このたび、我が国における最先端の研究・人材育成を担う大学であるRU11(北海道大学、東北大学、筑波大学、東京大学、早稲田大学、慶應義塾大学、東京工業大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学の11大学で構成)の総長・塾長・学長は、医療分野の研究開発の総合戦略についてRU11の立場から、「医療分野の研究開発の総合戦略についての要望」として声明をまとめました。
平成25年12月5日
医療分野の研究開発の総合戦略についての要望
学術研究懇談会(RU11)
北海道大学総長 |
山口 佳三 |
東北大学総長 |
里見 進 |
筑波大学長 |
永田 恭介 |
東京大学総長 |
濱田 純一 |
早稲田大学総長 |
鎌田 薫 |
慶應義塾長 |
清家 篤 |
東京工業大学長 |
三島 良直 |
名古屋大学総長 |
濵口 道成 |
京都大学総長 |
松本 紘 |
大阪大学総長 |
平野 俊夫 |
九州大学総長 |
有川 節夫 |
政府は、日本再興戦略及び健康・医療戦略(平成25年6月14日)の中で健康・医療分野に係る産業を戦略産業に位置付け、我が国の経済成長に寄与するための提案をしています。そのひとつである「日本版NIH」構想では、健康・医療分野の研究開発関連予算を一元化し、効率化を図ることで超高齢社会を乗り切るためのモデルを世界に発信しようとしています。この構想に対し、私たち日本の研究の現場を支える学術研究懇談会(RU11)では、平成25年6月19日付けで「「優れた学術基盤」が支える「日本版NIH」構想について」を公表し、アカデミアの参画と総合科学技術会議での十分な議論についてお願いしました。加えて、我が国の研究者の自由な発想から生まれてくる学術シーズの継続的創成のためには、全学術分野を包含する「科学研究費助成事業(いわゆる科研費)」や「戦略的創造研究推進事業」の確保・充実が必要不可欠であることを強くお願いしました。
その後、「医療分野の研究開発に関する専門調査会」において、医療分野の研究開発に関する総合戦略の策定に向けた検討が進んできたことを受け、新たに以下に示す要望をまとめました。
RU11からの要望
1. 健康・医療分野に係るファンディング、研究、病院機能を統合したオールジャパン体制の構築に対する支援
健康・医療分野に係る優れた研究成果の創出と研究成果を世界に力強く発信するためには、その担い手である私たちRU11、国立大学附属病院長会議、一般社団法人ARO協議会、日本学術会議等が参画できる体制を実現していく必要があります。そのため、新しい独立行政法人においては、上記の様々な組織の意見が直接反映できるような仕組みを整備することを求めます。そしてこの実施体制が円熟することで国内はもちろん、世界に対し優れた健康・医療技術を我が国から迅速に発信できるものと考えています。
2. 健康・医療分野に係る人材育成強化に対する支援
これまでの大学の責務である自由な発想に基づく研究と並んで、日本再興戦略や健康・医療戦略の目的を達成するためには、産業化を直視した戦略的研究手法を理解し、アカデミアの"知"を社会経済的価値に結び付ける人材の育成が急務です。そのためには、大学が担う学部及び大学院での臨床研究の在り方や産業化のための戦略(特許等)等について理解を深めるカリキュラムの必須化や生物統計の専門家の育成推進、並びに企業と大学との人材交流を活発にするための改革を一層進めることが必要です。このために必要な「長期的展望に立った人材育成への支援と法的規制緩和」を求めます。
3. 健康・医療分野に係る研究費運用の柔軟性確保に対する支援
健康・医療分野に係る研究並びにその産業化は、基礎研究、臨床研究を問わず、特許の取得や譲渡等により世界レベルで急速に変化する一方、長期間にわたる継続的な基盤形成を必要とする場合があるなど、極めて流動的です。このような動きに現場レベルで迅速に対応し、我が国の医療分野の研究開発への投資を真に実のあるものとするため、大学における研究費の適正な使用に関する我々の取り組みと併行して、一定の限度を定めた上で、費目変更や執行時期の調整を可能とするなど、運用の柔軟性を確保することを求めます。
4. 産業界からの資金提供と免税制度の採用に対する支援
健康・医療分野に係る研究並びにその産業化には莫大な予算が必要なことから国費のみでまかなうのは大変難しいのが現状です。そこで産業界のもつ資金をアカデミアが無理なく活用できる仕組みの創設が必要です。その際、アカデミアと産業界が相補的に働き、双方にメリットがあるよう、政府と大学が一体となって日本版ウェルカムファンド(企業、個人からの寄付金等)の創設に向けた取り組みを行うとともに、諸外国に匹敵する出資者に対する大胆な免税制度の採用を求めます。
5. バランスの取れた研究予算配分と研究基盤強化に対する支援
50年後、100年後の日本の未来を照らすシーズを創出するために、特定の分野に偏ることのないバランスの取れた合理的な研究予算配分と、基礎研究及び患者のための臨床研究の基盤強化に対する継続的支援を求めます。また、健康・医療分野に係る研究の成果を世界に発信するためには、少なくとも米国FDA(アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration))や欧州EMA(欧州医薬品庁(European Medicines Agency))が定めるガイダンス等に従って注意深く研究を進める必要があります。そのためにリスクベースド・アプローチ(注)に基づいた我が国の研究ガイダンスの策定を求めます。
(注)費用と便益・リスクとの兼ね合いを社会が受け入れる基準を用いてコントロールするという考え方。
以上
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