Quantcast
Channel: 更新情報 --- 研究 | 東工大ニュース | 東京工業大学
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2008

連想辞書情報から脳の反応を予測する―グラフ指標MiFをfMRIデータ解析に導入―

$
0
0

概要

東京工業大学大学院社会理工学研究科の赤間啓之准教授は、マルコフ逆F尺度(MiF[用語1])という新しいグラフ指標を提案し、それを小さな単語連想辞書[用語2]に適用すると、言葉の意味を考える脳について、そのfMRI(機能的磁気共鳴画像法)反応予測モデルの精度が有意に向上することを解明した。

研究の背景

カーネギーメロン大学チームのScience論文(2008)以来、電子化された言語資料の集成(コーパス)をもとに、人間の脳がそれぞれの言葉の意味をどう処理して反応するか、個別の単語についてfMRIデータに現れるパターンを分類し推定する人工知能の手法が開発されてきた。fMRIデータの機械学習はMVPA(多変量パターン解析[用語3])と呼ばれるが、言語コーパスからの情報を変数としてモデル化すると、人間の脳がいまどんな言葉を考えているか、たとえfMRIデータがその言葉の反応情報を含んでいなくとも、言語コーパスの方から予測できる(いわゆる「心を読む」ことができる)。これまでは、GoogleやWikipediaのような大規模知識資源を利用する場合が多かったが、簡単に計算できる極めて小さいコーパスからも精度の高い予測モデルを計算することは行われていなかった。

研究成果

この研究では、脳の意味処理をめぐって共同研究先のカーネギーメロン大学のfMRIデータに対し、非常に小さい単語連想辞書EATの意味ネットワークから計算したマルコフ逆F尺度(MiF)値行列を適用すると、脳の反応が、小さなコーパスサイズでも従来の方法より高い78%の精度で推定できることがわかった。さらに、単語連想辞書の意味ネットワーク、すなわち単語と単語の間の概念の関連関係を表すネットワーク(グラフ)を、単語の意味処理を行う脳神経内の同時賦活ネットワーク(グラフ)に投影させる手法を提案し、異なるネットワーク(グラフ)間の関連性を解析する糸口を見出した。

今後の展開

MVPAは人間の脳の心理的・生理的状態を「読む」技術として、意思表明が困難な障碍を持つ人々への支援を目標に、基礎研究が盛んに行われているが、本研究成果を発展させた場合、特に、個性的な連想・思考情報のプロファイルをもとに、人間の脳内の個人的な意味表現をさらに高い精度で検出して「読む」ことができるようになると期待される。

連想辞書の意味ネットワークとそこから推定される脳の意味処理反応

図. 連想辞書の意味ネットワークとそこから推定される脳の意味処理反応

用語説明

[用語1] マルコフ逆F尺度(MiF) : グラフの測地線情報と共起情報を同時に導入して計算された点間の距離。Jaccardなど従来の距離指標を、重み付きの調和平均(F尺度)で調整しながら、さらに最短ステップ数による重み付けの形で、グラフ構造まで反映させる独自の点間計測尺度。

[用語2] 単語連想辞書 : 心理学実験で参加者に単語を刺激語(お題)として与え、そこから思い付いた単語を反応語として集め(たとえば「バラ」→「赤」など)、連想概念情報全体をデータベース化したもの。単語と単語の関連を繋ぎ合わせると分かりやすい意味ネットワーク(グラフ)になる。意味ネットワーク内で近傍にある単語は、その意味構造の共通性から、それらの単語を考える脳のfMRIデータにあっても、類似する賦活パターンや結合ネットワークを示すと考えられる。

[用語3] 多変量パターン解析 : 脳神経の反応データの一部から、条件ごとに分類するモデルを計算(学習、訓練)し、それを残りのデータに適用して、交差評価によりモデルの精度を計算する機械学習の方法。fMRIの場合は、脳画像の画素(ヴォクセル)の持つ値の集合に対して使われるので多ヴォクセルパターン分析とも呼ばれる。

論文情報

掲載誌 :
PLoS ONE
論文タイトル :
Using Graph Components Derived from an Associative Concept Dictionary to Predict fMRI Neural Activation Patterns that Represent the Meaning of Nouns
著者 :
Hiroyuki Akama1*, Maki Miyake2, Jaeyoung Jung1, Brian Murphy3#
所属 :
1Graduate School of Decision Science and Technology, Tokyo Institute of Technology, Tokyo, Japan
2Graduate School of Language and Culture, Osaka University, Osaka, Japan
3Machine Learning Department, Carnegie Mellon University, Pittsburgh, United States of America
#Current Address: School of Electronics, Electrical Engineering and Computer Science, Queen's University, Belfast, United Kingdom
DOI :

問い合わせ先

大学院社会理工学研究科 人間行動システム専攻
准教授 赤間啓之

Email : akama.h.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3254 / Fax : 03-5734-3254


Viewing all articles
Browse latest Browse all 2008

Trending Articles