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「国立大学法人理学部長会議声明 ―未来への投資―」の記者発表を開催

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10月31日、東工大蔵前会館手島精一記念会議室において、本学の岡田哲男理学院長が出席し、全国34の国立大学法人の理学系部局の責任者で構成される「国立大学法人理学部長会議」による声明について記者発表を行いました。

記者発表で発言する岡田理学院長(右から2番目)

記者発表で発言する岡田理学院長(右から2番目)

「国立大学法人理学部長会議」は、我が国の基礎科学研究を継承・発展させ、豊かな社会を形成するために必要な『知』の教育と研究を推進することによって社会に貢献することを目指して組織されています。「基礎科学こそが 、科学・技術の基盤であり、我が国の国力のもとであり、これなくしては、科学・技術の人類への貢献も我が国独自の産業の抄出もおぼつかないのではないか」と考え、今回声明を出すこととなりました。そして、我が国の置かれている困難な財政上の問題を十分理解した上で、未来への投資として基礎科学の推進を訴えました。

記者発表では、岡田理学院長のほか、東京大学、お茶の水女子大学、琉球大学、北海道大学、茨城大学、広島大学の理学系研究科長や理学部長が登壇し、基礎科学の重要性と国立大学法人の基礎研究のおかれる危機的状況について、広く国民にむけて訴えました。


スパコン向けアプリケーション開発を大幅に容易にする手法を開発

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スパコン向けアプリケーション開発を大幅に容易にする手法を開発
―高性能計算技術の世界最高峰の会議で最優秀論文賞を受賞―

要旨

理化学研究所(理研) 計算科学研究機構 プログラム構成モデル研究チームの丸山直也チームリーダーとモハメド・ワヒブ特別研究員、東京工業大学 学術国際情報センターの青木尊之教授の共同研究チームは、ハイ・パフォーマンス・コンピューティング(高性能計算技術)に関する世界最高峰の国際会議であるSC16[用語1]において最優秀論文賞を受賞しました。SC16では442報の論文が投稿され、共同研究チームは「適合格子細分化法[用語2]に関する論文」を投稿しています。

適合格子細分化法はAMRとも呼ばれ、必要な計算およびメモリ使用量を大幅に削減できるため、シミュレーションの高速化に有効です。一方で、大規模なスーパーコンピュータで用いるには、データの移動を無駄なく効率良く行うプログラムなどの開発が必要で、シミュレーションソフトウェアの開発においてさまざまな技術的課題がありました。

共同研究チームは新しいソフトウェア技術を開発し、大規模なスーパーコンピュータ上で簡単に適合格子細分化法を利用できる環境を実現しました。開発したソフトウェアは、プログラムの自動的な変換技術に基づき、従来必要であった煩雑なプログラミングや最適化の多くを自動化します。これによって、シミュレーションソフトウェアの開発コストが大幅に削減されました。GPU[用語3]などのアクセラレータ[用語3]を用いたスーパーコンピュータは性能や省電力に優れるものの、そのプログラミングの手間から使い勝手に劣る点が問題でしたが、開発した手法を用いることで、一般的な適合格子細分化法の利用においては、この問題を解決することができます。SC16での最優秀論文賞の受賞は、共同研究チームの開発内容が国際的に高く評価されたことを示しています。

本研究成果は、SC16の講演要旨集『Proceedings of the ACM/IEEE International Conference for High Performance Computing, Networking, Storage and Analysis (SC'16)』に掲載されます。

本研究の一部は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST「ポストペタスケール高性能計算に資するシステムソフトウェア技術の創出」(研究総括:佐藤三久)における研究課題「高性能・高生産性アプリケーションフレームワークによるポストペタスケール高性能計算の実現」(研究代表者:丸山直也)の一環として行われました。

格子細分化のアルゴリズムと、界面に適合して格子を細分化した計算結果

図1. 格子細分化のアルゴリズムと、界面に適合して格子を細分化した計算結果

格子を界面からの距離に応じて細分化することで、高解像度が必要な界面近傍に細かい格子を集めている。

図2. 格子を界面からの距離に応じて細分化することで、高解像度が必要な界面近傍に細かい格子を集めている。

背景

コンピュータを使ったシミュレーションは天気予報から工業製品の設計など社会において幅広く利用されています。特にスーパーコンピュータなどの大規模なコンピュータを使うことで、より高精度・高精細なシミュレーションを高速に行うことが可能になります。一方でコンピュータの性能の向上スピードは次第に鈍化しつつあり、今後、さらにシミュレーションの精度や速度を向上させるためには、シミュレーション手法そのものの改善が、これまで以上に重要になります。

適合格子細分化法はシミュレーションにおいて頻繁に用いられる手法の一つである格子法[用語2]の一種で、通常の格子法に比べて必要な計算およびメモリ使用量を大幅に削減することができます。そのため、原理的にはより高速かつ高精細なシミュレーションが可能になります。しかし、実際に最先端スーパーコンピュータにおいて適合格子細分化法を用いるには多くの課題があります。例えば、最近のコンピュータは計算の性能に比べてデータを移動する性能が低いため、適合格子細分化法によって必要な計算を削減するだけでなく、データの移動を無駄なく効率良く行うプログラムの開発が必要になります。また、GPUなどのアクセラレータを使ったスパコンでは、アクセラレータ用のプログラム開発も必要になります。その結果、適合格子細分化法は原理的に有望な手法であるにも関わらず、実際の利用は通常の格子法に比べて限定的なものになっていました。

研究手法と成果

共同研究チームは、適合格子細分化法におけるこれまでの問題を解決する新しいソフトウェア技術を開発し、大規模なスーパーコンピュータ上で簡単に適合格子細分化法を利用できる環境を実現しました。開発したソフトウェアは、プログラムの自動的な変換技術に基づき、利用者が作成した適合格子細分化法プログラムからスーパーコンピュータ上で並列に動作する高性能なプログラムを、自動的に作成します。利用者が作成するプログラムはスーパーコンピュータ用に作られている必要がないため、これまでと比較して容易にスーパーコンピュータで適合格子細分化法を使うことができます。通常であればスーパーコンピュータを用いるためには並列化や最適化など、種々の煩雑なプログラミングが必要となりますが、それらの多くが研究チームの開発した手法によって自動化されるため、シミュレーションソフトウェアの開発コストが大幅に削減されました。

実際に開発したソフトウェア技術を、東京工業大学のTSUBAME2.5スーパーコンピュータ[用語4]上で用いたところ、自動的に1,000台規模の多数のGPUを同時に用いた高速かつ大規模なシミュレーションを行うことに成功しました。GPUなどのアクセラレータを用いたスーパーコンピュータは性能や省電力に優れるものの、そのプログラミングの手間から使い勝手に劣る点が問題となっていました。今回の研究結果は、プログラミングを自動化することよってそれらの問題を解決できることを示したものです。

適合格子細分化法に限らず、大規模な最先端のスーパーコンピュータの性能を最大限に引き出すシミュレーションアプリケーションの開発は、次第に困難になりつつあります。今回のSC16では442報の論文が投稿されましたが、これらの問題を解決する共同研究チームの新しいソフトウェア技術が高く評価され、最優秀論文賞を受賞しました。

今後の期待

将来のスーパーコンピュータのハードウェアは、さらなる高性能化のために大きく変わることが想定されています。一方で、アプリケーションプログラムの大幅な書き換えが必要となるなど、利用上の問題が懸念されています。今回、共同研究チームが開発した手法は、原理的には将来のスーパーコンピュータ上でもアプリケーションをそのまま用いることが可能です。そのため、将来のスーパーコンピュータでのシミュレーションを実現する有望なアプローチと考えられています。

共同研究チームは、引き続き開発した手法の改善・改良を続けると同時に、適合格子細分化法に限らず、さまざまな手法で将来のスーパーコンピュータにおけるシミュレーションソフトウェアの開発コストを削減するソフトウェア技術を研究開発していく予定です。

用語説明

[用語1] SC16 : 米国のソルトレイクシティで開催されているHPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング:高性能計算技術)に関する国際会議(2016年11月13日~18日)。各種カンファレンス・展示が催されるとともにゴードン・ベル賞・TOP500・Graph500などの表彰も執り行われる。

[用語2] 適合格子細分化法、格子法 : 格子法とは科学技術シミュレーションにおける代表的な手法の一つであり、シミュレーション対象とする空間を格子上に分割し、分割した部分空間ごとに数値方程式に基づいた計算を行う。格子はその間隔を細かく区切るほど計算する部分空間が増大するが、より精緻なシミュレーションが可能になる。適合格子細分化法とはAMRとも呼ばれる格子法の一種。格子の間隔を、物理現象を解像するための必要に応じて適切に調整することによって、より精緻さが求められる領域は細かく、そうでない領域は粗く計算する手法である。例えば自動車の空力をシミュレーションでは、車体表面に接した領域には厚さの薄い境界層が発達するため、格子間隔を密にした計算を行う必要がある。一方で自動車から離れた領域については格子間隔を広くとり簡略化した計算を行う。これにより通常の格子法では必要な精緻さを確保するために均一に格子間隔を細かくする必要があるが、適合格子細分化法では必要な箇所のみ細かく計算することによってシミュレーションの精緻さを損なわずに計算を削減することができる。適合格子細分化法を導入することにより、均一格子での計算と比較して、計算量と使用するメモリの両方ともに1/100 - 1/1,000に低減することができる。

[用語3] GPU、アクセラレータ : コンピュータで用いられるアクセラレータとは計算の一部をCPUに代わってより高速に行う装置である。GPUはGraphics Processing Unitの略であり、当初はコンピュータの画面描画のためのアクセラレータであったが、シミュレーション等の数値計算を行うアクセラレータとしても用いられている。

[用語4] TSUBAME2.5スーパーコンピュータ : 東京工業大学学術国際情報センターに設置されているスーパーコンピュータ。1,400台強の計算機(ノード)から構成され、1台あたり2つのIntel Xeon CPUおよび3つのNVIDIA Tesla GPUを搭載した総演算性能5.7 PFLOPSのクラスタ型システムである。

論文情報

掲載誌 :
Proceedings of the ACM/IEEE International Conference for High Performance Computing, Networking, Storage and Analysis (SC'16)
論文タイトル :
著者 :
Mohamed Wahib Attia, Naoya Maruyama,and Takayuki Aoki

お問い合わせ先

理化学研究所 計算科学研究機構 研究部門 プログラム構成モデル研究チーム
チームリーダー 丸山直也
特別研究員 モハメド・ワヒブ

E-mail : nmaruyama@riken.jp
Tel : 078-940-5794 / Fax : 078-304-4963

東京工業大学 学術国際情報センター 先端研究部門高性能計算先端応用分野
教授 青木尊之

E-mail : taoki@gsic.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3667 / Fax : 03-5734-3276

取材申し込み先

理化学研究所 計算科学研究推進室
担当 岡田昭彦

E-mail : aics-koho@riken.jp
Tel : 078-940-5625 / Fax : 078-304-4964

理化学研究所 広報室 報道担当

E-mail : ex-press@riken.jp
Tel : 048-467-9272 / Fax : 048-462-4715

東京工業大学 広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

科学技術振興機構 広報課

E-mail : jstkoho@jst.go.jp
Tel : 03-5214-8404 / Fax : 03-5214-8432

国際共同研究を加速―第3回東工大-ウプサラ大 合同シンポジウムを開催―

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シンポジウム

9月12日から2日間の日程で、スウェーデンのウプサラ大学との第3回合同シンポジウムを開催しました。

本シンポジウムは、2014年9月にウプサラ大学で開催した第1回、2015年11月に本学で開催した第2回に続いて、再度ウプサラ大学にて開催したものです。本学からは三島良直学長、安藤真理事・副学長(研究担当)、関口秀俊副学長(国際連携担当)をはじめ40名が参加、ウプサラ大学からはエヴァ・オーケソン学長他63名が参加しました。また日本学術振興会(以下、JSPS) ストックホルムセンターからは川窪百合子副センター長らが出席し、初日のレセプションには山崎純在スウェーデン日本大使も参加しました。

オープニングセッション

インゲルマン教授のプレゼンテーションインゲルマン教授のプレゼンテーション

ウプサラ大学のオーケソン学長から温かい歓迎の言葉と、両大学のさらなる研究交流や学生交流への期待が述べられました。三島学長からは、本学の教育・研究・ガバナンス改革を含む近況が紹介されました。その後、JSPS ストックホルムセンターの川窪百合子副センター長からセンターの活動紹介、ウプサラ大学研究戦略担当部長のクリスティーナ・エドストローム教授からはスウェーデンの研究インフラ動向に関する紹介があり、最後にウプサラ大学のグンナー・インゲルマン教授による、科学研究におけるセレンディピティをテーマにしたスピーチがありました。

全体会議

高安美佐子准教授のプレゼンテーション高安美佐子准教授のプレゼンテーション

「ビッグデータ」をテーマとしてウプサラ大学のアンドレアス・ヘランダー准教授と本学の高安美佐子准教授から、「イノベーションと産業協働」をテーマとしてラーシュ・ストルト教授と本学の阪口啓准教授から、 また「革新的教育」をテーマにSTUNSエネルギー社のハンス・ニレーン氏と本学の飯島淳一教授から、豊富な事例を織り交ぜながら取り組みを紹介しました。

分科会

8つの分科会が開催され、参加者はそれぞれのテーマに分かれて熱心な議論を行いました。

1.
エネルギー技術
2.
材料科学
3.
エネルギーシステムと分析
4.
企業家精神とイノベーション
5.
数学
6.
応用核物理学
7.
シリアスゲームとヒューマンインターフェース
8.
デジタライゼーション

クロージングセッション

部局間協定の取り交わし(左)安藤理事・副学長(右)テュスク副学長部局間協定の取り交わし
(左)安藤理事・副学長(右)テュスク副学長

各分科会より、今回のシンポジウムで検討した内容や今後の活動についての報告が行われました。本学の安藤理事・副学長がそれぞれに講評を行い、各分野で両大学の研究者が交流することにより新たな発想が生まれることの意義を強調しました。

ヨハン・テュスク副学長より、ウプサラ大学と東工大との関係はお互いを理解し合う段階から具体的な協力関係に入る段階に来たとの認識が示されました。

最後に東工大の工学院、理学院、物質理工学院、環境・社会理工学院の4学院とウプサラ大学オングストローム研究所の部局間協定締結のセレモニーが行われ、今後の交流の一層の深化を目指すことで合意しました。

レセプション

シンポジウム1日目の終了後には、リンネ庭園において、JSPS主催のレセプションが開かれました。また2日目の夜には、ウプサラ大学主催のレセプションが催されました。

リンネ庭園で開催されたJSPS主催のレセプション(左から)三島学長、オーケソン学長、山崎在スウェーデン日本大使

リンネ庭園で開催されたJSPS主催のレセプション
(左から)三島学長、オーケソン学長、山崎在スウェーデン日本大使

スウェーデン王立科学アカデミー、スウェーデン王立工学アカデミー表敬訪問

(左から)関口副学長、ドルホプフIVA国際コーディネーター、ウェイゲルトIVA事務局長、三島学長、安藤理事・副学長(左から)関口副学長、ドルホプフIVA国際コーディネーター
ウェイゲルトIVA事務局長、三島学長、安藤理事・副学長

本シンポジウムの機会を利用して、9月12日の午後、三島学長、安藤理事・副学長、関口副学長らが、スウェーデン市内にあるスウェーデン王立科学アカデミー(以下、KVA)とスウェーデン王立工学アカデミー(以下、IVA)を表敬訪問しました。

KVAではクリスティーナ・モーベリ会長らと面談を行うとともに、KVAの活動内容について説明を受けました。また、ノーベル化学賞、物理学賞、経済学賞の発表が行われるセッション・ホール等の施設を見学しました。

IVAでは、ヨハン・ウェイゲルト事務局長らと面談を行い、IVAと活動内容について説明を受けました。

  • (左から)平澤コーディネーター、関口副学長、ヘーデンクヴィストKVA常任理事、三島学長、モーべりKVA会長、インゲルマンウプサラ大学教授、安藤理事・副学長

    (左から)平澤コーディネーター、関口副学長
    ヘーデンクヴィストKVA常任理事、三島学長、モーべりKVA会長
    インゲルマンウプサラ大学教授、安藤理事・副学長

  • KVAのセッションホールを見学

    KVAのセッションホールを見学

訪問先について

  1. ウプサラ大学スウェーデンの首都ストックホルムから北に約1時間のウプサラに本部を置く、創立1477年の北欧最古の大学です。
  2. KVA1739年に設立された科学アカデミーで、科学の振興を目的として、ノーベル化学賞、物理学賞、経済学賞の選考をはじめとする顕彰事業等を行っています。
  3. IVA1919年に設立された工学アカデミーで、工学と経済学の振興と経済産業の推進を目的として、セミナーの開催等を行っています。

お問い合わせ先

研究推進部研究企画課研究企画グループ

E-mail : kenkik.kik@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3803

蔵前科学技術セミナー「地球と生命の謎~生命の起源はどこまでわかったのか?宇宙における生命の存在確率は?~」開催報告

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10月22日、蔵前工業会(東工大同窓会)主催、東工大ならびに地球生命研究所(以下、ELSI)共催で、第35回蔵前科学技術セミナーを開催しました。今回は「地球と生命の謎 ~生命の起源はどこまでわかったのか? 宇宙における生命の存在確率は?~」をテーマに、東工大蔵前会館くらまえホールにて行われ、240名を超える参加者が集まりました。

三島良直学長の開会挨拶に続いて、「地球と生命の起源は何か」という人類の根源的な問いに対して、ELSIの3名の研究者が地球と生命に関する理解を深める講演を行いました。参加者は大いに知的好奇心を刺激され、本セミナーは盛況のうちに終了しました。

初めに井田茂教授から、ELSIがどのような研究をしているかについての説明があり、それに続いて、「系外惑星 ― 宇宙における生命」をテーマに、太陽系の外の惑星についての研究の歴史を振り返りながら、地球外生命に関する研究と議論の変遷について講演を行いました。

  • 三島学長と3名の講演者(左から、黒川特別研究員、望月研究員、井田教授、三島学長)

    三島学長と3名の講演者
    (左から、黒川特別研究員、望月研究員、井田教授、三島学長)

  • ELSI 井田教授

    ELSI 井田教授

次に、地球ウイルス学を専門とする望月智弘研究員から「熱湯の中の微生物・ウイルスから探る生命の起源と進化」をテーマに、極限環境に生息する菌ならびにそれらに感染するウイルスに関する研究を通して、地球生命の起源や進化、さらには地球外生命体が存在する可能性などについての議論が紹介されました。

最後に惑星科学を専門とする黒川宏之日本学術振興会特別研究員から「生命を宿す惑星の条件」をテーマに、生命はどのようにして誕生したのか、地球以外の星に生命は存在するのかという「地球と生命の謎」について、生命を宿す場である惑星の科学という観点から最新の知見が紹介されました。

  • ELSI 望月研究員

    ELSI 望月研究員

  • ELSI 黒川特別研究員

    ELSI 黒川特別研究員

本セミナーの参加者は、科学への知的好奇心が旺盛な東工大OB・OGが多数を占め、各講演の終わりには活発な質問が登壇者に投げかけられました。また講演内容への関心が入り口となって、それらの研究活動を行っているELSIという研究組織にも注目が集まり、ブースに設置されたELSIの広報物を多くの方が手に取ってくださいました。

  • 会場の様子

    会場の様子

  • 活ELSI広報ブース

    ELSI広報ブース

各分野でグローバルに活躍する講演者が日本語で発表する機会は意外と少ないため、今回の講演は参加者にとっても理解しやすく、最新の研究内容に触れる良い機会となりました。

お問い合わせ先

地球生命研究所 ELSI

E-mail : pr-mail@elsi.jp
Tel : 03-5734-3163

スーパーコンピュータ「京」がGraph500において4期連続で世界1位を獲得

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スーパーコンピュータ「京」がGraph500において4期連続で世界1位を獲得
―ビッグデータの処理で重要となるグラフ解析で最高の評価―

概要

九州大学と東京工業大学、理化学研究所、スペインのバルセロナ・スーパーコンピューティング・センター、富士通株式会社による国際共同研究グループは、2016年11月15日(火)(米国ソルトレイクシティ現地時間)に公開された最新のビッグデータ処理(大規模グラフ解析)に関するスーパーコンピュータの国際的な性能ランキングであるGraph500において、スーパーコンピュータ「京(けい)」[用語1]による解析結果で、2016年6月に続き4期連続(通算5期)で第1位を獲得しました。

大規模グラフ解析の性能は、大規模かつ複雑なデータ処理が求められるビッグデータの解析において重要となるもので、「京」は正式運用開始から4年以上が経過していますが、今回のランキング結果によって、現在でもビッグデータ解析に関して世界トップクラスの極めて高い能力を有することが実証されました。

本研究の一部は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST「ポストペタスケール高性能計算に資するシステムソフトウェア技術の創出」(研究総括:佐藤三久 理化学研究所 計算科学研究機構)における研究課題「ポストペタスケールシステムにおける超大規模グラフ最適化基盤」(研究代表者:藤澤 克樹 九州大学、拠点代表者:鈴村豊太郎 バルセロナ・スーパーコンピューティング・センター)および「ビッグデータ統合利活用のための次世代基盤技術の創出・体系化」(研究総括:喜連川優 国立情報学研究所)における研究課題「EBD:次世代の年ヨッタバイト処理に向けたエクストリームビッグデータの基盤技術」(研究代表者:松岡聡 東京工業大学)の一環として行われました。

スーパーコンピュータ「京」

2016年11月15日に公開されたGraph500上位5位

順位
システム名称
設置場所
ベンダー
国名
1
理研 計算科学研究機構
富士通
82,944
40
38,621
2
神威太湖之光
(Sunway TaihuLight)
無錫国立スーパーコンピューティングセンター
NRCPC
40,768
40
23,756
3
Sequoia
ローレンス・リバモア研究所
IBM
98,304
41
23,751
4
Mira
アルゴンヌ研究所
IBM
49,152
40
14,982
5
JUQUEEN
ユーリッヒ研究所
IBM
16,384
38
5,848

Graph500とは

近年活発に行われるようになってきた実社会における複雑な現象の分析では、多くの場合、分析対象は大規模なグラフ(節と枝によるデータ間の関連性を示したもの)として表現され、それに対するコンピュータによる高速な解析(グラフ解析)が必要とされています。例えば、インターネット上のソーシャルサービスなどでは、「誰が誰とつながっているか」といった関連性のある大量のデータを解析するときにグラフ解析が使われます。また、サイバーセキュリティや金融取引の安全性担保のような社会的課題に加えて、脳神経科学における神経機能の解析やタンパク質の相互作用分析などの科学分野においてもグラフ解析は用いられ、応用範囲が大きく広がっています。こうしたグラフ解析の性能を競うのが、2010年から開始されたスパコンランキング「Graph500」です。

規則的な行列演算である連立一次方程式を解く計算速度(LINPACK[用語2])でスーパーコンピュータを評価するTOP500[用語3]においては、「京」は2011年(6月、11月)に第1位、その後、2016年11月14日に公表された最新のランキングでも第7位につけています。一方、Graph500ではグラフの幅優先探索(1秒間にグラフのたどった枝の数(Traversed Edges Per Second; TEPS[用語4]))という複雑な計算を行う速度で評価されており、計算速度だけでなく、アルゴリズムやプログラムを含めた総合的な能力が求められます。

今回Graph500の測定には、「京」が持つ全計算ノード[用語5]82,944台を用いています。約1兆個の頂点を持ち16兆個の枝から成るプロブレムスケール[用語6]の大規模グラフに対する幅優先探索問題を0.45秒で解くことに成功しました。ベンチマークのスコアは38,621 GTEPS(ギガテップス)です。Graph500第1位獲得は、「京」が科学技術計算でよく使われる規則的な行列演算だけでなく、不規則な計算が大半を占めるグラフ解析においても高い能力を有していることを実証したものであり、幅広い分野のアプリケーションに対応できる「京」の汎用性の高さを示すものです。また、それと同時に、高いハードウェアの性能を最大限に活用できる研究チームの高度なソフトウェア技術を示すものと言えます。「京」は、国際共同研究グループによる「ポストペタスケールシステムにおける超大規模グラフ最適化基盤プロジェクト」および「EBD:次世代の年ヨッタバイト処理に向けたエクストリームビッグデータの基盤技術」の2つの研究プロジェクトによってアルゴリズムおよびプログラムの開発が行われ、2014年6月に17,977 GTEPSの性能を達成し第1位、また「京」のシステム全体を効率良く利用可能にするアルゴリズムの改良が行われ2倍以上性能を向上させ、2015年7月に38,621 GTEPSを達成し第1位でした。そして今回のランキングでもこの記録は神威太湖之光等の新しいシステムに比べても大幅に高いスコアであり、世界第1位を4期連続(通算5期)で獲得しました。

今後の展望

大規模グラフ解析においては、アルゴリズムおよびプログラムの開発・実装によって今回のように性能が飛躍的に向上する可能性を示しており、研究グループでは今後も更なる性能向上を目指していきます。また、上記で述べた実社会の課題解決および科学分野の基盤技術へ貢献すべく、スーパーコンピュータ上でさまざまな大規模グラフ解析アルゴリズムおよびプログラムを研究開発していきます。

用語説明

[用語1] スーパーコンピュータ「京(けい)」 : 文部科学省が推進する「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築」プログラムの中核システムとして、理研と富士通が共同で開発を行い、2012年に共用を開始した計算速度10ペタフロップス級のスーパーコンピュータ。

[用語2] LINPACK : 米国のテネシー大学のジャック・ドンガラ博士らによって開発された規則的な行列計算による連立一次方程式の解法プログラムで、TOP500リストを作成するために用いるベンチマーク・プログラム。ハードウェアのピーク性能に近い性能を出しやすく、その計算は単純だが、応用範囲が広い。

[用語3] TOP500 : TOP500は、世界中のコンピュータシステムの、連立一次方程式の処理速度上位500位までを定期的にランク付けし、評価するプロジェクト。1993年に発足し、スーパーコンピュータのリストを年2回発表している。

[用語4] TEPS(Traversed Edges Per Second) : Graph500ベンチマークの実行速度をあらわすスコア。Graph500ベンチマークでは与えられたグラフの頂点とそれをつなぐ枝を処理する。Graph500におけるコンピュータの速度は1秒間あたりに調べ上げた枝の数として定義されている。G(ギガ)は10の9乗(=10億)倍を表す接頭辞。

[用語5] ノード : スーパーコンピュータにおけるオペレーティングシステム(OS)が動作できる最小の計算資源の単位。「京」の場合は、ひとつのCPU(中央演算装置)、ひとつのICC(インターコネクトコントローラ)、および16GBのメモリから構成される。

[用語6] プロブレムスケール : Graph500ベンチマークが計算する問題の規模をあらわす数値。グラフの頂点数に関連した数値であり、プロブレムスケール40の場合は2の40乗(約1兆)の数の頂点から構成されるグラフを処理することを意味する。

情報理工学院

情報理工学院 ―情報化社会の未来を創造する―
2016年4月に新たに発足した情報理工学院について紹介します。

情報理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

問い合わせ先

九州大学広報室

Email : koho@jimu.kyushu-u.ac.jp
Tel : 092-802-2130 / Fax : 092-802-2139

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

理化学研究所 広報室 報道担当

Email : ex-press@riken.jp
Tel : 048-467-9272 / Fax : 048-462-4715

富士通株式会社 富士通コンタクトライン(総合窓口)

Tel : 0120-933-200

受付時間:9時~17時30分
(土曜日・日曜日・祝日・年末年始を除く)

科学技術振興機構 広報課

Email : jstkoho@jst.go.jp
Tel : 03-5214-8404 / Fax : 03-5214-8432

ノーベル賞受賞者らが本学科学技術創成研究院設立記念式典記念講演会にて講演

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10月7日、今年4月に発足した本学、科学技術創成研究院の設立記念式典がすずかけ台キャンパスにて開催されました。

式典に先立って記念講演会が行われ、2016年ノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典栄誉教授(科学技術創成研究院)、2009年ノーベル化学賞を受賞した白川英樹博士(本学卒業生、筑波大学名誉教授)、2016年日本国際賞を受賞した細野秀雄教授(科学技術創成研究院)による講演が行われました。

メイン会場から同キャンパス内の2つの会場にも同時中継を行い、計388名の来場がありました。また、大隅栄誉教授のノーベル賞受賞決定後初めての講演ということもあり、20名を超える報道機関が集いました。

以下に、3名の講演者による講演内容の概要をご紹介します。

細野秀雄教授(科学技術創成研究院)
「大学附置研と研究プロジェクト」

大学における研究の現状

細野教授は、まず、国立大学運営費交付金が年々減少しており、この状態が続くと現在の国力の維持が難しいこと、また、それに付随して様々なことが起きていると言及しました。

細野秀雄教授
細野秀雄教授

1つ目の例として、修士課程修了者(自然科学系)の博士後期課程への進学率の減少を挙げ、大学の学術の担い手は大学院生、特に博士後期課程の学生であり、博士後期課程の学生数の減少が研究力の低下に繋がっている現状を述べました。二つ目の例として、主要国の論文数シェアおよびトップ10%補正論文数の推移に関するデータを示し、(トップ10%論文数の多い国から)アメリカ、中国、イギリス、ドイツ、日本、フランス、韓国の順であり、日本は運営費交付金の減少時期とトップ10%論文数の減少時期とが一致していると指摘した上で、このままではフランスと韓国にも抜かれるとの見方を示しました。そうした観点から、国力という意味では危ない状況であり、大隅先生がノーベル賞をもらって非常におめでたいが、20年後を考えると相当荒んだ状況になるというのが、サイエンティストだったらお分かりになると思う、と述べました。

続けて、大学等が企業・独立行政法人等と実施する共同研究の規模と件数のデータを示して、80%程度が300万円未満の規模に納まっていること、また、大学等の特許実施等件数および特許実施等収入の推移に関するデータでは、国立大学や独立行政法人など100機関全てを合わせた特許収入が20億円程度であることを示し、日本の産学連携が実効的な効果を上げていない現状を語りました。

大学にある研究所の役割

自らが籍を置く大学における研究所の役割については、研究所は研究に特化したところであり、学術の場である大学に対して「新しい学術領域の開拓」「インパクトの大きい領域の発展・展開」「プロの研究者の育成」を行う場であると述べました。私見と断った上で、教育プログラムをいくら整備してもそれだけでは優秀な研究者は育たず、優秀な研究者は優秀な研究者に触発されて育つこと、優秀な研究者の近傍にいて、影響を受けて、背中を見て育つ、それがプロの研究者の育成であり、それを行うのが本来は研究所であると強調しました。

その役割を果たすための制度としては、研究所のメンバーには「旬の研究を行っている人」がいて、若い世代に“あの人が研究所にいるからここで研究したい”と思わせる「透明で厳しい人事」を行うことが重要であると指摘しました。また、研究所のインフラとして、学院の研究室では困難な研究が科学技術創成研究院の研究所では出来るよう、特殊な条件や広いスペースを備える必要があると述べました。学院と科学技術創成研究院の関係については、カリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)とバークレーラボを一つの見本として取り上げました。バークレーラボには専任の研究員もいるが、バークレーの大学の先生がバークレーラボで主任研究員を兼務する例があり、東工大においても、たとえば大岡山キャンパスの教員が研究に特化したいと考えて大岡山の研究室を保持したまま、すずかけ台キャンパスの研究所でもう一つ研究室を持ってもよいのではないか、そうしたシステムを作らないとトップの研究は出来ないと思う、と述べました。

研究環境の充実に向けて

学術審議会総合政策特別委員会の座長をされていた野依先生の言葉「附置研究所の卓越拠点はWPI(世界トップレベル研究拠点プログラム)である」を引用し、WPIが取れないようでは世界トップレベルの研究所とはいえないこと、また東北大学のWPIの施設の評価委員として携わった経験から、この度発足した科学技術創成研究院を中心として、世界の冠たる軸となるような研究所を東工大にも作って欲しいとの希望を語りました。

東工大の今後の産学連携について語る細野教授
東工大の今後の産学連携について語る細野教授

そうした研究環境を整えるためには、国に頼っているだけでなく、大学として産学連携を積極的に進めることで、東工大発のオリジナリティを伸ばしていくことが重要であると言及しました。産学連携の具体的な課題として、大学に対しては(1)機密保持が可能な専用施設の完備、(2)キャンパスから歩いていける距離へのリサーチパークの誘致、(3)産業が出来るだけの規模の大きな産学連携が出来るよう特許を取得し、それを売ってキャッシュが回っていく継続的なシステムの構築、(4)研究者をサポートするチームとしての知財保護に関する取組みの充実、(5)研究者が基礎研究は大学、応用研究は企業というステレオタイプにとらわれず、基礎の中から応用が、応用の中から基礎の問題が出てくるのがサイエンスであるとの認識を持つことを、国に対しては知的財産の流出を防ぐための施策への取組み、を求めました。

ここから先は各論として、1993年に東工大応用セラミックス研究所(2016年4月に科学技術創成研究院に改組)で研究を始めた頃に、野心的な教授陣の研究に対する姿勢にカルチャーショックを受けたことや、自身の研究分野である材料分野の特性等について話しました。さらに、自身の研究「透明酸化物半導体」について、文科省科研費の100万円規模の研究費支援が、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(ERATO)プロジェクトに採択されたことで年間3億円(計18億円)規模に増加したことを受け、論文の引用回数等も飛躍的に伸びたと述べました。また、自身の経験をもとに、研究プロジェクトの本質は、時間をお金で買うことであり、本来15年で研究することを5年で成果を出すことになるため、当然負担もかかる一方で感動も多いので、研究院のメンバーは、旬を迎える時期が来たら一度は大きな規模のプロジェクトに挑戦するべきだと思う、と話しました。

大隅良典栄誉教授(科学技術創成研究院)
「海外の大学を見て感じていること、私が東工大に抱いている夢」

科学と技術は車の両輪

大隅良典栄誉教授
大隅良典栄誉教授

大隅教授は、ノーベル賞受賞発表以降、異次元の生活を強いられているため講演準備が万全ではないとした上で、「科学とは、人類が営々として蓄積してきた知の総体であり、私たちがどういう時代に生きているかということとは決して切り離しようのないもので空想の世界にあるものではないこと、また、科学の本質は、“知りたい”という人間の知的な欲求そのものだと思っている。科学技術という言葉が盛んに出てくるが、科学は技術の基礎という位置付けではなく人間が持っている非常に大事な文化活動の一つであり、科学と技術は車の両輪であり、その二つで展開されていくのが本来あるべき姿だろう」と言及しました。

液胞に魅せられて

生命は、外部から供給されたエネルギーを変換して代謝しながら自己組織化しているという意味で極めて動的な存在であり、近代生物学の歴史は生命がいかに動的にしか存在しないのかを明らかにしてきたと言え、自身もその視点で研究をしていると述べました。分子生物学では大腸菌を材料にして全ての基本原理が明らかにされてきたが、その後私たちの身体を構成している真核細胞の問題に意識が移った時に、酵母という小さな細胞が非常に有用な役割を果たすようになってきた背景があり、さらに、“人があまりやらないことをやりたい”と考え、酵母の何の変哲もないオルガネラ(細胞内小器官)であり、ゴミ溜め程度で大したことをしていないとその当時多くの人が考えていた「液胞」というコンパートメントに興味を抱くようになったと話しました。

ノーベル賞に繋がった飢餓状態の液胞観察について語る大隅栄誉教授
ノーベル賞に繋がった飢餓状態の液胞観察について語る大隅栄誉教授

バラの美しい色は液胞の中の色素を見ていることや、生薬の成分が液胞の中に詰まっていることなどを例に挙げながら、私たちは日常生活において液胞から多くの恩恵を受けていると述べ、生物学的に面白い問題が液胞の中にあると話しました。また、液胞の研究を進める中で、トランスポーターとしての機能から、1998年頃に分解コンパートメントとしての液胞の意味へと関心が移ったことや、当時は分解が合成よりもネガティブな雰囲気があって、生物科学の中で注目されない課題であったと述懐しました。分解の例として、私たちが1日に70~80gのタンパク質を摂る一方、200~300gのタンパク質を毎日合成しており、そのギャップを埋めるのは、私たちの身体で分解されたものがアミノ酸になって合成され、タンパク質になるというリサイクルのシステムがあるためであり、タンパク質にも寿命があって制御されていると述べました。さらに分かりやすい例として稲穂を挙げ、夏には緑色をしていて光合成をするための葉緑体をたくさん持つが、秋には光が弱くなるので葉っぱが黄色くなり、葉っぱにある全てのタンパク質を分解してコメに送って次世代を育てているとし、分解が次世代のためのリサイクルシステムであり、分解なくしては次の世代は生まれないと説明しました。私たちの身体もタンパク質の合成と分解の平衡によって支えられていて、1~2ヵ月でほぼ全て置き換わり、水だけでも10日間くらい生きていられるのはそうしたシステムによるものであること、また、分解は「壊れる」という受動的なものではなく、「壊れながら維持している」という能動的な過程であって、合成に劣らないたくさんの遺伝子が分解のために働いていると言及しました。

オートファジーとの出会い

タンパク質の細胞の中での分解を解明する中で、クリスチャン・ド・デューブ氏(ベルギーの生化学者)が細胞の一重膜の中に分解酵素をもっているライソゾームを発見し、エンドサイトーシス(細胞の外からライソゾームに運ぶシステム)と同時に細胞の中のもの(細胞質)をライソゾームに運ぶ自分自身の分解システムを「オートファジー(Self-Eating)」と名付けたことを紹介し、その後、オートファジーという現象が色々な細胞にあることが発見されたものの、メカニズムの解明が進んでいなかったこともあり、チャレンジングな問題であることを覚悟してこの問題を解きたいと思ったと話しました。

顕微鏡を眺めるのが好きで、その過程が見えないかと思って、分解酵素が無い酵母で飢餓状態の液胞を観察したところ、液胞の中に非常にきれいな球形の構造がたくさん溜まって、3時間くらい小さな液胞の中で動き回るのを確認できたのはとてもラッキーだった。これを見つけた時に、これはとても面白い現象に違いないと思ってこの28年間研究を続けてきたと語りました。細胞が飢餓を感じると小さな膜構造が現れて細胞質の一部を取り囲み二重膜構造を作って融合現象が起こり、自身らが「オートファジックボディ」と名付けた構造が液胞の中に運ばれる現象が酵母で発見出来た。それを受け、オートファジーに関わっている遺伝子群としてATGという遺伝子を見つけたこと、その解析に苦しんだ時代もあったが、それらの18個のオートファジーの遺伝子群が何をしているのかを突き止めることが出来たと話しました。それらの遺伝子を組み合わせ、分解のメカニズムを解明したことにより、オートファジーの研究が非常に大きな進展を得たことや、生存戦略としてオートファジーが非常に重要な役割を果たしていることを酵母で初めて示し、それに関わる遺伝子を見出してきた。その後、ATGのノックアウトやオートファジーの変異が動物細胞でどういう風に起こるのかを、東大の水島さんや新潟大学の小松さんをはじめとする多くの研究室で、多くの生物で解析される時代を迎えたと述べました。

オートファジーは、自分自身のリサイクルのシステムであることに加えて、異常なタンパク質やオルガネラを除去するという意味で細胞の中をいつもきれいにしておくという大事な機能を持っていることが分かってきたと述べ、バクテリア侵入、腫瘍細胞などにもオートファジーが大きな役割を果たしているという研究も進んできて、大きな領域になってきたと説明しました。私たちの研究でも、オートファジーがリサイクルシステムとしてだけでなく、分解されたものを一旦外に捨てられる装置として機能していることも分かっている。まだまだ取り掛からないといけない問題が山積しており、また、データを蓄積していかないといけないフィールドであると認識している。生命科学には本当の意味でゴールがなくて、あることが分かると次の疑問を生むという側面がある。これですべてが分かったというにはまだほど遠いとオートファジー研究の現状を語りました。

日本の科学の現状と東工大への期待

続いて、日本の科学の現状について、日本の大学の基礎体力が非常に低下しているのは深刻な問題だと述べました。教員自身も研究時間が少なくなって、論文を書く時間がないとか色々な雑事に追われて時間がなくなっている。教員があまり楽しげにしていなかったら大学院生が博士(後期)課程に行こうという意欲もなくなると指摘しました。今は、全ての研究資金が競争的資金になってしまい、長期的な新しいことにチャレンジするのが非常に難しい状況になっている。競争が激化すればするほど、手っ取り早くネイチャーに載るようなことをやろうとして多くの人が流行の分野の研究に集中してしまうのが日本の生物科学の弱いところで、いかにネイチャーに論文がたくさん出ようが、本当に革新的な研究はそこからは実は生まれていないと思う。大学人として、企業の研究などへの目配りもして気概を持ってほしいと述べました。

東工大に期待することとして、小さい大学のメリットを考えると良く、東工大は小さいがゆえに意思決定が早くチャレンジングなことが出来ると思うと述べました。MIT(マサチューセッツ工科大学)やCaltech(カリフォルニア工科大学)に伍した大学にすることを標榜するとしたら、ある一点突破をして、あるところで国際的な拠点になることを目指さないといけない。これからは民間との連携が必要で、連携のあり方としては必ずしも共同研究ではなく、緊密な情報交流が出来るようなシステムを作ってみたらどうかと提案しました。また、若い人がチャレンジングな課題に取り組める環境整備や、ケンブリッジ大学の新しい研究所やイギリスのクリック研究所のようなコア・ファシリティといった環境整備も必要で、個人個人が努力するという時代ではないのかもしれないと指摘しつつ、自身らの(細胞制御工学)研究ユニットが、センターもしくは研究所になることを願っており、国際レベルの研究が出来る細胞生物の拠点であってほしい、そうした新しいシステムが導入される中で、次世代を担う研究者がそこから育っていくよう導くことが私たちの使命であると述べました。

最後に、日本の今の大学院生に向けて、自分の興味や抱いた疑問を大事にしてほしい。一番競争の激しいところで勝てるという自信があるのなら流行を追ってもよいと思うが、そうでないのなら、“何がまだわかってもいない問題で、新しい問題なのか”を見極める目を持ってほしいと話し、人と違うことを恐れずに自分のやりたいことをやってもらいたい。自身の支えになるような、自分の研究の理解者を作る努力を惜しまないでほしいとメッセージを送りました。

白川英樹博士(本学卒業生、筑波大学名誉教授)
「東京工業大学で学んだこと」

研究する上で大切なこと

白川英樹博士
白川英樹博士

まず、東工大を離れたのが1979年頃であり、すずかけ台キャンパスが当時は長津田キャンパスだったことや、久しぶりに訪れて建物が増えていて驚いたと語りました。

新しい研究院の創立にあたっては、研究にはお金がかかり、立派な機械や施設が必要である、細野先生の講演では100万、200万円は非常に少額だとの話しもありましたが、私自身はそれだけいただければ、ノーベル賞とまでは行きませんけれどもそこそこの研究をする自信はある、と述べ、会場から笑い声が上がりました。続いて、確かに研究費は多ければ多い方がよく、設備は立派なほどよいが、それは必要条件であって十分条件ではない。では十分条件は何かというと、「人」であり、その研究にふさわしい人をどう育てるかが大学の役目だと思うと言及しました。

次に、自身の経歴について触れ、1957年に東工大理工学部に入学し、学部、修士、博士の9年間と助手の11年間は大岡山キャンパスにて研究を続け、その間1年間アメリカ留学(ペンシルバニア大学)をして、帰国後長津田キャンパスに2年間、筑波大学に移って20年間を研究に費やしたと語りました。小さい頃は昆虫採集や植物採集、ラジオの組み立てや読書に夢中で、それらを通じて本物・実物、自然に学ぶことが大切だと学び、よく観察する、よく記録する、よく調べる、最後によく考えるということが知らず知らずのうちに身に付いていて、大学に入って研究を行う上でも役立ったと話しました。

人との出会いの大切さ

理工学部一つの単科大学である東工大で科学者を目指そうと思ってお兄さんに相談したところ、“そんな頭の中が同じ人間ばっかりのところに行くな、もっと多様な考えをもつところに行け”と大反対されたが、有機化学、高分子化学の分野に著名な先生がおり、また、小さな単科大学で非常に風通しがよくて進路選択の自由度が大きそうだと考え、入学を決意したと語りました。当時の入学者は380名ほどと少なく大体の学生の顔が分かって話が出来る環境にあったこと、また“頭の構造が同じでも、専門が違えば少しは違うだろう”と積極的に他専攻の学生とも交流を持ったことや、研究室所属にあたり、合成を専門にする神原先生のところに行きたかったが競争率が高くて、高分子物性が専門で非常に厳しい金丸研究室に入ることになったが、結果的に非常に良い訓練になったと当時を述懐しました。

また、当時の教養教育では、英語の伊藤整先生、哲学の鶴見俊輔先生、心理学の宮城音弥先生、教育社会学の永井道雄先生などから講義を受けるなど充実していたことや、今思うと、自然科学は大好きだったが、それだけが大切なのではなく、社会科学、人文科学などの学術全般、さらに言えば芸術を含めた教養教育の大切さを実感したと語りました。

理科好きだった子供時代について語る白川博士
理科好きだった子供時代について語る白川博士

大学院で神原研究室に移り、大学院での研究を通じて、人との出会いが非常に重要であることに気付かされたと述べ、神原研究室では研究室での研究だけではなく、当時助手をされていた山﨑升先生が積極的に外部(他大学や研究所)の研究者に引き合わせてくれ、さらにそこで研究もするという環境を作ってくれたと話しました。アメリカ留学のきっかけも、山本明夫先生がノーベル賞の共同受賞者の一人であるアラン・マクダイアミッド先生に引き合わせてくれたおかげであって、ノーベル化学賞受賞に繋がる研究ができたという意味でも極めて重要な出会いだったと述べました。

ノーベル賞に繋がった研究に対する姿勢

ノーベル賞を共同受賞したアラン・ヒーガー先生は固体物理学者、アラン・マクダイアミッド先生は無機化学者、自身は高分子科学者と、異なる背景を持つ研究者が巡り合ったことが、研究の発展において極めて重要であったとの経験から、研究の質を高めるためには(1)人と人との出会いと交流が必要で決定的な役割を果たしていること、(2)化学(高分子科学)と物理学(固体物理学)の単なる共同研究ではない密接な交流の結果であること、(3)接点だけでの学際(協力)的関係では機能しないこと、(4)相手の分野のことを十分理解した上で研究を行っていく融合が必要であること、を挙げました。

最後に、新たに発足した科学技術創成研究院が学内や国内だけでなく、海外の研究者や研究機関との交流や活発な連携を実行することで素晴らしい研究成果を上げることを期待している、また、設備とお金だけではなく、「人」が大切であるということを念頭に置いて発展してほしいとの応援メッセージをいただきました。

(左から)益科学技術創成研究院長、白川博士、大隅栄誉教授、細野教授
(左から)益科学技術創成研究院長、白川博士、大隅栄誉教授、細野教授

科学技術創成研究院は、新たな研究領域の創出、人類社会の問題解決、および将来の産業基盤の育成を使命として、2016年度に研究改革の目玉として設立されました。

すずかけ台・大岡山両キャンパスにまたがる4つの研究所、2つの研究センターおよび10個の研究ユニットから構成され、全体で約180名の常勤研究者を擁しています。学内外の研究者の人事交流や、異なる専門領域の融合研究を推進するとともに、研究に没頭できる支援体制を整備し、次世代の革新的研究の創出に向けた仕組みを備えた組織を目指しています。

ノーベル生理学・医学賞2016 特設ページヘ

大隅良典栄誉教授が「オートファジーの仕組みの解明」により、2016年ノーベル生理学・医学賞を受賞しました。受賞決定後の動き、研究概要をまとめた特設ページをオープンしました。

ノーベル生理学・医学賞2016 特設ページヘ

お問い合わせ先

広報センター

Email : nobel@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2976

第1回神奈川県ヘルスケア・ニューフロンティア講座 開催報告

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10月23日、横浜崎陽軒本店会場において、「神奈川県ヘルスケア・ニューフロンティア講座~第1回健康増進と豊かな暮らしを実現するための最先端技術とその産業応用~」を開催しました。本講座は、本学の複合系コースの1つである、ライフエンジニアリングコースが神奈川県からの委託を受けて行っている事業で、2016年度に計3回の開催を予定しています。

複合系コース:複数の学院や系にまたがる異なる学問領域を融合させ、新たな学問領域を確立した上で教育にあたる大学院課程における先駆的なコース

初回となる本講座では、様々な医療・福祉に関わる科学技術が開発される中、人工知能や脳科学に着目をし、これらの研究開発が私たちの健康や日常生活のサポートにおいてどのような役割を果たしているかをヘルスケアに関心を持つ方々に説明しました。

第1部はライフエンジニアリングコースの梶原将主任(生命理工学院 教授)の開会挨拶から始まり、神奈川県政策局ヘルスケア・ニューフロンティア推進本部室の関口仁氏より、現在、神奈川県が推進している未病産業研究会(ME-BYO)やCHO構想等、超高齢化社会に向けて行っているヘルスケア・ニューフロンティアの施策についての説明がありました。

企業や団体等が、組織内に「CHO(Chief Health Officer=健康管理最高責任者)」の職を設け、従業員やその家族の健康づくりを企業理念に取り入れ、経営責任として従業員等の健康マネジメント、いわゆる健康経営を進めるもの。

その後、セラピー用アザラシ型ロボット「PARO」の開発者である、産業技術総合研究所の柴田崇徳氏が、「世界一セラピー効果があるロボット-科学的エビデンスに基づく非薬物療法」をテーマに講演しました。PAROを活用することにより、薬を使わない治療が可能となり、コスト削減の面だけではなく、患者の状態を健康的かつ効果的に回復させることができることから、海外からも注目を集めていると話しました。

  • 神奈川県政策局の関口氏

    神奈川県政策局の関口氏

  • 産業技術総合研究所の柴田氏

    産業技術総合研究所の柴田氏

続いて、本学情報理工学院の三宅美博教授より「リズム歩行アシストロボットWalk-Mate(ウォークメイト)とパーキンソン病治療への応用」をテーマに、三宅教授が開発した「Walk-Mate」の動きを動画で説明するとともに、デザイン画を使って現在開発中の「着るロボット」についても紹介しました。

次に本学科学技術創成研究院 バイオインターフェース研究ユニットの吉村奈津江准教授が登壇し、「脳波による脳情報のデコーディングとリハビリテーションへの応用」と題し、脳波を活用した介護サポートロボットや、脳波を利用して患者の身体機能を回復させる仕組み等について解説しました。

  • 情報理工学院の三宅教授

    情報理工学院の三宅教授

  • バイオインターフェース研究ユニットの吉村准教授

    バイオインターフェース研究ユニットの吉村准教授

休憩時間には、柴田氏開発のPAROが会場に用意され、多くの来場者が頭を撫でたり、声をかけたりと、PAROとのふれあいを楽しんでいました。

第2部では、本学の水本哲弥副学長(教育運営担当)が「東京工業大学の新教育システム」について、将来、科学技術の力で世界に貢献するため、学生が自ら進んで学び、鍛錬する「志」を育てたい等、印象的なキャッチフレーズをいくつか交えて紹介しました。

最後に、梶原主任より「ライフエンジニアリング分野の大学院教育」について説明し、第2部を締めくくり、第1回講座を終了しました。全体を通して鋭い質問も挙がるなど、大変有意義な講座となりました。

  • 水本副学長

    水本副学長

  • ライフエンジニアリングコースの梶原主任

    ライフエンジニアリングコースの梶原主任

お問い合わせ先

東京工業大学 ヘルスケア・ニューフロンティア運営事務局

E-mail : life.eng@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3805

微細化によるシリコンパワートランジスタの高効率化に成功―電力制御システムの飛躍的高効率・低コスト化に新たな道―

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要点

  • パワートランジスタ(Si-IGBT)のスケーリングよる性能向上を実証
  • オン状態の抵抗を従来技術の約50%に低減
  • 現在、市場で主流のSi-IGBTのさらなる高性能化・低価格化へ

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の筒井一生教授らは、シリコンによる電力制御用の絶縁ゲート形バイポーラトランジスタ(IGBT)[用語1]をスケーリング(微細化)することで、コレクタ-エミッタ間飽和電圧(Vce(sat)[用語2]を従来の約70%に、オン抵抗を約50%に低減することに成功した。

スケーリングには素子寸法の「3次元的微細化」という新スキームを用いた。性能向上はオン動作時の単位面積あたりの電流密度を高めることで実現した。現在、主流のシリコン(Si)-IGBTのスケーリングによる性能向上が確認でき、市場のさらなる拡大とともに、電力制御システムの高効率・低価格化につながる技術として、省エネルギー社会への貢献が期待される。

この研究は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による「新世代Si-IGBTと応用基本技術の研究開発」(代表:平本俊郎東京大学教授)で行われた。研究成果は12月6日に米サンフランシスコで開かれる国際会議International Electron Devices Meeting(IEDM2016)で、東工大、東大、九州工業大学、明治大学、産業技術総合研究所、東芝、三菱電機の共同研究として発表される。

研究成果

図1および図2に作製したSi-IGBTの断面と垂直方向の構造、各部の寸法変数を示す。図1の上部(表面)に間隔Sで接近形成した縦のトレンチ(溝)ゲートに挟まれたエミッタ領域から電子電流が流入し、それに応じた正孔電流が下部(裏面)全面のコレクタ領域から流入することで、全体に縦方向のオン状態の電流が流れる。一方、トレンチゲートに加えるゲート電圧の制御によってエミッタからの電子電流の流入を止めることにより正孔電流も止まり、全体がオフの電流遮断状態になる。このようなIGBTの構造と電流をオン・オフする動作は通常のデバイスと変わらない。

Si-IGBTの断面構造

図1. Si-IGBTの断面構造

Si-IGBTの断面および奥行き方向の構造

図2. Si-IGBTの断面および奥行き方向の構造。ラッチアップ現象を抑制するため、奥行き方向のp領域とn領域の繰り返し寸法もスケーリングの対象となっている。

現在、製品化されているIGBTと同様の寸法のデバイスと、新規のスケーリングの概念により微細化した新構造デバイスを製作し、特性を比較した。図3と表1に両デバイスの寸法の比較を示す。寸法の微細化の比率をスケーリングファクタ1/kで表し、従来デバイスがk=1、新デバイスがk=3に対応する。

IGBTの3次元方向にわたる各構造寸法の変数

図3. IGBTの3次元方向にわたる各構造寸法の変数。表1の各項目に対応

表1. スケーリングによる各部の寸法およびゲート電圧(Vg)とスケーリングファクタ

Parameters in IGBT, symbol
k=1
k=3
Scaling factor
Cell pitch, W (µm)
16
16
1
Mesa width, S (µm)
3
1
1/k
Trench depth, DT (µm)
6
2
1/k
Trench depth, WT (µm)
1.5
1.0
2/k
p-base depth, DP (µm)
3
1
1/k
n-emitter depth, DN (µm)
0.4
0.13
1/k
Gate oxide thickness, tox (µm)
100
33
1/k
Length of p* region, Lp+ (µm)
4.5
1.5
1/k
Length of n* region, Ln+ (µm)
4.5
1.5
1/k
Gate voltage, Vg (V)
3
1
1/k

断面構造で、トレンチゲート周りの寸法は1/kに比例縮小する一方で、隣接するトレンチゲートまでの距離(W)(図1参照)は一定とした。IGBTの2次元のスケーリングは相補型金属酸化膜半導体(CMOS)のスケーリングと違って縦横のスケーリングが及ぼす効果が逆に働くこともあり、その効果は複雑だが、すでにシミュレーションでは単位面積あたりのオン電流の密度を増大することが予測されていた。その予測を今回、デバイスを試作して初めて実証した。

さらに試作に当たってスケーリングパラメータを一部見直すとともに、デバイスの奥行き方向に交互に作られる表面のp形領域とn形領域のピッチ(Lp+およびLn+)も1/kに縮小した。これはスケーリングで予測されるラッチアップ耐性[用語3]の劣化に対する対策である。この奥行き方向のスケーリングを含めて3次元スケーリングと呼んでいる。

図4に試作したSi-IGBTのオン状態でのコレクタ-エミッタ間の電流-電圧特性を示す。同じオン電流密度(飽和電流密度:Ice(sat)、図では200 A/cm2)における電圧をエミッタ-コレクタ間飽和電圧(Vce(sat))と呼ぶが、これがk=3のスケーリングで、従来(k=1)に比べ約70%の1.26 Vが得られた。また、同じエミッタ-コレクタ間電圧(Vce)における両デバイスの電流比も同図に示し、スケーリングにより電流が約2倍、すなわちオン抵抗が半減したことがわかる。これらはいずれも、IGBTのオン動作においてデバイス内部でのエネルギー損失に比例するため、スケーリングによりIGBTの低損失・高効率化が実現できたことを示している。

試作した2つのIGBTのオン状態におけるエミッタ-コレクタ間電流-電圧特性
図4.
試作した2つのIGBTのオン状態におけるエミッタ-コレクタ間電流-電圧特性。特定の電流密度(図では200 A/cm2)における電圧がエミッタ-コレクタ間飽和電圧(Vce(sat))と定義される。Vce(sat)がスケーリング(k=1→k=3)により1.70 Vから1.26 Vに低減(約70%)している。また、一定電圧における電流がk=3で倍増しており、オン抵抗が半減したことを示す。
一方、ゲート電圧(Vg)も、スケーリングにより低い電圧(k=3において5 V)で動作している。

また、表1および図4に示すように、寸法とともにIGBTの制御入力の電圧となるゲート電圧(Vg)も従来の15 Vから5 Vに低下させた。これにより、将来、IGBTを駆動するゲートドライブ回路の消費電力が大幅に低減されるとともに、従来のSi-CMOS回路技術との親和性が高まる。このことは、回路、システムレベルでの高性能化と低コスト化につながることが期待される。

なお、このスケーリングはIGBTのゲート周りの微細化であり、トランジスタの耐圧を決めるその下のn-ベース層の厚さは変えないので、n-ベース層の厚さの選択によって従来のIGBTが持つ1000~数1000Vの耐圧はそのまま維持される。

表2に、今回の新構造IGBT(k=3)を現在市場にある製品も含めて比較したベンチマークを示す。VgおよびVce(sat)(常温と150 - 175 ℃で)の低減が達成された。

表2. 今回試作したIGBT(k=3およびk=1)と市場に出ている製品の例で特性を比較したベンチマーク

 
This work
k=3
This work
k=1
IGC99T120
T8RM
FGW25N
120W
Blocking voltage (V)
1200
1200
1200
1200
Vg (V)
5
15
15
15
Vce(sat) Tj=25 ℃
1.26
1.70
1.75
2.0
Vce(sat) Tj=150 - 175 ℃
1.26
1.95
2.05
2.6

背景

省エネルギー化には電力制御システムの高効率化が重要である。そのシステムは大規模では発電、送電、また鉄道や自動車から、小さいものでは家電製品やモバイル機器に組み込まれた電源回路に至るが、そこにはインバータに代表される電力制御装置が必須で、それを構成するパワー半導体トランジスタがその性能と製造コストに大きな影響を与える。

パワートランジスタの市場は価格の面からSi-IGBTが主流で、今後10年以上にわたってこれは揺るがないと予想されている。Si-IGBTは種々の技術革新により高性能化、小型化と低コスト化を進めてきたが、昨今はその進化が飽和する傾向となり、デバイス技術のコモディティ化も予想され、次世代に向けた新たな技術革新が求められている。

これまで日本はパワー半導体トランジスタの分野では世界の中で優位にあった。この分野での日本の産業力を今後も維持するためにも、日本発の新技術開発は大きな意義があり、特にその主流であるSi-IGBTの性能への技術革新は極めてインパクトが大きい。

Si-IGBTの性能面では、低損失化が重要で、そのためにはオン抵抗の低減が必要である。新しい方法としてスケーリングに注目して、これを実現したのが今回の研究成果である。

研究の経緯

Si-IGBTのスケーリングによる高性能化技術は、2012年に九州工業大学の大村一郎教授らにより理論モデルをベースに提案された。これは、IGBTの電流制御を行うトレンチゲート周りの構造を幅方向と深さ方向に2次元的に縮小し、かつ、隣接するトレンチゲート構造同士の距離は広く保つという2次元的なスケーリングを行うものであり、特許提案を行っている。大村教授らは今回の研究を推進しているNEDOプロジェクトでの共同研究グループの一つである。

スケーリング技術はデバイスシミュレーションに基づく提案だったが、実デバイスでの実証はこれまでなかった。実デバイスの作製には、構造設計において2次元の単純スケーリングスキームを試作に適したものに焼き直して、その特性を予想することや、プロセス技術の探索が要求され、さらにラッチアップ耐性の対応策の検討も必要である。

また、トランジスタ単体の技術にとどまらず、これを使う回路技術上の課題もあった。このように基礎から応用まで含めた幅広い研究の必要性から現在の日本の産業界だけでこの研究を推進していくことは困難が伴い、産官学の連携が強く望まれていた。

この課題を解決するため、2014年に産官学のNEDOプロジェクトが始まり、スケーリングによる新構造IGBTの試作研究とそれを活かす回路技術研究を密接に結びつけた体制のもとで研究が推進され、デバイス技術側での重要なマイルストーンとなる今回の研究成果を得た。

今後の展開

Si-IGBTは価格の面から少なくとも今後10年はパワーデバイスの主流を占めると予想されているが、一方で、性能向上の限界に近付いているともいわれてきた。今回の成果によって、スケーリングによる性能の向上が確認されたことは、日本がこれからもSi-IGBTという主流市場で価格競争でなく性能による差別化で勝負できるという意味で重要である。

また今回の実証は1/3のスケーリングであるが、さらにそれ以上の可能性も秘めた技術である。Si-IGBTのエネルギー損失を顕著に低減するこの技術が産業レベルで実用化されれば、電力制御システムの高効率化に直接貢献できる。またドライブ回側での技術開発により低電圧駆動が実用化されれば、システムとしてさらに高効率化、高機能化と低コスト化が実現し、これが世界に広く普及すれば将来の省エネルギー社会の実現への貢献が期待できる。

用語説明

[用語1] 絶縁ゲート形バイポーラトランジスタ(insulated gate bipolar transistor: IGBT) : エミッタ電極とコレクタ電極の間の電流を、絶縁層を介したゲート電極に加える制御電圧信号により制御するトランジスタ。高電圧、大電流を直接オン・オフできる高性能パワートランジスタとして広く用いられている。

[用語2] コレクタ-エミッタ間飽和電圧(Vce(sat) : トランジスタがオン状態になるゲート電圧を入力している状態で、ある一定のエミッタ-コレクタ間電流密度におけるエミッタ-コレクタ間の電圧。この電圧と電流の積がトランジスタ内部でのエネルギー損失になるため、電圧を低減することが高効率化に重要である。

[用語3] ラッチアップ耐性 : 薄い導電層に電流を横方向に流すことによりその層の電位が変動し、本来は絶縁状態にあるp形層とn形層の積層構造中に過剰電流が流れ、デバイス中に制御できない過剰電流がながれてしまう現象がラッチアップ。十分なラッチアップ耐性の確保はパワーデバイスにとって重要である。

参考資料

International Electron Devices Meeting(IEDM2016)で出版されるTechnical Digest(会議録)に掲載される論文:
K. Kakushima, T. Hoshii, K. Tsutsui, A. Nakajima, S. Nishizawa, H. Wakabayashi, I. Muneta, K. Sato, T. Matsudai, W. Saito, T. Saraya, K. Itou, M. Fukui, S. Suzuki, M. Kobayashi, T. Takakura, T. Hiramoto, A. Ogura, Y. Numasawa, I. Omura, H. Ohashi, and H. Iwai;
"Experimental Verification of a 3D Scaling Principle for Low Vce(sat) IGBT";
Technical Digest of IEDM2016, 講演番号:10.6, (2016).

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所
教授 筒井一生

E-mail : ktsutsui@ep.titech.ac.jp
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副反応を起こしやすいアミノ酸を迅速かつクリーンに合成―抗HIV抗菌ペプチドの大量生産に道―

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要点

  • 安価な試薬を用いて10 ℃の条件下において、4.8秒でアミド結合を形成
  • 副生物は二酸化炭素とアミンの塩酸塩のみのクリーンなプロセス
  • 副反応を起こしやすいアミノ酸を一残基ずつ連結してペプチド鎖を伸長することに成功

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院の布施新一郎准教授、御舩悠人大学院生、中村浩之教授、物質理工学院の田中浩士准教授は、非常に副反応(ラセミ化[用語1])を起こしやすいアミノ酸を多数含む抗HIV・抗菌ペプチド「フェグリマイシン」を迅速・安価・クリーンに合成できる手法を開発した。置換フェニルグリシンは、臨床で利用されている重要な抗菌剤を構成するアミノ酸だが、全てのアミノ酸の中でも最も副反応を起こしやすいため、その連結は困難であった。今回の目的化合物であるフェグリマイシンは極めて副反応を起こしやすい置換フェニルグリシンを5つも含み、副反応の進行し易さから、一残基ずつペプチド鎖を伸長する一般的な合成手法は適用不可能とされてきた。本研究では、マイクロフロー合成法[用語2]を駆使して、この不可能とされてきたペプチド鎖伸長を実現することに成功。開発した手法により副反応を起こしやすい有用ペプチドの大量・低コスト供給が可能になると考えられる。この成果は、11月28日付け(日本時間)の英国学術誌「Nature Communications」に掲載された。

研究成果

今回、安価・高活性・低毒性の試薬・トリホスゲンを用いて、穏和な温度条件下(10 ℃)で、わずか0.5秒でカルボン酸を迅速に活性化し、副反応を抑制しつつアミンと反応させて高収率で目的のペプチドを得る手法を確立した。本手法を駆使することで、最もラセミ化しやすいアミノ酸を5つも含む抗HIV・抗菌ペプチドのフェグリマイシンの合成に成功した。この化合物は非常にラセミ化しやすいアミノ酸を多数含むことから、最も一般的な、1残基ずつペプチド鎖を伸長する方法(直線的合成法)では合成が不可能とされてきた。しかしながら今回、マイクロフロー法を駆使することで、世界初となる直線的合成法による全合成に成功した。

これまでの問題:ラセミ化しやすいアミノ酸を短時間、低コストでクリーンに連結する手法がない。→本研究:安価・高活性試薬を使い、ラセミ化を抑えつつ、短時間(5秒未満)、クリーンに反応。迅速・安価・クリーンな抗HIV・抗菌ペプチドフェグリマイシンの合成に成功 最もラセミ化しやすいアミノ酸を5つ含む。不可能とされてきた一残基ずつのペプチド鎖伸長に成功。

背景

バンコマイシンやラモプラニンなど臨床で利用されている重要なペプチド系薬剤の中には置換フェニルグリシンを構成要素とするものが多数存在する。近年、ペプチド系薬剤は脚光を浴びており、承認医薬品数も大きな伸びを示しているため、その高効率な合成法の開発が強く求められている。しかしながら、置換フェニルグリシンが非常にラセミ化を起こしやすいことから、迅速かつ低コストな大量合成法の確立が求められていた。

研究の経緯

布施准教授らの研究グループは、これまでのペプチド合成の常識を覆す、マイクロフローリアクター中での「短時間の迅速な活性化」という新しい概念に基づくペプチド合成法を開発してきた(S. Fuse, Y. Mifune, T. Takahashi, Angew. Chem. Int. Ed. 53, 851, (2014))。この経験から開発した手法を、非常にラセミ化しやすいアミノ酸を含むペプチドの合成に生かすことを着想した。反応条件検討の結果、使用する溶媒、反応温度、保護基等を工夫することにより、活性化0.5秒とアミド化[用語3]4.3秒の計4.8秒で、ラセミ化しやすいアミノ酸を連結することに成功した。副生成物は除去が簡単なため、簡便な分液精製と再結晶操作でペプチドを精製できる点が大きな利点となる。

今後の展開

マイクロフロー合成法は、連続・並列運転により容易にスケールアップ可能であることから工業法への展開も十分に期待できる。今後、産業利用を目指して反応の自動化に向けた研究を推進する。

将来的には、副反応を起こしやすいアミノ酸を自在に連結し、医薬品として重要なペプチドを大量・低コストに供給できると期待される。

用語説明

[用語1] ラセミ化 : 多くの天然アミノ酸は4つの異なる置換基をもつ不斉炭素を有するため、右手と左手の関係に似た対掌体が存在する。置換基の配置が変わって、一方の対掌体がもう片方の対掌体に変換される反応をラセミ化と呼ぶ。

[用語2] マイクロフロー合成法 : 微小な流路を反応場とするマイクロフローリアクターを駆使する合成法。旧来のフラスコ等を用いるバッチ合成法と比較して、反応時間(1秒未満も可)、反応温度の厳密な制御が可能である。

[用語3] アミド化 : ペプチドはアミノ酸がアミド結合により連結された構造をもつ。このアミド結合を形成する反応のことをアミド化と呼ぶ。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Total Synthesis of Feglymycin based on a Linear/Convergent Hybrid Approach using Micro-flow Amide Bond Formation
著者 :
Shinichiro Fuse1, Yuto Mifune1, Hiroyuki Nakamura1, and Hiroshi Tanaka2
所属 :
1Laboratory for Chemistry and Life Science, Institute of Innovative Research, Tokyo Institute of Technology, 4259 Nagatsuta-cho, Midori-ku, Yokohama 226-8503, Japan
2Department of Chemical Science and Engineering, School of Material and Chemical Technology, Tokyo Institute of Technology, 2-12-1 Ookayama, Meguro, Tokyo 152-8552, Japan
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所
准教授 布施新一郎

E-mail : sfuse@res.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5245 / Fax : 045-924-5976

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

科学技術創成研究院 先導原子力研究所 設立記念行事開催報告

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今年4月に実施された教育・研究改革により、東工大の組織が大きく変わりました。その中で、4つの研究所と2つの研究センター、および10個の研究ユニットから構成される科学技術創成研究院が創立され、旧・原子炉工学研究所を主な母体とする研究所「先導原子力研究所」が新たにスタートを切り、10月14日に設立記念行事の講演会および式典が大岡山キャンパス東工大蔵前会館くらまえホールにて行われました。

集合写真

集合写真

前半の記念講演会では、まず先導原子力研究所の矢野豊彦所長(科学技術創成研究院 教授)が、前身となる原子炉工学研究所(原子炉研)からの歩みを振り返りつつ、先導原子力研究所設立に至った経緯について話しました。そして、原子炉研で取り組んできた教育・研究の軸を保ち、その体制をより発展させる形で先導原子力研究所が設立できたことへの感謝の言葉を述べました。続いて、関本博名誉教授(元・原子炉研教授)が、1990年当時の原子炉研改組の内実や、その後の存在感を高めるための革新炉研究を中心とする21世紀COEプログラム※1「世界の持続的発展を支える革新型原子力」(COE-INES)や革新的原子力研究センター(CRINES)の取り組み、また高速増殖炉用の鉛ビスマス合金冷却材プロセスの開発、超長寿命中小型炉であるCANDLE(キャンドル)炉※2の研究など、当時の経緯を交えた興味深い話がありました。また、近年の日本人によるノーベル賞受賞ラッシュもさることながら、人類の発展に大きく貢献する研究領域のひとつとして「原子力」に誇りを持ち、同分野を先導する研究を推進してほしいと激励しました。

※1
文部科学省の研究拠点形成費等補助金事業
※2
濃縮ウランやプルトニウムを必要としない革新的原子炉

次に、先の震災時に甚大な被害を受けた福島第一原子力発電所の中にあって、唯一、冷温停止に導くことのできた第5・6ユニットの指揮官を務めた、技術研究組合国際廃炉研究開発機構(IRID)専務理事の吉澤厚文氏(大学院理工学研究科修士課程修了、元・東京電力福島第一原子力発電所第5・6ユニット長)が登壇しました。震災時、想像を絶する過酷な状況の中、吉田昌郎福島第一原子力発電所長(当時)とともに、現場の人々が叡智を結集して尽力し、命を賭して原子炉制御に取り組んでいくことで破局的結末の回避がなされたと話し、安全技術の最後の砦は人間の持つレジリエンス(逆境力)と五感で感じる能力であり、これまでのシステム安全向上に加え、そうした対応力の育成が重要であると力強く語りました。

講演会最後は、革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)のリーダーである藤田玲子氏(大学院総合理工学研究科博士課程修了、元・日本原子力学会長)より、顕在化した高レベル放射性廃棄物問題への革新的対応法への国家的な取り組みであるImPACTプログラム「核変換による高レベル放射性廃棄物の大幅な低減・資源化」が紹介されました。その中で、同氏は、ガラス固化体や高レベル廃棄物融液からの長寿命核分裂生成物(LLFP)元素抽出技術、LLFPの核反応データの取得および短半減期核種または安定核種に変換する世界初の核反応経路の検討、加速器など核変換に適用する核変換システムの要素技術開発など、各プログラムにおける研究の推進状況について説明し、今こそ他分野からの参入による原子力研究の拡がりが大切であると強調しました。また、原子力は工学から始まったが、実用化から40年が経ち、新たなフェーズ(段階)を迎えた現在こそ、この分野の基礎研究を見直すべきであると述べ、講演を締めくくりました。

後半に行われた記念式典では、まず、矢野所長が当日の出席者への感謝の意を述べた後、今後の先導原子力研究所に対する指導、支援を求めました。続いて、安藤真理事・副学長(研究担当)が、エネルギー、環境といった今後さらに重要性を増す課題に包括的に取り組むためには、今回の研究改革で集結した各研究所を横断する課題の設定が必要であり、先導原子力研究所の今後の活動と発展に大いに期待すると述べました。科学技術創成研究院の益一哉院長からは、これからの研究組織には国際性も加味したダイバーシティ(多様性)が強く求められること、研究内容も含め、それを実現するための組織としての先導原子力研究所が果たすべき役割について言及がありました。また、来賓の方々からも、学生時代や原子炉工学研究所時代の交流を懐かしむ話や、今後の科学技術創成研究院と各学院間との連携のあり方への期待、原子力人材育成の大切さについての提言などがありました。

当日は、講演会には約150名、式典には約70名の学内外からの来場があり、盛会のうちに終わりました。1956年に旧・原子炉研の母体となる研究施設が設立されてからちょうど60年、言わば還暦を迎えたこの年に新たな体制で誕生した今後の先導原子力研究所の活動にご期待下さい。

お問い合わせ先

科学技術創成研究院 先導原子力研究所
小林能直

E-mail : ykobayashi@lane.iir.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3075

原子のようにふるまうナノカプセルを結合―ナノ材料の配列制御へ―

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要点

  • 原子のように振る舞う球状の微小なナノカプセルを結合して、一次元構造体(直線状)と二次元構造体(平面状)を構築
  • ナノカプセル内に金属塩が取り込めることを実証
  • 様々なナノ材料を取り込んで配列するという応用へ期待

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所のアルブレヒト(山下)建助教、山元公寿教授らの研究グループは、同大学 フロンティア材料研究所の東康男助教、真島豊教授と共同で、原子のように方向性と価数を持つナノカプセルであるデンドリマーをつなぎ役の架橋分子を介して一次元と二次元状に並べることに成功しました。

分子でありながら原子のように振る舞う原子模倣特性(atom mimicry feature)を持つ物質[用語1]の研究が近年盛んになっています。樹木の枝が伸びるように規則正しい分岐を持つ球状の高分子でありながらナノサイズ(10億分の1)のカプセルとしての機能も併せ持つデンドリマーも原子模倣物質の一例として注目されています。

本成果ではこのようなデンドリマー[用語2]を原子のように結合(重合)させて並べることを達成しました。また、このカプセルに金属塩を集積できることを見出しました。金属塩はサイズ制御されたナノ粒子へと変換可能であることから様々な機能を持ったナノ粒子を配列することが可能になります。また、このカプセルには金属塩に限らず様々なナノ材料を取り込めることが知られており、カプセルと架橋分子のデザインによって様々な次元性をもってナノ材料を配列できるテンプレートとなることが期待できます。本成果は、基礎科学的にも、新しい原子模倣物質の科学の開拓へつながると考えられます。

本成果は、2016年12月2日に米国科学雑誌「Science Advances」(オンライン)に掲載されました。

研究の背景

特定原子数の金属原子からなる金属クラスターが他の原子のような振る舞いを見せる超原子の研究は1980年代から行われてきました。近年、周期表の元素に対応するようにサイズ変化によって周期的に物性が変化したり、原子が結合を作るときのように結合の方向性や価数を持たせたりするナノ物質も含めて、原子模倣物質という新しいカテゴリーの物質群の概念へと拡張されつつあります。規則正しい分岐を持つ球状の高分子であるデンドリマーもそうした物質の1つと考えられています。しかし、原子軌道に電子が充填されるかのような振る舞いを見せ、結合の方向や価数を持つようなデンドリマーは知られていませんでした。

研究内容と成果

フェニルアゾメチンデンドリマーは金属塩などのルイス酸と錯体を形成して内包することが出来るナノカプセルとして知られています。その内包挙動は内層から外層に段階的に起きるという特徴を持っており、古典的なボーア原子モデル[用語3]の原子軌道に電子が充填する様子を模倣していると捉えることが可能です(図1)。

フェニルアゾメチンデンドリマーの構造とルイス酸の内包挙動及びその原子軌道への電子充填との類似

図1. フェニルアゾメチンデンドリマーの構造とルイス酸の内包挙動及びその原子軌道への電子充填との類似

このように原子模倣物質として捉えることの出来るフェニルアゾメチンデンドリマーを原子のように結合して分子を作ることは可能でしょうか。同グループはあたかも原子が最内層の軌道を使って電子を共有して結合するように原子模倣物質であるデンドリマーを結合することを考えました。そのため、両端に有機ルイス酸を有する架橋分子を合成し、これとデンドリマーを混ぜることで結合を形成できるのではないかと考えました(図2)。

カプセル機能を有する原子模倣デンドリマーと架橋分子から形成される一次元、二次元構造体と金属塩の内包

図2. カプセル機能を有する原子模倣デンドリマーと架橋分子から形成される一次元、二次元構造体と金属塩の内包

本研究ではこのような架橋分子を合成し、実際に一次元及び二次元の構造体が構築可能であることを実証しました。また、塩化スズのようなルイス酸をこの構造体に集積できることを通じて、この構造体がナノカプセルの集合体から出来ていることも実証しました。

今後の展開

ナノカプセルには金属塩以外にも有機金属錯体、有機カチオン、疎水性分子、蛍光色素など様々な分子を取り込むことが可能であり、ナノカプセルと架橋分子の組み合わせによって配列間隔やパターンの制御が可能だと考えられます。ナノ材料を直接並べるのではなく取り込み可能なカプセルを並べることによって様々なナノ材料を配列化させる新手法として開拓していくことが可能だと考えられます。

取り込まれた金属塩はサイズ制御されたナノ粒子へと変換できるため、このナノ粒子を配列化させることが可能になると期待できます。これを例えば「プラズモニック結晶」へと発展させることで生体物質の微量検出や屈折率の制御された物質の創成につながると考えられる他、「ナノ電極アレイ」へと発展させることで高効率な物質変換を可能とする電極触媒や細胞表面の物質分布を可視化するような化学センサーとしてなどナノ物質の配列化によってこれまでにない物性を引き出す端緒となることが期待されます。

用語説明

[用語1] 原子模倣特性(atom mimicry feature)を持つ物質 : 分子や集合体でありながら特定の原子の機能や振る舞いを模倣している物質群。特定原子数の金属原子から構成され他原子のような特性を示す超原子(Super atom)と呼ばれる金属ナノ粒子やフラーレン類、デンドリマーなどが含まれる。安定性や軌道エネルギー、発光や磁性といった模倣の他に結合方向や価数といった振る舞いの模倣を示す物質が当てはまる。
参考文献: Chem. Rev. 2016, 116, 2705-2774, DOI: 10.1021/acs.chemrev.5b00367 outer

[用語2] デンドリマー : 通常の直鎖状高分子と異なり、繰り返し単位ごとに分岐を持った樹状高分子、その形状の特異性や多数の末端を有することなどを利用して基礎から応用まで幅広い研究がなされている。

[用語3] ボーア原子モデル : 原子核の周りに存在する電子が離散的なエネルギーを持った電子軌道を周回しているとする原子モデル

論文情報

掲載誌 :
Science Advances 2 e1601414 (2016)
論文タイトル :
Polymerization of a divalent/tetravalent metal-storing atom-mimicking dendrimer
著者 :
Ken Albrecht1, Yuki Hirabayashi1, Masaya Otake1, Shin Mendori1, Yuta Tobari1, Yasuo Azuma2, Yutaka Majima2, Kimihisa Yamamoto1
DOI :
所属 :
1Laboratory for Chemistry and Life Science, Tokyo Institute of Technology, 4259 Nagatsuta Midori-ku, Yokohama 226-8503, Japan.
2Laboratory for Materials and Structures, Tokyo Institute of Technology, 4259 Nagatsuta Midori-ku, Yokohama 226-8503, Japan.

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所
教授 山元公寿

E-mail : yamamoto@res.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5259 / Fax : 045-924-5259

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

大隅良典栄誉教授が生命科学ブレイクスルー賞を受賞

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12月5日、大隅良典栄誉教授は、オートファジーの解明に寄与したとして生命科学ブレイクスルー賞を受賞しました。また、同日(現地時間は12月4日)に米国シリコンバレーにて開催された授賞式に夫妻で出席しました。

生命科学ブレイクスルー賞は、アップル会長のアーサー・レヴィンソン氏やグーグルの共同創業者であるセルゲイ・ブリン氏等を設立者とする生命科学ブレイクスルー賞財団が、2013年に創設した賞です。難病治療や延命に関する顕著な研究を行った研究者に対し贈られるもので、一人あたり300万ドルが賞金として与えられます。2012年には、ノーベル生理学・医学賞を受賞した京都大学の山中伸弥教授も同賞を受賞しています。

大隅良典栄誉教授
大隅良典栄誉教授

大隅栄誉教授コメント

生命科学ブレイクスルー賞の存在は知ってはおりましたが、自分には無縁の賞だと思っておりました。本賞の受賞は思いもよらなかったことであり、非常に光栄なことだと思っております。今後も、この分野の研究がさらに発展するように、努力する所存です。

ノーベル生理学・医学賞2016 特設ページヘ

大隅良典栄誉教授が「オートファジーの仕組みの解明」により、2016年ノーベル生理学・医学賞を受賞しました。受賞決定後の動き、研究概要をまとめた特設ページをオープンしました。

ノーベル生理学・医学賞2016 特設ページヘ

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Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

光ファイバーセンサーの超高速化に成功―社会インフラの劣化や損傷の迅速な検出、ロボットの「神経」利用に期待―

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要点

  • 光ファイバー中の変形(伸び)や温度をリアルタイムに検出するシステムを開発した。
  • 片端からの光入射で動作するため、たとえ光ファイバーの内部が破断しても動作が継続する。
  • 従来法の5,000倍以上の動作速度を達成し、たわみ変形の伝搬の追跡も実証した。
  • 防災・危機管理技術としての応用を広げるとともに、ロボットの「神経」としての活用も期待される。

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の水野洋輔助教と中村健太郎教授は、日本学術振興会特別研究員PDの林寧生博士、ファナック株式会社 サーボ研究所の福田英幸氏(元東京工業大学中村研究室所属)、韓国中央大学 物理学科の宋光容教授とともに、光ファイバー中の変形(伸び)と温度を検出できる分布型光ファイバーセンサーの性能向上に取り組み、片端からの光入射とリアルタイム動作の両立に世界で初めて成功しました。

近年、社会インフラの経年劣化や、地震等の自然災害対策が大きな社会問題として浮上していますが、ビル、トンネル、橋梁などの構造物に光ファイバーを「神経」として埋め込むことによって、構造物の変形を正確に監視できます。

これまでの手法は、光ファイバーの両端から光を入射していましたが、センサーの敷設に手間がかかるばかりか、光ファイバーが途中で1か所でも破断すると動作が停止してしまう難点がありました。今回、位相検波[用語1]技術に基づいて、片端からの光入射による分布型光ファイバーセンサーの超高速化に成功し、これらの問題点を克服しました。その結果、従来法の5,000倍以上となる測定速度である100 kHzのサンプリングレート[用語2]を達成し、たわみ変形の伝搬を追跡することでリアルタイム動作を実証しました。

本システムは、防災・危機管理技術としての応用範囲を広げ、生活の安全性向上に寄与するとともに、ロボットの新たな「神経」としての応用も期待できます。

研究成果は、2016年12月16日発行の英国科学誌ネイチャー(Nature)系の光学専門誌「ライト:サイエンス・アンド・アプリケーションズ(Light: Science & Applications)」に掲載されました。

背景

1960年代から70年代にかけての高度経済成長期に、集中的に建設された社会インフラの経年劣化が進んでいます。また、地震等の自然災害による損傷も蓄積して大きな社会問題に浮上してきています。この有力な対策として構造物に光ファイバーを埋め込むことで、構造物内の変形や温度を分布的に測定するシステムが使われつつあります。長距離にわたって測定が可能なうえ、電磁ノイズに強い等の利点があり、注目を集めています(図1)。

特に、光ファイバー中のブリルアン散乱[用語3]の周波数シフト(BFS)を用いた分布型の伸び・温度センサーは、他の手法に比べて高精度・高安定であることが知られています。中でも、ブリルアン光相関領域反射計(BOCDR)[用語4]と呼ばれる手法は、光ファイバーの片端から光を入射するだけでの動作、および、高空間分解能[用語5]、低コストなどの利点を併せ持っています。すでに、1 cm以下の分解能の実現など、多くの成果が得られています。しかし、サンプリングレートは19 Hzが最高であり、結果として分布測定に比較的長時間(数十秒~数分)がかかるという問題がありました。

分布型光ファイバーセンサーの概念

図1. 分布型光ファイバーセンサーの概念

研究の経緯

従来のシステムでは、ブリルアン散乱スペクトル全体を電気スペクトルアナライザーの周波数掃引機能を用いて取得した後、そのピーク値を与える周波数(BFS)を算出していました。その結果、サンプリングレートは19 Hzに制限されていました。そこで、電圧制御発振器を用いて周波数掃引を行うことで、高速なスペクトルの取得を実現しました(図2左)。しかし、そのままではBFSの算出が速度を制限してしまいます。そのため、さらに取得したスペクトルを狭帯域通過フィルター(BPF)により正弦波に近似して、排他的論理和(XOR)の論理ゲートと低域通過フィルター(LPF)を用いて位相検波を行いました(図2右)。これにより、BFSと1対1対応となる量を直接取得することが可能となりました。結果として、100 kHzを超えるサンプリングレートを達成することができました。

超高速化の原理

図2. 超高速化の原理

研究成果

反射光の解析に位相検波を導入することで、片端からの光入射による分布型光ファイバーセンサーの超高速化に成功しました。これにより、光ファイバー中の任意の位置での伸びや温度変化を、1秒間に10万回測定できるようにしました。これは従来法の5,000倍以上の速度です。

まず、1 kHzの局所的な振動の検出に成功しました。次に、光ファイバーをたわませて発生させた変形の伝搬を検出しました(図3)。以上により、リアルタイム動作が確認できました。関連動画も参照ください。

伝搬するたわみ変形のリアルタイム検出

図3. 伝搬するたわみ変形のリアルタイム検出

今後の展開

本手法は、伸び縮み(振動)や温度変化の分布情報を片端からの光入射で、リアルタイムかつ高空間分解能で取得できるため、様々な構造物(ビル・橋梁・トンネル・ダム・堤防・パイプライン・風車の羽根・航空機の翼など)に関わる防災・危機管理技術として幅広く活用することができます。また、アームに巻き付けることで、任意の位置で接触や変形、温度変化を検出するロボットの新しい「神経」としての応用も期待できます。

用語説明

[用語1] 位相検波 : 2つの正弦波が時間的にどれくらいずれているかを検出すること。

[用語2] サンプリングレート : 光ファイバー中のある1点の伸びや温度を、1秒間あたりに測定できる回数。例えば、サンプリングレートが100 kHzであるとは、ある位置での伸びや温度を1秒間に10万回測定できることを意味する。

[用語3] ブリルアン散乱 : 光ファイバー中に存在する微弱な超音波により入射光が散乱され、周波数のダウンシフトを伴って反射される現象。周波数シフト量(BFS)が伸びや温度に依存するため、センシングの原理として利用されている。

[用語4] ブリルアン光相関領域反射計(BOCDR) : 入射光に巧みな周波数変調を施すことで、光ファイバーのある特定の箇所で生じたブリルアン散乱信号のみを選択的に抽出し、分布測定を実現する手法。光ファイバーの片端からの光入射で動作するのが最大の特長である。

[用語5] 空間分解能 : 検出可能な伸びや温度変化区間の最短の長さ。

研究サポート

本研究は、科学研究費補助金(25709032、26630180、25007652)の支援を受けました。

論文情報

掲載誌 :
Light: Science & Applications
論文タイトル :
Ultrahigh-speed distributed Brillouin reflectometry
(超高速分布型ブリルアン反射計)
著者 :
Yosuke Mizuno, Neisei Hayashi, Hideyuki Fukuda, Kwang Yong Song, and Kentaro Nakamura
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所
助教 水野洋輔

E-mail : ymizuno@sonic.pi.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5052 / Fax : 045-924-5091

日本学術振興会特別研究員 林寧生
(東京大学 先端科学技術研究センター 情報デバイス分野)

E-mail : hayashi@cntp.t.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5452-5155 / Fax : 03-5452-5151

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

プレート境界からの「水漏れ」が深部低周波地震を抑制?

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要点

  • 沈み込みプレート境界で起きるゆっくり地震の発生には高い流体圧が必要だが、それを上昇させるメカニズムは未解明だった。
  • 深部低周波地震が発生していない領域ではプレート境界から上部(上盤側)へ水が漏れていたことが明らかになった。
  • プレート境界からの「水漏れ」と深部低周波地震発生との関係は水が地震発生に深く関与していることを示唆。

概要

東京工業大学 理学院の中島淳一教授、東北大学 理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センターの長谷川昭客員研究者/名誉教授は、西南日本において高精度の地震波形解析を行い、フィリピン海プレート境界での深部低周波地震の発生はプレート境界からの「水漏れ」と関係していることを明らかにしました。プレート境界で発生する巨大地震やゆっくり地震の発生に水が深く関与していることを示しており、プレート境界でのすべり過程を理解するための重要な成果です。この研究成果は、12月19日の英国科学誌Nature Communications(オンライン版)に掲載されました。

背景

1990年代初めまでは、沈み込みプレート境界は、普段は固着しており地震としてすべるか、または普段からずるずると安定的にすべっている領域にわけられると考えられていました。しかし2000年代に入ると、普通の地震よりも少しだけゆっくりとすべる低周波地震[用語1]が世界の沈み込み帯で相次いで報告されました。プレート境界巨大地震震源域の深部で発生する低周波地震は深部低周波地震と呼ばれ、大きな振幅の地震波の通過や地球潮汐などの小さな応力変化[用語2]にも敏感に応答して誘発されることもわかっています。これは深部低周波地震の発生域のプレート境界は「強度が弱い断層」であることを示唆しています。プレート境界を弱くする原因としては高い流体圧が考えられますが、プレート境界の流体圧を上昇させるメカニズムはよくわかっていません。

研究の経緯

西南日本では、フィリピン海プレートが沈み込み、1944年の東南海地震や1946年の南海地震のようなプレート境界巨大地震が過去に何度も発生し、大きな被害がもたらされてきました。これら巨大地震の震源域深部の深さ30 km付近では、東海地方から豊後水道にかけて深部低周波地震が帯状に発生しています(図1)。深部低周波地震の発生により巨大地震震源域の断層破壊が促進される可能性が指摘されていることから、深部低周波地震の発生場の理解はプレート境界でのすべり過程を解明するために極めて重要です。

西南日本の深部低周波地震の分布(赤点)と1944年の東南海地震、1946年の南海地震の震源域(緑領域)。

図1. 西南日本の深部低周波地震の分布(赤点)と1944年の東南海地震、1946年の南海地震の震源域(緑領域)。

そこで本研究では、世界で最も稠密な地震観測網が構築されている西南日本を対象に、深部低周波地震の発生域と非発生域で地下構造を高精度に推定し、プレート境界での水の挙動を観測から明らかにすることを目指しました。

研究成果

関東から九州までの1,000 kmにわたる帯状の領域において、地震波不均質構造の空間変化を明らかにしました。その結果、深部低周波地震が発生している領域ではプレート境界の上部の岩石が平均的な地震波速度を示す一方で、深部低周波地震が発生していない、関東、伊勢湾、紀伊水道、九州ではプレート境界の上部の岩石の地震波速度が平均よりも4%以上遅く、P波速度とS波速度の比(Vp/Vs比[用語3])は1.80以上か1.70以下の値を示すことが明らかになりました(図2)。

図1の青枠で囲まれた領域(長さ1,000 km)におけるP波速度(上)、Vp/Vs比(下)分布。
図2.
図1の青枠で囲まれた領域(長さ1,000 km)におけるP波速度(上)、Vp/Vs比(下)分布。フィリピン海プレート境界から1 - 4 km浅部の値を示す。深部低周波地震の非発生域ではP波速度が遅く、Vp/Vs比が1.80以上か1.70以下となっている。

関東、伊勢湾、紀伊水道、九州で観測された地震波速度の値は、上部の岩石が水による変成作用を受けていること、つまりプレート境界から水が漏れていることを示唆しています。水漏れにより流体圧が低くなるとプレート境界の強度が大きくなるため、そこでは深部低周波地震が発生しないと考えられます。プレート境界から漏れた水は上部の地震の原因にもなります(図3)。水漏れが起こらない場合、流体圧が上昇しプレート境界は「弱い断層」になります。すなわち、深部低周波地震の発生に必要な条件が整います。本研究で提案した新しいモデルでは、プレート境界の流体圧は上部の変成度合いと逆の相関を示すことが期待されます。

深部低周波地震の発生域(a)と非発生域(b)における水の挙動の模式図。

図3. 深部低周波地震の発生域(a)と非発生域(b)における水の挙動の模式図。

今後の展開

巨大地震発生域のプレート境界での流体圧を測ることは現状では困難です。しかし、本研究の成果はプレート境界の上部の構造変化を丹念に調査すれば、プレート境界での流体圧の空間変化を知ることができる可能性を示しています。プレート境界の破壊強度の空間変化や沈み込み帯の水循環の理解が進むと期待されます。

用語説明

[用語1] 低周波地震 : 普通の地震(振動周波数は~10 Hz)に比べて振動周波数が低い地震(1~4 Hz程度)。世界の多くの沈み込みプレート境界やアメリカのサンアンドレアス断層、ニュージーランドのアルパイン断層などで見つかっています。低周波地震のうち比較的深い場所(深さ30 km程度)で発生するものを深部低周波地震と呼びます。

[用語2] 応力変化 : 深部低周波地震が発生する地下30 kmのプレート境界には約1万気圧の圧力がかかっていますが、地震波の通過や地球潮汐(固体地球の変形)などにより0.1~1気圧程度の応力の揺らぎが生じます。このような小さな応力の揺らぎによっても深部低周波地震が誘発されることがあります。

[用語3] Vp/Vs比 : P波速度(Vp)とS波速度(Vs)の比。地殻や上部マントルの岩石では1.73~1.78程度の値を示すことが知られています。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Tremor activity inhibited by well-drained conditions above a megathrust
著者 :
Junichi Nakajima and Akira Hasegawa
DOI :

理学院

理学院 ―真理を探究し知を想像する―
2016年4月に新たに発足した理学院について紹介します。

理学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

東京工業大学 理学院 地球惑星科学系
教授 中島淳一

E-mail : nakajima@geo.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2547 / Fax : 03-5734-3537

東北大学 理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター
長谷川昭

E-mail : akira.hasegawa.d8@tohoku.ac.jp
Tel : 022-225-1950

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東北大学 大学院理学研究科
特任助教 高橋亮

E-mail : sci-pr@mail.sci.tohoku.ac.jp
Tel : 022-795-5572 / 022-795-6708
Fax : 022-795-5831

東工大グローバル水素エネルギー研究ユニット 第2回公開シンポジウム 開催報告

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将来の水素利用体系に関する総合的かつ技術的な検討を推進することを目的に発足した「東工大グローバル水素エネルギー研究ユニット」(以下、GHEU)は、10月5日、国内外の水素利用技術の現状と将来展望を共有するため、公開シンポジウムを開催しました。東工大蔵前会館の会場に用意した席がほぼ埋まる約261名の参加者が集まり、水素エネルギーに対する関心の高さがうかがえました。

  • 会場の様子

    会場の様子

  • 積極的に質問をする参加者

    積極的に質問をする参加者

開会の挨拶をする三島学長
開会の挨拶をする三島学長

開会挨拶で壇上に登った三島良直学長は、4月に10個の研究ユニットを立ち上げたことを紹介し、そのうちの一つがノーベル賞を受賞した大隅良典栄誉教授がユニットリーダーを務めていることに触れ、今回の受賞で大きな期待が東工大の研究ユニット全体に寄せられていると強調しました。また、岡崎健特命教授が率いるグローバル水素エネルギー研究ユニットもますます発展して欲しいとエールを送りました。

GHEUの活動と今後の戦略について説明する岡崎特命教授
GHEUの活動と今後の戦略について説明する岡崎特命教授

続いて、GHEUのユニットリーダーである科学技術創成研究院の岡崎健特命教授が、この研究ユニットの活動と今後の戦略について説明しました。研究活動の方針は、水素サプライチェーン構築に向けて産官学のメンバーが連携し、(1)正しい情報収集・整理・分析、(2)ボトルネックと研究課題の抽出、(3)社会実装に向けた方策の検討により、未利用エネルギーからの水素エネルギー利用体系の構築に向けた活動を共同で推進することであると話しました。また、今後の展開として、この研究ユニットに含まれる「グローバル水素エネルギーコンソーシアム」の充実をはじめ、プロジェクトの推進と次期プロジェクトの検討、国内の研究機関や産業界との連携、水素社会実現の本質的意義を伝える社会発信や社会貢献、世界的な研究ハブのイニシアチブをとるための国際展開を掲げました。

その後、東工大における水素研究の最新動向について、工学院の店橋護教授と環境・社会理工学院の梶川裕矢准教授がそれぞれ発表しました。

梶川准教授は「トータルシステム調査研究の取り組み」と題して、水素エネルギーが社会に実装されるためには何が必要かを説明し、科学技術の社会実装は要素技術だけでは決まらず、社会的なレジームで決まると指摘しました。さらに、社会の動向や社会にとっての水素エネルギーの価値を分析し、社会に発信しながら、同時に要素技術の開発を推進することが重要だと主張しました。また、この調査研究は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「水素利用等先導研究開発事業」の支援を受けていることを報告しました。

続いて、店橋教授は「水素燃料の本質的理解とその応用」というタイトルで、水素発電用のガスタービンの技術を実現するためにはどのような課題があるかを解説しました。水素だけを燃やす水素専燃の場合には、燃料と酸化剤の混合ガスを燃焼室に流入させる予混合燃焼と、燃料と酸化剤を別経路で燃焼室に流入させる非予混合燃焼が考えられると説明し、水素発電用のガスタービンには、きちんと燃える予混合の専燃技術が最終的に求められ、この研究開発が必要となるだろうとの見通しを示しました。また、予混合の水素専燃ガスタービンを実現するために乗り越えなくてはならない課題についても具体的に提示しました。

東工大の水素研究の最新動向について発表する梶川准教授
東工大の水素研究の最新動向について発表する店橋教授

東工大の水素研究の最新動向について発表する梶川准教授と店橋教授

今回のシンポジウムでは2名のゲストを招き、招待講演も実施しました。

招待講演1「水素社会の実現に向けた取組の加速~ロードマップの改訂について~」

経済産業省 資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部
新エネルギーシステム課長 水素・燃料電池戦略室長 山澄克氏

2016年3月に改訂された「水素・燃料電池戦略ロードマップ」の内容についての解説と、フェーズ1の定置用燃料電池や燃料電池自動車及び水素ステーション、フェーズ2の水素発電と大規模な水素供給システム、フェーズ3の再生可能エネルギー由来水素についての講演がありました。

講演をする山澄氏
講演をする山澄氏

講演をする山澄氏

招待講演2「ドイツにおける水素エネルギーと燃料電池技術」

ドイツ 水素・燃料電池技術研究機構
マネージング ディレクター バンホッフ博士

ドイツにおけるさまざまな水素エネルギーや燃料電池の技術や利用を紹介してもらいながら、国の取り組みなどの現状と今後の展望に関する講演がありました。

講演をするバンホッフ博士
講演をするバンホッフ博士

講演をするバンホッフ博士

最後に、この研究ユニットに参加する企業・組織のメンバーを交えたパネルディスカッションが開かれました。

パネリスト

  • 笹津浩司氏 電源開発株式会社 技術開発部長
    石炭のガス化とクリーン利用について提言しました。

  • 斎藤健一郎氏 JXリサーチ株式会社 エネルギー技術調査部長
    水素の製造・輸送・貯蔵・利用について、将来に繋ぐ論点を提示しました。

  • 中島良氏 株式会社東芝 次世代エネルギー事業開発プロジェクトチーム サブプロジェクトマネージャー
    再生可能エネルギー由来の水素を利活用する東芝の取り組みについて報告しました。

  • 大平英二氏 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) 新エネルギー部主任研究員
    水素エネルギー利用の展開について多様な視点を提供しました。

  • 橋本道雄氏 東京工業大学 環境・社会理工学院 特任教授、GHEUメンバー
    水素発電による水素の大規模な利活用について説明し、水素エネルギーを推進する意義を訴えました。

上記のパネリストの他、冒頭に講演した店橋教授と梶川准教授も加わり、進行役はGHEUのユニットリーダーである岡崎特命教授が務めました。

閉会にあたって、岡崎特命教授は、学理に根ざした研究を基本に、水素社会の実現に向けた活動を活発化させたいと述べ、産官学の連携については、コンソーシアムの機能を強化してさらに密な活動を進めていくため、参加したい企業や組織があれば、いつでも声をかけて欲しいと呼びかけました。また、今後は、海外の大学との協力関係の強化も目指したいとの抱負を語りました。

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院
グローバル水素エネルギー研究ユニット

E-mail : gheu@ssr.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3335


スピン自由度を用いた次世代半導体デバイス実現へ大きな進展

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スピン自由度を用いた次世代半導体デバイス実現へ大きな進展
―強磁性半導体において大きなスピン分裂をもつ電子のエネルギー状態を初めて観測―

発表のポイント

  • 鉄(Fe)を半導体(InAs)へ数%添加したことによってIII-V族半導体で初めてのN型強磁性半導体[用語1](In,Fe)Asを作製し、電子キャリア[用語2]が存在する伝導帯とよばれるエネルギー帯に大きな自発的スピン分裂があることを見出しました(図1)。
  • このようなN型半導体における強磁性と自発的にスピン分裂した伝導帯構造の出現は、従来の理論では予測できないため、半導体や磁性の物性物理学と半導体スピントロニクス[用語3]に新しい知見を与える重要な成果となります。
  • 強磁性半導体が大きくスピン分裂した電子状態を持つことを明らかにしたことにより、スピン自由度を利用した様々な半導体デバイスの設計と作製が可能になり、本成果は今後のスピンデバイス応用に向けて大きな前進をもたらすものと期待されます。
III-V族半導体InAsに磁性不純物として鉄(Fe)を添加したN型強磁性半導体(In,Fe)As(図の下部)において、Fe原子の局在スピンと電子キャリアとの相互作用によって強磁性秩序が現れるとともに、キャリア電子が存在する伝導帯の上向きスピン電子と下向きスピン電子の伝導帯エネルギーに大きなスピン分裂が観測された(図の上部)。
図1.
III-V族半導体InAsに磁性不純物として鉄(Fe)を添加したN型強磁性半導体(In,Fe)As(図の下部)において、Fe原子の局在スピンと電子キャリアとの相互作用によって強磁性秩序が現れるとともに、キャリア電子が存在する伝導帯の上向きスピン電子と下向きスピン電子の伝導帯エネルギーに大きなスピン分裂が観測された(図の上部)。

発表概要

東京大学 大学院工学系研究科のレ・デゥック・アイン助教、東京工業大学 工学院のファム・ナム・ハイ准教授、東京大学 大学院工学系研究科の田中雅明教授は、高速電子デバイスに使われるIII-V族化合物半導体(InAs)に鉄(Fe)原子を添加した混晶半導体(In,Fe)Asを作製し、(In,Fe)AsがN型(電流を担うものが電子である物質)で強磁性を示す(磁石になる)と同時にその伝導帯(電子キャリアが存在するエネルギー帯)に大きな自発的スピン分裂が生ずる(電子がもつスピンが上向きか下向きかによって大きくエネルギーが異なる)ことを見出しました。このような半導体において現れる強磁性、N型かつ大きくスピン分裂した伝導帯構造の観測は初めてであり、固体物理学に新しい知見を与えると共に、スピン自由度を利用した半導体デバイスへの応用に道を開くものと期待されます。

発表内容

研究の背景

強磁性半導体(Ferromagnetic Semiconductor: FMS)は非磁性半導体の一部の原子を磁性原子で置換することにより強磁性(磁石としての性質)が現れる材料です。既存の半導体技術との親和性が高いため、従来の半導体デバイスに「スピン」自由度を加えることにより、不揮発性、低消費電力、再構成可能性、量子情報などの新機能をもたらす可能性があり、世界的に注目されています。半導体結晶中に添加された磁性原子とキャリア(電子または正孔)との相互作用によって強磁性が誘起されるとともに、半導体中の上向きスピンをもつ電子と下向きスピンをもつ電子のエネルギー帯が大きく分裂することが期待されます。

しかし、実際にはこれまで電子のエネルギー帯のスピン分裂が実測された強磁性半導体は非常に稀で、II-VI族である(Cd,Mn)Teにおいて極低温(4 K = マイナス269.15 ℃)で価電子帯の自発的分裂(~10 meV)がわずかに見られたのみです。その理由の1つとして、多くの場合、磁性原子として使われるマンガン(Mn)が局在スピンとキャリア(正孔)を同時に供給するため、キャリアが不純物帯に存在し伝導帯や価電子帯はほぼ変化しないためと考えられています。また、これまでは半導体エレクトロニクスと整合性の良いIII-V族やIV族半導体では、P型(電子が抜けた穴=正孔が電流を担う)強磁性半導体しか作製できず、半導体デバイスに不可欠なN型の強磁性半導体は存在しませんでした。

研究内容

本研究グループは、添加する磁性原子としてMnの代わりに鉄(Fe)を選びました。Feの特徴は、III-V族半導体中で中性になる(ドナーにもアクセプターにもならない)ので、局在スピンとキャリアの起源を分離できること、よってP型のみならずN型も作製可能になることです。III-V族半導体であるインジウムヒ素(InAs)にFeを添加すると、電子濃度が1018 cm-3以上で強磁性が現れ、III-V族で初めてのN型強磁性半導体になります。さらに今回、トンネル分光法[用語4]というエネルギー分解能が高い手法を用いて(In,Fe)Asの伝導帯構造を詳細に調べた結果、大きな自発スピン分裂(30~50 meV)が強磁性温度領域で観測されました。強磁性半導体において、このような伝導帯の自発スピン分裂が確認されたのは初めてです。

社会的意義・今後の予定など

InAsのような、高速電子デバイスやエレクトロニクスで使われる重要なIII-V族半導体において、N型で強磁性が明瞭に現れること、かつ、大きくスピン分裂した伝導帯をもつことは、従来の理論では予測できないため、半導体や磁性の物性物理学と半導体スピントロニクスに新しい知見を与える[用語5]重要な成果です。また、強磁性半導体が大きくスピン分裂したエネルギー帯構造を持つことは、スピン自由度を利用した半導体デバイスの設計と作製を可能にするものであり、本成果は今後のスピンデバイス応用に向けて大きな前進をもたらすものと期待されます。

用語説明

[用語1] 強磁性半導体 : 半導体と強磁性体(磁石)の両方の性質を併せ持つ物質であり、スピントロニクス材料として用いられる。現在は、主に半導体(II-VI族、III-V族)の結晶成長中に磁性不純物(Mn、Fe、Coなど)を添加した材料が主流である。典型的な強磁性半導体ではキャリア誘起強磁性(すなわちキャリア密度が少ない場合には常磁性、多い場合には強磁性)を示し、キャリアを制御することによって磁性を制御できるという優れた特長をもつ。この特長を生かし、電気的あるいは光学的手段で磁性を制御できるという機能をもつ。既存の半導体材料や技術との整合性が良いので、将来のスピントロニクスデバイスに使われる材料として期待されている。

[用語2] キャリア : 固体中で電荷の流れ(電流)を担うもの。電荷の流れ(電流)に寄与する電子、正孔(ホール)、伝導イオンなどの総称。電子が抜けた穴が正孔で、正の電荷をもつ粒子のようにふるまう。電流を担うものが電子である物質をN型、正孔である物質をP型という。半導体では同じ物質でN型とP型ができ、キャリア濃度を制御することによってダイオード、トランジスタ、LED、レーザなどさまざまなデバイスができる。半導体デバイスを作製するためにはN型とP型の両方を必要とする。

[用語3] スピントロニクス : 電子は「電荷」とともに自転の角運動量に相当する「スピン」を持っている。電子はスピンをもつことにより、小さな磁気モーメントをもち、そのスピンによる磁気モーメントが多数揃った状態が物質の強磁性状態(磁石)である。スピントロニクス(Spintronics)とは、「電荷」と「スピン」の両方を活用して、新しい機能をもつ物質や材料の設計、デバイス、エレクトロニクス、情報処理技術などに応用しようとする新しい研究分野である。

[用語4] トンネル分光法 : 2つの材料が絶縁薄膜を挟んだ構造において、絶縁薄膜が十分に薄ければ一方の電極から反対側の電極に電子キャリアがトンネルでき、トンネル電流が流れる。この時トンネル電流の微分が両電極の状態密度の積に比例するため、このような構造においてバイアス電圧を変えながらトンネル電流を精密に測定し、そのデータを解析することにより、電極材料の電子状態を測定することができる。この手法をトンネル分光法という。本研究では、N型 (In,Fe)AsとP型InAsの接合構造においてトンネル分光法を用いて(In,Fe)Asの伝導帯の電子状態を明らかにした。

[用語5] スピントロニクス研究の発展の経緯と将来性 : 電子の「電荷」の蓄積や流れを制御することによって、トランジスタや集積回路をはじめとするさまざまなデバイスが生み出され、20世紀後半以降、エレクトロニクスや情報・通信技術の大発展をもたらした。一方、電子の「スピン」は磁性の源であり、磁石は古くから使われてきたが、磁性と電子の伝導がかかわる巨大磁気抵抗効果やトンネル磁気抵抗効果など新しい物理現象の発見を契機に応用技術も発展し、20世紀末頃から「スピントロニクス」といわれる新しい分野が形成され、現在では世界的に大きな研究の潮流となっている。その初期過程で巨大磁気抵抗効果の発見が2007年ノーベル物理学賞の対象になり、ハードディスクのヘッド(磁場センサ)に使われ記録容量の大容量化に大きく貢献した。また、トンネル磁気抵抗効果は高感度の磁場センサとともに次世代不揮発性メモリの基本原理として盛んに研究が行われている。
「スピントロニクス」では、将来の大容量ストーレージや不揮発性メモリへの応用のみならず、従来のエレクトロニクスや情報処理技術では実現できなかった優れた機能(不揮発性、低消費電力動作)や性能(高速演算・高密度集積・再構成可能)を持つマテリアル・デバイス・システムの研究が行われている。スピントロニクスは基礎から応用まで幅広く、両者が密接に関連しながら発展してきており、対象とする物質も金属、半導体、酸化物、有機物やそれらのヘテロ構造・ナノ構造など、多様で横断的な広がりを見せている。また、電子スピンのみならず、核スピン、磁性原子のスピン、磁壁、光のスピン(円偏光)など、スピンに関わる様々な現象とその応用の研究や、スピン(電子スピン、核スピン)、電荷、フォトンの量子状態を用いた量子計測や量子情報技術に関する研究も急速に進展している。おりしも、過去40年以上に渡ってエレクトロニクスや情報処理を支えてきたシリコン集積回路の微細化による高性能化(ムーアの法則)の限界が近づくにつれて、新しい原理や機能を導入した次世代デバイスの研究開発が世界的に関心を集めており、スピントロニクスは最も有望な将来技術の1つとして期待されている。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Observation of spontaneous spin-splitting in the band structure of an n-type zinc-blende ferromagnetic semiconductor
著者 :
Le Duc Anh, Pham Nam Hai, and Masaaki Tanaka
DOI :

工学院

工学院 ―新たな産業と文明を拓く学問―
2016年4月に新たに発足した工学院について紹介します。

工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

東京大学 大学院工学系研究科
教授 田中雅明

E-mail : masaaki@ee.t.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-6728

東京大学 大学院工学系研究科
助教 レ・デゥック・アイン

E-mail : anh@cryst.t.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-6729

東京工業大学 工学院 電気電子系
准教授 ファム・ナム・ハイ

E-mail : pham.n.ab@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3934

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

室温で強磁性・強誘電性が共存した物質を実現―低消費電力・超高密度磁気メモリー開発に道―

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概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の北條元・元助教(現九州大学 総合理工学研究院 准教授)、東正樹教授、名古屋工業大学の壬生攻教授らの研究グループは、セラミックス結晶中に磁石の性質(強磁性[用語1])と電気を蓄える性質(強誘電性[用語2])が室温において共存することを確認した。室温での両性質の共存は、鉄酸ビスマスを用いた次世代磁気メモリー実現のための鍵として注目されていながらも、磁性不純物の影響により、これまで本質的であると実験で確認されたことはなかった。

同研究グループは、コバルト酸鉄酸ビスマスを薄膜形態で安定化させ、その磁気特性および誘電特性を詳しく調べた。その結果、温度に応じて磁石としての性質が変化し、低温では消失していた磁石の特性が室温では現れることを明らかにした。電気を蓄える性質も備えている。強磁性と強誘電性の相関が確認されたことから、新しい原理に基づく、低消費電力かつ高速アクセス、大容量の次世代磁気メモリー開発につながると期待される。

同研究グループには東工大の川邊諒・元大学院生、清水啓佑大学院生、山本孟大学院生、インドのボーズ基礎科学研究センターが参画した。

研究成果はドイツの材料系科学誌「Advanced Materials(アドバンストマテリアルズ)」のオンライン版で12月21日に公開された。

研究の背景

スマートフォンの普及やビッグデータなどによる情報処理量の爆発的な増大に伴う、情報機器の消費電力が問題になる中で、低消費電力・高記録密度・不揮発性の次世代メモリーデバイスへの要求が高まっている。こうした観点から注目されるのが、磁性と強誘電性を併せ持つマルチフェロイック物質[用語3]である。磁性と強誘電性の相関が十分に強く、電場によって磁化方向を反転することができれば、不揮発性・高安定性という現在の磁気メモリーの特徴を生かしつつ、低消費電力・高記録密度かつ簡易な素子構造を有した次世代磁気メモリーを実現できると期待される。

研究成果

これまでに菱面体晶ペロブスカイト[用語4]の鉄酸ビスマスには反強磁性[用語5](厳密には反強磁性秩序に加えて、サイクロイド変調[用語6]が重畳している)と強誘電性が存在することが知られていた(図1左)。

鉄酸ビスマス(左)とコバルト酸鉄酸ビスマス(右)の磁気構造の模式図
図1.
鉄酸ビスマス(左)とコバルト酸鉄酸ビスマス(右)の磁気構造の模式図。鉄酸ビスマスは反強磁性体であるため、スピンの磁化は打ち消し合い自発磁化は現れない。一方、コバルト酸鉄酸ビスマスはスピンが傾斜しているため、磁化は打ち消し合わずに自発磁化が現れる。

今回、北條准教授、東教授ら研究グループは、鉄を一部コバルトで置換したコバルト酸鉄酸ビスマスを、強誘電性の評価が可能な薄膜形態で安定化させることに成功した。誘電特性評価の結果、薄膜試料が室温で強誘電体であることを確認した(図2左)。

室温における鉄酸ビスマスとコバルト酸鉄酸ビスマス(xはコバルトの置換量)の電気分極の外部電場依存性(左)および磁化の外部磁場依存性
図2.
室温における鉄酸ビスマスとコバルト酸鉄酸ビスマス(xはコバルトの置換量)の電気分極の外部電場依存性(左)および磁化の外部磁場依存性。

さらに、薄膜の成長する方向を工夫することにより、温度に応じて磁石の性質が変化し、室温で弱強磁性[用語7]が現れることを明らかにした(図2右)。この磁性がスピン配列の変化による本質的な強磁性であることはメスバウアー分光分析[用語8]による磁気構造解析により裏付けられた(図1右)。また、この強磁性相は、温度およびコバルト置換量の増加とともに安定化されることも明らかとなった。

今後の展開

今回の成果は新しい磁気メモリー実現のための鍵といわれてきた、室温における強磁性と強誘電生の共存を、コバルト酸鉄酸ビスマス薄膜について実験的に証明したものである。また、強誘電電気分極と自発磁化の間には互いに直交するという関係があるため、電気分極の反転によって磁気情報を書き込む新しい磁気メモリー材料や、電荷と磁化の両方を情報として用いる大容量多値メモリーとしての応用への道筋も拓ける。これにより、鉄酸ビスマスをベースとしたマルチフェロイック物質の開発に拍車がかかるものと期待される。

付記

本研究の一部は、神奈川科学技術アカデミー・戦略的研究シーズ育成事業「革新的巨大負熱膨張物質の創成」(代表・東正樹東京工業大学教授)、文部科学省・科学研究費補助金・新学術領域研究「ナノ構造情報のフロンティア開拓—材料科学の新展開」(代表・田中功京都大学教授)、基盤研究A「ビスマス・鉛ペロブスカイトのs-d軌道間電荷分布変化解明と巨大負熱膨張への展開」(代表・東正樹東京工業大学教授)、旭硝子財団若手継続グラント「Bi系マルチフェロイック薄膜の磁気構造制御と電場による磁化反転の実現」(代表・北條元九州大学准教授)、新世代研究所研究助成「次世代メモリ実現のためのBi系マルチフェロイック材料の開発」(代表・北條元九州大学准教授)、文部科学省・ナノテクノロジープラットフォームの援助を受けて行った。

用語説明

[用語1] 強磁性 : 電子は自転に例えられるスピンと呼ばれる内部自由度をもち、2つ状態(例えば上向きと下向き)をとる。隣り合う電子のスピンが同じ方向を向いて整列した状態を強磁性状態と呼ぶ。

[用語2] 強誘電性 : 電界(電圧を、その電圧が印加されている試料の厚みで割ったもの)を印加されていない状態でも電気分極(物質中で陽イオンと陰イオンの重心がずれていることから生じる、電荷の偏り)を持ち、かつ外部電界の向きに応じて電気分極の向きを可逆的に反転できる性質のことを強誘電性と呼ぶ。

[用語3] マルチフェロイック物質 : 一般に、複数の強的秩序を有する物質のことを指す。狭義では、強磁性と強誘電性の2つの強的秩序を有する物質を指す。

[用語4] 菱面体晶ペロブスカイト : ペロブスカイトは一般式ABO3で表される元素組成を持つ、金属酸化物の代表的な結晶構造。結晶構造中の原子の繰り返し周期である単位格子が、立方体ではなく、頂点方向に伸びたものを菱面体晶と呼ぶ。

[用語5] 反強磁性 : 隣り合う電子のスピンが互いに逆方向を向いて整列した状態を反強磁性状態と呼ぶ。スピンによる磁化は打ち消しあうため、全体として磁化を持たない。

[用語6] サイクロイド変調 : ある方向にスピンが少しずつ回転していくようなスピンの配列。そのスピンベクトルの先端をつなぐとサイクロイド曲線になる。

[用語7] 弱強磁性 : 反強磁性体において、スピンが完全には反並行にならず、わずかに傾いた状態を指す。磁化は完全には打ち消されないため、自発磁化が現れる。

[用語8] メスバウアー分光分析 : 原子核が反跳せずにγ線を共鳴吸収する現象を利用して、物質中のメスバウアー核(ここでは57Fe)の電子状態や磁気的性質を調べる手法のこと。

論文情報

掲載誌 :
Advanced Materials
論文タイトル :
Ferromagnetism at room temperature induced by spin structure change in BiFe1-xCoxO3 thin films
著者 :
Hajime Hojo, Ryo Kawabe, Keisuke Shimizu, Hajime Yamamoto, Ko Mibu, Kartik Samanta, Tanusri Saha-Dasgupta, and Masaki Azuma
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所
教授 東正樹

E-mail : mazuma@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5315 / 080-4402-5315
Fax : 045-924-5318

名古屋工業大学 工学研究科
教授 壬生攻

E-mail : k_mibu@nitech.ac.jp
Tel : 052-735-7904

九州大学 総合理工学研究科
准教授 北條元

E-mail : hojo.hajime.100@m.kyushu-u.ac.jp
Tel : 092-583-7526 / Fax : 092-583-8853

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

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Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

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Tel : 052-735-5647 / Fax : 052-735-5009

九州大学広報室

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Tel : 092-802-2130 / Fax : 092-802-2139

無重力で骨関連遺伝子以外でも発現が急上昇する遺伝子を発見―国際宇宙ステーション「きぼう」でメダカを8日間連続撮影―

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要点

  • 世界で初めて、生きたメダカの8日間蛍光顕微鏡連続撮影に成功
  • 骨を形成する骨芽細胞と吸収する破骨細胞で特異的に蛍光シグナルが急上昇
  • 無重力応答に関与する5つの遺伝子を発見
  • 人では寝たきりの初期に骨量が減少するため老人性骨粗鬆症の原因解明にもつながる可能性がある

概要

東京工業大学 生命理工学院の工藤明教授らは、国際宇宙ステーションにある「きぼう」日本実験棟で骨芽細胞と破骨細胞が蛍光で光る遺伝子を組み込んだメダカを、8日間連続で顕微鏡を用いて観察し、両細胞の蛍光シグナルが無重力下で急速に活性化されていることを明らかにした。また、無重力に応答する遺伝子を調べた結果、骨関連遺伝子の他に5つの遺伝子、c-fos、jun-B-like、pai-1、ddit4、tsc22d3が発現上昇することを見出した。

今回の成果は、世界で初めて宇宙で8日間顕微鏡連続撮影ができたことによるもので、宇宙空間を利用した無重力での骨量減少を解明する新たな手掛かりが得られたことになる。動物モデルが無い老人性骨粗鬆(そしょう)症の原因解明に繋がることが期待できる。

この成果は、英国の科学誌ネイチャー(Nature)の姉妹紙のオンラインジャーナル「サイエンティフィック リポーツ(Scientific Reports)」で12月22日午前10時(英国時間)に公開された。

研究成果

骨量減少の原因解明は、地上での老人性骨粗鬆症の予防や、長期の有人宇宙探査における重要な課題だ。その解明には、培養細胞のみならず生物個体としての機能を調べるべく観察・解析が重要で、この研究領域は世界的にも注目されている。

老人性骨粗鬆症では、寝たきりになった直後から急激に骨量が減少することが知られている。また宇宙飛行士の骨量は無重力にさらされた直後から1ヵ月以内に急激に減少することがわかってきており、無重力に対する生物体内の初期応答の解明が急がれている。

工藤教授の研究グループのメンバーである茶谷昌宏助教(現・昭和大学)らは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)等との共同研究で、osterix[用語1]-DsRed/TRAP[用語2]-GFPなど、計4種類の骨関連遺伝子で改変したメダカを対象に国際宇宙ステーションの「きぼう」・日本実験棟で飼育を行った。今回は、容器のジェルの中に孵化直後のメダカを飼育し、8日間連続撮影を行った。このメダカは、改変した骨関連遺伝子のプロモーターが働くと蛍光発光する。実験データを解析した結果、骨を形成する細胞である骨芽細胞と骨を壊す細胞である破骨細胞で特異的に発現する蛍光のシグナルが、無重力にさらされた1日後から大きく上昇し、8日間その発現上昇が維持された。また、無重力にさらされた2日後の遺伝子発現を調べたところ、骨関連遺伝子の他に5つの遺伝子、c-fos、jun-B-like、pai-1、ddit4、tsc22d3の大幅な発現上昇を明らかにした。

個体レベルで解析できる生物(メダカ)を用い、無重力への生物個体の初期応答の一端を示した世界で初めての成果である。

咽頭歯骨部における骨芽細胞と破骨細胞の蛍光シグナル増加

図1. 咽頭歯骨部における骨芽細胞と破骨細胞の蛍光シグナル増加

A. 腹側から見た頭部における咽頭歯骨部(破線枠)の模式図 B-C. 地上群(B)と宇宙群(C)の咽頭歯骨部位におけるosterix-DsRed(骨芽細胞マーカー)の発現 D. 観察1日目から8日目までの地上群と宇宙群の蛍光強度比較 E-F. 地上群(E)と宇宙群(F)の咽頭歯骨部位におけるTRAP-GFP(破骨細胞マーカー)の発現 G. 観察4日目と6日目の地上群と宇宙群の蛍光強度比較 up:上顎咽頭歯部、lp:下顎咽頭歯部、c:擬鎖骨
Chatani et al, Sci. Rep. 6:39545, 2016より一部変更して掲載

軌道上実験

2014年2月に無重力への骨代謝の初期応答を調べる実験を「きぼう」で行った。これは4種類の遺伝子改変メダカを用い、生きたままのメダカを8日間連続で蛍光顕微鏡観察する実験である。無重力下での骨芽細胞、破骨細胞の動態をリアルタイムで観察した。研究グループは、地上で下図2のようにしてジェルの中に生きた状態で孵化直後の遺伝子改変メダカを飼育した。そして、国際宇宙ステーションに輸送されたメダカの画像を、宇宙空間で下図3のようにして取得。「きぼう」日本実験棟内では若田光一JAXA宇宙飛行士によって、メダカが入った容器が蛍光顕微鏡内に設置され、その後の観察は日本の筑波宇宙センターの遠隔操作で行った。

宇宙短期の観察方法
図2. 宇宙短期の観察方法
宇宙で観察した咽頭歯部(腹側)
図3. 宇宙で観察した咽頭歯部(腹側)
微小重力環境下の生体イメージング方法の概要

図4. 微小重力環境下の生体イメージング方法の概要

このライブイメージング成功には以下の3条件が必要で、一つでも欠けると実験系は成り立たない、無重力下における骨リモデリング(骨が削られ、それを埋めるように骨が形成される)の観察実験系である。

この実験系で判明したことは、(ア)孵化直後は卵黄嚢が大きく残っており、餌がなくてもジェルの中で1週間以上の飼育が可能である。(イ)打上げの際に5 Gの加重がかかるためジェルの中の魚は全て腹側を下へ向ける。(ウ)腹側からのみ咽頭歯骨[用語3]の観察が可能で、メダカにおいて破骨細胞と骨芽細胞は、孵化直後という発生初期段階から骨リモデリングを開始している。

実験に供したメダカ

骨量減少の原因解明のための研究には、ヒトやマウスなどの哺乳類と異なり、体が透明で生きたまま体外から骨の様子を観察しやすく、また細胞の動態を蛍光で観察できる遺伝子改変メダカが有効である。工藤教授の研究室では、骨芽細胞と破骨細胞の様子を同時に生きたまま観察できる遺伝子改変メダカを確立し、今回の実験に用いた。

2012年に行われた長期飼育実験で、無重力下においてメダカの骨量が減少することがすでに明らかになっている (Chatani et al, Sci. Rep. 5:14172, 2015)。

国際宇宙ステーションから取得したメダカ観察容器全体像

図5. 国際宇宙ステーションから取得したメダカ観察容器全体像

5倍対物レンズで撮影した273枚の画像を平面に敷き詰めて表したメダカ観察容器の全体像。観察の度に全体像を作成し、20倍対物レンズをメダカが位置する正確な座標に合わせて撮影した。

今後の展開

新たに見つかった無重力の応答に関与すると思われる5つの遺伝子について、その分子機構の解明を行い、老人性骨粗鬆症への関与を明らかにする。

用語説明

[用語1] osterix : 骨芽細胞の分化制御を代表する転写因子。

[用語2] TRAP : 酒石酸抵抗性酸ホスファターゼのことで、破骨細胞マーカーの一つとして用いられる。

[用語3] 咽頭歯骨 : メダカののどの奥に500本以上ある咽頭歯を支える骨。歯の再生に伴ってこの骨が再生され、古い骨の上に破骨細胞が存在し、骨吸収を行っている。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Acute transcriptional up-regulation specific to osteoblasts/osteoclasts in medaka fish immediately after exposure to microgravity
著者 :
Masahiro Chatani1,+, Hiroya Morimoto1, Kazuhiro Takeyama1, Akiko Mantoku1, Naoki Tanigawa2, Koji Kubota2, Hiromi Suzuki3, Satoko Uchida3, Fumiaki Tanigaki4, Masaki Shirakawa4, Oleg Gusev5,++, Vladimir Sychev6, Yoshiro Takano7, Takehiko Itoh1, and Akira Kudo1
所属 :
1 Graduate School of Bioscience and Biotechnology, Tokyo Institute of Technology, Yokohama 226-8501, Japan
2 Chiyoda Corporation, Yokohama 220-8765, Japan
3 Department of Science and Applications, Japan Space Forum, Tokyo 101-0062, Japan
4 Japan Aerospace Exploration Agency, Tsukuba 305-8505, Japan
5 Institute of Fundamental Medicine and Biology, Kazan Federal University, Kazan 420008, Russia
6 SSC RF-Institute of Biomedical Problems RAS, Moscow, Russia
7 Section of Biostructural Science, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Tokyo Medical and Dental University, Tokyo 113-8549, Japan
+ Current address: Department of Pharmacology, School of Dentistry, Showa University, Tokyo 142-8555, Japan
++ Current address: RIKEN Innovation Center, RIKEN, Yokohama 230-0045, Japan
DOI :

生命理工学院

生命理工学院 ―複雑で多様な生命現象を解明―
2016年4月に新たに発足した生命理工学院について紹介します。

生命理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

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(研究全般に関するお問い合わせ)

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教授 工藤明

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Tel : 045-924-5718 / Fax : 045-924-5718

(「きぼう」を使った水棲生物実験に関するお問い合わせ)

国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構 広報部

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混ぜるだけで迅速に水溶液中のたんぱく質凝縮に成功―新たな高濃度たんぱく質材料で医薬品開発に期待―

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ポイント

  • 産業や医薬品に重要なたんぱく質を水溶液から濃縮するには、時間と費用がかかる上、たんぱく質が変性してしまう問題があった。
  • 2種類の界面活性剤を加えることで水溶液中のたんぱく質が構造と機能を保ったまま集合する現象を発見し、たんぱく質を多く含む液状物質(凝縮体)の開発に成功した。
  • 触媒や抗体機能を持つたんぱく質の凝縮体を簡便な操作で得られ、ゲル状態にもできるので、触媒材料や医薬品の開発など、幅広い応用展開が期待される。

概要

JST戦略的創造研究推進事業において、東京工業大学 科学技術創成研究院の野島達也特任助教と彌田智一教授らの研究グループは、、界面活性剤[用語1]を加えると、水溶液中のたんぱく質が構造と機能を保ったまま集合する現象(分子集合現象[用語2])を発見し、この新たな現象を利用して、たんぱく質を多く含む液状物質である「たんぱく質凝縮体」の開発に成功しました。

生体高分子であるたんぱく質は、化学反応を触媒する酵素や特定の分子を認識する抗体などさまざまな機能を持つ重要な物質です。産業や医薬に利用するには、高濃度で、かつ変性していないたんぱく質が必要です。しかし、水溶液中に分散しているたんぱく質の濃縮には時間と費用がかかる上、濃縮過程でたんぱく質が変性や凝集してしまい、触媒や抗体機能が失われる問題があります。

本研究グループは、2種類のイオン性界面活性剤を一定の比率で組み合わせてたんぱく質水溶液に加えるという簡便な操作で、たんぱく質が構造と機能を保ったまま集合するという新たな現象とともに、高いたんぱく質含有量の液状物質(たんぱく質凝縮体)が生じることを見いだしました。本技術は構造や機能が異なるさまざまなたんぱく質に利用できます。扱いやすいゲル状態にもできるので、新しいたんぱく質材料として、たんぱく質試薬や医薬品の開発など幅広い応用が期待されます。

本研究成果は、ドイツ化学誌「Angewandte Chemie International Edition」のオンライン版で近日中に掲載されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO)

  • 研究プロジェクト:
    彌田超集積材料プロジェクト
  • 研究総括:
    彌田智一(東京工業大学 科学技術創成研究院 教授)
  • 研究期間:
    2010年10月~2016年3月

上記研究課題では、異種材料をナノ・マイクロスケールで「上手に混ぜる」ことにより、構成材料の単なる足し合わせでは得られない、要素間の相互作用が顕在化した「超集積材料」の創成を目指しています。

研究の背景と経緯

生体高分子であるたんぱく質は、化学反応を触媒する酵素や特定の分子を認識する抗体などさまざまな機能を持つ重要な物質です。酵素たんぱく質試薬やたんぱく質製剤の製造などにはたんぱく質の濃縮技術が必要とされています。従来のたんぱく質を濃縮する方法は時間と費用がかかる上、条件によっては濃縮過程でたんぱく質の変性や凝集が起こります。そのため、短時間で簡便にたんぱく質を高濃度化する技術が必要とされていました。

研究の内容

水溶性たんぱく質が水中に分散した状態から自然に高濃度化することはありません。本研究では、たんぱく質の新たな分子集合現象を発見し、これを応用してたんぱく質の高濃度化技術を開発しました。本研究グループは、疎水部にアルキル鎖、親水部にポリエチレングリコール鎖を持つ、陰イオン性および陽イオン性の2種類の界面活性剤を一定の比率で組み合わせました。これをたんぱく質水溶液に加えると、最大で311ミリグラム/ミリリットル(平均213ミリグラム/ミリリットル)のたんぱく質を含む液状物質が瞬時に水から分離することを見いだしました(図1)。水中に分散するたんぱく質の凝縮により形成された物質という意味を込めて、この物質を「たんぱく質凝縮体」と名付けました。また2種類の界面活性剤の比率をたんぱく質の種類によって適切に調整することで、構造や機能の異なるさまざまなたんぱく質の凝縮体を、その構造と機能を保ったまま形成できることを確認しています(図2)。抗体医薬品の開発には100ミリグラム/ミリリットル以上のたんぱく質濃度が必要とされており、本技術で得られた凝縮体のたんぱく質含有量は実用性が高いといえます。また、凝縮体に塩を加えれば、容易に水溶液状態に戻すことができます。

たんぱく質凝縮体の形成方法

図1. たんぱく質凝縮体の形成方法

陽イオン性および陰イオン性界面活性剤を一定の比率で組み合わせ、たんぱく質水溶液に加えると、水相と分離した液状物質としてたんぱく質凝縮体が瞬時に形成される。

凝縮体の形成を確認できたたんぱく質

図2. 凝縮体の形成を確認できたたんぱく質

下層の赤丸で囲んだ液体が得られたたんぱく質凝縮体。陽イオン性および陰イオン性界面活性剤の加える量の比率を変えることで、構造と機能が異なるさまざまなたんぱく質の凝縮体を形成できる。

通常、界面活性剤はたんぱく質と疎水性相互作用[用語3]することで、たんぱく質の水に溶ける性質と分散する性質とを高めます。一方、たんぱく質凝縮体の形成では、たんぱく質と界面活性剤は静電相互作用[用語4]により複合化していることを、形成条件の分析や構成成分の定量分析により明らかにしました。静電相互作用の結果、たんぱく質に対して界面活性剤の親水部であるポリエチレングリコール鎖が内側に、疎水部であるアルキル鎖が外側に位置した複合体が形成され、その複合体がアルキル鎖同士の疎水性相互作用により多数集合して凝縮体を形成していると考えられます(図3)。たんぱく質凝縮体は水と分離した液状物質ですが、70重量パーセントの水を含んでいるので、内部のたんぱく質は水溶液中と同様に水に囲まれています。そのため、凝縮体を形成したたんぱく質が水溶液中と変わらない構造と機能を保つことも確認できました。界面活性剤の親水部に含まれるポリエチレングリコール鎖が水分を保持していると推測されます。

たんぱく質凝縮体の構造モデル

図3. たんぱく質凝縮体の構造モデル

たんぱく質(赤)表面の荷電残基に界面活性剤のイオン部が結合して複合化している。アルキル鎖(黒)同士の疎水相互作用によって、多数のたんぱく質-界面活性剤複合体が集合し、凝縮体が形成される。たんぱく質の周囲にあるポリエチレングリコール(青)が水を保持するため、たんぱく質は水溶液中と変わらない構造を保つ。

また、たんぱく質凝縮体を形成する過程でゲル化剤[用語5]を加えると、凝縮体をゲル化できます。ゲル化した凝縮体は酵素触媒材料として、酵素反応を進行させることが確認されました。反応後は凝縮体ゲルを回収して、繰り返し利用することができます(図4)。

ゲル化剤としてアクリルアミドを導入して作成したたんぱく質凝縮体ゲル

図4. ゲル化剤としてアクリルアミドを導入して作成したたんぱく質凝縮体ゲル

凝縮体ゲルを薬さじで酵素反応基質を含む水溶液に加えると、酵素反応が進行する。凝縮体ゲルは反応後に回収して、繰り返し利用できる。

全てのたんぱく質凝縮体はX線小角散乱測定[用語6]で強い散乱ピークを示しました(図5)。これは、凝縮体内部のたんぱく質はランダムではなく、一定の間隔で並んでいることを意味します。たんぱく質同士の間隔は界面活性剤のアルキル鎖とポリエチレングリコール鎖の長さに応じてナノメートル単位で調節できるため、たんぱく質含有量の調節が可能となります。

X線小角散乱測定による構造解析

図5. X線小角散乱測定による構造解析

アルキル鎖とポリエチレングリコール鎖の長さの異なる3種類の界面活性剤を用いて作成したたんぱく質凝縮体のX線小角散乱測定結果。全てのたんぱく質凝縮体は水溶液にはない散乱ピークを示すため、凝縮体内部のたんぱく質はランダムではなく、一定間隔で規則正しく配列していることが分かった。ピークの位置から隣り合うたんぱく質間の間隔を求めると、界面活性剤の構造に応じてナノメートル単位で間隔を調節できることが示された。

多種類のたんぱく質の混合物であるヒト血清ガンマアルブミン[用語7]に、同じように2種類の界面活性剤を加えたところ、特定の荷電状態のたんぱく質のみが凝縮体を形成しました(図6)。この結果は、今回開発したたんぱく質凝縮体の形成技術は、複数のたんぱく質が混じった水溶液から特定のたんぱく質だけを簡便に分離する技術としても応用できることを示しています。

本技術を利用した荷電状態に応じたたんぱく質の分離

図6. 本技術を利用した荷電状態に応じたたんぱく質の分離

ポリクローナル免疫グロブリンGを主要成分とするたんぱく質混合物であるヒト血清ガンマグロブリンでもたんぱく質凝縮体が形成される。等電点電気泳動分析[用語8]により、正電荷を多く持つ塩基性たんぱく質だけが凝縮体を形成することが明らかとなった。たんぱく質を荷電状態に応じて分離する技術としての応用可能性が示された。

今後の展開

従来、水溶液中のたんぱく質を濃縮するには時間と費用がかかっていました。今回開発した手法は簡便で実用性の高いたんぱく質の高濃度化技術として、また新しいたんぱく質材料の作成技術として、たんぱく質を変性させない安定な保存方法や医薬品開発への応用が期待されます。またゲル化した状態のたんぱく質凝縮体は触媒反応後、簡単に取り出して再利用できることから、生体触媒の用途拡大につながる可能性があります。

また、今回発見した水溶液中のたんぱく質が界面活性剤により集合する現象は、新たな分子集合現象として分子科学や材料科学の発展に寄与することが期待されます。

用語説明

[用語1] 界面活性剤 : 水となじみやすい親水性の構造と油となじみやすい疎水性の構造を持つ分子の総称。水と油など混ざりにくい物質を混合する働きを持つ。

[用語2] 分子集合現象 : 水などの溶媒中に分散していた分子が、溶液条件の変化により集合する現象。

[用語3] 疎水性相互作用 : 水などの溶媒中で疎水性分子が引き合い集合しようとする作用。界面活性剤の疎水部は水中において疎水性相互作用で集合する。

[用語4] 静電相互作用 : 正電荷と負電荷の間で働く引力のこと。たんぱく質凝縮体の形成では、たんぱく質表面の荷電アミノ酸残基(グルタミン酸(負電荷)、アスパラギン酸(負電荷)、リシン(正電荷)、アルギニン(正電荷))に対して、それらと反対電荷の界面活性剤が静電相互作用で結合している。

[用語5] ゲル化剤 : 液状物質を固体化(ゲル化)させる物質のこと。本研究ではアクリルアミドモノマーゲル化剤として、それの重合によりポリアクリルアミドをたんぱく質凝縮体内部で形成させることでゲル化している。

[用語6] X線小角散乱測定 : 対象となる物質にX線を照射したとき、物質の構造に応じてX線はさまざまな角度で散乱される。その時、小さい散乱角度の散乱X線を測定することで、数ナノメートルから数十ナノメートルサイズの構造を解析する手法。

[用語7] ヒト血清ガンマアルブミン : さまざまなたんぱく質を含む血清(凝固した血液の上澄みの液体)より得られた、主にIgG抗体(ポリクローナル免疫グロブリンG)を含む成分のこと。さまざまな抗原に対応するため、含まれるIgG抗体の種類は100万以上に及ぶ。

[用語8] 等電点電気泳動分析 : たんぱく質の等電点(正電荷と負電荷の総量が釣り合うpHのこと)を分析する手法。等電点が7以上の塩基性たんぱく質は中性の水溶液中で正電荷を持ち、等電点が7以下の酸性たんぱく質は中性の水溶液中で負電荷を持つ。

論文情報

掲載誌 :
Angewandte Chemie International Edition
論文タイトル :
Water-rich Fluid Material Containing Orderly Condensed Proteins
(秩序立って凝縮したたんぱく質を含む内部に水を豊富に持つ液状物質)
著者 :
Tatsuya Nojima, Tomokazu Iyoda
DOI :

お問い合わせ先

(研究に関すること)

ERATO 彌田超集積材料プロジェクト 研究総括
東京工業大学 科学技術創成研究院
教授 彌田智一

E-mail : iyoda.t.aa@m.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5277

ERATO 彌田超集積材料プロジェクト 研究員
東京工業大学 科学技術創成研究院
特任助教 野島達也

E-mail : nojima.t.aa@m.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5277

(JSTの事業に関すること)

科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部
古川雅士

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科学技術創成研究院・帝国データバンク共催シンポジウム開催報告

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11月24日、本学の科学技術創成研究院と株式会社帝国データバンクが共催するシンポジウムが「ビッグデータが社会を大きく変革する:ビッグデータ数理科学研究ユニットの挑戦」と題して開催されました。

パネルディスカッションの様子

パネルディスカッションの様子

東工大は、科学技術創成研究院ビッグデータ数理科学研究ユニットに、「帝国データバンク先端データ解析共同研究講座」を設置し、企業活動・地域経済・産業構造を分析し、持続可能な社会に貢献する研究を推進しています。高安美佐子准教授が率いるビッグデータ数理科学研究ユニットは、各種ビッグデータを融合的に利用し、先端的データ解析・多層時空間モデリング・大規模シミュレーションによって、諸問題を科学的に解決することを目的として研究を進めています。

また、科学技術創成研究院内に、世界トップクラスの研究者の異分野交流を促進し、革新的科学技術の創出等を担う「世界の研究ハブ」を目指す組織として、Tokyo Tech World Research Hub Initiative(WRHI)を構築しています。海外から世界トップレベルの研究者を招聘し、本学研究者と共同して研究を行い、分野を超えた交流を実施するものです。

本シンポジウムもWRHIが招聘した世界トップレベルのデータサイエンスを専門とする科学者による基調講演、および産学官において第一線で活躍しているメンバーによるパネルディスカッションを通して、ビッグデータがこれからどのように日本や世界の産業を変えていくのかを浮き彫りにしていくことを目的として開催しました。

講演会には200名を超える事前申込があり、また雪の降りしきる中、当日の参加者も多数来場しました。大学関係者のみならず、企業からも多くの参加者がありました。

今回は各分野を代表する4人の研究者が講演を行いました。

  • TDB企業データを用いたネオGDPの計算+日本の未来を見る

    高安美佐子氏

    高安美佐子氏

    高安美佐子氏
    東京工業大学 科学技術創成研究院
    ビッグデータ数理科学研究ユニット 准教授

  • ビッグデータの弱点:頻度の低い巨大事象に注意せよ

    ディディエ・ソネット氏

    ディディエ・ソネット氏

    ディディエ・ソネット氏
    東京工業大学 科学技術創成研究院
    ビッグデータ数理科学研究ユニット 特任教授
    /スイス連邦工科大学チューリッヒ校 教授

  • ネットワーク科学:ビッグデータを理解するための基盤

    シュロモ・ハブリン氏

    シュロモ・ハブリン氏

    シュロモ・ハブリン氏
    東京工業大学 科学技術創成研究院
    ビッグデータ数理科学研究ユニット 特任教授
    /バル・イラン大学(イスラエル) 教授

  • ノーベル賞をめざす人工知能:科学発見の新たな原動力

    北野宏明氏

    北野宏明氏

    北野宏明氏
    株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所 代表取締役 社長

講演後に行われたパネルディスカッションでは、「大きく変革する社会:ビッグデータは社会をどのように変えていくのか?」について、産学官のパネリストからそれぞれの立場での意見があり、会場からも沢山の質問が飛び出し、大いに盛り上がりました。

今後も科学技術創成研究院の最先端研究を紹介するシンポジウムを開催予定です。どうぞご期待ください。

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