Quantcast
Channel: 更新情報 --- 研究 | 東工大ニュース | 東京工業大学
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2008

魚の完全な皮膚再生システムを解明

$
0
0
脱分化を経ず速やかに組織を修復

要点

  • 両生類や魚類における大きな欠損を完全に再生する仕組みを解明
  • 皮膚再生の過程をゼブラフィッシュで観察
  • ヒトなどの皮膚疾患の治療、再生医療に新たなヒント

概要

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の柴田恵里大学院生(博士後期課程3年・研究当時)と川上厚志准教授らの研究グループは、モデル動物であるゼブラフィッシュを用いて、皮膚が瘢痕[用語1]を残さず、きれいに再生するための細胞群の働きを観察することに成功した。

魚類やイモリなどの両生類は、驚異的な組織再生能力を持っており、四肢やヒレを失っても元通りの組織を再生することができる。今回、研究グループでは、ゼブラフィッシュのヒレが再生する間の表皮細胞に注目。どのようなプロセスを経て、完全にヒレが元通りになり、瘢痕がない皮膚がどう再生されるのかについて、細胞を蛍光標識して追跡する方法で調べた。

その結果、従来考えられていた傷口付近にある皮膚細胞が脱分化[用語2]することで幹細胞になり再生が始まるわけではなく、基底層の幹細胞や表層の分化細胞が、それぞれ増殖して、同じタイプの細胞を生産、それを欠損部に供給して皮膚を再生していることがわかった。さらに再生過程では、皮膚の広範囲で細胞増殖が活性化して細胞を供給することで、新たな皮膚がダイナミックに再構成されることが判明した。

本研究から、完全な皮膚再生は脱分化のような特殊な方法を用いることはせずに、基底層の幹細胞などが自己複製することで、皮膚再生が起きていることが示された。

研究成果は、英国の生物医学・生命科学誌である「ディベロプメント(Development)」のオンライン版に2018年4月3日に公開された。

背景

魚類やイモリなどの両生類は、高い組織再生能力を持っており、手足などの器官を失っても、瘢痕を残さずに完全に元の形状と同じ組織を再生できる。組織の再生や恒常性の仕組みの解明は、ここ最近の生物学における大きな課題の1つで、この解明により、ヒトの再生医療への応用の可能性が期待されている。組織が再生する際、細胞がどのような仕組みで、どのような源から供給されているのか、これまでほとんどわかっていなかった。

近年、遺伝学的な手法を用いて、再生のために働いている細胞を蛍光標識する方法で、組織の修復や再生における細胞系譜の解明が進んできた。

研究成果

研究グループでは、ゼブラフィッシュのヒレの再生をモデルにして、遺伝学的な細胞標識法(Cre-loxP部位特異的組み換え)により、再生組織の細胞を蛍光に標識して(図1)、長期にわたって追跡した。その結果、傷口付近にあった上皮細胞が、いくつかの異なった運命をたどることが判明した。

まず傷口にやってくる上皮細胞の第一群は、傷口を塞いだ後、数日以内に細胞死を起こし消失した。遅れてやって来た第二の上皮細胞群は、再生した皮膚を作る細胞になった。

しかしながら、これらの再生した皮膚細胞の多くは、1週間から2週間程度経つとヒレの末端へ向かって押し出され消失する。皮膚細胞がどこから新たに供給されたのかを調べると、再生過程では、広範囲の皮膚で、幹細胞を含む細胞の増殖が活性化することで新たな上皮細胞が多数供給されていることがわかった。

また、興味深いことに再生過程における皮膚細胞は、脱分化して幹細胞に戻って再生するような特別なプロセスは経ずに、すでにある基底層の幹細胞や表層の分化細胞がそれぞれ、個性を保ったまま増殖して皮膚を再生していくことが明らかとなった。

ゼブラフィッシュのヒレにおける再生上皮細胞の遺伝的標識と細胞追跡

図1. ゼブラフィッシュのヒレにおける再生上皮細胞の遺伝的標識と細胞追跡


細胞標識には、Cre-loxPという方法を用いた。ここでは、フィブロネクチン1bという遺伝子の制御下で発現させたCre組み換え酵素によってEGFP(緑色蛍光タンパク質)の発現のスイッチを入れた。組み換えは、タモキシフェン(TAM)という化合物によって誘導できる。
※dpa:ヒレ切断後の日数。

今後の展開

本研究により、瘢痕が残らない、きれいで完全な皮膚再生の仕組みを明らかにすることができた。

ヒトを含む他の脊椎動物でも、基底層の幹細胞の自己増殖を制御することで、皮膚の再生が可能になると考えられる。今回新たにわかった皮膚再生の仕組みは、ヒトでも同じように働いていれば、将来的には、様々な皮膚疾患の原因解明、再生医療研究等で利用されることが期待される。

用語説明

[用語1] 瘢痕 : 創傷や壊死などによって生じた器官の組織欠損が、肉芽組織の形成を経てコラーゲン線維や結合組織に置き換わった不完全な修復状態。皮膚の瘢痕には、いわゆる傷跡から、赤く盛り上がる異常な瘢痕やケロイドなどがあり、正常な皮膚に比べ機能的に劣る。皮膚以外でも、心筋梗塞後の組織は瘢痕を形成し、収縮力は正常の心筋より劣る。

[用語2] 脱分化 : 細胞は、受精卵や胚性幹細胞(ES細胞)などのように、あらゆる細胞タイプになれる状態(全能性)から、発生とともに前駆細胞を経て、様々なタイプの組織特有の細胞に分化していく。完全に分化した細胞は多くの場合、細胞分裂をほとんど行わない。ところが、植物のカルス形成(培地上等で培養されている分化していない状態の植物細胞の塊)や組織培養の際、あるいは細胞を分離し培養した際に、細胞が分化状態を失い無分化や組織幹細胞の状態に戻ることがある。これまで組織の再生過程では、傷口の細胞の脱分化が起こる可能性が考えられてきた。

論文情報

掲載誌 :
Development
論文タイトル :
Heterogeneous fates and dynamic rearrangement of regenerative epidermis-derived cells during zebrafish fin regeneration
著者 :
Eri Shibata, Kazunori Ando, Emiko Murase, and Atsushi Kawakami
DOI :
<$mt:Include module="#G-11_生命理工学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系

准教授 川上厚志

E-mail : atkawaka@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5717 / Fax : 045-924-5717

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


Viewing all articles
Browse latest Browse all 2008

Trending Articles