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エピジェネティックマークを生体内で観るための細胞内抗体プローブを開発

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要点

  • ヒストンH4メチル化修飾の生細胞計測に成功
  • 生細胞で働く抗体プローブの結晶構造を解明
  • 線虫の初期発生過程におけるヒストンH4メチル化を観察

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院の木村宏教授と佐藤優子研究員を中心とした共同研究グループ(早稲田大学、国立遺伝学研究所、大阪大学、近畿大学、中部大学、かずさDNA研究所、情報通信研究機構などが参加)は、ヒストン蛋白質の特定の翻訳後修飾[用語1](ヒストンH4蛋白質の20番目リジンのモノメチル化,H4K20me1)を生体内で可視化する技術の開発に成功した。

細胞内でDNAと結合しているヒストン蛋白質の翻訳後修飾は、遺伝子の働きを制御する重要な役割を果たしている。その中でもH4K20me1は、DNA損傷修復や不活性X染色体[用語2]のマークとして重要であることが知られていたが、生きた細胞内での修飾の変化を観察する技術はなかった。

今回、H4K20me1を直接検出する細胞内抗体プローブH4K20me1-mintbodyを開発し、生きた細胞や線虫で転写抑制されたX染色体のライブイメージングに成功した(図)。また、抗体プローブの抗原結合領域の結晶構造を明らかにした。抗体は本来細胞外で作られる蛋白質であるため、細胞内では環境の違いにより適切な構造を形成・維持できない場合が多い。H4K20me1-mintbodyの細胞内での機能の成否に関わるアミノ酸残基を同定し、立体構造に与える影響を明らかにした。本研究成果は、細胞機能におけるH4K20me1の意義を調べるツールとして有用であることに加え、さらに細胞内抗体プローブの開発において今後広く役立つことが期待される。

この成果は8月14日に米科学誌Journal of Molecular Biologyオンライン速報に掲載されました。

H4K20me1を直接検出する細胞内抗体プローブH4K20me1-mintbody

図. H4K20me1を直接検出する細胞内抗体プローブH4K20me1-mintbody

研究成果

ヒストンH4タンパク質20番目リジンのモノメチル化(H4K20me1)特異的抗体の可変領域を取得し、GFP融合型一本鎖可変領域抗体(single-chain variable fragment, scFv)として細胞に発現させ、細胞内抗体プローブ(modification-specific intracellular antibody, mintbody)を作製した。分裂酵母細胞や哺乳動物細胞を用いて、H4K20me1-mintbodyがH4K20me1に特異的に結合することを確かめた。また、生きた細胞や線虫の不活性化X染色体のライブイメージングに成功した。さらに、プローブの標的認識部位であるscFvの結晶構造を明らかにし、細胞内でのH4K20me1-mintbodyが適切な構造を形成・維持するために必要なアミノ酸残基を同定した。

背景

多細胞生物の体を構成する細胞では、個々の細胞に特有の遺伝子が活性化している。この遺伝子発現制御には、エピジェネティック制御が重要であることが示されてきた。エピジェネティック制御とは、DNA配列の変化を伴わずに起こる遺伝子発現の制御であり、DNAのメチル化やDNA結合蛋白質であるヒストンの翻訳後修飾などにより引き起こされる。ヒストン修飾は、細胞分化過程やシグナル応答などの発現遺伝子がダイナミックに変化する際に可逆的に変化するため、特に重要な役割を果たすと考えられている。H4K20me1は、DNA損傷修復や遺伝子発現制御、またX染色体の不活性化などに関与することが報告されているが、生きた細胞でどのようにこの修飾が変化するのかを調べる方法は開発されていなかった。

研究の経緯

蛋白質の翻訳後修飾の検出法として、細胞を固定した後に修飾特異的抗体を反応させる方法が最もよく用いられている。しかし翻訳後修飾の役割をより詳細に理解するためには、生きた細胞でダイナミックに変化する修飾を個々の細胞単位で調べる必要がある。木村教授らのグループはこれまで、修飾特異的抗体由来の生細胞プローブを開発し、生きた細胞の中で起こるヒストン蛋白質の翻訳後修飾を、蛍光顕微鏡を用いて観察するシステムを樹立してきた。特に抗体の可変領域を蛍光蛋白質融合型scFvとして細胞内に発現させたプローブmintbodyは、遺伝子改変動物の個体レベルの解析などに応用可能である。

今後の展開

H4K20me1は、DNA損傷修復や遺伝子発現制御、またX染色体の不活性化などに関与することが報告されているが、詳細な作用機序や意義は未だ明らかにされていない部分が多い。本研究により得られたH4K20me1-mintbodyにより、生細胞での解析が可能となり、この修飾の新たな側面が見いだされることが期待できる。また、抗体は本来細胞外で作られる蛋白質であるため、細胞内では環境の違いにより適切な構造を形成・維持できない場合が多い。今回、H4K20me1-mintbodyの細胞内での機能の成否に関わるアミノ酸残基を同定し、立体構造に与える影響を明らかにした。この成果は、一般的な細胞内抗体プローブの開発において今後広く役立つことが期待される。

用語説明

[用語1] 翻訳後修飾 : 蛋白質は細胞内で生合成された後、アセチル化、メチル化、リン酸化など様々な化学修飾を受ける。細胞内のほとんどの蛋白質は、これらの修飾により機能や活性が調節されている。

[用語2] 不活性X染色体 : ヒトやマウス、線虫の性染色体構成は、雄はXY型、雌はXX型である。X染色体上には生存に必須な遺伝子が存在するが、雌雄間での発現量を補正するために、片方のX染色体は染色体全体で遺伝子発現の不活性化が起こる(線虫の場合は両方のX染色体遺伝子の発現量が半減して補正する)。

論文情報

掲載誌 :
Journal of Molecular Biology
論文タイトル :
A genetically encoded probe for live-cell imaging of H4K20 monomethylation
著者 :
Yuko Sato, Tomoya Kujirai, Ritsuko Arai, Haruhiko Asakawa, Chizuru Ohtsuki, Naoki Horikoshi, Kazuo Yamagata, Jun Ueda, Takahiro Nagase, Tokuko Haraguchi, Yasushi Hiraoka, Akatsuki Kimura, Hitoshi Kurumizaka, Hiroshi Kimura
DOI :

問い合わせ先

科学技術創成研究院 細胞制御工学研究ユニット
教授 木村宏

Email : hkimura@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5742

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


混ぜるだけで簡単に有機エレクトロニクス材料を合成―新反応により多様なπ共役化合物合成を簡便・低コストで実現―

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要点

  • ホウ素があたかも遷移金属のように振る舞う新反応を発見
  • 有機エレクトロニクス材料開発への応用が期待
  • 本手法で用いるホウ素化合物を販売予定

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の庄子良晃助教・福島孝典教授らの研究グループは、典型元素である“ホウ素”があたかも遷移金属のように振る舞う新反応を発見しました。これにより、アセチレン[用語1]誘導体をひとつの反応容器で行う反応(ワンポット反応)で芳香環化[用語2]できることから、様々なπ共役化合物[用語3]を極めて容易に合成できます。今後、有機エレクトロニクス[用語4]材料開発への応用が期待されます。

π共役化合物は、近年盛んに応用開発が行われている有機エレクトロニクスの基盤となる化合物群です。研究グループでは、ホウ素を組み込んだπ共役化合物の合成研究の過程で、ホウ素化合物がアセチレン誘導体に対して連続的に炭素-炭素結合形成反応を引き起こし、最終的にホウ素が脱離することで、純粋な炭化水素骨格からなるπ共役化合物が得られることを見出しました。このような反応パターンは、遷移金属が触媒する結合形成反応ではよく知られていますが、典型元素であるホウ素では初めての例となります。本成果は、幅広いπ共役化合物の新合成手法としてばかりでなく、基礎化学的にも、典型元素の化学のより深い理解へつながると考えられます。

本成果は、2016年9月1日に英国科学雑誌「Nature Communications」(オンライン)に掲載されました。また、本手法で用いるホウ素化合物が、有機合成用試薬として東京化成工業株式会社より販売される予定です。

研究の背景

π共役化合物は、近年注目を集めている有機エレクトロニクスの分野で基盤となる物質です。π共役系がどのようにつながっているか、あるいはどのような立体構造を持つかで、π共役化合物の性質は大きく変わります。そのため、目的の構造をもったπ共役化合物を効率的に合成する手法が求められていました。従来、巨大なπ共役系を有する化合物を合成しようとすると、多段階で手間のかかる合成作業が必要でした。π共役化合物の簡便な合成を可能にする強力な手法として、ノーベル賞で話題になったクロスカップリング[用語5]が挙げられますが、多段階反応かつ高価で希少な遷移金属触媒の利用や、特殊な合成技術が必要などといった課題がありました。

研究内容と成果

東工大の庄子助教・福島教授らの研究グループは、ホウ素を組み込んだπ共役化合物の合成研究の過程で、ホウ素化合物がアセチレン誘導体に対して連続的に炭素-炭素結合形成反応を無触媒で引き起こすことを見出しました(図1)。最終的にはホウ素が脱離することで、純粋な炭化水素骨格からなるπ共役化合物が得られます。この反応は (1)ボラフルオレンというホウ素化合物による、アセチレンの1,2-カルボホウ素化[用語6]反応と、(2)その生成物(ボレピン)の一電子酸化による脱ホウ素化/C-C結合形成反応の2段階からなります(図1)。この2段階目の反応は、これまで知られていなかった新しい反応です。形式的に高エネルギーなホウ素のカチオン種([B-Cl]・+)の脱離を伴うため、これまでの常識を外れた反応と言えます。

ホウ素化合物による連続的炭素-炭素結合形成反応の概略

図1. ホウ素化合物による連続的炭素-炭素結合形成反応の概略

この反応は官能基許容性および基質適用性に優れています。反応を行うのに必要な操作は、「ボラフルオレンとアセチレン誘導体を混ぜ、温めながら撹拌した後で、反応系に安価な酸化剤(塩化鉄(III)など)を加えるだけ」というごく簡便なものです。様々なアセチレン誘導体をワンポット反応で簡便に芳香環化することが可能です。そのため、この反応により、巨大なπ共役系や、複雑な湾曲構造、三次元的な分子骨格をもつものなど、特徴的なπ共役化合物を簡便かつ高価な触媒を使わないで低コストに得ることができます(図2)。

本反応により得られるπ共役化合物の例

図2. 本反応により得られるπ共役化合物の例

今回新たに発見したホウ素化合物の反応(図3A)は、遷移金属錯体に典型的に見られる連続的な結合形成反応(図3B)と反応パターンが類似しています。典型元素であるホウ素が、反応においてあたかも遷移金属のように振る舞うという今回の発見は、ホウ素を始めとする典型元素の化学をより深く理解するための重要な知見であると考えられます。

今回見出されたホウ素の反応(A)と遷移金属錯体に典型的に見られる反応(B)の類似性

図3. 今回見出されたホウ素の反応(A)と遷移金属錯体に典型的に見られる反応(B)の類似性

今後の展開

今回の新合成手法によって、様々なπ共役化合物を、極めて簡便かつ安価に合成する道が拓けました。このようなπ共役化合物は、有機半導体材料、発光材料、動的な性質やキラル[用語7]な構造に基づく新機能材料など、次世代技術である有機エレクトロニクスを支える物質としての活用が期待されます。現在、研究グループでは、この手法を利用した機能性π共役化合物の開発に取り組んでいます。また、典型元素化学のより深い理解へ向け、この反応のメカニズムの詳細な解析に力を入れています。

有機合成上の有用性が高く「混ぜるだけ」で実施できる本手法を、より多くの研究者が利用できるよう、東京化成工業株式会社から、この手法で利用するボラフルオレンを、有機合成用試薬(製品コードC3421)として販売予定です。また、新合成手法のプロトコルを記載したパンフレットも配布予定です。

本成果は、以下の研究支援により得られました。

  • 研究課題:
    科研費 新学術領域研究(研究領域提案型)
    「大規模分子集積化による巨視的π造形システム」
  • 研究代表者:
    福島 孝典(東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所 教授)
  • 研究期間:
    平成26~30年度
  • 研究課題:
    科研費 挑戦的萌芽研究
    「空軌道エンジニアリングによる電子輸送システムの構築」
  • 研究代表者:
    庄子 良晃(東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所 助教)
  • 研究期間:
    平成26~27年度

用語説明

[用語1] アセチレン : 炭素-炭素三重結合をもつ化合物を総称してアセチレンと呼ぶ。狭義には、最小の炭素-炭素三重結合化合物 C2H2(HC≡CH)を指す。

[用語2] 芳香環化(用語3も参照のこと) : 芳香環を形成する反応。芳香環とは、ベンゼンに代表される、芳香族性をもった環状構造のことを指し、共平面性をもって環状共役した(4n + 2)個のπ電子(nは整数)から構成される。この環状共役によって、芳香族化合物は特別な安定化を受けている。芳香環をもつ化合物は、様々な機能材料のコンポーネントとして重要である。また芳香環は、DNAやタンパク質にも含まれており、それらの立体構造の制御や機能発現に大きく寄与している。

[用語3] π(パイ)共役化合物 : π共役系から構成される化合物。π共役系は、交互につながった単結合と多重結合からなり、非局在化した電子(π電子)を有する。π電子は、光吸収・発光特性、電導性、磁性など、π共役化合物が発現する様々な物性を司っている。

[用語4] 有機エレクトロニクス : 有機材料を基盤としたエレクトロニクス。有機トランジスタや有機EL(エレクトロルミネッセンス)など。現在、有機材料に特有な柔軟性、軽量性やプロセス容易性を活かした素子開発が盛んに行われている。

[用語5] クロスカップリング : 二つの有機化合物同士を結合させる反応。パラジウム触媒を用いたクロスカップリング反応は、2010年のノーベル化学賞の対象となった。

[用語6] カルボホウ素化 : 多重結合に、ホウ素と有機基を単工程で導入する反応。多重結合を構成する炭素原子のうち、一方にホウ素、もう一方に有機基が導入される反応を1,2-カルボホウ素化反応と呼ぶ。それに対して、同一の炭素原子上にホウ素と有機基が導入される反応を1,1-カルボホウ素化反応と呼ぶ。

[用語7] キラル : 鏡像同士を重ね合わせることができない性質。右手と左手の関係。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
"Boron-mediated sequential alkyne insertion and C-C coupling reactions affording extended π-conjugated molecules"
著者 :
Y. Shoji, N. Tanaka, S. Muranaka, N. Shigeno, H. Sugiyama, K. Takenouchi, F. Hajjaj and T. Fukushima*
DOI :

特許情報

本学産学連携推進本部を通じて、本成果を基にした特許出願を行っています(特願2016-037295)。

問い合わせ先

試薬販売・パンフレットに関すること

東京化成工業株式会社
本社営業部

Email : Sales-JP@TCIchemicals.com
Tel : 03-3368-0489 / Fax : 03-3368-0520

大阪営業部

Email : osaka-s@TCIchemicals.com
Tel : 06-6228-1155 / Fax : 06-6228-1158

取材に関すること

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

オンデマンド光機能酸化物ヘテロ構造の合成に成功―紫外線吸収・透明太陽電池に向けた新素材―

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発表者

  • 松田巌(東京大学物性研究所 附属極限コヒーレント光科学研究センター 准教授)
  • 組頭広志(高エネルギー加速器研究機構(KEK) 物質構造科学研究所 教授)
  • 小澤健一(東京工業大学 理学院 化学系 助教)

発表のポイント

  • 代表的な金属酸化物であるチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)基板上に数原子層のルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3)を積層させたヘテロ接合界面において、SrRuO3の膜厚によって光学応答を任意に制御できることを発見した。
  • 本研究成果を元に、光機能に合わせたヘテロ構造をオンデマンドで作製できる。
  • SrTiO3は可視光は透過するが紫外線を吸収する半導体材料であり、SrRuO3層も原子レベルに薄いので高い可視光透過性を持つ。そのため紫外線から守りかつ透明な太陽電池の新素材としての可能性があり、今後の応用が期待される。

発表概要

東京大学 物性研究所の松田巌准教授らの研究グループは、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の組頭広志教授と東京工業大学の小澤健一助教と共同で、2種類の異なる酸化物を接合させたヘテロ界面において、光学応答の主要な現象の一つである光起電力を人工的に制御できることを発見しました。レーザーを使った原子レベルでの精密結晶成長技術を駆使し、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)結晶基板上に数原子層厚さのルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3)超薄膜を成長させて、ヘテロ構造を作製しました。紫外光レーザー照射により光起電力を発生させ、レーザーと同期したシンクロトロン放射光でヘテロ構造の電子状態変化を追跡する時間分解光電子分光法[用語1]により、その緩和過程をリアルタイムで捉えることに成功しました。SrRuO3薄膜の膜厚を変えることでヘテロ界面の電子構造が劇的に変化し、それに合わせて光学応答が200倍も向上し、さらに光起電力の大きさと緩和寿命が敏感に変わりました。得られた結果を元に数値シミュレーションを実施したところ、この光学応答の変化に必要な光キャリアの量やダイナミクスを明らかにすることができました。

本研究により酸化物ヘテロ構造における光起電力の発生とその制御の仕組みを定量的に説明することが可能になりました。本成果を元に光機能に合わせたヘテロ構造をオンデマンドで作製できることでしょう。

本研究成果はドイツの学術誌「Advanced Materials Interfaces」に2016年9月5日(現地時間)に掲載予定です。

発表内容

背景

携帯電話やパソコンだけでなく、車や家電製品などにも昨今高性能な電子機器が組み込まれ、その性能向上への要求はとどまることがありません。一方で、近年はエネルギー不足や環境問題も顕在化しており、太陽光などのクリーンエネルギーの活用も必須課題になっています。そのため、新しい動作原理に基づくデバイスや新機能材料の開発に高い期待が寄せられるようになっています。その中で金属酸化物は次世代の材料として注目を集め、特に微細化の究極の形である表面・界面層での電子・光学的動作に高い関心が持たれています。チタン酸ストロンチウムSrTiO3は代表的な金属酸化物であり、最近その表面は特異な電子特性を示すことが分かってきました。しかしながらSrTiO3表面の光学応答に関する報告はほとんどありませんでした。

研究成果

本研究グループでは、SrTiO3結晶と格子定数の近いルテニウム酸ストロンチウムSrRuO3をSrTiO3基板上に数原子層成長させて、SrRuO3/SrTiO3のヘテロ構造を作製しました。本成膜ではレーザーを用いた結晶成長法で実施しました。そしてSPring-8の高輝度軟X線ビームラインで光電子分光測定を行ったところ、SrRuO3原子層の膜厚に依存してSrRuO3膜の電子状態が半導体から金属に変化し(図1)、それに伴いSrTiO3基板はキャリア電子密度が高い状態から低い状態に変わることが分かりました。さらに光電子分光の時間分解測定を実施したところ、ヘテロ構造にすることで200倍もの高い光学応答性を示すようになり、さらにヘテロ構造の電子構造変化に対応して光起電力とその緩和時間も変わることが分かりました(図2)。そして得られた結果を元に、数値シミュレーションを実施したところ、この光学応答の変化に必要な光キャリアの量やダイナミクスを明らかにすることができました。

SrRuO3/SrTiO3(SRO/STO)ヘテロ構造の光電子分光の結果:(a)価電子帯、(b)Sr 3d 内殻準位、(c)Ti 2p 内殻準位の光電子スペクトル。光電子分光法では、SrRuO3とSrTiO3のそれぞれの光電子信号を測定することができるが、より深さdに対してその信号は小さくなる。(d)はその信号の減衰の様子をヘテロ構造と示してある。λは光電子信号の減衰長に対応する。
図1.
SrRuO3/SrTiO3(SRO/STO)ヘテロ構造の光電子分光の結果:(a)価電子帯、(b)Sr 3d 内殻準位、(c)Ti 2p 内殻準位の光電子スペクトル。光電子分光法では、SrRuO3とSrTiO3のそれぞれの光電子信号を測定することができるが、より深さdに対してその信号は小さくなる。(d)はその信号の減衰の様子をヘテロ構造と示してある。λは光電子信号の減衰長に対応する。
SrRuO3/SrTiO3(SRO/STO)ヘテロ構造の時間分解光電子分光の結果:(a)STO基板、(b)SRO(2層)/STO、(c)SRO(4層)/STO。SRO膜の存在によってt=0で照射した紫外線パルス光に対して光起電力(SPV shift)が発生し、時間とともに緩和していく様子が分かる。
図2.
SrRuO3/SrTiO3(SRO/STO)ヘテロ構造の時間分解光電子分光の結果:(a)STO基板、(b)SRO(2層)/STO、(c)SRO(4層)/STO。SRO膜の存在によってt=0で照射した紫外線パルス光に対して光起電力(SPV shift)が発生し、時間とともに緩和していく様子が分かる。

今後の展開

本研究によりSrRuO3/SrTiO3のヘテロ構造において、光起電力が発生することが分かり、さらにそのダイナミクスも明らかにすることができました。本成果を元に、光機能に合わせたヘテロ構造をオンデマンドで作製できることでしょう。また、SrTiO3は紫外線を吸収する半導体材料でSrRuO3層も原子レベルに十分に薄いため、このヘテロ構造は人の目には見えません。そのため紫外線から守りかつ電力を作る窓などの新しい機能性デバイスにも本成果が活かされると期待されます。

用語説明

[用語1] 光電子分光法 : 金属や半導体などの固体に紫外光以上のエネルギーを持つ光を照射すると、電子が放出される。この電子を光電子と言い、光電子のエネルギーを分析することで固体表面の電子構造を知る実験法を光電子分光法という。特に原子核周りの電子(内殻電子)を分析すると、元素選択的に情報をとることができる。

論文情報

掲載誌 :
Advanced Materials Interfaces
論文タイトル :
Tailoring photovoltage response at the SrRuO3/ SrTiO3 heterostructures
著者 :
R. Yukawa, S. Yamamoto, K. Akikubo, K. Takeuchi, K. Ozawa, H. Kumigashira, and I. Matsuda
DOI :

理学院

理学院 ―真理を探究し知を想像する―
2016年4月に新たに発足した理学院について紹介します。

理学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

問い合わせ先

東京工業大学 理学院 化学系
助教 小澤健一

Email : ozawa.k.ab@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3532 / Fax : 03-5734-2655

東京大学 物性研究所
准教授 松田巌

Email : imatsuda@issp.u-tokyo.ac.jp
Tel : 04-7136-3402(柏キャンパス)
0791-58-0802(播磨分室)
Fax : 04-7136-3283(柏キャンパス)
0791-58-1886(播磨分室)

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

英国科学誌『ネイチャー』の特集記事に東工大が登場

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英国科学誌『ネイチャー(Nature)』の9月1日号(Volume 537, Number 7618)の「日本の理工系大学特集(Spotlight on Technology Universities in Japan)」に東京工業大学が紹介されました。

この特集は、日本の理工学分野の研究をリードし、その技術と研究に強みを持つ大学について分析、紹介する記事と、東工大を含む5つの大学の詳細ページで構成されています。

東工大は本記事において「日本の理工系大学のトップ(one of Japan's premier technology research institute)」と紹介されています。詳細ページでは「東工大の研究 - イノベーションの追及でボーダーを越える(Tokyo Tech Research-Crossing borders in the pursuit of innovation)」というタイトルで、4月にスタートした「教育改革」「研究改革」、および科学技術創成研究院(IIR)の研究ユニットを中心とした世界トップレベルの研究体制についての三島学長のメッセージが掲載されています。

本記事は、ネイチャーオンライン版outerにも掲載していますので、ぜひご覧ください。

ネイチャーオンライン版

ネイチャー・リサーチの承諾を得て掲載しております。

お問い合わせ先

研究戦略推進センター

E-mail : ru.staff@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3794

ケンタウルス族小天体のリングの起源を解明

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神戸大学 大学院理学研究科 惑星学専攻の大学院生・兵頭龍樹さん、大槻圭史教授、東京工業大学 地球生命研究所の玄田英典特任准教授、パリ地球物理研究所/パリ・ディドゥロ大学のシャノーズ教授の研究グループは、ケンタウルス族と呼ばれる小天体がもつリングの起源を明らかにしました。本研究の結果は他にもリングをもつケンタウルス族天体が存在することを示唆しており、今後のさらなる観測による発見が期待されます。この研究成果は、8月29日に、Astrophysical Journal Lettersにオンライン掲載されました。また、アメリカ天文学会発行学術雑誌のResearch Highlightsのページで紹介されました。

ポイント

  • 太陽系の天体のうち、従来リングが確認されていたのは土星や木星など4つの巨大惑星だけであった。それに対し、木星と海王星の間の軌道をもつケンタウルス族天体[用語1]と呼ばれる小天体の一つであるカリクロ(Chariklo)[用語2]がリングをもつことが2014年に初めて明らかにされた。また別のケンタウルス族天体であるキロン(Chiron)[用語3]にもリングがあるらしいことが複数の観測データよりわかった。しかし、これら小天体のリングの成因は不明であった。
  • 本研究では、ケンタウルス族天体が巨大惑星の近くを通過する際に惑星からの潮汐力により破壊する過程を、コンピュータ・シミュレーションを用いて調べた。その結果、部分的に破壊されたケンタウルス族天体の破片の一部が、ケンタウルス族天体の周りにリングを形成しうることが明らかになった。
  • 本研究の結果は、これまでリングが確認されている2天体以外にも、リングをもつケンタウルス族天体が存在することを強く示唆している。また本研究の結果によると、同様の過程によりリングだけでなく衛星も形成されうる。従って今後の観測により、リングや衛星をもつケンタウルス族天体がさらに発見されることが期待される。

研究の背景

ケンタウルス族天体は木星と海王星の間の軌道をもつ小天体である。直径が1キロメートル以上のケンタウルス族天体はこれまでに約44,000個あると見積もられており、これらは巨大惑星と軌道交差を繰り返している。

従来、太陽系内でリングをもつ天体は、土星や木星など4つの巨大惑星だけだと考えられていた。しかし、2014年に、ケンタウルス族天体の一つであるカリクロ(Chariklo)の周りにリングのあることが、地上の複数の望遠鏡を用いた掩蔽観測(恒星からの光が観測者との間にある天体により隠される現象を観測するもの)により明らかになった(図1)。その後、別のケンタウルス族天体であるキロン(Chiron)にもリングがあるらしいことが明らかになった。しかし、これら小天体のリングの起源は謎のままであった。

カリクロとリングの想像図
カリクロの表面付近から見たリングの想像図
図1.
(左)カリクロとリングの想像図。欧州南天天文台提供 outer
Credit: ESO/L. Calçada/M. Kornmesser/Nick Risinger (skysurvey.org).
(右)カリクロの表面付近から見たリングの想像図。欧州南天天文台提供 outer
Credit: ESO/L. Calçada/Nick Risinger (skysurvey.org).

研究の内容

初期条件を変えた場合の計算結果例。各パネルにおいて、部分破壊を受けた後のケンタウルス族天体が中心にあり、その周りに破片が円盤状に分布している。この円盤からリングが形成されると考えられる(Hyodo et al. 2016, Astrophysical Journal Letters 828, L8 より)。図2. 初期条件を変えた場合の計算結果例。各パネルにおいて、部分破壊を受けた後のケンタウルス族天体が中心にあり、その周りに破片が円盤状に分布している。この円盤からリングが形成されると考えられる(Hyodo et al. 2016, Astrophysical Journal Letters 828, L8 より)。

本研究では、まず、ケンタウルス族天体が巨大惑星からの潮汐力により破壊されるくらい、惑星から十分近いところを通過する確率を見積もった。その結果、約10%程度のケンタウルス族天体が、そのような近接遭遇を経験することがわかった。次に、ケンタウルス族天体が巨大惑星の近傍を通過する際に惑星からの潮汐力を受けて破壊する過程を、コンピュータ・シミュレーションを用いて調べた。シミュレーションの結果は、ケンタウルス族天体の初期の自転の状態、核の大きさ、惑星への再接近距離などによって様々であることがわかった(図2)。しかし、ケンタウルス族天体が、内側に岩石の核をもち外側を氷のマントルが覆う、というような層構造をもっている際には、多くの場合で部分的に破壊されたケンタウルス族天体の周りに破片の一部が円盤状に分布し、そこからリングが形成されうることが明らかになった。

今後の展開

本研究より、層構造をもつケンタウルス族天体が巨大惑星の十分近くを通過すると、多くの場合で惑星からの潮汐力により部分破壊を受けて破片が周囲にばら撒かれ、リングや衛星を形成しうることを明らかにした。この結果は、これまでリングが確認されている2天体以外にも、リングをもつケンタウルス族天体が存在することを強く示唆している。従って今後の観測により、リングをもつケンタウルス族天体がさらに発見されると期待されるほか、衛星をもつケンタウルス族天体が発見される可能性もあると考えられる。

用語説明

[用語1] ケンタウルス族天体 : 木星と海王星の間の軌道をもつ小天体。巨大惑星との軌道交差を繰り返しており、巨大惑星のごく近傍を通過する軌道をもつものもある。

[用語2] カリクロ(Chariklo) : ケンタウルス族天体の一つ。直径約250キロメートル。地上からの掩蔽観測によりリングをもつことが明らかになり、2014年に報告された。

[用語3] キロン(Chiron) : ケンタウルス族天体の一つ。直径約220キロメートル。複数の観測データより、カリクロと同様、リングをもつと考えられている。

論文情報

掲載誌 :
Astrophysical Journal Letters
論文タイトル :
Formation of Centaurs' Rings through Their Partial Tidal Disruption during Planetary Encounters
著者 :
Ryuki Hyodo, Sébastien Charnoz, Hidenori Genda, Keiji Ohtsuki
DOI :

お問い合わせ先

神戸大学 大学院理学研究科 惑星学専攻
博士後期課程3年 兵頭龍樹

Email : ryukih@stu.kobe-u.ac.jp
Tel : +33-183-95-7498 (France)

東京工業大学 地球生命研究所
特任准教授 玄田英典

Email : genda@elsi.jp
Tel : 03-5734-2887

神戸大学 大学院理学研究科 惑星学専攻
教授 大槻圭史

Email : ohtsuki@tiger.kobe-u.ac.jp
Tel : 078-803-6476

研究に関する英語でのお問い合わせ

Institut de Physique du Globe de Paris
(パリ地球物理研究所)
Professor Sébastien Charnoz

Email : charnoz@ipgp.fr

取材申し込み先

神戸大学 総務部 広報課

Email : ppr-kouhoushitsu@office.kobe-u.ac.jp
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東京工業大学 広報センター

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酸化ハフニウム基強誘電体の基礎特性を解明―超高密度で高速動作する不揮発性メモリー実現に道―

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概要

東京工業大学 元素戦略研究センター(センター長 細野秀雄教授)の清水荘雄特任助教と物質理工学院兼同センターの舟窪浩教授、東北大学 金属材料研究所の今野豊彦教授と木口賢紀准教授、物質・材料研究機構 技術開発・共用部門 坂田修身ステーション長らの研究グループは、スマホやパソコンのトランジスタ(スイッチ)に使われている酸化ハフニウムを基本組成とした、強誘電体の電源を切った時に貯められる電気の量や、使用可能な温度範囲といった基礎特性を解明した。

結晶方位を制御した単結晶薄膜を電極上に作製することにより、これまで明らかになっていなかった特性の解明に成功した。その結果、酸化ハフニウム基の強誘電体が従来使用されてきた強誘電体に匹敵する特性を有することが明らかになった。強誘電体を用いたメモリーは、交通機関の定期券等に使用されている非接触式ICカード(電子マネー)として実用化されている。今回の成果によって明らかになった優れた特性と、これまでの物質では不可能であった薄膜化しても特性が劣化しない特性を活用すれば、メモリーの飛躍的な高密度化が期待できる。

今回の研究成果はネイチャー誌の姉妹誌である学術誌「サイエンティフィックレポート(Scientific Reports)」オンライン版に9月9日付で掲載された。

研究の背景

強誘電体は電源を切っても電圧をかけた方向によって2つの安定した状態が実現するため、電力を消費せずにデータが保存できるメモリーとして鉄道のICカードなどで広く使われている。しかし、その用途は特殊なものに限定されており、USBメモリーのような汎用性の高いメモリーとしては使われていなかった。用途が限定されている最大の理由は、これまでの強誘電体は薄くしていくと、特性が低下する“サイズ効果”があり、メモリーの高密度化が実現できないためである。5年前に、極微細なトランジスタ(スイッチ)の絶縁体として広く使われている酸化ハフニウム基の物質で、これまで不可能と考えられていた薄くても強誘電性が発現できることが報告され、大きな注目を集めた。しかし、これまで作製されてきた薄膜はさまざまな方位を向いた粒の集合体(多結晶)であり、不純物相も一緒に存在するため、酸化ハフニウム基強誘電体の基本的な性質はほとんど明らかになっておらず、実用化のための最大の問題であった。

研究手法・成果

東工大の清水特任助教らのグループは、強誘電体膜の組成を状態図から再度検討して最適化した酸化イットリウム(Y2O3)を置換した酸化ハフニウム(HfO2)を選択するとともに、薄膜を成長させる基材の結晶構造およびその格子の長さを工夫することで、15ナノメートル(nm、100万分の15ミリ)まで薄くても特性が劣化しない強誘電体単結晶膜の作製に成功した。さらに結晶構造が類似しているインジウム・スズの酸化物(ITO)の薄膜を電極として用い、酸化イットリウム結晶の方向を制御した単結晶膜を、電極上に作製することに成功した。

電極上に作製した、単結晶膜を用いることで、強誘電体相が400 ℃以上の高温まで安定に存在することを明らかにした(図1)。この結果から、広い温度範囲での使用が可能であることが分かった。

結晶構造の温度変化

図1. 結晶構造の温度変化

強誘電相は、400 ℃以上の温度まで安定に存在することがわかる

さらに薄膜の強誘電特性の取得に世界で初めて成功した(図2)。得られた結果と結晶方位の関係から、電圧を切った時に貯められる電気の量や使用可能な温度を明らかにした(図3)。その結果、従来から使用されている物質チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)やタンタル酸ストロンチウムビスマス(SrBi2Ta2O9)と比較して遜色ない特性を有することが明らかになった。

単結晶酸化ハフニウム基強誘電体薄膜で世界で初めて観察された強誘電性

図2. 単結晶酸化ハフニウム基強誘電体薄膜で世界で初めて観察された強誘電性

電圧を切った時に2つの状態が存在する強誘電性が確認できる。

単結晶酸化ハフニウム基強誘電体薄膜で世界で初めて観察された強誘電性

図3. 使用可能温度(Tc)と電圧を切った時に貯められる電気の関係

従来から使用されているPb(Zr,Ti)O3やSrBi2Ta2O9と比較して遜色ない特性を有することが世界で初めて明らかになった。

期待される波及効果

今回の研究成果は、以下のような波及効果が期待される。

a)“夢のメモリー”強誘電体メモリーの高容量化の実現

強誘電体メモリーはUSBメモリーのように電源を切ってもデータが保存でき、USBメモリーより高速で動作できることから“夢のメモリー”としてICカードなどで実用化されている。しかし多くの情報を入力して管理することを可能にする大容量のメモリーは現在までできていない。今回の研究成果で、酸化ハフニウム基強誘電体を用いて、電源を切ってもデータが保持でき、高速動作できる“夢のメモリー”の高密度化の実現が期待できる。

b)新規デバイスの実現

強誘電体はこれまで薄くすると特性が劣化する“サイズ効果”によって、薄膜を用いたデバイスが非常に困難であった。しかし極薄膜で結晶方位の揃った強誘電体単結晶膜が得られたことで、以下のデバイスの実現が期待できる。

  1. 1.超高密度新規メモリー
    抵抗変化型メモリー(Resistive Random Access Memory、ReRAM)[用語1]は、消費電力が少なく、大容量化が期待できるとして、さまざまな物質が検討されてきたが、安定した動作と信頼性の確保が難しいことから、本格的な普及には至っていない。
    強誘電体は電源を切った時に2つの状態が実現し、抵抗値も異なる。強誘電体を用いた抵抗変化型メモリーの基本アイデアはノーベル賞を受賞した江崎博士によって50年以上前に提案されていた。しかし強誘電体を用いた抵抗変化型メモリーを実現するには、非常に薄い強誘電体層が必要なため、ほとんど検討されてこなかった。
    今回の成果により、強誘電体抵抗変化メモリーの実用化研究が始まる。
  2. 2.高性能で電池の寿命が飛躍的に延びたスマートフォン
    現在のスマートフォンやノートパソコンなどは、性能を重視すると、電池の消費量が大きくなるため、電池をもたせて数時間使えるように性能を落として使用している。そのため低消費電力でも高速で動作する新しい演算素子が必要とされている。
    極薄膜でも安定した強誘電性が得られると、高性能で使用しても消費電力が低く、電池の持ちの良い新タイプのトランジスタを作製することが可能となる。これによって、高性能で電池の寿命が飛躍的に延びたスマートフォンやノートパソコンが実現できる。

用語説明

[用語1] ReRAM(抵抗変化型メモリー、Resistance Random Access Memory) : 電圧の印加による電気抵抗の変化を利用した半導体メモリー。低消費電力、高密度化が可能で、読み出し速度が速いのが特徴。現在、多くの方式、多くの物質が検討されており、実用化も始まっている。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
The demonstration of significant ferroelectricity in epitaxial Y-doped HfO2 film
日本語訳:Y添加HfO2エピタキシャル薄膜の強誘電性の実証
著者 :
Takao Shimizu, Kiliha Katayama, Takanori Kiguchi, Akihiro Akama, Toyohiko J Konno, Osami Sakata, and Hiroshi Funakubo
DOI :

特記事項

今回の研究は、文部科学省元素戦略プロジェクト<研究拠点形成型>電子材料領域「東工大元素戦略拠点」、日本学術振興会の科学研究費、文部科学省の科学研究費、文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業(東北大学 微細構造解析プラットフォーム)の一環として行われた。また構造解析は物質・材料研究機構のSPring8のビームラインで行われた。

物質理工学院

物質理工学院 ―理学系と工学系、2つの分野を包括―
2016年4月に新たに発足した物質理工学院について紹介します。

物質理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

研究に関すること: 全般

東京工業大学 元素戦略研究センター
特任助教 清水荘雄

Email : shimizu.t.aa@m.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5446

東京工業大学 物質理工学院/元素戦略研究センター
教授 舟窪浩

Email : funakubo.h.aa@m.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5446

測定に関すること

物質・材料研究機構 技術開発・共用部門
高輝度放射光ステーション
ステーション長 坂田修身

Email : SAKATA.Osami@nims.go.jp
Tel / Fax : 0791-58-1970

東北大学 金属材料研究所
教授 今野豊彦

Email : tjkonno@imr.tohoku.ac.jp
Tel : 022-215-2125 / Fax : 022-215-2126

東北大学 金属材料研究所
准教授 木口賢紀

Email : tkiguchi@imr.tohoku.ac.jp
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東京工業大学 広報センター

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Tel : 029-859-2026 / Fax : 029-859-2017

東北大学金属材料研究所 情報企画室広報班

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乳がんを抑制する新たな遺伝子を発見―ヒト乳がんの診断・治療への応用に期待―

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要点

  • X染色体上のNrk遺伝子を欠損した雌マウスが妊娠・出産を経験後に乳がんを発症
  • Nrkタンパク質が妊娠期の乳腺上皮細胞の増殖を止め、がん化を抑制
  • ヒト乳がんの発症機構の解明・診断・治療への応用に期待

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究ユニットの駒田雅之教授らは、マウスを用いた実験で乳がんの発症を抑制する新たな遺伝子を発見した。

妊娠期には、エストロゲン[用語1]などの女性ホルモンのはたらきにより乳腺上皮細胞[用語2]が増殖し、乳腺が発達して授乳に備える。その後、乳腺上皮細胞は増殖を停止するが、この増殖停止機構が破綻すると、細胞の増殖が止まらず、乳がん発症につながると考えられる。その制御機構はこれまでよくわかっていなかったが、駒田教授らは、性染色体であるX染色体[用語3]にコードされるタンパク質リン酸化酵素[用語4]であるNrkを欠損したマウスを作製し、このマウスが妊娠・出産を経験後に高頻度(90%の確率)で乳がんを発症することを突き止めた。本研究により、Nrkが妊娠後期の乳腺で発現し、乳腺上皮細胞の増殖を止めることで乳がんの発症を防ぐ役割を果たしていることが明らかになった。

マウスNrk遺伝子の相同遺伝子はヒトにも存在することから、今回の研究成果は、ヒト乳がんの発症機構の解明・診断・治療に結びつくと期待される重要な生命科学・医学上の知見と言える。9月12日発行のアメリカ研究病理学会の学会誌「The American Journal of Pathology」電子版に掲載された。

背景

近年、生涯に乳がんを患う日本人女性は12人に1人と推定され、大腸がんや肺がんとともに世界的にも増加傾向にあることから、大きな社会問題となっている。乳がんの発症は女性ホルモンであるエストロゲンと密接に関係しており、エストロゲンのはたらきを抑える薬剤(タモキシフェンなど)が治療に用いられている。

妊娠期には、出産後の授乳に備えるため、エストロゲンなどの女性ホルモンのはたらきにより乳腺上皮細胞が増殖し、乳腺組織が発達する。しかし、ひとたび妊娠後期に乳腺が十分に発達した後は細胞増殖を停止する必要があり(図1、左)、この制御機構の破綻は乳腺上皮細胞の腫瘍形成・がん化につながると予想される(図1、右)。しかし、どのようなしくみで妊娠後期に乳腺上皮細胞の増殖が抑制されるのか、その分子機構は不明であった。

妊娠期における乳腺上皮細胞の増殖制御と乳がん

図1. 妊娠期における乳腺上皮細胞の増殖制御と乳がん

研究成果

Nrkタンパク質は、X染色体にコードされたタンパク質リン酸化酵素である。駒田教授らはそのはたらきを調べるため、人工的にNrk遺伝子を変異させNrkタンパク質が作れなくなったマウス(Nrk欠損マウス)を作製して解析を行った。その飼育の過程で、妊娠・出産を経験した雌のNrk欠損マウスの乳腺にしばしば腫瘤(こぶ)ができることを発見した。詳しく調べるため、Nrk欠損の雌マウスを雄マウスと交配させつつ15ヵ月間飼育したところ、非常に高い頻度(10匹中9匹)でNrk欠損マウスに乳腺腫瘍が形成された。この腫瘍は妊娠・出産の経験のないNrk欠損マウスでは観察されず、妊娠期における乳腺上皮細胞の増殖と関連していることが強く示唆された。

この乳腺腫瘍をマウスから摘出し、細胞核の形態や周囲組織への浸潤の有無を病理組織学的に調べた結果、この腫瘍は非浸潤性であり、悪性度が比較的低いがんであることがわかった(図2)。

また、エストロゲン受容体、細胞増殖マーカーであるKi67タンパク質、および増殖因子受容体HER2/ErbB2に対する各抗体で腫瘍の免疫組織染色を行い、それらを発現する細胞数を数えたところ、Nrk欠損マウスに発症する乳腺腫瘍はエストロゲン受容体やKi67が陽性で、HER2は陰性だった。これは、ヒト乳がんのサブタイプ[用語5]の分類におけるluminal-B型に近い(図3)。つまり、この腫瘍がluminal-B型のヒト乳がんの動物モデルとなりうる可能性が示唆された。

Nrk欠損の乳腺腫瘍の病理組織学的な解析

図2. Nrk欠損の乳腺腫瘍の病理組織学的な解析

免疫組織染色によるNrk欠損乳腺腫瘍のサブタイプ分類

図3. 免疫組織染色によるNrk欠損乳腺腫瘍のサブタイプ分類

作製したNrk欠損マウスで乳がんが発症する過程を調べるため、妊娠・出産を経験したもののまだ腫瘍形成に至っていないNrk欠損マウスの非妊娠期と妊娠後期の乳腺の病理組織学的解析を行った。非妊娠期においては、野生型とNrk欠損の乳腺の間で組織形態に違いは見られなかったが、妊娠後期において一部のNrk欠損乳腺にエストロゲン受容体を高発現した乳腺上皮細胞が過密に存在する腺房が観察された(図4)。正常な乳腺では妊娠後期にはエストロゲン受容体の発現レベルは低下することから、エストロゲン受容体の高発現を維持した乳腺上皮細胞の集団が“乳がんの芽”となっていることが示唆される。

腫瘍形成前のNrk欠損の乳腺上皮細胞におけるエストロゲン受容体の発現

図4. 腫瘍形成前のNrk欠損の乳腺上皮細胞におけるエストロゲン受容体の発現

これまで、マウスのNrk遺伝子の発現は胎仔と胎盤でしか検出されておらず、妊娠期の成体組織における発現は調べられていなかった。今回、非妊娠期および妊娠後期の乳腺組織から全RNAを抽出し、NrkのmRNA発現量を測定した結果、非妊娠期には全くNrk発現の見られない乳腺において、妊娠後期にその発現が上昇することがわかった。つまり、乳腺上皮細胞において発現誘導されたNrkがその乳腺上皮細胞の中ではたらいて細胞増殖を停止させていると考えられる。

さらに、妊娠後期の野生型マウスとNrk欠損マウスから採血し、質量分析法を利用して血中エストロゲン濃度を測定したところ、Nrk欠損マウスでは平均して2倍程度まで血中エストロゲン濃度が上昇していることが明らかとなり、Nrkがエストロゲンの合成・分泌の制御にも関与している可能性が示唆された。したがって、Nrk欠損マウスでは、本来ならば妊娠後期に発現誘導されるNrkによる乳腺上皮細胞の増殖停止プロセスの喪失に加え、そこに高濃度のエストロゲンが作用することで、乳腺腫瘍の引き金が引かれると考えられる。

今後の展開

マウスではNrkが妊娠期の乳腺組織におけるエストロゲン/エストロゲン受容体システムに依存した乳腺上皮細胞の増殖を抑制すること、その制御の破綻が乳がんをひき起こすことが解明された(図5)。マウスのNrk遺伝子と相同の遺伝子はヒトにも存在する。Nrk欠損マウスにおける乳腺腫瘍はヒト乳がんのサブタイプ分類におけるluminal-B型に近いものであったことから、本成果はNrkによるヒト乳がんの抑制機構へと結びつき、ひいてはヒト乳がんのより高度な理解、そして診断・治療法の確立につながることが期待される。

Nrk欠損による乳腺上皮細胞の増殖制御の破綻

図5. Nrk欠損による乳腺上皮細胞の増殖制御の破綻

用語説明

[用語1] エストロゲン : 女性ホルモンの1つ。様々な女性機能を調節するが、妊娠期にその血中濃度が上昇して妊娠を維持するとともに、乳腺上皮細胞の増殖を促進して乳腺組織を発達させる。

[用語2] 乳腺上皮細胞 : 乳腺組織は、乳汁を産生・分泌する腺房と、その乳汁を乳頭まで運ぶ乳管からなる。これら2つの組織を構成するのが乳腺上皮細胞である。

[用語3] X染色体 : 性機能に役割を果たす数多くの遺伝子を含む性染色体の1つ。哺乳動物の性染色体にはX染色体とY染色体があり、雄(男性)はX染色体とY染色体を1本ずつ、雌(女性)はX染色体を2本もつ。

[用語4] タンパク質リン酸化酵素 : タンパク質の特定のアミノ酸残基(セリンおよびスレオニン、あるいはチロシン)にリン酸基を付加する酵素。ヒトには約450種類が存在する。

[用語5] ヒト乳がんのサブタイプ : ヒト乳がんは、がん細胞における遺伝子発現パターンの違いからluminal-A、luminal-B (HER2-)、luminal-B (HER2+)、HER2 (non-luminal)-enriched、triple-negativeの5つのサブタイプに分類され、それぞれに特化した治療方針が推奨されている。

論文情報

掲載誌 :
The American Journal of Pathology
論文タイトル :
Deficiency of X-linked protein kinase Nrk during pregnancy triggers breast tumor in mice.
著者 :
Takayo Yanagawa, Kimitoshi Denda, Takuya Inatani, Toshiaki Fukushima, Toshiaki Tanaka, Nobue Kumaki, Yutaka Inagaki & Masayuki Komada
DOI :

問い合わせ先

科学技術創成研究院 細胞制御工学研究ユニット
教授 駒田雅之

Email : makomada@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5703 / Fax : 045-924-5771

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

平成28年度「東工大挑戦的研究賞」授賞式を実施-独創性豊かな若手研究者に-

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平成28年度「東工大挑戦的研究賞」授賞式が8月31日に行われました。

受賞者との記念撮影
受賞者との記念撮影

奥住准教授によるプレゼンテーション

奥住准教授によるプレゼンテーション

授賞式では、三島学長から受賞者に賞状の授与、および今後さらなる活躍を期待する旨の激励の言葉があり、次いで受賞者代表3名から、採択された研究課題についてのプレゼンテーションが行われました。

この賞は、本学の若手教員の挑戦的研究の奨励を目的として、世界最先端の研究推進、未踏分野の開拓、萌芽的研究の革新的展開または解決が困難とされている重要課題の追求等に果敢に挑戦している独創性豊かな新進気鋭の研究者を表彰するもので、第15回目となる今回は10名が選考されました。なお、受賞者には支援研究費が贈呈されます。

平成28年度「東工大挑戦的研究賞」受賞者一覧

受賞者
所属
職名
研究課題名( * は学長特別賞)
准教授
* 原始惑星系円盤の多重ダストリングにおける微惑星形成過程の解明
助教
* マイクロ電気機械素子とその金属結晶粒制御によるナノG慣性センサの創出
准教授
* 電子またはヒドリドイオンを含む新規固体触媒の開発
准教授
液晶乱流とホログラフィを用いた多体確率過程の普遍法則の実験検証
准教授
マルテンサイト逆変態を利用した鉄鋼材料の革新的組織制御
講師
固体表面への触媒活性点集積による新規分子変換反応の開発
准教授
ヒトiPS細胞を用いたDOHaDの検証
助教
マルチブロック型分子を基盤とする動的機能開発
准教授
遺伝子工学的手法による藻類バイオマス生産性の向上
助教
電子欠損性ホウ素化合物による革新的物質変換および新材料開発

(所属順・敬称略)


お椀状分子の配向を単分子レベルで自在に制御することに成功―100テラビットを超える省電力高密度メモリー実現に道―

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要点

  • お椀の形状をもつスマネン分子を金表面に吸着、単分子レベルで配向を制御
  • 分子配向による伝導度の違い利用し、分子1個が記録素子に
  • 1平方インチあたり600テラビットの不揮発性メモリーが可能に

概要

東京工業大学 理学院 化学系の藤井慎太郎特任准教授、木口学教授、大阪大学の櫻井英博教授らのグループは、フラーレンの一部を切り出したお椀形状をもつ分子「スマネン[用語1]」を用い、単分子レベルで分子の配向を自在に制御することに成功した。金の表面に最密構造をもつスマネン分子膜を作製し、走査型トンネル顕微鏡(STM)[用語2]の探針を近づけて、スマネン単分子の反転を実現した。

分子反転(分子の向き=配向)によりスマネン分子(図1)の伝導度が10倍程度変化することを確認した。スマネン単分子の伝導度を1記録素子として利用することで記憶媒体として利用できる。また分子反転は電流ではなく機械的な力により誘起され、形状保持に電気は不要である。

スマネン分子の密度は1平方インチあたり600テラビット(Tbit/inch2、1テラビットは約1兆ビット)に相当し、高密度メモリー[用語3]、低消費電力の不揮発性分子メモリーへの展開が期待できる。

研究成果は8月24日に米国化学学会誌(Journal of the American Chemical Society)オンライン版に掲載された。

背景

人工知能(AI:Artificial Intelligence)やモノのインターネット(IoT:Internet of Things)など、社会で扱う情報量は飛躍的に増加している。急増する情報を記録するメモリーも同じスピードで高密度化と低消費電力化が求められている。様々な試みが行われているが、その一つに単分子に情報を記録させる単分子メモリーが注目を集めている。分子の大きさはたかだか1 nm(ナノメートル、10億分の1メートル)であるので、分子の形状を単分子レベルで制御しその形状を情報として利用することができれば、1ペタビット/inch2(1ペタビットは約1,000兆ビット)を超える高密度メモリーを実現することが可能である。

研究成果

高密度の分子メモリーを作製するために、本研究ではお椀型の形状をもつスマネン分子に注目した。スマネン分子は基板に吸着させることで上向き、下向きと2種類の配向をもつことが期待できる。

スマネン分子

図1. スマネン分子

室温でスマネン分子溶液に金基板を浸漬させることで、金表面にスマネン分子膜を作製した。作製した分子膜をSTMで観測すると、図2(a)に示すように分子が最密充填構造をもつ秩序膜を形成していることが分かった。STM像は探針と基板の間の電圧(バイアス電圧)に依存し変化した。STM像のバイアス依存性を理論計算結果と比較することで、表面吸着構造を決定した(図2(b))。そして、スマネン分子は上向き配向をとっていることも明らかとなった。

金表面上に吸着したスマネン分子膜の走査型トンネル顕微鏡像(a)と構造モデル(b)。水色と青色の点がスマネン分子の中心位置に対応する。
図2.
金表面上に吸着したスマネン分子膜の走査型トンネル顕微鏡像(a)と構造モデル(b)。水色と青色の点がスマネン分子の中心位置に対応する。

作製した分子膜に対しSTMの探針を近づけたところ、局所的に構造が変化する現象を発見した(図3)。図4に探針を近づけた前後のSTM像を示す。得られたSTM像を理論計算と比較することで、探針が近づくことで、上向きの配向で吸着していたスマネン分子が反転し下向きの配向をとることが分かった。上向きと下向きで基板との相互作用の大きさが変化し、スマネン単分子の伝導度が変化した。下向きの配向の方が基板との相互作用が小さいため、分子の伝導性が高く、明るい輝点として観測される。

STM探針によって誘起される分子の配向変化のメカニズムとしては、STM探針から注入される電子による力、機械的な力が考えられる。STM探針から注入する電子量を増やしても配向変化は促進されず、電子的な効果ではないことが分かった。理論計算を行うことで、スマネン分子の反転に要するエネルギーが探針を近づけることで劇的に減少することが分かった。スマネン分子が上側、下側両側で金属と相互作用することで、反転に要するエネルギーが減少したと考えられる。以上の考察により、分子の配向変化は機械的な力により誘起されることが明らかとなった。

原子レベルの探針を分子膜に近づけた際の構造変化。左の図で矢印の位置に探針を近づけた所、構造が変化した。
図3.
原子レベルの探針を分子膜に近づけた際の構造変化。左の図で矢印の位置に探針を近づけた所、構造が変化した。
探針の接近によって誘起される構造変化および高解像度の走査型トンネル顕微鏡像(左:上向き配向、中央:遷移状態、右:下向き配向)
図4.
探針の接近によって誘起される構造変化および高解像度の走査型トンネル顕微鏡像(左:上向き配向、中央:遷移状態、右:下向き配向)

今後の展開

基板上に吸着したスマネン分子の密度は1平方インチあたり6×1,014個であり、本研究ではその1個1個の分子の配向を制御することができた。これは600 Tbitの高密度メモリーに相当する。さらに分子の配向制御は機械的な力により可能で、かつ分子の配向は探針を近づけない限り保存される。つまり記録の書き込み、そして記録保持に電力が不要である。夢の高密度、低消費電力のメモリー開発へとつながる。

今後の展開としては2方向を検討している。一つはさらなる高密度化である。スマネン分子よりさらに小さな分子を用いて、同様の機械的な力により動作する1ペタビットを超えるメモリーの開発を行う。

もう一つの方向性は新たな機能創出である。今回の研究により、分子配向を制御し伝導特性を変化させることに成功した。分子はほかにも誘電性、磁性、光学特性をはじめとする様々な機能(特性)を有しており、これらの物性は分子の配向によって変化する。そこで、機械的な力により、電圧(ダイポール)、偏光、スピンの向きを単分子レベルで制御し新たな微小デバイス開発を行う。

用語説明

[用語1] スマネン : サッカーボール型のフラーレンの一部を切り出したような、お椀型の分子である。分子が湾曲構造をもつため、基板に吸着させると上向きと下向きの2種類の配向を取り得る。

[用語2] 走査型トンネル顕微鏡 : 金属の探針で導電性の基板をなぞることで、表面形状を原子レベルで観測することができる顕微鏡。金属探針と基板の間に電圧を与えた状態で、探針を基板に数nm以下に近づけると、探針と基板間の間に電流(トンネル電流)が流れるようになる。トンネル電流は探針と基板の間の距離に敏感に変化するので、電流の変化を計測することで、表面の凹凸を原子レベルで計測することが可能である。

[用語3] 高密度メモリー : 電子のスピンを用いた記録素子なども注目を集めている。小さな磁石(スピン)を集積化させて使用しているため、記憶素子同士の磁気的な干渉などにより高密度化に限界がある。

論文情報

掲載誌 :
Journal of the American Chemical Society
論文タイトル :
Bowl Inversion and Electronic Switching of Buckybowls on Gold
著者 :
Shintaro Fujii1, Maxim Ziatdinov1, Shuhei Higashibayashi2, Hidehiro Sakurai3, Manabu Kiguchi1
所属 :
1Department of Chemistry, Graduate School of Science, Tokyo Institute of Technology, 2-12-1 W4-10 Ookayama, Meguro-ku, Tokyo 152-8551, Japan
2Research Center of Integrative Molecular Systems, Institute for Molecular Science, Myodaiji, Okazaki 444-8787, Japan
3Division of Applied Chemistry, Graduate School of Engineering, Osaka University, 2-1 Yamada-oka, Suita, Osaka 565-0871, Japan
DOI :

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巨大氷惑星の形成現場を捉えた―アルマ望遠鏡で見つけた海王星サイズの惑星形成の証拠―

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概要

近年、太陽以外の星のまわりにも、多様性に富む数多くの惑星が発見されてきました。しかし、それらの形成過程は謎のままであり、天王星・海王星のような巨大氷惑星の形成過程も、いまだによく分かっていません。

うみへび座TW星は、年齢が約1,000万歳と若く、星のまわりには塵とガスの円盤があると知られています。研究チームは今回、円盤内の塵が放つ電波をアルマ望遠鏡[用語1]で捉え、円盤のようすを詳しく描き出すことに成功しました。円盤には何本かの暗い隙間が刻まれており、特に半径22天文単位[用語2]の隙間では、周囲に比べて小さな塵が豊富に存在することがわかりました。理論的研究から、円盤内に惑星が存在すると、こうした特徴が現れることが提唱されており、今回の観測成果はこの理論予測と合致します。隙間の特徴を考慮すると、ここには海王星程度の大きさの惑星ができていると考えられます。この発見により、どんな大きさの惑星が、どこでいつごろ作られるかが明らかにできると期待されます。

この研究成果は、2016年日本天文学会秋季年会の以下の講演にて発表されます。

星惑星形成 P124a「TW Hyaの原始惑星系円盤に対するALMAを用いた高分解能多周波観測」塚越祟(茨城大学)ほか

研究グループ

  • 塚越祟(つかごし たかし) 茨城大学 助教
  • 武藤恭之(むとう たかゆき) 工学院大学 准教授
  • 野村英子(のむら ひでこ) 東京工業大学 准教授
  • 川邊良平(かわべ りょうへい) 国立天文台 教授
  • 石本大貴(いしもと だいき) 東京工業大学/京都大学 大学院生(2016年修了)
  • 金川和弘(かながわ かずひろ) シュチェチン大学 研究員
  • 奥住聡(おくずみ さとし) 東京工業大学 准教授
  • 井田茂(いだ しげる) 東京工業大学 地球生命研究所 教授
  • Catherine Walsh(キャサリン・ウォルシュ) ライデン大学 学術研究員
  • Tom J. Millar(トム・ミラー) クイーンズ大学 ベルファスト 教授

研究の背景

惑星系が形成される土台:原始惑星系円盤

近年、太陽以外の星のまわりで、多様性に富む数多くの惑星が発見されてきました。しかし、それらの形成過程は謎のままであり、特に、天王星・海王星のような巨大氷惑星の形成過程は、よく分かっていません。

このような謎を解くためには、「原始惑星系円盤」と呼ばれる、若い恒星を取り巻く円盤状の天体を、望遠鏡を使って観測することが重要です。この円盤は、冷たいガスや塵で構成されており、惑星の材料になると考えられています。原始惑星系円盤を詳しく調べることで、多様な惑星系がどのように生まれてくるのかを調べることができます。

うみへび座TW星

うみへび座TW星(図1参照)は、水素核融合反応を起こす前の段階にある、年齢およそ1,000万歳の若い恒星です。地球から175光年ほどの距離にあり、このような若い恒星の中では最も太陽系に近い恒星です。うみへび座TW星は太陽と同じくらいの重さで、地球が属するこの太陽系と直接比べることができるため、太陽系がどのように形成されたのかを調べるための良い観測対象といえます。

この恒星の周囲に原始惑星系円盤が存在することは過去の観測から知られていました。最近になって、この円盤に複数の「隙間」があることが発見されました。原始惑星系円盤内に惑星が形成されると「隙間」ができることは理論的に予想されており、観測された隙間の位置は太陽系における木星や海王星の軌道とよく一致しています。そこでは、太陽系にあるのと似た惑星が形成されていることを伺わせます。したがって、このような隙間がどんな構造をしているのか詳しく調べれば、惑星が形成される過程やその様子を明らかにすることができるはずです。

うみへび座の姿とTW星の位置

図1. うみへび座の姿とTW星の位置

観測の特徴

アルマ望遠鏡による2周波数[用語3]での電波観測

茨城大学の塚越崇助教を中心とする研究チームは、うみへび座TW星を取り巻く原始惑星系円盤の構造を詳しく調べるため、大型電波干渉計「アルマ望遠鏡」(図2)を使用した観測を行いました。円盤内にある極低温(氷点下250 ℃程度)の塵は目に見える光では輝いていませんが、電波では輝いていることが知られています。アルマ望遠鏡を用いて電波で観測することにより、光では見ることのできない円盤内の冷たい塵を見ることができます。

今回の研究では、145 GHzと233 GHzという異なる2つの周波数の電波で観測をしています。異なる周波数の電波の強度は塵の大きさに関係しているため、2つの周波数の電波強度を比較することで、円盤内で塵の大きさが場所によってどのように異なっているのかを調べることが出来るのです。

今回の観測で使用したアルマ望遠鏡 クレジット:国立天文台

図2. 今回の観測で使用したアルマ望遠鏡 クレジット:国立天文台

観測の結果

円盤の隙間には小さい塵が満ちていた

今回、我々が行ったアルマ望遠鏡による観測でも、これまで見つかっていた隙間があることが確かめられました(図3、)。今回の研究では、最も顕著な22天文単位にある隙間に着目しました。この隙間における2つの周波数の電波強度の比(強度比)は、隙間の周囲に比べて有意に高くなっていることが分かりました(図4参照)。塵が小さいほど、それが放つ電波の強度比は高くなるので、強度比が高いところでは、大きい塵が少なくなっていることを示しています。つまり、着目した隙間では大きい塵が少なくなり、小さい塵だけが多く残っていることが明らかになりました。一般的に、大きい塵は数ミリメートル程度、小さい塵は数マイクロメートル程度の大きさだと考えられていますが、今回の観測だけでは具体的な塵の大きさを精度よく決定することは出来ません。この点を明らかにする観測が、今後計画されています(「今後の研究の発展」の項を参照)。

アルマ望遠鏡による 観測によって得られたうみへび座TW星の画像
図3.
アルマ望遠鏡による 観測によって得られたうみへび座TW星の画像。画像を見やすくするために、ここでは観測した2つの周波数での電波強度を足し合わせたものを示す。比較のため、同じ距離から太陽系を見た場合の木星と海王星の軌道に相当する大きさを右下に示す。クレジット:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Tsukagoshi et al.
アルマ望遠鏡で観測した2つの周波数間での電波強度比
図4.
アルマ望遠鏡で観測した2つの周波数間での電波強度比。半径22天文単位のところ(赤い点線)で強度比が優位に高くなっていることがわかる。

円盤の隙間では巨大氷惑星が生まれているかもしれない

これまでに成された理論的な研究によると、円盤の中に惑星が存在し、それが隙間を作っている場合、円盤のガスと塵の相互作用によって大きめの塵が隙間の中からはじき出され、隙間の中には小さい塵のみが残ると予想されています。今回の観測では、それとよく一致した結果が得られました。

では、どのくらいの重さの惑星が存在するのでしょうか?別の理論的な研究(例えば、2015年に示された金川らの研究)では、隙間の幅と深さ(周囲の明るい部分との光度比)と、それを作った惑星の重さとの関連が予想されています。この研究結果を利用し、今回の観測結果から、隙間を作っている惑星の重さを見積もります。画像から分かる明るさの分布は、実際の塵の分布とは厳密には異なりますが、今回の場合、これらはほぼ同一のものとして考えることができます。観測で得られたこの隙間の幅はおよそ5天文単位でした。また、隙間の中と外とでの明るさの比は、平均で0.5程度でした。よって、今回の観測結果と、上述の理論研究とを比較してみると、図5のように、データは理論研究による予想線上にあり、惑星の重さが海王星より少し重いくらいであることが分かりました。加えて、中心星から22天文単位という距離は、太陽系では天王星と海王星の軌道の間に相当します。うみへび座TW星が太陽とほぼ同じ重さであることを考えると、ここで誕生している惑星は天王星や海王星とよく似た巨大氷惑星である可能性が高いと我々は考えています。

金川ら(2015、2016年)の理論研究に基づいた、隙間構造と惑星質量の関係の予想

図5. 金川ら(2015、2016年)の理論研究に基づいた、隙間構造と惑星質量の関係の予想

今後の研究の発展

本研究によって、うみへび座TW星の原始惑星系円盤で発見された半径22天文単位の隙間は、その中に惑星が存在する可能性が極めて高いことがわかりました。一方で、異なる方法で惑星形成のさまざまな可能性を探ることも重要です。我々の研究グループでは、本研究結果を受けて、アルマ望遠鏡の次期観測に繋げています。

一つは電波偏光[用語4]を捉える観測です。最近の理論計算では、電波偏光を観測することで、塵の大きさをより正確に見積もることが可能であることが示されています。したがって、電波偏光が観測できれば、本研究とは別の方法で塵の大きさを調べることができます。もう一つは、隙間でのガスの量を調べる観測です。円盤のほとんどはガス成分であり、形成される惑星の性質もガスの量に依存します。ガスの分布を調べることで、より正確に惑星質量を見積もることができるでしょう。

用語説明・補足説明

[用語1] アルマ望遠鏡 : 日本をはじめとする東アジア、北米、欧州などが協力して南米チリに建設した、巨大電波望遠鏡です。66台のパラボラアンテナを結合させてひとつの巨大な電波望遠鏡として機能させることができ、星や惑星の材料となる冷たい塵やガスが放つ電波をこれまでにない感度と解像度で捉えることができます。

[用語2] 天文単位 : 距離や大きさの単位。1天文単位は太陽と地球の距離で、約1億5,000万kmに相当する。

[用語3] 周波数 : 電波や赤外線、我々の目で見える可視光線などは総称として「電磁波」とよばれ、電場と磁場が振動する波が空間を伝わっていきます。この波が1秒間に振動する回数を「周波数」と呼び、単位Hz(ヘルツ)で表します。電磁波はこの周波数の違いによって異なる性質を示します。電波は電磁波の中でもっとも周波数が低く、国際電気通信連合による定義では周波数3 THz(テラヘルツ、1秒間に1兆回の振動に相当)よりも周波数が低いものが電波と呼ばれます。

[用語4] 電波偏光 : 電磁波の振動の方向はその進行方向に対して垂直であり、一般的な電磁波ではさまざまな方向の振動面の電磁波が重なり合っています。振動面がある方向に偏った状態を「偏光」と呼びます。塵が放つ電波や塵によって散乱される電波は特定の偏光を持つことが知られており、塵の性質を調べる重要な手がかりになります。

[注] うみへび座TW星はこれまでにもアルマ望遠鏡で観測されてきました。たとえば2016年3月には、米国のグループがアルマ望遠鏡を用いて高い解像度で、うみへび座TW星を観測し、円盤に複数の隙間を発見したことを発表しました。しかし、この観測は1周波数のみを用いたものであり、塵の大きさまではわかりませんでした。

論文情報

掲載誌 :
The Astrophysical Journal Letters
論文タイトル :
"A Gap with a Deficit of Large Grains in the Protoplanetary Disk around TW Hya"
著者 :
Tsukagoshi et al.

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超精密集積で新たな機能性材料に成功―発光体やセンサー、医薬材料に期待―

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要点

  • ビスマスを利用した精密集積型発光分子を開発
  • 発光強度が減少する濃度消光[用語1]を抑えることで強度制御と固体発光を達成
  • 発光要素の自在な出し入れで発光のスイッチング機能を発現

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 ハイブリッドマテリアル研究ユニットおよび化学生命科学研究所の山元公寿教授、神戸徹也助教らは、発光体を1つの分子内に最大60個まで導入した新たな発光体の開発に成功した。発光体は集積中にある濃度になると濃度消光を起こす問題があったが、これを解決し、発光強度の自在な制御や固体発光、スイッチング特性を持つ機能性の高い発光体を構築した。

この研究は発光分子の精密集積が機能性発光材料に応用できることを実証したものであり、本アプローチは今後の材料設計の有力な手法になると期待できる。

この研究は東京工業大学「ハイブリッドマテリアル研究ユニット(リーダー:山元公寿)」で実施した。研究成果は9月22日(現地時間)発行のドイツ化学誌「Angewandte Chemie, International Edition(アンゲヴァンテ・ケミー国際版)」オンライン版に掲載された。

研究成果

東京工業大学の山元教授らの研究グループは、当グループが独自開発していたデンドリマー[用語2]と呼ばれる規則的に枝分かれを繰り返す樹状構造をした高分子を利用することで、発光体を精密に配置した分子を作ることに成功した。分子内に配置する化学種として塩化ビスマスに着目した。この塩化ビスマスがデンドリマー内に精密に集積され発光特性を発現することで、制御可能な発光デンドリマーの構築が実現した。

このデンドリマーは金属を取り込める場所を予め設計したものであり、塩化ビスマスを中心部から順番に、決められた場所に結合させて作った。これにより濃度消光を抑え、増やした分だけ発光強度を高めることに成功した(図1)。 構成要素であるビスマスの錯体[用語3]は固体状態で濃度消光するのに対し、この発光デンドリマーは固体状態という極限の高濃度状態でも発光を保持した(図2)。

発光体の分子内精密集積による強度制御

図1. 発光体の分子内精密集積による強度制御

デンドリマー集積による固体状態での発光特性

図2. デンドリマー集積による固体状態での発光特性

この発光はデンドリマー内でビスマスの錯体を形成することで発現する。そのため、ビスマスとデンドリマーを自在に結合/切断することができる。この特性に基づき、ビスマス添加量の調整や酸化還元反応[用語4]を駆使することで、発光強度の自在かつ可逆な制御を可能にした。またこの可逆性にはデンドリマーのカプセル特性が寄与していることが分かった。カプセル特性は内部に取り込んだ物質を外部の物質から保護する効果であり、本研究で利用したデンドリマーが取り込んだビスマスを外部から保護できることを見出した(図3)。

ビスマス錯体の可逆結合特性を利用した発光特性のスイッチング

図3. ビスマス錯体の可逆結合特性を利用した発光特性のスイッチング

背景と研究の経緯

発光材料は基礎・応用共に活発に研究されている分野である。これまで様々な発光分子が開発されてきたが、今後はその機能化が求められている。例えば、我々の日常では光を強くしたい場合、光源を複数集めればその発光強度は強くでき、集める個数により強さを制御できる。しかしこれを分子の世界で行うと単純には上手くいかない。望みの場所に配置出来ないことに要因がある。これは発光体それぞれの強度を制御できないだけでなく、発光分子間の距離が近すぎる場合に生じる濃度消光も引き起こす。即ち発光体を一つ一つ適切な場所に配置できれば濃度消光を抑制でき、強度制御可能な機能性発光体の構築が期待できる。

こうした研究背景に対して、山元教授の研究グループは中心部から段階的に精密に金属を配置できる独自開発したデンドリマーが利用できると考えた。当グループはこれまでに白金や鉄、チタンなど様々な金属がこのデンドリマーに精密に配置できることを見出してきた。今回はビスマスの特性を活かすことで、この精密デンドリマーに発光特性を持たせることを目的とした。さらに本デンドリマーは構造を制御して構築した画一的な樹状高分子であるのみならず、剛直な骨格を持っている。従って分子内に1つずつ独立して発光分子を配置できるため濃度消光が抑制でき、発光強度が制御できると期待された。

今後の展開

ビスマスイオンの集積による発光体は、新発光材のみならずセンサーとしても利用できるため、生体の重金属解毒防御機能(メタロチオネイン)などの解明に役立つ。

さらにこの集積手法は種々の発光分子に応用でき、ガラスやポリマーへ塗布することで高輝度発光材料が作成できる。特に魅力的なのは、微弱発光の分子に対しても集積させることで強度を補強できる点である。これは光センサーや光スイッチの新たな構築法として期待できる。

用語説明

[用語1] 濃度消光 : 発光体の濃度を上げていくと、ある一定の濃度以上で発光強度が減少する現象。

[用語2] デンドリマー : コアと呼ばれる中心分子と、デンドロンと呼ばれる側鎖部分から構成される樹状構造をした高分子である。高分子であるが単一の構造を有するという特徴がある。本研究で利用したデンドリマーは、デンドロンが金属を取り込めるように設計したものであり、内部から段階的に金属を取り込むことができる。

[用語3] 錯体 : 金属塩と有機物からなる分子。

[用語4] 酸化還元反応 : 電子の授受を伴う化学変化過程。電子を失う化学反応を酸化、電子を受け取る反応を還元と呼ぶ。

論文情報

掲載誌 :
Angewandte Chemie International Edition
(アンゲヴァンテ・ケミー国際版)
論文タイトル :
Bismuth Complexes in Phenylazomethine Dendrimers: Controllable Luminescence and Emission in the Solid State
(和訳:フェニルアゾメチンデンドリマーの中のビスマス錯体:発光の制御と固体発光)
著者 :
T. Kambe, A. Watanabe, T. Imaoka, K. Yamamoto
DOI :

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「微生物ゲノム×地域」で食のブランディング―ぐるなびとの共同研究講座が本格始動

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東京工業大学と株式会社ぐるなび(以下ぐるなび)は、日本の食文化を支える微生物を科学し、食のブランディングを実現することをテーマとした「ぐるなび食の価値創成 共同研究講座」(以下、本研究)を開設し2016年10月より本格始動します。

本研究では、日本食の中でも健康によいとされる「発酵食品」、中でも味噌・漬物・日本酒など多くの発酵食品に影響を与える「乳酸菌」と「麹菌」に着目し調査を実施します。また、調査した発酵食品に関する微生物ゲノム情報、食品機能性、栄養性、文化的背景等多次元情報を蓄積し発酵食品のデータベース化を目指します。また、日本の各地域には気候・地質・歴史に裏付けられた食文化が根付いており、地域の伝統食品や伝統料理はその土地の風土を色濃く反映しています。

ぐるなびがこれまでに構築してきた地方自治体や飲食店・生産者などのネットワークを活用して各地方での調査研究を進め、現地の食に新たな価値を発見することで伝統食や地域をブランドアップすることを目指します。 現在、研究モデル地域を検討中です。

このデータベース化が実現することで、食材・食品を機能的価値や健康への効果など科学的根拠で評価し、ブランディングすることが可能になります。また、ゲノム解析情報を活用した食品の開発や、その土地に行かなければ食べることができない地域固有の菌(微生物)で作られた食材・食品をめぐる観光ツアーの実施など、地域活性化や2020年に向け日本の優れた食文化を世界に発信することが可能になると予測しています。

研究のイメージ

初年度は、地域の風土や伝統に根ざした発酵食品から健康効果や消費者需要を勘案した分析対象の選定を行い、その後2019年までに、選定した食品の発酵に関わる微生物のゲノム解析、それによる食品のキャラクタライズや食文化の調査、データ化、キャラクタライズされた食材・食品の機能的価値や健康効果の評価を実施する予定です。さらに、本研究の第2段階として、データベース化した食品由来の微生物が人の常在菌にどのように影響を与えるかも含めて評価していく方針です。

研究のステップ

市場ニーズの調査、研究テーマ設定

  • Step 0
    地域の風土や伝統に根ざした発酵食品から健康効果や消費者需要を勘案した分析対象の選定

実験、データ解析(仮説と検証)

  • Step 1
    選定した食品の発酵に関わる微生物のゲノム解析、食品のキャラクタライズや食文化の調査、データ化
  • Step 2
    キャラクタライズされた食材・食品の機能的価値の評価

学術界・産業界へのアウトプット・連携

  • Step 3
    学術論文の発表、シンポジウム開催
    ぐるなびインフラを活用した食材プロモーション、健康メニュー考案、生産者や地域行政との商品開発など

共同研究講座の概要

生命理工学院

生命理工学院 ―複雑で多様な生命現象を解明―
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株式会社ぐるなび コミュニケーション部門 広報グループ

Email : pr@gnavi.co.jp
Tel : 03-3500-9700

ラン藻による有用物質の大規模生産に道を拓く―高価な誘導剤使わずに遺伝子発現を誘導するネットワークを構築―

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概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の久堀徹教授と肥後明佳特任助教(JST・CREST研究員)らの研究グループは、合成生物学[用語1]的手法により原核光合成生物であるラン藻(シアノバクテリア[用語2])の遺伝子発現を高効率に誘導するシステムを開発した。人工的に改変した遺伝子発現ネットワークをラン藻に導入することで、今までよりも低濃度の遺伝子発現誘導剤を使用、もしくは誘導剤を用いなくても、長時間・強力に遺伝子発現を誘導することに成功した。

ラン藻は、その代謝系を遺伝子操作することで有用物質を生産することの出来る生物として期待されている。肥後特任助教らの研究は、ラン藻の代謝系の改変を実際的に行えるようにするもので、今後、ラン藻を用いて産業上有用な物質を生産する大規模なシステムの開発に道を拓く成果である。同研究グループは今年初め、ラン藻内で生産された含窒素化合物を細胞外に放出させることに成功したが、誘導剤は高価で、持続時間が短いという欠点があった。今回はこの問題を解決したもので、ラン藻による有用物質生産の実用化に一歩近づいたといえる。

本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」研究領域(研究総括:松永是 東京農工大学・学長)の支援を受けて実施したもので、研究成果は、9月22日発行の米国化学会の「ACSシンセティックバイオロジー(ACS Synthetic Biology)」誌電子版に掲載された。

研究の背景と経緯

二酸化炭素排出量削減に向けた取り組みの一環として、光合成生物を用いてエタノールや油などの有用物質を生産させる研究が近年注目を集めている。これは、生物の代謝系を本来の経路とは異なる方向に働かせることで、その生物が作る代謝産物を適当な形で蓄積させたり細胞外に放出させるなどの方法で、いわば横取りする技術の開発である。微細藻類[用語3]の一種であり、原核光合成生物であるラン藻は、緑色植物が持っている光合成を行う細胞内小器官である葉緑体の起源となった生物と考えられている。培養の簡便性、速い生育速度、整備された遺伝子改変技術などの長所により、ラン藻を利用した有用物質生産の実現には期待が大きい。

ところが、目的の物質をラン藻に作らせるために行う、遺伝子の破壊や導入といった代謝系の改変がラン藻の細胞にとっては大きな負荷となり、代謝速度が低下して目的物質の生産性が落ちるというケースが少なくない。そこで、スイッチを入れた時のみ、代謝経路を切り替えて、目的物質を生産させる技術の開発が待たれていた。肥後特任助教らは、糸状性ラン藻Anabaena sp. PCC 7120(アナベナ[用語4])においてこのような代謝系の改変を実現するための遺伝子発現制御技術を開発し、実際にラン藻内で生産された含窒素化合物を細胞外に放出させるという成果をあげ、今年初めに発表した(Higo, A. et al. Plant Cell Physiol. (2016) 57: 387-396)。

しかし、この先行研究で遺伝子発現誘導に用いた薬剤は高価であり、また、光感受性であるため光合成生物のような光環境で生きている生物に作用させても誘導持続時間が短いといった欠点があった。そこで、肥後特任助教らは拡張性に優れている機能性RNAを用いて、人工的な遺伝子発現ネットワークをデザインし、これまでの発現誘導系を改良することにした。

研究成果

先行研究では、転写[用語5]抑制因子TetR(抗生物質であるテトラサイクリン[用語6]で機能を制御できる)を利用して、遺伝子発現誘導システムを構築した。今回の研究では、誘導剤であるテトラサイクリンにより遺伝子発現が誘導される(スイッチを入れる)と、TetRの遺伝子発現を抑制する機能を阻害するRNAアプタマー[用語7]の発現が誘導されるという遺伝子発現ネットワークを構築した(図1)。

今回、構築された遺伝子発現誘導系
図1.
今回、構築された遺伝子発現誘導系。通常は、転写抑制因子TetRの抑制能が誘導剤aTcによって解除され、遺伝子発現制御の指標として用いたGFPの発現が誘導される。本システムでは、TetRの機能を阻害するRNAアプタマーの作用により、ポジティブフィードバックループが形成され、通常のシステムより効率のよい発現誘導が実現される。また、TetRの発現は図に示すように硝酸塩やアデニンの有無によって制御されているので、柔軟な遺伝子発現誘導が可能である。

すなわち、遺伝子発現が誘導されればされるほどTetRの機能が阻害され、遺伝子発現がより誘導されやすくなるというポジティブフィードバックループ回路をラン藻の細胞内に構築したわけである。これにより、従来のシステムと比較して、1/10量の誘導剤で長期間、目的遺伝子の発現を誘導することに成功した。さらに、転写抑制因子であるTetRの発現量をアデニンリボスイッチ[用語8]や培地の窒素源の有無により制御する遺伝子発現ネットワークを構築したことで(図1)、高価なテトラサイクリン系の誘導剤を用いなくても、スイッチを入れることができるシステムを実現した。実験では緑色蛍光タンパク質であるGFPの細胞内での発現をコントロールし、細胞が蛍光を持つようになる様子を観察した(図2)。

構築したシステムによる遺伝子発現誘導
図2.
構築したシステムによる遺伝子発現誘導。アデニンやテトラサイクリン誘導体のaTcによって、GFP蛍光が誘導されている。自家蛍光は、ラン藻が光合成を行うために必要なフィコビリタンパク質[用語9]由来のものである。

今後の展開

今回の研究では、機能性RNAを適切に組み合わせた回路をデザインすることで既存のシステムを改良し、効率のよい柔軟な遺伝子発現誘導系をラン藻細胞内に構築した。この技術をさらに発展させれば、多細胞生物であるラン藻・アナベナの、炭素固定(光合成)と窒素固定という異なった代謝の役割を持つ細胞それぞれで、より精密に遺伝子発現制御による代謝改変を行うことも可能になり、ラン藻を用いた大規模物質生産の実現につながることが期待される。

用語説明

[用語1] 合成生物学 : Synthetic Biologyの訳語で、生体部品を新たにデザインしたり適切に組み合わせたりすることで、目的の機能を持つシステムを構築する、ボトムアップ型の研究分野である。

[用語2] ラン藻(シアノバクテリア) : 光合成を行う原核光合成生物で細菌の一種。光合成を行うチラコイド膜という膜構造を細胞内に持つ。原始の時代に真核生物に食べられて細胞内共生したことにより、緑色植物の葉緑体の起源となった生物と考えられている。

[用語3] 微細藻類 : ラン藻のような原核光合成生物から緑藻など真核光合成生物まで、主に単細胞の藻類の総称。物質生産に利用できる生物として注目されている。

[用語4] アナベナ : ラン藻の一種で、光合成を行う栄養細胞が数珠状につながった多細胞性である。窒素源の乏しい条件で培養すると数珠状の細胞のところどころにヘテロシストと呼ばれる特殊な細胞が形成される。この細胞で窒素分子を直接アンモニアに変換する窒素固定反応が行われる。

[用語5] 転写 : 遺伝子発現では、DNAに保存されている遺伝子情報から、mRNAが合成され(転写という)、このRNAの情報をもとにアミノ酸が数珠状につながってタンパク質が合成される(翻訳という)。

[用語6] テトラサイクリン : 放線菌が作る抗生物質のひとつで、微生物のタンパク質合成を阻害する。このため、細菌感染症の治療薬として用いられているが、近年、耐性菌(テトラサイクリンが効かない菌)が増えている。

[用語7] アプタマー : 特定のタンパク質や低分子に特異的に結合するDNAやRNA、ペプチドである。

[用語8] アデニンリボスイッチ : リボスイッチは特定の低分子が結合するアプタマー部分と、下流の遺伝子発現を制御するプラットフォーム部分からなる。枯草菌由来のアデニンリボスイッチは、核酸を構成する塩基のうちの一つであるアデニンがアプタマー部分に結合すると、プラットフォーム部分の構造変化を介し、下流の遺伝子の発現が抑制される。

[用語9] フィコビリタンパク質 : ラン藻などが光合成を行う際、光を集めるために必要なタンパク質。青色をしており、ラン藻(藍藻)がラン藻と呼ばれる由縁である。身近な食品にも着色料として使用されている。

論文情報

掲載誌 :
ACS Synthetic Biology
論文タイトル :
Designing synthetic flexible gene regulation networks using RNA devices in cyanobacteria
著者 :
Akiyoshi Higo, Atsuko Isu, Yuki Fukaya, Toru Hisabori
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所
教授 久堀徹

Email : thisabor@res.titech.ac.jp

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所
特任助教 肥後明佳

Tel : 045-924-5234 / Fax : 045-924-5268

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

9月29日13:20 お問い合わせ先に誤りがありましたので、修正しました。

東京工業大学と南洋理工大学との研究交流促進に関する覚書の締結

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東京工業大学は、南洋理工大学(シンガポール)と2009年に学術交流協定を締結し、学生の派遣・受入れ、共同研究の実施、ワークショップの開催など、様々な連携活動を行ってきました。このたび両大学は、研究交流の促進を目的とした覚書を締結することについて合意に至り、9月28日、国連大学(東京都港区)で開催された日本・シンガポール国交50周年記念シンポジウムの席上、覚書の調印式が行われました。

覚書に署名する本学丸山俊夫理事・副学長(教育・国際担当)(右から2番目)および南洋理工大学ラム・キンヨン副学長(同3番目)
覚書に署名する本学丸山俊夫理事・副学長(教育・国際担当)(右から2番目)および南洋理工大学ラム・キンヨン副学長(同3番目)

また同日夕刻には、赤坂迎賓館において安倍晋三内閣総理大臣とリー・シェンロンシンガポール共和国首相の立会いのもと、本学三島良直学長と南洋理工大学副学長ラム・キンヨン副学長による覚書交換式が行われました。

11月には、第2回東京工業大学・南洋理工大学ジョイント・ワークショップの開催も予定されており、本覚書の締結により、両大学間における研究交流が今後ますます深化していくことが期待されます。

お問い合わせ先

国際部 国際連携課 総務グループ

Email : kokuren.som@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2981

大隅良典栄誉教授 ノーベル生理学・医学賞受賞決定

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大隅良典栄誉教授(科学技術創成研究院)の2016年ノーベル生理学・医学賞受賞が決定しました。

大隅良典 栄誉教授

研究概要

“細胞の環境適応システム、オートファジーの分子機構と生理学的意義の解明”

オートファジーは、細胞内におけるリサイクリング機能です。細胞が栄養環境などに適応して自らのタンパク質分解を行う自食作用「オートファジー」に関して、酵母を用いた細胞遺伝学的な研究を進めて世界をリードする成果をあげ、その分子機構や多様な生理学的意義の解明において、多大な貢献を果たしています。

細胞の環境適応システム、オートファジーの分子機構と生理学的意義の解明

略歴

1967(昭和42)年3月
東京大学教養学部基礎科学科 卒業
1974(昭和49)年11月
東京大学大学院理学系研究科 理学博士号取得
1974(昭和49)年12月
米国ロックフェラー大学 研究員
1977(昭和52)年12月
東京大学理学部 助手
1986(昭和61)年7月
東京大学理学部 講師
1988(昭和63)年4月
東京大学教養学部 助教授
1996(平成8)年4月
岡崎国立共同研究機構基礎生物学研究所 教授
2004(平成16)年4月
大学共同利用機関法人自然研究機構基礎生物学研究所 教授
2009(平成21)年4月
東京工業大学統合研究院 特任教授
2010(平成22)年4月
東京工業大学フロンティア研究機構 特任教授
2014(平成26)年5月~
東京工業大学 栄誉教授
2016(平成28)年4月~
東京工業大学 科学技術創成研究院 特任教授

主な受賞歴

2005(平成17)年
藤原賞
2006(平成18)年
日本学士院賞
2007(平成19)年
日本植物学会学術賞
2008(平成20)年
朝日賞
2012(平成24)年
京都賞
2013(平成25)年
トムソン・ロイター引用栄誉賞
2015(平成27)年
ガードナー国際賞
2015(平成27)年
国際生物学賞
2015(平成27)年
慶應医学賞
2015(平成27)年
文化功労賞 顕彰
2016(平成28)年
ローゼンスティール賞
2016(平成28)年
ワイリー賞
2016(平成28)年
国際ポール・ヤンセン生物医学研究賞

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生命理工学院

生命理工学院 ―複雑で多様な生命現象を解明―
2016年4月に新たに発足した生命理工学院について紹介します。

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BSフジ「ガリレオX」に生命理工学院の田川陽一准教授が出演

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生命理工学院の田川陽一准教授が、BSフジ「ガリレオX」に出演します。

田川陽一准教授
田川陽一准教授

田川陽一准教授のコメント

私どものラボでは、ES細胞やiPS細胞からさまざまな細胞へ分化誘導して、臓器特異的な生理機能を有した組織の構築に取り組んでいます。それらの組織をマイクロ流体デバイスで培養(組織チップ)し、各組織チップを連結した「からだ」に対応する人工的な培養システムを創ることに挑戦しております。

その「からだ」のチップは、人工生命体と呼ばれ、動物実験や臨床試験の一部の代替法として期待されています。そのような応用への期待とは別に生命とは何かを考えることもできると思っています。受精卵から発生した個体は、初めから最後まで生命体ですが、このように細胞から積み上げて人工的に生命体に迫ることにより生命とは何かを考えることもできるのではないかと考えています。このような手法が合成生物学という学問領域です。

本番組では、人工生命から探る生命と非生命の境界をテーマに、他の人工細胞や人工生命、合成生物学の研究を紹介します。

  • 番組名
    BSフジ「ガリレオX『生命とはなにか?人工生命からさぐる生命と非生命の境』」
  • 放送予定日
    2016年10月9日(日) 11:30 - 12:00
    (再放送)2016年10月16日(日) 11:30 - 12:00

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大隅良典栄誉教授 ノーベル生理学・医学賞受賞記者会見を開催

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大隅良典東京工業大学栄誉教授が10月3日、「オートファジーの仕組みの解明」に寄与したとしてノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

同日18時30分頃に行われたノーベル財団による発表時には、大隅研究室に大隅栄誉教授と研究室メンバーや報道陣が集い、賞の行方をカウントダウンしながら見守り、受賞が決定した瞬間にはこの栄えある賞を得た喜びを皆で分かち合いました。

受賞決定後、すずかけ台キャンパスから大岡山キャンパスに到着し、花束を受ける大隅栄誉教授

受賞決定後、すずかけ台キャンパスから大岡山キャンパスに到着し、花束を受ける大隅栄誉教授

受賞決定後、すずかけ台キャンパスから大岡山キャンパスに到着し、花束を受ける大隅栄誉教授

記者会見中、安部総理大臣から祝電を受ける大隅栄誉教授
記者会見中、安部総理大臣から祝電を受ける大隅栄誉教授

これを受けて、東京工業大学は、同日20時頃から大岡山キャンパス百年記念館フェライト会議室にて三島良直学長、安藤真理事・副学長(研究担当)同席のもと大隅栄誉教授のノーベル賞受賞記者会見を開催しました。

会場には200名近い報道陣が集まり、大隅栄誉教授の喜びの声とオートファジー研究の概要等について1時間程度にわたり会見が行われました。

受賞決定当日の記者会見の様子
受賞決定当日の記者会見の様子

大隅栄誉教授 記者会見冒頭の受賞コメント

受賞の喜びを語る大隅栄誉教授
受賞の喜びを語る大隅栄誉教授

本日、夕刻にノーベル委員会から受賞のお知らせをいただきました。もちろん研究者としてはこの上もなく名誉なことだと思っております。この数年思いもかけずいろんな賞をいただくことになりましたけれども、ノーベル賞には格別の重さを感じております。ノーベル賞、私は少年時代にはまさしく夢だったように記憶しておりますが、実際に研究生活に入ってからは、ノーベル賞は私の意識の全く外にありました。

私は自分の知的な興味に基づいて、生命の基本単位である細胞がいかに動的な存在であるかということに興味を持って、酵母という小さい細胞に長年いくつかの問いをしてまいりました。私は人がやらないことをやろうという思いから、酵母の液胞の研究を始めました。

三島学長、安藤理事・副学長の横で
三島学長、安藤理事・副学長の横で

1988年、今から27年半ほど前に液胞が実際に細胞の中での分解に果たす役割に興味をもちまして、東大の教養学部の私自身たった一人の研究室に移ったときに始める機会があり、それ以降28年にわたりオートファジーという研究をしてきました。オートファジーという言葉は耳慣れないかと思いますが、酵母が実際に飢餓に陥ると自分自身のたんぱく質の分解を始めます。その現象を光学顕微鏡で捉えることが出来たということが私の研究の出発点になりました。馬場美鈴さんが電子顕微鏡でその過程を解析することで、実はそれがそれまで知られていた動物細胞のオートファジーという現象とまったく同一の過程であることがわかりました。酵母は遺伝学的な解析にとってもすぐれた生物なので、早速私たちはオートファジーに必須の遺伝子を探すことを始めました。幸いこれも大学院生として所属していた塚田美樹さんの努力で、わりに短時間でたくさんのオートファジーに必須の複数の遺伝子をとることが出来ました。それらの遺伝子は実はオートファジーの膜現象に必須の装置であるということが私たちの解析で分かりました。幸いこれらの遺伝子は酵母のみならず、人とか植物細胞にも広く保存されているということが分かりました。こうしてオートファジーの遺伝子が同定されたことでこれまでのオートファジー研究の質が大きく変換をすることになりました。その後は様々な細胞でオートファジーがどのような機能をしているかということが世界中のたくさんの研究者によって解析され、今日に至っています。

受賞の喜びを語る大隅栄誉教授

私はずっと酵母という材料でオートファジーの研究をしてまいりました。酵母を使った基礎的な研究が今日のオートファジーの研究のきっかけになったということであれば、私は基礎生物学者としてこの上もない幸せなことだと思っております。もちろん現代生物学は一人でやりおおせるものではありません。この28年間、私の研究室でたゆまぬ努力をしてくれた大学院生、ポスドク、スタッフの方々の努力のたまものだと思っております。それから、酵母から動物細胞のオートファジーへと転換してくれました水島昇、吉森保両氏にも、今現在の動物細胞におけるオートファジー研究で世界を牽引している二人とも、今日の栄誉を分かち合いたいと思っております。オートファジーというたんぱく質の分解は細胞が持っているものすごく基本的な性質なので、今後ますますいろんな現象に関わってくることが明らかになってくるのを私も期待しております。

一つだけ強調しておきたいのは、私がこの研究を始めた時に、オートファジーが必ずがんにつながる、人間寿命の問題につながると確信して始めたわけではありません。基礎研究はそういう風に展開していくものだとぜひ理解していただきたいと思います。基礎科学の重要性をもう一度強調しておきたいと思っております。

これまで私に研究の場を与えてくれた東大教養学部、理学部、基礎生物学研究所、東京工業大学には厚く御礼申し上げます。これまでの研究のほとんどが文科省の科研費によって支えられたことにも感謝したいと思います。この間、私の研究を支えていただいた2人の恩師、この5月に亡くなられた今堀和友先生、安楽泰宏先生にも感謝の意を申し上げます。戦後の非常に大変な時代から常に私を温かく見守ってくれた両親にまず報告したいと思います。私の家族、とりわけ折に触れて私を支えてくれた妻、萬里子に深く感謝したいと思います。

学長 記者会見冒頭のご挨拶

大隅栄誉教授の受賞を称える三島学長
大隅栄誉教授の受賞を称える三島学長

本日は多数お集まりいただき、ありがとうございます。私どもも本当にうれしく思いますし、今回の大隅先生の受賞は大学にとっても大きな誇りでございます。先生の研究に臨む姿勢につきましては何度も伺ったことがございますけれども、基礎研究に真摯に、そして人がやったことがないことをやるんだ、そしてそれをしっかりと止めることなく続けてこういう成果に繋がったんだろうというふうに思って、私も感動している次第です。このような本当の基礎研究、これから人類のために役に立っていくであろうこうした基礎研究の成果がこういう賞をお取りになられたということで私も大変嬉しく思いますし、改めて大変名誉に思うというところでございます。大隅先生、おめでとうございました。

また、翌日は11時からすずかけ台キャンパス大学会館3階多目的ホールにて、萬里子夫人、三島学長同席のもと、2回目の記者会見を行いました。会場には大隅研究室メンバーを含む多くの学生・教職員や30名程度の報道陣など350名が集まり、約1時間にわたって開催されました。

受賞翌日、萬里子夫人と臨んだ記者会見
受賞翌日、萬里子夫人と臨んだ記者会見

萬里子夫人と

萬里子夫人と

萬里子夫人と

東工大関係者のノーベル賞受賞者は、2000年にノーベル化学賞を受賞した白川英樹先生(本学卒業生)、そして今回の大隅栄誉教授の受賞により2名となりました。

東工大は、今年度新たに発足した科学技術創成研究院を筆頭に、世界トップレベルの研究を引き続き発展させていきます。

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研究成果

受賞

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低温で高活性なアンモニア合成新触媒を実現

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要点

  • カルシウムアミドにルテニウムを固定した触媒が300 ℃程度の低温度領域で従来よりも一桁高いアンモニア合成活性を実現した。
  • 平らな形状の大きさのそろったルテニウムのナノ粒子が自然に形成された。
  • 約1ヶ月の反応を継続しても触媒活性が劣化しないことが分かった。

概要

JST戦略的創造研究推進事業において、東京工業大学の細野秀雄教授と原亨和教授、北野政明准教授、井上泰徳研究員、高エネルギー加速器研究機構の阿部仁准教授らは、カルシウムアミド(Ca(NH2)2[用語1]にルテニウムナノ粒子を固定した触媒が、300 ℃程度の低温度領域で、従来の触媒の10倍以上の高い触媒活性を示すことを発見しました。さらに、Ba(バリウム)を3%添加したCa(NH2)2にルテニウムを固定した触媒(Ru/Ba-Ca(NH2)2)では、700時間(約1ヵ月)以上に亘り反応を行っても触媒活性はほとんど低下せず極めて安定に働く触媒であることも明らかにしました。

アンモニアは窒素肥料原料として膨大な量が生産されており、最近では水素エネルギーキャリアとしても期待が高まっています。本研究成果は、アンモニア合成プロセスの省エネルギー化技術を大幅に促進する結果であるといえます。従来から使われてきたルテニウム触媒の多くは、金属酸化物やカーボン材料などに固定されていました。本触媒では、窒素含有無機化合物であるカルシウムアミドを用いることで、ルテニウムと窒素が結合し、カルシウムアミド上に大きさのそろった平らな微粒子状でルテニウムが固定されます。このことにより低温で高活性かつ安定な触媒活性が発現しました。

本研究成果は米国科学誌「エーシーエス・キャタリシス(ACS Catalysis)」オンライン速報版に2016年10月8日午前0時(日本時間)に公開されました。

本成果は、以下の事業・研究開発課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 ACCEL

研究開発課題名:
「エレクトライドの物質科学と応用展開」
研究代表者:
東京工業大学 元素戦略研究センター センター長 細野秀雄
プログラムマネージャー:
科学技術振興機構 横山壽治
研究開発実施場所:
東京工業大学
研究開発期間:
平成25年10月~平成30年3月

研究の背景と経緯

人工的にアンモニアを合成する技術は、約100年前にハーバーとボッシュによって初めて見いだされ、この技術(ハーバー・ボッシュ法、以下「HB法」という)は工業化された現在でも、人類の生活を支えるために必要不可欠となっています。また、アンモニア分子は分解することで多量の水素発生源となり、かつ室温、10気圧で液体になることから、燃料電池などのエネルギー源である水素運搬の物質としても期待されています。

一方、HB法は高温(400~500 ℃)、高圧(100~300気圧)の条件が必要であるため、温和な条件下でのアンモニア合成技術が求められています。

アンモニア合成触媒として、アルカリ金属やアルカリ土類金属の酸化物を添加した鉄やルテニウムなどの触媒が用いられてきました。しかし、300 ℃以下の低温度領域では効率よく働く触媒は見いだされていませんでした。

本研究グループは、2012年に12CaO・7Al2O3エレクトライド(C12A7:e-[用語2]にルテニウムを固定した触媒が、低温で高活性を示すことを見いだしました。ところが、この触媒の表面積が1 m2/gと小さいため、単位重量あたりの触媒性能が低いという問題点がありました。

研究成果

同研究グループは、窒素含有無機化合物であるカルシウムアミド上にルテニウムを固定した触媒(Ru/Ca(NH2)2)を用いることで、300 ℃程度の低温度領域で従来のルテニウム触媒の10倍以上の高い触媒活性を示すことを見いだしました。

Ca(NH2)2自体は熱的に安定ではなく、図1に示すように、340 ℃で窒素と水素の混合ガス雰囲気下で加熱するとアンモニアを生成しながら分解してしまうので、触媒として持続してアンモニアを生成することはできません。ところが、Ca(NH2)2上にルテニウムを固定すると、長時間にわたって安定してアンモニアを生成し、触媒として機能することがわかりました。このとき、ルテニウムはCa(NH2)2の窒素と結合し、ルテニウムと窒素の強い相互作用によってCa(NH2)2上に平らな微粒子状体で固定されることが高エネルギー加速器研究機構のX線吸収微細構造(XAFS)[用語3]解析や電子顕微鏡観察によって明らかとなりました(図1)。また、Ru/Ca(NH2)2触媒のアンモニア合成に対する活性化エネルギー[用語4]は、59 kJ/molであり既存のルテニウム触媒(Cs-Ru/MgO、113 kJ/mol)の約半分でした。この値はRu/C12A7:e-触媒(50 kJ/mol)と同程度であることから、担体からの電子注入効果が効いており、Ru/C12A7:e-触媒と同様に窒素分子の解離が反応を遅らせずにアンモニア合成を進行させることが示されました。

(左)カルシウムアミドおよびカルシウムアミドにルテニウムを固定した触媒を用いたアンモニア合成反応(Ru担持量:8wt%,反応条件:340 ℃,0.1 MPa)、(中)カルシウムアミドにルテニウムを固定した触媒の電子顕微鏡画像、(右)さまざまな担持量でルテニウムを固定したカルシウムアミドのRuK殻EXAFSフーリエ変換スペクトル。ルテニウムの担持量をwt%で表わしている。
図1.
(左)カルシウムアミドおよびカルシウムアミドにルテニウムを固定した触媒を用いたアンモニア合成反応(Ru担持量:8wt%,反応条件:340 ℃,0.1 MPa)、(中)カルシウムアミドにルテニウムを固定した触媒の電子顕微鏡画像、(右)さまざまな担持量でルテニウムを固定したカルシウムアミドのRuK殻EXAFSフーリエ変換スペクトル。ルテニウムの担持量をwt%で表わしている。

340 ℃で反応時の圧力を変化させてアンモニア合成反応を調査すると、これまでに報告されたルテニウム触媒では、触媒活性はほとんど増大しないことがわかります(図2)。これは、ルテニウム表面が解離吸着した水素原子によって覆われる現象によって、触媒としての機能つまり窒素を解離させる機能が阻害されるためであることが知られています(水素によって触媒機能が削がれる被毒効果)。一方、カルシウムアミドにルテニウムを固定した触媒では、圧力に依存して触媒活性が大きく向上することがわかりました(図2)。これは、Ru/Ca(NH2)2触媒が水素によって能力を削がれていないことを示しています。また、アンモニアは、液化して回収する方が、工業的に利点が大きいため、ある程度加圧した条件(10気圧(約1 MPa)程度)で効率よく働く触媒は、実用的な観点からも意義が大きいことがわかります。

340 ℃でさまざまな圧力条件下で行ったアンモニア合成反応の結果

図2. 340 ℃でさまざまな圧力条件下で行ったアンモニア合成反応の結果

赤:ルテニウムを固定したカルシウムアミドの触媒性能、青:ルテニウムを固定したセシウム添加MgOの触媒性能

表1に、各触媒を用いて加圧条件下でアンモニア合成を行った結果をまとめました。Ru/Ca(NH2)2は、300 ℃程度の低温で他の触媒よりも10倍以上活性が高いことがわかります。また、この活性はRu/C12A7:e-触媒の400 ℃での触媒活性に匹敵することも明らかとなりました。

表1. 各触媒を用いさまざまな反応条件でアンモニア合成を行った結果

Catalyst
表面積
(m2g-1
NH3生成速度
(mmol g-1 h-1
出口NH3濃度
(%)
反応条件
WHSV(ml/gh)
Ru(10%)/Ca(NH2)2
50
31.7
2.2
340 ℃, 0.8 MPa
36,000
Ru(10%)/Ca(NH2)2
50
15.8
1.1
300 ℃, 0.8 MPa
36,000
Cs-Ru(10%)/MgO
20
1.28
0.087
300 ℃, 0.8 MPa
36,000
Ru(2%)/C12A7:e-
1
0.34
0.023
300 ℃, 0.8 MPa
36,000
Ru(2%)/C12A7:e-
1
8.2
1.1
400 ℃, 1 MPa
18,000

さらに、340 ℃大気圧下で長時間にわたるアンモニア合成の触媒活性を調べた結果を図3に示します。Cs-Ru/MgO触媒は100時間程度の間に急激に活性が低下しますが、Ru/Ca(NH2)2触媒はCs-Ru/MgO触媒に比べ、安定な触媒活性を示したあとで、徐々に活性の低下がみられました。

340 ℃長時間アンモニア合成反応を行った結果

図3. 340 ℃長時間アンモニア合成反応を行った結果

赤:ルテニウムを固定したバリウムドープカルシウムアミドの触媒性能、黒:ルテニウムを固定したカルシウムアミドの触媒性能、青:ルテニウムを固定したセシウム添加MgOの触媒性能

Ba(バリウム)を3%添加したCa(NH2)2にルテニウムを固定した触媒(Ru/Ba-Ca(NH2)2)では、700時間(約1ヵ月)以上触媒活性が低下せず安定してアンモニアを生成できることも明らかになりました。

今後の展開

本触媒は、低温微加圧条件下で優れたアンモニア合成活性を示し、長期間安定して活性を保つことができます。今後、触媒の調製条件などを最適化することでさらなる活性向上が見込まれ、アンモニア合成プロセスの省エネルギー化に大きく貢献することが期待できます。

用語説明

[用語1] カルシウムアミド : Ca2+とNH2-から形成されるイオン性化合物。

[用語2] C12A7エレクトライド : C12A7は12CaO・7Al2O3(酸化カルシウムと酸化アルミニウム化合物)でセメントの材料。
エレクトライドは電子がアニオンとして働く化合物の総称。通常の物質とは異なるユニークな性質を持つのではと関心を集めていたが、あまりに不安定なため、物性がほとんど不明のままだった。細野グループは、2003年に直径0.5ナノメートル程度のカゴ状の骨格が立体的につながった結晶構造をしているアルミナセメントに構成成分の1つC12A7を使って、安定なエレクトライドを初めて実現した。
このエレクトライドは金属のようによく電気を通し、低温では超伝導を示す。またアルカリ金属と同じくらい電子を他に与える能力を持つにもかかわらず、化学的にも熱的にも安定というユニークな物性を持っている。

[用語3] X線吸収微細構造(XAFS) : 試料にX線を照射することにより、内殻電子の励起に起因して得られる吸収スペクトルであり、測定したい元素の価数や配位構造などの情報が得られる解析手法である。

[用語4] 活性化エネルギー : 反応の出発物質の基底状態から遷移状態に励起するのに必要なエネルギーのことであり、このエネルギーが小さいほど、その反応は容易になる。反応中に触媒が存在することで、活性化エネルギーを下げることが可能となる。

論文情報

掲載誌 :
ACS Catalysis
論文タイトル :
"Efficient and Stable Ammonia Synthesis by Self-Organized Flat Ru Nanoparticles on Calcium Amide"
(カルシウムアミド上に自己組織化された平らなルテニウムナノ粒子による高効率かつ安定なアンモニア合成)
著者 :
Yasunori Inoue, Masaaki Kitano, Kazuhisa Kishida, Hitoshi Abe, Yasuhiro Niwa, Masato Sasase, Yusuke Fujita, Hiroki Ishikawa, Toshiharu Yokoyama, Michikazu Hara, Hideo Hosono
DOI :

お問い合わせ先

研究に関すること/触媒物質について

東京工業大学 元素戦略研究センター センター長
科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所
教授 細野秀雄

E-mail : hosono@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5009 / Fax : 045-924-5196

触媒反応について

科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所
教授 原亨和

E-mail : mhara@msl.titech.ac.j
Tel : 045-924-5311 / Fax : 045-924-5381

JST事業に関すること

科学技術振興機構 戦略研究推進部 ACCELグループ
寺下大地

E-mail : suishinf@jst.go.jp
Tel : 03-6380-9130 / Fax : 03-3222-2066

取材申し込み先

科学技術振興機構 広報課

E-mail : jstkoho@jst.go.jp
Tel : 03-5214-8404 / Fax : 03-5214-8432

東京工業大学 広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

高エネルギー加速器研究機構
広報室長 岡田小枝子

E-mail : press@kek.jp
Tel : 029-879-6046 / Fax : 029-879-6049

西田亮介准教授が社会情報学会優秀文献賞を受賞

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本学リベラルアーツ研究教育院 社会・人間科学系の西田亮介准教授の著書である『メディアと自民党』(角川新書)が、社会情報学会優秀文献賞に選出されました。

社会情報学会は2つの「日本社会情報学会」を土台に2012年に発足し、情報現象の過程・構造や、情報技術の進展と社会との関係等を、理論実証の両面から解明することを目指し順調に発展してきました。本学会では学会賞として9つの表彰区分があります。そのうちの1つである優秀文献賞は、著書、翻訳、論文等で、社会情報関係諸学の発展に特に貢献のあったと認められる文献につき表彰されるものです。

西田准教授のコメント

西田亮介准教授と著書『メディアと自民党』(角川新書)
西田亮介准教授と著書『メディアと自民党』(角川新書)

『メディアと自民党』は、ともすれば我々が信頼し、そのまま字句通りに受け取ってしまいがちなメディア上の言説に対して、政治がどのように向き合い、影響しているのか、その歴史的背景はどのようなものかといった主題を、多くの取材や資料をもとにして分析した一冊で、これまでも同書をきっかけに多くのメディア業界の実務家らが研究室に訪ねてきてくれました。今回学界でも、このように評価されたことを嬉しく思っています。今後もメディア研究と実務の双方で評価いただける成果を出すべく精進します。

リベラルアーツ研究教育院

リベラルアーツ研究教育院 ―理工系の知識を社会へつなぐ―
2016年4月に新たに発足したリベラルアーツ研究教育院について紹介します。

リベラルアーツ研究教育院(ILA)outer

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

リベラルアーツ研究教育院事務室

E-mail : libarts@jim.titech.ac.jp

オートファジー-ノーベル賞を受賞した大隅栄誉教授の研究とは

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ノーベル生理学医学賞を受賞した大隅栄誉教授の研究「オートファジー」の概要、研究への想いや研究室の様子をご紹介します。

2016年3月に発行した広報誌『Tech Tech-テクテク-』29号で特集した「オートファジー 命をつなぐ細胞内のリサイクル機能」を、今回の受賞を受けて再掲します。

オートファジー 命をつなぐ細胞内のリサイクル機能

年間3,000本以上の研究論文が発表される生物学のテーマがある。

「自ら(Auto)」を「食べる(Phagy)」という意味を持つ「オートファジー(Autophagy)」だ。

パーキンソン病など神経変性疾患にも関係すると言われ、
その研究は今、世界中で大きな注目を集めている。

細胞

大隅良典東京工業大学栄誉教授

Yoshinori Ohsumi

大隅 良典

東京工業大学 栄誉教授

科学技術創成研究院
細胞制御工学研究ユニット
ユニットリーダー

略歴

オートファジーの仕組み

細胞中に膜が現れ、分解対象となる細胞質成分を包み込んで二重膜構造体の「オートファゴソーム」を形成する。その外膜が液胞膜と融合し、内膜構造体「オートファジックボディ」が液胞内へ。液胞内の分解酵素が内膜を破壊し、内容物も分解される。

オートファジーの仕組み

小さな細胞内で繰り広げられるダイナミックな生命活動

生命活動に必要なタンパク質は、DNAに従って合成されている。分子生物学の基本概念となる「セントラルドグマ」だ。この緻密なプロセスによって、体内では1日におよそ200 gのタンパク質が作られる。材料となるアミノ酸は、食べ物から消化・吸収するが、人間が摂取しているタンパク質の量は70 gほど。足りない分は、一体どこから調達しているのだろうか。

その答えを解くカギのひとつが、今回取り上げる「オートファジー」である。細胞が自らの細胞質成分(合成したタンパク質など)を食べて分解することでアミノ酸を得る機能で、細胞内の「リサイクルシステム」とも言われている。

例えば1日絶食すると、肝臓の体積は約7割に縮小するという。絶食時、肝臓では生命を維持するためにオートファジーが活発に行われているのである。数日間食べなくてもすぐに死んでしまうことがないのは、このためだ。

脇役だった「液胞」への着目が
オートファジー研究の扉を開ける

毎秒300万個つくられる赤血球

人間の体を形成する細胞は、およそ60兆個。「へぇ」と驚いたその1秒間で、例えば赤血球だけでも300万個が作られ、同じ数だけ壊される。天文学的規模でのダイナミックな活動が、あなたの体で、絶え間なく繰り返されている。

近年注目が高まるオートファジーだが、その歴史は半世紀以上前に遡る。名づけ親は、ベルギーの生化学者のクリスチャン・ド・デューブ博士。博士は細胞分画法によって、リソソームやペルオキシソームといったオルガネラ(細胞内小器官)を発見。その後リソソームの持つ加水分解酵素によって同じ細胞内の細胞質成分が分解されている様を確認し、オートファジーを提唱した。しかし生化学的解析などの技術的問題から、そのメカニズムなどはわからぬまま、研究は何十年もの間、進展を見せなかった。

1992年、オートファジー研究を長い眠りから呼び覚ます人物が現れた。東京工業大学フロンティア研究機構の大隅良典栄誉教授である。大隅栄誉教授は酵母を用いて、オートファジーの全容を光学顕微鏡(肉眼)で初めて観察し、電子顕微鏡でその過程を解明。翌年からオートファジーにかかわる遺伝子の特定に取り掛かり、14の主要な遺伝子「ATG(AuTophaGy)遺伝子」を発見した。

もともと大隅栄誉教授が研究していたのは、酵母における液胞の働きだった。液胞は、植物では細胞全体の約90%を占めるにもかかわらず、1980年代当時「不活性なオルガネラで、細胞内にあるゴミ溜め」程度にしか考えられていなかった。「誰も注目していなかったから」と液胞を研究テーマにした理由を語る大隅栄誉教授は顕微鏡観察が大好きなのだと言う。液胞は、光学顕微鏡で見ることができる唯一のオルガネラだった。

大隅栄誉教授は、液胞がリソソーム同様に分解酵素を豊富に含んでいることから、分解する働きを持っていると予測した。「液胞に分解機能があるとすれば、飢餓状態でもっとも活発に働くはず。液胞内での分解を止めれば、何がどう分解されるのかわかるのではないか」と考え、あえて分解酵素が欠損している酵母を用意し、飢餓状態の液胞を観察していた。すると液胞内で、小さな粒々が激しく動き回っているのを確認。それは細胞質成分が液胞内に次々に取り込まれている様子であった。この発見から、電子顕微鏡などを使ってさらに研究を進めていく。オートファジーでは、まず膜が現れて、細胞質成分を包み込み「オートファゴソーム」を形成することや、それを液胞内に取り込んで分解しているという全容を明らかにしていった。

細胞を壊して遠心分離機にかけ、オルガネラを種類ごとに集める方法
全長約5 μmの酵母内部を観察する

全長約5 μmの酵母内部を観察する

光学顕微鏡の約500倍の拡大率を持つ電子顕微鏡を使う酵母内部の観察には、下処理が必要になる。液体窒素で瞬間凍結し、生きた状態で固定した酵母の集団を樹脂に埋め込む。これを50 nmの薄さで切断できる「マイクロトーム」でスライスする。

オートファゴソームの連続切片(スライスした断面)。ちょうどよいところで切れた断面(写真左)は、膜がクリアに見える。少しずれると(写真右)、膜がはっきり観察できない。

オートファゴソームの連続切片(スライスした断面)。ちょうどよいところで切れた断面(写真左)は、膜がクリアに見える。少しずれると(写真右)、膜がはっきり観察できない。

オートファジーの分子機構を明らかにするため、大隅栄誉教授は次のような方法で研究を展開した。まず薬品処理によって、酵母のDNAにランダムに傷をつける。するといろんな箇所の遺伝子に傷が入った酵母の集団ができるので、そこから“オートファジーが起こらない”変異株を光学顕微鏡でひとつひとつ地道に探す。この実験で、14個のATG遺伝子=オートファジーにかかわる遺伝子が特定されることになる。後の研究でATG 遺伝子は全18個とされた。

期待が高まる一方、基本メカニズムは依然謎だらけ

ATG遺伝子が特定され、これらの遺伝子で合成されるタンパク質(Atgタンパク質)がわかったことで、研究は一気に広がりを見せた。哺乳類などの動物細胞におけるオートファジー研究が世界中で行われ、ガン細胞の抑制や病原体の排除、細胞内の浄化など、飢餓への適応以外のさまざまな生理機能とのかかわりが続々と明らかになってきた。

その一方で、大隅栄誉教授は根本メカニズムを解明するという基礎研究にこだわる。「ガンを治すために、ガン細胞の研究だけをすれば原因がわかるのかといえば、生物学はそんなに単純ではありません。根本的に細胞の機能を解明するのが私の使命だと思っています」

2014年まで大隅研究室に所属し、現在は大学院生命理工学研究科 生体システム専攻に籍を置いて大隅研究室と共同でオートファジーの基礎研究に取り組んでいる中戸川仁准教授は「オートファジーで膜形成がどうなっているのか、そんな基本的なことすら、まだわかっていません。世界中でいろんなデータや成果が報告されていますが、実はみんなが納得できるモデルはあまりありません」と教えてくれた。

中戸川仁 准教授

Hitoshi Nakatogawa

中戸川 仁 准教授

生命理工学院 生命理工学系

2002年京都大学大学院理学研究科化学専攻博士後期課程修了。東京工業大学フロンティア研究機構特任助教、特任准教授、大学院生命理工学研究科生体システム専攻准教授を経て、2016年より現職。
「博士課程を修了した頃、学会で大隅先生の講演を聴講。なんて魅力的な現象だろうと感動して以来10年以上、オートファジーの研究を続けています」

研究室研究者情報

中戸川准教授の研究テーマは、オートファゴソームの「膜形成機構」と、その膜がどのように分解対象を見つけるのかという「標的の認識機構」である。標的認識に関しては、2014年にオルガネラの中でも重要な核と小胞体の選択的オートファジーにかかわるタンパク質を特定。その研究結果は英ネイチャー誌に掲載された。

「オートファジーはただ無差別に細胞質成分を分解するだけではなく、分解の標的上に『目印タンパク質』(=受容体)を提示して選択的に行うこともあります。今回の発見で、Atg39は核の、Atg40は小胞体の目印として機能することがわかりました。では、なぜ選択的に分解する必要があるのか、は次の段階。これから解明していきたいですね」(中戸川准教授)

一人ひとりの研究が、大きな謎の解明につながる

膜がどう作られ、どのように分解対象物を判断するのか。この基本メカニズムを解明するには、各段階におけるタンパク質の機能を根気強く調べ上げていく必要がある。

学生たちもまた、それぞれに謎を追っている。「複合体で膜形成にかかわっているとされるAtg12/5/16の3つのタンパク質を扱います。別のタンパク質の機能を促進する働きを持っていることまではわかっていますが、具体的にどんな挙動を示すのかを調べています」と中戸川研究室の原田久美さんは自身の研究を説明する。「最近の研究では、Atgタンパク質以外のタンパク質もオートファジーにかかわっている、といった報告が相次いでいます。僕の場合は、一般的な生体膜形成で働くタンパク質が、オートファジーではどの段階でどう機能しているのか。その関連性を研究しています」大隅研究室の志摩喬之さんは基礎研究を選択した理由を続ける。「誰かがやらないといけないことだと思うんです」

クリアな答えを「酵母」で見つける

こうした東工大の一連の研究は、すべて酵母で行われている。

「基本的な問題を解くには、酵母が最適。ヒトの遺伝子の染色体は2組になっていますから、一方に不全が起こってももう一方がカバーするので見つかりにくい。酵母の半数体は染色体が1組なので遺伝子に変化が起こるとすぐに表現型として現れます」(大隅栄誉教授)

また中戸川准教授も「哺乳類の場合、多細胞生物なので、どういった組織の細胞を使うかによって、結果が左右される場合もある」と言う。

まずは、酵母のような「シンプルな生き物で、クリアな答えを出す」「根本にある分子メカニズムを明らかにする」―言葉の端々に、何十年か先の思いもよらぬ役立ち方や、大きな発見につながる“科学”を担っているのだという自負が滲む。

「科学は人類の長い営みの上に成り立つもの。私も一人の研究者として、この歴史的な活動を少し嵩上げできればいいと思っています。今は研究が『すぐに役に立つか』という基準で語られることが多い。社会や若い人もそうですね。オートファジーがきちんと解明されるまでには、あと50年はかかるかもしれません。でも私自身はもう研究をやめていいなという気にはなりません」(大隅栄誉教授)

酵母には、染色体が1組の半数体の世代と、2組になる二倍体の世代があり、この周期を生活環という

根本的な問いへの探求心から、
パラダイムシフトが生まれる

大隅栄誉教授らのオートファジー研究は、共同研究なしには語れないという。「構造を全部決めようよ」を合言葉に、北海道大学の稲垣冬彦教授をはじめとする研究者同士の、息の長い信頼関係があったからこそ進めることができた。そこにあるのは、利害関係でなく「根本を突き止めたい」という共通の純粋な欲求だ。

最後に、大隅栄誉教授に地道な研究のなかで発見や気づきを継続していくコツについて聞いた。

「実験の9割は失敗ですし、心が折れそうになることばかりです(笑)。ただ、その人がそれまでの知識でわかることや想像できる結果は、実はたいしたものではありません。失敗の過程で、違う発見があるんだと、気持ちに余裕を持って進んでいると、あるときそこをポンと飛び越えるパラダイムシフトが起こせるのではないでしょうか」

左:蛍光顕微鏡を使い、特定のタンパク質の細胞内での挙動を観察。右:シーソーのような動きで、ゲルなどの染色や脱色を行うシェーカー(振とう器)や、超高速で回転する遠心機(遠心分離機)などが、研究室のあちらこちらで稼働している。

左:蛍光顕微鏡を使い、特定のタンパク質の細胞内での挙動を観察。
右:シーソーのような動きで、ゲルなどの染色や脱色を行うシェーカー(振とう器)や、超高速で回転する遠心機(遠心分離機)などが、研究室のあちらこちらで稼働している。

志摩 喬之

Student Interview 01

志摩 喬之(しま・たかゆき)

大学院生命理工学研究科
生命情報専攻 博士後期課程3年
(取材当時)

大隅先生って?大隅先生
今でも時折先生ご自身でピペットマンを握って実験をされる姿を見かけることもあります。
中戸川先生って?中戸川先生
真面目で穏やか。学生との距離感が近く、研究を進める際にもとても議論がしやすいです。
将来の夢や目標は?
大隅先生や中戸川先生のように、何かしらの分野を開拓していけるような人になりたいです。誰も解き明かしていない謎に対して、挑戦していきたいと思っています。

原田 久美

Student Interview 02

原田 久美(はらだ・くみ)

大学院生命理工学研究科
生命情報専攻 博士後期課程3年
(取材当時)

大隅先生って?大隅先生
研究者としてはものすごく遠い憧れの存在。でも普段は学生にもフラットで優しい先生。
中戸川先生って?中戸川先生
研究室では、先生用のデスクスペースを設けずに、学生と肩を並べてお仕事されています。
将来の夢や目標は?
自分の研究が、いつか何かの役に立つ基盤になればと思います。語学にも興味があるので、自分の能力を活かしながら世界中の人たちと仕事がしたいです。
2016年10月時点の略歴を掲載しています。

オートファジーに関する研究成果

大隅良典栄誉教授 関連リンク集

称号授与

受賞

メディア出演

関連ニュース

関連サイト

生命理工学院

生命理工学院 ―複雑で多様な生命現象を解明―
2016年4月に新たに発足した生命理工学院について紹介します。

生命理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

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