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触媒活性指標の回転数が一桁高い190万回を実現 ―極めて高い活性を示す固定化ロジウム触媒を開発―

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要点

  • シリカにロジウムとアミンを同時に固定した触媒によってオレフィンのヒドロシリル化反応における190万回の触媒回転数を達成
  • 貴金属触媒量の大幅な低減に成功し、シリコーンの持続的供給に貢献
  • 固体表面におけるロジウムとアミンの「協奏効果」によって反応が促進

概要

本学物質理工学院の本倉健講師と前田恭吾大学院生らは、オレフィンのヒドロシリル化反応に極めて高活性を示す固定化ロジウム触媒を開発しました。この触媒では、活性・安定性の指標となる触媒回転数(触媒1分子が目的とする反応を進行させた回数)が190万回に達することを発見しました。この値は従来よりも一桁高い値です。

ヒドロシリル化反応の生成物である有機ケイ素化合物は、シリコーン製造工業で用いられる重要な化合物です。本触媒の発見により、有機ケイ素化合物の合成反応における貴金属の使用量を大幅に低減することが可能となります。世界中で広く利用され需要が高いシリコーンの持続的な供給につながる発見です。固体表面でのロジウムとアミンの「協奏効果」によって反応が促進されることも明らかにしました。

本研究成果は米国科学誌「エーシーエス・キャタリシス(ACS Catalysis)」オンライン速報版に2017年6月19日に公開されました。

研究成果

ロジウム錯体と第三級アミンをシリカの表面に固定した触媒(SiO2/Rh-NEt2)を開発し、この触媒がオレフィンのヒドロシリル化反応[用語1]に極めて高い活性を示すことを発見しました。触媒1分子が何回目的の反応を進行させたかを示し、活性の指標となる触媒回転数(TON)[用語2]を計測したところ、24時間で最大1,900,000回に達することがわかりました。この値は、これまでに報告されている他の固定化ロジウム触媒と比較して、一桁高い値です(表1)。

表1. 本研究で開発した触媒と既報との活性比較

触媒
反応時間(h)
触媒回転数(TON)
SiO2/Rh-NEt2(本研究)
24
1,900,000
MOF-Rh(論文1※1
72
820,000
SiO2/Rh(論文2※2
10※3
200,000
※1
Sawano, T.; Lin, Z.; Boures, D.; An, B.; Wang, C.; Lin, W. J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 9783-9786.
※2
Szubert, K.; Marciniec, B.; Dutkiewicz, M.; Potrzebowski, M. J.; Maciejewski, H. J. Mol. Catal. A Chem. 2014, 391, 150-157.
※3
1時間の触媒反応を10サイクル実施

この発見によって、有機ケイ素化合物の合成に必要な貴金属触媒の量を大幅に低減することができます。反応には溶媒が不要であり、図1に示すように、生成物/触媒比=1,900,000の条件では液体の生成物以外にわずかに触媒が存在するのみとなります。生成物/触媒比=260と比較すると、ロジウムに由来するオレンジ色が目視では確認できないほど触媒量が少ないことがわかります。

オレフィンのヒドロシリル化反応では、原料となるオレフィンとヒドロシランの構造を様々に変えることで、必要に応じた構造の有機ケイ素化合物を合成することができます。本研究で開発した触媒を用いて様々なオレフィンとヒドロシランの反応を行ったところ、いずれも高収率で対応する生成物が得られることがわかりました(図2)。例えば、シリコーン骨格(ケイ素―酸素―ケイ素結合)を有するヒドロシロキサンや、生成物からの官能基変換が可能なシアノ基(CN三重結合)やエポキシ基(炭素―酸素―炭素の三員環)をもつオレフィンの反応も良好に進行しました。

生成物/触媒比=260および1,900,000での反応溶液の様子。触媒が極微量でも十分に生成物が得られるため、クリーンな状態(右)となる。

図1. 生成物/触媒比=260および1,900,000での反応溶液の様子。
触媒が極微量でも十分に生成物が得られるため、クリーンな状態(右)となる。

様々な構造のオレフィンおよびヒドロシランを用いたときの生成物収率(括弧内は要した時間)。様々な構造の有機ケイ素化合物を99~76%と高い収率で得ることができる。

図2. 様々な構造のオレフィンおよびヒドロシランを用いたときの生成物収率(括弧内は要した時間)。
様々な構造の有機ケイ素化合物を99~76%と高い収率で得ることができる。

シリカの表面にロジウム錯体とアミンを同時に固定することで高い触媒活性が発現していることを見出しました。用いるロジウムの量を一定にして触媒反応を行い、それぞれの触媒の活性を比較した結果を図3に示します。Rhのみ固定した場合(SiO2/Rh)、11%であった収率が、Rhとアミンを同時に固定化することで88%まで向上しました。一方で、ロジウムとアミンのシリカ表面への固定を逐次的に行うと、ロジウムから固定した場合は86%に、アミンから固定すると59%まで収率が低下することがわかりました。つまり、ロジウムやアミンを別々に使うのではなく、2つを同時に固定する方法を発見したため成功につながったのです。

そこで、各触媒において、シリカ表面に存在しているロジウムの局所構造を高エネルギー加速器研究機構においてX線吸収微細構造(XAFS)[用語3]測定を行うことで解析しました。図3で示した4種類の触媒のRh K-edge 広域X線吸収微細構造(EXAFS)[用語4]スペクトルを図4に示します。いずれの触媒においても振動パターンがほぼ完全に一致しており、これらの触媒に含まれるRh周辺の局所構造(Rhに最近接している原子の種類・数・距離など)は同一であることが支持されました。スペクトルの詳細な解析によって明らかになった触媒表面の構造を合わせて図4に示します。

アミンの有無およびロジウムとアミンの固定化順序が生成物収率に与える影響。同時にロジウムとアミンを固定化することで高活性が得られる。

図3. アミンの有無およびロジウムとアミンの固定化順序が生成物収率に与える影響。
同時にロジウムとアミンを固定化することで高活性が得られる。

(左)触媒のRh K-edge EXAFSスペクトル(右)XAFS測定等によって明らかになったSiO2/Rh-NEt2触媒の表面構造

図4. (左)触媒のRh K-edge EXAFSスペクトル / (右)XAFS測定等によって明らかになったSiO2/Rh-NEt2触媒の表面構造

以上の結果から、(1)ロジウムとアミンの協奏的触媒作用によるヒドロシリル化反応の促進、および(2)ロジウムとアミンの固定化手法(順序)による両者の位置関係の変化による活性の変化が示唆されます。

背景

有機ケイ素化合物から構成されるシリコーンは、ケイ素由来の無機化合物と有機化合物の両方の性質の良いところを持ち合わせた材料であり、撥水剤・塗料・建材・ゴム等、様々な用途で広く利用されています。構成元素であるケイ素(Si)、酸素(O)、炭素(C)は地球上に大量に存在する元素であり、今後もシリコーン材料の需要は高まると思われます。現代社会にとって重要な役割をもつ材料であり、安定して長期にわたり生産し続けることが強く期待されます。

シリコーンの合成法の一つであるヒドロシリル化反応は、工業的にも貴金属触媒を用いて行われています。触媒量の低減はシリコーンの持続的な供給に必須であるといえます。我々の発見により貴金属触媒の使用量が大きく減るため、シリコーンの安定生産に貢献すると期待されます。まだ十分な活性は得られていませんが、貴金属を汎用金属で代替する研究も進められています。

研究の経緯

我々の研究室では、固体表面に複数の活性点を集積することで、協奏的触媒作用が発現し、一方の活性点のみが存在する場合と比較して触媒反応が促進されることを見出してきました(図5)。今回の研究では、この「活性点集積型触媒」のコンセプトに基づき、ロジウム触媒と有機アミンを固体表面に固定した触媒を開発しました。活性点集積型触媒のコンセプトを活用することで、従来法よりも高活性な触媒を開発することが可能であることがわかりました。

活性点集積型触媒の概念図

図5. 活性点集積型触媒の概念図

今後の展開

本触媒を用いることで、貴金属使用量を大幅に減らした有機ケイ素化合物の合成が可能となります。今後、固体表面での錯体構造に加えて、2つの活性点の配置をチューニングすることによっても、さらなる活性向上が見込まれます。また、ロジウムよりも安価な金属を用いる場合でも、活性点集積のコンセプトに基づいた高活性触媒が設計・開発できると思われます。

本成果は、JSPS(日本学術振興会)の科学研究費補助金 新学術領域研究(3D活性サイト科学・精密制御反応場)の支援によって得られました。

新学術領域研究 3D活性サイト科学

課題名 :
「3D活性サイト制御による高性能ナノ分子触媒の創製」
(研究代表者:首都大学東京 野村琴広教授)
期間 :
平成26年4月~平成31年3月

新学術領域研究 精密制御反応場

課題名 :
「複数活性点をもつ固体表面反応場のsite-isolation概念による設計と構築」
(研究代表者:東京工業大学 本倉健講師)
期間 :
平成28年4月~平成30年3月

用語説明

[用語1] ヒドロシリル化反応 : ケイ素に直接水素が結合した化合物(ヒドロシラン)を他の分子へ付加させる反応。相手分子がオレフィンの場合は、二重結合部にケイ素と水素が付加する。オレフィンに由来する有機分子の機能を備えたケイ素化合物(有機ケイ素化合物)が得られる。

[用語2] 触媒回転数(TON) : 触媒1分子が目的とする反応によって原料を生成物へと変換した回数。ターンオーバーナンバー(turnover number: TON)。生成物からの副反応がない場合、生成物量を触媒量で割ることで算出される。触媒が完全に失活するまでの値を表すこともあり、触媒の活性・安定性の指標として用いられる。

[用語3] X線吸収微細構造(XAFS) : 試料にX線を照射することにより、内殻電子の励起に起因して得られる吸収スペクトル。測定したい原子の局所構造に由来する情報を得ることが出来る。

[用語4] 広域X線吸収微細構造(EXAFS) : XAFSスペクトルのうち、光電子と隣接する原子による散乱波との干渉に起因する振動構造が観測される、吸収端から1000 eV程度までに得られるスペクトル。測定したい原子の周辺に存在する原子の種類・数・距離に関する情報を得ることが出来る。

論文情報

掲載誌 :
ACS Catalysis, 2017, 7, 4637-4641.
論文タイトル :
SiO2-Supported Rh Catalyst for Efficient Hydrosilylation of Olefins Improved by Simultaneously Immobilized Tertiary Amines
著者 :
Ken Motokura, Kyogo Maeda, Wang-Jae Chun
DOI :

物質理工学院

物質理工学院 ―理学系と工学系、2つの分野を包括―
2016年4月に発足した物質理工学院について紹介します。

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東京工業大学 物質理工学院 応用化学系 本倉健 講師

E-mail : motokura.k.ab@m.titech.ac.jp

Tel / Fax : 045-924-5569

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

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