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有機結晶が光で溶けるメカニズムを解明

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有機結晶が光で溶けるメカニズムを解明
-結晶内分子の “整列” と “運動” の共存がポイント-

要点

  • 光照射で融解する有機結晶の結晶構造を初めて解明
  • 分子が整列している部分と熱運動している部分の共存を観察
  • 分子の整列と運動の共存が、光融解現象の原因

概要

東京工業大学大学院理工学研究科の星野学研究員、腰原伸也教授らの研究グループは、有機結晶が光で融解するメカニズムを放射光X 線(用語1)による結晶構造観察で突き止めた。

まず長鎖アルキル基を有したアゾベンゼン(用語2)誘導体には「アゾベンゼンが整列した領域」と「長鎖アルキル基が結晶内で激しく運動している領域」の2領域が共存した特異な結晶構造をしていることを明らかにし、さらに、この結晶に紫外光を照射するとアゾベンゼンが光異性化反応(用語3)を起こして整列が壊れ、結晶中にもかかわらず液体のように激しく運動している長鎖アルキル基の領域と均一化されることで、融解が起こることを解明した。この結晶構造観察は放射光X線を利用した単結晶X 線構造解析(用語4)で、実験室系では得られないX 線回折データを高精度に集めることにより実現した。

通常、結晶を融解させるには室温以上に加熱する必要があるが、光照射という簡便な手段で結晶融解を実現する技術を使えば、有機材料の成形・加工の生産コストを大幅に削減できる。今回の研究は光照射による融解技術を産業化するための分子材料設計方針を提供するものである。

研究は産業技術総合研究所の則包恭央主任研究員と阿澄玲子グループ長、高エネルギー加速器研究機構の足立伸一教授と共同で実施した。この成果は米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン速報版で12 日に公開された。

論文情報

論文名
Crystal Melting by Light: X-ray Crystal Structure Analysis of an Azo
Crystal Showing Photoinduced Crystal-Melt Transition
(和文 光で溶ける結晶:光誘起結晶溶融転移を起こすアゾ化合物結晶のX 線結晶構造解析)
著者
Manabu Hoshino, Emi Uchida, Yasuo Norikane, Reiko Azumi,
Shunsuke Nozawa, Ayana Tomita, Tokushi Sato, Shin-ichi Adachi,
Shin-ya Koshihara
雑誌名
Journal of the American Chemical Society
DOI

用語説明

(用語1) 放射光X 線
蓄積リングと呼ばれる円形の加速器内を光速に近い速度で回るバンチ(複数の電子が寄り集まったもの)が、強力な地場で曲げられるときにその接線方向に放射される光のこと。実験室系用のX 線発生装置と比べて格段に強いX 線が利用できる。典型的にはX 線の波長であるが、真空紫外や赤外の放射光も利用されている。
(用語2) アゾベンゼン
2 つのベンゼン環がアゾ基(窒素原子同士の2 重結合)を介して連結した有機分子。アゾ基に対する2 つのベンゼン環の配置によって、シス体(同じ側にあるもの)とトランス体(違う側にあるもの)の2 種類の構造が存在する。
(用語3) 光異性化反応
分子が原子の得失なく化学結合の様式や組み合わせを変える(構変変化させる)化学反応のうち、光の照射によって起こる反応のこと。光照射によってシス体からトランス体、あるいはトランス体からシス体に構造変化する。トランス体の方がシス体よりも熱的に安定であるため、シス体は熱によってもトランス体に構造変化する。
(用語4) 単結晶X 線構造解析
分子が規則正しく整列した単結晶にX 線を照射すると、結晶中の分子構造と整列(周期構造)を反映した回折現象が起こる。この回折X 線を数千から数万記録しコンピュータで解析を行うことで、試料の分子構造と結晶構造(3 次元的な分子の配列)を観察することができる。

(a)本研究で対象にした長鎖アルキル基を有したアゾベンゼン誘導体。(b)紫外光照射によって結晶が溶けた様子を観察した顕微鏡写真。

図1 (a)本研究で対象にした長鎖アルキル基を有したアゾベンゼン誘導体。
(b)紫外光照射によって結晶が溶けた様子を観察した顕微鏡写真。

お問い合わせ先

大学院理工学研究科 物質科学専攻
教授 腰原伸也
Tel: 03-5734-2449
Email: skoshi@cms.titech.ac.jp


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