光通信の世界的研究者として知られる末松安晴・東京工業大学栄誉教授(元学長)が、この度、2014年日本国際賞(Japan Prize)を授与されることが決定しました。
日本国際賞 (Japan Prize) とは、「国際社会への恩返しの意味で日本にノーベル賞並みの世界的な賞を作ってはどうか」との政府の構想に、松下幸之助氏が寄付をもって応え、1985年にはじまった国際賞です。この賞は、全世界の科学技術者を対象とし、独創的で飛躍的な成果を挙げ、科学技術の進歩に大きく寄与し、もって人類の平和と繁栄に著しく貢献したと認められる人に与えられるものです。毎年、科学技術の動向を勘案して決められた2つの分野で受賞者が選定され、受賞者には、賞状、賞牌及び賞金5千万円が贈られます。
末松安晴栄誉教授は、2014年の授賞対象分野の一つである「エレクトロニクス、情報、通信」の受賞者として選ばれました。
授賞理由:
大容量長距離光ファイバー通信用半導体レーザーの先導的研究
末松安晴栄誉教授は、光エレクトロニクスの黎明期である1960 年代初頭から光通信の研究に取り組みました。1980 年代始めには、光ファイバーの損失が最小になる波長の光を発し、かつ大量の情報を送るために光を高速で変調しても波長が安定した動的単一モードレーザーを完成させ、大容量・長距離光ファイバー通信の実現に大きく貢献しました。この研究成果は、現在のインターネット社会には不可欠なもので、将来にわたって私たちの情報化社会をさらに進化させ続けるものと思われます。
授賞式は、4月23日(水)に東京で開催されます。この週には、日本国際賞週間行事として、レセプション、学術懇談会、授賞式、祝宴、受賞記念講演会の各種行事が開催される予定です。日本国際賞は今回で第30回を迎え、日本人受賞者はこれまで藤嶋昭博士(元本学経営協議会委員)ほか16名が受賞者されていますが、東京工業大学からは初の受賞です。
今回の受賞をうけ、末松栄誉教授は次のようにコメントしています。
この度は日本国際賞を与えられる事になり、すでに受賞しておられる光技術研究の巨人達の末席に加えていただき、誠に名誉なことと感謝しております。
この研究は1961年から始めました。光ファイバ通信の本質は大容量の情報を長距離にわたって伝送できるところにあります。その本質を具現化するには、当初、光の伝送路、後に光ファイバの開拓と、もう一つは純粋で安定な光を出すレーザの開拓が必要不可欠でした。今回の受賞対象は、後者に関わる「動的単一モードレーザ(1980年)」と呼ぶ通信用レーザの開拓であります。両者の開拓は、企業と大学で並んで進みました。そして、この動的単一モードレーザの開拓を一つの契機にして、光ファイバや光回路や光デバイス、変調方式やシステム構成、そして電子デバイスなどの開発が日本を始めとする企業において進み、世界的な規模で大容量長距離光ファイバ通信技術が開拓されました。
戦後の我が国の技術開拓史の中で、新技術開拓が研究開発の段階から世界の再先端で進められたのは光通信が最初と言われております。こうして、大容量長距離光ファイバ通信は、1980年代の後半から商用化が進み、折しも浸透し始めていたインタネットを支えて共に発展しました。2002年10月にはNTTの光ファイバ線路、FTTH回線が拙宅まで接続されました。家庭で使われて初めて新技術は社会に定着したと云われます。情報通信文明の展開にささやかながら貢献させていただいたと実感しました。実は、最終形態の動的単一モードレーザと考えて提案し・実証していた波長可変レーザが発展して使われるようになったのは2005年頃で、2010年には本格的に普及が始まりました。私は2 、3年前にこのことを知って欣喜雀躍し、やっと自分の仕事に納得しました。革新的な技術が世の中に浸透するには、半世紀に及ぶ、実に長い年月を要するものと、身を持って実感しました。今後とも動的単一モードはさらに進歩し、次世代の光ファイバ通信の発展に貢献するものと考えられております。
本研究は、まだこの世に存在しなかった大容量長距離光ファイバ通信を実現するために、既存の技術を大幅に乗り越える第一世代のシステム開拓を目指して半導体レーザを中心に行いました。本質的な主要目標課題を設定して現実的に逐次解決し、革新技術の前に横たわる谷を越すのに躊躇しがちな産業界に、安心して受け取っていただけるように現実的な開拓を進めた地道な研究でした。すなわち、「予想した基本性能の動的単一モードレーザを達成するために、逐次、問題解決を達成して進めたシステム指向のデバイス研究」でありました。こうした工学的研究展開の意図を正面から評価していただいたのは初めての経験で、光技術の創成期の研究者達を代表して、国際科学技術財団の審査委員会各位の高い見識と国際科学技術財団に、深甚の謝意を表する次第であります。
本研究は、39名の博士課程学生諸君をはじめとする学生諸君、さらに同僚などの多くの研究協力者のみなさんの日夜を分かたない努力と創造的な叡智発露の賜で、ここに深く感謝します。故森田清先生、故川上正光先生、末武国弘先生、故岡村総吾先生、そして斉藤成文先生などの先生方からはご指導とご鞭撻、そして多大なご支援をいただきました。改めて深甚の感謝を申し上げる次第であります。本研究は文部科学省の多大な科学研究費のご支援の下に達成されました。また、研究初期の段階では、企業の見返りを期待しない支援が大きな助けになりました。さらに、学会では大学・産業界を始めとした研究者のみなさんとは最新の成果情報を交換し、意見を戦わせ、得がたいご示唆と励ましをいただきました。この機会に、併せて深く感謝する次第です。
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※2月5日、末松栄誉教授のコメントを追加しました。