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合成高分子でナノの七宝文様ができた―高分子で創る「かたち」が生化学、幾何学にもインパクト―

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要点

  • 高分子トポロジー化学の里程標となる高分子設計・合成技術を確立
  • 五環4重縮合トポロジー(七宝文様)高分子の合成に成功
  • 高分子合成化学から生化学・トポロジー幾何学まで広いインパクト

概要

東京工業大学大学院理工学研究科の平郡寛之氏(平成23年度修士課程修了)、山本拓矢助教、手塚育志教授らの研究グループは、独自に開発した高分子反応プロセス(ESA-CF法[用語1])を発展させ、きわめて複雑な多環縮合構造の七宝文様[用語2]高分子の合成に成功した。ESA-CF法と最近の有機合成化学の成果である高分子を連結するクリック法[用語3]および高分子を折りたたむクリップ法[用語4]を駆使して実現した。

七宝文様(図1)は高度の対称性から古来わが国の意匠デザインとして家紋などに用いられてきただけでなく、トポロジー(位相)幾何学でもD4グラフとして知られ、また最近、ユニークな生理活性を示す多重折りたたみ環状オリゴペプチド(cyclotide)の構造との関連でも注目されている。したがって、ナノスケールでの七宝文様の構築は高分子合成化学領域だけでなく、生化学からトポロジー幾何学にまで広くインパクトを与えると期待される。

この成果は6月8日発行のドイツ化学会誌・国際版「Angewandte Chemie, International Edition(アンゲバンテ ケミー)」のオンライン速報に掲載された。

研究の背景と経緯

やわらかな「ひも」状の高分子セグメントで組み立てられる「かたち」には限りない設計の自由度がある。このため、高分子の「かたち(トポロジー)」に基づく高分子材料設計指針の確立はサイエンスとしての意義だけでなく、革新的な産業基盤技術を創出する途を拓くものと期待される。

とりわけ、直鎖状、分岐状、さらに多環状構造高分子を精密かつ自在に設計する合成プロセスに基礎を置いた、高分子の「かたち」に基づくブレークスルー物性・機能の創出は高分子材料化学・工学を超えて、ナノテクノロジーによる新材料創製を推進する基礎技術としても期待されている。

同研究グループはこれまで、多種・多様な単環状・多環状トポロジー高分子を効率的に合成する反応プロセスの開発を進めてきた(図1)。その結果、独自に分子設計した末端官能性高分子前駆体(テレケリクス[用語5])による高分子間静電相互作用を駆動力とする自己組織化と、さらに選択的共有結合変換を統合した画期的方法(ESA-CF法:Electrostatic Self-Assembly and Covalent Fixation)を確立した。

五環4重縮合トポロジーの七宝文様高分子(赤で表示)と関連する多環状多重縮合構造高分子の「かたち」(なお、当研究室でこれまでに合成された高分子を緑で表示している)
図1.
五環4重縮合トポロジーの七宝文様高分子(赤で表示)と関連する多環状多重縮合構造高分子の「かたち」(なお、当研究室でこれまでに合成された高分子を緑で表示している)

さらにこのESA-CF法と新しい有機合成化学手法(クリック法やクリップ法など)を組み合わせ、新奇トポロジー高分子を自在に提供するブレークスループロセスの開発を進めてきた。

今回、高分子の「かたち」を究める途の里程標としてきわめて挑戦的な、五環4重縮合トポロジーの七宝文様高分子の合成に挑戦した。七宝文様(図1)は古来わが国の意匠デザインとして家紋などに用いられてきただけでなく、トポロジー幾何学でもD4グラフとして知られている。

また、最近ユニークな生理活性を示す多重折りたたみ環状オリゴペプチド(cyclotide)の構造との関連でも注目されている。したがって、ナノスケールでの七宝文様(図1)の構築は、高分子合成化学領域だけでなく生化学からトポロジー幾何学にまで広くインパクトを与えるものと期待される。

研究成果

今回の研究では、まずクリック法およびクリップ法に必要な官能基(アルキン基、アジド基およびオレフィン基)を有する単環状および双環状高分子前駆体をESA-CF法を用いて合成した(図2)。次いで、アジド基とオレフィン基を一つずつ有する単環状高分子と、アルキン基を二つ有する双環状高分子のクリック反応を銅触媒の存在下で行い、両端にオレフィン基を有する四環スピロ型高分子(図2)を合成した。

さらにこの四環高分子前駆体を用い、ルテニウム触媒存在下、希釈条件でクリップ反応(分子内オレフィンメタセシス)を行い、五環4重縮合トポロジー構造(七宝文様)高分子の選択的構築に成功した。反応の進行と合成の確認は、化学構造(1H NMR)、分子量(SEC)、末端官能基(IR)および絶対分子量(MALDI-TOF MS)の測定により行った。

ESA-CF法によって得られる単環状および双環状高分子前駆体を用いたクリック法およびクリップ法による七宝文様高分子の合成経路
図2.
ESA-CF法によって得られる単環状および双環状高分子前駆体を用いたクリック法およびクリップ法による七宝文様高分子の合成経路

今後の展開・波及効果

ESA-CF法、クリック法およびクリップ法を組み合わせることで、環状ポリペプチドの折りたたみをモデルとする多環縮合型構造の選択的構築が可能となることを示した。この手法はさらに複雑な構造の高分子や複数セグメントから成るブロック共重合体の合成にも応用可能であり、「かたち」に基づいた新物性高分子の創出につながると期待される。

さらに、基礎数学(トポロジー幾何学)と高分子化学を融合する新たな基礎研究領域としての「高分子トポロジー化学」体系の構築に向け一歩を踏み出すことができた。こうした基礎研究領域の創出は世界に発信する重要な学術的貢献となるだけでなく、革新的な産業基盤技術を創出する途を拓くものと期待される。

とりわけ高分子材料科学・工学への直接的なインパクトとして、高分子の「かたち」ライブラリーの構築によって高分子材料設計の基礎となる種々の分析・計測・シミュレーションに不可欠な「標準試料」の提供が実現する。これにより、直鎖状および分岐状高分子とは基本的に異なる環状および複環状構造を含む「かたち」からはじめる高分子設計の自由度を大きく拡大できよう。

用語説明

[用語1] ESA-CF法 : カチオン性テレケリクスと多価アニオンとの静電相互作用による自己組織化を利用し、単環状・多環状などの複雑なトポロジー高分子を選択的に合成する手法。

[用語2] 七宝文様 : 同じ大きさの円の円周を四分の一ずつ重ねて繋いでいく文様。

[用語3] クリック法 : 温和な条件で選択的かつ高効率に進行するクロスカップリング(異なる構造の二つの分子を結合させて一つの分子にする)反応。代表的な例として、今回の研究で用いたアルキン-アジド間のHuisgen反応(ヒュスゲン反応、環化付加反応)が挙げられる。

[用語4] クリップ法 : C=C不飽和結合の組み換え反応。2つの末端オレフィン間でこの反応が起こると、環状分子を形成し内部オレフィンが生成する。

[用語5] 末端官能性高分子前駆体(テレケリクス) : ギリシア語の「遠く離れた位置」および「爪・鉤」からの造語で、高分子の末端に特定の機能を持った官能基を導入したもの。複雑な高分子構造を組み立てる前駆体として有用。

論文情報

掲載誌 :
Angewandte Chemie, International Edition
論文タイトル :
Folding Construction of A Pentacyclic Quadruply-fused Polymer Topology with Tailored kyklo-Telechelic Precursors
著者 :
Hiroyuki Heguri, Takuya Yamamoto, and Yasuyuki Tezuka
DOI :

問い合わせ先

東京工業大学 大学院理工学研究科 有機・高分子物質専攻
教授 手塚育志

Email : ytezuka@o.cc.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2498 / Fax : 03-5734-2876

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


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