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5G基地局と衛星通信地球局の電波干渉を抑圧する「システム間連携与干渉キャンセラー」を試作し実験成功

東京工業大学 工学院 電気電子系の藤井輝也特任教授と、ソフトバンク株式会社(以下「ソフトバンク」)は、5G(第5世代移動通信システム)向けにソフトバンクに割り当てられている3.9 GHz帯(Cバンド)の電波が、従来利用されている衛星通信の地球局の下り回線と同一周波数帯であり、電波干渉を与えることから(図1)、その与干渉を大幅に抑圧する「システム間連携与干渉キャンセラー」の試作装置を開発し、室内の疑似環境での実験に成功しましたのでお知らせします。

このシステムの一部は、2021年に国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の「Beyond 5G 研究開発促進事業」の委託研究課題として採択された、「移動通信三次元空間セル構成※1」の研究によるものです。

なお、本研究については、10月10日から13日(現地時間)まで開催されるIEEE Vehicular Technology Conference 2023 Fall(VTC 2023 Fall)において、「Prototype Development of Same frequency Interference Canceller from 5G Base Stations to Satellite Ground Stations」のタイトルで発表が行われました。

今後、ソフトバンクは、この装置を活用するための無線局免許を申請し、屋外の実環境でその有効性を実証する予定です。ソフトバンクと東京工業大学は、共同でこのシステムの実証実験を行うとともに、実用化に向けた研究をさらに進めていきます。

※1

詳細は、革新的情報通信技術研究開発委託研究|NICT-情報通信研究機構をご覧ください。

背景

5G向けにソフトバンクに割り当てられている3.9 GHz帯の電波は、地上に設置されている衛星通信の地球局(以下「地球局」)の下り回線と同一周波数帯のため、3.9 GHz帯の基地局の設置場所によって電波干渉を与えてしまうことが課題になっています。この与干渉を回避するために、5G基地局の送信電力の低減と基地局アンテナの指向性制御や、地球局から一定の離隔距離を取ることなどの干渉低減技術(図2)を活用して、5G基地局からの干渉電力を規定値以下にする必要があります。そのため、状況によっては地球局から50 km以上の離隔距離が必要な場合があります。これにより、地球局が周辺にあるエリアでは、それらがない地域に比べて5Gの基地局の設置が困難になっています。そこで、ソフトバンクと東京工業大学は、5G基地局の下り回線が与える干渉を地球局で大幅に抑圧する「システム間連携与干渉キャンセラー」を開発しました。

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図1 5G基地局から衛星通信地球局の下り回線への干渉

図1. 5G基地局から衛星通信地球局の下り回線への干渉

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図2 5G基地局から衛星通信地球局への干渉低減技術の例

図2. 5G基地局から衛星通信地球局への干渉低減技術の例

「システム間連携与干渉キャンセラー」の概要

「システム間連携与干渉キャンセラー」のシステム構成は、図3の通りです。干渉キャンセラー装置を地球局に設置し、地球局で受信した衛星信号と、その干渉となる5G基地局の下り回線の信号(以下「5G干渉信号」)が混在している無線信号(以下「混在無線信号」)を分岐させて、干渉キャンセラー装置に入力します。また、5G基地局の下り回線の送信信号を分岐させることで、一方は遅延装置を介して5G基地局から送信し、もう一方はDAS(分散型アンテナシステム)を活用して光ファイバーで干渉キャンセラー装置に転送します。この時、光ファイバーで転送した5G信号は、レプリカ信号(またはカンニング信号)と呼びます。

地球局に設置した干渉キャンセラー装置は、転送された5Gレプリカ信号を用いることで、混在無線信号内に含まれる5G干渉信号の大きさ(振幅)を検出することができます。検出した5G干渉信号の振幅と、5Gレプリカ信号を干渉キャンセラー装置で重畳して、5G干渉信号と全く同じ大きさの5G信号(以下「5G干渉キャンセル信号」)を生成し、それを混在無線信号に合成して差し引くことで、衛星信号だけを衛星通信無線装置に送信することができます。

なお、干渉キャンセラー装置は、衛星通信アンテナと衛星通信無線装置をつなぐケーブルから分岐させて設置し、5G干渉キャンセル信号は混在無線信号に合成するため、衛星信号には触れることは一切ありません。また、5G干渉信号をキャンセルするためには、5Gレプリカ信号が5G干渉信号よりも早く干渉キャンセラー装置に到着する必要がありますが、5G基地局から送信する5G信号は、そのままでは光ファイバーで転送する5Gレプリカ信号よりも地球局へ早く到達してしまいます※2。そのため、5G基地局に設置した遅延装置を使って、5G干渉信号よりも5Gレプリカ信号の方が早く干渉キャンセラー装置に届くよう調整しており、衛星信号の到着時間を調整するような信号処理は加えていません。

※2

光ファイバー内の信号速度は空間を伝送する無線信号速度に比べて遅く、およそ3分の2の速度です。

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図3 システム構成

図3. システム構成

室内実験について

「システム間連携与干渉キャンセラー」の試作装置の室内実験は、疑似衛星信号発生装置や疑似5G信号発生装置を利用し、図4の構成で行いました。衛星信号の電波は3.9 GHz帯で帯域幅が40 MHz、5G信号の電波は3.9 GHz帯で帯域が100 MHz、光ファイバーの長さは5 kmです。5G基地局の遅延装置を介して送信した5G干渉信号に、マルチパス干渉信号生成装置を用いることで、電力は等しく遅延時間が異なる干渉信号を3波生成しました(図5)。なお、3波を合成した5G干渉信号の電力は、衛星信号の電力よりも少し低くなるように設定しています。

この実験による干渉キャンセル効果を、スペクトルアナライザーで示したものが図6です。干渉キャンセラーを適用することで、3波が合成された5G干渉信号の電力を雑音電力以下に低減し、衛星信号への干渉を抑圧できていることが分かります。

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図4 室内実験の構成

図4. 室内実験の構成

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図5 伝搬遅延を考慮した5G干渉信号

図5. 伝搬遅延を考慮した5G干渉信号

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図6 干渉キャンセラーによる干渉の低減(5G干渉信号数:3波)

図6. 干渉キャンセラーによる干渉の低減(5G干渉信号数:3波)

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東京工業大学 工学院 電気電子系

特任教授 藤井輝也

Email fujii@mobile.ee.titech.ac.jp
Tel 03-5734-3822

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東京工業大学 総務部 広報課

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