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シリコン基板の上に半導体レーザ―150℃の低温で異なる基板を接合、大規模光集積回路に道―

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概要

東京工業大学工学院電気電子系の西山伸彦准教授らは、従来の手法より低い温度で、異なる材料を糊剤なしで接合するプラズマ活性化接合[用語1]を利用して、シリコン基板上に半導体レーザを実現することに成功した。これによりCMOS電子回路[用語2]プロセスを利用した大規模シリコン光集積回路の作製に威力を発揮する。シリコンはその物理的性質上、効率よく発光することができず、光源を一括集積する手法の開発が課題となっていた。

研究成果

半導体レーザ構造を結晶成長技術によりInP基板[用語3]上に形成した基板と、SOI(Silicon on Insulator)基板[用語4]を用意し、2つの基板に真空チャンバ中で窒素プラズマを照射した。その後150℃で2つの基板を貼り付けることにより、ハイブリッド基板を作製した。この150℃という接合温度は、従来の水分子を利用して接合する親水化接合に比べて半分以下の温度であり、これにより熱膨張係数差(熱により物体が膨張する度合いの差)による接合基板へのストレス低減が期待できる。またこの接合温度でも、その後の作製に十分な接合強度を有することができる。

このようにして作製したハイブリッド基板を加工して、半導体レーザを作製した。初期的な実験としてSOI基板に光回路を形成しないものを利用したレーザでは、室温において発振動作を実現し、しきい値電流[用語5]64mA、しきい値電流密度850A/cm2を実現することに成功した。次にSOI基板に光回路を形成したものにおいても、同様に発振動作を達成した。シリコンリング共振器[用語6]をハイブリッド領域の前後に配置することによって、リング共振器の共振波長に一致した波長でのレーザ発振を得た。

研究の背景

IoT(Internet of Things)、ビックデータや人工知能などの高度なデータ処理技術は、データセンターやスーパーコンピュターの発展に立脚している。これらの発展のためには、個々の部品の高速化とともに並列化技術が重要である。これまで部品やボード、ラックをつなぐ配線には電気配線が利用されてきたが、伝送帯域拡大を目指して光配線への置き換えが進み、将来的には、チップの直近まで光が浸透することが予想されている。この実現のためには、電子回路チップに利用されている材料であるシリコンとの親和性を担保しながら、大規模性を有する光集積回路を作製するシリコンフォトニクス[用語7]呼ばれる技術が注目されている。

しかしながら、シリコンは間接遷移半導体[用語8]であり、電流を注入しても効率よく発光することができず、光源を実現することが困難である。これに対し、従来の半導体レーザで利用されているIII-V族半導体[用語9]、特にInP材料を異種材料接合技術を利用してシリコン基板に形成する技術が注目されており、いかに大規模でそれぞれの材料の物性を変化させることなく形成するかをポイントに研究が進められてきた。

今後の展開

今後は、さらなる低温(室温)にて接合できる技術を利用してハイブリッド半導体レーザを実現すべく、研究を進めている。将来的には電子回路チップの直近に本技術を用いた大規模光集積回路を集積することが可能になるであろう。

ハイブリッド基板の光学顕微鏡写真と断面電子顕微鏡写真

図1. ハイブリッド基板の光学顕微鏡写真と断面電子顕微鏡写真

作製したリング共振器装荷型ハイブリッド半導体レーザ

図2. 作製したリング共振器装荷型ハイブリッド半導体レーザ

用語説明

[用語1] プラズマ活性化接合 : 真空の空間に置いた2つの基板にプラズマを照射し、表面の不純物を取り除き、表面を活性化した状態(物質をくっつきやすい状態)にして接合する手法

[用語2] CMOS電子回路 : CMOS(Complementary Metal-oxide-semiconductor: 相補型金属半導体酸化膜)トランジスタを利用したゲート構造の組み合わせで構成される電子回路。一般的なデジタル回路の基本構成。

[用語3] InP基板 : インジウムと燐の化合物で構成される単結晶でできた半導体基板のこと。この上に積層される材料により光ファイバ通信で主に利用される赤外線を発光する半導体レーザが作製できる。

[用語4] SOI基板 : シリコン単結晶基板の上に絶縁物である石英があり、さらにその上にシリコン層がある構造の基板。もともと電子回路で電子を絶縁物で閉じ込めるために作られた基板であるが、近年光回路用の基板としても多く利用されるようになった。

[用語5] しきい値電流 : レーザ発振動作を開始する電流値のこと。この電流以下では発光ダイオード(LED)として動作している。

[用語6] リング共振器 : リング形状の光が伝搬する導波路をつくり、その周回長さに応じた光の波長を通したり止めたりできる部品のこと。

[用語7] シリコンフォトニクス : CMOS電子回路で利用されているシリコン材料を利用して光部品を実現する技術。CMOS作製技術を利用し、高精度、大規模に部品を形成することができる。また、光学特性においてはシリコンをSiO2で包み込んだ構造にすることでおおきな屈折率差をとることができるため、光が強くシリコンに閉じ込められ、従来に比べて小型の部品サイズを実現することができる。

[用語8] 間接遷移半導体 : 半導体中の電子や正孔(+の電荷をもつ粒子のようなもの)は、結合してそのエネルギーの差が光となるが、構成する原子の性質上、結合しにくく、高効率に発光できない半導体のこと。一方で直接遷移半導体と呼ばれる種類の半導体は、結合しやすいため、高効率に発光できる。直接遷移半導体は、III-V族半導体に多い。

[用語9] III-V族半導体 : 原子周期表におけるIII族原子とV族原子の組み合わせで結晶ができる半導体のこと。主に利用されている材料はGaAs(ガリウム砒素)やInPである。これらの材料は直接遷移半導体であるため、光分野でレーザなどの光源材料として利用される。

論文情報

掲載誌 :
Japanese Journal of Applied Physics, 52, 060202 (2013).
論文タイトル :
Low Threshold Current Density Operation of a GaInAsP/Si Hybrid Laser Prepared by Low-Temperature N2 Plasma Activated Bonding
著者 :
Yusuke Hayashi, Ryo Osabe, Keita Fukuda, Yuki Atsumi, JoonHyun Kang, Nobuhiko Nishiyama and Shigehisa Arai
DOI :

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問い合わせ先

工学院電気電子系
准教授 西山伸彦
Email : nishiyama@ee.e.titech.ac.jp
Tel / Fax : 03-5734-3593


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