7月17日、元素戦略研究センターの細野秀雄栄誉教授、金正煥助教による記者説明会を大岡山キャンパスにて行いました。説明会には、7媒体、8名が出席しました。
元素戦略研究センターでは、希少元素に対する資源不安を回避するために、ブレークスルーとなる材料の創出の研究開発を行っています。今回の記者説明会では、新しく開発した亜鉛(Zn)、シリコン、酸素からなるアモルファスZn-Si-O(a-ZSO)という仕事関数(1)が小さく、しかも電子の移動度の大きな透明半導体を電子輸送層として利用することで、低電圧で高輝度のペロブスカイト(2)LEDが実現可能になったという研究成果について説明がありました。
開発のポイント
テレビやスマートフォンなどのディスプレイとして有機EL(エレクトロルミネッセンス)が普及してきました。有機ELは自己発光型で高い画質を提供できるという魅力があります。一方で、寿命が短く、駆動電圧が高いといった課題があり、新たな発光材料の研究開発が進められています。
ディスプレイに求められる性能として、高い解像度とありのままの色を再現できることがあげられます。色の再現性の観点から、ペロブスカイトLEDが注目されています。ペロブスカイトLEDは、高い色純度とともに、製造に溶液プロセスが使えるという利点もあります。
現在、多くの研究者が低次元ペロブスカイトの研究を行っているのに対し、細野栄誉教授と金助教は光でなく電流を注入して発光させるLEDの場合には、電子と正孔が移動しやすい3次元ペロブスカイトの方が適していると考え、電極から発光層に電子を注入するのに適した半導体であるa-ZSOと隣接させてペロブスカイトLEDを作製しました。
作製した緑色のLEDは、2.9Vで10,000 cd/m2、5Vで500,000 cd/m2の輝度を達成しました。通常のスマートフォンの最大輝度は400 cd/m2程度ですので、驚異的な明るさであることがわかります。
今後の展望
現状では、緑色と赤色に関しては高輝度を達成できていますが、青色については、まだ改善の余地があります。今回明らかにした概念は非常に有効であることがわかりましたので、これを応用して新たな材料を開発することで、次世代のLED誕生につながると期待できます。
(1)仕事関数
物質内の電子を外に移すのに必要な最小エネルギーの値。金属表面からの熱電子放出や、電場による電子放出は、仕事関数の大きい金属ほど起こりにくい。
(2)ペロブスカイト
ペロブスカイト構造は結晶構造の一つ。さまざまな原子が組み合わさった構造をしており、光吸収や電荷輸送促進などの性質をもつため、LEDとしての使用が検討されている。
資料
- 室温で緑色発光するp型/n型新半導体│東工大ニュース
- 研究者詳細情報(STAR Search) - 細野秀雄 Hideo Hosono
- 研究者詳細情報(STAR Search) - 金正煥 Junghwan Kim
- 東京工業大学 元素戦略研究センター
- 物質理工学院 材料系
- 研究成果一覧
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