Quantcast
Channel: 更新情報 --- 研究 | 東工大ニュース | 東京工業大学
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2008

ガリウムが別元素の性質に変化 超原子と呼ばれる特殊な粒子を作り出すことに成功

$
0
0

要点

  • ガリウムの金属クラスターによる「超原子」の合成に成功
  • 13原子クラスターが特異な硬さと化学特性を示すことを解明
  • ガリウムクラスターの原子数を規定することで、ハロゲンに似た性質が発現

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院の神戸徹也助教、山元公寿教授らの研究グループは、数原子からなるガリウム[用語1]金属クラスター[用語2]を有機高分子であるデンドリマー[用語3]を用いて合成し、それが超原子[用語4]と呼ばれる特殊なクラスターになることを見出した。

ガリウムは融点が約30度と異常に低い金属として有名であり、低融点合金材料や水銀の代替金属として利用されている。こうしたガリウムの性質が1ナノメートル(nm)程度のクラスターにすることで劇的に変化することが分かった。なかでも13個のガリウム原子からなるクラスターはハロゲン[用語5]に似た物理的・化学的性質を有していることが明らかとなった。今回の研究で実証した超原子を合成する手法は材料を構成単位から新たに生み出す手法であり、これまでにない様々な新素材の開拓に繋がるものと期待される。

研究成果は2月21日(ドイツ時間)発行の『Advanced Materials(アドバンスド・マテリアルズ)』オンライン版に掲載された。

背景

物質の新しい構成単位として「超原子」が注目されている。超原子は元素に似た電子軌道[用語6]を作り出せる金属クラスターである。この超原子は構成する原子の種類や組成により性質が変化するため、構造をデザインすることで様々な元素の性質を人工的に作り出すことができるとされている。このような元素を設計できる超原子は、レアメタル[用語7]の代替のみならず、現在の周期表では表せない新元素も作り出せる可能性があるとして期待されている新しい物質群である。

しかしながら、こうした超原子の合成はこれまで気相系での極微量合成が主であった。そのため、素材として利用するには量合成やクラスターの組成を制御した手法が必要とされていた。

研究成果

神戸助教、山元教授らは樹状高分子であるデンドリマーを用いてガリウムクラスターを合成することで、ハロゲン超原子の液相での合成に成功した。

図1. ガリウムによるハロゲン超原子の合成

図1. ガリウムによるハロゲン超原子の合成

樹状高分子であるフェニルアゾメチンデンドリマー[用語8]に塩化ガリウムを集積し、これを還元することで13個や3個などガリウムの原子数を精密に規定した金属クラスターを合成した。得られたクラスターの特性を調べ、13個のガリウム原子からなる金属クラスター[Ga13]がハロゲンに似た性質を持つことを酸化還元特性やクラスターの硬さから実証した。

図2. 合成したガリウムクラスター。(A、B)[Ga13]クラスターのSTEM像 (C)ガリウムクラスターの構成原子数と観測サイズ

図2. 合成したガリウムクラスター。(A、B)[Ga13]クラスターのSTEM像 (C)ガリウムクラスターの構成原子数と観測サイズ

研究の経緯

神戸助教、山元教授らはこれまでに、アルミニウムクラスターの超原子を合成し、その物性について明らかにしてきた。今回はガリウムを用いることで新たな超原子への展開に成功した。

今後の展開

超原子は設計次第で、安価な元素から希少元素の特性を生み出せるとされている。それを実現していくには数個の金属元素を精密に組み上げる必要がある。今回の研究ではガリウムを用いたが、別の元素でも超原子を作ることは可能であり、また合金化することでその可能性はさらに広がると期待される。

用語説明

[用語1] ガリウム : 原子番号31の元素で、元素記号は Ga。ヒ素との化合物のガリウムヒ素(GaAs)は化合物半導体に、窒化ガリウム(GaN)は発光ダイオードに使われている。

[用語2] 金属クラスター : 金属原子が数個から十数個集まって、一つの化合物のような特定の構造単位をもった物質。原子同士が直接結合するものや配位子によって結合するものなどがある。

[用語3] デンドリマー : 樹状高分子。コアと呼ばれる中心構造と、デンドロンと呼ばれるコアから樹状に延びる側鎖構造から構成される特殊な高分子。

[用語4] 超原子 : 構成する元素とは異なる別の元素に似た電子状態を有するクラスター。構成する元素の種類や組成により特性が変化し、構造をデザインして周期律に従った元素の性質を模倣できるため、元素を代替できる手法として注目されている。

[用語5] ハロゲン : 周期表の17 族元素の総称。具体的にはフッ素・塩素・臭素・ヨウ素・アスタチンが相当する。一般的に電気陰性度が高く1価のアニオンになりやすい性質がある。

[用語6] 電子軌道 : 電子の分布や振る舞いを表すもの。原子に対する原子軌道にはs・p・d・fなどの種類が存在する。

[用語7] レアメタル : 産業に広く利用されているが、流通量・存在量が少なく希少な金属。

[用語8] フェニルアゾメチンデンドリマー : 金属に配位できるフェニルアゾメチンを側鎖部位に持つ樹状高分子。金属を中心部から段階的に集積することができるため、望みの金属数を集めることができる。

付記

本研究は日本学術振興会(JSPS)、科学技術振興機構(JST-ERATO)、東京工業大学技術部すずかけ台分析部門、東京大学微細構造解析プラットフォーム、およびダイナミック・アライアンスの支援・協力を受けて行なわれた。

論文情報

掲載誌 :
Advanced Materials
論文タイトル :
Superatomic Gallium Clusters in Dendrimers: Unique Rigidity and Reactivity Depending on their Atomicity
著者 :
Tetsuya Kambe, Aiko Watanabe, Meijia Li, Takamasa Tsukamoto, Takane Imaoka, and Kimihisa Yamamoto*
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

教授 山元公寿

E-mail : yamamoto@res.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5260 / Fax : 045-924-5260

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


Viewing all articles
Browse latest Browse all 2008

Trending Articles