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2期連続でスーパーコンピュータ「京」がGraph500で世界第1位を獲得

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2期連続でスーパーコンピュータ「京」がGraph500で世界第1位を獲得
―ビッグデータの処理で重要となるグラフ解析でも最高レベルの評価―

要旨

理化学研究所(理研)と東京工業大学、アイルランドのユニバーシティ・カレッジ・ダブリン、九州大学、富士通株式会社による国際共同研究グループは、ビッグデータ処理(大規模グラフ解析)に関するスーパーコンピュータの国際的な性能ランキングであるGraph500において、スーパーコンピュータ「京(けい)」[用語1]による解析結果で、2015年7月に続き第1位を獲得しました。これは、東京工業大学博士課程(理研研修生)上野晃司氏らによる成果です。

大規模グラフ解析の性能は、大規模かつ複雑なデータ処理が求められるビッグデータの解析において重要となるもので、今回のランキング結果は、「京」がビッグデータ解析に関する高い能力を有することを実証するものです。

本研究の一部は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST「ポストペタスケール高性能計算に資するシステムソフトウェア技術の創出」(研究総括:佐藤 三久 理研計算科学研究機構)における研究課題「ポストペタスケールシステムにおける超大規模グラフ最適化基盤」(研究代表者:藤澤 克樹 九州大学、 拠点代表者:鈴村 豊太郎 ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン)および「ビッグデータ統合利活用のための次世代基盤技術の創出・体系化」(研究総括:喜連川 優 国立情報学研究所)における研究課題「EBD:次世代の年ヨッタバイト処理に向けたエクストリームビッグデータの基盤技術」(研究代表者:松岡 聡 東京工業大学)の一環として行われました。

アメリカのオースティンで開催中のHPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング:高性能計算技術)に関する国際会議「SC15」で11月17日(日本時間11月18日)に発表。前回(2015年7月)のランキングでも、「京」は第1位。
スーパーコンピュータ「京」

Graph500上位10位

公開されたGraph500outerの上位10位は以下の通り。

順位
システム名称
設置場所
ベンダー
国名
ノード数
プログラムスケール
GTEPS
1
K Computer
理研 計算科学研究機構
富士通
82.944
40
38.621
2
Sequoia
ローレンス・リバモア研
IBM
98.304
41
23.751
3
Mira
アルゴンヌ研
IBM
49.152
40
14.982
4
JUQUEEN
ユーリッヒ研
IBM
16.384
38
5.848
5
Fermi
CINECA
IBM
8.192
37
2.567
6
天河2号
国防科学技術大学
NUDT
8.192
36
2.061
7
Blue Joule
ダーズベリー研
IBM
4.096
36
1.427
7
DIRAC
エジンバラ大学
IBM
4.096
36
1.427
7
Zumbrota
EDF社
IBM
4.096
36
1.427
7
Avoca
ビクトリア州生命科学計算イニシアティブ
IBM
4.096
36
1.427
7
Turing
GENCI
IBM
4.096
36
1.427

Graph500とは

近年活発に行われるようになってきた実社会における複雑な現象の分析では、多くの場合、分析対象は大規模なグラフ(節と枝によるデータ間の関連性を示したもの)として表現され、それに対するコンピュータによる高速な解析(グラフ解析)が必要とされています。例えば、インターネット上のソーシャルサービスなどでは、「誰が誰とつながっているか」といった関連性のある大量のデータを解析するときにグラフ解析が使われます。また、サイバーセキュリティや金融取引の安全性担保のような社会的課題に加えて、脳神経科学における神経機能の解析やタンパク質の相互作用分析などの科学分野においてもグラフ解析は用いられ、応用範囲が大きく広がっています。こうしたグラフ解析の性能を競うのが、2010年から開始されたスパコンランキング「Graph500」です。

規則的な行列演算である連立一次方程式を解く計算速度(LINPACK[用語2])でスーパーコンピュータを評価するTOP500[用語3]においては、「京」は2011年(6月、11月)に第1位、2015年11月16日に公表された最新のランキングでも第4位につけています。一方、Graph500ではグラフの幅優先探索(1秒間にグラフのたどった枝の数(Traversed Edges Per Second;TEPS[用語4]))という複雑な計算を行う速度で評価されており、計算速度だけでなく、アルゴリズムやプログラムを含めた総合的な能力が求められます。

今回Graph500の測定に使われたのは、「京」が持つ88,128台のノード[用語5]の内の82,944台で、約1兆個の頂点を持ち16兆個の枝から成るプログラムスケール[用語6]の大規模グラフに対する幅優先探索問題を0.45秒で解くことに成功しました。ベンチマークのスコアは38,621GTEPS(ギガテップス)です。Graph500第1位獲得は、「京」が科学技術計算でよく使われる規則的な行列演算だけでなく、不規則な計算が大半を占めるグラフ解析においても高い能力を有していることを実証したものであり、幅広い分野のアプリケーションに対応できる「京」の汎用性の高さを示すものです。また、それと同時に、高いハードウェアの性能を最大限に活用できる研究チームの高度なソフトウェア技術を示すものと言えます。「京」は、国際共同研究グループによる「ポストペタスケールシステムにおける超大規模グラフ最適化基盤プロジェクト」および「EBD:次世代の年ヨッタバイト処理に向けたエクストリームビッグデータの基盤技術」の2つの研究プロジェクトによってアルゴリズムおよびプログラムの開発が行われ、2014年6月に17,977GTEPSの性能を達成し第1位、また「京」のシステム全体を効率良く利用可能にするアルゴリズムの改良が行われ2倍近く性能を向上させ、2015年7月に38,621GTEPSを達成し第1位でした。そして今回も前回と同スコアにて、世界第1位を2期連続で獲得しました。

今後の展望

大規模グラフ解析においては、アルゴリズムおよびプログラムの開発・実装によって今回のように性能が飛躍的に向上する可能性を示しており、今後も更なる性能向上を目指していきます。また、上記で述べた実社会の課題解決および科学分野の基盤技術へ貢献すべく、スーパーコンピュータ上でさまざまな大規模グラフ解析アルゴリズムおよびプログラムを研究開発していきます。

東京工業大学博士課程 上野晃司氏のコメント

私たちが開発した手法によって「京」が前回7月に続いて世界1位を達成できたことを大変嬉しく思っています。激しい競争がされてきたGraph500にて1位を継続することができたことは、「京」のハードウェア性能とそれを最大限に活かす私たちの手法が真に優れていることを示したものと思っています。今後もこのような努力を続け、「京」のポテンシャルをどこまで活かせるか、挑戦したいと思います。

用語説明

[用語1] スーパーコンピュータ「京(けい)」 : 文部科学省が推進する「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築」プログラムの中核システムとして、理研と富士通が共同で開発を行い、2012年に共用を開始した計算速度10ペタフロップス級のスーパーコンピュータ。「京(けい)」は理研の登録商標で、10ペタ(10の16乗)を表す万進法の単位であるとともに、この漢字の本義が大きな門を表すことを踏まえ、「計算科学の新たな門」という期待も込められている。

[用語2] LINPACK : 米国のテネシー大学のJ. Dongarra博士によって開発された規則的な行列計算による連立一次方程式の解法プログラムで、TOP500リストを作成するために用いるベンチマーク・プログラム。ハードウェアのピーク性能に近い性能を出しやすく、その計算は単純だが、応用範囲が広い。

[用語3] TOP500 : TOP500は、世界で最も高速なコンピュータシステムの上位500位までを定期的にランク付けし、評価するプロジェクト。1993年に発足し、スーパーコンピュータのリストを年2回発表している。

[用語4] TEPS(Traversed Edges Per Second) : Graph500ベンチマークの実行速度をあらわすスコア。Graph500ベンチマークでは与えられたグラフの頂点とそれをつなぐ枝を処理する。Graph500におけるコンピュータの速度は1秒間あたりに調べ上げた枝の数として定義されている。

[用語5] ノード : スーパーコンピュータにおけるオペレーティングシステム(OS)が動作できる最小の計算資源の単位。「京」の場合は、ひとつのCPU(中央演算装置)、ひとつのICC(インターコネクトコントローラ)、および16GBのメモリから構成される。

[用語6] プログラムスケール : Graph500ベンチマークが計算する問題の規模をあらわす数値。グラフの頂点数に関連した数値であり、プログラムスケール40の場合は2の40乗(約1兆)の数の頂点から構成されるグラフを処理することを意味する。

問い合わせ先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

理化学研究所 計算科学研究機構 広報国際室

岡田昭彦
Email : aics-koho@riken.jp
Tel : 078-940-5625 / Fax : 078-304-4964

理化学研究所 広報室 報道担当

Email : ex-press@riken.jp
TEL : 048-467-9272 / Fax : 048-462-4715

国立大学法人九州大学広報室

Tel : 092-802-2130 / Fax : 092-802-2139

富士通株式会社 広報IR室

Tel : 03-6252-2174 / Fax : 03-6252-2783

科学技術振興機構 広報課

Tel : 03-5214-8404 / Fax : 03-5214-8432


山元啓史准教授が山下記念研究賞を受賞

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留学生センターの山元啓史准教授が、2015年度情報処理学会山下記念研究賞を受賞しました。山下記念研究賞は、情報処理学会が主催する研究会およびシンポジウムにおける研究発表のうち、特に優秀な論文の発表者に授与される賞です。初代情報処理学会会長の故山下英男氏寄贈の資金にて運営されています。授賞式は、来年3月情報処理学会全国大会で行われる予定です。

受賞テーマ

二十一代集シソーラスのための漸近的語彙対応システムの開発

受賞理由

本論文は、勅撰和歌集である二十一代集のシソーラス開発を介して、1000年以上前の日本語における語彙体系を明らかにすることを目的としています。和歌と現代語訳のパラレルコーパスを利用した単語対の推定法により、計算手続きだけで新規登録すべき語を抽出することが可能なアルゴリズムを提案・実証し、今後、計量国語学の分野で、他の古典籍研究にも応用可能な優れた業績であると認められました。また、本論文が、10年以上にわたって研究された古典における知識の体系化の実現のための取り組みの成果であり、その積み重ねは人文科学研究の基盤的な研究として位置づけられると同時に、今後の発展性が期待できるという点でも高く評価されました。

古今和歌集(905年ごろ)における桜と吉野山との関係
古今和歌集(905年ごろ)における桜と吉野山との関係:
「桜といえば吉野山」という関係はこの時代にはまだ成立しておらず、むしろ雪山、修験道、隠遁者と吉野の関係の方が強い。

新古今和歌集(1205年)における桜と吉野山との関係
新古今和歌集(1205年)における桜と吉野山との関係:
灰色のノードは2つ(桜、吉野)のネットワークで共有している用語であり、古今集のネットワークモデルと比較すると、古今集以来の300年間で、桜と吉野の関係が密になってきていることがわかる。一般的に、西行法師の時代には「桜といえば吉野山」が定着したと言われている。

山元啓史准教授

山元啓史准教授

今回の受賞を受けて、山元准教授は以下のようにコメントしています。

長年に渡り、コンピュータによる日本語の言語の歴史を研究しております。
この研究は日本語を外国人に教えるために、入門期にざっくり「日本語はこんな形をしているんだよ」と伝えられたら、どんなに気が楽だろうと思ってはじめたことでした。それがいつの間にか日本語の普遍性を尋ねる研究となってきました。

普遍性を明らかにするには、言語の変化や変動を調べ、その相対的な違いを明らかにすることが必要になりました。一般的に「言語は、いったん形が定着すれば、その形は変わりにくいが、その意味はどんどん変化していく」と言われています。日本語は形式的には世界の言語の中でもごくごく一般的です。
しかし、日本語のように多くの人間(たとえば1億人以上)1000年以上もの間、話させている言語は、ごくわずかです。これは、日本語は1000年以上言語をさかのぼって、調査できる言語であるということなのです。

「日本語は、どんな形をしているのか」という疑問については、まだまだ十分ではありませんが、今後も、日本語に限らず、言語というものはどんな変化をしていくのかを研究していきたいと考えています。

お問い合わせ先

留学生センター 山元啓史
Email : yamagen@ryu.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2324

地球の液体外核の炭素量に制約―超高圧高温下で液体鉄炭素合金の音波速度を測定―

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要旨

東京工業大学地球生命研究所の廣瀬敬教授と、理化学研究所(理研)放射光科学総合研究センター バロン物質ダイナミクス研究室の中島陽一特別研究員、アルフレッド・バロン准主任研究員らの共同研究チームは、炭素を含んだ液体鉄炭素合金の縦波速度[用語1]を70万気圧、2,800ケルビン(K)という超高圧高温下で測定し、地球の液体外核[用語2]では炭素に極めて乏しいことを発見しました。

地球の中心には半径3,500kmの金属核があります。金属核は2層構造となっており、中心部分は固体の内核(固体鉄合金)があり、その外側を液体の外核(液体鉄合金)が囲んでいます。液体外核は金属核の質量の95%を占め、その主成分は鉄で、その他に水素や炭素、酸素、ケイ素、硫黄といった軽い元素が合計で10wt%(重量%[用語3])程度溶け込んでいることが分かっています。しかし、それぞれの元素がどのくらいの割合で溶け込んでいるかは分かっていません。金属核は最も浅い部分でも地表から2,900kmの深さに位置し、その成分を直接調べることは困難です。液体外核の成分の手がかりとなるのは、地震波観測から得られる縦波速度、密度といった物理量に限られています。実際の液体外核の環境を実験室で再現し、液体金属合金の縦波速度を測定して、地震波観測の縦波速度と比較することができれば、その成分を知ることができます。しかし、地球の内部は超高圧高温の世界で、液体外核の最上部で135万気圧以上、4,000K以上になるため、こうした極限条件を実験室で再現し、液体鉄合金の物性を測定することは困難でした。

共同研究チームは、試料を高圧高温状態にして融解させるレーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセル装置[用語4]と大型放射光施設「SPring-8[用語5]」に設置されている、微小な原子の振動を検出できる高分解能非弾性X線散乱分光器[用語6]を使って液体鉄炭素合金を作成し、縦波速度を70万気圧、2,800Kという超高圧高温下で測定することに成功しました。その結果、液体外核には、炭素が最大で1.2wt%しか存在していないことが明らかになりました。これにより、液体外核の10wt%程度を占める軽い成分の多くは、炭素以外の元素で占められていることが分かりました。液体外核に含まれる軽い元素の種類と量を特定できれば、地球磁場を生成していると考えられる核ダイナモ[用語7]のメカニズムや、地球形成時の金属核分離時の状況などの理解が一層進むと期待できます。

本研究は、国際科学雑誌『Nature Communications』(11月24日付け:日本時間11月24日)に掲載されました。

背景

地球の半径は6,400kmあり、地上から深さ2,900kmまでの部分は岩石でできています。さらに深い部分には金属でできた中心核(金属核)があります。金属核は2層構造になっており、内側(深さ5,200~6,400km)に固体でできた内核(個体鉄合金)があり、その外側(深さ2,900~5,200km)を液体でできた液体外核(液体鉄合金)が取り囲んでいます(図1)。

レーザー加熱ダイヤモンドアンビルセル(A)、対向する一組のダイヤ(B)
図1.
地球内部は層構造を形成しており、地表から岩石でできた地殻、上部マントル(遷移層含む)、下部マントル、また金属でできた外核、内核に分けられる(左図)。地震波観測から、地球内部の地震波速度、密度といった物理的情報も分かっている(右図)。P波=縦波、S波=横波。

液体外核は鉄を主成分とし、水素や炭素、ケイ素、酸素、硫黄といった軽い元素を10wt%(重量%)程度含んでいることが分かっています。しかし、それぞれの元素がどのくらいの割合で溶け込んでいるかはよく分かっていません。地球深部を直接調べることは困難なため、地球内部を伝搬する地震波を地表で観測して得られる地震波速度や密度といった情報が、地球内部の構造や成分を知る上で貴重な手がかりとなります。実際、地震波観測から金属核質量の95%を占める液体外核は鉄よりも、密度で約10%軽く、地震波のうち縦波速度が約4%速いことが分かっています。液体外核を構成する成分、すなわち、軽い元素の種類と量を特定できれば、地球磁場を生成する地球ダイナモのメカニズム、地球形成時の金属核分離時の状況などの理解が一層進むことになります。

実際の液体外核の環境を実験室で再現して、液体金属合金の縦波速度を測定し、地震波観測から得られる縦波速度と比較することができれば、その成分を知ることができます。しかし、地球深部は高圧高温の世界で、液体外核の最上部では、その圧力は135万気圧、温度は4,000ケルビン(K)にも達します。このような超高圧高温環境を再現し、物性を測定すること、とりわけ液体の測定は大変な困難を極めます。これまで、再現した液体鉄合金の物性測定の多くは、液体外核の環境には程遠い10万気圧以下に限られていたため、液体外核の成分は未解明のままでした。

研究手法と成果

物質中では、原子は絶えず振動し微小な音波を出しています。この音波は音響フォノンと呼ばれ、フォノンを調べることにより、物質中を伝わる音波速度を知ることができます。音波速度には縦波速度と横波速度があり、今回の実験では縦波速度を調べました。

共同研究チームはまず、レーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセル装置を使って炭素を4wt%添加した鉄の合金を高圧高温状態にし、融解させました。次に液体状態になった鉄炭素合金(液体鉄炭素合金)のフォノンを大型放射光施設「SPring-8」のビームラインBL35XUに設置されている高分解能非弾性X線散乱分光器で測定し、70万気圧、2,800Kまでの圧力温度条件で縦波速度を決定しました。その結果、炭素は液体鉄の縦波速度を加速させることが明らかになりました。

この測定の結果を実際の地震波測定による液体外核の縦波速度と比べたところ、4wt%の炭素を含む液体鉄炭素合金は、液体外核よりも速いことが分かりました(図2)。液体外核の縦波速度を説明できる炭素量を計算したところ、最大でも1.2wt%であることが明らかになりました。この結果は、マントル中の炭素同位体(陽子数は同じで中性子数が異なる炭素原子)の比率や地球形成時に起こった金属核とケイ酸塩マントル間での化学分別を説明するのに適当な量です。しかし、このような少量の炭素を含む液体鉄の密度は液体外核より7%ほど重いため、ケイ素や硫黄、酸素、水素などの液体鉄の密度を下げる他の軽い元素が必要であることが示唆されました。

液体鉄炭素合金の音波速度と液体外核の縦波速度の比較

図2. 液体鉄炭素合金の音波速度と液体外核の縦波速度の比較

本研究で得られた液体鉄炭素合金の音波速度(赤)を、衝撃圧縮実験から得られている液体純鉄(青)及び外核(黒)における縦波と比較した図。

今後の期待

今回用いた高圧下での液体金属合金の縦波速度測定手法により液体外核に含まれる他の成分の量比について調べることができます。今回の実験では70万気圧までの圧力に限られていますが、実際の金属核の条件である135万気圧以上、4,000K以上での液体金属の音速測定を行うことも、本実験手法に改良を加えていくことで今後可能になると考えられます。これにより、地震波観測と実際の液体外核の圧力温度条件で直接比べられるようになれば、さらに精度よく中心核の成分が決定できるようになります。金属核の成分が明らかになっていくことで、地球磁場の成因である核ダイナモのメカニズムや、地球形成初期の金属核分離時の状況も次第に明らかになっていくものと期待できます。

用語説明

[用語1] 縦波速度 : 波が物質中を伝搬する際、波の伝わる方向と平行方向に物質が振動して伝わる波を縦波、垂直方向に振動して伝わるものを横波という。地震波の場合、縦波のことをP波、横波のことをS波と呼ぶ。液体中では横波がほとんど伝搬せず、液体外核を伝搬して観測できる地震波はP波(縦波)のみである。

[用語2] 地球の液体外核 : 地球は中心に直径約7,000kmの金属でできた核を持つ。金属核の内側約2,400kmは固体であり内核と呼ばれ、その外側を厚さ約2,300kmの液体外核が囲んでいる。液体外核の主成分は鉄であるが、約10%程度の軽い元素を含んでいることが分かっている。

[用語3] 重量% : 重量パーセント濃度。溶液全体の質量に対する溶質の質量の割合。

[用語4] レーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセル装置 : ブリリアントカットされた2つの単結晶ダイヤモンドの先端を対向させて、その間に実験に用いる試料を挟んで圧力を加え、レーザー光を用いて加熱する装置。試料を高圧高温状態にして融解させることができる。

[用語5] 大型放射光施設「SPring-8」 : 兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、その運転管理は高輝度光科学研究センターが行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8GeVに由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のこと。

[用語6] 高分解能非弾性X線散乱分光器 : X線を物質に照射したとき、物質のさまざまな励起状態とエネルギーをやり取りした結果、散乱X線のエネルギーが入射X線のエネルギーから変化する現象を、非弾性X線散乱と言う。音響フォノンの励起エネルギーは、入射X線のエネルギーの100万分の1程度で、非常に高精度でエネルギーの変化を検出しなければ、物質の音響フォノンを測定できない。SPring-8には、非弾性散乱されたX線のエネルギーを非常に高分解能で検出することのできる分光器が設置されている。

[用語7] 核ダイナモ : 天体内部で導電性をもつ液体が対流することにより大きな磁場を生成し維持することをダイナモ作用と呼ぶ。地球の場合、液体金属でできた外核のダイナモ作用により地球磁場を生み出していると考えられている。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Carbon-depleted outer core revealed by sound velocity measurements of liquid iron-carbon alloy
著者 :
Yoichi Nakajima, Saori Imada, Kei Hirose, Tetsuya Komabayashi, Haruka Ozawa, Shigehiko Tateno, Satoshi Tsutsui, Yasuhiro Kuwayama, Alfred Q. R. Baron
DOI :

問い合わせ先

理化学研究所 放射光科学総合研究センター
バロン物質ダイナミクス研究室
特別研究員 中島陽一
准主任研究員 Alfred Q.R. Baron

Email : yoichi.nakajima@spring8.co.jp(中島)
Tel : 0791-58-0802(中島)

東京工業大学 地球生命研究所
所長・教授 廣瀬敬

Email : director@elsi.jp
Tel : 03-5734-3528

機関窓口

理化学研究所 広報室 報道担当

Email : ex-press@riken.jp
Tel : 048-467-9272 / Fax : 048-462-4715

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

国立科学博物館の常設展示に亀井宏行教授の業績が

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東京工業大学博物館 亀井宏行教授の研究業績が、国立科学博物館の常設展示に加わりました。

展示パネル(提供:国立科学博物館)

展示パネル(提供:国立科学博物館)

亀井教授は、「サイエンスとしての考古学」の確立を目指して研究活動を行っています。考古学というと、発掘調査をイメージする人が多いかもしれませんが、莫大な費用や労力がかかる上に、遺跡の破壊にもつながりかねません。亀井教授は発掘ではなく、地中レーダーや電気と磁気による物理探査技術によって、遺跡を探査してきました。

亀井教授の研究業績は、国立科学博物館地球館2階「科学技術で地球を探る」のなかの「地表を探る」というコーナーの一画で、実際に亀井教授が使用した「地中探査レーダ」と「ベクトルグラジオメータ」と共に紹介されています。この2台の機器は、いずれも精密な探査が行われるように、亀井教授が業者と共に開発しました。

「地中探査レーダ」は、周波数変調をかけた連続電波を使った地中レーダ(FM-CW地中レーダ)としては世界で最初に実用化されたものです。「ベクトルグラジオメータ」も地球磁場3成分の磁気傾度を測定できる世界最初の装置です。国内での遺跡探査のみならず、エジプト南部のハルガオアシスの神殿調査やイギリスでの製鉄遺跡調査に用いられました。

国立科学博物館では、パネルと機器展示、映像コーナーで、探査風景をまじえた亀井教授のインタビュー動画を見ることができます。常設展示ですので、今後約10年間は展示される見込みです。他の展示と併せて、ぜひご覧ください。

地中探査レーダ(提供:国立科学博物館)

地中探査レーダ(提供:国立科学博物館)

ベクトルグラジオメーター(提供:国立科学博物館)

ベクトルグラジオメーター(提供:国立科学博物館)

なお、本学は「国立科学博物館大学パートナーシップ」の会員ですので、本学学生は無料で観覧できます。

国立科学博物館(科博)が実施している、学生の科学リテラシー向上やサイエンスコミュニケーション能力向上を目的に大学と連携して様々な活動を展開していく事業。学生数に応じた一定の年会費を納入した大学の学生は、科博関係の施設(上野公園の科博、目黒の自然教育園、つくば市のつくば植物園)で、常設展は無料、特別展は600円引きで観覧できる。

お問い合わせ先

東京工業大学博物館
Email : centshiryou@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3340

電気抵抗の変化により触媒活性が劇的に向上―アンモニアの省エネ合成に有力な手がかり―

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要点

  • C12A7エレクトライドは電子濃度によって絶縁体から金属へと変化
  • 絶縁体から金属へ変化するとアンモニア合成の触媒機能も劇的にジャンプ
  • 高性能アンモニア合成触媒開発のための新たな道筋を提示

概要

東京工業大学応用セラミックス研究所の細野秀雄教授(元素戦略研究センターセンター長)と原亨和教授、北野政明准教授らは、常圧下で優れたアンモニア合成活性を持つ「ルテニウム担持12CaO・7Al2O3(C12A7)エレクトライド」[用語1]の電子濃度を高め、絶縁体から金属へと変化させると、反応メカニズムが劇的に変化し、従来の10倍以上の高い触媒活性が発現、また活性化エネルギー[用語2]が半分に低減することを発見した。電子濃度の異なるC12A7エレクトライド触媒を作成し、触媒特性を詳細に調べることにより実現した。

アンモニアは窒素肥料原料として膨大な量が生産されており、最近では水素エネルギーキャリアとしても期待が高まっている。穏和な条件でも作動する新触媒の開発により、アンモニア合成プロセスの省エネルギー化に向けた有力な手がかりが得られたといえる。従来、触媒活性は活性サイトという局所の性質で規定されるというのが一般的だったが、今回の結果はより広い範囲の電子状態が触媒活性をコントロールしていることを示している。半導体の電子物性の重要な現象が触媒機能と結びついたといえる。

アンモニア合成触媒はアルカリ金属化合物など様々な促進剤[用語3]が検討されてきたが、電子濃度を高めることで働く材料は見いだされていなかった。

研究成果は米国科学誌「ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティ(Journal of the American Chemical Society)」オンライン速報版に10月24日付で公開された。

研究の背景と経緯

人工的にアンモニアを合成する技術は、ハーバーとボッシュによって初めて見いだされ、この技術(ハーバー・ボッシュ法、HB法)は工業的に完成してから約100年経った現在でも、人類の生活を支えるために必要不可欠となっている。また、アンモニア分子は分解することで多量の水素発生源となり、かつ室温・10気圧で液体になることから、燃料電池などのエネルギー源である水素運搬の物質としても期待されている。

アンモニア合成を効率よく進めるために、鉄やルテニウムなどの触媒に、アルカリ金属やアルカリ土類金属の酸化物が添加されていた。しかし、これらの促進効果は不十分であり、安定な窒素分子の三重結合を効率よく切断することができず、その結果として、どの触媒を用いても窒素分子の結合を切断する過程が全体の反応の速度を遅くしていること(律速)が知られていた。

今回の研究に用いた触媒は細野教授らが2003年に開発したC12A7エレクトライドという物質の表面に、ナノサイズのルテニウムの微粒子を担持させたものであり、電子濃度によって、C12A7は絶縁体から金属へと転移することが知られていた。

研究成果

東工大の細野教授らは、電子濃度の異なるC12A7エレクトライド触媒を用いてアンモニア合成活性を詳細に調べたところ、C12A7エレクトライドが絶縁体から金属に変化する際に、触媒活性および反応メカニズムが劇的に変化する(スイッチする)ことを見いだした。

具体的には、C12A7エレクトライドの電子濃度が1.0× 1021 cm-3(立方メートル当たり)以下の場合は、触媒活性、活性化エネルギーともに既存の触媒とほぼ同じであるが、電子濃度が1.0× 1021 cm-3以上になると、触媒活性は電子濃度が低い場合よりも10倍程度高い値を示し、活性化エネルギーは約半分にまで低下することが分かった(図1)。

さまざまな電子濃度のC12A7エレクトライドにルテニウムを担持した触媒を用いたアンモニア合成反応(A:アンモニア合成速度、B:活性化エネルギー)
図1.
さまざまな電子濃度のC12A7エレクトライドにルテニウムを担持した触媒を用いたアンモニア合成反応(A:アンモニア合成速度、B:活性化エネルギー)
電子濃度が1.0× 1021 cm-3を境に、反応速度との活性化エネルギーが大きく変化することが確認できる。

またルテニウム触媒を用いたアンモニア合成では反応速度は、水素の圧力が増加するにつれて低下する(水素の反応次数[用語4]が0または負の値となる)ことがよく知られている。これはルテニウムと水素の親和性が強く、ルテニウム表面が吸着した水素で覆われることにより、窒素の吸着が阻害される(水素被毒される)ためである。

C12A7エレクトライド触媒では、電子濃度が低い場合は、水素被毒されるが、電子濃度が1.0× 1021 cm-3以上になると、水素被毒されない(水素の反応次数が正の値となる)ことが分かった(図2)。つまり、水素圧力の増加に伴い、触媒活性が向上した。

さまざまな電子濃度のC12A7エレクトライドにルテニウムを担持した触媒の水素の反応次数
図2.
さまざまな電子濃度のC12A7エレクトライドにルテニウムを担持した触媒の水素の反応次数
電子濃度が1.0× 1021 cm-3を境に、水素に対する反応次数が0から正の値へ変化することを確認できる。つまり電子濃度が高くなると水素被毒を受けなくなることが分かる。

以上の結果から電子濃度による反応メカニズムの違いをまとめると(図3)、電子濃度が1.0× 1021 cm-3以下の場合は、電気伝導性が悪く窒素分子の解離が効率よく起こらないため、既存の触媒と同様に、窒素分子の切断が律速段階[用語5]となる。さらに水素原子が触媒表面を覆う水素被毒の現象が起こる。

電子濃度の異なるC12A7エレクトライド上でのアンモニア合成のメカニズム
図3.
電子濃度の異なるC12A7エレクトライド上でのアンモニア合成のメカニズム
電子濃度が低いC12A7エレクトライド触媒では、電気伝導性が悪く、窒素の解離が効率よく起こらず、ルテニウム表面が水素で覆われる水素被毒が起こる。一方、電子濃度が高いC12A7エレクトライド触媒では、金属的電気伝導性を示し、窒素三重結合(N≡N)の切断が容易となり、ルテニウム上で切断された水素はケージ内にH-イオンとして取り込まれ、原子状水素として放出され窒素原子と反応しアンモニアが生じる。

一方、電子濃度が1.0× 1021 cm-3以上になると、金属的な電気伝導性を示すため、窒素分子の解離が効率よく起こり、窒素分子の切断が律速段階ではなくなる。また、ルテニウム上で切断された水素がC12A7エレクトライドのカゴの中にH-イオンとして収納されることで、ルテニウム上での水素被毒を防ぎ、このH-イオンが原子状水素として放出され、窒素原子と反応することでアンモニアが生成されると考えられる。このように電子濃度の違いにより反応メカニズムが大きく変化することを明らかにした。

今後の展開

今回の成果により、穏和な条件下で作動するアンモニア合成触媒では、電子注入効果と水素吸蔵効果が重要な役割を果たしていることが明確になった。従って、アンモニア合成プロセスの省エネルギー化に向けた触媒開発の有力な手がかりが得られたことになる。

研究の枠組み

本成果は、以下の事業・研究課題によって得られた。

戦略的創造研究推進事業 ACCEL

研究課題名 :
「エレクトライドの物質科学と応用展開」
代表研究者 :
東京工業大学 元素戦略研究センター長 細野秀雄
PM :
科学技術振興機構 横山壽治
研究実施場所 :
東京工業大学
研究開発期間 :
平成25年10月~平成30年3月

用語説明

[用語1] C12A7エレクトライド : C12A7は12CaO・7Al2O3(酸化カルシウムと酸化アルミニウム化合物)でセメントの材料。
エレクトライドは電子がアニオンとして働く化合物の総称。通常の物質とは異なるユニークな性質を持つのではと関心を集めていたが、あまりに不安定なため、物性がほとんど不明のままだった。細野グループは、2003年に直径0.5ナノメートル程度のカゴ状の骨格が立体的につながった結晶構造をしているアルミナセメントに構成成分の1つC12A7を使って、安定なエレクトライドを初めて実現した。
このエレクトライドは金属のようによく電気を通し、低温では超伝導を示す。またアルカリ金属と同じくらい電子を他に与える能力を持つにもかかわらず、化学的にも熱的にも安定というユニークな物性を持っている。

[用語2] 活性化エネルギー : 反応の出発物質の基底状態から遷移状態に励起するのに必要なエネルギーのことであり、このエネルギーが小さいほど、その反応は容易になる。反応中に触媒が存在することで、活性化エネルギーを下げることが可能となる。

[用語3] 促進剤 : アンモニア合成において、活性な金属種であるルテニウムや鉄の近くに固定化され、それらの金属種に電子を与えることで、触媒表面上での窒素の解離反応を促進する物質。

[用語4] 反応次数 : アンモニア合成の反応速度(r)は、r = k(PN2)α(PH2)β(PNH3)γで表され、それぞれの反応ガス(N2,H2,NH3)の分圧に比例する。この式の指数部分(α,β,γ)が反応次数である。

[用語5] 律速段階 : 化学反応において最も遅い反応段階であり、この反応速度が全体の化学反応の速度を支配している。

論文情報

掲載誌 :
Journal of the American Chemical Society
論文タイトル :
"Mechanism Switching of Ammonia Synthesis Over Ru-Loaded Electride Catalyst at Metal–Insulator Transition"
(金属-絶縁体転移点におけるRu担持エレクトライド触媒上でのアンモニア合成メカニズムの変化)
著者 :
Shinji Kanbara,Masaaki Kitano,Yasunori Inoue, Toshiharu Yokoyam, Michikazu Hara, Hideo Hosono
DOI :

問い合わせ先

(C12A7エレクトライドについて)
元素戦略センター センター長/応用セラミックス研究所
教授 細野秀雄

Email : hosono@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5009 / Fax : 045-924-5196

(触媒反応について)
応用セラミックス研究所
教授 原亨和

Email : mhara@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5311 / Fax:045-924-5381

(取材申し込み先)
東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

小寺正明講師が2015年度Oxford Journals-JSBi Prize受賞

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大学院生命理工学研究科の小寺正明講師が、2015年度Oxford Journals-JSBi Prizeを受賞しました。日本バイオインフォマティクス学会が主催するこの賞は、日本の生命情報学(バイオインフォマティクス)領域のさらなる発展への貢献が期待される功績顕著な若手研究者に授与されるものです。

生命医薬情報連合大会2015年大会における授賞式の様子
生命医薬情報連合大会2015年大会における授賞式の様子

受賞テーマ

生命情報と化学情報との融合解析による生体分子間相互作用と代謝経路予測の研究

受賞理由

小寺講師は、生命情報学分野に低分子化合物の化学構造計算を導入し、ゲノム情報とメタボローム情報を結びつけるという、生命情報学分野の最重要課題のひとつに積極的に取り組み、数々の論文発表や国際学会発表を行なってきました。特に、顕著な功績として、2009年、2013年、2014年、2015年の4回にわたって、生命情報学分野で最も権威のある国際学会ISMBにて、筆頭または責任著者として論文発表と口頭発表を行なっており、国際コミュニティで存在感を示しています。

また生命情報学分野において、データの標準化と統合化、および国際的な合意の形成は極めて重要な課題とされており、文部科学省「統合データベースプロジェクト」においても遺伝子や化合物等、様々なデータの統合化・標準化が進められています。小寺講師は、遺伝子機能情報としてよく使われる酵素番号(EC番号)や糖鎖の命名法などを含む、酵素反応に関するデータ標準化と分類作業効率化を長年研究しており、酵素および酵素反応の標準的命名法を定める国際組織NC-IUBMBの準委員も務める等、この方面でも活躍しています。加えて、当分野で重要な位置を占める「BioHackathon」等の国際会議に積極的に参加し、酵素反応や化合物、糖鎖などの情報の標準化に尽力しており、その功績と活動が総合的に評価されての受賞となりました。

受賞者のコメント

この度は、このような賞をいただき大変嬉しく思います。学会発表はだいぶ慣れてきたつもりでしたが、受賞講演のときはこれまでになく緊張してしまいました。バイオインフォマティクスと聞いて皆様が想像されるものとは多少異なる研究を続けておりましたので、高く評価していただいて大変光栄です。今後も研鑽に励んで行きますので皆様よろしくお願いいたします。

MEMS構造をCMOS-LSIと一体化した加速度センサー開発―超小型で1G以下の高分解能検知を実現―

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要点

  • 高分解能MEMS加速度センサーをCMOS-LSI直上に1チップ集積
  • 高分解能加速度センサーの小型化・汎用化を実現

概要

東京工業大学異種機能集積研究センターの益一哉センター長(教授)と山根大輔助教、町田克之連携教授は東京大学先端科学技術研究センターの年吉洋教授、NTTアドバンステクノロジ(NTT-AT、木村丈治社長)と共同で、超低雑音特性を有するMEMS[用語1]加速度センサーをセンサー回路からなるCMOS-LSI[用語2]の直上に集積化することに成功した。これにより、従来のMEMS技術では困難だった1G(重力加速度)以下の高分解能検知をワンチップのMEMSセンサーで実現した。

同研究グループはこれまでに金を材料としてMEMS加速度センサーの錘(おもり)を10分の1以下に小型化、さらにMEMS構造をLSI上に集積する作製法を開発し、センサーの小型化と寄生容量低減による高性能化を提案した。こうした実績をもとに今回はMEMS構造をCMOS-LSI上に初めてワンチップ集積化し、その基本性能を実証した。

高分解能加速度センサーの小型化・汎用化における革新的な技術であり、医療・ヘルスケア、インフラ診断、移動体制御、ロボット応用など様々な動き検知用途において新しいデバイス・システム開発につながると期待できる。

研究成果は11月上旬に韓国の釜山で開催された国際会議「IEEE SENSORS 2015」で発表した。この研究は科学技術振興機構(JST)CRESTの支援を受けた。

研究成果

東工大の益教授らの研究グループは、高密度材料MEMS技術によるMEMSセンサーの高性能化技術、および多種多様なMEMSセンサーを集積回路上に作製する独自技術をこれまでに開発している。今回はこれらの技術を発展させ、CMOS-LSI直上に超小型・超高分解能MEMS加速度検出デバイスをワンチップ集積化することで、MEMS加速度センサーの小型化と分解能向上の両立に成功した。

具体的には、静電容量型MEMS加速度センサーの小型化と高分解能を両立するため、高密度の金を錘に用いた小型・高分解能のMEMSデバイスをCMOS-LSI上にワンチップ集積化した。これにより、従来のMEMS加速度センサーと同等のサイズで1G以下の高分解能検知を実現可能とした。今回の研究ではMEMSとCMOS-LSIの集積化に半導体微細加工技術と電解金めっきを用いており、超小型・超高分解能加速度センサーの汎用化技術として期待できる。

チップ写真

図1. チップ写真

デバイス断面図

図2. デバイス断面図

研究の背景

加速度センサーの検出性能は錘の質量に比例するため、錘サイズ小型化と検出分解能向上にトレードオフが生じる。従来のシリコンMEMS加速度センサーは、高い検出分解能を得るために錘サイズが増大し、小型化が困難だった。また、汎用的な静電容量型加速度センサーを用いて微小加速度を検出する場合、寄生容量を大幅に低減する必要がある。しかし、シリコンMEMS技術では錘サイズが大きく、センサー回路からなるLSIと集積する際に寄生容量が増大する課題があった。

今後の展開

超小型・超高分解能の小型加速度センサーの実現は、様々な動き検知用途においてブレイクスルーとなる。特に医療・ヘルスケア、インフラ診断、移動体制御、ロボット応用などにおいて新しいデバイス・システム開発につながると期待できる。さらに近年、多種多量のセンサーをヒトやモノのあらゆる情報取得に適用する技術開発が世界的に盛んであることから、動き検知に必要不可欠な加速度センサーの小型・高性能化を可能にする今回の研究成果は非常に有用であるといえる。

用語説明

[用語1] MEMS(Microelectromechanical Systems、微小電気機械素子) : 半導体微細加工技術を利用して製造したマイクロメートル寸法の三次元電子・機械デバイスの総称。現在、民生用加速度センサーの大半はシリコンを材料としたMEMS素子で作製されている。

[用語2] CMOS(Complementary Metal-oxide Semiconductor、相補型金属酸化膜半導体)LSI(Large-Scale Integration:大規模集積回路) : 金属酸化膜半導体電界効果トランジスタを相補形に配置したゲート構造。現在の微細集積回路で最も基本的な能動素子。LSIは半導体集積回路のうち、素子の集積度が1000個~10万個程度のもの。半導体集積回路一般を指す場合にも用いられる。

問い合わせ先

精密工学研究所 極微デバイス部門
助教 山根大輔

Email : yamane.d.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5031 (携帯)080-2066-3495

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

TBSテレビ「未来の起源」に塚越研究室の前角貴士大学院生が出演

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本学、大学院理工学研究科 機械制御システム専攻 塚越研究室の修士1年・前角貴士さんが、TBS「未来の起源」に出演します。「ヤマビルを参考にした柔軟吸盤により、多様な壁面に吸着可能なロボットの開発」について紹介されます。

前角貴士さん

前角貴士さん

塚越秀行准教授

塚越秀行准教授

  • 番組名
    「未来の起源」
  • タイトル
    ヒルから学ぶ吸着力
  • 放送日
    TBS: 12月13日(日) 22:54~23:00
    (再放送)BS-TBS: 12月20日(日) 20:54~21:00

問い合わせ先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975


地震・津波観測監視システム「DONET」で海底における長周期地震動を観測

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地震・津波観測監視システム「DONET」で海底における長周期地震動を観測
―海溝型大地震の震源域に広がる海洋堆積層が長周期地震動の発達に影響することを実証―

概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という)地震津波海域観測研究開発センターの中村武史技術研究員らは、岡山大学、東京工業大学、福井大学と共同で、2013年4月淡路島での中規模地震(M 5.8)の発生時における、地震・津波観測監視システム「DONET」[用語1](図1)の海底強震計データの解析を行いました。その結果、長くゆっくりとした大きな揺れ「長周期地震動」[用語2]が深海底の広い領域で発生していることを明らかにしました。

大規模地震発生時、高層ビルなどでは、長い周期の揺れ(長周期地震動)と建物固有の揺れの周期が共振して、大きく揺れることがあります。この長周期地震動は、陸域の盆地や平野部において観測事例が多く報告されている一方、海底においては、陸上地震計のデータに対するシミュレーション結果から長周期地震動の発生が間接的に示唆されているのみでした。本成果は、「DONET」の海底強震計データを用いて海底の長周期地震動を直接観測・解析した初めての成果です。さらに、スーパーコンピュータ「京」[用語3]を使った大規模シミュレーションで海底における長周期地震動の特徴を再現した結果、南海トラフ周辺に広範囲にわたって広がっている軟らかい海洋堆積層の存在が長周期地震動の発達に本質的な影響を与えていることが分かりました。

海底において発達した地震波の長周期成分は、我々が住む陸域にも伝播する可能性があります。また、震源要素を解析する時に、解析結果に影響を与える可能性があります。したがって、海底における長周期地震動の特徴を把握し、発達過程を解明することは、陸域における地震動予測の高精度化や地震の規模・メカニズム解析手法の高度化につながり、地震防災・減災のための基礎的な知見となると考えられます。

本成果は、英科学誌「Scientific Reports」に11月30日付け(日本時間)で掲載される予定です。

なお、本研究のデータ解析では、国立研究開発法人防災科学技術研究所によるK-NET・KiK-netデータを使用させていただきました。シミュレーション結果は、国立研究開発法人理化学研究所のスーパーコンピュータ「京」を利用して得られたものです(課題番号hp130013)。

背景

2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震では、都心部の高層ビルで、大きくゆっくりと数分以上の揺れが感じられました。これは、地震波の長周期成分による地震動(長周期地震動)と高層ビルなどの建物固有の揺れやすさとが共振して発生した現象で、関東平野や大阪平野、濃尾平野などの陸域平野部において観測事例がこれまで数多く報告されています。長周期地震動は、高層ビルをはじめとする近代の大規模構造物に被害を与えることがあり、構造物の設計にも関わることから注目されています。

近年、日本全国に展開された陸上地震観測点の充実により、陸域の長周期地震動に関する観測データの蓄積やシミュレーション研究が飛躍的に進展しました。ところが、海底においては、無人で大規模構造物が存在しないため、長周期地震動観測の必要性が議論されることはほとんどありませんでした。一方、先行研究では、陸上地震計のデータに対するシミュレーション結果から、海底で発達した長周期成分が我々の住む陸域にまで伝播する可能性が示唆されていましたが、こうした地震動を捉えられるほどの地震計を稠密・多点に備えた海底観測網がなかったことから、海底で長周期地震動そのものを観測・解析し、シミュレーションで実証した研究はこれまでありませんでした。

JAMSTECでは海溝型大地震を含む海域で発生する地震に対し、海底で地震波を即時にかつ震源近傍で面的に捉えるため、南海トラフ周辺の海底において、地震・津波観測監視システム「DONET」を整備、2010年より稼働開始しています。紀伊半島沖熊野灘に設置されたDONET1は、海溝型大地震の震源域直上の海底において、微小地震の発生による短周期の地震波から津波発生に関わる長周期の地殻変動まで、物理的現象の発生に伴う信号を広帯域にわたってリアルタイムに捉えることができます。これまで十分な観測データがなかった海底での長周期地震動について、DONET1による直接的な観測や解析が期待されていました。

成果

そこで、研究グループでは、南海トラフ周辺の海底における長周期地震動を明らかにするため、2013年4月に淡路島を震源とする中規模地震(M 5.8、図1星印)発生時における、DONET1(図1ダイヤモンド印)の海底強震計データの解析を実施しました。データを詳しく解析したところ、周期10-20秒において、顕著な長周期地震動が海底で発生していることを見つけました。一般的には地震波の振幅は震源からの距離が遠ざかるほど減衰しますが、解析結果では、震源に近い陸上観測点より遠いDONET1の観測点の振幅が増幅するという特異な傾向を示していることが分かりました(図2)。陸上観測点(三重県紀宝町)と海底観測点(DONET1)との地震波形やスペクトルを比較すると、海底観測点では震動継続時間が非常に長く、波形形状そのものが複雑となっています(図3)。継続時間の長大化や波形形状の複雑性は、地震波が海域に入射した後、顕著となる傾向を示しています(図4)。

解析した地震と観測点の位置。黄色星印は、2013年4月に淡路島で発生した中規模地震の位置を示す。黄色ダイヤモンド印及び茶色丸印は、海底観測点(DONET1)と陸上観測点(K-NET, KiK-net)の位置をそれぞれ示す。
図1.
解析した地震と観測点の位置。黄色星印は、2013年4月に淡路島で発生した中規模地震の位置を示す。黄色ダイヤモンド印及び茶色丸印は、海底観測点(DONET1)と陸上観測点(K-NET, KiK-net)の位置をそれぞれ示す。
震源からの距離(横軸)に対する各観測点における地震波の最大振幅値の分布。黄色ダイヤモンド印及び茶色丸印は、海底観測点(DONET1)と陸上観測点(K-NET, KiK-net)の最大振幅値をそれぞれ示す。短周期成分では、陸上観測点と海底観測点の分布にはっきりとした違いが見られない(図2a)。しかし、長周期成分では、海底観測点の振幅が大きくなり、陸上観測点の振幅分布から逸脱している(図2b)。これは、震源からの距離が等しい場合であっても、陸上より海底の方が地震動が大きいことを意味する。シミュレーションでも、この特徴を再現している(図2c)。
図2.
震源からの距離(横軸)に対する各観測点における地震波の最大振幅値の分布。黄色ダイヤモンド印及び茶色丸印は、海底観測点(DONET1)と陸上観測点(K-NET, KiK-net)の最大振幅値をそれぞれ示す。短周期成分では、陸上観測点と海底観測点の分布にはっきりとした違いが見られない(図2a)。しかし、長周期成分では、海底観測点の振幅が大きくなり、陸上観測点の振幅分布から逸脱している(図2b)。これは、震源からの距離が等しい場合であっても、陸上より海底の方が地震動が大きいことを意味する。シミュレーションでも、この特徴を再現している(図2c)。
陸上観測点(図3a)と海底観測点(図3b)での地震波形とスペクトルの比較。陸上観測点と比べ海底観測点は、震源から離れているにも関わらず、両者の振幅はほとんど変わらない。また、震動が長時間続いている特徴を確認することができる。
図3.
陸上観測点(図3a)と海底観測点(図3b)での地震波形とスペクトルの比較。陸上観測点と比べ海底観測点は、震源から離れているにも関わらず、両者の振幅はほとんど変わらない。また、震動が長時間続いている特徴を確認することができる。
震源からの距離(縦軸)順に並べた、陸上観測点と海底観測点での長周期成分の地震波形。陸上観測点では波形が非常にシンプルで、最大振幅後、時間の経過とともに波形の振幅がすぐに減衰している。一方、海底観測点では、地震波の伝播速度が低下し、震動が長時間続いていることが分かる。
図4
震源からの距離(縦軸)順に並べた、陸上観測点と海底観測点での長周期成分の地震波形。陸上観測点では波形が非常にシンプルで、最大振幅後、時間の経過とともに波形の振幅がすぐに減衰している。一方、海底観測点では、地震波の伝播速度が低下し、震動が長時間続いていることが分かる。

この地震動について、国立研究開発法人理化学研究所によるスーパーコンピュータ「京」[用語3]を使って再現し、詳しく解析した結果、南海トラフ周辺に広がる海洋堆積層が海底の長周期地震動の成因であることが分かりました(図5)。シミュレーション結果をスナップショットで見てみると、大阪平野や濃尾平野の他に、南海トラフ周辺で強い振幅を持つ地震動が長時間続いていることが分かります(図5a赤色)。この長時間の地震動は、観測データが示していたように(図4)、海域に広がる海洋堆積層への地震波の入射に伴って見られます。また、地震動が長時間続く陸海域は、堆積層の分布(図5b)と良く対応しています。

シミュレーションによる地震波長周期成分の伝播の様子(図5a)。大阪平野や濃尾平野だけでなく、海域においても大きな振幅(赤色)で地震波が伝わり、地震動が長時間継続している様子が分かる。陸海域におけるこのような特徴的な波動場(長周期地震動)が見られる場所は、地震波伝播速度が遅い層が分厚く広がる堆積層の分布と良く対応している(図5b)。
図5.
シミュレーションによる地震波長周期成分の伝播の様子(図5a)。大阪平野や濃尾平野だけでなく、海域においても大きな振幅(赤色)で地震波が伝わり、地震動が長時間継続している様子が分かる。陸海域におけるこのような特徴的な波動場(長周期地震動)が見られる場所は、地震波伝播速度が遅い層が分厚く広がる堆積層の分布と良く対応している(図5b)。

海洋堆積層が海底での長周期地震動の原因となっている可能性については、これまでにも陸上地震計データに対するシミュレーション結果から間接的に示唆されていましたが、本研究は海底強震計で長周期地震動を直接観測し、さらに観測データを用いたシミュレーションにより海洋堆積層が長周期地震動の成因となっていることを直接実証した初めての成果です。

今後の展望

本成果では、「DONET」による緻密な観測と「京」による高解像度シミュレーションにより、海底での長周期地震動の特徴とその成因を具体的に明らかにしました。この地震動は、地震の規模やメカニズムなどの震源要素を解析する際に大きな解析誤差をもたらす可能性が指摘されています。迅速な地震情報を必要とする研究業務や災害現場に混乱をもたらす危険性があることから、本成果による知見を踏まえて、長周期成分を含む海底における地震波動場の特徴を正しく理解し、解析手法の改善や高度化につなげていく必要があります。

研究グループでは今後、長周期地震動の発達過程やその原因となる海洋堆積層の構造についてより詳細な解析を行うとともに、海域で発生する地震に対する防災・減災に向けて、長周期成分の陸域への影響評価や海底観測網データを使った震源要素解析の高度化を進めていきたいと考えています。

用語説明

[用語1] DONET : 海域で発生する地震・津波を常時観測監視するため、JAMSTECが南海トラフ周辺の深海底に設置している地震・津波観測監視システム。紀伊半島沖熊野灘の水深1,900~4,400 mの海底に設置した「DONET1」は、2011年に本格運用を開始し、20点の観測点から成る。各観測点には強震計、広帯域地震計、水晶水圧計、微差圧計、ハイドロフォン、精密温度計が設置され、地殻変動のようなゆっくりした動きから大きな地震動まであらゆるタイプの海底の動きを観測することができる。なお現在、四国沖室戸海盆の水深1,100~4,400 mの海底に「DONET2」を構築中。約30点の観測点から成り、2015年度末の整備完了・運用開始に向け、観測点の設置作業を進めている。

[用語2] 長周期地震動 : 地震波の伝播に伴う周期2秒程度以上の地震動(地面の揺れ)。震源が浅い場合、地球表層を伝わる表面波が観測されやすい周期帯域である。また、ビルや橋などの構造物の固有周期の帯域でもあり、地震波と共振して、構造物で大きな揺れが観測されることがある。なお、周期2-20秒の帯域の地震動を「やや長周期地震動」と呼ぶことがある。

[用語3] スーパーコンピュータ「京」 : 文部科学省が推進する「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築」プログラムの中核システムとして、理化学研究所と富士通が共同で開発した、計算速度10ペタフロップス級のスーパーコンピュータ。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Long-period ocean-bottom motions in the source areas of large subduction earthquakes
著者 :
中村武史1、竹中博士2、岡元太郎3、大堀道広4、坪井誠司1
1海洋研究開発機構、2岡山大学、3東京工業大学、4福井大学
DOI :

問い合わせ先

(本研究について)
国立研究開発法人海洋研究開発機構
地震津波海域観測研究開発センター
技術研究員 中村武史

Email : t_nakamura@jamstec.go.jp
Tel : 045-778-5416

(報道担当)
国立研究開発法人海洋研究開発機構
広報部 報道課長 松井宏泰

Tel : 046-867-9198

国立大学法人岡山大学 広報・情報戦略室

Email : www-adm@adm.okayama-u.ac.jp
Tel : 086-251-7292

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

国立大学法人福井大学 広報室 室長 本多宏

Email : sskoho-k@u-fukui.ac.jp
Tel : 0776-27-9850

東京工業大学と三井住友銀行の産学連携の取り組みについて

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国立大学法人東京工業大学(学長:三島良直、以下「東京工業大学」)と株式会社三井住友銀行(頭取:國部 毅、以下「三井住友銀行」)は、デザイン思考を活用した、サービス向上、及び同手法を活用した金融教育を推進する目的で、産学連携での取組を開始いたします。

梅室博行教授

梅室博行教授

IT・ネット社会の進展は、技術的な革新のみならず、価値観やライフスタイルの多様化をもたらしております。このような現代では、従来にも増して潜在的なニーズを見付け出し、新たなユーザー体験を生み出すことが重要となっています。

そうした中、近年、デザイン思考は、観察を通じて得られる人々の行動や思考に関する洞察を元に潜在ニーズを掘り起こし、仮説を立案、検証し、改善を重ねながらモノやサービスを創り出す創造的なアプローチとして、製造業のみならずサービス業においても注目を集めています。

東京工業大学と三井住友銀行は、平成16年に「産学連携協力に関する協定書」を締結しております。今般、本学の大学院社会理工学研究科経営工学専攻梅室博行教授(サービスデザインの中心でもある「ヒト」を核とした各種研究を専門)は、三井住友銀行と協働し、デザイン思考を活用した新たなサービスの創出に取り組んでいきます。

問い合わせ先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

平成27年度「東工大挑戦的研究賞」授賞式を実施―独創性豊かな若手研究者に―

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平成27年度「東工大挑戦的研究賞」授賞式が11月30日に行われました。

受賞者との記念撮影
受賞者との記念撮影

相川准教授によるプレゼンテーション

相川准教授によるプレゼンテーション

授賞式では、三島学長から受賞者に賞状の授与及び今後さらなる活躍を期待する旨の激励の言葉があり、ついで受賞者代表3名から、採択された研究課題についてのプレゼンテーションが行われました。

この賞は、本学の若手教員の挑戦的研究の奨励を目的として、世界最先端の研究推進、未踏分野の開拓、萌芽的研究の革新的展開又は解決が困難とされている重要課題の追求等に果敢に挑戦している、独創性豊かな新進気鋭の研究者を表彰するものです。第14回目の今回は10名が選考されました。なお、受賞者には支援研究費が贈呈されます。

平成27年度「東工大挑戦的研究賞」受賞者一覧

氏名
所属
職名
研究課題名( * は学長特別賞)
大学院理工学研究科(理学系)
物性物理学専攻
准教授
* 新奇物性開拓に向けた真空中の超低温ナノ粒子系の実現
大学院理工学研究科(理学系)
化学専攻
准教授
* 有機高分子半導体と金属錯体を融合したCO2還元光触媒の創出
大学院総合理工学研究科
物質電子化学専攻
助教
* 革新的ナノ分光計測法の開拓
大学院理工学研究科(理学系)
数学専攻
准教授
測度距離空間上の確率解析と最適輸送理論
大学院生命理工学研究科
生体システム専攻
准教授
生物の多様性を生み出す分子基盤の解明
大学院生命理工学研究科
生命情報専攻
講師
ヒト腸内環境マルチオミクスデータを用いた超早期大腸がんマーカーの発見
資源化学研究所
無機機能化学部門
准教授
金属ナノ粒子の原子数と形を同時に制御する超微細精密合成法の開発
資源化学研究所
スマート物質化学部門
助教
フォトレドックス触媒が拓くラジカル反応を基盤とした新合成戦略
精密工学研究所
共通部門基盤研究分野
准教授
人工心臓装着患者のクオリティ・オブ・ライフの向上
応用セラミックス研究所
材料融合システム部門
助教
木質高層建築を実現・普及させる効率的な制振設計法の開発

(所属順・敬称略)

東工大スパコンTSUBAME-KFC/DLがスパコンの省エネ性能ランキングで世界2位を獲得

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次世代TSUBAME3.0に向けたプロトタイプシステム、オイルによる冷却システムを備えた「TSUBAME-KFC/DL」[用語1]がスパコンの省エネランキングGreen500 Listの2015年11月版において世界2位を獲得しました。

東京工業大学学術国際情報センター(GSIC)が、日本電気株式会社(NEC)、米国NVIDIA社など内外各社の協力で開発したスーパーコンピュータ「TSUBAME-KFC/DL」がスパコンの省エネランキングであるThe Green 500 Listouter[用語2]の2015年11月版において1ワットあたり5,331.79メガフロップス[用語3]という値を記録し、世界2位になったことが11月18日に発表されました。低炭素社会の実現に向けた日米合同の技術リーダーシップを示したといえます。

液浸冷却を使用するTSUBAME-KFC/DLの計算ノード群
液浸冷却を使用するTSUBAME-KFC/DLの計算ノード群

近年重要性が増している深層学習(Deep Learning)などを加速させるために2015年10月にTSUBAME-KFCに搭載されるGPU[用語4]をTesla K20XからK80へアップグレードし大幅な処理速度向上を実現しています。このDeep Learningという言葉を加え、システム名をTSUBAME-KFC/DLと変更しています。主目的ではありませんが、新システムでGreen 500 Listの指標で再計測を行った結果、1ワットあたりの性能が約1000メガフロップスも向上していることが確認されました。TSUBAME-KFCは今回を含めて5期連続でGreen 500 Listの上位5位以内にランクされています(1位、1位、3位、5位、2位)。

TSUBAME-KFCはTSUBAME2.0の後継となるTSUBAME3.0及びそれ以降のためのテストベッドシステムとして、同センターが推進する文部科学省概算要求「スパコン・クラウド情報基盤におけるウルトラグリーン化技術」プロジェクトによって設計・開発されたものです。同プロジェクトではスーパーコンピュータの消費電力とそれに係る冷却電力の双方の削減を目標としており、TSUBAME-KFCでは計算ノードを循環する油性冷却溶媒液の中に計算機システムを浸して冷却する油浸冷却技術及び冷却塔による大気冷却の組み合わせによって非常に少ない消費電力で冷却できるように設計しています。

TSUBAME-KFC/DLシステムは42台の計算ノードとそれらを接続するFDR InfiniBandネットワークで構成されています。各計算ノードは1UサイズのサーバにIntel Xeon E5-2620 v2プロセッサ(Ivy Bridge EP)を2基、GPUとしてNVIDIA Tesla K80 ボード(1ボードあたり2GPUを搭載)を4ボード搭載しており非常に高密度になっています。また、42ノードを1つの油浸ラックに収容するコンパクトな設計になっています。システム全体の理論ピーク演算性能は倍精度で318テラフロップス、auto-boost機能を加味すると493テラフロップスになります。さらに単精度では951テラフロップス、auto-boost機能を加味すると1476テラフロップスと、1ラックあたりの性能が1ペタフロップスを超えています。

今回の結果は、東工大学術国際情報センターにおいて省電力化を目指して行われてきた種々の研究成果が結実したものと言えます。ウルトラグリーン化プロジェクトだけでなく、同センターにおける科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業(JST-CREST)における「ULPHPC(超低消費電力高性能計算)」「EBD:次世代の年ヨッタバイト処理に向けたエクストリームビッグデータの基盤技術」などの基礎研究プロジェクト、また米国NVIDIA社との数年来の共同研究プロジェクトにおいて、最新技術であるGPUのスパコンにおける大幅活用やHPCシステムの省電力化の研究などが続けられてきました。それらの成果をもとに、NECと米国NVIDIA社を中心に、米国Green Revolution Cooling社、米国Super Micro Computer社、米国インテル社、Mellanox社などが加わった企業と共同開発が行なわれました。

用語説明

[用語1] TSUBAME-KFC/DL : TSUBAME Kepler Fluid Cooling/Deep Learningが語源。TSUBAME2.5と同様にNVIDIA社のKepler世代GPUを搭載していますが、TSUBAME-KFCでは計算ノードを液体に浸けて冷却している特長から名づけられています。

[用語2] The Green 500 List : スパコンのベンチマーク速度性能を半年ごとに世界1位から500位までランキングするThe TOP 500 Listに対して、近年のグリーン化の潮流を受けTOP500のスパコンの電力性能(速度性能値 / 消費電力)を半年ごとにランキングしているリスト。

[用語3] ペタフロップス(Peta flops)、テラフロップス(Tera flops) : フロップスは1秒間で何回浮動小数点の演算ができるかという性能指標。ギガ(10の9乗)、テラ(10の12乗)、ペタ(10の15乗)など。

[用語4] GPU(Graphics Processing Unit) : 本来はコンピュータグラフィックス専門のプロセッサだったが、グラフィックス処理が複雑化するにつれ性能および汎用性を増し、現在では実質的にはHPC用の汎用ベクトル演算プロセッサに進化している。

問い合わせ先

東京工業大学 広報センター プレス担当

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東工大が平成27年度地球温暖化防止活動環境大臣表彰を受彰

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東京工業大学は平成27年度地球温暖化防止活動環境大臣表彰 技術開発・製品化部門を7者と共同受彰しました。

表彰式にて共同受彰者集合写真(坂井教授は右から4人目)
表彰式にて共同受彰者集合写真(坂井教授は右から4人目)

地球温暖化防止活動環境大臣表彰は、環境省が地球温暖化対策を推進するための一環として、毎年、地球温暖化防止月間である12月に行っているものです。地球温暖化防止に顕著な功績のあった個人又は団体が受彰対象です。技術開発・製品化部門では、温室効果ガスの排出を低減する優れた技術の開発によりその製品化を進めたことに関する功績が表彰されます。

12月2日に飯野ビルディング イイノホール&カンファレンスセンターにおいて、表彰式と受彰者フォーラムが開催され、受彰者が活動・概要の発表を行いました。

受彰者

株式会社竹中工務店、鹿島建設株式会社、国立大学法人東京工業大学、日鉄住金高炉セメント株式会社、株式会社デイ・シイ、太平洋セメント株式会社、日鉄住金セメント株式会社、竹本油脂株式会社(8者共同)

受彰理由

エネルギー・CO2ミニマム(ECM)セメント・コンクリートシステムによる建設構造物の省CO2の実現

副賞の盾

副賞の盾

CO2発生量を従来のセメントより6割以上削減できる製鉄所の廃棄物である高炉スラグを多量に使用したECMセメントを開発。従来困難だったCO2発生抑制と施工性・強度発 現性・耐久性等の基本性能の両立を果たしたECMコンクリート・地盤改良技術を確立し、適用の仕組みを整備しました。建設時の省CO2とコンクリート構造物の品質を両立しています。コンクリート構造体と地盤改良体の合計7件に適用し、従来より、エネルギー・CO2原単位を30~60%削減、計1300t以上のCO2を削減しました。持続可能な発展を志向する、サステナブル社会の実現への貢献が評価されました。

今回の受彰を受けて、研究開発に関わった本学大学院理工学研究科材料工学専攻 坂井悦郎教授は以下のようにコメントしています。

NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)から補助を受け、2008年から2010年度の先導研究、2011年度から2013年度の実用化研究を行った成果です。材料開発から実用まで7社1大学で一貫した体制で開発した珍しい研究開発例ではないでしょうか。詳しい内容は、東京工業大学生活協同組合が発行する、研究室紹介を目的としたフリーペーパー LANDFALLouterに特集されています。

表彰状授与
表彰状授与

三次元積層メモリーの厚さを1/10に極薄化する技術にめど

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三次元積層メモリーの厚さを1/10に極薄化する技術にめど
―300mmウエハーの厚さ2μm領域でDRAM特性を確認―

要点

  • シリコンの厚さを2μm台にするとDRAMの電気特性が劣化
  • バンプとTSVを組み合わせた垂直配線に比べ、配線長を1/10に短縮
  • テラバイトの高帯域を実現することが可能に

概要

東京工業大学異種機能集積研究センターの大場隆之教授はWOWアライアンス[用語1]と共同で、直径300mmのシリコンウエハーをデバイス層の半分にも満たない2マイクロメートル(μm)級に超薄化することに成功し、この厚さでは半導体メモリー(DRAM)の特性が劣化する現象を初めて明らかにした。

同技術はバンプ[用語2]を用いないWOW積層技術[用語3]に応用することが可能で、ウエハーの薄化は4μmレベルが実用的であることが分かった。ウエハーの厚さが4μmレベルであれば、薄化前と薄化した後のリフレッシュ時間の累積故障率が変わらないことを確認、薄化による新たな原子欠陥が生じないことを実証した。

この薄化プロセスを用いれば、上下積層チップの配線長が従来の1/10以下になり、配線抵抗と配線容量が大幅に低減される。超小型でテラビット(1テラは1兆)級の大規模メモリーへの応用が期待される。

この成果は米国ワシントンDCで12月6~9日に開かれる国際電子デバイス会議「IEDM 2015」で発表された。

背景

半導体メモリーチップを積層し、上下チップを電気接続すれば、積層数に比例したメモリー容量が得られ、極端に微細化しなくても大容量メモリーを得ることができる。上下配線の長さはバンプサイズとチップを貫通する接続孔(TSV[用語4])の長さ(チップの厚さ)で決まり、この配線長を短くすれば配線抵抗と電気容量が低減される。

バンプ接続を前提としたこれまでのTSV配線では、チップ厚さの限界が約50μmであり、バンプとTSVを合わせた長さは約100μmになる。TSV一本当たりのデータ転送速度を少なくし(低周波数)、帯域幅を高めると消費電力が低くなる。このカギを握るのはウエハーの厚さである。だが、どこまで薄くできるのかはこれまで明らかになっていなかった。

研究成果

東工大の大場教授らはウエハーを薄化してから積層し、TSVで直接上下チップを接続配線するバンプレスTSV配線を開発している。この方法を用いれば、バンプが不要になり、薄化プロセスの限界までウエハーを薄くすることができる。FRAM[用語5]、MPU[用語6]、DRAM[用語7]に対して、同研究グループはこれまでに10μm以下の薄化に成功していた。

今回はどこまでウエハーを薄くできるかの極限を知るために2μm台の薄化を行った。この厚さはデバイス層の1/3以下の厚さで、機械研削方式では世界で初めての試みである。先端2ギガビットDRAMが形成された300mmウエハーを厚さ775μmから約0.3%の2μmまで薄化した。このような薄化を行うことにより、ようやくデバイス特性の劣化が観察され(観察個所の厚さは2.6μm)、DRAMの限界厚さが4μm前後にあることを明らかにした。厚さ4μmは、DRAMのデバイス層よりも薄く、可視光も透過する。

同薄化技術を利用すると、デバイス層を含めても10μm以下となり、この厚さがTSVの長さになる。これは従来のバンプを利用したTSVに比べ長さが約1/10に短縮される。TSVが短くなると、これに比例して配線抵抗と電気容量がそれぞれ小さくなる。長さが1/10になると配線性能の指標となる配線抵抗と電気容量の積は1/100に減少する。このため4ギガビット、8ギガビット、16ギガビットといったメモリー容量の拡大に合わせてWOWプロセスを使って4層、8層、16層積層しても薄化したチップであれば電気的な課題が解消される。

薄化チップを64層積層しても全体の厚さは800μm以下に収まり、仮に16ギガビットメモリーを積層すれば小型ながら1テラビットの大規模メモリーを実現することができる。このようなメモリーの大容量化を従来の微細化で行っても、ずいぶん先の線幅5ナノメートル(nm)でも達成できない。このように積層されたDRAMは、FOWLP技術[用語8]におけるデバイス部品としても用いることができる。

超薄化でTSVを短く、また小さくできると、加工しやすくなり、生産性が大幅に向上する。同時にバンプの制約がなくなるので、1平方mm当たり1000本から1万本のTSVを形成することができる。

今後の展開

ウエハー厚さ4μmで、このようなTSVを利用すれば低周波数でも高帯域が可能となり、ギガビット転送速度当たりのエネルギー効率が向上する。このためビッグデータ向けのサーバーやスマートフォンをはじめ小型携帯端末の消費電力が大幅に削減される。メニコアMPU[用語9]と組み合わせれば、テラバイトの高帯域を実現することが可能になる。

WOWプロセスを用いて2-μm台まで薄化したDRAMの断面電子顕微鏡写真

図1. WOWプロセスを用いて2-μm台まで薄化したDRAMの断面電子顕微鏡写真

5.4-μmまで薄化した300mm DRAMのSi厚さ分布

図2. 5.4-μmまで薄化した300mm DRAMのSi厚さ分布

Si厚さ5-μm台まで薄化したDRAMの歩留まり比較:(a)Cu強制汚染無しと(b)Cu強制汚染有り。Cu強制汚染有り無し関係なく、歩留まりや特性の変化は見られない。
図3.
Si厚さ5-μm台まで薄化したDRAMの歩留まり比較:(a)Cu強制汚染無しと(b)Cu強制汚染有り。Cu強制汚染有り無し関係なく、歩留まりや特性の変化は見られない。
Si残し厚さに対するDRAMのデータ保持時間依存性。4-μm厚さまで薄くしても劣化は見られない。

図4. Si残し厚さに対するDRAMのデータ保持時間依存性。4-μm厚さまで薄くしても劣化は見られない。

用語説明

[用語1] WOWアライアンス : 東京工業大学を中心に設計・プロセス・装置・材料半導体関連の複数企業および研究機関からなる研究グループ。薄化したウエハーを簡単に積層することができ、バンプレスTSV配線を用いた三次元化技術を世界で初めて開発した。

[用語2] バンプ : 電極部にメッキで形成した配線接続のための突起。

[用語3] WOW積層技術 : ウエハーの積層(Wafer-on-Wafer)で大規模集積回路を作製する三次元集積技術。積層方法には、チップ同士の積層(Chip-on-Chip)、チップとウエハーの積層(Chip-on-Wafer)があり、COC、COW、WOWの順に生産性が高くなる。

[用語4] TSV : Through-Silicon-Viaの略で、シリコンウエハーを貫通させ埋め込み配線で上下チップチップを接続させる接続孔。最近では、シリコン材料以外にも配線するため、前工程における垂直配線(vertical interconnects)とした方がわかりやすい。

[用語5] FRAM : Ferroelectric RAMの略。強誘電体を利用した不揮発メモリーの一種。

[用語6] MPU : Micro-Processing Unitの略。コンピューター内で基本的な演算処理を行う超小型演算装置でコンピューターの心臓部に当たる半導体チップ。

[用語7] DRAM : Dynamic Random Access Memoryの略。コンピューターに利用される揮発メモリーの一種。

[用語8] FOWLP : Fan-out Wafer Level Packageの略。再配線されたウエハーにデバイスチップを搭載し、チップとウエハーを配線接続するものである。バンプを用いない分薄くなり、小型パッケージが可能になる。

[用語9] メニコアMPU : 複数の論理回路(コアプロセッサ)を有するMPU。2個あればデュアルコアプロセッサと呼び、通常2桁以上のコアプロセッサを有するMPUに対して用いられる。

学会発表

学会名 :
2015 IEEE International Electron Devices Meeting (IEDM)
発表タイトル :
A Robust Wafer Thinning down to 2.6-μm for Bumpless Interconnects and DRAM WOW Applications
発表者 :
Y.S. Kim, S. Kodama, Y. Mizushima, T. Nakamura, N. Maeda, K. Fujimoto, A. Kawai, K. Arai and T. Ohba

問い合わせ先

東京工業大学異種機能集積研究センター
秘書 沼澤文恵

Email : numazawa.f.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5866

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

10を超えるインパクトファクター~東工大発材料科学ジャーナル「NPG Asia Materials」

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東工大がネイチャー・パブリッシング・グループ(NPG)と共同で出版している材料科学ジャーナル「NPG Asia Materials」が、2015年のインパクトファクター(文献引用影響率)として10.118を獲得しました。これは、アジア太平洋地域での材料科学系ジャーナルのトップであるばかりではなく、全世界の材料科学誌と、それを含む広範な総合誌を合わせた259誌の中でも14位という位置を占めています。

NPG Asia Materials

NPG Asia Materials

インパクトファクターとはある特定雑誌に掲載された全論文が、特定の一年間において、一論文あたり平均何回引用されているかを示す数字です。数が大きいほど論文が頻繁に引用されており、影響度の大きな雑誌であるということになります。

「NPG Asia Materials」は2008年に、本学が材料科学分野で採択されていたグローバルCOEプログラムouterの活動の一環として創刊され、プログラム終了後も発展を続けています。

現在、編集長は本学大学院理工学研究科有機・高分子物質専攻 マーティン・バッハ教授が務めています。加えて、編集委員6名のうち2名も東工大に在籍しています。まさに東工大発の東工大が支えるジャーナルです。「NPG Asia Materials」のwebサイトのトップバナーには、「founded in association with the Tokyo Institute of Technology(東京工業大学と共同で設立)」と記されています。

インパクトファクターが示すように、「NPG Asia Materials」は国際誌として認知されており、論文投稿数の1位は圧倒的に中国、2位は韓国となっており、日本からの投稿は5位となっています。東工大はもちろん、日本の大学、研究機関から、優れた研究成果を公表する場としてぜひ「NPG Asia Materials」をお考えください。

「NPG Asia Materials」紹介ページ
「NPG Asia Materials」紹介ページouter


国際共同研究に向けてウプサラ大学との関係を強化―第2回東工大-ウプサラ大合同シンポジウムを開催―

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日本とスウェーデンから120人を超える研究者や学生が参加して、「第2回東工大-ウプサラ大 合同シンポジウム」が11月16日、17日に東工大で開催されました。

本シンポジウムは2014年9月にウプサラ大において開催された第1回シンポジウムのフォローアップとして開催され、今回は「持続可能な社会の実現に向けた新たなテクノロジーとシステム」をテーマに、次世代型太陽電池、水素燃料電池、有機電池、省エネ性能に優れた建築、バイオ燃料などの研究成果の紹介と意見交換が行われました。また産学連携やベンチャー企業設立についても議論が交わされました。

三島良直学長

三島良直学長

マリカ・エドフ教授

マリカ・エドフ教授

東工大の安藤真理事・副学長(研究担当)は、開会にあたり「国際的な研究力強化には海外の大学との研究協力が不可欠であり、今回のシンポジウムは極めて有意義かつ重要な機会です」と述べました。

安藤真理事・副学長
安藤真理事・副学長

オープニングセッションでは、東工大の三島良直学長が「東工大は2030年までに全世界の研究大学の上位10校にランクインするという目標を掲げています。これは極めて野心的なものですが、教育の質を高め、研究の強みを伸ばし、国際化を進めて、世界最高の理工系総合大学を目指して最大限の努力を行っています」と2016年4月から導入する教育・研究改革の概要を説明しました。

ウプサラ大学理工学部の副学部長マリカ・エドフ(Marika Edoff)教授は、太陽電池に関する研究を紹介するとともに、持続可能な開発を推進するために環境・エネルギー技術分野において両大学がどのように世界レベルの研究に取り組んでいるかについて基調講演を行いました。

在日本スウェーデン大使館のヴィクトリア・フォシュルンド=ベラス(Victoria Forslund Bellass)公使は、「日本とスウェーデンの協力分野には未開拓で可能性を秘めているものがまだまだあります。両国はともに科学研究分野をリードしている国であり、世界レベルの研究や高等教育においてウプサラ大学と東工大は最適なパートナーと言えます」と述べました。

ヴィクトリア・フォシュルンド=ベラス公使
ヴィクトリア・フォシュルンド=ベラス公使

オープニングセッションに引き続き「太陽エネルギー技術とそのシステム」「電気化学を基盤とするエネルギー変換デバイス」「イノベーションと産学連携」の3つの全体会議が開かれました。

伊原学教授(左)とピーター・リンドブラッド教授(右)

伊原学教授(左)とピーター・リンドブラッド教授(右)

最初の全体会議では、化学工学専攻の伊原学教授から「環境エネルギーイノベーション棟(EEI棟)」と、そのエネルギー網管理システム「エネスワロー(Ene-Swallow)」の特徴について説明がありました。

伊原教授は、プラズモニック太陽電池に関する最初の論文を発表した1997年当時には、このテーマに関する論文はほとんど発表されていなかったが、2008年には多くの科学者がこの分野に参入し、状況が変化し始めたことを紹介。「昨年末の時点では2,970件の論文が発表されるなど、この分野は大きな進歩を遂げつつあります」と述べました。

ソリューション研究機構の岡崎健特任教授は、「水素社会に向けて―イノベーションとグローバリゼーション」と題する講演を行いました。同教授は、日本の水素燃料自動車の開発に向けた取り組みと、将来的な需要に応えるためのオーストラリアから日本への水素輸入に関する研究を取り上げ、「使用する水素の量を増やすためには、水素を供給する国際的な戦略を策定する必要があります」と強調しました。

分科会(数学)

分科会(数学)

シンポジウム2日目は6つの分科会で始まりました。「環境とエネルギー技術」「材料科学」「環境とエネルギー分析」「起業家精神とイノベーション」「ゲーム設計とヒューマンインターフェース」「数学」の各テーマに沿って、参加した研究者や学生はアイデアを活発に交換し、今後の共同研究の可能性を模索しました。議論に熱が入り、一部のセッションは昼食時間にも続けられました。

分科会(起業家精神とイノベーション)
分科会(起業家精神とイノベーション)

最後の全体会議では、産業界との連携やベンチャー企業の設立に関する経験が紹介されました。

ウプサラ大学経営工学部のマルカス・リンダール(Marcus Lindahl)学部長は、スウェーデンのゴットランド島におけるユニークな協力事業を紹介しました。大型クルーズ船用の埠頭を建設し、観光客を増やし、同島の経済を活性化するというものです。ウプサラ大学の多くの学部が同島の大企業や中堅企業と協力し、多くの観光客の受け入れをいかに円滑に行うかを検討してきました。

リンダール教授は「このような取り組みを経済的・文化的・社会的な観点から持続可能なものにするには、どのようにすればいいのでしょうか?」と問題を提起しました。

クロージングセッションでは、ウプサラ大学理工学部の教員連携部門長のピーター・リンドブラッド(Peter Lindblad)教授が、東工大とウプサラ大学とが素晴らしい関係を築くに至った理由は、科学分野に秀でた特質など数多くの共通点があり、さらにお互い共通のビジョンを持っていることを指摘しました。

リンドブラッド教授は「私たちは工学分野における世界レベルの研究者になるという共通の目標を抱いています。それと同時に、私たちの研究が、より良い環境、より良い社会、そしてより良い世界に向けて貢献するものであって欲しいと望んでいるのです」と述べました。

本シンポジウムを受け、両大学は第3回シンポジウムを2016年9月にウプサラ大において開催することに合意しました。これからも研究に関する情報交換を行い、新たな共同研究分野の開拓、教育分野での連携プログラムづくりを行っていく予定です。

集合写真
集合写真

第3回資源研国際フォーラム開催報告

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東京工業大学資源化学研究所(資源研)は、10月19日~20日、東工大蔵前会館において第3回資源研フォーラムを開催しました。

集合写真

資源研では、研究成果の公開、国内外の研究者との研究交流の促進を目指して、昨年度から資源研フォーラムを開催しています。今回は、資源研が参画している「附置研究所間アライアンスによるナノとマクロをつなぐ物質・デバイス・システム創製戦略プロジェクトouter」(以下、アライアンス事業)の共催のもと、国際シンポジウムを開催しました。

次世代エレクトロニクス、エネルギー、医療、環境調和材料の「物質・デバイス・システム創製基盤技術」を 「ナノとマクロの融合」により研究開発することを目的とし発足したプロジェクト。大阪大学産業科学研究所、東北大学多元物質科学研究所、北海道大学電子科学研究所、東京工業大学資源化学研究所、九州大学先導物質化学研究所が参画している。それぞれの得意分野で戦略的に連携を組み、ネットワーク型共同研究を推進する事により、物質・デバイス・システム創製研究の格段の進展を図る。

シンポジウムのテーマは、創立70有余年の資源化学研究所の理念に因み、「『資源化学』ニューフロンティア」と掲げられました。

シンポジウム冒頭では、穐田宗隆資源研所長による開会挨拶に続き、安藤真理事・副学長(研究担当)が挨拶しました。

その後、上記アライアンス事業の4つのグループプロジェクトに関連する以下のセッションが設けられ、異なる研究分野間、研究所間、さらには海外との研究交流の推進を目指しました。

  • セッション1:「バイオインスパイアード材料と技術」
  • セッション2:「π共役系材料」
  • セッション3:「イノベーティブ触媒」
  • セッション4:「先端材料とデバイス」

各セッションは、ドイツ、フランス、米国から著名な研究者、および、アライアンス事業に参画している他4研究所の関連研究者による招待講演と、所内教員による話題提供によって構成され、最先端の研究紹介と活発な意見交換が行われました。

さらに、所内若手教員全員によるポスターセッションには、他研究所の若手研究者や海外若手研究者のポスター発表も加わり、研究現場の最新の研究成果の紹介と活発な研究交流が行われました。コンパクトな1日半のシンポジウムながら、招待講演11件、話題提供8件、ポスターセッション29件を数え、屹立した研究成果発表と分野を超えた活発な学術交流が行われました。

初日の夜は懇親会が開催され、三島良直学長は挨拶で、東工大が現在取り組んでいる改革の概要を説明し、資源研の学術・国際交流への取り組みに対する評価と期待を述べました。

参加者は144名にのぼり、多くの招待者、参加者から実りのある充実した国際シンポジウムであったとの声をいただき、第3回資源研フォーラムは盛況のうちに閉会しました。

なお、翌日以降も引き続き、以下の関連イベントが開催され、「資源研フォーラムウィーク」として、資源研の最新成果の発信と学術交流を積極的に推進することができました。

  • 10月20日~21日
    アライアンス事業「新エネルギー・材料・デバイス」分科会(資源研山口猛央教授主催)
    於:東工大蔵前会館
  • 10月22日
    人工光合成に関するワークショップ(同長井圭治准教授主催)
    於:田町キャンパス キャンパスイノベーションセンター
  • 10月23日~24日
    「共役材料とダイナミクス」ポストシンポジウム(同彌田智一教授主催)
    於:すずかけ台キャンパス フロンティア創造共同研究センター

お問い合わせ先

資源化学研究所
Email : forum@res.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5961

分子が変形する様子を2兆分の1秒刻みでコマ撮り撮影―光機能性物質の動作メカニズム解明に成功―

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要点

  • 光照射により原子や分子が動く様子をコマ撮りで撮影し、「分子動画」を作成
  • 光照射による物質状態の時間変化を研究する手法に道を拓く
  • 光機能性材料の応答機構の解明や、生体分子などの動きを目で見て理解

概要

東京工業大学大学院理工学研究科の石川忠彦助教と腰原伸也教授、マックス・プランク物質構造ダイナミクス研究所(ドイツ)のドウェイン・ミラー教授らの共同研究グループは、光スイッチ[用語1]候補材料である分子性結晶[用語2] Me4P[Pt(dmit)2]2(図1参照)に光をあて、原子や分子が動く様子の直接観測に世界で初めて成功した。結晶中の原子や分子の動きを2兆分の1秒という時間分解能と100分の1ナノメートル(nm)以下という空間分解能を併せ持つ「分子動画」として映像化し、結晶内での特定の分子の動きの組み合わせが結晶の機能と連携していることを明らかにした。

A:Pt(dmit)2分子の構造式。角括弧で囲まれた部分はdmit配位子と呼ばれる。B:Me4P[Pt(dmit)2]2の低温電荷分離相でのPt(dmit)2分子がつくる面における分子配列の様子。強く2量化したPt(dmit)2分子が基本単位となっている。数字の“0”、“2”は、各々の2量体の価数(符号は負)を表しており、価数の異なる二量体が互い違いに規則正しく整列している。C:高温金属相での同じくPt(dmit)2面内の分子配列の様子。すべての二量体は等価であることがわかる。
図1.
A:Pt(dmit)2分子の構造式。角括弧で囲まれた部分はdmit配位子と呼ばれる。B:Me4P[Pt(dmit)2]2の低温電荷分離相でのPt(dmit)2分子がつくる面における分子配列の様子。強く2量化したPt(dmit)2分子が基本単位となっている。数字の“0”、“2”は、各々の2量体の価数(符号は負)を表しており、価数の異なる二量体が互い違いに規則正しく整列している。C:高温金属相での同じくPt(dmit)2面内の分子配列の様子。すべての二量体は等価であることがわかる。

ミラー教授らが開発した、超短パルス電子線源(時間幅0.4 ピコ秒程度、1ピコ秒は1兆分の1秒)を用いることで、分光測定に匹敵する時間分解能が得られる電子線回折像測定[用語3]装置により回折像をコマ撮りで撮影し、光照射によって構造が変化する様子を直接観測した。この手法により、生体分子をはじめとする様々な物質の光応答機構解明のための研究手法の革新が期待できる。

結晶中の原子や分子に光が当たるとどのように動き、形が変化するのかが、物質の光応答機構を解明する上での鍵を握っている。しかし、これまでは実際の物質の動き、特に光スイッチや光エネルギー変換[用語4]物質の動作で重要な、1兆分の1秒以下で起こる高速変化は光スペクトル[用語5]の変化から推定するしかなかった。

本研究グループには理化学研究所の加藤礼三主任研究員や愛媛大学の山本貴准教授らが参画した。

研究成果は、12月18日発行の米科学誌「サイエンス」に掲載される。

この研究は科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業(CREST)「先端光源を駆使した光科学・光技術の融合展開」研究領域(研究総括:伊藤正(大阪大学 名誉教授/大阪大学ナノサイエンスデザイン教育研究センター 特任教授))における研究課題「光技術が先導する臨界的非平衡物質開拓」の一環として行われた。

研究の背景と経緯

モノに光が当たると、光のエネルギーがモノを構成する原子や分子中の電子に吸収され、電子は励起状態となる。この励起状態にある電子が引き金となって物質全体の形(結晶構造)や電子状態[用語6]を微弱な光ですばやく変化させ、場合によっては化学反応が起きる(一部は人工光合成とも呼ばれている)ことにより、様々な光機能が発揮されると考えられている。この考えに基づいて光機能材料の開発が現在、世界中で進められている。

光により情報を読み書きする光メモリーや信号の切り替えを行う光スイッチ、化学反応を促進する光触媒などはその一例である。光機能材料の開発は太陽光の有効利用による省エネルギー社会の実現や光通信、光コンピューティングへの応用による高速・高効率な情報インフラ開発など、我々の日常生活に様々な恩恵をもたらすと期待される。

光機能性物質の探索やその動作機構を解明するには、光励起によって引き起こされる電子状態や結晶構造の変化を経時的に観察し、どのような速さで、かつどのような順番で変化が進むのかを調べることが必要不可欠である。最近では、超短パルスレーザー光源[用語7]の開発普及により、1~10兆分の1秒程度の時間分解能で光学スペクトル測定が手軽に行えるようになり、これを用いた電子状態の時間変化の研究が盛んになっている。

これに加え、X線を用いた回折像測定により、原子の位置を経時的に直接追えれば、光学スペクトル測定とは独立に分子や結晶の形状(構造)変化の直接観測が可能となる。しかしX線を超短時間パルス化して、光照射後の回折像変化のコマ撮り撮影を行おうとすると、種々の問題が存在する。例えば、異なる発生源を持つ励起光パルスとX線パルスを時間的に同期させる方法の問題、物質表面付近で強く吸収される励起光に対してX線は遥かに物質の奥深くまで侵入するために、関与する体積の違いからX線回折像の光励起による変化は必然的に小さいという問題、さらにはX線による物質へのダメージの問題など、電子状態と構造変化の関係の解析はいまだ困難な状況にあった。

一方、ミラー教授らの研究グループはピコ秒(ps)以下の時間幅を持ち、かつ高強度のパルス電子線源を開発した。そして、これを用いた高い時間分解能を持つ電子線回折像測定装置を開発した。電子線パルスを用いるため、X線パルスを使う際の問題の多くは解決されるうえに、放射光施設のような大型施設ではなく、通常の実験室に収まるコンパクトな測定装置で観測が可能となる。

そこで、電子状態の超高速な変化の観測を得意とする腰原教授と石川助教、ミラーグループのスチュワート・ヘイズ博士と羽田真毅博士(現JSTさきがけ研究者、岡山大学)が協力して、同一の光応答材料候補に対して電子状態観測のための分光測定と構造変化観測のための電子線回折測定を複合・複眼的に組み合わせて利用する新手法を開発し、「結晶中での原子や分子の実際の動きを見る」という世界の光応答物質研究者の夢の実現に挑戦した。

研究成果

東工大の石川助教らは電荷分離相転移[用語8]を示すMe4P[Pt(dmit)2]2(図1参照)を測定対象として、電子線回折測定による物質構造の時間変化の観測をヘイズ博士や羽田博士と協力して試みた結果、観測に成功した。さらに、特定の分子変形を仮定することのない新たな解析手法の適用により「分子動画」を作成することにも成功し、分子動画から光照射によって引き起こされた原子分子の動きを“直接”見ることに成功した。

測定対象であるMe4P[Pt(dmit)2]2は、理化学研究所の加藤礼三主任研究員のグループによって開発され、Pt(dmit)2分子(図1A)が結晶中で強く二量化[用語9]して、この二量化の結合の強さと結晶中での分子の価数及び電気の流れやすさなどの特性が強く相関している。温度を下げると電荷分離相転移(図1B、C)が起き、低温では、価数の異なる二量体が秩序だって整列するこの系(測定対象)特有の電荷分離相が実現していることを加藤グループが明らかにした。

石川助教らは愛媛大の山本准教授らの協力のもと、この電荷分離相転移による光学スペクトル変化(図2A)の詳細を明らかにした。次に100 K (低温電荷分離相、Kは絶対温度の単位)において、光照射による光学スペクトルの時間変化測定を行い、図2Bの結果を得た。光照射直後の光学スペクトル変化は、高温相に変化した時に予想されるスペクトル変化(図2B中、太線)と一致しており、高温相と同様の状態が出現したことを示している。つまり、低温電荷分離相に光をあてると、氷が溶けて水になるように、二量体の価数の秩序が乱れて電子が動き出し金属状態が生まれていることがわかった。

この光による状態変化は、光スイッチ材料への展開を可能とする重要な特性である。その発生機構に関しては、二量化の強さ(度合い)が変わるような構造変形が光励起によって超高速で引き起こされ、その結果、電子が動き出すと理論的に予測されているが、従来の手法では直接的な証拠を得ることはできなかった。

A:Me4P[Pt(dmit)2]2の光学密度スペクトルの温度依存性。電荷分離相転移(相転移温度Tc = 218 K)に伴い、スペクトル形状が大きく変化している。B:100K(低温相)における光励起後0.15 psの光学密度変化差分スペクトル(黒丸)と比較のために計算した高温相(290 K)と低温相(100 K)の光学密度の差分スペクトル。測定エネルギー域全域にわたってスペクトル形状は良い一致を示しており、光励起直後に電荷分離状態が溶けて、金属状態が生成している事を示唆している。
図2.
A:Me4P[Pt(dmit)2]2の光学密度スペクトルの温度依存性。電荷分離相転移(相転移温度Tc = 218 K)に伴い、スペクトル形状が大きく変化している。B:100K(低温相)における光励起後0.15 psの光学密度変化差分スペクトル(黒丸)と比較のために計算した高温相(290 K)と低温相(100 K)の光学密度の差分スペクトル。測定エネルギー域全域にわたってスペクトル形状は良い一致を示しており、光励起直後に電荷分離状態が溶けて、金属状態が生成している事を示唆している。

今回のパルス電子線によるコマ撮り回折像測定では、光学スペクトル測定とほぼ同じ時間分解能で、光照射により引き起こされる構造変化を捉えられた。この時間依存性を解析すると、光学測定の結果と時間変化がほぼ一致しており、同じ変化を構造と電子状態両面から見ていることが確実となった。理論予測通りに、電子状態変化と結晶格子構造変化との密接な関連性を示す結果である。

さらに、ミラーグループのアレクサンダー・マークス博士の協力のもと、ある程度自由に原子位置を動かし、実際の回折像測定データを再現する構造を決める手法でヘイズ博士がデータ解析を行った。この解析手法では、これまで行われていた原子分子の特定の動き方を特定したモデル解析と違い、想定外の動き方を再現することも可能である。

この解析結果を基にして、2兆分の1秒の時間分解能(測定間隔は5兆分の1秒)と100分の1 nm以下の空間分解能を併せ持つ分子動画を作成した。図3は、作成した分子動画の一部である。すると、実際の分子の動きはごく限られた少数の典型的な動きの重ね合わせであることが、明確となった(図4)。その動き方の一つ(分子の回転運動:図4中の緑矢印)は、今回の研究で用いた解析手法なくしては発見が困難だったため、これまで誰も予想をしていなかった。分子動画から判明した原子分子の動きを用いると、これまでの光学測定の結果も矛盾なく説明できる。

A:光励起前のPt(dmit)2二量体の構造の模式図。灰色の球がPt原子、黄色の球がS原子、黒色の球がC原子を表す。B:電子線回折像を解析して作成した、各遅延時間におけるPt(dmit)2二量体の構造。Aの模式図と同じ方向から見ており、白い球体が各原子を表す。
図3.
A:光励起前のPt(dmit)2二量体の構造の模式図。灰色の球がPt原子、黄色の球がS原子、黒色の球がC原子を表す。B:電子線回折像を解析して作成した、各遅延時間におけるPt(dmit)2二量体の構造。Aの模式図と同じ方向から見ており、白い球体が各原子を表す。
本研究で判明した構造変化ダイナミクスのまとめ。図中丸は、Pt原子を表し、長方形はdmit配位子を表す。色分け(凡例参照)は、光学測定から判明した二量体の価数や二量化度の強さの違いを区別している。矢印は電子線回折から判明した原子位置の動きを表す。緑矢印で表される分子全体の回転運動は、これまで予想されていなかった動きである。
図4.
本研究で判明した構造変化ダイナミクスのまとめ。図中丸は、Pt原子を表し、長方形はdmit配位子を表す。色分け(凡例参照)は、光学測定から判明した二量体の価数や二量化度の強さの違いを区別している。矢印は電子線回折から判明した原子位置の動きを表す。緑矢印で表される分子全体の回転運動は、これまで予想されていなかった動きである。

今後の展開

今回の研究成果により、光照射に応答した構造変化を直接観測できたため、理論モデルとの明確な比較が初めて可能となった。また初期過程においてこれまで考慮されていなかった分子の動きが観測されたことは、本物質を基にした光機能性分子材料の設計方針に重要な知見を与えるものである。

超短時間パルス電子線による電子線回折像のコマ撮り測定と特定の原子の動き方を仮定しない構造の時間変化決定手法の組み合わせは、汎用的で他の複雑な系にも適用できる。例えば、生体分子における光合成過程のような、思いもよらない複雑な動きをする場合にも、光照射に応答した構造変化の時間依存性を直接目で見て理解する道を拓くと期待される。

また、本研究で用いた超短時間パルス電子線を用いた高い時間分解能を持つ電子線回折像測定装置は、ドイツ国内でミラーグループが運用しているものであるが、ほぼ同じ性能を持つ装置を羽田博士が現所属の岡山大学で立ち上げ、運用を開始しており、国内において同様の測定が現時点で可能となっている。

用語説明

[用語1] 光スイッチ : 光をあてている間だけ電気が流れたり、色が変わったりするなど、光をあてることで起こる状態変化を使って、電気回路中のスイッチのような切り替え制御の役割を果たすこと。

[用語2] 分子性結晶 : 分子が分子構造を保ったまま、集合して結晶化した固体。分子が単位となって物性現象が起こる。

[用語3] 回折像測定 : X線や電子線の持つ波としての性質を利用して、測定対象の物質にあてた時に物質内部の周期性により出来る回折パターンを観測し、そのパターンを解析する事によって、原子や分子の位置を決定する事を目的とした測定。

[用語4] 光エネルギー変換 : 光の持つエネルギーを取り出して、電気回路やエンジンを動かすような別の形のエネルギーに変換すること。

[用語5] 光スペクトル : 物質が光をどの程度反射するか透過するかなどについては、あてた光の波長によってその割合が変わる。このような波長依存性を指す。光をあてた対象物質の性質を反映する。

[用語6] 電子状態 : 固体中の電子は単独で自由空間にいる場合と異なり、周りに存在する多数の原子や分子の特性やそれらが構成する結晶の周期性によって、その動きやすさや空間的な分布の仕方などが決まる。これによりその固体の持つ様々な性質(電気の流しやすさや磁性の有無など)が決まる。

[用語7] 超短パルスレーザー光源 : ごく短時間だけ光るカメラのフラッシュのような光(“パルス光”と呼ぶ)を発するレーザー光源。ここでは、パルスの時間幅として、1 psよりも短い程度のものを指す。

[用語8] 電荷分離相転移 : 同じ種類の分子や二量体[用語9]が同じ価数を持っている状態から、電子のやり取りが起こる事で、違う価数の分子や二量体が存在する状態になる事。対象物質では、温度変化によってこのような状態変化が起こる。

[用語9] 二量化 : 分子二つが強く結合して、あたかも一つの分子のようにみなした方が良い状態になることを指す。また、結合した二つの分子をまとめて、“二量体”と呼ぶ。

論文情報

掲載誌 :
Science
論文タイトル :
Direct observation of collective modes coupled to molecular-orbital driven charge transfer
著者 :
Tadahiko Ishikawa, Stuart A. Hayes, Sercan Keskin, Gastón Corthey, Masaki Hada, Kostyantyn Pichugin, Alexander Marx, Julian Hirscht, Kenta Shionuma, Ken Onda, Yoichi Okimoto, Shin-ya Koshihara, Takashi Yamamoto, Hengbo Cui, Mitsushiro Nomura, Yugo Oshima, Majed Abdel-Jawad, Reizo Kato, R. J. Dwayne Miller
DOI :

問い合わせ先

(研究に関する事)

大学院理工学研究科 物質科学専攻
助教 石川忠彦

Email : tishi@chem.titech.ac.jp
Tel / Fax : 03-5734-2614

大学院理工学研究科 物質科学専攻
教授 腰原伸也

Email : skoshi@cms.titech.ac.jp
Tel / Fax : 03-5734-2449

ドイツ マックス・プランク物質構造ダイナミクス研究所(MPSD)
博士 スチュアート・ヘイズ (Stuart A. Hayes)

Email : stuart.hayes@mpsd.mpg.de
Tel : +49 (0) 40 8998-6219

ドイツ マックス・プランク物質構造ダイナミクス研究所(MPSD)
教授 ドウェイン・ミラー(R. J. Dwayne Miller)

Email : dwayne.miller@mpsd.mpg.de
Tel : +49 (0) 40 8998-6260

理化学研究所 加藤分子物性研究室
主任研究員 加藤礼三

Email : reizo@riken.jp
Tel / Fax : 048-467-9408 / Fax : 048-462-4661

愛媛大学 大学院理工学研究科 環境機能科学専攻
准教授 山本貴

Email : yamataka@ehime-u.ac.jp
Tel / Fax : 089-927-9608

(JST事業に関する事)

科学技術振興機構 戦略研究推進部
グリーンイノベーショングループ
鈴木ソフィア沙織

Email : crest@jst.go.jp
Tel : 03-3512-3531 / Fax : 03-3222-2066

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

科学技術振興機構 広報課

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理化学研究所 広報室 報道担当

Email : ex-press@riken.jp
Tel : 048-467-9272 / Fax : 048-462-4715

愛媛大学 総務部 広報課 広報チーム

Email : koho@stu.ehime-u.ac.jp
Tel : 089-927-9022 / Fax : 089-927-9052

本学教員7名が科研費審査委員の表彰を受彰

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本学教員7名が独立行政法人日本学術振興会より平成27年度科研費(科学研究費助成事業)審査委員の表彰を受け、12月9日に三島良直学長から表彰状と記念品が手渡されました。

今回表彰された教員は次のとおりです。

大学院理工学研究科(理学系)

岡田哲男教授

大学院理工学研究科(理学系)

遠藤久顕教授

大学院理工学研究科(理学系)

山口昌英教授

大学院理工学研究科(工学系)

鼎信次郎教授

原子炉工学研究所

松本義久准教授

大学院総合理工学研究科

長谷川純准教授

フロンティア研究機構

鎌田香織特任准教授

審査委員の表彰とは

独立行政法人日本学術振興会では、学術研究の振興を目的とした科研費の業務を行っています。配分審査は、専門的見地から第1段審査(書面審査)と第2段審査(合議審査)の2段階で行われます。

適正・公平な配分審査がおこなわれるよう、審査の質を高めていくことが大変重要とし、同会設置の学術システム研究センターにおいて、審査終了後、審査の検証を行っています。

さらに平成20年度からは、検証結果に基づき、第2段審査(合議審査)に有意義な審査意見を付した第1段審査(書面審査)委員を選考し、表彰することとしています。平成27年度は約5,500名の第1段審査(書面審査)委員の中から189名が表彰されました。

学長らとの記念撮影
学長らとの記念撮影

お問い合わせ先

研究企画課研究推進グループ

E-mail : efund@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3806

藻類を使ったアンモニア生産の可能性―ラン藻の遺伝子発現を制御して放出させることに成功―

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要点

  • ラン藻(シアノバクテリア)の遺伝子発現を調節する新技術開発
  • 代謝系酵素の発現調節による有用物質の生産に成功
  • 環境負荷のないアンモニア生産に道筋

概要

東京工業大学資源化学研究所の久堀徹教授と肥後明佳特任助教(JST・CREST研究員)の研究チームは、原核光合成生物であるラン藻[用語1]を利用し、産業的に有用な含窒素化合物を生産することに成功した。代謝系酵素の発現調節を可能にするシステムを開発、窒素固定型ラン藻[用語2]の代謝系酵素の発現調節にこのシステムを適用し、ラン藻の体内で生産された含窒素化合物を効率よく細胞外に放出させた。

この技術を発展させることで、今後、地球環境に負荷をかけずにアンモニアなどの有用含窒素化合物を生産するシステムが確立できれば、ラン藻の応用範囲を大きく広げることになる。

研究成果は12月18日発行の日本植物生理学会機関誌「プラントアンドセルフィジオロジー(Plant and Cell Physiology)」電子版に掲載された。

研究の背景と経緯

二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスによる温暖化が地球規模の環境問題となり、人間の活動によって大気中に放出される二酸化炭素量の削減は人類共通の吃緊(きっきん)の課題である。この問題を解決するために、光合成生物による油などの有用化合物生産が注目を集めている。サトウキビやトウモロコシなど緑色植物を利用したバイオエタノール生産は既に実用化されているが、その耕作規模が大きいため食糧生産に必要な作物の耕作との競合が問題視されている。

一方、微細藻類[用語3]は水系で繁殖するため、基本的に食糧生産とは競合せず、増殖した藻類の取扱いが容易であるため、注目を集めている。すでに、一部の単細胞緑藻では、燃料生産の実用化を目指した大規模培養も試みられている。

微細藻類の一種、光合成原核生物であるラン藻は、緑色植物がもつ光合成を行う細胞内小器官(葉緑体)の起源となった生物といわれ、物質生産に適した微細藻類として注目されている。

ラン藻は光合成によって大気中の二酸化炭素から糖を生産するが、大気中の窒素を取り込み窒素化合物に変換する種もいる。産業界で重要な窒素化合物はアンモニアであり、全世界では年間1億6千万トン生産されている。この生産には水素を大量に必要とし、水素は化石燃料から作られている。そこで、久堀教授らは窒素固定型のラン藻の能力を利用して化石燃料に依存しない含窒素化合物の生産を目指して研究を行ってきた。

研究成果

ラン藻を活用して有用物質を生産するためには、代謝系を目的の物質生産に適するように改変する必要がある。ところが、これまでラン藻では遺伝子発現制御技術、とりわけ遺伝子発現を抑制する技術の開発があまり進んでいなかった。このため、久堀教授らは代謝経路に関わる酵素の遺伝子発現を人為的に制御する技術をまず開発した。

今回、研究のモデル生物として用いた窒素固定型の糸状性ラン藻Anabaena sp. PCC7120(以下、アナベナ)(図写真)は数珠状に増殖するが、窒素源の乏しい条件で培養すると数珠状の細胞のところどころにヘテロシスト[用語4]と呼ばれる特殊な細胞が形成される。この細胞で大気中の窒素を直接アンモニアに変換する窒素固定反応が行われる。ほとんどの生物は大気中の窒素を窒素源として利用できないので、この機能は極めて重要である。

固定されたアンモニアはその後、アミノ酸などに変換されて細胞内で利用される。そこで肥後特任助教は、アナベナに利用可能な遺伝子発現制御システムを開発し、窒素同化の代謝系酵素の発現を制御することで、アナベナが生産する窒素化合物を細胞外に放出させるシステムを構築した。

まず、すでに様々な生物で遺伝子発現制御に用いられている転写[用語5]抑制因子TetR(抗生物質であるテトラサイクリン[用語6]でその機能を制御することができる(図中1))を利用して、遺伝子発現制御システムを構築した。

この方法を特定の酵素の発現を抑制できるアンチセンスRNA[用語7](図中2)の発現制御に利用して、微量のテトラサイクリンを用いて特定の酵素遺伝子の発現を制御できるシステムを構築した。実際に、この方法でラン藻の生育に必須な窒素同化の鍵酵素であるグルタミン合成酵素[用語8]遺伝子の発現を抑制したところ、窒素固定条件下で含窒素化合物が生産され、効率よく培地中に放出される(図中3)ことを確認した。

アナベナのヘテロシストと遺伝子発現調節システム

図1. アナベナのヘテロシストと遺伝子発現調節システム

ヘテロシストは矢じりで示した丸い細胞である。図中のアンチセンスRNAの発現はTetR転写抑制因子により抑制されているが、テトラサイクリンを結合するとその抑制が解除される。その結果、発現するアンチセンスRNAが目的の酵素の発現を抑制することにより窒素固定経路のアミノ酸への流れが阻害され、余分な窒素化合物が細胞外に放出される。

今後の展開

今回の研究により、アナベナの代謝経路を目的に合わせて改変する技術を確立することができた。また、実際にこの技術を利用して、アナベナが大気から取り込んだ窒素をアンモニアとして培地中に放出させることにも成功した。この技術を発展させることで、今後、地球環境に負荷をかけないラン藻を用いた有用含窒素化合物生産システムの構築にも道を拓くものと期待される。

本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出outer」研究領域(研究総括:松永 是 東京農工大学・学長)の支援を受けて実施した。

用語説明

[用語1] ラン藻(シアノバクテリア) : 光合成を行う原核光合成生物で細菌の一種。光合成を行うチラコイド膜という膜構造を細胞内に持つ。原始の時代に真核生物に食べられて細胞内共生したことにより、緑色植物の葉緑体の起源となった生物と考えられている。

[用語2] 窒素固定型ラン藻 : 細胞内にニトロゲナーゼという酵素を持ち、大気中の窒素からアンモニアを直接生産することのできる機能をもったラン藻。

[用語3] 微細藻類 : ラン藻のような原核光合成生物から緑藻など真核光合成生物まで、主に単細胞の藻類の総称。物質生産に利用できる生物として注目されている。

[用語4] ヘテロシスト : 異型細胞とも呼ばれ、厚い細胞壁に覆われている。ヘテロシストに存在するニトロゲナーゼは酸素が存在すると簡単に壊れてしまうため、ヘテロシスト内は嫌気的(酸素のない状態)に保たれなければならない。そのために、ヘテロシスト内の光合成装置は酸素発生を行う部分を欠いている。

[用語5] 転写 : 遺伝子発現では、DNAに保存されている遺伝子情報が、まずRNAに写し取られ(転写という)、このRNAの情報をもとにアミノ酸が数珠状につながってタンパク質が合成される(翻訳という)。

[用語6] テトラサイクリン : 放線菌が作る抗生物質のひとつで、微生物のタンパク質合成を阻害する。このため、細菌感染症の治療薬として用いられているが、近年、耐性菌(テトラサイクリンが効かない菌)が増えている。

[用語7] アンチセンスRNA : 特定のRNAと相補的な配列を持ったRNAで、特定のRNAに結合することで、特定のRNAが持っている情報がタンパク質に翻訳されるのを抑制する。

[用語8] グルタミン合成酵素 : アンモニアとグルタミン酸からグルタミンを合成する酵素。グルタミンは細胞内で様々なアミノ酸の原料として使われている。

論文情報

掲載誌 :
Plant and Cell Physiology
論文タイトル :
Efficient gene induction and endogenous gene repression systems for the filamentous cyanobacterium Anabaena sp. PCC 7120
著者 :
Akiyoshi Higo, Atsuko Isu, Yuki Fukaya, Toru Hisabori
DOI :

問い合わせ先

資源化学研究所附属資源循環研究施設
教授 久堀徹

Email : thisabor@res.titech.ac.jp

資源化学研究所附属資源循環研究施設
特任助教 肥後明佳

Tel : 045-924-5234 / Fax : 045-924-5268

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

1月18日16:45 お問い合わせ先を一部修正しました。
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