最先端科学技術を担う若手研究者を育成するために東京工業大学が設立した基礎研究機構(小山二三夫機構長)の2019年度成果報告会・交流会が、1月24日、東工大すずかけ台キャンパスS8棟レクチャーホールで開催されました。来賓として文部科学省研究振興局から村田善則局長、金子忠利基礎研究推進室長らが出席し、益一哉学長ら本学関係者を合わせて、出席者総数は110名を超える催しとなりました。
基礎研究機構は、本学が世界をリードする最先端研究分野である「細胞科学分野」(大隅良典塾長)と「量子コンピューティング分野」(西森秀稔塾長)の2つの「専門基礎研究塾」と、本学のすべての新任助教が塾生として3ヵ月間研さんする「広域基礎研究塾」(大竹尚登塾長)から構成されます。
成果報告会は、小山機構長の挨拶で始まり、次いで益学長から塾生への激励がありました。
益一哉学長
我々が若い頃とは研究環境が大きく異なり、研究に時間を割くことが難しくなっている。本学の経営戦略の1つとして、若手研究者にたくさんの研究時間を与えることができるよう環境を整える。その時間を有効活用して、色々な方々とインタラクションしてコミュニケーションの機会を沢山持って欲しい。我が国の基礎研究を支える人材になるよう、塾生の皆さんには頑張って頂きたい。
来賓の挨拶として文部科学省の村田局長から祝辞を頂きました。
村田善則 文科省研究振興局長
基礎研究機構は、2016年に大隅良典先生のノーベル賞受賞を契機に若手研究者を育成し続けるには何ができるのかを熟考され、新たな課題に挑戦する場として創設されたと聞いている。世界の最先端を突き進む大隅先生と西森秀稔先生が率いる専門基礎研究塾は、若手研究者にとって、非常に恵まれた研究環境だと思う。また、大竹尚登先生が塾長の広域基礎研究塾では、様々な専門分野の研究者がお互い切磋琢磨することで、思いがけないシナジー効果が生まれることが期待される。
「塾」という言葉は、緒方洪庵が開いた「適塾」、適塾を卒業した福沢諭吉が創立した「慶應義塾」、また、吉田松陰が指導した「松下村塾」を想起させる。いずれも卓越した人材を残したことから、東京工業大学の本機構への意気込みが伝わって来る。若手研究者の育成については、政府としても非常に重要な課題と考えており、文部科学省においては2019年度補正予算により「創発的研究支援事業」を新設した。本機構の取り組みが将来のイノベーション創出を担う若手研究人材の輩出に繋がることを祈念している。
続いて、大隅良典塾長(専門基礎研究塾 細胞科学分野)、西森秀稔塾長(専門基礎研究塾 量子コンピューティング分野)、大竹尚登塾長(広域基礎研究塾)から、それぞれの塾の活動について紹介がありました。
大隅塾長(専門基礎研究塾 細胞科学分野)
現在の日本では、2つのことがまだ十分に理解されていないと感じる。ユニバーシティというのが広く対話・活動することができる環境であるべきということと、研究者が楽しく研究できる環境が重要だということだ。
当専門塾の活動は以下の4つ。来年度も本年度と同様に4つの活動を継続していきたい。
- 1.
- 談話会:シニア教員から若手にメッセージを提供。本年度は5回開催。
- 2.
- コロキウム:国内外の講師を招き、最先端の研究成果を紹介頂く。本年度は11回開催。
- 3.
- 塾生研究費:海外での活動を経済的に支援。
- 4.
- 共同実験室・共同利用機器:共用実験室の整備・拡大。
西森塾長(専門基礎研究塾 量子コンピューティング分野)
量子アニーリングは、我々の研究室で22年前の学位論文から始まり、北米でのイノベーションを経て、産業化への大きな流れができた。Googleは量子アニーリングの自社マシーンを作成し、徹底的に使い倒して、量子ゲート方式の実装に成功した。
当専門塾では理論が中心で実験機器はない。専門塾の活動は以下の2つ。来年度も活動を継続する。
- 1.
- セミナ-:国内外の企業人も含めた幅広い研究者を招き、基礎から産業応用までの話題を提供頂く。本年度は11回開催。
- 2.
- 塾生研究費:海外での研究成果を報告。本年度は2件。
大竹塾長(広域基礎研究塾)
文部科学省に初めて陳情した時は専門基礎研究塾だけの構想だった。その際、「東工大の若手全員を対象にした塾もあれば面白い」とのご意見を頂いたことから、広域基礎研究塾が生まれた。若手全員を対象としては教育・研究に重大な支障が出るため、新任助教に限定した。本年度は29名の塾生を選抜し、3ヵ月の期間に限定して研究エフォートを上げることにした。広域塾のゴールは「自分のテーマを深く考える」ことをオリエンテーションで徹底し、異分野融合を前提とした自己紹介の「研究分野紹介発表会」、自分の研究から身を引いて社会との関わりを俯瞰する「ワークショップ」、深掘りした研究テーマを発表する場の「研究テーマ設定発表会」をそれぞれ開催した。また、個別面接により、入塾前後での研究エフォートや研究環境をヒアリング調査した。更に、「大隅先生を囲む会」を開催した。大隅先生の半生を伺った後に、ざっくばらんな話を先生と、或いは塾生同士でできる機会は大変好評だった。良い研究テーマが多数輩出されたことを契機に、「新研究挑戦奨励金」を大学から拠出し、広域塾生が応募した。また、塾における事後の塾生アンケート(匿名)では、様々な意見が出た。概ねポジティブな意見だったが、一部ネガティブな意見もあり、いろいろな意見があってよいと捉えている。今後の重要課題は、養成する能力の明確化、長期的視点での予算獲得、他組織との連携。本年度の塾生29名は誇るべき人材であったというのがもっとも伝えたいことである。
伊能教夫副機構長の挨拶により成果報告会は終了し、その後、別会場で交流会が開催されました。80名近い参加者が和やかな雰囲気の中で、今後の基礎研究機構の運営や本学の将来について意見を交わしました。また、専門基礎研究塾と広域基礎研究塾の全塾生のポスター47件を掲示し、熱心な学術的な討論を繰り広げました。
基礎研究機構とは
本学は、最先端研究領域を開拓し、世界の研究ハブの地位を継続的に維持・発展させるために必須な基礎研究者を育成する場として、2018年7月、基礎研究機構を科学技術創成研究院に設置しました。本機構は、2つの専門基礎研究塾と広域基礎研究塾からなります。
専門基礎研究塾では、基礎研究で顕著な業績を有する本学の研究者を専門基礎研究塾の塾長に据えるとともに、若手研究者の研究エフォート(職務時間のうち研究に集中できる時間の割合)を現在の6割(平成26年度文科省調査より推計)から9割に増加させるために、人、資金、スペース等のリソースを投入し、5年程度研究に集中できる環境を整備することで、卓越した研究者を養成します。2019年4月現在、細胞科学分野には14名、量子コンピューティング分野には2名の塾生がいます。
広域基礎研究塾では、本学の全ての分野の若手研究者を対象として3ヵ月間研究エフォートを9割に増加させ、研究テーマを落ち着いて考えるなど研究に集中する機会を設けます。2019年6月現在、29名の研究者が塾生として所属しています。
その結果として、基礎研究が実る節目と言われている10年程度を経た2030年以降に卓越した研究成果を継続的に生むことを目指しています。
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- 基礎研究機構
- 東京工業大学 科学技術創成研究院 (IIR)