Quantcast
Channel: 更新情報 --- 研究 | 東工大ニュース | 東京工業大学
Viewing all 2008 articles
Browse latest View live

東工大関係者が平成28年秋の叙勲を受章

$
0
0

平成28年秋の叙勲において、長瀧重義名誉教授が、教育研究の功労に対し瑞宝中綬章を受章しました。また、ウィワット・タンタパニチャクン名誉教授(元・チュラロンコーン大学 工学部化学工学科 教授、元・泰日経済技術振興協会 会長)が、日本・タイ間の学術交流及び相互理解の促進に寄与したとして、旭日中綬章を受章しました。

長瀧重義名誉教授

経歴

長瀧重義名誉教授は、1965年7月に本学 理工学部 助教授(後に理工分離により工学部)に着任し、1980年に同教授となりました。土木工学科において、一貫してコンクリートおよび鉄筋コンクリートの教育・研究に従事しました。コンクリートの高性能化、高機能化を目指し、高強度化、早期強度化、高耐久性化、高流動化について顕著な業績を挙げ、学会等から高く評価されています。また、自身の研究に関連して、セメントを始めとするコンクリートの各種構成材料から、レディーミクストコンクリート、プレキャストコンクリートといった製品までの広い範囲でのJIS制定・改定の委員会を統括するとともに、永きにわたって土木技術専門委員会の委員長を務めました。この業績に対して2002年に藍綬褒章を受章しています。

長瀧重義名誉教授のコメント

長瀧重義名誉教授
長瀧重義名誉教授

1965年は本学土木工学科に初めて2年生として学生を受け入れた年です。そのため、建物を始め研究設備など何も無い状態から学科が発足しました。しかし、それは逆の見方をすれば、伝統や先達に拘束されず、自由に研究テーマを選べることに繋がります。おかげで、若さに任せて研究室の人たちとがむしゃらに研究することができました。家庭で食事をするのは日曜のみ、子供たちの教育も家内に任せっきりでした。しかし、このことで研究室の若い人達との連携が強まり、教育・研究の成果が上がると共に、後継者も育ち、現在、北海道から九州まで20名を超える研究室卒業生が大学の研究者として研究を続けており、他大学の教授から羨ましがられています。また、企業においても研究畑を志望した卒業生が多くみられ、学会の開催地ではいつも楽しく研究室の卒業生と酒を酌み交わしながらの議論が今でも続いています。このような研究環境を許していただいた東工大関係者並びに家族にお礼を申し上げたいと思います。

ウィワット・タンタパニチャクン名誉教授

経歴

ウィワット・タンタパニチャクン名誉教授は、2011年4月から2015年3月の定年退職まで、本学 大学院理工学研究科 化学工学専攻にて常勤教授として奉職しました。日本との関わりは、1968年に文部科学省奨学生(千葉大学 日本語研修生)として来日し、京都大学 工学部 化学工学科での学生時代に始まります。その後、1978年に米国にて博士号を取得後、母国タイに帰国し、チュラロンコン大学講師を経て1993年より同大教授職に就きました。1979年以降、本学のみならず京都大学、金沢大学、大阪大学、東京大学、姫路工業大学、産業技術総合研究所等との学術共同研究に尽力し、日泰の相互理解と友好関係を築いてきました。同時に、タイ側においては泰日経済技術振興協会(元・会長)、タイABK-AOTS同窓会(元・会長)、泰日工業大学等、日本側においては、日泰経済協力協会、アジア文化会館、海外技術者研修協会、日本粉体工業技術協会、粉体工学会、旭硝子財団、省エネルギーセンター、ABK学館日本語学校等々、両国の数々の組織において日泰間の学術交流・相互理解の促進に多大な貢献を果たしました。

ウィワット・タンタパニチャクン名誉教授のコメント

ウィワット・タンタパニチャクン名誉教授
ウィワット・タンタパニチャクン名誉教授

この度の極めて名誉ある叙勲につきましては、驚きとともに喜ばしく、大変光栄に存じます。これも偏に、東京工業大学関係各位、日本の御友人の皆様ならびに日本で交流のあった学生諸君、なかでもタイからの留学生諸君のお力添えのお蔭と存じます。心より御礼申し上げます。

お問い合わせ先

広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

1月6日16:20 カテゴリに「研究」を追加しました。

BS-TBS「夢の鍵」に工学院の鈴森康一教授が出演

$
0
0

工学院 機械系の鈴森康一教授が、BS-TBS「夢の鍵」に出演します。「夢の鍵」は、強い志を持って世界に通用するモノづくりをする人たちを紹介する番組です。

鈴森教授と人工筋肉を使った筋骨格ロボット
鈴森教授と人工筋肉を使った筋骨格ロボット

鈴森康一教授のコメント

私の研究室で開発した人工筋肉と、その成果を活用した東工大発ベンチャー、株式会社s-muscle(エスマスル)について約1か月にわたる継続取材を受けました。開発の思い出、東工大での研究、社内の打ち合わせ、岡山の製紐工場での生産現場、大手メーカとの共同製品企画等々、撮影は多岐に及びました。どんなふうに30分の番組にまとまるのか、ちょっとした不安と期待が入り混じっています。ぜひご覧ください。

  • 番組名
    BS-TBS「夢の鍵」
  • 放送予定日
    2017年1月14日(土) 17:30 - 18:00

関連動画(字幕:英語)

多繊維型人工筋肉で駆動される筋骨格ロボット

20mの長いロボットアーム ―バルーン型ジャコメッティアーム―

軽量でスリムな6脚ジャコメッティロボット

工学院

工学院 ―新たな産業と文明を拓く学問―
2016年4月に新たに発足した工学院について紹介します。

工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

問い合わせ先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

東工大の研究グループが有機ELディスプレイの電子注入層と輸送層用の新物質を開発

$
0
0

有機ELディスプレイの電子注入層と輸送層用の新物質を開発
―有機ELディスプレイの製造への活用に期待―

東京工業大学 科学技術創成研究院の細野秀雄教授らは、国立研究開発法人 科学技術振興機構(以下、JST)戦略的創造研究推進事業において、有機エレクトロニクスに適した新しい酸化物半導体を開発しました。

新物質を使った有機ELが光っている様子

図1. 新物質を使った有機ELが光っている様子

有機半導体は電子親和力[用語1]が小さいため、カソード(陰極)から活性層への電子注入の障壁が高く、有機ELディスプレイでは、これがネックになっています。また、カソード(陰極)から活性層に電子を運ぶ電子輸送層に、移動度が大きく透明な物質がないため、その厚さを大きくできないので短絡が生じやすいという課題がありました。

細野教授らのグループは、IGZO-薄膜トランジスタ(TFT)が有機ELディスプレイにも実装され始めたことを受けて、より安定に動作し、しかも低コストで製造できるプロセスを可能にする電子注入層と電子輸送層用の新物質を透明アモルファス酸化物で実現しました。前者としては金属リチウムと同じ低仕事関数[用語2]を、後者では従来の有機材料よりも3桁以上大きな移動度を持つものです。これらの物質を用いると逆積み構造(陰極が下部)でも順積み構造のデバイスと同等以上の性能を持つ有機ELデバイスが実現できることを示しました。

今回開発した透明酸化物半導体は、いずれも透明で化学的にも安定し、室温で大面積の基板上に透明電極であるITO(透明導電膜)と同様に容易に成膜できます。しかも形成された薄膜はアモルファス(非晶質)のため、表面の平滑性にも優れており、ITO電極上に成膜したこれらの薄膜は一括でウエットエッチング処理が可能で、量産性に優れたプロセス構築が可能です。

本研究は、JSTのACCELの一環として行われ、東京工業大学の金正煥博士、旭硝子株式会社(以下、AGC旭硝子) 技術本部商品開発研究所の渡邉暁博士らと共同で行ったものです。

本研究成果は、米国科学誌『Proceedings of the National Academy of the USA』のオンライン速報版に2016年12月27日に公開されました。

研究の背景と経緯

1996年に細野教授らのグループは結晶並みの大きな電子移動度を持つ透明アモルファス酸化物半導体(TAOS)[用語3]の材料設計指針と実例を報告しました。2004年にはTAOSの1つであるIn-Ga-Zn-O(IGZO、通称イグゾー)を活性層とする薄膜トランジスタ(TFT)[用語4]をプラスチック基板上に作製し、約10 cm2/(V・s)の電界効果移動度が得られることをNature誌に発表しました。この移動度は水素化アモルファスシリコンよりも1桁大きく、スパッターリング法[用語5]で容易に大面積の基板上に作製できることから、ディスプレイ分野で大きな反響を呼び、フラットパネルディスプレイ応用を目指した酸化物TFTの研究が世界的に立ち上がる先陣となりました。そして2012年ごろからスマートフォーン、タブレットPC、高解像液晶ディスプレイへの実用化が始まり、2015年から開発当初の目標であったIGZO-TFTで駆動する大型有機ELテレビの生産が本格的に開始されています。

しかし、現在の有機EL[用語6]ディスプレイには改良すべき課題が沢山あります。その1つは、陰極から如何にスムーズに電子を発光層へ運んで注入するかです。これは、有機発光層の電子親和力が一般に3eVよりも小さいのに対して、陰極に使えるアルミニウムなどの金属の仕事関数はこれよりもずっと大きいため、陰極から発光層へ電子を注入するための障壁が高くなってしまいます。また、電子が移動できるn型の有機電子輸送層は、移動度が10-3 cm2/(Vs)以下で、強く着色し光を透過しにくくします。このため、抵抗を低く抑え、光の取り出し効率を低下させないために、輸送層を薄くしなければなりません。しかし、これが原因でピンホールによって陰極と発光層の短絡が生じやすい原因となっています。

また、IGZOなどの酸化物半導体はn型であり、小型OLEDディスプレイの駆動に使われているp型の多結晶シリコン(LTPS)を駆動用TFTとして用いる場合、デバイスの積層(陰極が上部にくる順積み構造)を逆(陰極がボトム)にした方が素子の安定性や焼きつき防止に有利であることは既に知られています(図2参照)。しかし、逆積みにしても有効に働く電子注入層用の物質がこれまで報告されていませんでした。

駆動用TFTと有機ELとの接続

図2. 駆動用TFTと有機ELとの接続

p型シリコンTFTをそのままn型酸化物TFTで置き換えただけでは、TFTのソースが有機ELに接続してしまうので、有機ELに流れる電流(IOLED、発光強度に比例)が有機ELの特性の変動で変わってしまう。これを避けるためには、陰極と陽極の上下を逆転した逆構造が有利になる。

研究成果の内容

今回開発した新物質は、いずれもありふれた元素のみを成分とするアモルファスの半導体物質です。電子注入層用には仕事関数が小さく、同時に安定という相反する特性が要求されます。本研究グループは、2003年に12CaO・7Al2O3(以下C12A7)を用いて、室温で安定な電子化物(エレクトライド)を初めて実現しました。電子化物は、電子がマイナスイオンとして働く物質の総称です。C12A7電子化物は、元のC12A7とは異なり、高い電子伝導性を示すだけでなく、その仕事関数は2.4 eVと金属カリウムに匹敵する小さい値を持ち、素手で触れられるほど化学的に安定です。しかし、その薄膜の作製には900 ℃以上の高温が必要なため、有機エレクトニクスには応用ができませんでした。

同グループは、緻密に焼き固めたC12A7電子化物の多結晶体をターゲット(図3)にしてスパッタ-リング法で室温にて製膜を行ったところ、得られた薄膜はアモルファスであり、結晶C12A7電子化物と同程度の濃度のアニオン電子を含むことを見いだしました。そして、紫外光電子分光によって求めた仕事関数は3.0 eV(電子ボルト)であり、金属リチウムやカルシウムと同程度でした。可視光領域には大きな吸収帯を持たないため、薄膜は無色透明です。アニオン(陰イオン)電子が特定の原子の軌道を占有しないので、その仕事関数が小さいという電子化物の特徴がアモルファスになっても保持されていることが明らかとなりました。

C12A7エレクトライドのスパッターリング用セラミックスターゲット

図3. C12A7エレクトライドのスパッターリング用セラミックスターゲット

また、電子輸送層用としてアモルファス亜鉛シリケート(a-ZSO)を開発しました。この物質は電子移動度が~1 cm2/(V・s)とn型の有機半導体よりも3桁以上大きく、陰極として使われるITO(透明導電膜)やアルミニウムとオーミック(オームの法則が成り立つような)接触します。そして、仕事関数は3.5 eVと既存の酸化物半導体のいずれよりもかなり小さくなりました(図4)。

有機エレクニクスに関係するいろいろな物質の仕事関数

図4. 有機エレクニクスに関係するいろいろな物質の仕事関数

今回、開発したa-C12A7エレクトライドとa-ZSOは、化学的に安定で、かつ仕事関数が例外的に小さい。また、a-C12A7:eのフェルミレベルが有機半導体の最低空軌道の位置に近く、電子注入に有利なことがわかる。

a-C12A7エレクトライドを電子注入層に、a-ZSOを電子輸送層に用いて、逆積みの有機ELデバイスを作製したところ、広く使われているLiF+Alを用いた順積みデバイスよりも優れた特性を示しました(図5)。また、ZSOは移動度が大きく、かつ透明なことから、厚さを1桁大きくしてもEL特性はほとんど影響を受けないので、これによって陰極と発光層とのピンホールによる短絡を防止することができます。

今回開発したa-C12A7:eとa-ZSOを電子注入、輸送層として用いた逆構造の有機EL素子の電流―電圧特性

図5. 今回開発したa-C12A7:eとa-ZSOを電子注入、輸送層として用いた逆構造の有機EL素子の電流―電圧特性

現在、標準的に用いられているLiF+Alを用いた順構造の素子よりも特性が優れていることが明らかである。

今後の展開

今回、有機エレクロニクス用に開発した2種類の透明アモルファス酸化物半導体a-C12A7エレクトライドは仕事関数が小さく、a-ZSOは電子移動度が大きい、しかも化学的に安定という特長を持ちます。室温で透明な薄膜が、ガラスだけでなくプラスチック上にも容易に形成できます。これらの薄膜は透明電極であるITOを付けた大型の基板上にを連続して成膜が可能で、しかも一括でウエットエッチングできるので、量産性に優れた液晶ディスプレイの製造プロセスを有機ELディスプレイの製造に援用できるというメリットもあります。ここでは有機ELへの応用を示しましたが、照明や太陽電池などのデバイスへの展開も期待されます。

なお、本研究成果は、以下の事業・研究開発課題によって得られました。

国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 ACCEL

  • 研究課題名
    :「エレクトライドの物質科学と応用展開」
  • 研究代表者
    :東京工業大学 元素戦略研究センター センター長 細野秀雄
  • プログラムマネージャー
    :科学技術振興機構 横山壽治
  • 研究開発実施場所
    :東京工業大学
  • 研究開発期間
    :2013年10月~2018年3月

用語説明

[用語1] 電子親和力 : 最低非占有分子軌道のレベルと真空準位のエネルギー差。

[用語2] 仕事関数 : 物質表面において、表面から1個の電子を外部に取り出すのに必要な最小エネルギー。固体の内部から真空中に電子を取り出すに必要な最小のエネルギー。この値が小さいほど、電子を外部に放出しやすい。

[用語3] 透明アモルファス酸化物半導体(TAOS) : Transparent Amorphous Oxide Semiconductor。

[用語4] 薄膜トランジスタ(TFT) : 半導体薄膜上に2つの電極(ソートとドレイン)をつけ、その間に誘電体を載せて、それに印加する電圧で、ソースとドレインの間に流れる電流を制御する素子で、回路のスイッチとして機能する。ディスプレイの1画素には最低でも2つのTFTが用いられている。

[用語5] スパッターリング法 : 薄膜化したい物質に真空下・高電圧でイオン化したアルゴンなどを衝突させることで製膜する汎用の技術。量産性に優れていることから、工業的に最も使われている。

[用語6] 有機EL : 有機物の発光層の薄膜を電極で挟み込んだ構造をもち、陽極から正孔、陰極から電子を注入し有機層で再結合させる発光する素子。液晶と異なり電流を流すことで自発光する。次世代ディスプレイの本命と目されている。OLED(有機発光ダイオード)と呼ばれる製品一般も指す。

論文情報

掲載誌 :
Proceedings of the National Academy of the USA
論文タイトル :
Transparent amorphous oxide semiconductors for organic electronics: Application to inverted OLEDs
(有機エレクトニクス用透明アモルファス酸化物半導体:逆積み有機LEDへの応用)
著者 :
Hideo Hosono, Junghwan Kim, Yoshitake Toda, Toshio Kamiya and Satoru Watanabe
DOI :

お問い合わせ先

広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

東工大を含む日仏8大学、フランスCNRSによる国際共同研究所の発足調印式を開催

$
0
0

東京工業大学は、東京大学、東北大学、京都大学と共同で、フランスの国立科学研究センター(CNRS)並びにフランスの4大学(レンヌ第1大学、ナント大学、ベルサイユ大学、メーヌ大学(ル・マン))と合同で、新しい国際共同研究所(LIA)開設のための協定に調印しました(大学側取りまとめ担当はレンヌ第1大学と東京大学)。2016年12月12日の夕刻に東京の駐日フランス大使公邸において、ティエリー・ダナ駐日フランス大使、CNRS物理部門総責任者のニール・ケラー教授立ち合いのもと、三島良直学長(出張のため事前に署名)、安藤真理事・副学長(研究担当)、岡田哲男理学院長が署名をしました。

国際共同研究所(LIA IM-LED):The International Associated Laboratory "Impacting materials with light and electric fields and watching real time dynamics"の略。超短光パルスや電場に対する新しい物質の応答を開拓するとともにその評価システムの開発も行う研究所。

調印式でサインをする安藤理事・副学長
調印式でサインをする安藤理事・副学長

調印式でサインをする岡田理学院長
調印式でサインをする岡田理学院長

ダナ駐日フランス大使(前列左から6番目)、CNRSのケラー教授(前列左から7番目)とともに関係する全大学の主要責任者と安藤理事・副学長による記念写真
ダナ駐日フランス大使(前列左から6番目)、CNRSのケラー教授(前列左から7番目)とともに関係する全大学の主要責任者と
安藤理事・副学長による記念写真

この新形態の国際連携研究所では、日仏の8大学の研究者がCNRSの仲立ちのもと密接に協力していきます。目的は、超高速光パルスと電場(テラヘルツ光など)に応答する新しい機能物質の開拓、並びにそのために必要不可欠である、超高速で発生する物性変化を評価するための新手法を開発する、という2点です。本学からは、理学院の腰原伸也教授(理学院化学系担当、科学技術創成研究院兼務)、沖本洋一准教授、石川忠彦助教、馬ノ段月果さん(理学院 化学系 博士後期課程1年)、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)の恩田健研究員(本学 理学国際教育研究流動機構 流動研究員)が参加しています。

腰原教授のプレゼンテーション

腰原教授のプレゼンテーション

調印式に先立ち、午後に駐日フランス大使館ホールで記念シンポジウムが開催されました。駐日フランス大使館のジャック・マルヴァル科学技術参事官から、本協定とそれに基づく新しい形の国際共同研究所への期待が述べられ、その後大学側取りまとめ役(日本側:東京大学の大越慎一教授、フランス側:レンヌ第1大学のエリック・コレ教授)並びに各大学担当者から、本協定に至る歴史的経緯や詳細な学術内容の紹介が行われました。東工大からは腰原教授が、高効率・超高速光情報制御や、光エネルギー変換過程の観測に関する、プロジェクトの研究目標を中心とした研究概要のプレゼンテーションを行いました。

また、参加大学の副学長からそれぞれの大学の特色が紹介されるなど、クリスマスの華やかな飾りがきらめく和やかな雰囲気の中でシンポジウムが進められました。その中で、この協定の源となる日仏大学間協定が、20有余年前に、ポーランドのブロツワフ工科大学のタデウシュ・ミハエル・ルーティー教授(当時。現名誉教授・元学長)の仲立ちで、本学の腰原教授とレンヌ第1大学のヘルベ・カイヨ教授(当時。現名誉教授)の間で始まったという話題が出ました。その後この交流が、他の多くの分野の学内外関係者の協力によって、全学交流協定やエラスムスプログラム(MaMaSELF:Master in material science exploring large scale facilities(大規模研究施設を用いた物質科学分野研究に携わる修士課程人材育成プログラム))の一部参加へと発展した経緯が、レンヌ第1大学のコレ教授から紹介されました。

クリスマスツリーが飾られた大使館ホールでのシンポジウム参加者集合写真
クリスマスツリーが飾られた大使館ホールでのシンポジウム参加者集合写真

祝賀カクテルパーティーで歓談する参加者

祝賀カクテルパーティーで歓談する参加者

調印式に引き続き、大使公邸で大使主催の盛大な祝賀カクテルパーティーが開催され、参加者の間では、今後の共同研究、日仏の大学文化の差異、今後の国際協力の進め方など、有意義な議論が夜更けまで行われました。

CNRS東京支部のセシル・浅沼(ブレス代表)(一番左)、フランス大使館科学技術参事官のマルヴァル博士(右から2番目)、フランス側大学とりまとめ役のレンヌ第一大学コレ教授(一番右)ら
CNRS東京支部のセシル・浅沼-ブレス代表(一番左)、
フランス大使館科学技術参事官のマルヴァル博士(右から2番目)、
フランス側大学とりまとめ役のレンヌ第一大学コレ教授(一番右)ら

本協定の礎を築いてきたメンバー:左から東工大の森健彦教授、CNRSのケラー物理部門総責任者、東工大の榎敏明名誉教授、レンヌ第1大学のカイヨ名誉教授
本協定の礎を築いてきたメンバー:左から東工大の森健彦教授、
CNRSのケラー物理部門総責任者、東工大の榎敏明名誉教授、
レンヌ第1大学のカイヨ名誉教授

お問い合わせ先

広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

JSPSが本学の科研費審査委員4名を表彰

$
0
0

本学教員4名が独立行政法人日本学術振興会(JSPS)より平成28年度科研費(科学研究費助成事業)審査委員の表彰を受け、12月19日に三島良直学長から表彰状が手渡されました。

今回表彰された教員は次のとおりです。

  • 理学院 江口正教授
  • 工学院 植松友彦教授
  • 工学院 安岡康一教授
  • 環境・社会理工学院 岩波光保教授

審査委員の表彰とは

JSPSは、学術研究の振興を目的とした科研費の業務を行っています。

科研費の配分審査は、専門的見地から第1段審査(書面審査)と第2段審査(合議審査)の2段階で行われますが、公正・公平な審査が行わるよう、審査の質を高めていくことは大変重要です。そのため、同会設置の学術システム研究センターにおいて、審査終了後、審査の検証が行われています。

さらに平成20年度からは、検証結果に基づき、第2段審査(合議審査)に有意義な審査意見を付した第1段審査(書面審査)委員を選考し、表彰することとされています。平成28年度は約5,700名の第1段審査(書面審査)委員の中から268名が表彰されました。

学長らとの記念撮影

学長らとの記念撮影

お問い合わせ先

研究企画課研究推進グループ

E-mail : efund@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3806

前田和彦准教授と中戸川仁准教授が第13回日本学術振興会賞を受賞

$
0
0

理学院の前田和彦准教授と生命理工学院の中戸川仁准教授が、第13回日本学術振興会賞を受賞しました。

日本学術振興会賞とは

同賞は、独立行政法人日本学術振興会が、優れた研究を進めている若手研究者を見い出し、早い段階から顕彰してその研究意欲を高め、独創的、先駆的な研究を支援することにより、我が国の学術研究の水準を世界のトップレベルにおいて発展させることを目的に2004年に創設されたものです。

受賞対象者は、人文・社会科学及び自然科学の全分野において、45歳未満で博士又は博士と同等以上の学術研究能力を有する者のうち、論文等の研究業績により学術上特に優れた成果をあげている研究者となっています。 受賞者には賞状、賞牌及び副賞として研究奨励金110万円が贈呈されます。

記念受賞式は2017年2月8日に日本学士院にて開催される予定です。

前田和彦准教授

受賞研究業績

「半導体光触媒を中核とした人工光合成系の開発」

前田准教授は、水を可視光分解して水素を生成する半導体光触媒や、二酸化炭素を可視光エネルギーだけで燃料物質に変換する新しい光触媒を、独自の発想と方法で開発することに成功しました。太陽光の主成分である可視光を吸収して水を分解する半導体光触媒の開発は、水素エネルギー製造の観点から重要な課題です。従来、バンドギャップの広い紫外光応答型の光触媒は数多く開発されてきましたが、よりバンドギャップの狭い可視光を吸収して水を分解できる光触媒は皆無でした。前田准教授は、各々単独では可視光を吸収しない窒化ガリウムと酸化亜鉛を組み合わせて固溶体とすることによってバンドギャップが縮まることを予測し、可視光を吸収して水を分解できる光触媒の開発に成功しました。さらに、複数の金属成分を助触媒に組み込むという新たな着想により、可視光による水分解の量子効率を飛躍的に向上させただけでなく、有機半導体も安定な可視光応答型触媒となり得ることを予見し、窒化炭素を金属錯体助触媒と結合させた新しい光触媒の開発にも成功しました。従来技術では、安定な二酸化炭素分子を活性化するためには高温高圧が必要でしたが、前田准教授が開発したこの触媒は、可視光エネルギーを利用して、常温常圧下で二酸化炭素をエネルギーキャリアとして有用なギ酸へと高効率高選択に変換することを可能にしました。

受賞コメント

前田和彦准教授
前田和彦准教授

栄えある日本学術振興会賞を受賞することができ、大変光栄に思います。受賞対象となった半導体光触媒を用いた人工光合成に関する研究は、私のライフワークともいうべきもので、10年以上継続して取り組んできた一連の成果が認められたことに大きな喜びを感じています。受賞にあたり、学生時代にお世話になった指導教員の先生方、共同研究者の方々、共に実験に取り組んだ学生諸子、そして日々支えてくれた家族・友人らに感謝いたします。今回の受賞を励みとして、今後も研究・教育活動に励んで参ります。

中戸川仁准教授

受賞研究業績

オートファジーの分子基盤の生化学的解明

生体内で不要となった成分を細胞の自食作用によって分解する「オートファジー」現象は、1950年代に発見されました。2016年ノーベル医学・生理学賞を受賞した大隅良典栄誉教授の出芽酵母の遺伝学的研究により、この現象に関わる多数の Atg 遺伝子群が同定され、分子的理解が加速的に進みました。また、近年、マウスなどのモデル生物を用いた研究により哺乳動物における生理的重要性なども示されましたが、その生化学的実態ついては長い間不明のままでした。中戸川准教授は、オートファジー反応において不要物を包む「オートファゴソーム」と呼ばれる脂質膜の形成機構を生化学的手法により解明することに成功しました。すなわち、この反応に関わるユビキチン様タンパク質Atg8が、Atg12-Atg5結合体の酵素活性により脂質分子ホスファチジルエタノールアミン(PE)と結合するメカニズムを解明し、試験管内再構成系を用いてAtg8-PE結合体が、実際に、人工膜小胞を繋ぎ合わせ半融合させる機能を有することを証明しました。さらに、特定の標的を認識して分解する選択的オートファジーという新しい現象の分子機構を解明し、Atg39、Atg40が核および小胞体の分解に関わることも明らかにするなど、この分野において大きな業績を上げました。

受賞コメント

中戸川仁准教授
中戸川仁准教授

このたび、日本学術振興会賞という栄誉ある賞をいただくことになり、大変光栄に存じます。これまでお世話になりました先生方、同僚、また一緒に研究を進めてきてくれた学生たちに深く感謝致します。本賞では、オートファジーが起こる仕組みに関するこれまでの研究成果を評価していただきました。オートファジーといえば、本学の大隅良典栄誉教授が2016年にノーベル賞を受賞されたことで、一躍多くの方の知るところとなった生命現象ですが、そのメカニズムも、生理的役割や疾患との関連についても、まだわかっていないことの方が多く残されています。今後も引き続き、オートファジーの謎の解明に全力を尽くしていきます。

脳の市民研究制度『BHQスクール』を開設

$
0
0

脳の市民研究制度『BHQスクール』を開設
―脳を健康にするライフスタイルを発掘するシティズンサイエンスの立ち上げ―

東京工業大学及び京都大学が参加している内閣府の革新的研究開発推進プログラム(ImPACT 山川プログラム)の企画の下、一般社団法人ブレインインパクト(理事長:山川義徳)(以下、「ブレインインパクト」といいます。)が、脳を健康にするライフスタイルを科学的に発掘するための活動の一環として、脳の市民研究制度『BHQスクール』を開始いたします。

BHQスクールでは、これまで専門家によって進められてきた脳の健康に関する研究に、一般の方々にも市民研究としてご参加いただきます。この市民研究では、ImPACT 山川プログラムが国際標準規格として提案している手法で開発された脳の健康指標(BHQ:Brain Healthcare Quotient)を用いることで、例えば、脳の健康状態に応じた食事や運動の方法、脳の健康を守るために最適な睡眠時間、脳の健康によい趣味や生活環境など、脳の健康を維持・向上させる様々なソリューションの発掘及び実証を行います。また市民による研究活動を専門家の視点からも科学することで、脳の健康に関する新しい研究の方向性も探索いたします。このようにBHQスクールを通じて、深い学術的知見を有する脳の専門家と多様な視点を持った市民の科学との交流という新たな研究開発スタイルを実践してまいります。

具体的に、BHQスクール参加者は、BHQ取得のためMRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像法)による撮像を行い、「ご自身のBHQ」や「BHQから推定される脳年齢」等の情報からご自身の脳の健康状態を知ることができます。加えて、自らの生活改善によるBHQ変化を参加者同士で共有することで、脳によいライフスタイルの科学的発掘及び実証を進めるものです。

一般社団法人ブレインインパクトは、内閣府 総合科学技術・イノベーション会議(CSTI) 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「脳情報の可視化と制御による活力溢れる生活の実現」(プログラム・マネージャー:山川義徳)(本リリースでは、「ImPACT 山川プログラム」といいます。)の研究成果の社会実装を担う法人です。
脳の健康指数(BHQ)を通じた専門家の科学と市民の科学の交流

脳の健康指標(BHQ)について評価

ImPACT 山川プログラムでは、国際標準化団体ITUとWHOが連携し進めているeHealthの検討枠組みの中で、脳の健康指標の共有や取り扱いなどの標準規格の提案を行っています。その標準規格として提案する手法に基づき、脳画像から脳の健康状態を示すBHQ(Brain Healthcare Quotient)という指標を開発しました。

BHQスクールでは、参加者ご自身の大脳皮質の量を指標化したGM-BHQと、神経線維の質を指標化したFA-BHQを活用いただきます。GM-BHQは、脳の灰白質と呼ばれる領域の神経細胞の広がり具合を指標化したもので、様々な学習に対する頭の柔らかさを示していると考えられます。一方、FA-BHQは、脳の白質と呼ばれる領域における神経線維のまとまり具合を指標化したもので、脳における情報の伝達効率を示していると考えられます(下図)。BHQは病気の診断や治療など医療行為として活用されるものではありませんが、今後、BHQスクールで研究を進めることで、指標の確からしさや利便性の向上に努めます。また、多様な生活シーンに応じた新たなBHQの開発も行うことで、BHQが広く社会で利用されるものになるよう進めてまいります。

脳の健康指標(BHQ)について評価

BHQを通じた脳の健康状態の把握

ImPACT 山川プログラムでは、既に約150人分のBHQデータを解析し、全体的には年齢が高いほどBHQが低下する傾向があることを確認しました(下図)。これは年齢による脳の衰えを反映していると考えられ、BHQが脳の健康状態を表す指標として適切であることを示しています。

これらのデータを用いて、BHQスクールでは、参加者の皆様の脳が統計的に見て何歳程度に相当するかを推定脳年齢として算出いたします。それによって、実年齢に比べて脳の健康がどのような状態にあるかを把握することが容易になります。さらに、今回の制度を通してより多くの方のBHQを測定することで、将来的には加齢によって脳の健康がどのように変化するかなども明らかにできると考えています。

BHQを通じた脳の健康状態の把握

脳の健康によいライフスタイルの可能性

ImPACT 山川プログラムでは、これまでに、企業を対象とした「BHQチャレンジ」(旧「Brain Healthcare チャレンジ」 2017年より名称を変更)として、非医療分野の製品やサービスを用いた脳の健康によいアイデアを幅広く募集し、提案内容が脳の健康に与える影響を科学的観点から評価する活動を行ってきました。2015年の実施では、評価指標にGM-BHQとFA-BHQを用いて、オフィスでのストレッチやアートセラピーなど5つのアイデアについて、脳の健康への影響を評価しました(下図)。

BHQスクールではこれらのデータをもとに、参加者それぞれのBHQに応じて効果が高いと予測されるライフスタイル情報を共有いたします。参加者の方々にはその情報を参考にしていただき、ご自身のアイデアを持って研究を行っていただきます。このように、取り組みの全体的な結果も参加者で共有することで、個々人の職業や生活習慣に応じた脳の健康状態に応じたソリューションを明らかにしていきます。

脳の健康によいライフスタイルの可能性

BHQスクールでの市民科学の進め方について

BHQスクール参加者は、BHQ取得のためMRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像法)による撮像を行い、「ご自身のBHQ」や「BHQから推定される脳年齢」等の情報からご自身の脳の健康状態を知っていただけます。加えて、自らの生活改善によるBHQ変化を参加者同士で共有することで、脳によいライフスタイルの科学的発掘及び実証を進めます。これら情報からご自身の脳の健康状態を知ることに加え、自らの生活改善によるBHQ変化についての情報を参加者同士で共有いただけます。情報の共有により、参加者個人それぞれが脳によいライフスタイルの科学的発掘及び実証を進めていきます。

BHQスクールは現在、招待制で取り組みの開発を進めています(ブレインインパクトが運営する、ImPACT 山川プログラムの成果の社会実装推進を議論する企業参加のコンソーシアム『B3C会議』の会員が主な参加者になっています)。一般の方の参加につきましては、もうしばらくお待ちください。
BHQスクールの取り組みについての取材等のお申込みにつきましては、ブレインインパクト問い合わせ先窓口(impact@bi-lab.org)までご連絡ください。

BHQスクールの企画・運営、大学の役割について

BHQスクールは、ImPACT 山川プログラムの企画の下、ブレインインパクトが運営を担い、京都大学、東京工業大学等と連携して開催いたします。各大学はそれぞれImPACT 山川プログラムに参加しており(研究責任者:京都大学こころの未来研究センター 特定准教授 阿部修士、東京工業大学科学技術創成研究院 教授 小池康晴)、本プロジェクトにはMRIの撮像拠点として参加し、複数拠点でも運用可能な標準的な脳情報の蓄積と解析の手法の開発等に取り組み、脳情報のインフラ基盤構築を進めます。今後もより多くの拠点に参加いただけるよう連携を進めてまいります。

一般社団法人ブレインインパクトについて

一般社団法人ブレインインパクトは、ImPACT 山川プログラムの研究開発成果の社会実装を加速することを目的の一つとして2016年3月に設立された法人です。当プログラムと連携し、異業種企業との共同研究支援の他、BHQチャレンジの活動支援、外部資金の調達、標準化や人材育成などの研究開発支援といった活動を行い、当プログラムの目標である脳情報を活用した新産業の創出の実現に向けた歩みを支援しています。

市民科学について
市民科学(シティズンサイエンス)とは、専門家だけではなく、一般市民も学術研究などの研究活動に参画することを意味します。
BHQレポート(サンプル)

BHQレポート(サンプル)

お問い合わせ先

一般社団法人ブレインインパクト 岡宏樹

E-mail : impact@bi-lab.org

広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

NHK BSプレミアム「コズミックフロントNEXT」に理学院の奥住聡准教授が出演

$
0
0

理学院 地球惑星科学系の奥住聡准教授が、NHK BSプレミアム「コズミックフロントNEXT」に出演します。

当番組は、毎回、宇宙にまつわる謎に迫り、宇宙科学、天文学や科学史・技術史などの観点からひも解いていく科学番組です。今回は「惑星誕生のミステリー 1%の奇跡」と題して、奥住聡教授が研究する「微惑星の形成シミュレーション」について紹介します。

奥住聡准教授
奥住聡准教授

奥住聡准教授のコメント

地球をはじめとする惑星は、もともとは目に見えないくらい小さなチリの粒でした。チリの粒が寄せ集まって巨大な惑星へと成長するまでの道のりは険しく、その全体像は多くの謎に包まれています。今回の番組では、私たちがコンピューターシミュレーションを駆使して取り組んできた「惑星誕生の謎解き」と、最新鋭の望遠鏡が目撃した新たな惑星誕生の謎についてご紹介します。ぜひご覧ください。

  • 番組名
    NHK BSプレミアム「コズミックフロントNEXT」
  • タイトル
    「惑星誕生のミステリー 1%の奇跡」
  • 放送予定日
    2017年1月26日(木) 22:00 - 22:59
    (再放送)2017年2月2日(木) 0:00 - 0:59

問い合わせ先

広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975


ニュースレター「AES News」No.8 2017冬号発行

$
0
0

科学技術創成研究院 先進エネルギー国際研究(AES)センターouterは、ニュースレター「AES News」No.8 2017冬号を発行しました。

AESセンターは、従来の大学研究の枠組みを越えて、企業、行政、市民などが対等な立場で参加する研究拠点である「オープンイノベーション」を推進しています。ここでは、低炭素社会実現のための研究プロジェクトを創生することを大きな目的の一つとしています。

本学教員と本センター企業・自治体が連携し、既存の社会インフラを活かしながら革新的な省エネ・新エネ技術を取り入れ、安定したエネルギー利用環境を実現する先進エネルギーシステムの確立を目指しています。

本センターの活動を、より多くの方々にご理解いただき、また、会員および本学教職員の連携を深めるために、ニュースレター「AES News」を2015年度より季刊誌として発行しています。今回は第8号となる2017年冬号をご案内します。

また、今回は同AES Newsの内容向上を目指し、アンケートを実施することとしました。是非ご協力をお願いします。

AES Newsに関するアンケートouter

ニュースレター「AES News」第8号 2017冬号

第8号・2017冬号

  • 環境・社会理工学院 後藤美香教授
    巻頭記事「地域の経済発展とエネルギー供給の多様性」
  • AES開催報告(2016年10月~11月)
  • 共催・協力・後援等活動(2016年12月)
  • 2016・2017年度AES活動
  • 過去号の紹介とアンケートのお願い

ニューレターの入手方法

PDF版

資料ダウンロード | 先進エネルギー国際研究センター(AESセンター)outer

バックナンバーもリンク先よりご覧いただけます。
冊子版
  • 大岡山キャンパス:東工大百年記念館1階 閲覧コーナー
  • すずかけ台キャンパス:すずかけ台大学会館1階 広報コーナー

お問い合わせ先

科学技術創成研究院 先進エネルギー国際研究(AES)センター

Email : aescenter@ssr.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3429

内閣府ImPACTタフ・ロボティクス・チャレンジによる油圧駆動ハイパワー人工筋肉の開発

$
0
0

内閣府総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)タフ・ロボティクス・チャレンジ(プログラム・マネージャー:田所諭)の一環として、東京工業大学 鈴森康一(すずもりこういち)教授と株式会社ブリヂストン 櫻井良(さくらいりょう)フェローらの研究チームは、極限の災害現場で活躍可能なタフなロボット実現のカギの一つである油圧駆動のハイパワー人工筋肉の開発に成功しました。今回開発した人工筋肉は材料にゴムチューブを用いることにより軽量かつ衝撃や振動に強く、大きな力を出すことができます。この人工筋肉を用いることで、コンパクトで省エネ型のタフなロボットの実現が可能になります。また、将来的には、今までにない小型軽量で高出力の産業用・家庭用ロボットへの展開も期待されます。

ポイント

  • 「軽くて強い力」―超軽量、ハイパワー(従来の電気モータや油圧シリンダに比べ約5~10倍の大きな「力/自重比」)。
  • 「丈夫で壊れにくい」―高耐久性・高耐油性ゴムによる高い耐衝撃性と耐振動性を実現。
  • 「優しくて力持ち」―大きな力も細かな力も多彩な作業や制御が可能。産業用および家庭用ロボット等幅広い用途への発展も期待されます。

研究の背景と目的

ImPACTタフ・ロボティクス・チャレンジでは、東日本大震災、阪神淡路大震災など、災害時の極限環境においても人命救助や安全確保に効果を発揮できるタフでへこたれない「タフロボット」の実現を目指しています。現在のロボットを災害環境下へ適用する際には、「現場で動けない」、「現場の状況が不明」、「失敗すると全体が破綻」、「作業条件が合わない」等が課題として挙げられ、それらの課題の克服が本プログラムの目標達成のために必要です。

本プログラムでは、災害現場のような過酷な環境下でも壊れにくく、機動性に富み、大きな力を使って災害復旧などに活躍できる「タフロボット」の実現を目指し、そのキーコンポーネントの一つである「タフ油圧アクチュエータ」の研究開発を進めています。アクチュエータとは、モータやシリンダに代表される「動きや力」を発生する装置の総称です。現在の大多数のロボットは民生用を中心に広く使用されている技術の延長として電気モータで駆動されますが、構造上、(1)「力/自重比」(発生力をアクチュエータの重量で割った値)が低い(重くて力が弱い)、(2)外部からの衝撃や振動に弱い(壊れやすい)、(3)状況に応じて大きな力を出すと同時に柔らかく動くことが難しい、という問題がありました。

上記の問題を踏まえ、東京工業大学とブリヂストンは、大きな力を出すことができ、かつ作業に応じて柔らかく動くことも可能な人間の筋肉に着目し、それを人工的に再現することを試みてきました。さらに人間では出し得ないような高い出力を目指すアプローチにより、平成26年度より共同して「ハイパワー人工筋肉」の研究開発を進めてきました。この人工筋肉は、ゴムチューブと高張力繊維から構成され、油圧で動作します。ゴムチューブと高張力繊維によりなめらかな動きを実現するとともに、油圧での動作を可能とすることで高い「力/自重比」、高い耐衝撃性/振動性、さらに、作業に応じて柔らかい動作も可能、といった特徴を有します。

外部からの衝撃や振動に対して頑強で、大きな力作業が行え、必要に応じて微妙な力の制御が必要な作業も丁寧にこなすことができる、従来に比べて格段に「タフな」ロボット実現に新しい道を拓くものです。

研究成果の概要

今回開発に成功したハイパワー人工筋肉は、「マッキベン型」と呼ばれるタイプの人工筋肉です。図1に示すように、ゴムチューブとその外周に編み込んだスリーブ(多数の繊維を円筒状に組み上げたもの)から構成されます。通常のマッキベン型人工筋肉は0.3 - 0.6 MPa(≒3 - 6 kgf/cm2)の空気圧で動作しますが、今回開発した人工筋肉では、油圧での駆動を可能とし、通常のマッキベン型人工筋肉より遙かに高い5 MPa(≒50 kgf/cm2)の圧力での動作を実現することで、格段に大きな力を発生させることに成功しました。研究チームでは、(1)優れた耐油性と変形特性を持つゴム素材を新たに開発するとともに、(2)高張力の化学繊維の編み方を工夫し、(3)高圧に耐えうるチューブ端末締め付け技術の開発に取り組みました。この結果、耐圧性と耐油性を高いレベルで両立させ、また、高い油圧を効率よく力の発生に変換できる、革新的軽量ハイパワー人工筋肉を実現しました。これは、従来の電気モータや油圧シリンダに比べて約5~10倍の大きな「力/自重比」の発現が可能な革新的なアクチュエータです。

マッキベン型人工筋肉の構造

図1. マッキベン型人工筋肉の構造

今回開発した人工筋肉は、ゴムチューブと編み込まれたスリーブにより構成されることから、外部からの激しい衝撃や振動に対して頑強であることも大きな特徴です。従来の電気モータで駆動されるロボットでは難しかった衝撃の加わる作業(例えば、インパクトドリルを使った壁の穴あけ作業や、コンクリート壁等の斫り(はつり)作業)が行えるタフロボットの実現が期待されます。

開発した人工筋肉の一例について、図2に動作の様子を、図3に特性をそれぞれ示します。図4には、簡単なロボット関節への応用例を示します。

開発した「油圧ハイパワー人工筋肉」の動作例

図2. 開発した「油圧ハイパワー人工筋肉」の動作例

開発した人工筋肉の特性(外径15 mm、最大収縮力 7 kN(=700 kgf)、最大収縮率30%)(注:収縮率とは人工筋肉の収縮量を人工筋肉の元の長さで割った割合)
図3.
開発した人工筋肉の特性(外径15 mm、最大収縮力 7 kN(=700 kgf)、最大収縮率30%)(注:収縮率とは人工筋肉の収縮量を人工筋肉の元の長さで割った割合)
ロボットアームへの応用例(左:2本の人工筋肉を用いたロボットアーム、右:6本の人工筋肉を用いたロボットの手首部)

図4. ロボットアームへの応用例(左:2本の人工筋肉を用いたロボットアーム、右:6本の人工筋肉を用いたロボットの手首部)

人工筋肉を使用したロボットを用いたドリルによるコンクリート破砕デモの様子

今後の展開

今後、本人工筋肉を用いたタフロボットの開発・実用化を進め、安全安心社会と高度なロボットサービスの実現、普及に貢献します。またさらなる高性能化を目指し、産業用・家庭用ロボットのアクチュエータとしても幅広く普及、展開を目指します。

本成果は、以下の事業・研究プロジェクトによって得られました。

プロジェクトロゴ

内閣府 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)outer

プログラム・マネージャー:
田所諭
研究開発プログラム:
タフ・ロボティクス・チャレンジ
研究開発課題:
高出力人工筋肉の開発
研究開発責任者:
鈴森康一
研究期間:
平成26年度~平成30年度

本研究開発課題では、タフ・ロボットを実現するために不可欠な要素技術である、高出力高精度な油圧アクチュエータの開発に取り組んでいます。

田所諭 ImPACTプログラム・マネージャーのコメント

田所諭 ImPACTプログラム・マネージャー

ImPACTタフ・ロボティクス・チャレンジは、災害の予防・緊急対応・復旧、人命救助、人道貢献のためのロボットに必要不可欠な、「タフで、へこたれない」さまざまな技術を創りだし、防災における社会的イノベーションとともに、新事業創出による産業的イノベーションを興すことを目的とし、プロジェクト研究開発を推進しています。

災害環境で作業を行うロボットには、軽量で高出力であること、高精度に大きな力を制御できること、十分な耐衝撃性を持つこと、など、屋内や工場などとは異なる「機械的なタフさ」が求められます。その実現のためには、電気モータと減速機を用いる方式では限界があり、油圧アクチュエータは不可欠の要素技術です。本研究は、5 MPaの油圧によって駆動することができる新しいマッキベン型の人工筋肉を開発したものであり、軽量でありながら従来の方式と比べて飛躍的に高い力を発生することができます。また、高精度制御で問題となる摺動摩擦を小さく抑えることができ、衝撃にも強いという特徴を有しています。このコンポーネントによって、災害などのきびしい環境下でのロボットの実用化が飛躍的に進むと期待されます。

工学院

工学院 ―新たな産業と文明を拓く学問―
2016年4月に新たに発足した工学院について紹介します。

工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

(技術・研究に関すること)

東京工業大学 工学院 機械系
教授 鈴森康一

E-mail : suzumori@mes.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3177

株式会社ブリヂストン イノベーション本部
イノベーションマネジメント部
櫻井良

E-mail : ryo.sakurai1@bridgestone.com
Tel : 042-342-6186

(ImPACTの事業に関すること)

内閣府 革新的研究開発推進プログラム担当室

Tel : 03-6257-1339

(ImPACTプログラム内容およびPMに関すること)

科学技術振興機構 革新的研究開発推進室

E-mail : impact@jst.go.jp
Tel : 03-6380-9012 / Fax : 03-6380-8263

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

株式会社ブリヂストン 広報部 広報第2課

E-mail : pr.japan@bridgestone.com
Tel : 03-6836-3333

科学技術振興機構 広報課

E-mail : jstkoho@jst.go.jp
Tel : 03-5214-8404 / Fax : 03-5214-8432

パワーデバイス内部の電界を正確に計測することに成功―さらなる省エネ化に期待―

$
0
0

ポイント

  • 窒素-空孔センターの電子スピンレベルの変化を使った新たな電界センサーを開発し、デバイス内部の電界を直接観察することに成功した。
  • 原子レベルセンサーをデバイス内部に形成することで、デバイス性能を損なわず、定量的かつ高空間分解能計測を実現した。
  • ワイドバンドギャップ半導体による省エネルギーパワーデバイス開発の促進が期待できる。

概要

JST戦略的創造研究推進事業の一環として、東京工業大学の岩崎孝之助教と波多野睦子教授、産業技術総合研究所 先進パワーエレクトロニクス研究センター 牧野俊晴研究チーム長らのグループは、ダイヤモンドパワーデバイス[用語1]内部に原子レベルの構造である窒素-空孔(NV)センター[用語2]を形成し、高電圧動作中のパワーデバイス内部の電界強度を定量的にナノメートルスケールで計測することに世界で初めて成功しました。

低炭素社会への貢献が大きいパワーデバイスは、従来のSi(シリコン)半導体から、SiC(炭化ケイ素)、GaN(窒素ガリウム)、ダイヤモンドなどのワイドバンドギャップ半導体[用語3]を使った次世代パワーデバイスへ置き換えることで、さらに大幅な省エネ化、機器の小型化が実現できます。パワーデバイスは大きな電圧を保持することが重要な性能となりますが、これまでに電圧をかけたときのデバイス内部の電界を定量的に計測することができませんでした。

研究グループは、原子サイズのNVセンターの電子スピン[用語4]レベルを電界で変化させる新たな電界センサーを提案し、パワーデバイスの内部に形成させた状態で光を検出することにより、デバイス内部の電界を定量的にその場で計測できることを実証しました。デバイスシミュレーションが困難な状況への適用も期待でき、パワーデバイスの動作計測を通して、次世代低損失パワーエレクトロニクス実現への貢献が期待できます。

本研究成果は、2017年1月23日(米国東部時間)に米国化学会の学術誌「ACS Nano」でオンライン公開されました。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域 :
「素材・デバイス・システム融合による革新的ナノエレクトロニクスの創成」
(研究総括:桜井 貴康 東京大学 生産技術研究所 教授)
研究課題名 :
「炭素系ナノエレクトロニクスに基づく革新的な生体磁気計測システムの創出」
研究代表者 :
波多野睦子(東京工業大学 工学院 電気電子系 教授)
研究期間 :
2013年10月~2019年3月

研究の背景と経緯

ダイヤモンド半導体は電力損失の少ない次世代低損失パワーエレクトロニクスを構築する高性能デバイス材料です。ダイヤモンドデバイスの実現により、自動車、鉄道、自然エネルギーによる発電とその送電、スマートグリッドの電力制御など大電力変換時の大幅な省エネルギー化が期待されています。新しい材料によるパワーデバイスの早期実用化に向けて、各デバイス内部の情報を検出し、デバイスの製造にフィードバックを行い、より効率的に開発を進めることが重要となります。

半導体デバイス内部の電界は、デバイス性能を決める重要な要素です。電界強度が材料を破壊する限界の電圧を超えると、システムは正常かつ安全に動作することができなくなります。予期せぬ動作や性能の詳細な解析には、パワーデバイスの内部電界を直接観察する技術が必要になります。現在、電気特性評価として走査型プローブ顕微鏡[用語5]による方法がありますが、この場合は材料表面のみの計測となってしまい、定量的かつナノメートルスケールの空間分解能で内部電界を計測することは困難でした。

この問題を解決するために、研究グループはダイヤモンド半導体中の窒素-空孔(NV)センターを利用し直接デバイス内部の電界を計測する手法を開発しました。NVセンターはダイヤモンド格子中に1つの窒素原子と1つの空孔からなる原子レベルの構造であるため、ナノメートルスケールで電界、磁場、温度などの外部環境変化を計測することができます(図1)。NVセンターはダイヤモンドの大きなバンドギャップ中にエネルギーレベルを形成するため、熱的に安定であり、室温や大気中でも高感度センサーとして機能します。

NVセンターによるダイヤモンドパワーデバイスの内部電界検出

図1. NVセンターによるダイヤモンドパワーデバイスの内部電界検出

(左図)NVセンターの構造図
(中央図)NVセンターの共焦点顕微鏡像
(右図)計測系およびデバイス構造
NVセンターとは、ダイヤモンド中の隣り合った炭素原子が窒素(N)と空孔(V)に置き換わったもので、高感度な磁気センサーや電界センサー、温度センサーなど幅広い応用が期待されている。中央図で、共焦点顕微鏡像中に見える明るい点が、デバイス中に作りこんだNVセンターからの発光。この発光の強さをマイクロ波および逆方向にバイアスをかけながら測定することで、デバイス内部の電界を検出することができる。

研究の内容

本研究では、NVセンターをダイヤモンドパワーデバイス内に作りこむことによって、デバイス内部にかかる高電界を定量的に直接計測することに世界で初めて成功しました。図1は、NVセンターを含むダイヤモンドpinダイオードの構造と電界計測のための検出系です。ダイヤモンドデバイスに窒素イオンを注入することで、NVセンター一つ一つを分離できる量のセンサーを表面から約350 nmの深さに形成しています。空間分解能は光の回折限界である約300 nmであるため、ナノメートルスケールの内部計測が可能となります。

パワーデバイスはスイッチがオフのときに大きな電圧を保持し、高い内部電界を発生します。そこで、pinダイオードの逆方向バイアス印加時(図2(a))における電界計測を行いました。また、NVセンターを導入してもデバイスは低いリーク電流を保っており、ダイオードとして動作していることを確認しました。

計測は光検出磁気共鳴法(ODMR)[用語6]で行いました。緑色のレーザーで励起したときにNVセンターが出す赤色蛍光を観測することで、NVセンターが感じる電界を検出する方法で、NVセンターのスピンレベル間に対応するマイクロ波周波数位置で赤色強度が減少することを利用します。電界との相互作用により、このエネルギー位置が変化するため、ODMRでの共鳴点がシフトして、このシフト量から電界を定量的に求めることができます。図2(b)は逆方向にバイアスを上昇させたときのODMRスペクトルです。電圧が高くなるにつれ、発光強度の谷(共鳴点)が変化していく様子が確認できます。これは、NVセンターのN-V軸に垂直な電界E⊥を検出していることに対応します。共鳴点の位置から電界を算出した結果が図2(c)です。電圧の上昇に伴い電界も増加し、150 Vで約350 kV/cmになります。これはNVセンターで検出した電界で最も大きな値です。実験で得られた電界強度はデバイスシミュレーターの結果と一致しており、定量的にパワーデバイスの内部電界をナノメートルスケール計測できることを確認しました。

光検出磁気共鳴法(ODMR)による電界計測

図2. 光検出磁気共鳴法(ODMR)による電界計測

(a)ダイヤモンドpinダイオードの電流電圧特性
(b)逆方向バイアス印加時のODMRスペクトル
(c)検出電界と電圧の関係
大きな電圧を印加することで発光強度が減少する発光強度の谷(共鳴点)の位置がシフトしていく様子が見られる。発光強度の谷同士の幅から電界を算出したものが右図。デバイスシミュレーションと一致していることから、この手法によりデバイスの内部電界を定量的に計測できていることがわかる。

今後の展開

本研究により、パワーデバイスの内部電界が定量的かつナノメートルスケールで計測できることを実証しました。この手法は、予期しない電界集中発生や大きなリーク電流下、絶縁破壊電圧印加時での電界測定など、正確なシミュレーションが困難な状況への適用も期待できます。また、複数のNVセンターを利用することで、電界強度をイメージングすることも可能になります。さらに超解像顕微鏡[用語7]と組み合わせることで空間分解能を10 nm程度まで向上させられることや、パワーデバイスの動作解析を通して材料開発へのフィードバックが加速することで、次世代低損失パワーエレクトロニクス実現への貢献が期待できます。

また、ダイヤモンド中のNVセンター以外にも、SiC(炭化ケイ素)、GaN(窒素ガリウム)、AlN(窒化アルミニウム)、h-BN(六方晶窒化ホウ素)などさまざまなワイドバンドギャップ材料中に原子レベルの発光構造(SiC中のSi空孔など)があることが確認されています。発光構造の形成方法およびスピン制御技術の開発により、これらの材料に対しても、今回開発した計測手法が適用可能であると期待できます。

付記

本成果の一部は、公益財団法人東電記念財団 研究助成(基礎研究)の支援から得られました。

用語説明

[用語1] パワーデバイス(電力用半導体素子) : 家電から自動車、鉄道、送電などインフラにおいて電圧、電流、周波数を制御し、省エネルギー電力変換を担う半導体デバイス。さらなる省エネルギー化のために、大電流容量、高耐電圧および高放熱をかね備えたデバイスが望まれていて、ダイヤモンドは、このパワーデバイスとしての応用が期待されている。

[用語2] 窒素-空孔(Nitrogen-Vacancy:NV)センター : ダイヤモンド結晶中の複合欠陥の一種であり、不純物原子である窒素(Nitrogen)と空孔(Vacancy)が隣り合うことで形成される原子レベルの構造体。分裂した電子スピン準位を持ち、その利用により高感度な計測が可能となる。

[用語3] ワイドバンドギャップ半導体 : バンドギャップが大きい半導体材料であり、次世代低損失パワーデバイスに重要な高絶縁破壊電界強度を持っている。主に使用されているSiのバンドギャップが1.1 eVであるのに対し、SiC(炭化ケイ素)、GaN(窒素ガリウム)、ダイヤモンド半導体などのバンドギャップは数倍大きく(ダイヤモンド 5.5 eV)、物性限界のためにSiデバイスでは達成できない低損失デバイスの実現が期待されている。

[用語4] 電子スピン : 電子が持つ角運動量の1つ。NVセンターは基底状態で固有状態0、-1、+1を持ち、0→-1および0→+1の共鳴を調べることで電界、磁場、温度などの情報を計測することができる。

[用語5] 走査型プローブ顕微鏡 : 非常に鋭い先端を持ち、探針を試料表面に近づけることにより計測する顕微鏡の総称。表面形状をトレースすることで構造、電気的および磁気的性質を観察することができる。その一種であるケルビンプローブフォース顕微鏡により、試料表面の電位を計測することができる。

[用語6] 光検出磁気共鳴法(Optically Detected Magnetic Resonance:ODMR) : 光学的に電子スピン共鳴(Electron Paramagnetic Resonance)を検出する手法。EPRは電子スピン準位間をマイクロ波で共鳴させることにより不対電子を検出する手法であり、試料からの光を検出するものがODMRである。

[用語7] 超解像顕微鏡 : 光学顕微鏡の空間分解能は光の回折限界により制限されるが、その空間分解能を超える性能を持つ顕微鏡。2014年のノーベル化学賞は超解像顕微鏡の開発に授与されている。

論文情報

掲載誌 :
ACS Nano
論文タイトル :
"Direct Nanoscale Sensing of the Internal Electric Field in Operating Semiconductor Devices Using Single Electron Spins"
(単一電子スピンを用いた半導体デバイス内部電界の直接的ナノスケールセンシング)
著者 :
Takayuki Iwasaki, Wataru Naruki, Kosuke Tahara, Toshiharu Makino, Hiromitsu Kato, Masahiko Ogura, Daisuke Takeuchi, Satoshi Yamasaki, and Mutsuko Hatano
DOI :

工学院

工学院 ―新たな産業と文明を拓く学問―
2016年4月に新たに発足した工学院について紹介します。

工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

(研究に関すること)

東京工業大学 工学院 電気電子系
教授 波多野睦子

E-mail : hatano.m.ab@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3999 / Fax : 03-5734-3999

(JSTの事業に関すること)

科学技術振興機構 戦略研究推進部
グリーンイノベーショングループ
鈴木ソフィア沙織

E-mail : crest@jst.go.jp
Tel / Fax : 029-838-7440

取材申し込み先

科学技術振興機構 広報課

E-mail : jstkoho@jst.go.jp
Tel : 03-5214-8404 / Fax : 03-5214-8432

東京工業大学 広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

産業技術総合研究所 企画本部 報道室

E-mail : press-ml@aist.go.jp
Tel : 029-862-6216 / Fax : 029-862-6212

冥王星のクジラ模様は衛星カロンを作ったジャイアント・インパクトの痕跡だった

$
0
0

発表のポイント

  • 冥王星とその巨大な衛星カロンは、地球と月の形成と同様に、原始惑星のジャイアント・インパクト[用語1]によってできた。
  • そのジャイアント・インパクトの痕跡が、冥王星の赤道域に広がる褐色のクジラ模様、通称「クトゥルフ領域[用語2]」だと考えられる。
  • 地球形成領域から太陽系外縁部までにわたって、原始惑星同士が頻繁に衝突・合体する大変動を経て、現在の太陽系ができあがったことを示唆。

発表概要

2015年8月、探査機ニューホライズンズ[用語3]は、冥王星に初めて接近通過し、観測を行った。その結果、冥王星表面には驚くほど多様な物質や地形が存在していることがわかった。その中でも目を引くのが、クジラ模様の褐色の地域「クトゥルフ領域」である。クトゥルフ領域は冥王星の赤道域に存在しており、何らかの大規模現象でできた可能性があるが、その成因は全くの謎であった。

東京大学 大学院理学系研究科の関根康人准教授、東京工業大学 地球生命研究所の玄田英典特任准教授らは、このクトゥルフ領域が冥王星の巨大な月カロンが形成したときのジャイアント・インパクトの痕跡であることを示した。関根准教授は室内実験によって、冥王星に存在する単純な分子種が、およそ50 ℃以上で数ヵ月以上加熱されると、クトゥルフ領域に存在するような褐色の有機物になることを明らかにした。玄田特任准教授は数値シミュレーションによって、そのような加熱がカロン形成のジャイアント・インパクト時に、クトゥルフ領域と同程度の位置や広さにわたって生じることを示した。冥王星以外のカイパーベルト天体[用語4]にも、クトゥルフ領域に見られるような褐色物質が存在しているが、これまでその成因や多様性についての統一的な説明はなされていなかった。本研究は、カイパーベルトで頻繁に起きていたジャイアント・インパクトが、このような天体の色の多様性を生み出したという新たな描像も提案する。このことは、地球―月系の起源であるジャイアント・インパクトも含め、地球形成領域から太陽系外縁部までにわたって原始惑星同士が頻繁に衝突・合体するという大変動があり、これを経て現在の姿になったことを示唆する。

発表内容

冥王星は太陽系外縁部カイパーベルトに存在する準惑星であり、直径2,400 km程度の天体である。冥王星は地球と太陽との距離のおよそ30倍も離れた軌道を公転しており、大型望遠鏡をもってしても、地球から見ればほぼ点でしかない。地球と同じ太陽系のメンバーでありながら、その実態はほとんど謎に包まれた、太陽系に残された人類未到のフロンティアが冥王星であった。

2006年に打ち上げられたNASAの探査機ニューホライズンズは、9年の歳月をかけてカイパーベルトに到達し、2015年8月に冥王星に接近してフライバイ観測を行った。これは太陽系の未到領域に到達するという意味において、真に地平線を切り開く探査であったが、それ以上に人々を驚愕させたのは、探査機が明らかにした冥王星の姿に他ならない。研究者の多くは、冥王星をはじめとするカイパーベルト天体は、はるか昔に地質活動を終えた、クレーターだらけの退屈な氷の塊だと思っていた。しかし、実際の冥王星の表面を見ると、ハート形の氷河や氷の火山など、驚くほど多様な物質や地形に彩られていた(図1)。このような生きている天体“冥王星”の姿は全くの予想外であり、研究者だけでなく、広く一般の人々をも瞠目させるニュースとなったことは記憶に新しい。

探査機ニューホライズンズによって撮影された冥王星(右下)とカロン(左上)の写真(画像提供NASA/APL)。冥王星の左下に、褐色のクトゥルフ領域が見える。
図1.
探査機ニューホライズンズによって撮影された冥王星(右下)とカロン(左上)の写真(画像提供 NASA/APL)。冥王星の左下に、褐色のクトゥルフ領域が見える。

そのような冥王星の多様な物質や地形の中で、ひときわ目を引くのが赤道域に存在するクジラ模様、通称「クトゥルフ領域」である(図2)。クトゥルフ領域は赤道域を中心に、幅およそ300 km、長さおよそ3,000 kmに広がる、褐色に彩られた領域である。探査機ニューホライズンズの取得した分光データから、クトゥルフ領域は、水氷と褐色の高分子有機物が混合した物質でできていると考えられている。これまで、冥王星に限らずカイパーベルト天体に存在する褐色物質の候補として、大気中の化学反応でできる有機物エアロゾルが考えられてきた。しかし、このようなエアロゾルは全球的に生成し、地表面に比較的均一に分布するはずであり、クトゥルフ領域のように地域性の高い褐色物質の分布を説明できない。クトゥルフ領域は赤道全体のおよそ1/3を占めるため、この形成にはかつて冥王星でおきた大規模な物理・化学過程が関わっているはずであるが、その成因は全くの謎であった。

探査機ニューホライズンズが撮影した画像を基に、メルカトル図法で作成された冥王星の地図(画像提供 NASA/APL)。下図の点線は、クジラ模様の褐色の領域「クトゥルフ領域」を模式的に示している。
図2.
探査機ニューホライズンズが撮影した画像を基に、メルカトル図法で作成された冥王星の地図(画像提供 NASA/APL)。下図の点線は、クジラ模様の褐色の領域「クトゥルフ領域」を模式的に示している。

関根准教授と玄田特任准教授らは、クトゥルフ領域の成因に関して、冥王星の巨大な月であるカロンの形成に注目した。カロンは冥王星の衛星であり、その直径は冥王星の約半分と非常に大きな衛星である。これほど主天体に対して大きな質量の衛星を持つものは、太陽系では冥王星―カロン系と地球―月系しかない。このカロンの起源としては、地球―月系と同様、原始惑星が冥王星に衝突したジャイアント・インパクト(巨大天体衝突)説が提唱されていたが、あくまで仮説の一つであり、実証的な証拠にかけていた。

関根准教授と玄田特任准教授は、冥王星にジャイアント・インパクトが起きた場合、衝突地点付近の氷が加熱されて広大な温水の海ができ、そこで冥王星に元々存在していた単純な分子種が重合反応を起こして褐色の有機物が生成されるのではないかと考えた。この仮説を検証するため、まず、関根准教授は室内実験により、ホルムアルデヒドやアンモニアといった、カイパーベルト天体に普遍的に含まれる分子種を含む水溶液を、温度と反応時間を様々に変えて加熱した。つまり、巨大衝突後の温水の海の中での化学反応を実験室で再現した。反応後の水溶液や生成した有機物の色の変化を調べた結果(図3)、およそ50 ℃以上で数ヵ月以上の加熱時間の場合、冥王星に元々含まれる物質から、クトゥルフ領域と同様の褐色の有機物が生成することが明らかになった。

ホルムアルデヒドとアンモニアを含む水溶液を50 ℃で4ヵ月間加熱した可視透過スペクトル(左)と水溶液の写真(右)。元々の水溶液は無色透明だが、加熱によって複雑な有機物が生成し、水溶液の色が褐色になっていることがわかる。可視透過スペクトルを見ると、反応時間2ヵ月程度まで褐色化が進行している。
図3.
ホルムアルデヒドとアンモニアを含む水溶液を50 ℃で4ヵ月間加熱した可視透過スペクトル(左)と水溶液の写真(右)。元々の水溶液は無色透明だが、加熱によって複雑な有機物が生成し、水溶液の色が褐色になっていることがわかる。可視透過スペクトルを見ると、反応時間2ヵ月程度まで褐色化が進行している。

玄田特任准教授は、このような温度条件が、はたしてカロン形成のジャイアント・インパクト時に達成されるのかを数値シミュレーションによって調べた(図4)。その結果、カロンのような大きさの衛星を形成する衝突条件の場合、ほぼすべてのケースでクトゥルフ領域と同程度の広さの加熱領域が冥王星の赤道域を中心に形成されることが明らかになった。つまり、カロンを形成するようなジャイアント・インパクトが起きた場合、その帰結として必然的に赤道域に褐色の領域が形成されるのである。裏を返せば、クジラ模様のクトゥルフ領域が冥王星に存在することは、ジャイアント・インパクトによって冥王星―カロン系が形成したことを強く裏付ける物的証拠と言える。

冥王星へのジャイアント・インパクトでカロンを形成する数値シミュレーションの計算結果の1例(衝突速度はおよそ1 km/秒で、衝突角度は60度)。左が各経過時間におけるスナップショットで、右が衝突後の冥王星の表面および深さ200 kmにおける温度分布。色のコンターは温度を示す。この衝突条件の場合、カロンと同様の衛星が形成され、冥王星の赤道域が広範囲にわたって50 ℃以上に加熱される。
図4.
冥王星へのジャイアント・インパクトでカロンを形成する数値シミュレーションの計算結果の1例(衝突速度はおよそ1 km/秒で、衝突角度は60度)。左が各経過時間におけるスナップショットで、右が衝突後の冥王星の表面および深さ200 kmにおける温度分布。色のコンターは温度を示す。この衝突条件の場合、カロンと同様の衛星が形成され、冥王星の赤道域が広範囲にわたって50 ℃以上に加熱される。

本研究は、冥王星―カロン系が、地球―月系と同様、ジャイアント・インパクトでできたことを示すものである。さらに本研究の結果、衝突の速度や角度を変えると、全球が褐色になる場合やほとんど加熱されない場合が生じることなども明らかになった。カイパーベルトには、冥王星の他にもマケマケやセドナ、エリスといった大型の天体が存在するが、これら天体の表面の色には多様性があることも最近わかってきた。例えば、マケマケやセドナは全球的に褐色な一方、エリスは白っぽい色をしている。これまで、このようなカイパーベルト天体の多様性の起源について、これまで統一的な説明はなかったが、かつてカイパーベルトではジャイアント・インパクトが頻発し、その結果として上記の多様性が生じたという、統一的な説明が、本研究で初めて提示された。

最新の太陽系形成理論によると、太陽系初期において火星よりも太陽に近い内側太陽系では、20個以上の原始惑星同士が数十回、ジャイアント・インパクトを繰り返して、現在ある4つの地球型惑星を作り上げたとされる。これらジャイアント・インパクトの引き金となったのは、木星や土星という巨大ガス惑星の形成と移動だと考えられている。そのような巨大ガス惑星の形成と移動が起きれば、海王星以遠の領域も同様に影響を受けて、原始惑星同士のジャイアント・インパクトが起きるだろう。本研究の結論は、巨大ガス惑星の形成と移動という最新理論とも調和的である。太陽系初期には地球形成領域から太陽系外縁部までにわたって、原始惑星同士のジャイアント・インパクトが頻発する大変動があり、これを経て太陽系は現在の姿になったと考えられる。

本研究の一部は、以下の研究費を受けて行われた。

  • 科学研究費補助金 若手研究(A)・挑戦的萌芽研究(関根康人 26707024・16K13873)
    挑戦的萌芽研究(玄田英典 15K13562)
  • 自然科学研究機構 アストロバイオロジーセンター・サテライト研究(関根康人)

用語説明

[用語1] ジャイアント・インパクト(巨大天体衝突) : 一般的に惑星形成の最終段階でおきる、直径1,000 kmを超える天体同士の衝突を指す。特に有名なのは、原始地球に火星程度の原始惑星が衝突して、地球―月系を形成したとされる巨大天体衝突である。

[用語2] クトゥルフ領域 : 冥王星の赤道領域に広がる、クジラ模様をした褐色の領域(名称は通称)。長さはおよそ3,000 km、幅はおよそ300 kmであり、水氷と褐色の物質(おそらく有機物)の混合物質からなる。多くの衝突クレーターが見られ、形成年代は古いと考えられる。

[用語3] 探査機ニューホライズンズ : NASAが2006年に打ち上げた、冥王星およびカイパーベルトを探査する探査機。2015年8月に冥王星とカロンに接近したのち、43.4 天文単位の位置に存在する、別のカイパーベルト天体である2014MU69に向かって現在宇宙空間を航行している。2014MU69への近接接近は、2019年1月に予定されている。

[用語4] カイパーベルト天体 : カイパーベルト(またはエッジワース・カイパーベルト)に存在する氷天体。カイパーベルトは、海王星以遠に存在する、大小様々な大きさの天体が円盤状に密集した領域である。物質的には主に氷と岩石の混合物からなり、ここに存在する小天体が短周期彗星になると考えられている。冥王星をはじめとして、エリス、マケマケといった準惑星も存在する。

論文情報

掲載誌 :
Nature Astronomy(英科学誌 ネイチャー・アストロノミー)
論文タイトル :
The Charon-forming giant impact as a source of Pluto's dark equatorial regions
著者 :
Y. Sekine*, H. Genda*, S. Kamata, T. Funatsu(*の著者は、本研究に対して同等の寄与を行った)
DOI :

お問い合わせ先

東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻
准教授 関根康人

E-mail : sekine@eps.s.u-tokyo.ac.jp
Tel : 080-6708-0437

東京工業大学 地球生命研究所
特任准教授 玄田英典

E-mail : genda@elsi.jp
Tel : 03-5734-2887

取材申し込み先

東京大学 大学院理学系研究科・理学部
特任専門職員 武田加奈子
教授・広報室長 山内薫

E-mail : kouhou.s@gs.mail.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-0654

東京工業大学 広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

本学教員5名が第33回井上学術賞、井上研究奨励賞を受賞

$
0
0

東工大の教員5名が、公益財団法人井上科学振興財団(以下、井上財団)の第33回井上学術賞・井上研究奨励賞を受賞しました。

井上学術賞は、井上財団により自然科学の基礎的研究で特に顕著な業績を挙げた50歳未満(申込締切日時点)の研究者に対して授与されるもので、賞状および金メダル、副賞200万円が贈呈されます。第33回の同賞では、関係する36学会および井上財団の元選考委員や井上学術賞の過去の受賞者などの154名に候補者の推薦を依頼し、そこから25件の推薦を受け、選考委員会による選考を経て5件が採択されました。

井上研究奨励賞は、自然科学の分野で過去3年間に博士の学位を取得した37歳未満(申込締切日時点)の研究者で、優れた博士論文を提出した研究者に対して授与されるもので、賞状および銅メダル、副賞50万円が贈呈されます。今回は、関係242大学に候補者の推薦を依頼したうち42大学から142件の推薦があり、選考委員会における選考を経て40件が採択されました。

贈呈式は2017年2月3日に開催される予定です。

上記の賞を受賞した東工大関係者は以下のとおりです。

井上学術賞

村上修一 理学院 教授

受賞対象となった研究テーマ:ベリー曲率の物理とトポロジカル絶縁体・トポロジカル半金属の理論研究

村上修一 理学院 教授
村上修一 理学院 教授

本研究では、ベリー曲率と呼ばれる数学的構造が固体の性質にどう発現するかを理論的に追究し、その結果、トポロジカル絶縁体の最初の例としてビスマス薄膜を提案したり、またトポロジカル半金属の概念を提唱し深化させたりする成果を挙げ、それらは後に実験で検証されました。抽象的な数学的構造からの予言が実際の物質で実証されることに自然の神秘を感じます。自分の研究が新分野の創造・発展の一助となったことはうれしい限りです。本賞受賞を大変嬉しく思いますとともに、お世話になりました共同研究者の皆様、研究室のスタッフ・学生含め、多くの方々に深く感謝申し上げます。この賞を励みに、今後も新しい物性現象の理論的探索を進めていきたいと思います。

井上研究奨励賞

井上中順 情報理工学院 助教

受賞対象となった研究テーマ:大規模映像資源のための高速・高性能なセマンティックインデクシング

井上中順 情報理工学院 助教
井上中順 情報理工学院 助教

本博士論文では、映像の中から物体・動作・シーンといった人間にとって意味のある対象を検出する「セマンティックインデクシング」に取り組み、音と画像の情報を組合せたマルチモーダルなシステムを提案しました。評価実験では、本学のスーパーコンピュータTSUBAMEを活用することで、大規模な映像認識実験を実施し、提案したシステムの有用性を示しました。この度、名誉ある賞をいただき、大変光栄に思います。博士後期課程の指導教員である篠田浩一教授、研究室のメンバーをはじめ、研究を支えてくださった方々に、この場を借りて深く感謝申し上げます。

酒井佑規 テキサス大学オースティン校 研究員(博士号の学位取得は東工大)

受賞対象となった研究テーマ:単層物質とその複合系の物性研究

酒井佑規 テキサス大学オースティン校 研究員(博士号の学位取得は東工大)
酒井佑規 テキサス大学オースティン校 研究員(博士号の学位取得は東工大)

近年、原子一層分の厚みを持つ単層物質が注目されています。本研究では主に、異なる種類の単層物質を組み合わせた新規複合物質の設計と、その基本的性質の解明を行いました。その結果、単層物質の組み合わせ方次第で様々な興味深い性質を示し得ることが明らかになりました。指導教員の斎藤晋教授、および研究留学を受け入れてくださったカリフォルニア大学バークレー校のマーヴィン・コーエン教授、スティーヴン・ルイエ教授をはじめ、博士後期課程での研究を支えてくださった共同研究者の方々に心より感謝申し上げます。この受賞を励みに今後も研究に邁進する所存です。

田原弘量 京都大学 化学研究所 助教(博士号の学位取得は東工大)

受賞対象となった研究テーマ:半導体に生成された励起子のコヒーレント過渡現象

田原弘量 京都大学 化学研究所 助教(博士号の学位取得は東工大)
田原弘量 京都大学 化学研究所 助教(博士号の学位取得は東工大)

本研究では、半導体の光励起状態に対してコヒーレンス(量子状態の位相の干渉性)が消失するメカニズムを明らかにしました。従来の測定法では観測が困難であった初期過程を測定するために新しい分光法と解析法を開発し、非従来型メカニズム(非マルコフ緩和メカニズム)の解明に成功しました。本研究は、固体光物性において本質的かつ普遍的な現象を明らかにしたもので、固体の光機能制御につながることが期待できます。本研究についてご指導いただきました南不二雄教授、小川佳宏助教をはじめ、研究室の先輩、同期、後輩、そして大学院生活を陰ながら支えてくれた家族に感謝しています。本賞を励みに、より一層研究に精進したいと思います。

キム・ジョンファン 元素戦略研究センター 助教

受賞対象となった研究テーマ:発光ダイオード用新規アモルファス酸化物半導体の設計と開発

キム・ジョンファン 元素戦略研究センター 助教
キム・ジョンファン 元素戦略研究センター 助教

博士論文研究では、新規アモルファス酸化物半導体を物質設計し、これを用いた新たな発光素子を開発しました。近年、有機ELは様々なところで注目されておりますが、未だ消費電力、生産コスト、寿命などに改善すべき重大な課題を抱えています。本研究の新規アモルファス酸化物半導体を用いた有機EL素子は、それら課題を解決できる非常に優れた発光特性を示しました。今後、低コスト、長寿命、省エネのより優れた発光素子の誕生が期待されます。この度は、名誉ある賞をいただき大変光栄です。熱心なご指導を下さった細野秀雄教授、神谷利夫教授、平松秀典准教授、また、研究室メンバー、友人および家族にこの場を借りて深く感謝申し上げます。これを励みに、今後も研究に精進する所存です。

関連リンク

癌再発に深く関わる癌幹細胞が診断薬5-ALAによる検出を免れる特性を発見―癌の再発リスクを抑える診断・治療法の開発に期待―

$
0
0

ポイント

  • 癌幹細胞は癌の進展と治療抵抗性、再発に深く関与する癌の責任細胞です。
  • 悪性脳腫瘍などの手術時に頻用される光線力学診断薬5-ALAによる癌幹細胞の検出を、癌幹細胞が免れる仕組みを備えていることをマウス脳内移植実験などで明らかにしました。
  • 鉄キレート(捕捉)作用を持つ既存薬DFOと5-ALAの併用で癌幹細胞の検出が可能になることも発見し、手術時に癌幹細胞を見逃さない手法への応用が期待できます。
  • 癌幹細胞の代謝特性に影響を与える物質として鉄やヘムを明らかにしており、今後これらを標的として癌の再発リスクを抑える新たな診断・治療法の開発に道を拓くものです。
癌幹細胞の取りこぼしによる癌再発と改善策の発見

図1. 癌幹細胞の取りこぼしによる癌再発と改善策の発見

東京医科歯科大学 難治疾患研究所 幹細胞制御分野の田賀哲也教授、椨康一助教、Wenqian Wang大学院生らの研究グループと、東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の小倉俊一郎准教授らの研究グループは共同で、難治性の癌である悪性脳腫瘍などの術中診断薬(腫瘍細胞検出薬)として用いられている5-アミノレブリン酸(5-ALA)による検出を、腫瘍再発に深く関わる癌幹細胞が免れていることを明らかにし、癌幹細胞の代謝特性の解析から既存の鉄キレート剤デフェロキサミン(DFO)との併用で癌幹細胞の検出が可能になることを発見しました(図1)。この研究は文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「癌幹細胞を標的とする腫瘍根絶技術の新構築」などの支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Scientific Reports(サイエンティフィック リポーツ)に、2017年2月7日午前7時(英国時間)にオンライン版で発表されました。

研究の背景

1981年以降日本人の死因の第一位は癌であり、現在も増加の一途を辿っています[引用1]。「癌幹細胞」は癌を構成する多様な細胞を生み出す能力と自ら複製する能力を持ち、従来の放射線化学療法に抵抗性を示すことから、癌の進展と治療抵抗性、再発に深く関わる責任細胞と考えられており、癌の診断・治療法の開発にあたり考慮すべき重要な細胞です。

5-アミノレブリン酸(5-ALA)はその代謝産物で蛍光を発する性質をもつプロトポルフィリンIX(PpIX(ピーピーナイン))が腫瘍特異的に蓄積することから、悪性脳腫瘍などの摘出手術時に光線力学診断[用語1]薬として用いられてきました。しかしながら、5-ALAを用いた術中診断法の癌幹細胞に対する有効性についてはこれまで十分に検討されてきませんでした。

そこで、本研究グループは脳腫瘍細胞についてフローサイトメーターによる1細胞レベルでのPpIX蛍光検出系を開発し、5-ALAによる癌幹細胞の検出効率を検証しました。

研究成果の概要

脳腫瘍の中でも頻度が高く予後の悪い悪性神経膠腫(グリオーマ)の癌幹細胞を用いて、5-ALA処理後に蓄積するPpIXの蛍光強度を比較したところ、癌幹細胞は通常の大多数の癌細胞よりもPpIXの蓄積が少なく、検出が困難であることが明らかとなりました。さらに免疫不全マウスの脳内移植実験において、特にPpIX蓄積性の低い(検出の困難な)細胞群が高い腫瘍形成能を有することが確認されました。

さらに研究グループは、PpIXがヘム(蛍光を発しない)へと変換される際に鉄(Fe)が付与されることに着目し、PpIXの蓄積に対する鉄のキレート効果を検証しました。その結果、鉄キレート剤デフェロキサミン(DFO)と5-ALAを併用することにより、癌幹細胞におけるPpIXの蓄積が通常の大多数の細胞における蓄積レベルまで劇的に亢進することが明らかとなり、5-ALAを用いた癌幹細胞の検出効率を著しく改善することに成功しました。

また癌幹細胞がPpIXの蓄積性が低い一因として、細胞内5-ALA代謝経路のうちPpIXからヘムへの変換後に作用するヘム分解酵素ヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)の発現が癌幹細胞で高いこと、および細胞内への鉄取り込み受容体(トランスフェリン受容体)の発現も高いことが明らかとなり、癌幹細胞は5-ALAによるPpIXの蓄積を回避して、手術時の検出を免れる利己的な代謝特性を有していることが示されました(図2)。グリオーマ患者の遺伝子発現データベースを用いた解析からも、HO-1遺伝子の発現がグリオーマの中でも最も悪性度の高い神経膠芽腫(グリオブラストーマ)患者で高いことや、グリオーマ患者の予後との間に有意な相関が確認されました。

癌幹細胞に特異的なALA-PplX代謝と検出法の改良の可能性

図2. 癌幹細胞に特異的なALA-PplX代謝と検出法の改良の可能性

研究成果の意義

本研究成果は、現行の術中診断法でグリオーマの癌幹細胞が検出・摘出できていない可能性を指摘しており、臨床診断学的に意義の大きな示唆を与える発見です。鉄キレート剤DFOは我が国で承認済みの既存薬であり、ドラッグ・リポジショニング[用語2]を視野に入れた脳腫瘍診断薬への適応拡大も期待できます。また本研究では癌幹細胞の特性に影響を与える代謝関連因子として鉄以外にもヘムやHO-1の存在を明らかにしており、今後それらを標的とした新たな診断法と根治療法の開発が期待できます。

用語説明

[用語1] 光線力学診断 : 癌細胞特異的に蓄積する光感受性物質にレーザー光を照射し、その蛍光を検出することで癌細胞だけを選択的に可視化する方法。正常組織の摘出を最小限に抑える術中診断法として注目を集めている。

[用語2] ドラッグ・リポジショニング : 既存の医薬品の新しい薬理効果を発見し、別の疾患の治療薬として適用すること。ヒトでの安全性と体内動態が充分に証明されているため、臨床応用が速やかである。

引用

[引用1] 厚生労働省:平成27年人口動態統計月報年計(概数)の概況

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Enhancement of 5-aminolevulinic acid-based fluorescence detection of side population-defined glioma stem cells by iron chelation
著者 :
Wenqian Wang, Kouichi Tabu, Yuichiro Hagiya, Yuta Sugiyama, Yasuhiro Kokubu, Yoshitaka Murota, Shun-ichiro Ogura & Tetsuya Taga
DOI :

生命理工学院

生命理工学院 ―複雑で多様な生命現象を解明―
2016年4月に新たに発足した生命理工学院について紹介します。

生命理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

東京医科歯科大学 難治疾患研究所 幹細胞制御学分野
教授 田賀哲也
助教 椨康一

E-mail : taga.scr@mri.tmd.ac.jp
Tel : 03-5803-5814 / Fax : 03-5803-5814

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系
准教授 小倉俊一郎

E-mail : sogura@bio.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5845

取材申し込み先

東京医科歯科大学 広報部広報課

E-mail : kouhou.adm@tmd.ac.jp
Tel : 03-5803-5833 / Fax : 03-5803-0272

東京工業大学 広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

NHK Eテレ「100分de名著」にリベラルアーツ研究教育院の中島岳志教授が出演

$
0
0

リベラルアーツ研究教育院の中島岳志教授が、NHK Eテレ「100分de名著」に出演します。

「100分de名著」は、誰もが一度は読みたいと思いながらも、なかなか手に取ることができない古今東西の「名著」を、25分×4回の計100分で読み解く番組です。

今回は、インドを独立に導いた指導者マハトマ・ガンディーの「獄中からの手紙」を読み解きます。

中島岳志教授
中島岳志教授

中島岳志教授のコメント

宗教対立が激化する今日こそ、ガンディーの残したメッセージに耳を傾けてみませんか?

食べない、歩く、持たない、糸車を回す・・・といったシンプルな行動によって深遠な哲学を示そうとしたガンディーを、現代社会の混乱の中で捉え直したいと思います。

  • 番組名
    NHK Eテレ「100分de名著」
  • タイトル
    ガンディー「獄中からの手紙」
    第1回 政治と宗教をつなぐもの/第2回 人間は欲望に打ち勝てるのか/
    第3回 非暴力と赦し/第4回 よいものはカタツムリのように進む
  • 放送予定日
    2017年2月6日、13日、20日、27日(月)22:25 - 22:50
    (再放送)2017年2月8日、15日、22日、3月1日(水)5:30 - 5:55、12:00 - 12:25

リベラルアーツ研究教育院

リベラルアーツ研究教育院 ―理工系の知識を社会へつなぐ―
2016年4月に新たに発足したリベラルアーツ研究教育院について紹介します。

リベラルアーツ研究教育院(ILA)outer

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

問い合わせ先

広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975


室温で発光する円偏光スピンLEDの創製に成功―多分野への応用が期待される光源の登場―

$
0
0

要点

  • 室温で純粋な円偏光を発するスピン発光ダイオードの試作に世界で初めて成功
  • 大電流下の発光で円偏光が増幅される現象を発見
  • 生命科学、暗号通信など多分野での活用に期待

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の西沢望特任助教、宗片比呂夫教授らは、室温で純粋な円偏光を発するスピン発光ダイオード(スピンLED)を世界に先駆けて創製した。

この新たなスピン[用語1]LEDは、電流が小さいと偏光は起きないが、電流を大きくすると発光強度とともに円偏光の純度が上がる。室温での円偏光発光の壁となっていた半導体と磁性体金属の接合面で起こる非磁性物質の生成反応を抑制したことで達成された。将来的には超小型化や集積化が可能で、これまで考えられなかった、内視鏡に組み込みガン細胞を検出したり、特殊な暗号通信の伝送光に利用するなどへの応用が期待できる。

2017年2月8日に米国科学アカデミー紀要(PNAS)でオンライン掲載された。

背景

近年様々な種類の光が、理学、工学、医学など様々な分野で利用されている。その中で注目を集めているのが円偏光だ。これは、光の波の振動面(偏光面)がらせん状に右あるいは左方向に回転しながら進む光で、光学活性[用語2]物質の選別、特に合成化学産業の分野で多用されている。ランプやレーザー光を分光器と様々なフィルターに通過させて作製される。しかし、この方法だと光源とフィルターの精密な位置合わせが必要であり、また装置全体の大型化や、円偏光回転向き切替え速度が遅いなどの問題がある。

研究の経緯

これまで円偏光のらせんの回転方向を司る電子の自転軸の向きを全て揃えるための原理開拓と、素子中の半導体と磁性体金属の接合で生じる非磁性物質の生成をなくす作製法の開拓が室温円偏光実現の最大課題と考えられてきた。

今回、宗片研究室で独自開発した“結晶性アルミナ中間層”によって、大電流を流していても接合面での化学変化を抑えこむことに成功した。これによって、大電流下の発光で円偏光が増幅される現象を発見することができた。半導体を用いたスピントロニクス素子を室温で駆動することを疑問視する専門家は多かったが、その疑問を打ち破る成果でもある。

研究成果

室温で純粋な円偏光を発するスピンLEDを世界に先駆けて創製した。このダイオードは、中間層に結晶性アルミナを用いて、電流が小さい時は自然光に近い偏光のない「無偏光」な発光であったものが、電流を大きくして発光強度を上げていくと円偏光の純度がみるみる上昇して純粋な円偏光に達する。この性質から、ダイオード中で発生した強い発光自体に円偏光を増幅する効果があると推定される。

結晶性AlOxトンネルバリア

図1. 結晶性AlOxトンネルバリア

今後の展開

現状で素子中の結晶性アルミナ中間層は大電流通電状態で1週間程度の耐久性しかない。今後は、その品質をさらに向上させるとともに、円偏光を発する超小型レーザーの実現を目指していく。その過程で、今回判明した円偏光が増幅する原理が解き明かされる可能性がある。

地球上のあらゆる生物を構成する分子は光学活性があるので、円偏光を利用すれば、これまで観察困難だった生命活動を詳細に観察できるようになるかもしれない。また、円偏光を使った暗号通信への応用も期待される。

新光源という観点からの展望

図2. 新光源という観点からの展望

円偏光

図3. 円偏光

光の電場成分(黄色)が光の伝搬軸(z軸)の周りを
らせん状に回転する。

直線偏光

図4. 直線偏光

光の電場成分(黄色)が特定の面上を振動する。

用語説明

[用語1] スピン : 粒子が自転している状態を表す用語。原子や分子の世界に当てはめると、電子や原子核、光子(光)が自転しているイメージに相当する。電子の運動が大きく変化して外部に向かって光を発する場合、回転の勢いは光子に移動する。これがらせん回転する光波として観測される。

[用語2] 光学活性 : 光の振動面を回転させる現象のこと。そのような物質を光学活性物質という。左手と右手はどちらか一方の手のひらをひっくり返すと互いに重なるが、ともに下をむけた状態では重ならない。光学活性は、両手と同じように、ひっくり返すと重なるような分子構造を持つ物質に現れる。すべての生体分子は光学活性を示す。

論文情報

掲載誌 :
Proceedings of National Academy of Science of United States of America
論文タイトル :
Pure circular polarization electroluminescence at room temperature with spin-polarized light-emitting diodes
著者 :
Nozomi Nishizawa, Kazuhiro Nishibayashi, and Hiro Munekata
DOI :

お問い合わせ先

科学技術創成研究院 未来産業技術研究所
教授 宗片比呂夫

E-mail : munekata.h.aa@m.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5185

科学技術創成研究院 未来産業技術研究所
特任助教 西沢望

E-mail : nishizawa.n.ab@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5178 / Fax : 045-924-5185

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

タンパク質用いて細胞内分子フィルターを開発―細胞内の解毒、細胞内在分子の構造解析への応用に期待―

$
0
0

要点

  • 細胞内のタンパク質結晶化を利用し、分子フィルターを作成
  • 生きたままの細胞内でターゲット分子の選択的集積を達成
  • 3つのアミノ酸を欠損させるだけで結晶中に細孔空間を形成

概要

東京工業大学 生命理工学院の安部聡助教、上野隆史教授、理化学研究所(理研) 放射光科学総合研究センター 生命系放射光利用システム開発ユニットの平田邦生専任技師(科学技術振興機構さきがけ研究者 兼任)、山下恵太郎基礎科学特別研究員、京都工芸繊維大学の森肇教授らの研究グループは、分子フィルターの役割を果たすタンパク質結晶の細胞内合成に成功した。ある種のタンパク質が細胞中で結晶化することに着目して実現した。

このフィルターは細胞が生きたままでもターゲット分子を選択的に吸着させる点が特徴で、細胞内の解毒に威力を発揮する。また、タンパク質結晶は分子構造解析に用いられるため、細胞中で特定の分子を集積させることにより、これまで困難とされてきた細胞に内在する分子の構造や、それらの反応による構造変化を追跡する分子のカゴとしての利用も期待される。

この研究では、昆虫ウイルス[用語1]が細胞感染時に作り出す多角体[用語2]とよばれるタンパク質を用いた。多角体が細胞内で結晶化する際に結晶中に隙間ができるように、アミノ酸を欠損させた変異体を作成し、細胞内で細孔空間を有する結晶を作成した。わずか三つのアミノ酸を取り除いただけの変異体の結晶が、野生型では吸着しないアニオン性(陰イオン)の蛍光色素を細胞内で選択的に吸着することを見出した。この分子の設計には、わずか数マイクロメートル(μm)[用語3]のサイズしかない微小結晶の構造解析が不可欠であり、大型放射光施設 SPring-8[用語4]の微結晶測定用ビームラインBL32XU/BL41XUと自動データ収集・解析システムを用いることによって初めて実現可能となった。

今回の成果は日本学術振興会の最先端・次世代研究開発支援プログラムおよび科学研究費補助金の支援によるもので、化学・材料分野において最も権威のある学術誌の一つである「ACS Nano(米国化学会 ナノ材料誌)」のオンライン版で2月9日に公開された。

研究背景

多孔性の結晶材料[用語5]は、ゲスト分子の貯蔵、分離や触媒反応場としての利用など様々な応用が可能な固体材料として注目されている。しかしながら、細胞内などの生体環境下で利用可能な多孔性材料の開発は安定性や設計性の問題から達成されていない。そこで、東工大の安部助教、上野教授らはタンパク質が細胞内で自発的に結晶化する現象に着目し、多孔性のタンパク質結晶を細胞内で合成して分子のフィルターの役目をするタンパク質の結晶性材料を構築した。

研究内容

同研究グループは細胞内で多孔性空間を有するタンパク質結晶のテンプレートとして、昆虫細胞内で合成される「多角体」とよばれるタンパク質結晶に着目した。多角体はウイルス保護という本来の機能のため、乾燥、有機溶媒に高い耐性と極めて高い安定性を示す。そこで、多角体タンパク質のアミノ酸側鎖を欠損した結晶を作成することにより、細胞内で選択的に分子を吸着するフィルター材料を構築した(図1)。具体的には多角体タンパク質の分子界面に位置するL4ループ[用語6]を形成するアミノ酸残基のうち三つのアミノ酸残基(192 - 194番目のアミノ酸)を欠損させることにより、本来の結晶パッキングを維持したまま結晶内部の細孔を拡大した(図2)。

(a)アミノ酸欠損による結晶内細孔空間の構築、(b)細胞内における結晶内への蛍光色素の吸着。

図1. (a)アミノ酸欠損による結晶内細孔空間の構築、(b)細胞内における結晶内への蛍光色素の吸着。

野生型多角体の結晶構造。分子界面に存在するL4ループ上のアミノ酸残基(192 - 194番目)を欠損した変異体を合成した。

図2. 野生型多角体の結晶構造。分子界面に存在するL4ループ上のアミノ酸残基(192 - 194番目)を欠損した変異体を合成した。

(1)アミノ酸欠損変異体の結晶構造

L4ループの3つのアミノ酸を欠損し、作成した変異体は野生型と同様、昆虫細胞内で結晶を形成した。多角体結晶はわずか数マイクロメートルのサイズしかない微小結晶であるため、この変異体結晶の構造解析は大型放射光施設 SPring-8のビームラインBL32XU、BL41XUにて行われた。理研が開発したZOOシステム(自動データ収集システム)を用いて多量の微小結晶から測定を行い、KAMOシステム(自動データ処理システム)でデータ処理を行うことにより迅速な測定・構造解析が可能となった。

その結果、これらの変異体結晶は、結晶系や格子定数が野生型と同じであること、変異領域以外の構造がほとんど変化ないことがわかった(図3)。詳細な構造解析の結果、変異領域の分子間、分子内水素結合の数が減少し、分子間相互作用が弱くなり、変異領域の柔軟性が高くなっていることがわかった。

変異体結晶(オレンジ色)の結晶構造と野生型(マゼンタ色)の結晶構造の重ね合わせ。

図3. 変異体結晶(オレンジ色)の結晶構造と野生型(マゼンタ色)の結晶構造の重ね合わせ。

(2)蛍光色素の結晶内吸着反応

作成した変異体結晶への試験管内、細胞内での吸着を行った。試験管内での蛍光色素の取り込みを検討した結果、アミノ酸を欠損した変異体では、アニオン性の蛍光色素の取り込み量や速度が野生型より大きいことがわかった。一方、双性イオンやカチオン性の色素では、ほとんど取り込み量に変化がない。さらに、細胞内においても野生型ではみられないアニオン性色素であるフルオレセイン[用語7]の吸着が変異体結晶において観察された(図4)。

共焦点顕微鏡観察による細胞内で合成した野生型(a)、変異体(b)結晶への蛍光色素の吸着。上図は1細胞の蛍光イメージ、下図はAからBの蛍光強度。
図4.
共焦点顕微鏡観察による細胞内で合成した野生型(a)、変異体(b)結晶への蛍光色素の吸着。
上図は1細胞の蛍光イメージ、下図はAからBの蛍光強度。

今後の展開

今回の研究では、細胞内で結晶を形成する多角体タンパク質の分子界面に位置するアミノ酸残基をわずか3残基欠損させることにより、細胞内での選択的分子吸着を可能とする多角体結晶の合成に成功した。この成果によって合成した結晶材料は、細胞内での選択的な分子認識や吸着、貯蔵が可能であるため、細胞内解毒に威力を発揮すると考えられる。また、タンパク質結晶は、分子構造解析に用いられることから、細胞内で特定の分子を集積させることにより、これまで困難とされてきた細胞内分子の構造解析や反応による構造変化を追跡する分子のカゴとしての利用も期待される。

用語説明

[用語1] 昆虫ウイルス : カイコなど鱗翅(りんし)目昆虫の幼虫に感染するウイルス。感染した細胞内でタンパク質結晶を作り、その中に潜む。

[用語2] 多角体 : 細胞質多角体病ウイルスの感染後期に合成される多角体タンパク質が自発的に集合し結晶化したタンパク質の構造体である。水中、有機溶媒中においても結晶が溶解しない高い安定性を有している。pH10以上のアルカリ溶液にのみ溶解し、内部に固定化していたウイルス粒子を放出する。

[用語3] マイクロメートル(μm) : 長さの単位で100万分の1m。数μmの微小なタンパク質結晶の構造解析は困難と考えられてきたが、放射光施設などのマイクロビームラインを利用することにより数μmサイズのタンパク質結晶の構造解析が可能となっている。

[用語4] 大型放射光施設 SPring-8 : 兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高品質の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、その運転管理と利用者支援は高輝度光科学研究センターが行っている。SPring-8の名前は、Super Photon ring-8GeVに由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、指向性が高く強力な電磁波のこと。SPring-8では、遠赤外から可視光線、軟X線を経て硬X線に至る幅広い波長域で放射光を得ることができるため、原子核の研究からナノテクノロジー、バイオテクノロジー、産業利用や科学捜査まで幅広い研究が行われている。タンパク質の結晶構造解析の分野でも大きな成果をあげている。

[用語5] 多孔性の結晶材料 : 分子が規則的に集合した構造体で、内部に多数の細孔を有する結晶。細孔径の大きさにより、マクロ孔(>50 nm=ナノメートル)、メソ孔(2 - 50 nm)、マイクロ孔(<2 nm)などに分類される。これらの材料は、分子の設計性も高く、様々な分子の吸着や分離などに利用可能なため、注目を集めている。

[用語6] L4ループ : 多角体タンパク質の一部分でループを形成する。今回の研究では、L4ループ上に位置するアミノ酸側鎖を欠損した。

[用語7] フルオレセイン : 蛍光色素の一種で緑色蛍光を発する。主に、顕微鏡観察などに用いられ、様々な誘導体が合成されている。

論文情報

掲載誌 :
ACS Nano
論文タイトル :
Crystal Engineering of Self-Assembled Porous Protein Materials in Living Cells
著者 :
Satoshi Abe, Hiroyasu Tabe, Hiroshi Ijiri, Keitaro Yamashita, Kunio Hirata, Kohei Atsumi, Takuya Shimoi, Masaki Akai, Hajime Mori, Susumu Kitagawa and Takafumi Ueno
DOI :

生命理工学院

生命理工学院 ―複雑で多様な生命現象を解明―
2016年4月に新たに発足した生命理工学院について紹介します。

生命理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

東京工業大学 生命理工学院
教授 上野隆史

E-mail : tueno@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5844 / Fax : 045-924-5806

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

理化学研究所 広報室

E-mail : ex-press@riken.jp
Tel : 048-467-9272 / Fax : 048-467-4715

京都工芸繊維大学 総務課 広報室

E-mail : koho@jim.kit.ac.jp
Tel : 075-724-7016 / Fax : 075-724-7029

プラズマ照射により植物細胞へのタンパク質導入に成功―品種改良や開花コントロールへの応用に期待―

$
0
0

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院の沖野晃俊准教授と農業・食品産業技術総合研究機構の柳川由紀特別研究員、光原一朗主席研究員は共同で、大気圧低温プラズマを用いて植物細胞にタンパク質を導入することに成功した。二酸化炭素または窒素で生成した大気圧低温プラズマをタバコ葉に数秒照射した後、タンパク質を含む溶液に浸すと、タンパク質がタバコ葉の細胞内に入ることを確認した。シロイヌナズナの葉とイネの根の細胞にも同様の方法でタンパク質を導入した。

この技術は植物体に特別な前処理をする必要がないので、前処理の問題からこれまでタンパク質導入が不可能であった植物種や組織にも広く利用できる。また、導入するタンパク質自体にも特別な処理が不必要なので、実際の栽培環境で使える。今後はゲノム編集[用語1]による品種改良、開花誘導タンパク質による開花コントロール、植物の機能コントロールなどへの展開が期待される。

この成果は「Direct protein introduction into plant cells using a multi-gas plasma jet(植物細胞へのガスプラズマによるタンパク質導入)」というタイトルで2月10日に米国の科学誌「PloSOne」に掲載された。

研究の背景

植物細胞へのタンパク質導入には、細胞膜を通過する膜透過ペプチドをタンパク質に融合させる、あるいは混合して細胞に導入する方法が知られている。しかし、植物の表面は乾燥を防ぎ、内部の細胞を保護するためのロウ状のクチクラ層に覆われているため、無傷の植物体にタンパク質をそのまま導入することは難しい。

そこで、注射器を用いてタンパク質溶液を葉の内部に入れる(インフィルトレーション)、また酵素で処理して完全にクチクラ層やその下の細胞壁を除去して単細胞(この状態をプロトプラスト)にする、などといった前処理をすることでタンパク質を導入している。しかし、インフィルトレーションは柔らかい葉に限定される方法なので、限られた植物種にしか適用できない。また、プロトプラストは壊れやすく、無菌状態で利用する、死なないように維持していくのが難しい、など利用しにくいという難点がある。

それらに比較して、大気圧低温プラズマによるタンパク質導入法は、インフィルトレーションやプロトプラスト化などの前処理は必要ないので、植物種や組織の制約がなく、タンパク質導入後の扱いが容易である。さらに、大気圧低温プラズマによるタンパク質導入法は膜透過ペプチドを必要としないので、サンプル調製自体も容易という利点がある。また、膜透過ペプチドとの融合タンパク質[用語2]を調整することが困難、あるいは膜透過ペプチドとの混合を望まないタンパク質、例えば市販のタンパク質や抗体などの導入にも利用されることが期待される。

前述したように、大気圧低温プラズマ法は植物体のみならずタンパク質自体にも特殊な前処理を必要としない。さらに、タンパク質が細胞内に導入されても、遺伝子のように次の世代に受け継がれることはなく、その世代の植物の中で分解されて消失するので、遺伝子保護や変異生物拡散防止などの問題はない。そのため、大気圧低温プラズマ法は隔離された研究室内での利用のみならず、農業現場などの産業利用も期待できる。

研究成果

ダメージフリープラズマを照射
図1. ダメージフリープラズマを照射

現在、大気圧低温プラズマは室温~100 ℃程度の低温でありながら高い活性力を持つラジカルなどの活性種を生成できるため、表面親水化による接着力向上、細胞やウイルスの殺傷、血液凝固など様々な利用法が報告されている。さらに、放電損傷を生じず、手で触れることができるダメージフリープラズマも生成可能なので、生体表面や生鮮食品などへの応用研究も進んでいる。

柳川特別研究員らはダメージフリープラズマを、植物に適した温度にコントロールして照射した(図1)。このプラズマ源は、二酸化炭素、窒素、酸素、水素、空気、アルゴンなど様々なガス種を利用して大気圧プラズマを生成することができる。予備実験として、これらのガス種で生成させたプラズマを用いて効果を検討したところ、特に二酸化炭素と窒素で生成させたプラズマが植物細胞へのタンパク質導入に効果的であった。

タンパク質導入には、緑色蛍光タンパク質(sGFP)[用語3]アデニル酸シクラーゼ(CyaA)[用語4]を融合させたタンパク質(sGFP-CyaAタンパク質)を用いた。タンパク質導入法としては、図2のように、タバコの葉に二酸化炭素ガスあるいは窒素ガスで生成させたプラズマを照射した後、sGFP-CyaAタンパク質を含む溶液に葉を浸した。

タバコ葉へのタンパク質導入手順

図2. タバコ葉へのタンパク質導入手順

この葉を共焦点顕微鏡で観察すると、二酸化炭素プラズマ、窒素プラズマどちらでもsGFPタンパク質の緑色蛍光が細胞内に観察された(図3)。タバコ葉の表皮細胞はジグソーパズル状の形をしている。プラズマ照射した葉ではこの形が緑色蛍光で観察されたので、sGFPタンパク質が細胞内に入っていると考えた。プラズマ生成に用いたガスのみを照射した葉では、緑色蛍光は観察できなかった。なお、赤色蛍光は植物細胞がもともと持っている葉緑体を示しており、緑色蛍光が赤色蛍光とは重ならないことが分かる。また、明視野は細胞の形をそのまま観察したものであり、緑色蛍光の形が明視野で観察できる細胞の形と似ていることが分かる。

タバコ葉内に導入されたsGFP-CyaAタンパク質の共焦点顕微鏡写真

図3. タバコ葉内に導入されたsGFP-CyaAタンパク質の共焦点顕微鏡写真

CyaAタンパク質は環状アデノシン一リン酸(cAMP)[用語5]の生成に必要な酵素であり、生きた細胞内で働く。そのため、CyaAタンパク質が細胞内に導入され、かつその細胞が生きていると、導入されたCyaAタンパク質量に比例してcAMP量が増加する。この原理を利用してタバコ葉のcAMP量を測定したところ、プラズマ照射した葉では二酸化炭素プラズマ、窒素プラズマともにガスのみ照射した葉と比較してcAMP量が有意に増加していた(図4)。プラズマ照射後に融合タンパク質なしの溶液に浸した葉ではcAMP量の増加は認められなかった。

タバコ葉内に導入されたsGFP-CyaAタンパク質の定量

図4. タバコ葉内に導入されたsGFP-CyaAタンパク質の定量

以上のように、sGFPの共焦点顕微鏡観察の結果とcAMPの定量の結果は、タバコ葉をプラズマ照射した後にsGFP-CyaAタンパク質と接触させると、sGFP-CyaAタンパク質が細胞内に導入される、ということを示している。

シロイヌナズナの葉、イネの根にも同様にプラズマ処理を行い、共焦点顕微鏡でsGFPタンパク質を観察したところ、細胞内に緑色蛍光が観察された。これらの結果から、二酸化炭素プラズマ及び窒素プラズマ処理することで、様々な植物種や組織に対してタンパク質導入が可能となることが期待される。

今後の展望

近年、品種改良技術の一つとして、タンパク質を細胞に導入して遺伝子改変を行うゲノム編集技術が注目されてきた。しかし、これまでは、効率的、かつ多様な植物種や組織の細胞にタンパク質を導入する技術はなく、植物細胞にタンパク質を導入して実際に品種改良した例はない。今回、大気圧低温プラズマを用いて植物細胞にタンパク質を直接導入できたことから、TALEN法(用語1参照)やCRISPER/Cas9法(用語1参照)によるゲノム編集技術を用いた品種改良への利用が期待される。

フロリゲン[用語6]は開花誘導タンパク質であり、葉で作られて植物体の上部へと移動する。このフロリゲンタンパク質を植物体へ導入することで開花時期をコントロールできる可能性があり、花卉を含む農産物の出荷時期制御への利用も期待される。

転写因子は標的遺伝子のオンオフを制御するタンパク質であり、転写因子が標的遺伝子の制御部分に結合することでその遺伝子の転写が促進あるいは抑制される。大気圧低温プラズマ法によって転写因子を植物細胞内に導入し、目的とする遺伝子のオンオフを制御できれば、植物の機能をコントロールできる可能性がある。

なお本研究の一部は、総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「ゲノム編集技術の普及と高度化」(管理法人:国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構・生研センター)、JSPS科研費JP25440057、及び平成28年度生体医歯工学共同研究拠点共同研究プロジェクト「大気圧プラズマを用いた植物細胞内への効率的なタンパク質導入法の開発」によって実施された。

用語説明

[用語1] ゲノム編集 : 特定の遺伝子に変異を導入したり、活性/不活性型に置き換えたりすることによって新たな細胞や品種を作る技術。遺伝子組換えと異なり、作成された品種は外来遺伝子を持たない。部位特異的なヌクレアーゼ(核酸(DNA)切断酵素)を利用して、思い通りに標的遺伝子を操作する方法が中心である。ヌクレアーゼとしては、2005年以降に開発・発見された、ZFN、TALEN(タレン)、CRISPR/Cas9(クリスパー・キャスナイン)を中心としている。従来の遺伝子工学、遺伝子治療と比較して、非常に応用範囲が広い。

[用語2] 融合タンパク質 : 遺伝子組換えによって2種類以上のタンパク質をコードする遺伝子を結合させて作られたタンパク質。従来のたんぱく質(含む酵素)に新たな性質を付け加えることなどが可能になる。

[用語3] 緑色蛍光タンパク質(sGFP) : クラゲから単離された自身で緑色蛍光を発するタンパク質(GFP)を、植物などでの使用に適するよう改変したもの。

[用語4] アデニル酸シクラーゼ(CyaA) : アデノシン3リン酸を基質として環状アデノシン1リン酸を合成する酵素。真核生物には存在するがバクテリアなどは持っていないカルモジュリンがある状態でだけ活性を持つ。細胞の多くの生理機能を制御するのに重要な役割を果たしている。

[用語5] 環状アデノシン一リン酸(cAMP) : サイクリックAMP。グルカゴンやアドレナリンといったホルモン伝達の際の細胞内シグナル伝達においてセカンドメッセンジャーとして働く。主な作用はタンパク質リン酸化酵素(タンパク質キナーゼ)の活性化。

[用語6] フロリゲン : 花芽の形成に関係するペプチド(小型のたんぱく質性の)ホルモン。

論文情報

掲載誌 :
PlosOne
論文タイトル :
Direct protein introduction into plant cells using a multi-gas plasma jet
著者 :
Yuki Yanagawa, Hiroaki Kawano, Tomohiro Kobayashi, Hidekazu Miyahara, Akitoshi Okino, Ichiro Mitsuhara
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所
准教授 沖野晃俊

E-mail : aokino@es.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5688

農業・食品産業技術総合研究機構 生物機能利用研究部門
主席研究員 光原一朗

E-mail : mituhara@affrc.go.jp
Tel / Fax : 029-838-7440

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

農業・食品産業技術総合研究機構 本部 連携広報部広報課

E-mail : naro-pr@naro.affrc.go.jp
Tel : 029-838-8988 / Fax : 029-838-8982

数理的フレームワークにより微小電線の形成過程を再現―ナノエレクトロニクスへの応用に期待―

$
0
0

京都大学(総長:山極壽一)物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)のダニエル・パックウッド(Daniel Packwood)講師(国立研究開発法人科学技術振興機構さきがけ「社会的課題の解決に向けた数学と諸分野の協働」領域研究者)、東北大学(総長:里見進)原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)のパトリック・ハン(Patrick Han)助教、東京工業大学(学長:三島良直)物質理工学院の一杉太郎(ひとすぎ・たろう)教授(AIMR客員教授)は、入力データから物理的現象を予測する新しい数理的フレームワークを構築することにより、「グラフェンナノリボン」という毛髪直径の100,000分の1ほどの微小な電線の形成過程を明らかにしました。この数理的フレームワークは機械学習、数理モデルを組み合わせたもので、グラフェンナノリボンの形成過程に生じる分子配列の予測が可能になり、極微小エレクトロニクスへの道を拓くことが期待されます。

グラフェンナノリボンは、平面状のグラフェン[用語1]を細く切り出した線状のもので、その幅は炭素原子が数個から数十個並ぶ極微小細線です。このグラフェンナノリボンは、従来のエレクトロニクスで利用されているシリコンと比べて2,000倍以上の電気伝導性があり、微小な電気配線としての応用が期待されています。しかし、その長さや幅、あるいは、配線の端(エッジ)の形状を制御することが難しく、世界中で活発な研究が展開されています。グラフェンナノリボンは、金属表面上に吸着した分子が自発的に集合してできる鎖に似た構造(鎖構造)が、さらに化学変化を起こして生まれます。しかしこれまでは、それらの分子が自発的にどのように配列するのか、理論予測がこれまでは困難でした。

本研究では、理論化学・数理科学を専門とするパックウッド講師が、材料科学を専門とするハン助教と一杉教授と密に共同研究を行い、金属表面上に吸着した分子の配列を予測する新しい数理的フレームワークを構築しました。このフレームワークでは、分子間に起きる相互作用をデータベースから機械学習により学び、人工知能が適切な数理モデルを自動的に組み立てます。これにより、非常に高い確度で分子配列を予測し、グラフェンナノリボンの形成過程において、分子が鎖構造を形成するメカニズムを解明することに成功しました。

この鎖構造形成には、エントロピー[用語2]の大きさが深く関わっていることが分かりました。一般に、「エントロピー増大の法則」により、分子が金属表面上に散らばっているエントロピーの大きな状態になりやすく、言い換えると、分子が直線状に並んでいる状態ではエントロピーが小さいと思われていました。しかし、現実には、分子は直線状に並んでいても「対称性を下げる」というメカニズムで、エントロピーを増大させていることが分かりました。この「対称性を下げる」原理は、鴨川の川べりでくつろぐ人々の座り方に似ていて、人々は川に沿って一列に並んでいますが、その間隔はまちまちです。このような形で、金属上の分子が直線状に並びながらも、配列の乱れを導入して、全体として対称性を下げることによりエントロピーが増加します。これまではエントロピーの大きさがどのように鎖状構造の形成に影響するか、明らかではありませんでした。しかし、今回、エントロピーの効果がある程度強くなると、直感に反し、秩序立った鎖構造が形成されやすくなることが分かりました。

今回の成果は、エレクトロニクス素子(電子回路)の高速化や低消費電力化につながり、今後、極微小電子デバイスの実現を通じて、人工知能やロボットへの貢献が期待できます。さらに、フレキシブルな(柔らかい)エレクトロニクスデバイスにもつながり、医療など、さまざまな分野に応用されることが期待されます。

本成果は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)およびチーム型研究(CREST)、科研費基盤研究(A)、基盤研究(C)の支援を受けて行われ、英国時間2017年2月14日午前10時(日本時間14日午後7時)に英オンライン科学誌「Nature Communications(ネイチャーコミュニケーションズ)」で公開されました。

背景

エレクトロニクスの小型化・高集積化が着実に進む中、さらなる発展に向けてグラフェンナノリボンが注目を集めています(図1)。グラフェンナノリボンは電気抵抗が極めて低いことから、微小配線材料として期待されています。しかし、グラフェンナノリボンの長さや幅、あるいは、配線の端の形状を高精度で制御することが難しく、実用化に向けてさらなる研究開発が必要です。

グラフェンナノリボンとそのサイズの比較
図1.
グラフェンナノリボンとそのサイズの比較。茶色の球面:炭素原子、白い球面:水素原子(グラフェンナノリボンと分子はコンピューター生成イメージ)

グラフェンナノリボンを合成するには、まず、グラフェンナノリボンの原料となる分子(プリカーサ分子)を金属銅の表面に吸着します。すると、プリカーサ分子は自己組織的[用語3]に直線状に配列し、鎖構造を形成します(図2)。この鎖構造は一部に配列の乱れを含んだものがあります。そして、熱処理を行うと、鎖構造が規則正しいグラフェンナノリボンに化学変化します。したがって、事前に鎖構造の長さや形状を予測することができれば、グラフェンナノリボン形成過程を制御することができます。しかし、プリカーサ分子が自己組織的に鎖構造を形成する過程が不明で、分子の種類に応じた鎖構造を予想することは困難でした。

(A-C)グラフェンナノリボンの合成過程(D)分子自己組織化による鎖構造の形成過程
図2.
(A-C)グラフェンナノリボンの合成過程。黄色の球面:臭素原子、茶色の球面:炭素原子、白い球面:水素原子、Br2BA:10,10'-ジブロモ-9,9'-ビアントラセン。(B)は走査トンネル顕微鏡(STM)[用語4]で得られた画像で、オレンジ部分は鎖構造。(D)分子自己組織化による鎖構造の形成過程。

研究内容と成果

本研究では、金属銅に吸着したプリカーサ分子の振る舞いや鎖構造の形成過程について、数理的フレームワークを用いて研究しました。

数理的フレームワークとは、入力データを受け取り、出力データとして物理的現象を予測するアプローチです(図3)。本研究で使った数理的フレームワークでは分子間相互作用のデータベース(=入力データ)を機械学習して数理モデルを築きます。その数理モデルは「人工知能」を持ち、金属銅に吸着したプリカーサ分子の振る舞いや鎖構造の形成過程を高い確度で予測しました。この予測は、グラフェンナノリボンの形成過程を実際に可視化する、走査トンネル顕微鏡(STM)[用語4]による観察結果を再現しました。

数理的フレームワークでは、分子間相互作用のデータベースを機械学習して数理モデルを築く。そして、数理モデルは「人工知能」を持ち、分子の並び方や鎖構造の形成を再現できた。データベースには、分子間の様々な相互作用の仕方とそれらのエネルギーについての情報が含まれている。eV:エレクトロンボルト(エネルギーの単位)。
図3.
数理的フレームワークでは、分子間相互作用のデータベースを機械学習して数理モデルを築く。そして、数理モデルは「人工知能」を持ち、分子の並び方や鎖構造の形成を再現できた。データベースには、分子間の様々な相互作用の仕方とそれらのエネルギーについての情報が含まれている。eV:エレクトロンボルト(エネルギーの単位)。

この数理フレームワークを分析することにより、分子がどのように鎖構造を形成するかを説明することができました。一般に、「エントロピー増大の法則」により、分子は直線状に並ばず、金属表面上に散らばっているエントロピーの大きな状況になりやすいと理解されています。言い換えると、直線状に並んでいるということはエントロピーが小さい、というのが常識でした。しかし、分子が直線状に配列していても、「対称性を下げる」メカニズムによりエントロピーが増大することが分かりました。

(A-C)机の上に置いた木片で回転・交換の対称性を説明する。点線の矢印は対称性を下げる欠点を示す。(D)数理フレームワークで予想された鎖構造。黒い円(点線)は欠陥を示す。欠陥の導入により対称性が下がり、鎖構造のエントロピーが上がることによって、鎖構造が形成される。
図4.
(A-C)机の上に置いた木片で回転・交換の対称性を説明する。点線の矢印は対称性を下げる欠点を示す。(D)数理フレームワークで予想された鎖構造。黒い円(点線)は欠陥を示す。欠陥の導入により対称性が下がり、鎖構造のエントロピーが上がることによって、鎖構造が形成される。

このメカニズムを簡単に説明するために、机の上に置いた2つの木片を考えてみます(図4 A, B, C)。木片表面にある傷を無視すると、木片1、2を180度で回転しても、あるいは、木片1、2を交換しても、机の上に置いた木片の見た目は変わりません。すなわち、この木片は回転・交換の対称性があると言えます。しかし、木片の表面にある傷を考慮すれば、木片の回転・交換の対称性が失われ、木片の回転や交換を行うと、変化がたちどころに分かります。回転・交換の対称性が無い場合は、対称性がある場合よりもエントロピーが高いことが本研究で分かりました。

分子の場合、「対称性を下げる」ために、鎖構造に小さい欠陥が導入されます(図4D)。すなわち、金属上の分子が一列に並びながらも、間隔が異なるなど配列の乱れが導入され、全体として対称性を下げてエントロピーを増やすということです。この列形成メカニズムにより、プリカーサ分子が鎖構造を形成し、最終的にグラフェンナノリボンが形成されることが分かりました。

今後の展開

本研究によって今まで理解が困難であったグラフェンナノリボンの形成メカニズムを解明することができました。これによって、グラフェンナノリボンの形状のコントロールが容易になり、電子デバイス等への実用化に向けて研究がさらに加速することが期待されます。

また本件は分子の配列に関する成果ですが、この数理的フレームワークは原子の配列にも展開できます。それにより、固体内の不純物原子の配列、あるいは表面における原子の配置が明らかになり、エレクトロニクスデバイスの性能向上につながることが期待できます。さらに、電池開発や触媒などエネルギー分野などへの展開が期待されます。例えば、化学反応において触媒表面の分子配置は非常に重要です。この数理的フレームワークで、反応物となる分子の振る舞いを予想し、有益な化学材料を合成する触媒過程を構築することも期待されます。

用語説明

[用語1] グラフェン : 炭素原子からなるシート状の材料。グラフェンは高い電気伝導性などの優れた特徴を持ち、次世代のエレクトロニクス材料として活発に研究されている。グラフェンを発見した研究者は、2010年のノーベル物理賞を受賞した。

[用語2] エントロピー : 無秩序の度合いを定量するものである。エントロピーが大きいほど秩序が無く、小さいほど秩序立っている。エントロピー増大の法則では、何かにコントロールされていない自発的な変化では、エネルギーや物質は散逸(エントロピーが増大)することを定める。

[用語3] 自己組織化 : 分子が自発的に集合し、小さい構造を形成すること。

[用語4] 走査トンネル顕微鏡(STM = scanning tunneling microscopy) : 物質表面の原子や分子を観察する顕微鏡。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Chemical and Entropic Control on the Molecular Self-Assembly Process
著者 :
Daniel Packwood, Patrick Han, Taro Hitotsugi
DOI :

iCeMSについて

京都大学 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)は、文部科学省「世界トップレベル研究拠点(WPI)プログラム」に平成19年度に採択された拠点です。iCeMSでは、生物学、物理学、化学の分野を超えて新しい学問を作り、その学問を社会に還元することを目標に活動している日本で唯一の研究所です。その新しい学問からは、汚水や空気の浄化といった環境問題の解決、脳の若返りといった医療に役立つ可能性を秘めたとてつもないアイデアが次々と生まれています。

詳しくはウェブサイトouterをご覧下さい。

世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)について

WPIは、平成19年度から開始された文部科学省の事業です。WPIでは、世界トップレベルの研究に取り組むことはもちろんのこと、従来の大学のシステムでは成しえない研究組織・研究環境・事務体制の国際化を目指しています。これらは短期間で実現できるものではないため、10年という実施期間が設けられており、各拠点はこれまでさまざまな取り組みを行ってきました。その結果、拠点長のリーダーシップのもと、拠点内の公用語を英語としたり、研究者の外国人比率30%を達成するなど先進的な取り組みを行っているほか、現在までに、採択拠点からノーベル賞受賞者を2名(山中伸弥先生、梶田隆章先生)輩出するなど、高い成果を挙げています。

詳しくはウェブサイトouterをご覧下さい。

物質理工学院

物質理工学院 ―理学系と工学系、2つの分野を包括―
2016年4月に新たに発足した物質理工学院について紹介します。

物質理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

(研究内容に関すること)

京都大学 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)
講師 Daniel Packwood

E-mail : dpackwood@icems.kyoto-u.ac.jp
Tel : 080-3194-9326 / 075-753-9771

(京都大学iCeMSに関すること)

京都大学 高等研究院等事務部 国際企画・広報掛
髙宮泉水

E-mail : ias-oappr@mail2.adm.kyoto-u.ac.jp
Tel : 075-753-9755

(東北大学AIMRに関すること)

東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)
広報・アウトリーチオフィス
皆川麻利江

E-mail : aimr-outreach@grp.tohoku.ac.jp
Tel : 022-217-6146

(東京工業大学に関すること)

東京工業大学 広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

(JST事業について)

科学技術振興機構 戦略研究推進部 ICTグループ
松尾浩司

E-mail : presto@jst.go.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

(JST報道担当)

科学技術振興機構 広報課

E-mail : jstkoho@jst.go.jp
Tel : 03-5214-8404

硫化水素に応答して遺伝子発現を調節するタンパク質を発見―硫化水素バイオセンサーの開発に道―

$
0
0

要点

  • 地球で最初に光合成を始めた細菌は、硫化水素を利用していたと推測
  • 硫化水素は哺乳類で、細胞機能の恒常性維持や病態生理の制御に関わるが、詳細なシグナル伝達機構は不明
  • 硫化水素に応答して遺伝子発現を調整するタンパク質を紅色細菌から初めて発見

概要

東京工業大学 生命理工学院の清水隆之大学院生(博士課程)と、バイオ研究基盤支援総合センター・地球生命研究所の増田真二准教授らの研究グループは、紅色細菌[用語1]から、硫化水素に応答して遺伝子発現[用語2]をコントロールする新たなタンパク質「SqrR」を発見した。

このタンパク質を欠損した紅色細菌は、硫化水素濃度に応じた光合成生育が不全になることから、初期型の光合成の調節に重要と考えられる。このタンパク質は、特定の2つのアミノ酸間の架橋反応により外界の硫化水素濃度をモニターしていることがわかった。「SqrR」の機能解析は、硫化水素認識システムの分子機構とその進化を明らかにするだけでなく、硫化水素が生体内のどこで、いつ、どのくらい作られているのかをリアルタイムでモニターできるバイオセンサーの開発につながる。

研究成果は2月13日発行の米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of USA)」に掲載された。

研究の背景と経緯

植物は、葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い、それを光合成に用いている。この反応の副産物として酸素が発生する。しかし、光合成が地球上に誕生した初期の段階では、水よりも電子を奪いやすい硫化水素(H2S)がその電子源だったと考えられている(図1)。現在も硫化水素を電子源に光合成を行う光合成細菌[用語3]が多数同定されている。これらの細菌は、外界の硫化水素の量を的確にモニターしていると考えられるが、その仕組みはわかっていなかった。

一方、硫化水素は近年、哺乳類における細胞内外のガス状シグナル物質として注目されている(図2)。硫化水素は有毒だが、動物細胞内では一定量の硫化水素が生合成されており、細胞機能の恒常性維持、病態生理の制御に深く関わっていることが明らかとなってきた。しかし、硫化水素に依存した細胞内シグナル伝達機構は不明な点が多い。

光合成生物の誕生と進化のモデル

図1. 光合成生物の誕生と進化のモデル

深海の熱水噴出孔で誕生した光合成細菌はその後、藻類、陸上植物と進化した。光合成が誕生した当初は電子源に水(H2O)ではなく硫化水素(H2S)を用いていたと考えられる。

硫化水素の生理作用

図2. 硫化水素の生理作用

外界の硫化水素は呼吸阻害を強力に引き起こす毒物だが、生体内で生合成される硫化水素は、様々な細胞・生体機能の恒常性の維持に重要な働きをしていると考えられている。

研究内容

増田准教授らのグループは、硫化水素を電子源に光合成を行う紅色光合成細菌を用いて、硫化水素を認識するタンパク質の同定を試みた。まず、スクリーニング法を工夫することで、多数の変異体集団から硫化水素応答能だけを特異的に欠損した変異体を単離することに世界で初めて成功した。単離した変異体は特定の遺伝子に変異を持っていた。この遺伝子が硫化水素を認識するタンパク質をコードしていると考えられる。

このタンパク質を詳細に解析したところ、特定のDNA配列に結合する転写因子タンパク質[用語4]であることがわかった。「SqrR」と名付けたこのタンパク質には、チオール基(SH基)を持つアミノ酸であるシステインを2つ持っていた。このタンパク質を硫化水素イオンがある状態で、細胞内に多数存在するペプチド分子「グルタチオン[用語5]」と共存させると、2つのシステインの間でイオウ原子4つを介した分子内架橋を作り、DNAへの結合能が弱まることがわかった(図3)。

グルタチオンが硫化水素イオンと反応すると、化学的反応性に富む活性イオウ分子種[用語6]となることがわかっている。このことから、SqrRタンパク質は、硫化水素がグルタチオンなどのチオール基を含む低分子化合物と反応して生成する活性イオウ分子種を介して外界の硫化水素濃度をモニターしていると考えられた。

今回同定したSqrRタンパク質は相同性検索すると、様々な細菌種に保存されていることがわかった。このことから、SqrRによる硫化水素に応答した遺伝子発現の制御機構は、細菌界に幅広く利用されていると考えられる。

SqrRタンパク質の硫化水素に応答した遺伝子発現制御

図3. SqrRタンパク質の硫化水素に応答した遺伝子発現制御

硫化水素のない条件においてSqrRはDNAに結合し、転写を抑制している。硫化水素がある条件では、硫化水素により反応性の高い活性イオウ分子種ができ、それにより、4つのイオウを介した架橋がSqrRの分子内にできる。すると構造変化して、DNAへの結合能を失う。結果として遺伝子の転写が起こる。

今後の展開

今回の研究により、活性イオウ分子種によるタンパク質のシステイン残基間の架橋形成が硫化水素依存の細胞内シグナル伝達に重要であることがわかった。今回の発見により、動物における硫化水素依存のシグナル伝達の仕組みや、活性イオウ分子種と生理・生体反応の関わりなどの研究が進むものと期待される。またSqrRの反応性を利用することにより、硫化水素や活性イオウ分子種が、生体内のどこに、いつ、どのくらい存在しているのかをリアルタイムでモニターできるバイオセンサーの開発につながる。

用語説明

[用語1] 紅色細菌 : 酸素の発生を伴わない原始的な光合成を行う細菌種の一つで、保有するカロテノイドの色により赤色を呈する。

[用語2] 遺伝子発現 : 遺伝情報からタンパク質が作り出される過程を指す。すなわち、遺伝子の実体DNAからRNAが合成され、RNAからタンパク質が作られる一連の過程を指す。

[用語3] 光合成細菌 : 酸素の発生を伴わない光合成を行う細菌全般を指す。紅色細菌、緑色細菌、酸素非発生型糸状性細菌、ヘリオバクテリアなどが知られている。

[用語4] 転写因子タンパク質 : 遺伝子発現[用語2]の過程において、DNAからRNAを合成する「転写」を調節するタンパク質のこと。

[用語5] グルタチオン : 3つのアミノ酸(グルタミン酸、システイン、グリシン)の重合体。システインのSH基の反応性を利用して、細胞内の酸化還元状態の恒常性維持に重要な働きをしている。

[用語6] 活性イオウ分子種 : 過剰にイオウが付加し反応性が高まった状態のチオール基を持つ分子の総称。

論文情報

掲載誌 :
Proceedings of the National Academy of Sciences of USA
論文タイトル :
Sulfide-responsive transcriptional repressor SqrR functions as a master regulator of sulfide-dependent photosynthesis
著者 :
Takayuki Shimizu, Jiangchuan Shen, Mingxu Fang, Yixiang Zhang, Koichi Hori, Jonathan C. Trinidad, Carl E. Bauer, David P. Giedroc, Shinji Masuda
DOI :

付記

本研究は、科学研究費補助金の支援を受けて実施した。

共同研究グループ

本研究は、東京工業大学生命理工学院の堀孝一助教、米国インディアナ大学のグループと共同で実施した。

生命理工学院

生命理工学院 ―複雑で多様な生命現象を解明―
2016年4月に新たに発足した生命理工学院について紹介します。

生命理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

東京工業大学 バイオ研究基盤支援総合センター
准教授 増田真二

E-mail : shmasuda@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5737 / Fax : 045-924-5823

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

Viewing all 2008 articles
Browse latest View live