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スーパーコンピュータ「京」がGraph500で世界第1位を奪還

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スーパーコンピュータ「京」がGraph500で世界第1位を奪還
―ビッグデータの処理で重要となるグラフ解析でも最高の評価―

要旨

理化学研究所(理研)と東京工業大学、アイルランドのユニバーシティ・カレッジ・ダブリン、九州大学、富士通株式会社による国際共同研究グループは、ビッグデータ処理(大規模グラフ解析)に関するスーパーコンピュータの国際的な性能ランキングであるGraph500において、スーパーコンピュータ「京(けい)」[用語1]による解析結果で、2014年6月以来、再び第1位を獲得しました。これは、東京工業大学博士課程(理研研修生)上野晃司氏らによる成果です。

大規模グラフ解析の性能は、大規模かつ複雑なデータ処理が求められるビッグデータの解析において重要となるもので、今回のランキング結果は、「京」がビッグデータ解析に関する高い能力を有することを実証するものです。

本研究の一部は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST「ポストペタスケール高性能計算に資するシステムソフトウェア技術の創出」(研究総括:佐藤 三久 理研計算科学研究機構)における研究課題「ポストペタスケールシステムにおける超大規模グラフ最適化基盤」(研究代表者:藤澤 克樹 九州大学、 拠点代表者:鈴村 豊太郎 ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン)および「ビッグデータ統合利活用のための次世代基盤技術の創出・体系化」(研究総括:喜連川 優 国立情報学研究所)における研究課題「EBD:次世代の年ヨッタバイト処理に向けたエクストリームビッグデータの基盤技術」(研究代表者:松岡 聡 東京工業大学)の一環として行われました。

ドイツのフランクフルトで開催中のHPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング:高性能計算技術)に関する国際会議「ISC2015」で7月13日(日本時間7月14日)に発表。前回(2014年11月)のランキングでは、「京」は第2位。
スーパーコンピュータ「京」

Graph500上位10位

公開されたGraph500outerの上位10位は以下の通り。

順位
システム名称
設置場所
ベンダー
国名
ノード数
プログラムスケール
GTEPS
1
K Computer
理研 計算科学研究機構
富士通
82.944
40
38.621
2
Sequoia
ローレンス・リバモア研
IBM
98.304
41
23.751
3
Mira
アルゴンヌ研
IBM
49.152
40
14.982
4
JUQUEEN
ユーリッヒ研
IBM
16.384
38
5.848
5
Fermi
CINECA
IBM
8.192
37
2.567
6
天河2A
国防科学技術大学
NUDT
8.192
36
2.061
7
Turing
GENCI
IBM
4.096
36
1.427
7
Blue Joule
ダーズベリー研
IBM
4.096
36
1.427
7
DIRAC
エジンバラ大学
IBM
4.096
36
1.427
7
Zumbrota
EDF社
IBM
4.096
36
1.427
7
Avoca
ビクトリア州生命科学計算イニシアティブ
IBM
4.096
36
1.427

Graph500とは

近年活発に行われるようになってきた実社会における複雑な現象の分析では、多くの場合、分析対象は大規模なグラフ(節と枝によるデータ間の関連性を示したもの)として表現され、それに対するコンピュータによる高速な解析(グラフ解析)が必要とされています。例えば、インターネット上のソーシャルサービスなどでは、「誰が誰とつながっているか」といった関連性のある大量のデータを解析するときにグラフ解析が使われます。また、サイバーセキュリティや金融取引の安全性担保のような社会的課題に加えて、脳神経科学における神経機能の解析やタンパク質の相互作用分析などの科学分野においてもグラフ解析は用いられ、応用範囲が大きく広がっています。こうしたグラフ解析の性能を競うのが、2010年から開始されたスパコンランキング「Graph500」です。

規則的な行列演算である連立一次方程式を解く計算速度(LINPACK[用語2])でスーパーコンピュータを評価するTOP500[用語3]においては、「京」は2011年(6月、11月)に第1位、その後、2014年11月は第4位になりました。2015年7月13日に公表された最新のランキングでも引き続き第4位につけています。一方、Graph500ではグラフの幅優先探索(1秒間にグラフのたどった枝の数(Traversed Edges Per Second;TEPS[用語4]))という複雑な計算を行う速度で評価されており、計算速度だけでなく、アルゴリズムやプログラムを含めた総合的な能力が求められます。

今回Graph500の測定に使われたのは、「京」が持つ88,128台のノード[用語5]の内の82,944台で、約1兆個の頂点を持ち16兆個の枝から成るプログラムスケール[用語6]の大規模グラフに対する幅優先探索問題を0.45秒で解くことに成功しました。ベンチマークのスコアは38,621GTEPS(ギガテップス)です。Graph500第1位獲得は、「京」が科学技術計算でよく使われる規則的な行列演算によるだけでなく、不規則な計算が大半を占めるグラフ解析においても高い能力を有していることを実証したものであり、幅広い分野のアプリケーションに対応できる「京」の汎用性の高さを示すものです。また、それと同時に、高いハードウェアの性能を最大限に活用できる研究チームの高度なソフトウェア技術を示すものと言えます。「京」は、国際共同研究グループによる「ポストペタスケールシステムにおける超大規模グラフ最適化基盤プロジェクト」および「EBD:次世代の年ヨッタバイト処理に向けたエクストリームビッグデータの基盤技術」の2つの研究プロジェクトによってアルゴリズムおよびプログラムの開発が行われ、2014年6月に17,977GTEPSの性能を達成し第1位、2014年11月に19,582GTEPSを達成し第2位でした。今回、国際共同研究グループによって「京」のシステム全体を効率良く利用可能にするアルゴリズムの改良が行われ、2倍近くの性能向上を達成し、世界第1位を再度獲得しました。

今後の展望

大規模グラフ解析においては、アルゴリズムおよびプログラムの開発・実装によって今回のように性能が飛躍的に向上する可能性を示しており、今後も更なる性能向上を目指していきます。また、上記で述べた実社会の課題解決および科学分野の基盤技術へ貢献すべく、スーパーコンピュータ上でさまざまな大規模グラフ解析アルゴリズムおよびプログラムを研究開発していきます。

東京工業大学博士課程 上野晃司氏のコメント

「京」は昨年6月に1度は1位を獲得したものの11月には2位となってしまっていました。今回共同研究者の方々と共に、アルゴリズムの新手法の考案、実装、および徹底した性能の分析とそれによる改良を実施し、大幅にスコアを向上させることに成功しました。再び世界1位になれたことを大変嬉しく思っています。今後もこのような努力を続け、「京」のポテンシャルをどこまで活かせるか、挑戦したいと思います。

用語説明

[用語1] スーパーコンピュータ「京(けい)」 : 文部科学省が推進する「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築」プログラムの中核システムとして、理研と富士通が共同で開発を行い、2012年に共用を開始した計算速度10ペタフロップス級のスーパーコンピュータ。「京(けい)」は理研の登録商標で、10ペタ(10の16乗)を表す万進法の単位であるとともに、この漢字の本義が大きな門を表すことを踏まえ、「計算科学の新たな門」という期待も込められている。

[用語2] LINPACK : 米国のテネシー大学のJ. Dongarra博士によって開発された規則的な行列計算による連立一次方程式の解法プログラムで、TOP500リストを作成するために用いるベンチマーク・プログラム。ハードウェアのピーク性能に近い性能を出しやすく、その計算は単純だが、応用範囲が広い。

[用語3] TOP500 : TOP500は、世界で最も高速なコンピュータシステムの上位500位までを定期的にランク付けし、評価するプロジェクト。1993年に発足し、スーパーコンピュータのリストを年2回発表している。

[用語4] TEPS(Traversed Edges Per Second) : Graph500ベンチマークの実行速度をあらわすスコア。Graph500ベンチマークでは与えられたグラフの頂点とそれをつなぐ枝を処理する。Graph500におけるコンピュータの速度は1秒間あたりに調べ上げた枝の数として定義されている。

[用語5] ノード : スーパーコンピュータにおけるオペレーティングシステム(OS)が動作できる最小の計算資源の単位。「京」の場合は、ひとつのCPU(中央演算装置)、ひとつのICC(インターコネクトコントローラ)、および16GBのメモリから構成される。

[用語6] プログラムスケール : Graph500ベンチマークが計算する問題の規模をあらわす数値。グラフの頂点数に関連した数値であり、プログラムスケール40の場合は2の40乗(約1兆)の数の頂点から構成されるグラフを処理することを意味する。

問い合わせ先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

理化学研究所 計算科学研究機構 広報国際室

岡田昭彦
Email : aics-koho@riken.jp
Tel : 078-940-5625 / Fax : 078-304-4964

理化学研究所 広報室 報道担当

Email : ex-press@riken.jp
TEL : 048-467-9272 / Fax : 048-462-4715

国立大学法人九州大学広報室

Tel : 092-802-2130 / Fax : 092-802-2139

富士通株式会社 広報IR室

Tel : 03-6252-2174 / Fax : 03-6252-2783

科学技術振興機構 広報課

Tel : 03-5214-8404 / Fax : 03-5214-8432


細野秀雄教授が、IGZOターゲットの開発により「第40回井上春成賞」を受賞

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細野秀雄教授が、IGZOターゲットの開発により「第40回井上春成賞」を受賞
―高精細・低消費電力・フレキシブルなディスプレイの実現に寄与―

国立大学法人東京工業大学応用セラミックス研究所の細野秀雄教授とJX日鉱日石金属株式会社(社長:大井滋)は、「酸化物半導体In-Ga-Zn-Oスパッタリングターゲットの開発」により「第40回井上春成賞」を受賞しました。同賞は、大学・研究機関などの独創的な研究成果をもとに企業が開発・事業化した優れた技術について、研究者および企業の双方を表彰するという日本の代表的な技術賞の一つです。国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の前身である新技術開発事業団の初代理事長であり、工業技術庁初代長官でもあった井上春成氏が、わが国科学技術の発展に貢献した業績に鑑み1976年に創設されました。過去の受賞歴は井上春成賞ウェブサイトouterをご参照ください。

酸化物半導体In-Ga-Zn-O(IGZO)は、細野教授により1990年代半ばより独自に研究がはじめられ、2004年に高性能TFT(薄膜トランジスタ)へ利用可能であることが示されました。その後各社による実用化に向けた開発が行われる中、2010年にJX日鉱日石金属(電材加工事業本部薄膜材料事業部)が他社に先駆けて初めて、長さ2.7メートルの大型スパッタリングターゲットの量産化に成功しました。IGZO-TFTを用いたディスプレイは、高精細・低消費電力・フレキシブルといった優れた性能をもち、今後ますますの市場拡大が見込まれています。その技術の概要と特徴については添付資料PDFをご参照ください。

2015年7月15日に日本工業倶楽部で行われた表彰式には、細野教授と大井社長が出席し、表彰状と賞牌が贈呈されました。細野教授と大井社長による受賞あいさつの要旨は以下の通りです。

細野教授

IGZO-TFTは、2003年に結晶についてScience誌に、2004年にはアモルファスについてNature誌に最初の論文を掲載しました。また、その前にJSTから特許申請を済ませました。IGZO-TFTのディスプレイ応用には、大型ガラス基板上にスパッタリングでその薄膜を形成するための、大型で緻密なセラミックスのターゲットが不可欠です。今回、共同受賞するJX日鉱日石金属は、最初にその技術を完成させ、2010年で東工大が主催した国際ワークショップ(TAOS 2010)の際に実物を展示しました。これによって実用化の準備が整いつつあることが参加者に伝わりました。また、特許ライセンスを最初に受け製品化に成功しました。その後、内外の多くの企業がそれに倣っています。同社の高い技術力とモラルに敬意を表します。

大井社長

細野教授が発明されたIGZO酸化物半導体は、これまでのアモルファスシリコン半導体に比べ10倍の電子移動度を持つ画期的なものです。当社は、スパッタリングターゲットのトップベンダーとして長年培ってきた非鉄金属材料技術をベースに、「高電導度」、「高強度」、および「高平滑度」の品質要求に応え、細野教授による発明の実用化に大きく貢献出来たと考えております。ウェアラブル端末や高機能ディスプレイへの応用が可能なIGZO-TFTは、来るべきIoT社会のキーデバイスとして今後も利用の拡大が期待されており、更なる高品質化を通じて、このような社会の潮流変化の一端を担ってまいります。

受賞式の様子(2015年7月15日、於日本工業倶楽部)
受賞式の様子(2015年7月15日、於日本工業倶楽部)

(後列左から3人目)井上春成賞委員会 中村委員長(科学技術振興機構理事長)
(前列左から3人目)東京工業大学 細野教授
(前列左から4人目)JX日鉱日石金属 大井社長

問い合わせ先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

JX日鉱日石金属株式会社 広報・CSR部

Tel : 03-5299-7082 / Fax : 03-5299-7343

強誘電体の極薄単結晶膜を世界で初めて作製

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強誘電体の極薄単結晶膜を世界で初めて作製
―超高密度新規メモリーで長時間使えるスマホ実現に道―

概要

東京工業大学元素戦略研究センター(センター長 細野秀雄教授)の清水荘雄特任助教と同センター兼総合理工学研究科の舟窪浩教授、東北大学金属材料研究所の今野豊彦教授と木口賢紀准教授らの研究グループは、極薄膜でも特性が劣化しない強誘電体エピタキシャル膜(結晶方位が揃った単結晶膜)の作製に世界で初めて成功した。強誘電体膜の組成を検討して選択するとともに、薄膜を成長させる基材の結晶構造とその単位格子の長さを工夫することにより達成した。

これによって従来、安定した特性の強誘電体膜が得られないためにできなかった超高密度メモリーなど新規デバイスの作製が可能になり、高性能で電池が飛躍的に長持ちするスマートフォンなどの実現が期待される。また薄くなるほど特性が劣化するとされた強誘電体の“サイズ効果”を覆すもので、“逆サイズ効果”特性の起源解明や新物質探索の加速につながる成果だ。

最近、強誘電体の薄膜も見つかっていたが、多結晶であり、不純物相も存在するため、安定した特性を得ることが難しい状況だった。

今回の研究成果は応用物理分野で影響の大きい学術誌「アプライド・フィジックス・レターズ(Applied Physics Letters)」オンライン版に7月24日付で掲載された。

研究の背景

強誘電体は電源を切っても電圧をかけた方向によって2つの安定した状態が実現するため、データーが保存できるメモリーとして広く実用化されており、電車のICカードなどで使用されている。また強誘電体は力によって電圧を発生したり電気信号により大きさが変化したりする圧電性[用語1]を併せ持つため、ガスコンロの着火器、加湿器のミストの作製、さらにインクジェットプリンタや3次元プリンタで使用されるマイクロデバイス(Micro Electro Mechanical Systems、MEMS[用語2])の動力源として利用されている。

これ以外にも、高性能でありながら電池が長もちするコンピュータが期待されているが、これらは現在までに実用化されていない。これらの実現のために不可欠な薄い強誘電体膜が作製できないことがその最大の理由である。強誘電体は薄くしていくと特性が低下する“サイズ効果”があることが広く知られており、過去50年以上にわたって多くの研究者や企業がこの問題に取り組んできたが、解決できていない。

4年前に、極微細なトランジスタの絶縁体として広く使われている酸化ハフニウム基物質で、これまで不可能と考えられていた薄さで強誘電性が発現することが報告され、また、薄いほど特性が良くなる“逆サイズ効果”が見いだされて、大きな注目を集めた。(図1)

酸化ハフニウム基物質で発見された強誘電性の膜厚依存性(赤)
図1.
酸化ハフニウム基物質で発見された強誘電性の膜厚依存性(赤)
従来研究された物質(図の黒)が、膜厚が薄くなるほど強誘電性が劣化する“サイズ効果”を有しているのに対し、酸化ハフニウム基物質(図の赤)では薄くなるほど強誘電性が向上する“逆サイズ効果”を有している。しかしこの特性の起源は明らかになっていない。

だが、これまでに報告されている強誘電体は、さまざまな方位を向いた粒の集合体(多結晶)であり、不純物相も存在するため、安定した特性を得ることが難しい状況だった。このため、強誘電性の“逆サイズ効果”の起源についてもほとんど解明されていなかった。

強誘電性は結晶の特定の方位に発現するため、非常に薄い強誘電体を用いたデバイスを実用化するためには、結晶方位が揃った単結晶膜の作製が不可欠になる。しかしこれまで非常に薄い単結晶膜を作製することはできていなかった。

研究手法・成果

東工大の清水特任助教らのグループは、強誘電体膜の組成を状態図から再度検討して最適化したY2O3を置換したHfO2を選択するとともに、薄膜を成長させる基材の結晶構造およびその格子の長さを工夫することで、15ナノメーター (100万分の15ミリ)まで薄くても特性が劣化しない強誘電体単結晶膜の作製に成功した。(図2)また、この単結晶膜を用いることで、強誘電体相が400℃以上の高温まで安定に存在することを世界で初めて明らかにした。(図3)このことから、広い温度範囲での使用が可能であることが分かった。

作製に成功した単結晶HfO2基強誘電体の高分解能像とそのイオンの配列
図2.
作製に成功した単結晶HfO2基強誘電体の高分解能像とそのイオンの配列
ハフニウムイオン、イットリウムイオンおよび酸化物イオンの配列が走査透過電子顕微鏡像で直接確認できる。
強誘電体のXRD回折強度の温度依存性
図3.
強誘電体のXRD回折強度の温度依存性
強誘電相の回折強度が400℃まで確認でき、強誘電体相が400℃以上まで安定して存在できることを明らかにしました。

期待される波及効果

今回の研究成果は、以下のような波及効果が期待される。

a) “夢のメモリー”強誘電体メモリーの高容量化の実現

強誘電体メモリーはUSBメモリーのように電源を切ってもデーターが保存でき、USBメモリーより高速で動作できることから“夢のメモリー”としてICカードなどで実用化されている。しかし多くの情報を入力して管理することを可能にする大容量のメモリーは現在までできていない。今回の研究成果は、電源を切ってもデーターが保持でき、高速動作できる“夢のメモリー”の高密度化が実現する。

b) 新規デバイスの実現

強誘電体はこれまで薄くすると特性が劣化する“サイズ効果”によって、薄膜を用いたデバイスができなかったが、結晶方位の揃った強誘電体単結晶膜が得られたことで、以下のデバイスの実現が期待できる。

  1. 1.超高密度新規メモリー
    抵抗変化型メモリー(Resistance Random Access Memory、ReRAM[用語3])は、消費電力が小さく、大容量化が期待できるとして、さまざまな物質が検討されてきたが、安定した動作と信頼性の確保が難しいことから、本格的な普及には至っていない。
    強誘電体は電源を切った時に2つの状態が実現し、抵抗値も異なる。従って強誘電体を用いた抵抗変化型メモリーの基本アイデアは50年以上前に提案されていた。しかし強誘電体を用いた抵抗変化型メモリーを実現するには、非常に薄い強誘電体層が必要なため、ほとんど検討されてこなかった。
    今回の成果により、強誘電体抵抗変化メモリーの実用化研究が始まる。
  2. 2.高性能で電池の寿命が飛躍的に延びたスマートフォン
    現在のスマートフォンやノートパソコンなどは、性能を重視すると電池の消費量が大きくなるため、電池をもたせて数時間使えるように性能を落として使用している。そのため低消費電力でも高速で動作する新しい演算素子が必要とされている。
    極薄膜でも安定した強誘電性が得られると、高性能で使用しても消費電力が低く、電池の持ちの良い新タイプのトランジスタを作製することが可能となる。これによって、高性能で電池の寿命が飛躍的に延びたスマートフォンやノートパソコンが実現できる。

c) “逆サイズ効果”を有する強誘電性の起源の解明と新物質探索の加速

2011年に見つかった酸化ハフニウムを基本組成とする強誘電体は、これまで多結晶のみしか得られておらす、単相も得られていなかった。そのために、薄いほど特性が向上する“逆サイズ効果”がなぜ発現するのかは明らかになっていない。

単結晶が得られたことで、こうした基礎的な知見が明らかになり、酸化ハフニウム基強誘電体の“逆サイズ効果”特性の起源解明が期待できる。また新物質の開発の知見になると考えられ、新物質の探索が加速する。

今回の研究は、文部科学省元素戦略プロジェクト<研究拠点形成型>電子材料領域「東工大元素戦略拠点」、日本学術振興会の科学研究費、文部科学省の科学研究費、文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業(東北大学 微細構造解析)プラットフォームの一環として行われた。

用語説明

[用語1] 圧電性 : 結晶が外力による圧力に応じて誘電分極を生じる効果を圧電効果という。また電場を結晶に加えることで結晶が歪む効果を逆圧電効果という。通常、両方の効果を合わせて圧電性と呼ばれている。また、このような現象を示す結晶を圧電体という。

[用語2] MEMS(メムス、Micro Electro Mechanical Systems) : 機械要素部品、センサー、アクチュエーター、電子回路を一つのシリコン基板、ガラス基板、有機材料などの上に集積化したデバイス。

[用語3] ReRAM(抵抗変化型メモリー、Resistance Random Access Memory) : 電圧の印加による電気抵抗の変化を利用した半導体メモリー。低消費電力で、高密度から可能で、読み出し速度が大きいのが特徴、現在多くの方式の多くの物質が検討されており、実用化も始まっている。

論文情報

掲載誌 :
Applied Physics Letters
論文タイトル :
Growth of epitaxial orthorhombic YO1.5-substituted HfO2 thin film
(日本語訳:斜方晶YO1.5置換HfO2エピタキシャル薄膜の成長)
著者 :
Takao Shimizu, Kiliha Katayama, Takanori Kiguchi, Akihiro Akama, Toyohiko J. Konno, and Hiroshi Funakubo
DOI :

問い合わせ先

研究に関すること: 全般

元素戦略研究センター
特任助教 清水荘雄
Email : shimizu.t.aa@m.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5446

大学院総合理工学研究科 物質科学創造専攻
教授 舟窪浩
Email : funakubo.h.aa@m.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5446

測定に関すること

東北大学 金属材料研究所
教授 今野豊彦
Email : tjkonno@imr.tohoku.ac.jp
TEL : 022-215-2125 / Fax : 022-215-2126

東北大学 金属材料研究所
准教授 木口賢紀
Email : tkiguchi@imr.tohoku.ac.jp
TEL : 022-215-2128 / Fax : 022-215-2126

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター
Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

第2回オープン創薬コンテストで13個のヒット化合物を発見

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  • 標的タンパク質に対しコンピュータ技術を用いて薬のタネとなる化合物を提案し試験する、世界にもほぼ例がないオープン創薬コンテスト
  • 参加グループの提案化合物から約2000個を選び、アッセイ試験[用語1]を実施、標的としたヒトC-Yes酵素[用語2]に対する阻害活性を持つヒット化合物を13個発見
  • 受賞者はベンチャー企業の研究員、博士号取得直後のアカデミア研究員、大学院修士課程学生など

特定非営利活動法人 並列生物情報処理イニシアティブ(IPAB、秋山泰理事長:東京工業大学教授)と東京工業大学学術国際情報センターの関嶋政和准教授らが共同で実施したオープン創薬コンテスト『コンピュータで薬のタネを創る 2』により、標的としたヒトC-Yes酵素に対して阻害活性を有するヒット化合物を13個発見できました。各グループの手法と発見された化合物は、7月17日(金)に東京工業大学大岡山キャンパスで開催する発表会・表彰式で明らかにされました。

同コンテストの最大の特徴は、事前に公開した一つの標的タンパク質に対して、各参加チームがそれぞれのコンピュータ技術を用いて薬のタネとなる候補化合物の予測(IT創薬)を行い、応募された化合物に対して実際にアッセイ試験を実施して、提案された化合物の効果と、予測手法の性能を評価する点です。

第2回オープン創薬コンテストの流れ

同コンテストは、関嶋准教授らの発案で昨年初めて開催され、今回は2回目となります。2014年12月に参加グループを募集し、2015年1月~3月に参加登録と予測の提出を行いました。参加費は無料で、匿名による参加も可能です。参加グループは、事前に指定された約240万種の入手可能な化合物の中から、活性があると予測する化合物の識別番号を答えます。参加における唯一の義務は、用いた手法と得られた結果の公表に同意することです。

提案された化合物の中から、実行委員会(委員長 関嶋政和東京工業大学准教授)が審査委員会(委員長 産業技術総合研究所 広川貴次氏)の助言を受けて約2000化合物を選出し、4月~6月に海外の専門業者への外注によりアッセイ試験を実施しました。その結果、標的としたヒトC-Yes酵素に対して阻害活性を有するヒット化合物を新たに13個発見できました。

今回、ヒット率部門とリガンド効率部門で二つのグランプリを受賞するグループ「IMSBIO」の望月正弘氏((株)情報数理バイオ)は、昨年度の第1回コンテストでもグランプリを受賞していますが、一年間で予測性能の大きな進展が見られました。新規化合物部門でグランプリを受賞する「ソ創」の山本一樹氏(東京大学大学院医学系研究科(当時))は、昨年度は学生奨励賞を受賞した若手研究者です。グランプリに迫る総合成績を出した2つのグループには優秀賞が授与されます。「チーム TSUBAME-2」の安尾信明氏(東京工業大学大学院情報理工学研究科)は修士課程の学生で、昨年度は学生奨励賞を受賞しました。「Gromiha-Velmurugan」のマイケル・グロミハ氏(インド工科大学マドラス校)も昨年度からの参加者であり、各参加グループが前回の結果を参考にして、確実に技術力を高めている様子が見て取れます。

IPABコンテスト『コンピュータで薬のタネを創る2』 発表会・表彰式

  • 日時:
    2015年7月17日(金) 13:00~17:30 (12:30受付開始) 参加無料
  • 場所:
    東京工業大学 大岡山キャンパス 西9号館ディジタル多目的ホール

コンテスト受賞グループ

「 」内は参加グループ名

  • ヒット率部門グランプリ(NEC賞):
    「IMSBIO」 代表者:(株)情報数理バイオ 望月正弘氏

  • 新規化合物部門グランプリ(JBIC賞):
    「ソ創」 代表者:東京大学大学院医学系研究科(当時) 山本一樹氏

  • リガンド効率部門グランプリ(ナミキ商事賞):
    「IMSBIO」代表者:(株)情報数理バイオ 望月正弘氏

  • 優秀賞(シュレーディンガー賞):
    「チームTSUBAME-2」代表者:東京工業大学大学院情報理工学研究科 安尾信明氏

  • 優秀賞(DDN賞):
    「Gromiha-Velmurugan」代表者:インド工科大学マドラス校 マイケル・グロミハ氏

コンテスト受賞者と関係者の記念撮影
コンテスト受賞者と関係者の記念撮影

用語説明

[用語1] アッセイ試験 : 生体分子や細胞などを用いて、影響を調べる試験。バイオアッセイ。今回は、ヒトC-Yes酵素への各提案化合物の阻害活性を、一定濃度、または濃度を変化させて調べた。

[用語2] C-Yes(シーイエス)酵素 : 他のタンパク質をリン酸化する酵素の一種。細胞増殖やがんとの関連性が知られるほか、ウエストナイルウイルスの増殖にも関係する可能性が報告されている。

問い合わせ先

特定非営利活動法人 並列生物情報処理イニシアティブ(IPAB)

理事長 秋山泰
Email : office@ipab.org
Tel : 03-5734-3645(秋山) / 03-5830-3819(事務局)

コンテスト実行委員長 東京工業大学学術国際情報センター

准教授 関嶋政和
Email : sekijima@gsic.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3325

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

世界初、空気圧駆動型内視鏡ホルダーロボット発売―大学発ベンチャーによる革新的手術支援ロボット―

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東京工業大学と東京医科歯科大学の両大学発のベンチャー企業 リバーフィールド株式会社(本社:東京都新宿区、社長:原口大輔)は、小型・軽量で操作性に優れた内視鏡ホルダーロボット「EMARO(エマロ):Endoscope MAnipulator RObot」を開発し、本年8月より販売を開始します。販売は医療関連製品のトップメーカーである株式会社ホギメディカル(本社:東京都港区、社長:保木潤一)を通じて行います。

EMAROは東京工業大学精密工学研究所の只野耕太郎准教授と東京医科歯科大学生体材料工学研究所の川嶋健嗣教授の空気圧を用いた超精密制御技術に関する10年を超える研究成果を活かした世界初の空気圧駆動型手術支援ロボットです。

開発の背景

近年、外科手術において、術後の回復が早い、傷口が小さいなどの利点から、開腹手術に代わって低侵襲手術が広く行われています。低侵襲手術は身体への侵襲度が低い医療機器を用いた診断・治療で、特に内視鏡外科手術が注目されています。内視鏡を操作するにあたっては、スコピストと呼ばれる助手の医師が内視鏡の操作を行う必要があり、執刀医との円滑な意思疎通が求められることや手振れの発生などが問題となっており、内視鏡操作を支援する新たな医療機器の需要が高まっていました。既存の内視鏡ホルダーロボットは電動モーター駆動を用いており、空気圧駆動のような柔らかさを出すには不向きです。

EMARO概要

EMARO外観図

EMARO外観図

EMAROは頭部にジャイロセンサーを装着した執刀医が、頭を上下・左右に傾けると、その動きを感知して、空気圧で内視鏡を動かします。動く自由度は、内視鏡の抜き差し(前後)、上下、左右、そして回転の4つがあり、頭部の動きと足元のスイッチを組み合わせて制御します。従来、超精密制御を要求される手術関連のロボットに連続的な空気圧制御を行うことは大変困難でしたが、東京工業大学香川利春教授の永年に渡る流体計測制御技術を基盤として、只野准教授と川嶋教授が空気圧駆動系の厳密なモデル化と独自の制御技術の導入により極めて精密な空気圧制御を実装することに成功しました。空気圧駆動は産業用ロボットなどでも掴む動作に使われているように、動きが非常に柔らかく滑らかで、しかも安全性が高いという利点があります。また、直径約10mmと注射器サイズの小さなシリンダーへの空気の出し入れだけで大きな出力を得ることができる機構のため、大幅な小型化・軽量化を図ることができます。

EMAROを用いることにより、執刀医はスコピストを介することなく、望む画像を手ぶれなしに得ることができ、より正確な手術を行うことができます。また、スコピストの役目をEMAROが担うため、医師不足に悩む中小規模の病院でも腹腔鏡手術が可能となり、より多くの患者がこの手術を受けられるようになります。

今後の事業展開

EMAROは超精密空気圧制御技術を生かした手術関連ロボットの第一弾です。現在、空気圧駆動型の鉗子を有する手術支援ロボットシステムを開発中です。この最大の特長は、鉗子にかかる力を空気圧を通じて検出し、執刀医にフィードバックできることです(力覚)。手術支援ロボットでは、執刀医は患者から離れたところにあるコンソールの前に座り、内視鏡の画像を見ながら両手でコントローラを動かして鉗子や内視鏡を操作します。力覚があれば、自分の手で直接手術しているような感覚をもてるので、手術の精度がより高くなると期待されています。

内視鏡操作システム(左が従来法、右がEMAROを使った操作)

図1. 内視鏡操作システム(左が従来法、右がEMAROを使った操作)

EMAROの仕様

項目
内容
備考
販売名
内視鏡用ホルダ EMARO
 
型式
EMR-RS01
 
区分
クラス1(一般医療機器)
特定保守管理医療機器
届出番号:13B3X10174000001
特管第五区分:光学機器関連
販売地域
日本国内
 
駆動原理
空気圧駆動
 
自由度
4自由度
(上下、左右、前後、回転)
 
外形寸法
幅732mm×奥行1743mm×高さ1933mm
最大伸長時
重量
125kg
付属品含まず
定格電圧・周波数
AC 100V ・ 50/60Hz
 
操作インタフェース
  • ヘッドセンサ(上下、左右)
  • フットスイッチ(前後、回転)
  • マニュアルスイッチ(上下、左右、前後、回転)
  • コンソールパネル(上下、左右、前後、回転)
 
設定値
各自由度毎に5段階で速度調整可能
コンソールパネルにて調整
対象診療科
呼吸器外科、外科、泌尿器科、婦人科
 
搭載可能内視鏡
市販されている一般的な硬性内視鏡(φ10mm、φ5mm)
斜視鏡用カメラヘッド固定パーツも有り

リバーフィールド株式会社概要

設立日 :
平成26年5月20日
所在地 :
東京都新宿区西新宿7丁目3番4号
資本金 :
210百万円
代表取締役社長 :
原口大輔
社員数 :
16名
事業内容 :
手術支援ロボット等の医療機器研究開発および販売
沿革 :
  • 東京工業大学精密工学研究所の川嶋健嗣客員教授(東京医科歯科大学教授)と只野耕太郎准教授らが空気圧駆動の精密制御技術を生かした手術システム支援ロボット機器を社会に提供し、普及させることを目的として設立。
  • 文部科学省の「イノベーションシステム整備事業 大学発新産業創出拠点プロジェクト」(START: Program for Creating Start-ups from Advanced Research and Technology)に採択されたプロジェクト「気体の超精密制御技術を基盤とした低侵襲ロボットシステムの開発」(研究代表者:只野耕太郎)を母体とする。
  • 事業プロモーターユニットとして株式会社ジャフコの協力を得ている。

問い合わせ先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東京医科歯科大学 広報部広報課

Email : kouhou.adm@cmn.tmd.ac.jp
Tel : 03-5803-5011 / Fax : 03-5803-0272

リバーフィールド株式会社

Email : info@riverfieldinc.com
Tel : 03-5332-8250 / Fax : 03-5332-8251

大隅良典栄誉教授が第31回国際生物学賞を受賞

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独立行政法人日本学術振興会は、第31回(平成27年)国際生物学賞を東京工業大学フロンティア研究機構の大隅良典栄誉教授に授与すると発表しました。

国際生物学賞は、昭和60年(1985年)に昭和天皇の御在位60年と長年にわたる生物学の御研究を記念するとともに生物学の奨励を図るため、生物学の研究において世界的に優れた業績を挙げ、世界の学術の進歩に大きな貢献をした研究者に授与することを目的として設けられたものです。

大隅良典栄誉教授
大隅良典栄誉教授

大隅教授の受賞理由は、オートファジー(自食作用)研究において、分子レベルでの知見がゼロであったところからスタートし、多数のATG遺伝子の働きによってオートファジーが引き起こされるメカニズムを解明し、生物界に広く保存された重要な生命現象であることを示して、生命科学の重要な新しい分野を確立したことによるものです。

授賞式は、例年12月頃に東京・上野の日本学士院において開催され、授賞式及び受賞者を囲んでの記念茶会には、毎年、天皇皇后両陛下がご臨席いたします。

また、記念シンポジウムは12月5日(土)、6日(日)に京都にて開催予定です。

大隅良典栄誉教授コメント

この度今年度の国際生物学賞の受賞の報せを頂きました。国際生物学賞は生物学者であられた昭和天皇の御在位60年を記念して生物学の奨励を目的として創設されました。これまで30人の受賞者がおられますが、日本人は僅か6人です。その中でも日本でなされた仕事となると、1988年の木村資生先生と1999年の江橋節郎先生という大先輩による輝かしい業績があります。このような方々に混じってこのたびの栄誉を受けることは、身の引き締まる思いでおります。

オートファジーは、細胞が普遍的に持っている、自分自身の構成成分の分解機構です。私はひたすら、酵母という小さな生物を用いて、オートファジーの基礎的な解析を進め、関わる遺伝子群とその機能を明らかにしてきました。遺伝子の同定を機にオートファジーの研究は近年急速に広がりを見せ、高等動物の様々な生理機能に関わること、様々な病態にも関係していることが分かってきました。分解が合成に劣らず生命活動には重要であることが次第に明らかになりつつあります。私は今後残された研究時間で今一度原点にかえって、「オートファジーとは何か」という問いに向き合いたいと思っています。また細胞生物学という基礎分野の研究に若い世代が新たな興味をもって参画し、発展させてくれることを願っています。

今回の国際生物学賞の選考にあたりご推薦を頂いた方々、選考の任に当たられました諸先生方に厚く御礼申し上げます。またこれまで私の研究を共に進めて頂いた沢山の仲間に心から感謝したいと思います。

三島良直学長コメント

このたび大隅良典栄誉教授が国際生物学賞を受賞されることを大変嬉しく、また光栄に存じます。大隅教授は生命科学の全く新しい分野の研究を先導してこられ、オートファジーのメカニズムおよび生理学的機能を解明して医療への応用につながる大きな礎を築かれました。東工大はこれまでに幅広い科学技術の分野で卓越した研究成果を生み出してきていますが、今回の受賞を機に、生命科学分野での世界最先端研究をリードできる体制をさらに強化し、全学を挙げて支援していく所存です。

電子商取引の経営に科学の光を当てる―段階的成長モデルを提案―

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概要

東京工業大学大学院イノベーションマネジメント研究科博士課程(当時)の林滋と比嘉邦彦教授は、電子商取引(EC:E-コマース)では信用と価値を段階的に高めていくことが顧客の購買行動に結びつくというECの段階的成長(SG:Staged Growth)モデルを提案した。

SGモデルを使用することにより、ECの経営者らはビジネスや顧客について科学的に分析することが可能となる。

研究の背景

世界市場においてECの取引額は増加し続けている。従来型の商取引に比べ多くの利点を持つECではあるが、ECビジネスで成功することは簡単なことではない。

今のところ、多くのECビジネスの経営者らは学習からの推測、経験法則、表面的な数値データ、予感などの非科学的な方法で意思決定を行っている。

研究成果

東工大の林氏と比嘉教授は、信用と価値の要素が相互に影響しあうECの段階的成長モデルを提案した。具体的には、第1段階は「一時的な信用構築」と「価値の提示と普及」、第2段階は「信用構築」と「同質の価値の継続的供給」、第3段階は「ブランドの確立」と「新しい価値の創造や追加」というモデルである。

ここでいう信用と価値は、商品・サービスそのものに加え、生産者やECビジネス独自の信用と価値も対象となる。例えば、有名ブランドの新商品は、商品そのものの信用・価値はまだ認識されていなくても、生産者独自の信用・価値が顧客の認識に影響を与えると考えられる。

実際のECビジネスのデータを基にSGモデルの有効性を検証した。その結果、ECビジネスの顧客の購買行動は、信用と価値の要素によって約80%説明可能であった。また、7名のECビジネス経営者へのヒアリング調査からSGモデルの実務的な有効性も確認された。

今後の展開

SGモデルを使用することにより、実務家はマーケティング活動ごとの効果分析が行え、研究者は顧客の購買行動の遷移状況分析や信用と価値の相互影響の分析などが行えるようになると期待される。

ECの段階的成長モデル

図1. ECの段階的成長モデル

論文情報

掲載誌 :
日本経営工学会論文誌 60, 191-196 (2009)
論文タイトル :
Analysis of Differentiating Factors among Trust and Value Stages in e-Commerce Growth Process.
(「E-コマースの成長過程における信用と価値の段階差を生む要素の分析」)
著者 :
林滋、比嘉邦彦
CiNii :

問い合わせ先

大学院イノベーションマネジメント研究科
教授 比嘉邦彦
Email : khiga@craft.titech.ac.jp
Tel : 03-3454-8732

超小型大気圧低温プラズマジェットの開発に成功―3Dプリンター活用、微細加工や医療応用に期待―

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概要

東京工業大学大学院総合理工学研究科の沖野晃俊准教授と神戸大学大学院医学研究科の東健教授は、3Dプリンターを用いた大気圧低温プラズマジェットの開発に成功した。 従来の機械加工では作成が困難な直径3.7mm、重さ3.5g、チタン製の小型大気圧低温プラズマジェットをチタンで造形し、高強度なプラズマを安定的に生成できることを確認した。

3Dプリンターによる造形は設計の自由度が高いことを生かし、小型化と高い処理効果を両立したプラズマ装置の開発を実現した。微細部の表面処理や内視鏡治療などに用いる医療機器への応用が期待される。

この成果は7月31日に米国物理学協会(AIP)の学会誌「AIPアドバンス(Advances)」で発表された。

研究成果

3DプリンターはCADの設計により、継ぎ目のない鎖や複雑な水路、切削加工では不可能な微小な構造などが金属や樹脂で精密に造形できる。本研究ではこの3Dプリンターを用い、従来の機械加工では作成が困難な直径3.7mm、重さ3.5g、チタン製の大気圧低温プラズマ源を開発した。

3Dプリンターは小型の放電電極の中に微細な水冷チャンネルを配置するなどの自由な加工ができるため、放電部の小型化とプラズマの高強度化を両立できる。また用途に合わせたプラズマ生成部の構造を短時間かつ安価に設計・作成できるため、表面処理などの産業応用のみならず、医療用機器としての利用も期待できる。

開発技術の内容

現在、大気圧低温プラズマは室温~100℃程度の低温でありながら高い活性力を持つ活性種を生成できるため、表面親水化による接着性向上、細菌やウイルスなどの殺菌、血液凝固、植物の成長促進など様々な効果が報告されている。さらに、放電損傷のない、手で触れるプラズマも生成可能なため、生体殺菌や手術時の止血などへの応用も検討されている。

しかし、従来は金属や樹脂を旋盤やドリルなどの機械加工でプラズマ生成部を作成していたため、小型化や設計の自由度に制限があり、微小でかつ高強度なプラズマ装置を製作することは困難だった。

例えば、内視鏡の鉗子口は内径3.7mm前後であるため、内視鏡下でプラズマを使用するためには、それよりも細いプラズマ装置を作成する必要がある。これに対し、東工大の沖野准教授らは、世界に先駆けて金属の3Dプリンターを用いてプラズマ生成部を試作し、高強度なプラズマを安定に生成することに成功した。図1上は窒素のプラズマジェット、下は内視鏡の鉗子口にこのプラズマジェットを組み込んだ写真である。

3Dプリンターで作成したプラズマ生成部 上:窒素プラズマ 下:内視鏡に組み込んだ様子

図1. 3Dプリンターで作成したプラズマ生成部

上:窒素プラズマ 下:内視鏡に組み込んだ様子

窒素プラズマのほかにアルゴンやヘリウムのプラズマも生成できる。また、生成されるプラズマは室温程度の低温であり、図2のように熱損傷なく生体に照射処理することができる。

指に窒素プラズマを照射

図2. 指に窒素プラズマを照射

今後の展望

プラズマ生成部が微小であることから、従来の機械加工では製作が困難であった複雑な構造や屈曲した構造を持つプラズマ装置の開発ができる。小型化だけでなく、通常の大きさのプラズマ装置の電極内に水冷機構を配置するなど、3Dプリンターの様々な応用が期待できる。

論文情報

掲載誌 :
AIP Advances, 5, 077184 (2015).
論文タイトル :
Atmospheric nonequilibrium mini-plasma jet created by a 3D printer
著者 :
Toshihiro Takamatsu, Hiroaki Kawano, Hidekazu Miyahara, Takeshi Azuma and Akitoshi Okino
DOI :

問い合わせ先

大学院総合理工学研究科創造エネルギー専攻

准教授 沖野晃俊
Email : aokino@es.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5688

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


COI「『以心電心』ハピネス共創社会構築拠点」サイトビジット

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東京工業大学では、「『以心電心』ハピネス共創社会構築拠点」が、文部科学省・科学技術振興機構による「革新的イノベーション創出プログラム(センター・オブ・イノベーション COI STREAM)」のCOI拠点に採択されています。7月28日、大岡山キャンパスにおいて、ビジョナリーチーム(ビジョン2:豊かな生活環境の構築(繁栄し、尊敬される国へ))によるサイトビジット(現地調査)が行われました。

サイトビジット冒頭の挨拶を行う東工大 三島良直 学長

サイトビジット冒頭の挨拶を行う東工大 三島良直 学長

COI STREAMでは、現在潜在している将来社会のニーズから導き出されるあるべき社会の姿、暮らしのあり方(ビジョン)を設定し、拠点設計や拠点構成に係る検討等を行う「ビジョナリーチーム」を、ビジョンごとに設置しています。 ビジョナリーチームは各拠点に対して、活動成果や研究開発の進捗状況の把握、拠点構想に対する意見聴取等を行うことを目的に、サイトビジットを実施しています。

今回のサイトビジットにあたり、ビジョナリーチームからビジョン2のビジョナリーリーダー横田昭氏、ビジョナリーチームメンバーの大垣眞一郎氏、木本成一氏、水野正明氏ほか7名、文部科学省からは神田忠雄氏、江頭基氏ほか2名が来学しました。

当拠点からは、秋葉重幸プロジェクトリーダー(株式会社KDDI研究所)、小田俊理研究リーダー(東京工業大学教授)をはじめ、若林整サブリーダー(東京工業大学教授)、サテライト機関の北陸先端科学技術大学院大学、NTT、ソニー、富士ゼロックス等の企業関係者が対応しました。

サイトビジットでは、拠点運営状況、ならびに長谷川准教授による視線対話エージェントや浅田教授・鈴木准教授によるテラヘルツ通信デバイスなどのデモンストレーションや各グループによる研究進捗状況等について、ビジョナリーチームへ説明を行いました。説明後には、今後の社会実装の方向性・進め方などについて質疑・総括が行われ、現在取り組んでいるCOI拠点のビジョン、社会実装への取り組みについて理解を深めていただくとともに、今後の進め方について有益なご意見・ご助言をいただくことができました。

デモンストレーションの様子
デモンストレーションの様子

問い合わせ先

『以心電心』ハピネス共創研究推進機構

Email : akiba@ee.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2922

8月17日14:30 本文中に誤字がありましたので、修正しました。

横浜ゴム、東京工業大学バイオマスを原料とした合成ゴム(ブタジエンゴム)の新技術開発

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横浜ゴム(株)は、国立大学法人東京工業大学との共同研究により、バイオマス(生物資源)であるセルロース(植物繊維の主成分である糖)から直接ブタジエンを合成する触媒の開発に成功した。ブタジエンは自動車タイヤなどの原料となる合成ゴム(ブタジエンゴム)の原料として使用される。現在、ブタジエンは石油精製の副産物として工業的に生産されているが、新技術の開発によって、今後石油への依存度が低減でき、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素削減に貢献できる。

横浜ゴムと東京工業大学は、2012年からバイオマスから合成ゴムを作りだす共同研究を進めてきた。東京工業大学(大学院総合理工学研究科 馬場俊秀教授)は糖から直接ブタジエンを合成する触媒の研究を進め、工業的に適した固体触媒を使って高効率にブタジエンを合成することに成功した。今後、量産化に向けた触媒設計を進め、2020年代前半を目標に実用化を目指す計画。ブタジエンゴムは、合成ゴムの中でもスチレン・ブタジエンゴムに次いで使用量が多い。このため新技術の開発は、化石燃料の使用削減への大きな効果が期待できる。

バイオマスを原料とした合成ゴム(ブタジエンゴム)合成のイメージ

東京工業大学は1881年創立の理工系総合大学。持続可能な社会の実現に向け、バイオマスの利用を始めとした様々な基礎研究を推進している。横浜ゴムはタイヤ・ゴム製品の総合メーカー。カーボンニュートラル(排出される二酸化炭素=吸収される二酸化炭素)な植物由来のバイオマスを活用する研究に積極的に取り組んでいる。

問い合わせ先

横浜ゴム(株)広報部 担当:田中

Tel:03-5400-4531
FAX:03-5400-4570

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel:03-5734-2975
FAX:03-5734-3661

磁性で創る新しいフォトニクス材料とデバイス―弱い光で磁化が変化する光磁石の発見と応用―

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概要

東京工業大学総合理工学研究科の山本康介修士課程修了、北本仁孝教授、像情報工学研究所の宗片比呂夫教授らのスピンフォトニクス研究グループは、コバルト(Co)とパラジウム(Pd)のごく薄い膜を交互に積層した磁性薄膜が光励起に対して極めて高い感受性を示す「光磁石」(光により磁性を変えられる材料)候補であることを発見した。パルス光強度 1μJ/cm2 (1平方メートル当たり1マイクロジュール)以下の超短レーザーパルス光[用語1]を用いた光励起磁化才差運動[用語2]の実験によって見出した。

さらに、同研究グループの東工大像情報工学研究所の西林一彦特任講師は、電気通信大学の米田仁紀教授、NHK放送技術研究所の久我淳氏らとの共同研究により、類似の磁性薄膜と光ファイバーを一体化した光導波路を用いて、導波路を伝搬するモード光の選択的な偏光変調に成功し、光磁石材料と偏光変調を組み合わせた光信号多重伝送の可能性を切り拓いた。

研究の背景

デジタル情報技術は私達の生活スタイルに多大な影響を及ぼしつつあるが、そのことが、研究者にとっては、いっそう高速でエネルギー効率の高いデジタル信号の扱い方の研究に対する大きな動機となっている。実際、電気電子工学者は半導体チップ上で光デジタル信号を使うことを検討し始めており、固体物理学者はチップ上で電子の電荷[用語3]に代わって電子のスピン[用語4]を用いたデバイスを研究している。

光は宇宙で最速であり、スピンが磁気シグナルを伝送する際に発生する熱量は、電荷輸送に伴って発生する熱量よりも格段に小さい。しかし、光とスピンを組み合わせて最強タッグチームを作ろうとすると大きな問題がある。それは、光とスピンとの間の相互作用は光と電荷との間の相互作用に比べて小さいという問題である。

研究成果

宗片教授らの研究グループは、電荷とスピンの間の相互作用が大きな物質群に着目した。具体的には、スピン安定状態が異なる2種類の物質の接合界面、この場合はCoとPdの界面で発生する電荷のわずかな偏りに基づくスピンに着目した。超短時間に圧縮した弱い光パルスを試料に照射して、一気に光-電荷-スピン間の相互作用を変調することで、スピンの向き、実際にはスピンが一方向にそろったスピン集団全体の向き(磁化[用語5])を変化させることができることを、磁化の才差運動(コマの首振り運動)を観測することで示した。

ところで、通常の実験では、自由空間を伝搬する光ビームを用いて物質と光の間の相互作用を調べることが多い。しかし、光ファイバーなどの導波路内では、干渉の結果、光は強度分布が複雑な多くのモード光に分かれて伝搬する。したがって、スピンを含む領域をモード光が伝搬する場合、光-スピン間の相互作用が伝搬光全体としてはどのように変調されうるか自明でない。西林特任講師らの実験結果は、スピンを含む空間位置とそれによって変調されるモード光の間に強い相関が存在することを明らかにしている。

今後の展開

弱い光パルスで磁化の周期的な運動を発生させることができると、その周囲を通過する光デジタル信号の偏光面や群速度を制御できる可能性が拓ける。光の多重伝送をはじめ、これまでの光回路では着想されなかったデバイス、例えばスピンと光だけで構成する光メモリや遅延再生、などの研究に発展する可能性を秘めている。具体的なデバイス試作はこれから始まると期待される。

光磁石の発見を示唆する光励起磁化才差運の実験データ(左)とCo/Pd極薄積層構造概略図(中上)、ならびに、その現象を活用した三端子光素子概略図(右下)
図1.
光磁石の発見を示唆する光励起磁化才差運の実験データ(左)とCo/Pd極薄積層構造概略図(中上)、ならびに、その現象を活用した三端子光素子概略図(右下)

用語説明

[用語1] 超短レーザーパルス光 : 100フェムト秒ないしそれ以下に圧縮されたパルス状の光波。今回の実験では基本波長 790nm(ナノメートル)を用いた。

[用語2] 才差運動 : 磁化が方向AからBに変化する際、めざす方向Bを軸としてその周りを周回する運動。

[用語3] 電荷 : ここでは固体中で電流を流す役割を担う電子の電荷を指す。

[用語4] スピン : ここでは電子固有の磁気モーメントと電子軌道が発生する磁気モーメントの両者を指す。

[用語5] 磁化 : スピンが集団的に一方向にそろった安定状態を指す。磁石の強さに相当する。

論文情報

掲載誌 :
IEEE Trans. Mag. 49, 3155 (2013)
論文タイトル :
Low-power photo-induced precession of magnetization in ultra-thin Co/Pd multi-layer films
著者 :
K. Yamamoto, T. Matsuda, K. Nishibayashi, Y. Kitamoto and H. Munekata
DOI :
掲載誌 :
Applied Physics Letters 106, 151110 (2015).
論文タイトル :
Demonstration of polarization modulated signals in a multi-mode GdFe-silica hybrid fiber
著者 :
K. Nishibayashi, H. Yoneda, K. Kuga, T. Matsuda, and H. Munekata
DOI :

問い合わせ先

像情報工学研究所
教授 宗片比呂夫
Email : hiro@isl.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5185

橋梁点検ロボットの大型模型実験を開始

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株式会社建設技術研究所(本社:東京都中央区、代表取締役社長:村田和夫)、株式会社ハイボット(本社:東京都品川区、ミケレ・グアラニエリCEO)、国立大学法人東京工業大学理工学研究科・塚越研究室(東京都目黒区、大岡山キャンパス)は、総合科学技術・イノベーション会議の「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)/インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」(管理法人:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO))による共同受託として進めていた橋梁点検ロボット開発の一環として、川崎市内に実験施設を確保しました。実験施設内に製作した実物大橋梁模型を使い、橋梁桁下を橋梁横断方向に駆動するセンサ搭載型ロボットの実験を今秋より開始します。このロボットは、従来の点検ロボットに比べて作業性が飛躍的に向上する点に特徴があります。

従来の橋梁点検は、L字型の長大なアームを有する橋梁点検車を用いるのが一般的でした。橋梁点検車を用いた作業では、橋梁上に大型車両を停止させる必要があり、大掛かりな交通規制が必要であったほか、橋梁幅員が長大な場合にはアーム長が不足して点検できない個所が発生するなどの問題点がありました。

こうした課題を踏まえて、建設技術研究所、ハイボット、東京工業大学では、新たな橋梁点検ロボットの開発に向けて共同研究を実施してきました。この技術開発は、NEDOが公募を行った「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)/インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」に応募をして選考されたものです。NEDOからの委託に基づき、平成26年度~平成30年度の5年間の事業期間で研究開発を行っています。

共同研究に取り組んでいる3者では、開発した技術の有効性確認、効率的な現地作業手順の確立を目的とする実証実験を行うこととし、川崎市内に実験施設を確保したうえで、橋長が20mある大型の橋梁模型2基(鋼・コンクリート各1基)を設置しました。こうした実験施設を活用することにより、ロボット開発における迅速なプロトタイプ製作を実現することができます。

橋梁点検ロボットは現在開発中で、今秋より、実験施設で動作実験を開始します。今後4年間を目標に、開発したロボットの効率的な運用方法の確立を図る予定です。

川崎市内に確保した実験施設

川崎市内に確保した実験施設

実験施設内に設置した2基の実物大橋梁模型

実験施設内に設置した2基の実物大橋梁模型

問い合わせ先

株式会社建設技術研究所 広報室 見附(みつけ)

Email : mitsuke@ctie.co.jp
Tel : 03-3668-4378 / Fax : 03-3639-9426

株式会社ハイボット 取締役 北野

Email : kitano@hibot.co.jp
Tel : 03-5791-7526 / Fax : 03-5791-7527

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

ゲルマニウム導入し光るダイヤを開発―バイオマーカーや量子暗号通信への応用へ期待―

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要点

  • ダイヤモンド中の空孔とゲルマニウムの新しい単一カラーセンターを作製
  • プラズマ化学堆積法を使用し高品質ゲルマニウム-空孔センターを形成
  • 生細胞イメージング用のバイオマーカーや量子暗号通信への応用を期待

概要

東京工業大学大学院理工学研究科の岩崎孝之助教と波多野睦子教授らの研究グループは、ダイヤモンド中の空孔(V[用語1])とゲルマニウム(Ge)からなる新しいカラーセンターの形成に世界で初めて成功した。

ダイヤモンド中にゲルマニウムを導入することによって、ゲルマニウムと格子欠陥(空孔)が結びつき、室温・大気中で安定して発光することを見いだした。アンサンブル状態(カラーセンターが多く含まれている状態)だけでなく、ゲルマニウム原子1個と空孔の組合せからなる単一カラーセンター[用語2]も安定して形成できることを確認した。さらに、マイクロ波プラズマ化学堆積法[用語3]を使用し、発光波長の均一性に優れた高品質アンサンブルGeVセンターを作り出すことにも成功した。生細胞イメージング用のバイオマーカー[用語4]や量子暗号通信[用語5]への応用が期待でき、さらに高感度センサーとしての可能性も有している。研究成果は8月7日に、英国ネイチャー出版グループのオンラインジャーナル「Scientific Reports」に掲載された。

研究の背景

ダイヤモンド中のカラーセンターは、ホスト材料であるダイヤモンドの高い生体適合性、退色しない安定した発光、室温での単一光子放出などの特長を有することから、生細胞イメージング用のバイオマーカー、量子暗号通信、高感度センサーなどの応用に向けて世界中で研究が活発に進められている。これらの応用には強く発光し、かつ形成を制御しやすいカラーセンターが求められている。様々な応用を実現するためには、アンサンブル状態および単一(ひとつのカラーセンターが孤立している状態)の両方を形成することが重要である。発光が強いアンサンブルカラーセンターはバイオマーカーやセンサー応用に適しており、単一光子源として機能する単一カラーセンターは量子暗号通信への応用が期待できる。

これまでに、ダイヤモンド中のカラーセンターにおいて窒素(N)‐空孔のNVセンターとシリコン(Si)‐空孔のSiVセンターだけが単一状態を示し、かつ再現性良く形成されていた。しかし、NVセンターは主要な発光波長であるゼロフォノンライン(ZPL[用語6])での強度が小さく、SiVセンターは合成装置中の不純物から取り込まれやすく形成が制御しづらいという問題があった。

研究成果

東工大の岩崎助教と波多野教授らは、ダイヤモンド中にゲルマニウムを導入することにより、ゲルマニウムと空孔からなるGeVセンターを形成した。GeVセンターは、外部からの光励起により波長602ナノメートル(nm)で強い発光を示し(図1)、高い再現性で形成できることを確認した。アンサンブル状態だけでなく、単一の状態でも安定したカラーセンターとして機能させることに成功した。

2次自己相関関数測定[用語7]から、単一GeVセンターが単一光子源として働くことを証明し(図1)、飽和発光強度[用語8]として170kcpsという高い値が得られた。励起波長の最適化により、GeVセンターの発光強度をさらに上昇させることができ、再現性良く形成できるダイヤモンド中のカラーセンターのうちで最も高輝度な構造となる可能性がある。第一原理計算により、ゲルマニウム原子は炭素原子が存在する格子位置ではなく、格子と格子の間に存在していることを明らかにした(図1)。

イオン注入法[用語9]を用いると、ダイヤモンド自体にダメージを与えてしまい、GeVセンターの発光波長がばらついてしまうことが観測された。一方、マイクロ波プラズマ化学堆積法を用いると、より鋭く発光波長の均一性に優れたアンサンブルGeVセンターを作り出すことにも成功した(図2)。SiVセンターはマイクロ波プラズマ化学堆積装置中の真空チャンバ-(容器)部品などから容易にダイヤモンド中に取り込まれてしまうが、GeVセンターはより制御しやすく、拡張性が高い発光源として利用される可能性を有している。

ダイヤモンド中の単一GeVカラーセンターの構造と性質

図1. ダイヤモンド中の単一GeVカラーセンターの構造と性質

マイクロ波プラズマ堆積法による高品質アンサンブルGeVカラーセンターの形成

図2. マイクロ波プラズマ堆積法による高品質アンサンブルGeVカラーセンターの形成

今後の展開

ダイヤモンド中のGeVセンターは炭素とゲルマニウムからなる新しい原子レベルサイズの機能性構造であり、ダイヤモンドの特長である高い生体適合性を有する。さらに、発光強度が大きいことから、ナノダイヤモンド中へのGeVセンターの形成により、細胞内で退色しない安定な高輝度マーカーとして機能し、生体機能の解明や細胞レベルでの新しい診断技術につながる。さらに、均一な発光波長の単一GeVカラーセンターによって、量子暗号通信用光源への応用が期待される。

本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構のCREST・研究領域「素材・デバイス・システム融合による革新的ナノエレクトロ ニクスの創成」(炭素系ナノエレクトロニクスに基づく革新的な生体磁気計測システムの創出)の支援を受けて行われた。また今回掲載された「Scientific Reports」は、大阪大学、産業技術総合研究所、滋賀医科大学、ドイツウルム大学の共著論文である。

用語説明

[用語1] 空孔 : 固体結晶において、本来あるべき原子が抜けて孔となっている格子位置のこと。ダイヤモンドの場合は、炭素原子が格子位置からはずれることで空孔が発生する。空孔のVはベーカンシー(Vacancy)の頭文字。

[用語2] カラーセンター : ダイヤモンドなどの固体物質中に形成される欠陥構造で、光の吸収や外部励起による発光を示す。欠陥構造が孤立して存在し、単一光子源として機能するものを単一カラーセンターと呼ぶ。それに対して、光の回折限界以下の距離に単一カラーセンターが密集した状態をアンサンブルと呼ぶ。

[用語3] マイクロ波プラズマ化学堆積法 : 原料(今回の場合はメタンガス、水素ガス、ゲルマニウム小片)をマイクロ波プラズマで分解することによって材料を作製する手法。

[用語4] バイオマーカー : 個々のタンパク質や細胞内部の機能を計測するためのナノサイズのマーカー。複数のマーカーにより細胞内部のイメージングが可能。

[用語5] 量子暗号通信 : 量子状態の特性を利用した通信技術で、外部からの盗聴に対して完全に安全な通信を可能とする技術。

[用語6] ゼロフォノンライン(ZPL) : 発光においてフォノンの遷移を伴わないもの。

[用語7] 2次自己相関関数 : 発光源の時間コヒーレンスを調べる方法。遅延時間(τ)が0のときに、値が0.5以下になる場合に発光源が単一光子を発生していることがわかる。

[用語8] 飽和発光強度 : 単一カラーセンターの最大の発光強度。単位のkcpsはキロ・カウント・パー・セコンド(1秒間のカウント数)

[用語9] イオン注入法 : イオンを加速することによって固体中に導入する手法。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Germanium-Vacancy Single Color Centers in Diamond
著者 :
Takayuki Iwasaki, Fumitaka Ishibashi, Yoshiyuki Miyamoto, Yuki Doi, Satoshi Kobayashi, Takehide Miyazaki, Kosuke Tahara, Kay D. Jahnke, Lachlan J. Rogers, Boris Naydenov, Fedor Jelezko, Satoshi Yamasaki, Shinji Nagamachi, Toshiro Inubushi, Norikazu Mizuochi and Mutsuko Hatano
DOI :

問い合わせ先

東京工業大学 大学院理工学研究科 電子物理工学専攻

岩崎孝之助教、波多野睦子教授
Email : iwasaki.t.aj@m.titech.ac.jp / hatano.m.ab@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3999 / Fax : 03-5734-3999

JST事業に関すること

科学技術振興機構 戦略研究推進部

古川 雅士
Email : crest@jst.go.jp
TEL : 03-3512-3531 / Fax : 03-3222-2066

報道担当

科学技術振興機構 広報課

Email : jstkoho@jst.go.jp
Tel : 03-5214-8404 / Fax : 03-5214-8432

量子コンピュータに関する国際会議 開催報告

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量子アニーリングおよびその関連問題についての国際会議「New Horizons of Quantum and Classical Information 2015 - Quantum annealing, Error correcting codes, and Spin glasses -」が、8月3日から5日の3日間にかけて、東工大蔵前会館で開催されました。

2011年、カナダのベンチャー企業D-Wave Systems社によって、既存のコンピュータと全く異なる量子力学の原理で動作する量子コンピュータが開発されました。このコンピュータの動作原理となるのが、量子アニーリングとよばれる手法です。1998年、本学の西森秀稔教授および本学の修了生である門脇正史氏(当時大学院生)によって提案されました。量子コンピュータの実現にはまだ何十年もかかると言われていたところに出現したD-Waveマシンは大きな反響をよび、現在さまざまな研究が行われています。本会議はそのような中で、関連研究者間での密な議論や情報交換を主な目的として開催されました。

会議には70名近くの参加者が集まりました。実際にD-Waveマシンを用いた研究を行っている4つのグループ(D-Wave社、Google、南カリフォルニア大学、テキサスA&M大学)からの研究者を含む、9名の招待講演および8名の一般講演が行われました。

会場の様子
会場の様子

会場の様子

実際にD-Waveマシンを用いて研究を行っている講演者からは、実際にどのような計算が行われているか、得られたデータをどのように解釈するか、生じる問題をどのように克服するかについてなどの講演が行われました。また、他の技術を用いて量子アニーリングを実装する研究、理論的に計算時間を速めるための手法など、さまざまな関連する話題について、多方面からの議論が行われました。

講演する西森教授
講演する西森教授

量子アニーリングによって解かれる問題は、最適化問題と呼ばれるものです。それは自然科学上の長年の難問である「ガラス」状態に関する理解から、現代のコンピュータ社会を支える情報理論の諸問題、人々の生活を一変させる勢いを見せる最先端の人工知能、機械学習にまで至る広範な問題に解決方法を与えてくれます。本会議では、そのような量子アニーリングの応用範囲となる様々な問題についての講演も行われました。

融解液体の温度を徐々に冷却すると、普通は一定温度で結晶化して固体となるが、このような結晶化をせず、冷却とともに次第に粘度を増し、明確な凝固点を示さずに、原子の配置あるいは原子のつながりが大きく乱れた状態で固化する現象。(出典:『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』2014版)

また、西森教授とともに量子アニーリングの初期研究に携わった門脇氏に、研究の経緯について特別講演を行っていただきました。発表から何年もたって原論文の引用数が伸びているという言及には、研究活動というものの奥深さ、面白さが感じられました。

門脇・西森の量子アニーリングについての論文(1998年)の引用数(Google Scholar Citationsより引用)
門脇・西森の量子アニーリングについての論文(1998年)outerの引用数(Google Scholar Citationsより引用)

連日35度を越える猛暑の中、会議は終始活発な議論で、更に熱気に満ちあふれていました。それでも参加者同士の交流を通して、非常にリラックスした雰囲気の中で行われ、多くのさまざまな議論が交わされました。

問い合わせ先

理工学研究科物性物理学専攻 高橋和孝

Email : nhqci2015@stat.phys.titech.ac.jp

平成27年度「東工大挑戦的研究賞」受賞者決定

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挑戦的研究賞は、本学の若手教員の挑戦的研究の奨励を目的として、世界最先端の研究推進、未踏の分野の開拓、萌芽的研究の革新的展開又は解決が困難とされている重要課題の追求等に果敢に挑戦している独創性豊かな新進気鋭の研究者を表彰するとともに、研究費の支援を行うものです。本賞を受賞した研究者からは、数多くの文部科学大臣表彰受賞者が生まれています。

14回目となる今回は10名が選考されました。

受賞者一覧

受賞者
所属
職名
研究課題名(★は学長特別賞)
大学院理工学研究科
(理学系)物性物理学専攻
准教授
★新奇物性開拓に向けた真空中の超低温ナノ粒子系の実現
大学院理工学研究科
(理学系)化学専攻
准教授
★有機高分子半導体と金属錯体を融合したCO2還元光触媒の創出
大学院総合理工学研究科
物質電子化学専攻
助教
★革新的ナノ分光計測法の開拓
大学院理工学研究科
(理学系)数学専攻
准教授
測度距離空間上の確率解析と最適輸送理論
大学院生命理工学研究科
生体システム専攻
准教授
生物の多様性を生み出す分子基盤の解明
大学院生命理工学研究科
生命情報専攻
講師
ヒト腸内環境マルチオミクスデータを用いた超早期大腸がんマーカーの発見
資源化学研究所
無機機能化学部門
准教授
金属ナノ粒子の原子数と形を同時に制御する超微細精密合成法の開発
資源化学研究所
スマート物質化学部門
助教
フォトレドックス触媒が拓くラジカル反応を基盤とした新合成戦略
精密工学研究所
共通部門基盤研究分野
助教
人工心臓装着患者のクオリティ・オブ・ライフの向上
応用セラミックス研究所
材料融合システム部門
助教
木質高層建築を実現・普及させる効率的な制振設計法の開発

(所属順・敬称略)

昨年度の同賞受賞式でのプレゼンテーションの様子
昨年度の同賞授賞式でのプレゼンテーションの様子


鰭から四肢への進化はどうして起ったか―サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす―

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要点

  • 四肢への進化過程で、位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト
  • 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定
  • サメ鰭の前側と後側のバランスを後ろ寄りにすると鰭の付け根の骨は1本に変化

概要

東京工業大学大学院生命理工学研究科の田中幹子准教授と鬼丸洸元大学院生(現CRG博士研究員)らの研究グループは、スペインCRG[用語1]のジェームズ・シャープ(James Sharpe)教授らと共同で、鰭(ひれ)から四肢への進化をもたらした要因の解明に成功した。軟骨魚類ハナカケトラザメ(Scyliorhinus canicula:以下、サメ)の鰭を解析し、サメ胚(個体発生の初期段階)の胸鰭は、付け根の部分が3つの骨からなる原始的な鰭の特徴を持つが、鰭から四肢への進化の過程で、前側と後側の位置価[用語2]をもつ領域のバランスが、後側寄りにシフトすることがわかった。

位置価のシフトの原因は、四肢の原基[用語3]の前側で発現するGli3 遺伝子[用語4]が、サメの胸鰭原基では後側で強く発現しているためであることが考えられた。さらに、Gli3 遺伝子の発現を変化させた原因となったゲノム配列を同定した。

そこで、サメ胚の鰭の位置価を人為的に後側寄りにシフトさせると、陸にあがる直前のティクターリク(Tiktaalik[用語5])の胸鰭のように、付け根の部分の骨が1つに融合し、先端の骨の数が減少していることがわかった。このことから、鰭から四肢への進化の過程では、Gli3 遺伝子の発現が変化したことで、前側と後側の位置価をもつ領域のバランスが、後側寄りにシフトすることが重要な原因のひとつであることが示された。

研究成果は8月18日に国際科学誌「eLife」[用語6]で公開された。

研究の背景

私たちの四肢は、原始的な魚類の鰭から進化したものである。原始的な魚類の鰭は、鰭の付け根の部分が3つまたはそれ以上の骨からなっており、この特徴を備えている鰭をもつ現存の生物としては、軟骨魚類があげられる(図1a)。一方、四肢の場合は、付け根の部分は1つの骨からなっている(図1a)。そこで、東京工業大学の田中准教授と鬼丸洸元大学院生らは軟骨魚類サメ胚を題材に、鰭が四肢へと進化したメカニズムを調べることにした。

研究成果

四肢の原基では、前側(親指側)と後側の領域で様々な形態形成に関わる遺伝子が発現している(図1b)。軟骨魚類サメ胚の胸鰭の原基において、これらの遺伝子の発現パターンを調べてみると、前側と後側の領域のバランスが、四肢の原基よりも後側寄りになっていることがわかった(図1b)。これは、鰭から四肢への進化の過程で、前側と後側の位置価をもつ領域のバランスがシフトしたことを意味している。

軟骨魚類ハナカケトラザメ(S. canicula)の胸鰭とマウスの前肢。(a)骨格パターン。サメの鰭は付け根の部分は3つの骨があり、体幹に付着している。一方、マウスの前肢は、ほかの四肢動物でもみられるように付け根の部分には1つの骨があり、体幹に付着している。(b)遺伝子発現パターン。前側(親指側)の遺伝子(Alx4, Pax9)の発現している領域と 後側の遺伝子(Hand2)の発現している領域のバランスがシフトしているのがわかる。
図1.
軟骨魚類ハナカケトラザメ(S. canicula)の胸鰭とマウスの前肢。(a)骨格パターン。サメの鰭は付け根の部分は3つの骨があり、体幹に付着している。一方、マウスの前肢は、ほかの四肢動物でもみられるように付け根の部分には1つの骨があり、体幹に付着している。(b)遺伝子発現パターン。前側(親指側)の遺伝子(Alx4, Pax9)の発現している領域と 後側の遺伝子(Hand2)の発現している領域のバランスがシフトしているのがわかる。

四肢の形成過程では、前側と後側の位置価をもつ領域のバランスは、四肢の原基の前側の広い領域で発現しているGli3 という遺伝子によって制御されている。そこで、サメ胚の胸鰭の原基において、Gli3 遺伝子の発現を調べたところ、サメの鰭では、Gli3 遺伝子が、四肢の原基とは異なり、後側で強く発現していることがわかった。

この特徴は、軟骨魚類全頭類[用語7]のゾウギンザメ胚の鰭でも確認されたことから、軟骨魚類の鰭で保存されている特徴と考えられた。さらに、Gli3 遺伝子の発現パターンの変化の原因について解析したところ、軟骨魚類から四肢動物への進化の過程においてGli3 遺伝子の発現を制御するゲノム配列が変化していることに起因していることを明らかにした。

これらの結果は、Gli3 遺伝子の発現パターンが変化したことにより、前側と後側の位置価をもつ領域のバランスがシフトして、鰭が四肢へと進化した可能性を示唆していた。そこで、サメの胸鰭の前側と後側の領域のバランスを人為的な方法(レチノイン酸という物質で処理する手法)でシフトさせ、後側化させることで、鰭を四肢へと変化させることができるか検証した。その結果、後側化させたサメの胸鰭は、絶滅した肉鰭類Tiktaalikでみられるような付け根に1つの骨をもつ四肢様の鰭に形を変化させることがわかった(図2)。

サメの鰭を人為的に後側化させた実験の結果。コントロールの鰭(左)では、Hand2遺伝子は後側の限局された場所に発現しており、付け根には3つの骨(ppr, pmr, pmt)がある。一方、人為的に後側化させたサメの鰭(右)では、Hand2遺伝子の発現が前側に広がっている(矢尻)。後側化させた鰭の中でも最もシビアな表現型を示した骨格をみると、付け根の骨は1本になり、先端の骨の数も減少している。興味深いことに、魚類と四肢動物の中間的な形態的特徴をもつとされる絶滅した肉鰭類のTiktaalikでも、付け根の骨(humerus)は1本になっていた。
図2.
サメの鰭を人為的に後側化させた実験の結果。コントロールの鰭(左)では、Hand2遺伝子は後側の限局された場所に発現しており、付け根には3つの骨(ppr, pmr, pmt)がある。一方、人為的に後側化させたサメの鰭(右)では、Hand2遺伝子の発現が前側に広がっている(矢尻)。後側化させた鰭の中でも最もシビアな表現型を示した骨格をみると、付け根の骨は1本になり、先端の骨の数も減少している。興味深いことに、魚類と四肢動物の中間的な形態的特徴をもつとされる絶滅した肉鰭類のTiktaalikでも、付け根の骨(humerus)は1本になっていた。

これらの結果から、鰭から四肢への進化の過程では、Gli3 遺伝子の発現パターンの変化により、前側と後側の位置価のバランスが少しずつシフトしていくことが、付け根の部分に1つの骨をもち、先端には5本の指をもつ四肢へと進化していく上で重要な要因の一つであったと考えられた(図3)。

鰭から四肢への進化のモデル。前側(緑)と後側(青)の位置価をもつ領域のバランスがシフトすることが、鰭から四肢への進化を引き起こす引き金になったのかもしれない。
図3.
鰭から四肢への進化のモデル。前側(緑)と後側(青)の位置価をもつ領域のバランスがシフトすることが、鰭から四肢への進化を引き起こす引き金になったのかもしれない。

研究成果

サメを題材にした今回の研究によって、鰭から四肢への進化が、前側と後側のバランスのシフトが一因となっていることを初めて示すことに成功した。Gli3 遺伝子の発現を制御するゲノム配列の変化が鍵であることを示したが、実際には、Gli3 とあわせて複数の因子が前側と後側のバランスのシフトに関わっていたと思われる。

また、鰭から四肢への進化の過程では、なぜ5本指になったのか(原始的な両生類は7-8本指あったと考えられている)などの問題は解明されていない。今後もサメを題材に、鰭から四肢への進化の過程で働くGli3 以外の因子や、その作用機序を明らかにしていくことで、鰭から四肢への進化の謎に迫りたい。

用語説明

[用語1] CRG : Center for Genomic Regulation スペイン・バルセロナにある生命科学の研究所

[用語2] 位置価 : 個々の細胞に与えられる分子的な番地表示のことで、体の中での相対的位置を示す。遺伝子発現レベルなどによって与えられる。

[用語3] 原基 : 将来ある器官になることに予定されてはいるが,まだ形態的・機能的には未分化の状態にある部分。

[用語4] Gli3 遺伝子 : 四肢では、前側と後側領域のバランスを決める鍵となる遺伝子。

[用語5] ティクターリク(Tiktaalik : 3億年以上前に生息した絶滅肉鰭類で、四肢動物と多くの共通点を持つ。

[用語6] 「eLife」 : 生命科学・生命医学分野の一流の成果が発表されるオープンアクセス誌である(インパクトファクター 9.322)。

[用語7] 全頭類 : 軟骨魚類の現生種は板鰓類と全頭類に大きくわけられる。ハナカケトラザメ(文中の「サメ」)は板鰓類で、ゾウギンザメは全頭類。

論文情報

掲載誌 :
eLife 2015;4:e07048.
論文タイトル :
A shift in anterior-posterior positional information underlies the fin-to-limb evolution.
著者 :
Koh Onimaru, Shigehiro Kuraku, Wataru Takagi, Susumu Hyodo, James Sharpe and Mikiko Tanaka
DOI :

研究グループ

東京工業大学、Center for Genomic Regulation (CRG)、理化学研究所、東京大学

研究サポート

本成果は、文部科学省科学研究費補助金 基盤研究(B)、東京工業大学グローバルCOEプログラム「生命時空間ネットワーク」、日本学術振興会 日本-オーストラリア二国間交流事業、稲盛財団研究助成金、CREA、及び CRG のサポートを受けて得られた。

問い合わせ先

大学院生命理工学研究科生体システム専攻

准教授 田中幹子
Email : mitanaka@bio.titech.ac.jp
Tel : 03-5841-7251

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

革新材料・グラフェンの大量生産に大きな指針―電子レンジとイオン液体で高速、高効率なグラファト剥離に成功―

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発表のポイント

  • 革新材料として注目されるシート化合物、グラフェンの大量生産へ向けた発展が期待できる手法を開拓した。
  • 新たに合成したオリゴマーイオン液体[用語1]にグラファイト(グラフェンの積層物)を入れ、マイクロ波(電子レンジ等に使用されている電磁波)を30分間照射するとグラフェンが収率93%で生成し、そのほとんど(95%)が単層グラフェンであった。
  • 得られたグラフェンのイオン液体分散液は初のグラフェン物理ゲルの性質を示した。

発表概要

1原子分の厚さしかない2次元炭素シート、グラフェンは導電性、機械的強度、熱伝導度などの物性を異次元の高さで併せ持つ、「奇跡の材料」(“the miracle material”)として多大な注目を集め続けている。近年、このグラフェンを用いた基礎・応用研究を通じて既存の技術を圧倒的に凌駕する数々の成果が報告されている。しかしながら、グラフェンが発見されてすでに10余年が経つにも関わらず、グラフェンの恩恵は現段階においては研究室の外まで広がっていない。これは高品質グラフェンの大量生産法が確立されていないためである。今回、東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻の相田卓三教授(理化学研究所 創発物性科学研究センター 副センター長兼任)、同大学院工学系研究科の松本道生大学院生、東京工業大学資源化学研究所の福島孝典教授らの研究グループは、新しく合成開発したイオン液体とマイクロ波の組み合わせを用いることで、30分という短時間に天然グラファイト(グラフェンの積層体)を1層、1層のグラフェンへと破格に高効率(単層グラフェン選択性:95%)に剥がす手法を開拓した。この手法では原料グラファイトに対し生成物であるグラフェンを93%という高い効率で回収することが可能で、さらに得られるグラフェンは構造欠陥をほとんど含まず、また、剥離が完全に進行しないがゆえに生成される複層物のグラフェンによる実験汚染も少ないことを明らかにした。

本研究によって示されたグラファイトの破格な高効率剥離法は、より複雑・高機能なナノ構造体に関する科学技術の進歩と次世代エレクトロニクス分野での応用に大いに貢献すると期待される。

なお本研究は、総合科学技術・イノベーション会議の革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)により、科学技術振興機構を通して委託されたものです。

発表内容

本研究グループは特別な溶剤にグラファイト(グラフェンの積層体)を懸濁させ、マイクロ波を30分照射するだけで、グラファイトを1層、1層の高純度グラフェンへと破格に高効率に剥がす手法を開拓した。得られるグラフェンは93%の単層グラフェン選択性を誇り、また、収率は93%と著しく高い。これまでグラフェンを作り出す手法はさまざま提案されてきた。例えば、スコッチテープを用いてグラファイトから剥がしだす手法は非常に高純度のグラフェンを単離することが可能である一方、全く工業化には適さない。反対に、大規模での生産が可能な酸化グラフェンを還元する手法で得られる還元酸化グラフェンは非常に多くの構造欠陥を有し、今ではグラフェンとは全く異なるものと理解されている。つまり、既報のグラフェン生産法に関して(1)収率、(2)単層グラフェンの選択性、(3)純度、(4)処理時間の4点で分類した時にすべてを満足させる方法は未だに存在しない。本研究グループは、上述の条件すべてを高いレベルで満たす手法を初めて見出すことに成功した。

2003年に本研究グループはイミダゾリウムを主骨格に有する市販のイオン液体が非常に高い親和性をカーボンナノチューブ(CNT[用語2])のπ表面に対して示し、束になったCNTを一本一本にバラけさせることができることを発見した。(Fukushima, T., Aida, T. et al., Science 2003)しかしながら、筒同士の束であるCNTの束は線と線でお互いに接しているのに対し、シートが重なったグラファイトは面と面とで相互作用しているため、著しくお互いへの拘束が強く、その結果としてこのイオン液体をもってしてもグラファイト中のグラフェンを剥がしだすことは難しかった。

そこで本研究グループは、有機合成化学を用いてイオン液体となる分子に工夫を加える事でこの剥離効率を向上することを目指した。具体的には従来のイオン液体と比べてより強くグラフェン/グラファイトのπ平面とイオン液体分子が相互作用をするイオン液体分子を用いれば剥離の効率が向上するのではないかと考えた。本研究グループは1分子内に2つのイミダゾリウム部位を持つイオン液体分子IL2PF6を設計・合成した。この分子は生体・ウイルスなどで見られる多点相互作用[用語3]の効果から相互作用の向上が期待できる。このイオン液体に原料であるグラファイトを25 mg/mLの濃度で懸濁させ、CEM社のマイクロ波合成装置でマイクロ波を30分間照射した。このマイクロ波照射後、懸濁液からイオン液体を洗い流すことで黒色の粉末固体を得た。この粉末を各種分析評価したところ(1)収率 93%(2)単層選択性 95%、(3)純度は原料のグラファイトとほぼ変わらないことが明らかとなった。この手法は(4)30分という短時間で作られたものであることも考慮にいれると上述した条件(1)-(4)をすべて満たす驚きの手法であることが判明した。(図1)

電子レンジとオリゴマーイオン液体でグラファイトの高効率剥離を実現

図1. 電子レンジとオリゴマーイオン液体でグラファイトの高効率剥離を実現

この非常に高効率な剥離を実現したイオン液体IL2PF6は今までの液相分散媒よりも破格に大量のグラフェン(100 mg/mL)を分散させることが可能であることが、さらなる測定の結果明らかになった。得られたグラフェンを再度IL2PF6に混合すると容易に再分散させることができ、ある濃度を超えるとゲル化することが明らかになった。さらに混合するグラフェン量を増加させることにより100 mg/mLと非常に高濃度な状態まで、そのゲルとしての強度を増強することに寄与した。構造欠陥のないグラフェンによる物理ゲル[用語4]は本例が初めてであり、このような高濃度グラフェンゲルは様々な電子材料への応用が期待できる。

この珍しい挙動を示すグラフェンゲルが発見されたことの大きな要因としては、高品質グラフェンを大量に得ることに成功したことが挙げられる。本研究はイオン液体とマイクロ波という組み合わせがグラフェンの大量生産に大きな指針になることを示唆している。折り曲げ可能なディスプレーやウエアラブルデバイスなどの次世代デバイスのコア材料として期待されるグラフェンを研究室の中の技術に留めず、広く社会に使える技術として拡散させる基盤づくりをすることは現在の科学技術における主要な命題の一つであり、本研究がその命題に対して大きな指針を与えることが期待される。

用語説明

[用語1] イオン液体 : 塩と同じく、プラス電荷の部位とマイナス電荷の部位しか含まないにも関わらず、室温で液体として振る舞う物質の総称。分子構造を自由に改変して様々な性質の液体を作れることから「デザイナー溶媒」と呼ばれる。

[用語2] カーボンナノチューブ : グラフェンを筒状にした炭素材料の一つ。名城大学終身教授飯島澄男博士によって発見され、その高い導電性、物理強度から大変注目されている。宇宙エレベータなどへの応用展開も積極的に研究開発されている。

[用語3] 多点相互作用 : 生体やウイルスなどに見られる引き合う力を強くする手法の一つ。お互いに引き合う分子部位を複数示すものを組み込むことで、分子どうしの引き合う力を強くする効果がある。

[用語4] 物理ゲル : ゲルの分散質が非共有結合と呼ばれる可逆な結合により架橋されているもの。物理ゲルとしての性質を示す分散体は、分散質である非共有結合性ユニットの分散媒中の濃度を上げていくと、ある一点の濃度(臨界ゲル化濃度)でゾル-ゲル転移を起こしゲル化することが知られる。

論文情報

掲載誌 :
Nature Chemistry(オンライン版 8月10日号)
論文タイトル :
Ultrahigh-throughput exfoliation of graphite into pristine 'single-layer' graphene using microwaves and molecularly engineered ionic liquids
著者 :
松本 道生、斉藤 雄介、朴 致映、福島 孝典、相田 卓三
DOI :

問い合わせ先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東京大学 大学院工学系研究科 化学生命工学専攻

教授 相田卓三
Email : aida@macro.t.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-7251

低励起エネルギーにおける核分裂の動的様相

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概要

東京工業大学原子炉工学研究所の千葉教授は、有友特任准教授、Ivaniuk客員教授と共同で低励起エネルギーにおけるウラン領域原子核の核分裂を記述する動的模型をランジュバン方程式に基づいて構築し、そのメカニズムの探求を行った。

研究の背景

低励起エネルギーにおけるウラン領域原子核の核分裂は基礎・応用両面から重要であるが、いまだそのメカニズムには定説がなく、定量的な予測も困難な状況にある。

研究成果

  • 核分裂で生成する二つの原子核の質量数が等しくない非対称核分裂の二つのピーク値はサドル領域で決定され、分布の幅は断裂時近辺におけるランダム力によるものであることを見いだした。
  • 核分裂メカニズムの解明は原子核の大振幅集団運動の理解と原子力エネルギーの安全な利用に直結する。

今後の展開

現在の模型で置かれているいくつかの制限を緩和し、より現実的なシミュレーション計算を可能とすることで、広い領域の原子核に対する定量的予測を行い、原子力開発に必要な核データを提供する。

ランジュバン軌道の例(赤線)。横軸は原子核の伸びに対応し、縦軸は質量非対称度を表す。

図1. ランジュバン軌道の例(赤線)。横軸は原子核の伸びに対応し、縦軸は質量非対称度を表す。

論文情報

掲載誌 :
Physical Review C 90, 054609-1-8(2014).
論文タイトル :
Fission dynamics at low excitation energy.
著者 :
有友嘉浩、千葉敏、F. Ivaniuk
DOI :

問い合わせ先

原子炉工学研究所
教授 千葉敏
Email : chiba.satoshi@nr.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3066 / Fax : 03-5734-2959

貧栄養土壌でも葉と根に油脂蓄積する植物を開発

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貧栄養土壌でも葉と根に油脂蓄積する植物を開発
―地球温暖化抑制と再生可能エネルギー生産の両立への第一歩―

要点

  • 植物は通常、葉や根ではなく種子に油脂を蓄積
  • リン欠乏下で葉や根に油脂を高蓄積する植物の開発に成功
  • 葉における油脂生産で、リン欠乏土壌での植物栽培を促進、CO2削減に貢献

概要

東京工業大学大学院生命理工学研究科の下嶋美恵准教授、円由香技術員らの研究グループは、リンが欠乏した生育環境でも葉や根で油脂(TAG[用語1])を高蓄積できる植物を開発した。リン欠乏に応答して遺伝子発現量を増大させる遺伝子発現調節領域と油脂合成酵素遺伝子を組み合わせてシロイヌナズナ[用語2]に導入し、葉や根で油脂を顕著に蓄積する形質転換体の作出に成功した。

今後、油脂に含まれる脂肪酸の改変および油脂蓄積量の増大を目指すことにより、国内外に広がっているリン欠乏土壌を有効に活用したバイオエネルギー生産および二酸化炭素(CO2)削減による地球温暖化抑制への貢献が期待される。

下嶋准教授らは先に、リン欠乏に着目して植物の葉や根における油脂蓄積を解析した。その結果、リン欠乏にさらされた植物の葉や根では顕著な油脂蓄積が起こることを発見、この成果をもとにシロイヌナズナ形質転換体を作出した。

研究成果は、スイス科学雑誌「フロンティアズ イン プラント サイエンス(Frontiers in Plant Science)」オンライン版に8月12日付で公開された。

研究成果

下嶋准教授らは、シロイヌナズナ、タバコ、トマトなどの植物をリン欠乏下で生育させると、比較的高い光合成能を保ったまま、通常ではほとんど油脂を蓄積しない葉や根に油脂を高蓄積することを発見した(図1)。また、葉における油脂蓄積量は、葉でデンプンを蓄積しないシロイヌナズナの変異体では野生株よりも顕著に多いことを明らかにした(図2)。

リン欠乏生育条件下の植物の葉と根における油脂(TAG)蓄積
図1.
リン欠乏生育条件下の植物の葉と根における油脂(TAG)蓄積
A. 植物体の新鮮重あたりのTAG含量 +Pi, リン十分条件;-Pi, リン欠乏条件;Shoot, 地上部(葉);Root, 根
B. リン欠乏下の植物細胞の電子顕微鏡写真(スケールバーは0.5μm) 白矢印, 油滴;S, デンプン;C, クロロプラスト;M, ミトコンドリア
リン欠乏生育条件下のシロイヌナズナ野生株(WT)とデンプン蓄積欠損変異体(pgm-1)における油滴蓄積の様子
図2.
リン欠乏生育条件下のシロイヌナズナ野生株(WT)とデンプン蓄積欠損変異体(pgm-1)における油滴蓄積の様子
上図:各植物葉の細胞の電子顕微鏡写真(スケールバーは2μm) S, デンプン;黒矢印, 葉緑体;白矢印, 油滴
下図:各植物葉の油滴の顕微鏡写真(スケールバーは10μm) 緑色, 油滴 (Nile red染色);赤色, 葉緑体クロロフィルの自家蛍光

これらの研究結果を受けて、研究グループはリン欠乏応答性プロモーター(リン欠乏条件下で、その下流につないだ遺伝子の発現量を増大させる遺伝子発現調節領域)を、油脂合成酵素遺伝子と組み合わせてシロイヌナズナの野生株とデンプン欠損変異体に導入した。その結果、リン欠乏生育の際に葉や根で油脂を顕著に蓄積する植物体の開発に成功した(図3)。

シロイヌナズナ形質転換体におけるTAG蓄積量
図3.
シロイヌナズナ形質転換体におけるTAG蓄積量
A. 植物体地上部(葉)におけるTAG蓄積量
デンプン蓄積欠損変異体(pgm-1)にリン欠乏で誘導されるようにTAG合成酵素遺伝子を導入した形質転換体(矢印;DGAT1#2, DGAT1#3)において顕著なTAG蓄積量の増大が見られた。
B. 植物体の根におけるTAG蓄積量
野生株(WT)またはpgm-1にTAG合成酵素遺伝子(DGAT1) を導入した形質転換体(矢印;DGAT1#2, DGAT1#3)において顕著なTAG蓄積量の増大が見られた。

研究の背景と経緯

植物油脂は通常、種子に高蓄積し、葉や根では微量にしか蓄積しない。植物において光合成で得られたエネルギーは、葉では通常はデンプンとして葉緑体中に一時的に貯蔵されるからである。しかし、バイオマスが大きい葉において、植物の光合成能を維持しながら油脂を高生産できれば、油脂に含まれる脂肪酸の改変も可能になるため実用化に一歩近づく。また、リンは植物の生長に欠かせない栄養素の1つであるが、リンが欠乏した土壌は世界中に広がっており、リン鉱石の枯渇によるリン肥料の価格上昇とリンの過剰施肥による土壌汚染がしばしば問題となっている。

これまでに、栄養が十分与えられた条件で葉に油脂を高蓄積する植物体の開発は海外のグループにより報告があるが、リン欠乏のため利用されていない国内外の農耕不適地の積極的な活用を同時に見据えた植物葉での油脂生産基盤技術の構築については国内外において例がない。

今後の展開

今後、油脂蓄積量をさらに増大させる、油脂に含まれる脂肪酸をヒドロキシ脂肪酸など付加価値性の高い脂肪酸に改変するなどの改良を加えることで、この成果を活用してリン欠乏土壌で生育させた植物の葉・根における油脂生産の実用化に結び付くことが期待できる。

用語説明

[用語1] TAG : トリアシルグリセロール。1分子のグリセロールに3分子の脂肪酸がエステル結合した中性脂肪の1つ。

[用語2] シロイヌナズナ : 学名Arabidopsis thaliana、植物分子生物学の研究分野では、全ゲノム配列が2000年に決定されており、遺伝子情報および遺伝子操作技術が整備されていることから、モデル植物として基礎研究に利用されている。

論文情報

掲載誌 :
Frontiers in Plant Science
論文タイトル :
An engineered lipid remodeling system using a galactolipid synthase promoter during phosphate starvation enhances oil accumulation in plants
著者 :
Mie Shimojima, Yuka Madoka, Ryota Fujiwara, Masato Murakawa, Yushi Yoshitake, Keiko Ikeda, Ryota Koizumi, Keiji Endo, Katsuya Ozaki, Hiroyuki Ohta
DOI :

特記事項

1.
この研究は、東工大大学院生命理工学研究科 / 地球生命研究所の太田啓之教授、バイオ技術センターの池田桂子技術員らとの共同で行った。
2.
この研究は、下嶋准教授の日本学術振興会の科学研究費、および、太田教授の科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(CREST)「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」における「植物栄養細胞をモデルとした藻類脂質生産系の戦略的構築」の一環として実施した。

問い合わせ先

大学院生命理工学研究科生体システム専攻

准教授 下嶋美恵
Email : mshimoji@bio.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5527

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

地球と生命の起源と進化解明への新たな展開―地球生命研究所が米財団からの研究資金をもとに研究者ネットワークを強化―

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左からPiet Hutディレクター(EON)、廣瀬敬所長、三島良直学長(東京工業大学)、岩渕秀樹室長(文部科学省研究振興局基礎研究振興課基礎研究推進室)
左からPiet Hutディレクター(EON)、廣瀬敬所長、三島良直学長(東京工業大学)、
岩渕秀樹室長(文部科学省研究振興局基礎研究振興課基礎研究推進室)

概要

東京工業大学地球生命研究所(所長:廣瀬敬、以下「ELSI」という。)は、文部科学省世界トップレベル研究拠点プログラム(通称WPI)の1拠点として、地球と生命の起源と進化の解明を目指しています。ELSIは、2012年12月の発足以来、地球惑星科学と生命科学の分野融合的な研究アプローチで、研究成果をあげています。

ELSIは、このたび、米国のジョン・テンプルトン財団(本部:米国ペンシルバニア、理事長:ヘザー・テンプルトン・ディル(Heather Templeton Dill)、以下「テンプルトン財団」という。)から、本年7月から2018年3月にかけて、総額5百50万ドル(約6億7千万円)の研究資金を獲得しました。この金額は、ELSIの年間予算の総額の約50%に相当します。ELSIは有力なグローバルファンドの獲得により、研究基盤の一層の強化を図り、地球と生命の起源と進化の解明の研究を加速することができます。

この資金をもとに、ELSIがハブとなり生命起源に関わる世界中の研究者同士をつなぐネットワークの強化と拡大を目的とする「EON(ELSI Origins Network)プロジェクト」を開始しました。EONプロジェクトの第一弾として8月26日から、国際ワークショップを開催します。

EONプロジェクトについて

背景

ELSIが掲げる「地球と生命の起源と進化の解明」の中でも、生命の起源の分野は、生物学だけでなく化学や地球惑星科学など幅広い視点でのアプローチが必要不可欠であり、これまで世界中で様々な専門性を持った研究者が、生命の起源という共通課題の解明に向かって研究を進めていました。

一方で、必要なアプローチや専門性の多彩さゆえに研究者間・分野間の十分な連携が難しいことや、それにより研究コミュニティの規模が拡がりにくいことも認識されてきました。

ELSIは発足以来、地球と生命の起源と進化の解明をテーマとし、2014年度には幅広い分野の研究者が集う国際シンポジウムを1回、ワークショップ・セミナーを41回行うなど、コミュニティの拡大を目指し、ハブ拠点としてネットワーク形成に力を入れてきました。

EONプロジェクトとして新たな取り組み

こうした背景の中、ELSIはテンプルトン財団から約6億7千万円の研究資金を獲得し、その財源を使って、ネットワークをさらに強化・拡充するため、「EONプロジェクト」をスタートさせました。具体的な試みとして以下を行います。

  • 研究助成の支援(33か月で8件)
  • 研究員の国際公募と雇用(33か月で10名)
  • 国際ワークショップの開催(33か月で9回)
  • 招へいプログラム(33か月で約30名)
  • 交流掲示板のようなフォーラムページを備えたウェブサイトの構築

特に、研究助成の支援は新たな取り組みとして、総額約5千万円を投資するもので、世界中に眠る生命の起源の解明につながる研究の種の発見が期待されます。

EONプロジェクトの今後の予定

8月26日からEON国際ワークショップを開催します。このワークショップにはNASAの研究プロジェクト長はじめ国内外から36人が参加し、研究ロードマップについての議論を行います。

展望

ELSIでは、今回の資金とプロジェクトを礎とし外国からのファンド獲得を積極的に行う予定です。EONプロジェクトによって得られた成果は、ELSIの研究へと活かされ、人類の長年の謎である地球と生命の起源と進化の解明に向け、研究がさらに加速されることとなります。

問い合わせ先

地球生命研究所 広報室

Email : pr@elsi.jp
Tel : 03-5734-3163

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

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