要点
- よく噛んで食べると食後のエネルギー消費量が増加する
- 食後にガムを噛むと、その後40分程度までエネルギー消費量が増加
- 咀嚼(そしゃく)を基盤にした減量手段の開発につながる
概要
東京工業大学大学院社会理工学研究科の林直亨教授らは、急いで食べる時に比べ、よく噛(か)んで食べる方が食後のエネルギー消費量(食事誘発性体熱産生[用語])が増加することを明らかにした。また、その差は食後のガム咀嚼(そしゃく)によっても埋められない程度の差であることも分かった。
林教授らは300kcalのブロック状試験食を用いて、よく噛んで食べる方が食後のエネルギー消費量が増加することを2014年に明らかにした。今回はパスタ、ヨーグルト、オレンジジュース(合計621kcal)といった一般的な食事でも同様のことが起こることを検証した。食事をはやく食べた後、3時間の食事誘発性体熱産生量は15kcalだったが、よく噛んで食べた時には30kcalと有意に高い値であり、先行研究を確認することができた。
また食後15分間ガムを噛むと、エネルギー消費量が6~8kcal増加し、この増加はガム咀嚼後40分程度続いたが、食事のはやさの違いに匹敵するほどの影響ではなかった。
よく噛んで食べることや食後のガムがエネルギー消費を増加させることの裏づけとして、また咀嚼を基本にした減量手段の開発に役立つものとして期待される。研究成果は2月17日に欧州の肥満学会誌「オベシティ(Obesity) 誌」に掲載される。
研究成果
被験者12名に安静時の測定後、パスタ、ヨーグルト、オレンジジュース(合計621kcal)を与えた。食品をできるだけはやく食べる試行とできるだけよく噛んで食べる試行とを行った。加えて、食事終了後に15分間ガムを噛む試行と噛まない試行とを行った。安静時から摂食、摂食後3時間までのエネルギー消費量(酸素摂取量)を計測し、食事誘発性体熱産生量を算出した。
その結果、食後3時間の食事誘発性体熱産生量ははやく食べた試行の場合、平均15kcalだった一方、良く噛んで食べた時には30kcalと有意に高い値を示した。ガムを噛むことによって食事誘発性体熱産生量は咀嚼後40分程度まで増加し、総計ではガム咀嚼によって食事誘発性体熱産生量が平均6~8kcal増加した。
はやく食べるよりも、よく噛んで食べたほうが食後のエネルギー消費量が増えることを確認した。また、これまでガムを咀嚼するだけでは、咀嚼終了後にはエネルギー消費量はすぐに元に戻る(Levine 1999)とされていた。ところが、食後のガムの咀嚼はエネルギー消費量を長時間増加させ、食事誘発性体熱産生量を増加させることが示された。とはいえ、15分間のガム咀嚼は食べるはやさの違いを埋めるほどの効果はなかった。
今回の実験で、ガムは飲み下すことがないので、嚥下(えんげ)した食物の形状に影響しないにもかかわらず、食事誘発性体熱産生量が増加した。この結果は食事誘発性体熱産生量を増やす要因が咀嚼自体であることも示している。
背景
早食いが過食をもたらし、それが原因で体重が増加する可能性が示唆されている。一定量の食事を摂取した場合に、食べるはやさが体型に何らかの影響を与えるかについては明らかではない。
林教授らは300kcalの試験食をよく噛んで食べると、はやく食べるよりも食事誘発性体熱産生量が増加することを明らかにしている。そこで、食後のガムの咀嚼が、よく噛んで食べることの代替機能を有するとの仮説を立てた。今回の研究では通常の食事でも同様のことが起こるのかを検証し、また食後のガム咀嚼が食事をよく噛んで食べることに匹敵する効果があるのかについて検討した。
今後の展開
ゆっくりよく噛んで食べることが良い習慣であることの裏づけとして、また咀嚼を基本にした減量手段の開発に役立つものとして期待される。
- 図.
- はやく食べた際(左)とよく噛んで食べた際の食後3時間の体重1kg当りの食事誘発性体熱産生の個人値、平均値および標準誤差を示した。食べるはやさは有意に食事誘発性体熱産生に影響した。ガム咀嚼(赤丸)もガム咀嚼なし(青丸)に比べて有意に高い値を示したものの、食べるはやさの影響には匹敵するものではなかった。
用語説明
[用語] 食事誘発性体熱産生 : 摂食後に起こる栄養素の消化・吸収によって生じる代謝に伴うエネルギー消費量の増加である。基礎代謝量の1割程度を占める。
論文情報
掲載誌 : |
Obesity 2016年 24巻 |
論文タイトル : |
Effect of postprandial gum chewing on diet-induced thermogenesis. |
著者 : |
HAMADA Yuka, MIYAJI Akane, HAYASHI Naoyuki |
DOI : |
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