令和2年春の叙勲において、東京工業大学の髙柳邦夫栄誉教授が瑞宝中綬章を受章しました。長年にわたる教育と研究への多大な貢献が評価されたものです。
経歴
髙柳邦夫栄誉教授(2012年6月称号授与)は、1972年に東京工業大学 大学院理工学研究科 物理学専攻の博士課程を中退後、本学 理学部助手に着任しました。1981年2月に同 助教授に昇任し、1988年4月から大学院総合理工学研究科の助教授として表面科学講座の担任を経て、同年10月に理学部教授となりました。1992年7月からは大学院総合理工学研究科、2001年4月からは大学院理工学研究科の教授を務めました。
2012年3月、任期満了により退職し、同年4月に名誉教授の称号を授与されました。その後も本学特任教授として3年間研究推進に携わりました。また、2003年に紫綬褒章、2012年に日本学士院賞を受章・受賞し、その研究業績や受賞が称えられ、本学栄誉教授の称号が授与されました。
この間、表面ナノ科学という研究領域を推進させました。特に、表面科学分野ではシリコン(111)表面の7×7再構成表面の構造決定、ナノ科学分野では金属細線の量子化電気伝導やナノチューブのカイラル構造を発見。また、超高真空高分解能電子顕微鏡や0.5Å収差補正電子顕微鏡の開発など、顕微ナノ科学の発展に寄与しました。
科学技術振興機構ERATOの研究責任者を務め、応用物理学会賞や日本結晶学会賞、日本顕微鏡学会賞、韓国真空学会賞、アメリカ真空学会(AVS)ゲーデ・ラングミュア賞等の学会賞や、日本学士院賞、江崎玲於奈賞、仁科記念賞、東レ科学技術賞等、数々の賞を受賞しました。また、日本表面科学会、日本顕微鏡学会の会長ならびに国際顕微鏡学会連合(IFSM)理事を務め、アメリカ物理学会(APS)フェロー、応用物理学会フェロー、日本表面科学会や日本顕微鏡学会名誉会員に選出されています。
髙柳邦夫栄誉教授のコメント
このたびの栄誉は、東工大という環境の中で学部時代から御指導頂いた故・本庄五郎先生、故・高木ミエ先生をはじめ、研究を共に進めて頂いた学生諸氏、ならびにERATO研究員やCREST研究員の皆様に感謝しております。また、研究の節目に助言・指導を頂いた国内外の諸先輩、同僚の先生方に感謝します。
「研究は“温故知新”と“幸運の女神”」という本庄五郎先生の薫陶に感謝しています。
シリコン半導体の7×7表面再構成構造の電子回折法による決定が出来たのは、“温故知新”の賜物です。この表面原子配置が分かるのは20世紀中では無理ではないかといわれていました。それを透過電子線回折法で解きました。そしてDAS模型(Dimer, Adatom, Stacking fault)と命名しました。このDAS構造の正しさは、その後になって、走査型トンネル顕微鏡(STM)の研究者らにより確認され、さらに多種の実験や理論的検証でも確認され、表面科学最大の構造問題を解決したと同時に、新しいナノ科学の時代への転換点(ティッピングポイント)となりました。
東京工業大学には学部入学したときから数えると50年間お世話になりました。その間、大岡山キャンパスの拡充、すずかけ台キャンパスの設立、国立大学法人化などと変遷しました。そこには、常に、自由・創造・開拓の闊達さが感じられました。本館の時計塔が昔の姿でいるように、自由・創造・開拓の気概にあふれた世界一のTokyo-Techに期待しています。
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