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液体金属ナノ粒子のサイズを繰り返し変えられるプロセスを開発―光を操る新材料の開発に期待―

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要点

  • 液体金属であるガリウムナノ粒子のサイズを繰り返し変えられるプロセスを開発した。
  • 液体ガリウムナノ粒子のサイズ変化に応じて表面プラズモン共鳴吸収を制御できた。
  • 用途に応じて自由に物性を制御できるプラズモニック材料の開発が期待される。

概要

JST戦略的創造研究推進事業において、東京工業大学の山口章久特任助教と彌田智一教授らは、液体金属[用語1]であるガリウム[用語2]ナノ粒子のサイズを可逆的に変化させるプロセスを開発し、金属ナノ構造体が光と相互作用して、その光を吸収する「表面プラズモン共鳴吸収[用語3]」を制御することに成功しました。

表面プラズモン共鳴吸収を制御すると、ナノ回路に光を伝えたり、波長よりもはるかに小さな空間に光を閉じ込めることができます。金、銀などの金属ナノ構造体は、表面プラズモン共鳴を利用して光を操るプラズモニック材料[用語4]や、電場増強効果[用語5]による一分子レベルの計測装置への展開が期待され、用途の開発が進められています。特性を決める金属ナノ構造体のサイズ、形状、配列など形態をより自由に変化させることは、重要な課題の1つです。熱や圧力など外部刺激や化学的処理を与えて、作製した金属ナノ粒子のサイズや形状を変化させる方法はありましたが、元に戻すことは困難でした。

研究グループは、形状を制御しやすく、紫外光領域のプラズモニック材料として注目されるガリウムに着目しました。超音波照射により液体金属がどのような挙動を示すのか、その詳細は分かっていませんでしたが、超音波照射による液体ガリウムのナノ粒子化と油と水の乳化[用語6]との類似性を明らかにしました。また、水と油の乳化と同様に分裂と融合のバランスを制御することにより、液体ガリウムナノ粒子のサイズを変化させることに成功しました。変化させたサイズを元に戻すことも可能で、サイズの変化に伴い、液体ガリウムナノ粒子の紫外光領域における表面プラズモン共鳴吸収波長が変化することも確認できました。

本研究成果により、用途に応じて自由に物性を制御できるプラズモニック材料の開発が期待されます。本研究成果は、ドイツ化学誌「Angewandte Chemie International Edition」のオンライン版で近日中に掲載されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO)

  • 研究プロジェクト:
    「彌田超集積材料プロジェクト」
  • 研究総括:
    彌田 智一(東京工業大学 資源化学研究所 教授)
  • 研究期間:
    平成22年10月~平成28年3月

上記研究課題では、異種材料をナノ・マイクロスケールで「上手に混ぜる」ことにより、構成材料の単なる足し合わせでは得られない、要素間の相互作用が顕在化した「超集積材料」の創成を目指しています。

研究の背景と経緯

金、銀などの金属ナノ構造体は、表面プラズモン共鳴を利用したプラズモニック材料や、電場増強効果による一分子レベルの計測装置への展開が期待されています。その特性を決定するのが、金属ナノ構造体のサイズ、形状、配列などの形態です。金や銀では、作製した金属ナノ粒子のサイズや形状を、熱や圧力などの外部刺激や化学処理で変化させる方法が知られています。

近年、金や銀より容易に形状を変えられる金属材料として注目されているのが、室温に近い融点を持つガリウムやガリウム合金などの液体金属です。超音波照射でガリウム液滴からナノ粒子を形成する技術も開発され、液体ガリウムナノ粒子は、金、銀に代わる紫外光に応答するプラズモニック材料として期待されています。生体分子の多くは紫外光領域に吸収を持つことから、紫外光に応答するプラズモニック材料の開発により、さらに高感度な一分子レベルでの計測が可能になるからです。

しかし、変化させたサイズや形状を元に戻す技術はこれまで確立されておらず、さらに応用先を拡大するために、液体金属の形状をナノ単位でより自由に調節する技術が望まれていました。

研究の内容

研究グループは、形状を制御しやすいという、液体金属の液体としての特徴に着目しました。ガリウム液滴に超音波を照射すると、超音波の振動で破砕され、分裂と融合を繰り返しながら徐々に小さくなり、最終的にナノ粒子化します(図1)。形成された液体ガリウムナノ粒子は、有機溶媒中に保護剤として溶解したドデカンチオール[用語7]とガリウム表面に形成する自然酸化膜(厚さ約2ナノメートル)により安定化されます。強度、温度、時間依存性など超音波照射条件が粒子サイズに及ぼす影響を調べた結果、1)2時間程度の長時間照射により、超音波強度に関わらず同じ粒子サイズになること、2)高温ではバランスが融合に傾き、より大きなナノ粒子(20℃では35ナノメートル、50℃では60ナノメートル)を形成することが分かりました。これらの結果は、超音波照射で水と油を乳化させる状況と類似しています。水と油のエマルション[用語6]滴の分裂と融合のバランスでエマルション滴のサイズが決まるように、液体ガリウムナノ粒子の分裂と融合のバランスが、粒子のサイズを決める要因と考えられます。

超音波照射によるガリウムナノ粒子の形成

図1. 超音波照射によるガリウムナノ粒子の形成

(a)
ガリウム液滴への超音波照射による液体ガリウムナノ粒子の形成。
(b)
走査型電子顕微鏡で観察すると、平均35ナノメートルのナノ粒子が形成されていることが分かる。
(c)
透過型電子顕微鏡で観察すると、形成された液体ガリウムナノ粒子の表面に酸素および炭素が存在し、保護剤であるドデカンチオールと液体ガリウムナノ粒子表面の自然酸化膜によりナノ粒子が安定化されていることが分かる。

これらの知見をもとに、1)液体ガリウムナノ粒子を安定化するドデカンチオールの添加量、2)自然酸化膜を除去してナノ粒子の融合を促す塩酸の濃度、3)温度を調節することで、粒子の分裂と融合のバランスを制御した結果、粒子サイズをナノメートル単位で可逆的に制御することに成功しました(図2a、b)。さらに、この液体ガリウムナノ粒子のサイズ変化に伴い、紫外光領域における表面プラズモン共鳴吸収波長が変化することを確認しました(図2c)。

液体ガリウムナノ粒子の可逆的サイズ制御

図2. 液体ガリウムナノ粒子の可逆的サイズ制御

(a)
保護剤および塩酸の添加と温度調節による、超音波照射下における液体ガリウムナノ粒子の融合と分裂の可逆的制御のイメージ図。融合と分裂のバランスが、融合に傾くとより大きな粒子が形成され、分裂に傾くと小さな粒子が形成される。
(b)
液体ガリウムナノ粒子の可逆的なサイズ変化。添加する保護剤および塩酸の量と温度の条件を変えることで、粒子サイズが35ナノメートルと60ナノメートルに繰り返し変化した。
(c)
液体ガリウムナノ粒子のサイズ変化に伴う表面プラズモン共鳴吸収の変化。粒子サイズを変化させることによって吸収する波長を制御できるため、応用先が広がることが期待される。

今後の展開

今回開発した、液体ガリウムナノ粒子のサイズ制御技術により、金、銀など固体金属では困難だった、可逆的でより自由な形態制御が可能となり、用途に応じて光学特性を操るような新しいプラズモニック材料への展開が期待されます。

用語説明

[用語1] 液体金属 : 室温以下あるいは室温付近で液体状態を示す金属のこと。例えば、水銀(融点マイナス38.8℃)、ガリウム(融点29.8℃)がある。

[用語2] ガリウム : 原子番号31の元素。金属の中では、水銀、セシウムに次いで融点が低い。水銀と異なり毒性は低い。ガリウム合金の1つであるガリンスタンは、体温計など水銀の代替材料として使用される。また、ヒ化ガリウムや窒化ガリウム半導体は、発光ダイオードの材料である。

[用語3] 表面プラズモン共鳴吸収 : 金属ナノ粒子に光を当てると、金属内部の自由電子が集団的に揺さぶられるプラズモンと呼ばれる状態が誘起される。この状態は、金属微粒子の表面で見られるため、表面プラズモンと呼ばれる。この表面プラズモンの振動と光の振動が共鳴すると、その光は金属に吸収される。これを表面プラズモン共鳴吸収と呼ぶ。共鳴する波長は、金属の種類や金属ナノ粒子のサイズ、形状、配列に依存する。ステンドグラスは、ガラスにさまざまな金属のナノ粒子を混ぜ、金属ナノ粒子固有の表面プラズモン共鳴吸収により生じる色の違いで赤や緑など鮮やかな色を表現している。

[用語4] プラズモニック材料 : 表面プラズモンなどの金属ナノ構造体と光との相互作用を利用する材料のこと。表面プラズモンを制御して光の伝搬を制御したり、波長よりも小さな空間に光を閉じ込めたりすることが可能となる。また、自然界には存在しえない光学応答を示す人工物質は、メタマテリアルとも呼ばれ注目されている。高感度センサー、ナノレベルの光学素子などへの応用が期待されている。

[用語5] 電場増強効果 : 金属微粒子への光照射によって、金属表面でのみ自由電子が揺さぶられるため、金属微粒子表面では、入射した光電場に対して数十倍の大きさの光電場が誘起される。

[用語6] 乳化、エマルション : 分離している2つの液体をエマルションにすること。エマルションとは、液体に液体が分散している溶液のこと。油と水の場合、水滴が油中に分散した油中水滴型エマルションと油滴が水中に分散した水中油滴型エマルションなどがある。マヨネーズや生クリームもエマルションである。水分と油脂が安定して存在するため、ドレッシングのように時間が経つと分離してしまうことがない。

[用語7] ドデカンチオール : 水素化された硫黄を末端に持つ有機化合物チオールの1つ。無色透明の液体で、有機合成材料やエポキシ樹脂の硬化剤などに使用される。本研究のように、金属ナノ粒子の凝集を防ぎ安定させる保護剤としても利用されている。

論文情報

掲載誌 :
Angewandte Chemie International Edition
論文タイトル :
Reversible Size Control of Liquid Metal Nanoparticles Under Ultrasonication
(超音波照射下における液体金属ナノ粒子の可逆的サイズ制御)
著者 :
Dr. Akihisa Yamaguchi, Yu Mashima, Prof. Dr. Tomokazu Iyoda
DOI :

問い合わせ先

研究に関すること

ERATO彌田超集積材料プロジェクト 研究総括
東京工業大学 フロンティア研究機構

教授 彌田智一
Email : iyoda.t.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5277 / Fax : 045-924-5277

ERATO彌田超集積材料プロジェクト 研究員
東京工業大学 フロンティア研究機構

特任助教 山口章久
Email : yamaguchi.a.af@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5277 / Fax : 045-924-5277

JST事業に関すること

科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部 水田寿雄

Email : eratowww@jst.go.jp
Tel : 03-3512-3528 / Fax : 03-3222-2068

報道担当

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

科学技術振興機構 広報課

Email : jstkoho@jst.go.jp
Tel : 03-5214-8404 / Fax : 03-5214-8432


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