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室温で緑色発光するp型/n型新半導体 ペロブスカイト型硫化物で実現

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要点

  • 独自の化学設計指針でp型/n型半導体の電気特性や光学特性を制御
  • 適切な元素置換がカギ
  • グリーンギャップ問題を解決する次世代緑色LEDを開発

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の平松秀典准教授、飯村壮史助教(研究当時)、細野秀雄教授(研究当時)、物質理工学院 材料系の半沢幸太大学院生(博士後期課程3年、研究当時)の研究グループは、独自の化学設計指針をもとに、適切な元素置換で、電気特性の制御ができ室温で緑色発光するペロブスカイト硫化物の新半導体“SrHfS3”を開発した。

現在、発光ダイオード(LED)やレーザーダイオードとして幅広く用いられているInGaN系(窒化物)、AlGaInP系(リン化物)の材料は、人間の視感度が最も高い緑色において電流の光変換効率が大きく低下するという問題がある。開発したSrHfS3は、高効率、高輝度、高精細が要求される次世代光学素子用の緑色光源として応用されることが期待される。

本研究成果は、米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン版に3月6日(現地時間)に掲載された。

背景

高輝度、長寿命、低消費電力で光を発するLEDは、信号機やフラットパネルディスプレイ、照明などの生活に欠かせない光源として幅広く用いられている。LEDは、電子の穴(=正孔)が動くp型半導体と電子が動くn型半導体を接合した構造を持っている。ここに、電圧を印加し正孔と電子を再結合させることでバンドギャップに応じた発光が得られる。現在、青色と赤色のLEDにはInGaN系(窒化物)とAlGaInP系(リン化物)のⅢ-V族半導体が用いられている。

しかし、人間の視感度が最も高い緑色域においては光変換効率が大きく低下してしまう通称「グリーンギャップ問題」を抱えており(図1)、小型で高効率、高輝度、高精細が要求されている次世代テレビやプロジェクターを実現するためには、p型とn型両方に制御可能であり、かつ高効率に緑色発光する全く新しい半導体材料が求められている。

Ⅲ-V族窒化物およびリン化物半導体材料を基盤としたLEDの各発光波長における最大外部量子効率

図1. Ⅲ-V族窒化物およびリン化物半導体材料を基盤としたLEDの各発光波長における最大外部量子効率[用語1]

研究成果

今回、p型とn型両方の電気伝導性と高効率な緑色発光という2つの機能を新材料で両立するため、(1)高対称性結晶中の非結合性軌道の利用と、(2)バンドの折り畳みを利用した直接遷移型バンドギャップを有する結晶構造の選定という2つの化学設計指針を提案し、その後候補材料のスクリーニングを行った(図2)。

物質内の化学結合に着目した材料設計指針。(a)半導体中における化学結合と非結合性軌道が占有するエネルギー準位の模式図(b)長周期構造をとることによるバンドの折りたたみ
図2.
物質内の化学結合に着目した材料設計指針。(a)半導体中における化学結合と非結合性軌道が占有するエネルギー準位の模式図(b)長周期構造をとることによるバンドの折りたたみ

図2aに分子軌道図を示す。通常、半導体中の正孔はエネルギー準位の深い結合性軌道[用語2]を占有し、電子は浅い反結合性軌道[用語3]を占有する。しかし、電子は深いエネルギーを持つほど半導体中で安定化され、正孔は浅い準位ほど安定になる。そのため、p型とn型の電気伝導性を実現するためには、電子が占有する準位のエネルギーを深くしつつ、正孔の準位を浅くする必要がある。

そこで我々は、まず「非結合性軌道[用語4]」を利用することを考えた。高対称性の結晶構造中では、金属や非金属元素の電子軌道が正味の結合・反結合軌道を作ることができず、非結合性軌道を形成することがある。金属と非金属元素の非結合性軌道は浅い価電子帯上端と深い伝導帯下端を形成するため、正孔と電子両方の電気伝導キャリアを安定化させることができると考えた。

次に、高対称性を持つ立方晶[用語5]ペロブスカイト型構造[用語6]を有する化合物は正孔、電子共に非結合性軌道から成る価電子帯上端と伝導帯下端[用語7]を占有するため、p型/n型伝導に適したエネルギーバンド構造を持っている。しかし、その立方晶ペロブスカイトの価電子帯上端と伝導帯下端は間接遷移型[用語8]のバンド構造を持つため、高効率の発光は期待できない。そこで、立方晶ペロブスカイトの長周期構造を選択することにより、バンドを物質内部で意図的に折りたたみ、直接遷移型[用語8]のバンド構造を得ることを考えた(図2b)。

図3aにこれらの設計指針をもとに選定した斜方晶SrHfS3の結晶構造とバンド構造を示す。SrHfS3は立方晶ペロブスカイトの格子定数abcをそれぞれ√2×√2×2倍した長周期構造を持つ。この長周期構造に起因して、第一原理計算により求めたSrHfS3のバンド構造は直接遷移型となっており、高効率な光の吸収、発光が期待できた。また硫黄(S)のp軌道とハフニウム(Hf)のd軌道でそれぞれ形成される価電子帯上端と伝導帯下端は、真空準位から見てそれぞれ−6から−4 eV付近に位置しており、いずれもp型/n型ドーピングに適した準位となっており、これは設計指針に合致した新材料だった。

SrHfS3の電子構造と電気・発光特性。(a)斜方晶系の結晶構造と直接遷移型のバンド構造。(b)電気伝導度(上)・ゼーベック係数(下)とドーピング濃度の関係(c)室温における緑色発光スペクトルと実際の写真
図3.
SrHfS3の電子構造と電気・発光特性。(a)斜方晶系の結晶構造と直接遷移型のバンド構造。(b)電気伝導度(上)・ゼーベック係数(下)とドーピング濃度の関係(c)室温における緑色発光スペクトルと実際の写真

そこで我々は、そのSrHfS3試料を固相反応法[用語9]で合成した。リン(P)およびランタン(La)を、それぞれ硫黄(S)、ストロンチウム(Sr)位置に適量で置換することにより、p型およびn型の電気伝導性を制御できることを実験的に実証した(図3b)。また、フォトルミネッセンス(PL)測定からは、室温においても目視可能なほど明るい緑色発光(波長520 nm)が観測された(図3c)。これらの結果は、SrHfS3が緑色発光ダイオード用の半導体材料として有望であることを示しているのと同時に、今回の材料設計の有用性も実証していると言える。

今後の展開

今回の結果により、光デバイス用半導体の材料設計指針、およびそれにより実験的にその性能が実証された新半導体SrHfS3の緑色LED向けの新材料としての有用性を示すことができた。今後、単結晶薄膜を用いたpn接合を作製することにより、より高効率の次世代緑色LEDが実現できると期待される。

この成果は、文部科学省 元素戦略プロジェクト<研究拠点形成型>により助成されたものである。

用語説明

[用語1] 外部量子効率 : LEDなどで電極から注入されたキャリア数に対して素子外に放射される光子数の比。

[用語2] 結合性軌道 : 隣り合う原子の電子軌道が互いの位相を強め合うように作る化学結合。

[用語3] 反結合性軌道 : 隣り合う原子の電子軌道が逆位相を持って弱め合うように作る化学結合。結合性軌道よりも高いエネルギーを持つ。

[用語4] 非結合性軌道 : 結合性軌道と反結合性軌道が互いを打ち消し合うように作る結合。結合と言っても正味の相互作用はなく、原子の持つ電子軌道のエネルギー準位がそのまま反映される。

[用語5] 立方晶 : 固体の繰り返し単位を決める7つの結晶系の1つ。すべての結晶軸の長さが等しく、軸のなす角度はすべて直角で90度をとる。

[用語6] ペロブスカイト型構造 : 体心立方格子の八面体隙間を陰イオンが占める結晶構造。強誘電体のBaTiO3などがこの構造をとる。

[用語7] 価電子帯と伝導帯 : 半導体中のバンドギャップを形成する電子の埋まったエネルギー帯(価電子帯)と電子が空のエネルギー帯(伝導帯)。正孔は価電子帯上端を動き、電子は伝導帯下端を動く。

[用語8] 間接遷移型と直接遷移型 : 価電子帯上端と伝導帯下端が異なる波数を持つ半導体は間接遷移型、同じ波数を持つものは直接遷移型と呼ばれる。

[用語9] 固相反応法 : 化合物の合成法の1つ。固体状の原料を混合、粉砕したのち、高温で加熱、焼成することで所望の化合物を得る手法。

論文情報

掲載誌 :
Journal of the American Chemical Society
論文タイトル :
Material Design of Green-Light-Emitting Semiconductors: Perovskite-Type Sulfide SrHfS3
(和訳:緑色発光する半導体の物質設計:ペロブスカイト型硫化物SrHfS3
著者 :
Kota Hanzawa, Soshi Iimura, Hidenori Hiramatsu, and Hideo Hosono
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所

准教授 平松秀典

E-mail : h-hirama@mces.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5855

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


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