理学院の前田和彦准教授と生命理工学院の中戸川仁准教授が、第13回日本学術振興会賞を受賞しました。
日本学術振興会賞とは
同賞は、独立行政法人日本学術振興会が、優れた研究を進めている若手研究者を見い出し、早い段階から顕彰してその研究意欲を高め、独創的、先駆的な研究を支援することにより、我が国の学術研究の水準を世界のトップレベルにおいて発展させることを目的に2004年に創設されたものです。
受賞対象者は、人文・社会科学及び自然科学の全分野において、45歳未満で博士又は博士と同等以上の学術研究能力を有する者のうち、論文等の研究業績により学術上特に優れた成果をあげている研究者となっています。 受賞者には賞状、賞牌及び副賞として研究奨励金110万円が贈呈されます。
記念受賞式は2017年2月8日に日本学士院にて開催される予定です。
前田和彦准教授
受賞研究業績
「半導体光触媒を中核とした人工光合成系の開発」
前田准教授は、水を可視光分解して水素を生成する半導体光触媒や、二酸化炭素を可視光エネルギーだけで燃料物質に変換する新しい光触媒を、独自の発想と方法で開発することに成功しました。太陽光の主成分である可視光を吸収して水を分解する半導体光触媒の開発は、水素エネルギー製造の観点から重要な課題です。従来、バンドギャップの広い紫外光応答型の光触媒は数多く開発されてきましたが、よりバンドギャップの狭い可視光を吸収して水を分解できる光触媒は皆無でした。前田准教授は、各々単独では可視光を吸収しない窒化ガリウムと酸化亜鉛を組み合わせて固溶体とすることによってバンドギャップが縮まることを予測し、可視光を吸収して水を分解できる光触媒の開発に成功しました。さらに、複数の金属成分を助触媒に組み込むという新たな着想により、可視光による水分解の量子効率を飛躍的に向上させただけでなく、有機半導体も安定な可視光応答型触媒となり得ることを予見し、窒化炭素を金属錯体助触媒と結合させた新しい光触媒の開発にも成功しました。従来技術では、安定な二酸化炭素分子を活性化するためには高温高圧が必要でしたが、前田准教授が開発したこの触媒は、可視光エネルギーを利用して、常温常圧下で二酸化炭素をエネルギーキャリアとして有用なギ酸へと高効率高選択に変換することを可能にしました。
受賞コメント
栄えある日本学術振興会賞を受賞することができ、大変光栄に思います。受賞対象となった半導体光触媒を用いた人工光合成に関する研究は、私のライフワークともいうべきもので、10年以上継続して取り組んできた一連の成果が認められたことに大きな喜びを感じています。受賞にあたり、学生時代にお世話になった指導教員の先生方、共同研究者の方々、共に実験に取り組んだ学生諸子、そして日々支えてくれた家族・友人らに感謝いたします。今回の受賞を励みとして、今後も研究・教育活動に励んで参ります。
中戸川仁准教授
受賞研究業績
オートファジーの分子基盤の生化学的解明
生体内で不要となった成分を細胞の自食作用によって分解する「オートファジー」現象は、1950年代に発見されました。2016年ノーベル医学・生理学賞を受賞した大隅良典栄誉教授の出芽酵母の遺伝学的研究により、この現象に関わる多数の Atg 遺伝子群が同定され、分子的理解が加速的に進みました。また、近年、マウスなどのモデル生物を用いた研究により哺乳動物における生理的重要性なども示されましたが、その生化学的実態ついては長い間不明のままでした。中戸川准教授は、オートファジー反応において不要物を包む「オートファゴソーム」と呼ばれる脂質膜の形成機構を生化学的手法により解明することに成功しました。すなわち、この反応に関わるユビキチン様タンパク質Atg8が、Atg12-Atg5結合体の酵素活性により脂質分子ホスファチジルエタノールアミン(PE)と結合するメカニズムを解明し、試験管内再構成系を用いてAtg8-PE結合体が、実際に、人工膜小胞を繋ぎ合わせ半融合させる機能を有することを証明しました。さらに、特定の標的を認識して分解する選択的オートファジーという新しい現象の分子機構を解明し、Atg39、Atg40が核および小胞体の分解に関わることも明らかにするなど、この分野において大きな業績を上げました。
受賞コメント
このたび、日本学術振興会賞という栄誉ある賞をいただくことになり、大変光栄に存じます。これまでお世話になりました先生方、同僚、また一緒に研究を進めてきてくれた学生たちに深く感謝致します。本賞では、オートファジーが起こる仕組みに関するこれまでの研究成果を評価していただきました。オートファジーといえば、本学の大隅良典栄誉教授が2016年にノーベル賞を受賞されたことで、一躍多くの方の知るところとなった生命現象ですが、そのメカニズムも、生理的役割や疾患との関連についても、まだわかっていないことの方が多く残されています。今後も引き続き、オートファジーの謎の解明に全力を尽くしていきます。
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