要点
- 2020年12月から活発化した能登半島北東部の群発地震の原因は未解明だった。
- 地震波データの解析から、非火山地域である能登半島下に地殻流体が広く存在することを明らかにした。
- この地殻流体の上昇が群発地震の原因であることを突き止めた。
概要
東京工業大学 理学院 地球惑星科学系の中島淳一教授は、石川県珠洲地方(能登半島)で発生している群発地震[用語1]は地殻流体[用語2]の上昇によって引き起こされていることを明らかにした。
能登半島北東部では2020年12月から地震活動が活発化している。2022年6月19日にマグニチュード(M)5.4(最大震度6弱)、翌20日にM5.0(最大震度5強)の地震が発生するなど、2020年12月1日から2022年7月8日までに震度1以上を観測した地震が183回発生した。一連の地震の原因については、地殻変動データの解析から地下深部の流体の関与が示唆されているが、流体の存在を捉えた研究はなかった。本研究では地震波データの解析から、能登半島群発地震下の詳細な地震波速度構造を明らかにした。その構造から、震源域直下に地殻流体が存在することを初めて突き止め、この地殻流体が群発地震の原因になっていることを明らかにした。2007年能登半島地震(M6.9)も今回の群発地震と同じ起源をもつ地殻流体によって引き起こされたと考えられる。能登半島における地震発生メカニズムを理解する上で極めて重要な成果である。
この研究成果は、科学誌「Earth, Planets and Space」に11月1日にオンライン掲載された。
背景
能登半島北東部(石川県珠洲地方)では2020年12月から地震活動が活発化した。2022年6月19日にマグニチュード(M)5.4(最大震度6弱)、翌20日にM5.0(最大震度5強)の地震が発生するなど、2020年12月1日から2022年7月8日までに震度1以上を観測した地震が183回も発生した(地震調査研究推進本部資料)。また、体に感じない小さな地震(M1以上)は2022年3月までに8,000回以上も発生し、非常に活発な地震活動が現在も続いている(図1)。以前から、地下深部の地殻流体の上昇がこの群発地震の原因であると考えられていたが、流体の存在を示した研究はなかった。
- 図1.
- (a)能登半島で活発化した群発地震活動(赤点)と2007年能登半島地震(M6.9)の震央(黄色星)。黒点は2003年〜2021年に発生したM1以上の地震。(b)2003年1月から2022年3月までの地震(M1以上)のマグニチュード分布(黒線)と地震の累積数(赤線)。
研究成果
中島教授は、2003年から2020年12月までに能登半島周辺で発生した地震のP波・S波到着時刻データを用いて地震波トモグラフィ[用語3]を行い、地下の深さ40 kmまでの地震波速度構造を推定した。得られた解析結果から、能登半島北部下の下部地殻[用語4a]には地震波の伝わる速さが周囲に比べて遅い領域が北東-南西方向に広がっていること(図2a)がわかった。さらに、その領域の南西部では死者1名、負傷者336名をだした2007年能登半島地震(M6.9)が発生し、北東部では今回の群発地震が発生していることも明らかになった。
一般に、地下に流体やマグマが存在すると地震波の速度が遅くなる。能登半島には火山が存在せず、地下にマグマだまりがあるとは考えられないことから、見つかった下部地殻の地震波低速度域は地殻流体の存在が原因であると解釈できる(図2b)。下部地殻に存在する地殻流体が、何らかのきっかけにより地震が発生する上部地殻[用語4b]に突如供給され始めたことで、2020年12月から地震活動が活発化したと推測される。群発地震活動は深さ約15 km から始まり、徐々に浅部に拡大したことがわかっている。この地震活動の浅部への拡大も地殻流体の上昇が原因であると考えると、一連の活動の推移を説明することができる。
また、これまでの研究により、2007年能登半島地震の発生にも流体が関与したことが指摘されてきたが、その起源は明らかになっていなかった。本研究の結果からは、2007年能登半島地震と今回の群発地震の原因がともに下部地殻に広く存在する流体であり、その両方の流体が繋がっていて、同じ起源をもつこともわかった。
- 図2.
- (a)能登半島を横断する測線におけるS波速度分布の鉛直断面図。S波速度が遅い領域を暖色系、速い領域を寒色系で表している。黄色星は2007年能登半島地震(M6.9)の震源、赤点は群発地震の震源を表す。灰色点の多くは能登半島地震の余震である。(b)速度分布図の解釈図。
社会的インパクト
群発地震では同じような規模の地震が頻発する。日本で最も有名な群発地震は1965年から数年間続いた長野県の「松代群発地震」で、有感地震は6万回を超えた。特に、1966年4月17日には震度1以上の地震が1日に585回も発生した。2–3分に1回の頻度で地震の揺れを感じるほど活発な活動だった。このような群発地震は火山の周辺で発生することが多いが、今回の能登半島の群発地震は非火山地域で発生した珍しい活動であり、その原因に注目が集まっていた。
本研究により、非火山地域においても地下に流体が存在することが明瞭に示された。本研究の成果からは、3つのことが示唆される。
- 1.
- 能登半島のような非火山地域でも群発地震が起こりうること
- 2.
- 上部地殻への流体の供給が停止すれば、群発地震活動はやがて収まること
- 3.
- 地殻流体の分布を高精度で推定することができれば、群発地震や大地震の発生ポテンシャルが高い地域を事前に知ることができる可能性があること
これらは、群発地震や内陸大地震の発生メカニズムの進展に寄与する重要な研究成果である。
今後の展開
本研究では、地殻流体が群発地震活動の原因であることを明らかにした。しかしながら、地殻流体が上部地殻へ上昇するきっかけとなった現象や、上部地殻への流体の供給量やその時間変化など、群発地震活動の規模や推移を予測するための情報は十分ではない。今後は、地球電磁気学・測地学・地球化学・物質科学など、地震学以外の知見を含め、地殻流体の挙動の理解を進めていく必要がある。
付記
本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(JP20K20939、JP21H01176)および文部科学省による「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第2次)」の支援を受けた。
用語説明
[用語1] 群発地震 : 前震・本震・余震の区別がはっきりせず、ある地域に集中的に多数発生する地震群。
[用語2] 地殻流体 : 岩石や鉱物の隙間に存在する水などの流体。
[用語3] 地震波トモグラフィ : 地震波(P波とS波)の到着時刻データを用いて、地球内部の三次元的な地震波速度構造を求める方法。
[用語4a] 下部地殻 : 地球表面は約30 kmの厚さの岩盤(地殻)で覆われている。地殻上部(深さ約15 kmまで)はおもに花崗岩で構成されており地震が発生するが、玄武岩質の岩石で構成される下部地殻では地震はほとんど発生しない。
[用語4b] 上部地殻 : 下部地殻[用語4a]を参照のこと。
論文情報
掲載誌 : |
Earth, Plants and Space |
論文タイトル : |
Crustal structure beneath earthquake swarm in the Noto peninsula, Japan |
著者 : |
Junichi Nakajima |
DOI : |
- プレスリリース 非火山地域への流体の供給と2007年能登半島地震との類似性 —非火山地域への流体の供給と2007年能登半島地震との類似性—
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お問い合わせ先
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教授 中島淳一
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