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結晶の共振固有振動による大きく高速な屈曲を世界で初めて発見 メカニカル結晶はアクチュエータやソフトロボットへ実用化する段階に到達

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要点

  • 光や熱などの外部刺激を動きに変換する「メカニカル結晶」の開発において、これまで光異性化・相転移・光熱効果などの現象が駆動源として用いられましたが、高速かつ大きな動きを創出することは難しく、課題でした。
  • 本研究グループは、結晶に光を照射することで固有振動が起きて高速屈曲が生じ、この固有振動と同じ周波数の光を与えることによって生じる共振(共振固有振動)により、屈曲が大きく増幅することを世界で初めて発見しました。
  • 共振固有振動を用いることであらゆる結晶を高速で大きく屈曲させることができるため、汎用性のある高速アクチュエーション機構として、ソフトロボットなどへの応用が期待されます。

動画:共振固有振動とシミュレーション(390 Hz))

動画:共振固有振動とシミュレーション(390 Hz))

結晶の共振固有振動による大きく高速な屈曲を世界で初めて発見|YouTube

概要

早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構の小島秀子招聘研究員と、同大理工学術院の朝日透教授、同大学大学院先進理工学研究科4年(一貫制博士課程4年)・日本学術振興会特別研究員(DC1)の萩原佑紀らの研究グループ(以下、本研究グループ)は、東京工業大学 物質理工学院 材料系の森川淳子教授らと、結晶に光を照射することで固有振動が起きて高速屈曲が生じることを発見しました。さらにこの固有振動と同じ周波数の光を与えることで、共振により屈曲が大きく増幅することを明らかにしました。今回の共振固有振動を用いることで、汎用性の高い高速結晶アクチュエータやソフトロボットの実現が期待されます。

本研究成果は、Springer Nature社発行による「Nature Communications」誌のオンライン版に2023年3月13日(月)(現地時間)に掲載されました。

これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

光や熱などの外部刺激を動きに変換する「メカニカル結晶」は、軽くて柔らかいアクチュエータ[用語1]ソフトロボット[用語2]への応用が期待されています[参考文献1]。私たちは過去15年間、結晶を動かす原理として、光異性化[用語3][参考文献2]相転移[用語4][参考文献3]に注目して、多数のメカニカル結晶を開発しました。しかし、光異性化や相転移する結晶は数が限られています。特に、光異性化については屈曲する動きが遅く(数秒)、厚い結晶は屈曲しないといった問題点がありました[参考文献4]

本研究グループは2020年、光熱効果[用語5]によって厚い結晶が25 Hzの高速で屈曲することを発見しました[参考文献5]。その後、別の結晶を用いて、光熱効果による屈曲の機構をシミュレーションにより明らかにしました[参考文献6]
。しかし、この光熱効果による屈曲は小さく(0.2–0.5度)、大きな動きを創出することが課題でした。

今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

物体に外力を加えると、特有の周波数(固有振動数)で振動し続ける現象を固有振動といいます。この固有振動と同じ周波数の外力を加えると、共振と呼ばれる現象が発生して、振動が増幅されます。例えば、地震の際、建物の固有振動数と地震の周波数が一致すると共振して激しく揺れ、倒壊する恐れがあります。ギターやサックスなどの楽器は、弦やリードの動きで音(振動)を作り、箱や筒の中で共振させることで音を増幅しています。このように固有振動は私たちの日常に広く関わっていますが、動く材料を創るという観点では注目されていませんでした。

図1 固有振動による結晶の高速屈曲とシミュレーション

図1. 固有振動による結晶の高速屈曲とシミュレーション

本研究の最初の目的は、熱膨張の大きい有機結晶に注目して、光熱効果による大きな屈曲を創出することでした。その研究中に、100ミリ秒で1.2度の光熱効果による大きな屈曲と同時に、390 Hzの高速で0.1度の微小な固有振動が起きていることを発見しました(黒、図1a)。驚くことに、この固有振動と同じ390 Hzのパルス光を照射すると、共振により固有振動が3.4度に増幅されました(黒、図1b)。つまり、共振固有振動によって、結晶の高速で大きな屈曲が創出されることが明らかになりました。

この仕組みを解明するため、本研究グループは、光熱効果による熱が結晶内を伝導してできた温度勾配により結晶が変形し、同時に生じた熱応力[用語6]が結晶の振動を起こすという機構を仮定し、結晶の屈曲をシミュレーションしました。その結果、共振を伴わない屈曲と共振により増幅された屈曲の両方を再現することができました(赤、図1a, b)。

さらに、結晶の形状を変えると200-700 Hzの様々な共振固有振動が観察され、長く薄い結晶では「大きい屈曲」が、短く厚い結晶では「素早い屈曲」が創出できることがわかりました(図2a)。この共振固有振動について屈曲速度とエネルギー変換効率(光→屈曲運動)を、光異性化、光熱効果、非共振固有振動による屈曲と比較した結果、最も速い屈曲速度(0.2-0.7 m s-1)かつ最も高いエネルギー変換効率(~0.1 %)が得られることがわかりました(図2b)。

図2 共振固有振動の形状依存性と出力特性

図2. 共振固有振動の形状依存性と出力特性

そのために新しく開発した手法

正確な周波数のパルス光を照射するため、電子工作に広く用いられているArduino[用語7]による制御システムを構築しました。光熱効果と固有振動の合わさった屈曲をシミュレーションするため、物体のあらゆる物理現象の計算に適している有限要素法[用語8]を用いました。

研究の波及効果や社会的影響

本研究において共振固有振動によって結晶を高速で大きく屈曲させられることを明らかにし、シミュレーションによる再現にも成功しました。固有振動の共振に注目することで、あらゆる結晶を高速で大きく屈曲させることが可能です。また屈曲はシミュレーションできるため、結晶の種類やサイズ、光の照射条件などを変えれば望みの動きを設計することができます。

最終的にはこれまでの光異性化や相転移では難しかった、汎用性の高い高速結晶アクチュエータやソフトロボットの実現に期待が高まります。このような実用化へのアプローチにより、ヒトとロボットが融和して日常的に触れ合う、未来社会の創成に貢献できます。

今後の課題

現状、固有振動で結晶が動く例はまだ本研究の1例のみなので、今後は別の結晶についても検討し共振固有振動の汎用性について実証する必要があります。さらに高速な固有振動を起こすことが出来れば、幅広い応用先の考案につながるため、高い固有振動数を持つヤング率[用語9]の高い結晶に注目し検討する必要があると考えます。

研究者のコメント

光で動く結晶はこの15年間で多数報告されてきました。今回、本研究グループの発見により、共振固有振動を用いてあらゆる結晶を高速で大きく動かせることがわかりました。本研究により、メカニカル結晶は実際にアクチュエータやソフトロボットへ実用化する段階に進んだと考えています。今後はアクチュエータやソフトロボットへの応用にも挑戦し、基礎研究から実用化まで、幅広く研究を展開したいと思います。

研究助成(外部資金による助成を受けた研究実施の場合)

研究費名:文部科学省 科研費 基盤研究(B)
研究課題名:熱と光で自在に動くロボット結晶の開発
研究代表者名(所属機関名):小島秀子(早稲田大学)

研究費名:文部科学省 科研費 特別研究員奨励費
研究課題名:光熱効果によるメカニカル結晶材料の多様化と可能性の拡大
研究代表者名(所属機関名):萩原佑紀(早稲田大学)

研究費名:早稲田大学 アーリーバードプログラム
研究課題名:光熱駆動高速結晶メカニカルリレーの開発
研究代表者名(所属機関名):萩原佑紀(早稲田大学)

用語説明

[用語1] アクチュエータ : 光や電気といった入力信号を動きに変換する素子。

[用語2] ソフトロボット : 金属など固い材料を用いず、柔らかい材料のみからなるロボット。

[用語3] 光異性化 : ある分子が光を吸収して別の分子に変化すること。

[用語4] 相転移 : 光や熱などにより、材料がある状態から別の状態に変化すること。

[用語5] 光熱効果 : 物質が光を吸収して熱を発生すること。

[用語6] 熱応力 : 材料が熱的に膨張することで生じる力。

[用語7] Arduino : 電気機器を制御するコンピュータの一種。

[用語8] 有限要素法 : 物理現象を近似的に解くための数値解析手法。

[用語9] ヤング率 : 材料の変形しにくさを表す物性値。

参考文献

[1] Koshima H. (ed) Mechanically Responsive Materials for Soft Robotics (2020). DOI: 10.1002/978352782220

[2] Koshima H. et al., J. Am. Chem. Soc., 2009. DOI: 10.1021/ja8098596

[3] Taniguchi T. et al., Nat. Commun., 2018. DOI: 10.1038/s41467-017-02549-2

[4] Koshima H. et al., Isr. J. Chem., 2021. DOI: 10.1002/ijch.202100093

[5] Hagiwara Y. et al., J. Mater. Chem. C., 2020. DOI: 10.1039/d0tc00007h

[6] Hasebe S. et al., J. Am. Chem. Soc., 2021. DOI: 10.1021/jacs.1c03588

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Photothermally induced natural vibration for versatile and high-speed actuation of crystals
著者 :
Yuki Hagiwara1, Shodai Hasebe1, Hiroki Fujisawa2, Junko Morikawa2, Toru Asahi1, Hideko Koshima1
1早稲田大学、2東京工業大学
DOI :

お問い合わせ先

早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構

招聘研究員 小島秀子

Email h.koshima@kurenai.waseda.jp
Tel 03-5843-8121

東京工業大学 物質理工学院 材料系

教授 森川淳子

Email morikawa.j.aa@m.titech.ac.jp
Tel 03-5734-2497

取材申し込み先

早稲田大学 広報室 広報課

Email koho@list.waseda.jp
Tel 03-3202-5454

東京工業大学 総務部 広報課

Email media@jim.titech.ac.jp
Tel 03-5734-2975 / Fax 03-5734-3661


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