このたび、東工大関係者9名が、平成29年度科学技術分野の文部科学大臣表彰において「若手科学者賞」を受賞しました。
「若手科学者賞」は、萌芽的な研究、独創的視点に立った研究等、高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満の若手研究者を対象としています。
科学技術分野の文部科学大臣表彰には、「若手科学者賞」の他に、特に優れた成果をあげた者を対象とする「科学技術特別賞」、顕著な功績をあげた者を対象とした「科学技術賞」等があり、「科学技術賞」でも本学から3名の教員が受賞しました。
「若手科学者賞」を受賞した東工大関係者は以下のとおりです。
- 相川清隆 理学院 物理学系 准教授
- 今岡享稔 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所 准教授
- 北野政明 元素戦略研究センター 准教授
- 瀧ノ上正浩 情報理工学院 情報工学系 准教授
- 西迫貴志 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所 准教授
- 松田和浩 名城大学 理工学部 建築学科 准教授
- 矢野隆章 物質理工学院 応用化学系 助教
- 横山毅人 理学院 物理学系 助教
- 渡部弘達 工学院 機械系 助教
相川清隆 理学院 物理学系 准教授
受賞業績:内部構造の複雑な粒子のレーザー冷却に関する研究
レーザーによって原子の運動を極限的に抑える技術をレーザー冷却と呼びます。これまで、レーザー冷却はアルカリ原子のような単純な内部構造を持つ原子に対してしばしば適用され、原子気体の量子的な振る舞いを明らかにする研究が行われてきました。
本研究では、この流れの延長として、より複雑な内部構造を持つ原子・分子のレーザー冷却の技術を確立し、単純な原子には見られない特有の振る舞いを明らかにしました。本研究により、複雑な粒子ならではの新しい方向性の研究が可能となりました。今後は、このような流れをさらに発展させ、原子・分子よりもはるかに複雑な内部構造を持つナノ粒子の冷却に取り組んでいきたいと考えています。
今回、このような名誉ある賞を賜り、大変光栄に存じます。受賞は、ひとえに共同研究者の方々、および学内外の関係者の方々のご指導・ご支援・ご協力に基づくものであり、これらの方々にこの場を借りて心より感謝申し上げます。
今岡享稔 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所 准教授
受賞業績:デンドリマー内包金属粒子の原子精度合成とその機能の研究
金属を極限まで微小化した、ナノ粒子よりもさらに小さいクラスターと呼ばれる物質は、長らく触媒等の機能材料として注目されてきましたが、所望のサイズのものを自在かつ選択的に得る方法は超真空チャンバー中で行われるピコモルスケールの手法であり、応用展開の目処は全く立っていませんでした。我々は、これを化学的に合成することに初めて成功し、クラスター科学の新しい領域を切り拓きつつあります。今後、本研究をさらに発展させ、新しい物質、新概念を通して世の中の役に立つような研究に励んでいきたいと思います。
今回、このような栄誉ある賞をいただくにあたり、長年にわたりご指導賜った本学の山元公寿教授をはじめ、研究室の皆様、共同研究やプロジェクト等でお世話になった学内外の関係者の皆様に、心より感謝申し上げます。
北野政明 元素戦略研究センター 准教授
受賞業績:無機電子化物を利用した固体触媒に関する研究
今回受賞対象となった研究は、無機電子化物(エレクトライド)を触媒として利用すると、温和な条件下で様々な化学反応を速やかに進行させることを見いだしたというものです。その中でも特に、アンモニア合成において、無機電子化物触媒が既存の触媒よりも低温条件下で優れた性能を示すことを見いだしました。工業的アンモニア合成では、強固な三重結合を有する窒素分子の活性化は困難であるため、高温・高圧の反応条件が必須でしたが、本触媒を用いれば、飛躍的な省エネ化に繋がる可能性を秘めています。
本触媒では、無機電子化物内に含まれる電子やヒドリドイオン(H-イオン)の役割によって優れた触媒活性が発現しており、従来の触媒とは全く異なる反応メカニズムであることを明らかにし、温和な条件下でのアンモニア合成を実現する道を開拓することに成功しました。今後は、実用化も視野に入れたアンモニア合成触媒の開発を進めていきたいと考えています。
今回の受賞にあたり、細野秀雄教授、原亨和教授、ともに研究に携わっていただいた多くの学生、博士研究員、技術員の皆様、そしてこれまで支えてくれた家族に感謝いたします。本研究が、社会に貢献できるものにつながるよう今後も努力していきたいと思います。
瀧ノ上正浩 情報理工学院 情報工学系 准教授
受賞業績:人工細胞構築の生物物理に関するナノマイクロシステムの研究
生命システムは、各スケールの階層が強く相関した動的な自己組織化現象です。つまり、ナノスケールの分子の化学反応や自己組織化が、物質やエネルギーの流れのある非平衡開放系のマイクロスケールの空間(細胞や組織)によって制御され、またその空間自体も分子の化学反応や自己組織化によって構築・制御される、という複雑に入り組んだ構造を持っています。このような複雑な現象の原理を解明するとともに、それにインスパイアされた有用な人工システムを構築することは、科学技術の大きな目標となっています。このような観点から、私は「人工細胞」の実現と制御を目指して研究を行ってきました。特に、マイクロ液滴を用いた人工細胞リアクタでの非平衡化学反応の制御や、情報分子DNAによる分子コンピュータの構築などを行い、動的な人工細胞の構築のための生物物理学的な基礎を進めてきました。将来的には、「生命とは何か?」といった問いに迫る基礎科学や、細胞を模倣した分子ロボットの開発などの応用科学につながると期待しています。
このたびの栄誉ある賞の受賞は、ご指導下さった先生方、および研究室メンバーをはじめとする共同研究者のご支援のおかげです。関係者の皆様に深く感謝いたします。今回の受賞を励みに、さらに尖った研究分野を切り拓きたいと考えています。
西迫貴志 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所 准教授
受賞業績:マイクロ流路を用いた液滴および粒子生成に関する研究
私は、T字型や十字型のマイクロ流路を用いた、サイズの極めて均一な液滴(エマルション)の生成法を開発し、本手法を応用したヤヌス型、多重型等の複雑な内部構造を有する液滴の精密調製法や、そうした液滴を鋳型としたさまざまな固体微粒子の製造法を開発してまいりました。
こうした研究成果は新しい研究分野開拓の基礎となった一方、産業界においては次世代DNA分析、単一細胞解析、微粒子生産等、国内外の企業を介した成果の実用化が進んでいます。
今回、このような栄誉ある賞を受賞することができ、大変光栄に存じます。一連の研究成果は学生時代からこれまで指導、協力して下さった方々あってのことです。この場を借りて厚く御礼申し上げます。これからもより一層、研究活動を通じた新しい価値の創造と成果の社会実装に向けた取組を精力的に推進していきたいと考えております。今後ともご指導と鞭撻のほど、宜しくお願い申し上げます。
松田和浩 名城大学 理工学部 建築学科 准教授
元・東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所 助教
受賞業績:木質制振建物の動的挙動解明と合理的設計法整備に関する研究
新旧戸建住宅の耐震性を比較的容易に向上させる手段として、建物内にダンパーを設置する制振構造が注目されています。ただし、制振構造の挙動は複雑で、設計・開発には多くの注意を要するのに対し、市場では安易にダンパーを設置した効かない制振も多く売られています。
そこで、木質架構にダンパーを入れた場合の力学的挙動や動的特性を、極めて多くの実験や詳細な数値解析により把握しました。また、等価線形化理論を用いた手法と時刻歴応答解析による手法それぞれで、地震応答の制御に必要なダンパー量を求められる合理的な設計法を提案しました。
この研究成果は、その多くが小規模住宅制振設計指針として公開される予定です。また、将来的な実現・普及が強く望まれている木質高層建物にも応用可能であり、小~大規模の木質建物の耐震性向上に大きく寄与すると考えています。
本研究は東京工業大学の笠井和彦先生、坂田弘安先生のご指導の下で行ってきたものです。この場を借りて、改めて御礼申し上げます。今回の受賞を励みとし、新たな地で今後も研究・教育活動に邁進していきたいと思います。
矢野隆章 物質理工学院 応用化学系 助教
受賞業績:プラズモニクスの原理限界を超越したナノ分光法の開拓研究
金や銀などの貴金属からなるナノスケールの構造体に光を照射すると、その近傍に光が強く局在することが知られています。貴金属ナノ構造体と光の相互作用を扱う科学はナノプラズモニクスと呼ばれ、近年注目を集めています。私はこれまでにナノプラズモニクスの技術を駆使し、超解像分光顕微鏡の開発を行ってきました。最近では、貴金属ナノ構造に代わる新奇な光素子として誘電体ナノ構造を活用し、ナノプラズモニクスの原理限界に挑戦しています。
このたび、これまでの研究活動に対してこのような名誉ある賞を受賞することができ、大変光栄に思います。学内外の先生や共同研究者の方々はもちろん、学内の研究戦略室の研究企画委員の先生や事務の方々のご支援ご指導の賜物と厚くお礼申し上げます。特に、これまでご指導いただいた東京工業大学の原正彦先生、大阪大学の河田聡先生、井上康志先生に深く感謝いたします。
横山毅人 理学院 物理学系 助教
受賞業績:異種量子接合の研究
物性物理学の分野では「物」の示す性質(物性)に興味があります。これまでに非常に多くの研究の蓄積があり、様々な物の示す性質が明らかになってきました。
私は2つの異なる物をくっつける(接合する)ことでそれぞれの物自体は示さないような新奇な物理現象を予言してきました。特に、スピンが規則的に並ぶ磁性体や電気抵抗がゼロになる超伝導体、昨年のノーベル物理学賞でも話題になったトポロジカル物質等からなる接合において先駆的な理論を展開してきました。
受賞にあたり、指導教員や共同研究者の方々に感謝申し上げます。
渡部弘達 工学院 機械系 助教
受賞業績:炭素系エネルギー高度変換のための化学反応と輸送現象の研究
石炭やバイオマスなどの炭素系エネルギー変換におけるCO2削減が求められています。受賞対象となった私の研究は、『低炭素社会に向けた炭素系エネルギー変換のフロンティア開拓』をコンセプトにした熱化学反応系(CO2回収型燃焼)と、効率の高い電気化学反応系(燃料電池)の研究になります。これまでに、CO2回収型燃焼の特異性を活用したクリーン燃焼の実現や、固体であるチャー(炭化物)から、直接、電気エネルギーを取り出すことのできるダイレクトカーボン燃料電池の開発を進めてまいりました。
このたびは、このような名誉ある賞を受賞することができ大変光栄に思います。これまでお世話になりました先生方や、共同研究者の皆様、そして共に研究を進めてくれた学生諸氏に心より感謝申し上げます。今回の受賞を励みとして、より一層、研究活動に邁進し、成果を社会に還元できるよう励んでいきたいと思います。