中性子ハローがマグネシウム同位体にも出現
-中性子数の極端に多い原子核の普遍的性質となる可能性を示唆-
要 点
- マグネシウム同位体「マグネシウム37」の微視的構造を決定
- マグネシウム37に中性子ハローが出現していることを特定
- マグネシウム37はハロー構造をもつ原子核として最重---より重い原子核の特異構造を知る手掛かりに
概 要
東京工業大学大学院理工学研究科の小林信之院生(現東京大学学振研究員)、中村隆司教授と理化学研究所の研究グループは、中性子が非常に多い原子核に現れる「中性子ハロー(用語1)」と呼ばれる特異構造が、中性子数が過剰なマグネシウム同位体(用語2)「マグネシウム37」(37Mg)にも現れていることを発見した。37Mgは、中性子ハロー構造が実験で確認されている原子核としては、最重のものとなった。
強力な不安定核ビーム(用語3)を供給する世界の拠点研究施設、理化学研究所のRIビームファクトリー(RIBF)を用い、中性子数が陽子数よりも極端に多い37Mgをビームとして取り出し、分解反応(用語4)という手法を用いた実験で解明した。4月に発表したネオン31(31Ne)に現れる特異構造(中性子ハローを含む)の解明に続く成果であり、中性子ハローが、中性子数の極端に多い原子核の普遍的性質となる可能性が広がった。
研究は、東工大、理研のほか、サレー大学(英)、日本原子力研究開発機構、米国ウェスタンミシガン大、カナダ・セントマリー大、韓国ソウル国立大、フランス・カン素粒子原子核研究所(LPC-CAEN)、東京大学原子核科学研究センター(CNS)、東京理科大学と共同で行った。この成果は6月18日に米国物理学会の学術誌「フィジカル・レビュー・レターズ(Physical Review Letters)」電子版に掲載される。
核図表(原子核の地図)。 横軸が中性子数、縦軸が陽子数(原子番号)を表わす。青色で表されているのがハロー構造をもつ原子核で今回新たに中性子ハロー構造が同定されたマグネシウム37(37Mg)はハロー構造が発見されている原子核の中で最も重い。
用語説明
(1) 中性子ハロー: |
1個または2個の中性子が芯原子核から外にしみだして薄く雲のように大きく拡がった状態(図1参照). 中性子が非常に多い原子核に10種程度みつかっている。今回の37Mgはその中で最も重い原子核である。 |
(2) 同位体: |
陽子数が同じで中性子数が異なる原子核(または原子)を同位体と呼んでいる。 |
(3) 不安定核ビーム: |
天然に存在する原子核は安定核、または安定同位体と呼ばれ、中性子数と陽子数はほぼ同数であるが(図2の黒い四角)、それより中性子数または陽子数が多くなると不安定になり、有限の寿命を持つ(短いものでミリ秒、長いものでは年単位になる)。このような原子核を不安定核(または放射性同位体、RI)と呼んでいる。不安定核は、重イオン加速器施設で加速された重イオンの反応で生成することができる。このとき生成された不安定核はビームとなるので、不安定核ビームと呼んでいる。 |
(4) 分解反応: |
この実験で用いているのはクーロン分解反応と核力分解反応である。クーロン分解反応では重い標的を用い、その強いクーロン力によりビームの中の粒子(この場合は37Mg)を励起する。励起された37Mgは直ちに36Mgとnに分解する。この分解反応断面積(分解反応の確率)がハロー中の中性子の密度分布に感度がある。実際、ハロー構造があると極端に反応率が上がることがわかっている。一方、軽い標的を用いると短距離力の核力(原子核中の中性子・陽子を結び付けている力)により37Mgから1個の中性子が引きはがされる反応が主となる。この場合も反応率がハローの密度分布に依存するが、クーロン力より短距離力であるため、感度が異なる。この感度の違いを利用すると、ハローの密度分布や質量、中性子の軌道に関する情報が引き出せる。 |
論文情報
Observation of a p-Wave One-Neutron Halo Configuration in 37Mg, N. Kobayashi, T. Nakamura et al., Phys. Rev. Lett.112, 242501(2014). - Published 18 June 2014DOI: 10.1103/PhysRevLett.112.242501
お問い合わせ先
東京工業大学 大学院理工学研究科 基礎物理学専攻教授
中村隆司
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