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東京工業大学COIサイトビジット2016 開催報告

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東京工業大学では、「『以心電心』ハピネス共創社会構築拠点」が、文部科学省・国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)による「革新的イノベーション創出プログラム(センター・オブ・イノベーション、以下COI STREAM)」のCOI拠点に採択されています。

6月6日に大岡山キャンパスの石川台7号館にて、ビジョナリーチーム(ビジョン2:豊かな生活環境の構築(繁栄し、尊敬される国へ))によるサイトビジット(現地調査)が行われました。

COI STREAMでは、現在潜在している将来社会のニーズから導き出される社会のあるべき姿、暮らしのあり方(ビジョン)を設定し、拠点設計や拠点構成に係る検討等を行う「ビジョナリーチーム」を、ビジョンごとに設置しています。ビジョナリーチームは各拠点に対して、活動成果や研究開発の進捗状況の把握、拠点構想に対する意見聴取等を行うことを目的に、サイトビジットを実施しています。

当日は、科学技術振興機構COIビジョナリーチーム・ビジョン2の横田昭ビジョナリーリーダー、文部科学省科学技術・学術政策局の坂本修一課長をはじめ、多くの方が来訪しました。

JST、MEXT等からご来訪の方々
JST、MEXT等からご来訪の方々

一方、東工大側は、三島良直学長、安藤真理事・副学長(研究担当)をはじめ、『以心電心』ハピネス共創社会構築拠点の秋葉重幸プロジェクトリーダー、小田俊理研究リーダー(科学技術創成研究院 教授)、参加企業関係者、関係教員等が対応しました。

三島学長の開会挨拶に続き、秋葉プロジェクトリーダーと小田研究リーダーが、過去3年間のフェーズ1の活動実績の報告と今後3年間のフェーズ2に向けた方針説明を行いました。

三島学長の開会挨拶
三島学長の開会挨拶

その後、フェーズ2で本格化する社会実装に向けて、4つのサービス(情報想起、多言語意訳、存在感通信、およびつながり共創空間サービス)とそのプラットフォーム技術について、実装を担当する参加企業グループとこれに対応する本学教員グループが、それぞれの研究開発状況について報告しました。

研究開発状況の説明
研究開発状況の説明

午後からは「つながる以心電心ラボ」で研究成果のデモを行いました。

情報想起サービスのデモでは、東工大すずかけ台キャンパスにいる話し手の映像が実物さながらにスクリーンに投影され、質問に対応した回答がメール分析結果から提示され、会話が進展していく様子が示されました。

情報想起サービス(左)と存在感通信サービス(右)のデモの様子

情報想起サービス(左)と存在感通信サービス(右)のデモの様子

情報想起サービス(左)と存在感通信サービス(右)のデモの様子

存在感通信サービスのデモでは、遠隔地の話し手がリアルな映像として表現される方法と、隣に座っているアバターロボットが話し手になりかわり身振り手振りを含めて会話する2つの方法が紹介されました。

共感度の可視化(左)と充電レスセンサ(右)のデモ

共感度の可視化(左)と充電レスセンサ(右)のデモ

共感度の可視化(左)と充電レスセンサ(右)のデモ

続いて、つながり共創空間サービスに関する4つのテーマに関するデモです。最初にコミュニケーションにおける共感度を可視化する方法、2つ目は天井からの無線給電を受け充電レスで多軸超小型センサを動作させるデモ、3つ目はバーチャルリアリティを利用した感性の計測、そして4つ目は脳計測を目指したダイヤモンド量子センサの生体磁気計測への応用に関して行いました。いずれも人の感性を科学的に分析したり、それを支える技術として重要なものです。

感性の計測(左)とセンサデバイス脳磁計(右)のデモ

感性の計測(左)とセンサデバイス脳磁計(右)のデモ

感性の計測(左)とセンサデバイス脳磁計(右)のデモ

その後、これからのプロジェクト遂行上の留意点について報告をしました。社会実装に向けた課題の抽出と対応、サイエンスカフェによるCOI STREAM活動の一般の人々への理解、個人情報保護法と本プロジェクトの関係について述べ、そして今後も継続してプラットフォーム構築を推進することを表明しました。

今回のサイトビジットに対する科学技術振興機構、および文部科学省の幹部から講評をいただき、最後に、閉会の挨拶として安藤理事・副学長(研究担当)が東工大におけるCOI STREAMの位置付けと本日のお礼を述べ、サイトビジットは無事終了しました。

横田ビジョナリーリーダーの講評(左)と、安藤副学長の閉会の挨拶(右)

横田ビジョナリーリーダーの講評(左)と、安藤副学長の閉会の挨拶(右)

横田ビジョナリーリーダーの講評(左)と、安藤副学長の閉会の挨拶(右)

6時間にわたる長丁場となりましたが、今回いただいた講評を参考に、フェーズ2となる社会実装を推進していきます。

お問い合わせ先

『以心電心』ハピネス共創研究推進機構

Email : coi.info@coi.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3562


東工大を含むECM共同研究開発チームが平成28年度環境賞優秀賞を受賞

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東京工業大学を含むECM(エネルギー・CO2ミニマム)共同研究開発チームが平成28年度環境賞優秀賞を共同受賞しました。

株式会社竹中工務店、鹿島建設株式会社、日鉄住金高炉セメント株式会社、株式会社デイ・シイ、太平洋セメント株式会社、日鉄住金セメント株式会社、竹本油脂株式会社、国立大学法人東京工業大学

「環境賞」は、環境保全や環境の質の向上への貢献が認められる成果、または貢献が期待される成果をあげた個人、法人、団体・グループ等を対象に、1974年に創設された環境分野で最も歴史のある賞です。環境省の後援を受けて、国立研究開発法人国立環境研究所と日刊工業新聞社が主催し、広く環境意識の啓発を図ることを目的としています。

受賞名「ECMセメント・コンクリートシステムの開発」

「ECMセメント」は、鉄鋼製造の副産物である高炉スラグ微粉末を60~70%混合し、従来のセメントに比べて製造時のエネルギー消費量と二酸化炭素(CO2)排出量を60%以上削減しました。品質、耐久性、施工性などの課題を克服し、建築物の要求性能に応じたコンクリート構造物にする技術も確立しました。開発成果は2019年から段階的に公開し、25年に一般公開して汎用技術として普及させる計画です。高炉スラグの有効利用による資源循環効果もあり、サステナブル社会(持続可能な社会)の実現につながります。今回の受賞では、上記研究成果により、特に低炭素型の混合セメントの可能性を広げた点が評価されました。

環境賞優秀賞受賞の坂井悦郎教授環境賞優秀賞受賞の坂井悦郎教授

坂井教授のコメント

本受賞にかかる研究開発に関わった本学物質理工学院材料系の坂井悦郎教授は以下のようにコメントしています。

この研究は、国立研究開発法人「新エネルギー・産業技術総合開発機構」(NEDO)の助成のもと、2008年から先導研究 (通算期間:2年8ヵ月)および実用化開発(通算期間:2年7ヵ月)として実施したものです。基礎研究の大学および材料製造のセメント会社と使用者である建設会社が連合し、材料開発から実用化研究までを一貫してグループとして実施したことが特徴です。日本でも例のない研究体制です。材料、施工、構造と統合的な検討を行うために個別の検討会と総合検討会を組織し、綿密な情報交換を行って研究を進めたことが早期の実用化に結びついたと思います。高炉スラグの反応の研究は、私以前に近藤連一先生と大門正機先生と私どもの研究室で引き継がれて来た研究です。今回の成果のように実用化に結びついたことは非常に喜ばしいことです。また、研究の連続性が大切だとあらためて思っています。

物質理工学院

物質理工学院 ―理学系と工学系、2つの分野を包括―
2016年4月に新たに発足した物質理工学院について紹介します。

物質理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

物質理工学院材料系 坂井悦郎

E-mail : esakai@ceram.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3368

組織の再生における線維芽細胞増殖因子(Fgf)シグナルの働きを解明―ほ乳類の手足の再生に手がかり―

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要点

  • 私たちほ乳類は手足などの器官を再生することはできないが、一部の両生類や魚類は、四肢やヒレを失っても元通りに再生できる。
  • このような大がかりな器官そのものの再生を可能にしている維芽細胞増殖因子(Fgf)シグナル[用語1]の働きを解明した。
  • まず傷ついた上皮で活性化される上皮Fgfが、未分化細胞(再生芽[用語2])を切断面に誘導し、さらに再生芽で活性化される別のFgfが細胞増殖を促すという2段階の働きで再生が進むことを突き止めた。

概要

東京工業大学生命理工学院の柴田恵里大学院生と川上厚志准教授らの研究グループは、小型熱帯魚のゼブラフィッシュのヒレをモデルとした再生メカニズムの研究から、組織再生におけるFgfの働きには、再生芽を誘導する上皮Fgfと、細胞増殖を活性化する再生芽Fgfの2つがあり、これらが協調することで、組織再生が進むことを解明した。

組織再生にFgfシグナルが必要なことは知られていたが、どのような役割を果たしているのか不明であった。本研究は、20以上あるFgfのうち、再生初期に上皮に発現するFgf20aが間充織細胞[用語3]を再生芽へと誘導し、次に、再生芽が形成されると、Fgf3などの再生芽Fgfが細胞増殖を活性化することを解明した。
この成果は、ほ乳類の手足再生を実現するための重要な手がかりとなることが期待される。

研究成果は、英国の生命科学誌「ディベロップメント(Development)」のオンライン版に2016年7月5日に公開された。

背景

私たちほ乳類は事故などで失った手足などの器官を再生することはできないが、一部の両生類や魚類は、四肢やヒレを失っても元通りに再生することが200年以上も前から知られてきた。しかし、ごく最近まで、組織が再生するメカニズムについての研究は進んでいなかった。近年、分子生物学的な解析が飛躍的に発展し、組織再生にかかわる分子やシグナルが明らかにされてきた。Fgfシグナルも再生に必要なシグナルであることが示されていたが、Fgfシグナルがどのような役割を果たすことで再生が進むのか不明であった。

研究成果

脊椎動物のFgf遺伝子は20以上存在する。本研究では、再生中に発現するFgfを探索し、再生初期にはFgf20aのみが上皮で発現し、再生芽形成後では、Fgf3とFgf10aが再生芽で発現することを明らかにした。

次に、37℃でヒートショックを与えるとFgfシグナルを受容できなくなるように遺伝子操作されたトランスジェニック[用語4]のゼブラフィッシュから、ヒレの細胞を取り出して正常な魚へ移植して、再生中の組織でのFgfシグナルの働きを調べた。その結果、再生初期のシグナルは間充織細胞を再生芽細胞へと変化させるのに必要であり、また、再生芽形成後のシグナルは再生芽細胞の増殖に必要なことがわかった。

これらのことから、Fgf20aが再生芽誘導を、Fgf3またはFgf10aが細胞増殖をそれぞれ指令していると考えられた。そこで実際に、Fgf20aとFgf3について、これらの作用を、それぞれのFgfを強制的に発現させるトランスジェニックのゼブラフィッシュを用いて調べた結果、予想したとおり、Fgf20aは再生芽誘導を、Fgf3は細胞増殖を促進することが示された。

これらの結果から、組織再生におけるFgfシグナルの役割は1つではなく、傷ついた上皮で活性化される初期のFgf20aが、直下の間充織細胞を再生芽細胞へと変化させ、再生芽は次の指令センターとして、Fgf3を発現して細胞の増殖を調節していることが明らかとなった(図)。

再生におけるFgfシグナルの2段階の働き

図. 再生におけるFgfシグナルの2段階の働き

今後の展開

本研究の結果、傷ついた上皮でのFgf20aの活性化が、再生芽を誘導するカギであることが明らかになった。上皮から始まり細胞増殖に至るFgfの2段階の作用が、魚類などで組織再生を可能にしている重要なメカニズムの1つと考えられる。

Fgf20もFgf3もすべての脊椎動物種に存在している。どのようにして傷ついた上皮がFgf20a活性化を起こすのか?細胞増殖から、形態や機能の再生へと至る仕組みは?これらを解明していくことで、ヒトをはじめとするほ乳類での手足再生も現実的となることが期待される。

用語説明

[用語1] 線維芽細胞増殖因子(Fgf)シグナル : Fgfは成長因子の一種。細胞表面の受容体に結合し、細胞内のシグナル伝達を通じて、広範囲な細胞や組織の増殖や分化過程、血管新生、創傷治癒、胚発生などに関係する。

[用語2] 再生芽 : 動物の組織再生で、初期に切断面に作られる未分化の細胞からなる突起。

[用語3] 間充織細胞 : 発生過程または成体で組織間の間隙を埋める細胞。細胞タイプや分化状態は明瞭でない細胞を総称していう。

[用語4] トランスジェニック : 遺伝子組換え動物、遺伝子改変動物。外部から特定の遺伝子を人為的に導入した動物。

論文情報

掲載誌 :
Development
論文タイトル :
Fgf signalling controls diverse aspects of fin regeneration
著者 :
Eri Shibata, Yuki Yokota, Natsumi Horita, Akira Kudo, Gembu Abe, Koichi, Kawakami, Atsushi Kawakami
DOI :

生命理工学院

生命理工学院 ―複雑で多様な生命現象を解明―
2016年4月に新たに発足した生命理工学院について紹介します。

生命理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

問い合わせ先

研究成果に関するお問い合わせ

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系
准教授 川上厚志

Email : atkawaka@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5717 / Fax : 045-924-5718

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

NHK BS1「経済フロントライン」に情報理工学院の小池英樹教授が出演

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本学、情報理工学院の小池英樹教授が、NHK BS1で放送される「経済フロントライン」に出演します。

「もうすぐオリンピック!」をテーマとした番組内で、小池教授らが開発した「BallCam」が紹介されます。
アメリカンフットボール用の楕円球にカメラを搭載し、ボール視点の映像を撮影できる「BallCam」。選手のトレーニングやスポーツ観戦のエンターテイメント性向上にも寄与する技術として注目されています。

BallCam

BallCam断面

BallCam

小池英樹教授のコメント

小池英樹教授
小池英樹教授

“ボール視点でスポーツを見たい”と言うのは簡単ですが、実現には様々な技術的課題があります。

私たちの研究室ではカメラ内蔵ボールを試作し、高度画像処理技術を用いてボール視点映像合成に取り組んでいます。

目標は2019年ラグビーワールドカップと2020年東京オリンピックです!

  • 番組名
    NHK BS1 「経済フロントライン」
  • タイトル
    もうすぐオリンピック!
  • 放送予定日
    7月23日(土)22:00~22:50

情報理工学院

情報理工学院 ―情報化社会の未来を創造する―
2016年4月に新たに発足した情報理工学院について紹介します。

情報理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

問い合わせ先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

深海底のレアアース資源の生成条件を新たなデータ科学的手法により解明

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発表のポイント

  • 太平洋・インド洋の深海堆積物の化学組成データを統計的に解析し、レアアース泥の生成が堆積速度に支配されていることを明らかにしました。
  • 脳科学・情報科学分野で発展した独立成分分析を応用して大量のデータからレアアース濃集に関与する成分を抽出し、その時空間分布を可視化しました。
  • 将来の開発が期待される海底鉱物資源の成因解明により、広大な海洋で資源ポテンシャルの高い有望域を絞り込むための、理論的な探査指針を提供できるようになります。

発表概要

東京大学大学院工学系研究科の加藤泰浩(かとう やすひろ)教授、安川和孝(やすかわ かずたか)助教、中村謙太郎(なかむら けんたろう)准教授、千葉工業大学次世代海洋資源研究センターの藤永公一郎(ふじなが こういちろう)上席研究員と海洋研究開発機構地球内部物質循環研究分野の岩森光(いわもり ひかる)分野長(兼 東京工業大学 理学院 地球惑星科学系 特定教授)らの研究グループは、太平洋・インド洋から採取された膨大な数の深海堆積物(図1)の化学組成データを解析し、海底鉱物資源「レアアース泥[用語1]」の生成に関わっている複数の成分を統計的に分離・抽出しました。これらの成分の特徴を詳しく調べた結果、レアアース[用語2]の濃集を引き起こすためには、堆積速度[用語3]が非常に遅く、極めてゆっくりと物質が降り積もる環境が必要であることが明らかとなりました。将来の開発が期待されているレアアース泥は、現在こうした条件を満たす海域で海底面付近に分布していると考えられ、これは今後の資源探査における重要な探査指針となります。また、本研究では、レアアース濃集成分の時空間変動を世界で初めて可視化することにも成功しました。その結果、海底鉱物資源の生成が、数千万年という長い時間の中で、大陸の移動や地球の気候・環境変動と密接に関連してきたことが示されました。

深海堆積物を構成するさまざまな起源成分の概念図

図1. 深海堆積物を構成するさまざまな起源成分の概念図

発表内容

2011年、東京大学大学院工学系研究科の加藤泰浩教授らは、ハイテク産業に欠かせないレアアースを高濃度で含む深海堆積物(泥)が太平洋の深海底に広く分布することを発見し、それらを「レアアース泥」と名付けました。この発見以降、陸上鉱床と同等以上の総レアアース濃度(400 ppm以上)をもつ深海堆積物は一括してレアアース泥と呼ばれるようになりましたが、こうした深海堆積物の化学組成[用語4]には、レアアースの濃度を含めて非常に大きなバリエーションがあることが分かっていました。しかしながら、それが何に由来しているのか、また究極的に何がレアアースの濃集を支配しているのかについては、謎のままでした。

今回、本研究グループは、太平洋及びインド洋の広範囲をカバーする101の地点(図2)から採取された3,968の深海堆積物試料の化学組成データに対し、独立成分分析[用語5]と呼ばれる多変量解析手法を適用しました(図3)。独立成分分析は元々、脳科学分野に端を発する比較的新しい信号解析手法です。その応用範囲は脳波解析のほか、干渉電波の分離や画像処理など非常に多岐に渡っており、近年では地球科学分野でもその有用性が実証されつつあります。本研究では、さまざまな起源成分の混合によって作られている堆積物(図1)の化学組成データから、生物源炭酸カルシウム成分、生物源シリカ(ケイ酸塩)成分、火山起源成分、熱水起源成分、海水起源成分、生物源リン酸カルシウム成分などを統計的に分離・抽出しました(図4)。これらのうち、レアアース泥の生成と深く関連しているのは、熱水起源、海水起源、生物源リン酸カルシウムの3成分であることが分かりました。これは、それぞれの成分を個別に扱った複数の先行研究とも整合的な結果です。本成果により、これまでレアアース濃度のみを基準として定義されていたレアアース泥が、実は統計的に異なる3つの成分に分離されるということが初めて明らかになりました。

本研究で用いた試料の採取地点

図2. 本研究で用いた試料の採取地点

太平洋82地点、インド洋19地点の合計101地点から採取された3,968試料の化学組成データを統計解析に用いた。

深海堆積物の化学組成データに対する独立成分分析の概念図

図3. 深海堆積物の化学組成データに対する独立成分分析の概念図

試料の化学組成データ(x)に内在する「非正規性」という統計学的性質を利用して、観測可能なxから、独立な起源成分(s)と未知の混合作用(A)の両方を同時に推定できる。

独立成分分析の結果

図4. 独立成分分析の結果

レアアースを含む11種類の元素群から成るデータを解析した結果、太平洋・インド洋の深海堆積物は、生物源炭酸カルシウム成分、生物源シリカ(ケイ酸塩)成分、火山起源成分、熱水起源成分、海水起源成分、生物源リン酸カルシウム成分を含む7つの成分で説明できることが分かった(残る1成分は重要でないノイズ的成分と考えられる)。なお、セリウムはレアアースの一種であるが、地球化学的な挙動が他のレアアース元素と異なる。そのため、本研究の解析ではセリウムを別個に扱っており、図中の「レアアース」はセリウムを除いたレアアースの総和を表す。

これらのレアアース濃集に関わる成分の化学的な特徴は、(1)濃集したレアアースの究極的な供給源は海水であること、(2)レアアースを保持する物質が海水と長期間に渡り接触することでレアアースを多量に取り込み、レアアース泥ができたこと、を示唆します。簡単な計算による見積りの結果から、総レアアース濃度が1,000 ppmを超える比較的高品位なレアアース泥の生成に必要な条件の1つは、100万年あたり0.5 m程度しか物質が降り積もらないような、極めて堆積速度の遅い環境であると分かりました。すなわち、堆積速度がレアアース泥の生成を左右する重要な鍵であるといえます。このように、資源生成に必要な条件を明らかにすることは、広大な海洋において詳細な探査の対象とすべき有望エリアを選定する上で、極めて重要であるといえます。

本研究ではさらに、統計解析の結果と生物化石に基づく試料の年代値及びプレートテクトニクスを組み合わせ、過去6,500万年間におけるレアアース濃集成分の時空間変動(図5)を、世界で初めて可視化することにも成功しました。その結果、北太平洋では過去数千万年に渡り海水起源成分の寄与が比較的強いエリアが見られ、それらは海底鉱物資源の1つであるマンガンノジュール[用語6]が密に分布する海域と重なることが示されました。このことは、レアアース泥とマンガンノジュールという全く異なる海底鉱物資源の間に、共通の起源物質や海底面付近で生じる化学反応など、密接な相互関連が存在する可能性を示唆しています。また、南太平洋の一部海域では、2,000~2,500万年前頃からレアアースの濃集が見られなくなります(図6)。これは、南太平洋へ陸源のダストを供給するオーストラリア大陸の北上と気候の乾燥化などにより、同海域へのダスト供給量が増えて堆積速度が増大し、堆積物へのレアアース濃集が抑制されたことを反映していると考えられます。

過去6,500万年間における独立成分の時空間分布

図5. 過去6,500万年間における独立成分の時空間分布

数値が大きいほど、その独立成分の影響が強いことを意味する。ラベルを黄色で示した3つの成分(IC1, IC4, IC7)が、レアアースの濃集に関与する成分。熱水起源成分は海底熱水活動が活発な中央海嶺近傍で強く現れる。生物源リン酸カルシウム成分は2011年に報告された海底面付近におけるレアアース泥の分布とよく一致しており、この成分の影響が強いエリアは過去6,500万年間を通じてあまり変化していないといえる。海水起源成分は南太平洋の2,500~6,500万年前の泥で特に強く現れ、その後急速に減退する。これは、プレートテクトニクスや気候の変化と関連する(図6参照)。また、この成分は北太平洋でも比較的強く現れ、そのエリアはマンガンノジュールの多い海域と重なる。これは、レアアース泥とマンガンノジュールの間に何らかの成因的関連が存在する可能性を示唆している。

サイト596で観測される大陸移動とレアアース泥生成の関連

図6. サイト596で観測される大陸移動とレアアース泥生成の関連

オーストラリア大陸が北上し、乾燥気候帯に入った2,000万年前頃から、中央南太平洋のサイト596地点ではレアアース泥が生成しなくなった。これは、偏西風により南太平洋へ運ばれる大陸起源のダストが増え、堆積速度が速くなってレアアースの濃集が妨げられたためと考えられる。

以上のように、本成果は、地球科学とデータ科学の融合的アプローチにより、プレートテクトニクスや気候変動といった地球システムのダイナミクスと海底鉱物資源の生成・分布が、数千万年という遠大な時間スケールの中で密接に関連してきたことを明らかにした画期的な研究成果です。また、脳科学や情報科学分野で用いられる独立成分分析を化学組成データの解析に応用し、自然界に潜む情報を抽出して工学的・科学的に活用した本研究成果は、データ科学に基づく高効率な資源探査の新しい方向性を世界に先駆けて提示し、資源工学分野に新たな展開をもたらしうる、極めて重要な成果であるといえます。

本研究では、過去の深海掘削計画(Deep Sea Drilling Project, DSDP; 1968~83年、米国主導で実施)及び国際深海掘削計画(Ocean Drilling Program, ODP; 1985~2003年、日本も参加した国際プロジェクトとして実施)により掘削された堆積物コア試料及び東京大学海洋研究所が1968~84年に太平洋でピストンコアを用いて採取した堆積物コア試料を用いました。化学分析は全て東京大学で行いました。統計解析に用いた化学組成データは、既に2011年、2014年、2015年にそれぞれ加藤教授らのグループにより論文として公表されているものです(太平洋の268試料のみ、本論文で新規に公表しました)。なお、本研究で用いた試料には、「超高濃度レアアース泥」は含まれていません。

用語説明

[用語1] レアアース泥 : 2011年に東京大学の加藤泰浩教授らにより発見された、新しいタイプの海底鉱物資源。さまざまなハイテク製品に欠かせないレアアースを高濃度(総レアアース濃度400 ppm以上)で含む深海堆積物の総称。レアアース泥は、(1)現在陸上で操業しているイオン吸着型鉱床を超える総レアアース濃度(600~2,000 ppm)を示し、特に産業上重要な重レアアースに富むこと、(2)太平洋の広範囲に分布するため膨大な資源量が見込まれること、(3)遠洋性の深海堆積物として層状に分布するため資源探査が容易であること、(4)開発時の環境汚染源として問題となるトリウム(Th)やウラン(U)などの放射性元素濃度が非常に低いこと、(5)常温の希酸で容易にレアアースを抽出できることなど、鉱物資源として有利な特長を複数有しており、新たなレアアース資源として有望視されている。2013年には日本の排他的経済水域内で世界最高品位の「超高濃度レアアース泥」が発見されたほか、2014年にはインド洋においてもレアアース泥の存在が報告され(いずれも加藤教授らの研究グループによる)、そのグローバルな分布の把握が資源工学的に重要なテーマとなりつつある。

[用語2] レアアース : 希土類元素(REE:rare-earth element)。原子番号57番のランタンから71番のルテチウムまでのランタノイド元素15元素の総称で、21番のスカンジウム(Sc)、39番のイットリウム(Y)を加えて17元素とすることもある(ただし、原子番号61番のプロメチウムは自然界には存在しない)。レアアースは独特な光学的特性や磁気的特性を持つことから、ハイブリッドカーのモーターに使われるNd-Fe-B磁石やLEDの蛍光体などの最先端グリーン・テクノロジー(省エネ・エコ技術)に不可欠な元素である。新興国の急速な経済発展を背景として、今後も需要は増加の一途を辿ると予想されている。

[用語3] 堆積速度 : 海底に物質が降り積もる速さ。単位時間(本論文の場合、百万年(million years, Myr)を単位としている)あたり何メートル積もったかで表す。単位は m/Myr。堆積速度は海域によって大きく異なり、大陸に近く陸源の物質が河川などにより流れ込む海域や、海洋表層の生物生産性が高くプランクトンが多い海域では速く、数十m/Myr程度になる。一方、大陸から遠く海洋表層の栄養塩も少ない海域では遅く、数m/Myrから1 m/Myr以下となることもある。堆積速度が速ければ速いほど、降り積もった物質が急速に堆積層の深くまで埋没していくため、海水からレアアースを取り込む成分が短期間で海水から遮断されてしまい、レアアース泥にならない。

[用語4] 深海堆積物の化学組成 : 深海堆積物は、さまざまな起源成分の混合物であり、各成分はそれぞれ特徴的な化学組成を持つ。例えば、海底の熱水活動に由来する成分は鉄やマンガンに富み、海洋に生息するプランクトンはカルシウムやケイ素に富む殻を持つ。沈積する各成分の量比や海底で起こる物理的・化学的プロセスを反映して、海底の泥の中に含まれる各元素の濃度は大きく変化する。2011年にレアアース泥を発見した研究では、レアアースの他にも多数の元素濃度を測定しており、海域によって鉄に富むものやカルシウムに富むもの、ケイ素に富むもの、リンを多く含むものなど、非常に大きなバリエーションがあることが分かっていた。

[用語5] 独立成分分析 : 脳科学分野や情報科学分野で1990年代以降広く用いられるようになった、信号解析手法の1つ。データ構造に内在する「非正規性」を利用して、観測された信号のみから元の起源信号とそれらの混合プロセスを同時に推定することができる。独立成分分析の応用範囲は極めて広く、画像の圧縮や雑音除去、脳波や脳磁図の信号分離、通信時の干渉電波の分離、金融時系列データの解析など、分野を超えて多岐に渡っている。本論文の共著者である国立研究開発法人海洋研究開発機構 地球内部物質循環研究分野の岩森光分野長は、地球内部のマントルに由来する玄武岩の同位体比データに世界で初めてこの手法を適用し、独立成分分析が地球化学データの解析にも極めて有用であることを示した。

[用語6] マンガンノジュール : マンガン団塊とも呼ばれる。太平洋・インド洋・大西洋などの水深4,000 mを超える深海底に広く分布するマンガン酸化物鉱床で、直径数~十数cmの球状や楕円体状を呈する。分布密度は海域間で差異が大きく、全く存在しない海域からまばらに存在する海域、海底面をほぼ埋め尽くすほどの高密度で存在する密集域までさまざまである。銅、ニッケル、コバルトなどの有用金属元素を高い濃度で含有し、レアメタル資源として1960~70年代から注目されている。特に、ハワイ南東沖の深海底には多数のマンガンノジュールが広範囲に存在し、資源ポテンシャルが高い有望海域として知られている。この海域では、日本を含む多くの国々が、国際海底機構の下でマンガンノジュールの探査鉱区を取得している。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports (7月22日版)
論文タイトル :
Tracking the spatiotemporal variations of statistically independent components involving enrichment of rare-earth elements in deep-sea sediments
著者 :
安川和孝1,2*、中村謙太郎1、藤永公一郎2,1、岩森光3,4、加藤泰浩5,1,2,6*
1東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻、2千葉工業大学次世代海洋資源研究センター、3海洋研究開発機構地球内部物質循環研究分野、4東京工業大学理学院地球惑星科学系、5東京大学大学院工学系研究科エネルギー・資源フロンティアセンター、6海洋研究開発機構海底資源研究開発センター
DOI :

理学院

理学院 ―真理を探究し知を想像する―
2016年4月に新たに発足した理学院について紹介します。

理学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

問い合わせ先

東京大学大学院工学系研究科 システム創成学専攻
助教 安川和孝

Email : k-yasukawa@sys.t.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-7018

東京大学大学院工学系研究科
エネルギー・資源フロンティアセンター
教授 加藤泰浩

Email : ykato@sys.t.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-7022

東京工業大学 理学院 地球惑星科学系
特定教授 岩森光

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Tel : 046-867-9760

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

中性子捕捉療法のための有望なホウ素薬剤を開発―マウスのがんで、高い治療効果を確認―

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要点

  • 生理的条件下でタンパク質のシステイン残基だけでなくリジン残基に結合するホウ素クラスター結合マレイミドを開発。
  • がん集積性タンパク質である血清アルブミンやトランスフェリンにホウ素クラスターを導入。
  • 患者の血清アルブミンやトランスフェリンをホウ素キャリヤに使用可能。

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の中村浩之教授らは、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)[用語1]において、多量のホウ素分子を腫瘍内に簡便に導入する手法「ホウ素クラスター結合マレイミド(MID)」[用語2]を開発した。MIDがこれまで知られていたタンパク質のシステイン残基のSH基[用語3]だけでなく、リジン残基[用語4]にも結合することを見出して実現した。

この発見により、がん集積性タンパク質である血清アルブミン[用語5]や、鉄輸送タンパク質であり多くのがん細胞でその受容体が高発現しているトランスフェリン[用語6]に対して、多量のBNCT用ホウ素薬剤を容易に導入できるようになった。

MIDを結合させた血清アルブミンは皮下腫瘍移植マウスにおいて脾臓、肝臓、腎臓などの臓器には低濃度で集積するのに対し、腫瘍内に非常に高濃度で集積することを確かめた。BNCTによる次世代がん治療の発展に貢献すると期待される。本研究成果は、7月12日発行のJournal of Controlled Releaseオンライン版に掲載された。

研究成果

これまでのマレイミド化合物はシステイン残基のSH基に選択的に結合することが知られているが、東工大の中村教授らが開発したホウ素クラスター結合マレイミドは生理的条件下で、リジン残基にも結合することを見出した。これより、がん集積性タンパク質である血清アルブミン(フリーのシステイン残基は1つ)や、鉄輸送タンパク質であり多くのがん細胞でその受容体が高発現しているトランスフェリン(システイン残基を持たない)に対して、ホウ素クラスターを導入することに成功した。

この技術を用いれば、患者から採取した血清アルブミンやトランスフェリンに容易にMIDの導入が可能となり、血液製剤が持つ血友病などの危険性もなく治療の操作や扱いなどが簡便化し、使い勝手が良くなる。それだけでなく、単回投与が可能であり薬剤投与量も削減できるため、患者にとっても経済的ならびに身体的な負担が軽減されることが期待される。

MID-アルブミンコンジュゲート[用語7]は、一度の注射によって腫瘍内へ十分な量のホウ素を導入可能なため、30分程度の中性子照射時間において、腫瘍内ホウ素濃度が維持できる。その結果、bioavailability(バイオアベイラビリティ=生物学的利用能)が向上し、ホウ素薬剤の投与量が削減できる。さらに生体内分布をより正確に把握できるため、その優位性は非常に高く、BPA[用語8]に非感受性がん患者に対するNCT適応疾患拡大の実現が期待される。

実際に、MID-アルブミンコンジュゲートを大腸がん皮下移植マウスに投与したところ、腫瘍内に非常に高選択性・高濃度でホウ素が集積することが分かった。さらに京都大学原子炉実験所の鈴木実教授、櫻井良憲准教授との共同研究で熱中性子照射実験を行った結果、非常に高い治療効果を見出した。

研究の背景

固形がんの治療では外科手術、放射線治療、化学療法を複合することにより個々の患者に合った治療が行われている。開腹手術といった高侵襲の治療が必要な場合は、患者は長期間の入院を余儀なくされ、体力的負担、生活の質(QOL)の低下が問題となる。低侵襲な治療法の開発は社会あるいは日常生活への速やかな復帰を促進することに繋がり、2人に1人ががんを患う高齢化社会の日本において国民が健康で充実したQOLの高い生活を送り、また医療費の抑制のために大きな貢献をもたらすと期待される。

新しい低侵襲治療法の1つであるBNCTは、低エネルギーである熱・熱外中性子がホウ素との核反応により生ずる強力な粒子線を用いるものであり、がん部位へホウ素デリバリーと中性子線のダブルターゲティングが可能である。

低毒性のホウ素化合物を用いるため化学療法や放射線療法に比べ、正常組織へのダメージがきわめて低い。これまで、ホウ素薬剤ボロカプテイト(Na2B12H11SH:BSH)およびアミノ酸誘導体であるホウ素薬剤パラボロノフェニルアラニン(BPA)が、照射治療計画用PET診断には18F-BPAが用いられてきた。

これまで、熱中性子は原子炉から得ていたため、BNCT普及の障害となっていたが、2010年に世界初のBNCT用加速器が我が国で開発されてから、一般的治療法の1つとして可能性が期待され、ホウ素薬剤BPAを用いた脳腫瘍ならびに頭頚部腫瘍の第2相臨床試験が現在進められている。

研究の経緯

BNCTはがん細胞選択的に効果的濃度のホウ素薬剤を送り込むかが治療効果のカギとなる。BNCTは中性子照射台に20~30分横たわっているだけで治療できる非常に低侵襲でQOLの高い細胞選択的な放射線療法である。BNCT用の加速器は非常に小型であり、現在臨床試験が進められている加速器BNCTが実現できれば、患者や医療関係者はわざわざ原子炉に行く必要がなく、大都市の病院内でも治療が受けられるようになる。現在臨床試験中のBPAは血中滞留性が低いため、医療現場では照射中の持続投与が採用されているのが現状である。

一方、血清アルブミンに抗がん剤を結合させた薬剤開発が精力的に行われてきた。実際に抗がん剤であるパクリタキセルを結合させたナノ粒子「Abraxane」が、2005年に転移性乳がん治療薬として米国で認可され(日本は2010年に認可)、さらに難治性がんである再発胃がんや進行性非小細胞肺がん、膵臓がん治療にも用いられている(ASCO 2009)。また、血清アルブミンは脳腫瘍にも選択的に取り込まれることから、脳腫瘍の外科的手術のナビゲーション治療用に、蛍光ラベル化アルブミン薬剤が臨床試験中である(J.Clin. Pharmacol. 2011)。

今回の研究では、こういった血清アルブミンのがん集積性を利用した低毒性で血中滞留性の高いホウ素薬剤を医療現場に提供することを目的に、単回投与が可能であり薬剤投与量の軽減可能な次世代ホウ素薬剤を開発した。

MID-アルブミン製剤による高いBNCT抗腫瘍効果

図. MID-アルブミン製剤による高いBNCT抗腫瘍効果

今後の展開

血清アルブミンに抗がん剤を結合させた薬剤が、転移性乳がんや膵臓がん治療薬、あるいは脳腫瘍の外科的手術のナビゲーション治療用に用いられてきた。このことから、本研究で開発したMID-アルブミンコンジュゲートは、難治性がんの1つである脳腫瘍あるいは膵臓がんに適応可能かどうか、疾患モデルマウスを用いて検証していく。

用語説明

[用語1] ホウ素中性子捕捉療法(BNCT) : 低エネルギーである熱・熱外中性子がホウ素との核反応により生ずる強力な主にα線によりがんを殺傷する放射線治療法の1つであり、がん部位へホウ素デリバリーと中性子線のダブルターゲティングが可能である。

[用語2] ホウ素クラスター結合マレイミド(MID) : マレイミドはタンパク質のシステイン残基がもつSH基に生理的条件下で結合するが、ホウ素12個からなる2価の負電荷をもつホウ素クラスターに化学結合させた「ホウ素クラスター結合マレイミド(MID)は、通常生理的条件下では反応しないリジン残基にも結合することを今回見出した。

[用語3] タンパク質のシステイン残基のSH基 : タンパク質内に含まれるシステイン残基は、S−S結合を形成してタンパク質の三次元構造に寄与しているものとフリーのSH基を持つものがある。

[用語4] リジン残基 : 通常の生理的条件下ではプロトン化されており正電荷を帯びておるため、マレイミドとは反応しない。

[用語5] 血清アルブミン : 血清中に存在するタンパク質の一つで、分子量約66,000。血清アルブミンは血清中タンパク量の約50~65%を占める。

[用語6] トランスフェリン : 血漿に含まれるタンパク質の一つで、鉄イオンを結合しその輸送を担っている。がん細胞の多くは、このトランスフェリン受容体が過剰発現している。

[用語7] MID-アルブミンコンジュゲート : ホウ素クラスター結合マレイミド(MID)を中性条件下で血清アルブミンと化学結合させたもの。腫瘍内に非常に高濃度で集積することを今回見出した。

[用語8] BPA : パラボロノフェニルアラニンの略名。現在我が国では、BPAを用いて、加速器BNCTの脳腫瘍ならびに頭頚部腫瘍の第2相臨床試験が進められている。

論文情報

掲載誌 :
Journal of Controlled Release
論文タイトル :
Maleimide-Functionalized closo-Dodecaborate Albumin Conjugates (MID-AC): The Unique Ligation at both Cysteine and Lysine Residues Enabling to Efficient Boron Delivery to Tumor for Neutron Capture Therapy
著者 :
S. Kikuchi, D. Kanoh, S. Sato, Y. Sakurai, M. Suzuki, H. Nakamura*
DOI :

生命理工学院

生命理工学院 ―複雑で多様な生命現象を解明―
2016年4月に新たに発足した生命理工学院について紹介します。

生命理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所
教授 中村浩之

Email : hiro@res.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5244 / Fax : 045-924-5976(研究所事務室)

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

IIR先導原子力研究所が研究交流・発表会を開催

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6月22日、本学科学技術創成研究院(IIR)先導原子力研究所は、技術部基盤技術支援センター協力のもと、2015年度の研究所資源の共同利用・共同研究の取り組みの成果と同研究所に所属する各研究室の研究活動について報告する研究交流・発表会を開催しました。当日、会場となった大岡山北3号館1階多目的ホールには、学外15名、学内35名(うち学生12名)の計50名が集まりました。

先導原子力研究所は、2016年4月の学内組織改革に伴い原子炉工学研究所から名称変更された組織です。同研究所は、第2期中期計画に沿って4つの重点研究分野およびそれらを支える基礎・基盤技術分野の研究を組織的に推進しており、2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故以降は、除染技術の研究開発をはじめ、福島復興に向けた取り組みにも積極的に貢献しています。また、2014年度からは、研究所の資源である実験装置、ソフトウェア、データベース等を基盤とした他大学・研究機関との共同研究を支援する「共同利用・共同研究」の制度をスタートさせ、学術界・産業界・社会のニーズに広く応えるための新しい研究体制を整備しました。

矢野豊彦所長による開会挨拶および組織改革に伴う名称変更と最近の活動報告が行われた後、第1部「先導原子力研究所のミッション研究」で2件の報告が行われました。まず、「DNA二重鎖切断の認識と修復:分子メカニズムの理解から放射線治療応用へ」と題し、松本義久准教授がDNAへの放射線影響に関する最新の研究を紹介しました。続いて、相樂洋准教授が「自然災害・核テロ・核拡散脅威に堅牢な革新的原子力システム」と題して発表を行い、3S(安全・核不拡散・核セキュリティ)を含めた3.11以降の原子力システムの在り方について議論が交わされました。

休憩後、第2部では、2015年度共同利用・共同研究について、2名の学外共同研究者による招待講演がありました。1人目の群馬大学大学院理工学府環境創成部門の石飛宏和助教は、「多孔質ナノファイバーを実装した燃料電池用の電極触媒」をテーマに、原子力と並んで今後の持続可能社会を支える重要なエネルギー源として有望視されている燃料電池開発の最前線を紹介しました。2人目の日本原子力研究開発機構原子力基礎工学センターの大久保成彰副研究主幹は、「ADS※1用材料に関する研究 ~TEF-T※2照射計画及び材料照射・腐食挙動~」と題し、放射性廃棄物量低減手法として期待される加速器駆動未臨界炉に用いる材料の劣化挙動把握に関する最新の研究について発表しました。

※1
ADS:加速器駆動システム(Accelerator-driven System)。加速器で未臨界状態の核燃料体系を駆動させるシステムである。
※2
TEF-T:大強度陽子加速器研究施設(J-PARC)で建設を進めている、加速器駆動システム(ADS)による核変換技術に関する基礎的な研究を行う核変換実験施設(:Transmutation Experimental Facility)。大強度陽子ビームでの核破砕ターゲットの技術開発及び材料の研究開発等を目的とする。

招待講演の後、第3部として2015年度共同利用・共同研究課題および同研究所に所属する各研究室の研究活動に関するポスターセッションが開催されました。ポスターの発表件数は29件にのぼり、学外者も交えた活発な意見交換が行われ、小栗慶之副所長の挨拶により盛会のうちに閉会となりました。

招待講演の様子

招待講演の様子

ポスターセッションの様子

ポスターセッションの様子

お問い合わせ先

科学技術創成研究院 先導原子力研究所 企画委員会

Email : atom2016@lane.iir.titech.ac.jp

高効率スクリーニングによる新しい2価スズ酸化物系光触媒材料の発見

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概要

京都大学 工学研究科 材料工学専攻、林博之助教と田中功教授らと、東京工業大学 大場史康教授、名古屋工業大学 壬生攻教授らは、共同研究により、新しい2価スズ(以下、Sn(II))酸化物系光触媒材料を発見しました。同グループでは様々な結晶構造を持つ約3500種のSn(II)複合酸化物を対象に、量子力学に基づいた第一原理計算[用語1]を系統的に実施することで、熱力学的安定性や物性を予測し、高効率にスクリーニングしました。その結果、SnMoO4を新しい光触媒材料の候補物質として見いだしました。この物質はこれまでに合成報告がなく、結晶構造も未知でしたが、同グループではピンポイントでの物質合成と光触媒活性の実験に取り組み、この物質が計算により予測されたとおりの結晶構造を持ち、優れた光触媒特性を示すことを実証しました。本研究の成功は、このような理論計算主導での物質探索の有効性を確認したものです。今後は、光触媒分野に限らず、汎用的・効率的な材料開発技術としての重要性を大きく増すものと期待されます。本研究は、科学研究費補助金・新学術領域「ナノ構造情報のフロンティア開拓―材料科学の新展開」(領域代表者 田中功 平成25年度から29年度)および科学技術振興機構イノベーションハブ構築支援事業「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ(MI2I)」における成果であり、その成果はドイツの科学誌Advanced Science誌9月14日号に掲載されます。

背景

紫外光だけでなく可視光でも高い活性を示す光触媒の開発は環境・エネルギー問題に配慮した持続可能型社会の実現のために重要だとされています。すでに様々な物質が可視光応答型光触媒として報告されてきましたが、近年になり、特に高い光触媒能が報告されている化合物として、BiVO4、SnNb2O6、SnWO4など価電子として1原子あたり2つのs電子を持つBi(III)やSn(II)の複合酸化物が注目されています。しかしこれらの物質は、膨大な実験によるスクリーニングの結果見いだされたものであり、物質探索に多大なコストと時間がかかっていました。

本研究では、これまで報告例の少ないSn(II)に注目し、周期表の4A(Ti, Zr, Hf)、5A(V, Nb, Ta)、6A(Cr, Mo, W)の各元素との三元系複合酸化物を対象として第一原理計算を系統的に実施することで、熱力学的安定性や物性を予測し、高効率にスクリーニングしました。計算結果をもとにピンポイントでの的確な物質合成と光触媒活性の実験に取り組み、優れた光触媒特性を実証しました。

このように、コストが高い実験によるスクリーニングを実施することなしに、量子力学に基づいた第一原理計算を系統的に実施することで、高効率にスクリーニングを行うという研究は、材料開発研究を大きく加速するものとして世界各国で注目されています。とくに材料科学と計算科学、情報科学が密接に連携する分野はマテリアルズ・インフォマティクス[用語2]と呼ばれ、米国でのマテリアル・ゲノム・イニシアチブほか、世界各国で大型予算が組まれ、研究にしのぎが削られています。わが国でも、平成27年度から物質・材料研究機構(NIMS)に、「情報統合型物質・材料研究拠点」が形成されるなど、国を挙げて注力しています。

結果

世界最大の無機物質の結晶構造データベースICSD[用語3]には、約18万件の物質が登録されています。しかしSn(II)と周期表の4A(Ti, Zr, Hf)、5A(V, Nb, Ta)、6A(Cr, Mo, W)の各元素との三元系複合酸化物についてICSDに登録されている構造既知の物質は、Sn2TiO4やSnWO4をはじめ8種だけです。一方で、ICSDに何らかの物質が登録されている結晶構造型は約9千種あります。これらの構造を仮定すると、Sn(II)との三元系複合酸化物として3483種類の仮想的な物質を考えることができます。もちろん、この中に既知物質は8種しかなく、ほとんどの仮想物質は熱力学的に不安定なものです。今回の研究ではこれらの熱力学的安定性を、第一原理計算を用いて高効率にスクリーニングしました。図1には、今回計算した各酸化物の、SnOおよび遷移金属酸化物MOq/2に対する形成エネルギーを示しました。図内に赤丸で示したものが、計算の結果熱力学的に安定と判断された酸化物であり、それらを線で結ぶと、形成エネルギーの凸包(とつほう)が求められます。このようにスクリーニングの結果得られた化合物群には、図1に赤字で記した既知酸化物のほかに、黒字で示した未知酸化物が結晶多形も含め21種含まれていました。これらは、適切な条件のもとで合成可能と期待できる物質群です。

3483種類の仮想的な物質を対象として、第一原理計算に基づき高効率スクリーニングを実施した結果

図1. 3483種類の仮想的な物質を対象として、第一原理計算に基づき高効率スクリーニングを実施した結果

次にこれらの熱力学的に安定と判断された物質群のなかから、高い光触媒活性を有する物質を選び出しました。そのための手がかりとして、価電子帯上端と伝導帯下端のエネルギー準位と、そのエネルギー差(バンドギャップ)を利用しました。水の分解反応を想定すると、価電子帯上端と伝導帯下端とが水の還元と酸化電位を挟むような準位に存在することが望まれます。従来知られている高活性の可視光応答光触媒は、バンドギャップの第一原理計算値が2 eV以上であるので、本研究では、同様のバンドギャップの計算値を示す物質を対象に、価電子帯上端と伝導帯下端についての第一原理計算を実施しました。その結果を図2に示します。図から明らかなように、これら7種の化合物全てが、可視光応答光触媒として高活性であると予測できました。

高効率スクリーニングの結果として得られた7種の化合物についての、価電子帯上端と伝導帯下端のエネルギーと水の還元・酸化電位との比較
図2.
高効率スクリーニングの結果として得られた7種の化合物についての、価電子帯上端と伝導帯下端のエネルギーと水の還元・酸化電位との比較

これら高効率スクリーニングの結果をもとに、合成実験に取り組みました。同じ結晶構造を持つβ-SnWO4において高い光触媒活性が報告されているため、対象としてはSnMoO4を選択しました。得られた黄土色の粉末試料と、X線回折実験の結果を図3に示します。理論計算で最安定と予測されたβ-SnWO4と同じ結晶構造のSnMoO4が合成できていることが実験的に確認できました。先述のようにこの物質はICSDデータベースに収録されていない未知物質であり、合成されたのは世界で初めてです。

この粉末試料を用いて光触媒活性の評価を行った結果を図4に示します。触媒無添加での光分解反応(photolysis)に比べ、SnMoO4が従来から高い光触媒活性が報告されているβ-SnWO4と同程度以上の顕著な光触媒活性を持つことが明らかとなりました。

合成実験に成功したSnMoO4についてのX線粉末回折解析結果と結晶構造

図3. 合成実験に成功したSnMoO4についてのX線粉末回折解析結果と結晶構造

メチレンブルーの分解反応により計測した光触媒性能

図4. メチレンブルーの分解反応により計測した光触媒性能

波及効果

1.
高効率スクリーニングにより予測された、熱力学的に安定な未知酸化物の結晶構造やバンドギャップ等のデータを開示しています。今回発見した可視光応答型光触媒材料としてだけでなく、様々な用途に対応する多様な物質の選択肢を持つことが可能となり、材料開発に大きな進歩が期待されます。
2.
第一原理計算と結晶構造データベースを組み合わせ、様々な組成及び結晶構造を有する仮想的な無機化合物群を効率的に探索するという新しい方法は、光触媒材料に留まることなく様々な分野の材料開発において汎用的に利用できるものと考えられ、材料開発研究に大きな変革をもたらす可能性があります。

今後の予定

1.
今回合成に成功したSnMoO4以外の未知酸化物も対象に合成実験や様々な物性の評価を行い、Sn(II)酸化物の材料鉱脈を開拓します。
2.
マテリアルズ・インフォマティクス手法との連携により、適用範囲の拡大を目指します。

用語説明

[用語1] 第一原理計算 : 量子力学の原理のみに基づき、経験的な情報を入力として用いない計算のこと。

[用語2] マテリアルズ・インフォマティクス : 材料科学と情報科学が融合した新分野であり、最近になって世界各国がしのぎを削っている。第一原理計算データや、電子顕微鏡、放射光などの各種実験データを活用し、最先端の機械学習手法や人工知能を利用して新材料や機能、プロセスや法則を効率的に発見することを目指している。米国では、マテリアルズゲノムイニシアティブが有名。

[用語3] ICSD : FIZ Karlsruhe(独)とNIST(米)が共同開発した無機結晶構造データベース(ICSD)が世界最大のもので有償公開されている。約18万件の化合物と、約9千の結晶構造型が登録されている。

論文情報

掲載誌 :
Advanced Science
論文タイトル :
Discovery of a novel Sn(II)-based oxide β-SnMoO4 for daylight-driven photocatalysis
(新規光触媒Sn(II)酸化物β-SnMoO4の発見)
著者 :
Hiroyuki Hayashi, Shota Katayama, Takahiro Komura, Yoyo Hinuma, Tomoyasu Yokoyama, Ko Mibu, Fumiyasu Oba, and Isao Tanaka

問い合わせ先

京都大学 大学院工学研究科 材料工学専攻
教授 田中功

Email : tanaka@cms.MTL.kyoto-u.ac.jp
Tel : 075-753-5465 (携帯 090-5259-8760)
Fax : 075-753-5447

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所
教授 大場史康

Email : oba@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5511

名古屋工業大学 大学院工学研究科 物理工学専攻
教授 壬生攻

Email : k_mibu@nitech.ac.jp
Tel : 052-735-7904

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


岩崎博史教授が2016年日本遺伝学会木原賞を受賞

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科学技術創成研究院 細胞制御工学研究ユニットの岩崎博史教授が2016年日本遺伝学会木原賞を受賞しました。

日本遺伝学会は、遺伝学の進歩を促しすぐれた研究業績を一般に知らせるために、学会賞(木原賞)と奨励賞という2つの賞を設けています。木原賞は、コムギの研究を中心に遺伝・進化学の分野で世界的な業績を残された木原均博士を称えて設立され、遺伝学の分野ですぐれた業績をあげた研究者に授与されます。

受賞理由

研究題目:「相同組換え※1における反応中間体※2形成機構に関する研究」

相同組換えはすべての生物にみられる普遍的な生命現象で、生物種の多様性獲得やゲノム安定維持において中心的な働きをしています。また、老化や発癌とも密接に関係しており、医学的にも重要な生理機能でもあります。相同組換えの根本的且つ中心的なステップは、リコンビナーゼというタンパク質によって相同な2分子のDNAがお互いの鎖を交換する反応(DNA鎖交換反応)です。岩崎教授は、分裂酵母をモデル系として、真核生物※3のRad51リコンビナーゼがどのようにDNA鎖交換反応を触媒するのか、長年にわたり、分子機構を解析してきました。その研究業績が高く評価され、今回の受賞につながりました。

岩崎教授のコメント

岩崎博史教授
岩崎博史教授

この度、今年度の日本遺伝学会木原賞受賞の報せを頂きました。本賞は、遺伝・進化研究で世界的な業績を残された木原博士を称えて設立され、30年以上続く歴史ある学会賞です。これまでに、多くの尊敬する先生や先達による輝かしい業績が表彰されてきました。このような方々と並んでこの度の栄誉に浴することは、大変光栄であると同時に、身の引き締まる思いでもあります。今回の受賞は、温かく見守りながら私を研究に導いてくださった先生や先輩、ともに研究を進めた学生や共同研究者など、多くの人のお陰であり、これらの方々に心から感謝いたします。ご恩に報いるためにも、さらに日々研究に精進し未解明の問題に果敢に挑戦するとともに、若い人たちをエンカレッジして分子遺伝学の面白さを伝えていきたいと思います。

※1 相同組換え

遺伝情報のシャッフリング。相同配列、すなわち、よく似た配列を持つDNA鎖間でDNA鎖の交換が起こり、遺伝情報が再編成される現象。

※2 反応中間体

化学反応の過程で、反応前物質が反応して反応の最終生成物を生成する間に生じる分子の状態。相同組換えの反応中間体としては、3本鎖DNA構造や2分子の二重鎖が互いに鎖を交換したホリディ構造が知られている。

※3 真核生物

核膜で囲まれた核を持つ細胞からなる生物をいう。ヒトなどの動物やイネなどの植物、パン酵母や今回モデル生物として用いられた分裂酵母などがこれに含まれる。核には染色体が収納されている。一方、核構造を持たず染色体が細胞質にむき出しになった細胞からなる生物は原核生物と呼ばれ、代表例として大腸菌がある。分子遺伝学は、主に大腸菌をモデル生物として用いた研究から進展してきた。相同組換えに関しては、大腸菌のリコンビナーゼであるRecAタンパク質の解析が先行し詳しく解析されてきたが、真核生物のリコンビナーゼであるRad51については未だ不明な点が多い。

生命理工学院

生命理工学院 ―複雑で多様な生命現象を解明―
2016年4月に新たに発足した生命理工学院について紹介します。

生命理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

科学技術創成研究院 細胞制御工学研究ユニット 岩﨑博史

Email : hiwasaki@bio.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2588

ニュースレター「AES News」No.6 2016夏号発行

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科学技術創成研究院 先進エネルギー国際研究(AES)センターouterは、季刊誌「AES News」No.6 2016夏号を発行しました。

本学では、2016年4月1日付けで研究体制が刷新され、新たに科学技術創成研究院(IIR)が誕生しました。このIIRのもとには6つの研究所・センターが置かれ、そのひとつが旧ソリューション研究機構AESセンターを母体とする、本AESセンターです。

AESセンターは、従来の大学研究の枠組みを越え、低炭素社会の要となる再生可能エネルギーや省エネを極限まで取り込んだ先進エネルギーシステム実現に向けて、企業や行政等が対等な立場で参加する開かれた研究拠点「イノベーションプラットフォーム」を目指しています。

本センターの活動をより多くの方々にご理解いただき、また、企業・自治体会員および本学教職員との連携を深めるため、ニュースレター「AES News」を年4回、発行しています。今回は第6号となる2016夏号を発行しましたのでご案内します。

ニュースレター「AES News」第6号 2016夏号

第6号・2016夏号

  • 副学長、AES副センター長 佐藤勲教授コラム
    「新しい仕組みのもとでのソリューション研究」
  • AES活動報告(2016年4月~6月)
  • 「地域プロジェクト推進会議」設置の経緯と狙い
  • トピックス「インドネシアのエネルギー事情」
  • 2016年度の活動スケジュール 他

ニューレターの入手方法

PDF版
冊子版
  • 大岡山キャンパス:東工大百年記念館1階 閲覧コーナー
  • すずかけ台キャンパス:すずかけ台大学会館1階 広報コーナー

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地球生命研究所の廣瀬敬所長が藤原賞を受賞

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本学、地球生命研究所(ELSI)の廣瀬敬所長が第57回藤原賞を受賞し、授賞式が6月17日に行われました。

贈呈式の様子贈呈式の様子

藤原賞は藤原科学財団によって1959年に創設されました。科学技術の発展に卓越した貢献をした者に与えられる賞で、数学・物理、化学、工学、生物学・農学、医学の分野から毎年2名が選ばれます。

地球内部の図地球内部の図

廣瀬所長は、地球深部の高圧高温の状態を実験で再現することで、私たちが実際に見ることは出来ない地球深部のマントル下層およびコアの構成物質の構造、物性、組成を同定し、そのダイナミクスを明らかにしました。

地球は半径6,400km、中心からコア、マントル、地殻と大きく分けて3つの層に分かれています。マントルはさらに4層に分かれており、深さ2,600kmから2,900kmのマントル最深部のコアとの境界には、D''層と呼ばれる層があります。

マントルの他の層は1970年代にどのような物質で出来ているか分かっていましたが、D''層は2000年代に入ってもその姿が明らかになっていませんでした。

高圧状態を再現するダイアモンドアンビルセル装置高圧状態を再現するダイアモンドアンビルセル装置

廣瀬所長らはD''層の正体の解明を目指し、ダイアモンドアンビルセル装置(写真)とレーザー装置を使い、地球の高圧高温状態を再現する実験を行いました。そして深さ2,600kmに匹敵する125万気圧、温度2,500Kの実現に成功し、D''層が「ポストペロブスカイト」からなることを2004年に世界で初めて発見しました。

この発見からD''層の「ポストペロブスカイト」は層状の結晶構造をとり、これが地球の地震波伝播・マントル対流、自転運動などに重要な影響を及ぼしていることが明らかになりました。

さらに廣瀬所長らは、2010年に地球中心部に匹敵する364万気圧と5,000Kを超える圧力と温度を達成し、内核の主成分である固体鉄の構造を決定することに成功しました。そこから、地球の中心は鉄の原子同士が高密度で結合する六方最密充填と呼ばれる構造であることを突き止めました。

また2014年には、地球コアに大量の水素が存在することを発見しました。これは、地球形成時には現在の海水の80倍の水が存在したことを示唆し、地球誕生のシナリオや水の起源の解明に向けて大きな一歩を踏み出しました。

以上のように、廣瀬所長が地球内部の高圧高温の環境を再現する実験技術を発展させ、地球内部の構造や組成を解明し、そこから地球の起源やダイナミクスの理解に大きく貢献したことが評価され、このたびの受賞となりました。

廣瀬所長のコメント

贈呈式での廣瀬所長贈呈式での廣瀬所長

大変光栄に思います。研究室の仲間、日々サポートしていただいている方々に深く感謝します。これを励みに更に頑張りたいと思っています。

私が所長を務める地球生命研究所では、地球の起源や初期の姿の情報をもとに、生命の起源解明を目指しています。今回の受賞がきっかけとなり、世界中からよい研究者が集まり、地球と生命の起源の解明に向けて、研究がより加速されることを願っています。

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地球生命研究所広報室

E-mail : pr@elsi.jp
Tel : 03-5734-3163

ウイルス監視ネットワークの構築による安全・安心社会の実現に向けて

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概要

東京工業大学 工学院の山本貴富喜(たかとき)准教授らは、病原性ウイルスのセンサーにつながるデバイス構造を開発している。ナノ(10億分の1)メートル(nm)幅の流路を設け、流路を通るウイルスを電気的に検出する仕組み。

この仕組みにより、ウイルスの大きさ・形状によって異なるインピーダンス(電気抵抗)スペクトルが得られることを確かめた。この結果はウイルスの構造や成分などからウイルスを識別できる可能性を示唆しており、既知・未知を問わない網羅的なウイルスセンシング法が実現できると期待される。

研究の背景

我々の生活圏は、ヒトに限らずペット、家畜、農作物に至るまで常に病源性ウイルスの脅威に晒されており、我が国でもこれまで発症例の無いデング熱の発症が確認される昨今、エボラウイルスなどのさらなる危険性の高いウイルス感染も対岸の火事とは言えない状況にある。

このようなウイルス感染を未然に防ぐためのウイルス監視技術や早期発見技術の確立は、工学に課せられた急務であることは言うまでも無い。そのための最重要課題がウイルスセンサーの実現である。ウイルスセンサーが実現すれば、あらゆる場所で常時監視して、感染を未然に発見して対策が可能となる。対策が間に合わず発症してしまった場合でも、ウイルスセンサーのネットワーク網があれば、最短時間で感染域の特定と局所的医療対策が可能となるので、次世代医療インフラとして画期的なものとなる。

ところが、このような環境中のウイルスセンシング技術は世界的にも全くの未開である。医療診断技術である免疫染色法やPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法は、感染後でなくては検出ができないうえ、バッチ処理の1回使い捨てが基本であるため、長期の監視手段としては不適である。

さらに、こうした従来法は原理的に未知や新型ウイルスの検出が困難である。すなわち、様々な環境中のウイルスを網羅的に監視するような技術体系は皆無と言っても過言では無い。従ってウイルスセンサーの実現は、新しい学術・技術体系の創成を通じて、大きな社会的課題を解決するイノベーションのシーズとなるのは明らかである。

研究成果

このような課題に対し、山本准教授らは低電圧で高電界が得られるナノ空間の特徴を合目的的に活用し、高電界中で得られる非線形な電気インピーダンス応答によるウイルスセンシング技術に挑戦した。

ウイルスはDNA/RNAやタンパク質などの生体分子が、タンパク質や脂質で作られた球殻容器に閉じ込められた、いわば構造化ナノ粒子である。このため、ウイルス粒子の物理的構造や物性を電気インピーダンス計測することにより、既知・未知を問わない網羅的なウイルスセンシング法が実現できると可能性があり、今回の研究ではその初期的な評価を実施した。

センシングデバイスはナノ流路とナノ流路を挟むように作製したナノギャップ電極および入出力ポートからナノ流路への送液を容易にするマイクロ流路を有した構成である。ウイルスは大きさが数10 nm~数100 nmである。そこで単一のウイルス検出の検討も進めることを目的に、幅数100 nmのナノ流路をフォトリソグラフィーや収束イオンビーム(FIB)で作製し、測定した。

電気インピーダンス計測によるウイルスセンサーのイメージ図

図1. 電気インピーダンス計測によるウイルスセンサーのイメージ図

まだ初期的な段階だが、図のようにウイルスの大きさ・形状に依存したインピーダンススペクトルが得られることが分かった。これらの結果は、ウイルスの構造や成分などからウイルスを識別できる可能性を示唆している。さらに、開発したデバイスは数cm角に収まる小型サイズであるので、モバイルで網羅的かつ長期連続的に様々な環境中のウイルスをモニターするようなセンサーへの応用が期待できる。

今後の展開

ウイルスの大きさや成分、構造などのウイルス固有の情報とインピーダンススペクトルとの相関を明らかにし、解析手法の開発とさらなる高感度化・高精度化を通じてウイルスセンサーとして確立していく。

計測した3種類のウイルス(インフルエンザ、バキュロ、タバコモザイク)のクラスターマッピングによる分析結果。濃度は1011 to 1014 virions/mLの範囲で計測。
図2.
計測した3種類のウイルス(インフルエンザ、バキュロ、タバコモザイク)のクラスターマッピングによる分析結果。濃度は1011 to 1014 virions/mLの範囲で計測。

論文情報

掲載誌 :
Frontiers in Microbiology, vol. 6, pp. 940-947 (2015).
*open access journal
論文タイトル :
Nonlinear electrical impedance spectroscopy of viruses using very high electric fields created by nanogap electrodes
著者 :
Ryuji Hatsuki1, Ayae Honda2, Masayuki Kajitani3, Takatoki Yamamoto1
所属 :
1Tokyo Institute of Technology, Department of Mechanical and Control Engineering, Tokyo 152-8550, Japan
2Housei University, Faculty of Bioscience and Applied Chemistry, Tokyo, Japan
3Teikyo University, Department of Bioscience, Tochigi, Japan
DOI :

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准教授 山本貴富喜

Email : yamamoto@mes.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3182

高橋栄一教授に「米国地球物理学連合フェロー」の称号授与

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理学院 地球惑星科学系の高橋栄一教授が、7月26日付で米国地球物理学連合(以下、AGU)フェローに選ばれました。

高橋教授は、現在の地球惑星科学系担当教員では、長井嗣信教授と廣瀬敬教授に次ぐ3人目のAGUフェローとなります。

地球惑星科学の分野では栄誉ある受賞となります。

受賞理由「高温高圧実験に基づく火成岩岩石学に関する重要でかつ根本的な貢献」

工大に設置したマグマファクトリーと高橋教授工大に設置したマグマファクトリーと高橋教授

高橋教授は、マルチアンビル装置、内熱式ガス圧装置など高温高圧実験装置と実験手法を開発し、深さ3キロメートルの地殻内マグマ溜りの再現から、深さ1,000キロメートルを超す下部マントルの物質構成の解明まで広い圧力領域を研究し得る実験ラボ「マグマファクトリー(Magma Factory)」を東工大に建設しました。「マグマファクトリー」は、神戸製鋼と共同開発した8,600気圧垂直落下急冷型内熱式ガス圧装置で、富士火山や阿蘇火山の深いマグマ溜りの再現実験に使用されました。「マグマファクトリー」は東工大内外の多くの研究者に利用され、火山岩石学研究者および地球深部ダイナミクス研究者を多数輩出しました。

今回の受賞理由となった研究は以下の4つです。

  1. (1)日本列島の岩石学構造と火山深部プロセスの研究
  2. (2)高圧実験に基づく玄武岩マグマの発生過程の研究
  3. (3)高圧実験に基づく地球初期のマグマオーシャンの研究
  4. (4)日米合同チームを組織したハワイ諸島の火山の海底部分に関する研究

なお、「マグマファクトリー」の一部は来年3月の高橋教授の定年退職に伴い、東工大から中国科学院広州地球化学研究所に寄贈され2016年秋に移設される予定です。

高橋教授のコメント

AGUフェローに選ばれた高橋栄一教授
AGUフェローに選ばれた高橋栄一教授

東工大で28年間研究生活を送らせていただき感謝しています。

私の研究対象は日本列島の火山をはじめハワイなど世界各地の火山活動の起源となるマグマの発生過程でした。日本は巨大地震の影響で今後数10年をかけて火山活動が活発化する恐れがあり、この方面の研究は特に重要であると思います。

私自身は来年から中国科学院の研究所に異動して研究活動を続ける予定です。

東工大の皆さんのご活躍を国外から応援させていただきます。

理学院

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お問い合わせ先

東京工業大学 理学院

Email : rig.jim1@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-7661

平成28年度「東工大挑戦的研究賞」受賞者決定

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挑戦的研究賞は、本学の若手教員の挑戦的研究の奨励を目的として、世界最先端の研究推進、未踏の分野の開拓、萌芽的研究の革新的展開または解決が困難とされている重要課題の追求等に果敢に挑戦している独創性豊かな新進気鋭の研究者を表彰するとともに、研究費の支援を行うものです。本賞を受賞した研究者からは、数多くの文部科学大臣表彰受賞者が生まれています。

15回目となる今回は10名が選考されました。

受賞者一覧

受賞者
所属
職名
研究課題名(★は学長特別賞)
理学院
地球惑星科学系
准教授
★原始惑星系円盤の多重ダストリングにおける微惑星形成過程の解明
科学技術創成研究院
未来産業技術研究所
助教
★マイクロ電気機械素子とその金属結晶粒制御によるナノG慣性センサの創出
元素戦略研究センター
准教授
★電子またはヒドリドイオンを含む新規固体触媒の開発
理学院
物理学系
准教授
液晶乱流とホログラフィを用いた多体確率過程の普遍法則の実験検証
物質理工学院
材料系
准教授
マルテンサイト逆変態を利用した鉄鋼材料の革新的組織制御
物質理工学院
応用化学系
講師
固体表面への触媒活性点集積による新規分子変換反応の開発
生命理工学院
生命理工学系
准教授
ヒトiPS細胞を用いたDOHaDの検証
生命理工学院
生命理工学系
助教
マルチブロック型分子を基盤とする動的機能開発
科学技術創成研究院
化学生命科学研究所
准教授
遺伝子工学的手法による藻類バイオマス生産性の向上
科学技術創成研究院
化学生命科学研究所
助教
電子欠損性ホウ素化合物による革新的物質変換および新材料開発

(所属順・敬称略)

昨年度の同賞受賞式でのプレゼンテーションの様子
昨年度の同賞授賞式でのプレゼンテーションの様子

医農薬品の構造モチーフとして注目されるジフルオロメチル基の光触媒的導入法を開発

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概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の小池隆司助教、穐田(あきた)宗隆教授らは、フォトレドックス触媒[用語1]を活用し、適切なジフルオロメチル化[用語2]試薬と水やアルコール、カルボン酸を反応溶媒に混合し、入手容易なオレフィン類[用語3]から、位置特異的[用語4]にジフルオロメチル基を有するアルコールやエーテル、エステルの合成に成功した(図1)。

この反応は室温で、発光ダイオード(LED)を光源とした可視光照射で実施可能である。また、高い官能基許容性[用語5]が特徴であり、生物活性を有するエストロンやアミノ酸構造を損なうことなく、触媒的ジフルオロメチル化反応を達成した。ジフルオロメチル基を医農薬品合成の最終段階で導入可能であることを示唆しており、開発した反応系は多様な有機フッ素医農薬品合成への応用が期待される。

研究成果

東工大の小池助教らは、医農薬品の有用な構造モチーフ[用語6]とされるジフルオロメチル基の有機分子骨格への新しい導入法を開発した。フォトレドックス触媒と呼ばれる光触媒とN-tosyl-S-difluoromethyl-S-phenylsulfoximine試薬(CF2H化剤)をジフルオロメチル源として可視光(425 nm)照射下、水やアルコール、カルボン酸などの酸素求核剤存在下、オレフィン類に作用させると、ジフルオロメチル基と酸素求核剤が炭素-炭素二重結合部位に対して位置特異的に付加したジフルオロメチル化合物が得られた。

ジフルオロメチル基は、脂溶性水素結合を提供するユニークな構造でアルコールやチオールの生物学的等価体[用語7]として機能し、薬化学だけでなく構造化学の分野においても近年注目されている。従来の多段階の合成法と異なり、新触媒反応は医農薬品開発の分野で、今後、広く使われていくことが見込まれる。

研究成果はWiley-VCH誌「Chemistry A European Journal」に2015年12月16日にオンライン掲載され、オープンアクセスとなっている。

研究成果:光触媒的オレフィンのジフルオロメチル化

図1. 研究成果:光触媒的オレフィンのジフルオロメチル化

研究の背景

ジフルオロメチル基は、その構造から、脂溶性水素結合供与体、アルコールやチオールの生物学的等価体としてふるまうため、医農薬品の構造モチーフとして近年注目されている。しかしながら、ジフルオロメチル基を触媒的に直接分子骨格に導入する手法はいまだに限られており、一般的には保護基(PG)を有するジフルオロアルキル化を行い、脱保護を行うことで合成されている。このような多段階の合成法に対して、触媒的に直接ジフルオロメチル基を分子骨格に導入する手法の開発が求められている(図2)。

本方法と一般的な従来法の比較

図2. 本方法と一般的な従来法の比較

今後の展開

小池助教、穐田教授らの開発した反応の特徴は、オレフィンの炭素―炭素二重結合にジフルオロメチル基を導入するだけでなく、同時に他の官能基(今回の反応では酸素官能基)も導入できるため、今後は多様な官能基とフッ素官能基を同時に、簡便・短工程で導入する触媒的合成法の開発とその医農薬品としての利用をめざす。

用語説明

[用語1] フォトレドックス触媒 : 下図に示すようなビピリジン配位子を有するルテニウム錯体誘導体やフェニルピリジンを有するイリジウム錯体誘導体など。可視光領域に吸収帯を有し、太陽光や蛍光灯、LEDランプなどを光源に一電子酸化還元反応を触媒することができる。

フォトレドックス触媒

[用語2] ジフルオロメチル基 : 下図に示すように、全元素中最大の電気陰性度を有し、水素原子に近い大きさを有するフッ素原子を2つ、水素原子をひとつ同一炭素上に有するジフルオロメチル基は、電子状態や立体的環境がチオールやアルコールに近いと考えられている。

ジフルオロメチル基

[用語3] オレフィン類 : 脂肪族不飽和炭化水素で、C=C結合をもつ化合物。

[用語4] 位置特異的 : 2つ以上の反応点があるときに、特定の場所で反応が進行すること。本反応ではオレフィン炭素ー炭素二重結合のフェニル基が結合している炭素に酸素求核剤が、反対側の炭素にジフルオロメチル基が選択的に導入されること。

[用語5] 官能基許容性 : さまざまな官能基が基質に存在しても、問題なく目的の反応が進行し、官能基も損なわれないこと。

[用語6] 構造モチーフ : 機能を発現するうえで重要な構造構成単位。

[用語7] 生物学的等価体 : 生物活性発現に関与するある特定の物理化学性質が、共通または類似している置換基あるいは部分構造。生物学的等価体への置換は、もとの化合物と類似した生物学的性質を有する新規化合物を創製するための手法として医薬品化学において利用される。もとの化合物のいくつかの性質は保持されるが、他の性質が変化することから、活性、選択性の増加、あるいは毒性や副作用の低減などが期待できる。

論文情報

掲載誌 :
Chemistry A European Journal
論文タイトル :
Oxydifluoromethylation of Alkenes by Photoredox Catalysis: Simple Synthesis of CF2H-Containing Alcohols
著者 :
新井悠亮、富田廉、安藤岳、小池隆司、穐田宗隆
所属 :
東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所
DOI :

問い合わせ先

科学技術創成研究院 化学生命科学研究所
助教 小池隆司

Email : koike.t.ad@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5229 / Fax : 045-924-5230


ガラスの新しい物性制御法を開発―微量の電子を混ぜただけで、ガラスの転移温度が100℃以上も低下―

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ポイント

  • 液体の構造が凍結されてガラスになる転移温度は、ガラスの網目構造のつながり具合で決まるのが常識だった。
  • 酸素イオンを数%の電子に置き換えた「電子化物ガラス」は、網目構造は同じままで転移温度が大幅に低下することを発見した。
  • 電子が他のイオンより動きやすいために、電子化によりガラスの転移温度が低下することを、第一原理分子動力学計算[用語1]で検証した。
  • 陰イオンとして機能する電子の添加が新しいガラスの物性の制御法になることを提唱。

JST 戦略的創造研究推進事業において、東京工業大学 元素戦略研究センター センター長/科学技術創成研究院の細野秀雄教授と、米国パシフィック・ノースウエスト国立研究所(PNNL)のピーター・スシュコ グループリーダーらは、電子化物ガラスが、従来のガラスと大きく異なるユニークな物性を持つことを、実験と計算によって、初めて明らかにしました。

液体の構造が凍結される温度(転移温度)などのガラスの物性は、ガラスの網目を形成する成分(NWF)とそれを切断する成分(NWM)の比、つまり化学組成で決まります。本研究グループは、12CaO・7Al2O3(マイエナイト)電子化物(C12A7:e-)のガラスを作製し、物性と構造を検討したところ、化学組成はそのままにも関わらず、酸素イオンの3%を電子に置き換えただけで、転移温度が100℃以上も低下することを見いだしました。これまでに、ガラスの化学組成を大幅に変えることで転移温度を低下させた例は膨大にありますが、これほどの大幅な低下は報告がありません。

第一原理分子動力学計算によって電子アニオン[用語2]の周囲の局所構造とその温度による変化を検討した結果、電子アニオンは他のイオンよりもずっと動きやすいために、微量の電子アニオンが酸素イオンと置き換わることで転移温度が顕著に低下したことが明らかになりました。

これまで、転移温度はNWMとNWFの割合で決まるという常識のもと、微量成分でそれを制御することは不可能と考えられてきました。今回の成果により、電子アニオンを用いればそれが可能となることが示されました。これが契機となって未開拓であった電子化物ガラスという領域が拓けることが期待されます。

本研究は、東京工業大学とPNNLが共同で行ったものです。

本成果は、2016年8月22日の週(米国東部時間)に米国科学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」のオンライン速報版で公開されます。

本成果は、以下の事業・研究開発課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 ACCEL

  • 研究開発課題名
    「エレクトライドの物質科学と応用展開」
  • 研究代表者
    東京工業大学 元素戦略研究センター センター長 細野秀雄
  • PM
    科学技術振興機構 横山壽治
  • 研究開発実施場所
    東京工業大学
  • 研究開発期間
    平成25年10月~平成30年3月

研究の背景と経緯

電子がアニオンとしてふるまう化合物群を電子化物(エレクトライド)と総称します。新しい概念の物質として興味を持たれていますが、室温・大気中で安定な物質がなかったため、物性研究はほとんど進展していませんでした。2004年に細野グループは12CaO・7Al2O3(以下、C12A7)の酸素イオンを電子で置き換えた電子化物C12A7:e-の合成に成功し、これが空気中で高温まで安定な初めての電子化物となりました。

C12A7そのものはセメントの成分でもあり典型的な絶縁体ですが、電子化物C12A7:e-は金属的伝導を示し、低温においては超伝導を示します。また、C12A7:e-はアルカリ金属と同程度に電子を放出しやすいものの、化学的に安定というユニークな物性を持つことを利用して、低圧・低温下でのアンモニア合成触媒の担体や電子放出源としても応用が期待されています。

酸素を含まない環境でC12A7:e-を加熱して融解し、それを急冷すると電子化ガラスが得られます。得られたC12A7:e-ガラスは、結晶のC12A7:e-とほぼ同程度の電子アニオンを含んでいるために結晶と同様に黒色を示しますが、室温付近ではほとんど電気伝導を示しません。

本研究では、このC12A7:e-ガラスのガラス転移温度と電子アニオン濃度との関係を調べました。

ガラスになる物質を高温で融点以上まで加熱して融解させ、それを冷却していくと粘性が増大し融点でも結晶化せず過冷却され、その体積は滑らかに減少し、ある温度に達すと体積変化が急に小さくなります(図1)。この温度がガラス転移温度(Tg)で、Tg以下の状態がガラスであり、過冷却融体[用語3]の状態がTgで凍結された構造を持っています。Tgはガラスを特徴づける最も基本的な物性値で、網目が連続的につながっている構造を持っているほどその値は高く、網目が不連続になるほど低くなります。網目のつながりの程度は、化学組成によって決まり、網目を構成する成分(NWF)の割合が多いほど高く、Tgも高温となります。そのため、Tgを変化させるには化学組成を大きく変えることが必要と考えられてきました。

ガラス転移の概念図

図1. ガラス転移の概念図

Tgで過冷却液体の状態が凍結され、ガラス状態となる。

研究の内容

極めて低い酸素分圧の雰囲気で結晶のC12A7:e-を赤外線加熱炉で融解し急冷すると、黒色のガラスが得られます(図2)。これを高温で空気中の酸素と反応して電子が消失しないようにしながら、示差熱分析[用語4]を行い、Tgを決定しました。図2のように、ベースラインが吸熱側に急にシフトする温度が観測できます。固体から液体の状態に変化する際に、固定されていた原子の重心が移動できるようになるために生じる現象で、比熱のジャンプに相当します。これがTgです。図から明らかなように、電子の濃度が低い1020cm-3以下ではTgはおよそ830℃ですが、0.2x1021cm-3になると770℃、1021cm-3まで高めると725℃まで顕著に低下します。1021cm-3の電子濃度は、このガラスを構成している酸素イオン(O2-)の3%を電子に置き換えた濃度に相当します。

xCaO・(100-x)Al2O3ガラスのガラス転移温度(Tg)

図2. xCaO・(100-x)Al2O3ガラスのガラス転移温度(Tg)

青:電子を含まないガラス、赤:電子アニオンを含むガラス。右図は電子化物ガラスの写真と示差熱分析によるTgの電子アニオン濃度による変化。矢印がTg。含まれる電子アニオン濃度が高いほど、カルシウム濃度はほとんど不変なのにTgは顕著に低下する。

電子を含んでいないxCaO・(1-x)Al2O3(酸化カルシウムと酸化アルミニウムとの2成分系)の普通のガラスでは、xを0.55から0.75まで変えてガラスの網目構造のつながりを大幅に変えても、Tgの変化幅は65℃です。すなわち、今回作製した電子化ガラスでは、網目構造はほとんど変えないのに、わずか3%の酸素イオンを電子に置き換えただけで、これまで得られたことのない低いTgを持つガラスが得られたのです。

次に、このガラスの構造とガラス転移を第一原理分子動力学法でシミュレーションを行いました。計算は2,000 K付近(1,727 ℃)で結晶を融解させ、そこから100K(-173℃)まで急冷しました(図3)。その結果、試料の比熱(a)がピークとなるガラス転移点が、電子化物ガラスではおよそ1,150 K(877℃)、電子アニオンを含んでいないガラスではおよそ1,250 K(977 ℃)なので、電子アニオンが存在すると約100℃低温にずれています。これは実験で観察されたTgの差と同じです。構成原子の平均原子速度の温度変化(b)をみると、Alは高温で動きが遅くなりますが、酸素とカルシウムはより低温まで速度は低下しませんが、1,300~1,100 Kで急に低下します。この温度はTgに相当し、電子化物ガラスの方が低い温度になっています。シミュレーションによると電子アニオンは、図4のように2種類のサイトで、対を形成しながら酸素イオンのサイトを占有しており、実験で得られた光吸収スペクトルに2本の大きな吸収帯がみられることに対応します。

通常のNWMは、イオン性結合を形成し網目構造を切断することでTgを下げます。電子化ガラスでは、電子アニオンがイオンよりも圧倒的に動きやすいため、局所的に温度が高い状態になっており、より低温にならないと系全体の構造が凍結されるガラス転移が生じないと理解できます(図5)。

電子アニオンなしカルシウムアルミン酸ガラス(C12A7:O2-、化学組成([Ca24Al28O64(e)4])と電子化物ガラス(C12A7:e-)の第一原理分子動力学計算による融体からの急冷過程での比熱(a)と構成原子の平均原子速度(b)
図3.
電子アニオンなしカルシウムアルミン酸ガラス(C12A7:O2-、化学組成([Ca24Al28O64(e)4])と電子化物ガラス(C12A7:e-)の第一原理分子動力学計算による融体からの急冷過程での比熱(a)と構成原子の平均原子速度(b)

図aの点線は比熱の高温極限での理論値(3.0)。図bの単位はオングストローム/フェムト秒、点線はガラス転移が生じる温度域。Tgに相当する比熱のピークでCaと酸素(O)の動きが急に遅くなる。その温度は電子化物の方が約100℃ほど低く、実験結果を再現している。C12A7:ρ-は、電子アニオンを系全体に均質の分布させた仮想的ガラス。

第一原理分子動力学シミュレーションによる電子アニオンのガラス中に存在する局所構造

図4. 第一原理分子動力学シミュレーションによる電子アニオンのガラス中に存在する局所構造

電子(緑)は3つの異なる構造で対を形成している。

ガラス転移温度の制御

図5. ガラス転移温度の制御

網目構造を持つガラスにイオン結合性の高いイオン(赤)を加えることによりTgを低下させることが常識であったが、網目を構成する酸素イオン(青)の一部を電子(緑)で置き換えると、微量でTgを大幅に変化できる。これは、イオンよりも電子の方が圧倒的に動きやすいため、局所的に温度が高い状態と同じ状態が実現しているためと理解できる。

今後の展開

C12A7:e-は、通常のスパッター法[用語5]で室温で大面積の透明な薄膜を作製できます。また、できた薄膜は仕事関数[用語6]が金属のリチウム並みに小さく、しかも大気中で安定というユニークな特徴を持っています。これを利用して有機EL用の電子注入材料[用語7]としての応用などが検討されています。また、電子化物ガラスは、全く新しいタイプのガラスであり、今回見いだされた以外にもこれまでの常識とは大幅に異なる物性を持つことが予想され、学術と応用の両面でこれからの進展が期待されます。

用語説明

[用語1] 第一原理分子動力学計算 : 分子、固体結晶について、原子オーダーのミクロな構造やそれに伴う物性との因果関係を探るため、量子力学をベースに原子内部の電子状態を記述する方程式を用いる計算機シミュレーション。

[用語2] 電子アニオン : イオン結晶は陽イオン(カチオン)と陰イオン(アニオン)から構成されている。そのアニオンを電子に置き換えたものが電子アニオン。電子はマイナスの電荷を持っているという点ではアニオンと同じだが、質量が極めて小さいため、かなり異なった挙動が予想される。

[用語3] 過冷却融体 : 融点以下になっても結晶化せずに液体の状態を保っている融体。

[用語4] 示差熱分析 : 温度変化による試料の吸熱と発熱を測定する分析法。

[用語5] スパッター法 : 薄膜化したい物質に真空下・高電圧でイオン化したアルゴンなどを衝突させることで製膜する汎用の技術。

[用語6] 仕事関数 : 物質表面において、表面から1個の電子を外部に取り出すのに必要な最小エネルギー。

[用語7] 電子注入材料 : 有機ELは陰極と陽極の間に薄い有機物の発光層を挟んだデバイスで電圧をかけると発光する。電子注入層は陰極から電子を発光層に効率よく到達させる役割を持つ。

論文情報

掲載誌 :
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(米国科学アカデミー紀要)
論文タイトル :
"Electron anions and the glass transition temperature"
(電子アニオンとガラス転移温度)
著者 :
Lewis E.Johnson, Peter Sushko, Yudai Tomota, and Hideo Hosono
DOI :
10.1073/pnas.1606891113

問い合わせ先

研究に関すること

東京工業大学 元素戦略研究センター センター長
科学技術創成研究院 教授
細野秀雄

Email : hosono@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5009 / Fax : 045-924-5196

JST事業に関すること

科学技術振興機構 戦略研究推進部 ACCELグループ
寺下大地

Email : suishinf@jst.go.jp
Tel : 03-6380-9130 / Fax : 03-3222-2066

報道担当

科学技術振興機構 広報課

Email : jstkoho@jst.go.jp
Tel : 03-5214-8404 / Fax : 03-5214-8432

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

ぺプチドリーム社と特殊ペプチド創薬向けインシリコ技術の共同研究契約を締結

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ペプチドリーム株式会社(以下「PD社」)と東工大との間で、スーパーコンピュータTSUBAME 2.5を利用した特殊ペプチド創薬向けインシリコ技術の開発に関する共同研究契約を締結しました。

東工大が保有するスーパーコンピュータTSUBAME 2.5東工大が保有するスーパーコンピュータTSUBAME 2.5

PD社は、以前より、多くの製薬企業との共同研究開発や自社研究開発において取得・保有している特殊環状ペプチドに関して、薬理活性のみならず薬物の体内動態に関わる化合物の種々のプロファイル(溶解度、膜透過性、血中安定性、血漿タンパク結合能、代謝安定性、酸に対する安定性等々)と特殊環状ペプチドの2次元・3次元構造との間の相関について、統計的・包括的な理解に努めてきました。

本共同研究では、PD社が保有・取得する特殊環状ペプチドの大量の実験データを基盤として、東工大が保有するスーパーコンピュータ及び計算科学、機械学習・人工知能技術を活用したインシリコ予測技術を確立することを目指しています。対象となるのは、特殊環状ペプチドの細胞膜透過性及び血漿タンパク結合能の計算機による高性能予測です。

これらを確立することにより、PD社独自の創薬開発プラットフォームシステム:PDPS(Peptide Discovery Platform System)から得られるヒットペプチドの最適化をさらに効率的にし、医薬品候補化合物の取得を加速できるものと考えています。

東工大では秋山泰教授(情報理工学院教授、科学技術創成研究院スマート創薬研究ユニットメンバー)を中心とした研究グループが、スーパーコンピュータを利用したペプチド分子の分子シミュレーションや、機械学習を応用した分子特性の計算機予測技術を保有しており、今回の共同研究を担当します。

過去6年間に、PD社は多くの世界的製薬企業(米アムジェン(AMGEN)社、英アストラゼネカ(AstraZeneca)社、米ブリストル・マイヤーズ スクイブ(Bristol-Myers-Squibb)社、米ジェネンテック(Genentech)社、英グラクソ・スミスクライン(GlaxoSmithKline)社、仏イプセン(IPSEN)社、米リリー(Lilly)社、米メルク(Merck)社、スイスノバルティス(NOVARTIS)社、仏サノフィ(Sanofi)社、旭化成ファーマ株式会社、杏林製薬株式会社、塩野義製薬株式会社、第一三共株式会社、田辺三菱製薬株式会社、帝人ファーマ株式会社)との間で創薬研究開発契約を結び、戦略的共同研究開発を行ってきました。さらに、米ブリストル・マイヤーズ スクイブ社、スイスノバルティス社及び米リリー社に対しては、PD社独自の創薬開発プラットフォームシステム:PDPS の非独占的なライセンス許諾(技術ライセンス契約)を実施しています。

ペプチドリーム株式会社 常務取締役 リード・パトリック氏と取締役研究開発部長 舛屋圭一氏のコメント

「スーパーコンピュータを駆使した高性能計算や人工知能の分野で世界を牽引する東工大との共同研究を始められることに大変興奮しております。当社が有する特殊環状ペプチドに関するあらゆる実験データ・知見を基盤に、東工大が有するペプチド分子の分子シミュレーションや、機械学習を応用した分子特性の計算機予測技術を駆使することで、これまでに明らかになっていなかったペプチドの構造とプロファイルの相関を見出せるのではないかと考えています。」

特殊ペプチド創薬向けインシリコ技術の共同研究

ペプチドリーム株式会社について

ペプチドリーム株式会社は、「日本発、世界初の新薬を創出し社会に貢献したい」という現社長の窪田規一氏と現社外取締役の菅裕明氏(東京大学大学院教授)の共通の夢から、2006年7月に設立されました。独自の創薬開発プラットフォームシステム:PDPS(Peptide Discovery Platform System)を用いて、極めて広範囲にわたる特殊ペプチドを多数(数兆種類)合成し、高速な評価を可能にすることで、創薬において重要なヒット化合物の創生、リード化合物の選択、もしくはファーマコフォアの理解を極めて簡便に、かつ、効率的に行えるようにしました。ぺプチドリーム株式会社は、特殊ペプチドを用いた創薬企業の世界的なリーダーとして世界中の病気で苦しんでいる人々に画期的新薬を提供することを使命として、研究開発に取り組んでおります。

※ インシリコ(イン・シリコ/in silico

研究で頻繁に見られる表現、in vivo(生体内で)やin vitro(ガラス、すなわち試験管内で)などに準じて作られた用語で、文字どおりには「シリコン内で」の意味。実際には「コンピュータを用いて」を意味する。実験や測定に関連するシミュレーション計算など、実際に対象物を取り扱わず計算で結果を予測する手法を指して インシリコ(in silico)と呼ぶ。

情報理工学院

情報理工学院 ―情報化社会の未来を創造する―
2016年4月に新たに発足した情報理工学院について紹介します。

情報理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

問い合わせ先

ペプチドリーム株式会社

Tel : 03-3485-7707

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

電気分極の回転による圧電特性の向上を確認―圧電メカニズムを実験で解明、非鉛材料の開発に道―

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概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の北條元助教、東正樹教授、清水啓佑大学院生、東京大学大学院 工学系研究科の幾原雄一教授の研究グループは、圧電体[用語1]の結晶中で、電気分極[用語2]の方向が回転することにより圧電特性が向上することを、実験的に確認することに成功した。分極の回転は、実用材料であるジルコン酸チタン酸鉛(PZT)の巨大圧電特性の起源といわれながら、これまで実際に圧電特性向上に寄与することが実験的に確認されたことがなかった。

本研究グループは、PZTを模して新しく開発したコバルト酸鉄酸ビスマス圧電体を、圧電特性の評価が可能な薄膜形態で安定化させ、その結晶構造と圧電特性を詳しく調べた。その結果、分極回転の起こりうる結晶構造で圧電特性が向上することを見いだした。また、圧電特性は、結晶歪みの大きな構造、すなわち分極が回転する余地のある構造ほど向上した。今回の結果は環境に有害な鉛を使わない新圧電材料の開発につながると期待される。この成果は独国科学誌「Advanced Materials」のオンライン版で8月24日に公開される。

研究の背景

力を加えると電荷が発生し、電圧をかけると変形する圧電体は、電気と運動(変形)を変換する物質であり、センサーやアクチュエーター(駆動装置)[用語3]として、超音波診断機やインクジェットプリンター、カメラなどさまざまな電子機器に使われている。現在の主流はPZTと呼ばれる、チタン酸鉛とジルコン酸鉛が混ざりあった固溶体材料だが、毒性元素である鉛を重量で68%も含むため、国際社会からは非鉛の代替物質の開発が望まれている。

PZTの優れた圧電特性は、菱面体晶ペロブスカイト[用語4]のジルコン酸鉛と正方晶ペロブスカイト[用語5]のチタン酸鉛との相境界に、単斜晶相[用語6]と呼ばれる対称性の低い結晶相が存在し、そこでは電気分極の方向が結晶構造内で変化(回転)できることによると考えられている(図1)。すなわち分極の回転によって大きな歪みが生じる。しかし、こうした分極回転が実際に圧電特性向上に寄与することが、実験によって確認されたことはなかった。

正方晶(左)、菱面体晶(中央)と、MA型の単斜晶圧電体の結晶構造(右)。

図1. 正方晶(左)、菱面体晶(中央)と、MA型の単斜晶圧電体の結晶構造(右)。

正方晶相と菱面体晶相では矢印で示した電気分極の方向が固定されているのに対し、単斜晶相では分極の方向がピンクの面内で回転できる。

研究成果

東教授ら研究グループは、結晶構造の類似性から、菱面体晶ペロブスカイトの鉄酸ビスマスと正方晶ペロブスカイトのコバルト酸ビスマスとが混ざり合った固溶体、BiFe1-xCoxO3に着目した。その詳細な結晶構造の解析を行うことにより、PZTで見つかっているのと同様のMA[用語7]の単斜晶相が同固溶体に存在すること、またその結晶構造において電気分極の回転が実際に起こりうることを示してきた。

今回、北條助教、東教授ら研究グループは、BiFe1-xCoxO3を圧電特性の評価が可能な薄膜形態で安定化させることに成功した。薄膜X線回折[用語8]走査透過電子顕微鏡[用語9]を用いた詳細な結晶構造解析を実施し、コバルト量の増加に伴いその結晶構造がPZTとは分極の方向が異なるMC[用語10]の単斜晶相からMA型の単斜晶相へ、さらに正方晶相へと変化することを見いだした。

詳細な圧電特性評価の結果、MA型の単斜晶相において圧電特性が向上することが明らかとなった(図2)。また、結晶歪みの大きな構造、すなわち分極が回転する余地のある構造ほど圧電特性が向上した。このことは、電気分極の方向が回転することによって圧電特性が向上することを意味している。

M<sub>C</sub>型単斜晶、M<sub>A</sub>型単斜晶、正方晶構造の模式図と、圧電特性のCo置換量依存性

図2. MC型単斜晶、MA型単斜晶、正方晶構造の模式図と、圧電特性のCo置換量依存性

今後の展開

今回の成果はPZTの優れた圧電特性の起源であるとされていた、単斜晶相における電気分極の回転が実際に圧電特性向上に寄与することを実験的に証明したものである。これにより、ペロブスカイト圧電体の圧電特性向上のためガイドラインが示され、新しい非鉛圧電体の開発に拍車がかかるものと期待されている。

付記

本研究の一部は、神奈川科学技術アカデミー・戦略的研究シーズ育成事業「革新的巨大負熱膨張物質の創成」(代表・東正樹東京工業大学教授)、文部科学省・科学研究費補助金・新学術領域研究「ナノ構造情報のフロンティア開拓?材料科学の新展開」(代表・田中功京都大学教授)、日本学術振興会・科学研究費補助金・若手研究B「電界誘起の構造相転移を用いた巨大な圧電応答の実現」(代表・北條元東京工業大学助教)、基盤研究A「ビスマス・鉛ペロブスカイトのs-d軌道間電荷分布変化解明と巨大負熱膨張への展開」(代表・東正樹東京工業大学教授)、挑戦的萌芽研究「分極回転機構による巨大圧電材料の実現」(代表・東正樹東京工業大学教授)、旭硝子財団研究助成「ナノ構造の解析と制御によるBi系ペロブスカイト圧電体の開発」(代表・北條元東京工業大学助教)の援助を受けて行った。

用語説明

[用語1] 圧電体 : 応力をかけると表面に電荷が現れ、電界を印加すると、変形する物質。電気分極を持っているためにこうした性質が表れる。

[用語2] 電気分極 : 物質中で陽イオンと負イオンの重心がずれていることから生じる、電荷の偏り。

[用語3] アクチュエーター : 伸縮・屈伸・旋回といった、単純な運動をする駆動装置。

[用語4] 菱面体晶ペロブスカイト : ペロブスカイトは一般式ABO3で表される元素組成を持つ、金属酸化物の代表的な結晶構造。結晶構造中の原子の繰り返し周期である単位格子が、立方体ではなく、頂点方向に伸びたものを菱面体晶と呼ぶ。

[用語5] 正方晶ペロブスカイト : 単位格子が、立方体ではなく、一方向に伸びた直方体であるペロブスカイト。

[用語6] 単斜晶相 : 単位格子の持つ3つの角の内、1つが90°からずれた結晶相。

[用語7] MA : 電気分極を持った単斜晶相の分類。単斜晶歪み、すなわち電気分極の傾斜方向が、ペロブスカイトセル底面の対角方向である構造。

[用語8] 薄膜X線回折 : 薄膜の構造を調べる方法。X線を薄膜試料に照射し、回折強度を調べることで結晶構造(原子の並び方や原子間の距離)を決定する。

[用語9] 走査透過電子顕微鏡 : 電子顕微鏡の一種。0.1ナノメートル(1億分の1センチメートル)程度まで細く絞った電子線を試料上で走査し、試料により透過散乱された電子線の強度で試料中の原子を直接観察する。

[用語10] MC : 単斜晶歪み、すなわち電気分極の傾斜方向が、ペロブスカイトセル底面の一辺方向である構造。

論文情報

掲載誌 :
Advanced Materials
論文タイトル :
Enhanced piezoelectric response due to polarization rotation in cobalt-substituted BiFeO3 epitaxial thin films
著者 :
Keisuke Shimizu, Hajime Hojo, Yuichi Ikuhara, and Masaki Azuma
DOI :

問い合わせ先

本研究全般に関すること

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所
教授 東正樹

Email : mazuma@msl.titech.ac.jp
Tel : 080-4402-5315、045-924-5315 / Fax : 045-924-5318

東京大学問い合わせ先

東京大学 大学院工学系研究科
教授 幾原雄一

Email : ikuhara@sigma.ac.jp
Tel : 03-5841-7688 / Fax : 03-5841-7694

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東京大学 大学院工学系研究科 広報室

Email : kouhou@pr.t.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-1790 / Fax : 03-5841-0529

ビスマス単原子シートの超伝導体化に成功―新たな超伝導体発見手法として期待―

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概要

東北大学 大学院理学研究科の福村知昭教授、清良輔大学院生(東北大学 大学院理学研究科、東京大学 大学院理学系研究科)、東京大学 大学院理学系研究科 化学専攻の長谷川哲也教授、東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の川路均教授らは、ビスマス層状酸化物の新超伝導体を発見しました。

原子層のブロックが積み重なった構造をもつ層状化合物では、銅酸化物や鉄系化合物に見られる高温超伝導[用語1]のような特異な物性が期待されることから、層状化合物の新しい超伝導体の探索がさかんに行われています。新しい超伝導体の発見は、新たな現象や別の新超伝導体の発見につながる可能性があります。

本研究グループは、これまで超伝導を示さないと考えられていたビスマス層状酸化物を超伝導化することに成功しました。この物質は、単原子の厚さのビスマスのシートと絶縁体酸化物ブロック層からなる構造をもち、ビスマスの単原子シートが超伝導状態になっていると考えられます。通常の化学組成では超伝導は発現しませんが、酸素を過剰に導入してビスマスの単原子シートの間隔を拡げることで、超伝導が発現します。

今回の成果により、同様の手法で他の層状化合物を超伝導体化することへの活用が期待されます。また、原子番号が大きくスピン軌道相互作用の大きいビスマスが超伝導を示すことから、量子コンピューターに活用できる特異な超伝導状態の発現の可能性があります。

本研究は、東京大学 大学院理学系研究科 化学専攻の長谷川哲也教授、東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の川路均教授と共同で行ったもので、JSTの戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)「元素戦略を基軸とする物質・材料の革新的機能の創出」研究領域(研究総括:玉尾皓平 理化学研究所 研究顧問/ グローバル研究クラスタ長)の助成を受けています。

本研究成果は、平成28年8月19日(米国東部時間)に米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン速報版で公開されました。

研究の背景と経緯

超伝導現象はゼロ抵抗や完全反磁性[用語2]を示す科学の観点から重要な物理現象ですが、電力不要の送電線、リニアモーターカーに用いられる磁気浮上技術、電力貯蔵など産業応用やエネルギー問題にも活用可能な現象です。後者の目的のためには、できるだけ室温に近い高温まで超伝導状態を保つことができる高温超伝導体[用語3]が必要です。1987年に銅酸化物の高温超伝導が発見され、多くの高温超伝導体が発見されましたが、ここ25年の間、常圧における超伝導の転移温度の最高値は更新されておらず、マイナス150度程度という非常に低い温度にとどまっています。これは、高温超伝導体の物質設計法が確立されていないのが原因です。したがって、新しい超伝導体の探索を継続的に行っていき、高温超伝導体の設計指針を構築することが重要です。

金属のアルミや鉛は低温で超伝導を示します。一方、複数の元素から構成される遷移金属化合物の場合、ある化学的手法を施すことによって初めて超伝導が発現する場合があります。たとえば、La2CuO4は絶縁体ですが、一定量のLaをSrで置換すると、正孔[用語4]キャリアがドープされることによって超伝導体に変化します。また、HfNClは非超伝導体ですが、そのへき開面に相当する位置に有機分子を挿入すると、結晶格子が大きく伸ばされて超伝導体に変化します。このような、元素の置換によるキャリアのドープや、分子の挿入による結晶格子の大きな伸張は、超伝導体を得る化学的手法として、しばしば用いられてきました。

ビスマス化合物は熱電材料[用語5]トポロジカル絶縁体[用語6]といったエネルギー変換・省エネルギー材料としてさかんに研究されています。一方、超伝導を示すビスマス化合物はそれほどありません。ただし、最近発見された高温超伝導を示す鉄系化合物と類似した結晶構造をもつビスマス層状化合物が多いことから、超伝導体の探索も行われてきました。これらのビスマス層状化合物は、単原子の厚さのビスマス正方格子とブロック層の積層構造になっています。これらの化合物では超伝導もいくつか報告されていますが、不純物析出相の超伝導の可能性もあり、ビスマス正方格子が超伝導状態になっている確かな証拠はありませんでした。さらに、本研究対象のビスマス層状化合物Y2O2Biについては、超伝導体でないという見解がとられていました。

研究の内容

本研究で用いた材料はY2O2Biというビスマス層状酸化物で、2011年に東京工業大学のグループから報告されました。図1のように、この材料は、高温超伝導体として知られる鉄系化合物BaFe2As2と同じ結晶構造です。ただし、BaFe2As2ではFe2As2ブロック層が超伝導を担っていますが、Y2O2BiではBi単原子シートが超伝導を担っています。これらの2つの材料は同じ結晶構造ですが、超伝導を担う場所が互い違いになっています。

本研究で扱ったY2O2Bi(右)と高温超伝導体BaFe2As2(左)の結晶構造

図1. 本研究で扱ったY2O2Bi(右)と高温超伝導体BaFe2As2(左)の結晶構造

BaFe2As2ではFeAsブロック層が超伝導を担っていますが、Y2O2BiではBi単原子シートが超伝導を担っています。

Y2O2Biは、それまで電気伝導性は示すものの、超伝導体と考えられていませんでした。2014年に、本研究グループの東大・東北大の研究チームが、この材料のエピタキシャル薄膜成長に世界で初めて成功しましたが、その過程で、ゼロ抵抗は示さないものの、極低温で抵抗が急にわずかだけ減少する現象を見出しました。今回、Y2O2Biの酸素をより過剰になる組成で合成したところ、ゼロ抵抗と完全反磁性を示す超伝導の観測に成功しました。東工大のグループが開発した極低温の比熱測定装置により、超伝導の相転移を実証できました。

その後の分析により、ビスマス単原子シートの間の間隔(c軸の結晶の単位長の半分に相当)がわずかに拡がっていることがわかりました(図2)。酸素を導入することで、酸素がビスマス単原子シートとYOブロック層の間のわずかな隙間に入り込んでc軸方向に結晶が伸びることが、超伝導が発現する機構と考えられます(図3)。c軸方向の結晶の伸び率は、HfNClのようなへき開面に大きな有機分子を挿入して超伝導が発現する場合に比べて非常に小さいですが(図2)、その伸び率に対する超伝導転移温度の上昇率は、Y2O2Biのほうが非常に大きいことがわかります。このような特異な挙動は、ビスマス単原子シートに発現する超伝導の性質に起因する可能性があります。

Y2O2Biの超伝導転移温度の変化

図2. Y2O2Biの超伝導転移温度の変化

左図:ビスマス単原子シート間の間隔に対する超伝導転移温度の変化。シート間隔が一定以上の値になると超伝導が発現します。
右図:さまざまな層状化合物における、c軸方向の結晶の伸び率に対する超伝導転移温度の変化率。HfNCl等に比べて、Y2O2Biは小さな結晶の伸び率で大きな超伝導転移温度の変化率を示します。挿入図は結晶の伸び率の小さい領域の拡大図。

考えられる超伝導の発現機構

図3. 考えられる超伝導の発現機構

酸素が、ビスマス単原子シートとYOブロック層の間の隙間に入り込み、c軸方向に結晶が伸びることで、超伝導が発現すると考えられます。

今後の展開

層状化合物の結晶構造の隙間に原子を挿入して結晶の単位長を精密に調節する、という手法はこれまでの超伝導体化のための化学手法とは異なっており、今回の手法を用いることによりビスマス化合物以外にも新たな超伝導体が見つかる可能性があります。ビスマス化合物は、量子コンピューターにも活用できると期待されているトポロジカル超伝導体化も試みられていますが、今回のY2O2Biは新しいタイプのビスマス化合物超伝導体であるため、特異な超伝導状態をもつかどうかも今後調べていく必要があります。

用語説明

[用語1] 超伝導 : 金属、合金、化合物などの温度を下げていくと、ある種の物質で電気抵抗がゼロ(ゼロ抵抗)になり、完全反磁性を示す現象。超伝導転移温度よりも低い温度で超伝導状態になる。

[用語2] 完全反磁性 : 温度を下げていき、常伝導状態から超伝導状態に変化したとき、試料内部を通っていた磁力線が外部にはじきだされてしまう現象。超伝導体のもつ基本的な性質である。マイスナー効果とも呼ばれる。

[用語3] 高温超伝導体 : 一般に、絶対温度約25 K(約マイナス250度)以上の超伝導転移温度を持つ超伝導体。たとえば、銅酸化物や鉄系超伝導体が知られている。

[用語4] 正孔 : 電子と反対の符号の電荷(正電荷)をもつ粒子。電子と同じく材料の中を流れる電流の源である。

[用語5] 熱電材料 : 材料に温度勾配があると起電力が生じる熱電効果が大きい材料。排熱を発電に利用することができるため、大きな熱電効果をもつ材料の探索がさかんである。

[用語6] トポロジカル絶縁体 : 物質の内部は絶縁体であるが、表面は電気伝導性を示す材料。次世代の低消費エレクトロニクス材料として期待されている。超伝導を示すトポロジカル絶縁体はトポロジカル超伝導体と呼ばれる。

論文情報

掲載誌 :
Journal of the American Chemical Society
論文タイトル :
"Two Dimensional Superconductivity Emerged at Monatomic Bi2- Square Net in Layered Y2O2Bi via Oxygen Incorporation"
(酸素導入によって発現した層状化合物Y2O2Biにおける単原子層Bi2-正方格子の2次元超伝導)
著者 :
Ryosuke Sei, Suguru Kitani, Tomoteru Fukumura, Hitoshi Kawaji, and Tetsuya Hasegawa
DOI :

問い合わせ先

研究に関すること

東北大学 大学院理学研究科 化学専攻
教授 福村知昭

Email : tomoteru.fukumura.e4@tohoku.ac.jp
Tel : 022-795-7719 / Fax : 022-795-7719

東京大学 大学院理学系研究科 化学専攻
教授 長谷川哲也

Email : hasegawa@chem.s.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-4353 / Fax : 03-5841-4353

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所
教授 川路均

Email : kawaji@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5313 / Fax : 045-924-5339

報道に関すること

東北大学 大学院理学研究科
特任助教 高橋亮

Email : sci-pr@mail.sci.tohoku.ac.jp
Tel : 022-795-5572、022-795-6708 / Fax : 022-795-5831

東京大学 大学院理学系研究科・理学部
特任専門職員 武田加奈子
教授・広報室長 山内薫

Email : kouhou@adm.s.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-0654

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

重イオン反応による新たな核分裂核データ取得方法を確立―核分裂現象の解明にも道―

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発表のポイント

  • 重イオン多核子移行反応を用いて、14種類におよぶ核種の核データを一度に取得
  • 中性子過剰な原子核の核分裂など、新たな領域の核分裂現象の開拓に期待

概要

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉敏雄。以下「原子力機構」)先端基礎研究センターの西尾勝久サブリーダー及び廣瀬健太郎研究副主幹らは、東京工業大学(学長 三島良直。以下「東工大」)科学技術創成研究院 先導原子力研究所の千葉敏教授、近畿大学(学長 塩﨑均)理工学部 電気電子工学科の有友嘉浩准教授らのグループとの共同研究により、核分裂核データとして重要な核分裂片の質量数収率分布[用語1]を重イオンどうしの衝突で生じる多核子移行反応[用語2]によって取得する新たな方法の開発に成功するとともに、動力学モデル[用語3]で実験データを再現することに成功しました。

アクチノイド原子核の中性子入射核分裂では、様々な種類の原子核が核分裂片として生成されます。核分裂片の質量数に対する収率の分布(質量数収率分布)は、原子炉の安全性に関わる崩壊熱[用語4]遅発中性子数[用語5]を決定する重要なデータです。また、長寿命マイナーアクチノイド原子核(MA)[用語6]を高エネルギー中性子入射核分裂で核変換する場合にも必要となります。これまでの中性子入射反応においては、高純度試料が入手できない、あるいは半減期が短いなどの理由から測定されていない核種があります。また、高エネルギー中性子データも極めて限られています。

本研究では、原子力機構タンデム加速器[用語7]で加速された酸素18ビームをトリウム232標的に照射することで、トリウムからウランにおよぶ14種類の原子核を一度に生成し、これらの核分裂の質量数収率分布を取得するとともに、1 MeVから50 MeVの中性子エネルギーに対応するデータを取得しました。この手法を用いれば、さらに多くの核種のデータ取得が可能になります。中性子過剰な原子核の核分裂も調べられるようになるため、新たな領域の核分裂研究の発展にもつながると期待されます。本研究成果は、2016年8月24日付で、オランダElsevier社が発行する「Physics Letters B」のオンライン版に掲載されました。

本研究は文部科学省の原子力システム研究開発事業による委託業務として、東工大と原子力機構が実施した平成24-27年度「高燃焼度原子炉動特性評価のための遅発中性子収率高精度化に関する研究開発」の成果です。

研究開発の背景

核分裂で生成される核分裂片には様々な核種が存在します。これら原子核の種類と生成確率は、原子炉の停止後に発生する崩壊熱量とこの時間変化に影響を与え、また原子炉の動特性を支配する遅発中性子の収率を決定します。さらに、長寿命のMAを高速中性子で照射して核分裂をおこし、より短寿命な核分裂生成物に変換する核変換技術を構築するためにも、様々なMA核種に対し、高い中性子エネルギー領域までのデータが必要となります。このように、質量数収率分布は、原子力エネルギーの利用において重要な核データです。必要となる中性子入射核データは、いくつかの核種について測定されているものの、高い純度の標的が得られない、またはその寿命が短いといった理由で測定データのない核種が多く存在します。また、高エネルギー中性子に対するデータは、単色の中性子源を作ることが容易でないことから、極めて限られていました。本研究では、加速した酸素18(18O)を高純度の標的核種に照射し、多核子移行反応(図1)を利用することで多種にわたる原子核と様々な励起状態を生成し、これらの核分裂を観測することで、問題を解決することを目指しました。この結果、未測定の核種のデータに加え、高エネルギー領域までのデータを取得することに成功しました。また、動力学モデルを用いて核分裂片の質量数収率分布を計算する手法を開発し、実験データをよく再現することに成功しました。核分裂過程を基礎的なモデルで記述するため、汎用性と適用性の高い核データ評価方法の構築に道を開いた成果と言えます。

多核子移行反応による核分裂片の質量数収率分布を測定する原理。酸素18ビームをトリウム232(232Th)標的に照射することで、複合核234Thを生成します。複合核の核分裂によって生じる2つの核分裂片の速度を測定することで運動学的に核分裂片の質量数を決定しました。
図1.
多核子移行反応による核分裂片の質量数収率分布を測定する原理。酸素18ビームをトリウム232(232Th)標的に照射することで、複合核234Thを生成します。複合核の核分裂によって生じる2つの核分裂片の速度を測定することで運動学的に核分裂片の質量数を決定しました。

研究の手法

多核子移行反応とは、重イオン反応において、入射核及び標的核が、これらを構成する中性子や陽子を交換する過程を表します。図1の例では、2つの中性子が18Oから232Thに移行し、複合核として234Thを生成しています。中性子や陽子が移行するパターンは様々であり、このため多くの種類の複合核が生成されます。複合核の核分裂を観測して核データを取得しますが、多核子移行反応を用いることで、一度に多くの核種のデータを取得できることが分かりますが、これまで実際に試みられたことはありませんでした。ここで重要となる測定技術は、反応の事象ごとに複合核を識別することです。本研究では、反応によって放出される様々な粒子の種類をシリコンΔE-E検出器[用語8](図2の写真)を用いて識別し、標的核に移行した中性子数と陽子数を決定することで複合核の同定に成功しました。例えば、図1において、酸素16(16O)の検出は、234Thが生成されたことを意味します。核分裂によって生成される核分裂片の質量数を決定するため、核分裂片の飛行時間分析を行って運動学的に質量を決定しました。このため、核分裂片を検出する位置検出型の多芯線比例計数管[用語9]を開発しました。234Thは、図1の例のように中性子が233Thに吸収されてできる複合核となることから、233Thの中性子入射核データを与えることとなります。この手法を一般に代理反応といいますが、本研究では核分裂質量数収率曲線を代理反応として初めて取得する方法を開発しました。

シリコンΔE-E検出器(写真)で検出された散乱粒子のスペクトル。酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)など様々な同位体が識別できており、これに対応して複合核の核種を決定しました。
図2.
シリコンΔE-E検出器(写真)で検出された散乱粒子のスペクトル。酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)など様々な同位体が識別できており、これに対応して複合核の核種を決定しました。

得られた成果

得られた結果を図3に示します。図からわかるように、1回の実験で14核種のデータを取得することに成功しました。このうち、231,234Th, 234,235,236Paについては、本実験により初めて取得したデータとなります。また、実験では、複合核が有する様々な励起状態を事象ごとに識別し、励起エネルギーに依存した核分裂を調べることに成功しました。これは、代理反応の視点から、入射する中性子エネルギー依存性を調べることと等価です。図3の縦の並びは、中性子エネルギーに換算した値として示しています。低い方では熱中性子~1 MeVのデータ、高い方では50 MeV入射のデータが得られました。本実験手法によれば、核種と中性子エネルギーに対するデータを1つの反応で得られることになり、多核子移行反応の有用性を示しています。

本研究では、動力学モデルによる計算を行い、実験データとの比較を行いました。このモデルでは、複合核状態にある原子核の形が時間とともに変形し、最終的に2つの核分裂片に分かれる過程をシミュレートするものです。図4に示すように、原子核は、その形状に対応したポテンシャルエネルギーを持ち、エネルギーの低いところを経由して核分裂が進むと考えます。ここで、左の図は、原子核の励起エネルギーが高い場合に原子核が感じるエネルギーを表し、このような状態は入射させる中性子のエネルギーが高い場合に生じます。しかし、励起エネルギーが低い場合、右図のようにポテンシャルエネルギーの変化が生じます。励起エネルギーが低いと、原子核の内部構造、すなわち中性子や陽子のエネルギー準位の分布が示す粗密構造(殻構造)が現れ、これに起因するエネルギー補正が必要となります。計算では、このようなミクロな効果を取り入れました。このようなポテンシャルエネルギーを基に、動力学モデルを適用することで原子核形状の時間発展をランジェバン方程式によって計算し、原子核がどのような質量数に分裂するかを調べました。このモンテカルロ法による計算結果を図3に曲線で示します。この計算では、原子核を構成する陽子や中性子が原子核表面をたたくことによって生じる原子核の局所的な振動運動を取り入れました。これにより、核分裂においては、ある平均値のまわりに揺らぎを持ちながら進展するため、結果として質量数に分布を与えます。図3に示すように、本計算結果では、特に中性子エネルギー換算で20 MeV以下のデータをよく再現しています。このような、原子核の基本的なふるまいに立脚した理論計算により、質量数収率分布を説明したのは初めてと言えます。

18O+232Th反応によって取得した14核種の核分裂片質量数収率曲線。複合核の励起エネルギーから、入射中性子エネルギーに換算した値を右に示しています。曲線は揺動散逸理論によるモデル計算の結果で、非対称な分布から対称な分布に変化する様子が再現されています。
図3.
18O+232Th反応によって取得した14核種の核分裂片質量数収率曲線。複合核の励起エネルギーから、入射中性子エネルギーに換算した値を右に示しています。曲線は揺動散逸理論によるモデル計算の結果で、非対称な分布から対称な分布に変化する様子が再現されています。

波及効果、及び、今後の展開

利用できる高純度のアクチノイド標的として、232Thのほか、238U、237Np、243Am、248Cm、249Cfなどがあります。これら一連の標的を用いた同様の実験により、核変換に必要な核種のデータをすべて取得できるのみならず、これまで未測定であった核種の核分裂過程を調べられることになります。特に中性子数の多いアクチノイド原子核の核分裂研究など、新たな領域の核分裂を調べることができます。理論に関しては、核分裂過程をより本質的な概念で記述しているため、対象とする核種やエネルギー領域を選ばない、汎用性の高いモデルであるといえます。

原子核のポテンシャルエネルギー曲面を示します。揺動散逸理論による核分裂の時間発展の様子は実線で示すようになり、平均的な軌道の周りをランダムな動き(振動)を持ちながら進んでいきます。低励起状態では、原子核の殻構造により、質量非対称な経路が生まれていますが、高励起状態では質量対称分裂にむかって核分裂が進みます。このポテンシャル曲面の変化を取り入れることで、中性子エネルギーに対する核分裂核データの評価が可能となります。
図4.
原子核のポテンシャルエネルギー曲面を示します。揺動散逸理論による核分裂の時間発展の様子は実線で示すようになり、平均的な軌道の周りをランダムな動き(振動)を持ちながら進んでいきます。低励起状態では、原子核の殻構造により、質量非対称な経路が生まれていますが、高励起状態では質量対称分裂にむかって核分裂が進みます。このポテンシャル曲面の変化を取り入れることで、中性子エネルギーに対する核分裂核データの評価が可能となります。

用語説明

[用語1] 核分裂片の質量数収率分布 : 核分裂がおこると、様々な種類の原子核が核分裂生成物として生成される。これら原子核を質量数ごとにわけ、質量数の関数として収率をプロットしたものである。通常、収率の合計が200%となるように規格化する。

[用語2] 多核子移行反応 : 原子核どうしを衝突させる場合に生じる核反応機構のひとつ。入射核と標的核との間で、中性子や陽子を交換することで、反応の後に異なる原子核が生成される。反応の特徴は、移行する核子(中性子および陽子)の数に応じて多種類の原子核が生成されるとともに、低い励起エネルギーから高い励起エネルギー状態まで連続的に生成されることである。

[用語3] 動力学モデル : 本研究で開発したモデルは、揺動散逸定理に基づく運動方程式(ランジェバン方程式)を用いた。揺動散逸定理とは、熱平衡状態において微視的な粒子の運動と巨視的に観測できる運動の間の関係を示すものであり、ブラウン運動の記述として良く知られている。これらは揺らぎと摩擦という現象として現れ、揺らぎの大きさgと摩擦の大きさをγは、系の温度をTとすると、アインシュタインの関係式 g2 = γT が成り立つ。この関係は微視的運動と巨視的運動の橋渡しの役割を担っている。核分裂モデルにおいては、微視的な運動とは原子核を構成する陽子・中性子の運動を指し、巨視的運動は原子核の形の時間的な変化を表している。

[用語4] 崩壊熱 : 核分裂の結果生じた核分裂片が、ベータ崩壊する際に放出するエネルギーが熱にかわったもの。原子炉の運転を停止しても、核分裂生成物はある寿命を持って崩壊を続けるために熱を発生し続ける。福島第1原子力発電所においては、この崩壊熱を取り除く機能が失われたために炉心が損傷した。熱量と経過時間に対する変化は、生成される核分裂生成物の種類とそれぞれの収率によって変化する。

[用語5] 遅発中性子数 : 核分裂で生成される核分裂片のいくつかの核種において、ベータ崩壊に伴って中性子が放出されることがあり、これを遅発中性子と言う。半減期が長いものとして55秒の核種がある。実際の原子炉では、この中性子を含めて臨界を維持しているが、即発中性子と異なり、ベータ崩壊の寿命に応じて中性子の放出に遅れを伴う。このため、反応度の投入に対する急激な出力の変化を防ぐことができ、原子炉の制御を行うための十分な時間余裕が生まれる。遅発中性子の数は、生成される核分裂片の核種とそれぞれの収率によって変化する。

[用語6] 長寿命マイナーアクチノイド : アクチノイドに含まれる超ウラン元素のうち、プルトニウム以外の元素の総称をマイナーアクチノイドといい、ネプツニウム、アメリシウム、キュリウムなどがある。このうち、237Np、241Am、243Amは、原子炉内の核燃料の燃焼によって生成される長寿命の原子核(長寿命マイナーアクチノイド)と言われており、この処分または管理を行うことが原子力エネルギー利用における大きな課題となっている。核変換は、これら長寿命マイナーアクチノイドを核分裂によって変換する技術である。原子力機構においても加速器駆動型未臨界炉(ADS:Accelerator-driven subcritical reactor)を用いた核変換技術の開発が行われている。

[用語7] タンデム加速器 : タンデム(TANDEM=縦に馬を二頭ならべる馬車)加速器とは、ペレットチェーンで運ばれる電荷を利用してターミナル部を高電圧に保ち、この電圧差を利用してイオンを加速している。まずは負イオンをターミナルに向けて加速し、ターミナル部でイオンを負から正に変換することで逆向きに再加速する、いわば2段回方式の加速装置の総称を指す。加速イオンのエネルギーと種類、またビーム量とビーム直径を正確に制御できる特徴があり、原子核研究分野においては精密な核反応測定ができる特徴がある。
タンデム加速器

[用語8] シリコンΔE-E検出器 : 荷電粒子が物質内で失うエネルギーΔEが核種の質量数Aと原子番号Zに依存することを利用し、反応で生成された粒子を識別する方法をΔE-E法と呼ぶ。本研究では、分解能に優れるシリコン検出器を用いてΔE-E検出器を構成した。これまでに、ΔE検出器として75 μm厚の均一性のよい検出器の開発に成功し、酸素同位体までもきれいに分離することに成功した。

[用語9] 多芯線比例計数管 : 核分裂片を検出するためのガス増幅検出器である。電極を平面とすることで、有感面積を広くとることができ、本研究では200×200 mm2を有する検出器を開発した。独立したワイヤーを並べることで電極を構成し、ガス増幅で生成された電子が集まるワイヤーを同定することで、核分裂片の入射位置を記録できるようにした。

論文情報

掲載誌 :
Physics Letters B
論文タイトル :
Fission fragment mass distributions of nuclei populated by the multinucleon transfer channels of the 18O + 232Th reaction.
著者 :
R. Leguillon1, K. Nishio1, K. Hirose1, H. Makii1, I. Nishinaka1, R. Orlandi1, K. Tsukada1, J. Smallcombe1, S. Chiba2, Y. Aritomo3, T. Ohtsuki4, R. Tatsuzawa5, N. Takaki5, N. Tamura6, S. Goto6, I. Tsekhanovich7, A.N. Andreyev1,8
所属 :
1日本原子力研究開発機構、2東京工業大学、3近畿大学、4京都大学、5東京都市大学、6新潟大学、7ボルドー大学、8ヨーク大学
DOI :

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(研究内容について)

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