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高い電子移動度を持つ有機半導体高分子を開発

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全有機高分子型のデジタル回路や太陽電池などへの応用に期待

要点

  • 窒素原子の配置を工夫してエネルギー準位や分子の平面性を最適化
  • アミノアルキル単分子膜で電子のみ輸送可能に
  • この有機半導体高分子[用語1]で高性能な有機トランジスタの開発に成功

概要

東京工業大学 物質理工学院の王洋研究員と道信剛志准教授らの研究グループは、有機半導体高分子の効率的な合成法を確立し、数平均分子量[用語2]105 g mol-1以上の有用な高分子量体を得ることに成功した。電子吸引性のsp2混成軌道[用語3]を持つ窒素原子を、この高分子の主鎖の適切な位置に配置することで、電子を輸送しやすいエネルギー準位を作り出し、高分子薄膜の結晶性を向上させた。

さらに、有機トランジスタを作製したところ、シリコン基板上にアミノアルキル単分子膜を成膜すると、有機半導体中の正孔(プラスの電荷)の輸送を抑制し、電子(マイナスの電荷)のみを選択的に流すことができた。結果、電子移動度が5.35 cm2 V-1 s-1で閾値電圧1 V、オン―オフ電流比107を示す高性能な有機トランジスタを実現した。

この成果は2月12日発行のドイツ科学雑誌「Advanced Materials(アドバンスド・マテリアルズ)」オンライン版に掲載された。

研究成果

有機半導体高分子は通常、パラジウム触媒を用いたクロスカップリング重合[用語4]により合成される。この研究では、従来から用いられている重合条件に、ヨウ化銅を少量添加することで触媒反応の効率が向上することを見出した。また、溶媒をトルエンからクロロベンゼンに変えると高分子の溶解性が増大し、再現性よく105 g mol-1を超える高分子量体を得ることができた。ヨウ化銅がないと数平均分子量は104 g mol-1桁に留まっていた。

ベンゾチアジアゾールは、有機半導体高分子の主鎖によく用いられるアクセプター性骨格である。この骨格にsp2混成軌道を持つ窒素原子を置換するとアクセプター性が向上し、-3.8~-3.9 eVの深い最低空軌道(LUMO)準位[用語5]を作り出すことに成功した。このLUMO準位は効率的な電子の注入と輸送を実現するのに適している。また、窒素原子の置換によって主鎖骨格の平面性が上がったため、分子間でのπ-π相互作用も強まり、高分子薄膜の結晶性が向上した。

有機トランジスタのシリコン基板上にアミノアルキル単分子膜を成膜すると、半導体中にマイナスの電荷層が生成できるため、正孔がトラップされ、電子のみが流れることが知られている。アミノアルキル単分子膜の従来の成膜法にはディップコート法が用いられていたが、本研究では、より簡便なスピンコート法[用語6]で成膜する手法を開発した。

これら成果の相乗効果によって、ベンゾチアジアゾール型の有機半導体高分子としては非常に大きい電子移動度である5.35 cm2 V-1 s-1を達成した。

電子輸送型有機半導体高分子の設計、合成法および薄膜トランジスタの特性

図. 電子輸送型有機半導体高分子の設計、合成法および薄膜トランジスタの特性

背景

太陽電池などで利用されているアモルファスシリコンを超える高い移動度を実現することが、有機半導体高分子を実用化する際の目安になると考えられている。正孔輸送型半導体高分子では既に10 cm2 V-1 s-1を超える非常に高い移動度が達成されているが、電子輸送型半導体高分子での成功例は限られていた。そのため、高分子の合理的な設計指針とデバイス作製手法の確立が求められていた。

今後の展開

今回の成果は、電子輸送型高分子半導体の明確な設計指針を与えており、効率的な高分子合成法を適用すれば、既存の高分子半導体の性能をさらに向上できる可能性を提示している。また、正孔輸送型半導体高分子と組み合わせることで、全有機高分子型のデジタル回路や熱電変換素子、太陽電池などに応用することが期待される。

用語説明

[用語1] 有機半導体高分子 : 溶液からトランジスタや太陽電池など薄膜デバイスを作製できる有機材料であり、有機エレクトロニクスの鍵になる材料として期待されている。正孔(プラスの電荷)と電子(マイナスの電荷)と呼ばれるキャリアを流すことができ、それにより電流が生じる。半導体高分子の分子量が大きくなるほど結晶性が上がるため、一般的にキャリアの移動度が向上する。

[用語2] 数平均分子量 : 一般的な高分子は分子量が異なる分子の混合物であるため、高分子全体の重さを高分子の数で割ることによって、高分子鎖一本あたりの平均分子量を算出する。

[用語3] sp2混成軌道 : ある原子上の一つのs軌道と二つのp軌道を重ね合わせることで生成する軌道であり、平面性が高い分子構造を設計する際に用いられる。

[用語4] クロスカップリング重合 : 新しい化学結合の反応であるクロスカップリングを用いて高分子の合成を行うことを指す。通常、パラジウムが触媒として用いられることが多い。

[用語5] 最低空軌道準位 : 半導体分子の軌道のうち、正孔の輸送に関連するのは最高被占軌道(HOMO)、電子の輸送に関連するのは最低空軌道(LUMO)である。優れた電子輸送特性を実現するためには、真空準位からより離れたLUMO準位が望まれる。

[用語6] スピンコート法 : 平滑基板上に置いた半導体の溶液を高速で回転させることにより薄膜を作製する方法である。様々な薄膜作製法の中でも低コストで均質かつ大面積な薄膜を作製できる技術であり、特に半導体高分子のデバイス作製では頻繁に用いられる。

論文情報

掲載誌 :
Advanced Materials
論文タイトル :
High-Performance n-Channel Organic Transistors Using High-Molecular-Weight Electron-Deficient Copolymers and Amine-Tailed Self-Assembled Monolayers
著者 :
Yang Wang, Tsukasa Hasegawa, Hidetoshi Matsumoto, Takehiko Mori, and Tsuyoshi Michinobu
DOI :
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お問い合わせ先

東京工業大学 物質理工学院 材料系

准教授 道信剛志

E-mail : michinobu.t.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3774 / Fax : 03-5734-3774

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


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