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世界最高速!毎秒120ギガビットの無線伝送に成功

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5Gの普及を加速

要点

  • 広帯域ミリ波無線送受信機を開発
  • 安価で量産可能なシリコンCMOS集積回路により実現
  • 多値変調を用いた無線伝送実験で毎秒120ギガビットの通信速度を達成

東京工業大学は、株式会社富士通研究所と共同で、70から105ギガヘルツ(GHz)と広い周波数範囲で、高速に信号処理できるCMOS(シーモス;Complementary MOS)無線送受信チップを開発した。独自の広帯域化技術により無線装置の大容量化を実現し、世界最高速となる毎秒120ギガビットの無線伝送に成功した。これにより、光ファイバー通信網の敷設が困難な用途で、屋外設置可能な大容量無線通信が可能になる。

スマートフォンやタブレット端末で利用できる高精細動画サービスなどにより、無線インフラに求められる通信容量が爆発的に増大している。従来、基地局間は光ファイバーにより接続されていたが、建物が密集している都市部や河川、山間に挟まれた地域間など光ファイバー通信網の敷設が困難な地域へのサービス展開が難しいという課題があった。また、数万人の観客が一時的に集まる大規模な競技場やイベント会場、災害復旧時の迅速かつ柔軟な無線ネットワーク敷設のために、基地局間を光ファイバーではなく、無線により接続する要望が高まっている。そのため、大容量の通信が可能なミリ波帯(30から300 GHz)を利用した高速無線送受信技術を開発した。

研究成果の詳細は、2月11日から米国サンフランシスコで開催された「国際固体素子回路会議ISSCC 2018(IEEE International Solid-State Circuits Conference 2018)」で発表された。

開発の背景

2020年の東京オリンピック・パラリンピックにむけ、第5世代移動通信システム(5G)の実用化を目指した研究開発が活発化している。この背景には、スマートフォンやタブレット端末の普及に伴い、高精細動画サービスなどによるデータ通信量が急激に増大していることや、IoTや自動運転などの新技術により、無線通信に対しても多様な性能が求められるようになっていることがあげられる。 それらを支える無線インフラとして、無線基地局とコアネットワーク、もしくは基地局間を結ぶ基幹ネットワークについても、爆発的な容量拡大に対応するための技術が求められている。また、従来は数キロメートルの広範囲をカバーするマクロセル方式が中心だったが、5Gでは、数百メートル以内の小さいエリアをカバーする基地局を多数設置するスモールセル方式を組み合わせることによって通信量の増大に対応している。

現在、基地局間の通信回線は大容量データを伝送できる光ファイバーが主流だが、建物が密集している都心部や、山間や河川などで隔たれた地域間では新規に光ファイバーを敷設することが困難である。また、一時的に数万人が集まるような大規模イベントにおいても臨時基地局の設置が求められており、屋外に簡便に設置できる大容量無線装置の実現が期待されている。

課題

大容量データを無線伝送するためには、広い周波数範囲を利用することが必要である。そのためには、競合する無線アプリケーションが少なく、広帯域なミリ波帯(30から300 GHz)の利用が適している。しかし、ミリ波帯は周波数が非常に高く、CMOS集積回路の動作限界に近いところで設計する必要があるため、設計の難易度が高く、広帯域な信号を高品質にミリ波帯の周波数へ変復調[用語1]する送受信回路や、回路基板とアンテナを接続するインターフェース回路を低損失に実現することが困難だった。

同研究グループは2016年に毎秒56ギガビットの無線伝送を達成したが、搬送波に含まれる高調波信号により、それ以上帯域が広げられないことが課題となっていた。

研究成果

同研究グループはデータ信号を二つに分け、それぞれを異なる周波数帯に変換してから混合することによって送受信回路を広帯域化する技術を用い、CMOS無線送受信チップ(図1)を開発した。低帯域信号は70.0から87.5 GHz、高帯域信号は87.5から105.0 GHzのそれぞれ17.5 GHz幅ごとに変復調を行う。この技術により、35 GHz幅の超広帯域信号においても高品質な信号伝送を実現することに成功した。 開発したCMOS無線送受信チップには、この際に必要な70 GHzと105 GHzの搬送波発生回路が内蔵されている。従来は搬送波発生回路に含まれる高調波成分により信号品質が劣化していたが、新たに開発した高調波抑圧技術によりこの問題を解決した。逓倍数[用語2]を下げた構成とし、多段の増幅回路と内蔵の高調波抑圧フィルタを組み合わせることで、16 QAM[用語3]の多値変調に必要な信号品質を達成している。

なお、東工大は送受信回路の広帯域化技術を開発し、富士通研はモジュール化技術を実施した。

120 Gbpsの無線通信を実現したCMOS無線送受信チップ

図1. 120 Gbpsの無線通信を実現したCMOS無線送受信チップ

ミリ波無線送受信機の性能競争

図2. ミリ波無線送受信機の性能競争

室内で、20センチメートルの距離を隔てて2台のモジュールを対向させ、データ伝送試験を実施した。その結果、世界最高速となる毎秒120ギガビットのデータ伝送に成功した。このデータ伝送速度は従来、報告されている伝送速度の2倍以上である(図2:集積回路として実現されたミリ波送受信機について記載)。

この際の消費電力は送信時120 mW、受信時160 mWで、従来の約半分だった。35 GHzの基準信号からの搬送波発生において、70 GHz搬送波に対して29 dBc[用語4]の三倍高調波抑圧、105 GHz搬送波に対して38 dBcの二倍高調波抑圧を達成し、16 QAMの多値変調による無線通信を35 GHzの周波数帯域幅で実現することができた。また、今回の開発品は従来に比べ、送信機の出力電力を4.5倍に向上しており、高利得のアンテナを使うことで、600メートル程度の無線通信が可能となる。

今回の成果により、屋外設置可能な無線装置の大容量化が可能になる。これにより、新規に光ファイバーを敷設することが困難な都市部や河川を挟んだ山間部、オリンピックの臨時基地局などへも無線による大容量な基地局ネットワークを容易に展開でき、快適な通信環境を提供することが可能になる。

今後の展開

スマートフォンなどの基地局間通信向けの無線基幹回線をターゲットとして2020年頃の実用化を目指す。

商標について:記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

発表情報

国際会議 :
タイトル :
A 120Gb/s 16QAM CMOS Millimeter-Wave Wireless Transceiver
著者 :
Korkut K. Tokgoz, Shotaro Maki, Jian Pang, Noriaki Nagashima, Ibrahim Abdo, Seitaro Kawai, Takuya Fujimura, Yoichi Kawano, Toshihide Suzuki, Taisuke Iwai, Kenichi Okada, Akira Matsuzawa

用語説明

[用語1] 変復調 : 変調は送りやすくするために信号の周波数を変えること、復調は変調された信号をもとの周波数に戻すこと。

[用語2] 逓倍 : 入力信号に対して整数倍(逓倍比)の周波数の信号を発生させること。

[用語3] QAM : 位相が直交する二つの波を合成して変復調を行う方式。

[用語4] dBc(ディービーシー) : 搬送波に対する電力比を表す単位。

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お問い合わせ先

東京工業大学 工学院 電気電子系

准教授 岡田健一

E-mail : okada@ee.e.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3764 / Fax : 03-5734-3764

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


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