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超音波を用いて細菌の付着形態を3次元的にナノスケール可視化 抗菌材料開発の強力な助っ人

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要点

  • 従来の顕微鏡観察では分からない固体表面と細菌本体との距離を3次元で可視化する技術を開発。
  • 水晶振動子で発生させた局所的な超音波により、材料への細菌の付着形態をナノスケール分解能でリアルタイム観測することに成功。
  • 種類によって付着形態が異なる、さまざまな細菌の付着・繁殖を防ぐ抗菌材料開発への貢献に期待。

概要

東京工業大学 物質理工学院 材料系の林智広准教授、Glenn Villena Latag(グレン・ヴィレナ・ラタグ)修士課程学生らの研究チームは、水晶振動子によって界面に局所的に発生させた超音波を用い、固体表面上に吸着した大腸菌の付着形態の3次元的描像を得ることに成功した。

抗菌材料の開発では材料表面に付着した細菌の観察が欠かせない。しかし従来の光学顕微鏡観察ではさまざまな特性を持つ表面に細菌がどのように付着しているかを知ることができない。本研究では、大腸菌菌体と材料表面の距離を計測することで、細菌付着形態の3次元的描像をナノスケールの分解能で得ることに成功した。

さらにこの可視化技術を用いて、細菌の付着形態と抗タンパク質吸着・抗細胞接着特性(抗付着性)との相関を明らかにした。抗付着性を持たない材料表面では、大腸菌は表面に密着し、強固なバイオフィルムを形成して接着する。一方、抗付着性を持つ材料表面では、菌体本体は表面とおよそ140 nmの距離を保ち、べん毛を介して弱く吸着する。

今回開発した技術は、材料表面上での細菌の3次元的な付着形態の情報を提供することで、表面形態や物理化学的特性などさまざまな条件の最適化を可能にすることから、新たな抗菌材料設計の即戦力となる技術だといえる。今後は、高い抗菌性能を持つ材料が要求される医療、食品分野のみならず、生活用品開発分野などでの応用も期待される。

本研究成果は、2月20日付(現地時間)の「ACS Applied Bio Materials」にオンライン掲載された。

超音波を用いて細菌の付着形態を3次元的にナノスケール可視化

背景

細菌の付着を防ぎ、細菌を不活化する抗菌材料は、浴室、寝具、食器といった生活空間や、公共交通機関、病院などの公共空間、食品加工現場など、さまざまな分野で高い需要がある。抗菌材料の開発においては、材料表面に付着した細菌の観察が必要不可欠である。一般的に材料表面に付着した細菌の観察は必要に応じて染色し、顕微鏡観察で行っていた。しかし顕微鏡観察では、細菌の個数(表面上の細菌密度)に関する知見しか得ることができない(図1上)。特に細菌本体の付着や、べん毛による本体への吸着など、細菌の付着形態に関する知見が得られないため、抗菌性材料の物理的パラメータ(材料の硬さ、表面微細構造など)や、化学的パラメータ(材料の化学構造)の最適化の方向性を決めることが困難であるのが現状である。

図1 (上図) さまざまなSAMsに付着した大腸菌の光学顕微鏡写真 (下図)今回の手法で得られた、自己組織化単分子膜への大腸菌のさまざまな付着形態の模式図。それぞれのSAMの特性は以下の通りである。C8: 疎水性。NH2 and COOH: 電荷を持ち、親水性。OH:電荷を持たず、親水性。OEGおよびSB: 抗タンパク質吸着性・抗細胞接着性。
図1
(上図) さまざまなSAMsに付着した大腸菌の光学顕微鏡写真 (下図)今回の手法で得られた、自己組織化単分子膜への大腸菌のさまざまな付着形態の模式図。それぞれのSAMの特性は以下の通りである。C8: 疎水性。NH2 and COOH: 電荷を持ち、親水性。OH:電荷を持たず、親水性。OEGおよびSB: 抗タンパク質吸着性・抗細胞接着性。

研究成果

本研究では、水晶振動子マイクロバランス(QCM)[用語1]法を用いて、材料表面に付着している細菌本体と材料表面の距離をナノメートルスケールの精度で計測する手法を開発した(図2下)。具体的には、QCMセンサー表面上に、固体表面の電荷や極性、濡れ性、タンパク質・細胞に対する抗付着特性を自在に制御可能な自己組織化単分子膜(SAMs)[用語2]を形成し、このSAMs上に大腸菌を付着させた。このQCMセンサーで、水晶振動子の基準振動および倍音において、大腸菌の付着によって起こる振動周波数のシフトと振動エネルギーの散逸を測定することで、大腸菌の付着過程や、バイオフィルム形成の経時変化に加えて、菌体とSAMs表面との距離を計測することを可能にした。

この手法を用いて、SAMs上での大腸菌の付着形態を観察した。その結果、疎水性があり、電荷を持つSAMs上では、菌体本体が表面に接着し、強固なバイオフィルムを形成するのに対し、抗タンパク質吸着性を持つSAMsへは、べん毛を介して140 nm程度の距離を保ちつつ、非常に緩く付着し、バイオフィルムの形成も遅いことが分かった。

このように、大腸菌の3次元的な付着形態をナノスケールの分解能で明らかにすることで、大腸菌の接着やバイオフィルム形成の描像がリアルタイムで観測できるようになった。この手法を従来の顕微鏡観察と組み合わせることによって、材料表面に付着した細菌の密度と付着形態の知見が得られ、抗菌材料開発のスピードを加速させることが可能となる。

社会的インパクト

抗菌材料は、我々の日常生活空間から、公共空間、医療現場、食品製造、パッケージング、上下水道まで、人が関わる空間全てで必要とされる材料である。それぞれの応用において、抗菌のターゲットとなる細菌の種類は異なり、それぞれの菌に対して最適な材料設計が求められる。材料設計の際には、材料のさまざまな物理的・化学的因子の最も有効な組み合わせを見つけ出すことが必要となる。その際に、細菌の材料への付着形態を3次元的に知ることができれば、それぞれの因子の優先度を決められるようになる。それによって効率的かつはずれのない抗菌材料の設計が可能となり、細菌感染症、食中毒の防止に大きく貢献できる。

今後の展開

今後は、さまざまな種類の細菌と材料の相互作用に関して、今回開発した手法を用いてナノスケール分解能で解析した、3次元的な細菌付着形態のデータを含むデータベースを構築する。また、林准教授らのグループが有するマテリアルインフォマティクス(情報科学を用いた材料設計)技術と融合させることで、迅速かつスピーディーな抗菌材料を設計するストラテジーを確立する。なお本研究は企業との連携が必要不可欠であり、現在広く連携先を募集している。

付記

本研究は、文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究 (水圏機能材料:環境に調和・応答するマテリアル構築学の創成)(22H04530)、文部科学省 科学研究費補助金 学術変革領域研究(A)(マテリアルシンバイオシスための生命物理化学)(21H05511)の支援を受け行われた。

用語説明

[用語1] 水晶振動子マイクロバランス法(quartz crystal microbalance: QCM) : 数で発振している水晶振動子に物質が吸着すると、共振周波数が低くなる現象を利用したセンシング技術。ナノグラム程度の重量変化を測定することができ、低分子からタンパク質、核酸、高分子薄膜などさまざまな系のバイオセンシングに応用されている。

[用語2] 自己組織化単分子膜(self-assembled monolayers: SAMs) : 固体材料表面上において、有機分子が基板との相互作用や分子間相互作用によって、有機分子が高い秩序性を持って単分子膜を形成する現象を利用した、固体表面の改質方法。基板と分子の組み合わせは、金-チオール、シリコン-シラン、酸化物-リン酸などがある。

論文情報

掲載誌 :
ACS Applied Bio Materials
論文タイトル :
Investigation of Three-Dimensional Bacterial Adhesion Manner on Model Organic Surfaces Using Quartz Crystal Microbalance with Energy Dissipation Monitoring
著者 :
Glenn Villena Latag, Taichi Nakamura, Debabrata Palai, Evan Angelo Quimada Mondarte, and Tomohiro Hayashi
DOI :

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お問い合わせ先

東京工業大学 物質理工学院 材料系

准教授 林智広

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