ポイント
- あらゆる生命現象はたんぱく質の相互作用で制御されており、その研究には鋭敏な検出技術が不可欠。
- ホタル発光酵素の2段階反応を利用して、たんぱく質同士の相互作用を高感度に検出する技術を開発し、複数のたんぱく質間相互作用の検出に成功。
- 簡便、迅速かつ高性能な臨床診断、薬物探索が可能に。
概要
JST先端計測分析技術・機器開発プログラムの一環として、東京工業大学 資源化学研究所の上田 宏 教授(前 東京大学 大学院工学系研究科 准教授)らの開発チームは、ホタル発光酵素の反応機構を利用して、たんぱく質同士の相互作用を迅速、簡便、高感度に検出できる新技術の開発に成功しました。
さまざまな生命現象は、多くのたんぱく質が互いに作用し合って制御されており、ヒトの細胞内には、15~30万種類ものたんぱく質間相互作用が存在するといわれています。生命現象の理解を深め、さらに創薬など他分野に応用するためには、たんぱく質間の相互作用の検出技術が不可欠です。従来は、1つの発光たんぱく質を分断し、個々のパーツと相互作用を調べたいたんぱく質を融合します。目的の相互作用が起こると、発光たんぱく質の個々のパーツが再構築されて発光し、その光を検出するなどしていました。しかし、目的の相互作用が起こったとしても、パーツ同士が自発的に上手く組み合わさって本来の構造と機能を再構築するとは限らないため、さまざまな試行錯誤が必要でした。
開発チームは今回、ホタル発光酵素の反応機構が2つの「半反応」から成り立っていることを利用して、迅速で高感度にたんぱく質同士の相互作用を検出する技術の開発に成功しました。半反応のみを行う2つの変異体酵素をそれぞれ作成して、お互いが十分近づくと、はじめの半反応で生まれた反応中間体がもう片方に受け渡されて2つめの半反応が起き、発光します。つまり、2つのたんぱく質を各変異体に個別に融合して発現させ、発光が見られれば、これらが相互作用することがわかります。この場合、発光に関与する酵素を再構築する必要がないため、迅速、高感度で安定した測定が可能です。
この成果は、細胞内外を問わず、高感度に1秒以内で各種のたんぱく質間相互作用を測定可能とするものです。将来的には、基礎研究の発展のみならず、臨床診断の高性能化や抗がん剤などの薬物探索の迅速化にも大きく貢献することが期待されます。
本成果は、大室 有紀 日本学術振興会 特別研究員、和田 猛 東京理科大学 薬学部 教授らとの共同開発によって得られ、2013年8月1日(米国時間)発行の米国科学雑誌「Analytical Chemistry」に掲載されます。
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