Quantcast
Channel: 更新情報 --- 研究 | 東工大ニュース | 東京工業大学
Viewing all 2008 articles
Browse latest View live

ニュースレター「AES News」No.3秋号発行

$
0
0

ソリューション研究機構先進エネルギー国際研究(AES)センターouterが、ニュースレター「AES News」No.3秋号を発行しました。

AESセンターは、従来の大学研究の枠組みを越えて、企業、行政、市民などが対等な立場で参加する、開かれた研究拠点「イノベーションプラットフォーム」です。低炭素社会のエネルギーシステム実現に向けたソリューション研究開発を推進しています。

また、学内外の教員と会員が連携し、既存の社会インフラを活かしながら革新的な省エネ・新エネ技術を取り入れ、安定したエネルギー利用環境を実現する先進エネルギーシステムの確立を目指しています。

こうした日ごろの活動を、より多くの方々にご理解いただき、また、AESセンター企業・自治体会員および本学教職員の連携を深めるために、AESセンターではニュースレター「AES News」を、今年度より季刊誌として発行しています。今回は第3号となる秋号のご案内です。

ニュースレター「AES News」No.3秋号

第3号・2015秋号

  • 黒川浩助特任教授
    巻頭記事「多面的に拡大していく太陽光発電産業バリューチェーン」
  • AES活動報告(2015年7月~9月)
  • 共同研究部門紹介(ENEOS共同研究部門、NTTファシリティーズ共同研究部門)
  • 新共同研究部門の設置のお知らせ
  • AES行事開催予定
     第8回AESシンポジウム告知

ニュースレターの入手方法

PDF版

PDF版は以下のサイトからダウンロードできます。なお、バックナンバーも掲載しています。

冊子版

  • 大岡山キャンパス:東工大百年記念館1階 広報棚

  • すずかけ台キャンパス:すずかけ台大学会館1階 広報コーナー

お問い合わせ先

ソリューション研究機構 先進エネルギー国際研究(AES)センター
Email : aescenter@ssr.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3429


河野行雄准教授が第14回ドコモ・モバイル・サイエンス賞を受賞

$
0
0

量子ナノエレクトロニクス研究センターの河野行雄准教授が、第14回ドコモ・モバイル・サイエンス賞 基礎科学部門を受賞しました。ドコモ・モバイル・サイエンス賞は、50歳未満の若手研究者等を対象に、日本国内における移動通信の発展と若手研究者の育成を目的とし、優れた業績を挙げた研究者に対し与えられるものです。授賞式が、10月16日にANAインターコンチネンタルホテル東京にて実施されました。

河野行雄准教授
河野行雄准教授

受賞テーマ

ナノ構造を用いたテラヘルツ電磁波の画像化技術の開拓と応用

受賞理由

テラヘルツ技術は、医療、産業、科学への幅広い応用が期待されていますが、計測における基本的な性能(検出感度、空間解像度、分光帯域等)が不十分のため、特にナノ領域の画像・分光計測が未開拓でした。河野准教授らは、半導体量子構造やカーボンナノチューブ・グラフェンを用いて、従来よりも格段に高い性能を持つ高感度テラヘルツ検出・高解像度イメージング・広帯域分光技術を開発しました。さらに、これを電子材料・分子・デバイス研究に応用して、物質・生体ナノ分析への有用性を実証しました。このような学問的貢献だけでなく、今後は、計測のシステム化・実用化も期待されています。

今回の受賞を受けて、河野准教授は以下のようにコメントしています。

テラヘルツ波は、電磁波の広大なスペクトルの中で最後の未開拓領域と言われ、基礎科学から産業・医療等に至る幅広い分野での応用が期待されています。未知の分野に挑戦する喜びと新規な応用可能性を追求する楽しさがあります。今回の栄誉ある賞の受賞を励みに、今後も共同研究者の方々や研究室のメンバーと研究の楽しさを分かち合いながら、邁進したいと思います。お世話になりました皆様に深く感謝申し上げます。

授賞式の様子(前列左から2人目が河野准教授)
授賞式の様子(前列左から2人目が河野准教授)

問い合わせ先

量子ナノエレクトロニクス研究センター 河野行雄

Email : kawano@pe.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3811

クロム酸鉛の「価数の謎」解き明かす―50年来の常識覆し、巨大負熱膨張材料の開発に手掛かり―

$
0
0

概要

東京工業大学応用セラミックス研究所の東正樹教授、于潤澤博士研究員、北條元助教らの研究グループは、ペロブスカイト[用語1]型酸化物PbCrO3(クロム酸鉛)の価数分布が、50年間信じられてきたPb2+Cr4+O3ではなく、「Pb2+0.5Pb4+0.5Cr3+O3」であることを発見した。放射光X線と電子顕微鏡を用いた解析で50年来の謎を解いた。

PbCrO3は2価の鉛と4価の鉛が長距離秩序[用語2]を持たず、乱雑に存在する「電荷グラス」という状態を持つ。また、圧力下ではPb4+とCr3+の間で電荷の移動が起こり、10%もの体積収縮を伴ってPb2+Cr4+O3へと変化することも突き止めた。同様の変化を示すBiNiO3(ビスマス・ニッケル酸化物)は、改質することで巨大な負熱膨張[用語3]を示すため、PbCrO3を元にした巨大負熱膨張材料の開発も期待される。

同研究グループは東工大チームのほか、日本原子力研究開発機構の綿貫徹研究主幹、安居院あかね研究主幹、町田晃彦研究主幹、高輝度光科学研究センターの水牧仁一朗副主幹研究員、早稲田大学の溝川貴司教授、中央大学の岡研吾助教、学習院大学の森大輔助教、稲熊宜之教授で構成されるのに加え、東京大学、産業技術総合研究所、米国オークリッジ国立研究所、独国マックスプランク研究所、独国ユーリッヒ研究所が参画した。

研究成果は米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン版に掲載された。

研究の背景

ペロブスカイト酸化物は、強誘電性、圧電性、超伝導性、巨大磁気抵抗効果、イオン伝導など、多彩な機能を持つため、盛んに研究されている。PbCrO3(クロム酸鉛)は、強誘電体として良く知られているPbTiO3(チタン酸鉛)からの類推で、Pb2+Cr4+O3の価数状態を持つと50年間もの間信じられてきた。しかし、PbTiO3に比べて約2%大きな体積を持つこと、また、Cr4+を含む化合物に期待される金属伝導性を示さず、絶縁体であることなどが長年の謎であった。さらに最近、2万気圧への加圧で10%もの巨大な体積収縮が起こることが発見され、そのメカニズムの解明が望まれていた。

研究成果

今回の研究では、PbCrO3が、Pb2+0.5Pb4+0.5Cr3+O3の価数状態を持つこととともに、図1に示す様に、2価の鉛と4価の鉛がランダムに存在する「電荷グラス」状態であることが分かった。異なる価数のイオンがランダムに凍結する「電荷グラス」は、価数を整数からずらした銅酸化物やマンガン酸化物で見つかっているが、整数価数の酸化物で観測されるのはこれが初めてである。

加圧するとクロム(Cr)の電子が一つ4価の鉛(Pb)に移ることで、クロムの価数が3から4価に変化し、酸素をより強く引きつけるようになる。このため、ペロブスカイト構造の骨格をつくるクロム(Cr)-酸素(O)の結合が縮み、約10%もの体積収縮が起こる。また、絶縁体から金属への転移が起こる。

同様の圧力印加による電荷の移動と約3%の体積収縮は、BiNiO3(ビスマス・ニッケル酸化物)でも観察されている。ビスマス(Bi)の一部をランタン(La)で置換したBi1-xLaxNiO3、あるいはニッケル(Ni)を鉄(Fe)で置換したBiNi1-xFexO3は、昇温で体積が収縮する、負の熱膨張材料である。BiNiO3の体積収縮が約3%であるのに対し、PbCrO3の圧力下での体積収縮は約10%にも達するので、同様の元素置換を行うことにより、BiNiO3以上の巨大な負熱膨張をしめす材料を開発できると期待される。

大型放射光施設SPring-8[用語4]のビームラインBL02B2での放射光X線粉末回折実験[用語5]と、BL22XUでの放射光X線全散乱データPDF解析[用語6]、BL47XUでの硬X線光電子分光測定[用語7]により、Pb2+とPb4+が存在し,それらが乱雑に配列していることが分かった。鉛イオンが整然と配列していないことは、走査透過電子顕微鏡観察(HAADF-STEM[用語8])でも確かめた。また、BL14B1での圧力下X線解析実験で格子定数[用語9]の変化を観察し、圧力下では約10%の体積収縮が起きることを確認した。また、この圧力で絶縁体から金属への転移が起こるため、高圧相はPb2+Cr4+O3であると考えられる。

ペロブスカイト酸化物ABO3の一般的な結晶構造(左)と、PbCrO3の電荷グラス構造(右)

図1. ペロブスカイト酸化物ABO3の一般的な結晶構造(左)と、PbCrO3の電荷グラス構造(右)

PbCrO3の結晶構造と電気抵抗、格子定数の圧力変化。Pb2+0.5Pb4+0.5Cr3+O3からPb2+Cr4+O3への転移に伴い、格子定数と電気抵抗の急激な減少が起きている。
図2.
PbCrO3の結晶構造と電気抵抗、格子定数の圧力変化。Pb2+0.5Pb4+0.5Cr3+O3からPb2+Cr4+O3への転移に伴い、格子定数と電気抵抗の急激な減少が起きている。
PbCrO3の電子顕微鏡像。白丸で示された、電荷グラスを形成する鉛の位置に乱れがあることが分かる。

図3. PbCrO3の電子顕微鏡像。白丸で示された、電荷グラスを形成する鉛の位置に乱れがあることが分かる。

今後の展開

今回そのメカニズムを解明したPbCrO3では、圧力印加により10%もの巨大な体積収縮が観察されることから、研究を進め、同様の性質を持つBiNiO3(ビスマス・ニッケル酸化物)で行われたのと同様の元素置換を施すことで、超巨大負熱膨張材料が開発できるとの期待が持たれる。負の熱膨張材料は、精密光学部品や精密機械部品など、精密な位置決めが要求される場面で、熱膨張による位置決めのずれを抑制するのに使えると考えられており、今回の発見は、こうした材料開発の進展につながるものと注目されている。

付記

本研究は産業技術総合研究所のHyunjeong Kim博士、榊浩司博士、中村優美子博士、東京大学工学系研究科総合研究機構の幾原雄一教授、米国オークリッジ国立研究所の松田雅昌博士、Jie Ma博士、Stuart Calde博士、独国マックスプランク研究所の磯部正彦博士、独国ユーリッヒ研究所のMartin Schlipf博士、Konstantin Rushchanskii博士、Marjana Ležaić博士との共同で行われた。

本研究の一部は、神奈川科学技術アカデミー・戦略的研究シーズ育成事業「革新的巨大負熱膨張物質の創成」(代表・東正樹東京工業大学教授)、文部科学省・科学研究費補助金・新学術領域研究「ナノ構造情報のフロンティア開拓—材料科学の新展開」(代表・田中功京都大学教授)、日本学術振興会・科学研究費補助金・若手研究B「電界誘起の構造相転移を用いた巨大な圧電応答の実現」(代表・北條元東京工業大学助教)、「巨大な正方晶歪みのもたらす特異的な物性の探索」(代表・岡研吾中央大学助教)の援助を受けて行った。

用語説明

[用語1] ペロブスカイト : 一般式ABO3で表される元素組成を持つ、金属酸化物の代表的な結晶構造。

[用語2] 長距離秩序 : 原子の配列が整然としていて、繰り返し周期があること。

[用語3] 負の熱膨張 : 通常の物質は温めると体積や長さが増大する、正の熱膨張を示す。しかし、一部の物質は温めることで可逆的に収縮する。こうした性質を負の熱膨張と呼び、ゼロ熱膨張材料を開発する上で重要である。

[用語4] 大型放射光施設SPring-8 : 兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、その運転管理と利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のこと。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。

[用語5] 放射光X線回折実験 : 物質の構造を調べる方法。放射光X線を試料に照射し、回折強度を調べることで結晶構造(原子の並び方や原子間の距離)を決定する。

[用語6] 放射光X線全散乱データPDF解析 : 乱雑に配列した原子の並び方を解明する方法。上記X線回折に加えて、乱雑に配列した原子によって広く散乱されるX線強度までを併せて解析する。

[用語7] 硬X線光電子分光 : 4keV以上の高いエネルギーをもつ X線である、硬X線を物質に入射し、そこから放出される光電子の個数とエネルギーの関係を調べることにより、物質内部の電子構造を調べる実験的手法。従来の真空紫外光や軟X線を用いた光電子分光は表面近傍の情報しか得られなかったが、硬X線で励起することにより、固体内部の電子構造を調べることが可能になった。

[用語8] 走査透過電子顕微鏡 : 電子顕微鏡の一種。0.1ナノメートル(1億分の1センチメートル)程度まで細く絞った電子線を試料上で走査し、試料により透過散乱された電子線の強度で試料中の原子を直接観察する。

[用語9] 格子定数 : 結晶構造中の原子の繰り返し周期の長さ。この変化が、物質の巨視的な長さの変化につながる。

論文情報

掲載誌 :
Journal of the American Chemical Society, 137 (2015)
論文タイトル :
Melting of Pb charge glass and simultaneous Pb-Cr charge transfer in PbCrO3 as the origin of volume collapse
著者 :
Runze Yu, Hajime Hojo, Tetsu Watanuki, Masaichiro Mizumaki, Takashi Mizokawa, Kengo Oka, Hyunjeong Kim, Akihiko Machida, Kouji Sakaki, Yumiko Nakamura, Akane Agui, Daisuke Mori, Yoshiyuki Inaguma, Martin Schlipf, Konstantin Rushchanskii, Marjana Ležaić, Masaaki Matsuda, Jie Ma, Stuart Calder, Masahiko Isobe, Yuichi Ikuhara, and Masaki Azuma
DOI :

問い合わせ先

東京工業大学 応用セラミックス研究所
教授 東正樹

Email : mazuma@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5315、080-4402-5315 / Fax : 045-924-5318

日本原子力研究開発機構
研究主幹 綿貫徹

Email : wata@spring8.or.jp
Tel : 0791-58-2629 / Fax : 0791-58-0311

高輝度光科学研究センター
副主幹研究員 水牧仁一朗

Email : mizumaki@spring8.or.jp
Tel : 0791-58-0802(内線3870) / Fax : 0791-58-0830

早稲田大学 理工学術院 先進理工学部
教授 溝川貴司

Email : mizokawa@waseda.jp
Tel : 03-5286-3230 / Fax : 03-3200-2805

中央大学 理学部
助教 岡研吾

Email : koka@kc.chuo-u.ac.jp
Tel : 03-3817-1922 / Fax : 03-3817-1922

学習院大学 理学部
教授 稲熊宜之

Email : yoshiyuki.inaguma@gakushuin.ac.jp
Tel : 03-3986-0221(内線6490) / Fax : 03-5992-1029

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

中央大学 広報室

Email : kk@tamajs.chuo-u.ac.jp
Tel : 042-674-2050 / Fax : 042-674-2959

学習院大学 学長室広報センター

Email : koho-off@gakushuin.ac.jp
Tel : 03-3986-0221(内線2290) / Fax : 03-5992-9238

公益財団法人高輝度光科学研究センター
利用推進部 普及啓発課

Email : kouhou@spring8.or.jp
Tel : 0791-58-2785 / Fax : 0791-58-2786

ワンポットの短工程で有機フッ素医農薬中間体を合成―アセチレン類からの立体選択的な合成に成功―

$
0
0

要点

  • 医農薬品として期待できる有機フッ素化合物の短工程合成法の開発
  • 四置換CF3アルケンの簡便(ワンポット)かつ立体選択的合成法
  • 温和な条件で実施でき多様な官能基に対して有効な触媒システム

概要

東京工業大学資源化学研究所の小池隆司助教、穐田(あきた)宗隆教授、富田廉大学院生らは、医農薬品中間体として有用な多置換トリフルオロメチルアルケン類を、入手容易な内部アセチレン類から短工程かつ立体選択的に合成することに成功した。フォトレドックス触媒[用語1]と呼ばれる光触媒とクロスカップリング反応[用語2]に有効なパラジウム触媒を連続して一つの反応容器内で作用させ、反応中間体を精製することなくアセチレン類から合成できるワンポット反応系を開発した。

トリフルオロメチル基[用語3]は、医農薬品の化学・代謝安定性、脂溶性や結合選択性などに大きな影響を与え、薬物活性の向上をもたらすことが知られている。このため、新反応は医農薬品開発の分野で、今後広く使われていくことが見込まれる。

研究成果は、ドイツ化学会誌「アンゲバンテ・ヘミー国際版」のオンライン版に9月11日に掲載された。

研究成果

東工大の小池助教、穐田教授らは、フォトレドックス触媒の触媒作用を活用し、求電子的トリフルオロメチル化剤[用語4]と入手容易な内部アセチレン類から、立体選択的なトリフルオロメチルアルケニルトリフラートの合成に成功した。この反応の特徴は、導入されるトリフルオロメチル基とトリフラート基が、トランス付加型[用語5]の生成物が高い選択性で得られることである。

得られた生成物を中間体として、パラジウム触媒を用いたクロスカップリング反応を適用することで、四置換トリフルオロメチルアルケンを立体選択的に合成できることがわかった。さらに、この反応は、フォトレドックス触媒反応後、中間体を精製せずに同じ反応容器内にパラジウム触媒とカップリング剤を加えるワンポット合成が可能であった(図1(a))。このようにプロセスが簡略化できグリーンケミストリーの観点からも好ましい。

従来、四置換トリフルオロメチルアルケン類はあらかじめトリフルオロメチル基を含む原料を調製して合成されるのが一般的だったが、今回の研究成果によりアセチレン類を原料として短工程かつ簡便に合成できるようになった(図1(b))。また、この反応系を利用することで多様な有機フッ素医農薬品合成への応用が期待される。

(a)本研究成果:アセチレン類からのワンポット立体選択的四置換トリフルオロメチルアルケン合成
(b)従来法と本方法の比較
図1.
(a)本研究成果:アセチレン類からのワンポット立体選択的四置換トリフルオロメチルアルケン合成、(b)従来法と本方法の比較

背景と経緯

四置換アルケン類は、生物活性な天然物や医薬品、機能性分子にもみられる重要な構造モチーフである。多置換アルケン類は置換基の位置によって立体異性体が存在し、その機能や性質も異なる。そのため、異性体の生成を制御した合成法、すなわち立体選択的な合成法の開発が求められている。

置換基のひとつがトリフルオロメチル基であるトリフルオロメチルアルケン類も医薬品や機能性材料として近年注目されている。とくに、フッ素原子は結合している有機分子の化学・代謝安定性や、脂溶性、結合選択性に大きな影響を与えることから、有機フッ素化合物は医農薬品として注目されている。

それと同時に、いかに簡便に、工程数を少なくフッ素ユニットを有機分子骨格に導入するかも重要な研究課題となっている。小池助教、穐田教授らは、フォトレドックス触媒をトニ試薬や梅本試薬などの求電子的トリフルオロメチル化剤とアルケン類に作用することで、効率よくアルケン類のトリフルオロメチル化反応が進行することを見いだした。加えて本方法は、青色LEDを光源に室温という温和な条件で実施可能であり、様々な官能基をもつ多置換アルケン類のトリフルオロメチル化に有効であった。この知見をもとに、アセチレン類のトリフルオロメチル化から立体選択的な四置換トリフルオロメチルアルケンの合成が可能であると着想し、今回の研究成果に至った。

今後の展開

小池助教、穐田教授らの開発した反応の特徴は、炭素-炭素三重結合にトリフルオロメチル基とトリフラート基を立体選択的に導入できる。トリフラート基はパラジウム触媒によって様々な官能基へと変換可能である。今後は、ヘテロ元素やπ共役系ユニットとのカップリング反応を検討し、多様な四置換トリフルオロメチルアルケンを立体選択的に合成し、その医農薬品や有機機能性材料としての利用をめざす。

用語説明

[用語1] フォトレドックス触媒 : 下図に示すようなビピリジン配位子を有するルテニウム錯体誘導体やフェニルピリジンを有するイリジウム錯体誘導体など。可視光領域に吸収帯を有し、太陽光や蛍光灯、青色LEDランプなどを光源に一電子酸化還元反応を触媒することができる。

フォトレドックス触媒

[用語2] パラジウム触媒を用いたクロスカップリング反応 : 2010年 ノーベル化学賞の受賞対象となった本反応は、遷移金属パラジウム錯体が、活性化基(ハロゲンやトリフラートなど)を有する有機分子と有機金属反応剤の有機基を選択的に結びつける強力な合成ツールとして様々な分野で活用されている。

[用語3] トリフルオロメチル基 : メチル基の水素原子(H)をフッ素原子(F)に置換したもの。フッ素原子の特異な性質に起因して分子全体の性質が上述のように大きく変化する。医農薬品だけでなく機能性材料においても注目されている官能基。

[用語4] 求電子的トリフルオロメチル化剤 : 室温で固体、扱いやすいトリフルオロメチル化剤として下図の試薬が知られている。これらの試薬が開発されたことにより、トリフルオロメチル化反応が飛躍的に進歩した。

求電子的トリフルオロメチル化剤

[用語5] トランス型 : X-CR=CR-YのアルケンにおいてXとYが二重結合に対して同じ側に あるものをシス型、違う側にあるものをトランス型とよぶ。

論文情報

掲載誌 :
Angewandte Chemie International Edition (ドイツ化学会誌国際版)
論文タイトル :
"Photoredox-Catalyzed Stereoselective Conversion of Alkynes into Tetrasubstituted Trifluoromethylated Alkenes"
著者 :
Ren Tomita, Takashi Koike, and Munetaka Akita (富田廉、小池隆司、穐田宗隆)
DOI :

研究支援

JSPS科研費(15J12072)、内藤記念科学振興財団奨励金・研究助成

問い合わせ先

資源化学研究所 助教 小池隆司

Email : koike.t.ad@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5229 / Fax : 045-924-5230

資源化学研究所 教授 穐田宗隆

Email : makita@res.titech.ac.jp

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

地球の自転に合わせて観測のバトンを渡す~国際共同研究教育パートナーシップ

$
0
0

東京工業大学がカリフォルニア工科大などとともに提案した国際共同研究「GROWTH」が、日本学術振興会が米国国立科学財団と連携して実施する国際共同研究教育パートナーシッププログラム(PIRE)に採択されました。このプログラムの援助を受けて、2016年から5年間にわたり7カ国13機関による共同研究を実施します。

本プロジェクトGROWTH(Global Relay of Observatories Watching Transients Happen)は、米国、アジア、ヨーロッパを結んで地球の北半球を一巡りするように位置する天体望遠鏡のネットワークを結成し、地球の自転に合わせて観測のバトンを渡していくことによって、一箇所では夜が明けるために不可能な長時間連続天体観測を実現します。

PIREプログラムとは、一国のみでは解決が困難な課題に対して、若手研究者に国際共同研究の機会を提供することを目的として、米国国立科学財団が日本学術振興会など世界各国の機関と連携して実施しているものです。2005年に開始され、5回目にあたる今回は、全部で17課題が採択されました。本プロジェクトは、日本が参加する2課題のうちの一つです。

望遠鏡と研究者のネットワークGROWTHは日の出によって観測が中断されません。米国パロマ山ZTFで発見された突発天体は、消えるまでに国から国へとバトンのようにリレー観測されます。

望遠鏡と研究者のネットワークGROWTHは日の出によって観測が中断されません。米国パロマ山ZTFで発見された突発天体は、消えるまでに国から国へとバトンのようにリレー観測されます。

近年特に注目されている分野である時間領域天文学※1、特に突発天体※2現象の研究においては、発生してから最初の1日の間に何が起こるのかが非常に重要です。例えば、超新星は数カ月にわたって輝きますが、未解明の点の多い爆発前の星の正体を調べるためには、爆発直後の衝撃波の観測が有用です。

※1
時間領域とは横軸を時間にして信号を観察(表現)する世界のこと。時間領域天文学では天体を時系列で追う。
※2
突発天体とは、急激に増光や減光を示すなどの激しい光度変化を、突発的に示す天体のこと。代表的な突発天体現象には、ガンマ線バースト、超新星等が挙げられる。

他にも、中性子星※3同士、あるいは中性子星とブラックホールの連星の合体で起きる爆発から、宇宙に存在する金や白金が生まれたという説が有力ですが、この爆発は極めて稀なため、その後短時間に進行する元素合成の現場が捉えられたことはありません。このような現象を見つけて直ちに対応するために、GROWTHが必要となります。カリフォルニア工科大が、パロマ山天文台の広視野天体望遠鏡PTFの広天域掃天観測によって突発天体を見つけたら、日本、台湾、インド、イスラエル、スウェーデン、ドイツと連携して連続観測を行います。特に興味深い場合には、すばる望遠鏡やケック望遠鏡のような、ハワイの大望遠鏡も動員します。広視野望遠鏡PTFは2017年にはさらに高感度、広視野のZTFへと増強される予定です。

※3
超新星爆発を起こした質量の大きな星の核が残ったもので、大きさは10km程度と小さいが、重さは太陽と同程度と非常に密度が高い。

また、今年から動き出す米国のLIGOや日本のKAGRAなどの重力波※4望遠鏡が、近い将来に他の銀河で発生する中性子星合体からの重力波を検出すると期待されています。しかし、重力波の到来方向を精度よく決めることはできません。PTFやZTFで、発生源の存在する可能性のある広い点域を探し、可視光や赤外線で光る対応天体を見つけることは、GROWTHの大きな目標です。ただ、広い天域では、多数の紛らわしい候補も同時に見つかることが予想されます。新しい情報処理技術を活用したソフトウェアを用いて候補を少数に絞り込み、GROWTHの追跡観測の対象とすることになります。東京工業大学は、日本での観測とデータ処理技術において共同研究を分担する予定です。

※4
質量をもつ物体はすべて時空のゆがみを引き起こす。物体が運動すればゆがみも運動し、その運動が波となって伝わる。重力波とはこの波のことを指す。

さらに、GROWTHは大きさ140m以下の小さな小惑星が地球近傍で見つかったときに、その起源と軌道を調べることができます。これらは小さいために、通常監視の対象になっていませんが、もし地球に衝突すれば大災害を起こしうるものです。

なお、これらの研究を推進するとともに、その研究を支える若手研究者の育成も、本プロジェクトの大きな柱です。研究テーマの基礎となる教材・教育コースを協力して製作し、学部学生、大学院生、博士研究員の国際交流も進めていきます。

GROWTHコンソーシアムを結成する、参加機関と各機関の主要研究者は次の通りです。

  1. 1.アメリカ カリフォルニア工科大 [幹事機関]: マンシ M.カスリワル博士(GROWTH代表)、シュリ・クルカルニ教授、トム・プリンス教授、リン・ヤン博士
  2. 2.アメリカ ポモナ大学: ブライアン・ペンプレーズ教授
  3. 3.アメリカ サン・ディエゴ州立大学: ロバート・クインビー准教授
  4. 4.アメリカ ロス・アラモス国立研究所: プルゼメク・ウォズニアク博士
  5. 5.アメリカ メリーランド大学カレッジパーク校: スチュアート・ヴォーゲル教授
  6. 6.アメリカ ウィスコンシン大学ミルウォーキー校: デイヴィッド・カプラン教授
  7. 7.日本 東京工業大学: 河合誠之教授
  8. 8.台湾 台湾国立中央大学: 饒兆聰博士
  9. 9.インド インド宇宙物理学研究所バンガロール: G. C. アヌパマ教授
  10. 10.インド インド天文学天体物理学大学連携センター: ヴァルム・バレラオ教授
  11. 11.イスラエル ワイツマン科学研究所:エラン・オフェク博士
  12. 12.スウェーデン アルバノヴァ大学センター: アリエル・グーバー教授
  13. 13.ドイツ フンボルト大学: マレク・コワルスキー教授

問い合わせ先

国際部国際事業課

Email : kokuji.jsps@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-7690

常識を覆し、光で電気の流れを止める

$
0
0

常識を覆し、光で電気の流れを止める
―10兆分の1秒の高速光スイッチングデバイスに道―

要点

  • これまで困難とされていた光による金属から絶縁体への変化を実現
  • 梯子構造を有する銅酸化物超伝導体の特異な電気の流れを利用
  • 1ピコ秒以内で絶縁体⇄金属の双方向光スイッチ動作に成功

概要

東京工業大学大学院理工学研究科の深谷亮産学官連携研究員(現高エネルギー加速器研究機構特任助教)、沖本洋一准教授、腰原伸也教授、同応用セラミックス研究所の笹川崇男准教授、東北大学大学院理学研究科の石原純夫教授らの研究グループは、銅酸化物超伝導体中の電気の流れをレーザー光でオフ・オンする方法を発見した。

光を使って金属的物質(導体)を絶縁体にする(電気の流れを止める)ことは困難とされていたが、梯子(はしご)構造を有する材料の特異なホールペアの動きを利用して、光励起による電気の流れのオフ・オンを初めて実現した(「隠れた絶縁体状態」[用語1]と呼ばれる)。

さらに光パルス列を対象試料に照射することで、室温を含む広い温度域で1ピコ(1ピコは1兆分の1)秒以内に絶縁体⇄金属の変化を双方向で切り替えることにも成功した。これにより、室温かつ10兆分の1秒以下で超高速動作する次世代光スイッチング[用語2]デバイス開発へ道を拓くことが期待される。

研究成果は10月20日発行の英国科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)」オンライン版に掲載される。

背景

光を利用して物質中の電子の動きを自在に制御する技術、および物質の光学的・磁気的・電気的性質などを光で変化させる光機能性材料の開発・探索研究が世界中で精力的に行われている。電気的には実現不可能な応答速度で物質の特性を高速に切り替えられれば、次世代の高速光スイッチングデバイスへの応用展開が期待されるためである。

とりわけビッグデータの取り扱いなどに向けた超高速通信、大規模計算のための新デバイスへの要請が、この数年高まっている。このような要請を背景に、特に光キャリアドーピング[用語3]技術を利用した電気伝導性の光制御は高速かつ非接触で電気的な性質を変換できるため、光スイッチングデバイスとして応用展開する上で単純かつ最も適した方法であると考えられ、期待されている。

しかし、一般的には、物質に照射された光エネルギーは電子の数や運動エネルギーを増やす方向に変換されるため、物質の電気伝導性は必然的に増加する(図1(a)-1の変化)。そのため、逆に光を使って動いている電子の流れを抑制し、金属から絶縁体へと変化(図1(a)-2の変化)させることは常識的に困難であると認識されていた。したがって光による金属から絶縁体への変化は、この常識を根底から覆す新概念であり、その現象を発見するためには、最先端の光源を利用した光機能性材料の探索的研究が必要だった。

(a)光を使った電気特性制御のスキーム、(b)光で生成した絶縁体状態および(c)金属状態におけるホールペアの流れ。

図1. (a)光を使った電気特性制御のスキーム、(b)光で生成した絶縁体状態および(c)金属状態におけるホールペアの流れ。

研究成果

東工大の深谷研究員(現高エネ機構)らの研究グループは、笹川准教授らが合成した金属状態の梯子型銅酸化物結晶(Sr4Ca10Cu24O41=ストロンチウム・カルシウム・銅酸化物)の電気伝導性を0.1ピコ秒の時間幅を持つパルスレーザー光照射で瞬時に抑制することに成功した。これまで光照射では実現困難とされてきた、金属から絶縁体へ変化する(通常の光伝導ではなく、光抵抗とも呼べる)新奇な現象を発見した。

対象の物質は高温超伝導の舞台である銅と酸素で構成されたCuO2ユニットが梯子状に連なった構造を有しており、低次元銅酸化物で唯一超伝導を示すことが知られている。この物質の金属状態は、電気伝導を担うホール(正孔)がペアを組み、結晶中をペアを組んだ状態でお互いに位相(間隔)をそろえて動いていると推測され (図2(c))、この波としての周期的性質が高温超伝導発現の鍵を握っていると考えられている。したがって、ホールの数とホールペアの動きをコントロールすることにより、電気伝導性を制御することが可能となる。

この物質では、ホールペアの波としての周期的性質が強い金属状態とその性質が弱い絶縁体状態への変化が、赤外線領域の大きな反射率の増大によって特徴づけられる。そこで同研究グループは、0.1ピコ秒の光パルスを使ったポンプ―プローブ分光と呼ばれる測定手法[用語4]を用いて、金属状態の試料における光照射後の反射率スペクトルの変化を測定した。

同研究グループが先行して行った絶縁体の試料を使った実験(掲載論文: Journal of Physical Society of Japan, 82, 083707 (2013))では、光キャリアドーピングにより物質中のホール数の増加を反映して、光照射直後に反射率の増大(絶縁体から金属への変化)が観測される。しかし、金属状態で観測された反射率スペクトルの変化はそれとは全く逆の、反射率が減少する応答(金属から絶縁体への変化)を示した(図2(a))。

この特異なスペクトル変化を理解するため、石原教授らの協力のもと新しい理論モデルを構築した。このモデル計算で得られた光照射後の反射率スペクトルにおいても、実験結果と同様に赤外線域の反射率が減少した(図2(b))。

(a)実験および(b)理論計算により得られた光照射前後の反射率スペクトル。

図2. (a)実験および(b)理論計算により得られた光照射前後の反射率スペクトル。

この現象は、ホールペアの周期性が光キャリアドーピングで生成されたホールの影響で壊され、伝導性が抑制されることを意味しており、この状態は、温度や化学的な元素置換では実現し得ない「隠れた絶縁体状態」であることが明らかとなった(図1(b))。

同研究グループによる先行研究及び今回観測された光による絶縁体―金属間の変化を利用して、光パルス列を用いた単一試料による絶縁体⇄金属の双方向光スイッチングを試みた。具体的には、第一光パルスで図1(a)-1の変化を起こし、生成された金属状態下にさらに第二光パルスを照射することで図1(a)-3の変化を起こす。図3(a)は金属状態の試料に単一の光パルスを照射したとき、および図3(b)は第一パルスで生成した金属状態にさらに第二光パルスを照射したときの赤外線域の反射率の時間変化を示している。

両者とも非常に類似した変化を示すことから、光で生成した金属状態に光を照射してもそのホールペアの伝導性が抑制されることが明らかとなり、光パルス列を用いて、0.1ピコ秒での単一方向スイッチングに加えて、1ピコ秒以内で絶縁体⇄金属の双方向光スイッチングにも成功した。またこの双方向光スイッチング現象は低温から室温にわたる広い温度領域で実現可能であることを示した。

(a)金属状態の試料に単一の光パルスを照射したとき、及び(b)第一光パルスで生成した状態にさらに第二光パルスを照射したときの反射率の時間変化。光照射直後(0ピコ秒)の塗りつぶされている応答が、金属から絶縁体の変化に対応している。(b)では、第一光パルスによる反射率変化を除いている。
図3.
(a)金属状態の試料に単一の光パルスを照射したとき、及び(b)第一光パルスで生成した状態にさらに第二光パルスを照射したときの反射率の時間変化。光照射直後(0ピコ秒)の塗りつぶされている応答が、金属から絶縁体の変化に対応している。(b)では、第一光パルスによる反射率変化を除いている。

今後の展開

ホールペアの動きを光制御することにより実現する「隠れた絶縁体状態」を利用した絶縁体⇄金属双方向光スイッチングは、これまでの概念を覆す新しい光制御機構である。このような原理を確立することにより、新規な光制御技術・光機能性物質の開発に明確な指針を与えるだけでなく、室温を含む広範囲の温度域で高速に動作する次世代光スイッチングデバイスへの応用展開に向けて大きく前進すると期待される。

本成果は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)「先端光源を駆使した光科学・光技術の融合展開」研究領域における研究課題「光技術が先導する臨界的非平衡物質開拓」(研究代表者:腰原伸也、平成21年度~平成26年度)によって得られたものであり、東京工業大学応用セラミクス研究所笹川崇男准教授、東北大学 大学院理学研究科橋本博志博士課程3年、石原純夫教授らとの共同研究である。

用語説明

[用語1] 隠れた絶縁体状態 : 温度による相転移では到達できない、光励起でのみ実現可能な物質の状態。2011年、今回の共同研究者である腰原教授らによって、ペロブスカイト型構造のマンガン酸化物薄膜で「隠れた物質相」が初めて発見された。

[用語2] 光スイッチング : 光信号を電気信号に変換することなく、光により直接オン・オフを選択する方法。

[用語3] 光キャリアドーピング : 光のエネルギーを利用して物質中に電子や正孔(ホール)を注入する方法。

[用語4] ポンプ―プローブ分光法 : ポンプ光(励起光)を物質に照射することで起こる電子状態や構造の変化を計測するため、続けてプローブ光(計測光)を物質に照射してその反射率や透過率の変化を調べる計測手法。ポンプ光とプローブ光の間の時間間隔を変えることによって、物質の特性が変化していく様子をスナップショットのように刻々と追跡することが可能である。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Ultrafast electronic state conversion at room temperature utilizing hidden state in cuprate ladder system
著者 :
R. Fukaya, Y. Okimoto, M. Kunitomo, K. Onda, T. Ishikawa, S. Koshihara, H. Hashimoto, S. Ishihara, A. Isayama, H. Yui, and T. Sasagawa
DOI :

問い合わせ先

高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所
特任助教 深谷亮

Email : ryo.fukaya@kek.jp
Tel : 029-879-6185 / Fax : 029-879-6187

東京工業大学 大学院理工学研究科 物質科学専攻
教授 腰原伸也

Email : skoshi@cms.titech.ac.jp
Tel / Fax : 03-5734-2449

東北大学 大学院理学研究科 物理学専攻
教授 石原 純夫

Email : ishihara@cmpt.phys.tohoku.ac.jp
Tel / Fax : 022-795-6436

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東北大学 大学院理学研究科
特任助教 高橋亮

Email : r.takahashi@m.tohoku.ac.jp
Tel : 022-795-5572 / Fax : 022-795-5831

服部祥平助教が日本地球化学会奨励賞を受賞

$
0
0

9月17日に横浜国立大学で行われた2015年度日本地球化学会第62回年会において、本学大学院総合理工学研究科化学環境学専攻の服部祥平助教が、奨励賞を受賞しました。

この賞は、地球化学の進歩に寄与するすぐれた研究をなし、なお将来の発展を期待しうる、満35才未満の日本地球化学会会員に送られる賞です。

日本地球化学会会長と受賞者の集合写真(服部助教は左端)
日本地球化学会会長と受賞者の集合写真(服部助教は左端)

  • 受賞題目
    「硫化カルボニルの硫黄同位体情報を用いた成層圏硫酸エアロゾルの生成過程に関する研究」

今回の受賞を受けて、服部助教は以下のようにコメントしています。

この度、日本地球化学会より奨励賞をいただきました。大学1年生の時に地球化学という講義で興味を抱き、あれこれ回り道をしながらも、現在に至るまで地球化学を続けています。たくさんの憧れの先生方と出会った「ふるさと」である地球化学会から栄誉ある賞をいただけたことは本当に嬉しいです。今後もより一層努力し、研究に精進する所存です。この賞をいただくにあたり、ご指導及び共同研究をしていただいてきた本学の吉田尚弘教授、上野雄一郎准教授にはこの場を借りて御礼申し上げます。

服部助教による日本地球化学会でのプレゼンテーション

服部助教による日本地球化学会でのプレゼンテーション

日本地球化学会会長から表彰状を受け取る服部助教

日本地球化学会会長から表彰状を受け取る服部助教

問い合わせ先

大学院総合理工学研究科 化学環境学専攻 服部祥平

Email : hattori.s.ab@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5506

地球初期の大気環境復元に手がかり―二酸化硫黄の紫外吸収スペクトルを全同位体で決定―

$
0
0

概要

東京工業大学理工学研究科の上野雄一郎准教授らは、四つすべての硫黄安定同位体を含む二酸化硫黄(SO2)の同位体分子種(32SO233SO234SO2および36SO2)の紫外吸収スペクトルを世界ではじめて決定した。この同位体分子種情報を用いれば、25億年以上前の堆積物に残された同位体異常を用いて、地球初期の大気化学過程を解読することができる。

背景

硫黄は四つの安定同位体を持ち、それぞれの存在度は32S(95.05%)、33S(0.75%)、34S(4.21%)および36S(0.02%)である。最も多い32Sに対する希少な三つの同位体比の存在比率は天然ではわずかに変化する。通常、様々な物理化学過程において33Sの濃縮度は34Sに対しておよそ半分となる。

しかし、例外的に紫外線によるSO2分子の光化学反応はこのルールが破られることが知られており、同位体異常を生じる。無酸素大気中では、火山から供給されたSO2分子がこの硫黄の同位体異常を獲得し、その異常は各種の硫黄エアロゾルを通して海洋から堆積物中へと輸送される。

この硫黄同位体異常は25億年以上前の堆積物に限って発見されており、当時の大気が無酸素状態であったことを意味している。同位体異常を作る大気条件をさらに詳しく調べれば、初期大気の組成や、その変動について、より多くの情報が得られると期待されている。

しかし、これまでの古大気研究では主に33Sの同位体異常に焦点が当てられたものであり、存在度の最も低い36Sの同位体異常が持つ情報は十分に引き出されていなかった。

成果

今回、上野准教授らは初めて、36SO2を含むすべてのSO2同位体分子種について、それらの紫外吸収スペクトルを決定した。この情報を使うことにより、いかなる環境因子が同位体分別のパターンを変えるのかを予測することが可能となった。また、同位体分子種ごとのスペクトルの差は非常に小さいために高精度の分析が必要となるが、今回は計測法を改良することにより、同位体分別を解析するのに十分な高精度のスペクトルデータを取得することに成功した。

計測の結果、 SO2分子の光解離が引き起こす同位体異常は、太陽光と同様のスペクトルをもつ紫外線が照射されたと仮定すると、地層に記録されている33Sおよび36Sの異常と良く一致することが明らかになった。さらに、同位体分別のパターンは大気SO2濃度などの環境因子によって変化することが示された。従って、地層に記録された同位体異常から、当時の大気環境(潜在的にはSO2濃度、大気全圧および酸化還元状態)を復元することが可能になると期待される。

展望

同位体分別を左右する大気化学的な要因がSO2分子の反応に由来することが明らかになったことで、今後はこれらの環境因子がどれだけの同位体異常を引き起こすかを実験的に明らかにすることで、地球初期大気のSO2濃度、大気全圧および酸化還元状態を定量的に推定することが可能になると期待される。

SO2同位体分子種ごとの吸収スペクトル。

図1. SO2同位体分子種ごとの吸収スペクトル。

同位体ごとに吸収波長がシフトしていると同時に吸収断面積の大きさも異なる。そのため、照射される紫外線のスペクトルに応じて、それぞれの同位体分子種の光解離反応速度が変わり、同位体異常を生じる原因となる。

論文情報

掲載誌 :
Journal of Geophysical Research, Atmosphere
論文タイトル :
Photoabsorption cross-section measurements of 32S, 33S, 34S and 36S sulfur dioxide from 190 to 220 nm
著者 :
Endo Y, Danielache S, Ueno Y, Hattori S, Johnson MS, Yoshida N, Kjaergaard HG
DOI :
掲載誌 :
Origins of Life and Evolution of the Biosphere
論文タイトル :
Decoding redox evolution before oxygenic photosynthesis based on the Sulfur-Mass Independent Fractionation (S-MIF) record
著者 :
Ueno Y, Danielache S, Yoshida N
DOI :

問い合わせ先

大学院理工学研究科地球惑星科学専攻
准教授 上野雄一郎

Email : ueno.y.ac@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2618


結晶の鎧まとう酵素?!―酵素の簡便な合成と長期保存を一挙に実現―

$
0
0

ポイント

  • 酵素の合成から単離、保護までを細胞内で一貫して完結
  • 酵素をタンパク質結晶の鎧に包むことで、長期安定保存を達成
  • 不安定な酵素保存やタンパク質のリサイクル触媒、経口薬、ワクチンへの応用期待

概要

東京工業大学大学院生命理工学研究科の安部聡助教、上野隆史教授と京都工芸繊維大学の森肇教授らの研究グループは、細胞内で生じるタンパク質結晶化現象[用語1]を利用し、酵素の合成、単離保護までを一貫して細胞内で行う手法を開発した。これまで、酵素の産業利用で問題とされていた、煩雑な操作性と長期安定保存の困難さを一挙に解決する技術として期待される。

具体的には、昆虫ウィルス[用語2]が細胞感染時に作り出す多角体[用語3]と呼ばれるタンパク質が細胞中で結晶化するのと同時に、同じ細胞で、多角体結晶に親和性の高いタグペプチドを組み込んだ酵素を作り出し、結晶に内包させた。さらに、多角体のアミノ酸置換によって、酵素の活性を保持したまま、結晶から放出することに成功した。

一連の反応は単一の細胞内で完結されるため、タンパク質精製などの煩雑な操作は完全に不要となり、熱やpH変化に弱い酵素や低収量の酵素合成に利用できるだけでなく、結晶からの放出制御を利用し、経口薬やワクチンへの応用が期待される。

今回の成果は、内閣府の最先端・次世代研究開発支援プログラムの支援によるもので、化学・材料分野において最も権威のある学術誌の一つである「アドバンスドマテリアルズ(Advanced Materials、先端材料誌)」のオンライン版で10月23日に公開された。

研究背景

酵素は、生体内で様々な化学反応を温和な条件で高選択、高効率で行うタンパク質であり、工業的にも注目を集めている。しかし、多くの酵素はpHの変化や溶媒環境に活性が大きく影響され、活性を維持したまま長期保存することは困難である。近年、酵素の耐熱向上や有機溶媒中での安定性や活性向上のために、メソポーラスシリカやリポソームなどの高分子材料への固定化が注目を集めているものの、単離精製した酵素を共有結合や物理吸着により固定化するため、精製や固定化反応の煩雑な操作が必要となる。これらの問題点を解決するため、酵素の合成から固定化までを簡便かつ大量に行い、酵素の活性を維持したまま長期にわたって保存可能な酵素固定化技術の開発が求められていた。一方、昆虫ウィルスは自然界で自らを保護するために多角体を形成し、その中にウィルス粒子を内包することが知られている。本研究グループはこの現象に着目し、カイコに感染する昆虫ウィルスが作る多角体結晶へウィルスの代わりに様々なタンパク質を内包することを試みてきた。これらの研究を踏まえ、昆虫ウィルスの多角体結晶形成の現象を上記の課題克服にうまく利用できるのではないかと考えた。

研究内容

本研究グループは、昆虫細胞内で合成されるタンパク質結晶である多角体結晶のウィルス内包機構に着目し、多角体結晶へ細胞内で別途合成した酵素を内包し、酵素の安定保存と多角体の溶解を利用した酵素の放出制御を試みた。多角体結晶は、ウィルス保護という本来の機能のため、乾燥、有機溶媒に高い耐性を示し、pH2-10の緩衝溶液中でも溶解しない高い安定性を有しているため、内部に固定化した酵素の長期保存が期待できる。

多角体は、結晶を構成する多角体タンパク質を培養細胞で発現するとウィルスを含まない結晶を合成することができる(図1a, b)。多角体タンパク質とリン酸化酵素(PKC)を細胞内で同時に合成することにより、自発的にPKCが固定化した多角体を合成した(図1c)。さらに、遺伝子工学的にアミノ酸置換を施し、pH8.5で溶解し、PKCを放出する多角体変異体を合成した。PKC固定化多角体の酵素活性とこれらを乾燥状態で保存した際の酵素の安定性について評価した。

(a)細胞内で合成される多角体結晶、(b)多角体結晶の走査型電子顕微鏡像、(c)酵素内包多角体の細胞内合成

図1. (a)細胞内で合成される多角体結晶、(b)多角体結晶の走査型電子顕微鏡像、(c)酵素内包多角体の細胞内合成

(1)酵素固定化タンパク質結晶の合成

多角体タンパク質を昆虫細胞内で合成するのと同時に、多角体タンパク質と高い親和性をもつタグペプチド[用語4]を組み込んだPKCを同じ細胞内で合成することにより、多角体内部へのPKCの内包を行った。野生型では、pH8.5で酵素は放出されないのに対し、多角体の安定性に大きく関与していると思われるアルギニン13をアラニンやリシンに置換したR13A、R13K変異体[用語5]は、pH8.5で溶解し、固定化している酵素を放出することがわかった(図2)。

PKC内包多角体の溶解による酵素の放出量

図2. PKC内包多角体の溶解による酵素の放出量

(2)酵素活性反応

PKCを固定化した多角体を用いてpH7.5とpH8.5の条件下でペプチドのリン酸化反応を行った。また、多角体に固定化したPKCの安定性を評価するため、PKC固定化多角体を1週間風乾した後の活性を測定した。その結果、R13A、R13K変異体は、pH8.5で活性を維持したまま酵素を放出すること、多角体に固定化していないPKC(free PKC)が失活する乾燥状態でも活性を維持できることがわかった(図3)。

以上より、多角体のアミノ酸置換によりpH8.5で溶解する結晶を作成し、内包した酵素を放出することに成功した。多角体に固定化されたPKCは乾燥に対しても活性を維持したまま保存可能であることがわかり、多角体がタンパク質の固定化材料として有用であることを示した。

(a)PKC内包多角体の酵素活性、(b)乾燥前後での活性評価

図3. (a)PKC内包多角体の酵素活性、(b)乾燥前後での活性評価

今後の展開

今回の研究では、結晶を形成する多角体タンパク質と酵素を一つの細胞内で同時に合成することによって酵素を固定化した多角体の合成に成功した。したがって、タンパク質精製や材料への固定化といった煩雑な操作が不要であるため、不安定な酵素や低収量のタンパク質合成に利用できる。さらに、多角体結晶に内包したタンパク質の安定保存と必要な時に結晶を溶解し、内包した酵素やタンパク質放出が可能なことから経口薬やワクチンへの応用が期待される。

用語説明

[用語1] 細胞内タンパク質結晶化現象 : タンパク質結晶は通常、タンパク質と結晶化を促進する沈殿剤とを混合することにより結晶化を行う。一方、細胞内タンパク質結晶は、タンパク質自身の安定化や細胞内分子の貯蔵や運搬のために、細胞内で自発的に結晶を形成する。1960年代からこの現象は確認されているものの、細胞内での詳細な結晶化機構は未だ明らかになっていない。

[用語2] 昆虫ウィルス : 本研究では昆虫ウィルスの一種、細胞質多角体病ウィルスを研究対象としている。このウィルスは二本鎖核酸RNAを有する球状ウィルスで大きさは直径70nm程である。このウィルスに昆虫が感染すると細胞質に多角体タンパク質からなる結晶が合成され、ウィルス自身が内部に封入される。

[用語3] 多角体 : 細胞質多角体病ウィルスの感染後期に合成される多角体タンパク質が自発的に集合し結晶化したタンパク質の構造体である。水中、有機溶媒中においても結晶が溶解しない高い安定性を有している。pH10以上のアルカリ溶液にのみ溶解し、内部に固定化していたウィルス粒子を放出する。

[用語4] タグペプチド : 多角体結晶に酵素やタンパク質を内包させるためのペプチド。内包する酵素やタンパク質のN末端に多角体タンパク質の一部分の30残基からなるペプチド配列を組み込むことにより多角体に内包できる。

[用語5] アルギニン13をアラニンやリシンに置換したR13A、R13K変異体 : 低いpHで多角体を溶解させるために作成した変異体結晶。多角体タンパク質の13番目のアルギニンは、周辺のタンパク質と水素結合を形成しており、多角体の安定化に重要な役割を果たしている。

論文情報

掲載誌 :
Advanced Materials
論文タイトル :
Design of Enzyme-Encapsulated Protein Containers by In Vivo Crystal Engineering
著者 :
Satoshi Abe, Hiroshi Ijiri, Hashiru Negishi, Hiroyuki Yamanaka, Katsuhito Sasaki, Kunio Hirata, Hajime Mori,* and Takafumi Ueno*
DOI :

問い合わせ先

東京工業大学
大学院生命理工学研究科生体分子機能工学専攻
教授 上野隆史

Email : tueno@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5844 / Fax : 045-924-5806

京都工芸繊維大学
理事・副学長(応用生物学系教授) 森肇

Email : hmori@kit.ac.jp
Tel : 075-724-7005 / Fax : 075-724-7100

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

京都工芸繊維大学企画課広報室

Email : koho@jim.kit.ac.jp
Tel : 075-724-7016 / Fax : 075-724-7029

タンパク質だけの汎用蛍光バイオセンサーを開発

$
0
0

概要

東京工業大学資源化学研究所の上田宏教授と鍾蝉伊(チュン チャンイ)研究員らは、二つの蛍光タンパク質と抗体[用語1]断片を巧妙に用いた、汎用性の高いバイオセンサーの構築に成功した。

この手法を用いることで、細胞内外の多くのタンパク質の濃度を、混ぜて蛍光色(スペクトル)を測定するだけで簡便迅速に測ることが可能となり、基礎的な生物学の実験から病気の診断まで、幅広い分野での応用が期待される。

研究成果

抗体は、我々の体内でさまざまな外敵分子(抗原)を認識・結合し我々を守ってくれるタンパク質である。しかしこれまで、試験管の中に入れた抗体が抗原に結合したかどうかを知ることは、手間暇をかけて実験するか、大変高価な測定機を用いて検出しない限り不可能であった。上田教授らは、この抗体断片に緑色蛍光タンパク質「GFP」[用語2]の色が異なる二つの変異体を結合させ、血清アルブミン(SA)[用語3]をその場で検出できるバイオセンサーを作ることに成功した。

これら二つの蛍光タンパク質(シアン蛍光タンパク質「CFP」と黄色蛍光タンパク質「YFP」)は、両者の間の距離が遠い時には水色(シアン)の蛍光を発するが、距離が短いと、蛍光共鳴エネルギー移動[用語4]と呼ばれる機構により黄色の蛍光を発するようになる。これらのタンパク質を抗体の抗原結合部位を形作る二つの断片のそれぞれに注意深く結合させることで、抗原であるSAの有無で顕著に蛍光色が変化することを見いだした。このセンサーはタンパク質のみからできているにも関わらず、サンプルと混ぜて蛍光色を測るだけで診断に十分な感度でSAが検出できる。今後用いる抗体を変えることで様々なタンパク質の検出に応用できると考えられる。

今回作られたバイオセンサーによる検出の模式図。別名オープンフラワー免疫測定法。

図. 今回作られたバイオセンサーによる検出の模式図。別名オープンフラワー免疫測定法。
Copyright (2015) American Chemical Society.

今後の展開

抗原タンパク質と混合し、蛍光を測定するだけでその定量が可能になる今回の技術は、検出に特殊な技術を要しないことから生物学や生物工学における基礎的な実験法としての利用のみならず、各種のタンパク質、例えば食品中のアレルゲンや体液中のバイオマーカーの迅速検出に大いに役立つと考えられる。

用語説明

[用語1] 抗体 : 我々の体内で外敵から身を守ってくれるタンパク質。抗原結合部位でターゲット(抗原=外敵)を認識し、結合する。

[用語2] 緑色蛍光タンパク質(GFP) : 下村脩氏が発見された、オワンクラゲ由来のタンパク質。変異導入により、多数の発光色の異なる変異体が作られている。

[用語3] 血清アルブミン(SA) : 血中総タンパク質の約6割を占める。この濃度は栄養状態の良い指標となることが知られている。

[用語4] 蛍光共鳴エネルギー移動(FRET) : 二つの蛍光色素が近くに位置する時、短波長の色素を励起してもエネルギーが移動して長波長の蛍光が観察される現象。

論文情報

掲載誌 :
Analytical Chemistry
論文タイトル :
Open flower fluoroimmunoassay: a general method to make fluorescent protein-based immunosensor probes
著者 :
鍾 蝉伊1、牧野良史1、董 金華2、上田 宏2
所属 :
1東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻、2資源化学研究所
DOI :

問い合わせ先

資源化学研究所プロセスシステム工学部門
教授 上田宏

Email : ueda@res.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5248

大隅良典栄誉教授が平成27年度文化功労者に

$
0
0

本学フロンティア研究機構 大隅良典栄誉教授が、平成27年度文化功労者に選ばれました。文化功労者とは、文化の向上発達に関し特に功績顕著な者を顕彰するものです。

大隅栄誉教授は、細胞が栄養環境などに適応して自らの細胞内のタンパク質を分解する自食作用「オートファジー」に関して、その分子機構や多様な生理的意義を解明する優れた業績を上げました。オートファジー研究を生命科学研究の先端的研究へと牽引し、細胞生物学の発展に多大なる貢献をしました。

大隅良典栄誉教授
大隅良典栄誉教授

大隅良典栄誉教授コメント

この度、文化功労者として顕彰されることとなり、誠に有り難く存じます。私は中々先が見えにくい基礎研究の道を一貫して歩んでまいりました。そして酵母の液胞の研究からオートファジーという細胞内タンパク質分解の理解を深めることができました。ようとして全容のみえない奥の深い課題に、じっくりと取り組むことができたことを幸運に思っております。これまでの研究を支えて頂いた方々のご支援と、日々の研究をともにした優れた共同研究者たちに心から感謝の意を表します。今後、若い次の世代が、残された課題に挑戦し、病気の克服などへと展開されることを心から願っています。またそのような環境作りに微力を尽くしたいと思います。

問い合わせ先

広報センター

Email : pr@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

末松安晴栄誉教授・元学長が平成27年度文化勲章を受章

$
0
0

末松安晴栄誉教授・元学長が、平成27年度文化勲章を受章することが決定しました。文化勲章は、科学技術や芸術など、文化の発達に卓絶した功績のある者に授与される勲章です。

末松安晴栄誉教授・元学長
末松安晴栄誉教授・元学長

末松安晴栄誉教授は、光通信工学の分野において、光ファイバーの伝送損失が最小となる波長の光を発し、かつ、高速に変調しても波長が安定した動的単一モードレーザーを実現しました。現在のインターネット社会を支える大容量長距離光ファイバー通信技術の確立に大きく寄与するなどの優れた業績を挙げ、本領域の発展に多大な貢献をしました。

末松安晴栄誉教授コメント

この度、文化勲章を拝受する栄に浴し、歴代ご受章された泰斗各位の末席をけがすことになり、恐縮致しております。

ここに改めて、お導きを賜った師の恩、人類の叡智を授かった古典の恩、革新の流れに生まれ合わせた時の恩、ご支援を頂いた研究費の恩、その時々の段階で卓越した貢献をされた弟子の恩、切磋琢磨させていただいた仲間の恩、父母兄弟妻子供達など家族の恩、そして文化を育み伝承して倶に歩む社会の恩、を噛みしめ、深甚の感謝に浸っております。

研究概要

単一波長・単一モード光ファイバー通信

図1. 単一波長・単一モード光ファイバー通信

光は人類が制御出来る最高周波数の電磁波で、大容量の通信には電波よりも格段に有利であります。光通信の研究が日米英を中心に行われました中で、大容量の情報を長距離にわたって世界中に隈なく伝送できそうなところに光ファイバー通信の本質が見定められました。そしてこの本質を具現するために、

1.
長距離伝送のために、光ファイバーの損失が最低になる波長1.5ミクロン帯(この波長帯は研究を進める途中で明確になった)で働き、
2.
単一モード光ファイバーの伝搬定数分散による伝送帯域制限の問題を乗り越えるために、単一波長で安定に動作し、
3.
さらに、多波長の通信に対応するために、波長が同調により可変できること、

の3つの特徴を同時に持った、動的単一モードレーザー(DSMレーザー)の開拓に専念しました。

位相シフト分布帰還(DFB)レーザー ~温度同調の動的単一モード(DSM)レーザー
図2.
位相シフト分布帰還(DFB)レーザー
~温度同調の動的単一モード(DSM)レーザー

まず、GaInAsP/InP混晶の材料を開拓して、光ファイバーの損失が最低になる波長1.5ミクロン帯において働く半導体レーザーを実現し、その室温連続動作を達成しました。この間に、二つの分布反射器を半波長だけ位相シフトさせて結合させる単一モード共振器を発案しました。また、光回路を一体集積しうる集積レーザーを実現しました。こうした準備の下に、1980年に、1.5ミクロン帯の材料を用い、分布反射器を一体化した集積レーザーを創り、高速直接変調の下でも安定に単一モード動作する動的単一モードレーザーを実現し、室温連続動作に成功しました。このレーザーは温度を変えても動作モードが安定なので、波長を温度で同調することができました。こうして、温度同調の動的単一モードレーザーが誕生しました。他方では、日米を始めとする企業において、光ファイバー、光回路、光デバイス、変調方式やシステム構成、そして電子デバイスなどの研究開発が進み、動的単一モードレーザーの実現が一つの契機となって、大容量長距離光ファイバー通信技術が開拓され、1980年代の後半から商用化が進みました。

この中で、1974年に発案して1983年に実証した位相シフト分布帰還(DFB)レーザーは、温度同調の動的単一モードレーザーで、生産の歩留まりが高く、1990年の初頭から長距離用の標準レーザーとして一貫して広く商用され、筆者は一応の安堵を味わいました。これに対して、筆者が最終形態と考えた電気同調の動的単一モードレーザーは、1980年に提案して1983年に実証した波長可変レーザーで、このレーザーは使われるまでに随分長くかかりました。この波長可変レーザーが、関係者の努力で開拓され、高密度波長分割多重(DWDM)システムにおいて商用されるようになったのは2004年頃で、2010年頃には本格的に活用されるようになりました。このことを知ったのは、ごく最近の3-4年前のことで、やっと自分の仕事に納得できた次第であります。

波長可変レーザー ~電気同調の動的単一モード(DSM)レーザー
図3. 波長可変レーザー ~電気同調の動的単一モード(DSM)レーザー

光通信用半導体レーザーの研究でもう一つ特記したいのは、伊賀健一前東工大学長が1988年に開拓したVCSELと呼ばれる半導体レーザーであります。このレーザーも適切な設計の下では動的単一モードレーザーとなります。小電力動作を特徴として、本研究の長距離通信を補完し、小中距離光ファイバー通信用として内外で広く用いられています。

本研究の社会的な貢献

1.5μm波長帯の大容量・長距離光通信は、動的単一モードレーザー、DSMレーザー、を光源とし、光デバイスや変調方式などの研究・開発につれて発展しました。本研究で開拓した温度同調のDSMレーザーは、陸上の幹線システム(1980後期)や大陸間海底ケーブル(1992)の長距離用に商用化されて、インターネットの発展を支えて今日に至っています。さらに2004年ごろからは、電気同調のDSMレーザー、波長可変レーザー、が高密度波長分割多重(DWDM)システムの高度化やコヒーレント通信の光源に用いられています。

光ファイバー当たりの伝送容量の経年増加
図4. 光ファイバー当たりの伝送容量の経年増加

現在、光ファイバー通信は地球を数万回取り巻く高密度の情報ネットワークを形成しており、中距離のイーサーネット等にも広く用いられています。さらに、FTTHによる家庭の光回線では、局から家庭への回線に1.5μm帯のDSMレーザーが用いられています。

こうして光ファイバー通信の情報伝送性能は、それ以前の同軸ケーブルの性能の数十万倍に達し、情報伝送のコストを格段に低下させました。これを反映して、1990年代の中葉には、Googleや楽天などのネットワーク産業が続出しました。光ファイバー通信が進歩してインターネットが発展し、大容量情報の即時伝送が日常的となりました。1960年代の電気通信時代は文明を担う文書などの大容量情報は、書物などとして流布されていました。これに対して、大容量長距離光ファイバー通信の普及は、書物などの大容量情報を即時に双方向で利用することが出来るように成りました。光ファイバ通信の研究は、未来と考えられていた情報通信技術文明をこの世に引き寄せるのに貢献したといえるのではないでしょうか。

略歴

  • 1960年3月
    東京工業大学大学院理工学研究科修了(工学博士)
  • 1960年~1973年
    東京工業大学助手、助教授
  • 1973年~1988年
    東京工業大学教授、工学部長
  • 1989年~1993年
    東京工業大学学長
  • 1992年~1993年
    電子情報通信学会会長
  • 1994年~2000年
    総理府宇宙開発委員会委員
  • 1997年~2005年
    高知工科大学学長
  • 1997年~2005年
    日本学術会議会員
  • 2001年~2005年
    国立情報学研究所所長
  • 2003年~2005年
    文部科学省科学技術・学術審議会会長
  • 2009年~現在
    高知工科大学 顧問
  • 2010年~現在
    公益財団法人 高柳記念財団理事長
  • 2011年~現在
    東京工業大学 栄誉教授
  • 2012年~現在
    公益財団法人 放送文化基金理事長

主な受賞歴

  • 1983年
    ワルデマ-・ポ-ルセン金メダル(デンマーク)
  • 1986年
    デビッド・サーノフ賞(米国)
  • 1989年
    東レ科学技術賞
  • 1993年
    ジョン・チンダル賞(米国)
  • 1994年
    NEC C&C賞
  • 1994年
    放送文化賞
  • 1996年
    紫綬褒章
  • 1997年
    エドワード・ライン賞(ドイツ)
  • 2003年
    文化功労者
  • 2003年
    IEEEエヂュケーション・メダル(米国)
  • 2005年
    中津川市名誉市民
  • 2006年
    瑞宝重光章
  • 2006年
    大川賞
  • 2014年
    日本国際賞
  • 2014年
    東海テレビ文化賞

問い合わせ先

広報センター

Email : pr@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

10月30日16:50 タイトルと本文に誤字がありましたので、修正しました。

RU11「自由な発想に基づく独創性豊かで多様な研究を継続的に支援することの重要性について」(提言)

$
0
0

学術研究懇談会(RU11)は、日本における最先端の研究・人材育成を担う、国立・私立という設置形態を超えたコンソーシアムです。北海道大学、東北大学、筑波大学、東京大学、早稲田大学、慶應義塾大学、東京工業大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学の11大学で構成されています。

このたび、RU11の総長・塾長・学長は、自由な発想に基づく独創性豊かで多様な研究を継続的に支援することの重要性について提言をまとめました。

平成27年11月6日

自由な発想に基づく独創性豊かで多様な研究を継続的に支援することの重要性について(提言)

学術研究懇談会(RU11)

北海道大学総長
山口 佳三
東北大学総長
里見  進
筑波大学学長
永田 恭介
東京大学総長
五神  真
早稲田大学総長
鎌田  薫
慶應義塾長
清家  篤
東京工業大学学長
三島 良直
名古屋大学総長
松尾 清一
京都大学総長
山極 壽一
大阪大学総長
西尾 章治郎
九州大学総長
久保 千春

学術研究懇談会(RU11)は、設置形態を超えた11の大学による学術の発展を目的としたコンソーシアムであり、研究及びこれを通じた高度な人材の育成に重点を置き、世界的にも独創性豊かで多様な研究成果を発信し続けています。また、これまで学術研究の重要性を訴え、数多くの提言を社会に発信してきました。

このたび、大村智北里大学特別栄誉教授がノーベル医学生理学賞を、また梶田隆章東京大学教授がノーベル物理学賞を、それぞれ受賞されましたことに、心よりお祝い申し上げます。これで、日本人のノーベル賞授賞者は(米国籍の2人を含め)24人となり、2001年以降の自然科学分野での受賞者数については、世界2位となっています。ノーベル賞の受賞テーマの多くは、自由な発想に基づく独創性豊かな研究であり、当初は価値の定まっていない研究を忍耐強く長い年月をかけて深めていった帰結として、知の地平を拡大し、さらに人々への福祉に資する社会的価値を生みだすことで、人類社会全体に大きな貢献を果たしたものです。今回の両博士の受賞においても、個人の自由な発想を起点とする独創性豊かで多様な研究を大学において推進することが如何に重要であるかを示すものとなりました。こうしたノーベル賞の受賞テーマをはじめ、多様な分野にわたる学術研究は、社会・経済の長期的・持続的な発展に大きく寄与しており、この意味からも学術研究の振興は重要であります。

しかし、研究においてグローバル化が急速に進展し国際競争が激化する中で、日本の大学をとりまく環境は厳しさを増し、とりわけ研究を支える財政的基盤は年々縮小しています。このままでは将来に渡ってノーベル賞を生み出し続ける状況を維持できるか、強い危惧を抱かざるを得ない状態となっております。

RU11としては、今回のノーベル賞受賞を受け、日本の独創性豊かで多様な研究をより一層発展させる環境を整備するために、以下の研究支援策について提言致します。

1. 基盤的研究費(国立大学運営費交付金ならびに私学助成の確保)

独創的な研究成果の源泉は、自由な発想に基づく多様な研究を粘り強く進めることであり、それを生みだす土壌を支えることは最優先されるべきです。国立大学法人の運営費交付金は、法人化以降毎年減額され続け、平成27年度の10,945億円は平成16年度と比較して1,470億円(13.4%)の削減となりました。私立大学についても、経常費補助金における補助割合は50%が目標のところ、昭和55年度の29.5%をピークに減り続け、平成27年度は推計で10.1%にとどまっております。

これら交付金あるいは私学助成は、独創的な基礎研究を下支えするとともに、教育、運営、施設の維持・管理等の必須の財源として活用されてきました。各大学においては、運営の効率化を進め、外部資金の獲得を拡大する等様々な対策を講じ、厳しい財務状況に対応して参りました。しかし、新たな発想に基づく研究への支援、若手人材の雇用などの未来への投資や、施設の安全確保など、基盤的研究にとって不可欠な安定した財源が枯渇しています。RU11は、運営費交付金ならびに私学助成のこれ以上の削減は行わず、文部科学省が要求しているこれらの確保を確実に実現するよう、強く要望するものです。

2. 科学研究費補助金の充実

前述のように、大学には、自由な発想に基づく独創性豊かで多様な研究の推進が求められます。このような研究には、研究者の自由な発想によるテーマ設定と研究の進展状況に合わせた柔軟な研究進捗管理が重要となります。今回のノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章教授らのカミオカンデ、スーパーカミオカンデにおける一連の研究では、当初の目的である陽子崩壊の観測において、雑音とされていた大気ニュートリノの観測データの解析が、受賞理由であるニュートリノ振動の発見につながりました。この一連の研究は、約25年に渡ってほぼ継続する形で文部科学省の科研費による支援を受けております。また、大村智特別栄誉教授も科研費の助成を受けており、科研費は研究者を支える基盤的な研究支援制度として、他の競争的研究費にはない極めて重要な機能を果たしています。

また科研費は、研究者からの提案をピアレビューに基づく評価で厳正に審査し、大学の優れた研究を支える中核的な財源であるとともに、制度的にもいち早く基金化を導入し、研究の進捗に合わせた費目間流用も認めるなど、研究者にとって使い易く柔軟性の高いものとなっています。このように科研費は、独創性豊かで多様な研究を進める上で、極めて重要かつ有効な研究資金制度となっています。

しかし、この科研費でも、平成24年度以降予算額の横ばい状態が続いています。ノーベル賞受賞テーマに限らず、社会において大きな価値創造につながった研究についても、研究者の自由な発想に基づく提案型の研究が発端となったものは枚挙にいとまがありません。研究成果の指標である論文生産の質と量の向上の観点では、他の競争的研究費と比べても科研費が特に役立っていることを示す具体的なデータもあります。RU11としては、科研費の予算額が拡充されることに加えて、その本来的な機能が今後も十分に維持されるとともに、研究者が、継続的に、独創性豊かな多様で挑戦的な研究を粘り強く推進できるように、より充実した優れた制度へと展開されることを、強く望むものです。

3. 競争的研究費における間接経費の適切な措置

各研究者は研究費確保のため、各種競争的研究費の獲得に努力しています。競争的研究費は、基本的に、申請時に設定された具体的なテーマに固有で直接必要な物品の購入や、旅費、研究に直接関わる人件費等に充当されます。一方、個々の研究課題を遂行するためには、大学が自ら積み上げ維持してきた研究環境や設備機器も活用しています。学術文献の拡充、光熱水費、設備や建物の維持管理費、研究を支援する多様な人員の配置等、大学で研究活動を遂行する際に必ず必要とする、これら間接的な研究環境の整備も必須となります。これらは、一般に競争的研究費で直接措置することは難しい為、運営費交付金、私学助成、ないしは寄付金等で賄うこととなります。しかし、前述のように、削減される基盤的研究費でこれらを賄うことは、極めて難しい状況にあります。競争的研究費を獲得したとしても、大学は研究を支える財政的余裕がない状況が生じています。

このような問題を改善するためには、競争的研究費への間接経費の適切な措置が不可欠です。RU11ではこれまでも例年、間接経費を拡充するよう提言してきました。RU11の提言に応えて、文部科学省も間接経費の拡充を検討しています(「研究成果の持続的創出に向けた競争的研究費改革について(中間取りまとめ)」平成27年6月24日)。RU11は、文部科学省のこのような方針を強く支持するとともに、平成28年度予算において、全ての競争的研究費について直接経費に外付けされる形で、30%の間接経費が措置されることを強く要望するものです。

日本の基礎研究を中核的に担うRU11では、こうした研究支援策の拡充を求めるとともに、「世界的にも独創性豊かで多様な研究成果を発信し続ける」ことに加えて、国際共同研究の拡大、人事交流、留学生の派遣・受入れの促進、教育体制の改善などにもより一層努め、それら成果の正確な分析ならびに評価指針の構築を進めることにより、自らを革新する努力を進めて、国民の皆様の期待に応えて参ります。

お問い合わせ先

研究推進部研究企画課研究企画グループ
Email : pro.sien@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3803

電池を使うと超伝導に―超伝導エレクトロニクス実現に道筋―

$
0
0

成果のポイント

  • チタン酸リチウム薄膜を負極に用いたリチウムイオン電池セルを形成
  • セルの充放電によりチタン酸リチウムの超伝導-常伝導状態の制御に成功
  • 超伝導エレクトロニクス応用につながる新技術

概要

東京工業大学大学院理工学研究科の吉松公平助教と大友明教授らの研究グループは、リチウムイオン電池[用語1]の充電・放電原理を用いることにより、チタン酸リチウム[用語2]の超伝導[用語3]状態制御(スイッチング)に成功した。

超伝導材料であるチタン酸リチウム薄膜を負極材に用いたリチウムイオン電池セル構造を形成して充電・放電操作を繰り返し行い、同時にチタン酸リチウムの電気抵抗を測定した。その結果、充電時には常伝導に、放電時には超伝導にと可逆的[用語4]に電気抵抗が切り替わることを実証した。

これにより、超伝導-常伝導状態のスイッチングが可能となり、超伝導エレクトロニクスの実現が期待される。研究成果は、英国の科学誌ネイチャー(Nature)の姉妹紙のオンラインジャーナル「サイエンティフィック リポーツ(Scientific Reports)」で11月6日に公開された。

研究成果

東工大の吉松助教と大友教授らの研究グループは、リチウムイオン電池の動作原理に着目し、超伝導制御をリチウムイオンの移動で行う新たな電子デバイス原理の提案・実証を行った。同研究グループは、高品質なチタン酸リチウム薄膜を作製し、その薄膜を負極としたリチウムイオン電池構造を形成(図1)した。この電池に対し、充電・放電操作を行い、同時にチタン酸リチウム薄膜の電気抵抗を測定した。

今回の研究で作製したリチウムイオン電池構造の概略図。超伝導材料であるチタン酸リチウム薄膜を負極に用いている。
図1.
今回の研究で作製したリチウムイオン電池構造の概略図。超伝導材料であるチタン酸リチウム薄膜を負極に用いている。

その結果、超伝導状態のチタン酸リチウム薄膜にリチウムイオンを挿入する充電反応を行うと、常伝導状態への転移が観測された。一方、チタン酸リチウム薄膜からリチウムイオンを脱離する放電反応を行なうことで、超伝導状態を回復させることに成功した(図2)。

チタン酸リチウムの可逆的な超伝導転移の様子。初期状態と放電状態では11ケルビンで抵抗率が0になり、超伝導状態が発現している。一方で、充電状態では抵抗率が0にならず常伝導状態となっている。さらに初期状態と放電状態の超伝導転移温度が一致しており、可逆的な転移であることがわかる。
図2.
チタン酸リチウムの可逆的な超伝導転移の様子。初期状態と放電状態では11ケルビンで抵抗率が0になり、超伝導状態が発現している。一方で、充電状態では抵抗率が0にならず常伝導状態となっている。さらに初期状態と放電状態の超伝導転移温度が一致しており、可逆的な転移であることがわかる。

また、充電・放電操作前後での超伝導転移温度を比較したところ、両者が完全に一致しており「可逆的な超伝導転移」であることを発見した。この超伝導転移は、充電・放電サイクルを繰り返しても安定に発現する(図3)。すなわち、「超伝導・常伝導」状態を「On・Off」とする超伝導デバイスへとつながる成果である。

充電・放電状態でのチタン酸リチウムの超伝導転移温度変化の様子。充電・放電反応を繰り返しても、充電状態では常伝導、放電状態では超伝導をとる。
図3.
充電・放電状態でのチタン酸リチウムの超伝導転移温度変化の様子。充電・放電反応を繰り返しても、充電状態では常伝導、放電状態では超伝導をとる。

研究の経緯

超伝導体は核磁気共鳴画像法(MRI)により医療分野で活躍し、送電ケーブルやリニアモーターカーなどへの応用が期待される重要な技術である。この超伝導現象を電子デバイスへと適用する超伝導エレクトロニクスに関しても、実用化に向けた研究が行われている。超伝導状態と常伝導状態のスイッチングには、非常に多くの電子が必要である。しなしながら、超伝導状態を制御できるほどの電子をそのまま扱う基盤技術が存在せず、実用化への道のりは遠いと考えられている。そのため、この超伝導状態を制御可能なスイッチング手法の開発が強く望まれていた。そこで、本研究では電子とイオンをペアで扱うリチウムイオン電池に着目した。イオンを同時に移動させることで、従来よりも遥かに多くの電子を超伝導体に与えることができると考えられる。

今後の展開

今回の結果は、リチウムイオン電池の充電・放電現象を用いて超伝導状態が制御できることを実証したものである。今後は、セル構造の小型化や全固体化などを進め、超伝導エレクトロニクス実現へ向けた応用研究へと進展させる。

用語説明

[用語1] リチウムイオン電池 : リチウムイオンが伝導を担い、充電により繰り返し使用できる二次電池の1つ。リチウムイオン電解液が正極材と負極材に挟まれた構造を持つ。現在、携帯電話やノートパソコンのバッテリーなどに幅広く利用されている。

[用語2] チタン酸リチウム : Li1+xTi2O4の組成で表される複合酸化物材料。リチウムの組成xが-0.3 ≤ x ≤ 1の範囲で存在し、リチウム組成により超伝導状態にも常伝導状態にもなる。

[用語3] 超伝導 : 物質を非常に低い温度まで冷却したときに、電気抵抗が急激にゼロになる現象。

[用語4] 可逆変化 : 物質がある状態AからBへと変化した際に、再び状態BからAに戻ることができる場合に、可逆変化と呼ばれる。一方、戻ることができない場合には不可逆変化と呼ばれる。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Reversible superconductor-insulator transition in LiTi2O4 induced by Li-ion electrochemical reaction
著者 :
K. Yoshimatsu, M. Niwa, H. Mashiko, T. Oshima, and A. Ohtomo
DOI :

問い合わせ先

大学院理工学研究科応用化学専攻
助教 吉松公平

Email : k-yoshi@apc.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2146

大学院理工学研究科応用化学専攻
元素戦略研究センター(兼務)
教授 大友明

Email : aohtomo@apc.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2145

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

ハスの葉を鋳型にメタマテリアル作製―反射率1%以下の超薄膜光吸収構造実現―

$
0
0

要点

  • ハスの葉表面のナノ構造を鋳型に高効率で大面積の光吸収構造を作製
  • 光をトラップして反射率1%以下の光吸収構造を実現
  • 太陽電池の効率向上や光熱変換素子への応用に期待

概要

東京工業大学大学院総合理工学研究科の梶川浩太郎教授と、修士課程2年海老原佑亮、芝浦工業大学工学部の下条雅幸教授は共同で、ハス(蓮)の葉のナノ構造を鋳型に使い、高効率で大面積の「超薄膜光吸収メタマテリアル」の作製に成功した。

研究グループは高分解能走査型電子顕微観察により、ハスの葉の表面に直径100nm程度の多数のマカロニ状のナノ構造があることを見いだし、その上に膜厚10~30nmの金を被覆するだけで、照射された光をトラップして外に逃がさない光メタマテリアル[用語1]構造を作製した。このメタマテリアルはすべての可視光領域で反射率が1%以下という良好な光吸収構造[用語2]となっている。

この成果は、生体が持つナノ構造を鋳型とすれば、様々な機能を持つ大面積のメタマテリアル(バイオ・メタマテリアル)を低コストに作製することにつながると期待される。研究成果は、英科学誌ネイチャーグループのオンラインジャーナル「サイエンティフィック・リポーツ(Scientific Reports)」に11月4日掲載された。

研究成果

東工大の梶川教授、芝浦工大の下条教授らの共同研究グループは、ハスの葉を金の薄膜で被覆するだけで、表面に照射した光を吸収する大面積光メタマテリアル構造を作製した。その写真を図1(a)に示す。中心部分が光を吸収するため黒く、固定のためのテープの表面は金色である。いずれも金が被覆されているが、その違いは明らかである。金を被覆しても黒くなる性質は、図1(b)に示すハスの葉が持つ多数のマカロニ状のナノ構造が光をトラップするためと考えられる。

比較のため、同じように金で被覆してもドクダミの葉は図1(c)に示すように金色をしている。ヨモギやサンショウ(山椒)の葉を被覆しても同様に金色であった。ドクダミの葉の表面の電子顕微鏡像を図1(d)に示す。ドクダミはナノ構造を持たないことから、ハスの葉のナノ構造が光のトラップに重要な役割を果たしていることがわかる。

この構造は10~30nmという極めて薄い金属膜で光吸収構造が構築できるため、太陽電池の効率向上や高効率の光熱変換材料として期待できる。また、自然界のナノ構造を使った様々な大面積光メタマテリアル実現の可能性を示唆する。

(a)ハスの葉を30nm厚の金で被覆したメタマテリアル (b)ハスの葉の電子顕微鏡写真 (c)ドクダミの葉を30nm厚の金で被覆した試料 (d)ドクダミの葉の電子顕微鏡写真
図1.
(a)ハスの葉を30nm厚の金で被覆したメタマテリアル (b)ハスの葉の電子顕微鏡写真 (c)ドクダミの葉を30nm厚の金で被覆した試料 (d)ドクダミの葉の電子顕微鏡写真

研究の背景

光メタマテリアルは人工的なナノ構造を使った特異な光学的性質を示す物質である。負の屈折や物質の不可視化(クローキング)、高効率光吸収構造などに利用できる可能性があるため、多くの研究者の注目を集めている。光メタマテリアルの多くは、これまで微細加工技術を使って作製されてきた。そのため、低コストで大面積の光メタマテリアルを作製することは難しかった。

研究グループは自然界のナノ構造を利用して、特異な光学的性質を持つ人工材料の作製に成功した。自然界のナノ構造を利用すれば低コストで大面積のメタマテリアルが作製できる可能性があるため、基礎的な興味だけでなく応用上も意義がある。今回は高効率な光を吸収する構造を研究した。

研究の経緯

図2(a)に示すようにハスは夏に綺麗な花を咲かせるが、その葉の表面は強い撥水性(水を弾く性質)を持つ。これは、図2(b)に示すような表面のミクロな凹凸のこぶ構造が撥水性を強めているためである。このミクロなこぶ構造に加えて、こぶの表面に図1(b)に示した多数のマカロニ状のナノ構造が分布している。それらの模式図を図3に示した。これを鋳型として利用すれば光メタマテリアルを作製できると考えて研究を行った。

(a)蓮の花 (b)葉の表面のミクロ構造

図2. (a)蓮の花 (b)葉の表面のミクロ構造

蓮の葉の構造の模式図

図3. 蓮の葉の構造の模式図

今後の展開

自然界にはさまざまなナノ構造が多数存在し、今後、多様な性質を持つ光メタマテリアルが作製できると期待される。

用語説明

[用語1] メタマテリアル : 人工的なナノ構造を使った特異な光学的性質示す物質。負の屈折や物質の不可視化(クローキング)、高効率光吸収構造などに利用できる可能性がある。

[用語2] 光吸収構造 : 光を効率よく吸収する物質。太陽電池や光検出器、光熱変換素子などに利用できる。また、光をよく吸収する物質は、高効率に光を輻射するので特に赤外領域の発光素子として利用できる。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Biometamaterials:Black Ultrathin Gold Film Fabricated on Lotus Leaf
著者 :
Yuusuke Ebihara, Ryoichi Ota, Takahiro Noriki, Masayuki Shimojo and Kotaro Kajikawa
DOI :

問い合わせ先

大学院総合理工学研究科物理電子システム創造専攻
教授 梶川浩太郎

Email : kajikawa@ep.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5596 / Fax : 045-924-5596

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

芝浦工業大学 経営企画部企画広報課

Email : koho@ow.shibaura-it.ac.jp
Tel : 03-5859-7070 / Fax : 03-5859-7071


葉緑体が植物の成長を制御する新たな仕組みを発見―細胞内共生した細菌の宿主細胞制御戦略―

$
0
0

要点

  • 約25億年前に光合成細菌が細胞内共生して誕生した葉緑体は、細菌の遺伝子発現・代謝調節システムを保持している
  • そのシステムは、植物の成長・栄養応答を統括的に制御していることが判明
  • 生物進化における細胞内共生の解明、貧栄養耐性植物の開発に直結

概要

東京工業大学バイオ研究基盤支援総合センター/地球生命研究所の増田真二准教授らの研究グループは、葉緑体が植物の成長・栄養応答を制御する新たな仕組みを発見した。この仕組みは、葉緑体の祖先であるシアノバクテリア[用語1]が細胞内共生[用語2]した際に植物細胞にもたらされたもので、その後、宿主である植物の成長をコントロールするシステムとして進化したことを明らかにした。

実際にその仕組みを強化すると、植物が大きく育ち、貧栄養応答も改善された。この制御機構のさらなる解明は、生物進化における細胞内共生のインパクトを明らかにするだけでなく、貧栄養耐性植物の開発に直結する。

研究成果は11月9日発行の英国ネイチャー出版グループの「ネイチャープランツ(Nature Plants)」誌に掲載された。

研究の背景と経緯

細菌には、緊縮応答[用語3]と呼ばれる遺伝子発現[用語4]・代謝制御機構が普遍的に存在することが知られている。緊縮応答は、飢餓応答/温度適応/抗生物質耐性/病原性などに関与する細菌にとって必須の環境応答機構である。

近年のゲノム[用語5]解析の進展により、緊縮応答に関与する遺伝子が、植物や動物といった真核生物[用語6]のゲノムに保存されていることがわかってきた。しかし真核生物における緊縮応答の機能はよくわかっていなかった。

研究内容

増田准教授らは、モデル植物シロイヌナズナを用いて、植物における緊縮応答の役割を調べた。まず緊縮応答を担うタンパク質はすべて、葉緑体で働いていることを明らかにした。それらの遺伝子は、シアノバクテリアのものと似ていることから、葉緑体がシアノバクテリアの細胞内共生によって誕生した際に植物細胞にもたらされたと考えられた(図1)。

細胞内共生で誕生した葉緑体とミトコンドリア

図1. 細胞内共生で誕生した葉緑体とミトコンドリア

(A)葉緑体とミトコンドリアはそれぞれ、シアノバクテリアと紅色細菌(プロテオバクテリアとも呼ばれる)が細胞内共生して誕生したと考えられている。(B)緑色蛍光タンパク質(GFP)で光らせたタマネギ表皮細胞内の葉緑体(タマネギ内では葉緑素を持たないので通常プラスチドと呼ばれる)とミトコンドリア。

緊縮応答を過剰に引き起こす組換え植物体を作出したところ、葉緑体の遺伝子発現や代謝産物量が減少していた。また葉緑体のサイズも小さくなっていた(図2)。このことから、葉緑体で行われる緊縮応答は、葉緑体の機能を全体的に抑制することがわかった。

緊縮応答が過剰となった植物体は、通常条件下において、野生型の約1.5倍の大きさに成長した。貧栄養条件で育てると、野生型は枯死するのに対し、組換え体は緑を保ちつつ光合成を継続した(図2)。

緊縮応答強化植物の表現型

図2. 緊縮応答強化植物の表現型

緊縮応答を過剰に引き起こす組換え植物体は、通常条件において、葉緑体のサイズは減少するが、個体は大きく育った。この組換え体を窒素欠乏条件下に曝すと、緑色を保ち、光合成を継続した。

近年、マックスプランク研究所(ドイツ)のグループが、葉緑体で作られるデンプンやアミノ酸などの代謝物が少ない植物体は、個体のサイズが有意に大きい傾向にあることを報告した。これらのことから、植物型緊縮応答は、葉緑体の遺伝子発現や代謝などを調節することで、植物の成長を統括的にコントロールしていると考えられた。

今後の展開

今回の研究により、植物における緊縮応答の生理的役割が明らかとなった。これを足掛かりに、動物における緊縮応答の存在の有無、その応答の詳細、栄養飢餓応答との関わりなどの研究が進むものと期待される。一方、葉緑体における緊縮応答は、どのような環境要因により、どのように引き起こされるのかはわかっておらず、今後その点を明らかにする必要がある。それらの情報は、貧栄養耐植物の開発に応用できると考えられる。

用語説明

[用語1] シアノバクテリア : 光合成を行う細菌の一種。葉緑体はシアノバクテリアが動物細胞に細胞内共生してできた細胞内小器官と考えられている。

[用語2] 細胞内共生 : 外界の生物が、細胞内に入り込み、その細胞内の小器官となる(なった)こと。植物細胞の葉緑体はシアノバクテリアが、動植物細胞のミトコンドリアはプロテオバクテリアが細胞内共生したものとする考えは現在定説となっている。

[用語3] 緊縮応答 : 細菌に普遍的に保存された環境応答機構。グアノシン4リン酸の合成と分解を介して遺伝子発現や代謝関連酵素群の活性が調節される。

[用語4] 遺伝子発現 : 遺伝情報からタンパク質が作り出される過程を指す。すなわち、遺伝子の実体DNAからRNAが合成され、RNAからタンパク質が作られる一連の過程を指す。

[用語5] ゲノム : 遺伝子(DNA)にコードされた遺伝情報全体を指す。

[用語6] 真核生物 : 動物や植物など、核をもつ細胞からなる生物。

論文情報

掲載誌 :
Nature Plants
論文タイトル :
Impact of the plastidial stringent response in plant growth and stress responses
著者 :
Mikika Maekawa, Rina Honoki, Yuta Ihara, Ryoichi Sato, Akira Oikawa, Yuri Kanno, Hiroyuki Ohta, Mitsunori Seo, Kazuki Saito, Shinji Masuda
DOI :

付記

本研究は、科学研究費補助金 新学術領域研究「植物の環境感覚:刺激受容から細胞応答まで」(領域代表者:長谷あきら京都大学教授)と最先端研究基盤事業「植物科学最先端研究拠点ネットワーク」の支援を受けて実施した。

共同研究グループ

本研究は、理化学研究所環境資源科学研究センター・山形大学農学部及川彰准教授、東京工業大学大学院生命理工学研究科太田啓之教授、理化学研究所環境資源科学研究センター瀬尾光範ユニットリーダー、理化学研究所環境資源科学研究センター・千葉大学大学院薬学研究院斉藤和季教授と共同で実施した。

問い合わせ先

バイオ研究基盤支援総合センター
准教授 増田真二

Email : shmasuda@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5737 / Fax : 045-924-5823

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

高温高圧力下における流体水素のプラズマ相転移を観察―木星の内部構造の再現に成功、常温超伝導にも一歩近づく―

$
0
0

要点

  • 高温高圧下で高密度流体水素のプラズマ相転移を観察
  • 木星などの内部で巨大な磁場を作り出している流体金属水素の解明に迫る
  • 今後、室温超伝導が期待される固体金属水素への応用が期待される

概要

東京工業大学大学院理工学研究科の太田健二講師と大阪大学大学院基礎工学研究科附属極限科学センターの清水克哉教授らの研究グループは、水素を高温高圧下においても周囲の物質との化学反応なく安定して保持する技術を開発した。この技術を利用して、公益財団法人高輝度光科学研究センターと共同で行った高温高圧実験によって、高密度の水素の分子流体から単原子流体への相転移(プラズマ相転移)現象を80~110万気圧の範囲で観察し、その相転移境界を明らかにした。

観察した高温高密度水素流体のプラズマ相転移は絶縁体—金属転移に対応している可能性が高く、木星や土星などの水素を主成分とするガス惑星の内部構造やガス惑星磁場の生成メカニズムの解明につながる成果である。また、水素の温度圧力相関係が明らかになることで、室温付近の高い超伝導転移温度が予想されている固体金属水素の合成のための指針となることが期待される。

本研究成果は11月9日に英国ネイチャーグループの電子ジャーナルScientific Reports誌に掲載された。

背景

水素は宇宙に最も豊富に存在する元素であり、太陽などの恒星や木星、土星などのガス惑星の主成分である。また近年、盛り上がりを見せる水素エネルギー社会の実現のため、水素の温度圧力に対する挙動は惑星科学だけでなく材料科学などの様々な研究分野の興味の対象となっている。

恒星やガス惑星内部では水素は分子解離し、金属的な電気伝導性を持つ高密度高温流体の状態にあると考えられている。しかし、水素の温度圧力状態図はまだ十分にわかっておらず、ガス惑星の内部構造や密度分布にはまだ大きな不確かさがある。

水素は拡散性・反応性が非常に高い元素であるため、実験のために高温高圧発生装置の内部に安定して保持し続けることが困難であることが、高温高圧水素の研究を阻む大きな要因となっていた。

研究成果

同研究グループはまず、高温高圧発生装置であるダイヤモンドアンビルセル[用語1]の内部に、水素を高温高圧力下においても周囲の物質との化学反応なく安定に保持するための技術開発を行った。その結果、100万気圧を超える高圧力かつ2000ケルビン(絶対温度、K)以上の高温条件での水素の実験が可能となった。

レーザー加熱ダイヤモンドアンビルセル(A)、対向する一組のダイヤ(B)

図1. レーザー加熱ダイヤモンドアンビルセル(A)、対向する一組のダイヤ(B)

(B)の間に試料を挟み、高圧下でレーザーを試料に照射することにより、実験室内で地球内部の温度圧力を発生させることができる。

大型放射光施設SPring-8[用語2]の高圧構造物性ビームライン「BL10XU」 に設置されたレーザー加熱システムを使用し、約80~110万気圧、2650 Kまでの条件での実験から流体水素の相転移現象を明らかにした。また、BL10XUのX線マイクロビームを使用したX線回折像から高温高圧環境状態を確認、さらに水素試料と高圧装置との間に化学反応が起きていないことも確認した。

高圧高温下における水素の状態図

図2. 高圧高温下における水素の状態図

黒い点線は理論計算によって報告されている流体水素のプラズマ相転移境界。青線は水素の融解曲線、赤線は固体水素の相転移境界を表す。赤、青、緑色のシンボルが実験を行った温度圧力条件。黒三角のシンボルは先行研究で報告されている結果。

この実験によって決定された高密度流体水素のプラズマ相転移境界は理論計算によって報告されているものとよい一致を示している。観察した流体水素のプラズマ相転移は水素の絶縁体—金属転移とも密接に関連していると考えられる。

今後の展開

ガス惑星内部では、金属流体水素の対流によって磁場の生成・維持が行われていると考えられているため、今回、明らかにされた水素の高温高圧相関係はガス惑星内部の構造やダイナミクスの解明に寄与すると期待される。

また、水素は圧縮することで最終的には固体金属相へと相転移し、室温に近い超伝導転移温度を示すと予想されているが、固体金属水素の安定領域は不明であり、その合成はまだ実現していない。同研究グループが行った、水素の高温高圧保持技術と高温高圧相関係の解明は人類未達成の固体金属水素の合成への手助けとなる。

用語説明

[用語1] ダイヤモンドアンビルセル : 宝石用ダイヤモンドを用いた小型の高圧装置。ダイヤモンドは圧力を発生させる尖頭状の部品(アンビル)として用いられる。ガスケットと呼ばれる金属の板に小さな穴をあけ、その穴に試料と圧力媒体を入れて2つのダイヤモンドアンビルで挟み込むことで高圧を発生させる。ダイヤモンドの先端のサイズを小さくすれば、地球中心部に相当する圧力(約360万気圧)の発生が可能。

[用語2] 大型放射光施設SPring-8 : 兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、その運転管理は高輝度光科学研究センターが行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8GeVに由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のこと。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports(出版元:Nature Publishing Group)
論文タイトル :
Phase boundary of hot dense fluid hydrogen
(邦訳:高温高密度流体水素の相転移境界)
著者 :
Kenji Ohta1,2,*, Kota Ichimaru2, Mari Einaga2, Sho Kawaguchi2, Katsuya Shimizu2, Takahiro Matsuoka2, Naohisa Hirao3, and Yasuo Ohishi3
1東京工業大学 大学院理工学研究科 地球惑星科学専攻、2大阪大学 大学院基礎工学研究科附属極限科学センター、3高輝度光科学研究センター
*Corresponding author
DOI :

問い合わせ先

東京工業大学 大学院理工学研究科 地球惑星科学専攻
講師 太田健二

Email : k-ohta@geo.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2590

大阪大学 大学院基礎工学研究科
附属極限科学センター 超高圧研究部門
教授 清水克哉

Email : shimizu@stec.es.osaka-u.ac.jp
Tel : 06-6850-6675

(SPring-8に関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター
利用推進部 普及啓発課

Email : kouhou@spring8.or.jp
Tel : 0791-58-2785 / Fax : 0791-58-2786

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

地球深部の水の循環を担う鉱物の性質解明

$
0
0

概要

東京工業大学地球生命研究所(ELSI)[用語1]愛媛大学サテライト(地球深部ダイナミクスセンター(GRC))の土屋旬准教授と米国コーネル大のマイナック・ムカジー博士は、地球マントル下部において安定な新しい含水鉱物[用語2]であるH相[用語3]の構造と弾性的性質を理論計算により解明しました。

地球のマントル(深さ30-2900キロメートル)[用語4]には、地表付近に大量に存在する水の一部が、プレートの沈み込みにより含水鉱物としてもたらされます。2013年、土屋准教授はプレートにより運ばれた含水鉱物が下部マントル[用語5]付近において新たな含水鉱物(H相)へと変化(構造相転移[用語6])するという理論予測を発表しました(図1)。この理論予測を受けて2014年に、愛媛大の実験グループは超高圧装置MADONNAを用いた実験や、世界最大放射光施設SPring-8での放射光その場観察実験に基づき、H相の存在を実験により確認しました。この一連の発見をもとに、各国の研究者によりH相の研究がなされています。本研究は、H相の更なる詳細な結晶構造や、H相の存在を観測で調べるために不可欠な弾性的性質について、第一原理計算[用語7]と呼ばれる理論計算手法により明らかにしたものです。

H相は地球のマントルと中心核の境界領域まで安定に存在する可能性が強く、地球深部における水の大循環やマントル-核境界での上昇流(プルーム)の発生、また地球中心核の主要物質である溶融鉄への溶け込みなど、地球深部の物質構成や運動(ダイナミクス)に大きな影響を及ぼすと考えられます。

今回の成果は英科学誌Scientific Reports誌に、10月23日に電子版がオンラインで先行出版されました。

地球内部構造と地球深部への水の輸送

図1. 地球内部構造と地球深部への水の輸送

下部マントルに沈み込んだプレート内では、D相が新しい含水鉱物H相に変化し、中心核付近まで水を運ぶことが可能であると考えられる。

研究の背景

地球内部には、地球表層を覆う海水の数倍から数十倍の水が存在すると見積もられています。しかし、その水の状態や量についてはほとんどわかっていません。地球表層に存在する水は岩石と反応して蛇紋石などの含水鉱物を形成します。このような含水鉱物がプレートによって地球深部まで運ばれると高密度含水マグネシウムケイ酸塩(DHMS)と呼ばれる含水鉱物へと変化します。これらのDHMSは、発見された順にA相、B相、D相などアルファベットを用いて名づけられています。最近まで、下部マントル上部領域(約40万気圧・深さ1250 km)で、D相[用語2]と呼ばれる含水鉱物が脱水分解し、それ以上の深さにDHMSが水を輸送することはないと考えられていました。しかし2013年に土屋准教授は、第一原理シミュレーションに基づき、この40万気圧付近でD相が異なる結晶構造をもつ新たな含水鉱物に変化し、さらなる地球深部へ水を輸送しうることを発表しました(図2)。本研究は約30年ぶりに見つかった新たなDHMS相であるH相の続報であり、より詳細な結晶構造と弾性的性質について第一原理計算を行い、報告しました。土屋准教授とムカジー博士はともに第一原理計算を用いた含水鉱物の研究の専門家であり、今回は共同研究の成果を発表しました。

D相からH相への相転移

図2. D相からH相への相転移

2013年にD相の結晶の配列が圧力を加えることによってH相へと変化することが理論計算により示された。

近年、コンピューターの性能が飛躍的に向上するにつれ、第一原理計算法は、物質科学分野において非常に有力な研究手段となっています。この方法を用いて、物質の構造や安定性、物性を高い精度で見積もることができるようになってきました。特に、地球深部のような超高圧条件では高精度な実験が難しいため、非常に有力な手段となっています。

弾性的性質とは、体積弾性率や剛性率など物質の固さや壊れにくさを示す性質で、これらを用いて物質中を伝播する波の速度を見積もることができます。実際に試料を手に取って調べることができない地球深部においては、岩石の弾性率から決定された弾性波速度と、観測された地震波速度を比較することによって、地球深部の化学組成や構造が調べられています。

研究の成果

土屋准教授と、ムカジー博士は、第一原理計算と呼ばれるコンピューターシミュレーションによりH相の詳細な結晶構造と弾性的性質を明らかにしました。2013年のH相の理論予測をうけて日本、米国、イタリアや英国の研究者らがH相の理論計算や実験を行っていますが、これまで弾性的性質についての報告はありませんでした。今回決定された弾性率をもとにこのH相を伝わる地震波速度を見積もることができます。これは、実際に地震波観測により地球深部においてH相を探す場合、不可欠な情報です。今回決定された弾性的性質は、H相を地震波が伝播する場合、ある特徴(高い異方性[用語9])を示すことを示唆しています。

H相はマントルと核の境界付近の2900キロメートルまで水を運ぶ可能性を持っています。水の存在は岩石の溶ける温度を下げるため、マントル最下部でのマグマの発生を引き起こし、これによりマントル最下部に観測される超低速度層や、この付近に起源を持つマントル上昇流(プルーム)などの原因になる可能性があります。また、地球中心核の主要物質である溶融鉄への溶け込みなど、地球深部の物質や運動(ダイナミクス)の解明において、重要な影響を及ぼすものと考えられます。今回決定されたH相の弾性的性質は、このような地球深部の水の循環経路を調べるうえで非常に重要な情報となるでしょう。

H相の弾性的性質

図3. H相の弾性的性質

これらの体積弾性率や剛性率、地震波速度(S波、P波)、地震波異方性と、実際に観測された地震波速度を比較することによって、地球深部の水の循環経路が今後解明されると期待される。

今後の展望

地球内部での水の存在量とその循環は、地球の起源物質の特定や内部の運動を知る上で大変重要であるとともに、太陽系の他の惑星における水の存在や、太陽系の生成過程を理解する上でも重要です。今後、地球深部の地震波が高精度で観測できるようになれば、H相やこれまでに決定された他の鉱物の弾性率との比較により、地球深部の水の循環経路が決定できると期待されます。また、H相のより詳細な研究は理論計算、実験ともに現在も続けられており、新たな研究成果が出つつあります。今後も理論計算と実験が相補的に協力することにより、地球や惑星深部の水の循環について新しい成果が得られると期待されます。

成果のポイント

  • D相発見以来30年ぶりに発見された新たなDHMS相であるH相の続報
  • 高精度な理論計算によるH相の結晶構造と弾性的性質の決定
  • 日本と米国の含水鉱物の理論計算の専門家による共同研究

用語説明

[用語1] 地球生命研究所(ELSI) : 東京工業大学の廣瀬敬教授をリーダーとして採択された、地球・生命科学分野のWPI(世界トップレベル研究拠点)プログラムに基づき2012年に設立された同大学の新しい研究所。愛媛大学の地球深部ダイナミクス研究センター(GRC)は、ELSIの国内唯一のサテライト拠点となっている。

[用語2] 含水鉱物 : 蛇紋石など、水素を主成分の一つとして構造に含む鉱物。特に地球内部の高温高圧下で生じる、マグネシウムに富む含水鉱物は、高圧型含水マグネシウムケイ酸塩鉱物(DHMS)あるいはアルファベット相と称され、プレートの沈み込みとともに地球深部にもたらされると考えられている。

[用語3] Phase H(H相) : 2013年に土屋准教授によって理論予測され、2014年に愛媛大学の西真之博士らによって実際に存在が確かめられた新しい含水鉱物。DHMSのなかで最も高圧下で安定。アルミニウムを含むことによって深さ約2900kmの核―マントル境界まで水を運ぶ可能性が示唆されている。

[用語4] マントルと核 : 地球は薄い地殻(深さ約30キロメートルまで)、マントル(深さ30-2900キロメートル)、核(2900-6400キロメートル)の3層からできている。マントルはかんらん岩などの岩石が主な成分であるのに対し、核は主に鉄からできている。

[用語5] 下部マントル : マントルは上部マントル(深さ30-410キロメートル)、マントル遷移層(410-660キロメートル)、下部マントル(660-2900キロメートル)の3つの領域に区分される。下部マントルは最も大きな領域であり、地球全体の体積の6割を占め、その最下部は地球の中心核と接する。

[用語6] 構造相転移 : 固体物質において規則的に配列されている原子位置が温度や圧力条件に応じて全く異なる構造へ再配列されること。たとえばグラファイト(黒鉛)は約5万気圧でダイヤモンドへと構造相転移する。グラファイトもダイヤモンドも同じ炭素という元素のみから成る。

[用語7] 第一原理計算 : 近代物理学の基礎である量子力学の基本原理に基づき、実験などにより得られる先験的なパラメーターを用いずに結晶構造の安定性や物性を予測する計算方法。最近の数値シミュレーション技術の進歩により高い精度での予測が可能になっている。

[用語8] Phase D(D相) : 含水鉱物の一つで、これまで下部マントルにおいて存在する唯一のDHMSと考えられていた。1986年にオーストラリアの研究者により発見された。その後Phase E, F, Gなどの発見が報告されているが、Phase Eの存在はマントルのより浅い領域に限られており、またPhase FとPhase Gは、Phase Dと同じものであることが明らかになっている。

[用語9] 地震波異方性 : 地震波速度が伝播する方位や波の振動方向によって異なる現象。方位異方性と偏向異方性があり、方位異方性は伝播する方向により速度が変化する現象を差し、偏向異方性は同じ方向に伝播する横波において、振動方向によって速度の差異を生じる現象を差す。地殻やプレート内部、マントル最下部などで高い異方性が観測されている。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports (イギリスネイチャー出版)
論文タイトル :
Crystal structure, equation of state, and elasticity of phase H (MgSiO4H2) at Earth's lower mantle pressures
(邦訳:地球下部マントルにおけるH相の結晶構造と状態方程式)
著者 :
Jun Tsuchiya(土屋旬)and Mainak Mookherjee
DOI :

問い合わせ先

愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター

Tel : 089-927-8197 / Fax : 089-927-8167

准教授 土屋旬(つちやじゅん)

Email : junt@ehime-u.ac.jp
Tel : 089-927-8152

愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター
センター長/教授 入舩徹男

Email : irifune@dpc.ehime-u.ac.jp
Tel : 089-927-9645 / Fax : 089-927-8167

参考意見を聞ける関連分野の研究者

東京大学大学院理学系研究科 地殻化学実験施設
教授 鍵裕之

Email : kagi@eqchem.s.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-7625

東京工業大学に関するお問い合わせ

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

地球生命研究所に関するお問い合わせ

東京工業大学 地球生命研究所 広報室

Email : pr@elsi.jp
Tel : 03-5734-3163 / Fax : 03-5734-3416

氷の体積同位体効果の本質を解明―統一的な理論構築と実験による実証に成功―

$
0
0

要点

  • 氷における体積同位体効果[用語1]とその圧力誘起転移について研究を行った。
  • 水素結合に由来するフォノン[用語2]モードの圧力依存性の特殊さによって、その現象を統一的に説明できることを突き止めた。
  • 第一原理計算[用語3]による理論予測と、実験による実証に成功した。

概要

東京工業大学地球生命研究所の梅本幸一郎研究員、廣瀬敬所長・教授、高輝度光科学研究センターの大石泰生副主席研究員らの研究チームは、H2O氷と水素の同位体である重水素Dで出来たD2O氷の体積の違いとその圧力変化を、理論予測と実験の両面から解明することに成功した。

本研究成果は2015年10月22日、米国物理学会誌「フィジカルレビューレターズ(Physical Review Letters)」オンライン版に掲載された。

今回の発見により、物質の持つ体積同位体効果を統一的にあらわすことに成功した。これにより、氷以外の物質の体積同位体効果のふるまいもすべて説明できるようになる。

背景

われわれの最も身近な物質の1つである氷H2Oは、圧力や温度を変えると、結晶構造(水素と酸素の結合の仕方)やその物性が大きく変わることが知られており、その相図は非常に複雑である(図1)。

通常、原子をより質量の重い同位体原子に置き換えると、体積が減少する。ところが、氷のIh相(普段私たちが目にする氷)とXI相(Ih相において水素が秩序的に分布している相)では、重水素からなるD2Oは、軽水素から成るH2Oよりも質量は大きいが体積も大きい(通常と逆)ことが、実験および理論的に知られていた。この現象は、異常体積同位体効果と呼ばれている。一方で、VIII相およびVII相(水素が無秩序に分布した、VIII相に類似する相)では、H2OをD2Oに置き換えたとき、0ケルビンの常圧下では、通常どおり質量は増加し体積が減少する体積同位体効果が起こることが理論的に予想されていた。

きわめて単純な物質である氷に関して、異なる体積同位体効果が発生する理由は、これまで明らかになっていなかった。

氷の相図

図1. 氷の相図

研究成果

本研究では、密度汎関数法に基づいた第一原理計算とSPring-8[用語4]のBL10XUを用いた放射光X線回折実験によって、氷のVIII相とVII相の体積同位体効果とその圧力依存性を調べた。

VIII相に対する理論計算により、300ケルビンにおいて、14万気圧以下では通常の体積同位体効果が見られ、14万気圧で体積同位体効果が通常のものから異常なものへ変化することがわかった(図2)。つまり、今までのVIII相の体積同位体効果に対する予想は14万気圧までは正しいが、さらに圧力が高くなると異常なものに変化することを理論的に予言した。そしてこの変化には、分子内の水素酸素結合の伸縮に対応するフォノンモードの圧力依存性が決定的な役割を果たすことを突き止めた。

VIII相について計算された、H2OとD2Oの体積差

図2. VIII相について計算された、H2OとD2Oの体積差

VIII相について計算された、H2OとD2Oの体積差の数式)。
この量が正のとき、体積同位体効果は異常である。

一方、水素が無秩序に分布したVII相に関する放射光実験でも、室温(およそ300ケルビン)での16万気圧において、体積同位体効果が通常のものから異常なものへの変化が観測され、理論を精度よく裏付けた。

VIII相とVII相の比較から、氷の相の体積同位体効果の変化について、水素が秩序的に分布しているかどうかは、無関係であることを示した。

さらに、実験および理論で異常体積同位体効果が知られていたIh相の水素秩序相であるXI相でも、体積同位体効果は圧力により通常から異常なものへ転移することが、理論計算によって示された。ところがその転移は負の圧力(およそマイナス1万気圧)で起きる。その結果、常圧下では異常な体積同位体効果が観測されていたのである。つまり、IhやXI相において常圧下で起きていた異常体積同位体効果は、VIIやVIII相について明らかにしたメカニズムで統一的に説明することが出来ることが明らかになった。

今後の展開

本研究で明らかになった体積同位体効果の圧力変化とそのメカニズムは、他の氷の相のみならず、液体相である水や、他の水素結合を含む全ての物質においても普遍的に成立すると期待される。

用語説明

[用語1] 体積同位体効果 : 原子をより質量の重い同位体原子に置き換えると、質量は増加するが体積が変化する(通常は減少する)という、物質の一般的な性質。

[用語2] フォノン : 結晶中の格子振動を量子化して粒子のように取り扱ったもの。N個の原子から構成される結晶では、3N個のフォノンモードが存在する。個々のフォノンモードはそれぞれ固有の振動数を持つ。氷では一般的に、水分子が剛体として振る舞うモード、分子内の2つの水素酸素結合の間の角度が変化する運動に対応するモード、そして分子内の水素酸素結合長の変化に対応するモードが存在する。通常、圧力下では振動数は増加するが、水素酸素結合の伸縮に対応するモードの振動数は圧力下で減少する。これは水素結合からなる系の特有な性質であり、体積同位体効果の圧力誘起転移において決定的な役割を果たす。

[用語3] 第一原理計算 : 実験によって決められるパラメータを用いずに行う理論計算。

[用語4] SPring-8 : 兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高エネルギーの放射光を生み出す理化学研究所の施設で、その運転管理と利用者支援などは高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来している。放射光とは、電子を光速に近い速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、強力な電磁波のことである。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。

論文情報

掲載誌 :
Physical Review Letters
論文タイトル :
Nature of the Volume Isotope Effect in Ice
著者 :
Koichiro Umemoto, Emiko Sugimura, Stefano de Gironcoli, Yoichi Nakajima, Kei Hirose, Yasuo Ohishi, and Renata M. Wentzcovitch
DOI :

問い合わせ先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

地球生命研究所
研究員 梅本幸一郎

Email : umemoto@elsi.jp
Tel : 03-5734-2187

地球生命研究所 広報室

Email : pr@elsi.jp
Tel : 03-5734-3163 / Fax : 03-5734-3416

SPring-8に関するお問い合わせ

公益財団法人高輝度光科学研究センター
利用推進部普及啓発課

Email : kouhou@spring8.or.jp
Tel : 0791-58-2785 / Fax : 0791-58-2786

大隅良典栄誉教授 ガードナー国際賞授賞式に出席

$
0
0

生命科学や医学の分野で世界的な発見や貢献をした研究者へ贈られるガードナー国際賞の授賞式が10月28日、カナダ・トロントで開かれ、東京工業大学フロンティア研究機構大隅良典栄誉教授が出席しました。大隅教授の受賞理由は、細胞自身が不要なたんぱく質を分解する仕組み「オートファジー(自食作用)現象」を分子レベルで解明した功績です。2015年のガードナー国際賞受賞者は、大隅教授、大阪大学の坂口志文教授ら5人です。

左からジョン・ダークス ガードナー財団理事長、大隅教授、門司健次郎 駐カナダ大使、ローネ・ティレル ガードナー財団理事会議長 (c)Gairdner Foundation/Della Rollins Photography

左からジョン・ダークス ガードナー財団理事長、大隅教授、門司健次郎 駐カナダ大使、
ローネ・ティレル ガードナー財団理事会議長
(c) Gairdner Foundation/Della Rollins Photography

授賞式が開かれたオンタリオ博物館は自然史と世界の文化紹介に焦点をあてた博物館

授賞式が開かれたオンタリオ博物館は
自然史と世界の文化紹介に焦点をあてた
博物館

授賞式はトロントのオンタリオ博物館で行われ、ガードナー財団関係者、研究者、カナダの大学、研究機関などから550人が出席しました。ガードナー財団のジョン・ダークス理事長による開会あいさつに続き、カナダ総督のデイヴィッド・ロイド・ジョンストン氏が登壇。「今日、受賞される研究者は人類の健康、そしてウェル・ビーイング(より健康的な生活)のために、ブレイクスルーを起こした方々です。彼らの研究に心から感謝したい」と受賞者たちを褒めたたえました。

大隅良典栄誉教授

受賞者として登壇した大隅教授は「この場に受賞者として居合わせられることを光栄に思います。関係者の方々に感謝したい」とあいさつをし、続けて「私は酵母研究者です。長い間、酵母研究に執着したその一番の理由は、ワイン、お酒、ビール好きの私にとって、酵母(ビール酵母やワイン酵母など、お酒には欠かせない要素)が“研究仲間”としてとてもやりやすい相手だったから」と述べ会場を沸かせました。また「好奇心でオートファジーの研究を始めましたが、今となっては、この研究が医療の進歩につながるところまできました。私たちの発見が、将来の病気の解明に役立つのであれば嬉しく思います。今まで協働してきた仲間たち、研究の環境を与えてくれた大学、支援をしてくれた政府、そして家族に感謝します」と述べてあいさつを締めくくりました。

大学での講演 /受賞者によるアウトリーチ活動

ガードナー国際賞の受賞者は、「ガードナーナショナルプログラム」の一環としてカナダ国内の大学で開かれる学生や一般市民に対する講演や交流会に出席します。これは、世界レベルの研究者をカナダ国内に紹介し、高校生や大学生、若い研究者たちに科学の研究の道を歩むことを奨励することが目的です。

トロント大学での講演
トロント大学での講演

トロント大学での講演

大隅教授も授賞式の3日前から、ブリティッシュコロンビア大学、ゲルフ大学、そしてトロント大学で計5回の講演を行いました。ブリティッシュコロンビア大学、ゲルフ大学での講演の合間には少人数での雑談形式の交流会も設けられ、出席した若い研究者や学生からオートファジーの研究に関する質問だけでなく、「留学先をどう決めたらよいのか」など進路についてのアドバイスを求められる場面もありました。大隅教授は「すべてのイベントにおいて若い学生たちに参加の機会が与えられ、学外の研究者との交流の場となっているのが印象的でした。自由に質問をしてくれるのが楽しい。若い時にこのような機会があるのはいいことです」と話していました。

ガードナー賞の盾

ガードナー賞の盾

約1週間の慌ただしいスケジュールを終えて帰国した大隅教授。今度は、日本の若者に向けて講演を行う予定です。11月23日に東工大のシアターホールで開かれる「高校生のための生命理工学レクチャー2015」にて研究の楽しさを高校生たちに伝えます。ご興味のある方は事前申し込みのうえ、ぜひご参加ください。

講演の合間にトロントを拠点にする日本語雑誌「bits」の取材を受ける大隅教授

講演の合間にトロントを拠点にする日本語雑誌「bits」の取材を受ける大隅教授

2015年のガードナー賞受賞者とダークス理事長、ティレル理事会議長(大隅教授は左から4番目)(c)Gairdner Foundation/Della Rollins Photography
2015年のガードナー賞受賞者とダークス理事長、ティレル理事会議長(大隅教授は左から4番目)
(c)Gairdner Foundation/Della Rollins Photography

大隅教授のカナダでの主な行程

10月26日(月)
7:15
ブリティッシュコロンビア大学にて講演
Life Sciences Breakfast: Looking back on my 27 years of autophagy studies
10:50
子ども家庭研究所(Child and Family Research Institute)にて講演
Autophagy – Intracellular recycling system
12:30
研究所の研修生とランチセッション
16:10
ブリティッシュコロンビア大学生命科学研究所にて講演
Autophagy – Intracellular recycling system
18:30
同大学研究担当副理事と会食
10月27日(火)
 
ゲルフ市へ移動
10月28日(水)
9:00
ゲルフ大学の教員、学生とラウンド・テーブル・セッション
10:35
ゲルフ大学にて講演
Lessons from yeast – Molecular machinery of autophagy
12:00
ゲルフ大学幹部と会食
 
トロント市へ移動
17:30
ガードナー財団によるウェルカム・レセプション
10月29日(木)
9:00
トロント大学医学部にて講演
Lessons from yeast – Molecular machinery of autophagy
17:00
ガードナー賞 授賞式
Viewing all 2008 articles
Browse latest View live