月23日(日)22:54 - 23:00
    (再放送)BS-TBS:2017年7月30日(日)20:54 - 21:00

物質理工学院

物質理工学院 ―理学系と工学系、2つの分野を包括―
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Tel : 03-5734-2975

反芳香族分子の電子伝導性を単分子レベルで実証 ―芳香族の20倍以上高く、電子素子などへの応用に期待―

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要点

  • π電子の数が4n個である反芳香族分子の電子伝導性を単分子レベルで計測。
  • 類似構造の芳香族分子と比較して反芳香族分子は20倍以上高い伝導性を示す。

概要

東京工業大学 理学院 化学系の藤井慎太郎特任准教授、木口学教授、名古屋大学大学院工学研究科の忍久保洋(しのくぼ ひろし)教授らのグループは、反芳香族分子の高い電子伝導性を単分子レベルで計測することに世界で初めて成功した。類似の構造をもち、π電子[用語1]の数が4n+2個である芳香族分子と比較して、反芳香族分子は20倍高い伝導性を示した。また電気化学の力をかりて、反芳香族分子の伝導性をさらに1桁近く向上させることも実現した。

走査型トンネル顕微鏡(STM)[用語2]を用いて、STM探針と金基板の間に1分子の反芳香族分子ノルコロール[用語3]をはさみこむことで、単一の反芳香族分子の電気伝導度を決定した。反芳香族分子の優れた電子伝導性が単分子レベルで明らかとなったことにより、反芳香族分子を用いた微小電子デバイス、有機エレクトロニクス、電池への利用が期待できる。

反芳香族分子とは平面構造を有する環状のπ分子であり、分子物性を決定づける分子内に広がったπ電子を4n個もつ。反芳香族分子は高い反応性、電子伝導性を示すことが期待される一方、天然には存在しない不安定な化合物で、その伝導性はこれまで明らかではなかった。

研究成果は2017年7月19日発行の英科学誌「Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーションズ)」に掲載された。

背景

π電子は分子の伝導性や磁性など分子物性の源である。このπ電子が環状に並んだπ分子では、その構造的な特徴から図1に示すように、最低のエネルギー位置に1つの分子軌道[用語4]、その上にエネルギーの等しい分子軌道が2つずつ並んでいる。1軌道あたり電子を2個収容できるため、π電子の数が4n+2 (n:0を含む正の整数)の時に安定となる。この4n+2個のπ電子をもつ環状分子の性質を芳香族性といい、芳香族分子は香料、染料、電子材料など身の回りの様々なところで利用されている。

これに対し、π電子が4n個の反芳香族分子は、天然には存在しない不安定な分子である。一方、不安定であるということは、逆に高い反応性、優れた電子伝導性、特異な磁気的性質を示すことが期待でき、電池材料などへの応用も期待されている。しかしながら、反芳香族分子は、その高い反応性から単離が難しく、分子レベルで反芳香族分子の高い伝導性を実証した研究は行われていなかった。

環状π分子の分子軌道エネルギー。芳香族分子であるベンゼンの例(n=1)。

図1. 環状π分子の分子軌道エネルギー。芳香族分子であるベンゼンの例(n=1)。

研究成果

図2に、名古屋大学の忍久保教授らのグループにより合成された16個のπ電子を含む反芳香族分子ノルコロールの分子構造を示す。金基板との接着性をよくするため分子の両端に硫黄原子を導入している。反芳香族分子ノルコロール、比較対象として類似の構造をもつ18個のπ電子を含む芳香族分子ポルフィリンについて、STMを用いて単分子計測を行った。

ノルコロール(反芳香族分子)およびポルフィリン(芳香族分子)の分子構造

図2. ノルコロール(反芳香族分子)およびポルフィリン(芳香族分子)の分子構造

室温で分子を含む溶液に金基板を浸漬させることで、金表面上に分子を吸着させた。STM探針を、分子を吸着させた基板にぶつけて、引き離すプロセスを繰り返し、探針を引き離す際の電気伝導度計測を行った。探針を基板にぶつけることで、金接点が探針と基板間に形成される。探針を引き離すことで、金接点が破断し、分子スケールのギャップが形成される。表面上に吸着した分子がギャップまで拡散し、針と基板間のギャップを架橋することで分子接合が形成される。さらに探針を引き離すことで、架橋分子数が1つずつ減少し、最終的には1つの分子を架橋させることができる。

図3に計測した単分子の伝導度計測結果を示す。図は探針を引き離す際の電気伝導度をヒストグラムの形で表現したもので、ピーク値が最も高頻度で観測される単分子の電気伝導度に対応する。反芳香族分子の伝導度は4.2×10-4G0、芳香族分子の伝導度は1.7×10-5G0だった。ここで、G0量子化コンダクタンス[用語5](2e2/h=77.5μS)であり、金1原子の電気伝導度に対応する。以上の計測から、反芳香族分子が芳香族分子と比較して20倍近く伝導性が高いことが分かった。世界で初めて反芳香族分子の高い電子伝導性を単分子レベルで実証することに成功した。

ノルコロールとポルフィリン単分子電気伝導度の計測結果。数1,000個の伝導度計測結果を積算してヒストグラムの形で表示している。ピーク値が最も代表的な単分子伝導度に対応。
図3.
ノルコロールとポルフィリン単分子電気伝導度の計測結果。数1,000個の伝導度計測結果を積算してヒストグラムの形で表示している。ピーク値が最も代表的な単分子伝導度に対応。

さらに、反芳香族分子の高い電子伝導性の起源を実験的に明らかにするために、電極間電圧を連続的に変化させ、単分子を流れる電流を計測した。単分子の電流―電圧特性は、伝導を担う分子軌道が一つであることを仮定すると、分子軌道と金属電極のフェルミ準位[用語6]のエネルギー差を求めることが出来る。図4(a)に反芳香族分子ノルコロール、図4(b)に芳香族分子ポルフィリンの電流―電圧特性、図4(c)に実験的に決定したそれぞれの分子におけるエネルギー関係を示す。

芳香族分子のポルフィリンでは分子軌道がフェルミ準位から0.8 eVの位置にあるのに対し、反芳香族分子であるノルコロールでは0.5 eVと、フェルミ準位に、より近い位置にあることが分かる。

単分子を流れる電子は、分子軌道とフェルミ準位のエネルギー差に相当する障壁を感じて伝導する。このことから、反芳香族分子の方が障壁が低く、効率的に電子を伝導したことになる。並行して、第一原理計算[用語7]に基づいた電子輸送シミュレーションを行い、実験的にもとめた電子状態、伝導特性を定量的に再現することができた。

(a)ノルコロールおよび(b)ポルフィリン単分子の電流―電圧特性。計測結果を散布図の形で表示。(c)単分子の電流―電圧特性から求めたAu電極に架橋した単分子の電子状態。LUMO(最低空軌道)の位置を表示している。
図4.
(a)ノルコロールおよび(b)ポルフィリン単分子の電流―電圧特性。計測結果を散布図の形で表示。(c)単分子の電流―電圧特性から求めたAu電極に架橋した単分子の電子状態。LUMO(最低空軌道)の位置を表示している。

反芳香族分子の高い電子伝導性が明らかになったので、さらに伝導特性を向上させるため、電気化学を利用することで伝導度の変調を試みた。電気化学では、電気化学電位により電極のフェルミ準位を上下させ、分子軌道とフェルミ準位のエネルギー差を制御することが出来る。図5(b)に反芳香族分子ノルコロールの単分子電気伝導度の電気化学電位依存性を示す。負電位にすることで、伝導度が1桁近く増大した。負電位にすることで金属電極のフェルミ準位が上昇し、分子軌道に近づいた。これにより、電子の感じる障壁が下がり、伝導性を向上させることができた。

(a)電気化学系における単分子伝導度計測の概念図。金属電極のフェルミ準位を分子軌道に対して相対的に変えることが出来る。(b)ノルコロール単分子電気伝導度の電気化学電位依存性
図5.
(a)電気化学系における単分子伝導度計測の概念図。金属電極のフェルミ準位を分子軌道に対して相対的に変えることが出来る。(b)ノルコロール単分子電気伝導度の電気化学電位依存性

今後の展開

反芳香族分子は、高い伝導性を示すことが期待されていたが、反芳香族分子の不安定性のため研究は進んでいなかった。本研究により、反芳香族分子の高い電子伝導性を単分子レベルで実証することに初めて成功した。今後、反芳香族分子の優れた電子特性を電池や電子素子などへ応用することが期待される。

単分子に素子機能を賦与する単分子素子は、シリコン電子素子に替わり得る次世代微小電子素子として注目を集めている。現在、様々な単分子素子が開発されつつあるが、そのほとんどで芳香族分子が使われており、伝導性はあまり高くない。今回、反芳香族分子を用いることで、伝導性の高い単分子素子を作る道筋を切り開くことが出来た。今後、微小電子素子における結線材料としての応用が期待できる。

用語説明

[用語1] π電子 : π結合をつくっている電子。二重結合の一方はσ結合,もう一方はπ結合である。σ電子はσ結合をつくり、原子どうしを連結させて分子骨格を形づくるのに対し、π電子は分子の発色、発光、電子物性、磁性などの電子的性質を担う。

[用語2] 走査型トンネル顕微鏡(STM) : 金属の探針で導電性の基板をなぞることで、表面形状を原子レベルで観測することができる顕微鏡。金属探針と基板の間に電圧を与えた状態で、探針を基板に数nm以下に近づけると、探針と基板間の間に電流(トンネル電流)が流れるようになる。トンネル電流は探針と基板の間の距離に敏感に変化するので、電流の変化を計測することで、表面の凹凸を原子レベルで計測することが可能である。

[用語3] ノルコロール : 4n+2個のπ電子をもつ芳香属性ポルフィリンから2つの炭素(2つのπ電子)を取り除いた4n個のπ電子をもつ反芳香族性分子。一般に反芳香族性分子は非常に不安定であるが、ノルコロールニッケル錯体は空気中で安定に取り扱い可能な世界初の16π電子反芳香族化合物である。

[用語4] 分子軌道 : 原子軌道の相互作用により新たにできた分子内に広がった軌道。

[用語5] 量子化コンダクタンス(G0 : 導線の大きさが原子スケール(フェルミ波長程度)まで小さくなると、導線を流れる電子の伝導度がG0=2e2/hを単位として量子化される。eは電子の電荷、hはプランク定数である。

[用語6] フェルミ準位 : 軌道に電子をつめていって、電子によって占められた軌道のうちで最高の軌道のエネルギーを示す。0 K(絶対零度)においては化学ポテンシャルと一致する。

[用語7] 第一原理計算 : 実験データや経験パラメーターを使わない理論計算。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Highly-conducting molecular circuits based on antiaromaticity
著者 :
Shintaro Fujii1, Santiago Marqués-González1, Ji-Young Shin2, Hiroshi Shinokubo2, Takuya Masuda3, Tomoaki Nishino1, Narendra P. Arasu4, Héctor Vázquez4, Manabu Kiguchi1
所属 :

1Department of Chemistry, Graduate School of Science and Engineering, Tokyo Institute of Technology, Ookayama, Meguro-ku, Tokyo 152-8551, Japan

2Department of Applied Chemistry, Graduate School of Engineering, Nagoya University, Aichi 464-8603, Japan

3Global Research Center for Environment and Energy Based on Nanomaterials Science (GREEN), National Institute for Materials Science (NIMS), Tsukuba 305-0044, Japan

4Institute of Physics, Academy of Sciences of the Czech Republic, Cukrovarnicka 10, Prague CZ-162 00, Czech Republic

DOI :

理学院

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超イオン導電特性を示す安価かつ汎用的な固体電解質材料を発見 ―全固体リチウムイオン電池の実用化を加速―

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要点

概要

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の菅野了次教授らの研究グループは、全固体リチウムイオン電池(以下、全固体電池)の実用化を加速させる新たな固体電解質を発見した。菅野グループでは、2011年にイオン伝導率が高い固体電解質であるLGPS物質系[用語3]を発見し、2016年にはその派生の固体電解質材料を発見している。しかし、これらは高価な元素であるゲルマニウム(Ge)を用いたり、塩素(Cl)などを用いた特異な組成に限られており、電気化学的な不安定性も課題であった。新電解質は、スズ(Sn)やケイ素(Si)という単独では十分な性能を発揮できない元素を組み合わせて組成し、液体の電解質に匹敵する11 mScm-1のイオン電導率を示す超イオン伝導体[用語4]である。新電解質の発見に際しては、擬似三成分系と呼ばれる相図中で材料探索を行うことにより、十分な性能を持つ電解質の開発が可能であり、その組み合わせによって既存材料の課題を解決するさらなる電解質の発見もあり得ることを提示した。全固体電池のキーテクノロジーとなる固体電解質の物質群の多様性を拡大することで、全固体電池設計の幅も大きく広がり、実用化が加速すると期待される。

これらの成果は、2017年7月10日に、米国科学誌「Chemistry of Materials」に掲載されました。

背景

電気自動車やスマートフォンなどを駆動するリチウムイオン電池の電解質には液体が使われており、容量、コスト、安全性などが課題となっている。このため、固体の電解質を開発し、高容量かつ高出力で安全性に優れた全固体型リチウムイオン電池を実現することが急務である。固体の電解質は液体の電解質に比べて電気の伝導率(イオン伝導率)が低く、その結果、固体電池は液系電池と比べて出力が低いことが課題とされていた。2011年に発見された固体電解質Li10GeP2S12(LGPS=リチウム・ゲルマニウム・リン・硫黄)はイオン伝導率12 mScm-1と液体電解質に匹敵する伝導率を示し、2016年に発見したLiSiPSCl(リチウム・ケイ素・リン・硫黄・塩素)はイオン伝導率25 mScm-1を示す超イオン伝導体である。しかし、これらの固体電解質は、レアメタルであるゲルマニウムが必要であったり、特異な組成が必要であり、4種類の材料のみに限られていた。また、電気的安定性にも課題があり、固体電解質のさらなる開拓により材料の多様性を確保する必要があった。

研究成果

本研究ではLGPS系物質においてゲルマニウム系を凌駕するイオン伝導率の実現を目指した。スズ(Sn)およびケイ素(Si)を組成し、それぞれ単独では達成出来なかった11 mScm-1を持つイオン伝導率を示す超イオン伝導体Li-Sn-Si-P-S(LSSPS):Li10.35[Sn0.27Si1.08]P1.65S12 (Li3.45[Sn0.09Si0.36]P0.55S4)を発見した。

今回の超イオン伝導体の長所は、合成しやすく、熱安定性が高い点である。また、大気下での安定性が高いこと、柔らかく、加工しやすいこと、電気化学的な安定性が高いことなどの長所を備えている。

さらに、スズとケイ素を組み合わせることで、広いLGPS相の生成組成域を実現したため、新たな材料の発見も期待できる。すなわち、

  • 合成過程で組成がずれても安定して超イオン伝導体であるLGPS型固体電解質ができるので、品質のばらつきが生じにくい。
  • 組成のチューニングが可能で、今後、全固体電池の様々な用途の拡大とともに明らかになる様々な固体電解質の要求性能に対応しやすい。

といった特徴がある。

このように、スズ、ケイ素の系は超イオン導電特性を示す新しい固体電解質として有望である。また、Li3PS4-Li4SiS4- Li4SnS4擬似三成分系で材料探索を行い、今後とも優れた固体電解質材料の種類を拡大できる。

Li3PS4-Li4SnS4-Li4SiS4擬似三成分相図中で新規材料探索を行い、Li10GeP2S12(LGPS)型の生成領域が明らかになった。Sn系、Si系と比べて広い組成範囲でLGPS型相が形成し、組成最適化により、11 mScm-1のイオン伝導率を示す新材料が見出された。高価なGe含有系、Li-Si-P-S-Clの特異的な組成に加えて、安価なSn-Siからなる新しい超イオン導電体は、全固体リチウム電池の実現に向けた有力な電解質材料の候補として期待できる。

参考図表 Li3PS4-Li4SnS4-Li4SiS4擬似三成分相図中で新規材料探索を行い、Li10GeP2S12(LGPS)型の生成領域が明らかになった。Sn系、Si系と比べて広い組成範囲でLGPS型相が形成し、組成最適化により、11 mScm-1のイオン伝導率を示す新材料が見出された。高価なGe含有系、Li-Si-P-S-Clの特異的な組成に加えて、安価なSn-Siからなる新しい超イオン導電体は、全固体リチウム電池の実現に向けた有力な電解質材料の候補として期待できる。

研究の経緯

同研究グループは、全固体電池が、既存のリチウム電池と比較して、優れた特性を有することを示すため、優れた特性をもつ固体電解質を探し、電解質と電極材料の組み合わせを最適化することで全固体電池の高出力特性等を実証してきた。今回、超イオン伝導体として高いイオン伝導率を期待できる硫化物系で、さらに新規物質の探索を行った結果、スズ、ケイ素を含む固溶体からなる高性能な固体電解質を見いだした。

今後の展開

本研究で得たLi-Sn-Si-P-S系のLGPS物質群は安価な構成元素からなる新材料で、固溶域も広く、最大で10 mScm-1を超える超イオン導電性能を示す。これにより、高価なGe系や、緻密な組成制御が必要なLi-Si-P-S-Cl系から、超イオン導電体の多様性を大きく広げた。四価カチオンの組み合わせにより、固溶領域が広がり、イオン伝導率も向上することは、組み合わせの最適化により既存のLGPS材料に含まれる元素を用いた開発の余地が充分に残されていることを提示している。また、Sn系硫化物は大気安定性に優れると言う報告もあり、LGPS材料の不安定性を解決するような材料設計が提案できる可能性がある。元素組み合わせや、組成比の最適化にはマテリアルズインフォマティクス[用語5]によるアプローチも適しており、全く新しい材料発見にいたる可能性もある。

本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の先端的低酸素化技術開発事業(ALCA)のALCA次世代蓄電池(ALCA-SPRING:ALCA-Specially Promoted Research for Innovative Next Generation Batteries)の一環として、実施されたものである。

用語説明

[用語1] イオン伝導率 : 10 mScm-1(1センチメートル当たり10ミリジーメンス。ジーメンスは抵抗の単位Ωの逆数で、電流の流れやすさを示す。現在のリチウムイオン電池の液体電解質のイオン伝導率は10 mScm-1程度。

[用語2] 全固体型リチウムイオン電池 : 電池の構成部材である正極、電解質、負極をすべて固体で構成した電池。

[用語3] LGPS物質系 : リチウム・ゲルマニウム・リン・硫黄で構成される材料。Li10GeP2S12は12 mScm-1程度のイオン伝導率。これから派生して、硫化物系の物質としてLiSiPSClは25 mScm-1のイオン伝導率。

[用語4] 超イオン伝導体 : 固体中をイオンがあたかも液体のように動き回る物質。銀・銅イオン伝導体では0.5 Scm-1程度、リチウムイオン伝導体では1 mScm-1程度の値が最高のイオン伝導率とされてきた。特に、高エネルギー密度電池として期待されているリチウム超イオン伝導体で、イオン伝導率と安定性を兼ね備えた物質の開発が望まれていた。ポリマー、無機結晶、無機非晶質などの様々な分野で物質開拓が行われており、その開発は1960年代から始まり、現在も引き続き行われている。

[用語5] マテリアルズ・インフォマティクス : 計算科学、データ科学、合成・評価実験及びこれらの連携手法により膨大な数の物質の評価を行い、その結果に基づいて新物質や新機能を開拓することを目指したアプローチの総称。

論文情報

掲載誌
Chemistry of Materials
論文タイトル
Superionic Conductors: Li10+δ[SnySi1-y]1+δP2-δS12 with a Li10GeP2S12-type Structure in the Li3PS4-Li4SnS4-Li4SiS4 Quasi-ternary System
著者
Yulong Suna, Kota Suzukia, b, Satoshi Horib, Masaaki Hirayamaa, b, and Ryoji Kanno a, b *
DOI :
所属
a Department of Electronic Chemistry, Interdisciplinary Graduate School of Science and Engineering, Tokyo Institute of Technology, 4259 Nagatsuta, Midori-ku, Yokohama 226-8502, Japan
b Department of Chemical Science and Engineering, School of Materials and Chemical Technology, Tokyo Institute of Technology, 4259 Nagatsuta, Midori-ku, Yokohama 226-8502, Japan

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カビによる肝障害悪化メカニズムを解明 ―カンジダ菌は活性酸素を産生しタンパク質架橋酵素の核移行を招く―

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要点

理化学研究所(理研)ライフサイエンス技術基盤研究センター微量シグナル制御技術開発特別ユニットの小嶋聡一特別ユニットリーダー、ロナク・シュレスタ国際プログラム・アソシエイト(研究当時)と、加藤分子物性研究室の大島勇吾専任研究員、東京工業大学生命理工学院の梶原将教授らの共同研究グループは、肝臓に侵入した真菌(カビ)が活性酸素[用語1-1]、特にヒドロキシルラジカル[用語1-2]を作り、その酸化ストレス[用語2]を介して肝細胞死を引き起こす分子メカニズムを明らかにしました。

日本における肝がん(肝臓がん)の主な原因は、肝炎ウイルスの感染(いわゆるウイルス性肝炎)ですが、欧米ではアルコールの過剰摂取によるアルコール性脂肪性肝炎(ASH)[用語3-1]が大きなウエイトを占めています。さらに、近い将来には世界的にメタボリックシンドローム[用語4]の肝臓での表現型である非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)[用語3-2] が主な原因になるといわれています注1。ASH/NASH患者においては、腸内に生息する病原性真菌の一種カンジダ菌が肝臓に到達することが報告されています注2。小嶋特別ユニットリーダーらの先行研究から、ASH/NASH患者の肝細胞では、通常は細胞質に存在するタンパク質架橋酵素「トランスグルタミナーゼ(TG2)[用語5]」が細胞核に局在することで肝細胞死を引き起こし、肝障害を悪化(増悪)させることが判明しています注3。しかし、肝臓に到達したカンジダ菌がこの病態形成機構に及ぼす影響は分かっていませんでした。

今回、共同研究グループは、病原性カンジダ菌と非病原性の酵母菌を、肝細胞と共培養しました。その結果、カンジダ菌は活性酸素、特にヒドロキシルラジカルを産生し、これを介して肝細胞におけるTG2の核局在と活性促進を招き、肝細胞死を引き起こすことが分かりました。同様の結果は、カンジダ菌を感染させたマウスの肝細胞においても観察されました。

今回の発見は、ASH/NASHの患者において観察される肝障害の新たな発症機構と想定されます。今後、TG2の核局在を標的とした肝障害を抑える新しい薬剤の開発につながる可能性があります。

本研究成果は、英国の科学雑誌『Scientific Reports』のオンライン版(7月6日付け:日本時間7月7日)に掲載されました。

注1
日本肝臓学会「肝がん白書 平成27年版」PDF
注2
Yang A-M, Inamine T, Hochrath K, Chen P, Wang L, Llorente C, Bluemel S, Hartmann P, Xu J, Koyama Y, Kisseleva T, Torralba MG, Mncera K, Beeri K, Chen C-S, Freese K, Hellerbrand C, Lee SML, Hoffman HM, Mehal WZ, Garcia-Tsao G, Mutlu EA, Keshavarzian A, Brown GD, Ho SB, Bataller R, Stärkel P, Fouts DE, Schnabl B; Intestinal “fungi contribute to development of alcoholic liver disease.”, J Clin Invest 2017 Jun 30;127(7):2829-2841.
注3
2009年5月1日プレスリリース「タンパク質の架橋反応が細胞死を招き、アルコール性肝障害に」outer

共同研究グループ

理化学研究所

ライフサイエンス技術基盤研究センター 生命機能動的イメージング部門
イメージング応用研究グループ 微量シグナル制御技術開発特別ユニット

(左)小嶋聡一、(右)ロナク・シュレスタ
(左)小嶋聡一、(右)ロナク・シュレスタ

  • 特別ユニットリーダー 小嶋聡一(こじまそういち)
  • 国際プログラム・アソシエイト(研究当時)ロナク・シュレスタ(Ronak Shrestha)
  • 国際プログラム・アソシエイト(研究当時)ラジャン・シュレスタ(Rajan Shrestha)
  • 特別研究員 秦咸陽(しんせいよう)

加藤分子物性研究室

  • 専任研究員 大島勇吾(おおしまゆうご)

東京工業大学 生命理工学院

  • 教授 梶原将(かじわらすすむ)

千葉大学真菌医学研究センター

  • 准教授 知花博治(ちばなひろじ)

中国食品発酵工業研究院

  • 院長 蔡木易(さいもくい)
  • 主任研究員 魯軍(ろくん)

研究の背景

現在、日本における肝がん(肝臓がん)の主な原因は、肝炎ウイルスの感染(いわゆるウイルス性肝炎)ですが、欧米ではアルコールの過剰摂取によるアルコール性脂肪性肝炎(ASH)が大きなウエイトを占めています。さらに近い将来は、世界的にメタボリックシンドロームの肝臓での表現型である非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)が主な原因になるといわれています。ASHやNASHは、断酒や生活習慣の改善以外に有効な治療法は確立されておらず、その病態の解明や新薬の開発が課題となっています。

ASH/NASH患者においては、過度のアルコール摂取や遊離脂肪酸によって十二指腸のバリアがボロボロになり、腸内にいた真菌(カビ)や大腸菌が肝臓に到達することが報告されています。特に、病原性真菌の一種であるカンジダ菌が増えることが今年報告されました。2009年に小嶋特別ユニットリーダーらは、ASH/NASH患者の肝細胞では、通常は細胞質に存在するタンパク質架橋酵素トランスグルタミナーゼ(TG2)が細胞核に局在し、肝細胞の生存に必須の肝細胞増殖因子受容体c-Met[用語6]の発現をつかさどる転写因子Sp1[用語7]を過度に架橋結合[用語8]させて不活性化することで、肝細胞死を引き起こし肝障害を悪化(増悪)させることを報告しています。しかし、肝臓に到達したカンジダ菌がこの病態形成機構に及ぼす影響については不明でした。

研究手法と成果

肝臓への真菌感染のモデルとして、病原性カンジダ菌(カンジダアルビカンス Candida albicans もしくはグラブラータ Candida glabrata)をヒト肝細胞株であるHc細胞と共培養し、経過を観察しました。共培養を開始して24時間後にはTG2の核局在と活性化が観察され、さらに、共培養開始から48時間後には細胞死が誘導されました(図1)。一方、病原性のないパン酵母とHc細胞との共培養では、これらの現象は起こりませんでした(図2)。

次に、カンジダ菌が何を介して肝細胞に作用しているかを調べるため、TG2核局在の誘導が起きるための条件検討を行いました。低分子のみを透過させる透析膜を隔てて共培養した場合でもTG2核局在の誘導はみられましたが、熱で殺菌処理した菌体や、菌の培養上清液を肝細胞に投与すると同様の現象は起こりませんでした。このことから、生きたカンジタ菌が産生する半減期の短い低分子が肝細胞に作用していると考えられました。

活性酸素は、TG2を活性化させる因子の一つとして知られており、これらの条件に合致します。そこでヒドロキシルラジカルの原料となる過酸化水素を肝細胞に投与したところ、カンジダ菌と共培養した場合と同様の作用があることが分かりました。さらに、カンジダ菌との共培養時に、活性酸素を捕捉する抗酸化剤であるN-アセチルシステインを投与するとTG2核局在の誘導はブロックされました(図1)。

カンジダ菌との共培養による肝細胞中のトランスグルタミナーゼ(TG2)核局在

図1.カンジダ菌との共培養による肝細胞中のトランスグルタミナーゼ(TG2)核局在

ヒト肝細胞株Hc細胞の蛍光顕微鏡像。核はヘキスト(青)、活性化トランスグルタミナーゼはビオチン化基質5-(biotinamido)pentylamine(5BAPA)(緑)、細胞死の誘導はカスパーゼ活性(赤)の蛍光染色で観察した。Hc細胞をカンジダ菌と共培養すると、24時間後にTG2の発現誘導ならびに核局在(2段目2列目)、さらに48時間後にカスパーゼ3の誘導(2段目3列目)を伴う細胞死が観察された。このとき、抗活性酸素剤であるN-アセチルシステインを培養液中に添加して菌が産生する活性酸素をトラップすると、これらの変化を抑えることができた(3段目)。このことから、カンジダ菌が産生する活性酸素によって肝細胞においてTG2の発現と核局在が誘導され、肝細胞が細胞死に陥ることが示された。

パン酵母との共培養による肝細胞中のトランスグルタミナーゼ(TG2)

図2.パン酵母との共培養による肝細胞中のトランスグルタミナーゼ(TG2)

ヒト肝細胞株Hc細胞とカンジダ菌を共培養すると、24時間後にTG2の発現誘導ならびに核局在(2段目2列目)、が誘導されるが、カンジダ菌と同数のパン酵母(出芽酵母)と共培養しても、そのような変化はみられなかった(3段目2列目)。

カンジダ菌が活性酸素を介して肝細胞に作用する可能性をさらに検証するため、肝細胞での活性酸素の局在を蛍光顕微鏡で観察し、共培養液中に存在する活性酸素種の同定を電子スピン共鳴(ESR)[用語9]による解析で行いました。その結果、TG2核局在の誘導がみられる条件下でのみ活性酸素が核で顕著に検出され(図3)、そのときの培養液には活性酸素の一種ヒドロキシルラジカルが存在することが分かりました(図4)。このヒドロキシルラジカルがカンジタ菌に由来することは、ヒドロキシルラジカルを中心とした活性酸素の産生に働くNOX遺伝子[用語10]を欠損させた変異菌では同様の現象を誘導できなかったことからも示されました(図3、図4)。さらに、カンジダ菌を静脈注射したマウス個体を調べた結果、肝臓における活性酸素とTG2核局在の誘導が認められました。

以上の結果により、病原性真菌であるカンジダ菌は、活性酸素、特にヒドロキシルラジカルを産生し、その作用によって肝細胞内においてTG2の核局在を引き起こし、その結果として、転写因子Sp1の架橋不活性化を介する肝細胞死を引き起こすことを見いだしました(図5)。

肝細胞とカンジダ菌との共培養系における活性酸素の産生

図3.肝細胞とカンジダ菌との共培養系における活性酸素の産生

活性酸素、特にヒドロキシルラジカルと反応して蛍光を発する試薬CM-H2DCFDAを用いて、各条件下で8時間培養した後の活性酸素の産生量の様子を調べた結果。ヒト肝細胞株Hc細胞のみでは活性酸素の産生はみられなかった(1)が、病原性のあるカンジダアルビカンス菌(2)やカンジダグラブラータ菌(3)と共培養すると、活性酸素の産生が観察された。カンジダ菌と同数の病原性のないパン酵母(出芽酵母)(4)もしくは、ヒドロキシルラジカル産生に関わるNOX遺伝子を破壊したカンジダグラブラータ菌(5)と共培養しても、そのような変化はみられなかった。

肝細胞とカンジダ菌との共培養液中に存在するヒドロキシルラジカルの同定

図4.肝細胞とカンジダ菌との共培養液中に存在するヒドロキシルラジカルの同定

各条件下で8時間培養した後の培養液中のヒドロキシルラジカル量を、電子スピン共鳴によって半定量的に評価した結果。ヒト肝細胞株Hc細胞のみではヒドロキシルラジカルの産生はみられなかったが(左右)、カンジダアルビカンス菌(左)やカンジダグラブラータ菌(右)と共培養すると活性酸素の産生が観察された。カンジダ菌と同数のパン酵母(出芽酵母)(左)もしくは、活性酸素産生に関わるNOX遺伝子を破壊したカンジダグラブラータ菌(右)と共培養してもそのような変化はみられなかった。ヒドロキシルラジカルのスペクトル強度の比は、カンジダアルビカンス菌 10 : カンジダグラブラータ菌 3 : パン酵母菌 1であり、あるレベル以上のヒドロキシルラジカルが、肝細胞の核におけるトランスグルタミナーゼ活性誘導に働いていることが分かった。

病原性真菌であるカンジダ菌が肝細胞死を引き起こす分子メカニズム

図5.病原性真菌であるカンジダ菌が肝細胞死を引き起こす分子メカニズム

カンジダ菌は、活性酸素、特にヒドロキシルラジカルを産生し、その作用によって肝細胞内においてトランスグルタミナーゼ(TG2)の発現と核局在を誘導し、その結果として、肝細胞の生存に必須の肝細胞増殖因子受容体c-Metの発現をつかさどる転写因子Sp1の架橋不活性化を介する肝細胞死を引き起こす。

今後の期待

今回の発見により、ASH/NASHの患者における肝障害が、病原性真菌の産生する活性酸素を介して増悪する新たな発症機構の存在が浮かび上がりました。活性酸素を抑制する薬剤の投与により肝細胞でのTG2の核移行を阻害するなど、TG2の核局在を標的とした肝障害を抑える新たな治療法の開発が期待できます。

用語説明

[用語1-1] 活性酸素 [用語1-2] ヒドロキシルラジカル : 活性酸素は、普通の酸素に比べて著しく反応性が増した原子状態の酸素や電子状態が不安定な酸素分子をいう。生体内では白血球の殺菌作用など多くの生理現象に関与する。細胞を直接的あるいは間接的に傷つけ、老化の一因を作る。活性酸素の分子種のうち最も反応性が高く、最も酸化力が強いのが、ヒドロキシルラジカル(ヒドロキシ基=水酸基に対応するラジカル)で、•OHと表される。

[用語2] 酸化ストレス : 生体内で酸化還元状態の均衡が崩れたとき、過酸化水素やヒドロキシルラジカルを代表とする活性酸素が産生される。これらがタンパク質や脂質、あるいは核酸と反応し、生体にダメージを与える。

[用語3-1] アルコール性脂肪性肝炎(ASH)[用語3-2] 非アルコール性脂肪性肝炎(NASH) : 肝炎のうちアルコールの過剰摂取が原因で引き起こされる病態がアルコール性脂肪性肝炎(ASH)である。アルコールを飲んでいないのにASHと似たような病態を示すのが非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)で、高脂肪食による遊離脂肪酸が原因で起こるとされている。線維化、大滴性の脂肪滴、壊死・炎症所見、肝細胞の風船様膨化、核空胞化、脂肪肉芽腫、胞体内凝集傾向、約30%にマロリー体(MB)がみられる。

[用語4] メタボリックシンドローム : 内臓性脂肪症候群のことで、内蔵肥満に高血圧、高血糖、脂質代謝異常が組み合わさり、心臓病や脳卒中などの動脈硬化性疾患や肝炎を招きやすい生活習慣病。

[用語5] 肝細胞増殖因子受容体c-Met : タンパク質同士を共有結合させる架橋反応を触媒する酵素。タンパク質中のアミノ酸のグルタミンを利用してペプチド結合を形成させるため、この名が付けられた。架橋反応にどのような生理学的な意味があるかは不明な点が多い。

[用語6] 肝細胞増殖因子受容体c-Met : 増殖因子とは生体内において特定の細胞の増殖や分化を促進するタンパク質の総称。さまざまな細胞学的・生理学的過程の調節を行い、細胞表面に存在する受容体タンパク質に特異的に結合することで、生命の維持に必要なシグナルを伝える細胞間の信号物質として働く。この受容体が増殖因子受容体である。肝細胞増殖因子の最も主要な受容体がc-Metである。

[用語7] 転写因子Sp1 : がん細胞を含むほとんど全ての細胞において、その細胞が生きていくために必要な増殖因子の受容体の遺伝子発現をつかさどる転写因子。転写因子とは、DNAに特異的に結合するタンパク質で、遺伝子の転写開始や調節に関与する。

[用語8] 架橋結合 : 化学反応において、複数の分子が橋を架けたように結合すること。この結合により、生体構造の安定化やタンパク質の機能変換が行われる。

[用語9] 電子スピン共鳴(ESR) : 電子スピン共鳴(ESR)法は電子スピン(不対電子)を検出する分光法の一種。電子スピンに起因する磁気モーメントのエネルギーは、スピンの量子化に伴って磁場中で分裂する(ゼーマン効果)。ESRはこのゼーマン分裂によるエネルギー準位間の遷移であり、研究対象に存在する不対電子のミクロな電子状態を調べることができる。また、ESRスピントラップ法を用いることによって、ヒドロキシルラジカルなどの短寿命ラジカルの同定や定量的な評価が可能となる。

[用語10] NOX遺伝子 : NADPH oxidase(Nox)ファミリー遺伝子の総称。NADPHを基質として、活性酸素を産生する膜酵素。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Fungus-derived hydroxyl radicals kill hepatic cells by enhancing nuclear transglutaminase
著者 :
R Shrestha, R Shrestha, X-Y Qin, T-F Kuo, Y Oshima, S Iwatani, R Teraoka, K Fujii, M Hara, M Li, A Takahashi-Nakaguchi, H Chibana, J Lu, M Cai, S Kajiwara, and S Kojima
DOI :

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教授 梶原将

E-mail : skajiwar@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5715 / Fax : 045-924-5773

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理化学研究所 ライフサイエンス技術基盤研究センター

広報・サイエンスコミュニケーション担当 山岸敦

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理化学研究所 広報室 報道担当

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遺伝子撹拌装置をタイミング良く染色体から取り外す仕組み

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遺伝子撹拌装置をタイミング良く染色体から取り外す仕組み
―減数分裂期に相同染色体間の遺伝情報交換を促す高次染色体構造の解体を指揮するシグナリングネットワークを特定―

私たちヒトを含む多くの真核生物では、父親と母親から受け継いだ2セットの遺伝情報を持っています。この遺伝情報を次世代に伝えるには配偶子と呼ばれる特殊な細胞(ヒトの場合は精子と卵)を形成し、ちょうど半分の遺伝情報をその中に分配する必要があります。また、その際父親と母親の遺伝情報はお互いの遺伝情報を交換することで激しく撹拌され、そのことにより生物の多様性は劇的に増大します。この目的を果たすために減数分裂期の染色体は、『遺伝子攪拌装置』とでも呼ぶべき非常に複雑な高次構造を形成するのですが、ひとたび遺伝子の攪拌が終了するとこの構造体を直ちに解消しなければ、次に起こるべき染色体分配に支障をきたしてしまいます。減数分裂の進行において、タイミングよくこの染色体高次構造を解消し、次のステップに進める仕組みは謎に包まれていました。

今回、基礎生物学研究所、東京工業大学、サセックス大学、ニューヨーク州立大学のメンバーからなる共同研究グループは、真核生物の単純なモデルである出芽酵母を用いた研究により、細胞分裂の進行を制御する分子群が、減数分裂期の高次染色体構造の解体を直接指揮するスイッチ役として働くことを明らかにしました。本研究成果は、2017年7月10日に欧州分子生物学機構が発行する専門誌EMBO Journal(電子版)に掲載されました。

研究の背景

有性生殖を行うヒトなどの真核生物は、遺伝情報を次の世代に伝える為に、配偶子と呼ばれる特殊な細胞(精子や卵など)を形成します。その過程で、配偶子に対し親細胞の染色体数の半分だけを正確に分配することが必要で、その為に用いられるのが減数分裂と呼ばれる特殊な細胞周期です。減数分裂では1回のDNA複製に続いて2回の連続した細胞分裂、それぞれ減数第一分裂、第二分裂が起こります(図1)。特に減数第一分裂においては、相同染色体が分配される点が非常に特徴的であり、これは姉妹染色分体が分配される体細胞分裂とは大きく異なります。また、減数第一分裂に先立ち、相同染色体同士はその全長に渡って密着し、シナプトネマ複合体と呼ばれる複雑な染色体高次構造を形成します(図2)。その間相同染色体間では遺伝情報が活発に交換され、このプロセスは生命の多様性を生み出す原動力となって来ました。基礎生物学研究所/サセックス大の坪内英生を中心とする研究グループは、真核生物の単純なモデルである出芽酵母を用いて、遺伝情報交換の場として機能するシナプトネマ複合体の形成と解離のメカニズムの解明に取り組んできました。今回、坪内らは、シナプトネマ複合体の解離と細胞周期を結びつけるシグナリングネットワークを特定し、その制御機構の解析を行いました。

体細胞分裂と減数分裂の違い。減数分裂の大きな特徴はその第一分裂にある。減数第一分裂前期においては相同染色体同士がお互いを認識して接着し、その遺伝情報を交換する。また、減数第一分裂では相同染色体が分配されるが、これは姉妹染色分体が分配される体細胞分裂や減数第二分裂とは大きく異なる。
図1.
体細胞分裂と減数分裂の違い。減数分裂の大きな特徴はその第一分裂にある。減数第一分裂前期においては相同染色体同士がお互いを認識して接着し、その遺伝情報を交換する。また、減数第一分裂では相同染色体が分配されるが、これは姉妹染色分体が分配される体細胞分裂や減数第二分裂とは大きく異なる。
減数第一分裂前期における染色体高次構造。減数第一分裂前期において相同染色体が密着し遺伝情報の交換をするために、染色体は特徴的な高次構造を形成する。この構造体をシナプトネマ複合体という。この構造体においては相同染色体同士がその全長に渡って一定の間隔をおいて密着するので、電車の線路のような構造体が電子顕微鏡による観察で認められる。
図2.
減数第一分裂前期における染色体高次構造。減数第一分裂前期において相同染色体が密着し遺伝情報の交換をするために、染色体は特徴的な高次構造を形成する。この構造体をシナプトネマ複合体という。この構造体においては相同染色体同士がその全長に渡って一定の間隔をおいて密着するので、電車の線路のような構造体が電子顕微鏡による観察で認められる。

研究の成果

シナプトネマ複合体は減数第一分裂前期の開始と共に形成され始め、前期の中盤でその形成が完了し相同染色体はその全長に渡って密着します(図2)。同時に、密着した相同染色体間で相同組換えが活発に誘導され遺伝情報が交換されます。これは減数分裂期特有の現象で、体細胞分裂期の相同組換えが姉妹染色分体間で起こるのとは対照的です。相同組換え反応が継続する間、細胞は減数第一分裂前期内に留まり、シナプトネマ複合体構造は維持されます。ところが、ひとたび相同組換え反応が完了すると細胞周期は減数第一分裂前期を脱して中期に進行し、シナプトネマ複合体は染色体上から素早く解離します。研究グループは細胞周期の進行とシナプトネマ複合体の解離がどのようにコーディネートされているのかを探索する過程で、真核生物の細胞周期を制御するタンパクキナーゼがシナプトネマ複合体の解離調節の鍵となっていることを見出しました(図3)。それらは、細胞周期の原動力と呼ばれるサイクリン依存性キナーゼ(CDK1)、DNA複製開始のタイミング制御に重要なことが知られているDbf4依存性Cdc7キナーゼ(DDK)、及び主にM期で機能することが知られるポロキナーゼです。

特に今回、研究グループはDDKの活性を調節するDbf4のリン酸化がシナプトネマ複合体の解離調節の鍵となることを見出しました。この過程で重要になってくるのが減数第一分裂前期内で活発に起こっている相同組換え反応です。減数第一分裂前期中では、相同組換え反応を監視しているメカニズムがあり、相同組換え反応の終了が近づくとポロキナーゼの発現が誘導されると共にCDK1の活性が上昇します。この際、発現したポロキナーゼはDbf4と直接相互作用してそのリン酸化を促します。同時に活性が上昇したCDK1もDbf4のリン酸化に寄与し、このDbf4リン酸化がシナプトネマ複合体構成タンパク質の分解を引き起こすことで、染色体からのシナプトネマ複合体の解離を誘導するスイッチになっていることが明らかになりました。また、減数第一分裂前期中では相同染色体間の遺伝情報の交換を促進するために、体細胞分裂期型の組換え経路が抑制されているのですが、細胞が減数第一分裂前期から出ると、体細胞分裂期型組換えが直ちに再活性化することを見出しました。今回の研究により、染色体構造が減数分裂期型から体細胞分裂期型に戻る際に、その変換を司る主要な情報伝達系を明らかにしたと考えています。

減数分裂期の染色体高次構造の解離を指揮するシグナリングネットワーク。減数第一分裂前期から中期にかけて、染色体高次構造は急速に染色体から解離するが、その過程には細胞周期の制御に関わる3つのタンパクキナーゼが関与している。その制御において中心になるのが Dbf4依存性Cdc7キナーゼの調節因子Dbf4のリン酸化である。
図3.
減数分裂期の染色体高次構造の解離を指揮するシグナリングネットワーク。減数第一分裂前期から中期にかけて、染色体高次構造は急速に染色体から解離するが、その過程には細胞周期の制御に関わる3つのタンパクキナーゼが関与している。その制御において中心になるのが Dbf4依存性Cdc7キナーゼの調節因子Dbf4のリン酸化である。

今後の展望

減数分裂のメカニズムは体細胞分裂のメカニズムの上に構築されていると考えられますが、両者に非常に大きな違いがあるのもまた事実です。特に減数第一分裂期においては染色体分配様式が異なるだけでなく遺伝情報の撹拌という、体細胞分裂期とは全く異なる機能が付加されるのです。こういった機能の付加は、可逆的であるという特徴があり、細胞は極めて迅速に減数分裂期型から体細胞分裂期型へと染色体構造を変換する能力を備えています。このような染色体のダイナミックな動態はヒトを含む高等真核生物でも保存されていることから、同様のシグナリングネットワークが減数分裂から体細胞分裂への染色体構造変換に関与しているのか、今後興味が持たれるところです。

研究グループ

  • 基礎生物学研究所/英国・サセックス大学:坪内英生
  • 基礎生物学研究所:坪内知美
  • 東京工業大学/英国・サセックス大学:Bilge Argunhan, Negar Afshar
  • 東京工業大学:村山泰斗(7月1日より国立遺伝学研究所 所属)、岩﨑博史
  • 英国・サセックス大学:Wing‐Kit Leung, Yaroslav Terentyev
  • 米国・ニューヨーク州立大学:Vijayalakshmi V Subramanian, Andreas Hochwagen

研究サポート

本研究は、文部科学省科学研究費助成事業、英国Biotechnology and Biological Sciences Research Council、Medical Research Councilなどの支援のもとで行われました。

論文情報

掲載誌
The EMBO Journal
論文タイトル
Fundamental cell cycle kinases collaborate to ensure timely destruction of the synaptonemal complex during meiosis
著者
Bilge Argunhan, Wing‐Kit Leung, Negar Afshar, Yaroslav Terentyev, Vijayalakshmi V Subramanian, Yasuto Murayama, Andreas Hochwagen, Hiroshi Iwasaki, Tomomi Tsubouchi, Hideo Tsubouchi
DOI :

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本研究に関するお問い合わせ先

基礎生物学研究所 幹細胞生物学教室
坪内英生

E-mail : htsubo@nibb.ac.jp

Tel : 0564-55-7695

東京工業大学 科学技術創成研究院
細胞制御工学研究センター
岩崎博史 教授

E-mail : hiwasaki@bio.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2588

取材申し込み先

基礎生物学研究所 広報室

E-mail : press@nibb.ac.jp

Tel : 0564-55-7628 / Fax : 0564-55-7597

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

スマート創薬手法で4個のヒット化合物を発見 ―顧みられない熱帯病(NTDs)制圧に期待―

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研究成果のポイント

  • 創薬研究向けデータベース「iNTRODB」で、シャーガス病やリーシュマニア症などの原因となるトリパノソーマ科寄生原虫の創薬標的(スペルミジン合成酵素[用語1])を発見
  • スーパーコンピュータ「TSUBAME」で、スペルミジン合成酵素の機能を阻害する化合物候補約480万化合物から176化合物を選択、アッセイ試験[用語2]を行い、阻害活性を持つヒット化合物を4個見つけた
  • IT創薬と生化学実験が連携する「スマート創薬」により、従来の創薬手法の20倍以上のヒット率でヒット化合物を獲得した

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 スマート創薬研究ユニットの関嶋政和ユニットリーダー/准教授、同大学 情報理工学院 情報工学系の秋山泰教授、長崎大学大学院 熱帯医学・グローバルヘルス研究科の北潔教授を中心とする研究グループは、顧みられない熱帯病[用語3](NTDs)の創薬研究で利用する統合型データベース「iNTRODB」を用いて、シャーガス病やリーシュマニア症、アフリカ睡眠病等の原因となるトリパノソーマ科寄生原虫の創薬標的としてスペルミジン合成酵素を決定。東京工業大学のスーパーコンピュータ「TSUBAME」を用いて、この酵素の機能を阻害するヒット化合物を4個発見した。

本研究開発では、IT創薬と生化学実験が連携するスマート創薬で、従来の創薬手法であるHigh Throughput Screening(HTS)に比べ、20倍以上高いヒット率でヒット化合物を見つけることに成功した。今後、今回見出したヒット化合物について、細胞中に存在するトリパノソーマ科寄生原虫に対する殺原虫活性を確認していくほか、顧みられない熱帯病を始め、他の疾病に対してもこのスマート創薬の手法の適用を進め、創薬コストの削減を目指していく。

iNTRODBにより創薬標的を発見し、スマート創薬により高いヒット率でヒット化合物の獲得に成功した本研究成果は、2017年7月27日号の国際科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

NTDs創薬研究向け統合型データベース「iNTRODB」は、第11回産学官連携功労者表彰において厚生労働大臣賞を受賞している。

研究成果

創薬には、十数年にわたる長い期間と3,000億円以上とも言われる膨大な費用が必要であり、近年はこの研究開発費が増加傾向にある。これまで新規化合物獲得のための期間と費用を削減し、有望な薬候補化合物を効率的に探索するためにさまざまな手法、アプローチが開発されてきた。

顧みられない熱帯病(NTDs)は、主に開発途上国の熱帯地域、貧困層を中心に蔓延しているウイルス、細菌、寄生虫等による感染症を中心とする疾病のことで、WHOで制圧せねばならないとしている20の疾患群で、世界で累計10億人以上が感染していると言われている。

研究グループは、秋山泰教授、北潔教授(当時東京大学)らとアステラス製薬熱帯感染症研究チームが連携して2012年に開発したNTDs創薬研究向け統合データベース「iNTRODB」を活用して、トリパノソーマ科寄生原虫の全遺伝子情報(約2万7,000 件)、蛋白質構造情報(約7,000件)、関連化合物情報(約100万件)を元に、シャーガス病、リーシュマニア症、アフリカ睡眠病等の原因であるトリパノソーマ科寄生原虫の創薬標的となる「スペルミジン合成酵素」を決定した(図1)。

iNTRODBを用いた創薬標的決定の流れ

図1. iNTRODBを用いた創薬標的決定の流れ

研究グループは、決定された創薬標的に対して、東京工業大学のスーパーコンピュータTSUBAMEを用いたドッキングシミュレーション(図2)と分子動力学シミュレーション、in vitro試験を組み合わせたスマート創薬により、スペルミジン合成酵素に対する阻害活性を持つ4個のヒット化合物を発見した。一般の創薬手法で用いられる「High Throughput Screening (HTS) [用語4]」ではヒット率が0.1%以下[参考文献]にとどまるのに比べて、本手法では2.27%と、20倍以上のヒット率を実現している。また、研究グループはドッキングシミュレーションで行ったスペルミジン合成酵素の標的(ターゲット)部位にヒット化合物が結合していることをX線結晶構造解析で確認した(図3)。

ドッキングシミュレーション

図2. ドッキングシミュレーション

X線結晶構造解析で明らかにした(左)スペルミジン合成酵素とヒット化合物の全体構造及び(右)ヒット化合物が結合する部位の拡大

図3. X線結晶構造解析で明らかにした(左)スペルミジン合成酵素とヒット化合物の全体構造及び(右)ヒット化合物が結合する部位の拡大

今後の展開

東京工業大学と長崎大学は今後、今回見つかったヒット化合物について、細胞中に存在するトリパノソーマ科寄生原虫に対する殺原虫活性を確認していくほか、他の疾病に対してもこのスマート創薬の手法の適用を進め、創薬コストの削減を目指していく。

用語説明

[用語1] スペルミジン合成酵素 : 寄生原虫の生存に必要なポリアミンであるスペルミジンを合成する酵素。

[用語2] アッセイ試験 : 生体分子や細胞などを用いて、影響を調べる試験。バイオアッセイ。今回は、スペルミジン合成酵素への化合物の阻害活性を、一定濃度、または濃度を変化させて調べた。

[用語3] 顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases:NTDs : 主に開発途上国の熱帯地域、貧困層を中心に蔓延している、ウイルスや細菌、寄生虫による感染症を中心とする疾病のことで、WHOで制圧を目指している20の疾患群を指し、世界で累計10億人以上が感染していると言われている。未だ必要な医療を受けることができず、必要な医薬品を入手できないために、人々の生命を脅かす健康問題に留まらず、経済活動の足かせ・貧困の原因になっている。

住血吸虫症、デング熱、狂犬病、トラコーマ、ブルーリ潰瘍、トレポネーマ感染症、ハンセン病、シャーガス病、睡眠病、リーシュマニア症、嚢尾虫症、ギニア虫感染症、包虫症、食物媒介吸虫類感染症、リンパ系フィラリア症、オンコセルカ症、土壌伝播寄生虫症、マイセトーマ(菌種)、疥癬およびその他の外部寄生虫、毒蛇咬傷

[用語4] High Throughput Screening (HTS) : ウェルと呼ばれる小さな穴(試験管に相当する)に化合物と酵素などを入れて、ロボットにより実験を自動化することで多くの測定を迅速に行うことが可能なスクリーニング方法。

[参考文献] : Varma H, Lo DC, Stockwell BR. High-Throughput and High-Content Screening for Huntington’s Disease Therapeutics. In: Lo DC, Hughes RE, editors. Neurobiology of Huntington's Disease: Applications to Drug Discovery. Boca Raton (FL): CRC Press/Taylor & Francis; 2011. Chapter 5. Available from NCBI Bookshelfouter

論文情報

掲載誌
Scientific Reports
論文タイトル
In silico, in vitro, X-ray crystallography, and integrated strategies for discovering spermidine synthase inhibitors for Chagas disease
著者
Ryunosuke Yoshino, Nobuaki Yasuo, Yohsuke Hagiwara, Takashi Ishida, Daniel Ken Inaoka, Yasushi Amano, Yukihiro Tateishi, Kazuki Ohno, Ichiji Namatame, Tatsuya Niimi, Masaya Orita, Kiyoshi Kita, Yutaka Akiyama, and Masakazu Sekijima
DOI :

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お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院
スマート創薬研究ユニット
ユニットリーダー/准教授
関嶋政和

E-mail : sekijima@c.titech.ac.jp

Tel : 045-924-5104

長崎大学大学院 熱帯医学・グローバルヘルス研究科
研究科長/教授
北潔

E-mail : kitak@nagasaki-u.ac.jp

Tel : 095-819-7575

取材申し込み先

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E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

長崎大学 広報戦略本部

E-mail : kouhou@ml.nagasaki-u.ac.jp

Tel : 095-819-2007 / Fax : 095-819-2156

3種の金属を1ナノメートルの粒子に合金化 ―炭化水素の酸化反応は市販触媒の24倍―

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要点

  • 粒径1ナノメートル(nm)程度の極微小なナノ粒子に3種類の金属を精密に合金化する手法を開発
  • 銅と貴金属群の合金界面が炭化水素の酸化反応で高い触媒活性を示すことを発見

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の山元公寿教授と山梨大学大学院医工農学総合研究部の高橋正樹助教らの研究グループは、銅と白金、金の3種類の金属を精密に制御した合金ナノ粒子の開発に成功した。

また、この粒子が空気中の酸素を利用した炭化水素での酸化反応[用語1]において市販の白金担持カーボン触媒の24倍もの触媒活性を示すことを発見した。この触媒反応では、合金ナノ粒子表面の銅と他の貴金属の界面の存在により、飛躍的に触媒活性が向上することがわかった。

本研究で得られた知見は、新たな高機能触媒の設計指針となる可能性があり、触媒反応を用いた不活性な炭化水素から付加価値の高い物質への変換技術の発展に貢献することが期待される。

この研究は科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業「ERATO山元アトムハイブリッドプロジェクト(山元公寿研究総括)」で実施した。

本成果は、2017年7月26日付(米国東海岸時間)の米国オンライン科学雑誌「Science Advances」に掲載された。

研究の背景

極性官能基を持たない炭化水素化合物の酸化反応には、有害な有機溶媒中で金属の過酸化物を多く使用する手法が用いられてきた。近年、このような溶媒を使用せず、空気中の酸素を用いたクリーンな触媒的酸化反応の研究が盛んに行われている。

なかでも、貴金属のナノ粒子が多孔質のカーボン材料や金属酸化物へ固定された担持触媒の研究は広く行われており、有望な触媒系として期待されている。このような不均一系触媒の反応性を決める上で重要な要素は、金属ナノ粒子の形状やサイズ(粒子径)、金属組成であり、新たな高機能触媒の開発に向けた制御手法が求められている。特に粒子径が2 nm以下の粒子では、触媒の粒子径を小さくしていくと、比表面積が大きくなるだけでなく金属表面の電子状態も大きく変化し、それに伴って反応性が大きく変わることが分かっている。しかし、これまで2 nm以下の金属ナノ粒子の粒子径、組成の両方を制御できる合成法はなかった。今回の研究は、これまで触媒機能が明らかにされてこなかった粒子径が1 nmの合金触媒の合成とその反応性の解明を目的として行い、空気中の酸素を用いた炭化水素の酸化反応の触媒活性を明らかにするとともに、銅と他の貴金属の界面での特異的な触媒活性の向上効果を発見した。

研究成果

山元教授らは、樹状型の規則構造を持つ高分子であるデンドリマーを利用して、複数の金属からなる、1 nm程度の微小な合金ナノ粒子の合成法を開発した。このデンドリマーを用いたナノ粒子合成法[用語2]では、様々な金属の組み合わせで、一般的なナノ粒子の水熱合成などと比較してより粒径の小さく、個々の粒子の合金組成が均一な合金ナノ粒子を合成できる(図)。今回、空気中の酸素分子を酸化剤として用いた際の、常圧下での炭化水素の酸化反応における触媒活性を評価した。その結果、銅原子と他の貴金属からなる合金ナノ粒子が、有機化合物の酸化反応に用いられる市販の白金担持カーボン触媒と比較すると24倍もの活性を有することを見いだした。

また、この触媒は、少量(触媒量)の有機ヒドロペルオキシドを加えることで、常温常圧下で炭化水素のアルデヒドやケトンへの酸化反応を進行させることが分かった。さらに、異なる金属組成による活性の変化や、生成物と中間体であるケトンと有機ヒドロペルオキシドの組成比等を調べることで、金属ナノ粒子の合金化による触媒反応の促進過程を観察することができた。

デンドリマーを用いたナノ粒子合成法

デンドリマーを用いたナノ粒子合成法

今後の展望

本研究で開発した合金ナノ粒子の合成法は、これまで困難であった1 nm前後の合金ナノ粒子の金属組成を適切に制御して合成することができる。

また、この手法はデンドリマー分子に配位させることができる他の金属種へと応用可能で一般性が高い。そのため、今まで触媒機能が不明であった微小なサイズの合金ナノ粒子の反応性を解明する手法としても有用である。銅と他の貴金属界面での触媒活性の向上効果についても炭化水素の酸化反応だけでなく、様々な有機化合物の酸化的変換反応における触媒活性を検討してみる必要があり、より多彩な反応への応用が期待される。

用語説明

[用語1] 炭化水素での酸化反応 : 通常、極性官能基や不飽和結合を持たない炭化水素は非常に安定なC-H結合を有しているため、反応させることは困難である。しかし、反応しやすい構造への分子変換反応を経由しないため、シンプルなプロセスで有用な化合物を合成できる利点があり、有機合成や固体触媒の研究分野で盛んに研究されている。

[用語2] デンドリマーを用いたナノ粒子合成法 : デンドリマーはコア(core)と呼ばれる中心分子と、デンドロン(dendron)と呼ばれる側鎖部分から構成される特殊な樹木型の幾何構造を有する高分子である。一般に高分子はある程度の分子量分布を持つが、高世代のデンドリマーは、分子量数万に達するもののほとんど単一分子量であるという際立った特徴を持つ。金属粒子を得るために金属イオンと複合体を形成できる、ポリアミドアミン構造を持つPAMAMデンドリマーなどは、試薬会社から市販もされているが、本研究は、さらに精密に金属数を規定して複合体形成が可能な、独自設計されたフェニルアゾメチンデンドリマーを用いている。この原子数が明確なデンドリマー-白金イオン複合体を化学的に還元処理すると、原子数が明確な白金粒子が得られている。今回、この配位サイトを持ったデンドリマーを鋳型として、3種類の金属(白金、金、銅)を精密に混合したナノ粒子触媒を合成した。

論文情報

掲載誌 :
Science Advances
論文タイトル :
Finely controlled multimetallic nanocluster catalysts for solvent-free aerobic oxidation of hydrocarbons
著者 :
Masaki Takahashi, Hiromu Koizumi, Wang-Jae Chun, Makoto Kori, Takane Imaoka, Kimihisa Yamamoto
DOI :

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東京工業大学・秋田大学・秋田県医師会の三者間連携協定キックオフフォーラムを開催

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会場の様子
会場の様子

7月25日、東京工業大学、秋田大学、秋田県医師会の三者は、3月29日に締結した連携に関する協定のキックフォーラムを秋田大学で開催しました。 連携協定はそれぞれの持つ教育・研究・医療に関する技術や経験を生かし、医理工分野における連携を強化することで、我が国が直面する超高齢化社会への対応と国民の長寿・健康に資する取り組みを推進するために締結されたものです。

  • 東京工業大学の三島良直学長
    東京工業大学の三島良直学長
  • 秋田大学の山本文雄学長
    秋田大学の山本文雄学長

「長寿・健康研究教育拠点形成を目指して」と題して開かれた本フォーラムでは、始めに各機関代表および来賓から挨拶がありました。まず、東京工業大学の三島良直学長から「理工系の技術を網羅し、最先端の研究を行っている東京工業大学の強みを活かし、地域課題に取り組む二者と緊密に連携することで社会への波及を目指したい」との意気込みが語られました。秋田大学の山本文雄学長は、「今後、連携の具体的な動きを多方面で進めていく予定としており、今回のフォーラムを契機として、自治体・企業等の方々とも協力していきたい」と話しました。続いて、秋田県医師会の小玉弘之会長は、「高齢化の先進県である秋田県の現状を逆手に取り、全国的な先行例となるような秋田モデルの構築を図りたい」と述べました。来賓挨拶では、秋田県の堀井啓一副知事から「健康寿命日本一を目指す秋田県において、本協定は大きな意味を持つ取り組みと考えており、県としても全面的に協力・応援していきたい」とのお話がありました。

  • 秋田県医師会の小玉弘之会長
    秋田県医師会の小玉弘之会長
  • 来賓の堀井啓一秋田県副知事
    来賓の堀井啓一秋田県副知事

続いて、東京工業大学および秋田大学の教員から「先端共同研究による医用工学のイノベーション」「非接触型振動センサーによる心拍・呼吸遠隔管理システム」「微生物を活用した健康・長寿食品の研究開発について」など、実際の連携プロジェクトに関する説明が行われました。参加した自治体・企業関係者らは、新たな健康・医療・福祉関連技術の開発・実証・実用化に向けた情報に関心を寄せていました。

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細野秀雄教授の研究が、高校の化学の教科書に掲載

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科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の細野秀雄教授・元素戦略研究センター長の研究成果が、東京書籍株式会社が出版する高校の化学の教科書2冊に掲載されました。

細野教授はこれまで、液晶ディスプレイや有機ELテレビに使用されているIGZO半導体の創出を始め、常識を覆す鉄系超伝導物質の発見や、電子化物を用いた低温・低圧でのアンモニア合成方法などの研究を行ってきました。

教科書では、これらの研究の原点でもある、ありふれた元素から構成されるセメントの構成物質12CaO・7Al2O3(C12A7)のユニークな結晶構造と、開発された電子伝導性、触媒機能などを紹介し、物質には秘められた大きな可能性をあることを解説しています。これらの教科書は、来年の4月から全国の高校で使用される予定です。

細野秀雄教授のコメント

細野秀雄教授

今回1ページのコラム欄に個人的に最も愛着のあるC12A7を舞台とした機能開拓の話が載ることになり、大変に感激しています。この研究は元素戦略の象徴とも見做されているものです。鉄系超伝導体は既に大学学部用の世界標準的な教科書に載っておりますが、まさか高校の教科書でこの研究を取り上げて頂けるとは想像外でした。

今年になってIGZO-TFTで駆動する大型有機ELテレビが一気に上市され、いろいろなところで見られるようになりつつあります。新しい学術分野の創出とその社会実装を目指してもうひと頑張りしたいと思います。

4月から使用される予定の2冊の教科書

4月から使用される予定の2冊の教科書

物質理工学院

物質理工学院 ―理学系と工学系、2つの分野を包括―
2016年4月に発足した物質理工学院について紹介します。

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学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

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