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畜産×SDGs:植物代替、培養肉を含めた未来の牛肉市場を調査 生産方式に対する消費者タイプごとの選択行動の違いが明らかに

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要点

  • 持続可能性に配慮した牛ひき肉の生産方式(有機、アニマルウェルフェア、植物代替、細胞培養)について、5つの消費者タイプとその特徴を特定
  • 日本の消費者4,421名を対象にしたオンライン選択実験を実施
  • 各消費者タイプに効果的なコミュニケーション設計に応用し、持続可能な生産方式へのシフト促進に期待

概要

東京工業大学 環境・社会理工学院 融合理工学系の鷲尾拓哉大学院生、西條美紀教授、大橋匠准教授、同 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の伊藤浩之准教授と信州大学 学術研究院農学系の竹田謙一准教授の共同研究グループは、持続可能性に配慮した牛肉製品の潜在的消費者タイプおよびその特徴を明らかにした。

近年、畜産業は環境負荷や倫理的観点から批判が高まっており、持続可能性に配慮した生産方式へのシフトが急務とされている。持続可能な生産方式へのシフトに向けて、消費者が各生産方式による食肉や食肉代替品をどのように受容するのか把握し、代替品の選択を促進する最適な消費者コミュニケーションを確立し、市場を形成していくことが重要になる。

そこで本研究では、日本の消費者4,421名に対してオンライン選択実験として、従来の牛肉生産方式とその代替生産方式(有機、アニマルウェルフェア[用語1]、植物代替、細胞培養)に関する嗜好を調査し、それに基づき消費者タイプを5つ(新しいもの好き、寛大な顧客、バランス重視、価格重視、保守派)に特定した。また、価値観[用語2]科学技術リテラシー[用語3]社会人口統計学的属性[用語4]の観点からタイプ間の特徴を明らかにし、各タイプの消費行動に対する具体的な施策を示唆した。

また、一部の消費者タイプを除き、外国産よりも国産の代替品が好まれることが示された。代替生産方式へのシフトは、輸入品で対応していくのではなく、国産品で対応し、普及させていくことの重要性が示唆された。
本研究で得られた知見をマーケティング実務に応用していくことで、消費者の価値認識を促進することにつながり、ひいては持続可能な生産方式へのシフト促進に貢献すると考えられる。

本研究成果は、科学誌「Meat Science」に11月24日にオンライン掲載された。

背景

畜産業は、飼料の中に含まれる非食用のタンパク質を食用に変換することで、世界の食物エネルギーとタンパク質供給に必要かつ重要な貢献をしてきた。しかしながら今日の畜産業は、温室効果ガスの主要排出源とされるだけでなく、飼料生産のための広大な農地利用や、大量の水資源の利用や糞尿による汚染など、環境負荷に対する批判が高まっている。加えて、世界的にアニマルウェルフェア(AW)向上は喫緊の課題となっており、畜産業は大きな転換期を迎えていると言える。

今日、持続可能な畜産業の構築に向けて、オーガニック(有機)畜産への移行やAW向上のための取り組みが推奨されている。また、肉の消費量を減らすために、植物代替肉や、人工培養細胞を用いた培養肉による代替に向けた取り組みも行われている。しかし、それぞれの生産方式にメリットとデメリットがあり、そのトレードオフも指摘されているため、最適な生産方式について一般的に述べることは困難である。このような現状を踏まえると、短期的には、複数の生産方式による食肉や食肉代替品が市場に並存することが予想される。

持続可能な生産方式へのシフトに向けては、消費者が各生産方式による食肉や食肉代替品をどのように受容するのか把握し、代替品の選択を促進する最適な消費者コミュニケーションを確立していくことが重要になる。

そこで本研究では、牛ひき肉を例として取り上げ、従来の生産方式とその代替生産方式(有機肉、AW肉、植物代替肉、培養肉)に関する日本の消費者の嗜好・受容性を調査し、それに基づいて消費者のセグメンテーションを行った。また、価値観、科学技術リテラシー、社会人口統計学的属性の観点から、タイプ間の差異を明らかにし、各タイプにおける消費者行動をより深く理解することを目指した。

研究成果

日本の消費者4,421名を対象に、牛ひき肉の食品表示を用いたオンライン選択実験を行った。潜在クラス分析[用語5]の結果から、「新しいもの好き」タイプ、「寛大な顧客」タイプ、「バランス重視」タイプ、「価格重視」タイプ、「保守派」タイプの5つの消費者タイプが特定された。また、各消費者タイプが、社会人口統計学的属性、価値観、科学的リテラシーの観点から異なる特性を持つことが明らかになった(表1)。以上の結果から、消費者タイプごとに、代替生産方式の受容性を高めるための施策の方向性をまとめた(図1)。

表1. 各消費者タイプの特徴の一部抜粋

表1. 各消費者タイプの特徴の一部抜粋

図1 消費者タイプの割合と新たな生産方式を選択してもらうための施策の一方向性

図1. 消費者タイプの割合と新たな生産方式を選択してもらうための施策の一方向性

代替生産方式に対する受容性について、2つの特徴を指摘できる。1つ目は、「新しいもの好き」タイプと「保守派」タイプの受容性の違いである。前者は全ての代替生産方式に対してポジティブな評価をしており、逆に後者は全ての代替生産方式についてネガティブな評価をしていることが明らかになった。こうした受容性の差について、社会人口統計学的属性の観点から検討すると、性別、年齢、単身世帯の割合、世帯収入、専業主婦/主夫の割合が重要な要素であることが示された。「新しいもの好き」タイプの特徴を詳しく見ると、科学的リテラシーについては「生活重視型」の回答者の比率が高くなった。また、価値観の傾向からは、社会への貢献よりも、自身の福祉や自己満足につながる内発的な動機により代替生産方式を選択している可能性が示唆された。

2つ目は、「寛大な顧客」タイプ、「バランス重視」タイプ、「価格重視」タイプの価格感度の違いである。これらのタイプは、従来の生産方式との比較では有機牛肉に対してのみ良い評価をしている点では共通しているが、価格の高低に対する捉え方は異なる。こうした価格感度の違いは、社会人口統計学的属性では性別、専業主婦/主夫の割合、世帯年収に、価値観では「保守」に影響されることが示唆された。具体的には代替生産方式に対する価格感度は、世帯年収が高いほど、また男性ほど低くなり、専業主婦/主夫の割合が高いほど高くなった。これらのタイプに対しては、価格感度に応じて、コストパフォーマンスの訴求と商品選択・消費による効果の訴求をバランスさせるコミュニケーションが必要であると考えられる。

製品の産地については、「新しいもの好き」タイプ以外では、外国産よりも国産が好まれることが示された。代替生産方式へのシフトは、輸入品で対応していくのではなく、国産品として対応し、普及させていくことの重要性が示唆された。

社会的インパクト

本研究は、タンパク質消費の持続可能性を高めるために、いかに消費者の需要を喚起するかという課題について、海外市場に比べて報告数の少ない日本を対象とし、かつ牛肉とその代替生産方式を同時に取り上げた初めての報告である。こうした調査結果は、日本の消費者行動の現状をより的確にとらえたものであり、社会における持続可能な生産方式の受容を強く後押しするものと考えられる。

また、マーケティングの観点からは、各消費者タイプに対してそれぞれの特徴を踏まえた具体的な施策を示唆するとともに、国産の代替品を充実させていくことの重要性を示すことで、近い将来の市場展望を具体的に提示した。これらの知見はマーケティング実務への応用が可能であり、産業界として持続的な生産方式の食肉や食肉代替品の普及を進めるうえでの明確な道筋を示すことができる。こういったことから、本研究は持続可能な生産方式の実現という社会ニーズに大きく貢献するものだと言える。

今後の展開

今後の研究では、提示する情報の内容やメディアタイプの影響についての調査、実店舗での販売実験等により、さらに消費者の選択行動を理解していく必要がある。また、本研究の結果を解釈し補強するためには、本研究で実施した量的調査に加えて、実際の消費者へのインタビューなどの質的調査が求められる。特に注目されるのは、「保守派」タイプ以外の消費者が有機牛肉に対して従来品よりも高い受容性を示している点である。この理由をより深く理解することは、マーケティング実務において消費者の価値認識を促進することにつながり、ひいては代替生産方式へのシフトの促進に貢献すると考えられる。

各機関の役割

  • 東京工業大学:
    研究の企画、質問紙調査の設計、データ収集と解析、論文の執筆
  • 信州大学:
    研究の企画、生産方式の検討・設計、AWに配慮した畜産物消費に関する結果の検討、論文の執筆

付記

本研究の一部は、JST-COI(JPMJCE1309)の支援を受けたものである。また、本研究は東京工業大学COI『サイレントボイスとの共感』地球インクルーシブセンシング研究拠点(現・EISESiVコンソーシアム(地球インクルーシブセンシングコンソーシアム『サイレントボイスとの共感』:Consortium for Earth Inclusive Sensing Empathizing with Silent Voices))の活動の一部として実施された。

用語説明

[用語1] アニマルウェルフェア : 世界動物保健機構(WOAH)は、アニマルウェルフェア(AW)を「動物の生活や死(食用目的のと殺や疾病管理目的の安楽殺)という状況における動物の肉体的および精神的状態」と定義している。すなわち、人類による動物利用(家畜、実験動物、展示動物、伴侶動物など)を認めつつも、前述の状況に際して、可能な限り苦痛を排除しようとするものである。現在、消費者教育の推進に関する法律(平成24年施行)の下で普及が進められている「倫理的消費」の畜産対応として、AWが示されている。農林水産省からも、AWに配慮した家畜飼育を推進すべく通知が発出されている。また世界的な食品企業はもとより、国内食品企業も、自社で取り扱う畜産原材料に対してAWの重要性を示し、AWに配慮された畜産物を扱うことを表明している。国連食糧農業機関(FAO)も持続可能な家畜生産の手法の一つにAWを位置づけており、AWへの対応は世界的な流れになっている。

[用語2] 価値観 : 人間の価値観は、食品の選択行動に影響を与える重要な属性であるとされている。S.H. Schwartzは、個人の行動を導く10個の基本的な人間の価値を提案した。この10個の価値観は、対立する上位の価値観に基づいて円環状に配置されている。例えば、保守(安全、調和、伝統)は変化への開放性(刺激、自己決定、快楽主義)に対抗し、自己強化(快楽主義、達成、権威)は自己超越(博愛、普遍主義)に対抗するように配置されている。この価値観を測定する尺度として、6段階評価21問からなるPVQ-21尺度が提案されており、本研究ではこれを用いた。

[用語3] 科学技術リテラシー : 科学技術リテラシーは消費者の選択行動に影響を与えると考えられている。川本思心らは、サイエンスコミュニケーションを充実させるために、科学技術に関する知識(科学因子)、社会への関心(生活因子)、科学技術に対する態度(科学重視因子)の3つの側面を含む尺度を開発した。これらの側面から個人を、全方位型(科学的知識、科学的・社会的興味、科学を重視する気持ちが強い人)、科学好き型(科学への興味関心が高いが社会分野への関心が低い人)、生活重視型(社会的興味が強く、科学的知識が相対的に少ない人)、低関心型(科学・社会分野ともに興味が弱い人)の4群に分類している。科学技術リテラシーを測定する尺度として、4段階評価10問からなる尺度が提案されており、本研究でもこれを用いた。

[用語4] 社会人口統計学的属性 : 性別、年齢、収入、職業、学歴、家族構成など、回答者の持つ社会経済的な特性のこと。

[用語5] 潜在クラス分析 : 個人の特徴の違いから、統計的にセグメント(クラス)を抽出する手法。本研究では、製品の特性である価格、産地、生産方式の違いにより消費者のセグメントを決定する。なお、本稿では簡単のため、セグメントを「消費者タイプ」と表記している。

論文情報

掲載誌 :
Meat Science
論文タイトル :
Meat the challenge: Segmentation and profiling of Japanese beef mince and its substitutes consumers
著者 :
Takuya Washio(鷲尾拓哉 東京工業大学 環境・社会理工学院 博士後期課程)
Miki Saijo(西條美紀 東京工業大学 環境・社会理工学院 教授)
Hiroyuki Ito(伊藤浩之 東京工業大学 科学技術創成研究院 准教授)
Ken-ichi Takeda(竹田謙一 信州大学 学術研究院農学系 准教授)
Takumi Ohashi(大橋匠 東京工業大学 環境・社会理工学院 准教授)
DOI :

環境・社会理工学院

環境・社会理工学院 ―地域から国土に至る環境を構築―
2016年4月に発足した環境・社会理工学院について紹介します。

環境・社会理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

東京工業大学 環境・社会理工学院 融合理工学系

准教授 大橋匠

Email ohashi.t.af@m.titech.ac.jp

(アニマルウェルフェアに関して)

信州大学 学術研究院農学系
准教授 竹田謙一

Email ktakeda@shinshu-u.ac.jp
Tel 0265-77-1427

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

Email media@jim.titech.ac.jp
Tel 03-5734-2975 / Fax 03-5734-3661


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