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高周波圧電共振器の課題を解消する回路技術を開発―IoT時代に向けた無線通信システムの小型化・低コスト化・高速化を実現へ―

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要点

  • 無線機の性能を決める重要な技術要素である発振器において、高周波圧電共振器の周波数ばらつきなどの課題を解決する新アルゴリズムに基づく回路技術を開発。
  • 信号の時間軸の揺らぎを示すジッタ特性において極めて優れた180fs RMSを達成。小数点分周位相同期回路(PLL)としては世界トップクラスの性能。
  • 外付け部品である水晶発振器を、集積回路に内蔵可能な高周波圧電共振器に置き換えることが可能となり、IoT時代に向けた無線通信システムの小型化・低コスト化・高速化に大きく貢献。
本成果の適用効果についての概念図

本成果の適用効果についての概念図

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の伊藤浩之准教授、益一哉教授らは情報通信研究機構(NICT)と共同で、高周波圧電共振器[用語1]を位相同期回路(PLL[用語2])に用いるための新しいアルゴリズムと回路技術を開発した。従来のPLLに比べ、低雑音かつ優れた性能指数(FoM[用語3])で動作することを確認した。

この技術により、従来の無線モジュールで小型化・低コスト化のネックになっている水晶発振器[用語4]を高周波圧電共振器に置き換えることができ、IoT時代に向けた無線通信システムの小型化・低コスト化・高速化に大きく貢献できる。高周波圧電共振器は小型で集積化でき、Q値[用語5]に優れており、これを用いた発振器は優れたジッタ[用語6]特性を有する。高周波圧電共振器は水晶共振器に比べ共振周波数のばらつきや温度依存性が大きいことが課題だったが、新規のアルゴリズムであるチャネル調整技術を用いたPLLの開発により課題を解決した。

最小配線幅65nmのシリコンCMOSプロセスで試作、最高約9GHzの周波数出力をわずか180フェムト秒[用語7]の位相ゆらぎで達成した。消費電力は12.7mW。この性能はPLLの性能指数(FoM)で-244dB[用語8]に相当し、小数点分周(フラクショナルN)PLL[用語9]としては世界トップクラスの性能である。無線通信システムの小型化・低コスト化、高速化に貢献できる。

成果は6月14日からハワイで開催される「The 2016 Symposium on VLSI Circuits」で現地時間6月17日に発表される。

研究背景

近年の無線通信システムでは、必要な機能の大部分が集積回路チップ上に実装されている。一方で、周波数基準信号(参照信号)を生成するために水晶共振器がいまだに個別の部品として用いられており、これらがモジュールの小型化・低コスト化のボトルネックになっている。多くのシステムでは、32kHzのクロックを生成する水晶発振器と、無線通信用のPLLの基準信号となる数十MHzのクロックを生成するために水晶発振器が用いられている。

これらを集積回路内の発振器や、集積化可能なMEMS[用語10]素子を利用した発振器で置き換えるための研究開発が行われている。数十MHzのクロックについては、高Q・高安定なMEMS素子を使った発振器で置き換える手法が検討されている。しかし、無線通信用途では、周波数の安定性や精度に加えて信号の時間軸の揺らぎであるジッタが小さいことが求められるため技術的ハードルが高く、水晶発振器の代替となる実用的な発振器技術は実現していない。

一方、低ジッタな発振器技術として、GHz帯で動作する高Qな圧電共振器を利用する手法が提案されており、極めて優れた性能が実現できている。また、MEMS技術で作成する一部の圧電共振器は集積化できるため、水晶発振器が抱える実装上の課題も解決できる。しかし、製造工程や電源電圧・温度の変化に起因する周波数ばらつき(PVTばらつき)が発振器の周波数可変レンジよりも一般的に広いため、ターゲット周波数の信号が得られない可能性があることが実用上の課題だった。

研究成果

伊藤准教授らは、これらの問題を解決するための新規アルゴリズムであるチャネル調整技術と、それを用いたPLL(図1)を開発した。この技術は2つのPLLを接続したカスケードPLLの構成を利用する。まず、高い周波数分解能を有する初段PLLが、フィードバック制御がかかっていない自走状態で発振器の周波数を測定し、圧電共振器帯域内で動作できるように出力周波数を決定する。その後、フィードバック制御を行い、その目標周波数にロックさせる。

後段PLLの参照信号は前段PLLから供給されるが、その周波数情報はアナログ信号(図1中のf1st)とデジタル信号(N2nd)で、位相情報はアナログ信号(f1st)で伝えられる。周波数チューニングレンジが広い後段のPLLは、初段PLLの圧電共振器の周波数ばらつきを補正するようにデジタル信号(N2nd)を使って周波数逓倍比を設定する。このような自動的に動作周波数レンジ(チャネル)を割り振るアルゴリズムがチャネル調整技術であり、製造ばらつきや温度依存性が比較的大きい圧電共振器も利用できるようになる。また、ばらつきが大きい圧電共振器が利用できる以外に、以下のメリットがある。

1.
初段PLLのアナログ出力信号f1st(後段PLLの位相参照信号)の位相雑音は、それが圧電共振器を用いた発振器で決まるように設計することで極めて小さくできる。さらに、この参照信号の周波数は高いため、後段PLLのループ帯域を広く設計できる。したがって、後段PLL出力信号の位相雑音の大部分が初段PLLの位相雑音で決まるように設計できるため、最終的な出力信号の位相雑音を小さくできる。また、参照信号の周波数が高いため、後段PLLのループフィルタの物理的サイズを小さくできる。
2.
初段PLLは32kHzの参照信号で低速動作するため、小さい電力で高ビットのΔΣ変調器[用語11]が利用できる。本回路では20bitのΔΣ変調器を使用しているため、1ppb[用語12]以下の周波数分解能が理論上実現できる。
同回路は、最小配線半ピッチ65nm(ナノメートル)のシリコンCMOSプロセスで試作した(図2)。同回路は約9GHzの信号を出力し、180fsのRMSジッタを12.7mWの消費電力で実現した(図3)。これは-244dBのFoMに相当し、小数点分周(フラクショナルN)PLLとしては世界トップクラスの性能である(図4、5)。
開発したPLLのブロック図

図1. 開発したPLLのブロック図

チップ写真と出力信号スペクトラム

図2. チップ写真と出力信号スペクトラム

位相雑音の測定結果

図3. 位相雑音の測定結果

従来のフラクショナルN PLLとの性能比較

図4. 従来のフラクショナルN PLLとの性能比較

従来のフラクショナルN PLLとのFoM比較

図5. 従来のフラクショナルN PLLとのFoM比較

発表予定

この成果は、6月14日~17日にハワイで開催される「The 2016 Symposium on VLSI Circuits」のセッション「Session 22 — Clock and Frequency Synthesis」で発表する。講演タイトルは「An 8.865-GHz -244dB-FOM High-Frequency Piezoelectric Resonator-Based Cascaded Fractional-N PLL with Sub-ppb-Order Channel Adjusting Technique(サブppb級チャネル調整技術を用いた8.865GHz -244dB FOM高周波圧電共振器ベースカスケードフラクショナルN PLL)」である。

論文著者

Sho Ikeda(池田翔、東工大 博士後期課程3年)、Hiroyuki Ito(伊藤浩之、東工大 准教授)、Akifumi Kasamatsu(笠松章史、NICT)、Yosuke Ishikawa(石川洋介、東工大 博士後期課程1年)、Takayoshi Obara(小原崇義、東工大 修士課程2年)、Naoki Noguchi(野口直記、東工大 修士課程2年)、Koji Kamisuki(紙透航志、東工大 修士課程2年)、Yao Jiyang(東工大 昨年度修了)、Shinsuke Hara(原紳介、NICT)、Dong Ruibing(董鋭冰、NICT)、Shiro Dosho(道正志郎、東工大 特任教授)、Noboru Ishihara(石原昇、東工大 特任教授)、Kazuya Masu(益一哉、東工大 教授)

用語説明

[用語1] 圧電共振器 : 圧電膜を利用した共振器であり、FBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)やSAW(Surface Acoustic Wave)共振器などがある。GHz帯で高いQ値[用語5]を有するため、低雑音発振器への利用が検討されている。

[用語2] 位相同期回路(Phase Locked Loop、PLL) : フィードバック制御により外部入力信号(参照信号、リファレンス)に位相が同期した別の周波数の信号を生成する電子回路。

[用語3] 性能指数(Figure of Merit、FoM) : 発振回路の性能を比較するための指標である。数値が低いほど性能が良い。FoM = 位相雑音 - 20log10(発振周波数/離調周波数) + 10log10(消費電力[mW])

[用語4] 水晶発振器 : 圧電材料である水晶を共振器に用いた発振器であり、無線通信システムなどで参照信号源として広く利用されている。高周波圧電共振器と比較して、周波数精度や安定性が桁違いに高いことが特徴である。

[用語5] Q値 : 共振回路の共振のピークの鋭さを表す値。この値が高いほどピークが鋭い。水晶共振器のQ値は数万程度、圧電共振器のQ値は数千程度、一般的なLC共振器のQ値は数十程度である。

[用語6] ジッタ : 信号の時間軸方向に発生する揺らぎ成分。雑音。

[用語7] フェムト(femto、f) : 国際単位系における接頭辞の一つで、10-15倍の量。

[用語8] dB(デシベル) : 電気工学等の分野で、物理量をレベル表記する際に使用される単位。

[用語9] 小数点分周(フラクショナルN)PLL : PLLに入力する参照信号の整数倍の周波数しか出力できない整数分周PLLに対して、参照信号の分数倍で出力信号を変化させることができるPLLであり、帯域内の任意の周波数が生成できるメリットがある。

[用語10] MEMS(Micro Electro Mechanical Systems) : シリコン基板などの上に微小な機械要素部品や電子回路などをまとめたデバイス。プリンタヘッドや加速度センサなどがある。

[用語11] ΔΣ変調器 : アナログデジタル変換器やデジタルアナログ変換器で利用されている技術である。小数点分周PLLでは、出力周波数を決める分周器の分周比をある一定の割合でランダムに切り替えて小数点分周を実現するために利用される。

[用語12] ppb : パーツパービリオン(parts per billion)の略であり、10-9倍。

問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所
准教授 伊藤浩之

Email : ito.h.ah@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5010 / Fax : 045-924-5022

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

国立研究開発法人情報通信研究機構 広報部 報道室

Email : publicity@nict.go.jp
Tel : 042-327-6923


希少元素を使わずに赤く光る新窒化物半導体を発見

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希少元素を使わずに赤く光る新窒化物半導体を発見
―マテリアルズ・インフォマティクスと実験の連携による成果―

要点

  • 発光デバイスや太陽電池への応用に期待
  • マテリアルズ・インフォマティクスが物質探索を加速できることを実証
  • 窒素化合物に限らず新物質開拓の新たな道を開く

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所/元素戦略研究センターの大場史康教授、平松秀典准教授、細野秀雄教授らは京都大学大学院工学研究科の日沼洋陽特定助教、田中功教授らと共同で、希少元素[用語1]を含まず、赤色発光デバイスや太陽電池への応用が期待できる新しい窒化物半導体を発見した。最先端の第一原理計算[用語2]を用いたスクリーニングによる効率的な物質選定と高圧合成実験[用語3]の連携により、見いだした。

この成果は窒化物半導体の応用の可能性を広げるだけでなく、先進計算科学に基づいたマテリアルズ・インフォマティクス[用語4]により物質探索を加速できることを実証したものであり、本アプローチは今後の材料開発において有力な手法になると期待される。

研究成果は6月21日に英国の科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)」に掲載された。

研究の背景

わが国の「元素戦略プロジェクト」[用語5]が標榜するように、地球上に豊富に存在する元素により構成され、卓越した機能はもちろん、安価で高い環境調和性をもつ新物質・新材料の開拓が急務である。物質・材料探索では、元素の種類と組成の無限の組み合わせの中で可能な限り広く探索し、そこから有望な候補を的確に絞り込むための指針と手法が要となる。

近年の計算科学の進展とスーパーコンピュータの演算能力の向上により、物質の安定性や特性を高精度かつ網羅的に理論予測できるようになってきた。このような先進計算科学、さらにはデータ科学や合成・評価実験に基づいたスクリーニングにより物質・材料開発の加速を目指した「マテリアルズ・インフォマティクス」が世界各国で盛んになっている。

数ある物質の中でも、窒化物は半導体としての応用に適した電子・光学物性だけでなく、地球上に豊富に存在する窒素の化合物というメリットをもつ。しかし、現在実用化されている窒化物半導体は、緑色や青色、紫外線の発光ダイオードに用いられる窒化ガリウムと、窒化インジウムまたは窒化アルミニウムとの固溶体にほぼ限定されている。また、既存の赤色や黄色の発光ダイオードには、高コスト、希少、あるいは使い捨てや廃棄が容易でない元素が使用されている。

希少元素を含まず、伝導キャリア(電子や正孔)の輸送特性に優れ、さらには太陽光をはじめ、人類にとって有用な光の波長領域のバンドギャップ[用語6]をもつ窒化物半導体が開発できれば、赤色の発光デバイスや太陽電池など、窒化物半導体のより広範な応用が期待できる。

研究成果

東工大の大場教授らの研究グループは、最先端の第一原理計算を用いたマテリアルズ・インフォマティクスと高圧合成実験を連携させて、新しい窒化物半導体を探索した。様々な候補物質を対象に計算スクリーニングを実行し、特性および安定性の観点から有望な物質を選び出した。伝導キャリアの輸送に有利な電子構造の観点から、亜鉛を含む3元系窒化物半導体に対象を絞り、既知および仮想的な物質を含む約600種類の候補物質のリストを作成した。

その候補物質を対象に、格子振動[用語7]に対して結晶が安定に保たれること、3元系状態図における競合相に対して安定またはわずかに準安定であること、バンドギャップをもつこと、有効質量[用語8]が小さいことを条件に、半導体として有望な物質を絞り込んだ。(図1)

第一原理計算を用いた窒化物半導体のスクリーニングの概念図

図1. 第一原理計算を用いた窒化物半導体のスクリーニングの概念図

計算スクリーニングにより、図2に示すような21種類の窒化物半導体を選定した。このうち物質群Iに示すのは既知の半導体であり、これらが的確に選ばれたことは今回のスクリーニング手法の妥当性を示す結果である。IIについては合成の報告はあるものの、半導体としての応用が未開拓である。そして、IIIは合成の報告すらない新物質である。このように、多様なバンドギャップをもつ有望な窒化物半導体を計算スクリーニングにより提案した。

計算スクリーニングにより選定された21種類の窒化物半導体

図2. 計算スクリーニングにより選定された21種類の窒化物半導体

物質群IIIの中でも、図3に示すCaZn2N2は、Ca、Zn、N(カルシウム、亜鉛、窒素)という豊富な元素のみで構成されるだけでなく、以下の計算結果から特に有望な新物質といえる。

1.
発光や吸光に適した直接遷移型[用語9]のバンド構造を有する。バンドギャップは1.8 eV(電子ボルト)であり、赤色の発光が期待できる。またSrZn2N2、CaMg2N2などの類縁窒化物との固溶体化により、バンドギャップを1.6 eV~3.3 eVの範囲で制御可能である。
2.
電子の有効質量が電子静止質量の0.2倍、重い正孔の有効質量が0.9倍と小さく、電子や正孔の輸送に有利である。これらは、例えば窒化ガリウムの電子の有効質量が電子静止質量の0.2倍、重い正孔の有効質量が2.0倍であることと比べても優れた値であることが分かる。
3.
p型とn型の両方にキャリアの制御が可能である。つまりシリコンやヒ化ガリウムのような既存の半導体と同様なデバイス構造が利用できる新半導体である。
第一原理計算により予測されたCaZn2N2の結晶構造と特性

図3. 第一原理計算により予測されたCaZn2N2の結晶構造と特性

そこで、このCaZn2N2を合成実験のターゲットとした。合成方法としては、3元系状態図の計算よりCaZn2N2が高い窒素分圧下において安定であることを踏まえ、高圧合成を選択した。図4に示すように、計算から予測された通り1,200 ℃、5.0 GPa(約5万気圧)の高温・高圧条件下においてこのCaZn2N2相が得られ、その結晶構造は予測されたものと等しいことが分かった。

また、実験で得られた格子定数[用語10]と計算による予測値との差は0.3%と小さく、今回の理論予測が高精度であることを実証した。さらに拡散反射[用語11]測定およびフォトルミネッセンス[用語12]測定により、バンドギャップは1.9 eVと理論予測にほぼ一致する値に見積もられ、直接遷移型のバンド構造を示唆する急峻な光吸収スペクトルの立ち上がりと赤色発光を観測した。

高圧合成により得られたCaZn2N2試料のX線回折パターン、吸収スペクトル、フォトルミネッセンススペクトルおよび赤色発光の写真

図4. 高圧合成により得られたCaZn2N2試料のX線回折パターン、吸収スペクトル、フォトルミネッセンススペクトルおよび赤色発光の写真

今後の展望

11種類の有望な新3元系窒化物に関する理論予測と、CaZn2N2の実験的な実証に関する以上の結果は、窒化物半導体のこれからの応用の可能性を広げるだけでなく、マテリアルズ・インフォマティクスにより物質探索を加速できることを示す実例である。今後、探索範囲を拡張して計算スクリーニングを実行し、より多様な新物質を選定し、実験により検証することで、新物質のさらなる開拓が期待できる。

本研究は、文部科学省元素戦略プロジェクト<研究拠点形成型>東工大元素戦略拠点(TIES)、科学技術振興機構イノベーションハブ構築支援事業「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ(MI2I)」、科学研究費補助金新学術領域研究「ナノ構造情報のフロンティア開拓-材料科学の新展開」の助成により行われた。計算には東京工業大学スーパーコンピュータTSUBAME2.5および京都大学スーパーコンピュータACCMSを用いた。

用語説明

[用語1] 希少元素 : 地球上の存在量が少ないか、技術的・経済的な理由で抽出困難な元素。

[用語2] 第一原理計算 : 量子力学の基本原理に基づいた計算。物質の性質を支配する電子の状態だけでなく、安定性や構造を決定する際の指標となる全エネルギーが得られ、結晶や分子の構造を予測できる。

[用語3] 高圧合成実験 : 数万気圧(数ギガパスカル)の高い圧力下での試料合成実験。

[用語4] マテリアルズ・インフォマティクス : 計算科学、データ科学、合成・評価実験及びこれらの連携手法により膨大な数の物質の評価を行い、その結果に基づいて新物質や新機能を開拓することを目指したアプローチの総称。

[用語5] 元素戦略プロジェクト : 物質・材料の特性・機能を決める元素の役割を解明し利用する観点から材料研究のパラダイムを変革し、希少元素の代替や新材料の創製につなげることを目標とする文部科学省の研究プロジェクト。

[用語6] バンドギャップ : 半導体において電子がとることができないエネルギー範囲であり、吸光波長の閾値や発光波長に関わる。

[用語7] 格子振動 : 量子効果や熱による格子の振動。

[用語8] 有効質量 : 物質中の伝導電子やホールの見かけ上の質量であり、値が小さいほど高い輸送特性が期待できる。

[用語9] 直接遷移型 : 価電子帯の上端と伝導帯の下端の電子状態が同じ波数ベクトルをもつ半導体のバンド構造であり、発光や吸光に適している。

[用語10] 格子定数 : 結晶格子の各辺の長さを与える定数。

[用語11] 拡散反射 : 物質からの光の反射から半導体のバンドギャップを見積もる手法。

[用語12] フォトルミネッセンス : 半導体のバンドギャップより高い光子エネルギーの光を照射し光を吸収させ、逆遷移の発光を観察する手法。

論文情報

論文タイトル :
Discovery of earth-abundant nitride semiconductors by computational screening and high-pressure synthesis
(和訳:豊富な元素で構成される窒化物半導体の計算スクリーニングと高圧合成による発見)
著者 :
Yoyo Hinuma, Taisuke Hatakeyama, Yu Kumagai, Lee A. Burton, Hikaru Sato, Yoshinori Muraba, Soshi Iimura, Hidenori Hiramatsu, Isao Tanaka, Hideo Hosono, and Fumiyasu Oba
(日沼 洋陽、畠山 泰典、熊谷 悠、バートン・リー、佐藤 光、村場 善行、飯村 壮史、平松 秀典、田中 功、細野 秀雄、大場 史康)
掲載誌 :
Nature Communications (ネイチャー・コミュニケーションズ) 7, 11962 (2016).
DOI :

物質理工学院

物質理工学院 ―理学系と工学系、2つの分野を包括―
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問い合わせ先

理論計算に関すること

科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所/
元素戦略研究センター
教授 大場史康

Email : oba@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5511

実験に関すること

科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所/
元素戦略研究センター
准教授 平松秀典

Email : h-hirama@lucid.msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5855

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

葉緑体機能の制御に重要な新たな還元力伝達経路―二つの経路の協調が光合成や生育に必須―

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要点

  • 還元力伝達経路は、光合成をはじめとする葉緑体の機能調節に重要な役割。
  • NADPHを起点とする還元力伝達経路の生理的な重要性を解明。
  • 光合成生物を用いた物質生産などの応用研究への展開に期待。

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の吉田啓亮助教と久堀徹教授は、植物細胞内の機能制御に重要な還元力伝達経路として、これまで知られていたもののほかに、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH[用語1])を起点とする経路が重要な役割を担っていることを発見した。

光合成の場である植物の葉緑体には、酸化力や還元力が酵素タンパク質に伝達され、タンパク質自体を酸化あるいは還元することによってその機能を調節するシステムがある。これまでは、光合成電子伝達系から電子を受け取るフェレドキシン[用語2]というタンパク質を起点とする還元力伝達経路がその主要経路であると考えられていた。吉田助教らは、これ以外にNADPHを起点とする還元力伝達経路が重要な役割を担っており、この二つの経路が協調して機能することが、植物の光合成や生育そのものに必須であることを明らかにした。

光合成反応は地球上最大の規模で行われる光エネルギー-化学エネルギー変換反応であり、植物による物質生産のかなめである。絶え間なく変動する自然環境の下で植物が効率よく安定して光合成反応を維持していくために、葉緑体の生理機能は柔軟に、そして精密に調節されている。

今回の研究成果は、この調節に重要な酸化力と還元力の伝達による葉緑体機能調節のネットワークを新たに解明したもので、光合成生物を用いた物質生産など、今後の応用研究への展開にも有効な重要な知見である。6月22日(現地時間)発行の「米国科学アカデミー紀要(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)」電子版に掲載された。

研究の背景と経緯

植物の光合成は、光エネルギーを利用して炭水化物を生産する、いわば地球上のあらゆる生命を支える重要なエネルギー変換反応である。植物の緑葉の細胞の中には、葉緑体と呼ばれる細胞小器官があり、ここが光合成反応の場となっている(図1A)。個々の葉緑体の内部には、チラコイド膜とよばれる積層した生体膜があって、この膜に埋め込まれている光合成電子伝達系の働きによって光エネルギーが化学エネルギー(エネルギーを蓄積する化合物であるアデノシン三リン酸=ATPと、還元力を蓄える化合物であるNADPH)に変換されている。

次に、葉緑体の膜以外の部分(ストロマ)に存在する酵素群が働いて、大気中の二酸化炭素を原料として糖など炭水化物が生産されている。二酸化炭素を糖に変換する反応経路は、13種類の酵素が連続して働く複雑な反応で、発見者の名前を取って、Calvin-Benson(カルビン・ベンソン)回路とよばれている(図1B、2A)。Calvin-Benson回路が働くためには、上記のATPとNADPHが使われるが、この回路の酵素反応はいずれも光エネルギーを直接には必要としていない。そこで、以前はこの回路全体が“暗反応”と呼ばれ、明反応と呼ばれた電子伝達反応とは区別されていた。ところがその後の研究で、Calvin-Benson回路の少なくとも4つの酵素は光照射によって電子伝達系が働くとそれに連動して活性化される、ということがわかった。つまり、光を必要としないと考えられていた暗反応という定義が、実体に合わなくなってしまった。このため、暗反応、明反応という呼び名は使われなくなった。葉緑体内には、この“光照射のシグナル”をCalvin-Benson回路の酵素などに還元力として伝達し、葉緑体の機能全体を制御している還元力伝達経路がある。

このような還元力伝達経路は生物の細胞内に一般に見られるもので、系全体の酸化力あるいは還元力の蓄積レベルに応じて、特定の酵素が酸化されたり還元されたりするのを制御し、その酵素の活性を調節するシステムである。多くの場合、酵素は酸化されると活性を失い、還元されるとその活性が高くなる。このような制御システムで中心的に働いているのは、チオレドキシン[用語3]というタンパク質である。葉緑体では、光合成の電子伝達系から還元力を受け取ったチオレドキシンは、標的となる酵素に還元力を渡して、その酵素を活性型にする。そして、これまで30年以上、フェレドキシンからFTR[用語4]、チオレドキシンを介して標的酵素に到る単純な一本道の還元力伝達経路が制御システムとして働いていると考えられてきた(図2A)。

ところが、2000年に緑色植物であるシロイヌナズナの全ゲノムDNAの塩基配列が解読されて以来、植物細胞の中には、チオレドキシンやチオレドキシンに類似したタンパク質が合計20種類以上もあることがわかってきた。また、これらのタンパク質に還元力を伝達する上流の酵素も複数種類あることがわかった。さらに、チオレドキシンが還元力を渡す相手の酵素を解析する技術が発達し、葉緑体の中では実にさまざまな酵素がチオレドキシンから還元力を受け取っていることも報告されている。すなわち、葉緑体の還元力伝達経路は、これまで考えられていたような単純な一本道ではなく、複雑に分岐した“ネットワーク”によって構成されているらしいというわけである(図2B)。

イネのゲノム解析に基づいて、チオレドキシンの還元に関わるNADPH-チオレドキシン還元酵素(NTR)が2004年に3つ発見され、それぞれA,B,Cと命名された。このうち、3番目のNTRC[用語5]は、他の酵素と違った特徴を持っていた(図3)。このタンパク質は、植物細胞の細胞質にあるNTRと機能・構造が同じ部分とチオレドキシン部分が直列につながったハイブリッドタンパク質で、NADPHが蓄えた還元力を他の酵素に直接伝達することができるという、面白い葉緑体タンパク質だったのである。吉田助教らは緑色植物のNTRCの生化学・生理学的な特性を調べ、NTRCを通る還元力伝達経路とフェレドキシンを起点とする経路の違いを比較した。

光合成の場である葉緑体の模式図

図1. 光合成の場である葉緑体の模式図

(A)植物の葉/細胞/葉緑体。チラコイド膜の電子顕微鏡写真は村上悟先生(東京大学名誉教授・故人)の提供による。
(B)葉緑体チラコイド膜の電子伝達系と葉緑体ストロマのCalvin-Benson回路の模式図。

葉緑体の還元力伝達システムの模式図

図2. 葉緑体の還元力伝達システムの模式図

(A)以前から知られていた葉緑体の還元力伝達システム。FTR/Trxシステムによる一本道の還元力伝達経路により、光照射のシグナルが還元力として標的酵素に伝達される。Calvin-Benson回路を構成する4つの酵素(GAPDH, FBPase, SBPase, PRK)は還元されて活性化される。
(B)新たに明らかになった葉緑体の還元力伝達ネットワーク。さまざまな還元力伝達因子(Trxファミリータンパク質やTrx様タンパク質など)といろいろな葉緑体の生理機能に関わる標的酵素によって構成されている。還元力経路をネットワーク状に組織化することによって、葉緑体機能は柔軟に、かつ、精密に調節されていると考えられる。

NTRCの分子構造と反応の模式図。タンパク質のアミノ基末端側(図ではNと表示)にNADPH-チオレドキシン還元酵素部分(NTRd)、カルボキシル基末端側(図ではCと表示)にチオレドキシン部分(TRXd)を持つ。NTRdに結合したフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)がNADPHから還元力を受け取り、NTRdとTRXdがそれぞれ持っているふた組のシステインのペアに順次伝達する。そして、最終的に標的酵素が還元される。

図3. NTRCの分子構造と反応の模式図

タンパク質のアミノ基末端側(図ではNと表示)にNADPH-チオレドキシン還元酵素部分(NTRd)、カルボキシル基末端側(図ではCと表示)にチオレドキシン部分(TRXd)を持つ。NTRdに結合したフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)がNADPHから還元力を受け取り、NTRdとTRXdがそれぞれ持っているふた組のシステインのペアに順次伝達する。そして、最終的に標的酵素が還元される。

研究成果

吉田助教らは、まず、NTRCから還元力を受け取る可能性のあるタンパク質を調べるために、NTRCをクロマトグラフィー担体に固定し、葉緑体から抽出したタンパク質を結合相手のタンパク質群として用いてアフィニティークロマトグラフィー(生体物質を単離・精製する手法)を行った。その結果、すでにチオレドキシンの相手として報告されていたタンパク質のほか、NTRCが特異的に還元力を渡すタンパク質を見出した。さらに、この方法で見つかった相手のタンパク質について、NTRCから還元力がどのように伝達されるのかを試験管内で詳しく調べた。その結果、NTRCは、還元力の伝達速度や特異性の点で、これまで知られていたチオレドキシンとは異なる特長を持っていることを発見した(図4A)。

このNTRCの特長は、植物が生きる上でどのように重要なのだろうか。吉田助教らは、NTRCを欠損させた植物を育ててみたところ(図4B)、NTRCを欠損した植物の葉は、緑色にならなかった。そして、NTRCとFTRの両方を欠損させると、ほとんど育たなくなった。これらのタンパク質を欠損した植物の光合成効率などを調べてみると、NTRCを欠損させた植物では、光合成システムが全般的に機能不全に陥っているということがわかった。

これまで、葉緑体では光合成の電子伝達系が生み出す還元力を直接利用するFTRとチオレドキシンを経由する経路が、葉緑体の機能調節を行う唯一の還元力伝達経路である、というのが光合成研究分野の共通認識だった。しかし、今回の研究によって、葉緑体内ではNTRCも独自の機能を持っており、両者が協調して働くことが植物の葉緑体機能の調節にきわめて重要であるということがわかった。

FTR/Trx経路とNTRC経路はそれぞれ異なる還元力伝達経路によって協調的に葉緑体の機能調節と植物の生長を支える。

図4. FTR/Trx経路とNTRC経路はそれぞれ異なる還元力伝達経路によって協調的に葉緑体の機能調節と植物の生長を支える。

(A)TrxファミリーとNTRCの異なる標的選択性の模式図。還元力伝達効率の違いを矢印の太さで示した。赤矢印は、今回の研究で明らかになった経路。括弧内に各標的酵素が関与する生理機能を示している。
(B)シロイヌナズナのFTRとNTRC変異株、および、二重変異株。

今後の展開

葉緑体内の新しい還元力伝達経路の発見は、植物が進化の過程で獲得した環境応答戦略の新たな一面を明らかにしたものといえる。植物の機能制御に関わるこのような経路の発見は、将来、葉緑体の機能制御システムを人為的に改変・最適化することによって葉緑体機能を増強するなど、植物を利用した物質生産などの今後の応用研究にも役立つ重要な情報である。

この研究の主要部分は、現在、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)の久堀教授らの研究チームが取り組んでいるシアノバクテリアを用いた物質生産の基礎研究として実施された。また、研究の一部は、日本学術振興会科学研究費補助金・若手研究(B)(代表:吉田啓亮助教)と基盤研究(B)(代表:久堀徹教授)のサポートを受けている。

用語説明

[用語1] NADPとNADPH : ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(酸化型は正電荷を帯びるのでNADP+とも書く。還元型はNADPHと表記される)。葉緑体内では光合成の電子伝達系の還元力によってNADPHが生じるほか、ペントースリン酸回路のグルコース6-リン酸脱水素酵素の働きでも生産される。

[用語2] フェレドキシン(Fd) : 分子内に2Fe-2S型の鉄硫黄クラスターを持ち、還元力を鉄の価数の変化として分子内に貯めることが出来る。

[用語3] チオレドキシン(Trx) : 生体内の還元力伝達に中心的な役割を果たすタンパク質。生物界に普遍的に存在し、Trp-Cys-Gly-Pro-Cysというよく保存されたアミノ酸配列の活性部位モチーフを持っており、この二つのCys(システイン)のチオール基の酸化還元状態の変化によって還元力の伝達を行う。

[用語4] フェレドキシン/チオレドキシン還元酵素(FTR) : 電子伝達タンパク質であるフェレドキシンからチオレドキシンに還元力を受け渡す還元力伝達タンパク質。

[用語5] NADPH-チオレドキシン還元酵素C(NTRC) : 2004年、Serrato A. J.らによって報告された新規のNADPH依存的に標的酵素を還元する還元力伝達タンパク質(J. Biol. Chem. (2004) 279, 43821-43827)。その後、植物葉緑体やシアノバクテリアなど、光合成生物が特異的に持っていることがわかった。

論文情報

論文タイトル :
Two distinct redox cascades cooperatively regulate chloroplast functions and sustain plant viability
著者 :
Keisuke Yoshida, Toru Hisabori
掲載誌 :
Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2016, in press
DOI :

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生命理工学院 ―複雑で多様な生命現象を解明―
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助教 吉田啓亮

Tel : 045-924-5267 / Fax : 045-924-5268

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教授 久堀徹

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Tel : 045-924-5234 / Fax : 045-924-5268

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6月24日9:00 論文掲載日に誤りがあったため、修正しました。

東工大の研究者らが日本セラミックス大賞を受賞

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本学、科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の細野秀雄教授、神谷利夫教授と川副博司名誉教授が、「無機電子機能材料の創出と応用に関する研究」で、28年間受賞者のいなかった日本セラミックス大賞を受賞しました。

後列右から川副博司名誉教授、神谷利夫教授、細野秀雄教授
後列右から川副博司名誉教授、神谷利夫教授、細野秀雄教授

日本セラミックス協会の表彰で最高位の「日本セラミックス大賞」は、セラミックスの産業において発明、開発あるいは実用化等又はセラミックスの科学・技術に関する発見等において独創性のある画期的な業績を挙げた研究者に授与されます。28年前に銅酸化物のセラミックス超伝導体の研究で世界をリードした東京大学の研究グループと、セラミックスターボチャージャを開発した日本特殊陶業株式会社と日本ガイシ株式会社の研究者に贈られて以来、受賞者が出ていませんでした。

28年ぶりになるセラミックス大賞の授賞式は、6月3日に同協会の総会で行われました。セラミックスの主原料である透明な酸化物を対象に、独自の物質設計指針に基づき、透明p型半導体、大きな電子移動度をもつ透明アモルファス酸化物半導体(TAOS)などを創出し、紫外発光ダイオード、IGZOに代表される高移動度薄膜トランジスタや酸化物CMOSなどの電子デバイスを実現することで、透明酸化物エレクトロニクスの領域を切り拓いたことが評価されました。

受賞者代表 細野秀雄教授のコメント

この研究は、旧応用セラミックス研究所において、川副、細野、神谷の3代、20余年に亘り実施してきたものです。先ごろ急逝された宇田川重和名誉教授をはじめ、すずかけ台と大岡山キャンパスの先生方のご推挙の賜物です。本学のセラミックスの研究実績は、世界のトップレベルにありますが、新しい潮流や分野融合が急速に進んでいますので、果敢に挑戦が不可欠な状況です。引き続き、研究に精進したいと思います。

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Tel : 03-5734-2975

日高一義教授に「情報処理学会フェロー」の称号授与

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本学環境・社会理工学院 日高一義教授に、情報処理学会より2015年度情報処理学会フェローの称号が授与され、6月3日に認証式が行われました。

日高一義教授
日高一義教授

情報処理学会フェローは、情報処理および情報通信等の分野で貢献した情報処理学会会員に対して付与される称号です。その貢献を称えるとともに、その貢献が広く周知されるよう社会的認知度を高めることを目的としています。「情報工学、情報科学、情報学、コンピュータサイエンス、および情報通信工学などの学術研究」「情報教育」「情報技術・装置・システム・ソフトウェアにおける研究、開発、普及、および標準化」「情報産業の振興」「学会の運営」の5つの分野があり、各分野で学術的または産業的発展・普及・振興などに著しい貢献をした会員に本称号が授与されます。本年度は、日高教授のほか、14名に授与されました。

対象業績
「情報科学技術におけるサービスサイエンス新領域の確立と日本のコミュニティー創出に対する貢献」

サービスを科学の対象ととらえ、サービス産業および製造業のサービスプロセスに適応してイノベーションを起こすというサービスサイエンスの基礎概念を構築し、その具体的な社会展開を推進しました。また、情報科学、数学、経済学、心理学など、複数領域における科学的知見を統合した新領域としてのサービスサイエンスの必然性と重要性を提唱し普及させたほか、サービスサイエンスに関わる文部科学省、科学技術振興機構、日本学術振興会の事業等に貢献し、情報科学技術の新たな展開にも大きく寄与しました。

日高教授のコメント

フェロー認証状を手にする日高教授
フェロー認証状を手にする日高教授

サービス科学に関わる経済産業省、文部科学省、科学技術振興機構、日本学術振興会の事業・研究等に携わらせていただき、情報科学・技術の新たな展開に貢献させていただけたことは、研究者としての大きな喜びであります。近年注目されているIoT、Big Data、そしてAIも、その価値が最大限に発揮できる適応領域はサービス領域であると思われます。その意味ではサービス科学の役割は今後も重要性を増すに違いありません。情報科学・技術を中心とした様々な学術領域の統合による知的社会基盤の再設計に今後とも貢献できればと思っております。

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Tel : 03-3454-8912

NHK Eテレ「ハートネットTV」にリベラルアーツ研究教育院の伊藤亜紗准教授が出演

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本学、リベラルアーツ研究教育院の伊藤亜紗准教授が、NHK Eテレで放送される「ハートネットTV」に出演します。

伊藤亜紗准教授
伊藤亜紗准教授

タイトルは、「目の見えない人が“見る”世界」。

美学研究者である伊藤准教授は視覚障害者との対話を通じて、身体感覚の追究や、世界の捉え方に対する様々なアプローチを行ってきました。「身体」をテーマとして迫っていくことで、「福祉」という視点のみでは“見え”てこなかった豊かさを探っていきます。

伊藤亜紗准教授のコメント

目の見えない人は目で見ていない人。では彼らはどんな「見方」をしているのか? 違いを面白がろうという私の提案を、丁寧に番組にしていただいています。見えない人から見た大岡山も登場しますよ!

  • 番組名
    NHK Eテレ「ハートネットTV」
  • タイトル
    目の見えない人が“見る”世界
  • 放送日
    6月23日(木)に放送され、以下で再放送が予定されています。ぜひご覧ください。
    6月30日(木)13:05~13:34

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ビフィズス菌が優勢になる乳児の腸内フローラ形成機構を解明―母乳に含まれるオリゴ糖の主要成分の利用がカギ―

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要点

  • ビフィズス菌は、乳児期の腸内フローラにおいて優勢になることが知られていたがメカニズムが分かっていなかった。
  • 本研究では、生後1か月の間に乳児の腸内フローラが大きく変化し、腸内細菌科およびスタフィロコッカス科に属する細菌群が優勢のフローラ構成から、ビフィズス菌が優勢のフローラ構成に変動することを明らかにした。
  • ビフィズス菌が優勢になるためには、母乳に含まれるオリゴ糖の主要構成成分「フコシルラクトース」が重要な役割を果たしていることをゲノム解析により解明した。

概要

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の森宙史助教、山本和也大学院生、山田拓司准教授、黒川顕特任教授(兼国立遺伝学研究所教授)はヤクルト本社中央研究所の松木隆広博士、帝京大学医学部の児玉浩子博士らの研究グループと共同で、乳児期のビフィズス菌優勢の腸内フローラ[用語1]形成には、母乳オリゴ糖の主要な構成成分であるフコシルラクトース(FL)[用語2]が重要であることを突き止めた。

FLを利用できるビフィズス菌が定着した乳児は、そうでない乳児に比べて便中のビフィズス菌の占有率や酢酸濃度が高く、大腸菌群の占有率やpHが低いことがわかった。ビフィズス菌に利用されるFLを輸送するABC輸送体[用語3]がビフィズス菌優勢の腸内フローラの形成において中心的な役割を担っていることを解明した。これはビフィズス菌のオリゴ糖利用性が、乳児とビフィズス菌の共生関係の構築に重要であることを示し、乳幼児期におけるビフィズス菌優勢の腸内フローラの意義の解明につながることが期待される。

研究成果は6月24日発行の英科学誌「ネイチャーコミュニケーションズ(Nature Communications)」に掲載された。

は研究当時の肩書
乳児腸内フローラ形成とビフィズス菌によるフコシルラクトース(FL)利用の分子機構

概念図 乳児腸内フローラ形成とビフィズス菌によるフコシルラクトース(FL)利用の分子機構

(a)生後1か月間の乳児腸内フローラの形成過程には次のような特徴がある。乳児の腸内フローラはStaphylococcaceae、大腸菌群、ビフィズス菌のいずれかが最優勢であることを特徴とする3つのグループに分類される、ビフィズス菌優勢のフローラに不可逆的に移行する、その移行時期には個人差が認められる。
(b)ビフィズス菌には母乳オリゴ糖を効率よく利用できる菌とできない菌が存在する。母乳オリゴ糖の主成分であるFLの利用には、今回見出したFL輸送体が重要な役割を果たしている。このFL輸送体は、乳児の腸内の酢酸濃度とpHを規定する重要な遺伝子である。

研究の背景

最近の研究により、乳児期の腸内フローラ構成が成長後の個体の生理機能に大きな影響を及ぼすことが明らかとなっている。また、これまでの多くの研究から、乳児ではビフィズス菌優勢の腸内フローラが形成されることは明らかになっているが、乳児期の腸内フローラ形成の法則性やビフィズス菌優勢の腸内フローラの形成機構は十分に明らかとはなっていなかった。

そこで、乳児から生後1か月間に提供された糞便サンプルのフローラ構成を調べ、その動的変化と平衡、ならびに代謝産物との関係性を調べることにより、ビフィズス菌優勢の腸内フローラの形成に影響を及ぼす環境要因とビフィズス菌の特性について解析をした。

研究成果

(1)乳児期の腸内フローラ構成

通常分娩で生まれた12名の母乳により保育される新生児より、生後1か月間糞便を採集し、乳児期の腸内フローラ形成過程を解析した(図1-a)。その結果、生後1か月間の腸内フローラは、Bifidobacteriaceae(ビフィドバクテリア科)、Enterobacteriaceae(腸内細菌科)、またはStaphylococcaceae(スタフィロッカス科)が優勢の3つのグループに分類できることが、主成分分析およびクラスター分析によって明らかになった(図1-b、c)。さらに興味深いことに、各グループ間の変遷には法則性があり、Staphylococcaceaeが優勢のグループからEnterobacteriaceaeが優勢のグループへ、Enterobacteriaceaeが優勢のグループからBifidobacteriaceaeが優勢のグループへ不可逆的に変化することが分かった(図1-d)。

生後1か月間の乳児腸内フローラ構成の変化

図1. 生後1か月間の乳児腸内フローラ構成の変化

(a)ヒートマップ解析結果:各被験者の生後1か月間の腸内フローラ構成を、時間経過に沿って左から右にカラースケールで示した。
(b)多変量&クラスター解析結果:白丸は被験者サンプル、四角は各グループの中心を示す。ビフィズス菌優勢、大腸菌群優勢、Staphylococcaceaeが優勢のフローラを、それぞれB(赤)、E(青)、S(黄)で示した。色づけされた楕円には各グループに属するサンプルの67%が含まれる。
(c)各クラスターを特徴付ける菌群の占有率をボックスプロットにて比較した。ボックス右上の異なるアルファベット(a-c)は、群間で占有率が有意に異なることを示す(p<0.05、マンホイットニーU検定)。
(d)生後の日数経過と優勢菌群の遷移。

(2)生後1か月目の腸内フローラ構成

上述の12名の新生児に加え、通常分娩で生まれた15名の母乳により保育される新生児より糞便の採集を行い(計27名)、生後1か月目の腸内フローラ構成を調べた。さらに、これら新生児の保護者(成人)22名より糞便の採集を行い、腸内フローラ構成を調べた。

その結果、生後1か月目の腸内フローラ構成は、Bifidobacteriaceaeが優勢のグループとEnterobacteriaceaeが優勢の2つのグループに分類できた。一方、成人の腸内フローラ構成は、Lachnospiraceae(ラクノスピラ科)、Clostridiales incertae sedis X I V、Bacteroidaceae(バクテロイデス科)、Ruminococcaceae(ルミノコッカス科)およびPeptostreptococcaceae(ペプトストレプトコッカス科)優勢のグループのみだった(図2-a、b、c)。

1か月目の乳児(27名)と成人(22名)の腸内フローラ構成の比較

図2. 1か月目の乳児(27名)と成人(22名)の腸内フローラ構成の比較

(a)ヒートマップ解析結果:腸内フローラ構成に基づく階層的クラスタリングを行い、作成した樹形図を元にサンプルを並べ替えた(図上部)
(b)多変量解析結果(PCoA&PAM):ビフィズス菌優勢、大腸菌群優勢、成人型フローラを、それぞれB(赤)、E(青)、AD(黄緑)で示した。
(c)各クラスターを特徴付ける菌群の占有率をボックスプロットにて比較した。ボックス右上の異なるアルファベット(a-c)は、群間で占有率が有意に異なることを示す(p<0.05、マンホイットニーU検定)。

(3)腸内フローラ構成と腸内環境

腸内細菌の定着が腸内環境に及ぼす影響を調べるために、乳児糞便中のpHならびに有機酸の測定を行い、腸内フローラ構成との関係を調べたところ、Bifidobacteriaceaeの占有率は、糞便の有機酸濃度と正に相関すること、ならびに糞便pHと負に相関することが分かった(図3-a)。これまでの研究で、ビフィズス菌は母乳オリゴ糖(Human Milk Oligosaccharide、HMO)を利用することにより、その代謝産物として酢酸や乳酸を産生することが報告されていることから、乳児糞便中の残存HMO量の測定を行った。

その結果、糞便中のHMOの減少と糞便Bifidobacteriaceae占有率の増加、有機酸濃度の増加、pHの低下との間には相関関係が見られた(図3-b)。しかし、一部の乳児では、Bifidobacteriaceaeが存在するにも関わらず、糞便中に高濃度のHMOが残存していることが明らかになった(図3-c)。

そこで、ビフィズス菌のHMOの利用能を調べるために、糞便よりビフィズス菌29株を分離し、HMOを唯一の炭素源とする培地を用いてビフィズス菌の増殖性、ならびにHMOの利用性を調べた。その結果、図3-d、eに示したとおり、29株中14株はHMO添加培地で生育したが、15株は生育できなかった。

培地中の残存オリゴ糖を調べた結果、ほとんどのビフィズス菌株はHMOの構成成分のひとつであるラクト-N-テトラオースを利用していたが、HMOの主要な構成成分であるFLの利用性は単離したビフィズス菌株により顕著な差があった。これらのことから、乳児糞便中のビフィズス菌によるFL利用性は菌株特異的であることが分かった。

腸内フローラ構成と腸内環境の関連性

図3. 腸内フローラ構成と腸内環境の関連性

(a)スピアマンの順位相関係数:腸内フローラ構成菌と腸内環境を比較した。
(b)便中残存オリゴ糖濃度とpH値および酢酸濃度の関連性。
(c)腸内フローラ構成と便中のオリゴ糖濃度、およびビフィズス菌種の占有率との関係。腸内フローラ構成に基づく階層的クラスタリングを行い、作成した樹形図を元にサンプルを並べ替えた(図上部)。
(d)乳児から分離した29株のビフィズス菌を母乳オリゴ糖を唯一の糖源として培養した時の増幅曲線。
(e)培養上清の残存オリゴ糖解析結果、顕著な増殖が認められた株では、母乳オリゴ糖の主成分のFLがほとんど消費されている。

(4)ビフィズス菌のゲノムとFL利用性

乳児のビフィズス菌によるFL利用機構を明らかにするために、ビフィズス菌29株のゲノム解析を行った(表1)。各菌株がもつ遺伝子を詳細に解析したところ、新たに見いだされたABC輸送体がFLを利用できる菌株にのみ存在していた(図4-a)。

さらに、このABC輸送体遺伝子がFL利用性に関わっているのかを明らかにするために、このABC輸送体を欠損させたビフィズス菌株を作製し、HMOを含んだ培地での増殖性とFLの消費を調べたところ、ABC輸送体欠損ビフィズス菌では増殖が抑制され、FLも利用されていないことが確認された(図4-b、c)。このことから、今回新たに見いだされたABC輸送体がHMOの主要構成成分であるFL利用の中心的な働きを担っていることが分かった。

表1. ビフィズス菌29株のドラフトゲノム解析結果の概要

ビフィズス菌29株のドラフトゲノム解析結果の概要
母乳オリゴ糖の利用に関わる遺伝子の同定

図4. 母乳オリゴ糖の利用に関わる遺伝子の同定

(a)フコシダーゼ遺伝子(GH95およびGH29ファミリー遺伝子)の近傍の遺伝子配置。矢印は遺伝子がコードされている方向性を示す。
(b)フコシダーゼ近傍のABC輸送体(FL-SBP)の遺伝子破壊株。
(c)培養上清の残存オリゴ糖解析結果。破壊株では、FLが利用できなくなっていることが確認された。

(5)FL利用能を有するビフィズス菌による腸内環境への作用

27名の乳児を、FL輸送用のABC輸送体を保有するビフィズス菌株が優勢な乳児、FL非利用なビフィズス菌株が優勢な乳児、ならびにEnterobacteriaceaeが優勢な乳児に群分けし、糞便有機酸、pH、残存HMO量、腸内フローラの比較を行った(図5)。その結果、FL利用能を保有するビフィズス菌株が優勢な乳児の糞便では、他の群の乳児に比べ、糞便中のBifidobacteriaceae占有率が高く、Enterobacteriaceae占有率が低いことが明らかになった。また、FL利用能を保有するビフィズス菌株が定着した乳児の糞便では、残存のFL濃度が低く、並びに酢酸濃度が高くpHが低い値を示した。

FL利用ビフィズス菌の定着による腸内微生物生態系への影響

図5. FL利用ビフィズス菌の定着による腸内微生物生態系への影響

FL利用ビフィズス菌が優勢の乳児(B1グループ)、FL非利用ビフィズス菌が優勢の乳児(B2グループ)、大腸菌群が優勢の乳児(Eグループ)の比較をボックスプロットで表した。ボックス右上の異なるアルファベット(a-c)は、群間で占有率が有意に異なることを示す(p<0.05、マンホイットニーU検定)。

今後の展開

前述したように、乳児期の腸内フローラ構成が成長後の個体の生理機能に大きな影響を及ぼすことが報告されている。これまでの研究から、多くの乳児の腸管内では、ビフィズス菌が最優勢菌となる腸内フローラが形成されることが明らかになっている。しかし、ビフィズス菌優勢の腸内フローラ形成の法則性やその形成機構は十分に明らかとはなっていなかった。

今回の研究により、乳児期の腸内フローラは、Staphylococcaceae、Enterobacteriaceae、Bifidobacteriaceaeのいずれかが最優勢なフローラが形成されていること、ビフィズス菌優勢の腸内フローラ構成に不可逆的に変化すること、その移行時期は乳児によって異なることが明らかになった。また、ビフィズス菌のHMO利用性が、糞便中のビフィズス菌の占有率と酢酸および残存オリゴ糖濃度、pH、大腸菌群占有率に大きな影響を及ぼしていることも明らかになった。

さらにHMOの主要な構成成分であるFLの利用にあたり、新たに見いだされたABC輸送体が重要な役割を果たしていることが分かった。新たに同定されたABC輸送体を保有するビフィズス菌株が定着した乳児では、FL利用性ビフィズス菌のHMO代謝により、腸内のビフィズス菌占有率が上昇する結果、酢酸など有機酸生成が高まり、腸管内のpHが低下したと考えられる。

これらの腸内環境の変化がEnterobacteriaceae占有率に影響を及ぼしていることが予想される。すなわち、今回の研究で見いだされたビフィズス菌が保有するABC輸送体は、乳児とビフィズス菌の共生関係構築のために重要な因子であることが示された。

用語説明

[用語1] 腸内フローラ : 様々な生物の腸内には、多種多様な微生物が群集を形成して棲息しており、この腸内微生物群集のことを、腸内フローラ(flora)とも呼ぶ。成人のヒト腸内の場合、数百種以上の種からなる数十兆個以上の細胞が集まり、群集を形成していると見積もられている。

[用語2] フコシルラクトース : 分子式C18H32O15で表される、ヒトの母乳に最も多く含まれているオリゴ糖の一種。

[用語3] ABC輸送体 : 複数のタンパク質が集まって構成される構造体であり、細胞膜等の生体膜に存在し、生体膜の内と外とで特定の基質の輸送をATPを消費して行う。

論文情報

論文タイトル :
A key genetic factor for fucosyllactose utilization affects infant gut microbiota development
著者 :
Takahiro Matsuki, Kana Yahagi, Hiroshi Mori, Hoshitaka Matsumoto, Taeko Hara, Saya Tajima, Eishin Ogawa, Hiroko Kodama, Kazuya Yamamoto, Takuji Yamada, Satoshi Matsumoto, & Ken Kurokawa
掲載誌 :
Nature Communications
DOI :

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助教 森宙史
特任教授 黒川顕

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充放電しているリチウム電池の内部挙動の解析に成功―中性子線を用い非破壊かつリアルタイム観測により実現―

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要点

  • 蓄電池特性を左右するイオンの動きなどのリアルタイム観測手法を開発
  • 実用蓄電池の充放電時に現れる電池内部の非平衡状態の反応を世界で初めて直接観測
  • 大型蓄電池の反応・劣化挙動の解明に威力

概要

東京工業大学、高エネルギー加速器研究機構、京都大学の研究グループは、実際に充放電しているリチウムイオン電池の内部で起こる不均一かつ非平衡状態で進行する材料の複雑な構造変化を原子レベルで解析することに成功した。

中性子線を用いて、非破壊かつリアルタイムに観測し、そのデータを自動解析するシステムを開発した。刻一刻と変化する電池反応を観測し、解明できる手法の開発は画期的である。蓄電池の信頼性や安全性に関する詳細な情報が容易に得られるため、リチウムイオン電池のさらなる高性能化だけでなく、全固体電池などの次世代蓄電池開発にも大きく貢献すると期待される。

研究成果は6月30日(現地時間)発行の英国科学誌「サイエンティフィックレポート(Scientific Reports)」に掲載された。

共同研究グループ

この研究成果は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)との共同研究により得られた。研究グループは東京工業大学の田港聡研究員、菅野了次教授、高エネルギー加速器研究機構の米村雅雄特別准教授、神山崇教授、京都大学の森一広准教授、福永俊晴教授、荒井創特定教授、右京良雄特定教授、内本喜晴教授、小久見善八特任教授らで構成した。

研究成果

本共同研究グループは、リチウム二次電池の充放電過程における電池内部の電気化学反応およびその反応に対応した電極材料の構造変化を観測する新たなシステムと、その解析手法を開発した。蓄電池の反応をリアルタイムで観測するため、革新型蓄電池先端科学基礎研究事業(RISING プロジェクト[用語1]:プロジェクトリーダー小久見特任教授)に基づいて開発され、大強度陽子加速器施設 J-PARC[用語2]に設置された、特殊環境中性子回折計(SPICA : BL09[用語3])(図1A)を用いた。新たに開発したシステムはリチウムイオン電池の特性を決める鍵となるリチウムイオンの挙動を中性子線により直接観測できることが特徴である。

最も一般的な18650型円筒リチウムイオン電池[用語4]を用いて、異なる充放電レートの充放電過程をリアルタイムに観測し、不均一かつ非平衡に進行する電池反応を初めて明らかにした。これまでの分析手法とは異なり、電池特性を左右するリチウムイオンの動きを非破壊かつ実動作環境下で定性・定量的に分析できる。観測システムはリチウムや水素といった軽元素も敏感に検知する。

開発したシステムを用い、リチウムイオン電池(図1C、D)に対する様々なレートでの充放電過程をリアルタイムに観測し(図1B)、不均一で非平衡状態な電極反応を検出した。充放電レートを0.05から2Cレート[用語5]で行いながら測定した電池内部の正極・負極電極合材料の結晶構造変化を図3に示す。

負極電極合材中では(1)高レートの反応では不均一に反応が進行し、充放電終了後に緩和過程が存在する(図3E)(2)電池反応に関与しない電極合材部分が出現する(図3B、C、D、E)(3)充電と放電とで反応機構が異なる(図4)(4)低レートの充放電時にのみ2L相が存在する―など充放電レートに依存して非平衡に反応が進行することなどを明らかにした。また正極電極合材中では充放電後に電池を分解して解析していた従来の報告とは異なり、放電時に使用される組成領域が高充放電レートでは変化することを明らかにした。

このように、同観測システムで採用したTime-Of-Flight法(TOF法=飛行時間法[用語6])を用いた中性子回折測定技術が、実電池中で起こる電池反応に関する情報を明確にとらえ、充放電中の非平衡状態の反応機構を理解するうえで優れた分析手段となることを明らかにした。

背景

リチウムイオン電池は1991年に小型電子機器用として利用が始まり、優れた安定性に加えて、高いエネルギー密度と出力特性を兼ね備えた電池として発展した。現在では電気自動車やハイブリッドの車載用蓄電池や、電力貯蔵用の定置型蓄電池としても利用されるようになった。リチウムイオン電池の発売から25年以上経過した現在も社会的なニーズは高く、利用方法の広がりに伴って、さらなる高エネルギー密度と高出力、長寿命、高信頼性が望まれている。

より一層の特性向上に向けたブレークスルーを引き起こすには、ブラックボックス化した蓄電池内部の充放電時の現象を実際に目に見えるようにするための新たな分析手段が必要である。電池反応を解明するための様々な解析技術の一つがモデル系電池[用語7]を用いた分析である。既存の分析手法をそのまま適用するこの手法では、電池そのものの形状を分析手法が適用できる環境に合わせる必要がある。しかし、実際に使用する電池とは異なる形状での解析は、実電池のものと一致しないため、実電池を用いた実際の使用環境下で電池反応が観測できる新たな分析手法の開発が熱望されていた。

研究の経緯

共同研究グループは、RISINGプロジェクトにおいて、非破壊で実動作環境下(オペランド[用語8])での分析手法の一つとして、中性子線を用いた測定・解析手法の開発を行った。実電池の形状を変化させず、実電池の動作環境に合わせて、分析手法を適用するものである。

中性子線は透過性が高い量子ビームであり、電池の金属容器の内部まで容易に到達し、金属容器内の電極材料の情報を得ることができる。中性子線を用いると、リチウムのような電子数の少ない軽元素であっても核散乱は弱くないため、その回折現象(中性子回折)により、電極に使われる材料比率と各材料を構成する原子配列、及び各原子の濃度(占有率)が得られる。そのため、リチウムイオン二次電池の材料研究には、中性子回折法は多く用いられている。

実電池の動作環境下の電池反応を観測するために、18650型円筒リチウムイオン電池を用いて0.05から2Cレートで充放電を行いながら中性子回折測定を行い、電池内部の正極・負極電極合材からの回折中性子を検出し、正極・負極の構造が充放電過程でどのように変化するかを観測した。

充放電レートによって、負極では不均一な電池反応が進行して、高レートでは反応に寄与しない相が発生すること、充電と放電で反応機構が違うことを示すとともに、正極での反応では、これまでの報告とは異なる反応機構を提案した。今回の観測システムでは、実用電池を用いたオペランド測定でも、電池反応を定性・定量的に解明することができることを初めて示した。

今後の展開

実電池の内部の材料の構造変化が、実際の充放電時にリアルタイムで観測できることが可能になったことは、充放電サイクルに伴う劣化挙動、長期保存時の経時変化、高温や低温での使用時の劣化挙動など、蓄電池の信頼性や安全性に関する詳細な情報が、実際に使用する電池を直接観測することで容易に得られることを示している。

リチウムイオン電池のみならず、現在、開発が進んでいる全固体電池やリチウム酸素電池、マグネシウム電池、リチウム硫黄電池、アニオン電池など、次世代の蓄電池の反応挙動を実電池に基づいて解明することが可能になる。リチウムイオン電池のさらなる高性能化に寄与できるとともに、次世代蓄電池の開発に大きく貢献すると期待できる。

実用蓄電池オペランド測定用中性子回折計(BL09 : 特殊環境中性子回折計、SPICA)の外観図(A)および、実験の概要図(B)
図1.
実用蓄電池オペランド測定用中性子回折計(BL09 : 特殊環境中性子回折計、SPICA)の外観図(A)および、実験の概要図(B)。オペランド測定は、非破壊のまま18650型円筒リチウムイオン電池(C)をSPICAの中心に設置し、電池に電気を流し充放電反応を進行させたまま、パルス中性子を照射し電池反応をリアルタイムに観測する。中性子は金属に覆われた蓄電池内部まで透過し、電極で散乱(回折)され、検出器に到達する。検出器に到達した中性子の時刻と角度をデータ処理すると、観測結果として回折図形が得られる。この回折図形には、18650型円筒電池の拡大図(D)に示すように、正極、負極、集電体、電池のケースからの固有の回折線が含まれる。これらの回折線の変化を解析することでリアルタイムな電池反応に伴うリチウムイオンを含むイオン(原子)の配列や濃度(占有率)の変化を解析できる。
リアルタイム観測により得られた充放電中の電極材料の構造解析例

図2 リアルタイム観測により得られた充放電中の電極材料の構造解析例

正負極材料、集電体、電池の外ケースの結晶構造を基に、リートベルト解析[用語9]を行い、それぞれの材料の存在比率と各材料を構成する原子配列とその濃度(占有率)を精密化した。観測値と計算値の差(観測値-計算値)が小さく、それらがよく一致しており、得られた構造情報の信頼性が高いといえる。

放電時の電極材料の相変化

図3 放電時の電極材料の相変化

放電時の電極材料の相変化。0.05(A)、0.1(B)、0.5(C)、1(D)、2(E)Cレートによる放電時のカーボン負極の00l反射の変化を示している。それぞれの図中に放電に伴う電圧変化も示している。グラファイト負極は、構造中のリチウムイオンの分布の違いで、ステージ構造と呼ばれる異なる面間隔の回折線を示す。0.1C以上の放電レートでは、放電中反応に寄与しないと考えられるStage 3Lの回折線が常に存在し、不均一な電池反応が進行することを示している。2Cレート(E)で放電した場合、Stage 4L相がStage 3Lに徐々に変化し、放電後に電池内部で緩和反応が進行する様子を観測した。高い電流が電極合材中で不均一なリチウムイオンの分布を生成すると考えられる。

放電時と充電時で異なる反応機構を示すグラファイト負極

図4 放電時と充電時で異なる反応機構を示すグラファイト負極

0.05Cレートの充電(A, C)と放電(B, D)によるグラファイト負極の00l反射の変化を充電(放電)時間に対して示している。充電放電ともに、Stage 2からStage 3の相変化が存在するが、放電時にだけStage 2後半にStage 2L相を経由してStage 3へ相変化が観測された。このように充電と放電においてグラファイト負極で反応機構が異なることを明らかにした。

用語説明

[用語1] 革新型蓄電池先端科学基礎研究事業(RISINGプロジェクト) : 京都大学及び産業技術総合研究所関西センターを拠点として、13大学・4研究機関・13企業がオールジャパン体制で集結し、現状比5倍のエネルギー密度を有する革新型蓄電池の実現を目指して推進している。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の共同研究事業。RISINGとは、Research and Development Initiative for Scientific Innovation of New Generation Batteries の略。

[用語2] 大強度陽子加速器施設J-PARC : 高エネルギー加速器研究機構と日本原子力研究開発機構が共同で茨城県東海村に建設し運用している大強度陽子加速器施設と利用施設群の総称。加速した陽子を原子核標的に衝突させることにより発生する中性子、ミュオン、中間子、ニュートリノなどの二次粒子を用いて、物質・生命科学、原子核・素粒子物理学などの最先端学術研究及び産業利用が行われている。

[用語3] 特殊環境中性子回折計SPICA(BL09) : 高エネルギー加速器研究機構は、革新型蓄電池先端科学基礎研究事業の一環で、オペランド測定を主目的とした中性子回折計「特殊環境中性子回折計(SPICA:BL09)」を設計・開発し、大強度陽子加速器施設J-PARCに設置した。回折計として高分解能と高強度の相反する性能を共存させるために、中性子源としてJ-PARCで開発された高分解能モデレータを利用し、SPICAを構成する光学デバイス、機器等をすべて専用に設計することで、高精度・高強度で粉末構造解析が行えるシステムとして完成させた。さらにオペランド測定のための専用の試料周辺環境と時分割測定のためのデータ集積システム等を備えた、電池研究に特化した仕様とした結果、SPICAは、世界唯一の蓄電池中性子ビームラインとして、蓄電池反応を原子レベルでリアルタイムに計測する研究に活用されてきた。

[用語4] 18650型円筒リチウムイオン電池 : リチウムイオン電池の規格の一つ。直径18 mm、長さ65 mmの外形を有した円筒型の電池で、正負極およびセパレータを捲回して円柱状に成形し、円筒型の外装ボディに挿入されたもの。

[用語5] Cレート : Cレートとは、所定の公称容量の電池を定電流放電して1時間で満放電することのできる電流値を示す。同じ公称容量の電池では、Cレートが大きくなると電流値は大きくなり、短時間で放電させることに対応する。一方Cレートが小さくなると電流値も小さくなり、長時間の放電をさせることに対応する。

[用語6] 飛行時間法(TOF法) : 陽子加速器により加速された陽子をターゲットに衝突させることで、パルス状の中性子が飛び出す。発生した中性子はエネルギーの違いに応じて速度が異なる。中性子が発生してから検出器に到達するまでに要する時間(飛行時間)と、中性子源~検出器の距離から中性子の波長が精密に測定できる。

[用語7] モデル系電池 : 実際に電池として、作動する一方で、性能を追求した仕様によって製作された電池ではなく、分析等の別の目的の達成のために理想的な形状に改造された試験用電池。

[用語8] オペランド測定 : オペランド測定は in situ で行う測定方法であるが、より限定された条件での測定を示す。 ex situin situ は、対義語として用いられる。ex situ 測定とは、測定のために、系を解体(分解)するなどにより、反応後に取り出された試料を測定するのに対して、in situ 測定は、系を非破壊のまま、そのままの状態もしくは、その場で測定することを指す。一方、オペランド測定では、非破壊かつ、特に「その系の動作環境下」で現象を測定する。

[用語9] リートベルト解析 : 粉末中性子回折データや粉末X線回折データの解析手法の一つ。測定した試料に含まれるであろう結晶相の構造モデルに基づく回折データの計算値と実測された回折データから、最小二乗法フィッティングにより結晶構造を精密化する手法。

論文情報

論文タイトル :
Real-time observations of lithium battery reactions—operando neutron diffraction analysis during practical operation
著者 :
Sou Taminato, Masao Yonemura, Shinya Shiotani, Takashi Kamiyama, Shuki Torii, Miki Nagao, Yoshihisa Ishikawa, Kazuhiro Mori, Toshiharu Fukunaga, Yohei Onodera, Takahiro Naka, Makoto Morishima, Yoshio Ukyo, Dyah Sulistyanintyas Adipranoto, Hajime Arai, Yoshiharu Uchimoto, Zempachi Ogumi, Kota Suzuki, Masaaki Hirayama and Ryoji Kanno
掲載誌 :
Scientific Reports 6, Article number: 28843 (2016)
DOI :

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幻の「マヨラナ粒子」の創発を磁性絶縁体中で捉える―電子スピンの分数化が室温まで生じていることを国際共同研究で実証―

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要点

  • 量子スピン液体を示す理論模型を大規模数値計算によって解析
  • 磁気ラマン散乱強度の温度変化を調べた結果、広い温度範囲において幻の「マヨラナ粒子」の創発を発見
  • 本研究で得られた計算結果が実験結果と非常に良い一致
  • これまでとは一線を画した新しい量子スピン液体の検証方法を提案

概要

東京工業大学 理学院の那須譲治助教と東京大学 大学院工学系研究科の求(もとめ)幸年教授は、ケンブリッジ大学のJohannes Knolle研究員、Dmitry Kovrizhin研究員、マックスプランク研究所のRoderich Moessner教授とともに、量子スピン液体[用語1]を示す理論模型に対して大規模数値計算を駆使することで、磁気ラマン散乱[用語2]強度の温度変化が、幻の「マヨラナ粒子[用語3]」を色濃く反映することを見出した。この結果は、磁性絶縁体の基本構成要素である電子スピンがより小さな単位へと分裂する「分数化」という現象が、広い温度領域にわたって生じていることを意味する。さらに、この理論計算の結果が、カナダと米国の共同研究によって得られていた磁性絶縁体の塩化ルテニウム[用語4]に対する実験結果と非常に良い一致を示すことを見出した。このことは、電子スピンの分数化によって創発[用語5]されたマヨラナ粒子が、現実の物質中で室温程度まで存在することを強く示唆するものである。本研究で提案する創発マヨラナ粒子による量子スピン液体の実証方法は、低温極限にのみ着目してきた従来のものとは一線を画すものであり、他の量子スピン液体への応用が期待される。また、この幻の粒子を追い求めてきた素粒子物理学や量子情報などの周辺分野にも大きな波及効果をもたらすものである。

本研究成果は7月4日発行の英国の科学雑誌「ネイチャー・フィジクス(Nature Physics)」電子版に掲載された。

研究成果

東京工業大学 理学院の那須譲治助教と東京大学 大学院工学系研究科の求幸年教授は、英国ケンブリッジ大学のJohannes Knolle研究員、Dmitry Kovrizhin研究員、ドイツマックスプランク研究所のRoderich Moessner教授と共同で、絶対零度で量子スピン液体を示すことが知られているキタエフ模型[用語6]と呼ばれる理論模型に対して量子モンテカルロ法[用語7]による大規模数値計算を適用し、磁気ラマン散乱強度の温度変化を詳細に調べた。その結果、幻の粒子といわれる「マヨラナ粒子」の創発を示すフェルミ粒子性を反映した振る舞いが広い温度範囲にわたって現れることを発見した。このマヨラナ粒子は、磁性絶縁体の基本構成要素である電子スピンが分裂する「分数化」と呼ばれる量子スピン液体特有の現象によって創発されるものである。通常の磁性絶縁体における磁気ラマン散乱強度の温度変化はボース粒子としての性質を反映することが知られていたが、本発見はこれまでにない全く新しい現象である。

本研究の最大の成果は、この数値計算の結果を実験結果と詳細に比較することで、電子スピンの分数化による創発マヨラナ粒子が、現実の物質中で、約-250℃から室温にわたる非常に広い温度範囲に存在することを示した点にある。この比較は、キタエフ模型で良く記述される磁性絶縁体のひとつとされる塩化ルテニウムに対して昨年4月にカナダと米国のグループによって報告された実験結果を用いて行われた(図1)。この比較を通じて、理論と実験が非常に良い一致を示すことだけでなく、この幅広い温度領域の磁気ラマン散乱が、光によるマヨラナ粒子の生成・消滅という単純な散乱プロセスによって理解できることを明らかにした(図2)。この結果は、塩化ルテニウムの磁性を担う基本構成要素は電子スピンそのものではなく、それらが量子力学的な相互作用によって分数化し創発されたマヨラナ粒子であること強く示唆するものである。

従来の量子スピン液体の探求のほとんどは、絶対零度(-273.15℃)およびそのごく近傍に現れる特異な性質を追い求めるものであった。本研究が示した、室温までの非常に幅広い温度領域に存在する創発マヨラナ粒子を通じた量子スピン液体の実証法は、これまでの研究とは一線を画すものである。また、マヨラナ粒子は、長年にわたって素粒子物理学の分野で注目され、最近では量子情報の分野でも盛んに研究されている幻の粒子である。本研究は、磁性絶縁体がこの幻の粒子の性質を研究する格好の舞台であることを示した点で、これらの周辺分野に大きな波及効果をもたらすものである。

磁気ラマン散乱強度の温度依存性。塩化ルテニウムに対する実験結果と本研究でキタエフ模型に対して得られた理論計算結果との比較を示している。
図1.
磁気ラマン散乱強度の温度依存性。塩化ルテニウムに対する実験結果と本研究でキタエフ模型に対して得られた理論計算結果との比較を示している。
磁気ラマン散乱によるマヨラナ粒子創発の概念図。光の散乱によって電子スピンが分数化したマヨラナ粒子を2つ生成する。この過程が散乱強度の温度変化に現れる。
図2.
磁気ラマン散乱によるマヨラナ粒子創発の概念図。光の散乱によって電子スピンが分数化したマヨラナ粒子を2つ生成する。この過程が散乱強度の温度変化に現れる。

背景

磁性絶縁体中の電子は原子核の周りに局在しており、電子が持つスピンの自由度に由来した磁気モーメントが磁性を支配している。すなわち、磁性絶縁体の基本構成要素は電子スピンである。一方、この世に存在するすべての基本粒子は、ボース粒子とフェルミ粒子[用語8]のどちらかに分類される。磁性絶縁体中の電子スピン集団の性質は、これまでボース粒子として記述されると考えられてきた。しかし、量子スピン液体という特殊な量子状態が実現した場合には、電子スピンが量子力学的な相互作用効果によって複数のフェルミ粒子に分裂する「分数化」と呼ばれる創発現象が起きることが理論的に予想されていた。特に、キタエフ模型と呼ばれる理論模型では、絶対零度において、電子スピンがフェルミ粒子である2種類のマヨラナ粒子に分数化することが知られていた。

こうした創発フェルミ粒子の存在を実験的に検証するために、これまで温度が非常に低いときの性質が精力的に調べられてきた。しかしながら、極低温では、物質中に内在する乱れの効果や原子核スピンの影響といった電子スピン以外の寄与が顕在化してしまう。そのため、電子スピンの分数化による創発現象を捉えるためには、これまでとは全く異なる視点からの研究が必要とされてきた。

研究の経緯

本研究は、日本、英国、ドイツの研究グループ間の共同研究である。元々日本の理論研究グループでは、量子スピン液体を示すキタエフ模型におけるさまざまな物理量の温度変化を研究してきた。一方、ヨーロッパの理論研究グループでは、絶対零度における磁気ラマン散乱の研究を行っていた。本研究成果は、これら2つの研究を融合して磁気ラマン散乱の温度変化の計算を行い、さらに実験との詳細な比較や創発マヨラナ粒子の新しい実証方法の提案へと発展させた画期的な国際共同研究によるものである。

今後の展開

1973年のフィリップ・アンダーソン[用語9]による量子スピン液体の理論的な提案以来、その実現可能性がおよそ半世紀にわたり現在まで精力的に議論されてきた。本研究は、量子スピン液体の検証方法として画期的な提案を行うものである。極低温から室温にわたる広い温度領域で創発マヨラナ粒子を捉えるという本研究の提案は、さまざまな物質や理論模型に応用が可能であるため、今後量子スピン液体の実証方法のひとつとして広く用いられていくことが期待される。

また、本研究が明らかにした創発マヨラナ粒子が室温まで存在するという可能性は、これまでボース粒子に基づいて議論されてきた磁性の常識を覆すものである。この発見は、フェルミ粒子の創発による新しい高温量子磁気現象の開拓につながる。

さらに、本研究で扱ったキタエフ模型は、元々はトポロジカルに保護された「堅牢な」量子計算[用語10]を実現するため提案された画期的な模型である。この量子計算では、キタエフ模型で実現する量子スピン液体の創発マヨラナ粒子が重要となるため、本研究の成果は、量子情報の分野にも大きなインパクトを与える。

用語説明

[用語1] 量子スピン液体 : 磁性絶縁体の示す磁気状態のひとつ。通常の磁性体は温度を下げるとある温度以下で電子スピンが整列するが、強い量子効果が存在するとこれが妨げられ、極低温まで電子スピンが整列しない新しい磁気状態が実現する。これが量子スピン液体である。

[用語2] ラマン散乱 : 物質に光を照射しその散乱光を調べることによって、物質の性質を調べる手法。物理学のみならず、化学、生物学、薬学等の分野においても広く用いられている。磁気ラマン散乱は、磁性体中の電子スピンの状態を調べるために用いるラマン散乱である。

[用語3] マヨラナ粒子 : 自身がその反粒子と同一な電気的に中性なフェルミ粒子。エットレ・マヨラナによって1937年に素粒子のひとつとして理論的に提案された。長年にわたる研究にもかかわらず、未だにその存在の確固たる証拠が見つかっていない幻の粒子である。素粒子物理学においてはニュートリノがマヨラナ粒子の候補と考えられ、精力的な研究が続けられている。

[用語4] 塩化ルテニウム(α-RuCl3 : 磁性を支配するルテニウムイオンが蜂の巣構造を形成する磁性絶縁体。ルテニウムイオンがもつ磁気モーメント間の相互作用は、相対論的な効果であるスピン軌道相互作用を反映した特殊な形をとり、キタエフ模型で良く記述されると考えられている。

[用語5] 創発(emergence) : 構成要素の持つ性質から単純に期待される性質を超えた新しい現象が系全体として現れること。構成要素間の相互作用が複雑な組織化を促すことで、このような単純な総和としては理解できない振る舞いを生み出す。

[用語6] キタエフ模型 : 基底状態が厳密に量子スピン液体状態を与える理論模型。2006年にアレクセイ・キタエフによって、乱れに強いトポロジカル量子計算を実現しうる模型として提案された。その後の理論研究によって、現実に存在するある種の磁性絶縁体のよいモデルとなりうることが指摘された。

[用語7] 量子モンテカルロ法 : 膨大な数の計算を、それに主に寄与するものだけを確率的に抽出して行う効率的な計算方法。強い量子効果が存在する系では、この確率が負になることで計算が破綻する負符号問題がしばしば発生するが、キタエフ模型における計算では、負符号問題が生じないため高精度の計算が可能である。

[用語8] ボース粒子とフェルミ粒子 : この世の中を構成するすべての基本粒子は、その統計的な性質の違いにより、これら2種類の粒子に分類される。同じ量子力学的な状態にいくつでも入ることができる粒子をボース粒子と呼び、ひとつの量子状態にひとつしか入ることができない粒子をフェルミ粒子と呼ぶ。これら2種類の粒子の違いは、特に存在確率のエネルギー・温度依存性に顕著に現れる。

[用語9] フィリップ・アンダーソン : 理論物理学者。量子スピン液体の提唱をはじめとして、磁性不純物の理論、磁性体中のスピンの相互作用及び素励起の理論、アンダーソン局在、スピングラスの理論、アンダーソン・ヒッグス機構の提唱等、数多くの先駆的な理論提案を行っている。1977年に磁性体と無秩序系の電子構造の基礎理論的研究に対してノーベル物理学賞を受賞。

[用語10] トポロジカル量子計算 : 系が持つトポロジカルな性質を用いた誤りに強い(フォールトトレラント)という性質を持つ量子計算。キタエフ模型は、この計算を可能にする理論模型のひとつである。

論文情報

掲載誌 :
Nature Physics
論文タイトル :
Fermionic response from fractionalization in an insulating two-dimensional magnet
著者 :
J. Nasu, J. Knolle, D. L. Kovrizhin, Y. Motome, and R. Moessner
DOI :

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火星衛星フォボスとディモスの形成過程を解明―JAXA火星衛星サンプルリターン計画への期待高まる―

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要点

  • 火星衛星は地球の月の起源と同様に巨大天体衝突により誕生
  • 火星にかつて存在した巨大衛星がフォボスとディモスの形成に重要な役割
  • JAXAの火星衛星サンプルリターン計画で火星物質の持ち帰りに期待

概要

東京工業大学 地球生命研究所の玄田英典特任准教授、神戸大学の兵頭龍樹院生、ベルギー王立天文台のRosenblatt(ローゼンブラット)博士、パリ地球物理研究所/パリ・ディドゥロ大学のCharnoz(シャノーズ)博士、レンヌ第1大学の研究者らの国際共同研究チームは、火星の衛星「フォボス」と「ディモス」が月の起源と同じように巨大天体衝突(ジャイアントインパクト)で形成可能なことを明らかにした。火星で起こった巨大天体衝突による円盤形成とその円盤から衛星が作られる過程をコンピュータシミュレーションによって解明した。

火星の北半球には天体衝突で作られたと考えられている太陽系最大のクレータ(ボレアレス平原)がある。この衝突で破片が飛び散り、火星の周囲に円盤が作られる。そして、その円盤物質が集まって巨大衛星が形成された。巨大衛星は円盤外縁部を自身の重力でかき混ぜることで、フォボスとディモスの形成を促進させた。その後、巨大衛星は火星の重力に引かれて落下して消失、現在観測される二つの衛星だけが生き残っていることがわかった。

さらに火星衛星が火星から飛散した物質を多量に含むことも明らかにした。これは宇宙航空研究開発機構(JAXA)が計画検討している火星衛星サンプルリターン計画(2020年代打ち上げ予定)によって、火星衛星から火星物質を地球に持ち帰る可能性が高いことを意味する。研究成果は7月4日発行の英国科学誌「Nature Geoscience(ネイチャージオサイエンス)電子版」に掲載された。

火星衛星、フォボス(左)とディモス(右)の画像(提供:NASA/JPL-Caltech/University of Arizona)

図1. 火星衛星、フォボス(左)とディモス(右)の画像(提供:NASA/JPL-Caltech/University of Arizona)

研究の背景

火星の衛星フォボスとディモス(図1)は、火星の赤道面を円軌道で回っている。半径10km程度のフォボスとディモスは火星質量の約1000万分の1と非常に小さく、半径1,000kmを超える地球の巨大衛星(月)とは大きく異なっている。火星衛星のいびつな形状と表面スペクトルは、火星と木星の間に存在する小惑星と類似していることから、その起源は長らく小惑星が火星の重力に捕獲されたものであると考えられていた(捕獲説)。

しかし、捕獲説の場合、現在の衛星の軌道(赤道面を円軌道で公転)を説明することは極めて困難であることが指摘されている。一方で、火星の北半球には太陽系最大のクレータ(ボレアレス平原)が存在し、巨大天体の衝突で形成されたことが分かっている。このことから、巨大天体衝突による火星衛星の形成(巨大天体衝突説)も提案されていたが、今までに具体的な形成過程を明らかにした研究はなく、火星衛星の存在は謎のままだった(図2)。

近接遭遇した天体を重力によって捉える捕獲説(左)と巨大衝突によって形成された破片から衛星が集積する巨大天体衝突説(右)。
図2.
近接遭遇した天体を重力によって捉える捕獲説(左)と巨大衝突によって形成された破片から衛星が集積する巨大天体衝突説(右)。図の作成者:黒川宏之(東京工業大学 地球生命研究所)

研究成果

火星への巨大天体衝突のイメージ
図3. 火星への巨大天体衝突のイメージ

東工大の玄田特任准教授らの国際共同研究チームはまず、ボレアレス平原を形成する巨大衝突過程の超高解像度3次元流体数値シミュレーションを行った(図3)。その結果、巨大衝突による破片の大部分は火星近傍にばらまかれて厚い円盤が形成された。さらに少量の破片が“共回転半径”[用語1]の僅かに外側までばらかまれ、薄い円盤が形成された(図4(a))。さらに、この破片円盤の約半分は火星から、残りの半分は衝突天体の物質から作られることが分かった。

図4

次に、巨大衝突によって形成された円盤が、その後どのように進化するのかを明らかにするために、円盤進化の詳細な数値計算を行った。その結果、内側の重たい円盤からフォボス質量の約1,000倍の巨大衛星が短時間で形成され(図4(b))、残った内側の円盤との重力的な相互作用によって、より外側に移動し、その過程で円盤外縁部を重力的な効果でかき混ぜることで、外側に二つの小さな衛星(フォボスとディモス)の集積を促した(図4(c))。

その後、共回転半径の内側に存在する巨大衛星は火星重力(潮汐進化[用語2])によって引き戻され、火星と合体することで、現在観測されるフォボスとディモスのみが残ることが明らかになった(図4(d)、(e))。もし、内側に巨大衛星が形成しなかったら、円盤の外側には、フォボスやディモスよりも小さな衛星が5~10個できてしまい、現在の火星-衛星系とは異なる姿になっていただろう。

地球の月形成との比較

我々の太陽系の地球型惑星(水星・金星・地球・火星)で、地球と火星にのみ衛星が回っている。地球の月を作ったとされる衝突天体は、地球質量の10分の1程度と非常に大きく、衝突直後の地球は高速回転(自転周期4~5時間)する。その結果、地球の近い場所に共回転半径が位置することになり、月は共回転半径の外側で作られる。この場合、月は地球に落下することなく、地球による潮汐進化で地球から遠ざかっていく。

一方、火星衛星を作ったとされる衝突天体は火星質量の数%と小さめであったため、衝突後の火星は現在の自転周期(約24時間)となり、そのため、火星から遠い場所に共回転半径が位置することになり、内側で形成された巨大衛星は、フォボスとディモスの形成を促した後、火星による潮汐進化で火星に落下する。

このように衝突条件によって、月のような巨大な衛星が生き残る場合と、火星衛星のように非常に小さな衛星のみが生き残る場合とに運命が分かれたと考えられる。

今後の展開

今回の研究によって、火星衛星が巨大天体衝突によって形成可能であることがわかった。しかし、このことは必ずしも火星衛星が捕獲起源であることを否定していない。実際にどちらの説が正しいのかを決めるためには、火星衛星の物質を地球に持ち帰り、詳細に分析する必要がある。

現在日本では、JAXA/ISAS(宇宙科学研究所)が進める宇宙探査・戦略的中型計画において、火星衛星に探査機を送り、火星衛星の物質を地球に持ち帰る計画(火星サンプルリターン計画:MMX)が検討されている。2020年代の打ち上げを目指しており、近い将来、物質科学的に火星衛星の起源が明らかになるはずだ。

もし、今回の研究で示した巨大天体衝突説が正しければ、巨大天体衝突でばら撒かれた相当量の火星物質が火星衛星に含まれていることになり、米航空宇宙局(NASA)が計画しているような火星本体に探査機を着陸させて火星表面から物質を地球に持ち帰らなくても、火星衛星から火星物質を地球に持って帰ってくることが可能であることを意味している。

用語説明

[用語1] 共回転半径 : 中心惑星(火星)の自転速度と衛星の公転速度が一致する距離。

[用語2] 潮汐進化 : 中心惑星(火星)の変形により引き起こされる衛星の軌道進化。共回転半径の内側の衛星は、中心惑星に引きつけられる。反対に、共回転半径の外側の衛星は中心惑星から遠ざかる。

論文情報

論文タイトル :
Accretion of Phobos and Deimos in an extended debris disc stirred by transient moons
著者 :
Pascal Rosenblatt, Sébastien Charnoz, Kevin M. Dunseath, Mariko Terao-Dunseath, Antony Trinh, Ryuki Hyodo, Hidenori Genda and Stéven Toupin
掲載誌 :
Nature Geoscience
DOI :

東京工業大学 地球生命研究所について

地球生命研究所(ELSI)は、文部科学省が平成24年に公募を実施した世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)に採択され、同年12月7日に産声をあげた新しい研究所。

「地球がどのように出来たのか、生命はいつどこで生まれ、どのように進化して来たのか」という、人類の根源的な謎の解明に挑んでいる。

世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)は、平成19年度から文部科学省の事業として開始されたもので、システム改革の導入等の自主的な取組を促す支援により、第一線の研究者が是非そこで研究したいと世界から多数集まってくるような、優れた研究環境ときわめて高い研究水準を誇る「目に見える研究拠点」の形成を目指している。

問い合わせ先

リリース全般に関するお問い合わせ

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

本リリースの詳細に関するお問い合わせ

神戸大学大学院 理学研究科
兵頭龍樹

Email : ryukih@stu.kobe-u.ac.jp

東京工業大学 地球生命研究所
特任准教授 玄田英典

Email : genda@elsi.jp
Tel : 03-5734-2887

東京工業大学 地球生命研究所 広報室

Email : pr@elsi.jp
Tel : 03-5734-3163 / Fax : 03-5734-3416

研究に関する英語でのお問い合わせ

Institut de Physique du Globe de Paris
(パリ地球物理研究所)
Professor Sébastien Charnoz

Email : charnoz@ipgp.fr

TOKYO MX「モーニングCROSS」に工学院の鈴森康一教授が出演

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工学院 機械系の鈴森康一教授が、TOKYO MXの情報番組「モーニングCROSS」に出演します。鈴森教授が研究している「人工筋肉」について紹介されます。

鈴森教授と人工筋肉を使った筋骨格ロボット
鈴森教授と人工筋肉を使った筋骨格ロボット

鈴森康一教授のコメント

ロボットやアシストスーツへの応用、東工大と岡山大学発のベンチャー企業である株式会社s-muscle(エスマスル)の人工筋肉の販売についてお話しました。

レポーターでユーチューバーのせきぐちあいみさんに実際にアシストスーツを着てもらい、楽しい取材となりました。皆様、ぜひご覧ください。

  • 番組名
    TOKYO MX「モーニングCROSS」
  • 放送予定日
    2016年7月7日(木)7:30~8:30
    (8時10分ごろに番組内で紹介予定)

Musculoskeletal Robot Driven by Multifilament Muscles(字幕:英語)

工学院

工学院 ―新たな産業と文明を拓く学問―
2016年4月に新たに発足した工学院について紹介します。

工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

問い合わせ先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

将来にわたり情報漏えいの危険のない分散ストレージシステムの実証に成功―パスワードを分散し情報理論的に安全な認証方式を実現―

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ポイント

  • 分散ストレージシステムにおいて認証・伝送・保存のすべてに情報理論的安全性の担保を実証
  • パスワード認証を用いた情報理論的に安全な認証方式を実現
  • 将来どんなに計算機が発達しても情報漏えいの危険のない安全な分散ストレージを開発

概要

国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、理事長: 坂内 正夫)量子ICT先端開発センター及びセキュリティ基盤研究室と、国立大学法人東京工業大学(東工大、学長: 三島 良直)工学院 情報通信系の尾形わかは教授は共同で、分散ストレージシステムにおいて認証・伝送・保存の過程をすべて情報理論的安全性で担保されるシステムの実証実験に世界で初めて成功しました。

NICTが運用している量子鍵配送(QKD)[用語1]ネットワーク(名称: Tokyo QKD Network)を利用し、情報理論的に安全なデータ保存を可能とする分散ストレージプロトコルを実装しました。さらに、我々独自のプロトコルであり、一つのパスワードだけで情報理論的に安全なユーザ認証を可能とするパスワード分散プロトコルも併せて実装しました。

なお、この成果は、英国科学誌「Scientific Reports」(Nature Publishing Group)(電子版:英国時間7月1日(金)午前10:00)に掲載されました。

本研究開発の一部は、総合科学技術・イノベーション会議により、制度設計された革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の支援を受けています。

背景

元NSA・CIA職員のスノーデン氏によるリーク情報[用語2]でも喧伝されていますが、インターネットで使用されている暗号の一部は、既に破られている可能性があります。現在インターネット上で広く使用されている暗号の多くは、計算機による解読に膨大な時間を必要とすることを安全性の根拠としています。一方で、年々計算機の能力は向上しており、その安全性は日々低下していく宿命にあります。長期の秘匿性を必要とする情報、例えば30年後に漏えいしても大きな問題となる国家安全保障情報やゲノム情報等もインターネットを行き来し、保管される時代において、計算機の性能向上に安全性を脅かされない、将来にわたり安全性を保証できる情報伝送・保存システム(分散ストレージシステム)を確立することが急務となっています。

今回の成果

情報理論的安全性を持つ分散ストレージ概念図
図1. 情報理論的安全性を持つ分散ストレージ概念図

今回、情報理論的に安全なデータ保存を可能とする秘密分散法の代表的な方式であるShamir(シャミア)の(k,n)しきい値秘密分散法[用語3]を用いた分散ネットワークをNICTが運用している量子鍵配送(QKD)ネットワーク上に実装し、さらに、NICT・東工大独自のプロトコルである利便性・操作性に優れたパスワード分散プロトコルを同時に実装し、分散ストレージに重要な3つのプロセスであるユーザ認証・伝送・保存のプロセスにおいて情報理論的に安全な分散システムの実証に成功しました。

QKDリンクは、二者間に安全に乱数を共有させることを可能とし、ワンタイムパッド暗号[用語4]と組み合わせることにより、情報理論的に安全に通信できるシステムです。NICTは、2010年から敷設ファイバ網上に構築された様々なQKDリンクの相互接続を可能とし、鍵リレー等を管理しながらネットワーク上の任意の二者に安全に鍵を供給できるQKD Platformというレイヤアーキテクチャを開発し、実際のQKDネットワークを東京圏でTokyo QKD Networkとして運用しています。

Shamirの(k,n)しきい値秘密分散法は、情報理論的に安全にデータ保管を可能とするプロトコルとして知られており、この二つを組み合わせることにより、将来にわたり情報漏えいのない安全な分散ストレージを実現することができます。

一方、データを保存・復元する際のユーザ認証において情報理論的な安全性を満たし、かつ利便性・操作性に優れた方式は知られていませんでした。例えばWegman-Carter認証[用語5]方式は、安全にユーザ認証を可能としますが、大量の鍵を個人で管理する必要があり、専用のデバイスを必要とします。しかしながら、このことは鍵管理デバイスの紛失や鍵データの複製という危険性があることを意味し、デバイス管理を個人の責任において行わなければならないという不便さを伴います。

そこで、我々は一つのパスワードを用いて、情報理論的に安全なユーザ認証方式を新たに開発しました。通常のパスワード認証では計算量的な安全性しかなく、強力な計算機を用いればパスワードを推定される可能性がありました。それに対し、パスワード分散という新しいプロトコルを導入し、データを保存する本人は一つのパスワードを覚えているだけで、将来にわたり安全に認証できる方式を開発しました(図2参照)。

この方式実現には、通常の秘密データの分散と比較して、10倍以上のデータをストレージサーバ間で通信する必要があり、それに伴い、信頼性が高く高度に設計されたQKDネットワークが必須となります。今回我々は、分散ストレージを構成する3つのプロセス(ユーザ認証・伝送・保存)において情報理論的に安全なシステムを東京圏に敷設されたファイバ網上のQKDネットワークを用いて実証に成功しました。

Tokyo QKD Network上に構築された分散ストレージシステム

図2. Tokyo QKD Network上に構築された分散ストレージシステム

STS(storage server):ストレージサーバ、KMS(key management server):鍵管理サーバKMA(key management agent):鍵管理エージェント、KSA(key supply agent):鍵供給エージェント

今後の展望

今後は、さらに、分散ストレージの処理能力の向上を図り、より大量のデータを高速に処理できるシステムにするとともに、ネットワークの可用性を長期にわたり検証することで、実利用に耐え得るシステムの開発を進めていきます。また、本システムを用いた安全なデータ中継等の新しい応用の開発を進めていきます。

今回の実験で使われている技術

量子鍵配送(QKD)を用いた完全秘匿通信(量子暗号):
QKDによる暗号鍵の共有と、それを用いたワンタイムパッド暗号化を行うことにより、完全秘匿通信が可能になる。

量子鍵配送を用いた完全秘匿通信の概要

図3. 量子鍵配送を用いた完全秘匿通信の概要

信頼できる鍵中継ノード:
QKDシステムの信号媒体が単一光子であり、ファイバ内の損失で容易に消失してしまうこと及び単一光子検出を行う技術が非常に難しいことから、現在のQKDシステムの性能は、距離50kmで数百kbps程度でしかない。鍵を共有する距離を伸張するためには、50kmごとに秘密が漏えいすることのない中継ノードを設置して鍵をリレーする方法がある。この堅牢な安全性を持つ中継局のことを信頼できる中継ノードと呼称する。例えばA-B間のQKDリンクで生成した鍵をK1、B-C間QKD装置で生成した鍵をK2とする。A-C間で鍵を共有するにはBから排他的論理和(K1⊕K2)を古典情報としてCに送る。CではK2を知っているのでK1⊕K2⊕K2=K1となり、A-C間で鍵K1を共有できる。

QKDシステム内の鍵管理のためのレイヤ構造(図2参照):
QKDにより生成された暗号鍵は、物理的に厳重に管理された場所に配置され、上位の鍵管理レイヤの鍵管理エージェントに吸い上げられる。鍵管理エージェント(Key management agent: KMA)は、暗号鍵と各リンクの鍵の量を常に把握し、鍵の量やリンクの状況を、更にその上の鍵管理サーバ(Key management server: KMS)に知らせる。鍵供給エージェント(Key supply agent: KSA)は使用アプリケーションに合わせ、QKDネットワークの任意の2点間に鍵を供給する。何時・何のアプリケーションに鍵を供給したかという情報は鍵管理サーバへ知らせる。

用語説明

[用語1] 量子鍵配送(QKD): Quantum Key Distribution : 量子鍵配送では、送信者が光子を変調(情報を付加)して伝送し、受信者は届いた光子1個1個の状態を検出し、盗聴の可能性のあるビットを排除(いわゆる鍵蒸留)して、絶対安全な暗号鍵(暗号化のための乱数列)を送受信者間で共有する。変調を施された光子レベルの信号は、測定操作をすると必ずその痕跡が残り、この原理を利用して盗聴を見破る。

[用語2] スノーデン氏によるリーク情報 : 日本語による解説記事

[用語3] Shamir(シャミア)の(k,n)しきい値秘密分散法 : (k,n)しきい値秘密分散法では、最初に、秘密情報S(整数)の保有者がSからn個のシェアと呼ばれる値を生成する。
次に、秘密保有者は、シェア保有者(1~n)に各シェアを秘密裏に渡す。秘密保有者は、この後、秘密情報を消去する。
秘密情報の復元には、k人のシェア保有者が協力してk個のシェアを収集し、所定の計算をすることにより、秘密データSを復元できる。このときkをしきい値と定義する。
代表的な(k,n)しきい値法であるShamirの(k,n)しきい値秘密分散法は、以下のように構成される。

分散:定数項を秘密情報Sとするランダムなk-1次多項式
数式1
を生成する。ここで、ak-1,...,a1はランダムな整数であり、a0が秘密データSである。
シェア保有者の識別子をiとしたとき、シェア保有者にはシェアとして(i,f(i))を配布する。
復元時、k人のシェア保有者が(i,f(i))を持ち寄ることにより、a0=Sを求める。
秘密情報Sの復元は、下記の式に従って行う。復元に協力するk人のシェア保有者の識別子を{i1,...,ik}とする。このとき、各シェア保有者の保有するシェアについて、
数式2
が成り立つ。ここで、(i1,f(i1)),...,(ik,f(ik))が与えられれば、未知変数をak-1,...,a0のk個とするk変数1次方程式がk個与えられる。したがって、この連立方程式より、すべての未知変数を求めることが可能であり、秘密情報Sを復元できる。
実際に秘密情報を復元する際には、ラグランジュ補間が利用される。
下記は、(3,4)の例である。2次方程式中の3つの変数を確定するために、3組以上の(i,f(i))があれば、秘密データSを復元できる。

Shamirの(k,n)しきい値秘密分散法

Shamirの(k,n)しきい値秘密分散法

[用語4] ワンタイムパッド暗号化 : 送信する情報(平文)のデジタルデータと同じ長さの真性乱数を暗号鍵として用意し、はぎ取り式メモ(パッド)のように1回ごとに使い捨てる暗号化方式。異なる平文ごとに、異なる暗号鍵を使う。平文と暗号鍵の排他的論理和によって暗号文を生成して伝送し、受信側で再び暗号文と暗号鍵の排他的論理和によって平文を復号する。この暗号化方式は、どんなに高い計算能力を持つ盗聴者であっても、暗号文から平文を永遠に解読できないことが証明されている最も安全で強固な暗号方式である。

[用語5] Wegman-Carter認証 : 最後にニ者間で通信した内容を記録し、事前に共有している鍵を用いてダイジェストを作成する。次に、通信を開始する際に、お互いのダイジェストを送り合い、これが正しいことを確認することにより、相互認証を行う。認証ごとに新しい鍵を使用する。

論文情報

論文タイトル :
Unbreakable distributed storage with quantum key distribution network and password-authenticated secret sharing
著者 :
Mikio Fujiwara, Atsushi Waseda, Ryo Nojima, Shiho Moriai, Wakaha Ogata, and Masahide Sasaki
掲載誌 :
Scientific Reports(Nature Publishing Group)
DOI :

各機関の役割分担

  • NICT:プロトコル提案・証明と実証実験
  • 東工大:プロトコル安全性証明

工学院

工学院 ―新たな産業と文明を拓く学問―
2016年4月に新たに発足した工学院について紹介します。

工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

問い合わせ先

NICT 未来ICT研究所 量子ICT先端開発センター
藤原幹生

Email : fujiwara@nict.go.jp
Tel : 042-327-7552

東京工業大学 工学院 情報通信系
教授 尾形わかは

Email : ogata.w.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3500

取材申し込み先

NICT 広報部 報道室

Email : publicity@nict.go.jp
Tel : 042-327-6923 / Fax : 042-327-7587

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

井田茂教授がNHKラジオ第2「カルチャーラジオ 科学と人間」に出演

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地球生命研究所の井田茂教授が、NHKラジオ第2「カルチャーラジオ 科学と人間」に出演します。

井田茂教授
井田茂教授

井田茂教授のコメント

この13回にわたる連続講座では、太陽系外の惑星(系外惑星)の研究の黎明から発展の流れを、私の研究のキャリアと重ねあわせ、各国の研究者の人間模様を織り交ぜながら、時系列に沿って語りました。

拙書『異形の惑星』(NHK出版)、『スーパーアース』(PHP出版)の記述を中心に、『地球外生命』(岩波新書)の要素を加えています。

系外惑星研究が到達した、惑星系の一般的かつ鳥瞰的な描像については、別書を出版予定です。

  • 番組名
    NHKラジオ第2「カルチャーラジオ 科学と人間」
  • 放送予定日
    毎週金曜 20:30~21:00(全13回)
    2016年7月8日、15日、22日、29日、8月5日、12日、19日、26日、9月2日、9日、16日、23日、30日

問い合わせ先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

RU11「今後取り組むべき学術研究に関する施策について」(提言)

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学術研究懇談会(RU11)は、国立・私立の設置形態を超えた11の大学(北海道大学、東北大学、筑波大学、東京大学、早稲田大学、慶應義塾大学、東京工業大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学)による学術の発展を目的としたコンソーシアムです。

研究およびこれを通じた高度な人材の育成に重点を置き、独創性豊かで多様な研究成果を発信し続けています。

今後も、RU11は「知の拠点」として日本の発展を担う大学が社会からの要請に応える価値ある存在としてさらに発展するため、以下の提言および見解を取りまとめました。

平成28年7月8日

今後取り組むべき学術研究に関する施策について
(学術研究懇談会 RU11)

学術研究懇談会(RU11)
北海道大学理事・副学長
川端和重
東北大学理事
伊藤貞嘉
筑波大学理事・副学長
三明康郎
東京大学理事・副学長
保立和夫
早稲田大学副総長
橋本周司
慶應義塾常任理事
真壁利明
東京工業大学理事・副学長
安藤真
名古屋大学理事・副総長
國枝秀世
京都大学理事・副学長
湊長博
大阪大学理事・副学長
八木康史
九州大学理事・副学長
若山正人

学術研究懇談会(RU11)は、国立・私立の設置形態を超えた11の大学(北海道大学、東北大学、筑波大学、東京大学、早稲田大学、慶應義塾大学、東京工業大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学)による学術の発展を目的としたコンソーシアムであり、研究及びこれを通じた高度な人材の育成に重点を置き、独創性豊かで多様な研究成果を発信し続けています。

今後も、大学が社会からの要請に応える価値ある存在としてさらに発展するため、以下の提言を取りまとめました。関係各位には是非お目通しいただき、「知の拠点」として我が国の発展を担う大学に対し、格別のご理解とご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

提言の要旨

自由な発想に基づく学術研究の拡充ならびに人文・社会科学系研究の推進について(学術政策)

(1)自由な発想に基づく学術研究の拡充

1. 学術研究の基盤となる基礎研究

学術研究は、とりわけ広域的・長期的な視野をもって未知の領域に果敢に挑む、本来の意味における基礎研究も包含していて、これも支援されなければならない。

2. 学術研究・基礎研究の研究費の拡充

昨今の競争的資金には具体的な課題の解決を重視したプログラムが多く、提示される研究課題そのものも表層的内容に偏位していることも懸念される。科研費をはじめとする学術研究・基礎研究のための研究費をさらにいっそう拡充させることを、ここに改めて提言する。

(2)人文・社会科学系研究の推進

1. 人文・社会科学系の教育・研究への支援

人文・社会科学の教育・研究振興のための国等による支援、とりわけ長期的な展望に立った財政的支援の拡充が不可欠であることを改めて強調したい。

2. 自然科学との協奏・融合

文理融合的研究を推進するためには、先の1.で述べた人文・社会科学自体の進展とともに、人文・社会科学と自然科学の両分野における共通課題の相互確認と両分野の連携を進める相互理解を促進させていくことが不可欠であり、こうした文理融合的研究を支援する研究費をより拡充させることを提言する。

(3)グローバルな人材の育成

幅広い教養や、全地球規模の諸課題の解決に挑戦できる人材の育成を推進する教育プログラムの充実が喫緊の課題であり、こうした教育プログラムに対する支援をさらにいっそう拡充させることを提言する。

【提言】(本文)自由な発想に基づく学術研究の拡充ならびに人文・社会科学系研究の推進について(学術政策)PDF

我が国の科学研究の根幹を担うために(研究資金制度)

第5期科学技術基本計画における、政府研究開発投資について対GDP比1%(総額約26兆円)を目指すという目標の達成を要望すると共に、大学における学術研究を発展させるための国家的投資の拡大を求める。

(1)運営費交付金、私学助成

運営費交付金、ならびに私学助成という基盤的経費が削減されると、長期的視点に立った基礎研究が縮小することとなるため、運営費交付金、ならびに私学助成の拡充を引き続き強く主張するものである。

(2)科研費

  • 大学における学術研究を支える中核的経費である科研費は、基盤的経費の財源としてもその役割はますます増大し、最重要なものとなっており、より適切に運用し、有効に活用することが求められている。
  • 小・中型科研費について、若手研究者を中心に多くの研究者を支援することは、新しい学術の展開と将来のイノベーションにつながる必要不可欠な投資である。一方、大型科研費については、一部の研究者への集中を避け、若手研究者などを対象とした研究種目への圧迫とならないよう留意しつつ配分すべきである。
  • 少額の研究種目では採択率30%以上を確実に維持して幅広く配分し、比較的多額の研究種目では主力機器などの購入経費確保による研究目的遂行のために充足率を80%前後に引き上げる必要がある。
  • 現在検討されている挑戦的萌芽研究の上限額の大幅な引き上げは本種目の概念を大きく変更するものであり、本来の目的を再確認しつつ、その目的と補助額に相応しい審査が実施されることが必要と考える。
  • 若手や中堅研究者を長期間海外に派遣する国際共同研究加速基金は、科研費本来の目的とは異なる要素も多分に含んでおり、科研費以外の枠組みで支援することも再検討してみてはどうか。
  • 各研究種目の研究期間については目的に合わせて弾力的に設定するべきと考える。科研費の支出については基金化、ならびに調整金の手続きの簡素化とその条件の緩和が必要である。

(3)その他補助金・競争的資金

  • 博士課程教育リーディングプログラムなど大型の補助事業では事業ごとの厳密な運用制限を設定せず、複数の事業間で有機的な連携を可能にする運用へと制度を改編してゆくことが必要である。
  • JST、AMEDなどからの競争的資金は出口指向や直接的な成果を求めがちになる。社会的要請に基づく研究と、研究者が独創的に提案する基礎研究の間で、適切なバランスをとることが必要である。

(4)その他の外部資金

個人、企業からの多様な目的の寄附などの支援をスムースな形で受け入れるために、税額控除の全面導入を求めるものである。外部からの資金ならびに大学資産の運用等の拡大のため、関連法の改正とともに、各大学によるこれらの資金獲得を軌道に乗せるために必要な初期投資の施策を要望する。

(5)間接経費

産業界との共同研究では、将来的には米国のようなオーバーヘッドを求めてゆくべきだと考える。

【提言】(本文)我が国の科学研究の根幹を担うために(研究資金制度)PDF

次世代を切り開く優秀な博士人材の持続的活躍のために(若手研究者支援)

(1)博士課程への進学を促進させる施策案

(a)奨学金制度の拡充

修士課程及び博士課程における免除枠の決定に各大学の裁量を与える制度改革を求める。具体的には、修士課程と博士課程の全体で30%になるよう、各大学の裁量で免除の比率を決められる制度の設定を求める。

(b)「優秀な博士人材の育成のための教育の質」に関する評価

博士定員の充足率を評価指標とする現行を見直し、学部―修士―博士課程までの教育・研究を一貫して捉えた評価を取り入れるべきである。

(c)退職金制度の課題

各大学で年俸制の導入を図ってはいるが、退職金相当額を月額給与に上乗せする現行の措置では所得額控除が受けられず年俸制導入は若手研究者にとって不利になるため、制度の改善を要望する。

(2)産業界等への進出の促進・支援の強化

企業と大学の組織的な連携による、博士人材に特化した採用プロセスの改善や、産業界の博士後期課程への教育参画の促進、産学双方に効果的なインターンシップの積極的な展開などが求められる。

(3)短期の任期付ポストにいる研究者の研究環境の改善・支援

大型の産学共同研究費や受託研究費等において、研究に従事する常勤研究者の人件費をエフォートに応じて直接経費等に計上するなど、間接経費や外部資金の運用の自由度を拡げることにより、人件費を大学として確保して、若手研究者の安定雇用財源として活用できるようにすることも重要である。

【提言】(本文)次世代を切り開く優秀な博士人材の持続的活躍のために(若手研究者支援)PDF

見解の要旨

世界大学ランキングに対するRU11の見解について

世界大学ランキングの目的と対象について

本来多種多様な価値が集積する大学をランキングという1つの順位指標で評価すること自体がそもそも無理なことであると言わざるをえない。世界の国々の高等教育が全く同じシステムや価値観を持つというわけではなく、各国または各地域の言語や文化の多様性こそがそれぞれの大学の価値を生み出す源泉でもある。

THE世界大学ランキングの大きな変動について

THEのランキングでのみ大きな変動があったことから、この変動はTHEのランキング算出法の変更によるものと考えられる。日本の大学の順位を下げた大きな要因はCitationsスコアの国別補正の方法が変更されたことによるものであり、現状を正しく反映し正当に評価するには時期尚早であったと私たちは考えている。

世界大学ランキングと大学改革

世界大学ランキングについて過剰な反応をすることなく、ある側面から大学を見たときの外部の視点・意見の一つとして冷静かつ客観的に受け止めながら、今後の大学改革に生かしていきたいと考えている。

結び

教育、研究や社会貢献など大学の持つすべてのミッションをひっくるめ、普遍的で唯一のランキングがあるかのごとく扱う風潮が一部に見られることに私たちは懸念を抱いている。また、ランキングを政策的な方針や計画あるいは政策実施後の成果達成指標として安易に利用するべきではないとも考える。

【見解】(本文)世界大学ランキングに対するRU11の見解についてPDF

お問い合わせ先

研究推進部研究企画課研究企画グループ

Email : pro.sien@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3803

東京工業大学 大学改革 ―日本の東工大から、世界のTokyo Techへ―

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東京工業大学は、三島学長の強いリーダーシップの下、2030年までに「世界トップ10に入るリサーチユニバーシティ」になることを目指して、4月から3つの改革を開始しました。

東工大の3つの改革
東工大の3つの改革

学生の学びを深めて世界で活躍する力を育てる「教育改革」

1.日本初の「学院」

日本の大学では初となる、学部と大学院が一体となって教育を行う「学院」を設置しました。学院で教育する学士課程の教育プログラム(系)と大学院課程の教育プログラム(コース)のカリキュラム・分野をできるだけ大くくりにしています。

また、学士課程と大学院課程の教育プログラムを連続的に設計しています。これにより、学生は学士課程入学時から大学院の出口を見通すことができ、自らの興味・関心に基づく多様な選択・挑戦が可能になりました。

2.リベラルアーツ研究教育院の誕生

これまで学部4年生までだった教養教育のカリキュラムが博士後期課程まで延長され、「大きな志を育む」教養教育がスタートしました。学士課程入学直後の東工大立志プロジェクトを皮切りに、小グループでのディスカッション、プロジェクト発表などを通じて、仲間と刺激を与え合いながら、高い問題意識のもとに、優れたコミュニケーション能力を持って世界へと発信し、実現していく力をこれまで以上に養っていきます。また、人文科学、社会科学、外国語、ウェルネス等の広範な分野に触れることで、多様性に満ちた現代社会の中での学生自身の立ち位置を明確化し、学士課程、修士課程及び博士後期課程の専門教育と教養教育とをダイナミックに組み合わせて、将来社会を牽引する、創造性溢れた魅力ある人材の育成を目指します。

3.学生が主体的に学べる国際通用性のあるカリキュラム

国際的に通用性のあるカリキュラムを学生が自主的に学修するように促すため、シラバスの充実と日本語と英語による公開、科目をナンバリングしてレベルと順序を明示、留学・インターンシップ等を経験しやすいように科目履修が柔軟にできるクォーター制の導入、アクティブラーニングや英語による授業、副専門学修、教養科目、キャリア科目の充実などを実施しました。

4.教育革新センター(CITL)

教育革新センターは2015年4月に設立され、東京工業大学の教育手法の革新、継続的な教育支援及び教育の質向上に資する活動により教育改革を推進しています。授業設計や評価基準策定を含めた教育のPDCA確立、教職員への各種教育研修などに取り組んでいます。また、オンライン教育開発室(OEDO)では、MOOC※1やSPOC※2コンテンツの開発などを学生と共に行っています。

  • ※1 MOOC:Massive Open Online Courseの略称。大規模公開オンライン講座
  • ※2 SPOC:Small Private Online Courseの略称。対象者や提供先などが限られている外部非公開でのオンライン講義

教育改革前後の教育体制
教育改革前後の教育体制

教育改革の詳細については、以下の東工大全学サイトをご覧ください。

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院

世界トップクラスの教育システムで学ぶ
2016年4月に新たに発足した学院、系及びリベラルアーツ研究教育院について紹介します。

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

進化する組織でイノベーションを創出する「研究改革」

1.科学技術創成研究院の発足

柔軟な運営体制で革新的科学技術と新規領域・融合領域を創出するため、4研究所、2研究センター、10研究ユニットを有する科学技術創成研究院が発足しました。

現行の研究に関わる組織を再編成して新たなミッションを担う研究所、研究センターとともに、最先端の研究を小規模のチームで機動的に推進し、大隅良典栄誉教授ら卓越したリーダーが"尖った"研究を大きく育てるために、研究ユニットが設置されました。

複雑化する社会の要請、異分野にまたがる研究課題の増大に対応するため、より柔軟な研究体制の構築が求められています。研究者の配置や連携体制構築をより機動的に行い、異なる専門の研究者もチームを組んで研究できる仕組みを導入しています。

2.「世界の研究ハブ」を目指す

科学技術創成研究院は、地球生命研究所(ELSI)を始めとする研究拠点組織のノウハウを活用しつつ、WRHIを核として海外の卓越した研究機関や企業とも積極的に連携し、第一線で活躍する研究者の集う「世界のハブ」を目指して研究を展開し、成果を発信していきます。

科学技術創成研究院と学院等との関係
科学技術創成研究院と学院等との関係

研究改革の詳細については、以下の東工大全学サイトおよび科学技術創成研究院サイトをご覧ください。

大学改革を進める強力な体制を築く「ガバナンス改革」

1.学長のリーダーシップが最大限に活かせる体制へ

学長のリーダーシップを最大限に活かすために、人事・財務・インフラの各方面での体制を刷新しました。学長指名による学院長等の決定、全学の人事委員会の承認による教員選考などにより、戦略的な人材の集中的投入が可能となります。

また、学長裁量とする経費・スペースの拡大により、機動的な資源投入を行います。学長の下に、大学全体が一丸となって対応するための体制に組織を進化させ、大学改革を推進していきます。

2.企画戦略本部を中心としたPDCAサイクル

学内の企画立案組織の改革に合わせて、ガバナンスを担う「企画戦略本部」を2016年4月に設置しました。教育・研究・人事・財務等を機動的・戦略的・一元的に統括するものとして、学長の機動的な意思決定を補佐して大学運営を行うための「学長室」の中に置いています。また、学内外の教育研究等にかかる情報の収集・分析を行う「情報活用IR室」を設置しました。情報提供のほか大学運営にかかる計画策定や意思決定などを支援し、企画戦略本部を中心としたPDCAの中で戦略的な大学運営の実現に寄与します。

戦略的な大学運営の実現
戦略的な大学運営の実現

その他、組織等の移行については、以下の東工大全学サイトをご覧ください。

※ページ内の「2015年度以前の組織等について(PDF)」をご参照ください。

2016年東工大が変わります 東京工業大学大学改革パンフレット
2016年東工大が変わります 東京工業大学大学改革パンフレットPDF

7月11日16:20 関連リンクの削除と一部文言修正を行いました。

G.ワグネル関係資料が日本化学会「化学遺産」に認定

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東京大学教授を務め、のちに東京工業大学の前身となる東京職工学校の教師となったゴットフリード・ワグネル博士が明治初期に開発し、日本の陶磁器を美しく進化させた釉下彩陶器「旭焼7点」(東京工業大学博物館所蔵)が、3月26日に「日本化学会認定化学遺産第38号」の認定を受けました。

旭焼 釉下彩雀図皿 径:33センチメートル
旭焼 釉下彩雀図皿 径:33センチメートル

旭焼 釉下彩山水画皿 径:41.3センチメートル
旭焼 釉下彩山水画皿 径:41.3センチメートル

旭焼 釉下彩鴛鴦図皿 径:38センチメートル
旭焼 釉下彩鴛鴦図皿 径:38センチメートル

吾妻焼 釉下彩鉢 径:15.7センチメートル
吾妻焼 釉下彩鉢 径:15.7センチメートル

旭焼 釉下彩獅子舞形置物 縦×横:7.4×11.2センチメートル
旭焼 釉下彩獅子舞形置物 縦×横:7.4×11.2センチメートル

左/旭焼 釉下彩葡萄栗鼠図タイル 縦×横:76.0×15.1センチメートル 右/旭焼タイル下絵 葡萄に栗鼠図 縦×横:71.3×15.0センチメートル
左/旭焼 釉下彩葡萄栗鼠図タイル 縦×横:76.0×15.1センチメートル
右/旭焼タイル下絵 葡萄に栗鼠図 縦×横:71.3×15.0センチメートル

化学遺産とは

公益社団法人日本化学会化学遺産委員会が2010年から行っている化学遺産認定は、化学と化学技術に関する貴重な歴史資料の中でも特に貴重なものを認定することにより、文化遺産、産業遺産として次世代に伝え、化学に関する学術と教育の向上および化学工業の発展に資することを目的とするものです。

選定に当たっては、認定候補を日本化学会会員以外からも広く公募し、応募のあった候補を含めて化学遺産委員会が認定候補の具体的な内容、現況、所在、歴史的な意義などを実地調査した上で、学識経験者で構成された「化学遺産認定小委員会」に諮問し、最終的に理事会の承認を得て決定されます。

「認定証」には次のように書かれています。

化学遺産認定証化学遺産認定証

日本化学会認定化学遺産第038号

日本化学会化学遺産 認定証

A Chemical Heritage Authorized by The Chemical Society of Japan

東京工業大学殿

日本の近代的陶磁器産業の発展に貢献したG.ワグネル関係資料

貴下ご所有の「旭焼7点」を日本の化学および化学技術にとって歴史的に貴重な資料として日本化学会化学遺産に認定します。

平成28年3月26日

公益財団法人 日本化学会

会長 榊原定征

ワグネル博士と東工大

ゴッドフリード・ワグネル博士ゴッドフリード・ワグネル博士

ワグネル博士(1831~1892年、ドイツ)は、ドイツのゲッチンゲン大学に入学し、ガウス教授のもとで1852年に数学で博士号を得たのち、パリで化学や数ヵ国語を学び、スイスで数学教師を勤めました。1868年に来日し、1870年に佐賀藩の委嘱により肥前有田で製陶の新技術を指導しましたが、廃藩置県により1871年に東京大学の前身校の教師となり、またオーストリアの万国博覧会の御用掛となって出品物の選択・製作の指導や日本の職人にヨーロッパの新技術を学ばせました。

そして日本の文部省(当時)に対して、今後の日本の発展のために、近代的な科学・技術・モラルを身につけた多数の学生を育てる専門学校を設けるように強く進言しました。後に東工大の前身校の校長となる手嶋精一氏の尽力もあり、その結果、1881年5月に東京職工学校(現・東京工業大学)が設置され、機械工芸科と化学工芸科の2科が誕生しました。

1881年にワグネル博士は、イギリスに帰国する外国人教師アトキンソン氏の後任として東京大学理学部教授となり、製造化学を担当することになりましたが、1884年6月に退職し、同年11月に東京職工学校の教師となりました。日本で最初の「窯業学」を開講し、さらに1886年には東京職工学校に「陶器瑠璃工科」を設置し、ワグネル博士自身がその主任官となって日本で初めて陶磁器やガラスの専門教育や研究を進めました。陶器玻璃工科は、後に窯業科、窯業学科…と名称を変え、著名な研究者や、河井寛次郎(1914年卒 文化勲章辞退、人間国宝辞退)、濱田庄司(1916年卒 文化勲章、人間国宝)、島岡達三(1941年卒 人間国宝)等の陶芸作家を多く輩出しました。

ワグネル博士が、教え子で助手の植田豊橘氏と共に、今回、化学遺産に認定された「旭焼」(最初は吾妻焼)製作の実験研究を開始したのは、1883年東京大学理学部教授時代の実験室においてでした。ワグネル博士は白い素地(きじ)の上に多色の美しい日本画を描き、その上に釉薬をかけて焼き上げようとしましたが、釉薬にひびが入りました。試験体の成分をやや珪酸質にしたところ釉薬にひびが入らないことには成功しましたが、次は素地が割れてしまいました。そこで、炭酸カルシウムを入れたところ割れが止まりました。狩野派の絵師達が描いた日本画の濃淡の手加減を可能にするには、低火度釉下彩が適切とも考えました。使われた素地の例としては、蛙目(がいろめ)粘土20%、寺山土70%、胡粉10%があり、焼いた温度は1,100~1,140℃、最初は経験で、後にはゼーゲル温度計を使いました。ゼーゲル氏はワグネル博士の友人で、この温度計は彼から得たとされています。

東京工業学校のワグネル博士と門下生ら(1890年9月)
東京工業学校のワグネル博士と門下生ら(1890年9月)

 

小さなサンプル実験はともかく、茶わんくらいの大きさのものの実験となると大学内では出来ず、1884年に外部の工場の空家を借りて、ろくろと窯を備えた小工場を自費で設営して実験し、成功しました。1886年11月に、「吾妻焼」の施設・設備をすべて東京職工学校に移し、「旭焼」と改称しました。

1890年には澁澤栄一氏、浅野総一郎氏らの出資により旭焼組合が出来、「東京深川区東元町旭焼製造場」が設立され、大量の旭焼が生産されましたが1896年に閉鎖されました。

これより前の1892年11月8日、ワグネル博士は東京の自宅で亡くなり、青山霊園で永遠の眠りにつきました。墓所の世話は、今日も公益社団法人日本セラミックス協会の人々が中心となって行っています。

化学遺産に認定された旭焼7点を始めとする東工大の陶器は、大岡山キャンパス百年記念館博物館に展示していますので、ぜひご覧ください。

ガウス教授:ヨハン・カール・フリードリヒ・ガウス(1777~1855年)はドイツの数学者、天文学者、物理学者。数学の各分野、さらには電磁気など物理学にも彼の名が付いた法則、手法等が数多く存在する。

お問い合わせ先

東京工業大学博物館・百年記念館

Email : centjim@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3340

オートファジー始動装置の構築メカニズムを解明

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要点

  • ひも状タンパク質Atg13がオートファジー始動タンパク質同士をつなぎ留め、巨大なオートファジー始動装置を構築することを発見
  • 巨大なオートファジー始動装置がオートファジーの初期過程に働くことを解明
  • オートファジーの特異的制御剤開発に向けた基盤的知見が確立

概要

東京工業大学の大隅良典栄誉教授、山本林特任助教(現・東京大学大学院医学系研究科講師)、微生物化学研究会の野田展生主席研究員、藤岡優子研究員らの研究グループは、栄養飢餓などでオートファジーが誘導されると、ひも状で構造を持たないタンパク質Atg13が中心的な役割を担い、5つのタンパク質因子からなる複合体を形成し、さらにタンパク質同士をつなぎ留めることで、オートファジー始動に必須なオートファジー始動に関わる巨大な構造を形成する仕組みを明らかにした。この巨大オートファジー始動装置が形成されることでオートファジーの始動に必須な高いリン酸化[用語1]能と、オートファジーに使われる膜の種となるAtg9小胞を呼び込む機能が獲得されることを明らかにした。以上の結果から、栄養飢餓によって引き起こされるオートファジー始動のメカニズムが分子レベルで明らかとなり、オートファジー特異的制御剤開発のための基盤的知見を得ることに成功した。

研究成果は、米国の生命科学誌「ディベロップメンタル・セル(Developmental Cell)」のオンライン版で7月11日(米国東部標準時)に公開された。

背景

生物が生きるためには、細胞内において必要な成分を合成するだけでなく、不要なもの、有害なものを分解することも非常に重要である。オートファジーは酵母からヒトにいたる真核生物において広く保存された細胞内分解システムの一つであり、オートファゴソーム[用語2]と呼ばれる膜構造の新生を通して、栄養源のリサイクルや細胞内で過剰なもの、有害なものを分解することで、生体の健康維持に寄与している。オートファジーの異常は神経変性疾患や癌などの重篤な疾患を引き起こすことが示唆されていることから、オートファジーの活性を人為的に制御できれば、これら重篤な疾病に対する治療や予防への応用が期待される。

出芽酵母においては、Atg1複合体(Atg1、Atg13、Atg17、Atg29、Atg31の5つのタンパク質からなる複合体)がオートファジーの始動を担っていると考えられている(図1)。オートファジーは栄養飢餓になると強く誘導されるが、その第一段階として5つの因子が互いに結合して5者複合体となることがこれまでの研究で明らかになっていた。しかしながらオートファジーが始動するためには5者複合体の形成だけでは不十分であり、それが多数集まって巨大なオートファジー始動装置を形成することが必要であることが示唆されていたが、そのメカニズムは不明であった。

オートファジー始動装置の形成モデル

図1. オートファジー始動装置の形成モデル

オートファジーが誘導されていない条件では、Atg1、Atg13、そしてAtg17-29-31はそれぞればらばらの状態で存在しているが、オートファジーが誘導されると5者複合体を形成し、それがさらに多数集まることで巨大なオートファジー始動装置を形成する。

研究成果

東京工業大学の大隅良典栄誉教授、山本林特任助教、微生物化学研究会の野田展生主席研究員、藤岡優子研究員らの研究グループは、Atg1複合体の構成因子のうち、Atg13に着目しその構造と機能を詳細に解析した。その結果、Atg13はその大部分の領域が特定の立体構造を持たない、揺れ動くひものような形状を取ること、そしてひも状の構造の中に2ヶ所、Atg17に結合する領域が存在することを明らかにした。続いてAtg13とAtg17の間の相互作用様式をX線結晶構造解析法[用語3]で詳細に調べた結果、Atg13は1つ目の結合領域を用いて1つのAtg17と、2つ目の結合領域を用いて別のAtg17と結合することが明らかとなった。すなわちAtg13は2つのAtg17をひも状の構造でつなぎ留めるように結合することがわかった。続いてAtg1複合体の大きさを詳細に調べたところ、Atg13によるAtg17同士のつなぎ留めの活性に依存してAtg1複合体同士がつなぎ留められ、巨大複合体を形成することが明らかとなった(図2)。この巨大複合体の形成を失なったAtg13変異体を導入すると、酵母内でのオートファジー始動装置の形成も失われた。以上の結果から、Atg13によってAtg1複合体同士がつなぎ留められて形成された巨大複合体は、細胞内のオートファジー始動装置として必須であることが明らかとなった。

Atg13を介した巨大複合体の形成機構

図2. Atg13を介した巨大複合体の形成機構

Atg13(赤線)はひも状構造を用いてAtg1(青)およびAtg17(緑)をつなぐとともに、Atg17同士をつなぐことで、巨大複合体の形成を促進する。

タンパク質Atg13の形状、及び動きを高速原子間力顕微鏡にて観察

続いてオートファジー始動装置が担う機能を出芽酵母[用語4]を用いて解析した結果、Atg1が持つリン酸化活性がオートファジー始動装置に組み込まれることで顕著に上昇することが明らかとなった。オートファゴソームを新生するためには膜が必要であるが、膜タンパク質Atg9を含む膜小胞(Atg9小胞)がオートファゴソームの最初の膜材料であると考えられている。オートファジー始動装置は、Atg9小胞を効率的にリクルートし、さらにリクルートしたAtg9をリン酸化することが明らかとなった。すなわちオートファジー始動装置はAtg9小胞をリクルートすることで最初の膜構造の形成を促進するとともに、その高いリン酸化活性によって、オートファジーに関わる因子(群)をリン酸化することで、オートファゴソーム形成過程を進めていることが強く示唆された(図3)。

オートファゴソーム形成の始動モデル

図3. オートファゴソーム形成の始動モデル

オートファジー始動装置はAtg9小胞をリクルートすることで、オートファゴソームの初期膜(初期隔離膜)の形成を促す。また高いリン酸化活性によりAtg9や他のオートファジー関連(Atg)因子をリン酸化し、オートファゴソーム形成を進行させる。

今後の展開

本成果は、オートファジーがどのように始動し、オートファゴソームの形成へと導かれるのかという、オートファジー分野における長年の謎に対する答えの一部を明確に提示したものであり、さらなる全容解明に向けた基盤的知見になると考えられる。オートファジー始動機構を完全に理解することで、オートファジーを特異的に制御する薬剤の合理的開発が可能になると期待される。

用語説明

[用語1] リン酸化 : タンパク質が翻訳後に受ける修飾のうちの一種で、リン酸基が特定の部位に付加される。リン酸化酵素および脱リン酸化酵素の働きで可逆的に生じる修飾反応で、タンパク質の機能や構造を調節する役割がある。

[用語2] オートファゴソーム : オートファジーが誘導された時のみ形成される一過性の細胞内小器官で、二重の生体膜からなる。細胞質成分を取り囲みながら形成され、形成後は速やかにリソソーム/液胞と融合し、内膜とその内容物はリソソーム酵素の働きで分解される。

[用語3] X線結晶構造解析法 : 結晶はX線を回折する性質があるが、この性質を利用して結晶の構成物の原子がどのように立体的に配列しているのかを決定する手法。タンパク質は結晶になる性質があるため、タンパク質の立体構造を明らかにするために広く利用されている。

[用語4] 出芽酵母 : パンやビール、ワインの製造に用いられる酵母。真核生物であるため基本的な生命現象はヒトを含む高等生物と共通点が多く、遺伝学的解析が簡便に行えることから、モデル生物として汎用されている。オートファジーに関与する遺伝子群はほとんどが出芽酵母を用いて同定された。

論文情報

掲載誌 :
Developmental Cell
論文タイトル :
The intrinsically disordered protein Atg13 mediates supramolecular assembly of autophagy initiation complexes.
著者 :
Hayashi Yamamoto, Yuko Fujioka, Sho W. Suzuki, Daisuke Noshiro, Hironori Suzuki, Chika Kondo-Kakuta, Yayoi Kimura, Hisashi Hirano, Toshio Ando, Nobuo N. Noda & Yoshinori Ohsumi
DOI :

研究グループ

東京工業大学、微生物化学研究会、金沢大学、横浜市立大学

研究サポート

本成果は、主に科学研究費補助金および科学技術振興機構(JST)・戦略的創造研究推進事業(CREST)の支援を受けて実施した。

生命理工学院

生命理工学院 ―複雑で多様な生命現象を解明―
2016年4月に新たに発足した生命理工学院について紹介します。

生命理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

問い合わせ先

研究成果に関するお問い合わせ

東京工業大学 科学技術創成研究院
細胞制御工学研究ユニット
栄誉教授 大隅良典

Email : yohsumi@iri.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5113 / Fax : 045-925-5121

公益財団法人微生物化学研究会 微生物化学研究所
主席研究員 野田展生

Email : nn@bikaken.or.jp
Tel : 03-5734-3629

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

腸内細菌叢(腸内フローラ)のメタゲノム解析による発がん研究の加速に期待

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腸内細菌叢(腸内フローラ)のメタゲノム解析による発がん研究の加速に期待
―糞便試料の新たな保存法を確立、効率的な収集・保存を実現―

本研究成果のポイント

  • 腸内細菌叢(腸内フローラ)のメタゲノム解析に欠かせない研究試料である糞便の収集方法について、標準方法とされる冷凍保存よりも簡便な収集方法を確立
    既存溶液を活用した室温保存について、冷凍保存と同レベルの解析結果が得られることを実証した。
  • 大腸内視鏡検査により腸内細菌叢は変動しないことを確認
    大腸内視鏡検査とその前処置(腸管洗浄剤内服による洗浄)に伴う腸内細菌叢への影響を検討し、大腸内視鏡検査の前後で腸内細菌叢の組成の変動はみられないことが明らかになった。

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜斉、東京都中央区)と国立大学法人東京工業大学(学長:三島良直、東京都目黒区)は、腸内細菌叢(腸内フローラ)のメタゲノム解析[用語1]に欠かせない研究試料である糞便の簡便な保存方法を開発し、また大腸内視鏡検査により腸内細菌叢が変動しないことを明らかにしました。

本研究成果により、現在、標準的な収集方法とされる凍結保存・輸送が困難な地域住民のメタゲノム解析や、腸内細菌叢の大規模コホート研究の実施が可能となり、腸内細菌叢に関する研究が世界的に加速し、発がんメカニズムや各種疾患との関連の解明につながることが期待されます。

本研究成果は、国立がん研究センター 研究所 がんゲノミクス研究分野の谷内田真一ユニット長と同センター 中央病院 内視鏡科、東京工業大学 生命理工学院の山田拓司准教授の研究グループが、国立がん研究センター研究開発費「生体細菌叢のメタゲノム解析を用いた先駆的アプローチによる腫瘍発生メカニズムに関する基盤研究」の支援を受けて行ったもので、国際消化器病関連誌「GUT」オンライン版に掲載されました。

研究背景

腸内細菌叢は、培養を行わず細菌がもつDNAを次世代シーケンサーで解析する技術(メタゲノム解析)の発展により、近年、肥満や糖尿病、炎症性腸疾患、アレルギーなど様々な疾患との関連が報告されています。がんにおいても、発がん要因の特定やバイマーカーとして診断への応用が期待されています。

一方で、糞便は1gあたり1,000億個の細菌が高密度に存在しており、常温保存では15分以内に雑菌が繁殖し、メタゲノム解析は困難となります。そのため、排便直後にドライアイスや超低温冷蔵庫で冷凍保存するのが標準的ですが、より簡便な収集と保存方法が強く求められていました。

また腸内細菌叢は、約1,000種類100兆個の共生細菌で構成され(ヒトの体細胞数は37兆個)、その組成は各個人で異なり「もう一つの臓器」とも呼ばれていますが、以前より大腸内視鏡検査(大腸カメラ)による腸内細菌叢への影響が懸念されていました。

研究成果の概要

日本人健常者8名を研究対象とし、国立がん研究センター中央病院内視鏡科で便を収集、糞便からDNAを抽出し、16SrRNA解析[用語2]で腸内細菌の菌叢組成(どのような細菌がどれくらいの割合でいるか)の解析を、次世代シーケンサーを用いて行いました。同センター研究所でシーケンス解析を、東京工業大学でシーケンス・データの情報解析を行いました。

大腸内視鏡検査前後および凍結保存検体と常温保存検体の間における腸内細菌叢の相関関係

図1. 大腸内視鏡検査前後および凍結保存検体と常温保存検体の間における腸内細菌叢の相関関係

既存溶液を活用した室温保存について、冷凍保存と同レベルの解析結果が得られることを実証。標準方法とされる冷凍保存よりも簡便な収集方法を確立

本研究では凍結保存に代わる保存法として、グアニジン・チオシアン酸塩溶液[用語3]入り採便容器を用いて便を室温保存する方法で検討を行いました。その結果、大腸内視鏡検査の前日(自宅採取)の凍結保存便と室温保存便の相関係数は高く(0.89)、保存法による差異は少ないことが示されました。同様に当日の朝、腸管洗浄剤内服後の初回便の室温保存においても高い相関係数を示し、室温保存でも凍結保存法と遜色のない腸内細菌叢のメタゲノム解析(16SrRNA解析)が可能であることを実証しました。(図1)

また、大腸内視鏡検査前日(青色)、当日の朝(赤色)、腸管洗浄剤内服後の初回便(黄色)について、それぞれ室温保存と凍結保存で、細菌(属レベル)ごとの存在割合を比較したところ有意な差は見られませんでした。(図2:保存法の検証)

大腸内視鏡検査により腸内細菌叢は変動しないことを確認

大腸内視鏡検査の実施前後で腸内細菌叢の菌叢組成を経時的に比較・検討することで、その影響を検討しました。検査日朝の凍結保存便、腸管洗浄剤内服後初回の凍結保存便、検査後60日目の凍結保存便は、検査前日の凍結保存便(標準便)と比較して高い相関係数(各々0.91、0.86、0.91)を示しました。その一方で、大腸内視鏡検査中の吸引便汁(凍結保存)は相関が低く(白色を示している)、メタゲノム解析の菌叢組成の結果、小腸液の混入が示唆され、研究試料としての活用には適さないことが明らかとなりました。(図1)

検査前日と当日の朝(青色)、検査前日と腸管洗浄剤内服後初回の便(赤色)、検査前日と検査後60日目の凍結保存便(黄色)の細菌ごと(属レベル)の存在割合を比較しましたが、有意な差は見られませんでした。(図2:採取時期の検証)

また、検査前日と検査後60日目の凍結保存便について、個々の被験者における各細菌(属レベル)の存在割合を調べても、大腸内視鏡検査の腸管洗浄による影響を受けないことが明らかとなりました。(図3)

大腸内視鏡検査前後および凍結保存検体と常温保存検体の間における個々の腸内細菌相対存在量の変動

図2. 大腸内視鏡検査前後および凍結保存検体と常温保存検体の間における個々の腸内細菌相対存在量の変動

細菌を属ごとに保存法(中央グラフ)や採取時期の違い(右グラフ)による差異をLog変換した値を比較した結果、左右に多少のずれはみられますが、概して0を中心にしており、保存法や採取時期の違いによる差異は細菌の属ごとの解析でも少ないことが分かりました。

中央グラフ:保存法の検証
保存法の検証を行ったもので、大腸内視鏡検査実施の前日の室温保存便(D0_R)と凍結保存便(D0_F)の比較(青色)、当日朝の室温保存便(D1-1_R)と凍結保存便(D1-1_F)の比較(赤色)、腸管洗浄剤内服後の初回の室温保存便(D1-2_R)と凍結保存便(D1-2_F)の比較(黄色)を行いました。
右グラフ:採取時期の検証
大腸内視鏡検査当日朝の凍結便(D1-1_F)と検査前日の凍結保存便(D0_F:組成解析の基準となる標準便)の比較(青色)、腸管洗浄剤内服後の初回の凍結保存便(D1-2_F)と検査前日の凍結保存便(D0_F)の比較(赤色)、検査後60日目の凍結保存便(D60_F)と検査前日の凍結保存便(D0_F)の比較(黄色)を行いました。
大腸内視鏡検査後60日における腸内細菌相対存在量の変動

図3. 大腸内視鏡検査後60日における腸内細菌相対存在量の変動

検査前日の凍結保存便(D0_F:x軸)と検査後60日目の凍結保存便(D60_F:y軸)について、採取可能であった5名の日本人健常者(被験者A、C、D、EとF)で、色分けされた各細菌(属レベル)がどれくらいの割合で存在していたかを散布図に示しました。その結果、腸内細菌叢の菌叢組成は個々人で異なりますが、各人では検査の前後で極めて高い相関を示し、大腸内視鏡検査の腸管洗浄による影響を受けないことが明らかとなりました。

今後の展望

腸内細菌叢の研究は、欧州では2008年からMetaHIT(Metagenomics of the Human Intestinal Tract)、米国でも2008年からHMP(Human Microbiome Project)の巨額の予算を投じた国家プロジェクトが始まっています。国内では、本研究の研究グループが2013年に日本人腸内環境の全容解明とその産業応用プラットフォーム(JCHM:Japanese Consortium for Human Microbiome) outerを設立し、日本人腸内微生物データーベース構築による「日本人固有の腸内環境及および腸内代謝系の発見」と「疾病マーカーの発見」を目指したプロジェクト活動の推進に取り組んでいます。

また、国立がん研究センター中央病院および研究所と東京工業大学は、共同で大腸内視鏡検査を受ける患者さんを対象に大規模なメタゲノム解析を実施中であり、発がんメカニズムの解明が期待されます。

用語説明

[用語1] メタゲノム解析 : 環境(腸内など)中には、多種多様な微生物(細菌など)が存在している。どのような微生物が存在するのかを調べるには、従来は微生物を分離し、培養して増殖させることが必要であった。しかし、腸管内の微生物のほとんどは人為的な培養が難しく、研究は困難であった。培養という過程を経ずに、環境中の微生物が持つ核酸(DNAなど)を抽出し、これらの構造(塩基配列)を調べれば、個々の核酸がどの微生物由来か(系統組成解析)、もしくはどの微生物由来かは分からないものの環境中の微生物の集合体がもつ遺伝子群(機能組成解析)が分かる。このような手法をメタゲノム解析と呼ぶ。次世代シーケンサーの普及とともに、近年、指数関数的に研究が進んでいる。

[用語2] 16SrRNA解析 : メタゲノム解析の手法の一つで、16Sr(リボソーム)RNA遺伝子の配列データを用いて、菌叢組成の解析を行う。メタゲノム ショットガン・シーケンス(全ゲノム シーケンス)と比較して安価で、菌叢組成の概略が解析可能であることから、多くの研究において利用されている。16SrRNA遺伝子は全ての細菌種が有している。また、各細菌によりその遺伝子配列が少しずつ異なるので、細菌の系統分類を行う指標となっている。

[用語3] グアニジン・チオシアン酸塩 : 蛋白質の変性剤として知られる化学化合物で、DNAやRNAの抽出の際に広く使用されている。さらに、微生物の増殖を抑えることでも知られ、この有効性を応用した市販の採便キット(株式会社テクノスルガ・ラボ/所在地:静岡県静岡市)を研究に使用した。

論文情報

掲載誌 :
Gut
論文タイトル :
High stability of faecal microbiome composition in guanidine thiocyanate solution at room temperature and robustness during colonoscopy
著者 :
Yuichiro Nishimoto,Sayaka Mizutani,Takeshi Nakajima,Fumie Hosoda, Hikaru Watanabe, Yutaka Saito,Tatsuhiro Shibata,Shinichi Yachida*,Takuji Yamada**責任著者)
DOI :

研究費

国立がん研究センター 研究開発費(25-A-4と28-A-4)
生体細菌叢のメタゲノム解析を用いた先駆的アプローチによる腫瘍発生メカニズムに関する基盤研究(25-A-4)

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研究成果に関するお問い合わせ

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ユニット長 谷内田真一

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Tel : 03-3542-2511

東京工業大学 生命理工学院
准教授 山田拓司

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Tel : 03-5734-3629

その他全般に関するお問い合わせ

国立がん研究センター 企画戦略局 広報企画室

Email : ncc-admin@ncc.go.jp
Tel : 03-3542-2511(代表) / Fax : 03-3542-2545

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

7月14日14:15 関連リンクに誤りがありましたので、修正しました。

スーパーコンピュータ「京」がGraph500で世界第1位を獲得―ビッグデータの処理で重要となるグラフ解析で最高の評価―

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概要

九州大学と東京工業大学、理化学研究所、スペインのバルセロナ・スーパーコンピューティング・センター、富士通株式会社による国際共同研究グループは、2016年6月に公開された最新のビッグデータ処理(大規模グラフ解析)に関するスーパーコンピュータの国際的な性能ランキングであるGraph500において、スーパーコンピュータ「京(けい)」[用語1]による解析結果で、2015年11月に続き3期連続(通算4期)で第1位を獲得しました。

大規模グラフ解析の性能は、大規模かつ複雑なデータ処理が求められるビッグデータの解析において重要となるもので、今回のランキング結果は、「京」がビッグデータ解析に関する高い能力を有することを実証するものです。

本研究の一部は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST「ポストペタスケール高性能計算に資するシステムソフトウェア技術の創出」(研究総括:佐藤三久 理研計算科学研究機構)における研究課題「ポストペタスケールシステムにおける超大規模グラフ最適化基盤」(研究代表者:藤澤克樹 九州大学、拠点代表者:鈴村豊太郎 バルセロナ・スーパーコンピューティング・センター)および「ビッグデータ統合利活用のための次世代基盤技術の創出・体系化」(研究総括:喜連川優 国立情報学研究所)における研究課題「EBD:次世代の年ヨッタバイト処理に向けたエクストリームビッグデータの基盤技術」(研究代表者:松岡聡 東京工業大学)の一環として行われました。

スーパーコンピュータ「京」

2016年6月20日に公開されたGraph500上位10位

順位
システム名称
設置場所
ベンダー
国名
1
理研 計算科学研究機構
富士通
82.944
40
38.621
2
神威太湖之光
無錫国立スーパーコンピューティングセンター
NRCPC
40,768
40
23,756
3
Sequoia
ローレンス・リバモア研究所
IBM
98,304
41
23,751
4
Mira
アルゴンヌ研究所
IBM
49,152
40
14,982
5
JUQUEEN
ユーリッヒ研究所
IBM
16,384
38
5,848
6
Fermi
CINECA
IBM
8.192
37
2,567
7
天河2号
国防科学技術大学
NUDT
8,192
36
2,061
8
Turing
GENCI
IBM
4,096
36
1.427
8
Blue Joule
ダーズベリー研究所
IBM
4.096
36
1.427
8
DIRAC
エジンバラ大学
IBM
4.096
36
1.427
8
Zumbrota
EDF社
IBM
4.096
36
1.427
8
Avoca
ビクトリア州生命科学計算イニシアティブ
IBM
4.096
36
1.427

1. Graph500とは

近年活発に行われるようになってきた実社会における複雑な現象の分析では、多くの場合、分析対象は大規模なグラフ(節と枝によるデータ間の関連性を示したもの)として表現され、それに対するコンピュータによる高速な解析(グラフ解析)が必要とされています。例えば、インターネット上のソーシャルサービスなどでは、「誰が誰とつながっているか」といった関連性のある大量のデータを解析するときにグラフ解析が使われます。また、サイバーセキュリティや金融取引の安全性担保のような社会的課題に加えて、脳神経科学における神経機能の解析やタンパク質の相互作用分析などの科学分野においてもグラフ解析は用いられ、応用範囲が大きく広がっています。こうしたグラフ解析の性能を競うのが、2010年から開始されたスパコンランキング「Graph500」です。

規則的な行列演算である連立一次方程式を解く計算速度(LINPACK[用語2])でスーパーコンピュータを評価するTOP500[用語3]においては、「京」は2011年(6月、11月)に第1位、その後、2016年6月20日に公表された最新のランキングでも第5位につけています。一方、Graph500ではグラフの幅優先探索(1秒間にグラフのたどった枝の数(Traversed Edges Per Second;TEPS[用語4]))という複雑な計算を行う速度で評価されており、計算速度だけでなく、アルゴリズムやプログラムを含めた総合的な能力が求められます。

今回Graph500の測定に使われたのは、「京」が持つ88,128台のノード[用語5]の内の82,944台で、約1兆個の頂点を持ち16兆個の枝から成るプロブレムスケール[用語6]の大規模グラフに対する幅優先探索問題を0.45秒で解くことに成功しました。ベンチマークのスコアは38,621GTEPS(ギガテップス)です。Graph500第1位獲得は、「京」が科学技術計算でよく使われる規則的な行列演算だけでなく、不規則な計算が大半を占めるグラフ解析においても高い能力を有していることを実証したものであり、幅広い分野のアプリケーションに対応できる「京」の汎用性の高さを示すものです。また、それと同時に、高いハードウェアの性能を最大限に活用できる研究チームの高度なソフトウェア技術を示すものと言えます。「京」は、国際共同研究グループによる「ポストペタスケールシステムにおける超大規模グラフ最適化基盤プロジェクト」および「EBD:次世代の年ヨッタバイト処理に向けたエクストリームビッグデータの基盤技術」の2つの研究プロジェクトによってアルゴリズムおよびプログラムの開発が行われ、2014年6月に17,977GTEPSの性能を達成し第1位、また「京」のシステム全体を効率良く利用可能にするアルゴリズムの改良が行われ2倍近く性能を向上させ、2015年7月に38,621GTEPSを達成し第1位でした。そして今回のランキングでもこの記録は神威太湖之光等の新しいシステムに比べても大幅に高いスコアであり、世界第1位を3期連続で獲得しました。

2. 今後の展望

大規模グラフ解析においては、アルゴリズムおよびプログラムの開発・実装によって今回のように性能が飛躍的に向上する可能性を示しており、研究グループでは今後も更なる性能向上を目指していきます。また、上記で述べた実社会の課題解決および科学分野の基盤技術へ貢献すべく、スーパーコンピュータ上でさまざまな大規模グラフ解析アルゴリズムおよびプログラムを研究開発していきます。

用語説明

[用語1] スーパーコンピュータ「京(けい)」 : 文部科学省が推進する「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築」プログラムの中核システムとして、理研と富士通が共同で開発を行い、2012年に共用を開始した計算速度10ペタフロップス級のスーパーコンピュータ。「京(けい)」は理研の登録商標で、10ペタ(10の16乗)を表す万進法の単位であるとともに、この漢字の本義が大きな門を表すことを踏まえ、「計算科学の新たな門」という期待も込められている。

[用語2] LINPACK : 米国のテネシー大学のJ. Dongarra博士によって開発された規則的な行列計算による連立一次方程式の解法プログラムで、TOP500リストを作成するために用いるベンチマーク・プログラム。ハードウェアのピーク性能に近い性能を出しやすく、その計算は単純だが、応用範囲が広い。

[用語3] TOP500 : TOP500は、世界で最も高速なコンピュータシステムの上位500位までを定期的にランク付けし、評価するプロジェクト。1993年に発足し、スーパーコンピュータのリストを年2回発表している。

[用語4] TEPS(Traversed Edges Per Second) : Graph500ベンチマークの実行速度をあらわすスコア。Graph500ベンチマークでは与えられたグラフの頂点とそれをつなぐ枝を処理する。Graph500におけるコンピュータの速度は1秒間あたりに調べ上げた枝の数として定義されている。G(ギガ)は109(=十億)倍を表す接頭辞。

[用語5] ノード : スーパーコンピュータにおけるオペレーティングシステム(OS)が動作できる最小の計算資源の単位。「京」の場合は、ひとつのCPU(中央演算装置)、ひとつのICC(インターコネクトコントローラ)、および16GBのメモリから構成される。

[用語6] プロブレムスケール : Graph500ベンチマークが計算する問題の規模をあらわす数値。グラフの頂点数に関連した数値であり、プロブレムスケール40の場合は2の40乗(約1兆)の数の頂点から構成されるグラフを処理することを意味する。

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2016年4月に新たに発足した情報理工学院について紹介します。

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九州大学広報室

Email : koho@jimu.kyushu-u.ac.jp
Tel : 092-802-2130 / Fax : 092-802-2139

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

理化学研究所 広報室 報道担当

Email : ex-press@riken.jp
Tel : 048-467-9272 / Fax : 048-462-4715

富士通株式会社 富士通コンタクトライン(総合窓口)

Tel : 0120-933-200

科学技術振興機構 広報課

Email : jstkoho@jst.go.jp
Tel : 03-5214-8404 / Fax : 03-5214-8432

最先端を究める研究ユニット リーフレット公開

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科学技術創成研究院 組織図
科学技術創成研究院 組織図

本学では、2016年4月1日に研究体制が刷新され、科学技術創成研究院(IIR)が誕生しました。

このIIRのもとに最先端研究を小規模のチームで機動的に推進する「研究ユニット」が10個設置されました。研究ユニットは、卓越したリーダーが"尖った"研究を大きく育てるための仕組みです。

各研究ユニットのねらい、特色、具体的な研究目標、それを達成する道筋などをわかりやすく紹介するリーフレットの日本語版、英語版が完成しましたのでお知らせいたします。

  • 細胞制御工学研究ユニット

    (リーダー:大隅良典栄誉教授)

    細胞制御工学研究ユニット

  • グローバル水素エネルギー研究ユニット

    (リーダー:岡崎健特命教授)

    グローバル水素エネルギー研究ユニット

  • ビッグデータ数理科学研究ユニット

    (リーダー:高安美佐子准教授)

    ビッグデータ数理科学研究ユニット

  • スマート創薬研究ユニット

    (リーダー:関嶋政和准教授)

    スマート創薬研究ユニット

  • ハイブリッドマテリアル研究ユニット

    (リーダー:山元公寿教授)

    ハイブリッドマテリアル研究ユニット

  • バイオインタフェース研究ユニット

    (リーダー:小池康晴教授)

    バイオインタフェース研究ユニット

  • 超集積材料研究ユニット

    (リーダー:彌田智一教授)

    超集積材料研究ユニット

  • 革新固体触媒研究ユニット

    (リーダー:原亨和教授)

    革新固体触媒研究ユニット

  • 原子燃料サイクル研究ユニット

    (リーダー:竹下健二教授)

    原子燃料サイクル研究ユニット

  • クリーン環境研究ユニット

    (リーダー:藤井正明教授)

    クリーン環境研究ユニット

  • 研究ユニットリーフレット一括ダウンロード

    研究ユニットリーフレット一括ダウンロード

お問い合わせ先

研究戦略推進センター

Email : ru.staff@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3794

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