工学院 電気電子系のファム・ナム・ハイ准教授が、第11回ドイツ・イノベーション・アワード「ゴットフリード・ワグネル賞2019」を受賞しました。
本賞は、日本を研究開発の拠点として活動しているドイツのグローバル企業9社による表彰で、日本の若手研究者支援と科学技術振興、そして日独の産学連携ネットワーク構築を目的としています。対象は、「材料とエネルギー」、「デジタル化とモビリティ」、「ライフサイエンス」の3部門における革新的で応用志向型の研究です。
ファム准教授はトポロジカル絶縁体を用いて、世界最高性能の純スピン注入源を開発しました。この成果は純スピン流で高速書き込みおよび高い耐久性を両立できる次世代の磁気抵抗メモリ技術である「スピン軌道トルクMRAM」の実現につながります。
純スピン流源としてこれまで使われている白金やタングステンなどの重金属は、スピンホール角が低いという問題がありました。ファム准教授がBiSbトポロジカル絶縁体に着目し、薄膜成長技術の確立および純スピン注入源としての性能の評価を行いました。その結果、室温でも超巨大なスピンホール角を示すBiSb(012)面を発見しました。さらに、BiSb 薄膜を使い、従来より1~2桁少ない電流密度で、垂直磁性膜の磁化反転を実証しました。
BiSbをスピン軌道トルクMRAMへ応用すると、データの書き込みに必要な電流を1桁、エネルギーを2桁低減でき、記録速度を20倍に、記録密度を1桁向上させて、従来の揮発性半導体メモリSRAMやDRAMを置き換えることができます。この成果は電子機器の一層の省エネ化をもたらし、数兆円に上るスピントロニクスの新産業を創製できる可能性があり、経済効果は大きいと期待されています。また、ファム准教授はBiSbを用いる超低消費電力スピン軌道トルクMRAMの量産技術の開発を精力的に行っています。産業界では、これらの研究成果を用いるプロタイプ素子の開発が始まっていて、早期実用化が期待されています。
ファム准教授のコメント
ドイツ・イノベーション・アワードという大変名誉ある賞を頂き、大変光栄に存じます。本研究では、トポロジカル絶縁体を用いて、実用的な高性能純スピン注入源の開発に成功すること、実用化に向ける量産技術の開発および産業界との積極的な産学連携を評価していただきました。この場を借りて、共に研究を頑張った学生の皆様、共同研究・受託研究を行っている各企業および大型研究プロジェクトを支援していただいているJSTの皆様に厚く御礼を申し上げます。本技術を実用化し、電子機器の一層の省エネ化を達成できるよう、引き続き研究開発に尽力して参ります。
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