東京工業大学 環境・社会理工学院 建築学系の田村修次教授、鍵直樹教授が、2021年度日本建築学会賞(論文)を同時に受賞しました。一般社団法人日本建築学会が4月19日、発表しました。贈呈式は5月31日オンラインで行われました。日本建築学会賞(論文)は、近年中に発表された研究論文の中でも、学術の進歩に貢献する優れたものに授与されます。
田村修次教授 合理的な建築基礎構造の耐震設計の実現
田村修次教授の研究題目は、「基礎の根入れ効果を考慮した大地震における杭応力評価に関する研究」です。
日本建築学会はサイトの授賞理由で「本論文は、地盤−基礎−上部構造の動的相互作用問題に果敢に挑戦し、新たなそしてより合理的な建築基礎構造の設計・施工の実現に資する学術的・社会的価値の高い多くの研究成果を示したものであり、今後の同分野の更なる発展に寄与することが期待される」と評価しています。
田村教授のコメント
地震時には建物の基礎根入れ部(地下室など)に土圧が作用します。この地震時土圧が杭応力に与える影響(基礎の根入れ効果)は、杭基礎の耐震設計で問題になっていました。基礎の根入れ効果の研究は、東工大で博士号を取得後、科技庁防災科学技術研究所(1996~)の大型振動台実験からスタートしました。その後、信州大学(1999~)で実験データを分析し、得られた仮説を京都大学防災研究所(2004~)で学生と試行錯誤をしながら遠心載荷実験で検証しました。2014年に東工大に戻り、基礎の根入れ効果を考慮した大地震における杭応力評価法に取組み、研究成果は日本建築学会の建築基礎構造設計指針(2019)に反映されました。研究を始めて成果が実務に反映されるまで、約20年かかったことになります。提案手法が実務で使われることに重圧も感じますが、日本の「住み続けられるまちづくり」に少しは貢献できたかなと思っています。振り返ると、これまで恩師の時松孝次先生、多くの共同研究者、研究室の歴代の学生の皆様からサポート・協力を受けました。それに感謝するとともに、建築の地盤・基礎における問題の解決、次世代の研究者・技術者育成に貢献したいと考えています。
鍵直樹教授 室内空気汚染の現象解明とモデル構築
鍵直樹教授の研究題目は、「室内空気質におけるガス及び粒子状物質の実態把握及び汚染機構解明に関する一連の研究」です。
日本建築学会はサイトの授賞理由で「本論文は、室内空気汚染の分野において、汚染実態を基にして、着実な手法と秀逸な論理展開の上に、多くの現象の解明とモデル構築を行っており、学問的、社会的に大きな意義を持つと考えられる」と評価しています。
鍵教授のコメント
現代の人は、時間にして8割以上の時間を建物の中で過ごしていると言われています。また我々は絶えず呼吸により空気を取り入れていますが、食事や飲料のように好きなものを口にできる訳ではなく、その場にある空気、多くの時間を過ごす建物内の空気を吸わざるを得ません。さらにその空気が安全なのか、危険性があるかなどは、目に見えないので意識しません。そのような室内空気質に関して本学学部学生時代より、汚染物質の発生から、室内での挙動把握・予測、そして対策について様々な現象の解明を行って参りました。対象とする空間として我々が暮らしている建築物や住宅、高清浄環境の半導体製造用のクリーンルームまで、研究室にあった極微量の計測・分析技術を駆使して、粒子状物質からガス状の揮発性有機化合物(VOC)など多岐にわたって検討することができ、その内容で博士号を取得することができました。その後,厚生労働省の研究機関である国立保健医療科学院に異動し、建築物や医療施設など多くのフィールドに携われることで、実験室の世界から視野を広げることができました。そして、母校に戻って来てからも、多くの共同研究者とつながりを保ちながら、学生とも研究を切れ目なく継続できており、多くの幸運に恵まれたことを認識することができました。新型コロナウイルス感染症には、室内の衛生環境の確保が感染対策の一つともなっており、今後ポストコロナにおいても貢献できるよう、さらに今後とも努力を重ねていきたいと考えております。
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お問い合わせ先
環境・社会理工学院 建築学系
教授 田村修次
E-mail : tamura.s.aj@m.titech.ac.jp
環境・社会理工学院 建築学系
教授 鍵直樹
E-mail : kagi.n.aa@m.titech.ac.jp