このたび、東工大教員等5名が、科学技術分野で顕著な功績があったとして、科学技術分野の文部科学大臣表彰を受賞しました。
科学技術分野の文部科学大臣表彰では、「科学技術賞」として「開発部門」、「研究部門」、「理解増進部門」などいくつかの部門に分かれて表彰されています。文部科学省より発表された今年度の受賞者に、日ごろの研究活動、研究成果を認められた東工大関係者2名が含まれています。
また、萌芽的な研究、独創的視点に立った研究等、高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた若手研究者を対象とした「若手科学者賞」を3名の東工大教員が受賞しました。
本賞を受賞した東工大関係者は以下のとおりです。
科学技術賞(研究部門)
伊藤 満 応用セラミックス研究所 教授
受賞業績:「機能性酸化物新材料の創出に関する研究」
研究の概要とコメント
既存の物質・材料を改良して所望の性質を有する材料を得る従来型の物質・材料研究とは対照的に、本研究の特徴は全く新しい考え方でリチウムイオン伝導体、強誘電体、電気伝導体、磁性体、蛍光体等の新物質を作り出して、その物性・機能発現の原因を徹底して調べ上げたことにあります。考え方をまとめて体系化する過程で多くの学生、スタッフ、国内外の研究者の方々と直接実験を遂行し議論を交わすことができました。その結果を多数の論文として公表できたお蔭で本賞をいただけたと思います。改めて関係者に感謝いたします。今後も研究に集中してより重要かつ有用な新物質を報告してゆこうと思っています。
齊藤 正樹 名誉教授・特命教授 グローバル原子力安全・セキュリティ・エージェント教育院 院長
受賞業績:「平和と持続的発展に向けた軍事転用困難なプルトニウムの研究」
研究の概要とコメント
ウラン燃料を使用する原子炉で生成される従来のプルトニウムは、数千年に亘るエネルギー源と言われていますが、軍事転用可能であり、非常に機微で厄介な核物質の一つであります。
しかし、使用済み燃料に含まれるマイナーアクチニド(ネプツニウムやアメリシウム等の総称:これまでは、厄介な「核のゴミ(高レベル放射性廃棄物)」として扱われてきましたが)を、ウラン燃料に少量添加し、中性子によって核変換すれば、軍事転用が困難な強い核拡散抵抗性を有するプルトニウムを生成することが可能であることが分かりました。また、その生成メカニズムを、国内外の2種類の研究炉を使って実験的に実証しました。
本研究により、マイナーアクチニドは、決して厄介な「核のゴミ(高レベル放射性廃棄物)ではなく、プルトニウムの軍事転用を防ぐ貴重な物質「宝」あることが示されました。
この研究成果を活用すれば、今後の世界の原子力の平和利用に大きく貢献するのみならず、オバマ米国大統領の提唱する「核なき世界」の実現に寄与することが期待されます。また、「核のゴミ」も低減され、人類の持続的発展に寄与することが期待されます。
本研究に対して、平成27年度文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)に選ばれたというお知らせを頂きました。大変光栄であると同時に本研究を進めるにあたり素晴らしい研究仲間に恵まれたことに感謝したいと思います。また、これまでの研究を支えて頂きました東京工業大学に深く感謝を致します。
若手科学者賞
臼井寛裕 理工学研究科 地球惑星科学専攻 助教
受賞業績:「火星の水の起源および消失過程の研究」
研究の概要とコメント
近年の探査研究により、地球の隣を周回する火星にも、かつては液体の水(海・湖・河川)が存在していたことが明らかになりました。私は、火星生命環境と密接に関連する水の歴史を明らかにすることを目標に、2010年頃より本研究テーマに取り組んできました。
本研究の特色は、火星隕石に残された過去の水の痕跡(水素同位体比)を系統的に調べることにより、従来の探査研究では分からなかった、火星の「水の起源」と「海の消失過程」を明らかにしたことです。幸い、東工大大学院生を含む国内外の多くの共同研究者に恵まれ、研究を進める上で鍵となった化学分析法やデータ解析モデルを独自に開発することができました。この場をお借りして、改めて深く感謝の意を表します。
本研究成果は、生命の発生・進化に直結する水の歴史を明らかにしており、火星生命検出を目的とした将来探査計画の策定に強く反映されると期待しています。今後は、日本初の火星着陸探査および世界初の火星衛星サンプルリターン計画の成功を目指し、研究・教育活動に邁進していきたいと思います。
宗宮健太郎 理工学研究科基礎物理学専攻 准教授
受賞業績:「大型重力波検出器KAGRAの開発研究」
研究の概要とコメント
重力波はアインシュタインが予言した時空のさざ波です。ブラックホールの振動や連星中性子星の合体など、大質量の変動を伴う天体現象が引き起こす時空の歪みが波となって地球まで伝わってきます。我々はこれまで検出されていない重力波の観測を目指して大型望遠鏡“KAGRA”の建設を進めています。
2017年頃には望遠鏡を完成させ、重力波を用いた新しい天文学の創成を目標にまい進していきたいと思っています。
今回の受賞は、200人を超えるKAGRAメンバー各位の協力があって実現したものです。私は、トンネル掘削からサファイア鏡の開発まで、多岐にわたるサブシステムの統合を担うシステムエンジニアとして、研究開発を進めていますが、各サブシステムの絶え間ない努力には日々感服しています。
私の研究室に所属した学生のみなさんには、望遠鏡の建設地である岐阜県神岡に滞在して開発に尽力してもらうなど、大変がんばってもらっています。
彼らの協力なしに本賞の受賞はなかったと思います。また、平成23年に東工大へ所属して以来、研究活動を支援してくださっている基礎物理学専攻、理学研究流動機構、テニュアトラック制度事務局の各位にこの場を借りて感謝の意を表したいと思います。
只野耕太郎 精密工学研究所 准教授
受賞業績:「空気圧駆動を用いた手術支援ロボットシステムの研究」
研究の概要とコメント
これまで、腹腔鏡手術を対象とした手術支援ロボットシステムの研究開発に取り組んで参りました。より直感的で安全性の高いロボット手術を実現すべく、患者腹腔内で作業を行う鉗子マニピュレータを空気圧駆動とし、その圧力情報から手先の外力を推定することで、術者への力覚フィードバックを実現しました。
この度は、本活動に対しこのような栄誉ある賞を賜ることができ身に余る光栄に存じます。これもひとえに学内外関係者の方々のご支援、ご協力によるものであり、この場をお借りして心より感謝申し上げます。これを励みにより一層精進して参ります。