最先端科学技術を担う若手研究者を育成する具体的かつ持続的な仕組みとして東京工業大学が設立した基礎研究機構(小山二三夫機構長)のオープニングセレモニーが、5月24日、東工大すずかけ台キャンパスS8棟レクチャーホールで開催されました。益一哉学長ら本学関係者のほか、本機構の塾生や取材記者ら出席者は総数100名を超える催しとなりました。基礎研究機構は、本学が世界をリードする最先端研究分野である「細胞科学分野」と「量子コンピューティング分野」の2つの「専門基礎研究塾」と、本学のすべての新任研究者が塾生として3ヵ月間研さんする「広域基礎研究塾」から構成されます。
セレモニーは、益学長の挨拶で始まり、大竹尚登 広域基礎専門塾長(科学技術創成研究院 教授)から「専門基礎研究塾では塾生が数年間じっくりと研究課題に取り組む環境を作りたい。一方、広域基礎研究塾は、様々な研究分野の若手研究者が一堂に会して自分の将来の研究テーマを考える機会を与えたい」との説明がありました。
続いて、大隅良典塾長(専門基礎研究塾 細胞科学分野)から「基礎研究の重要性」について、西森秀稔塾長(専門基礎研究塾 量子コンピューティング分野)から「量子コンピューティングの面白さ:『不思議』が役に立つ」をテーマにした講演が行われました。
大隅塾長(専門基礎研究塾 細胞科学分野)「若手が自由に研究できる環境」
大隅塾長(本学 栄誉教授)は、「落ち着いた研究環境の中で、若手研究者が自分の学術的興味から細胞科学の研究課題を見出し、仮説の立案と検証を行えるかどうかが、大きな課題だ」と述べました。その使命として、下記の2点が挙げられました。
1. 交流の楽しさ、重要性:
互いの研究を理解し、尊重する努力。優れた研究に接する機会、違った考え方・アプローチを学ぶ。他人の仕事に興味を持ち、良い仕事を喜び、たたえる姿勢。
2. 研究者を活かす研究組織:
若手が自由に研究できる環境。共通設備の充実と利用しやすいシステム。高度な技術者による支援体制の構築。各自の透徹した好奇心、新しい共同研究の創出。AI(人工知能)時代に将来の研究者として問われる資質。
西森塾長(専門基礎研究塾 量子コンピューティング分野)「オープンイノベーションの根源」
西森塾長(科学技術創成研究院 教授)が、「若い人の力を伸ばすことが大切。基礎研究はオープンイノベーションの根源であり大学の役割だ」と話しました。
塾長による講演に続き、細胞科学分野の塾生である堀江朋子助教(科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センター)と、量子コンピューティング分野の塾生である坂東優樹研究員(科学技術創成研究院)が自身の研究について発表しました。
記者会見と塾生ポスター発表・交流会
セレモニー終了後、益学長、大隅塾長、西森塾長、大竹塾長と、出席した記者との間で質疑応答が約30分間行われました。さらに、S1棟1階のオープンスペースに会場を変え、塾生ポスター発表会並びに交流会が開催されました。60名を超す参加者が、発表ポスター21件を前に熱心な討論を繰り広げ、今後の基礎研究機構の運営や本学の将来について意見を交わしました。
基礎研究機構とは
本学は、最先端研究領域を開拓し、世界の研究ハブの地位を継続的に維持・発展させるために必須な基礎研究者を育成する場として、2018年7月、基礎研究機構を科学技術創成研究院に設置しました。本機構は、2つの専門基礎研究塾と広域基礎専門塾からなります。
専門基礎研究塾では、基礎研究で顕著な業績を有する本学の研究者を専門基礎研究塾の塾長に据えるとともに、若手研究者の研究エフォート(職務時間のうち研究に集中できる時間の割合)を現在の6割から9割(平成26年度文科省調査より推計)に増加させるために、人、資金、スペース等のリソースを投入し、5年程度研究に集中できる環境を整備することで、卓越した研究者を養成します。2019年4月現在、細胞科学分野には14名、量子コンピューティング分野には2名の塾生がいます。
広域基礎専門塾では、本学の全ての分野の若手研究者を対象として3ヵ月間研究エフォートを9割に増加させ、研究テーマを落ち着いて考えるなど研究に集中する機会を設けます。2019年6月現在、29名の研究者が塾生として所属しています。
その結果として、基礎研究が実る節目と言われている10年程度を経た2030年以降に卓越した研究成果を継続的に生むことを目指しています。